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特許7242457印刷機の少なくとも1つの回転可能な部品の表面から印刷流体を除去する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】印刷機の少なくとも1つの回転可能な部品の表面から印刷流体を除去する方法
(51)【国際特許分類】
   B41F 35/00 20060101AFI20230313BHJP
   B41J 2/17 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
B41F35/00 A
B41J2/17
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019128979
(22)【出願日】2019-07-11
(65)【公開番号】P2020011507
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】10 2018 211 601.6
(32)【優先日】2018-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521225708
【氏名又は名称】ハイデルベルガー ドルックマシーネン インテレクチュアル プロパティー アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Heidelberger Druckmaschinen Intellectual Property AG & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Gutenbergring 19, 69168 Wiesloch, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ベヒベルガー
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-226051(JP,A)
【文献】特開2005-297404(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0117977(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 35/00
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷機の少なくとも1つの回転可能な部品の表面から、印刷流体を除去する方法であって、
複数の所定のクリーニング過程のうちの1つが自動的に選択され、実行され、
前記選択は、計算機(10)上で実行される所定の数学的モデル(15)に基づいて行われ、
前記数学的モデル(15)の実行時に、表面(8)上に存在している前記印刷流体(6a,6b)の量に対応する値が計算され、
前記数学的モデル(15)は、前記値の計算時に、少なくとも2つの回転可能な部品(7)の間の前記印刷流体(6a,6b)に対する所定の転移率(A)を考慮し、
前記数学的モデル(15)は、前記値の計算時に、被印刷材料(5)の反転(31)を考慮し、
前記数学的モデル(15)は、前記値の計算時に、被印刷材料(5)と少なくとも1つの回転可能な部品(7)との間の前記印刷流体(6a,6b)に対する所定の転移率(A)を考慮する、
方法。
【請求項2】
前記値は、前記印刷流体(6a,6b)の層厚である、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記印刷流体(6a,6b)は、少なくとも1種類の印刷インキ(6a)または少なくとも1種類の湿し水(6b)である、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記数学的モデル(15)は、前記値の計算時に、前記印刷機(1)の1つの印刷機構(2)の複数の回転可能な部品(7)のうちのそれぞれ2つの部品(7)の間の前記印刷流体(6a,6b)に対する所定の転移率(A)を考慮する、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記数学的モデル(15)は、前記値の計算時に、前記印刷機(1)の複数の印刷機構(2)の複数の回転可能な部品(7)のうちのそれぞれ2つの部品(7)の間の前記印刷流体(6a,6b)に対する所定の転移率(A)を考慮する、
請求項からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記複数の所定のクリーニング過程は、異なる洗浄剤(14)の使用によって相違している、
