(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置及び磁気共鳴イメージング方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230313BHJP
【FI】
A61B5/055 311
(21)【出願番号】P 2019148009
(22)【出願日】2019-08-09
【審査請求日】2022-07-20
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503459637
【氏名又は名称】カリフォルニア大学
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
【住所又は居所原語表記】1111 Franklin Street,8th Floor Oakland,California 94607-5200,USA
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 美津恵
(72)【発明者】
【氏名】チェン・オウヤング
(72)【発明者】
【氏名】クリスティン・チャング
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-225501(JP,A)
【文献】特開平9-182729(JP,A)
【文献】国際公開第2015/190508(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/224653(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/063574(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のTE(Echo Time)に対応する準備モジュールの実行後、傾斜磁場の存在下、RF励起パルスを印加した後、前記傾斜磁場と逆極性の傾斜磁場下、RFリフォーカスパルスを印加するパルスシーケンスである収集シーケンスを実行して第1の収集を行い、
前記第1のTEとは異なる第2のTEに対応する前記準備モジュールの実行後、前記収集シーケンスを実行して第2の収集を行うシーケンス制御部と、
前記第1の収集により得られたデータ及び前記第2の収集により得られたデータに基づいて、第1の脂肪に係る信号及び第2の脂肪に係る信号のうち少なくとも一方を抽出する算出部とを備える、磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記シーケンス制御部は、レシーバゲインを同一に保ったまま、前記第1の収集と前記第2の収集とをリンクして1つの収集として実行する、請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記準備モジュールにおける中心周波数は、前記第1の脂肪の化学シフトに対応する周波数であり、
前記第1のTEは、前記第1の脂肪の信号と前記第2の脂肪の信号とが同位相で収集されるTEであり、
前記第2のTEは、前記第1の脂肪の信号と前記第2の脂肪の信号とが逆位相で収集されるTEである、請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記収集シーケンスは、前記第1の脂肪の化学シフトに対応する周波数の信号を選択する収集シーケンスである、請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記収集シーケンスは、前記第2の脂肪の化学シフトに対応する周波数の信号及び水の化学シフトに対応する周波数の信号のうち少なくとも一方を選択する収集シーケンスである、請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記準備モジュールにおける中心周波数は、水の化学シフトに対応する周波数であり、
前記第1のTEは、前記水の信号と前記第1の脂肪の信号とが同位相で収集されるTEであり、
前記第2のTEは、前記水の信号と前記第1の脂肪の信号とが逆位相で収集されるTEである、請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記収集シーケンスは、前記第2の脂肪の化学シフトに対応する周波数の信号及び水の化学シフトに対応する周波数の信号のうち少なくとも一方を選択する収集シーケンスである、請求項6に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記準備モジュールは、Dixon型の準備モジュールである、請求項1~7のいずれか一つに記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記収集シーケンスは、PASTA(Polarity altered spectral and spatial selective acquisition)を利用した収集シーケンスである、請求項1~8のいずれか一つに記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
ユーザから前記第1の脂肪及び前記第2の脂肪の種類の入力を更に受け付け、受け付けた入力結果に基づいて、前記第1の収集及び前記第2の収集に関する設定を行う制御部を更に備え、
前記シーケンス制御部は、レシーバーゲインを同一に保ったまま、前記第1の収集及び前記第2の収集を実行する、請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
前記シーケンス制御部は、更にFLAIR(fluid attenuated IR)法を組み合わせて前記第1の収集及び第2の収集を行う、請求項1~10のいずれか一つに記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
磁気共鳴イメージング装置により実行される磁気共鳴イメージング方法であって、
第1のTE(Echo Time)に対応する準備モジュールの実行後、傾斜磁場の存在下、RF励起パルスを印加した後、前記傾斜磁場と逆極性の傾斜磁場下、RFリフォーカスパルスを印加するパルスシーケンスである収集シーケンスを実行して第1の収集を行い、
前記第1のTEとは異なる第2のTEに対応する前記準備モジュールの実行後、前記収集シーケンスを実行して第2の収集を行い、
前記第1の収集により得られたデータ及び前記第2の収集により得られたデータに基づいて、第1の脂肪に係る信号及び第2の脂肪に係る信号を抽出する、
磁気共鳴イメージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング装置及び磁気共鳴イメージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水の信号と脂肪の信号の分離は磁気共鳴イメージングにおいて重要な課題であるが、近年、オレフィン(Olefinic)脂肪等、飽和脂肪以外の脂肪が注目されている。例えば、肝臓、骨や様々な脂肪組織におけるオレフィン脂肪の量について、興味が持たれている。
【0003】
