(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】イオン注入装置およびイオン注入方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20230313BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20230313BHJP
C23C 14/48 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
H01J37/317 A
H01J37/317 C
H01J37/317 B
H01L21/265 603B
H01L21/265 T
H01L21/265 603Z
C23C14/48 B
(21)【出願番号】P 2019145266
(22)【出願日】2019-08-07
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】石橋 和久
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-069055(JP,A)
【文献】特開2012-204006(JP,A)
【文献】特開2018-041595(JP,A)
【文献】特表2004-531066(JP,A)
【文献】特開2008-004543(JP,A)
【文献】特表2004-530265(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102324383(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
H01L 21/265
C23C 14/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを生成するビーム生成装置と、
前記イオンビームを第1方向に往復スキャンさせるビームスキャナと、
前記往復スキャンされるイオンビームがウェハ処理面に照射されるようにウェハを保持しながら、前記第1方向と直交する第2方向に前記ウェハを往復スキャンさせるプラテン駆動装置と、
前記ウェハ処理面に所望の二次元不均一ドーズ量分布のイオンが注入されるように、前記ウェハ処理面内において前記イオンビームが照射される前記第1方向および前記第2方向のビーム照射位置に応じて、前記第1方向のビームスキャン速度および前記第2方向のウェハスキャン速度を変化させる制御装置と、を備え、
前記制御装置は、複数の注入レシピを保持し、前記複数の注入レシピのそれぞれは、前記ウェハ処理面内における二次元不均一ドーズ量分布と、前記ウェハ処理面内において前記第2方向に異なる複数の位置における前記第1方向の複数の一次元ドーズ量分布に基づいて定められる複数の補正関数と、前記二次元不均一ドーズ量分布と前記複数の補正関数とを対応付ける相関情報とを含み、
前記制御装置は、前記二次元不均一ドーズ量分布の目標値を新たに取得した場合、前記目標値に類似する前記二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを前記複数の注入レシピの中から特定し、
前記制御装置は、前記特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数および前記相関情報に基づいて前記第1方向のビームスキャン速度および前記第2方向のウェハスキャン速度を変化させ、前記ウェハ処理面に前記目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布のイオンを注入することを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記複数の注入レシピのそれぞれに含まれる前記二次元不均一ドーズ量分布は、前記ウェハ処理面内における複数の格子点の位置とドーズ量を対応付けるデータにより定義され、
前記制御装置は、前記複数の格子点のそれぞれのドーズ量を比較して前記二次元不均一ドーズ量分布の類似性を評価することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記複数の格子点のドーズ量の差の標準偏差に基づいて前記類似性を評価することを特徴とする請求項2に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値を前記複数の格子点の位置とドーズ量を対応付けるデータに変換し、前記二次元不均一ドーズ量分布の類似性を評価することを特徴とする請求項2または3に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記複数の注入レシピのそれぞれは、前記イオンビームのイオン種、エネルギー、ビーム電流およびビームサイズを定めるビーム条件をさらに含み、
前記制御装置は、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値とともに前記ビーム条件の少なくとも一部を取得し、前記複数の注入レシピのうち、前記取得した少なくとも一部のビーム条件に対応する注入レシピの中から、前記目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを特定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項6】
前記複数の注入レシピのそれぞれは、前記イオンビームのイオン種、エネルギー、ビーム電流およびビームサイズを定めるビーム条件をさらに含み、
前記制御装置は、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値に基づいて前記ビーム条件の少なくとも一部を決定し、前記複数の注入レシピのうち、前記決定した少なくとも一部のビーム条件に対応する注入レシピの中から、前記目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを特定することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項7】
前記イオン注入装置は、イオン注入時に前記ウェハ処理面が位置する注入位置において前記イオンビームの前記第1方向のビーム電流密度分布を測定可能なビーム測定装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記ウェハ処理面にイオンを注入する前に、前記特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数のそれぞれに基づいて前記イオンビームを往復スキャンさせたときに前記ビーム測定装置により測定される複数のビーム電流密度分布が前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値に類似する形状であるかを確認することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項8】
前記イオンビームのビームサイズを調整するための収束/発散装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数の少なくとも一つに基づいて前記イオンビームを往復スキャンさせたときに前記ビーム測定装置に測定される少なくとも一つのビーム電流密度分布が前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値に類似する形状ではない場合、前記イオンビームのビームサイズが小さくなるように前記収束/発散装置のパラメータを調整することを特徴とする請求項7に記載のイオン注入装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数の少なくとも一つに基づいて前記イオンビームを往復スキャンさせたときに前記ビーム測定装置に測定される少なくとも一つのビーム電流密度分布が前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値に類似する形状ではない場合、前記イオンビームのビーム電流が小さくなるように前記ビーム生成装置のパラメータを調整することを特徴とする請求項7または8に記載のイオン注入装置。
【請求項10】
前記複数の注入レシピの少なくとも一つに含まれる前記二次元不均一ドーズ量分布は、前記イオン注入装置が前記複数の注入レシピの少なくとも一つにしたがってイオンを注入したときの前記ウェハ処理面内におけるドーズ量の実測値に基づくことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項11】
前記複数の注入レシピの少なくとも一つに含まれる前記二次元不均一ドーズ量分布は、前記イオン注入装置とは別のイオン注入装置が前記複数の注入レシピの少なくとも一つにしたがってイオンを注入したときの前記ウェハ処理面内におけるドーズ量の実測値に基づくことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項12】
前記複数の注入レシピの少なくとも一つに含まれる前記二次元不均一ドーズ量分布は、前記複数の注入レシピの少なくとも一つにしたがったイオン注入をシミュレーションしたときの前記ウェハ処理面内におけるドーズ量の推定値に基づくことを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項13】
前記制御装置は、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値を示す第1マップ、前記目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を示す第2マップ、および、前記第1マップと前記第2マップの差を示す差分マップの少なくとも一つをディスプレイに表示させることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項14】
前記制御装置は、前記複数の注入レシピに含まれる二次元不均一ドーズ量分布のいずれも前記目標値に類似しない場合、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値を実現するための前記複数の補正関数および前記相関情報を新規作成することを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項15】
前記制御装置は、同一ロットに含まれる複数のウェハのそれぞれに設定される前記二次元不均一ドーズ量分布の複数の目標値を新たに取得した場合、前記複数の目標値に類似する前記二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを前記複数の注入レシピの中から特定し、
前記制御装置は、前記特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数および前記相関情報に基づいて前記第1方向のビームスキャン速度および前記第2方向のウェハスキャン速度を変化させ、前記複数のウェハのそれぞれのウェハ処理面に前記複数の目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布のイオンを注入することを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項16】
前記制御装置は、同一ロットに含まれる複数のウェハのそれぞれに設定される前記二次元不均一ドーズ量分布の複数の目標値を新たに取得した場合、前記複数の目標値のそれぞれに類似する前記二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを前記複数の注入レシピの中から前記複数のウェハのそれぞれについて特定し、
前記制御装置は、前記複数のウェハのそれぞれについて特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数および前記相関情報に基づいて前記第1方向のビームスキャン速度および前記第2方向のウェハスキャン速度を変化させ、前記複数のウェハのそれぞれのウェハ処理面に前記複数の目標値のそれぞれに類似する二次元不均一ドーズ量分布のイオンを注入することを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載のイオン注入装置を用いるイオン注入方法であって、
前記ウェハ処理面内における前記二次元不均一ドーズ量分布の目標値を新たに取得することと、
前記目標値に類似する前記二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを前記複数の注入レシピの中から特定することと、
