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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】熱処理方法および熱処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/314 20060101AFI20230313BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20230313BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
H01L21/314 A
H01L21/30 566
H01L21/302 105A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019152648
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021034537
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】河原▲崎▼ 光
(72)【発明者】
【氏名】谷村 英昭
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎一
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/022312(WO,A1)
【文献】特開2013-069990(JP,A)
【文献】特開平04-273430(JP,A)
【文献】特開2005-135957(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0259606(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/314
H01L 21/027
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂膜が形成された基板を加熱する熱処理方法であって、
表面に金属が含浸された樹脂膜が形成された基板をチャンバー内に収容する収容工程と、
前記チャンバー内にて前記樹脂膜を臨界温度よりも高い温度に1秒以下加熱する主加熱工程と、
前記主加熱工程の前に、前記樹脂膜を前記臨界温度以下に加熱する予備加熱工程と、
前記チャンバーからの排気中に含まれる揮発性有機化合物を検出する検出工程と、
を備え
前記予備加熱工程の実行中に基準値以上の揮発性有機化合物が検出されたときには前記主加熱工程を中止することを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
樹脂膜が形成された基板を加熱する熱処理方法であって、
表面に金属が含浸された樹脂膜が形成された基板をチャンバー内に収容する収容工程と、
前記チャンバー内にて前記樹脂膜を臨界温度よりも高い温度に1秒以下加熱する主加熱工程と、
を備え
前記樹脂膜は、ヘミセルロース、フェノール樹脂またはフラーレン誘導体の膜であることを特徴とする熱処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱処理方法において、
前記臨界温度は200℃であり、
前記主加熱工程では、前記樹脂膜を500℃以下に加熱することを特徴とする熱処理方法。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記主加熱工程では、フラッシュランプから前記樹脂膜に5J/cm以上60J/cm以下の照射エネルギーにてフラッシュ光を照射することを特徴とする熱処理方法。
【請求項5】
請求項記載の熱処理方法において、
前記チャンバーの照射窓に沿って不活性ガスを50リットル/分以上150リットル/分以下流すことを特徴とする熱処理方法。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記チャンバー内を減圧する減圧工程をさらに備えることを特徴とする熱処理方法。
【請求項7】
請求項1から請求項のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記チャンバー内を加圧する加圧工程をさらに備えることを特徴とする熱処理方法。
【請求項8】
樹脂膜が形成された基板を加熱する熱処理装置であって、
表面に金属が含浸された樹脂膜が形成された基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内にて前記基板を支持するステージと、
前記チャンバー内にて前記樹脂膜を臨界温度よりも高い温度に1秒以下加熱する主加熱機構と、
前記ステージ内に、前記主加熱機構による加熱の前に前記樹脂膜を前記臨界温度以下に加熱する予備加熱機構と、
前記チャンバーからの排気配管に揮発性有機化合物を検出する検出器と、
を備え
前記予備加熱機構による加熱を行っているときに前記検出器が基準値以上の揮発性有機化合物を検出したときには前記主加熱機構による加熱を中止することを特徴とする熱処理装置。
【請求項9】
樹脂膜が形成された基板を加熱する熱処理装置であって、
表面に金属が含浸された樹脂膜が形成された基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内にて前記基板を支持するステージと、
前記チャンバー内にて前記樹脂膜を臨界温度よりも高い温度に1秒以下加熱する主加熱機構と、
を備え
前記樹脂膜は、ヘミセルロース、フェノール樹脂またはフラーレン誘導体の膜であることを特徴とする熱処理装置。
【請求項10】
請求項記載の熱処理装置において、
前記ステージ内に冷却機構をさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項11】
請求項記載の熱処理装置において、
前記チャンバーまたは前記排気配管に安全逃がし弁を備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項12】
請求項から請求項11のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記臨界温度は200℃であり、
前記主加熱機構は前記樹脂膜を500℃以下に加熱することを特徴とする熱処理装置。
【請求項13】
