(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】フッ化物蛍光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20230313BHJP
C09K 11/61 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C09K11/08 A
C09K11/61
(21)【出願番号】P 2019055635
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2018071036
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】市川 真義
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-028148(JP,A)
【文献】特開2018-016716(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103932(WO,A1)
【文献】特開2015-044951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるフッ化物蛍光体中間体を用意する工程、
用意した前記フッ化物蛍光体中間体
を、マンガン還元剤を含む処理溶液
に入れる工程
と、
前記マンガン還元剤を含む処理溶液中の前記フッ化物蛍光体中間体に対して、下記一般式(2)で表されるケイ素含有化合物を接触させる工程と
を含む、フッ化物蛍光体の製造方法。
一般式:K
2SiF
6:Mn
4+・・・(1)
一般式:Si(OR
1
)(OR
2
)(OR
3
)(OR
4
)・・・(2)
(但しR
1
、R
2
、R
3
、及びR
4
は、一価の炭化水素基である。)
【請求項2】
前記マンガン還元剤を含む処理溶液が、水を含む溶液である、
請求項1記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記マンガン還元剤が、過酸化水素である、
請求項1又は2記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)で表されるフッ化物蛍光体中間体を用意する工程が、
一般式(1)で表されるフッ化物蛍光体中間体を調製する工程と、
調製した前記フッ化物蛍光体中間体を分離回収する工程と
を含む、
請求項1~3のいずれか一項記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色光源として、励起源としての発光ダイオード(Light emitting diode:LED)と蛍光体とを組み合わせた白色発光ダイオード(白色LED)がディスプレイのバックライト光源や照明装置に適用されている。その中でも、InGaN系青色LEDを励起源とした白色LEDが幅広く普及している。
【0003】
白色LEDに用いられる蛍光体は、例えば青色LEDの発光で効率良く励起され、かつ青色LED自体の青色発光と混色することにより白色を示すような、可視光域の蛍光を発光する蛍光体であることが望ましい。白色LED用の蛍光体としては、青色光で効率良く励起され、ブロードな黄色発光を示すCe付活イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)蛍光体が代表的な例として挙げられる。YAG蛍光体単独で青色LEDと組み合わせることにより疑似的な白色が得られる。このことからYAG蛍光体を含む白色LEDは、照明及びバックライト光源に使用されているが、青色LEDとYAG蛍光体の組み合わせで得られる白色光中には赤色成分が少ないために、照明用途では演色性が低く、バックライト用途では色再現範囲が狭いという問題がある。
【0004】
演色性及び色再現性を改善する目的で、青色LEDで励起可能な赤色蛍光体と、Eu付活β型サイアロンやオルソシリケートなどの緑色蛍光体とを組み合わせた白色LEDも開発されている。
【0005】
前記青色LEDで励起可能な赤色蛍光体としては、蛍光変換効率が高く、高温での輝度低下が少なく、化学的安定性に優れることから、Eu2+を発光中心とした窒化物若しくは酸窒化物蛍光体が多く用いられており、代表的なものとして、化学式Sr2Si5N8Eu2+、CaAlSiN3:Eu2+、(Ca,Sr)AlSiN3:Eu2+で示される蛍光体が挙げられる。しかしながら、Eu2+を用いた蛍光体の発光スペクトルはブロードであり、視感度が低い発光波長成分も多く含まれるために、蛍光変換効率が高い割には、白色LEDとしての輝度が、青色LEDとYAG蛍光体とを組み合わせた蛍光体に比べて大きく低下してしまう。また、特にディスプレイ用途に用いる蛍光体は、カラーフィルターとの組み合わせの相性が求められるので、ブロードな発光スペクトルを有する蛍光体は好ましくない問題があるため、シャープな発光スペクトルを有する赤色蛍光体の開発が望まれてきた。
