(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】生体対象物の培養方法及び培養ユニット
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230313BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230313BHJP
C12M 1/02 20060101ALI20230313BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20230313BHJP
C12N 5/02 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/34 D
C12M1/02 A
C12M3/00 Z
C12N5/02
(21)【出願番号】P 2019053090
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 三郎
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/020988(WO,A1)
【文献】特開2006-075041(JP,A)
【文献】国際公開第2019/022067(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体対象物及びその培養液を収容可能
であって、底面と側壁面とを備えた凹部からなり、前記底面には開口が備えられた培養領域に前記生体対象物を配置し、
前記開口から培養液を前記凹部内に供給することによって、前記開口から前記凹部内に吹き上がる前記培養液の液流を発生させ、
前記生体対象物を、前記液流によって前記
凹部内において
浮上および回転させつつ、
1日~数週間程度の所定期間保持
し、
前記生体対象物を前記所定期間保持する間に、前記生体対象物の浮上状態および回転状態を監視し、
前記生体対象物に前記浮上状態および前記回転状態に所定の変化が生じたときに、前記液流の発生条件を変更する、生体対象物の培養方法。
【請求項2】
生体対象物及び培養液を収容可能なウェルと、前記ウェル
の底部に設けられた開口とを備えたチャンバーと、
前記開口を通して前記ウェルに培養液を送り、
前記開口から前記ウェル内に
吹き上がる前記培養液の液流を発生させるポンプ装置と、
前記ポンプ装置の動作を制御するポンプ制御部と、を備え、
前記ポンプ制御部は、前記ウェルの底面に接面している前記生体対象物を前記培養液中で流動させることが可能な液流を、前記ポンプ装置に発生させる、生体対象物の培養ユニット
において、
前記チャンバーとして、第1の生体対象物を前記ウェルで収容する第1チャンバーと、前記第1の生体対象物とは異なる複数の第2の生体対象物を前記ウェルで収容する第2チャンバーと、を有し、
前記第1チャンバーと前記複数の第2チャンバーとを接続する接続流路であって、前記第1チャンバーを循環中心として培養液を前記複数の第2チャンバーに循環させる循環系をさらに備え、
前記ポンプ装置は、前記循環系を通して、前記第1チャンバーのウェル及び前記第2チャンバーのウェルに培養液を循環させることで、前記第1の生体対象物及び前記第2の生体対象物を各々のウェル内で流動させる、生体対象物の培養ユニット。
【請求項3】
生体対象物及び培養液を収容可能なウェルと、前記ウェルの底部に設けられた開口とを備えたチャンバーと、
前記開口を通して前記ウェルに培養液を送り、前記開口から前記ウェル内に吹き上がる前記培養液の液流を発生させるポンプ装置と、
前記ポンプ装置の動作を制御するポンプ制御部と、を備え、
前記ポンプ制御部は、前記ウェルの底面に接面している前記生体対象物を前記培養液中で流動させることが可能な液流を、前記ポンプ装置に発生させる、生体対象物の培養ユニットにおいて、
前記チャンバーは、第1ウェルを有する第1プレートと、前記第1プレートの上方に配置され第2ウェルを有する第2プレートとを備える、生体対象物の培養ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば細胞又は細胞塊のような生体対象物を所要の期間培養する方法、及びこの方法に適用する培養ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞又は細胞塊等の生体対象物を長期培養するに際しては、一般に、培地及び生体対象物を収容したシャーレ等の容器を所定の環境下に配置する手法が採られる。この他、特許文献1には、細胞が収容された培養室に培地の導入・排出通路を設け、培地を入れ替え可能とした細胞培養デバイスが開示されている。また、特許文献2には、培養室に配置された繊維集合体に細胞を付着させ、培地を当該培養室に流入出させながら長期培養する細胞培養モジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-244713号公報
【文献】国際公開第2014/034146号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体対象物の長期培養には、当該生体対象物に酸素や栄養素を満遍なく供給すること、並びに、成長して大きくなろうとする生体対象物に物理的な障害を与えないことが要請される。前者の要請は、特許文献1、2に示された、培養室への培地の流入出により達成可能である。一方、後者の要請については、特許文献1、2の手法では不十分である。特許文献1のデバイスの如く細胞を足場材に接面させたり、特許文献2のモジュールの如く繊維集合体に細胞を付着させたりすると、その接面・付着箇所における細胞の三次元的な成長が阻害されるという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、生体対象物の三次元的な成長を可及的に阻害することのない生体対象物の培養方法及び培養ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る生体対象物の培養方法は、生体対象物及びその培養液を収容可能であって、底面と側壁面とを備えた凹部からなり、前記底面には開口が備えられた培養領域に前記生体対象物を配置し、前記開口から培養液を前記凹部内に供給することによって、前記開口から前記凹部内に吹き上がる前記培養液の液流を発生させ、前記生体対象物を、前記液流によって前記凹部内において浮上および回転させつつ、1日~数週間程度の所定期間保持し、前記生体対象物を前記所定期間保持する間に、前記生体対象物の浮上状態および回転状態を監視し、前記生体対象物に前記浮上状態および前記回転状態に所定の変化が生じたときに、前記液流の発生条件を変更することを特徴とする。
【0007】
この培養方法によれば、培養領域に培養液の液流を発生させることで、当該生体対象物に酸素や栄養素を供給することが可能となる。また、前記液流によって生体対象物を培養領域内において流動させることで、当該生体対象物の一部が前記培養領域を区画する壁面等に同じ姿勢で接面し続けないようにすることができる。つまり、生体対象物を前記培養液中で遊動させた状態で、長期培養することが可能となる。これにより、前記壁面等に対する接面の影響を抑制して、生体対象物に自在な三次元的成長を行わせることができる。
【0008】
上記の生体対象物の培養方法において、前記培養領域は、底面と側壁面とを備えた凹部からなり、前記底面若しくは側壁面には開口が備えられ、前記開口から培養液を前記凹部内に供給することによって、前記液流を発生させることが望ましい。
【0009】
この培養方法によれば、所定単位の生体対象物を凹部に収容し、他の生体対象物と区別した状態で長期培養することができる。そして、前記凹部に備えられた開口から供給される培養液によって、生体対象物を遊動させると共に酸素や栄養素を供給することができるので、良好な状態で生体対象物を長期培養することができる。
【0010】
上記の生体対象物の培養方法において、前記培養領域は、底面と側壁面とを備えた凹部からなり、前記液流は、底面に接面している前記生体対象物を前記培養液中で浮上させることが可能な液流であることが望ましい。
【0011】