請求項から請求項12のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記主加熱機構はフラッシュランプを備え、
前記フラッシュランプから前記樹脂膜に5J/cm以上60J/cm以下の照射エネルギーにてフラッシュ光を照射することを特徴とする熱処理装置。
【請求項14】
請求項13記載の熱処理装置において、
前記チャンバーは、前記フラッシュ光を透過する照射窓を備え、
前記照射窓に沿って不活性ガスを50リットル/分以上150リットル/分以下流すガス供給部をさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項15】
請求項から請求項14のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記チャンバー内を減圧する減圧機構をさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項16】
請求項から請求項14のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記チャンバー内を加圧する加圧機構をさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘミセルロース等の樹脂膜が形成された基板を加熱する熱処理方法および熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板のドライエッチングのために耐性に優れたハードマスクが使用されることがある。従来、ハードマスクの材料としては例えばアモルファスカーボンが用いられていた(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-135439号公報
【文献】特表2013-543281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、アモルファスカーボンを用いたハードマスクの形成には、アスペクト比が大きくなるほどアモルファスカーボンの積層も厚くなって処理時間が長くなり、製造コストが大きくなる問題を有している。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、安価な製造コストでハードマスクを形成することができる熱処理方法および熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、樹脂膜が形成された基板を加熱する熱処理方法において、表面に金属が含浸された樹脂膜が形成された基板をチャンバー内に収容する収容工程と、前記チャンバー内にて前記樹脂膜を臨界温度よりも高い温度に1秒以下加熱する主加熱工程と、前記主加熱工程の前に、前記樹脂膜を前記臨界温度以下に加熱する予備加熱工程と、前記チャンバーからの排気中に含まれる揮発性有機化合物を検出する検出工程と、を備え、前記予備加熱工程の実行中に基準値以上の揮発性有機化合物が検出されたときには前記主加熱工程を中止することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2の発明は、樹脂膜が形成された基板を加熱する熱処理方法において、表面に金属が含浸された樹脂膜が形成された基板をチャンバー内に収容する収容工程と、前記チャンバー内にて前記樹脂膜を臨界温度よりも高い温度に1秒以下加熱する主加熱工程と、を備え 前記樹脂膜は、ヘミセルロース、フェノール樹脂またはフラーレン誘導体の膜であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項の発明は、請求項1または請求項2の発明に係る熱処理方法において、前記臨界温度は200℃であり、前記主加熱工程では、前記樹脂膜を500℃以下に加熱することを特徴とする。
【0010】
また、請求項の発明は、請求項1から請求項のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記主加熱工程では、フラッシュランプから前記樹脂膜に5J/cm以上60J/cm以下の照射エネルギーにてフラッシュ光を照射することを特徴とする。
【0011】
また、請求項の発明は、請求項の発明に係る熱処理方法において、前記チャンバーの照射窓に沿って不活性ガスを50リットル/分以上150リットル/分以下流すことを特徴とする。
【0012】
また、請求項の発明は、請求項1から請求項のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記チャンバー内を減圧する減圧工程をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項の発明は、請求項1から請求項のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記チャンバー内を加圧する加圧工程をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項の発明は、樹脂膜が形成された基板を加熱する熱処理装置において、表面に金属が含浸された樹脂膜が形成された基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内にて前記基板を支持するステージと、前記チャンバー内にて前記樹脂膜を臨界温度よりも高い温度に1秒以下加熱する主加熱機構と、前記ステージ内に、前記主加熱機構による加熱の前に前記樹脂膜を前記臨界温度以下に加熱する予備加熱機構と、前記チャンバーからの排気配管に揮発性有機化合物を検出する検出器と、を備え、前記予備加熱機構による加熱を行っているときに前記検出器が基準値以上の揮発性有機化合物を検出したときには前記主加熱機構による加熱を中止することを特徴とする。
【0016】
また、請求項の発明は、樹脂膜が形成された基板を加熱する熱処理装置において、表面に金属が含浸された樹脂膜が形成された基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内にて前記基板を支持するステージと、前記チャンバー内にて前記樹脂膜を臨界温度よりも高い温度に1秒以下加熱する主加熱機構と、を備え、前記樹脂膜は、ヘミセルロース、フェノール樹脂またはフラーレン誘導体の膜であることを特徴とする。
【0017】
