(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】真空脱ガス装置用れんが及びこれを使用したRH浸漬管
(51)【国際特許分類】
C21C 7/00 20060101AFI20230313BHJP
C04B 35/443 20060101ALI20230313BHJP
C04B 35/043 20060101ALI20230313BHJP
C21C 7/10 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C21C7/00 Q
C04B35/443
C04B35/043
C21C7/10 C
(21)【出願番号】P 2019110561
(22)【出願日】2019-06-13
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】阿南 貴大
(72)【発明者】
【氏名】江上 雅之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 一茉
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-080272(JP,A)
【文献】特開平05-262559(JP,A)
【文献】特開2017-007901(JP,A)
【文献】特開平05-301772(JP,A)
【文献】特開2020-055726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/00-7/10
C04B 35/00,35/02-35/22
C04B 35/42-35/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料配合物に有機バインダーを添加して混練し成形後、熱処理して得られる真空脱ガス装置用れんがであって、
耐火原料配合物は、黒鉛を5質量%以上15質量%以下、粒度1mm以上5mm未満のスピネルを40質量%以上70質量%以下、粒度1mm未満のマグネシアを20質量%以上50質量%以下含有し、
かつ、耐火原料配合物100質量%中に占める割合で、粒度1mm未満のスピネルの含有率が10質量%以下(0を含む)、粒度1mm以上5mm未満のマグネシアの含有率が5質量%以下(0を含む)である、真空脱ガス装置用れんが。
【請求項2】
耐火原料配合物は、アルミニウム、アルミニウム合金及びシリコンのうち1種以上を0.3質量%以上2.5質量%以下含有する、請求項1に記載の真空脱ガス装置用れんが。
【請求項3】
耐火原料配合物は、黒鉛として膨張黒鉛を5質量%以上15質量%以下含有する、請求項1又は請求項2に記載の真空脱ガス装置用れんが。
【請求項4】
耐火原料配合物100質量%中に占める割合で、粒度0.075mm以上1mm未満のマグネシアの含有率が20質量%以上40質量%以下、粒度0.075mm未満のマグネシアの含有率が1質量%以上15質量%以下である、請求項3に記載の真空脱ガス装置用れんが。
【請求項5】
真空脱ガス装置の環流部用である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の真空脱ガス装置用れんが。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の真空脱ガス装置用れんがを使用した、RH浸漬管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼の二次精錬設備として真空脱炭や脱ガス等を目的として使用されるRHやDHなどの真空脱ガス装置、中でも真空脱ガス装置の環流部に好適に使用される真空脱ガス装置用れんが、及びこれを使用したRH浸漬管に関する。
なお、真空脱ガス装置の環流部とは、真空脱ガス装置の浸漬管、環流管、及び槽底を総称するものである(
図1参照)。
【背景技術】
【0002】
真空脱ガス装置の環流部には、一般的にマグクロれんがあるいはマグネシアカーボンれんがが内張材として使用されている。このうちマグネシアカーボンれんがは、マグネシアが持つ耐食性と黒鉛による耐熱衝撃性を併せ持ち、優れた耐用性を示す。
【0003】
ところが、真空脱ガス装置の環流部においては、その内張材であるれんがの表面を溶鋼が通過するため溶鋼流による摩耗損耗や熱衝撃によって、内張材であるれんがの損耗が他の部位に比べて大きい問題がある。
なお、例えばRH真空脱ガス装置において浸漬管(以下「RH浸漬管」という。)は着脱式構造になっており、計画的に新しいRH浸漬管に比較的速やかに交換できる。ところが、環流管や槽底はRH真空脱ガス装置本体である真空槽と一体になっているため、環流管や槽底の内張材であるれんがを交換するためにはRH真空脱ガス装置の操業を休止しなければならない。
【0004】