飽和脂肪及び不飽和脂肪の信号を定量化するために、単一ボクセルMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)で撮像を行うPRESS(Point Resolved Spectroscopy)が、例えば用いられる。しかしながら、単一ボクセルでの撮像ではなく、2D若しくは3D画像で、脂肪の定量化を行うのが望ましい。
【0004】
また、例えば、IDEAL(Iterative Decompposition of water and fat with Echo Asymmetry and Least-squares estimation)等の方法を用いて、脂肪の信号を抽出する方法があるが、この方法においては、通常、描出される脂肪の種類は1種類と仮定して、撮像が行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Scott B. Reeder, et al. ,"Iterative Decomposition of Water and Fat With Echo Asymmetry and Least-Squares Estimation (IDEAL)- Application With Fast Spin-Echo Imaging", Magnetic Resonance in Medicine 54, 2005, pages 636-644
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、脂肪の信号を抽出することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、シーケンス制御部と、算出部とを備える。シーケンス制御部は、第1のTE(Echo Time)に対応する準備モジュールの実行後、傾斜磁場の存在下、RF励起パルスを印加した後、前記傾斜磁場と逆極性の傾斜磁場下、RFリフォーカスパルスを印加するパルスシーケンスである収集シーケンスを実行して第1の収集を行い、前記第1のTEとは異なる第2のTEに対応する前記準備モジュールの実行後、前記収集シーケンスを実行して第2の収集を行う。算出部は、前記第1の収集により得られたデータ及び前記第2の収集により得られたデータに基づいて、第1の脂肪に係る信号及び第2の脂肪に係る信号のうち少なくとも一方を抽出する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る背景について説明した図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置が行う処理について説明したフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置が実行するパルスシーケンスの一例である。
【
図5A】
図5Aは、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置が実行するパルスシーケンスの一例である。
【
図5B】
図5Bは、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置が実行するパルスシーケンスの一例である。
【
図6A】
図6Aは、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置が行う処理について説明した図である。
【
図6B】
図6Bは、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置が行う処理について説明した図である。
【
図7A】
図7Aは、第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置が行う処理について説明した図である。
【
図7B】
図7Bは、第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置が行う処理について説明した図である。
【
図8A】
図8Aは、第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置が行う処理について説明した図である。
【
図8B】
図8Bは、第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置が行う処理について説明した図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置におけるGUI(Graphical User Interface)の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置(以下、適宜「MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置」)及び磁気共鳴イメージング方法を説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置100を示すブロック図である。
図1に示すように、磁気共鳴イメージング装置100は、静磁場磁石101と、静磁場電源(図示しない)と、傾斜磁場コイル103と、傾斜磁場電源104と、寝台105と、寝台制御回路106と、送信コイル107と、送信回路108と、受信コイル109と、受信回路110と、シーケンス制御回路120(シーケンス制御部)と、コンピューター130(「画像処理装置」とも称される)とを備える。なお、磁気共鳴イメージング装置100に、被検体P(例えば、人体)は含まれない。また、
図1に示す構成は一例に過ぎない。例えば、シーケンス制御回路120及びコンピューター130内の各部は、適宜統合若しくは分離して構成されてもよい。
【0011】
静磁場磁石101は、中空の略円筒形状に形成された磁石であり、内部の空間に静磁場を発生する。静磁場磁石101は、例えば、超伝導磁石等であり、静磁場電源から電流の供給を受けて励磁する。静磁場電源は、静磁場磁石101に電流を供給する。別の例として、静磁場磁石101は、永久磁石でもよく、この場合、磁気共鳴イメージング装置100は、静磁場電源を備えなくてもよい。また、静磁場電源は、磁気共鳴イメージング装置100とは別に備えられてもよい。
【0012】
傾斜磁場コイル103は、中空の略円筒形状に形成されたコイルであり、静磁場磁石101の内側に配置される。傾斜磁場コイル103は、互いに直交するX、Y、及びZの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされて形成されており、これら3つのコイルは、傾斜磁場電源104から個別に電流の供給を受けて、X、Y、及びZの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生する。傾斜磁場コイル103によって発生するX、Y、及びZの各軸の傾斜磁場は、例えば、スライス用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Ge、及びリードアウト用傾斜磁場Grである。傾斜磁場電源104は、傾斜磁場コイル103に電流を供給する。
【0013】
寝台105は、被検体Pが載置される天板105aを備え、寝台制御回路106による制御の下、天板105aを、被検体Pが載置された状態で、傾斜磁場コイル103の空洞(撮像口)内へ挿入する。通常、寝台105は、長手方向が静磁場磁石101の中心軸と平行になるように設置される。寝台制御回路106は、コンピューター130による制御の下、寝台105を駆動して天板105aを長手方向及び上下方向へ移動する。