また、請求項10の発明は、請求項の発明に係る熱処理装置において、前記ステージ内に冷却機構をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
また、請求項11の発明は、請求項の発明に係る熱処理装置において、前記チャンバーまたは前記排気配管に安全逃がし弁を備えることを特徴とする。
【0020】
また、請求項12の発明は、請求項から請求項11のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記臨界温度は200℃であり、前記主加熱機構は前記樹脂膜を500℃以下に加熱することを特徴とする。
【0021】
また、請求項13の発明は、請求項から請求項12のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記主加熱機構はフラッシュランプを備え、前記フラッシュランプから前記樹脂膜に5J/cm以上60J/cm以下の照射エネルギーにてフラッシュ光を照射することを特徴とする。
【0022】
また、請求項14の発明は、請求項13の発明に係る熱処理装置において、前記チャンバーは、前記フラッシュ光を透過する照射窓を備え、前記照射窓に沿って不活性ガスを50リットル/分以上150リットル/分以下流すガス供給部をさらに備えることを特徴とする。
【0023】
また、請求項15の発明は、請求項から請求項14のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記チャンバー内を減圧する減圧機構をさらに備えることを特徴とする。
【0024】
また、請求項16の発明は、請求項から請求項14のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記チャンバー内を加圧する加圧機構をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
請求項1から請求項の発明によれば、安価な樹脂を用いて安価な製造コストでハードマスクを形成することができる。また、表面に金属が含浸された樹脂膜を臨界温度よりも高い温度に1秒以下加熱するため、樹脂膜を熱分解させることなく金属を樹脂膜中に拡散させて樹脂膜を十分に硬化させることができる。また、予備加熱工程の実行中に基準値以上の揮発性有機化合物が検出されたときには主加熱工程を中止するため、樹脂膜の不具合に起因した加熱処理の不良を未然に防止することができる。
【0028】
特に、請求項の発明によれば、チャンバーの照射窓に沿って不活性ガスを流すため、照射窓への有機物の付着を防止することができる。
【0029】
請求項から請求項16の発明によれば、安価な樹脂を用いて安価な製造コストでハードマスクを形成することができる。また、表面に金属が含浸された樹脂膜を臨界温度よりも高い温度に1秒以下加熱するため、樹脂膜を熱分解させることなく金属を樹脂膜中に拡散させて樹脂膜を十分に硬化させることができる。また、予備加熱機構による加熱を行っているときに検出器が基準値以上の揮発性有機化合物を検出したときには主加熱機構による加熱を中止するため、樹脂膜の不具合に起因した加熱処理の不良を未然に防止することができる。
【0030】
特に、請求項10の発明によれば、ステージ内に冷却機構をさらに備えるため、ステージを一定温度に温調でき、連続処理する基板の熱履歴を均一にすることができる。
【0032】
特に、請求項11の発明によれば、チャンバーまたは排気配管に安全逃がし弁を備えるため、チャンバー内の圧力が過大となるのを防いで熱処理装置の安全性を向上させることができる。
【0033】
特に、請求項14の発明によれば、チャンバーの照射窓に沿って不活性ガスを流すため、照射窓への有機物の付着を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係る熱処理装置の要部構成を示す図である。
図2】フラッシュランプの駆動回路を示す図である。
図3】熱処理装置における半導体ウェハーの処理手順を示すフローチャートである。
図4】熱処理装置に搬入される半導体ウェハーの断面構造を示す図である。
図5】半導体ウェハーの温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0036】
図1は、本発明に係る熱処理装置1の要部構成を示す図である。この熱処理装置1は、樹脂膜が形成された半導体ウェハー等の基板に光を照射することによって、その樹脂膜を加熱する装置である。熱処理装置1は、主たる要素として、半導体ウェハーWを収容するチャンバー10と、チャンバー10内にて半導体ウェハーWを支持するステージ20と、ステージ20に支持された半導体ウェハーWにフラッシュ光を照射する加熱光源30と、を備える。また、熱処理装置1は、装置に設けられた各種動作機構を制御して処理を進行させる制御部3を備える。なお、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0037】
チャンバー10は、加熱光源30の下方に設けられており、略円筒形状のチャンバー側壁11およびチャンバー底部12によって構成される。チャンバー底部12は、チャンバー側壁11の下部を覆う。チャンバー側壁11およびチャンバー底部12によって囲まれる空間が熱処理空間15として規定される。また、チャンバー10の上部開口にはチャンバー窓18が装着されて閉塞されている。
【0038】
チャンバー10の天井部を構成するチャンバー窓18は、石英により形成された板状部材であり、加熱光源30から照射された光を熱処理空間15に透過する石英窓として機能する。チャンバー10の本体を構成するチャンバー側壁11およびチャンバー底部12は、例えば、ステンレススチール等の強度と耐熱性に優れた金属材料にて形成されている。
【0039】
チャンバー側壁11の一部には、半導体ウェハーWをチャンバー10内に搬入およびチャンバー10から搬出するための図示省略の搬送開口部が形成されている。当該搬送開口部は、ゲートバルブによって開閉される。当該搬送開口部が開放されているときには当該搬送開口部から半導体ウェハーWの搬入および搬出が可能で有り、当該搬送開口部が閉鎖されているときには熱処理空間15が密閉空間となる。
【0040】
また、熱処理空間15の機密性を維持するために、チャンバー窓18とチャンバー側壁11とは図示省略のOリングによってシールされている。すなわち、チャンバー窓18とチャンバー側壁11との間にOリングを挟み込み、これらの隙間から気体が流出入するのを防いでいる。チャンバー10は、耐圧使用とされており、チャンバー10内の熱処理空間15を大気圧よりも大きな気圧に加圧、または、大気圧未満の気圧に減圧することも可能である。