一方、RH真空脱ガス装置は上昇用と下降用の2本のRH浸漬管を有するが、このうち上昇用のRH浸漬管は溶鋼を上昇するため、その内孔面に多くの金属製のアルゴン配管の開口部が配置されている。ところが、使用を重ねて行くと内孔面に配置されたれんがに稼働面と平行な亀裂が発生し、この亀裂に溶鋼が侵入してアルゴン配管を溶融して閉塞させるため、アルゴンの吹込み量が不足して溶鋼が上昇できなくなる場合がある。
【0005】
そこで、特許文献1には、環流管の寿命を延ばすために耐熱衝撃性を損なうことなく耐摩耗性に優れた材料として、1~5重量%未満のカーボン原料を含む低カーボン質MgO-C耐火物が開示されている。ところが、このような耐火物を配置した環流管においても依然として、耐火物に亀裂が入って脆化して地金差しを起こすことがあり、耐熱衝撃性が不十分であった。
【0006】
また、特許文献2には、スピネル原料とマグネシア原料との和を100質量部とした場合、スピネル原料の含有量が50質量%以上かつ95質量%以下であり、マグネシア原料の含有量が5質量%以上かつ50質量%以下であるスピネル-マグネシア-カーボン質煉瓦が開示されている。これは、熱伝導の抑制と耐熱スポーリング性(耐熱衝撃性)の向上とを両立させようとしたもので、例えば、転炉等の炉底に設置された羽口周辺の煉瓦として適用することで、製鋼用容器からの放熱を抑制することができるとともに、耐用性を向上させることができるとされている。
しかしながら、RH真空脱ガス装置の環流部は転炉と比べて待機時間が長く、この待機中にRH浸漬管から環流管の内孔に外気が侵入するためれんがが冷却される。このときRH浸漬管は外面及び内面が、環流管は内面が直接外気と接触するために、転炉の羽口周辺や羽口と比較すると熱衝撃は非常に大きい。そのため、特許文献2のスピネル-マグネシア-カーボン質煉瓦にあっても耐熱衝撃性は十分でなく、耐熱衝撃性の改善が必要であった。
【0007】
さらに、特許文献3には、8~1mm超のスピネル粒子の配合量が20~70質量%、1~0.3mmのスピネル粒子の配合量が30~50質量%、0.3mm未満のスピネル粒子の配合量が30質量%以下の範囲内にあり、その合計量が75~99.5質量%及びカーボン0.5~25質量%を含有するスピネル-カーボン質煉瓦からなることを特徴とする、減圧を伴う二次精錬設備用内張り耐火物が開示されている。
しかしながら、この特許文献3の耐火物は、スピネルを少なくとも75質量%含有しマグネシアを含有しないため、一般的な真空脱ガス装置においてはスラグによる耐食性に問題があり、従来のマグネシアカーボンれんがと比較して大幅に耐食性が低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平9-309762号公報
【文献】特開2017-7901号公報
【文献】特許第5967160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、耐食性を低下することなく耐熱衝撃性に優れた真空脱ガス装置用れんが及びこれを使用したRH浸漬管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、真空脱ガス装置用れんがにおいて、耐火原料配合物に使用するスピネルとしては粒度1mm以上5mm未満を主体に使用し、マグネシアとしては粒度1mm未満を主体として使用することで、真空脱ガス装置用れんがの耐熱衝撃性を大幅に向上できることを知見した。
【0011】
すなわち、本発明によれば、次の1~6に記載の真空脱ガス装置用れんが及びこれを使用したRH浸漬管が提供される。
1.
耐火原料配合物に有機バインダーを添加して混練し成形後、熱処理して得られる真空脱ガス装置用れんがであって、
耐火原料配合物は、黒鉛を5質量%以上15質量%以下、粒度1mm以上5mm未満のスピネルを40質量%以上70質量%以下、粒度1mm未満のマグネシアを20質量%以上50質量%以下含有し、
かつ、耐火原料配合物100質量%中に占める割合で、粒度1mm未満のスピネルの含有率が10質量%以下(0を含む)、粒度1mm以上5mm未満のマグネシアの含有率が5質量%以下(0を含む)である、真空脱ガス装置用れんが。
2.
耐火原料配合物は、アルミニウム、アルミニウム合金及びシリコンのうち1種以上を0.3質量%以上2.5質量%以下含有する、前記1に記載の真空脱ガス装置用れんが。
3.
耐火原料配合物は、黒鉛として膨張黒鉛を5質量%以上15質量%以下含有する、前記1又は前記2に記載の真空脱ガス装置用れんが。
4.
耐火原料配合物100質量%中に占める割合で、粒度0.075mm以上1mm未満のマグネシアの含有率が20質量%以上40質量%以下、粒度0.075mm未満のマグネシアの含有率が1質量%以上15質量%以下である、前記3に記載の真空脱ガス装置用れんが。
5.
真空脱ガス装置の環流部用である、前記1から前記4のいずれか一項に記載の真空脱ガス装置用れんが。
6.