【0014】
送信コイル107は、傾斜磁場コイル103の内側に配置され、送信回路108からRFパルスの供給を受けて、高周波磁場を発生する。送信回路108は、対象とする原子の種類及び磁場強度で定まるラーモア(Larmor)周波数に対応するRFパルスを送信コイル107に供給する。
【0015】
受信コイル109は、傾斜磁場コイル103の内側に配置され、高周波磁場の影響によって被検体Pから発せられる磁気共鳴信号(以下、必要に応じて、「MR信号」と呼ぶ)を受信する。受信コイル109は、磁気共鳴信号を受信すると、受信した磁気共鳴信号を受信回路110へ出力する。
【0016】
なお、上述した送信コイル107及び受信コイル109は一例に過ぎない。送信機能のみを備えたコイル、受信機能のみを備えたコイル、若しくは送受信機能を備えたコイルのうち、1つ若しくは複数を組み合わせることによって構成されればよい。
【0017】
受信回路110は、受信コイル109から出力される磁気共鳴信号を検出し、検出した磁気共鳴信号に基づいて磁気共鳴データを生成する。具体的には、受信回路110は、受信コイル109から出力される磁気共鳴信号をデジタル変換することによって磁気共鳴データを生成する。また、受信回路110は、生成した磁気共鳴データをシーケンス制御回路120へ送信する。なお、受信回路110は、静磁場磁石101や傾斜磁場コイル103等を備える架台装置側に備えられてもよい。
【0018】
シーケンス制御回路120は、コンピューター130から送信されるシーケンス情報に基づいて、傾斜磁場電源104、送信回路108及び受信回路110を駆動することによって、被検体Pの撮像を行う。ここで、シーケンス情報は、撮像を行うための手順を定義した情報である。シーケンス情報には、傾斜磁場電源104が傾斜磁場コイル103に供給する電流の強さや電流を供給するタイミング、送信回路108が送信コイル107に供給するRFパルスの強さやRFパルスを印加するタイミング、受信回路110が磁気共鳴信号を検出するタイミング等が定義される。例えば、シーケンス制御回路120は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等の電子回路である。なお、シーケンス制御回路120が実行するパルスシーケンスの詳細については、後述する。
【0019】
さらに、シーケンス制御回路120は、傾斜磁場電源104、送信回路108及び受信回路110を駆動して被検体Pを撮像した結果、受信回路110から磁気共鳴データを受信すると、受信した磁気共鳴データをコンピューター130へ転送する。
【0020】
コンピューター130は、磁気共鳴イメージング装置100の全体制御や、画像の生成等を行う。コンピューター130は、メモリ132、入力装置134、ディスプレイ135、処理回路150を備える。処理回路150は、インタフェース機能131、制御機能133、及び画像生成機能136及び算出機能140を備える。
【0021】
第1の実施形態では、インタフェース機能131、制御機能133、画像生成機能136、算出機能140にて行われる各処理機能は、コンピューターによって実行可能なプログラムの形態でメモリ132へ記憶されている。処理回路150はプログラムをメモリ132から読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路150は、
図1の処理回路150内に示された各機能を有することになる。なお、
図1においては単一の処理回路150にて、インタフェース機能131、制御機能133、画像生成機能136、算出機能140にて行われる処理機能が実現されるものとして説明するが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路150を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。換言すると、上述のそれぞれの機能がプログラムとして構成され、1つの処理回路150が各プログラムを実行する場合であってもよい。別の例として、特定の機能が専用の独立したプログラム実行回路に実装される場合であってもよい。なお、
図1において、インタフェース機能131、制御機能133、画像生成機能136、算出機能140は、それぞれ受付部、制御部、画像生成部、算出部の一例である。また、シーケンス制御回路120は、シーケンス制御部の一例である。なお、算出機能140の具体的な処理については後述する。
【0022】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサはメモリ132に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。
【0023】
また、メモリ132にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、寝台制御回路106、送信回路108、受信回路110等も同様に、上記のプロセッサ等の電子回路により構成される。
【0024】
処理回路150は、インタフェース機能131により、シーケンス情報をシーケンス制御回路120へ送信し、シーケンス制御回路120から磁気共鳴データを受信する。また、磁気共鳴データを受信すると、インタフェース機能131を有する処理回路150は、受信した磁気共鳴データをメモリ132に格納する。
【0025】
メモリ132に格納された磁気共鳴データは、制御機能133によってk空間に配置される。この結果、メモリ132は、k空間データを記憶する。
【0026】
メモリ132は、インタフェース機能131を有する処理回路150によって受信された磁気共鳴データや、制御機能133を有する処理回路150によってk空間に配置されたk空間データ、画像生成機能136を有する処理回路150によって生成された画像データ等を記憶する。例えば、メモリ132は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等である。
【0027】
入力装置134は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける。入力装置134は、例えば、マウスやトラックボール等のポインティングデバイス、モード切替スイッチ等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスである。ディスプレイ135は、制御機能133を有する処理回路150による制御の下、撮像条件の入力を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)や、画像生成機能136を有する処理回路150によって生成された画像等を表示する。ディスプレイ135は、例えば、液晶表示器等の表示デバイスである。
【0028】