【0041】
チャンバー10の内部にはステージ20が設けられている。ステージ20は、金属製(例えば、アルミニウム製)の平坦な板状部材である。ステージ20は、チャンバー10内にて半導体ウェハーWを載置して水平姿勢(半導体ウェハーWの法線が鉛直方向と一致する姿勢)に支持する。また、ステージ20はヒータ21および冷却配管22を内蔵する。ヒータ21は、ニクロム線などの抵抗加熱線で構成されている。ヒータ21は、図外の電力供給源からの電力供給を受けて発熱し、ステージ20を加熱する。一方、冷却配管22に図外の冷却水供給機構から一定温度の冷却水が循環供給されることによって、ステージ20が冷却される。
【0042】
ステージ20には、熱電対を用いて構成された図示省略の温度センサが設けられている。温度センサはステージ20の上面近傍の温度を測定し、その測定結果は制御部3に伝達される。制御部3は、温度センサによる測定結果に基づいて、ヒータ21の出力および冷却配管22への冷却水供給を制御し、ステージ20の温度を所定温度に温調する。ステージ20に支持された半導体ウェハーWは、ステージ20によって所定の温度に加熱されることとなる。なお、ステージ20の上面には、当該上面から微小間隔を隔てて半導体ウェハーWを支持するための複数の支持ピンが立設されていても良い。
【0043】
また、熱処理装置1は、チャンバー10内の熱処理空間15に処理ガスを供給する第1ガス供給機構40および熱処理空間15から雰囲気の排気を行う排気機構50を備える。第1ガス供給機構40は、処理ガス供給源41、供給配管42および供給バルブ43を備える。供給配管42の先端側はチャンバー10内の熱処理空間15に連通接続され、基端側は処理ガス供給源41に接続される。供給配管42の経路途中に供給バルブ43が設けられる。供給バルブ43を開放することによって、処理ガス供給源41から熱処理空間15に処理ガスが供給される。処理ガス供給源41は、被処理体8の種類や処理目的に応じた適宜の処理ガスを供給することが可能であるが、本実施形態では窒素ガス(N)を供給する。
【0044】
排気機構50は、排気装置51、排気配管52、排気バルブ53、検出器54およびリリーフ弁55を備える。排気配管52の先端側はチャンバー10内の熱処理空間15に連通接続され、基端側は排気装置51に接続される。排気配管52の経路途中に排気バルブ53および検出器54が設けられる。排気装置51としては、真空ポンプや熱処理装置1が設置される工場の排気ユーティリティを用いることができる。排気装置51を作動させつつ、排気バルブ53を開放することによって、熱処理空間15の雰囲気を装置外に排出することができる。
【0045】
検出器54は、排気配管52を流れる気体に含まれる揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)を検出する。揮発性有機化合物は、揮発性を有する気体状の有機化合物の総称である。
【0046】
さらに、排気配管52は、その経路途中から二叉に分岐され、その分岐配管の先端側は開放端となっている。リリーフ弁55は排気配管52の分岐配管に設けられる。リリーフ弁55は、何らかの要因によってチャンバー10内の圧力が過大になったときに、自動的に開いてチャンバー10内の圧力を逃がす安全逃がし弁である。
【0047】
上記の第1ガス供給機構40および排気機構50によって、熱処理空間15の雰囲気を調整することができる。また、第1ガス供給機構40からガス供給を行うことなく、排気機構50によって熱処理空間15の気体を排気することにより、チャンバー10内を大気圧未満に減圧することができる。逆に、排気バルブ53を閉止して熱処理空間15の気体を排気することなく、第1ガス供給機構40から熱処理空間15にガス供給を行うことにより、チャンバー10内を大気圧を超えて加圧することができる。
【0048】
また、熱処理装置1には、第1ガス供給機構40に加えて、チャンバー窓18に沿って不活性ガスを流す第2ガス供給機構60が設けられている。第2ガス供給機構60は、不活性ガス供給源61、供給配管62および供給バルブ63を備える。供給配管62の先端側はチャンバー10内であってチャンバー窓18の端縁部直下に連通接続され、基端側は不活性ガス供給源61に接続される。供給配管62の経路途中に供給バルブ63が設けられる。供給バルブ63を開放することによって、不活性ガス供給源61から熱処理空間15に不活性ガスが供給される。不活性ガス供給源61から供給される不活性ガスは、例えば窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)等である(本実施形態では窒素ガス)。第2ガス供給機構60から供給された不活性ガスは、チャンバー窓18の下面(熱処理空間15に臨む面)に沿って流れる。
【0049】
加熱光源30は、チャンバー10の上方に設けられている。加熱光源30は、複数本(図1では図示の便宜上10本としているが、これに限定されるものではない)のフラッシュランプFLと、それら全体の上方を覆うように設けられたリフレクタ39と、を備えて構成される。加熱光源30は、チャンバー10内にてステージ20に支持される半導体ウェハーWに対して石英のチャンバー窓18を介してフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射する。
【0050】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向がステージ20に支持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
【0051】
図2は、フラッシュランプFLの駆動回路を示す図である。同図に示すように、コンデンサ93と、コイル94と、フラッシュランプFLと、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)96とが直列に接続されている。また、図2に示すように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備えるとともに、入力部33および表示部34に接続されている。入力部33としては、キーボード、マウス等の種々の公知の入力機器を採用することができる。表示部34としては、ディスプレイ等の公知の表示機器を用いることができる。入力部33および表示部34を入力機能と表示機能とを併せ持つタッチパネルとしても良い。入力部33からの入力内容に基づいて波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、その波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を発生する。