前記1から前記4のいずれか一項に記載の真空脱ガス装置用れんがを使用した、RH浸漬管。
【0012】
なお、本発明でいう粒度とは、耐火原料粒子を篩いで篩って分離したときの篩い目の大きさのことであり、例えば粒度1mm以上のスピネルとは、篩い目が1mmの篩い目を通過しないスピネルのことで、粒度5mm未満のスピネルとは、篩い目が5mmの篩いを通過するスピネルのことである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、真空脱ガス装置(特に環流部)の耐食性を低下することなく耐熱衝撃性を向上することができるため、真空脱ガス装置の寿命を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】真空脱ガス装置の一例であるRH真空脱ガス装置の真空槽の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の真空脱ガス装置用れんがでは、その耐火原料配合物として、黒鉛、スピネル及びマグネシアを使用する。
【0016】
このうちマグネシアは、耐食性を確保するために使用するが、粒度1mm以上5mm未満のマグネシアを使用した場合、粒度1mm未満のマグネシアと比べて耐熱衝撃性に劣る傾向となる。粒度1mm以上5mm未満のマグネシアではマグネシア粒子個体の膨張量が大きくなり、周囲に生成した空隙を経由して亀裂が進展しやすくなることが影響していると考えられる。このため粒度1mm以上5mm未満のマグネシアは使用しない方がよいが、5質量%以下であればその影響は小さいため許容できる。
【0017】
一方、粒度1mm未満のマグネシアは粒子個体の膨張量が小さいため、その膨張が黒鉛を含む周囲のマトリックス中の空隙で比較的吸収されることで膨張による空隙の生成を最小限に留めることができ、耐熱衝撃性の低下を抑制することができる。粒度1mm未満のマグネシアの含有率が20質量%未満では耐食性が不十分となり、粒度1mm未満のマグネシアの含有率が50質量%を超えると耐熱衝撃性が低下する。
【0018】
ここで、後述するが黒鉛として膨張黒鉛を使用する場合、耐火原料配合物を有機バインダーとともに混練して得られる坏土のかさが増加するため、成形時のスプリングバックを伴うことで充填性が悪化する場合がある。充填性が悪化すると、れんがの見掛気孔率が高くなり耐食性に悪影響を及ぼすことになる。
これに対して本発明者らは、本発明の耐火原料配合物においてマグネシアの微粉域(粒度1mm未満)の粒度構成を調整することで粒子相互の摩擦により、スプリングバックを抑制できることを知見した。具体的には、粒度0.075mm以上1mm未満のマグネシアの含有率を20質量%以上40質量%以下、粒度0.075mm未満のマグネシアの含有率を1質量%以上15質量%以下とすることで、スプリングバックを抑制でき充填性を確保できる。
【0019】
本発明においてスピネルを使用するのは、熱膨張係数がマグネシアと比較し極めて小さく、黒鉛と組み合わせることによりれんがとしての熱膨張が小さくなるため、特に真空脱ガス装置の環流部に内張りした場合、急熱急冷に伴うれんがの容積安定性に優れるため亀裂が生じにくくなり、剥離による損耗が抑制されるためである。
【0020】
スピネルとしては、耐熱衝撃性を向上するためには粒度1mm以上5mm未満を主体に使用した方がより効果があり、その使用量(含有率)は40質量%以上70質量%以下とする。粒度1mm以上5mm未満のスピネルの含有率が40質量%未満では膨張係数が小さい利点が得られにくく、70質量%を超えると相対的に黒鉛あるいはマグネシアが不足して黒鉛による耐熱衝撃性あるいはマグネシアによる耐食性が得られにくくなる。
一方、粒度1mm未満のスピネルは耐食性を低下する要因になるため使用しない方がよいが、10質量%以下であればその影響は小さいため許容できる。
【0021】
なお、本発明の耐火原料配合物においてスピネルとマグネシアの合量は、耐摩耗性及び耐熱衝撃性の面から80質量%以上とすることができる。
【0022】
スピネル及びマグネシアとしては、耐火物の原料として一般に市販されている電融品や焼結品を使用できる。また、スピネルはコモンスピネル(Al2O3:71.7質量%、MgO:28.3質量%)を使用できるほか、Al2O3が多いアルミナリッチスピネル、MgOが多いマグネシアリッチスピネルも使用できる。
