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特許7242519合成ナノキャリアからの免疫抑制剤の制御放出
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】合成ナノキャリアからの免疫抑制剤の制御放出
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/436 20060101AFI20230313BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230313BHJP
   A61K 39/35 20060101ALI20230313BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20230313BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230313BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
A61K31/436
A61K39/00 H ZNA
A61K39/35
A61K9/51
A61K47/34
A61P37/02
A61P29/00
A61P37/08
A61P37/06
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019226735
(22)【出願日】2019-12-16
(62)【分割の表示】P 2017129024の分割
【原出願日】2012-04-27
(65)【公開番号】P2020073496
(43)【公開日】2020-05-14
【審査請求日】2020-01-15
(31)【優先権主張番号】61/531,153
(32)【優先日】2011-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/531,180
(32)【優先日】2011-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/531,215
(32)【優先日】2011-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/531,164
(32)【優先日】2011-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/531,147
(32)【優先日】2011-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/480,946
(32)【優先日】2011-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/531,204
(32)【優先日】2011-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/531,168
(32)【優先日】2011-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/513,514
(32)【優先日】2011-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/531,175
(32)【優先日】2011-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/531,194
(32)【優先日】2011-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/531,209
(32)【優先日】2011-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511254321
【氏名又は名称】セレクタ バイオサイエンシーズ インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】SELECTA BIOSCIENCES,INC.
【住所又は居所原語表記】65 Grove Street,Watertown,MA 02472,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】アルトロイター,デービッド,エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】グリセット,アーロン,ピー.
(72)【発明者】
【氏名】マルドナド,ロバート,エイ.
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-500569(JP,A)
【文献】特表2010-505883(JP,A)
【文献】特表2009-527566(JP,A)
【文献】国際公開第2010/027471(WO,A2)
【文献】特表2005-516893(JP,A)
【文献】特表2007-532517(JP,A)
【文献】特表2008-532953(JP,A)
【文献】機能性DDSキャリアの製剤設計,株式会社シーエムシー出版,2008年10月10日,p.93-104
【文献】新・ドラッグデリバリーシステム,株式会社 シーエムシー,2000年01月31日,p.100-101
【文献】ドラッグデリバリーシステム,株式会社 南江堂,1986年04月15日,p.70-71
【文献】Beevers CS, et al.,Curcumin inhibits the mammalian target of rapamycin-mediated signaling pathways in cancer cells,International Journal of Cancer,2006年,Vol.119, No.4,p.757-764
【文献】Haddadi, A. et al.,Delivery of rapamycin by PLGA nanoparticles enhances its suppressive activity on dendritic cells,Journal of Biomedical Materials Research. Part A,2008年,Vol.84, No.4,p.885-898,doi:10.1002/jbm.a.31373
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
A61K 39/00-39/44
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
PubMed
CiNii
医中誌WEB
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)免疫抑制剤が封入された合成ナノキャリア、および
(ii)APC提示可能抗原
を含む組成物であって;
前記合成ナノキャリアが、少なくとも20kDaまたは少なくとも25kDaの重量平均分子量を有するPLAまたはPLGAを含み;免疫抑制剤が、ラパマイシンを含み;
前記合成ナノキャリアが、以下の関係:
重量%(1時間)が、0.01~60%であり、および
重量%(24時間)が、25~100%である、
に従って、前記免疫抑制剤を放出するように構成され;
重量%(1時間)が、重量パーセントとして表され、前記合成ナノキャリア全体を平均した、1時間にわたるあるpHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、1時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、1時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に前記合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和によって除算した重量であり;
重量%(24時間)が、重量パーセントとして表され、前記合成ナノキャリア全体を平均した、24時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、24時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、24時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に前記合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和で除算した重量であり;
前記pHが、4.5~6.5の範囲であり;
任意に、薬学的に許容できる賦形剤を更に含む、前記組成物。
【請求項2】
(A)重量%(1時間)が、(a)10~60%;(b)15~50%;(c)20~45%;または(d)20~35%である;および/または
(B)重量%(24時間)が、(a)25~90%;(b)25~40%;(c)70~90%;または(d)80~90%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記水性環境が、(a)100mMのpH4.5のクエン酸ナトリウム緩衝液中;または(b)100mMのpH6.5のクエン酸ナトリウム緩衝液中0.5% wt/vのドデシル硫酸ナトリウムである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記合成ナノキャリアが、(a)少なくとも30kDa;(b)130kDa未満;(c)120kDa未満;(d)110kDa未満;(e)20kDa;(f)25kDa;(g)70kDa;または(h)100kDaの重量平均分子量を有するポリマーを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリマーがPLGAであるとき、前記ポリマーのラクチド:グリコリド比が、(a)少なくとも0.5;または(b)少なくとも0.75である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記免疫抑制剤が、前記APC提示可能抗原に対する寛容原性免疫応答を生成するのに有効な量である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記APC提示可能抗原が、
(a)MHCクラスI拘束性および/またはMHCクラスII拘束性エピトープおよび/またはB細胞エピトープを含む;
(b)Cd1dに結合する脂質を含む;および/または
(c)治療用タンパク質またはその部分、自己抗原またはアレルゲンであるか、或いは自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー、臓器若しくは組織拒絶反応または移植片対宿主病と関連し、