前記特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数および前記相関情報に基づいて前記第1方向のビームスキャン速度および前記第2方向のウェハスキャン速度を変化させ、前記ウェハ処理面に前記目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布のイオンを注入することと、を備えることを特徴とするイオン注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置およびイオン注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程では、半導体の導電性を変化させる目的、半導体の結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウェハにイオンを注入する工程(イオン注入工程ともいう)が標準的に実施されている。イオン注入工程に使用される装置は、イオン注入装置と呼ばれる。イオン注入工程では、ウェハ処理面内における二次元ドーズ量分布を意図的に不均一にする「不均一注入」が求められることがある。例えば、ウェハ処理面内においてイオンビームが照射される第1方向および第2方向のビーム照射位置に応じて、第1方向のビームスキャン速度および第2方向のウェハスキャン速度を変化させることで、イオン注入装置を用いて所望の不均一注入が実現される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の不均一注入は、例えば、イオン注入工程以外の半導体デバイス製造工程において発生する半導体デバイスの特性のばらつきを補正するために実施され、半導体デバイスの歩留まり改善に大きく寄与しうる。しかしながら、目標値とする二次元不均一ドーズ量分布は、ウェハ毎やロット毎に異なりうるため、ビームスキャン速度およびウェハスキャン速度を制御するためのデータセットを目標値に応じて個別に作成する必要がある。また、作成したデータセットを使用して実際にイオン注入を実施し、ウェハ面内に形成される二次元不均一ドーズ量分布を測定し、測定値に基づいてデータセットを微調整する必要もある。このようなデータセットの作成および調整は複雑で労力がかかるため、イオン注入装置のユーザにとって大きな負担となり、また、イオン注入装置の生産性の低下にもつながる。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、イオン注入装置を用いて所望の不均一注入を実現するためのユーザの負担を軽減し、イオン注入装置の生産性を向上させる手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のイオン注入装置は、イオンビームを生成するビーム生成装置と、イオンビームを第1方向に往復スキャンさせるビームスキャナと、往復スキャンされるイオンビームがウェハ処理面に照射されるようにウェハを保持しながら、第1方向と直交する第2方向にウェハを往復スキャンさせるプラテン駆動装置と、ウェハ処理面に所望の二次元不均一ドーズ量分布のイオンが注入されるように、ウェハ処理面内においてイオンビームが照射される第1方向および第2方向のビーム照射位置に応じて、第1方向のビームスキャン速度および第2方向のウェハスキャン速度を変化させる制御装置と、を備える。制御装置は、複数の注入レシピを保持し、複数の注入レシピのそれぞれは、ウェハ処理面内における二次元不均一ドーズ量分布と、ウェハ処理面内において第2方向に異なる複数の位置における第1方向の複数の一次元ドーズ量分布に基づいて定められる複数の補正関数と、二次元不均一ドーズ量分布と複数の補正関数とを対応付ける相関情報とを含む。制御装置は、二次元不均一ドーズ量分布の目標値を新たに取得した場合、目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを複数の注入レシピの中から特定する。制御装置は、特定した注入レシピに含まれる複数の補正関数および相関情報に基づいて第1方向のビームスキャン速度および第2方向のウェハスキャン速度を変化させ、ウェハ処理面に目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布のイオンを注入する。
【0007】
本発明の別の態様は、ある態様のイオン注入装置を用いるイオン注入方法である。この方法は、ウェハ処理面内における二次元不均一ドーズ量分布の目標値を新たに取得することと、目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを複数の注入レシピの中から特定することと、特定した注入レシピに含まれる複数の補正関数および相関情報に基づいて第1方向のビームスキャン速度および第2方向のウェハスキャン速度を変化させ、ウェハ処理面に目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布のイオンを注入することと、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イオン注入装置を用いて所望の不均一注入を実現するためのユーザの負担を軽減し、イオン注入装置の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
【
図2】
図1のイオン注入装置の概略構成を示す側面図である。
【
図3】
図1の注入処理室内の概略構成を示す正面図である。
【
図4】注入レシピのデータ構造を模式的に示す図である。
【
図5】
図5(a),(b)は、二次元ドーズ量分布を模式的に示す図である。
【
図6】補正関数ファイルおよび相関情報ファイルの一例を示す図である。
【
図7】相関情報ファイルの一例を示すテーブルである。
【
図9】制御装置の機能構成を模式的に示すブロック図である。
【
図10】複数の一次元不均一ドーズ量分布を模式的に示す図である。
【
図11】規格化された複数の初期関数の一例を示す図である。
【
図12】集約前および集約後の関数の一例を示す図である。
【
図13】実施の形態に係るイオン注入方法の流れを示すフローチャートである。
【
図14】データセットの作成処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0012】
実施の形態を詳述する前に概要を説明する。本実施の形態は、ウェハに所望の二次元不均一ドーズ量分布のイオンを注入するよう構成されるイオン注入装置である。ウェハ処理面内における二次元ドーズ量分布を意図的に不均一とする「不均一注入」は、例えば、イオン注入工程以外の半導体デバイス製造工程において発生する半導体デバイスの特性のばらつきを補正するために実施される。ウェハ処理面内における半導体デバイスの特性のばらつきに応じてドーズ量を意図的に変化させることで、半導体デバイスの歩留まりを大きく改善することができる。このような不均一注入は、第1方向(例えばx方向)のビームスキャン速度を可変にするとともに、第2方向(例えばy方向)のウェハスキャン速度を可変にすることで実現される。
【0013】
ビームスキャン速度およびウェハスキャン速度を制御するためのデータセットは、目標値とする二次元不均一ドーズ量分布に応じて個別に作成する必要がある。また、意図する二次元不均一ドーズ量分布を高精度で実現するためには、作成したデータセットを使用して実際にイオン注入を実施し、ウェハ面内に形成される二次元不均一ドーズ量分布を測定し、測定値に基づいてデータセットを微調整する必要もある。このようなデータセットの作成および調整は複雑で労力がかかるため、イオン注入装置のユーザにとって大きな負担となり、また、イオン注入装置の生産性の低下にもつながる。さらに、目標値とする二次元不均一ドーズ量分布は、補正すべき半導体デバイスの特性のばらつきに応じてウェハ毎やロット毎に異なりうるが、ウェハ毎やロット毎にデータセットを用意することは容易ではない。
【0014】
そこで、本実施の形態では、過去に使用したデータセットを蓄積しておき、目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を実現しうるデータセットを検索して再利用することで、データセットを新規作成する手間を省けるようにする。ここで「類似する」とは、所定の計算式等に基づいて決定される類似性の指標が所定の条件を満たしていることを意味する。逆に「類似しない」とは、所定の計算式等に基づいて決定される類似性の指標が所定の条件を満たしていないことを意味する。また、類似する二次元不均一ドーズ量分布を実現しうるデータセットが蓄積されていない場合であっても、データセットを自動作成することでデータセットを新規作成する手間を軽減できるようにする。このようにしてデータセットの作成負担を軽減することで、ウェハ毎やロット毎に適切な不均一注入を実施できる。また、データセットを作成および調整するためのイオン注入装置の稼働時間を低減できるため、イオン注入装置の生産性を向上できる。
【0015】
図1は、実施の形態に係るイオン注入装置10を概略的に示す上面図であり、
図2は、イオン注入装置10の概略構成を示す側面図である。イオン注入装置10は、被処理物Wの表面にイオン注入処理を施すよう構成される。被処理物Wは、例えば基板であり、例えば半導体ウェハである。説明の便宜のため、本明細書において被処理物WをウェハWと呼ぶことがあるが、これは注入処理の対象を特定の物体に限定することを意図しない。
【0016】
イオン注入装置10は、ビームを一方向に往復走査させ、ウェハWを走査方向と直交する方向に往復運動させることによりウェハWの処理面全体にわたってイオンビームを照射するよう構成される。本書では説明の便宜上、設計上のビームラインAに沿って進むイオンビームの進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。イオンビームを被処理物Wに対し走査する場合において、ビームの走査方向をx方向とし、z方向及びx方向に垂直な方向をy方向とする。したがって、ビームの往復走査はx方向に行われ、ウェハWの往復運動はy方向に行われる。
【0017】
イオン注入装置10は、イオン生成装置12と、ビームライン装置14と、注入処理室16と、ウェハ搬送装置18とを備える。イオン生成装置12は、イオンビームをビームライン装置14に与えるよう構成される。ビームライン装置14は、イオン生成装置12から注入処理室16へイオンビームを輸送するよう構成される。注入処理室16には、注入対象となるウェハWが収容され、ビームライン装置14から与えられるイオンビームをウェハWに照射する注入処理がなされる。ウェハ搬送装置18は、注入処理前の未処理ウェハを注入処理室16に搬入し、注入処理後の処理済ウェハを注入処理室16から搬出するよう構成される。イオン注入装置10は、イオン生成装置12、ビームライン装置14、注入処理室16およびウェハ搬送装置18に所望の真空環境を提供するための真空排気系(図示せず)を備える。
【0018】
ビームライン装置14は、ビームラインAの上流側から順に、質量分析部20、ビームパーク装置24、ビーム整形部30、ビーム走査部32、ビーム平行化部34および角度エネルギーフィルタ(AEF;Angular Energy Filter)36を備える。なお、ビームラインAの上流とは、イオン生成装置12に近い側のことをいい、ビームラインAの下流とは注入処理室16(またはビームストッパ46)に近い側のことをいう。
【0019】
質量分析部20は、イオン生成装置12の下流に設けられ、イオン生成装置12から引き出されたイオンビームから必要なイオン種を質量分析により選択するよう構成される。質量分析部20は、質量分析磁石21と、質量分析レンズ22と、質量分析スリット23とを有する。
【0020】
質量分析磁石21は、イオン生成装置12から引き出されたイオンビームに磁場を印加し、イオンの質量電荷比M=m/q(mは質量、qは電荷)の値に応じて異なる経路でイオンビームを偏向させる。質量分析磁石21は、例えばイオンビームにy方向(
図1および
図2では-y方向)の磁場を印加してイオンビームをx方向に偏向させる。質量分析磁石21の磁場強度は、所望の質量電荷比Mを有するイオン種が質量分析スリット23を通過するように調整される。
【0021】
質量分析レンズ22は、質量分析磁石21の下流に設けられ、イオンビームに対する収束/発散力を調整するよう構成される。質量分析レンズ22は、質量分析スリット23を通過するイオンビームのビーム進行方向(z方向)の収束位置を調整し、質量分析部20の質量分解能M/dMを調整する。なお、質量分析レンズ22は必須の構成ではなく、質量分析部20に質量分析レンズ22が設けられなくてもよい。
【0022】
質量分析スリット23は、質量分析レンズ22の下流に設けられ、質量分析レンズ22から離れた位置に設けられる。質量分析スリット23は、質量分析磁石21によるビーム偏向方向(x方向)がスリット幅となるように構成され、x方向が相対的に短く、y方向が相対的に長い形状の開口23aを有する。
【0023】
質量分析スリット23は、質量分解能の調整のためにスリット幅が可変となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅方向に移動可能な二枚の遮蔽体により構成され、二枚の遮蔽体の間隔を変化させることによりスリット幅が調整可能となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅の異なる複数のスリットのいずれか一つに切り替えることによりスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。
【0024】
ビームパーク装置24は、ビームラインAからイオンビームを一時的に退避し、下流の注入処理室16(またはウェハW)に向かうイオンビームを遮蔽するよう構成される。ビームパーク装置24は、ビームラインAの途中の任意の位置に配置することができるが、例えば、質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間に配置できる。質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間には一定の距離が必要であるため、その間にビームパーク装置24を配置することで、他の位置に配置する場合よりもビームラインAの長さを短くすることができ、イオン注入装置10の全体を小型化できる。