【0052】
フラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部に陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)92と、該ガラス管92の外周面上に付設されたトリガー電極91とを備える。コンデンサ93には、電源ユニット95によって所定の電圧が印加され、その印加電圧(充電電圧)に応じた電荷が充電される。また、トリガー電極91にはトリガー回路97から高電圧を印加することができる。トリガー回路97がトリガー電極91に電圧を印加するタイミングは制御部3によって制御される。
【0053】
IGBT96は、ゲート部にMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field effect transistor)を組み込んだバイポーラトランジスタであり、大電力を取り扱うのに適したスイッチング素子である。IGBT96のゲートには制御部3のパルス発生器31からパルス信号が印加される。IGBT96のゲートに所定値以上の電圧(Highの電圧)が印加されるとIGBT96がオン状態となり、所定値未満の電圧(Lowの電圧)が印加されるとIGBT96がオフ状態となる。このようにして、フラッシュランプFLを含む駆動回路はIGBT96によってオンオフされる。IGBT96がオンオフすることによってフラッシュランプFLと対応するコンデンサ93との接続が断続され、フラッシュランプFLに流れる電流がオンオフ制御される。
【0054】
コンデンサ93が充電された状態でIGBT96がオン状態となってガラス管92の両端電極に高電圧が印加されたとしても、キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、通常の状態ではガラス管92内に電気は流れない。しかしながら、トリガー回路97がトリガー電極91に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には両端電極間の放電によってガラス管92内に電流が瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
【0055】
図2に示すような駆動回路は、加熱光源30に設けられた複数のフラッシュランプFLのそれぞれに個別に設けられている。よって、複数のフラッシュランプFLのそれぞれに流れる電流が対応するIGBT96によって個別にオンオフ制御されることとなる。
【0056】
また、リフレクタ39は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ39の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間15の側に反射するというものである。リフレクタ39はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0057】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。また、上述のように制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備え、入力部33からの入力内容に基づいて、波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、それに従ってパルス発生器31がIGBT96のゲートにパルス信号を出力する。
【0058】
上記の構成以外にも熱処理装置1には、種々の構成要素が適宜設けられる。例えば、フラッシュランプFLからの光照射による過剰な温度上昇を防止するために、チャンバー側壁11に水冷管を設けるようにしても良い。また、ステージ20には、装置外部の搬送ロボットとの間で半導体ウェハーWの受け渡しを行うために昇降するリフトピンが設けられる。
【0059】
次に、上記構成を有する熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について説明する。図3は、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順を示すフローチャートである。以下に説明する熱処理装置1の処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0060】
熱処理装置1における処理に先立って半導体ウェハーWにはヘミセルロースの樹脂膜が形成されている。図4は、熱処理装置1に搬入される半導体ウェハーWの断面構造を示す図である。シリコンの基材101上に二酸化ケイ素(SiO)の下層膜102が成膜されている。そして、下層膜102上にパターニングされたヘミセルロース膜103が形成されている。ヘミセルロース膜103は、例えばスピンコートによって成膜された後、レジストをマスクとした反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)によってパターニングされる。パターニングされたヘミセルロース膜103の表面にはアルミニウム(Al)等の金属が含浸されている。表面に金属が含浸されたヘミセルロース膜103が熱処理装置1による熱処理によって硬化されてハードマスクとなる。熱処理装置1における処理の後工程では、ヘミセルロース膜103をマスクとして下層膜102の反応性イオンエッチングが行われる。
【0061】
本発明に係る熱処理方法においては、まず図4に示すような構造を有する半導体ウェハーWが熱処理装置1のチャンバー10内に搬入される(ステップS1)。具体的には、熱処理装置1外部の搬送ロボットによって半導体ウェハーWが図示省略の搬送開口部を介してチャンバー10内に搬入され、ステージ20上に載置・支持される(ステップS2)。
【0062】