【0006】
シャープな発光スペクトルを有する赤色蛍光体の発光中心としては、Eu3+やMn4+が挙げられる。中でも、K2SiF6の様なフッ化物結晶にMn4+を固溶させて付活することで得られる赤色蛍光体はKSF蛍光体とも呼ばれ、代表的なフッ化物蛍光体(一般式は、例えばK2SiF6:Mn4+のように示される。)である。KSF蛍光体は青色光で効率良く励起され、半値幅の狭いシャープな発光スペクトルを有する。このため白色LEDの輝度を低下させることなく、優れた演色性や色再現性が実現できることから、K2SiF6:Mn4+蛍光体の白色LEDへの適用検討が盛んに行われている。(非特許文献1参照)
【0007】
一方、白色LEDを使用した発光装置では、高い耐湿性能が求められており、それに使用される蛍光体にも同様の特性が求められている。フッ化物蛍光体そのものに耐湿性を付与する方法に関しては様々な方法が検討されており、特許文献1には、Mnを含まないフッ化物でフッ化物蛍光体粒子の表面を被覆するフッ化物蛍光体の製造方法が開示されている。
【0008】
特許文献1に開示されているフッ化物蛍光体では、Mnを含まないフッ化物で、フッ化物蛍光体粒子の表面を被覆することでその耐湿性を向上させている。しかしながらこの方法は、フッ化物蛍光体の水へ溶解を低減させる点では必ずしも十分とはいえず、使用される環境の厳しさや使用可能となる限界時間の設定によっては、満足できるとはいえない。また、このフッ化物蛍光体の一般的な用途である白色LEDを構成する部材には、シリコーン樹脂や金属の部品が含まれる場合もあり、それらはフッ化物蛍光体と水との接触により発生するフッ化水素やフッ素などの影響により腐食や脆化などの劣化を起こしてしまう。したがってこうした劣化の抑止が別途必要になるという改善点を残していた。
【0009】
また特許文献2には、フッ化物蛍光体の表面を、疎水性の分子や疎水性の官能基を有する化合物で処理する製造方法が開示されている。
【0010】
特許文献2に開示されているフッ化物蛍光体では、疎水性の分子又は疎水性の官能基を有する化合物で処理することで、耐湿性を向上させている。しかしながら、白色LEDの高出力化に伴った使用温度は高くなる傾向にあり、有機物のみの処理では実用に耐えなくなる可能性があるという問題を有していた。
【0011】
さらに特許文献3には、フッ化物蛍光体の表面に、コーティング処理により表層を新たに形成させる方法が開示されている。
【0012】
特許文献3に開示されているフッ化物蛍光体では、表面コーティング処理により表層を形成させることで、防湿を行っている。しかしながら、蛍光体粒子を、分散液もしくは溶液に浸漬、加熱するのみでは、発光特性も低下し、耐湿性に関してもさらなる改善が求められていた。
【0013】
特許文献4には、一般式:A2SiF6:Mn(元素Aは少なくともカリウムを含有するアルカリ金属元素)で表されるフッ化物蛍光体の製造方法であって、溶媒に元素A及びフッ素が溶解した水溶液を調製する工程と、当該水溶液に固体状の二酸化ケイ素及び+7価以外のマンガンを供給するマンガン化合物を添加する工程とを含み、マンガン化合物の添加量が、フッ化物蛍光体におけるMn含有量が0.1質量%以上1.5質量%以下となる範囲であり、水溶液中に二酸化ケイ素が溶解していくのと並行してフッ化物蛍光体が析出する、フッ化物蛍光体の製造方法が開示されている。
【0014】
しかし特許文献4に開示されている蛍光体でも、蛍光体の表面処理については必ずしも必要であるとは言及しておらず、また表面処理を実施したとしても、その方法については特許文献4の出願当時の公知技術範囲内に留まるため、特許文献4の方法により製造された蛍光体の耐湿性改善に関しては、さらなる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特表2013-533363号公報
【文献】特開2014-141684号公報
【文献】特開2015-113362号公報
【文献】国際公開第2017/057671号
【非特許文献】
【0016】
【文献】A.G.Paulusz,Journal of The Electrochemical Society,1973年、第120巻、第7号、p.942-947
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、発光特性を損なうことなく耐湿性を向上させた、フッ化物蛍光体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記の課題を解決すべく種々検討した結果、以下[1]~[4]の手段により課題を解決し、本発明を完成するに至った。
【0019】
[1]本発明は、下記一般式(1)で表されるフッ化物蛍光体中間体を用意する工程、用意した前記フッ化物蛍光体中間体とケイ素含有化合物とをマンガン還元剤を含む処理溶液を介して接触させる工程を含む、フッ化物蛍光体の製造方法である。
一般式:K2SiF6:Mn4+・・・(1)
【0020】