【0025】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25(25a,25b)と、ビームダンプ26と、を備える。一対のパーク電極25a,25bは、ビームラインAを挟んで対向し、質量分析磁石21のビーム偏向方向(x方向)と直交する方向(y方向)に対向する。ビームダンプ26は、パーク電極25a,25bよりもビームラインAの下流側に設けられ、ビームラインAからパーク電極25a,25bの対向方向に離れて設けられる。
【0026】
第1パーク電極25aはビームラインAよりも重力方向上側に配置され、第2パーク電極25bはビームラインAよりも重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、ビームラインAよりも重力方向下側に離れた位置に設けられ、質量分析スリット23の開口23aの重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、例えば、質量分析スリット23の開口23aが形成されていない部分で構成される。ビームダンプ26は、質量分析スリット23とは別体として構成されてもよい。
【0027】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bの間に印加される電場を利用してイオンビームを偏向させ、ビームラインAからイオンビームを退避させる。例えば、第1パーク電極25aの電位を基準として第2パーク電極25bに負電圧を印加することにより、イオンビームをビームラインAから重力方向下方に偏向させてビームダンプ26に入射させる。
図2において、ビームダンプ26に向かうイオンビームの軌跡を破線で示している。また、ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bを同電位とすることにより、イオンビームをビームラインAに沿って下流側に通過させる。ビームパーク装置24は、イオンビームを下流側に通過させる第1モードと、イオンビームをビームダンプ26に入射させる第2モードとを切り替えて動作可能となるよう構成される。
【0028】
質量分析スリット23の下流にはインジェクタファラデーカップ28が設けられる。インジェクタファラデーカップ28は、インジェクタ駆動部29の動作によりビームラインAに出し入れ可能となるよう構成される。インジェクタ駆動部29は、インジェクタファラデーカップ28をビームラインAの延びる方向と直交する方向(例えばy方向)に移動させる。インジェクタファラデーカップ28は、
図2の破線で示すようにビームラインA上に配置された場合、下流側に向かうイオンビームを遮断する。一方、
図2の実線で示すように、インジェクタファラデーカップ28がビームラインA上から外された場合、下流側に向かうイオンビームの遮断が解除される。
【0029】
インジェクタファラデーカップ28は、質量分析部20により質量分析されたイオンビームのビーム電流を計測するよう構成される。インジェクタファラデーカップ28は、質量分析磁石21の磁場強度を変化させながらビーム電流を測定することにより、イオンビームの質量分析スペクトラムを計測できる。計測した質量分析スペクトラムを用いて、質量分析部20の質量分解能を算出することができる。
【0030】
ビーム整形部30は、収束/発散四重極レンズ(Qレンズ)などの収束/発散装置を備えており、質量分析部20を通過したイオンビームを所望の断面形状に整形するよう構成されている。ビーム整形部30は、例えば、電場式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)で構成され、三つの四重極レンズ30a,30b,30cを有する。ビーム整形部30は、三つのレンズ装置30a~30cを用いることにより、イオンビームの収束または発散をx方向およびy方向のそれぞれについて独立に調整しうる。ビーム整形部30は、磁場式のレンズ装置を含んでもよく、電場と磁場の双方を利用してビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0031】
ビーム走査部32は、ビームの往復走査を提供するよう構成され、整形されたイオンビームをx方向に走査するビーム偏向装置である。ビーム走査部32は、ビーム走査方向(x方向)に対向する走査電極対を有する。走査電極対は可変電圧電源(図示せず)に接続されており、走査電極対の間に印加される電圧を周期的に変化させることにより、電極間に生じる電界を変化させてイオンビームをさまざまな角度に偏向させる。その結果、イオンビームがx方向の走査範囲全体にわたって走査される。
図1において、矢印Xによりビームの走査方向及び走査範囲を例示し、走査範囲でのイオンビームの複数の軌跡を一点鎖線で示している。
【0032】
ビーム平行化部34は、走査されたイオンビームの進行方向を設計上のビームラインAの軌道と平行にするよう構成される。ビーム平行化部34は、y方向の中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧形状の複数の平行化レンズ電極を有する。平行化レンズ電極は、高圧電源(図示せず)に接続されており、電圧印加により生じる電界をイオンビームに作用させて、イオンビームの進行方向を平行に揃える。なお、ビーム平行化部34は他のビーム平行化装置で置き換えられてもよく、ビーム平行化装置は磁界を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0033】
ビーム平行化部34の下流には、イオンビームを加速または減速させるためのAD(Accel/Decel)コラム(図示せず)が設けられてもよい。
【0034】
角度エネルギーフィルタ(AEF)36は、イオンビームのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方に偏向して注入処理室16に導くよう構成されている。角度エネルギーフィルタ36は、電界偏向用のAEF電極対を有する。AEF電極対は、高圧電源(図示せず)に接続される。
図2において、上側のAEF電極に正電圧、下側のAEF電極に負電圧を印加させることにより、イオンビームを下方に偏向させる。なお、角度エネルギーフィルタ36は、磁界偏向用の磁石装置で構成されてもよく、電界偏向用のAEF電極対と磁石装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0035】
このようにして、ビームライン装置14は、ウェハWに照射されるべきイオンビームを注入処理室16に供給する。
【0036】
注入処理室16は、ビームラインAの上流側から順に、エネルギースリット38、プラズマシャワー装置40、サイドカップ42、センターカップ44およびビームストッパ46を備える。注入処理室16は、
図2に示されるように、1枚又は複数枚のウェハWを保持するプラテン駆動装置50を備える。
【0037】
エネルギースリット38は、角度エネルギーフィルタ36の下流側に設けられ、角度エネルギーフィルタ36とともにウェハWに入射するイオンビームのエネルギー分析をする。エネルギースリット38は、ビーム走査方向(x方向)に横長のスリットで構成されるエネルギー制限スリット(EDS;Energy Defining Slit)である。エネルギースリット38は、所望のエネルギー値またはエネルギー範囲のイオンビームをウェハWに向けて通過させ、それ以外のイオンビームを遮蔽する。
【0038】
プラズマシャワー装置40は、エネルギースリット38の下流側に位置する。プラズマシャワー装置40は、イオンビームのビーム電流量に応じてイオンビームおよびウェハWの表面(ウェハ処理面)に低エネルギー電子を供給し、イオン注入で生じるウェハ処理面の正電荷のチャージアップを抑制する。プラズマシャワー装置40は、例えば、イオンビームが通過するシャワーチューブと、シャワーチューブ内に電子を供給するプラズマ発生装置とを含む。
【0039】
サイドカップ42(42R,42L)は、ウェハWへのイオン注入処理中にイオンビームのビーム電流を測定するよう構成される。
図2に示されるように、サイドカップ42R,42Lは、ビームラインA上に配置されるウェハWに対して左右(x方向)にずれて配置されており、イオン注入時にウェハWに向かうイオンビームを遮らない位置に配置される。イオンビームは、ウェハWが位置する範囲を超えてx方向に走査されるため、イオン注入時においても走査されるビームの一部がサイドカップ42R、42Lに入射する。これにより、イオン注入処理中のビーム電流量がサイドカップ42R、42Lにより計測される。
【0040】
センターカップ44は、ウェハ処理面におけるビーム電流を測定するよう構成される。センターカップ44は、駆動部45の動作により可動となるよう構成され、イオン注入時にウェハWが位置する注入位置から待避され、ウェハWが注入位置にないときに注入位置に挿入される。センターカップ44は、x方向に移動しながらビーム電流を測定することにより、x方向のビーム走査範囲の全体にわたってビーム電流を測定することができる。センターカップ44は、ビーム走査方向(x方向)の複数の位置におけるビーム電流を同時に計測可能となるように、複数のファラデーカップがx方向に並んでアレイ状に形成されてもよい。
【0041】
サイドカップ42およびセンターカップ44の少なくとも一方は、ビーム電流量を測定するための単一のファラデーカップを備えてもよいし、ビームの角度情報を測定するための角度計測器を備えてもよい。角度計測器は、例えば、スリットと、スリットからビーム進行方向(z方向)に離れて設けられる複数の電流検出部とを備える。角度計測器は、例えば、スリットを通過したビームをスリット幅方向に並べられる複数の電流検出部で計測することにより、スリット幅方向のビームの角度成分を測定できる。サイドカップ42およびセンターカップ44の少なくとも一方は、x方向の角度情報を測定可能な第1角度測定器と、y方向の角度情報を測定可能な第2角度測定器とを備えてもよい。
【0042】
プラテン駆動装置50は、ウェハ保持装置52と、往復運動機構54と、ツイスト角調整機構56と、チルト角調整機構58とを含む。ウェハ保持装置52は、ウェハWを保持するための静電チャック等を含む。往復運動機構54は、ビーム走査方向(x方向)と直交する往復運動方向(y方向)にウェハ保持装置52を往復運動させることにより、ウェハ保持装置52に保持されるウェハをy方向に往復運動させる。
図2において、矢印YによりウェハWの往復運動を例示する。
【0043】
ツイスト角調整機構56は、ウェハWの回転角を調整する機構であり、ウェハ処理面の法線を軸としてウェハWを回転させることにより、ウェハの外周部に設けられるアライメントマークと基準位置との間のツイスト角を調整する。ここで、ウェハのアライメントマークとは、ウェハの外周部に設けられるノッチやオリフラのことをいい、ウェハの結晶軸方向やウェハの周方向の角度位置の基準となるマークをいう。ツイスト角調整機構56は、ウェハ保持装置52と往復運動機構54の間に設けられ、ウェハ保持装置52とともに往復運動される。
【0044】
チルト角調整機構58は、ウェハWの傾きを調整する機構であり、ウェハ処理面に向かうイオンビームの進行方向とウェハ処理面の法線との間のチルト角を調整する。本実施の形態では、ウェハWの傾斜角のうち、x方向の軸を回転の中心軸とする角度をチルト角として調整する。チルト角調整機構58は、往復運動機構54と注入処理室16の内壁の間に設けられており、往復運動機構54を含むプラテン駆動装置50全体をR方向に回転させることでウェハWのチルト角を調整するように構成される。
【0045】
プラテン駆動装置50は、イオンビームがウェハWに照射される注入位置と、ウェハ搬送装置18との間でウェハWが搬入または搬出される搬送位置との間でウェハWが移動可能となるようにウェハWを保持する。
図2は、ウェハWが注入位置にある状態を示しており、プラテン駆動装置50は、ビームラインAとウェハWとが交差するようにウェハWを保持する。ウェハWの搬送位置は、ウェハ搬送装置18に設けられる搬送機構または搬送ロボットにより搬送口48を通じてウェハWが搬入または搬出される際のウェハ保持装置52の位置に対応する。
【0046】
ビームストッパ46は、ビームラインAの最下流に設けられ、例えば、注入処理室16の内壁に取り付けられる。ビームラインA上にウェハWが存在しない場合、イオンビームはビームストッパ46に入射する。ビームストッパ46は、注入処理室16とウェハ搬送装置18の間を接続する搬送口48の近くに位置しており、搬送口48よりも鉛直下方の位置に設けられる。
【0047】
イオン注入装置10は、制御装置60を備える。制御装置60は、イオン注入装置10の動作全般を制御する。制御装置60は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現され、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現される。制御装置60により提供される各種機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの連携によって実現されうる。
【0048】
図3は、
図1の注入処理室16内の概略構成を示す正面図であり、イオンビームBが照射されるウェハWの処理面WSを正面から見ている。イオンビームBは、矢印Xで示されるように第1方向(x方向)に往復スキャンされ、x方向に往復スキャンされたスキャンビームSBとしてウェハWに入射する。ウェハWは、プラテン駆動装置50に保持されて矢印Yで示されるように第2方向(y方向)に往復スキャンされる。