任意に、前記抗原が、前記合成ナノキャリアおよび/または他の合成ナノキャリアに結合される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記免疫抑制剤および/またはAPC提示可能抗原の負荷が、前記合成ナノキャリアまたは他の合成ナノキャリア全体を平均して、(a)0.0001%~50%(重量/重量);(b)0.1%~15%(重量/重量);(c)0.1%~10%(重量/重量);(d)2%~10%(重量/重量);(e)5%~10%(重量/重量);または(f)5%~15%(重量/重量)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
(A)前記合成ナノキャリアまたは他の合成ナノキャリアの動的光散乱を用いて得られる粒度分布の平均が、(a)100nm;(b)150nm;(c)200nm;(d)250nm;または(e)300nmを超える直径である;および/または
(B)前記アスペクト比が、前記合成ナノキャリアまたは他の合成ナノキャリア全体を平均して、1:1、1:1.2、1:1.5、1:2、1:3、1:5、1:7または1:10を超える、
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物を含む医薬製剤であって、任意に前記製剤を被験体に投与する工程を含む方法における使用のためのものである、前記製剤。
【請求項11】
前記製剤を、抗原特異的な寛容を必要としている被験体に投与する工程を含む方法における使用のためのものである、請求項10に記載の医薬製剤。
【請求項12】
(i)免疫抑制剤が封入された合成ナノキャリア、および
(ii)APC提示可能抗原
を含む組成物であって;
前記合成ナノキャリアが、少なくとも20kDaまたは少なくとも25kDaの重量平均分子量を有するPLAまたはPLGAを含み;免疫抑制剤が、ラパマイシンを含み;
前記合成ナノキャリアが、以下の関係:
重量%(1時間)が、0.01~60%であり、および
重量%(24時間)が、25~100%である、
に従って、前記免疫抑制剤を放出するように構成され;
重量%(1時間)が、重量パーセントとして表され、前記合成ナノキャリア全体を平均した、1時間にわたるあるpHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、1時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、1時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に前記合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和によって除算した重量であり、
重量%(24時間)が、重量パーセントとして表され、前記合成ナノキャリア全体を平均した、24時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、24時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、24時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に前記合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和で除算した重量であり;
前記pHが、4.5~6.5の範囲である、前記組成物。
【請求項13】
請求項10または11に記載の医薬製剤または請求項12に記載の組成物が、被験体に投与する工程を含む方法における使用のためのものであって、
(a)前記製剤または組成物が、前記APC提示可能抗原に対する寛容原性免疫応答をもたらすのに有効な量で投与される;
(b)前記製剤または組成物が、一体以上の被験体における前記APC提示可能抗原に対する寛容原性免疫応答をもたらすかまたは望ましくない免疫応答を減少させることが既に示されたプロトコルに従って前記被験体に投与される;
(c)前記被験体を提供または同定する工程が更に含まれる;
(d)前記被験体における前記APC提示可能抗原に対する前記寛容原性免疫応答の生成または前記望ましくない免疫応答の減少を評価する工程が更に含まれる;
(e)前記被験体が、自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー、移植片対宿主病に罹患しているか、或いは移植を行ったかまたは移植を行う予定である;
(f)前記被験体が、望ましくない免疫応答を起こしたか、起こしているかまたは起こすことが予測される治療用タンパク質を投与されたか、投与されているか、または投与される予定である;
(g)前記製剤または組成物が、静脈内、経粘膜、腹腔内、経口、皮下、経肺、鼻腔内、皮内、または筋肉内投与によって投与される;あるいは
(h)前記製剤または組成物が、吸入或いは静脈内、皮下または経粘膜投与によって投与される、
請求項10または11に記載の医薬製剤または請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
(a)請求項10、11および13のいずれか一項に記載の方法において;
(b)自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー、または移植片対宿主病の治療または予防の方法において;
(c)移植を行ったかまたは移植を行う予定である被験体の治療または予防の方法において;
(d)被験体が望ましくない免疫応答を起こしたか、起こしているかまたは起こすことが予測される治療用タンパク質を投与されたか、投与されているかまたは投与される予定である被験体の治療または予防の方法において;
(e)静脈内、経粘膜、腹腔内、経口、皮下、経肺、鼻腔内、皮内または筋肉内投与による投与を含む治療または予防の方法において;または
(f)吸入、静脈内、皮下または経粘膜投与による投与を含む治療または予防の方法において
使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物または請求項10または11に記載の医薬製剤。
【請求項15】
合成ナノキャリアを製造する方法であって;以下の工程:
(i)合成ナノキャリアに封入された免疫抑制剤と、任意に、APC提示可能抗原とを調製する工程;および
(ii)前記合成ナノキャリアが、以下の関係:
重量%(1時間)が、0.01~60%であり、
重量%(24時間)が、25~100%である、
に従って前記免疫抑制剤を放出するか否かを判定する工程
を含み;
前記合成ナノキャリアが、少なくとも20kDaまたは少なくとも25kDaの重量平均分子量を有するPLAまたはPLGAを含み;免疫抑制剤が、ラパマイシンを含み;
重量%(1時間)が、重量パーセントとして表され、前記合成ナノキャリア全体を平均した、1時間にわたるあるpHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、1時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、1時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に前記合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和によって除算した重量であり;
重量%(24時間)が、重量パーセントとして表され、前記合成ナノキャリア全体を平均した、24時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、24時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、24時間にわたる前記pHの37℃のインビトロ水性環境への前記合成ナノキャリアの曝露の際に前記合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和で除算した重量であり;
前記pHが、4.5~6.5の範囲であり;
任意に、前記合成ナノキャリアが、
(a)脂質ナノ粒子、ポリマーナノ粒子、金属ナノ粒子、界面活性剤ベースのエマルジョン、デンドリマー、バッキーボール、ナノワイヤ、ウイルス様粒子またはペプチド若しくはタンパク質粒子を含み;
(b)請求項1~9のいずれか一項に記載されるとおりであり;
(c)被験体への投与に好適な形態で提供され;
(d)請求項11、13(e)および13(f)のいずれかに記載される被験体への投与に好適な形態で提供され;および/または
(e)前記被験体への前記投与が、請求項13(g)または13(h)に記載されるとおりである、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条の下で、2011年4月29日に出願された米国仮特許出願第61/480,946号、2011年7月29日に出願された同第61/513,514号、2011年9月6日に出願された同第61/531,147号、2011年9月6日に出願された同第61/531,153号、2011年9月6日に出願された同第61/531,164号、2011年9月6日に出願された同第61/531,168号、2011年9月6日に出願された同第61/531,175号、2011年9月6日に出願された同第61/531,180号、2011年9月6日に出願された同第61/531,194号、2011年9月6日に出願された同第61/531,204号、2011年9月6日に出願された同第61/531,209号、2011年9月6日に出願された同第61/531,215号の利益を主張するものであり、これらの仮特許出願のそれぞれの内容全体が、参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、合成ナノキャリア組成物、および関連する方法に関し、この組成物は、合成ナノキャリアに結合された免疫抑制剤およびAPC提示可能抗原(APC presentable antigen)を含む。免疫抑制剤は、4.5~6.5の範囲のpHで経時的に合成ナノキャリアから解離する。ナノキャリアは、生物学的に関連した期間における免疫抑制剤の放出とともに、APCなどの、細胞の作用部位の標的化を可能にし、従って、寛容原性免疫応答の生成が望ましい疾病または病態を治療するのに使用され得る。
【背景技術】
【0003】