[2]また本発明は、前記ケイ素含有化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である、[1]記載のフッ化物蛍光体の製造方法でもあることが好ましい。
一般式:Si(OR1)(OR2)(OR3)(OR4)・・・(2)
(但しR1、R2、R3、及びR4は、一価の炭化水素基である。)
【0021】
[3]本発明においては、前記マンガン還元剤を含む処理溶液が、水を含む溶液である、[1]又は[2]記載のフッ化物蛍光体の製造方法であることが好ましい。
【0022】
[4]さらに本発明においては、前記マンガン還元剤が、過酸化水素である、[1]~[3]いずれか一項記載のフッ化物蛍光体の製造方法であることが好ましい。
【0023】
[5]また、一般式(1)で表されるフッ化物蛍光体中間体を用意する工程が、
一般式(1)で表されるフッ化物蛍光体中間体を調製する工程と、
調製した前記フッ化物蛍光体中間体を分離回収する工程と
を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、発光特性を損なうことなく、従来よりも優れた耐湿性を有するフッ化物蛍光体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施するための形態について詳細を説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変更して実施可能である。
【0026】
(フッ化物蛍光体)
本発明はフッ化物蛍光体の製造方法であるが、本明細書において当該フッ化物蛍光体には、K2SiF6で表されるフッ化物の4価の元素のサイトの一部がマンガンで置換されることで赤色に発光する、一般式がK2SiF6:Mn4+で表されるフッ化物蛍光体は含まないものとする。本明細書では便宜的に、一般式がK2SiF6:Mn4+で表されるフッ化物蛍光体のことを、「フッ化物蛍光体中間体」と表記する。本発明に係る製造方法により製造されるフッ化物蛍光体は、上記フッ化物蛍光体中間体の表面にさらに化学的処理を施したものである。
【0027】
前記フッ化物蛍光体中間体は、本発明の要旨から逸脱しない限りにおいて、その構成元素であるカリウム、ケイ素、フッ素、及びマンガンの一部を、他の元素、例えば、ナトリウム、ゲルマニウム、チタン、酸素などの元素で置換したり、他の元素や化合物が不純物として含まれたり、価数の異なる元素が一部侵入、置換したり、結晶中の元素が一部欠落するものも含まれるものとする。また、その結果、前記一般式(1)中の原子数を示す数字が変化してもよい。また、前記フッ化物蛍光体中間体は、本発明の要旨から逸脱しない限りにおいて、本発明であるフッ化物蛍光体の製造方法に含まれる工程で実施される処理以外の処理が予め実施されたものであってもよい。
【0028】
本発明に係るフッ化物蛍光体の製造方法で用いる、フッ化物蛍光体中間体は、従来のK2SiF6:Mn4+と同様の製造方法を用いて準備することができる。また、本発明の要旨から逸脱しない限りにおいて、一般市販のKSF蛍光体を購入して本明細書で言うところのフッ化物蛍光体中間体として準備することも可能である。フッ化物蛍光体中間体を製造して準備する場合は、例えば、フッ化水素酸にカリウム化合物、ケイ素化合物、マンガン化合物を溶解させ、加熱して蒸発乾固させて得たもの、又はフッ化水素酸にカリウム化合物、ケイ素化合物、マンガン化合物を溶解した液を冷却、又は上記フッ化物蛍光体の貧溶媒を添加することにより溶解度を低下させて析出させて得たものを用いることも可能である。以下に、フッ化物蛍光体中間体の製造方法の一つとして、WO2017/057671号(特許文献4)に開示されている製造方法を例示する。
【0029】
(フッ化物蛍光体中間体を製造して準備する方法の例示)
本発明であるフッ化物蛍光体の製造方法を実施する際に用いるフッ化物蛍光体中間体は、例えば、(イ)フッ化物蛍光体中間体を構成する元素を含む化合物(原料化合物)の一部が溶解している原料水溶液を調製し、(ロ)さらに別の原料化合物を前記原料水溶液中に添加して、前記原料水溶液中に生じてくる析出物(即ちフッ化物蛍光体中間体)を適宜回収し、さらに、(ハ)必要に応じて洗浄、乾燥、分級して準備することができる。この方法における一連の手順を、以下(イ)、(ロ)、(ハ)に示す。
【0030】
(イ)<フッ化物蛍光体中間体を構成する元素を含む化合物(原料化合物)の一部が溶解している原料水溶液を調製する手順>
前記原料化合物の一部が溶解している原料水溶液は、例えばカリウム含有化合物やフッ素含有化合物を、例えばフッ化水素酸水溶液、ケイフッ化水素酸水溶液に溶解させて調製することができる。前記カリウム含有化合物として、例えばカリウムのフッ化水素化合物(KHF2など)やフッ化物(KFなど)が挙げられる。これらは、カリウム供給源であると同時に、フッ素供給源としても作用するため、好ましく用いることができる。また、フッ化水素酸水溶液やケイフッ化水素酸水溶液は、カリウム含有化合物を溶解すると同時に、フッ素供給源としても作用するため好ましい。なお、フッ化水素酸水溶液を用いる場合、フッ化水素濃度は40~70質量%であることが好ましい。なおフッ化水素酸は多くの物質を溶解するため、これを取り扱うための器具や容器類は、不純物が混入しないように化学的に安定なフッ素樹脂製であることが好ましい。