図3では、プラテン駆動装置50の動作によりy方向に往復スキャンするウェハWについて、最上位置のウェハW1と最下位置のウェハW2を破線で図示している。また、注入工程においてウェハ処理面WSにスキャンビームSBが入射してイオンが注入される注入位置Cを細実線で示している。
【0049】
イオンビームBは、ウェハWが位置する注入範囲C1と、注入範囲C1よりも外側のモニタ範囲C2L,C2Rとを含む照射範囲C3にわたって往復スキャンされる。左右のモニタ範囲C2L,C2Rのそれぞれには、左右のサイドカップ42L,42Rが配置されている。左右のサイドカップ42L,42Rは、注入工程においてモニタ範囲C2L,C2RまでオーバースキャンされるイオンビームBを測定することができる。注入位置Cのx方向の位置は、注入範囲C1と一致する。注入位置Cのy方向の位置は、イオンビームBまたはスキャンビームSBのy方向の位置と一致する。注入位置Cのz方向の位置は、ウェハ処理面WSのz方向の位置と一致する。
【0050】
センターカップ44は、注入工程において照射範囲C3よりも外側の非照射範囲C4Rに待避されている。図示する構成では、駆動部45が右側に配置され、注入工程において、センターカップ44が右側の非照射範囲C4Rに待避されている。なお、駆動部45が左側に配置される構成では、注入工程において、センターカップ44が左側の非照射範囲C4Lに待避されてもよい。
【0051】
センターカップ44は、注入工程の事前に実行される準備工程において、注入範囲C1に配置され、注入範囲C1におけるイオンビームBのビーム電流を測定する。センターカップ44は、注入範囲C1においてx方向に移動しながらビーム電流を測定し、スキャンビームSBのx方向のビーム電流密度分布を測定する。
【0052】
図4は、注入レシピ70のデータ構造を模式的に示す図である。制御装置60は、注入レシピにしたがってイオン注入工程を制御する。注入レシピ70は、基本設定データ71と、詳細設定データ72とを含む。基本設定データ71は、設定が必須となる注入条件を定める。基本設定データ71は、例えば、1)イオン種、2)ビームエネルギー、3)ビーム電流、4)ビームサイズ、5)ウェハチルト角、6)ウェハツイスト角、および、7)平均ドーズ量の設定データを含む。平均ドーズ量は、ウェハ処理面に注入されるべきドーズ量分布の面内平均値を示す。
【0053】
詳細設定データ72は、ウェハ処理面に注入すべきイオンのドーズ量分布を意図的に不均一にする「不均一注入」を実行する場合に設定される。詳細設定データ72は、ウェハ処理面内における二次元ドーズ量分布を一定値とする「均一注入」を実行する場合には設定されなくてもよい。詳細設定データ72は、8)二次元ドーズ量分布、および、9)補正データセットを含む。二次元ドーズ量分布は、例えば、不均一注入を実施した場合にウェハ処理面WS内に実現される二次元不均一ドーズ量分布の実績値である。補正データセットは、ビーム走査部32による第1方向(x方向)のビームスキャン速度と、プラテン駆動装置50による第2方向(y方向)のウェハスキャン速度とを可変制御するために用いられる。補正データセットは、二次元不均一ドーズ量分布を実現するための補正関数ファイルおよび相関情報ファイルを含む。
【0054】
図5(a),(b)は、二次元不均一ドーズ量分布73を模式的に示す図である。
図5(a)は、円形のウェハ処理面WS内において不均一に設定される二次元ドーズ量分布を示し、ウェハ処理面WS内の領域74a,74b,74c,74dの濃淡によりドーズ量の大きさを示している。図示する例では、第1領域74aのドーズ量が最も大きく、第4領域74dのドーズ量が最も小さい。二次元不均一ドーズ量分布73は、プラテン駆動装置50に保持されるウェハWの向きを基準に定められる。具体的には、基本設定データ71に定められるウェハツイスト角となるようにウェハWをプラテン駆動装置50に配置したときのビームスキャン方向(第1方向またはx方向)とウェハスキャン方向(第2方向またはy方向)を基準に定められる。図示する例では、ウェハWの中心OからアライメントマークWMに向かう方向が+y方向となっているが、アライメントマークWMの位置はウェハツイスト角に応じて異なりうる。
【0055】
図5(b)は、二次元不均一ドーズ量分布73を定義するための複数の格子点75を模式的に示す。複数の格子点75は、例えば、ウェハ処理面WSにおいて等間隔に設定される。二次元不均一ドーズ量分布73は、例えば、複数の格子点75のそれぞれの位置座標と、複数の格子点75のそれぞれにおけるドーズ量とを対応付けるデータにより定義される。例えば、直径300mmのウェハの場合、ウェハ処理面WSの中心Oを原点とする31×31の格子点75が設定され、隣接する格子点75の間隔d1は10mmである。複数の格子点75の間隔d1は、イオンビームBのビームサイズより小さくなるように設定される。イオンビームBのビームサイズの一例は20mm~30mm程度である。
【0056】
図6は、補正関数ファイル77および相関情報ファイル78の一例を示す図である。補正関数ファイル77は、第1方向(x方向)の一次元不均一ドーズ量分布に基づいて定められる補正関数h(x)を定義する。補正関数ファイル77は、一つの二次元不均一ドーズ量分布73に対して複数定義され、図示する例では6個の補正関数ファイル77A,77B,77C,77D,77E,77Fが定義される。複数の補正関数ファイル77A~77Fのそれぞれは、補正関数h(x)の形状が互いに異なる。複数の補正関数ファイル77A~77Fの数は、例えば、一つの二次元不均一ドーズ量分布73に対して5個~10個程度定義される。
【0057】
相関情報ファイル78は、二次元不均一ドーズ量分布73と、複数の補正関数ファイル77とを対応付ける相関情報を定義する。ウェハ処理面WSは、第2方向(y方向)に複数の分割領域76_1~76_31(総称して分割領域76ともいう)に分割され、複数の分割領域76のそれぞれに複数の補正関数ファイル77A~77Fのいずれかが対応付けられる。複数の分割領域76のy方向の分割幅d2は、格子点75の間隔d1と同じであり、例えば10mmである。複数の分割領域76のそれぞれのy方向の中心位置は、格子点75の位置に対応しうる。複数の分割領域76のy方向の分割幅d2は、イオンビームのビームサイズ(例えば20mm~30mm)よりも小さくなるように設定される。
【0058】
複数の補正関数ファイル77の個数は、複数の分割領域76の個数よりも少ない。したがって、少なくとも一つの補正関数ファイル77は、複数の分割領域76に対応付けられる。逆の言い方をすれば、複数の分割領域76に対して一つの補正関数ファイル77に定められる補正関数h(x)が共通して用いられる。補正関数h(x)は、複数の分割領域76にて利用可能となるように規格化されており、例えば、補正関数h(x)の最大値、平均値または第1方向における積分値が所定値となるように定義されている。相関情報ファイル78は、複数の分割領域76のそれぞれの一次元不均一ドーズ量分布D(x)と、D(x)に対応する補正関数h(x)との比率を補正係数kとして保持する。複数の分割領域76のそれぞれの一次元不均一ドーズ量分布D(x)は、補正関数h(x)に補正係数kを乗じたk・h(x)に対応する。補正係数kの値は、相対的に高ドーズ量となる分割領域76において大きくなり、相対的に低ドーズ量となる分割領域76において小さくなる傾向にある。補正係数kは、第2方向(y方向)のウェハスキャン速度を制御するために用いられる。
【0059】
図7は、相関情報ファイル78の一例を示すテーブルである。相関情報ファイル78は、複数の分割領域76を識別する領域番号「1」~「31」のそれぞれに対し、ウェハ処理面WSが存在するx方向およびy方向の範囲と、補正関数ファイル77を識別する番号A~Fと、補正係数kの値とを定める。ウェハ処理面WSは円形状であるため、ウェハ処理面WSの中心Oから離れるほどウェハ処理面WSが存在するx方向の範囲が小さくなる。例えば、領域番号「1」では、ウェハ処理面WSの中心Oに対して±20mmの範囲のみにウェハ処理面WSが存在し、それよりも外側の範囲にはウェハ処理面WSは存在しない。一方、ウェハ処理面WSの中心Oに対応する領域番号「16」では、ウェハ処理面WSの直径に相当する±150mmの範囲全体にウェハ処理面WSが存在する。図示する例では、複数の分割領域76のそれぞれのy方向の幅が一定値(10mm)であるが、複数の分割領域76のそれぞれのy方向の幅が領域ごとに異なってもよい。
【0060】
図8は、複数ステップ注入を模式的に示す図である。不均一注入を実施する場合、ウェハWのアライメントマークWMを基準とする二次元不均一ドーズ量分布を固定したまま、ウェハツイスト角を変化させて複数回のイオン注入を実施する「複数ステップ注入」を実施することがある。ウェハツイスト角を変化させると、イオン注入装置10の座標系を基準とする二次元不均一ドーズ量分布も一緒に回転する。
図8は、ウェハツイスト角を90度ずつ回転させて4回のイオン注入を実施する場合を示している。第1の二次元不均一ドーズ量分布73aは、上述の
図5(a)の二次元不均一ドーズ量分布73と同じである。第2の二次元不均一ドーズ量分布73bは、第1の二次元不均一ドーズ量分布73aを右回りに90度回転させたものである。同様に、第3の二次元不均一ドーズ量分布73cは、第2の二次元不均一ドーズ量分布73bを右回りに90度回転させたものであり、第4の二次元不均一ドーズ量分布73dは、第3の二次元不均一ドーズ量分布73cを右回りに90度回転させたものである。複数ステップ注入における複数の二次元不均一ドーズ量分布73a~73dのそれぞれは、イオン注入装置10のx方向およびy方向の座標系から見て異なる形状を有している。そのため、複数ステップ注入では、複数の二次元不均一ドーズ量分布73a~73dのそれぞれについて補正データセットが定められる。4回のステップ注入を実施する場合、注入レシピ70には4回の注入工程に対応する4個の詳細設定データ72が含まれる。
【0061】
図9は、制御装置60の機能構成を模式的に示すブロック図である。制御装置60は、注入処理制御部61と、注入レシピ管理部65とを備える。注入処理制御部61は、注入レシピ70に基づいてイオン注入装置10の動作を制御し、注入レシピ70にしたがった注入工程を実現する。注入レシピ管理部65は、注入工程に用いる注入レシピ70を管理する。
【0062】
注入処理制御部61は、ビーム条件制御部62、ビームスキャン制御部63およびプラテン制御部64を含む。ビーム条件制御部62は、注入レシピに定められる1)イオン種、2)ビームエネルギー、3)ビーム電流、および、4)ビームサイズを制御する。ビームスキャン制御部63は、補正関数ファイルにしたがってビームスキャン速度を制御する。プラテン制御部64は、注入レシピに定められる5)ウェハチルト角、および、6)ウェハツイスト角を制御するとともに、相関情報ファイルにしたがってウェハスキャン速度を制御する。ウェハ処理面WS内においてイオンビームが照射される第1方向および第2方向のビーム照射位置に応じて、ビームスキャン速度とウェハスキャン速度を適切に制御することで、8)二次元不均一ドーズ量分布が実現される。注入処理制御部61は、ウェハ処理面WSにイオンビームが照射される注入時間を調整することで、7)平均ドーズ量を制御する。
【0063】
ビーム条件制御部62は、イオン生成装置12のガス種や引出電圧、質量分析部20の磁場強度などを調整することでイオンビームのイオン種を制御する。ビーム条件制御部62は、イオン生成装置12の引出電圧、ビーム平行化部34の印加電圧、ADコラムの印加電圧、角度エネルギーフィルタ36の印加電圧などを調整することでイオンビームのビームエネルギーを制御する。ビーム条件制御部62は、イオン生成装置12のガス量、アーク電流、アーク電圧、ソースマグネット電流といった各種パラメータや、質量分析スリット23の開口幅などを調整することでイオンビームのビーム電流を制御する。ビーム条件制御部62は、ビーム整形部30に含まれる収束/発散装置の動作パラメータなどを調整することにより、ウェハ処理面WSに入射するイオンビームのビームサイズを制御する。
【0064】
ビームスキャン制御部63は、補正関数ファイル77に基づいてビーム走査部32の走査電極対に印加する走査電圧を指定するための走査電圧パラメータを生成する。ビーム走査部32により実現されるビームスキャン速度vBは、走査電極対に印加される制御電圧Vの時間tに対する変化率dV/dtにほぼ比例する。ビームスキャン方向(第1方向またはx方向)の一次元ドーズ量分布を均一とする場合、制御電圧の時間変化率dV/dtが一定となるように走査電圧パラメータが定められる。ビームスキャン方向の(第1方向またはx方向)の一次元ドーズ量分布を不均一とする場合、ビームスキャン方向の位置に応じて制御電圧の時間変化率dV/dtが変化するように走査電圧パラメータが定められる。具体的には、相対的に高ドーズ量とする箇所については、ビームスキャン速度vBが遅くなるように制御電圧の時間変化率dV/dtを小さくする。逆に、相対的に低ドーズ量とする箇所については、ビームスキャン速度vBが速くなるように制御電圧の時間変化率dV/dtを大きくする。例えば、x方向の位置に応じたビームスキャン速度vB(x)は、一次元不均一ドーズ量分布を示す補正関数h(x)の逆数1/h(x)に比例するように設定される。つまり、ビームスキャン速度vB(x)は、一次元不均一ドーズ量分布を示す補正関数h(x)に反比例する。
【0065】