処理回路150は、制御機能133により、磁気共鳴イメージング装置100の全体制御を行い、撮像や画像の生成、画像の表示等を制御する。例えば、制御機能133を有する処理回路150は、撮像条件(撮像パラメータ等)の入力をGUI上で受け付け、受け付けた撮像条件に従ってシーケンス情報を生成する。また、制御機能133を有する処理回路150は、生成したシーケンス情報をシーケンス制御回路120へ送信する。処理回路150は、画像生成機能136により、k空間データをメモリ132から読み出し、読み出したk空間データにフーリエ変換等の再構成処理を施すことで、画像を生成する。
【0029】
次に、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置100の背景について簡単に説明する。
【0030】
水の信号と脂肪の信号の分離は磁気共鳴イメージングにおいて重要な課題であるが、近年、オレフィン(Olefinic)脂肪等、飽和脂肪以外の脂肪が注目されている。例えば、肝臓、骨や様々な脂肪組織におけるオレフィン脂肪の量について、興味が持たれている。
【0031】
図2は、実施形態に係る背景について説明した図であり、化学シフトを横軸としたときの、MRSスペクトルの一例を示している。脂肪族(Aliphatic)プロトン1は、-CH
2-CH
2-の構造に対応するプロトンであり、化学シフトは約1.3ppmである。脂肪族プロトン1は、飽和脂肪に係るプロトンであり、脂肪信号を構成するプロトンの中で、もっともありふれたプロトンである。オレフィン脂肪プロトン2は、-CH=CH-の構造に対応するプロトンであり、化学シフトは約5.3ppmである。一価不飽和(monounsaturated)脂肪プロトン3は、-CH=CH-CH
2-(CH
2)
n-の構造に対応するプロトンであり、化学シフトは約2.0ppmである。多価不飽和(polyunsaturated)脂肪プロトン4は、-CH=CH-CH
2-CH=CH-の構造に対応するプロトンであり、化学シフトは約2.8ppmである。なお、水の化学シフトは約4.7ppmである。
【0032】
一般に、脂肪のプロトンにおいては、トリグリセライドのCH-O(C=O)-, CH2-O(C=O), -O-(C=O)-CH2の量が一定とすると、含有量は、多い順に、脂肪族脂肪プロトン1、オレフィン脂肪プロトン2、一価不飽和脂肪プロトン3、多価不飽和脂肪プロトン4の順となる。
【0033】
飽和脂肪及び不飽和脂肪の信号を定量化するために、単一ボクセルMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)で撮像を行うPRESS(Point Resolved Spectroscopy)が、例えば用いられる。しかしながら、単一ボクセルでの撮像ではなく、2D若しくは3D画像で、脂肪の定量化を行うのが望ましい。また、B0不均一性や感受率効果の影響があるような場合には、MRSで高分解能を実現するのは難しい場合がある。
【0034】
また、Dixon型のイメージング手法がある。Dixon型のイメージング手法では、脂肪の信号と水の信号とが、同位相(in-phase)及び逆位相(out-of-phase)となるように、例えばTE(Echo Time)をわずかに変えながら、スピンエコーにより2回の撮像が行われる。
【0035】
ここで、例えば同位相の画像の信号強度をIP、水の信号強度をW、脂肪の信号強度をFとすると、IP=W+Fが成り立つ。また、例えば逆位相の画像の信号強度をOPとすると、OP=W-Fが成り立つ。この2つの式を連立すると、W=1/2(IP+OP)及びF=1/2(IP-OP)が成り立つ。従って、これらの2回の撮像から得られるデータを連立することにより、水の信号と脂肪の信号とを分離抽出することができる。
【0036】
これらの二つの撮像は、リンクされた一つのパルスシーケンスとして実行されることが望ましく、従ってシーケンス制御回路120は、レシーバーゲインを一定に保ちながら、これら二つの撮像を実行する。
【0037】
また、Dixon型のイメージング手法の一つとして、例えば、IDEAL(Iterative Decompposition of water and fat with Echo Asymmetry and Least-squares estimation)等の方法がある。
【0038】
しかしながら、IDEAL法では、例えばオレフィン脂肪については考慮されていない。また、IDEAL法は、スペクトルの形を推定する方法であり、異なる脂肪の構成要素を、直接的に測定する方法ではない。
【0039】
なお、通常のDixon型のイメージング手法では、ピクセルの中に水の信号が存在しない場合、方法が上手くいかない場合がある。
【0040】
かかる背景に鑑みて、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置100のシーケンス制御回路120は、Dixon型の準備モジュールと、例えば2Dまたは3D Fast Spin Echo(FSE)におけるPASTA(Polarity altered spectral and spatial selective acquisition)技術とを組み合わせたパルスシーケンスを実行することにより、複数の脂肪の信号を抽出する。実施形態に係る方法は、抽出の際に複雑なアルゴリズムを必要としない。また、2Dまたは3Dの撮像シーケンスを用いており、2Dまたは3Dの画像を得ることができる。また、撮像の対象となる脂肪のプロトンの種類に応じて、Dixonのτ時間を自在に変化させることができ、出力画像の質を安定させることができる。また、FSEにおいては、Jカップリングが互いにカップルしないので、高い脂肪信号が得られることが期待できる。
【0041】
なお、シーケンス制御回路120は、例えば中心周波数を水の化学シフトに対応する周波数とし、Dixon型の準備モジュールにおいて脂肪族(aliphatic)脂肪の信号が逆位相となるようなTE(Echo Time)を選択するような既存のパターンだけでなく、例えば中心周波数を、脂肪族(aliphatic)脂肪の信号に対応する周波数とし、Dixon型の準備モジュールにおいて、オレフィン脂肪の信号が逆位相となるようなTEを選択してもよい。
【0042】
脂肪の中には、水を含む褐色脂肪だけでなく、白色脂肪など、水を含まない場合もある。このような場合、中心周波数を水の化学シフトに対応する周波数としないことで、シーケンス制御回路120が実行することのできるシーケンスの幅を広げることができる。なお、実施形態において、水の信号による効果を取り除くために、FLAIR(Fluidattenuated IR)の水抑制技術が、必要に応じて適宜組み合わされても良い。
【0043】
【0044】
図3は、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置が行う処理について説明したフローチャートである。なお、
図3のフローチャートは、第1の実施形態、第2の実施形態及び第3の実施形態について共通であるので、これらの実施形態で共通して説明に用いる。
【0045】
はじめに、ステップS100において、シーケンス制御回路120は、第1のTE(Echo Time)に対応する準備モジュールの実行後、傾斜磁場の存在下、RF励起パルスを印加した後、当該傾斜磁場と逆極性の傾斜磁場下、RFリフォーカスパルスを印加するパルスシーケンスである収集シーケンスを実行して第1の収集を行う。続いて、ステップS110において、シーケンス制御回路120は、第1のTEとは異なる第2のTEに対応する準備モジュールの実行後、収集シーケンスを実行して第2の収集を行う。さらに、シーケンス制御回路120は、レシーバーゲインを同一に保ったまま、すなわち各収集それぞれで得られたデータが適切に比較の対象となるような設定条件を保ちながら、第1の収集と第2の収集とをリンクして1つの収集として実行する。