望ましくない免疫応答に関連する免疫抑制を生成するための従来の手法は、広く作用する免疫抑制剤に基づいている。しかしながら、免疫抑制を維持するために、免疫抑制剤療法は、一般に、生涯にわたる計画であり、広く作用する免疫抑制剤の使用には、腫瘍、感染症、腎毒性および代謝異常などの重い副作用のリスクが伴う。従って、上記の副作用のリスクを低下させながら、有効な治療を提供する免疫抑制剤の投与方法が、利益をもたらすであろう。薬剤を送達ビヒクルに結合するのが有利である場合があるが、どのような種類の放出が最適な効果をもたらすかおよび送達ビヒクルからの薬剤の放出をどのように制御することができるかに関する情報が不足している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一態様において、本開示は、(i)免疫抑制剤が結合された合成ナノキャリア、(ii)APC提示可能抗原、および任意選択的に(iii)薬学的に許容できる賦形剤を含む組成物を提供する。合成ナノキャリアは、以下の関係に従って、免疫抑制剤を放出するように構成される:重量%(1時間)が、0.01~60%(例えば、10~60%、15~50%、20~45%、20~30%)であり、重量%(24時間)が、25~100%(例えば、20~90%、20~40%、70~90%、80~90%)であり、重量%(1時間)が、重量パーセントとして表され、合成ナノキャリア全体を平均した、1時間にわたるあるpHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、1時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、1時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和によって除算した重量であり、重量%(24時間)が、重量パーセントとして表され、合成ナノキャリア全体を平均した、24時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、24時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、24時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和で除算した重量である。pHは、4.5~6.5の範囲である。ある実施形態において、組成物は、他の合成ナノキャリアを更に含む。
【0005】
一実施形態において、水性環境は、100mMのpH4.5のクエン酸ナトリウム緩衝液中0.5% wt/vのドデシル硫酸ナトリウムである。別の実施形態において、水性環境は、100mMのpH6.5のクエン酸ナトリウム緩衝液中0.5% wt/vのドデシル硫酸ナトリウムである。
【0006】
一実施形態において、合成ナノキャリアは、脂質ナノ粒子、ポリマーナノ粒子、金属ナノ粒子、界面活性剤ベースのエマルジョン、デンドリマー、バッキーボール、ナノワイヤ、ウイルス様粒子またはペプチド若しくはタンパク質粒子を含む。一実施形態において、合成ナノキャリアは、脂質ナノ粒子を含む。別の実施形態において、合成ナノキャリアは、リポソームを含む。更に別の実施形態において、合成ナノキャリアは、金属ナノ粒子を含む。一実施形態において、金属ナノ粒子は、金ナノ粒子を含む。更に別の実施形態において、合成ナノキャリアは、ポリマーナノ粒子を含む。
【0007】
本明細書に記載される組成物の何れかにおいて、合成ナノキャリアは、少なくとも10kDa、例えば、少なくとも15kDa、少なくとも20kDa、少なくとも25kDa、または少なくとも30kDaの分子量を有するポリマーを含み得る。その代わりにまたはそれに加えて、合成ナノキャリアは、130kDa未満、例えば、120kDa未満、110kDa未満、または110kDa未満の分子量を有するポリマーを含み得る。いくつかの例では、合成ナノキャリアは、20kDa、例えば、25kDa、70kDa、または100kDaの平均分子量を有するポリマーを含む。
【0008】
ある実施形態において、合成ナノキャリアは、ラクチドおよびグリコリドを含むポリマーを含む。このようなポリマーのラクチド:グリコリド比(数(モル)の比としての)は、少なくとも0.5、例えば、少なくとも0.75であり得る。他の実施形態において、合成ナノキャリアは、ラクチドを含み、かつグリコリドを含まないポリマーを含む。
【0009】
本明細書に記載される組成物の何れかにおいて、免疫抑制剤は、スタチン、mTOR阻害剤、TGF-βシグナル伝達剤、コルチコステロイド、ミトコンドリア機能の阻害剤、P38阻害剤、NF-κβ阻害剤、アデノシン受容体アゴニスト、プロスタグランジンE2アゴニスト、ホスホジエステラーゼ4阻害剤、HDAC阻害剤またはプロテアソーム阻害剤を含み得る。別の実施形態において、mTOR阻害剤は、ラパマイシンまたはラパマイシン類似体である。
【0010】
ある実施形態において、組成物中の免疫抑制剤は、上記の合成ナノキャリアまたは他の合成ナノキャリアに結合されていてもまたは上記の合成ナノキャリアに結合されていなくてもよいAPC提示可能抗原に対する寛容原性免疫応答を生成するのに有効な量である。APC提示可能抗原は、MHCクラスIまたはMHCクラスIIペプチドであり得る。或いは、APC提示可能抗原は、CD1複合体に結合するかまたはそれを形成するペプチドであり得る。いくつかの例において、APC提示可能抗原は、自己免疫疾患抗原、炎症性疾患抗原、アレルゲン、移植片対宿主病抗原、移植抗原または治療剤抗原である。
【0011】
一実施形態において、免疫抑制剤および/またはAPC提示可能抗原の負荷は、上記の合成ナノキャリアまたは他の合成ナノキャリア全体を平均して、0.1%~15%(重量/重量)、0.1%~10%(重量/重量)、2%~10%(重量/重量)、5%~10%(重量/重量)、および5%~15%(重量/重量)など、0.0001%~50%(重量/重量)である。いくつかの例において、APC提示可能抗原の重量%としての負荷は、上記の合成ナノキャリアまたは他の合成ナノキャリア全体を平均して、10%である。
【0012】
本明細書に記載される組成物において、上記の合成ナノキャリアまたは他の合成ナノキャリアの動的光散乱を用いて得られる粒度分布の平均は、100nmを超える直径、例えば、150nm、200nm、250nm、または300nmを超える直径である。
【0013】
別の実施形態において、アスペクト比は、上記の合成ナノキャリアまたは他の合成ナノキャリア全体を平均して、1:1、1:1.2、1:1.5、1:2、1:3、1:5、1:7または1:10を超える。
【0014】
上述される組成物の何れかを含む剤形、およびこのような剤形を、抗原特異的な寛容を必要とし得る被験体に投与する工程を含む方法も、本明細書に開示される。
【0015】
更に他の態様において、(i)免疫抑制剤が結合された合成ナノキャリア、および(ii)APC提示可能抗原を含む組成物を被験体に提供する工程と;免疫抑制剤を合成ナノキャリアから放出する工程とを含む方法も本明細書に開示され、合成ナノキャリアが、以下の関係に従って免疫抑制剤を放出するように構成されており:重量%(1時間)が、0.01~60%であり、重量%(24時間)が、25~100%であり、重量%(1時間)が、重量パーセントとして表され、合成ナノキャリア全体を平均した、1時間にわたるあるpHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、1時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、1時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和によって除算した重量であり、重量%(24時間)が、重量パーセントとして表され、合成ナノキャリア全体を平均した、24時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、24時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、24時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和で除算した重量である。pHは、4.5~6.5の範囲である。この方法は、被験体を提供または同定する工程を更に含み得る。
【0016】
本明細書に記載される方法の何れかにおいて、剤形または組成物は、APC提示可能抗原に対する寛容原性免疫応答を生成するのに有効な量で投与され得る。剤形または組成物は、一人以上の被験体におけるAPC提示可能抗原に対する寛容原性免疫応答をもたらすかまたは望ましくない免疫応答を減少させることが既に示されたプロトコルに従って被験体に投与され得る。いくつかの例において、剤形または組成物は、静脈内、経粘膜、腹腔内、経口、皮下、経肺、鼻腔内、皮内、または筋肉内投与によって投与され得る。或いは、剤形または組成物は、吸入或いは静脈内、皮下または経粘膜投与によって投与され得る。
【0017】
本明細書に記載される方法は、被験体におけるAPC提示可能抗原に対する寛容原性免疫応答の生成または望ましくない免疫応答の減少を評価する工程を更に含み得る。
【0018】
ある実施形態において、被験体は、自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー、移植片対宿主病に罹患しているか、或いは移植を行ったかまたは移植を行う予定である。他の実施形態において、被験体は、望ましくない免疫応答を起こしたか、起こしているかまたは起こすことが予測される治療用タンパク質を投与されたか、投与されているか、または投与される予定である。
【0019】
別の実施形態において、剤形または組成物は、静脈内、経口、皮下、経肺、鼻腔内、皮内、粘膜内または筋肉内投与によって投与される。更に別の実施形態において、剤形または組成物は、吸入或いは静脈内、皮下または経粘膜投与によって投与される。
【0020】
別の態様において、合成ナノキャリアに結合された抗原提示細胞(APC)免疫抑制剤およびAPC提示可能抗原を含む合成ナノキャリアを製造する工程と、APC免疫抑制剤が、以下の関係に従って合成ナノキャリアから放出されるか否かを判定する工程とを含む方法であって、重量%(1時間)が、0.01~50%であり、重量%(24時間)が、25~100%である方法が提供される。
【0021】
本明細書に記載される方法において規定されるものを含む、(例えば、自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー、または移植片対宿主病の)治療または予防に使用するため、および/または本明細書に提供される方法の何れかに使用するための、本明細書に記載される組成物または剤形も、本開示の範囲内である。このような使用(治療または予防)は、被験体が望ましくない免疫応答を起こしたか、起こしているか、または起こすことが予測される治療用タンパク質を投与されたか、投与されているか、または投与される予定である被験体に適用され得る。ある実施形態において、組成物または剤形は、静脈内、経粘膜、腹腔内、経口、皮下、経肺、鼻腔内、皮内または筋肉内投与によって投与され得る。
【0022】
本明細書に記載される方法の何れかに使用するための薬剤の製造のための、本明細書に記載される組成物/剤形の使用も、本開示に提供される。
【0023】
更に別の態様において、本開示は、合成ナノキャリアを提供する方法を提供する。この方法は、(i)合成ナノキャリアに結合された免疫抑制剤、および、任意に、APC提示可能抗原を含む合成ナノキャリアを調製する工程と;