プラテン制御部64は、相関情報ファイル78に基づいて往復運動機構54の往復運動速度、つまり、ウェハスキャン速度vWを指定するための速度パラメータを生成する。ウェハスキャン方向(第2方向またはy方向)のドーズ量分布を均一とする場合、ウェハスキャン速度vWが一定となるように速度パラメータが定められる。一方、ウェハスキャン方向(第2方向またはy方向)のドーズ量分布を不均一とする場合、ウェハスキャン方向の位置に応じてウェハスキャン速度vW(y)が変化するように速度パラメータが定められる。具体的には、相対的に高ドーズ量とする箇所についてはウェハスキャン速度vW(y)が遅くなり、相対的に低ドーズ量とする箇所についてはウェハスキャン速度vW(y)が速くなるように速度パラメータが定められる。例えば、y方向の位置に応じたウェハスキャン速度vW(y)は、相関情報ファイル78に定められる複数の分割領域76のそれぞれの補正係数kの逆数1/kに比例するように設定される。つまり、y方向の位置に応じたウェハスキャン速度vW(y)は、y方向の位置に応じた補正係数kに反比例する。
【0066】
注入レシピ管理部65は、記憶部66、検索部67、新規作成部68およびシミュレーション部69を含む。記憶部66は、過去の注入工程で使用した注入レシピを記憶する。記憶部66は、例えば、制御装置60に内蔵されるメモリやハードディスクなどの内部記憶装置である。記憶部66は、制御装置60の外部に設けられるサーバなどの外部記憶装置に記憶される注入レシピを読み出し、一時的に注入レシピを記憶するよう構成されてもよい。
【0067】
検索部67は、ユーザが指定する注入レシピに類似する注入レシピを記憶部66に記憶される注入レシピの中から検索する。検索部67は、これから実施しようとする注入工程の各種条件を指定する注入レシピに類似する注入レシピを検索することで、過去の注入レシピの中から流用可能な注入レシピを特定する。過去の注入レシピを流用することで、注入レシピの新規作成に必要な手間を省くことができる。
【0068】
新規作成部68は、検索部67の検索によって類似する注入レシピが見つからなかった場合に、ユーザが指定する注入条件を実現するための新たな注入レシピを作成する。シミュレーション部69は、新規作成部68が作成する新たな注入レシピにしたがった注入工程をシミュレーションすることで、ユーザが指定する注入条件を実現できるか否かを検証する。新規作成部68は、シミュレーション部69のシミュレーション結果に基づいて注入レシピを修正することにより、所望の注入条件を高精度で実現しうる注入レシピを作成する。
【0069】
記憶部66は、不均一注入を実施するための注入レシピとして、二次元不均一ドーズ量分布の目標値と実績値の双方を含む注入レシピを記憶してもよい。二次元不均一ドーズ量分布の目標値は、ユーザにより指定される二次元不均一ドーズ量分布であり、補正データセットを作成するための元となる二次元不均一ドーズ量分布である。二次元不均一ドーズ量分布の実績値は、注入レシピに含まれる補正データセットにしたがってウェハ処理面WSにイオンを注入したときにウェハ処理面WS内において実際に実現される二次元不均一ドーズ量分布である。二次元不均一ドーズ量分布の実績値は、例えば、イオン注入後のウェハ処理面WSにおけるドーズ量の面内分布を測定することにより得られる実測値である。
【0070】
記憶部66は、二次元不均一ドーズ量分布の実績値として、補正データセットにしたがった不均一注入をシミュレーションしたときのウェハ処理面WS内におけるドーズ量の推定値を記憶してもよい。不均一注入のシミュレーションは、例えば、シミュレーション部69により実行される。シミュレーション部69は、補正データセットにしたがってビーム走査部32およびプラテン駆動装置50を動作させたときの不均一注入をシミュレーションし、ウェハ処理面WS内に注入されるイオンの二次元ドーズ量分布を推定する。
【0071】
記憶部66は、イオン注入装置10において使用実績のある注入レシピのみを記憶してもよい。記憶部66は、イオン注入装置10において使用実績のない注入レシピを記憶してもよい。記憶部66は、実際のイオン注入処理に使用されていないが、新規作成部68により新規作成され、シミュレーション部69によりシミュレーションが実行されただけの注入レシピを記憶してもよい。記憶部66は、他のイオン注入装置にて使用実績のある注入レシピを記憶してもよいし、他のイオン注入装置にて新規作成され、シミュレーションされた注入レシピを記憶してもよい。
【0072】
検索部67は、不均一注入を実施するための二次元不均一ドーズ量分布の目標値を新たに取得した場合、取得した目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを過去の注入レシピの中から特定する。検索部67は、例えば、記憶部66に記憶されている注入レシピに含まれる二次元不均一ドーズ量分布の実績値を検索し、新たな目標値に類似する実績値を特定する。検索部67は、注入レシピに含まれる二次元不均一ドーズ量分布のシミュレーションによる推定値を検索対象としてもよいし、注入レシピに含まれる二次元不均一ドーズ量分布の目標値を検索対象としてもよい。
【0073】
検索部67は、
図5(b)に示したような複数の格子点75のそれぞれにおけるドーズ量を比較することで、二次元不均一ドーズ量分布の類似性を評価する。検索部67は、例えば、複数の格子点75のドーズ量の差の標準偏差が所定の基準値以下である場合に比較した二次元不均一ドーズ量分布が類似すると判定する。検索部67は、他の手法に基づいて二次元不均一ドーズ量分布の類似性を評価してもよく、コサイン類似度、ピアソン相関などの相関係数や、ユークリッド距離、マハラノビス距離、チェビシェフ距離などの距離計量(distance metric)を用いてもよい。
【0074】
検索部67は、類似する二次元不均一ドーズ量分布を検索する前の準備処理として、新たに取得した二次元不均一ドーズ量分布の目標値を比較可能なデータ形式に変換してもよい。検索部67は、新たに取得した二次元不均一ドーズ量分布の目標値が
図5(b)に示したような複数の格子点75におけるドーズ量を定めるデータ形式ではない場合、複数の格子点75におけるドーズ量を定めるデータ形式に変換してもよい。
【0075】
検索部67は、注入レシピに含まれる二次元不均一ドーズ量分布以外の注入条件を検索条件として使用してもよい。例えば、注入レシピに定められる1)イオン種、2)ビームエネルギー、3)ビーム電流、4)ビームサイズといったビーム条件の少なくとも一つが一致または類似する注入レシピを特定するようにしてもよい。この場合、二次元不均一ドーズ量分布の新たな目標値とともにビーム条件の少なくとも一つを取得し、取得した少なくとも一つのビーム条件に対応する注入レシピの中から目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを特定してもよい。
【0076】
検索部67は、新たに取得した二次元不均一ドーズ量分布の目標値に基づいて、ビーム条件の少なくとも一つを決定してもよい。例えば、検索部67は、二次元不均一ドーズ量分布の目標値を実現するために必要となるビーム電流やビームサイズの制約条件を決定してもよい。検索部67は、決定した少なくとも一つのビーム条件に一致または類似する注入レシピの中から目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを特定してもよい。
【0077】
検索部67は、検索結果をディスプレイに表示してもよい。検索部67は、新たに取得した二次元不均一ドーズ量の目標値を示す第1マップと、目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を示す第2マップとをディスプレイに表示し、第1マップと第2マップをユーザが比較検証できるようにしてもよい。検索部67は、第1マップと第2マップの差を示す差分マップを生成してディスプレイに表示してもよい。検索部67は、第1マップと第2マップの類似度を評価する指標をディスプレイに表示してもよく、標準偏差や相関係数、距離計量などの類似性の指標を示す値をディスプレイに表示してもよい。
【0078】
検索部67は、新たに取得した目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを複数特定してもよい。検索部67は、特定した複数の注入レシピをディスプレイに表示し、表示された注入レシピのいずれかをユーザが選択できるようにしてもよい。検索部67は、特定した複数の注入レシピを類似度の大きさ順に並び替えて表示してもよい。
【0079】
新規作成部68は、新たに取得した目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を実現するための補正データセットを自動作成する。新規作成部68は、目標値とする二次元不均一ドーズ量分布をy方向に分割し、複数の分割領域のそれぞれにおける一次元不均一ドーズ量分布D(x)に変換する。新規作成部68は、複数の分割領域のそれぞれにおける一次元不均一ドーズ量分布D(x)を規格化して複数の初期関数f(x)を生成する。新規作成部68は、複数の初期関数のうち互いに類似する関数を初期集約し、複数の初期関数の個数よりも少ない個数の複数の集約関数g(x)を生成する。シミュレーション部69は、生成された複数の集約関数g(x)に基づくイオン注入をシミュレーションし、ウェハ処理面WS内における二次元不均一ドーズ量分布の推定値を算出する。新規作成部68は、算出された推定値が目標値に類似するように複数の集約関数g(x)を修正することで、複数の補正関数h(x)を生成する。
【0080】
図10は、複数の一次元不均一ドーズ量分布D(x)の一例を示す図である。
図6と同様に、ウェハ処理面WSがy方向に分割されて複数の分割領域86が設定される。ウェハ処理面WS内の目標値となる二次元不均一ドーズ量分布83は、複数の分割領域86のそれぞれにおける一次元ドーズ量分布D(x)に変換される。複数の分割領域86のそれぞれに設定される一次元不均一ドーズ量分布D(x)は、ウェハ処理面WS内において第2方向(y方向)に異なる複数の位置における第1方向(x方向)の一次元ドーズ量分布を示す。
【0081】
図10では、ウェハ処理面WSを31個の分割領域86に分割するとともに、1番目の分割領域86a、4番目の分割領域86b、8番目の分割領域86c、12番目の分割領域86d、16番目の分割領域86e、20番目の分割領域86fにおける一次元不均一ドーズ量分布D(x)を例示している。図示する例では、31個の分割領域86に対応して31個の一次元不均一ドーズ量分布D(x)が生成される。複数の分割領域86の分割幅d3は、イオンビームBのビームサイズよりも小さくなるように設定され、例えば10mmに設定される。
【0082】
複数の分割領域86のそれぞれには、ウェハ処理面WSが位置する注入範囲81が設定される。注入範囲81は、
図7の相関情報ファイルに設定されるX範囲と同等である。複数の分割領域86のそれぞれには、ウェハ処理面WSが位置しない非注入範囲82が設定されうる。非注入範囲82は、注入範囲81の外側の範囲であり、
図7の相関情報ファイルに設定されるX範囲以外の範囲である。注入範囲81および非注入範囲82は、ウェハ処理面WS内の第2方向(y方向)の位置におけるウェハ処理面WSの第1方向(x方向)大きさに応じて異なりうる。なお、分割領域86の全体が注入範囲81となる場合、その分割領域86には非注入範囲82が設定されなくてもよい。
図10の例では、分割領域86d~86fにおいて注入範囲81のみが設定され、非注入範囲82が設定されていない。一方、分割領域86a~86cにおいては、注入範囲81および非注入範囲82の双方が設定されている。
【0083】
図11は、規格化された複数の初期関数f(x)の一例を示す図である。複数の初期関数f(x)は、複数の分割領域86のそれぞれについて生成され、複数の一次元不均一ドーズ量分布D(x)を規格化することにより生成される。例えば、31個の分割領域86に対応して31個の初期関数f(x)が生成される。
図11では、
図10と同じ6個の分割領域86a~86fにおいて生成される初期関数f(x)を示している。
【0084】
初期関数f(x)は、元となる一次元不均一ドーズ量分布D(x)に比例する関数である。一次元不均一ドーズ量分布D(x)と初期関数f(x)の比例係数は、上述の補正係数kに相当し、D(x)=k・f(x)の関係性が成立する。補正係数kの値は、複数の分割領域86のそれぞれについて異なりうる。補正係数kの値は、初期関数f(x)の生成時に決定される。
【0085】
初期関数f(x)は、初期関数f(x)の最大値、平均値または初期関数f(x)を第1方向(x方向)に積分した積分値が所定値となるように設定される。初期関数f(x)は、例えば、注入範囲81における初期関数f(x)の平均値が所定値f
0となるように定められる。例えば、注入範囲81の範囲を(x
1≦x≦x
2)とすると、注入範囲81における初期関数の積分値∫f(x)dxがf
0・(x
2-x
1)の値に等しくなるように初期関数f(x)が設定される。つまり、次式(1)が成立するように初期関数f(x)が設定される。
【数1】
【0086】
つづいて、複数の初期関数f(x)のうち互いに類似する関数を集約し、複数の初期関数f(x)の個数よりも少ない個数の複数の集約関数g(x)を生成する。一例を挙げれば、31個の初期関数f(x)を集約することで、5個~10個程度の集約関数g(x)を生成する。新規作成部68は、集約対象とする初期関数f(x)をリストアップした関数リストを作成し、関数リストに含まれる複数の関数のうち最も類似性の高い二つの関数fA(x)およびfB(x)を選択する。新規作成部68は、選択した二つの関数fA(x)およびfB(x)を平均化することで新たな関数(集約関数g(x)ともいう)を生成する。新規作成部68は、選択した二つの関数fA(x)およびfB(x)を関数リストから削除し、新たに生成した集約関数g(x)を関数リストに登録する。これにより、関数リストに登録される関数の個数が一つ減少する。