【0023】
本発明の耐火原料配合物において黒鉛の含有率は、5質量%以上15質量%以下とする。黒鉛の含有率が5質量%未満では耐熱衝撃性が得られにくく、15質量%を超えると酸化により組織が劣化し損耗しやすくなるためである。ただし、耐摩耗性を向上する場合あるいはカーボンピックアップを抑制する場合には、黒鉛の含有率は7質量%以上13質量%以下とすることもできる。
【0024】
黒鉛としては、鱗状黒鉛、膨張黒鉛、電極粉などを使用することができ、粒度は0.1mm未満のものを好適に使用することができる。
ここで、膨張黒鉛とは、鱗状黒鉛をその組織間に硫酸などを含ませた状態で急激に加熱し、数十倍あるいは百倍以上に膨張させたものであるが、本発明ではこの膨張黒鉛を解砕し、薄肉状としたものを使用する。膨張黒鉛は、同じ黒鉛含有量でも粒子数が増えることで耐火物組織内に均一に分布するため、カーボンピックアップの原因となる炭素成分を増やすことなく耐熱衝撃性を向上することができる。また、同時に耐摩耗性や耐食性も向上することができる。
【0025】
このように黒鉛のうち膨張黒鉛は主に耐熱衝撃性を向上するために使用するが、特に低いカーボン量の場合に有効である。中でもRH浸漬管は温度差が大きく熱衝撃による損傷が大きいため、膨張黒鉛の使用は効果的である。また、RH浸漬管の内孔は溶鋼摩耗による損耗も激しいためカーボン量を抑制することで、耐摩耗性の向上効果及びカーボンピックアップを抑制する効果も得られる。
【0026】
膨張黒鉛は単独使用あるいは他の黒鉛と併用使用してもよいが、上述の膨張黒鉛の効果を得るには耐火原料配合物100質量%に占める割合で5質量%以上含有することが好ましい。一方、膨張黒鉛の含有率が15質量%を超えると成形時の充填性が悪くなり耐食性が低下する。このため膨張黒鉛を使用する場合、その含有率は5質量%以上15質量%以下とすることが好ましい。さらに、耐摩耗性を向上する場合あるいはカーボンピックアップを抑制する場合には、膨張黒鉛の含有率は7質量%以上13質量%以下とすることもできる。また、より耐摩耗性の向上とカーボンピックアップの抑制を図りたい場合には、膨張黒鉛以外の黒鉛を使用しないことが好ましいが、3質量%までは許容できる。
なお、膨張黒鉛は黒鉛の一種であるから、膨張黒鉛と他の黒鉛との合量、すなわち黒鉛の含有率は上述のとおり5質量%以上15質量%以下とし、7質量%以上13質量%以下とすることもできる。
【0027】
本発明の耐火原料配合物には、アルミニウム、アルミニウム合金、及びシリコンのうち1種以上の金属を、れんがの強度向上及び酸化防止を目的として使用することができる。酸化防止材としての機能を十分な発揮するためには、これら金属の含有率(合量)は0.3質量%以上とすることができる。一方、これら金属の含有率(合量)が多くなると、れんかの使用中に金属が酸化物、炭化物あるいは窒化物になることで組織が緻密化しすぎて高弾性化し耐熱衝撃性が低下するため、よりれんがを低弾性率にしたい場合には金属の含有率(合量)は2.5質量%以下とすることができる。
アルミニウム、アルミニウム合金、及びシリコンとしては、粒度0.1mm未満の微粉を使用することができる。
【0028】
また、本発明の耐火原料配合物においては、上記の耐火原料以外に、アルミナ、ピッチ、カーボンブラック、炭化硼素、及び炭化珪素を適宜添加(含有)してスピネルマグネシアカーボンれんがの耐酸化性、残存膨張性、耐熱衝撃性を改善するという公知技術を採用することも可能である。この際、それぞれの添加量(含有率)も公知技術を参考にし、合量で15質量%までは添加(含有)しても悪影響は無視でき、本発明の範囲内とする。
【0029】
アルミナは、れんがの使用中にマグネシアと反応してスピネルを生成するが、このときの残存膨張によって目地の損耗を防止するために1質量%以上10質量%以下の範囲で含有することができる。アルミナの粒度は1mm未満とすることができる。
ピッチ、カーボンブラックはカーボンボンドの強化のために合量で3質量%以下の範囲で含有することができる。ピッチ及びカーボンブラックとしては、粒度0.2mm未満の粉末状のものを使用することができる。