(ii)合成ナノキャリアが、以下の関係に従って免疫抑制剤を放出するか否かを判定する工程とを含み:重量%(1時間)が、0.01~60%であり、重量%(24時間)が、25~100%であり、重量%(1時間)が、重量パーセントとして表され、合成ナノキャリア全体を平均した、1時間にわたるあるpHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、1時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、1時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和によって除算した重量であり、重量%(24時間)が、重量パーセントとして表され、合成ナノキャリア全体を平均した、24時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、24時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、24時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和で除算した重量であり;pHは、4.5~6.5の範囲である。
【0024】
合成ナノキャリアは、本明細書に記載されるものなどの、脂質ナノ粒子、ポリマーナノ粒子、金属ナノ粒子、界面活性剤ベースのエマルジョン、デンドリマー、バッキーボール、ナノワイヤ、ウイルス様粒子またはペプチド若しくはタンパク質粒子を含み得る。
【0025】
必要に応じて、合成ナノキャリアは、被験体への投与に好適な形態で提供される。一例では、合成ナノキャリアは、被験体、例えば、抗原特異的な寛容を必要とする被験体に投与される。ある実施形態において、被験体は、自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー、移植片対宿主病に罹患しているか、或いは移植を行ったかまたは移植を行う予定である。他の実施形態において、被験体は、望ましくない免疫応答を起こしたか、起こしているかまたは起こすことが予測される治療用タンパク質を投与されたか、投与されているか、または投与される予定である。合成ナノキャリアは、本明細書に記載される経路、例えば、静脈内、経口、皮下、経肺、鼻腔内、皮内、粘膜内または筋肉内投与によって、或いは吸入或いは静脈内、皮下または経粘膜投与によって被験体に投与され得る。
【0026】
(i)上に規定される方法工程を含む、合成ナノキャリアを製造するための方法、(ii)本明細書に記載される方法の何れかに従って作製され、および/または同様に本明細書に記載される方法によって製造されるかまたは得られる合成ナノキャリア、(iii)治療または予防および/または本明細書に記載される方法の何れかに使用するための合成キャリアの何れか、および(iv)本明細書に規定される方法に使用するための薬剤の製造のための、このような合成キャリアの何れかの使用も、本明細書に提供される。
【0027】
本明細書に提供される組成物および方法の何れかの一実施形態において、抗原はペプチドである。このような抗原は、ある実施形態において、本明細書のどこかに記載される少なくとも1つのエピトープを含むが、エピトープの一端または両端に隣接する更なるアミノ酸も含んでいてもよい。実施形態において、抗原は、全抗原タンパク質を含む。これらの抗原は、合成ナノキャリアに結合され得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】Treg細胞のフローサイトメトリー分析の代表例を提供する。
図2】ナノキャリア封入ラパマイシンおよび遊離オボアルブミン(323-33)で処理されたtDCによるCD4CD25high Treg細胞におけるFoxP3の抗原特異的な誘導を示す。
図3】CD4CD25high Treg細胞におけるFoxP3の抗原特異的な誘導を示す。
図4】pH4.5における、特定のポリマー組成物を含む合成ナノキャリアからのラパマイシンの経時的な放出(重量基準)を示す。
図5】pH4.5における、特定のポリマー組成物を含む合成ナノキャリアからの経時的なラパマイシンの放出パーセントを示す。
図6】pH6.5における、特定のポリマー組成物を含む合成ナノキャリアからのラパマイシンの経時的な放出(重量基準)を示す。
図7】pH6.5における、特定のポリマー組成物を含む合成ナノキャリアからの経時的なラパマイシンの放出パーセントを示す。
図8】ovaペプチドおよび免疫抑制剤ラパマイシンを含む合成ナノキャリアの投与による、抗原特異的なIgGレベルの低下を示す。
図9】ovaペプチドおよび免疫抑制剤ラパマイシンを含む合成ナノキャリアによる、抗原特異的なB細胞の数の減少を示す。
図10】ovaペプチドおよび免疫抑制剤を含む合成ナノキャリアで処理された喘息モデル動物被験体からの洗浄試料におけるCD4+T細胞の数の減少を示す。
図11】喘息モデル動物被験体におけるovaペプチドおよび免疫抑制剤ラパマイシンを含む合成ナノキャリアによる処理の結果としての、分割CD4+T細胞のパーセンテージの低下を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を詳細に説明する前に、本発明が、具体的に例示される材料またはプロセスパラメータに限定されず、従って、当然ながら変化し得ることを理解されたい。本明細書に使用される専門用語が、本発明の特定の実施形態のみを説明するためのものであり、本発明を説明する別の専門用語の使用を限定するものであることは意図されていないことも理解されたい。
【0030】
本明細書に引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、上記または下記にかかわらず、あらゆる目的のために、全体が参照により本明細書に援用される。
【0031】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される際、単数形(「a」、「an」および「the」)は、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、複数の指示対象を含む。例えば、ポリマー(a polymer)」への言及は、2つ以上のこのような分子の混合物または異なる分子量の単一のポリマー種の混合物を含み、「合成ナノキャリア(a synthetic nanocarrier)」への言及は、2つ以上のこのような合成ナノキャリアまたは複数のこのような合成ナノキャリアの混合物を含み、「DNA分子(a DNA molecule)」への言及は、2つ以上のこのようなDNA分子または複数のこのようなDNA分子の混合物を含み、「免疫抑制剤(an immunosuppressant)」への言及は、2つ以上のこのような材料または複数の免疫抑制剤分子の混合物を含むなどである。
【0032】
本明細書において使用される際、「含む(comprise)」という用語或いは「含む(comprises)」または「含む(comprising)」などのその変化形は、任意の記載される整数(例えば、特徴、要素、特性、性質、方法/プロセス工程または制限)或いは整数(例えば、特徴、要素、特性、性質、方法/プロセス工程または制限)の群の包含を示すように読まれるべきであるが、任意の他の整数または整数の群を除外するものではない。従って、本明細書において使用される際、「含む(comprising)」という用語は、包含的なものであり、追加の記載されていない整数または方法/プロセス工程を除外するものではない。
【0033】
本明細書に提供される組成物および方法の何れかの実施形態において、「含む(comprising)」は、「から本質的になる(consisting essentially of)」または「からなる(consisting of)」と置き換えられることがある。「から本質的になる(consisting essentially of)」という語句は、本明細書において、規定の整数または工程並びに権利請求される発明の性質または機能に実質的に影響を与えない整数または工程を必要とするのに使用される。本明細書において使用される際、「からなる(consisting)」という用語は、記載される整数(例えば、特徴、要素、特性、性質、方法/プロセス工程または制限)或いは整数(例えば、特徴、要素、特性、性質、方法/プロセス工程または制限)の群のみの存在を示すのに使用される。
【0034】
A.導入部
対象とする細胞の作用部位、特にAPCにより直接的に、および/または生物学的に関連した期間内で免疫抑制剤を放出することができると、有益な免疫応答が得られる。免疫抑制剤が、時間とともに制御された方法で放出され得ることが示されている。このような制御は、特定の期間内における免疫抑制剤の最適な放出により、免疫系へのより的確な介入を可能にし得る。本明細書に提供される合成ナノキャリアは、有益な寛容原性免疫応答をもたらすことも示されている。
【0035】
本発明者らは、上記の問題および制限が、本明細書に開示される本発明を実施することによって克服され得ることを予想外かつ意外にも発見した。特に、本発明者らは、特定の期間内で特定の量の免疫抑制剤を放出する、合成ナノキャリア組成物、および関連する方法を提供することが可能であることを予想外にも発見した。本明細書に記載される組成物は、(i)免疫抑制剤が結合された合成ナノキャリア、および(ii)APC提示可能抗原を含む組成物であり、ここで、免疫抑制剤が、以下の関係に従って合成ナノキャリアから放出され:重量%(1時間)が、0.01~60%であり、重量%(24時間)が、25~100%であり、重量%(1時間)が、重量パーセントとして表され、合成ナノキャリア全体を平均した、1時間にわたるあるpHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、1時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、1時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和によって除算した重量であり、重量%(24時間)が、重量パーセントとして表され、合成ナノキャリア全体を平均した、24時間にわたる上記pHのインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、24時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、24時間にわたる上記pHの37℃のインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和で除算した重量であり;pHが、4.5~6.5の範囲である。これらの組成物は、APC提示可能抗原に特異的な制御性細胞(例えば、Treg)発生の促進および/または抗原特異的な抗体産生および抗原特異的な免疫細胞の減少を含む寛容原性免疫応答など、免疫応答を免疫抑制に有利に変化させ得る。
【0036】
本明細書に提供される速度に従って免疫抑制剤を放出する合成ナノキャリア組成物が、様々な材料を用いて製造され得る。ある実施形態において、合成ナノキャリア組成物は、特定の分子量のポリマーを選択することによって製造され得る。一実施形態において、合成ナノキャリアは、少なくとも10kDaの分子量を有するポリマーを含む。更に別の実施形態において、合成ナノキャリアは、130kDa未満の分子量を有するポリマーを含む。更に別の実施形態において、合成ナノキャリアは、20kDaの分子量を有するポリマーを含む。更なる実施形態において、合成ナノキャリアは、25kDaの分子量を有するポリマーを含む。