【0087】
新規作成部68は、関数リストに含まれる関数の集約を繰り返し実行することで、関数リストに登録される関数の個数を減らしていく。2回目以降の集約処理では、初期関数f(x)と初期関数f(x)を集約する場合、初期関数f(x)と集約関数g(x)を集約する場合、集約関数g(x)と集約関数g(x)を集約する場合がありうる。集約処理は所定条件を満たすまで繰り返される。集約処理は、例えば、関数リストに含まれる関数の個数が所定数以下(例えば10個)となるまで、または、互いに類似する関数が関数リストに含まれなくなるまで実行される。最終的な関数リストには、複数の集約関数g(x)が含まれる。最終的な関数リストには、1度も集約処理がなされてない初期関数f(x)が含まれることもある。最終的に残る関数の個数は、初期関数の個数の半分以下であってもよい。
【0088】
新規作成部68は、関数リストに含まれる複数の関数のうち任意の二つの関数の類似性を示す指標を計算し、類似性が最も高くなる二つの関数の組み合わせを特定する。新規作成部68は、任意の二つの関数f
1(x)およびf
2(x)の差f
1(x)-f
2(x)の標準偏差に基づいて類似性を評価してもよいし、二つの関数f
1(x)およびf
2(x)の距離計量αに基づいて類似性を評価してもよい。距離計量αは、例えば次式(2)で表される。
【数2】
【0089】
図12は、集約前および集約後の関数の一例を示す図であり、集約前の二つの初期関数f
1(x),f
2(x)と、集約後の集約関数g(x)とを示している。新規作成部68は、二つの関数f
1(x),f
2(x)の類似性を評価する場合、二つの関数f
1(x),f
2(x)の注入範囲81が重なる範囲の関数形状に基づいて類似性を評価してもよい。図示されるように、第1関数f
1(x)の注入範囲81(x
11≦x≦x
12)よりも第2関数f
2(x)の注入範囲81(x
21≦x≦x
22)が小さい場合、つまり、x
11<x
21かつx
22<x
12である場合、第2関数f
2(x)の注入範囲81(x
21≦x≦x
22)において二つの関数f
1(x),f
2(x)の類似性を評価してもよい。具体的には、二つの関数f
1(x)およびf
2(x)の距離関数αを第2関数f
2(x)の注入範囲81(x
21≦x≦x
22)において計算し、算出された値に基づいて二つの関数f
1(x)およびf
2(x)の類似性を評価してもよい。
【0090】
新規作成部68は、類似する二つの関数f1(x),f2(x)を集約する場合、二つの関数f1(x),f2(x)の注入範囲81が重なる範囲については両者を平均化し、注入範囲81が重ならない範囲については一方の関数の値のみを採用してもよい。図示されるように、二つの関数f1(x),f2(x)の注入範囲81が重なる範囲(x21≦x≦x22)については、集約関数g(x)の値を二つの関数の平均値[f1(x)+f2(x)]/2とする。一方、二つの関数f1(x),f2(x)の注入範囲81が重ならない範囲、より具体的には第1関数f1(x)の注入範囲81であって第2関数f2(x)の非注入範囲82(つまり、x11≦x<x21、x22<x≦x12)については、集約関数g(x)の値を第1関数f1(x)の値とする。このようにして、二つの関数f1(x),f2(x)を集約して集約関数g(x)が算出される。
【0091】
集約関数g(x)においても注入範囲81が設定される。集約関数g(x)の注入範囲81は、元の二つの関数f
1(x),f
2(x)の少なくとも一方において注入範囲81に設定される範囲である。
図12に示される例では、第1関数f
1(x)の注入範囲81(x
11≦x≦x
12)が集約関数g(x)の注入範囲81となる。集約関数g(x)におおける注入範囲81の外側は、非注入範囲82として設定されうる。集約関数g(x)の全体が注入範囲81となる場合、集約関数g(x)に対して非注入範囲82が設定されなくてもよい。
【0092】
集約関数g(x)には、集約数nが設定される。集約数nは、集約関数g(x)を生成するための元となった初期関数f(x)の個数に相当する。例えば、二つの初期関数f(x)を集約して集約関数g(x)を生成した場合には、集約数はn=2となる。初期関数f(x)の集約数はn=1であり、集約関数g(x)の集約数は、集約した二つの関数の集約数の和となる。例えば、集約数n1の第1集約関数g1(x)と集約数n2の第2集約関数g2(x)を集約して第3集約関数g3(x)を生成した場合、第3集約関数g3(x)の集約数n3は、n3=n1+n2となる。
【0093】
集約数nは、集約対象となる二つの関数の類似性を評価する際や、二つの関数を平均化して集約する際の重み付けに用いられてもよい。例えば、集約数n1の第1集約関数g1(x)と集約数n2の第2集約関数g2(x)を集約して第3集約関数g3(x)を生成する場合には、g3(x)={n1・g1(x)+n2・g2(x)}/(n1+n2)とすることができる。
【0094】
新規作成部68は、複数の初期関数f(x)を集約していく過程で、関数リストに登録される複数の関数と、複数の分割領域86とを対応付ける相関情報ファイルを生成する。集約処理を実行する前の相関情報ファイルは、複数の分割領域86のそれぞれに対応する初期関数f(x)を紐付けている。新規作成部68は、集約処理を実行すると、集約前の二つの関数が紐付けられていたそれぞれの分割領域に対して集約後の集約関数を紐付ける。集約処理の実行時に相関情報ファイルを更新していくことで、複数の分割領域86のそれぞれに対して集約完了後の複数の集約関数のいずれかが紐付けられる。
【0095】
シミュレーション部69は、作成された集約関数および相関情報に基づくイオン注入をシミュレーションし、ウェハ処理面WS内における二次元不均一ドーズ量分布の推定値を算出する。シミュレーション部69は、集約関数g(x)に基づいてビーム走査部32を動作させたときの注入位置Cにおける第1方向(x方向)のビーム電流密度分布を推定する。シミュレーション部69は、ビーム走査部32の応答特性を考慮してビーム電流密度分布を推定する。シミュレーション部69は、例えば、集約関数g(x)に基づいてビーム走査部32に指令する走査電圧パラメータを生成し、ビーム走査部32の応答を模擬したシミュレータに走査電圧パラメータを入力し、スキャンビームSBの第1方向(x方向)のビームスキャン速度分布vB(x)を出力として得る。シミュレーション部69は、イオンビームのビーム電流Iを走査速度分布vB(x)で除算することにより、ビーム電流密度分布を反映した値であるI/vB(x)を算出する。シミュレーションを実施する際には、第1方向(x方向)のビームサイズを参照することで、より実際の注入に近い状態を模したI/vB(x)を算出してもよい。
【0096】
シミュレーション部69は、複数の集約関数のそれぞれについてビーム電流密度分布の推定値を算出する。シミュレーション部69は、相関情報に定められる複数の分割領域86のそれぞれにおける補正係数kに基づいて第2方向(y方向)のウェハスキャン速度分布vW(y)を算出する。シミュレーション部69は、ビーム電流密度分布I/vB(x)と、ウェハスキャン速度分布vW(y)とを組み合わせることにより、ウェハ処理面WS内の特定の位置座標(x,y)に入射するイオンビームのビーム電流密度分布を反映した値であるI/(vB(x)・vW(y))を算出する。シミュレーション部69は、複数の格子点75のそれぞれにおけるビーム電流密度を計算することで、ウェハ処理面WS内における二次元不均一ドーズ量分布の推定値を算出する。シミュレーションを実施する際には、第2方向(y方向)のビームサイズを参照することで、より実際の注入に近い状態を模したI/(vB(x)・vW(y))を算出してもよい。
【0097】
シミュレーション部69は、シミュレーションした二次元不均一ドーズ量分布の推定値と、集約関数および相関情報の生成の元にした二次元不均一ドーズ量分布の目標値を比較し、両者の類似性を評価する。シミュレーション部69は、検索部67と同様の手法で二次元不均一ドーズ量分布の推定値と目標値の類似性を評価してもよい。新規作成部68は、二次元不均一ドーズ量分布の推定値と目標値が類似していれば、作成した集約関数および相関情報を補正データセットとして注入レシピに登録する。作成された複数の集約関数g(x)のそれぞれは補正関数h(x)として注入レシピに登録される。一方、新規作成部68は、二次元不均一ドーズ量分布の推定値と目標値が類似していなければ、作成した集約関数および相関情報を修正する。
【0098】
新規作成部68は、二次元不均一ドーズ量分布の目標値を変更して集約関数および相関情報を再作成することにより、集約関数および相関情報を修正してもよい。二次元不均一ドーズ量分布の当初目標値をDT(x,y)とし、シミュレーションにより得られた二次元不均一ドーズ量分布の推定値をDS(x,y)とする。推定値DS(x,y)が当初目標値DT(x,y)に類似していない場合、両者の差分値ΔD(x,y)=DT(x,y)-DS(x,y)を当初目標値に加算した合計値DN(x,y)=DT(x,y)+m・ΔD(x,y)(m>0)を新たな目標値として集約関数および相関情報を再作成する。差分値ΔDの重み付けを調整する係数mは、m=1であってもよいし、m<1であってもよいし、m>1であってもよい。集約関数および相関情報の再作成方法は、上述した当初目標値に基づく集約関数および相関情報の作成方法と同じである。
【0099】
シミュレーション部69は、再作成した集約関数および相関情報にしたがってイオン注入をシミュレーションして二次元不均一ドーズ量分布の新たな推定値を算出する。シミュレーション部69は、算出した二次元不均一ドーズ量分布の新たな推定値を当初目標値と比較し、両者の類似性を評価する。新規作成部68は、二次元不均一ドーズ量分布の新たな推定値と当初目標値が類似していれば、再作成した集約関数および相関情報を補正データセットとして注入レシピに登録する。再作成された複数の集約関数g(x)のそれぞれは補正関数h(x)として注入レシピに登録される。一方、新規作成部68は、二次元不均一ドーズ量分布の推定値と目標値が類似していなければ、集約関数および相関情報を再作成する。
【0100】
新規作成部68は、当初目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を実現する補正データセットが見つかるまで集約関数および相関情報の再作成を繰り返してもよい。新規作成部68は、再作成回数が所定数に達した場合に再作成を中止してアラートを出力し、補正データセットの自動作成ができない旨をユーザに通知してもよい。
【0101】
新規作成部68は、集約関数および相関情報の再作成を繰り返し、複数作成された集約関数および相関情報の中で当初目標値に最も類似する推定値に対応する集約関数および相関情報を補正データセットとして登録してもよい。この場合、当初目標値に最も類似する推定値に対応する複数の集約関数g(x)のそれぞれが補正関数h(x)として注入レシピに登録される。
【0102】
新規作成部68は、自動作成した集約関数g(x)を補正関数h(x)として注入レシピに登録する前に、集約関数g(x)に平滑化処理を施してもよい。新規作成部68は、集約関数g(x)に対して平滑化処理を施した関数を補正関数h(x)として注入レシピに登録してもよい。平滑化処理は、関数の第1方向(x方向)の変化率が相対的に小さくなるように実行される。新規作成部68は、任意の平滑化フィルタを適用することで集約関数の平滑化処理を実行してもよく、例えば移動平均フィルタや加重平均フィルタなどを集約関数に適用してもよい。集約関数g(x)に施される平滑化処理は、シミュレーション部69が集約関数g(x)および相関情報に基づくシミュレーションを実施する前に行われてもよい。つまり、平滑化処理を施した補正関数h(x)および相関情報に基づいてシミュレーション部69によるシミュレーションが行われてもよい。
【0103】
新規作成部68は、関数の第1方向の変化率が所定値よりも小さくなるまで平滑化処理を繰り返してもよい。新規作成部68は、ビーム走査部32の応答特性に応じて平滑化処理を繰り返してもよい。例えば、ビーム走査部32の制御電圧の時間変化率dV/dtに上限値が設定されている場合、集約関数の第1方向の変化率が電圧変化率の上限値に対応する変化率を超えないように集約関数が平滑化される。
【0104】
新規作成部68は、二次元不均一ドーズ量分布の目標値を実現するための複数の集約関数のうち、少なくとも一つの集約関数に対して平滑化処理を施してもよいし、全ての集約関数に対して平滑化処理を施してもよい。複数の集約関数のそれぞれの関数形状に応じて、複数の集約関数のそれぞれに対する平滑化処理の処理内容や処理回数を関数ごとに異ならせてもよい。新規作成部68は、複数の集約関数のそれぞれに対して同一の平滑化処理を施してもよい。
【0105】
新規作成部68は、集約関数に基づいてイオンビームを往復スキャンさせたときに実際に測定される第1方向(x方向)のビーム電流密度分布に応じて、集約関数に平滑化処理を施してもよい。新規作成部68は、集約関数に基づいてイオンビームを往復スキャンさせたときのビーム電流密度分布の測定値が集約関数に類似する形状であるかを確認する。新規作成部68は、ビーム電流密度分布の測定値が集約関数に類似する形状ではない場合、集約関数を平滑化して補正関数を生成してもよい。新規作成部68は、平滑化された補正関数に基づいてイオンビームを往復スキャンさせたときのビーム電流密度分布の測定値が補正関数に類似する形状であるかを確認してもよい。新規作成部68は、ビーム電流密度分布の測定値が補正関数に類似する形状ではない場合、補正関数をさらに平滑化してもよい。