請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記複数の所定のクリーニング過程は、持続時間によって相違している、
請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機の少なくとも1つの回転可能な部品、例えば胴またはローラの表面から印刷流体、例えば印刷インキまたは湿し水を除去する方法に関し、この方法は、請求項1の特徴部分に記載されている構成を有している。
【0002】
本発明は、グラフィック産業の技術領域、特にインキ装置および/または給水装置の胴またはローラの自動クリーニングの領域に関する。
【背景技術】
【0003】
印刷機、例えばオフセット印刷機においては、印刷インキ、ニスおよび/または湿し水等の印刷流体が処理され、被印刷材料、例えば枚葉紙上に移される。ここでは所定の時点で、印刷機の胴およびローラから印刷流体を除去することが必要になる。例えば、後続の印刷タスクが別の印刷インキを前提条件とする場合には、タスク変更時に除去が必要となり得る。
【0004】
独国特許出願公開第19705632号明細書(DE19705632A1)は、オフセット印刷機の印刷機構の少なくとも1つの部分を自動制御洗浄する方法を開示している。ここでは例えば、個々のインキ調量装置の状態に相応する信号、リフトローラの信号またはインキ出しローラの回転速度を含んでいる信号が処理され、既知の数学的な関係に従って、消費された印刷インキの量もしくは範囲が計算される。このような範囲から、頻度および/または洗浄過程の様式の事前に格納されている関数に従って、経験から、またはモデル計算によって形成され得るインキ消費に関連して、信号が形成される。この信号は、洗浄装置の制御部に格納される。ここではインキ消費が考慮されるので、印刷動作時の印刷機構の状態しか伝えられない。したがって、印刷機構の別の動作様式および状態は伝えられない。
【0005】
さらに実際には、印刷機構における現下の条件下で最適な洗浄結果をもたらさない場合に、機械の操作者がしばしば、自動的に開始された洗浄プログラムを手動で中断しなければならないことが明らかである。このような場合に操作者は、自身の観察もしくは経験から、より良好な洗浄プログラムを開始しなければならない。したがって、経験の無い操作者を投入することはできず、さらに、操作者によるこのような中断は時間を費やし、これによって製造コストが高くなってしまうのは欠点である。さらに、操作者が、洗浄プログラムの選択を誤ることもあり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、従来技術と比べて改良されたクリーニング方法を実現することである。この方法は特に、印刷機もしくは印刷機の印刷機構の全ての動作様式、特に動作様式:印刷動作、印刷休止、機械の始動、印刷を伴わないシート搬送、準備過程等において、自動化された最適なクリーニング結果を実現することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題は、本発明に相応に、請求項1の特徴部分に記載されている構成を有する方法によって解決される。本発明の有利な発展形態は、従属請求項ならびに明細書および図面から明らかになる。本発明の特徴、本発明の発展形態の特徴および本発明の実施例の特徴は、相互に組み合わせても、本発明の有利な発展形態となる。
【0008】
本発明は、印刷機の少なくとも1つの回転可能な部品、例えば胴またはローラの表面から、印刷流体、例えば印刷インキ、ニスまたは湿し水および/または汚れ、例えば紙粉を除去する方法に関し、ここでは複数の所定のクリーニング過程のうちの1つが自動的に選択され、実行される。この選択は、所定の、計算機上で実行される数学的モデルに基づいて行われ、このモデルの実行時に、表面上に存在している印刷流体の量に対応する値が計算される。
【0009】
本発明は、特に、印刷機もしくは印刷機の印刷機構の全ての動作様式において最適なクリーニング結果をもたらす、改良されたクリーニング方法を実現する。
【0010】
本発明の別の利点は、モデルに基づいた計算時に、インキ消費に基づいた計算が行われるのではなく、表面上に存在している印刷流体の量に対応する値が計算されるということである。さらに、回転可能な部品上の印刷流体の作用持続時間に対応する値も計算される。これは例えば、回転可能な部品の回転数および/または装置の回転数である。
【0011】
本発明の別の利点は、洗浄剤、洗浄布および/または水の節約、特に準備プロセスでの時間の短縮である。さらに、本発明によって、誤った洗浄剤の投入およびこれに関連する問題を回避することができるという利点が得られる。
【0012】
本発明の発展形態
本発明の有利な発展形態は、以下に挙げる特徴の1つまたは複数を有している。