【0037】
他の実施形態において、合成ナノキャリアは、ポリマーの特定のモノマー組成物を選択することによって製造され得る。更に他の実施形態において、合成ナノキャリアは、ラクチドおよびグリコリドを含むポリマーを含む。更に他の実施形態において、ポリマーのラクチド:グリコリド比は、少なくとも0.5である。更に別の実施形態において、ラクチド:グリコリド比は、少なくとも0.75である。更に別の実施形態において、合成ナノキャリアは、ラクチドを含み、かつグリコリドを含まないポリマーを含む。別の実施形態において、これらのポリマーは、少なくとも10kDaおよび130kDa未満の分子量も有し得る。更に別の実施形態において、これらのポリマーは、ラクチドを含み、かつグリコリドを含まないことがある。
【0038】
一実施形態において、免疫抑制剤は、合成ナノキャリアのポリマーに結合される。更に別の実施形態において、免疫抑制剤は、合成ナノキャリア内に封入される。更に別の実施形態において、免疫抑制剤は、本明細書に提供されるポリマーを含む合成ナノキャリア内に封入される。
【0039】
別の実施形態において、APC提示可能抗原は、免疫抑制剤が結合されるのと同じ合成ナノキャリアに結合される。別の実施形態において、APC提示可能抗原は、異なる合成ナノキャリアに結合される。更に別の実施形態において、APC提示可能抗原は、合成ナノキャリアに結合されない。
【0040】
合成ナノキャリアからの免疫抑制剤の放出は、合成ナノキャリア中の免疫抑制剤の負荷を制御することによって制御することもできる。更に別の実施形態において、免疫抑制剤の負荷は、合成ナノキャリア全体を平均して、0.0001%~50%である。好ましくは、ある実施形態において、免疫抑制剤の負荷は、合成ナノキャリア全体を平均して、0.1%~15%または1%~10%などである。
【0041】
更に別の実施形態において、組成物中の免疫抑制剤は、APC提示可能抗原に対する寛容原性免疫応答を生成するのに有効な量で存在する。
【0042】
別の態様において、本明細書の組成物の何れかの剤形が提供される。このような剤形は、(例えば、抗原特異的な寛容を必要とする)被験体に投与され得る。一実施形態において、被験体は、自己免疫疾患、炎症性疾患、臓器若しくは組織拒絶反応、移植片対宿主病またはアレルギーに罹患しているか、或いはこれらに罹患するリスクがある被験体である。別の実施形態において、被験体は、移植を行ったかまたは移植を行う予定である被験体である。更に別の実施形態において、被験体は、望ましくない免疫応答を刺激する治療剤で治療されたかまたは治療される予定である被験体である。
【0043】
ここで、本発明は、以下により詳細に説明される。
【0044】
B.定義
「投与する(administering)」または「投与(administration)」は、薬理学的に有用な方法で被験体に材料を提供することを意味する。
【0045】
「アレルゲン」は、被験体における望ましくない(例えば、1型過敏)免疫応答(即ち、アレルギー応答または反応)を引き起こし得る任意の物質である。アレルゲンとしては、以下に限定はされないが、植物アレルゲン(例えば、花粉、ブタクサアレルゲン)、昆虫アレルゲン、昆虫刺傷アレルゲン(例えば、ハチ刺傷アレルゲン)、動物アレルゲン(例えば、動物の鱗屑またはネコFel d 1抗原などのペットアレルゲン)、ラテックスアレルゲン、カビアレルゲン、真菌アレルゲン、化粧品アレルゲン、薬物アレルゲン、食物アレルゲン、粉塵、昆虫毒、ウイルス、細菌などが挙げられる。食物アレルゲンとしては、以下に限定はされないが、牛乳アレルゲン、卵アレルゲン、ナッツアレルゲン(例えば、ピーナッツまたは木堅果アレルゲンなど(例えば、クルミ、カシューナッツなど))、魚アレルゲン、甲殻類アレルゲン、大豆アレルゲン、豆類アレルゲン、種子アレルゲンおよび小麦アレルゲンが挙げられる。昆虫刺傷アレルゲンとしては、ハチ刺傷、カリバチ刺傷、ホーネット(hornet)刺傷、イエロージャケット(yellow jacket)刺傷などであるかこれらに関連するアレルゲンが挙げられる。昆虫アレルゲンとしては、イエダニアレルゲン(例えば、Der P1抗原)およびゴキブリアレルゲンも挙げられる。薬物アレルゲンとしては、抗生物質、NSAID、麻酔剤などであるかこれらに関連するアレルゲンが挙げられる。花粉アレルゲンとしては、草アレルゲン、樹木アレルゲン、雑草アレルゲン、花アレルゲンなどが挙げられる。本明細書に提供されるアレルゲンの何れかに対する望ましくない免疫応答を生じるかまたは生じるリスクがある被験体は、本明細書に提供される組成物および方法の何れかで治療され得る。提供される組成物および方法の何れかで治療され得る被験体は、提供されるアレルゲンの何れかに対するアレルギーを有するかまたは有するリスクがある被験体も含む。
【0046】
「アレルギー」は、本明細書において「アレルギー状態」とも呼ばれ、ある物質に対する望ましくない(例えば、1型過敏)免疫応答(即ち、アレルギー応答または反応)がある任意の状態である。このような物質は、本明細書においてアレルゲンと呼ばれる。アレルギーまたはアレルギー状態としては、以下に限定はされないが、アレルギー性喘息、花粉症、じんま疹、湿疹、植物アレルギー、ハチ刺傷アレルギー、ペットアレルギー、ラテックスアレルギー、カビアレルギー、化粧品アレルギー、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎または鼻風邪、局所的アレルギー反応、アナフィラキシー、アトピー性皮膚炎、過敏性反応および他のアレルギー状態が挙げられる。アレルギー反応は、何らかのアレルゲンに対する免疫反応の結果であり得る。ある実施形態において、アレルギーは、食物アレルギーである。食物アレルギーとしては、以下に限定はされないが、牛乳アレルギー、卵アレルギー、ナッツアレルギー、魚アレルギー、甲殻類アレルギー、大豆アレルギーまたは小麦アレルギーが挙げられる。
【0047】
被験体への投与のための組成物または剤形の文脈における「有効量」は、被験体における1つ以上の望ましい免疫応答を生成する(例えば、寛容原性免疫応答の生成)、組成物または剤形の量を指す。従って、ある実施形態において、有効量は、これらの望ましい免疫応答のうちの1つ以上を生成する本明細書に提供される組成物の任意の量である。この量は、インビトロまたは生体内の目的のためのものであり得る。生体内の目的では、量は、抗原特異的な寛容化を必要とする被験体に対する臨床効果を有し得ると臨床医が考えるであろう量であり得る。このような被験体は、炎症性疾患、自己免疫疾患、アレルギー、臓器若しくは組織拒絶反応または移植片対宿主病に罹患しているかまたは罹患するリスクがある被験体を含む。このような被験体は、移植を行ったかまたは移植を行う予定である被験体も含む。このような被験体は、治療用タンパク質に対する望ましくない免疫応答を起こしたか、起こしているかまたは起こすことが予測される被験体を更に含む。
【0048】
有効量は、望ましくない免疫応答のレベルを低下させることのみに関与し得るが、ある実施形態において、有効量は、望ましくない免疫応答を完全に予防することに関与する。有効量は、望ましくない免疫応答の発生を遅延させることにも関与し得る。有効な量はまた、所望の治療エンドポイントまたは所望の治療結果をもたらす本明細書に提供される組成物の量であり得る。有効量は、好ましくは、抗原に対する被験体の寛容原性免疫応答をもたらす。上記の何れかの成果が、常法によって監視され得る。
【0049】
提供される組成物および方法の何れかのある実施形態において、有効量は、望ましい免疫応答が、被験体において、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月間、少なくとも2ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも4ヶ月間、少なくとも5ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも9ヶ月間、少なくとも1年間、少なくとも2年間、少なくとも5年間、またはそれ以上持続する量である。提供される組成物および方法の何れかの他の実施形態において、有効量は、測定可能な望ましい免疫応答、例えば、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月間、少なくとも2ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも4ヶ月間、少なくとも5ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも9ヶ月間、少なくとも1年間、少なくとも2年間、少なくとも5年間、またはそれ以上にわたる、免疫応答(例えば、特定の抗原に対する)の測定可能な減少をもたらす量である。
【0050】
有効量は、当然ながら、治療される特定の被験体;病態、疾病または疾患の重症度;年齢、健康状態、サイズおよび体重を含む個々の患者パラメータ;治療の持続期間;併用療法(もしあれば)の性質;特定の投与経路並びに医療関係者の知識および専門技術の範囲内の同様の要因に左右されるであろう。これらの要因は、当業者に周知であり、単なる日常的な実験で対処され得る。最大投与量、即ち、妥当な医学的判断に従って安全な最高投与量が使用されることが一般に好ましい。しかしながら、患者が、医療上の理由、心理的な理由または実質的にあらゆる他の理由のために、より少ない投与量または耐量を要求し得ることが、当業者によって理解されるであろう。
【0051】
一般に、本発明の組成物中の免疫抑制剤および/または抗原の投与量は、約10μg/kg~約100,000μg/kgの範囲であり得る。ある実施形態において、投与量は、約0.1mg/kg~約100mg/kgの範囲であり得る。更に他の実施形態において、投与量は、約0.1mg/kg~約25mg/kg、約25mg/kg~約50mg/kg、約50mg/kg~約75mg/kgまたは約75mg/kg~約100mg/kgの範囲であり得る。或いは、投与量は、所望の量の免疫抑制剤および/または抗原が得られる合成ナノキャリアの数に基づいて投与され得る。例えば、有用な投与量は、投与量当たり10、10、10、10または1010個を超える合成ナノキャリアを含む。有用な投与量の他の例は、投与量当たり約1×10~約1×1010個、約1×10~約1×10個または約1×10~約1×10個の合成ナノキャリアを含む。
【0052】
「抗原」は、B細胞抗原またはT細胞抗原を意味する。「抗原のタイプ」は、同じか、または実質的に同じ抗原的特徴を共有する分子を意味する。ある実施形態において、抗原は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、リポタンパク質、糖脂質、ポリヌクレオチド、多糖類であり得るか或いは細胞中に含まれるかまたは細胞中で発現される。抗原が明確に規定または特徴付けされていない場合などのある実施形態において、抗原は、細胞または組織標本、細胞残屑、細胞エキソソーム、馴化培地などの中に含まれていてもよい。抗原は、被験体が曝される望ましくない免疫応答を引き起こす形態と同じ形態で合成ナノキャリアと組み合わされ得るが、その断片または誘導体であってもよい。しかしながら、断片または誘導体の場合、このような被験体が曝される形態に対する望ましい免疫応答が、提供される組成物および方法による好ましい結果である。