この培養方法によれば、液流によって生体対象物を培養液中で浮上させた状態で、当該生体対象物を長期培養することができる。これにより、凹部の底面や側壁面と生体対象物との接触が抑制され、より一層、生体対象物の三次元的成長を促進することができる。
【0012】
上記の生体対象物の培養方法において、前記生体対象物を流動状態で所定期間保持する間に、前記生体対象物の状態変化を監視し、前記生体対象物に所定の状態変化が生じたときに、前記液流の発生条件を変更することが望ましい。
【0013】
この培養方法によれば、生体対象物の成長に応じて、適正な液流を当該生体対象物に与えることができる。例えば、成長によって重量の増した生体対象物に対して強度の大きい液流を与えることで、前記生体対象物の流動状態を維持させることができる。
【0014】
本発明の他の局面に係る生体対象物の培養ユニットは、生体対象物及び培養液を収容可能なウェルと、前記ウェルの底部に設けられた開口とを備えたチャンバーと、前記開口を通して前記ウェルに培養液を送り、前記開口から前記ウェル内に吹き上がる前記培養液の液流を発生させるポンプ装置と、前記ポンプ装置の動作を制御するポンプ制御部と、を備え、前記ポンプ制御部は、前記ウェルの底面に接面している前記生体対象物を前記培養液中で流動させることが可能な液流を、前記ポンプ装置に発生させる、生体対象物の培養ユニットにおいて、前記チャンバーとして、第1の生体対象物を前記ウェルで収容する第1チャンバーと、前記第1の生体対象物とは異なる複数の第2の生体対象物を前記ウェルで収容する第2チャンバーと、を有し、前記第1チャンバーと前記複数の第2チャンバーとを接続する接続流路であって、前記第1チャンバーを循環中心として培養液を前記複数の第2チャンバーに循環させる循環系をさらに備え、前記ポンプ装置は、前記循環系を通して、前記第1チャンバーのウェル及び前記第2チャンバーのウェルに培養液を循環させることで、前記第1の生体対象物及び前記第2の生体対象物を各々のウェル内で流動させることを特徴とする。
【0015】
この培養ユニットによれば、ウェル内に開口を通して培養液を供給することで、ウェルに収容された生体対象物に酸素や栄養素を供給することが可能となる。また、前記液流によって生体対象物をウェル内において流動させることで、当該生体対象物の一部がウェルの底面に同じ姿勢で接面し続けないようにすることができる。つまり、生体対象物をウェル内の前記培養液中で遊動させた状態で、長期培養することが可能となる。これにより、前記底面に対する接面の影響を抑制して、生体対象物に自在な三次元的成長を行わせることができる。
【0016】
上記の生体対象物の培養ユニットにおいて、前記チャンバーとして、第1の生体対象物を前記ウェルで収容する第1チャンバーと、前記第1の生体対象物とは異なる第2の生体対象物を前記ウェルで収容する第2チャンバーと、を有し、前記第1チャンバーと前記第2チャンバーとを並列接続又は直列接続する接続流路をさらに備え、前記ポンプ装置は、前記接続流路を通して、前記第1チャンバーのウェル及び前記第2チャンバーのウェルに培養液を送ることで、前記第1の生体対象物及び前記第2の生体対象物を各々のウェル内で流動させることが望ましい。
【0017】
この培養ユニットによれば、複数の生体対象物に対して同一の培養液を供給しつつ、これら生体対象物を長期培養することが可能となる。
【0018】
本発明のさらに他の局面に係る生体対象物の培養ユニットは、生体対象物及び培養液を収容可能なウェルと、前記ウェルの底部に設けられた開口とを備えたチャンバーと、前記開口を通して前記ウェルに培養液を送り、前記開口から前記ウェル内に吹き上がる前記培養液の液流を発生させるポンプ装置と、前記ポンプ装置の動作を制御するポンプ制御部と、を備え、前記ポンプ制御部は、前記ウェルの底面に接面している前記生体対象物を前記培養液中で流動させることが可能な液流を、前記ポンプ装置に発生させる、生体対象物の培養ユニットにおいて、前記チャンバーは、第1ウェルを有する第1プレートと、前記第1プレートの上方に配置され第2ウェルを有する第2プレートとを備えることを特徴とする。
【0019】
この培養ユニットによれば、ウェルを有するプレートを積重してチャンバーに配置することができる。従って、一度に多くの生体対象物を長期培養することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、生体対象物の三次元的な成長を可及的に阻害することのない生体対象物の培養方法及び培養ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る生体対象物の培養方法を実現するための細胞培養ユニットの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2(A)は、細部の培養領域となるウェルの断面図、
図2(B)~(E)は、ウェル内における細胞の浮上状態と観察される画像との関係を示す図である。
【
図3】
図3(A)及び(B)は、液流の有無による長期培養の結果を示すグラフであって、
図3(A)は細胞の投影面積を、
図3(B)は細胞のATP生成状況を各々示す。
【
図4】
図4(A)は、液流を伴って長期培養した細胞を示す図、
図4(B)は、液流を発生させずに長期培養した細胞を示す図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の細胞培養ユニットによる細胞の長期培養開始時における動作の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6(A)、(B)は、細胞の浮上と、カメラのZ高さとの関係を説明するための図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の細胞培養ユニットによる細胞の長期培養中における動作の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、本発明の第2実施形態に係る生体対象物の培養方法を実現するための細胞培養ユニットの構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態の細胞培養ユニットによる細胞の長期培養開始時における動作の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、第2実施形態の細胞培養ユニットによる細胞の長期培養中における動作の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、第2実施形態の細胞培養ユニットによる細胞の長期培養中における動作の一例を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、変形例に係るチャンバーを示す断面図である。
【
図13】
図13は、変形例に係るチャンバーを示す断面図である。
【
図14】
図14(A)~(D)は、ウェルの変形例を示す図である。
【
図15】
図15(A)~(C)は、ウェルの貫通孔の変形例を示す図である。
【
図16】
図16(A)、(B)は、ウェルへの液流の供給形態の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。本発明に係る生体対象物の培養方法及び培養ユニットでは、多岐に亘る生体対象物を対象とすることができる。本発明が適用可能な生体対象物としては、代表的には生体由来の細胞を例示することができる。ここでの生体由来の細胞は、例えば血球系細胞やシングル化細胞などのシングルセル(細胞)、HistocultureやCTOSなどの組織小片、スフェロイドやオルガノイドなどの細胞凝集塊、ゼブラフィッシュ、線虫、受精卵などの個体、2D又は3Dのコロニー等である。この他、生体対象物として、組織、微生物、小サイズの種等を例示することができる。以下に説明する実施形態では、生体対象物が細胞又は細胞が数個~数十万個凝集してなる細胞凝集塊(以下、これらを総称して単に「細胞C」という)である例を示す。
【0023】
[第1実施形態の細胞培養ユニットの全体構成]