・クリーニングは有利には、洗浄もしくは洗浄過程として行われ、特に有利には水および/または洗浄剤、さらに場合によっては洗浄布が使用される。
・クリーニング過程の実行時には、それぞれ有利にはクリーニング剤が塗布され、流体および/または汚れとともに除去される。
・所定のクリーニング過程は、有利には計算機上に格納されており、有利には計算機によって駆動制御可能なクリーニング装置によって実行される。
・所定のクリーニング過程は、有利にはそれぞれ、個々の持続時間を伴う、順次連続するクリーニングステップの個々のシーケンスを有しており、これは例えば、洗浄、すすぎおよび/または乾燥である。このようなシーケンスの複数回、場合によっては変化する周期を設定することも可能である。
・自動化された選択が、有利には計算機によって行われる。
・数学的モデルは有利には、既知の、一般的なモデルに基づいていてよい。このモデルは特に、印刷機および/または印刷機の1つ/複数の印刷機構の具体的な構造に合わせられている。これは、印刷機の計算技術によるシミュレーションであってよく、ここでは少なくとも、機械の関連性のある部品、すなわち流体を担い、移す部品ならびに被印刷材料がシミュレートされる。ここでこのシミュレーションは、有利には、流体および/または汚れの転移を再現することができる。
・計算された値は有利には、複数の所定のクリーニング過程のうちの1つを選択するために使用される。有利にはこのような値が複数個計算され、まとめて使用される。例えば、計算機にテーブルが格納されていてよく、このテーブルは計算された1つもしくは複数の値(または各値の範囲)と、所定のクリーニング過程との間の割り当てを表している。
・計算される値は有利には、クリーニングされるべき、回転可能な部品の表面上に存在する、印刷流体の量であってよく、これは例えば印刷流体の層厚である。
・モデルの実行は有利には、印刷機の動作に時間的に並行して、例えば印刷タスクの実行に並行して行われる。
・この方法は有利には、クリーニングの開始時間および/またはクリーニングの持続時間を選択することができる。
・この方法は、印刷流体が被印刷材料を介して、ある印刷機構から次に配置されている印刷機構に達する、ということを考慮することができる。
・この方法は、印刷機の制御方法の一部であってよい。
【0013】
本発明の有利な発展形態は、この値が、印刷流体の層厚であるという特徴を有し得る。
【0014】
本発明の有利な発展形態は、印刷流体が少なくとも1種類の印刷インキ、例えば紫外線硬化型の印刷インキまたは非紫外線硬化型の印刷インキ、または別の従来の印刷インキまたは少なくとも1種類の湿し水であるという特徴を有し得る。
【0015】
本発明の有利な発展形態は、数学的モデルが、値の計算時に、少なくとも2つの回転可能な部品間の印刷流体に対する所定の転移率を考慮するという特徴を有し得る。
【0016】
本発明の有利な発展形態は、数学的モデルが、値の計算時に、印刷機の1つの印刷機構の複数の回転可能な部品のうちのそれぞれ2つの部品間の印刷流体に対する所定の転移率を考慮するという特徴を有し得る。
【0017】
本発明の有利な発展形態は、数学的モデルが、値の計算時に、被印刷材料と少なくとも1つの回転可能な部品との間の印刷流体に対する所定の転移率を考慮するという特徴を有し得る。
【0018】
本発明の有利な発展形態は、数学的モデルが、値の計算時に、印刷機の複数の印刷機構の複数の回転可能な部品のうちのそれぞれ2つの部品間の印刷流体に対する所定の転移率を考慮するという特徴を有し得る。
【0019】
本発明の有利な発展形態は、数学的モデルが、値の計算時に、被印刷材料の反転を考慮するという特徴を有し得る。
【0020】
本発明の有利な発展形態は、複数の所定のクリーニング過程が、異なる洗浄剤の使用によって相違しているという特徴を有し得る。
【0021】
本発明の有利な発展形態は、複数の所定のクリーニング過程が持続時間によって相違しているという特徴を有し得る。
【0022】
本発明および本発明の有利な発展形態を以降で、図面、すなわち図1図3を参照して、種々の有利な実施例に基づいて、より詳細に説明する。ここでは相応する特徴には、同じ参照符号が付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の方法の有利な実施例
図2】本発明の方法の別の有利な実施例
図3】本発明の方法の別の有利な実施例
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、印刷機1、特にオフセット印刷機の印刷機構2の概略図を示している。これはローラインキ装置3および給水装置4を有している。印刷機は、例えば紙、厚紙、ボール紙またはプラスチックフィルムから成るシート5に、少なくとも1種類の印刷インキ6aで印刷を施す。示された印刷機によって、本発明の方法の有利な実施形態が実行可能である。