【0031】
なお原料水溶液中にフッ化物蛍光体中間体が少なくとも析出してくるよう、原料水溶液中のカリウム濃度の下限値を越える必要がある。即ち、原料水溶液中におけるカリウムとフッ化物蛍光体中間体との平衡関係において、その原料水溶液中で、少なくともフッ化物蛍光体中間体が飽和濃度以上となるような最小カリウム添加濃度を超える必要がある。また、カリウムの添加濃度の上限値は、添加するカリウム含有化合物の、原料水溶液に対する飽和溶解度を与える濃度である。なおこの上/下限値は、使用する例えばフッ化水素酸などの水溶液の温度にも依存して変化するので、その範囲を一義的に定義することはできない。
【0032】
また、原料水溶液中にはK2SiF6結晶が析出しない濃度範囲で、ケイ素を含むようにケイ素含有化合物を予め溶解してもよい。ケイ素源となる好ましいケイ素含有化合物としては、二酸化ケイ素(SiO2)、ケイフッ化水素(H2SiF6)、ケイフッ化カリウム(K2SiF6)が挙げられる。特にケイフッ化水素やケイフッ化カリウムは、ケイ素源であると同時に、カリウムやフッ素の供給源としても作用するため好ましい。
【0033】
なお原料水溶液中に含まれるカリウムやフッ素、ケイ素は、一般にイオン化していることが想定されるが、それぞれが必ずしもフリーなイオンである必要はなく、溶液状態であればそれらの存在形態に特に制約はない。
【0034】
(ロ)<別の原料化合物を原料水溶液中に添加して、原料溶液中に生じてくる析出物を適宜回収して得る手順>
ここでは、(イ)で得られた原料水溶液に、例えば二酸化ケイ素及びマンガン化合物を添加することにより、前記溶液中にフッ化物蛍光体中間体である析出物が得られる。このとき二酸化ケイ素やマンガン化合物は溶液状で添加しても固体状で添加してもどちらでもよい。また原料水溶液中に析出にしたフッ化物蛍光体中間体の分離回収方法について特に限定はなく公知の方法を用いることができるが、例えばろ過などによる固液分離により分離回収することができる。このようにフッ化物蛍光体中間体を分離回収することで、上記原料水溶液中に残る余分な不純物(フッ化水素酸カリウムなど)の影響を取り除くことができ、最終的に得られるフッ化物蛍光体の品質を向上させることができ、好ましい。
【0035】
固体状の二酸化ケイ素を用いる場合は、結晶質、非晶質又はその混合物でもよい。また固体状の二酸化ケイ素はバルク状や粉末状など、その形態に制限はないが、その原料水溶液への溶解速度が、析出するフッ化物蛍光体中間体の粒子形態や大きさに影響する。溶解速度の制御を容易にすることを考慮すると、二酸化ケイ素は粉末状であることが好ましい。即ち、二酸化ケイ素の溶解速度は加えた粉末と原料水溶液との接触界面の面積に大きく支配されるため、二酸化ケイ素粉末の比表面積を調節することにより、フッ化物蛍光体中間体の粒子径の範囲を調節できる。また二酸化ケイ素の溶解速度は、系の液温やフッ化水素酸濃度などによっても調節可能である。
【0036】
前記マンガン化合物は、+7価以外のマンガン、なかでも+4価以下のマンガン、より好ましくは+4価のマンガンを供給できるマンガン化合物が好ましい。+7価のマンガンは本発明に係るフッ化物蛍光体の母結晶中に固溶しにくく、特性良好なフッ化物蛍光体が得られない傾向がある。好ましいマンガン化合物としては、フッ化水素酸などの溶媒に溶解しやすく、水溶液中でMnF6
2-錯イオンを形成し、一般式:K2SiF6で示されるフッ化物結晶に+4価のマンガンを固溶できるK2MnF6が好ましい。
【0037】
なお本発明で用いるフッ化物蛍光体中間体を得る上で妨げにならない限り、二酸化ケイ素及びマンガン化合物の添加順序は特に限定されない。即ち、マンガン化合物の添加は、二酸化ケイ素を添加する前、二酸化ケイ素の添加と同時、あるいは二酸化ケイ素を添加した後のいずれでもよい。また、各原料の添加操作は1回だけに限られるものではなく、複数回に分けてもよい。
【0038】
前記フッ化物蛍光体中間体を析出させる手順において、その温度は、特に制限されないが、二酸化ケイ素の溶解速度を調節するなどの必要により冷却又は加熱してもよい。例えば、二酸化ケイ素が溶解すると発熱するため、必要により水溶液を冷却してもよい。また、実施する圧力についても特に制限はない。
【0039】
(ハ)<回収した析出物を、さらに必要に応じて洗浄、乾燥、分級する手順>