【0053】
「抗原特異的な」は、抗原、またはその部分の存在から得られるか、或いは抗原を特異的に認識または結合する分子を生成する任意の免疫応答を指す。例えば、免疫応答が、抗原特異的な抗体産生である場合、抗原を特異的に結合する抗体が産生される。別の例として、免疫応答が、抗原特異的なB細胞またはT細胞増殖および/または活性である場合、増殖および/または活性は、B細胞などによる、抗原、またはその部分のみの認識或いはMHC分子と複合した抗原、またはその部分の認識から得られる。
【0054】
本明細書に提供される疾病、疾患または病態と「関連する抗原」は、疾病、疾患または病態に対する、その結果としての、またはそれに伴う望ましくない免疫応答;疾病、疾患または病態(またはその症状または作用)の原因を生成し得るか;および/または疾病、疾患または病態の症状、結果または作用である望ましくない免疫応答を生成し得る抗原である。好ましくは、ある実施形態において、本明細書に提供される組成物および方法における、疾病、疾患または病態などと関連する抗原の使用は、抗原および/または抗原が上でまたは中で発現される細胞に対する寛容原性免疫応答をもたらす。抗原は、疾病、疾患または病態に罹患した被験体において発現されるのと同じ形態であり得るが、その断片または誘導体であってもよい。しかしながら、断片または誘導体の場合、このような被験体において発現される形態に対する望ましい免疫応答が、提供される組成物および方法による好ましい結果である。疾病、疾患または病態などと関連する抗原は、ある実施形態において、MHCクラスI拘束性エピトープおよび/またはMHCクラスII拘束性エピトープおよび/またはB細胞エピトープを含み、および/またはCD1d複合体に結合し、CD1d複合体を形成する脂質を含む。
【0055】
一実施形態において、抗原は、炎症性疾患、自己免疫疾患、臓器若しくは組織拒絶反応または移植片対宿主病と関連する抗原である。このような抗原としては、ミエリン塩基性タンパク質、コラーゲン(例えば、11型コラーゲン)、ヒト軟骨gp 39、クロモグラニンA、gp130-RAPS、プロテオリピドタンパク質、フィブリラリン、核タンパク質、核小体タンパク質(例えば、小核小体タンパク質)、甲状腺刺激因子受容体、ヒストン、糖タンパク質gp 70、リボソームタンパク質、ピルビン酸デヒドロゲナーゼジヒドロリポアミドアセチルトランスフェラーゼ、毛包抗原、ヒトトロポミオシンアイソフォーム5、ミトコンドリアタンパク質、膵臓β細胞タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質、インスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、グルテン、およびそれらの断片または誘導体などの自己抗原が挙げられる。他の自己抗原が、以下の表1に示される。
【0056】
抗原は、臓器若しくは組織拒絶反応と関連する抗原も含む。このような抗原の例としては、以下に限定はされないが、同種異系細胞からの抗原、例えば、同種異系細胞抽出物からの抗原および内皮細胞抗原などの、他の細胞からの抗原が挙げられる。
【0057】
抗原は、アレルギーと関連する抗原も含む。このような抗原は、本明細書のどこかに記載されるアレルゲンを含む。
【0058】
抗原は、移植可能な移植片と関連する抗原も含む。このような抗原は、移植可能な移植片、またはレシピエントへの移植可能な移植片の導入の結果として生成される、移植可能な移植片のレシピエントにおける望ましくない免疫応答に関連し、免疫系の細胞による認識について提示され得、望ましくない免疫応答を生成し得る。移植抗原は、臓器若しくは組織拒絶反応または移植片対宿主病と関連するものを含む。移植抗原は、生体材料の細胞または移植可能な移植片に関連する情報から得られ、またはそれらに由来し得る。移植抗原は、一般に、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、リポタンパク質、糖脂質、ポリヌクレオチドを含み、或いは細胞中に含まれるかまたは細胞中で発現される。移植可能な移植片に関連する情報は、移植抗原を得るまたは取り出すのに使用され得る移植可能な移植片についての任意の情報である。このような情報は、例えば、抗原の配列情報、タイプまたはクラスおよび/またはそれらのMHCクラスI、MHCクラスIIまたはB細胞の提示の拘束性(restriction)などの、移植可能な移植片の細胞中または細胞上に存在することが予測され得る抗原についての情報を含む。このような情報は、移植可能な移植片のタイプ(例えば、自家移植片、同種移植片、異種移植片)、移植片の分子および細胞組成、移植片が由来する身体部位または移植片が移植されることになる身体部位(例えば、全臓器または部分臓器、皮膚、骨、神経、腱、ニューロン、血管、脂肪、角膜など)についての情報も含み得る。
【0059】
抗原は、免疫系の細胞による認識について提示され得、治療用タンパク質に対する望ましくない免疫応答を生成し得る、治療用タンパク質に関連する抗原も含む。治療用タンパク質抗原は、一般に、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、リポタンパク質を含み、或いは細胞中に、細胞によってまたは細胞上に含まれるかまたは発現される。
【0060】
抗原は、十分に規定または特徴付けされた抗原であり得る。しかしながら、ある実施形態において、抗原は、十分に規定または特徴付けされていない。従って、抗原は、細胞または組織標本、細胞残屑、細胞エキソソームまたは馴化培地の中に含まれ、ある実施形態において、このような形態で送達され得る抗原も含む。
【0061】
「APC提示可能抗原」は、例えば、樹枝状細胞、B細胞またはマクロファージを含むがこれらに限定されない抗原提示細胞によって提示される、免疫系の細胞による認識について提示され得る抗原を意味する。APC提示可能抗原は、例えば、T細胞による認識について提示され得る。このような抗原は、クラスIまたはクラスII主要組織適合遺伝子複合体分子(MHC)に結合されるか、或いはCD1d分子に結合される抗原またはその部分の提示によって、T細胞における免疫応答によって認識され得、それを引き起こし得る。CD1dは、自己および外来脂質および糖脂質を結合する抗原提示分子であり、抗原提示細胞に見られることが多い。CD1dは、肝細胞などの非造血細胞にも見られる。CD1dは、通常、iNKT細胞への提示のために、疎水性脂質を結合する疎水性の溝を含む。好ましくは、APC提示可能抗原に特異的な1つ以上の寛容原性免疫応答が、本明細書に提供される組成物によって生じる。このような免疫応答は、例えば、CD4Treg細胞および/またはCD8Treg細胞などの制御性細胞の刺激、産生、誘導または動員によって影響され得る。
【0062】
APC提示可能抗原は、一般に、ペプチド、ポリペプチド、全タンパク質または全細胞溶解物を含む。一実施形態において、APC提示可能抗原は、MHCクラスI拘束性エピトープを含む。別の実施形態において、APC提示可能抗原は、MHCクラスII拘束性エピトープを含む。別の実施形態において、APC提示可能抗原は、B細胞エピトープを含む。しかしながら、別の実施形態において、APC提示可能抗原は、CD1d複合体に結合するかまたはそれを形成する脂質である。
【0063】
更なる実施形態において、本発明の組成物中のAPC提示可能抗原は、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質をコードする核酸の形態で提供される。核酸は、DNAまたは、mRNAなどのRNAであり得る。実施形態において、本発明の組成物は、本明細書に提供される核酸の何れかの全長補体などの補体、または変質組織(遺伝子コードの変質による)を含む。実施形態において、核酸は、細胞株へとトランスフェクトされるときに転写され得る発現ベクターである。実施形態において、発現ベクターは、特に、プラスミド、レトロウイルス、またはアデノウイルスを含み得る。
【0064】
一実施形態において、抗原は、本明細書に記載される疾病、疾患または病態と関連し、免疫抑制剤と組み合わされて、疾病、疾患または病態に特異的な寛容原性免疫応答をもたらし得る。
【0065】
「免疫応答の評価」は、インビトロまたは生体内の免疫応答のレベル、存在または非存在、減少、増加などの任意の測定または判定を指す。このような測定または判定は、被験体から得られる1つ以上の試料において行われ得る。このような評価は、本明細書に提供される方法または当該技術分野において公知の他の方法の何れかを用いて行われ得る。
【0066】
「リスクがある」被験体は、本明細書に提供される疾病、疾患または病態に罹患する可能性を有すると医療関係者が考える被験体、または本明細書に提供される望ましくない免疫応答を起こす可能性があると医療関係者が考える被験体である。
【0067】
「自己免疫疾患」は、免疫系が自身(例えば、1つ以上の自己抗原)に対する望ましくない免疫応答を行う任意の疾病である。ある実施形態において、自己免疫疾患は、自己標的化免疫応答の一環としての身体の細胞の異常な破壊を含む。ある実施形態において、自己の破壊は、臓器、例えば、結腸または膵臓の機能不全に現れる。自己免疫疾患の例が、本明細書のどこかに記載されている。更なる自己免疫疾患が、当業者に公知であり、本発明は、これに関して限定されない。
【0068】
本明細書において使用される際の「平均」は、特に断りのない限り、算術平均を指す。
【0069】
「B細胞抗原」は、B細胞における免疫応答を引き起こす任意の抗原(例えば、B細胞またはその上の受容体によって特に認識される抗原)を意味する。ある実施形態において、T細胞抗原である抗原は、B細胞抗原でもある。他の実施形態において、T細胞抗原はまた、B細胞抗原ではない。B細胞抗原としては、以下に限定はされないが、タンパク質、ペプチド、小分子、および炭水化物が挙げられる。ある実施形態において、B細胞抗原は、非タンパク質抗原を含む(即ち、タンパク質またはペプチド抗原を含まない)。ある実施形態において、B細胞抗原は、自己抗原を含む。他の実施形態において、B細胞抗原は、アレルゲン、自己抗原、治療用タンパク質、または移植可能な移植片から得られるかまたはこれらに由来する。
【0070】
「同時に」は、時間的に相関される、好ましくは、免疫応答の調節を与えるのに十分に時間的に相関されるように、2種以上の物質を被験体に投与することを意味する。実施形態において、同時投与は、同じ剤形における2種以上の物質の投与によって行われ得る。他の実施形態において、同時投与は、異なる剤形における2種以上の物質の投与(但し、規定の期間内、好ましくは1ヶ月以内、より好ましくは1週間以内、更により好ましくは1日以内、更により好ましくは1時間以内の投与)を包含し得る。
【0071】