図1は、本発明の第1実施形態に係る細胞培養ユニットU(生体対象物の培養ユニット)の構成を示すブロック図である。細胞培養ユニットUは、細胞C及び培地L(培養液)を収容可能な複数のウェル2(凹部)を有するチャンバーCHと、ウェル2に収容された細胞Cを撮像するためのカメラユニット3と、ウェル2に培地Lの液流LFを発生させるためのポンプユニット4(ポンプ装置)と、カメラユニット3及びポンプユニット4の動作を制御すると共に、各種の処理を行うコントローラ5とを備えている。カメラユニット3は、チャンバーCHの下方に配置されている。
【0024】
チャンバーCHは、上面が開口した容器11と、この容器11内に配置されるウェルプレート12とを含む。ウェルプレート12は、複数のウェル2を備える。ウェル2は、細胞Cの培養領域となる微小な凹部であり、ウェルプレート12は多数のマトリクス配列されたウェル2を備えている。容器11及びウェルプレート12は、透光性の樹脂又はガラスからなる。これは、ウェル2に収容された細胞Cを、チャンバーCHの下方に配置されたカメラユニット3にて透視撮像可能とするためである。
【0025】
容器11には培地Lが注液されており、ウェルプレート12は培地L内に浸漬されている。容器11は、底壁13、側壁14、天壁15及び開口壁16を含む。底壁13は、チャンバーCHの底面を構成している。側壁14は、底壁13の周縁から立設され、チャンバーCHの外枠部分を構成している。天壁15は、側壁14の上端からチャンバーCHの内側へ水平に延び、底壁13の周縁付近の上方を覆っている。開口壁16は、天壁15の内側端からチャンバーCHの内側へ向かう方向へ斜め下方に延びる傾斜壁である。開口壁16の下端は底壁13よりも高い位置にあり、当該下端にて、ウェルプレート12の周縁部が保持されている。つまり、ウェルプレート12は、底壁13から上方に離間した状態で保持されている。開口壁16は、上方に向けてテーパ状に広がるチャンバーCHの開口を形成しており、ユーザーはこの開口を通して、細胞Cをウェルプレート12に担持させたり、細胞Cをピックアップしたりすることができる。
【0026】
図2(A)を参照して、ウェル2は、筒状側面21、底面22、テーパ開口面23及び貫通孔24(ウェルに連通する開口)を備えている。筒状側面21は、ウェル2の側壁面を構成する部分であり、所要の細胞Cを収容可能な断面積を有するキャビティを区画している。筒状側面21は、鉛直方向に延びる壁面である。底面22は、筒状側面21の下端に連設され、ウェル2の筒心に向けて緩く下り傾斜する傾斜面からなる。テーパ開口面23は、筒状側面21の上端に連設され、上方に向けて拡開するテーパ面である。一のウェル2と隣接するウェル2とは、テーパ開口面23の上端同士で繋がっており、当該繋がり部分は尖った稜線部25となっている。筒状側面21、底面22及びテーパ開口面23は、ウェルプレート12の上面から下方に凹むキャビティ20を区画している。キャビティ20は、細胞C及び培地Lを収容する培養領域である。
【0027】
貫通孔24は、底面22の最も低い箇所となる底面22の中央部に穿孔された開口であって、ウェル2のキャビティ20と容器11内の空間とを連通させる開口である。貫通孔24は、容器11に注液された培地をキャビティ20に流入させると共に、キャビティ20内の培地Lに液流LFを発生させるために設けられている。
図1に示すように、容器11内にウェルプレート12を越える高さまで培地Lが注液されると、側壁14、天壁15及び開口壁16で囲まれる容器11の内部空間Aは密閉空間となる。従って、内部空間A内の培地Lを加圧することで、貫通孔24からウェル2内に流入する液流LFを発生させることができる。
【0028】
カメラユニット3は、レンズ部31、カメラ本体32及びレンズ駆動部33を備えた、共焦点光学系を備えた撮像ユニットである。レンズ部31は、光学顕微鏡に用いられている対物レンズであり、所定倍率の光像を結像させるレンズ群と、このレンズ群を収容するレンズ鏡筒とを含む。カメラ本体32は、CCDイメージセンサのような撮像素子35(
図6)を備える。レンズ部31は、撮像素子35の像面に撮像対象物の光像を結像させる。レンズ駆動部33は、サーボモータ等からなり、合焦動作のためにレンズ部31を上下動させる。レンズ部31の焦点位置は、胴付き面34の高さ位置hからの同焦点距離にて定まる。なお、レンズ部31を移動させるのではなく、チャンバーCHを上下動させることで、合焦動作を行わせるようにしても良い。
【0029】
ポンプユニット4は、例えばチューブポンプ等の循環ポンプからなり、ウェルプレート12の貫通孔24を通して各ウェル2に流体を送り、ウェル2内の液体に液流を発生させる機能を果たす。本実施形態では、ポンプユニット4がウェル2に送る流体は培地Lであり、ウェル2内の液体も培地Lである。ポンプユニット4は、ポンプ本体41、送液チューブ42及び吸液チューブ43を備える。
【0030】
ポンプ本体41は、送液チューブ42には液体を送り出し、吸液チューブ43には液体の吸引力を発生させるポンプ動作を行う。チューブポンプが用いられる場合、ポンプ本体41は、駆動モータで回動駆動されるロータと、このロータでしごかれる湾曲チューブ部とを含む。送液チューブ42の一端421はポンプ本体41へ繋がっている一方、他端422はウェルプレート12の天壁15を貫通し、容器11の内部空間A内に開口している。吸液チューブ43の一端431は、他端422と対極位置において内部空間A内に開口しており、他端432はポンプ本体41へ繋がっている。
【0031】
ポンプ本体41が動作すると、貫通孔24を通して培地Lが循環する。すなわち、ポンプ本体41が動作して送液チューブ42に培地Lが送り出されると、その送り出された培地Lは容器11の内部空間Aに進入する。内部空間Aは、容器11の底壁13、側壁14天壁15及び開口壁16とウェルプレート12とによって半密閉状態にあり、圧力を開放できる部分は貫通孔24のみである。従って、
図2(B)、(D)に示しているように、内部空間Aから貫通孔24を通してウェル2のキャビティ20内に流入しようとする液流LFが発生する。送液チューブ42からの培地Lの供給によって容器11内の液量が増加するが、その増加分は吸液チューブ43によって吸引され、ポンプ本体41に向かうことになる。
【0032】
コントローラ5は、細胞Cの長期培養に必要な制御を行うコントローラ5は、ポンプユニット4の動作を制御して、貫通孔24からウェル2のキャビティ20内に吹き上がるような液流LFを発生させ、この液流LFによって細胞Cをキャビティ20内で流動させる。また、コントローラ5は、当該細胞Cをキャビティ20内において流動させつつ、その状態を所定期間保持する制御を行う。さらに、コントローラ5は、カメラユニット3の動作を制御して、ウェル2内の細胞Cの画像を撮像させ、細胞Cの状態変化を監視する。そして、細胞Cに所定の状態変化が生じたとき、液流LFの発生条件を変更する制御を行う。コントローラ5の機能構成の詳細については、後記で説明する。
【0033】
[細胞の長期培養方法]
本実施形態に係る細胞Cの培養方法は、ウェル2のキャビティ20内に培地Lの液流を発生させ、キャビティ20に収容されている細胞Cを当該液流LFによって浮上、回転するように流動させつつ、所定期間保持するものである。保持期間は任意であるが、例えば1日~数週間程度の長期間である。この培養方法を、上述の細胞培養ユニットUを用いて実施する例を説明する。
【0034】
図2(A)は、培地Lに浸漬された状態のウェルプレート12のウェル2に、細胞Cが投入された状態を示している。貫通孔24から液流LFが発生されていない場合、細胞Cは自重で沈降し、底面22に接面する。
図2(A)では、概略的に楕円形状を有する細胞Cが、横倒れした態様で底面22に接面している状態を示している。このように、細胞Cの一部が何らかの部材に接面した状態で当該細胞Cを長期培養すると、その接面箇所における細胞Cの拘束、栄養分の不行き渡り等で三次元的な成長が阻害され易くなる。
【0035】
そこで、本実施形態では、細胞Cの一部がウェル2の筒状側面21や底面22に接面し続けることがないよう、細胞Cをキャビティ20内で流動させる。より望ましくは、筒状側面21や底面22になるべく接触しないように、細胞Cキャビティ20内で浮上させる。このような細胞Cの流動ないしは浮上を実現する手段として、
図2(B)、(D)に示すように、ポンプユニット4により発生される液流LFが利用される。液流LFは、容器11内の培地Lが貫通孔24を通してウェル2に供給されることによって発生される。