半導体ウェハーWがステージ20に支持された後、チャンバー10内の熱処理空間15が密閉空間とされる。そして、チャンバー10内には第1ガス供給機構40から窒素ガスが供給されるとともに、チャンバー10内の雰囲気は排気機構50によって排気される。これにより、チャンバー10内は窒素雰囲気に置換される。なお、本実施形態においては、チャンバー10内は大気圧に維持されている。
【0063】
図5は、半導体ウェハーWの温度変化を示す図である。図5には、ヘミセルロース膜103を含む半導体ウェハーWの表面の温度を示している。時刻t1に、図4に示す構造を有する半導体ウェハーWがチャンバー10内に搬入されてステージ20上に支持される。ステージ20は内蔵するヒータ21によって所定温度(本実施形態では100℃)に温調されている。温調されたステージ20に半導体ウェハーWが支持されることによって、ヘミセルロース膜103を含む半導体ウェハーWの全体が予備加熱される(ステップS3)。
【0064】
ヒータ21によって半導体ウェハーWは予備加熱温度T1に予備加熱される。予備加熱温度T1は200℃以下であり、本実施形態では100℃である。半導体ウェハーWが予備加熱されることによって、ヘミセルロース膜103も窒素雰囲気中で予備加熱温度T1に加熱されることとなる。
【0065】
半導体ウェハーWが予備加熱されている間も第1ガス供給機構40からチャンバー10内に窒素ガスが供給されるとともに、排気機構50によってチャンバー10内の雰囲気が排気され続けている。チャンバー10から排気配管52に流れ込んだ排気気流に含まれる揮発性有機化合物が検出器54によって検出される。ヘミセルロース膜103には、成膜時の有機溶剤(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等)が含まれている。ヘミセルロース膜103が加熱されると、そのような有機溶剤の成分が揮発性有機化合物として熱処理空間15に放出され、さらに排気配管52へと排出される。検出器54は、ヘミセルロース膜103から放出された揮発性有機化合物を検出することとなる。
【0066】
予備加熱中に検出器54が予め設定されている基準値以上の揮発性有機化合物を検出したときには、半導体ウェハーWに形成されているヘミセルロース膜103が異常である可能性が高い。例えば、ヘミセルロース膜103に多量の有機溶剤が残留している可能性がある。このため、予備加熱時に検出器54が基準値以上の揮発性有機化合物を検出したときには、制御部3が後続のフラッシュ光照射による加熱を中止して熱処理装置1を停止するとともに、表示部34にアラームを発報する。
【0067】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達してから所定時間が経過した時刻t2に、加熱光源30のフラッシュランプFLがステージ20に支持された半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光を照射する(ステップS4)。このとき、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー10内へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ39により反射されてからチャンバー10内へと向かい、これらのフラッシュ光の照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。
【0068】
フラッシュランプFLがフラッシュ光照射を行うに際しては、予め電源ユニット95によってコンデンサ93に電荷を蓄積しておく。そして、コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にて、制御部3のパルス発生器31からIGBT96にパルス信号を出力してIGBT96をオンオフ駆動する。
【0069】
パルス信号の波形は、パルス幅の時間(オン時間)とパルス間隔の時間(オフ時間)とをパラメータとして順次設定したレシピを入力部33から入力することによって規定することができる。このようなレシピをオペレータが入力部33から制御部3に入力すると、それに従って制御部3の波形設定部32はオンオフを繰り返すパルス波形を設定する。そして、波形設定部32によって設定されたパルス波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を出力する。IGBT96のゲートにはオンオフを繰り返すパルス信号が印加され、IGBT96のオンオフ駆動が制御されることとなる。具体的には、IGBT96のゲートに入力されるパルス信号がオンのときにはIGBT96がオン状態となり、パルス信号がオフのときにはIGBT96がオフ状態となる。
【0070】
また、パルス発生器31から出力するパルス信号がオンになるタイミングと同期して制御部3がトリガー回路97を制御してトリガー電極91に高電圧(トリガー電圧)を印加する。コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にてIGBT96のゲートにパルス信号が入力され、かつ、そのパルス信号がオンになるタイミングと同期してトリガー電極91に高電圧が印加されることにより、パルス信号がオンのときにはガラス管92内の両端電極間で電流が流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
【0071】
このようにして加熱光源30の複数本のフラッシュランプFLが発光し、ステージ20に支持された半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光が照射される。ここで、IGBT96を使用することなくフラッシュランプFLを発光させた場合には、コンデンサ93に蓄積されていた電荷が1回の発光で消費され、フラッシュランプFLからの出力波形は幅が0.1ミリ秒ないし10ミリ秒程度の単純なシングルパルスとなる。これに対して、本実施の形態では、回路中にスイッチング素子たるIGBT96を接続してそのゲートにパルス信号を出力することにより、コンデンサ93からフラッシュランプFLへの電荷の供給をIGBT96によって断続してフラッシュランプFLに流れる電流をオンオフ制御している。その結果、いわばフラッシュランプFLの発光がチョッパ制御されることとなり、コンデンサ93に蓄積された電荷が分割して消費され、極めて短い時間の間にフラッシュランプFLが点滅を繰り返す。なお、回路を流れる電流値が完全に”0”になる前に次のパルスがIGBT96のゲートに印加されて電流値が再度増加するため、フラッシュランプFLが点滅を繰り返している間も発光出力が完全に”0”になるものではない。