【0106】
図13は、実施の形態に係るイオン注入方法の流れを示すフローチャートである。制御装置60は、二次元不均一ドーズ量分布の新たな目標値を取得し(S10)、目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを検索する(S12)。目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピがあれば(S14のY)、目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を実現する補正データセットを取得する(S16)。目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピがなければ(S14のN)、目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を実現する補正データセットを作成する(S18)。
【0107】
制御装置60は、補正データセットにしたがってイオンビームをスキャンし、スキャンされるイオンビームのビーム電流密度分布の測定値を取得する(S20)。ビーム電流密度分布の測定値が目標値とする二次元不均一ドーズ量分布に対応していれば(S22のY)、補正データセットにしたがってウェハにイオンを注入する(S24)。ビーム電流密度分布の測定値が目標値とする二次元不均一ドーズ量分布に対応しておらず(S22のN)、ビーム調整可能であれば(S26のY)、ビームを調整し(S30)、S20~S22の処理を繰り返す。制御装置60は、S30において、例えば、ビームサイズが小さくなるようにビーム調整したり、ビーム電流が小さくなるようにビーム調整したりすることができる。制御装置60は、S26においてビーム調整が不可であれば(S26のN)、アラートを出力する(S28)。
【0108】
図14は、S18のデータセットの作成処理の流れを示すフローチャートである。制御装置60は、目標値とする二次元不均一ドーズ量分布を第2方向(y方向)に分割し、複数の第1方向(x方向)の一次元ドーズ量分布D(x)を生成する(S30)。制御装置60は、複数の一次元ドーズ量分布D(x)を規格化して複数の初期関数f(x)を生成する(S32)。制御装置60は、互いに類似する初期関数f(x)を集約して複数の集約関数g(x)を生成する(S34)。制御装置60は、複数の集約関数g(x)と相関情報に基づくイオン注入をシミュレーションして二次元不均一ドーズ量分布の推定値D
S(x,y)を算出する(S36)。算出した推定値D
S(x,y)が当初目標値D
T(x,y)に類似していれば(S38のY)、複数の集約関数g(x)を平滑化して複数の補正関数h(x)を生成し、補正データセットを決定する(S40)。算出した推定値D
S(x,y)が当初目標値D
T(x,y)に類似していなければ(S38のN)、目標値と推定値の差分値ΔD(x,y)を目標値に加算した合計値D
N(x,y)を新たな目標値に設定し(S42)、S30~S38の処理を繰り返す。
【0109】
制御装置60は、同一ロットに含まれる複数のウェハに対してまとめて
図13および
図14に示される方法を適用してもよい。これにより、ロットごとに異なる目標値となる二次元不均一ドーズ量分布を実現するイオン注入処理を実行できる。ロットごとに目標値を異ならせる場合であっても、過去の注入レシピの中から類似するレシピを特定することで、注入レシピを新規作成する手間を省くことができる。また、過去の注入レシピの中に類似するレシピがない場合であっても、補正データセットを自動作成できるため、補正データセットをマニュアルで作成する手間を省くことができる。これにより、ロットごとに最適な二次元不均一ドーズ量分布が実現されるように不均一注入を実施する場合であっても、不均一注入の準備作業にかかる工数を低減することができ、イオン注入装置10の生産性を向上させることができる。
【0110】
制御装置60は、同一ロットに含まれる複数のウェハのそれぞれに対して個別に
図13および
図14に示される方法を適用してもよい。これにより、ウェハごとに異なる目標値となる二次元不均一ドーズ量分布を実現するイオン注入処理を実行できる。ウェハごとに目標値を変える場合には、ロットごとに目標値を変える場合に比べて注入レシピを用意する準備作業にかかる工数が大幅に増加しうる。しかしながら、本実施の形態によれば、補正データセットの特定または新規作成が自動化されているため、ウェハごとに必要とされる不均一注入の準備作業にかかる工数を大幅に低減できる。これにより、イオン注入装置10の生産性を向上させることができる。
【0111】
本実施の形態によれば、ロット単位またはウェハ単位で最適な不均一注入を実現することが容易となるため、イオン注入工程以外の製造工程にて生じる特性のばらつきを不均一注入によって適切に補正することが容易となる。これにより、イオン注入装置10の生産性を過度に低下させることなく、半導体デバイスの歩留まりの改善に大きく貢献できる。
【0112】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【0113】
本実施の形態のある態様は以下の通りである。
(項1-1)
イオンビームを生成するビーム生成装置と、
前記イオンビームを第1方向に往復スキャンさせるビームスキャナと、
前記往復スキャンされるイオンビームがウェハ処理面に照射されるようにウェハを保持しながら、前記第1方向と直交する第2方向に前記ウェハを往復スキャンさせるプラテン駆動装置と、
前記ウェハ処理面に所望の二次元不均一ドーズ量分布のイオンが注入されるように、前記ウェハ処理面内において前記イオンビームが照射される前記第1方向および前記第2方向のビーム照射位置に応じて、前記第1方向のビームスキャン速度および前記第2方向のウェハスキャン速度を変化させる制御装置と、を備え、
前記制御装置は、複数の注入レシピを保持し、前記複数の注入レシピのそれぞれは、前記ウェハ処理面内における二次元不均一ドーズ量分布と、前記ウェハ処理面内において前記第2方向に異なる複数の位置における前記第1方向の複数の一次元ドーズ量分布に基づいて定められる複数の補正関数と、前記二次元不均一ドーズ量分布と前記複数の補正関数とを対応付ける相関情報とを含み、
前記制御装置は、前記二次元不均一ドーズ量分布の目標値を新たに取得した場合、前記目標値に類似する前記二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを前記複数の注入レシピの中から特定し、
前記制御装置は、前記特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数および前記相関情報に基づいて前記第1方向のビームスキャン速度および前記第2方向のウェハスキャン速度を変化させ、前記ウェハ処理面に前記目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布のイオンを注入することを特徴とするイオン注入装置。
(項1-2)
前記複数の注入レシピのそれぞれに含まれる前記二次元不均一ドーズ量分布は、前記ウェハ処理面内における複数の格子点の位置とドーズ量を対応付けるデータにより定義され、
前記制御装置は、前記複数の格子点のそれぞれのドーズ量を比較して前記二次元不均一ドーズ量分布の類似性を評価することを特徴とする項1-1に記載のイオン注入装置。
(項1-3)
前記制御装置は、前記複数の格子点のドーズ量の差の標準偏差に基づいて前記類似性を評価することを特徴とする項1-2に記載のイオン注入装置。
(項1-4)
前記制御装置は、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値を前記複数の格子点の位置とドーズ量を対応付けるデータに変換し、前記二次元不均一ドーズ量分布の類似性を評価することを特徴とする項1-2または項1-3に記載のイオン注入装置。
(項1-5)
前記複数の注入レシピのそれぞれは、前記イオンビームのイオン種、エネルギー、ビーム電流およびビームサイズを定めるビーム条件をさらに含み、
前記制御装置は、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値とともに前記ビーム条件の少なくとも一部を取得し、前記複数の注入レシピのうち、前記取得した少なくとも一部のビーム条件に対応する注入レシピの中から、前記目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを特定することを特徴とする項1-1から項1-4のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-6)
前記複数の注入レシピのそれぞれは、前記イオンビームのイオン種、エネルギー、ビーム電流およびビームサイズを定めるビーム条件をさらに含み、
前記制御装置は、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値に基づいて前記ビーム条件の少なくとも一部を決定し、前記複数の注入レシピのうち、前記決定した少なくとも一部のビーム条件に対応する注入レシピの中から、前記目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを特定することを特徴とする項1-1から項1-5のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-7)
前記イオン注入装置は、イオン注入時に前記ウェハ処理面が位置する注入位置において前記イオンビームの前記第1方向のビーム電流密度分布を測定可能なビーム測定装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記ウェハ処理面にイオンを注入する前に、前記特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数のそれぞれに基づいて前記イオンビームを往復スキャンさせたときに前記ビーム測定装置により測定される複数のビーム電流密度分布が前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値に類似する形状であるかを確認することを特徴とする項1-1から項1-6のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-8)
前記イオンビームのビームサイズを調整するための収束/発散装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数の少なくとも一つに基づいて前記イオンビームを往復スキャンさせたときに前記ビーム測定装置に測定される少なくとも一つのビーム電流密度分布が前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値に類似する形状ではない場合、前記イオンビームのビームサイズが小さくなるように前記収束/発散装置のパラメータを調整することを特徴とする項1-7に記載のイオン注入装置。
(項1-9)
前記制御装置は、前記特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数の少なくとも一つに基づいて前記イオンビームを往復スキャンさせたときに前記ビーム測定装置に測定される少なくとも一つのビーム電流密度分布が前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値に類似する形状ではない場合、前記イオンビームのビーム電流が小さくなるように前記ビーム生成装置のパラメータを調整することを特徴とする項1-7または項1-8に記載のイオン注入装置。
(項1-10)
前記複数の注入レシピの少なくとも一つに含まれる前記二次元不均一ドーズ量分布は、前記イオン注入装置が前記複数の注入レシピの少なくとも一つにしたがってイオンを注入したときの前記ウェハ処理面内におけるドーズ量の実測値に基づくことを特徴とする項1-1から項1-9のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-11)
前記複数の注入レシピの少なくとも一つに含まれる前記二次元不均一ドーズ量分布は、前記イオン注入装置とは別のイオン注入装置が前記複数の注入レシピの少なくとも一つにしたがってイオンを注入したときの前記ウェハ処理面内におけるドーズ量の実測値に基づくことを特徴とする項1-1から項1-10のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-12)
前記複数の注入レシピの少なくとも一つに含まれる前記二次元不均一ドーズ量分布は、前記複数の注入レシピの少なくとも一つにしたがったイオン注入をシミュレーションしたときの前記ウェハ処理面内におけるドーズ量の推定値に基づくことを特徴とする項1-1から項1-11のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-13)
前記制御装置は、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値を示す第1マップ、前記目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布を示す第2マップ、および、前記第1マップと前記第2マップの差を示す差分マップの少なくとも一つをディスプレイに表示させることを特徴とする項1-1から項1-12のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-14)