「結合」または「結合された」または「結合する」(など)は、物質(例えば部分)を互いに化学的に結合することを意味する。ある実施形態において、結合は、共有であり、これは、結合が、2つの物質間の共有結合が存在する状況で起こることを意味する。非共有の実施形態において、非共有結合には、電荷相互作用、親和性相互作用、金属配位、物理吸着、ホスト-ゲスト相互作用、疎水性相互作用、TTスタッキング相互作用、水素結合相互作用、ファン・デル・ワールス相互作用、磁気相互作用、静電相互作用、双極子間相互作用、および/またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されない非共有相互作用が介在する。実施形態において、封入が、結合の形態である。
【0072】
「剤形」は、被験体への投与に好適な、媒体、キャリア、ビヒクル、またはデバイス中の薬理学的におよび/または免疫学的に活性な材料を意味する。
【0073】
「封入する」は、物質の少なくとも一部を合成ナノキャリア中に入れることを意味する。ある実施形態において、物質が、合成ナノキャリア中に完全に入れられる。他の実施形態において、封入される物質の殆どまたは全てが、合成ナノキャリアの外部の局所環境に曝されない。他の実施形態において、50%、40%、30%、20%、10%または5%(重量/重量)以下が、局所環境に曝される。封入は、合成ナノキャリアの表面に物質の殆どまたは全てを配置し、物質を合成ナノキャリアの外部の局所環境に曝されたままにする吸収とは異なる。
【0074】
抗原決定基としても知られている「エピトープ」は、免疫系によって、特に、例えば、抗体、B細胞、またはT細胞によって認識される抗原の部分である。本明細書において使用される際、「MHCクラスI拘束性エピトープ」は、有核細胞において見られるMHCクラスI分子によって免疫細胞に提示されるエピトープである。「MHCクラスII拘束性エピトープ」は、抗原提示細胞(APC)において、例えば、マクロファージ、B細胞、および樹枝状細胞などのプロフェッショナル抗原提示免疫細胞において、または肝細胞などの非造血細胞において見られるMHCクラスII分子によって免疫細胞に提示されるエピトープである。「B細胞エピトープ」は、抗体またはB細胞によって認識される分子構造である。ある実施形態において、エピトープ自体が抗原である。
【0075】
いくつかのエピトープが、当業者に公知であり、本発明のいくつかの態様に係る好適な例示的なエピトープとしては、以下に限定はされないが、Immune Epitope Databaseに列挙されるものが挙げられる(www.immuneepitope.org,Vita R,Zarebski L,Greenbaum JA,Emami H,Hoof I,Salimi N,Damle R,Sette A,Peters B.The immune epitope database 2.0.Nucleic Acids Res.2010 Jan;38(Database issue):D854-62;これらの内容全体並びにIEDB第2.4版(2011年8月)の全てのデータベースエントリ、具体的には、その中に開示される全てのエピトープが、参照により本明細書に援用される)。エピトープは、公表されているアルゴリズム、例えば、Wang P,Sidney J,Kim Y,Sette A,Lund O,Nielsen M,Peters B.2010.peptide binding predictions for HLA DR,DP and DQ molecules.BMC Bioinformatics 2010,11:568;Wang P,Sidney J,Dow C,Mothe B,Sette A,Peters B.2008.A systematic assessment of MHC class II peptide binding predictions and evaluation of a consensus approach.PLoS Comput Biol.4(4):e1000048;Nielsen M,Lund O.2009.NN-align.An artificial neural network-based alignment algorithm for MHC class II peptide binding prediction.BMC Bioinformatics.10:296;Nielsen M,Lundegaard C,Lund O.2007.Prediction of MHC class II binding affinity using SMM-align,a novel stabilization matrix alignment method.BMC Bioinformatics.8:238;Bui HH,Sidney J,Peters B,Sathiamurthy M,Sinichi A,Purton KA,Mothe BR,Chisari FV,Watkins DI,Sette A.2005.Immunogenetics.57:304-314;Sturniolo T,Bono E,Ding J,Raddrizzani L,Tuereci O,Sahin U,Braxenthaler M,Gallazzi F,Protti MP,Sinigaglia F,Hammer J.1999.Generation of tissue-specific and promiscuous HLA ligand databases using DNA microarrays and virtual HLA class II matrices.Nat Biotechnol.17(6):555-561;Nielsen M,Lundegaard C,Worning P,Lauemoller SL,Lamberth K,Buus S,Brunak S,Lund O.2003.Reliable prediction of T-cell epitopes using neural networks with novel sequence representations.Protein Sci 12:1007-1017;Bui HH,Sidney J,Peters B,Sathiamurthy M,Sinichi A,Purton KA,Mothe BR,Chisari FV,Watkins DI,Sette A.2005.Automated generation and evaluation of specific MHC binding predictive tools:ARB matrix applications.Immunogenetics 57:304-314;Peters B,Sette A.2005.Generating quantitative models describing the sequence specificity of biological processes with the stabilized matrix method.BMC Bioinformatics 6:132;Chou PY,Fasman GD.1978.Prediction of the secondary structure of proteins from their amino acid sequence.Adv Enzymol Relat Areas Mol Biol 47:45-148;Emini EA,Hughes JV,Perlow DS,Boger J.1985.Induction of hepatitis A virus-neutralizing antibody by a virus-specific synthetic peptide.J Virol 55:836-839;Karplus PA,Schulz GE.1985.Prediction of chain flexibility in proteins.Naturwissenschaften 72:212-213;Kolaskar AS,Tongaonkar PC.1990.A semi-empirical method for prediction of antigenic determinants on protein antigens.FEBS Lett276:172-174;Parker JM,Guo D,Hodges RS.1986.New hydrophilicity scale derived from high-performance liquid chromatography peptide retention data:correlation of predicted surface residues with antigenicity and X-ray-derived accessible sites.Biochemistry 25:5425-5432;Larsen JE,Lund O,Nielsen M.2006.Improved method for predicting linear B-cell epitopes.Immunome Res 2:2;Ponomarenko JV,Bourne PE.2007.Antibody-protein interactions:benchmark datasets and prediction tools evaluation.BMC Struct Biol 7:64;Haste Andersen P,Nielsen M,Lund O.2006.Prediction of residues in discontinuous B-cell epitopes using protein 3D structures.Protein Sci 15:2558-2567;Ponomarenko JV,Bui H,Li W,Fusseder N,Bourne PE,Sette A,Peters B.2008.ElliPro:a new structure-based tool for the prediction of antibody epitopes.BMC Bioinformatics 9:514;Nielsen M,Lundegaard C,Blicher T,Peters B,Sette A,Justesen S,Buus S,and Lund O.2008.PLoS Comput Biol.4(7)e1000107.Quantitative predictions of peptide binding to any HLA-DR molecule of known sequence:NetMHCIIpanに記載されているアルゴリズムによって同定することもでき;これらのそれぞれの内容全体が、エピトープの同定のための方法およびアルゴリズムの開示のために、参照により本明細書に援用される。
【0076】
本明細書に提供される合成ナノキャリアに結合され得るエピトープの他の例は、配列番号1~943として示されるMHCクラスI拘束性、MHCクラスII拘束性およびB細胞エピトープの何れかを含む。いかなる特定の理論にも制約されることを望むものではないが、MHCクラスI拘束性エピトープは、配列番号1~186に記載されるものを含み、MHCクラスII拘束性エピトープは、配列番号187~537に記載されるものを含み、B細胞エピトープは、配列番号538~943に記載されるものを含む。これらのエピトープは、アレルゲンのMHCクラスI拘束性自己抗原、MHCクラスII拘束性エピトープ並びに自己抗原およびアレルゲンのB細胞エピトープを含む。