【0046】
以上ステップS100及びステップS110の詳細について、
図4、
図5A、
図5Bを用いて説明する。
図4、
図5A及び
図5Bは、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置100が実行するパルスシーケンスの一例である。
【0047】
図4に、シーケンス制御回路120が実行するパルスシーケンスの全体像を表している。ここで、シーケンス制御回路120が実行するパルスシーケンスは、大きく分けて、例えばDixon型の準備モジュール等で構成される準備モジュール10と、PASTA(Polarity altered spectral and spatial selective acquisition)を利用した収集シーケンスである収集シーケンス20とからなる。
【0048】
Dixon型の準備モジュール等で構成される準備モジュール10は、例えば、90度パルス11と、180度パルス12と、-90度パルス13と、スポイラー15とで構成される。
【0049】
シーケンス制御回路120は、準備モジュール10を変化させながら同一の収集シーケンス20で合計2回の収集を行う。具体的には、シーケンス制御回路120は、準備モジュール10における180度パルス12の印加時刻を変化させるごとにTEを1/2τ時間だけ変化させながら、同一の収集シーケンス20で合計2回の収集を行う。シーケンス制御回路120は、例えば第1の収集においては第1の信号と第2の信号とが同位相となるようなTEで準備モジュール10を実行し、また例えば第2の収集においては、第1の信号と第2の信号とが同位相とならないような、例えば逆位相となるようなTEで準備モジュール10を実行する。なお、第1の信号と第2の信号とは、例えば第1の信号が水の信号であり、第2の信号が脂肪の信号である。また、別の例として、第1の信号は第1の脂肪の信号であり、第2の信号は第2の脂肪の信号である。
【0050】
すなわち、ステップS100において、シーケンス制御回路120は、180パルス12が
図4において実線で示されている時刻において印加される準備モジュール10、すなわち第1のTEに対応する準備モジュール10の実行後、収集シーケンス20を実行して第1の収集を行う。
【0051】
続いて、ステップS110において、シーケンス制御回路120は、180パルス12が、
図4において実線で示されている位置から1/2τ時間だけずらされた時刻である、点線で示された時刻において印加される準備モジュール10、すなわち第1のTEとは異なる第2のTEに対応する準備モジュール10の実行後、収集シーケンス20を実行して第2の収集を行う。
【0052】
なお、例えば第1の収集による信号強度Aは、例えば第1の信号の信号強度をX、第2の信号の信号強度をYとすると、A=X+Yで表される。また、例えば第2の収集による信号強度Bは、第1の信号の信号強度をX、第2の信号強度をYとすると、B=X-Yで表される。
【0053】
従って、この式を連立すると、X=1/2(A+B)、Y=1/2(A-B)が得られる。すなわち、処理回路150は、算出機能140により、第1の収集による信号と第2の収集による信号との和に基づいて、第1の信号の信号強度Xを算出することができる。また、処理回路150は、算出機能140により、第1の収集による信号と第2の収集による信号との差に基づいて、第2の信号の信号強度Yを算出することができる。
【0054】
次に収集シーケンス20について説明する。収集シーケンス20は、PASTA(Polarity altered spectral and spatial selective acquisition)を利用した、例えば2Dまたは3DのFSE(Fast Spin Echo)シーケンスである。
図4に示されるように、収集シーケンス20は、第1の傾斜磁場23の存在下印加される90度パルス21と、第1の傾斜磁場23と逆極性の第2の傾斜磁場24a、24b、24c、24dそれぞれの傾斜磁場下で印加される180度パルス22a、22b、22c、22dとからなる。換言すると、シーケンス制御回路120は、第1の傾斜磁場23の存在下、RF励起パルスである90度パルス21を印加した後、当該第1の傾斜磁場23と逆極性の傾斜磁場である傾斜磁場24a、24b、24c、24d等の下、それぞれRFリフォーカスパルスである180度パルス22a、22b、22c、22d等を印加するパルスシーケンスを収集シーケンス20として実行する。
【0055】
続いて、
図5A及び
図5Bを用いて、収集シーケンス20及びPASTAについて説明する。
図5Aのシーケンスチャートにおいて、1段目はRFパルス及びエコーを、2段目は印加されるスライス方向の傾斜磁場を、3段目は位相エンコード方向の傾斜磁場を、4段目はリードアウト方向の傾斜磁場を表す。ここで、収集シーケンス20は、第1の傾斜磁場23の存在下印加される90度パルス21と、第1の傾斜磁場23と逆極性の傾斜磁場である第2の傾斜磁場24の下で印加される180度パルス22との組で特徴づけられる。
【0056】
続いて、
図5Bを用いて、PASTAにおける90度パルス21及び180度パルス22について説明する。ここでは、PASTAによる特定の信号の抽出の説明のため、水信号25が水の信号をあらわすスペクトルであり、脂肪信号26が脂肪の信号を表すスペクトルである場合について説明する。
【0057】
シーケンス制御回路120は、例えば水の信号を選択的に抽出する場合、収集シーケンス20において、水信号25の帯域を含む帯域であるが、脂肪信号26の帯域を含まないような帯域の90度パルス21を印加する。続いて、シーケンス制御回路120は、収集シーケンス20において、水信号25の帯域及び脂肪信号26の帯域を含むような帯域の180度パルス22を印加する。
【0058】
ここで、エコーが生成されるのは、90度パルス21によって励起された帯域でかつ、180度パルス22によって励起された帯域である。水信号25は、90度パルス21によっても、180度パルス22によっても励起されるので、水信号25は信号強度を持つ。一方で、脂肪信号26は、180度パルス22によって励起されるが、90度パルス21によって励起されないので、大きな信号強度を持たない。
【0059】
このようにして、シーケンス制御回路120は、特定の周波数の信号を選択する。すなわち、シーケンス制御回路120は、選択したい信号の周波数に合わせて、印加する90度パルス21、180度パルス22、第1の傾斜磁場23及び第2の傾斜磁場24を調節することで、所望の周波数の信号を選択することができる。なお、所望の周波数の信号を選択をするためのパラメータ調整が、第2の傾斜磁場24が、第1の傾斜磁場23と逆極性となっている場合、第2の傾斜磁場24が第1の傾斜磁場23と同じ極性となっている場合と比較して容易であるため、第2の傾斜磁場24は、第1の傾斜磁場23と逆極性とされることが多い。
【0060】