【0072】
IGBT96によってフラッシュランプFLに流れる電流をオンオフ制御することにより、フラッシュランプFLの発光パターン(発光出力の時間波形)を自在に規定することができ、発光時間および発光強度を自由に調整することができる。IGBT96のオンオフ駆動のパターンは、入力部33から入力するパルス幅の時間とパルス間隔の時間とによって規定される。すなわち、フラッシュランプFLの駆動回路にIGBT96を組み込むことによって、入力部33から入力するパルス幅の時間とパルス間隔の時間とを適宜に設定するだけで、フラッシュランプFLの発光パターンを自在に規定することができるのである。
【0073】
具体的には、例えば、入力部33から入力するパルス間隔の時間に対するパルス幅の時間の比率を大きくすると、フラッシュランプFLに流れる電流が増大して発光強度が強くなる。逆に、入力部33から入力するパルス間隔の時間に対するパルス幅の時間の比率を小さくすると、フラッシュランプFLに流れる電流が減少して発光強度が弱くなる。また、入力部33から入力するパルス間隔の時間とパルス幅の時間の比率を適切に調整すれば、フラッシュランプFLの発光強度が一定に維持される。さらに、入力部33から入力するパルス幅の時間とパルス間隔の時間との組み合わせの総時間を長くすることによって、フラッシュランプFLに比較的長時間にわたって電流が流れ続けることとなり、フラッシュランプFLの発光時間が長くなる。フラッシュランプFLの発光時間は0.1ミリ秒~100ミリ秒の間で適宜に設定される(本実施形態では0.8ミリ秒)。また、半導体ウェハーWの表面に照射されるフラッシュ光の照射エネルギーは5J/cm以上60J/cm以下である。
【0074】
このようにしてフラッシュランプFLから半導体ウェハーWの表面に0.1ミリ秒以上100ミリ秒以下の照射時間にてフラッシュ光が照射され、ヘミセルロース膜103を含む半導体ウェハーWの表面がフラッシュ加熱される。フラッシュ光照射によってヘミセルロース膜103を含む半導体ウェハーWの表面が到達する最高温度T2は500℃以下である(本実施形態では500℃)。フラッシュ光の照射時間は極めて短時間であるため、半導体ウェハーWの表面が予備加熱温度T1よりも高い温度に加熱されている時間は1秒以下である。
【0075】
ヘミセルロース膜103が最高温度T2にまで加熱されることによって、ヘミセルロース膜103の表面に含浸されていた金属が膜中に拡散してヘミセルロース膜103の全体が硬化する。また、ヘミセルロース膜103が最高温度T2にまで加熱されることによって、主に水素系の不純物がヘミセルロース膜103から脱離してヘミセルロース膜103が緻密化する。ヘミセルロース膜103が緻密化するとともに硬化することにより、ヘミセルロース膜103のエッチング耐性が向上し、ヘミセルロース膜103がハードマスクとして必要な特性(高いエッチング選択比等)を獲得することとなる。
【0076】
ヘミセルロース膜103を含む半導体ウェハーWの表面のフラッシュ加熱が終了した後、半導体ウェハーWが熱処理装置1のチャンバー10から搬出される(ステップS5)。具体的には、熱処理装置1外部の搬送ロボットによって半導体ウェハーWが図示省略の搬送開口部を介してチャンバー10から搬出される。熱処理装置1から搬出された半導体ウェハーWは後工程に搬送され、ヘミセルロース膜103をマスクとして下層膜102の反応性イオンエッチングが行われる。このような一連のプロセスは、例えば3D-NANDフラッシュメモリの製造に好適に用いられる。
【0077】
本実施形態においては、半導体ウェハーWの表面に形成されたヘミセルロース膜103を200℃以下の予備加熱温度T1で予備加熱した後、フラッシュ光照射によって当該ヘミセルロース膜103を予備加熱温度T1よりも高温かつ500℃以下に1秒以下加熱している。本実施形態のようにすれば、安価な樹脂を用いて安価な製造コストでハードマスクを形成することができる。樹脂であるヘミセルロースは、200℃よりも高温に加熱されると熱分解するという性質を有している。その一方、表面に金属が含浸されているヘミセルロース膜103を200℃以下で加熱しても金属がほとんど拡散せず、ヘミセルロース膜103を硬化させることができない。
【0078】
そこで、本実施形態においては、フラッシュ光照射によってヘミセルロース膜103を200℃よりも高温かつ500℃以下に1秒以下加熱している。換言すれば、樹脂膜であるヘミセルロース膜103を臨界温度よりも高い温度に1秒以下の極短時間だけ加熱しているのである。「臨界温度」とは、樹脂膜が熱によって変質する温度である(樹脂膜がヘミセルロース膜103であれば200℃)。ヘミセルロース膜103を臨界温度よりも高い温度に加熱したとしても、その加熱時間は1秒以下の極短時間であるため、ヘミセルロース膜103の熱分解を防止することができる。また、表面に金属が含浸されたヘミセルロース膜103を臨界温度よりも高温に加熱することによって、金属を膜中に拡散させてヘミセルロース膜103を十分に硬化し、ヘミセルロース膜103のエッチング耐性を向上させることができる。すなわち、フラッシュ光照射によってヘミセルロース膜103を臨界温度よりも高い温度に1秒以下の極短時間だけ加熱することにより、ヘミセルロース膜103の熱分解防止と金属の拡散とを両立させているのである。
【0079】
また、予備加熱温度T1は臨界温度以下であるため、予備加熱中にヘミセルロース膜103が熱分解することも防止される。ただし、予備加熱によってはヘミセルロース膜103の表面に含浸された金属が拡散することもない。
【0080】
また、本実施形態においては、フラッシュランプFLの駆動回路にIGBT96を組み込むことによって、パルス幅の時間とパルス間隔の時間とを適宜に設定するだけで、フラッシュランプFLの発光パターンを自在に規定することができる。よって、フラッシュ光の照射時間を適宜に調整して、ヘミセルロース膜103を熱分解させることなく、金属を拡散させることができる好適な条件のフラッシュ加熱を行うことができる。
【0081】
また、上述したように、予備加熱中に検出器54が予め設定されている基準値以上の揮発性有機化合物を検出したときには、制御部3がフラッシュ光照射による主加熱を中止して熱処理装置1を停止している。これにより、異常なヘミセルロース膜103にフラッシュ光を照射して加熱することを未然に防止することができる。