【0036】
図2(A)に示すように、細胞Cが底面22に接面した状態において液流LFが発生されたとする。液流LFは、貫通孔24を通して上方へ吹き上がる液体流動であるので、細胞Cは当該液流LFに押されて浮上を開始する。そして、
図2(B)、(D)に示す通り、細胞Cは液流LFの強度に応じて、ウェル2内で所定の高さ位置まで浮上する。一般に、細胞凝集塊のような細胞Cは、真球形状を持つことはなく、その形状や質量は非対称であって、表面には凹凸が存在する。従って、液流LFが細胞Cに吹き当たると、図中の矢印Rで示すように細胞Cは回転する。
【0037】
ウェル2内の細胞Cの流動状態は、チャンバーCHの下方に配置されたカメラユニット3の撮像画像により確認することができる。
図2(C)は、細胞Cが
図2(B)の姿勢のときにカメラユニット3で撮像された二次元画像を示し、
図2(E)は、細胞Cが
図2(D)の姿勢のときにカメラユニット3で撮像された二次元画像を示している。細胞Cが回転している場合、カメラユニット3に撮像動作を連続的に実行させると、異なる形状で細胞Cが撮像される。従って、連続撮像画像を解析することで、細胞Cが回転しているか否かを判別することができる。また、細胞Cが備える形状若しくは色彩の特徴部に着目し、その特徴部の動きを連続画像で観察することで、細胞Cが一回転したか否か等も把握することができる。さらに、細胞Cの回転により、下方に固定的に配置されたカメラユニット3にて、細胞Cの表面画像を多面的に取得することができる。これにより、取得された画像を合成することで、細胞Cの三次元形状を把握することも可能となる。
【0038】
長期培養中に発生させる、望ましい液流LFの条件は次の通りである。先ず、底面22に接面している細胞Cを培地L中で浮上させることができる程度以上の液流LFの流速が必要である。その一方で、ウェル2から細胞Cが飛び出してしまう程度の流速の液流LFであってはならない。また、ウェル2内で細胞Cが乱高下せず、安定した高さ位置に細胞Cを浮上させ、その高さ位置で細胞Cを回転させ得る液流LFの流速を選択することが望ましい。
【0039】
細胞Cの培養を続けると、細胞Cが成長し、一般にその体積や質量が増加する状態変化が生じる。この場合、従前の液流LFの強度では所要の細胞Cの浮上状態を得られない。そこで、細胞Cの浮上状態をカメラユニット3で監視し、細胞Cの浮上状態若しくは回転状態に有意な変化が観察されたときに、液流LFの発生条件を変更することが望ましい。例えば、成長によって重量の増した細胞Cに対して、強度の大きい液流を与えることで、細胞Cの浮上状態を維持させることができる。
【0040】
[長期培養の評価]
図3(A)及び(B)は、液流LFの有無による長期培養試験の結果を示すグラフであって、
図3(A)は細胞Cの投影面積を、
図3(B)は細胞CのATP(アデノシン三リン酸)の生成状況を各々示すグラフである。この試験では、液流LFを発生させる実施例チャンバーと、液流LFを発生させない比較例チャンバーとを用意した。マトリクス配列された多数のウェル2を有するウェルプレート12を、各チャンバーにセットした。ウェルプレート12は、容器11内において、所定の培地からなる培養液に浸漬した。各ウェルプレート12において、180個のスフェロイド(生体対象物の一例)を個別にウェル2に収容し、長期培養を開始した。
【0041】
実施例チャンバーでは、培養開始直後から、ウェル2内においてスフェロイドが浮上するように液流LFを発生させ、これを継続した。一方、比較例チャンバーでは、液流LFを発生させず、スフェロイドが自重で底面22に接面している状態にて培養を行った。そして、培養開始から3日後に培地の一部を交換した。その後、両チャンバーで培養を継続し、13日後に細胞Cの投影面積とATPの生成状況とを評価した。
【0042】
図3(A)の投影面積は、カメラユニット3により撮像される細胞Cの、二次元画像から求められる面積である。
図3(A)の棒グラフは、180個のスフェロイドについて各々投影面積を求め、これらを平均した値を示している。液流ありの実施例チャンバーで培養されたスフェロイドの投影面積は、液流なしの比較例チャンバーで培養されたものに比べて、明らかに大きいことが判る。
【0043】
図3(B)のATP生成状況は、培養されたスフェロイドの生体活性を評価するための指標である。
図3(A)に示す投影面積は、スフェロイドの二次元的な大きさを評価するものであり、その三次元形状までは判らない。また、死滅したスフェロイドが崩壊して、見かけ上で投影面積が大きくなっている場合もある。生物は、ATPを分解して活動エネルギーを作るので、スフェロイドが成長し且つ正常である場合、ATPの生成量は増加することになる。従って、ATPの生成状況を計測することで、スフェロイドの成長状況を把握することができる。
【0044】
図3(B)のグラフは、ATPの測定試薬を実施例及び比較例チャンバーで培養されたスフェロイドに投与し、各スフェロイドのATP量を測定すると共に、180個のスフェロイドのATP量を平均した値を示している。液流ありの実施例チャンバーで培養されたスフェロイドのATP量は、液流なしの比較例チャンバーで培養されたATP量に比べて、明らかに大きいことが判る。
【0045】
図4(A)は、液流LFを伴って13日間培養した実施例チャンバーの細胞Cを示す図、
図4(B)は、液流LFを発生させずに13日間培養した比較例チャンバーの細胞Cを示す図である。実施例チャンバーの細胞Cは、全体的にサイズが大きく、種々の三次元形状に成長していることが判る。これに対し、比較例チャンバーの細胞Cは、全体的にサイズが小さく、増殖状況が良好ではないことが判る。以上の通り、液流LFを発生させて長期培養することで、液流LFを発生させない場合に比べて細胞Cをより大きく、様々な三次元形状に生育させ得ることが確認された。
【0046】
[コントローラの機能構成]
続いて、上記のような液流LFを伴う長期培養を実現する、
図1のコントローラ5の機能構成について説明する。コントローラ5は、マイクロコンピュータ等からなり、所定のプログラムが実行されることで、ポンプ制御部51、カメラ制御部52、画像処理部53、データ処理部54及び記憶部55を具備するように動作する。
【0047】
ポンプ制御部51は、ポンプユニット4の動作を制御する。ポンプ制御部51は、ポンプユニット4の送液チューブ42からの吐出力を制御することで、上述の液流LFを発生させると共に、液流LFの流速を増減する。具体的にはポンプ制御部51は、ウェル2の底面22に接面している細胞Cを培地L内で浮上させると共に流動若しくは回転させることが可能な液流LFを、ポンプユニット4に発生させる。ポンプユニット4がチューブポンプである場合、所要の細胞Cの浮上及び回転を達成できる液流LFを発生させるよう、ポンプ制御部51はポンプ本体41が備えるロータの回転速度を制御する。
【0048】
カメラ制御部52は、カメラユニット3の動作を制御する。カメラ制御部52は、ポンプユニット4が液流LFを発生させている状態において、カメラユニット3にウェル2内の細胞Cの撮像を連続的に行わせる。すなわち、カメラ制御部52は、ウェル2内で浮上し流動若しくは回転している状態の細胞Cの連続画像を、カメラユニット3に撮像させる。具体的にはカメラ制御部52は、ウェル2内の細胞Cに対する合焦動作のために、レンズ駆動部33にレンズ部31を上下方向に、例えば数十μmピッチで移動させるための制御パルスを与える。また、カメラ制御部52はカメラ本体32を制御して、所定のタイミングで撮像動作を実行させる。
【0049】
画像処理部53は、カメラユニット3が撮像した画像に基づいて、細胞Cの三次元形状を特定する処理を行う。画像処理部53は、カメラ本体32により取得された画像データに対して、エッジ検出処理や特徴量抽出を伴うパターン認識処理などの画像処理を施し、各撮像タイミングで取得された画像において、細胞Cの形状を特定する。また、画像処理部53は、細胞Cの回転状態の把握に用いるための、細胞Cの特徴部を抽出する処理も行う。
【0050】