原料水溶液中に析出して回収したフッ化物蛍光体中間体は、さらに必要に応じて、洗浄、乾燥や分級などの後処理を行うことができる。洗浄の方法としては、回収されたフッ化物蛍光体中間体を、有機溶剤を用いて洗浄する方法を採用することができる。なお洗浄においては、フッ化物蛍光体中間体を水で洗浄すると、該蛍光体の一部が加水分解して茶色のマンガン化合物が生成し、得られる蛍光体の特性が低下することがある。そのため、洗浄では、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどが好ましく用いられる。また有機溶剤での洗浄前にフッ化水素酸で数回洗浄を行うと、微量生成していた不純物をより確実に溶解除去することができる。洗浄に用いるフッ化水素酸の濃度は、フッ化物蛍光体中間体の加水分解抑制の観点から、15質量%以上が好ましい。さらに洗浄に引き続いて、洗浄液を完全に蒸発させるよう乾燥することが好ましい。分級は、フッ化物蛍光体中間体の粒度のばらつきを抑制し、一定範囲内に調整する操作であり、特に分級方法に制限はなく公知の方法や道具、装置を用いて分級することができる。具体的には、所定の大きさの目開きを有する篩を用いて選別する方法が好ましく採用される。
【0040】
この場合、フッ化物蛍光体中間体の粒子径の範囲に特に制限は設けないが、例えば体積基準の累積分布曲線から得られる体積メジアン径(D50)が5μm以上30μm以下であるようにもできるし、あるいは最終的なフッ化物蛍光体を小粒径品として得ることを目的としてD50を5μm以下(例えば0.1μm以上5μm以下、1μm以上5μm以下など)とすることも可能である。D50が30μmより大きい場合、LED発光素子を作る際などに、蛍光体と樹脂との混合物が、ポッティング用ノズルの詰りを引き起こすなどの不都合が生じるおそれがある。なお、前記粒子径は、例えばJIS Z8825(2013)に記載されるレーザー回折・散乱法に準拠して測定することができる。
【0041】
(マンガン還元剤を含む処理溶液の例示)
本発明であるフッ化物蛍光体の製造方法を実施する際に準備するマンガン還元剤を含む処理溶液は、マンガン還元剤を所定の液に溶解したものである。フッ化物蛍光体中間体は、水や大気中の水分との接触により、その一部が加水分解して茶色のマンガン化合物が生成し、蛍光体としての特性が低下することがある。そのため、特性の低下原因となるマンガン化合物の生成反応を抑制するため、処理溶液中にはマンガン還元剤が含まれていることが必要である。本明細書の記載は特定の理論に束縛されるものではないが、前記処理溶液中では、フッ化物蛍光体中間体とケイ素含有化合物とが反応するかもしくは付着するかによって、最終的なフッ化物蛍光体が得られると推測される。
【0042】
(マンガン還元剤)
前記マンガン還元剤は、マンガンを還元可能なものであれば特に限定されない。好ましい実施形態においては、マンガン還元剤が、+4価以下のマンガン(例えばMn2+、Mn3+、Mn4+)を還元可能なものであることが好ましい。また、マンガン還元剤はケイ素含有化合物とは異なるものである(ケイ素を含有しない)ことが好ましい。さらにはマンガン還元剤が、+4価以下マンガンを還元可能であってかつケイ素含有化合物ではないことがより好ましい。具体的なマンガン還元剤としては、例えば過酸化水素のようなヒドロキシルラジカル源や、シュウ酸などの弱酸が挙げられる。これらのうち、過酸化水素は、フッ化物蛍光体へ悪影響を及ぼすことなく+4価以下のマンガンを還元できる点で好ましい。
【0043】
なお処理溶液中におけるマンガン還元剤の濃度は、特に制限されない。マンガン還元剤の濃度は、本発明に用いるフッ化物蛍光体中間体中に含まれるマンガンの総量に応じて適宜選択することができ、フッ化物蛍光体中間体中に含まれる総マンガン含有量以上であることが好ましい。
【0044】
従来技術では、K2SiF6:Mn4+フッ化物蛍光体に溶液を接触させて後処理するような場合、前記溶液の水分を忌避することが、K2SiF6:Mn4+の発光特性劣化を防止する一つの手法であったが、本発明のフッ化物蛍光体の製造方法において、前記マンガン還元剤を含む処理溶液は、フッ化物蛍光体中間体とケイ素含有化合物との反応を促進させるよう、水分を含むことが好ましく、水分を含んでいてもフッ化物蛍光体の発光特性に与える影響は少ない。水分は、直接加えても、或いは他のマンガン還元剤やpH調整剤などから間接的に処理溶液中に加えられたものでも良く、また大気中の水分が処理溶液中に徐々に取り込まれたものであってもよい。
【0045】
また前記処理溶液には、フッ化物蛍光体中間体とケイ素含有化合物との反応速度を制御するために、分散剤を加えることも可能である。分散剤として機能する化合物としては、蛍光体特性に悪影響を及ぼす元素を含まないものが好ましく、具体的にはアルコールなどの有機溶剤が挙げられ、取扱いや購入のしやすさの観点からメタノール、エタノールが好ましい。
【0046】
さらに前記処理溶液には、フッ化物蛍光体中間体とケイ素含有化合物との反応速度を制御するためにpH調整剤を加えてもよい。pHの調整剤としては、蛍光体特性に悪影響を及ぼす元素を含まないものが好ましく、具体的にはアンモニア水、酢酸アンモニウム、酢酸、塩酸などである。
【0047】