このように、シーケンス制御回路120は、実行するパルスシーケンスのうち、PASTAを利用した収集シーケンス20の部分によって所定の周波数の信号を選択することができる。また、シーケンス制御回路120は、実行するパルスシーケンスのうち、TEを変化させて実行された2回の準備モジュール10の部分によって、同位相及び逆位相となった状態で撮影が行われた第1の信号と第2の信号とを分離抽出することができる。従って、シーケンス制御回路120は、PASTAを利用した収集シーケンス20と、TEを変化させて実行された複数回の準備モジュール10とを組み合わせたパルスシーケンスを実行することで、3種類以上の信号が存在する環境の中から、例えば所望の2種類の信号を抽出することができる。
【0061】
以下で説明する第1の実施形態、第2の実施形態及び第3の実施形態は、いずれも、シーケンス制御回路120が、PASTAを利用した収集シーケンス20と、TEを変化させて実行された複数回の準備モジュール10とを含んでパルスシーケンスを実行する点では共通するが、実施形態により、その詳細が異なる。
【0062】
具体的には、第1の実施形態では、シーケンス制御回路120が実行する準備モジュール10における中心周波数は、第1の脂肪、例えば脂肪族プロトン1の周波数である1.3ppm付近である。また、シーケンス制御回路120は、第1の収集において、第1の脂肪の信号と、第2の脂肪の信号、例えばオレフィン脂肪プロトン2の信号とが同位相で収集されるような第1のTEとなる準備モジュール10を実行する。また、シーケンス制御回路120は、第2の収集において、第1の脂肪の信号と、第2の脂肪の信号とが逆位相で収集されるような第1のTEとなる準備モジュール10を実行する。
【0063】
一方で、シーケンス制御回路120が実行するPASTAを利用した収集シーケンス20は、上述の第1の脂肪の化学シフトに対応する周波数の信号を選択する収集シーケンスである。
【0064】
第2の実施形態では、シーケンス制御回路120が実行する準備モジュール10における中心周波数は、第1の脂肪、例えば脂肪族プロトン1の周波数である1.3ppm付近である。また、シーケンス制御回路120は、第1の収集において、第1の脂肪の信号と、第2の脂肪の信号、例えばオレフィン脂肪プロトン2の信号とが同位相で収集されるような第1のTEとなる準備モジュール10を実行する。また、シーケンス制御回路120は、第2の収集において、第1の脂肪の信号と、第2の脂肪の信号とが逆位相で収集されるような第2のTEとなる準備モジュール10を実行する。すなわち、準備モジュール10の構成については第1の実施形態と同様である。
【0065】
一方で、シーケンス制御回路120が実行するPASTAを利用した収集シーケンス20は、第2の脂肪の化学シフトに対応する周波数の信号及び水の化学シフトに対応する周波数の信号のうち少なくとも一方を選択する収集シーケンスである。
【0066】
第3の実施形態では、シーケンス制御回路120が実行する準備モジュール10における中心周波数は、水の化学シフトに対応する周波数である。また、シーケンス制御回路120は、第1の収集において、水の信号と、脂肪の信号、例えば一価不飽和プロトン3の信号とが同位相で収集されるような第1のTEとなる準備モジュール10を実行する。また、シーケンス制御回路120は、第2の収集において、水の信号と脂肪の信号とが逆位相で収集されるような第2のTEとなる準備モジュール10を実行する。
【0067】
一方で、シーケンス制御回路120が実行するPASTAを利用した収集シーケンス20は、当該脂肪とは異なる脂肪の化学シフトに対応する周波数の信号、例えばオレフィン脂肪プロトン2の信号及び水の化学シフトに対応する周波数の信号のうち少なくとも一方を選択する収集シーケンスである。
【0068】
図6A及び
図6Bは、第1の実施形態に係る準備モジュール10及び収集シーケンス20が実行される場合の処理について示した図である。
【0069】
図6Aにおいて、様々な化学シフトにおけるスペクトルの例が示されている。
図6Aには、脂肪族プロトン1、オレフィン脂肪プロトン2、一価不飽和プロトン3、多価不飽和脂肪プロトン4、水のプロトン5、-CH
3の構造に対応するプロトン6の化学シフトが示されている。
【0070】
第1の実施形態では、シーケンス制御回路120が実行する準備モジュール10における中心周波数F0は、
図6A及び
図6Bに示されているように、第1の脂肪、例えば脂肪族プロトン1の周波数である1.3ppm付近である。
【0071】
また、シーケンス制御回路120は、
図6Aに示されているように、第1の収集において、第1の脂肪の信号と、第2の脂肪の信号、例えばオレフィン脂肪プロトン2の信号とが同位相で収集されるような第1のTEとなる準備モジュール10を実行する。
【0072】
ここで、第1の収集においては、収集シーケンス20が実行される前、第1の脂肪の信号である脂肪族プロトン1の信号と、第2の脂肪の信号であるオレフィン脂肪プロトン2の信号は同位相となる。
【0073】
また、シーケンス制御回路120は、
図6Bに示されているように、第2の収集において、第1の脂肪の信号と、第2の脂肪の信号とが逆位相で収集されるような第2のTEとなる準備モジュール10を実行する。
【0074】
この結果、第2の収集においては、収集シーケンス20が実行される前、第1の脂肪の信号である脂肪族プロトン1の信号と、第2の脂肪の信号であるオレフィン脂肪プロトン2の信号は逆位相となる。
【0075】
また、第1の脂肪の信号である脂肪族プロトン1の信号とオレフィン脂肪プロトン2の信号とが逆位相で収集される場合、脂肪族プロトン1の信号とオレフィン脂肪プロトン2の信号とが混じり合うことにより、中心周波数である脂肪族プロトン1の周波数付近に、スペクトル2Xで示されるように、信号強度が表れる。
【0076】
第1の収集及び第2の収集それぞれについて、準備モジュール10に続いて、シーケンス制御回路120は、第1の脂肪の化学シフトに対応する周波数の信号を選択する収集シーケンス20を、PASTAを利用した収集シーケンス20として実行する。
【0077】
その結果、
図6Aに示されるように、第1の収集においては、収集シーケンス20において、脂肪族プロトン1、一価不飽和プロトン3、多価不飽和脂肪プロトン4、-CH
3の構造に対応するプロトン6の信号が選択され、逆にオレフィン脂肪プロトン2及び水のプロトン5の信号が抑制される。
【0078】
また、
図6Bに示されるように、第2の収集においても、収集シーケンス20において、脂肪族プロトン1、一価不飽和プロトン3、多価不飽和脂肪プロトン4、-CH
3の構造に対応するプロトン6の信号が選択され、逆にオレフィン脂肪プロトン2及び水のプロトン5の信号が抑制される。更に、スペクトル2Xに係る信号についても、選択される。
【0079】
なお、以下の説明では、簡単のため、一価不飽和プロトン3、多価不飽和脂肪プロトン4、-CH3の構造に対応するプロトン6の信号については強度が小さいことから、説明の簡単化のため考慮せず、脂肪族プロトン1、オレフィン脂肪プロトン2及び水のプロトン5について説明する。
【0080】
続いて、
図3に戻り、ステップS120において、処理回路150は、算出機能140により、第1の収集により得られたデータ及び第2の収集により得られたデータに基づいて、第1の脂肪に係る信号及び第2の脂肪に係る信号を抽出する。