データ処理部54は、画像処理部53により特定された細胞Cの形状データや前記特徴部の位置データ等に基づいて、各種の処理を実行する。例えばデータ処理部54は、レンズ駆動部33が設定した合焦位置情報に基づき、細胞Cがウェル2の底面22から浮上しているか否かを判定する。また、データ処理部54は、画像処理部53が各々の画像について特定した細胞Cの形状データを合成して、当該細胞Cの三次元形状を作成する処理を行う。さらに、データ処理部54は、画像処理部53が特定した細胞Cの形状データに基づいて、細胞Cが回転しているか又は静止しているか、どの程度の回転数で回転しているか等、細胞Cの回転状態を判定する処理を行う。具体的には、一つの細胞Cの連続的な撮像画像に基づき、前記特徴部の表出状態乃至は移動状態から、細胞Cが一回転したか否か、並びに、細胞Cの回転速度を導出する。
【0051】
記憶部55は、細胞培養ユニットUに関する各種の設定データや、テーブルデータを記憶する。また、記憶部55は、細胞Cに浮上及び回転状態と、液流LFの発生条件に相当するポンプ本体41の駆動データの実績とを関連付けて記憶する。この種のデータを多量に蓄積し、AI学習によりポンプ本体41の駆動を最適化することが望ましい。
【0052】
[第1実施形態の細胞培養ユニットの動作フロー]
続いて、第1実施形態の細胞培養ユニットUの動作フローの一例について、
図1及び
図5を主に参照して説明する。
図5は、第1実施形態の細胞培養ユニットUによる細胞の長期培養開始時における動作の一例を示すフローチャートである。フローの開始前に、ウェルプレート12のウェル2に細胞Cが投入され、当該細胞Cが底面22に接面しているものとする。
図5に示すフローは、細胞Cの長期培養の開始に際して、細胞Cをウェル2内において所定の高さまで浮上させるフローである。
【0053】
まず、コントローラ5のカメラ制御部52によりカメラユニット3が制御され、当該カメラユニット3の位置調整が行われる(ステップS1)と共に、ウェル2の底面22に接面している細胞Cに対する合焦動作が実行される(ステップS2)。この時点では、液流LFは発生させていない。この合焦動作では、レンズ駆動部33がレンズ部31を上下動させ、得られた画像について画像処理部53がエッジ検出処理を行うと共にコントラストの評価を行う。そして、最もコントラストが良好なレンズ部31の高さ位置(Z方向高さ)が探知され、当該Z方向高さが合焦位置とされる。合焦位置における画像データ、Z方向高さデータ及び細胞Cの面積データ等の画像情報は、記憶部55に格納される。
【0054】
図6(A)は、ステップS1の位置調整及びステップS2の合焦動作が行われている状態を示す図である。細胞Cの合焦光像は、カメラ本体32が備える撮像素子35の像面上に作られる。細胞Cの如く微小な対象物を撮像する対物レンズであるレンズ部31の焦点位置は、胴付き面34からの同焦点距離Zhにて定められている。従って、細胞Cに合焦した状態が作られれば、細胞Cと胴付き面34との間の距離が同焦点距離Zhとなる。つまり、
図6(A)のZ方向高さにカメラユニット3を移動させることで(ステップS1)、底面22に接面している細胞Cに合焦させることができる(ステップS2)。従って、胴付き面34のZ方向高さを求めることで、細胞CのZ方向高さを把握することができる。なお、実際には被写界深度aが存在するため、焦点位置にはZ方向に一定の幅がある。ある基準高さZ0を設定して、底面22に接面している細胞Cに合焦しているときの、基準高さZ0に対する胴付き面34のZ方向高さZ1が記憶部55に格納される。このZ1が、底面22から浮上していない状態における細胞CのZ方向高さに相当する。
【0055】
その後、カメラ制御部52により、カメラユニット3のZ方向高さが所定の高さ位置になるように、カメラユニット3がZ方向に移動される(ステップS3)。この移動は、例えば
図6(B)に示すZ2の位置に胴付き面34が位置するようにカメラユニット3をZ方向へ上昇させる移動であり、浮上させる細胞Cの狙いの高さ位置に当該カメラユニット3の焦点位置を設定するための移動である。
【0056】
続いて、ポンプ制御部51が、液流LFをゼロから徐々に増加させるようポンプユニット4を制御し、細胞Cを所定範囲内の浮上高さに浮上させる液流LFの流速Fを探知する処理が実行される。なお、ポンプ本体41の動作ランク、例えば単位時間当たりの液体の吐出量等と、発生させることができる液流LFの流速Fとの関係を、予めテーブル化しておくことが望ましい。また、浮上高さは、前記ウェルの底面から完全に離間した浮上のほか、前記底面に一部が接面した状態における浮上高さでも良い。
【0057】
ポンプ制御部51は、最も低ランクの流速Fの液流LFを発生させるよう、ポンプ本体41を動作させる(ステップS4)。次いで、カメラ制御部52がレンズ駆動部33を制御して、この流速Fの液流LFが発生している状態において、細胞Cに対する合焦動作をレンズ部31に実行させる(ステップS5)。実際は、既にステップS3において合焦位置が狙いの高さ位置Z2となるようにカメラユニット3のZ方向高さが設定されているので、細胞Cが前記合焦位置まで浮上するのを待つ期間となる。そして、細胞Cが所定のZ方向高さに到達しているか否かが判定される(ステップS6)。つまり、所定のZ方向高さに胴付き面34が設定されたカメラユニット3にて、細胞Cが合焦状態で撮像されているか否かが判定される。
【0058】
図6(B)は、貫通孔24を通した液流LFの発生により細胞Cが浮上し、その浮上した細胞Cにレンズ部31が合焦している状態を示している。同焦点距離Zhは固定的な距離であり、ステップS3において胴付き面34のZ方向高さは、Z1からZ2に上昇している。浮上した細胞Cに合焦したということは、当該細胞CもZ1からZ2の高さ分だけ浮上したことになる。つまり、Z2-Z1の距離が細胞Cの浮上高さとなる。前記浮上高さが小さすぎると、細胞Cは底面22と干渉して回転不能又は回転に障害がある状態となる。一方、前記浮上高さが大きすぎると、ウェル2からの細胞Cの飛び出しが生じかねない。
【0059】
これらに鑑みて、ステップS6において判定基準とする「所定高さ」は、細胞Cが自在に回転可能であって、なるべくウェル2の低層位置、つまり底面22に近い位置に相当する高さに設定することが望ましい。また、液流LFの流速Fが大きくなると、自ずと細胞Cの浮上高さが高くなる傾向が出る一方、細胞Cの浮上時における上下揺動も大きくなる傾向が出る。この観点からも、あまり浮上高さを高くせず、前記上下揺動を抑制することが望ましい。この場合、細胞Cが所定のZ方向高さの範囲内に浮上した状態を維持し易くなるので、カメラユニット3によって撮像し易い状態を形成することができる。
【0060】
ステップS6において、細胞CのZ方向高さが所定高さに至っていない場合(ステップS6でNO)、当該細胞Cの浮上が不十分であるということになる。この場合、ポンプ制御部51は、液流LFの流速Fを、F=F+1ランクにインクリメントする(ステップS7)。なお、「1ランク」は、予め定められたポンプ吐出量の増量単位であって、流速Fの増加に連動する。そして、ポンプ制御部51は、新たに与えられた流速Fを達成するよう、ポンプ本体41の動作を制御する(ステップS4)。
【0061】
ステップS6において、細胞CのZ方向高さが所定高さに至っている場合(ステップS6でYES)、当該細胞Cが所定の高さまで浮上したことになる。この場合、ポンプ制御部51は、ポンプ本体41の動作状態を維持し、その流速Fを固定した状態とする。併せて、適正なウェル2の温度管理、雰囲気ガスの設定が行われる。以上で長期培養の準備処理は完了し、細胞Cの長期培養が開始される(ステップS8)。細胞Cは、浮上した後に回転する挙動を示すことが多い。従って、このステップS8の時点乃至はそれ以前に、細胞Cは回転し始めている。
【0062】
図7は、上記のステップS8までの処理を終えた後の、細胞培養ユニットUによる細胞Cの長期培養中における動作の一例を示すフローチャートである。この時点で、ポンプ制御部51はポンプユニット4に、上記のステップS4で設定した流速Fの液流LFを発生させ続けている。コントローラ5は、細胞Cのモニターのタイミングが到来したか否かを判定する(ステップS11)。このモニタータイミングは、例えば1時間~1日程度のスパンで設定することができる。モニタータイミングが到来すると(ステップS11でYES)、カメラ制御部52が細胞Cの状態情報の取得のために、上記のステップS3で胴付き面34のZ方向高さ=Z2に設定されたカメラユニット3に、細胞Cの画像を撮像させる(ステップS12)。