また前記処理溶液中には、フッ化物蛍光体中間体の表面性状を調製するために、処理溶液中でプラスに帯電する界面活性剤を加えてもよい。具体的には、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリビニルピロリドンなどである。フッ化物蛍光体中間体は、合成方法やその後処理方法などによって表面の状態が変化することが考えられるため、このように界面活性剤を用いることで耐湿性改善の効果を得ることも可能になる。
【0048】
(マンガン還元剤を含む処理溶液を介してフッ化物蛍光体中間体とケイ素含有化合物とを接触させる工程の例示)
以下に、マンガン還元剤を含む処理溶液を介してフッ化物蛍光体中間体とケイ素含有化合物とを接触させる工程に関し、その方法を説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下に例示する、マンガン還元剤を含む処理溶液中にフッ化物蛍光体中間体を分散させ、さらにケイ素含有化合物を添加する方法に限定されるものではない。即ち前記マンガン還元剤を含む処理溶液と前記フッ化物蛍光体中間体とケイ素含有化合物とを接触させる方法であればいずれの方法も採用でき、以下に例示する方法の他に、例えば、マンガン還元剤を含む処理溶液中に予めケイ素含有化合物も含ませ、この液中にフッ化物蛍光体中間体を分散させる、或いは前記フッ化物蛍光体中間体の粒子に、マンガン還元剤を含む処理溶液に予めケイ素含有化合物を溶解したものを噴霧して接触させる方法も適用することができる。
【0049】
(ケイ素含有化合物)
前記ケイ素含有化合物としては、下記一般式(2)で示される化合物であることが好ましい。
一般式:Si(OR1)(OR2)(OR3)(OR4)・・・(2)
なおR1、R2、R3、及びR4は、一価の炭化水素基を示す記号である。これらを纏めて、R1~4と記載することがある。なおR1~4は、それぞれ異なる炭化水素基であっても、或いはR1~4の一部又は全部が同じ炭化水素基であってもよい。
【0050】
前記R1~4に含まれる炭素数は、特に制限はなく、反応性の観点からR1~4に含まれる合計の炭素数は、前記処理溶液中に含まれるフッ化物蛍光体中間体の濃度、処理溶液の温度、処理溶液のpHなどに応じて、適宜炭素数を選定することができる。なお好ましい炭素数は12以下である。
【0051】
本発明の製造方法で用いるケイ素含有化合物として、具体的には、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチル、オルトケイ酸テトラプロピルが挙げられる。化合物の入手容易性及び反応制御の容易性の観点から、オルトケイ酸テトラエチルが好ましい。
【0052】
上記ケイ素含有化合物の処理溶液中における濃度は、本発明に用いるフッ化物蛍光体中間体の粒子の、体積メジアン径(D50)や処理量、或いは処理溶液の温度、処理溶液のpHなどに応じて、適宜選択することができる。具体的には、本発明に用いるフッ化物蛍光体粒子(D50:5μm)100.0gに対して、例えば0.02~3.0mol用いると良く、フッ化物蛍光体粒子(D50:30μm)100.0gに対して、例えば0.004~0.3mol用いるとよい。ケイ素含有化合物の濃度が低い場合、フッ化物蛍光体の耐湿性改善が不十分となるおそれがある。一方、ケイ素含有化合物の濃度が高すぎる場合、フッ化物蛍光体の割合が相対的に低下することで、発光特性が低下するおそれがある。
【0053】
マンガン還元剤を含む処理溶液中にフッ化物蛍光体中間体を分散させ、さらにケイ素含有化合物を添加する方法の場合、フッ化物蛍光体中間体の粒子を、マンガン還元剤を含む処理溶液に浸漬し、さらにケイ素含有化合物を添加して1分~72時間程度撹拌して分散させた後、更に1分~30分程度静置して沈殿物、即ちフッ化物蛍光体を得ることができる。撹拌時間は、処理溶液のpHや使用するケイ素含有化合物の種類や量により適宜調整できるが、反応性や生産性の観点からより好ましくは、3時間~24時間である。さらには、この沈殿物をろ別、遠心分離、デカンテーションなどにより固液分離して回収し、100℃~250℃で1分~24時間程度加熱して乾燥することができる。加熱温度は、フッ化物蛍光体の粒子への影響から、好ましくは100℃~200℃である。また加熱時間は、粉体の乾燥状態、生産性などの観点から好ましくは、2時間~10時間である。
【0054】
なお本発明のフッ化物蛍光体の製造方法は、マンガン還元剤を含む処理溶液を介して、化学組成が下記一般式(1)で表されるフッ化物蛍光体中間体とケイ素含有化合物とを接触させる工程を含むが、前記工程を経た後で、さらに必要に応じた別の工程を実施してもよい。
一般式:K2SiF6:Mn4+・・・(1)
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例と比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の内容から限定を受けるものではない。なおフッ化物蛍光体中間体であるK2SiF6:Mn4+は、フッ化水素カリウムを含むフッ化水素酸溶液に、二酸化ケイ素及び別に調製したK2MnF6粉末を添加し、析出してきた沈殿物(K2SiF6:Mn4+)を回収する手順により準備することができる。