【0025】
印刷機1は、複数の、回転可能な部品7、例えば胴および/またはローラおよび別の部品、すなわちインキ壺18、インキ出しローラ19、第1のインキローラ群20、第2のインキローラ群21、水壺22、水元ローラ23(浸漬ローラおよび/または調量ローラ)、水着けローラ24、版胴25、ブランケット胴26および圧胴27を含んでいる。
【0026】
本発明の方法は、少なくとも1つのこのような回転可能な部品7の表面8のクリーニングに用いられる。表面はここで、胴の表面またはローラの表面であってよい。択一的にこれが、回転可能な部品の巻きつけ部分の表面であってよく、例えばブランケット表面であってよい。
【0027】
胴および/またはローラを、ここで、群7aおよび群7bにまとめることもでき、例えば第1のインキローラ群7aおよび/または第2のインキローラ群7bにまとめることもできる。これらはそれぞれ、複数のインキローラを含み得る。グループ化は有効であり、モデルの計算を容易にする。なぜなら各群の個々のローラは、常に互いに接して並んでいるからである。
【0028】
クリーニング時には、印刷流体、例えば印刷インキ6aまたは湿し水6bが、表面8から除去される。これは有利には、洗浄によって、特に有利には液体の洗浄剤を用いた洗浄によって行われる。クリーニング時には、さらに、汚れ6c、特に紙粉も、表面から除去される。
【0029】
印刷機1は、計算機10、例えば制御計算機を含んでいる。計算機は、少なくとも1つのクリーニング装置11に接続されており、クリーニング装置の動作、すなわち、例えばクリーニング装置のオンオフ、実行されるクリーニングの強さ、クリーニングの持続時間、洗浄剤の噴霧過程の数等を制御する。
【0030】
クリーニング装置11は、複数の噴霧管12を含んでいてよい。各噴霧管は、洗浄剤容器13に接続されていてよい。異なる洗浄剤容器内には、異なる洗浄剤14が入れられていてよく、これは例えば従来のオフセットインキまたは紫外線硬化型のインキのための洗浄剤である。クリーニング装置はさらに、洗浄布および/または回転可能なクリーニングブラシおよび/またはドクターブレードを含んでいてよい。印刷機1もしくは印刷機の印刷機構2内に、複数のクリーニング装置11が設けられていてもよい。
【0031】
計算機10上には、ダイナミックな数学的モデル(またはシミュレーションモデル)がデジタルで、例えばコンピュータープログラムとして格納されており、実行可能である。このモデルは、有利には、印刷機1および/または1つまたは複数の印刷機構2における1種類または複数種類の流体の転移を再現している。
【0032】
図1では、2つの回転可能な部品、例えば胴、ローラの間または被印刷材料と回転可能な部品との間の流体、例えば印刷インキ、ニスまたは湿し水またはこれらの流体の混合物の各転移16が、矢印16として示されている。これらは、単純なアローヘッドの矢印(印刷インキおよび/またはニスの転移)、アローヘッドが黒色で塗り潰されている矢印(湿し水の転移)およびアローヘッドが白抜きされている矢印(汚れ/紙粉の転移)である。
【0033】
転移16は、それぞれ2つの回転可能な部品7の間で、2つの部品の間の各コンタクトストリップ17において行われる。コンタクトストリップは有利には接続可能であり、すなわち、2つの部品のうちの少なくとも1つを、別の部品に接して置くことも、離して置くことも可能である。各転移16は、コンタクトストリップにおいて、2つの可能な転移方向のうちの1つの転移方向において行われるか(部品aから部品bまたは部品bから部品a)、または2つの転移方向において行われる(部品aから部品bおよび部品bから部品a)。例えば、ブランケット胴26と被印刷材料5との間のコンタクトストリップでは、矢印の配置およびその方向によって識別可能であるように、印刷インキおよび汚れが、被印刷材料から胴に移され、かつ印刷インキおよび湿し水が胴から被印刷材料に移される。相応のことが全ての他の矢印に対して当てはまる。
【0034】
数学的モデル15は、有利には、流体転移の物理的な過程を、例えば流体の分割によって、所定の式に基づいて再現する。ここでは例えば、流体層がコンタクトストリップ17において半分に分割されることが想定可能である(流体の50%は部品a上に留まり、50%は部品bに移る)。
【0035】