【0063】
続いて、取得された細胞Cの画像に基づき、細胞Cの状態を特定すると共に、その状態の記録及び解析が行われる(ステップS13)。具体的には、画像処理部53が、取得された細胞Cの画像に対して所定の画像処理を行うことで、細胞Cの外形形状や色彩等のデータが把握される。このデータは、取得タイミングに関連付けて記憶部55に格納される。また前記データに基づき、データ処理部54が、細胞Cの回転数を求める処理、細胞Cの各種サイズを抽出する処理、色やテクスチャを識別する処理、細胞Cの蛍光性を評価する処理等を行う。これらの処理結果より、例えば、細胞Cのサイズの変化に基づく細胞成長量解析、細胞テクスチャに基づく生死などの品質解析、蛍光状態に基づく細胞Cの生死若しくは特定タンパク質の発現解析などの解析処理が、データ処理部54により実行される。上記の処理結果及び解析結果も、記憶部55に格納される。そして、過去の流速F及び細胞Cの回転データと細胞品質のデータとの関係を参照し、今回取得されたデータとの対比を行う処理が行われる(ステップS14)。
【0064】
続いて、細胞Cの浮上状態を解析する処理が実行される(ステップS15)。具体的には、画像処理部53による画像処理データに基づき、データ処理部54が細胞Cに対する合焦度合いを判定する。合焦度合いが良好であれば、細胞Cが
図6(B)に示した同焦点距離Zhの高さ位置に浮上し続けていることになる。一方、合焦度合いが低い場合は、細胞Cが設定高さ位置に存在していないことになる。例えば、細胞Cが成長して質量が増加した場合には沈降気味となり、死滅や劣化する等して質量が低下すると浮上気味となる。
【0065】
そして、データ処理部54は、ステップS14及びS15の処理結果に基づき、細胞Cの浮上状態及び回転状態が、予め定めた「良好」と認定できる範囲であるか否かを判定する(ステップS16)。「良好」な範囲ではない場合(ステップS16でNO)、ポンプ制御部51が、細胞Cの浮上高さ及び回転数を変更するために、液流LFの流速Fを、F=F+1ランク若しくはF=F-1に変更する(ステップS17)。そして、ステップS12に戻り、同様な解析処理がリピートされる。一方、細胞Cの浮上状態及び回転状態が「良好」である場合(ステップS16でYES)、ポンプ制御部51は現状の液流LFの流速Fを維持する(ステップS18)。
【0066】
[第2実施形態]
図8は、本発明の第2実施形態に係る生体対象物の培養方法を実現するための細胞培養ユニットU1の構成を示すブロック図である。第1実施形態では、1つのチャンバーが用いられる例を示したが、第2実施形態では、複数のチャンバーが接続流路にて直列接続及び並列接続される例を示す。細胞培養ユニットU1は、5つのチャンバー0、1、2、3、4を含んでいる。これらチャンバー0、1、2、3、4には、異なる細胞を各々収容することが予定されている。
【0067】
細胞リソースとしては、例えば患者由来の正常細胞或いは癌等の疾患細胞、iPS/ES細胞由来の分化細胞を使用することができる。ここでは、チャンバー0(第1チャンバー)のウェルには心臓細胞(第1の生体対象物)、チャンバー1(第2チャンバー)のウェルには脳細胞(第2の生体対象物)、チャンバー2のウェルには肺細胞、チャンバー3のウェルには肝臓細胞、チャンバー4のウェルには腸細胞が各々収容されている例を示している。また、これらチャンバー0、1、2、3、4には、各チャンバー内の培地(培養液)の液面の高さを検出する液面センサー0、1、2、3、4が付設されている。
【0068】
細胞培養ユニットU1は、さらに、チャンバー0、1、2、3、4の各々に対応して設置される、第1の流量制御弁の群であるFCV0、1、2、3、4と、第2の流量制御弁の群であるFCV10、11、12、13、14と、第1ポンプP1、第2ポンプP2、補給ポンプP3及び回収ポンプP4からなるポンプ群と、リザーバ培地タンクT1及び廃液タンクT2と、コントローラ500とを含む。
【0069】
細胞培養ユニットU1は、心臓細胞を収容するチャンバー0を循環中心として、培地を他のチャンバー1、2、3、4へ循環させる循環系と、必要に応じて培地を補給し或いは培地を回収する補給系及び回収系とを有している。前記循環系は、チャンバー0、1、2、3、4同士を直列・並列接続する接続流路としての、静脈チューブ61、動脈チューブ62、動脈側のチューブ631~634、静脈側のチューブ641~644を含む。
【0070】
チャンバー0の入口側には静脈チューブ61の下流端が、出口側には動脈チューブ62の上流端が、各々接続されている。動脈チューブ62の下流端には、マニホールド管の形態の動脈並列チューブ63が接続されている。静脈チューブ61の上流端には、同じくマニホールド管の形態の静脈並列チューブ64が接続されている。動脈並列チューブ63からは、それぞれ下流端がチャンバー1に接続された第1チューブ631、チャンバー2に接続された第2チューブ632、チャンバー3に接続された第3チューブ633及びチャンバー4に接続された第4チューブ634の各上流端が分岐している。また、静脈並列チューブ64には、それぞれ上流端がチャンバー1に接続された第5チューブ641、チャンバー2に接続された第6チューブ642、チャンバー3に接続された第7チューブ643及びチャンバー4に接続された第8チューブ644の各下流端が接続されている。つまり、心臓細胞のチャンバー0と他のチャンバー1、2、3、4とは直列接続の状態、チャンバー1、2、3、4相互間は並列接続の状態である。
【0071】
動脈チューブ62にはFCV10が、第1チューブ631にはFCV11が、第2チューブ632にはFCV12が、第3チューブ633にはFCV13が、第4チューブ634にはFCV14が、各々配置されている。また、静脈チューブ61にはFCV0が、第5チューブ641にはFCV1が、第6チューブ642にはFCV2が、第7チューブ643にはFCV3が、第8チューブ644にはFCV4が、各々配置されている。静脈チューブ61には第1ポンプP1が配置され、動脈チューブ62には第2ポンプP2が配置されている。
【0072】
第2ポンプP2の駆動により、チャンバー0から動脈チューブ62を通して培地が送り出される。培地の送り出し量は、FCV10の開度によって調整される。第2ポンプP2に送り出された培地は、動脈並列チューブ63及びチューブ631~634を介して、各チャンバー1、2、3、4に並列供給される。各チャンバー1、2、3、4への培地供給量は、第2の流量制御弁の群であるFCV11、12、13、14の開度及び又は第1の流量制御弁の群であるFCV0、1、2、3、4の開度によって調整可能である。
【0073】
第1ポンプP1の駆動により吸引力が発生され、チューブ641~644及び静脈並列チューブ64を介して、チャンバー1、2、3、4から培地が吸引される。吸引された培地は、静脈チューブ61を通してチャンバー0に戻される。つまり、第1ポンプP1及び第2ポンプP2の駆動により、チャンバー0を出発点とし、チャンバー1、2、3、4を経由してチャンバー0に戻るように、培地を循環させることができる。なお、静脈チューブ61に配置されているFCV0を閉とすることで、培地の循環を停止させることができる。また、チューブ641~644に各々配置されているFCV1、2、3、4を閉じることで、チャンバー1、2、3、4を循環系から切り離すことができる。
【0074】
ここで、第1ポンプP1及び第2ポンプP2の2つのポンプを用いて培地を循環させるのは、チャンバー0、1、2、3、4として、
図1に示したようなオープンタイプのチャンバーの使用を想定しているからである。
図1に示す容器11は上面に開口壁16を有し、ウェルプレート12の貫通孔24を通して、容器11の内部空間Aが外気と連通している状態である。つまり、循環回路が閉鎖されていないゆえ、チャンバー0からの培地の流出の制御、及びチャンバー0への培地の流入の制御には、2つのポンプが必要となるからである。もし、チャンバー0、1、2、3、4として開口壁16の上面を封止した密閉型のものを用いる場合は、第1ポンプP1及び第2ポンプP2のいずれか一つを省くようにしても良い。
【0075】