【0056】
<K2MnF6の調製>
前記フッ化物蛍光体中間体であるK2SiF6:Mn4+を準備する際に用いるK2MnF6は、非特許文献1に記載されている方法に準拠して調製した。具体的には、容量2000mlのフッ素樹脂製ビーカーに濃度40質量%フッ化水素酸800mlを入れ、フッ化水素カリウム粉末(関東化学社製)260.00g及び過マンガン酸カリウム粉末(関東化学社製)12.00gを溶解させた。このフッ化水素酸溶液をマグネティックスターラーで撹拌しながら、30%過酸化水素水(関東化学社製)8mlを少しずつ滴下した。過酸化水素水の滴下量が一定量を超えると黄色粉末が析出し始め、反応液の色が紫色から変化し始めた。過酸化水素水を一定量滴下後、しばらく撹拌を続けた後、撹拌を止め、析出粉末を沈殿させた。沈殿後、上澄み液を除去し、メタノール(関東化学社製)を加え、撹拌し、静置し、上澄み液を除去し、更にメタノールを加えるという操作を、液が中性になるまで繰り返した。その後、濾過により析出粉末を回収し、更に乾燥を行い、メタノールを完全に蒸発除去することで、K2MnF6粉末を19.00g得た。これらの操作は全て常温で行った。
【0057】
<比較例1>
比較例1のK2SiF6:Mn4+で表されるフッ化物蛍光体中間体の製造方法を以下に示す。即ち常温下で、容量500mlのフッ素樹脂製ビーカーに濃度55質量%フッ化水素酸(ステラケミファ社製)200mlを入れ、フッ化水素カリウム粉末(和光純薬工業社製)25.6gを溶解させた水溶液を調製した。この水溶液を撹拌しながら、二酸化ケイ素(デンカ社製、商品名FB-50R)6.9g及び準備したK2MnF6粉末1.2gを入れた。二酸化ケイ素粉末を添加すると直ぐに水溶液中で黄色粉末(K2SiF6:Mn4+)が生成し始めていることを目視で確認した。なお前記二酸化ケイ素の粉末を水溶液に添加すると溶解熱の発生により水溶液温度は上昇し始めたが、水溶液温度は二酸化ケイ素を添加して約3分後に最高温度に到達し、その後は二酸化ケイ素の溶解が終了したために溶液温度は下降した。
【0058】
二酸化ケイ素粉末が完全に溶解した後、しばらく水溶液の撹拌を続けて黄色粉末の析出を完了させた後、水溶液を静置して固形分を沈殿させた。沈殿確認後、上澄み液を除去し、濃度24質量%のフッ化水素酸及びメタノール(関東化学社製)を用いて黄色粉末を洗浄し、さらにこれを濾過して固形部を分離回収し、更に乾燥処理により、残存メタノールを蒸発除去した。乾燥処理後、目開き75μmのナイロン製篩を用い、この篩を通過した黄色粉末だけを分級して回収し、最終的に20.3gの黄色粉末状のフッ化物蛍光体中間体を得た。
【0059】
<実施例1>
実施例1のフッ化物蛍光体の製造方法を以下に示す。実施例1のフッ化物蛍光体は、比較例1で得たフッ化物蛍光体中間体に対してさらに、マンガン還元剤及びケイ素含有化合物とを処理溶液中で接触させる工程を施して製造したものである。
【0060】
即ち、イオン交換水239.9g、エタノール(関東化学社製)146.6g、30%過酸化水素水(関東化学社製)4.0g、アンモニア水(和光純薬社製)40.5gを5分間撹拌、混合した。この水溶液をマンガン還元剤を含む処理溶液とし、この中に比較例1のK2SiF6:Mn4+フッ化物蛍光体中間体を10.0gを入れ、5分間撹拌した。次に、テトラエトキシシラン(関東化学社製)6.8gを入れた。3時間撹拌後、水溶液を静置して固形分を沈殿させた。沈殿確認後、上澄み液を除去し、さらにこれを濾過して固形部を分離回収し、乾燥処理(100℃-3時間)を行った。乾燥処理後、目開き75μmのナイロン製篩を用い、この篩を通過した黄色粉末だけを分級して回収し、最終的に8.75gの黄色粉末状のフッ化物蛍光体を得た。
【0061】
<実施例2>
乾燥処理条件を、200℃-5時間に変更した以外は実施例1と同様の方法で、実施例2のフッ化物蛍光体を得た。
【0062】
<実施例3>
イオン交換水245.0g、30%過酸化水素水(関東化学社製)1.0g、酢酸(和光純薬社製)0.2mlを5分間撹拌、混合した。この水溶液をマンガン還元剤を含む処理溶液とし、この中に比較例1のK2SiF6:Mn4+フッ化物蛍光体中間体10.0gを入れ、5分間撹拌した。次に、テトラエトキシシラン(関東化学社製)6.8g、を入れた。15時間撹拌後、水溶液を静置して固形分を沈殿させた。沈殿確認後、上澄み液を除去し、さらにこれを濾過して固形部を分離回収し、乾燥処理(100℃-3時間)した。乾燥処理後、目開き75μmのナイロン製篩を用い、この篩を通過した黄色粉末だけを分級して回収し、最終的に8.70gの黄色粉末状のフッ化物蛍光体を得た。
【0063】
<参考例1>
イオン交換水を、470.0g、酢酸を0.8mlに変更した以外は実施例3と同様の方法で、参考例1のフッ化物蛍光体を得た。
【0064】
<実施例4>
乾燥処理条件を、200℃-5時間に変更した以外は実施例3と同様の方法で処理を行い、実施例4のフッ化物蛍光体を得た。