数学的モデル15は、(有利には計算機10内に格納されている)転移率Aを用いる。このような転移率Aはそれぞれ、第1の回転可能な部品および第2の回転可能な部品、または、回転可能な部品および被印刷材料、ならびに、被印刷材料の各表面特性(受容特性および放出特性)に関連している。このような転移率は、各コンタクトストリップ17に対して有利には、各パーセント値として、計算機もしくはモデル内に格納されていてよい。2つの回転可能な部品7の間の流体(および汚れ)の転移は、次に、モデル内で、次のように計算可能である。転移=A(第1の回転可能な部品上の層厚-第2の回転可能な部品上の層厚)。相応のことが、被印刷材料と回転可能な部品との間の転移に当てはまる。ここで第1の回転可能な部品が流体の転移の出発点であり、第2の回転可能な部品が流体の転移の到着点である。計算を反復して行うことができ、この場合には変化する状態(流体層厚)が再現される。計算は、クリーニング過程も考慮することができ、これによって、クリーニングされた部品上(およびこの部品に接している別の可能な部品上)で局部的に流体層厚がゼロに低減することがある。
【0036】
幾つかの例が、このような転移を明確にする。
・第1のインキローラ群20から版胴25への印刷インキの転移、A=5%
・版胴25からブランケット胴26への印刷インキの転移、A=50%
・ブランケット胴26からシート5への印刷インキの転移、A=10%
・水着けローラ24から版胴25への湿し水の転移、A=50%、および
・シート5から圧胴27への汚れの転移、A=30%
【0037】
さらに、各回転可能な部品7に、1つまたは複数の最大値が割り当てられている(最大値として設定されており、計算機10内に格納されている)ということを数学的モデル15は考慮することができる。最大値は、どれ位多くの印刷インキ、湿し水および/または汚れが最大で、回転可能な部品7の表面8上に維持され得るのかを示している。
【0038】
これに対する幾つかの例を以下に挙げる。
・版胴25に値max_Farbe=5(インキに対する最大値)と値max_Feuchtmittel=5(湿し水に対する最大値)が割り当て可能である。
・第1のインキローラ群20に値max_Farbe=40が割り当て可能である。
・シート5に、値max_Farbe=1、値max_Feuchtmittel=1および値max_Schmutz=1(汚れ/紙粉に対する最大値)が割り当て可能である。
【0039】
数学的モデル15には、図1において示された各矢印16に対して、相応するA値が提供される。格納されているパーセント値は、事前に、測定によって特定されていてよい。
【0040】
数学的モデル15は、各回転可能な部品7に対して、どれ位多くの流体(印刷インキ、湿し水)および/または汚れが、特定の時点で、表面8上に存在するのかを計算することができる。このような計算は常に実行可能である、または常に更新可能である。このために、流体/汚れの転移が計算機支援されて計算される。すなわち、実際の転移のシミュレーションが計算機上で実行される。したがって、数学的モデルを、シミュレーションモデルとして解釈することもできる。
【0041】
本発明の方法によって、このようなモデルもしくはこのようなシミュレーションに基づいて、複数の所定のクリーニング過程のうちの1つを自動的に選択および実行することが可能になる。このために、上述したように、各クリーニング装置11は、複数の噴霧管12および複数の洗浄剤容器13を有している。例えば、第1のインキローラ群20が洗浄されるべき場合、数学的モデル15もしくは印刷機1および流体/汚れのその転移の相応するシミュレーションを用いて、計算機支援されて、どのような1種類/複数種類の流体が、どの位の量(例えば層厚)、クリーニングの開始時点で、群のローラの表面8上に存在しているのかが計算される。これに基づいて、例えば従来の印刷インキまたは紫外線硬化型の印刷インキに対して、適切な洗浄剤14が選択され、さらに洗浄剤量および洗浄持続時間および場合によってはクリーニングパラメータが選択される。
【0042】
数学的モデル15は、回転可能な部品7(と被印刷材料5)の間の接続状態の「歴史」を考慮することができ、これによって、現下の状態をほぼ完全に再現することができる。このために、数学的モデル15には、回転可能な部品7(と被印刷材料5)の間の接続過程に関する全ての情報が供給される。これは例えば、どの部品がいつ、どの位の長さ(何回転)、どの別の部品に接しているかに関する情報である。
【0043】
数学的モデル15は、このようにして、最適な、所定の洗浄プログラムを提案する。択一的に、このようにして、所定の洗浄プログラムが最適に整合される。
【0044】
クリーニング装置11は、例えば以下の部品に配置されていてよい。すなわち、第1のインキローラ群20、第2のインキローラ群21、ブランケット胴26および/または圧胴27に配置されていてよい。
【0045】
以下に、典型的な使用ケースを挙げる。
1.初期状態:インキ装置、給水装置、ブランケット胴、圧胴が洗浄されており、インキ壺は空である。
2.操作者がインキ壺にインキを充填する。
3.自動インキ流入が実行される。