【0081】
ここで、脂肪族プロトン1の信号は、
図6A及び
図6Bを参照すると、収集シーケンス20において選択される帯域に属している信号であるので、第1の収集においても第2の収集においても選択される。従って、処理回路150は、算出機能140により、例えば第1の収集に係るデータに第2の収集に係るデータを加算した結果を基に、脂肪族プロトン1の信号を抽出することができる。
【0082】
また、水のプロトン5の信号は、
図6A及び
図6Bを参照すると、収集シーケンス20において選択される帯域に属していない信号であるので、第1の収集においても第2の収集においても選択されない。従って、水のプロトン5の信号は、第1の収集に係るデータからも、第2の収集に係るデータからも除外されている。
【0083】
また、オレフィン脂肪プロトン2の信号は、
図6A及び
図6Bを参照すると、収集シーケンス20において選択される帯域に属していない信号であるので、第1の収集においても第2の収集においても直接的には表れない。しかしながら、
図6Bに示されているように、第1の脂肪の信号である脂肪族プロトン1の信号とオレフィン脂肪プロトン2の信号とが逆位相で収集される場合、脂肪族プロトン1の信号とオレフィン脂肪プロトン2の信号とが混じり合うことにより、中心周波数である脂肪族プロトン1の周波数付近に、スペクトル2Xで示されるように、信号強度が表れている。従って、処理回路150は、算出機能140により、例えば第1の収集に係るデータと第2の収集に係るデータとの差分を取ることにより、オレフィン脂肪プロトン2の信号の情報が含まれたデータを、間接的に取得することができる。
【0084】
以上のように、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置100が有するシーケンス制御回路120は、Dixon型の準備モジュール10とPASTAを利用した収集シーケンス20を組み合わせたパルスシーケンスを複数回実行する。これにより、複数の脂肪の信号を得ることができる。
【0085】
(第2の実施形態)
第2の実施形態においては、シーケンス制御回路120は、第1の実施形態と同様の準備モジュール10を実行するが、収集シーケンス20において選択される帯域が第1の実施形態と異なる。
【0086】
図7A及び
図7Bは、第2の実施形態に係る準備モジュール10及び収集シーケンス20が実行される場合の処理について示した図である。
【0087】
第2の実施形態においても、シーケンス制御回路120が実行する準備モジュール10における中心周波数F0は、
図7A及び
図7Bに示されているように、第1の脂肪、例えば脂肪族プロトン1の周波数である1.3ppm付近である。準備モジュール10に係る構成については、第1の実施形態と同様であるので、繰り返しての説明は省略する。
【0088】
第1の収集及び第2の収集それぞれについて、準備モジュール10に続いて、シーケンス制御回路120は、第2の脂肪、例えばオレフィン脂肪プロトン2の化学シフトに対応する周波数の信号及び水の化学シフトに対応する周波数の信号のうち少なくとも一方を選択する収集シーケンス20を、PASTAを利用した収集シーケンス20として実行する。
【0089】
その結果、
図7Aに示されるように、第1の収集においても第2の収集においても、例えばオレフィン脂肪プロトン2及び水のプロトン5の信号等が選択され、逆に脂肪族プロトン1、一価不飽和プロトン3、多価不飽和脂肪プロトン4、-CH
3の構造に対応するプロトン6の信号が抑制される。
【0090】
続いて、
図3に戻り、ステップS120において、処理回路150は、算出機能140により、第1の収集により得られたデータ及び第2の収集により得られたデータに基づいて、水のプロトン5に係る信号及び第2の脂肪であるオレフィン脂肪プロトン2に係る信号を抽出する。
【0091】
ここで、オレフィン脂肪プロトン2の信号は、
図7A及び
図7Bを参照すると、収集シーケンス20において選択される帯域に属している信号であるので、第1の収集においても第2の収集においても選択される。従って、処理回路150は、算出機能140により、例えば第1の収集に係るデータと第2の収集に係るデータとの差分を基に、オレフィン脂肪プロトン2の信号を抽出することができる。
【0092】
また、水のプロトン5の信号は、
図7A及び
図7Bを参照すると、収集シーケンス20において選択される帯域に属している信号であるので、それらの位相は第1の収集と第2の収集とで異なるとはいえ、第1の収集においても第2の収集においても選択される。従って、処理回路150は、算出機能140により、第2の収集と第1の収集との間での水のプロトン5の信号の位相の変化を算出し、算出結果に基づいて、例えば第1の収集に係るデータと第2の収集に係るデータとを重み付けすることで、水のプロトン5の信号を抽出することができる。
【0093】
なお、シーケンス制御回路120は、水の信号を抑制するため、更にFLAIR(fluid attenuated IR)法を組み合わせて第1の収集及び第2の収集を行ってもよい。
【0094】
(第3の実施形態)
第3の実施形態においては、収集シーケンス20において選択される帯域は第2の実施形態と同様であるが、第1の実施形態及び第2の実施形態と異なり、水の化学シフトに対応する周波数が中心周波数として選ばれる。
【0095】
図8A及び
図8Bは、第3の実施形態に係る準備モジュール10及び収集シーケンス20が実行される場合の処理について示した図である。
【0096】
第3の実施形態では、シーケンス制御回路120が実行する準備モジュール10における中心周波数F0は、水の化学シフトに対応する周波数である4.7ppm付近である。
【0097】
また、シーケンス制御回路120は、
図6Aに示されているように、第1の収集において、水の信号と、第1の脂肪の信号、例えば一価不飽和プロトン3の信号とが同位相で収集されるような第1のTEとなる準備モジュール10を実行する。なお、実施形態はこれに限られず、例えば第1の脂肪の信号として、多価不飽和脂肪プロトン4が選択されてもよい。
【0098】
また、シーケンス制御回路120は、
図6Bに示されているように、第2の収集において、水の信号と、第1の脂肪の信号とが逆位相で収集されるような第2のTEとなる準備モジュール10を実行する。
【0099】
第1の収集及び第2の収集それぞれについて、準備モジュール10に続いて、シーケンス制御回路120は、第2の脂肪、例えばオレフィン脂肪プロトン2の信号の化学シフトに対応する周波数の信号及び水の化学シフトに対応する周波数の信号のうち少なくとも一方を選択する収集シーケンス20を、PASTAを利用した収集シーケンス20として実行する。
【0100】
その結果、
図8A及び
図8Bに示されるように、オレフィン脂肪プロトン2及び水のプロトン5の信号が選択される。
【0101】
また、第1の脂肪の信号である一価不飽和プロトン3の信号と水のプロトン5の信号とが逆位相で収集される場合、これらの信号とが混じり合うことにより、中心周波数である水のプロトン5の周波数付近に、信号強度が表れると考えられる。
【0102】
ステップS120において、処理回路150は、算出機能140により、第1の収集により得られたデータ及び第2の収集により得られたデータに基づいて、第1の脂肪に係る信号、水に係る信号及び第2の脂肪に係る信号を抽出する。