【0065】
<実施例5>
イオン交換水245.0g、30%過酸化水素水(関東化学社製)1.0g、酢酸(和光純薬社製)0.2ml、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(東京化成社製)0.08gを5分間撹拌、混合した。この水溶液をマンガン還元剤を含む処理溶液とし、この中に比較例1のK2SiF6:Mn4+フッ化物蛍光体中間体10.0gを入れ、5分間撹拌した。次に、テトラエトキシシラン(関東化学社製)6.8g、を入れた。15時間撹拌後、水溶液を静置して固形分を沈殿させた。沈殿確認後、上澄み液を除去し、さらにこれを濾過して固形部を分離回収し、乾燥処理(100℃-3時間)を行った。乾燥処理後、目開き75μmのナイロン製篩を用い、この篩を通過した黄色粉末だけを分級して回収し、最終的に8.72gの黄色粉末状のフッ化物蛍光体を得た。
【0066】
<比較例2>
テトラエトキシシラン(関東化学社製)を50cm3用意した。これに、比較例1のフッ化物蛍光体中間体を25.0g加え、10分撹拌した後、10分静置した。次に、濾過して固形分を分離回収し、アセトン(関東化学社製)をふりかけて洗浄し、再度濾過して固形分を分離回収した後、真空乾燥し、最終的に22.5gの黄色粉末状のフッ化物蛍光体を得た。
【0067】
<比較例3>
比較例1のフッ化物蛍光体中間体10.0gに、テトラエトキシシラン(関東化学社製)0.2gを加え、混合した。次に、乾燥処理(100℃で3時間)を行った。乾燥処理後、目開き75μmのナイロン製篩を用い、この篩を通過した黄色粉末だけを分級して回収し、最終的に9.4gの黄色粉末状のフッ化物蛍光体を得た。
【0068】
<比較例4>
メタノール50mlに、二酸化ケイ素(デンカ社製、商品名UFP-80)0.8g加え、10分間撹拌した後、比較例1のフッ化物蛍光体中間体を10.0g加え、更に1時間撹拌した。次に、この溶液を100℃の乾燥機で蒸発乾固し、10.4gの黄色粉末状のフッ化物蛍光体を得た。
【0069】
<比較例5>
実施例1で用いたマンガン還元剤を含む処理溶液から、30%過酸化水素水を除き、その分をイオン交換水で補った処理溶液、即ちイオン交換水243.9g、エタノール(関東化学社製)146.6g、アンモニア水(和光純薬社製)40.5gを混合したマンガン還元剤を含まない処理溶液を準備し、これを用いた以外は実施例1と同様の方法で処理を行った。但し、比較例5のフッ化物蛍光体は一様に茶色く変色し、蛍光体としての機能を殆ど発揮しなかった。
【0070】
<フッ化物蛍光体の耐湿性評価>
実施例1~5及び比較例1~4の各フッ化物蛍光体の耐湿性について、以下の方法で耐湿性を評価した(なお比較例5のフッ化物蛍光体は、殆ど蛍光発光しないため、本評価の対象から外した)。即ち、積分球(φ60mm)の側面開口部(φ10mm)に反射率が99%の標準反射板(製品名:スペクトラロン、Labsphere社製)をセットした。この積分球に、発光光源(Xeランプ)から455nmの波長に分光した単色光を光ファイバーにより導入し、反射光のスペクトルを分光光度計(製品名:MCPD-7000、大塚電子社製)により測定した。その際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。次に、凹型のセルに表面が平滑になるように蛍光体を充填したものを積分球の開口部にセットし、波長455nmの単色光を照射し、励起の反射光及び蛍光のスペクトルを分光光度計により測定した。得られたスペクトルデータから蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465~800nmの範囲で算出した。得られた三種類のフォトン数から外部量子効率(=Qem/Qex×100)を求め、発光特性Q1とした。次に、テフロン(登録商標)製の時計皿に蛍光体3gを秤量し、薄く広げた。前記時計皿を恒温恒湿器(製品名:IW222、ヤマト科学社製)にセットし、60℃-90%RHとした。60℃-90%RHとなった後、25時間放置し、蛍光体を取り出した。取り出した蛍光体の発光特性を、上記と同様の測定方法で求め、発光特性Q2とした。Q1、Q2の値から発光特性の保持率(Q2/Q1×100(%))を算出して耐湿性の指標とし、即ち保持率の値が100%に近いほど耐湿性が高いと判断した。表1に示されるとおり、実施例1~5の保持率の値は、全て95%を超えていたのに対し、比較例1~4の保持率の値で、87%を超えるものはなかった。
【0071】
【0072】
表1に示される実施例1~5と比較例1~4の結果から、本発明の製造方法により製造されたフッ化物蛍光体は、耐湿性が向上したことがわかる。
【0073】
なお、これまで本発明を、実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の実施により、発光(蛍光)特性を損なうことなく耐湿性を向上させたフッ化物蛍光体を製造することができる。