炭化硼素及び炭化珪素は酸化防止材として、合量で5質量%以下の範囲で使用することができる。
【0030】
本発明の真空脱ガス装置用れんがは、いわゆるスピネルマグネシアカーボンれんがであり、一般的なカーボン含有れんがの製造方法によって製造することができる。すなわち、本発明の真空脱ガス装置用れんがは、耐火原料配合物に有機バインダーを添加して混練し成形後、熱処理することで得ることができる。熱処理温度は200℃以上800℃以下とすることができ、熱処理時間は2時間以上24時間以下とすることができる。有機バインダーとしては、例えばフラン樹脂やフェノール樹脂等が使用可能である。また、有機バインダーは、粉末又は適当な溶剤に溶かした液状、さらに液状と粉末の併用のいずれも形態でも使用可能である。混練、成形及び熱処理の方法及び条件も、一般的なカーボン含有れんがの製造方法に準じる。
【0031】
本発明の真空脱ガス装置用れんがは、真空脱ガス装置(特に環流部)の内張り材として使用することで、その耐食性を低下することなく耐熱衝撃性を向上することができるため、真空脱ガス装置の寿命を向上することができる。また、本発明の真空脱ガス装置用れんがを使用したRH浸漬管は、耐食性を低下することなく耐熱衝撃性を向上することができる。
特に、本発明の真空脱ガス装置用れんがをRH浸漬管の内孔の内張り材として使用することで、上述したアルゴン配管の閉塞を防止する効果が得られる。すなわち、従来のマグネシアカーボンれんがでは使用を重ねると内孔に配置されたれんがに稼働面と平行な亀裂が発生し、この亀裂に溶鋼が侵入してアルゴン配管を溶融して閉塞させるため、アルゴンの吹込み量が不足して溶鋼が上昇できなくなる問題があったが、本発明の真空脱ガス装置用れんがを使用したRH浸漬管では、稼働面と平行な亀裂が発生せず、アルゴン配管の閉塞を防止する効果が得られる。
【実施例】
【0032】
表1から表3に耐火原料配合物を使用してれんがを製造した実施例、比較例をそれぞれ示す。
れんがは、耐火原料配合物に有機バインダーとしてフェノール樹脂を適量添加して混練しフリクションプレスで成形後、250℃で5時間熱処理することで得た。
得られたれんがについて耐食性と耐熱衝撃性を評価し、これらの評価結果に基づき総合評価をした。また、得られたれんがについて見掛気孔率を測定した。
表1から表3には、それぞれのれんがに使用した耐火原料配合物の原料配合割合(含有率)と、その耐火原料配合物から得られたれんがの評価結果を示している。
【0033】
耐食性の評価では、質量比で鋼片:転炉スラグを1:1で組み合わせたものを誘導炉にて1650℃に溶解し、この溶解物に試験片を3時間浸漬し、試験片の溶損寸法を測定した。評価結果は、比較例1の溶損寸法を100とした溶損指数で示した。この溶損指数が小さいほど溶損が少なく耐食性に優れているということである。
【0034】
耐熱衝撃性の評価では、1600℃の溶銑中に試験片を浸漬し空冷する操作を3回繰り返し、試験前後の試験片の弾性率を共振法にて測定して弾性率の維持率を求めた。評価結果は、比較例1の弾性率の維持率を100とした耐熱衝撃性指数で示した、この耐熱衝撃性指数が大きいほど耐熱衝撃性に優れているということである。
【0035】
総合評価は、◎:非常に優れている、○:優れている、×:劣っているの3段階で評価した。具体的には、溶損指数が90未満かつ耐熱衝撃性指数が90以上のものを◎、溶損指数が90以上100未満かつ耐熱衝撃性指数が80以上のもの、又は溶損指数が100未満かつ耐熱衝撃性指数が80以上90未満のものを○、溶損指数が100以上又は耐熱衝撃性指数が80未満のものを×とし、◎~○を合格とした。
【0036】
見掛気孔率は、溶媒を白灯油としJIS R 2205に準拠して測定した。
なお、見掛気孔率は、れんがの基本的物性の一つであり、れんがの耐食性や耐熱衝撃性に影響を及ぼすことは当業者によく知られており、当業者への参考情報として測定した。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