前記補給系は、補給ポンプP3及びリザーバ培地タンクT1からなる。リザーバ培地タンクT1には、フレッシュな培地が貯留されている。なお、リザーバ培地タンクT1には培地以外の他の成分が含まれていても良く、例えば試薬類が含まれていても良い。この場合、試薬を含有した培地を適宜なタイミングで前記循環系において循環させることができる。補給ポンプP3は、リザーバ培地タンクT1から動脈並列チューブ63へ培地を送り出す。前記循環系を循環する培地量が不足した場合、所要量の培地が動脈並列チューブ63へ供給されるよう、補給ポンプP3が駆動される。前記回収系は、回収ポンプP4及び廃液タンクT2からなる。回収ポンプP4は、動脈並列チューブ63を通して前記循環系から過剰な培地を吸引し、回収する。廃液タンクT2には、回収された培地が貯留される。この廃液タンクT2を分析回収用タンクT2として扱うようにしても良い。この場合、前記循環系内で循環している培地の一部を分析回収用タンクT2に回収し、回収された培地の成分を分析するという実施態様が実現できる。
【0076】
コントローラ500は、細胞培養ユニットU1の動作を統括的に制御するものであって、ポンプ制御部501、第1FCV制御部502、第2FCV制御部503、データ処理部504及び記憶部505を機能的に有する。なお、
図8では図示を省いているが、チャンバー0、1、2、3、4には、各チャンバーのウェルに収容された細胞の画像を取得するカメラユニットが配置されている。
【0077】
ポンプ制御部501は、第1ポンプP1、第2ポンプP2、補給ポンプP3及び回収ポンプP4を制御し、所定のタイミングで、所要の培地吐出力又は培地吸引力を発生させる。第1FCV制御部502は、FCV0、1、2、3、4の開度を調整する制御を行う。第2FCV制御部503は、FCV10、11、12、13、14の開度を調整する制御を行う。データ処理部504は、各チャンバーの細胞の画像データに基づき、第1実施形態のデータ処理部54と同様なデータ処理、解析処理を行う。記憶部505は、細胞培養ユニットU1に関する各種の設定データや、テーブルデータを記憶する。
【0078】
[第2実施形態の細胞培養ユニットの動作フロー]
続いて、第2実施形態の細胞培養ユニットU1の動作フローを説明する。
図9は、細胞培養ユニットU1による細胞の長期培養開始時における動作の一例を示すフローチャートである。コントローラ500は、チャンバー0、1、2、3、4が所定の状態でセットされたことを確認する(ステップS21)。この確認動作は、例えばユーザーからの動作開始指示の受け付けである。この時点までに、チャンバー0、1、2、3、4には、指定された細胞と培地とが予め収容されている。また、静脈チューブ61及び動脈チューブ62などの循環系のチューブにも、培地が予め充填されている。
【0079】
次に、第2FCV制御部503がFCV10、11、12、13、14の開度を、各細胞に応じて予め定められた規定値に設定する(ステップS22)。なお、第1FCV制御部502も、FCV0、1、2、3、4の開度を規定値に設定する。次いで、ポンプ制御部501が、第1ポンプP1及び第2ポンプP2を駆動させる(ステップS23)。これにより、心臓細胞を収容するチャンバー0を起点とし、動脈チューブ62から培地が流出し、並列接続されたチャンバー1、2、3、4を各々経由して、静脈チューブ61より培地がチャンバー0に戻る培地の循環が開始される。これにより、各チャンバー0、1、2、3、4内の細胞がウェル内で流動乃至は浮上するようになる。
【0080】
その後、コントローラ500は、各チャンバー0、1、2、3、4に付設されている液面センサー0、1、2、3、4から、チャンバー内の培地液面の高さの検出値を取得する(ステップS24)。この検出値のデータを用いてデータ処理部504が、各チャンバー0、1、2、3、4内の液面の高さが既定値であるか否か、つまり、各チャンバー0、1、2、3、4内の培地が不足しているか過剰であるかを判定する(ステップS25)。一つの実施形態として、心臓細胞以外のチャンバー1、2、3、4について、FCV1、2、3、4のうち、調整対象のチャンバーのFCVだけを順次「開」、他を「閉」としてゆき、個別に培地の不足/過剰を判定するようにしても良い。
【0081】
ステップS25で培地が「不足」と判定された場合、ポンプ制御部501は補給ポンプP3を駆動させ、リザーバ培地タンクT1から培地を動脈並列チューブ63に供給させる(ステップS26)。一方、ステップS25で培地が「過剰」と判定された場合、ポンプ制御部501は回収ポンプP4を駆動させ、動脈並列チューブ63から培地を吸引し、廃液タンクT2に流入させる(ステップS27)。そして、ステップS24に戻って、チャンバー内の液面高さが再確認する動作が繰り返される。
【0082】
これに対し、ステップS25で培地が「既定値」と判定された場合は、補給ポンプP3及び回収ポンプP4のいずれかが駆動されている場合には、ポンプ制御部501はこれを停止させる(ステップS28)。そして、図略のカメラユニットにて、第1実施形態と同様の手法でチャンバー0、1、2、3、4内の細胞が所定の高さに浮上したことが確認されたならば、その時の液流の流速を維持する。これにより、細胞の長期培養が開始されることになる(ステップS29)。細胞の長期培養中には、前記カメラユニットにて、例えば細胞の増殖状態が観察される。
【0083】
図10は、細胞培養ユニットU1による細胞の長期培養中におけるチャンバーの取り出し処理を示すフローチャートである。細胞の長期培養中において、コントローラ500は、特定のチャンバーの取り出しリクエストが存在しているか否かを判定する(ステップS31)。前記取り出しリクエストとは、培地の循環を継続しつつ、チャンバー1、2、3、4のいずれか又は複数を循環系から切り離して、細胞培養ユニットU1から取り出し可能とする処理のリクエストである。前記取り出しリクエストが無い場合は、待機する。
【0084】
前記取り出しリクエストが有った場合(ステップS31でYES)、コントローラ500は以下の処理を行う。ここで、脳細胞用のチャンバー1の取り出しリクエストが有った場合を想定する。この場合、第2FCV制御部503がFCV11を絞って「閉」とする制御を行う(ステップS32)。また、第1FCV制御部502が、FCV1を「閉」とする制御を行う(ステップS33)。これにより、チャンバー1は動脈並列チューブ63及び静脈並列チューブ64を通した培地の循環回路から切り離された状態となる。
【0085】
チャンバー1が循環回路から切り離されたことで、他のチャンバー2、3、4の液圧が上昇することになる。この場合、これらチャンバー2、3、4内の液流の流速が増してしまい、各ウェルの細胞が過剰に浮上する、或いはウェルから飛び出してしまうことが生じ得る。そこで第2FCV制御部503は、FCV11を「閉」とした分を按分して、FCV12、13、14の開度を各々小さくする(ステップS34)。また、ポンプ制御部501は、第1ポンプP1の出力を、チャンバー1を切り離した分だけ抑制する。これにより、チャンバー2、3、4について、チャンバー1の切り離し前の液流の流速を維持させることができる。なお、その後のユーザーの作業としては、取り出したチャンバー1を観察や薬液処理後、若しくは一部の細胞の取り出し後に元に戻す、チャンバー1に代えて新たな細胞を収容したチャンバーを組み付ける、といった作業が想定される。
【0086】
図11は、細胞培養ユニットU1による細胞の長期培養中における、チャンバー内の液面管理動作を示すフローチャートである。コントローラ500は、所定のサンプリングタイミングに、液面センサー0、1、2、3、4から、各チャンバー0、1、2、3、4内の培地液面の高さの検出値を取得する(ステップS41)。長期培養中には、培地の蒸発、細胞の増殖又は減少等の要因によって、培地液面の高さや液流LFの状態に変化が生じ得る。培地の減少は、液面センサー0、1、2、3、4の出力値にて、液流LFの状態変化に起因する細胞の流動乃至は浮上状態の変動は、常時監視しているカメラユニットの画像にて、各々知見することができる。
【0087】