【0082】
また、本実施形態においては、予備加熱時およびフラッシュ加熱時に第2ガス供給機構60からチャンバー窓18の下面に沿って不活性ガスを50リットル/分以上150リットル/分以下流している。ヘミセルロース膜103が加熱されているときには、有機溶剤の成分が揮発性有機化合物として熱処理空間15に放出されている。チャンバー窓18の下面に沿って不活性ガスを流すことにより、そのような有機化合物がチャンバー窓18の下面に付着するのを防止することができる。その結果、熱処理装置1のメンテナンス性を向上させることができる。
【0083】
また、チャンバー10からの排気配管52にはリリーフ弁55が設けられている。ヘミセルロース膜103が加熱されると、有機溶剤の成分が熱処理空間15に大量に放出されてチャンバー10内の圧力が急上昇することがある。チャンバー10内の圧力が所定値を超えて過大となったときに、リリーフ弁55が自動的に開いてチャンバー10内の気体を放出して圧力を低下させる。これにより、チャンバー10内の圧力上昇に起因したチャンバー窓18の破損を防止することができ、熱処理装置1の安全性を向上させることができる。
【0084】
また、ステージ20には、ヒータ21に加えて冷却配管22が設けられている。ステージ20にヒータ21のみを設けた場合には、半導体ウェハーWを連続処理することによって蓄熱によりステージ20およびチャンバー10内が徐々に高温となるおそれがある。ステージ20にヒータ21および冷却配管22を設けることにより、ステージ20を一定温度に温調することができる。具体的には、ステージ20に設けられた図示省略の温度センサの測定結果に基づいて制御部3がヒータ21の出力および冷却配管22への冷却水供給をフィードバック制御することにより、ステージ20の温度を一定温度に温調している。これにより、連続処理の対象となる複数の半導体ウェハーWの熱履歴を均一にすることができ、安定した連続処理が可能となる。
【0085】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、ヘミセルロース膜103が形成された半導体ウェハーWの熱処理を行っていたが、これに限定されるものではなく、他の樹脂膜が成膜された半導体ウェハーWに対して熱処理を行うようにしても良い。例えば、フェノール樹脂やフラーレン誘導体等の樹脂膜が形成された半導体ウェハーWに対して上記実施形態と同様の熱処理を行うようにしても良い。これらの樹脂膜であっても、表面に金属が含浸された樹脂膜を臨界温度よりも高い温度に1秒以下の短時間加熱することにより、樹脂膜を熱分解させることなく、金属を膜中に拡散させて樹脂膜を硬化することができる。
【0086】
また、上記実施形態においては、ヘミセルロース膜103が形成された半導体ウェハーWに予備加熱を行った後に、フラッシュ光照射を行うようにしていたが、樹脂膜の臨界温度以下で処理する予備加熱は必ずしも必須の工程ではない。常温の半導体ウェハーWにフラッシュ光を照射してヘミセルロース膜103を臨界温度よりも高い温度に加熱することができるのであれば、予備加熱は必ずしも行う必要はない。
【0087】
また、上記実施形態においては、フラッシュ光照射によってヘミセルロース膜103を臨界温度よりも高い温度に1秒以下加熱していたが、これに限定されるものではなく、他の加熱機構によってヘミセルロース膜103を1秒以下の短時間加熱するようにしても良い。他の加熱機構としては、例えば、レーザアニールやマイクロウェイブ等を用いることができる。レーザアニールやマイクロウェイブによってヘミセルロース膜103を臨界温度よりも高い温度に1秒以下加熱することより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0088】
また、上記実施形態においては、常圧で半導体ウェハーWの熱処理を行っていたが、予備加熱時およびフラッシュ加熱時にチャンバー10内を減圧するようにしても良い。具体的には、第1ガス供給機構40および第2ガス供給機構60からガス供給を行うことなく、排気機構50によって熱処理空間15の気体を排気することにより、チャンバー10内を大気圧未満に減圧した状態で予備加熱およびフラッシュ加熱を行う。チャンバー10内を減圧した状態で予備加熱およびフラッシュ加熱を行うことにより、ヘミセルロース膜103からの脱ガスを促進して不要な成分を脱離させることができ、ヘミセルロース膜103をより緻密化することができる。
【0089】
或いは、予備加熱時およびフラッシュ加熱時にチャンバー10内を加圧するようにしても良い。具体的には、排気バルブ53を閉止して熱処理空間15の気体を排気することなく、第1ガス供給機構40から熱処理空間15にガス供給を行うことにより、チャンバー10内を大気圧を超えて加圧した状態で予備加熱およびフラッシュ加熱を行う。チャンバー10内を加圧した状態で予備加熱およびフラッシュ加熱を行うことにより、ヘミセルロース膜103の熱分解をより効果的に抑制することができる。
【0090】
また、ヘミセルロース膜103に含浸される金属はアルミニウムに限定されるものではなく、クロム(Cr)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)等であっても良い。
【0091】
また、半導体ウェハーWの基材101の材質もシリコンに限定されるものではなく、SiC、GaN、Ge、GaAs等であっても良い。
【0092】
また、上記実施形態においては、排気配管52にリリーフ弁55が設けられていたが、これに限定されるものではなく、リリーフ弁55はチャンバー10に直接取り付けられていても良い。このようにしてもチャンバー10内の圧力が過大となったときには、リリーフ弁55が開いてチャンバー10内の圧力を低下させることができる。
【0093】
また、冷却配管22に代えてペルチェ素子を設けてステージ20を冷却するようにしても良い。
【符号の説明】
【0094】
1 熱処理装置
3 制御部
10 チャンバー
15 熱処理空間
18 チャンバー窓
20 ステージ
21 ヒータ
22 冷却配管
30 加熱光源
40 第1ガス供給機構
50 排気機構
52 排気配管
54 検出器
55 リリーフ弁
60 第2ガス供給機構
33 入力部
96 IGBT
103 ヘミセルロース膜
FL フラッシュランプ
W 半導体ウェハー
図1
図2
図3
図4
図5