前記制御装置は、前記複数の注入レシピに含まれる二次元不均一ドーズ量分布のいずれも前記目標値に類似しない場合、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値を実現するための前記複数の補正関数および前記相関情報を新規作成することを特徴とする項1-1から項1-13のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-15)
前記制御装置は、同一ロットに含まれる複数のウェハのそれぞれに設定される前記二次元不均一ドーズ量分布の複数の目標値を新たに取得した場合、前記複数の目標値に類似する前記二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを前記複数の注入レシピの中から特定し、
前記制御装置は、前記特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数および前記相関情報に基づいて前記第1方向のビームスキャン速度および前記第2方向のウェハスキャン速度を変化させ、前記複数のウェハのそれぞれのウェハ処理面に前記複数の目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布のイオンを注入することを特徴とする項1-1から項1-14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-16)
前記制御装置は、同一ロットに含まれる複数のウェハのそれぞれに設定される前記二次元不均一ドーズ量分布の複数の目標値を新たに取得した場合、前記複数の目標値のそれぞれに類似する前記二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを前記複数の注入レシピの中から前記複数のウェハのそれぞれについて特定し、
前記制御装置は、前記複数のウェハのそれぞれについて特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数および前記相関情報に基づいて前記第1方向のビームスキャン速度および前記第2方向のウェハスキャン速度を変化させ、前記複数のウェハのそれぞれのウェハ処理面に前記複数の目標値のそれぞれに類似する二次元不均一ドーズ量分布のイオンを注入することを特徴とする項1-1から項1-14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項1-17)
項1-1から項1-16のいずれか一項に記載のイオン注入装置を用いるイオン注入方法であって、
前記ウェハ処理面内における前記二次元不均一ドーズ量分布の目標値を新たに取得することと、
前記目標値に類似する前記二次元不均一ドーズ量分布を含む注入レシピを前記複数の注入レシピの中から特定することと、
前記特定した注入レシピに含まれる前記複数の補正関数および前記相関情報に基づいて前記第1方向のビームスキャン速度および前記第2方向のウェハスキャン速度を変化させ、前記ウェハ処理面に前記目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布のイオンを注入することと、を備えることを特徴とするイオン注入方法。
【0114】
本実施の形態の別の態様は以下の通りである。
(項2-1)
イオンビームを生成するビーム生成装置と、
前記イオンビームを第1方向に往復スキャンさせるビームスキャナと、
前記往復スキャンされるイオンビームがウェハ処理面に照射されるようにウェハを保持しながら、前記第1方向と直交する第2方向に前記ウェハを往復スキャンさせるプラテン駆動装置と、
前記ウェハ処理面に所望の二次元不均一ドーズ量分布のイオンが注入されるように、前記ウェハ処理面内において前記イオンビームが照射される前記第1方向および前記第2方向のビーム照射位置に応じて、前記第1方向のビームスキャン速度および前記第2方向のウェハスキャン速度を変化させる制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記ウェハ処理面内における二次元不均一ドーズ量分布の目標値を取得した場合、前記ウェハ処理面内において前記第2方向に異なる複数の位置における前記第1方向の一次元ドーズ量分布に基づいて定められる複数の集約関数と、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値と前記複数の集約関数とを対応付ける相関情報とを生成し、
前記制御装置は、前記複数の集約関数および前記相関情報に基づくイオン注入をシミュレーションしたときの前記ウェハ処理面内における二次元不均一ドーズ量分布の推定値を算出し、前記推定値が前記目標値に類似するように前記複数の集約関数を修正して複数の補正関数を生成し、
前記制御装置は、前記複数の補正関数および前記相関情報に基づいて前記第1方向のビームスキャン速度および前記第2方向のウェハスキャン速度を変化させ、前記ウェハ処理面に前記目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布のイオンを注入することを特徴とするイオン注入装置。
(項2-2)
前記制御装置は、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値を前記第2方向に分割することで、前記第2方向に分割された前記ウェハ処理面内の複数の領域のそれぞれにおける前記第1方向の複数の一次元不均一ドーズ量分布を生成し、
前記制御装置は、前記複数の一次元不均一ドーズ量分布に対応する複数の初期関数を生成し、前記複数の初期関数のうち類似する関数を集約することで、前記複数の初期関数の個数よりも少ない個数の前記複数の集約関数を生成することを特徴とする項2-1に記載のイオン注入装置。
(項2-3)
前記制御装置は、前記複数の初期関数のそれぞれの最大値、前記複数の初期関数のそれぞれの平均値、または、前記複数の初期関数のそれぞれを前記第1方向に積分した積分値が所定値となるように前記複数の一次元不均一ドーズ量分布を規格化することにより、前記複数の初期関数を生成することを特徴とする項2-2に記載のイオン注入装置。
(項2-4)
前記複数の初期関数は、前記ウェハ処理面が位置する注入範囲と、前記ウェハ処理面を超えて前記イオンビームが前記第1方向にオーバースキャンされる非注入範囲とを含むビームスキャン範囲にわたって定義され、
前記制御装置は、前記複数の初期関数のそれぞれの前記注入範囲における関数の類似性に基づいて前記複数の初期関数を集約することを特徴とする項2-2または項2-3に記載のイオン注入装置。
(項2-5)
前記制御装置は、前記注入範囲における関数が互いに類似する二以上の初期関数を平均化して前記二以上の初期関数を一つの集約関数に集約することを特徴とする項2-4に記載のイオン注入装置。
(項2-6)
前記複数の初期関数のそれぞれの前記注入範囲は、前記複数の初期関数のそれぞれが生成される前記ウェハ処理面内の前記第2方向の位置における前記ウェハ処理面の前記第1方向の大きさに応じて異なることができ、
前記制御装置は、第1初期関数と、前記第1初期関数よりも前記注入範囲の小さい第2初期関数とを集約する場合、前記第1初期関数の前記注入範囲と前記第2初期関数の前記注入範囲が重なる前記第1方向の位置において前記第1初期関数と前記第2初期関数を平均化し、前記第1初期関数の前記注入範囲と前記第2初期関数の前記非注入範囲が重なる前記1方向の別の位置において前記第1初期関数の値を採用することにより、前記第1初期関数および前記第2初期関数を集約することを特徴とする項2-4または項2-5に記載のイオン注入装置。
(項2-7)
前記制御装置は、互いに類似する初期関数と集約関数を集約して、または、互いに類似する二以上の集約関数を集約して新たな集約関数を生成することを特徴とする特徴とする項2-2から6のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-8)
前記制御装置は、互いに類似する初期関数または集約関数が存在しなくなるまで、または、集約関数の個数が所定数以下となるまで、初期関数または集約関数の集約を繰り返すことを特徴とする項2-7に記載のイオン注入装置。
(項2-9)
前記複数の集約関数の個数は、前記複数の初期関数の個数の半分以下であることを特徴とする項2-2から項2-8のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-10)
前記第2方向に分割された前記ウェハ処理面内の前記複数の領域のそれぞれの前記第2方向における大きさは、前記イオンビームの前記第2方向におけるビームサイズの半分以下であることを特徴とする項2-2から項2-9のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-11)
前記制御装置は、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値と前記推定値の差分値を算出し、前記目標値と前記差分値の合計値を算出し、前記合計値を新たな目標値に設定して前記複数の集約関数を新たに生成することにより、前記複数の補正関数を生成することを特徴とする項2-1から項2-10のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-12)
前記制御装置は、前記複数の補正関数および前記相関情報に基づくイオン注入をシミュレーションしたときの前記ウェハ処理面内における二次元不均一ドーズ量分布の新たな推定値を算出し、前記新たな推定値が前記目標値に類似するように前記複数の集約関数を修正することを繰り返すことを特徴とする項2-1から項2-11のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-13)
前記制御装置は、前記ビームスキャナのビームスキャン速度変化の応答性および前記プラテン駆動装置のウェハスキャン速度変化の応答性に基づいて、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記推定値を算出することを特徴とする項2-1から項2-12のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-14)
前記イオン注入装置は、イオン注入時に前記ウェハ処理面が位置する注入位置において前記イオンビームの前記第1方向のビーム電流密度分布を測定可能なビーム測定装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記ウェハ処理面にイオンを注入する前に、前記複数の補正関数のそれぞれに基づいて前記イオンビームを往復スキャンさせたときに前記ビーム測定装置により測定されるビーム電流密度分布が対応する補正関数に類似する形状であるかを確認することを特徴とする項2-1から項2-13のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-15)
前記制御装置は、前記複数の補正関数の少なくとも一つに基づいて前記イオンビームを往復スキャンさせたときに前記ビーム測定装置により測定される少なくとも一つのビーム電流密度分布が対応する補正関数に類似する形状ではない場合、前記複数の補正関数の少なくとも一つの前記第1方向における変化率が所定値よりも小さくなるように前記複数の補正関数の少なくとも一つを平滑化することを特徴とする項2-14に記載のイオン注入装置。
(項2-16)
前記制御装置は、前記複数の集約関数のそれぞれの前記第1方向における変化率が所定値よりも小さくなるように前記複数の集約関数を平滑化することにより、前記複数の補正関数を生成することを特徴とする項2-1から項2-15のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
(項2-17)
項2-1から項2-16のいずれか一項に記載のイオン注入装置を用いるイオン注入方法であって、
前記ウェハ処理面内における二次元不均一ドーズ量分布の目標値を取得することと、
前記目標値に基づいて、前記ウェハ処理面内において前記第2方向に異なる複数の位置における前記第1方向の一次元ドーズ量分布に基づいて定められる複数の集約関数と、前記二次元不均一ドーズ量分布の前記目標値と前記複数の集約関数とを対応付ける相関情報とを生成することと、
前記複数の集約関数および前記相関情報に基づくイオン注入をシミュレーションしたときの前記ウェハ処理面内における二次元不均一ドーズ量分布の推定値を算出することと、
前記推定値に基づいて、前記推定値が前記目標値に類似するように前記複数の集約関数を修正して複数の補正関数を生成することと、
前記複数の補正関数および前記相関情報に基づいて前記第1方向のビームスキャン速度および前記第2方向のウェハスキャン速度を変化させ、前記ウェハ処理面に前記目標値に類似する二次元不均一ドーズ量分布のイオンを注入することと、を備えることを特徴とするイオン注入方法。
【符号の説明】
【0115】
10…イオン注入装置、32…ビーム走査部、44…センターカップ、50…プラテン駆動装置、60…制御装置、61…注入処理制御部、62…ビーム条件制御部、63…ビームスキャン制御部、64…プラテン制御部、65…注入レシピ管理部、66…記憶部、67…検索部、68…新規作成部、69…シミュレーション部、70…注入レシピ、73…二次元不均一ドーズ量分布、74…格子点、77…補正関数ファイル、78…相関情報ファイル、81…注入範囲、82…非注入範囲、B…イオンビーム、W…ウェハ、WS…ウェハ処理面。