4.現下の状態:インキ壺内にインキが入っている、インキ装置内にインキが入っている、版にインキが着けられている、ブランケットは汚れていない、印刷胴は汚れていない。
5.本刷りが開始される:シートが機械内に入れられる。
6.版胴とブランケット胴が互いに接して並べられる。
7.現下の状態:インキ壺内にインキが入っている、インキ装置内にインキが入っている、版にインキが着けられている、ブランケットにインキが着けられている、印刷胴は汚れていない。
8.最初のシートが印刷機構に達し、シートに印刷が施される。
9.現下の状態:インキ壺内にインキが入っている、インキ装置内にインキが入っている、版にインキが着けられている、ブランケットにインキが着けられている、印刷胴が汚れている。
【0046】
ダイナミックなモデルに対する入力量は、ここで、印刷機構部品の現下の接続状態である。このような使用ケースの各ステップは、モデルにおいてシミュレート可能である。
【0047】
図2は、アニロックスローラインキ装置3(アニロックスインキ装置)を伴う、印刷機1に対する本発明の別の有利な実施形態を示している。このインキ装置は(図1のインキ装置とは異なり)、ドクターブレードインキ壺28と、アニロックスローラ29と、インキ着けローラ30と、を含んでいる。このような実施形態の場合も、数学的モデル15は、所定の転移率Aに基づいて、特定の回転可能な部品7上の、例えばインキ着けローラ30上の流体量および/または汚れの量を、所定の時点で計算もしくはシミュレートし、このような部品をクリーニングするための最適な洗浄プログラムを自動的に選択し、実行することができる。
【0048】
択一的に、本発明はニス機構、インクジェット印刷機構およびその他のシートガイド装置においても使用可能である。
【0049】
図3は、複数の印刷機構2を有する印刷機1に対する本発明の別の実施形態を示している。表面5aおよび裏面5bを伴うシート5が例えば胴によって第1の印刷機構2に送られる。第1の印刷機構では表面にインキで印刷が施され、この表面は、これによって美印刷面5aになる。次にシートが第2の印刷機構2に送られ、同様に美印刷面5a上に、有利には別のインキで印刷が施される。最後に、シート5がさらに搬送され、有利には反転装置31によって反転される。第3の印刷機構では、裏面5bにインキで印刷が施され、これによってこの面は再印刷面5bになる。
【0050】
このような実施例は、数学的モデル15が、基材5上の流体および/または汚れが、ある印刷機構2から別の印刷機構2に達するということ、さらに、ここで「表」と「裏」が取り違えられることがある(反転が行われる場合)ということも考慮することを明らかにする。このようにして、第1の印刷機構2の第1のインキが、第2の印刷機構2に達し、そこで第2のインキと混ざることがある。ここでは例えば、紫外線硬化型のインキと従来のインキも混ざることがある。特にこのような場合には、本発明に相応に自動的に、洗浄剤の最適な選択を伴う最適なクリーニングプログラムが行われるのは有利である。
【0051】
本発明は、印刷を伴わないシート搬送時にも使用可能である。この際には、印刷機構2内で、ブランケット胴26が圧胴27に接している。しかし版胴25は、ブランケット胴26に接していない。シートが搬送されるが、印刷機構2によって印刷は施されない。したがって、ブランケット胴26もしくはブランケット胴の表面または巻きつけ部分には、搬送されたシートを介してのみ、前に配置されている印刷機構からの印刷流体6a、6bが塗布される。したがって、ブランケット胴上の印刷流体の層厚は、版胴が接している場合よりも薄く、自動的に、適切な、場合によっては時間的に短くされたクリーニングプログラムが選択され得る。適切なクリーニングプログラムは、さらに、前に配置された印刷機構からの印刷流体に合わせて調整されたクリーニング剤を選択することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 印刷機
2 1つ/複数の印刷機構
3 インキ装置
4 給水装置
5 被印刷材料から成るシート/被印刷材料
5a シートの表面/美印刷面
5b シートの裏面/再印刷面
6a 印刷インキ
6b 湿し水
6c 汚れ/紙粉
7 回転可能な部品/胴/ローラ
8 表面
10 計算機
11 クリーニング装置
12 噴霧管
13 洗浄剤容器
14 洗浄剤
15 数学的モデル
16 流体/汚れの転移
17 コンタクトストリップ
18 インキ壺
19 インキ出しローラ
20 第1のインキローラ群
21 第2のインキローラ群
22 水壺
23 水元ローラ
24 水着けローラ
25 版胴
26 ブランケット胴
27 圧胴
28 ドクターブレードインキ壺
29 アニロックスローラ
30 インキ着けローラ
31 反転装置
A 転移率
図1
図2
図3