次いで、データ処理部504が、各チャンバーの培地液面の高さに異常が無いか否か、つまり、各チャンバー0、1、2、3、4内の培地が不足又は過剰でないか否か、並びに、各細胞の浮上状態に異常がないか否かを判定する(ステップS42)。培地液面の高さや細胞の浮上状態に異常が無い場合(ステップS42でNO)、現状の液流LFの強度が維持される。
【0088】
これに対し、培地液面の高さや細胞の浮上状態に異常が認められる場合(ステップS42でYES)、所定の措置が取られる(ステップS43)。例えば、チャンバー1の細胞の浮上高さが低下していることが検出された場合には、第2FCV制御部503が、FCV11の開度を大きくして液流LFを増やし、逆に細胞の浮上高さが高すぎる状態であれば、FCV11の開度を小さくして液流LFを減少させる。また、培地液面の高さの減少が検出された場合には、ポンプ制御部501が、補給ポンプP3を駆動して培地を循環系に補給させる。
【0089】
以上説明した第2実施形態の細胞培養ユニットU1によれば、複数種の細胞に対して同一の培養液を供給しつつ、これら細胞を長期培養することが可能となる。同様な細胞培養ユニットとして、培養液を流通させるマイクロ流路内に細胞を配置し前記培養液と反応させるものが既存する。しかし、既存ユニットでは、マイクロ流路を用いるため大量の細胞を扱うことは困難である。これに対し、細胞培養ユニットU1では、各チャンバー0、1、2、3、4に多数のウェル2を備えたウェルプレート12を配置できるので、大量の細胞を同時に培養又は反応させることができる。また、既存ユニットでは、培養中の細胞をマイクロ流路から取り出すことはできないが、細胞培養ユニットU1では、
図10のフローで示した通り細胞を容易に取り出すことができる。さらに、細胞培養ユニットU1では、チャンバー間をチューブで繋ぐ構成であるので、チャンバーの数の増減、チャンバーの配置変更等を容易に行える利点もある。この他、細胞間の伝達物質(シグナル物質)であるホルモンやサイトカイン、神経伝達物質などを各チャンバー0、1、2、3、4の細胞へ循環させ、その反応を観察できるという利点もある。
【0090】
[他の実施形態]
以上、本発明の主な実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の変形実施形態を取ることができる。例えば本発明は、次に示すような変形実施形態を採用することができる。
【0091】
(1)
図1では、ウェルプレート12を1層だけ備えたチャンバーCHを例示した。
図12は、変形例に係るチャンバーCH1を示す断面図である。チャンバーCH1は、下段ウェルプレート12A(第1プレート)と上段ウェルプレート12B(第2プレート)とが、上下2層に配置されている。下段ウェルプレート12Aは、
図1に示したウェルプレート12と同じく、貫通孔24付きのウェル2(第1ウェル)を備えている。上段ウェルプレート12Bは、下段ウェルプレート12Aの上方に間隔を置いて配置され、同様に貫通孔24付きのウェル2(第2ウェル)を備えている。
【0092】
このチャンバーCH1を用いれば、下段ウェルプレート12Aの貫通孔24を通過した液流が、さらに上段ウェルプレート12Bの貫通孔24を通過することで、下段ウェルプレート12Aのウェル2だけでなく、上段ウェルプレート12Bのウェル2にも液流を発生させることができる。このため、下段ウェルプレート12Aでは第1の細胞Caを培養し、上段ウェルプレート12Bでは第1の細胞Caとは異なる第2の細胞Cbを培養するというように、異なる細胞を1つのチャンバーで長期培養することができる。
【0093】
(2)
図13は、他の変形例に係るチャンバーCH2を示す断面図である。チャンバーCH2は、下段ウェルプレート12A、中段ウェルプレート12C及び蓋体46を備えている。下段ウェルプレート12Aは、
図1に示したウェルプレート12と同じである。中段ウェルプレート12Cは、下段ウェルプレート12Aの上方に間隔を置いて配置され、細胞を収容可能なウェル2を備えている。蓋体46は、中段ウェルプレート12Cの上方を密封している。下段ウェルプレート12Aは、第1の培地LAに浸漬されている。一方、中段ウェルプレート12Cと蓋体46との間には、第1の培地LAとは異なる第2の培地LBが充填されている。
【0094】
下段ウェルプレート12Aでは第1の細胞Caが担持され、中段ウェルプレート12Cでは第2の細胞Cbが担持されている。中段ウェルプレート12Cは、第1の培地LA及び第2の培地LAの相互の浸透は許容しつつ、両培地の自由な混合並びに両細胞の出入は許容しないフィルター機能を有している。下段ウェルプレート12Aには、容器11に対して配置された送液チューブ42及び吸液チューブ43によって第1の培地LAが供給され、液流が発生される。これに対し、中段ウェルプレート12Cには、蓋体46に対して配置された送液チューブ44及び吸液チューブ45によって第2の培地LBが供給され、液流が発生される。このように、異なる細胞を1つのチャンバーにて上下2層で保持させると共に、各々の細胞に対して独立的に液流を発生させる構成を採用しても良い。
【0095】
(3)上記第2実施形態では、各チャンバー0、1、2、3、4に液面センサー0、1、2、3、4を付設する例を示した。液面センサー0、1、2、3、4に代えて、他の手段で培地の液面を監視するようにしても良い。例えば、培地の液面にフロートを配置し、細胞の観察用に配置しているカメラユニット3にて前記フロートも観察対象としてフロート浮上高さを把握することで、培地の液面を監視するようにしても良い。
【0096】
(4)上記実施形態では、
図2(A)に例示した通り、筒状側面21、底面22、テーパ開口面23及び貫通孔24を備えるウェル2を例示した。ウェル2の形状は種々変更することが可能である。
図14(A)~(D)は、変形例に係るウェル2A~2Dを示す図である。
図14(A)のウェル2Aは、砲弾形の断面形状を有するウェルを例示している。
図14(B)では単純な断面矩形のウェル2Bを、
図14(C)では断面三角形のウェル2Cを、各々例示している。また、
図14(D)では、断面矩形と断面台形のキャビティが上下方向に連なっているウェル2Dを例示している。ウェル2A~2Dとも、最も低い位置に液流LFを発生させるための貫通孔24が備えられている。
【0097】
(5)また、貫通孔24の数や形成位置についても、細胞Cを浮上及び回転させることが可能な液流LFを形成できる限りにおいて、種々変更することが可能である。
図15(A)~(C)は、変形例に係る貫通孔24A~24Eを備えたウェル2E~2Gを示す図である。
図15(A)のウェル2Eは、底部付近に2つの貫通孔24A、24Bが形成されている例を示している。
図15(B)では、側面に貫通孔24Cを一つ備えたウェル2Fを例示している。
図15(C)では、底部と側面とに各々、貫通孔24D、24Eが形成されたウェル2Gを例示している。
【0098】
(6)さらに、ウェルへ連通する開口の形態も、種々変更可能である。
図16(A)では、ウェルの壁面に対して、直交する方向に貫通するのではなく、斜め方向に貫通する貫通孔24Fを備えたウェル2Hを例示している。この貫通孔24Fによれば、ウェル2H内に渦流を発生させ易くなる。
図16(B)では、前記開口が貫通孔の態様ではなく、ノズル26が用いられているウェル2Iを例示している。ノズル26の先端はウェル2Iのキャビティ内に臨んでおり、液体を噴射させることが可能である。
【0099】
以上説明した本発明によれば、細胞Cの培養領域となるウェル2内に培地Lの液流LFを発生させることで、細胞Cに酸素や栄養素を供給することが可能となる。また、液流LFによって細胞Cをウェル2内において流動乃至は浮上、回転させることで、当該細胞Cの一部がウェル2の筒状側面21や底面22に同じ姿勢で接面し続けないようにすることができる。つまり、細胞Cを培地L中で遊動させた状態で、長期培養することが可能となる。これにより、筒状側面21や底面22に対する接面の影響を抑制して、細胞Cに自在な三次元的成長を行わせることができる。
【符号の説明】
【0100】
U 細胞培養ユニット(生体対象物の培養ユニット)
C 細胞(生体対象物)
L 培地(培養液)
LF 液流
CH チャンバー
12 ウェルプレート
2 ウェル凹部)
20 キャビティ(培養領域)
24 貫通孔(開口)
3 カメラユニット
4 ポンプユニット(ポンプ装置)
5 コントローラ
51 ポンプ制御部