【0103】
例えば、処理回路150は、算出機能140により、例えば第1の収集に係るデータと第2の収集に係るデータとの差分を取ることにより、一価不飽和プロトン3の信号の情報が含まれたデータを、取得することができる。
【0104】
なお、シーケンス制御回路120は、水の信号を抑制するため、更にFLAIR(fluid attenuated IR)法を組み合わせて第1の収集及び第2の収集を行ってもよい。
【0105】
(実施形態に係るGUI)
図9を用いて、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置100が備えるGUI(Graphical User Interface)について説明する。
図9は、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置におけるGUI50の一例である。
【0106】
入力パネル60、61は、処理回路150が、制御機能133により、ユーザから、画像化する対象についての入力を受け付けるためのパネルである。例えば、処理回路150は、制御機能133により、入力パネル60のボタン60a、60b、60c、60dを通じて、表示される第1の画像が描出する対象物質の入力の選択を受け付ける。同様に、処理回路150は、制御機能133により、入力パネル61のボタン61a、61b、61c、61dを通じて、表示される第2の画像が描出する対象物質の入力の選択を受け付ける。
【0107】
このように、処理回路150は、制御機能133により、ユーザから、入力パネル60、61を通じて、描出を行う第1の脂肪及び第2の脂肪の入力を受け付ける。
【0108】
続いて、処理回路150は、制御機能133により、受け付けた入力結果に基づいて、シーケンス制御回路120が実行する第1の収集や、第2の収集等に関する設定を行う。例えば、処理回路150は、制御機能133により、受け付けた入力結果に基づいて、シーケンス制御回路120が実行するパルスシーケンスにおける中心周波数及び、どの信号とどの信号とを逆位相にするようなパルスシーケンスを実行するかに関する設定や、収集シーケンス20において選択する周波数帯域に関する設定を行う。
【0109】
また処理回路150は、制御機能133により、算出したパルスシーケンスに係る設定の情報を、表示パネル70を通じてユーザに表示する。
【0110】
続いて、シーケンス制御回路120は、処理回路150が算出したパルスシーケンスに係る設定の情報に基づき、レシーバーゲインを同一に保ったまま、第1の収集及び第2の収集等を実行する。
【0111】
シーケンス制御回路120が実行したパルスシーケンスより得られたデータを基に、処理回路150は、算出機能140により、上述した信号抽出処理を行い、抽出された信号を基に画像を生成し、例えば表示パネル62、63等に表示させる。
【0112】
(その他の実施形態)
実施形態において、シーケンス制御回路120が、2回のパルスシーケンスを実行する場合について説明したが、実施形態はこれに限定されず、Dixon型の収集としては3回以上の収集を行う場合でもよく、従ってシーケンス制御回路120は、3回以上のパルスシーケンスを実行してもよい。
【0113】
また、例えば準備モジュール10において、第1の信号と第2の信号とが、それぞれ同位相及び逆位相となるようなTEにおいて2回の撮像が行われる場合について説明したが、実施形態はこれに限られない。TEを変化させて行われる2回の撮像は、例えば第1の信号の位相ど第2の信号の位相との関係が、互いに異なる2回の撮像であればどのような位相の関係であってもよく、これらの位相の関係は同位相及び逆位相に限定されない。
【0114】
また、Dixon法は、マルチスライスの中心周波数の場合に適用してもよく、その場合の中心周波数の設定は、例えばMSOFTアルゴリズムを用いて行っても良い。
【0115】
また、収集シーケンス20の例としては、FSEをベースにした収集シーケンスに限られず、様々な収集シーケンスが考えられる。
【0116】
(プログラム)
また、上述した実施形態の中で示した処理手順に示された指示は、ソフトウェアであるプログラムに基づいて実行されることが可能である。汎用コンピューターが、このプログラムを予め記憶しておき、このプログラムを読み込むことにより、上述した実施形態の磁気共鳴イメージング装置100による効果と同様の効果を得ることも可能である。上述した実施形態で記述された指示は、コンピューターに実行させることのできるプログラムとして、磁気ディスク(フレキシブルディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、CD-R、CD-RW、DVD-ROM、DVD±R、DVD±RWなど)、半導体メモリ、又はこれに類する記録媒体に記録される。コンピューター又は組み込みシステムが読み取り可能な記憶媒体であれば、その記憶形式は何れの形態であってもよい。コンピューターは、この記録媒体からプログラムを読み込み、このプログラムに基づいてプログラムに記述されている指示をCPUで実行させれば、上述した実施形態の磁気共鳴イメージング装置100と同様の動作を実現することができる。また、コンピューターがプログラムを取得する場合又は読み込む場合は、ネットワークを通じて取得又は読み込んでもよい。
【0117】
また、記憶媒体からコンピューターや組み込みシステムにインストールされたプログラムの指示に基づきコンピューター上で稼働しているOS(Operating System)や、データベース管理ソフト、ネットワーク等のMW(Middleware)等が、上述した実施形態を実現するための各処理の一部を実行してもよい。更に、記憶媒体は、コンピューターあるいは組み込みシステムと独立した媒体に限らず、LAN(Local Area Network)やインターネット等により伝達されたプログラムをダウンロードして記憶又は一時記憶した記憶媒体も含まれる。また、記憶媒体は1つに限られず、複数の媒体から、上述した実施形態における処理が実行される場合も、実施形態における記憶媒体に含まれ、媒体の構成は何れの構成であってもよい。
【0118】
なお、実施形態におけるコンピューター又は組み込みシステムは、記憶媒体に記憶されたプログラムに基づき、上述した実施形態における各処理を実行するためのものであって、パソコン、マイコン等の1つからなる装置、複数の装置がネットワーク接続されたシステム等の何れの構成であってもよい。また、実施形態におけるコンピューターとは、パソコンに限らず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコン等も含み、プログラムによって実施形態における機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0119】
以上述べた少なくとも一つの実施形態によれば、脂肪の信号を抽出することができる。
【0120】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0121】
120 シーケンス制御回路
131 インタフェース機能
133 制御機能
136 画像生成機能
140 算出機能
150 処理回路