実施例1から実施例3は、粒度1mm未満のマグネシアの含有率及び粒度1mm以上5mm未満のスピネルの含有率が本発明の範囲内で異なる場合であるが、いずれも総合評価は◎であり、耐食性及び耐熱衝撃性に非常に優れていることがわかる。
これに対して、比較例1は粒度1mm未満のマグネシアの含有率が14質量%と本発明の下限値を下回っており、耐食性が低下している。一方、比較例2は粒度1mm未満のマグネシアの含有率が54質量%と本発明の上限値を上回っており、耐熱衝撃性が低下している。
また、比較例3は粒度1mm以上5mm未満のスピネルの含有率が74質量%と本発明の上限値を上回っており、耐食性が低下している。一方、比較例4は粒度1mm以上5mm未満のスピネルの含有率が35質量%と本発明の下限値を下回っており、耐熱衝撃性が低下している。
【0041】
実施例4は粒度1mm以上5mm未満のマグネシアの含有率が5質量%と本発明の許容範囲であり、実施例2と比較すると耐熱衝撃性にやや劣るものの、十分な実用レベルにある。一方、比較例5は粒度1mm以上5mm未満のマグネシアの含有率が10質量%と本発明の上限値を超えており、耐熱衝撃性が低下している。
【0042】
実施例5は粒度1mm未満のスピネルの含有率が10質量%と本発明の許容範囲にあり、実施例1と比較すると耐食性にやや劣るものの、十分な実用レベルにある。一方、比較例6は粒度1mm未満のスピネルの含有率が15質量%と本発明の上限値を超えており、耐食性が低下している。
【0043】
実施例6から実施例9は、膨張黒鉛の含有率が本発明の範囲内で異なる場合であり、いずれも耐食性及び耐熱衝撃性は実用レベルにある。ただし、実施例9は膨張黒鉛の含有率が15質量%であり、耐食性にやや劣っている。
これに対して、比較例8は膨張黒鉛の含有率が3質量%と本発明の下限値を下回っており、耐熱衝撃性が低下している。一方、比較例9は膨張黒鉛の含有率が17質量%と本発明の上限値を上回っており、耐食性が低下している。
【0044】
実施例10及び実施例11は、黒鉛として鱗状黒鉛のみを使用した場合であり、膨張黒鉛を使用した実施例7及び実施例8と比較すると耐熱衝撃性にやや劣るものの、十分な実用レベルにある。
【0045】
実施例12から実施例14は膨張黒鉛と鱗状黒鉛とを併用した場合であるが、中でも実施例13及び実施例14は総合評価が◎であり、耐食性及び耐熱衝撃性に非常に優れていることがわかる。
【0046】
実施例15から実施例19は金属の含有率が異なる場合であり、いずれも耐食性及び耐熱衝撃性は実用レベルにある。ただし、実施例19は金属の含有率が3質量%であり、耐熱衝撃性がかなり低下していることがわかる。
【0047】
実施例20から実施例23も本発明の範囲内であり、耐食性及び耐熱衝撃性は実用レベルにある。ただし、実施例20から実施例23はマグネシアの微粉域(粒度1mm未満)の粒度構成が上述した好ましい範囲から外れており、総合評価は○に留まっている。
【0048】
実施例24は、スピネルマグネシアカーボンれんがの特性を改善するための公知技術である少量の添加材を添加したものであり、残存膨張性のためにアルミナを、耐熱衝撃性改善のためにカーボンブラック及び粉末ピッチを、酸化防止として炭化硼素及び炭化珪素をそれぞれ添加したものであるが、耐食性及び耐熱衝撃性に悪影響を与えないことがわかる。
【0049】
次に、実施例2のれんが及び比較例7のれんがを、RH浸漬管の内孔面(芯金の内面)に内張りして、実際のRH真空脱ガス装置で使用した結果を説明する。
比較例7のれんがを内張りしたRH浸漬管は使用中にれんがの稼動面と平行な亀裂が発生し、この亀裂に溶鋼が侵入してアルゴン配管を詰まらせてアルゴンガス流量が低下したため途中で使用を中止した。一方、実施例2のれんがを内張りしたRH浸漬管は、その内孔面のれんがに稼動面と平行な亀裂は発生せず、しかもアルゴンガス流量の低下も見られず、比較例7のれんがを内張りしたRH浸漬管の1.4倍の寿命となった。
【0050】
さらに、実施例8のれんが及び比較例7のれんがを、RH真空脱ガス装置の槽底、及び環流管にそれぞれ内張りして使用し、使用後の損耗が最も大きな部位のれんがの損耗速度(mm/ch)を比較したところ、槽底においては実施例8のれんがの方が比較例7よりも損耗速度が21%小さく、環流管においては損耗速度が34%も小さいことがわかった。