【0077】
「生成」は、自分自身で直接、または、限定はされないが、人の言動に対する信頼によって行動を取る無関係な第三者などによって間接的に、免疫応答(例えば、寛容原性免疫応答)などの作用を起こさせることを意味する。
【0078】
「同定」は、臨床医が、被験体を、本明細書に提供される方法および組成物から利益を得られる被験体として認識するのを可能にする任意の行動または一連の行動である。好ましくは、同定される被験体は、本明細書に提供される寛容原性免疫応答を必要とする被験体である。行動または一連の行動は、自分自身で直接、または、限定はされないが、人の言動に対する信頼によって行動を取る無関係な第三者などによって間接的に行われるものであり得る。
【0079】
「免疫抑制剤」は、APCが、免疫抑制効果(例えば、寛容原性効果)を有するようにする化合物を意味する。免疫抑制効果は、一般に、望ましくない免疫応答を、減少、阻害若しくは防止するかまたは望ましい免疫応答を促進するAPCによるサイトカインまたは他の因子の産生または発現を指す。APCが、APCによって提示される抗原を認識する免疫細胞に対する免疫抑制効果をもたらす場合、免疫抑制効果は、提示される抗原に特異的であると考えられる。このような効果は、本明細書において寛容原性効果とも呼ばれる。いかなる特定の理論にも制約されるものではないが、免疫抑制は、好ましくは、抗原(例えば、投与される抗原または生体内に既に存在する抗原)の存在下で、APCに送達される免疫抑制剤の結果であると考えられる。従って、免疫抑制剤は、同じ組成物または異なる組成物中に提供されてもまたは提供されなくてもよい、抗原に寛容原性免疫応答を与える化合物を含む。一実施形態において、免疫抑制剤は、APCに、1つ以上の免疫エフェクター細胞における制御性表現型を促進させるものである。例えば、制御性表現型は、制御性免疫細胞の産生、誘導、刺激または動員によって特徴付けられ得る。これは、制御性表現型へのCD4+T細胞(例えば、CD4+CD25highFoxP3+Treg細胞)の変換の結果であり得る。これはまた、CD8+T細胞、マクロファージおよびiNKT細胞などの他の免疫細胞におけるFoxP3の誘導の結果であり得る。一実施形態において、免疫抑制剤は、それが抗原を処理した後にAPCの応答に影響を与えるものである。別の実施形態において、免疫抑制剤は、抗原の処理に干渉するものではない。更なる実施形態において、免疫抑制剤は、アポトーシスシグナル伝達分子ではない。別の実施形態において、免疫抑制剤は、リン脂質ではない。
【0080】
免疫抑制剤としては、以下に限定はされないが、スタチン;ラパマイシンまたはラパマイシン類似体などのmTOR阻害剤;TGF-βシグナル伝達剤;TGF-β受容体アゴニスト;トリコスタチンAなどのヒストンデアセチラーゼ阻害剤;コルチコステロイド;ロテノンなどの、ミトコンドリア機能の阻害剤;P38阻害剤;6Bio、デキサメタゾン、TCPA-1、IKK VIIなどのNF-κβ阻害剤;アデノシン受容体アゴニスト;ミソプロストールなどのプロスタグランジンE2アゴニスト(PGE2);ロリプラムなどのホスホジエステラーゼ4阻害剤(PDE4)などのホスホジエステラーゼ阻害剤;プロテアソーム阻害剤;キナーゼ阻害剤;Gタンパク質共役受容体アゴニスト;Gタンパク質共役受容体アンタゴニスト;糖質コルチコイド;レチノイド;サイトカイン阻害剤;サイトカイン受容体阻害剤;サイトカイン受容体活性化剤;ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体アンタゴニスト;ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体アゴニスト;ヒストンデアセチラーゼ阻害剤;カルシニューリン阻害剤;ホスファターゼ阻害剤;TGX-221などのPI3KB阻害剤;3-メチルアデニンなどの自食作用阻害剤;アリール炭化水素受容体阻害剤;プロテアソーム阻害剤I(PSI);およびP2X受容体遮断薬などの酸化ATPが挙げられる。免疫抑制剤としては、IDO、ビタミンD3、シクロスポリンAなどのシクロスポリン、アリール炭化水素受容体阻害剤、レスベラトロール、アザチオプリン(Aza)、6-メルカプトプリン(6-MP)、6-チオグアニン(6-TG)、FK506、サングリフェリンA、サルメテロール、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、アスピリンおよび他のCOX阻害剤、ニフルム酸、エストリオールおよびトリプトリドも挙げられる。実施形態において、免疫抑制剤は、本明細書に提供される薬剤の何れかを含み得る。
【0081】
免疫抑制剤は、APCに対する免疫抑制(例えば、寛容原性)効果を直接与える化合物であり得るか、または免疫抑制(例えば、寛容原性)効果を間接的に(即ち、投与後に何らかの方法で処理された後)与える化合物であり得る。従って、免疫抑制剤は、本明細書に提供される化合物の何れかのプロドラッグ形態を含む。
【0082】
免疫抑制剤は、免疫抑制(例えば、寛容原性)免疫応答をもたらす、本明細書に提供されるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質をコードする核酸も含む。従って、実施形態において、免疫抑制剤は、免疫抑制(例えば、寛容原性)免疫応答をもたらすペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質をコードする核酸であり、合成ナノキャリアに結合される核酸である。
【0083】
核酸は、DNA、またはmRNAなどのRNAであり得る。実施形態において、本発明の組成物は、本明細書に提供される核酸の何れかの全長補体などの補体、または変質組織(遺伝子コードの変質による)を含む。実施形態において、核酸は、細胞株へとトランスフェクトされるときに転写され得る発現ベクターである。実施形態において、発現ベクターは、特に、プラスミド、レトロウイルス、またはアデノウイルスを含み得る。核酸は、標準的な分子生物学的手法を用いて、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて、核酸断片を産生し、次にそれを精製し、発現ベクターへとクローニングすることによって、単離または合成され得る。本発明の実施に有用な更なる技術が、John Wiley and Sons,Inc.によるCurrent Protocols in Molecular Biology 2007;Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Third Edition)Joseph Sambrook,Peter MacCallum Cancer Institute,Melbourne,Australia;David Russell,University of Texas Southwestern Medical Center,Dallas,Cold Spring Harborに見出され得る。
【0084】
実施形態において、本明細書に提供される免疫抑制剤は、合成ナノキャリアに結合される。好ましい実施形態において、免疫抑制剤は、合成ナノキャリアの構造を構成する材料に加えられる要素である。例えば、一実施形態において、合成ナノキャリアが、1つ以上のポリマーで構成される場合、免疫抑制剤は、1つ以上のポリマーに加えられ、結合される化合物である。別の例として、一実施形態において、合成ナノキャリアが、1つ以上の脂質で構成される場合、免疫抑制剤は、同様に、1つ以上の脂質に加えられ、結合される。合成ナノキャリアの材料が免疫抑制(例えば、寛容原性)効果ももたらす場合などの実施形態において、免疫抑制剤は、免疫抑制(例えば、寛容原性)効果をもたらす合成ナノキャリアの材料に加えて存在する要素である。
【0085】
他の例示的な免疫抑制剤としては、以下に限定はされないが、小分子薬剤、天然産物、抗体(例えば、CD20、CD3、CD4に対する抗体)、生物製剤ベースの薬剤、炭水化物ベースの薬剤、ナノ粒子、リポソーム、RNAi、アンチセンス核酸、アプタマー、メトトレキサート、NSAID;フィンゴリモド;ナタリズマブ;アレムツズマブ;抗CD3;タクロリムス(FK506)などが挙げられる。更なる免疫抑制剤が、当業者に公知であり、本発明は、これに関して限定されない。
【0086】
「炎症性疾患」は、望ましくない炎症が起こる任意の疾病、疾患または病態を意味する。
【0087】
免疫抑制剤または抗原の「負荷」は、全合成ナノキャリア中の材料の総重量(重量/重量)を基準にした、合成ナノキャリアに結合される免疫抑制剤または抗原の量である。一般に、負荷は、合成ナノキャリアの集団全体の平均として計算される。一実施形態において、免疫抑制剤の負荷は、合成ナノキャリアの第1の集団全体を平均して、0.0001%~50%である。別の実施形態において、抗原の負荷は、合成ナノキャリアの第1および/または第2の集団全体を平均して、0.0001%~50%である。更に別の実施形態において、免疫抑制剤および/または抗原の負荷は、0.01%~20%である。更なる実施形態において、免疫抑制剤および/または抗原の負荷は、0.1%~10%である。更に他の実施形態において、免疫抑制剤および/または抗原の負荷は、1%~10%である。更に別の実施形態において、免疫抑制剤および/または抗原の負荷は、合成ナノキャリアの集団全体を平均して、少なくとも0.1%、少なくとも0.2%、少なくとも0.3%、少なくとも0.4%、少なくとも0.5%、少なくとも0.6%、少なくとも0.7%、少なくとも0.8%、少なくとも0.9%、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%または少なくとも20%である。更に他の実施形態において、免疫抑制剤および/または抗原の負荷は、合成ナノキャリアの集団全体を平均して、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%または20%である。上記の実施形態のある実施形態において、免疫抑制剤および/または抗原の負荷は、合成ナノキャリアの集団全体を平均して、25%以下である。実施形態において、負荷は、実施例に記載されるように計算される。
【0088】
提供される組成物および方法の何れかの実施形態において、負荷は以下のように計算される:約3mgの合成ナノキャリアを収集し、遠心分離して上清を合成ナノキャリアペレットから分離する。アセトニトリルをペレットに加え、試料を超音波で分解し、遠心分離して、あらゆる不溶性材料を除去する。上清およびペレットをRP-HPLCに注入し、吸光度を278nmで読み取る。ペレット中に見られたμgを用いて、取り込み%(負荷)を計算し、上清およびペレット中のμgを用いて、回収された合計μgを計算する。
【0089】
「維持投与量」は、望ましい免疫抑制(例えば、寛容原性)応答を持続するために、初期投与量が被験体における免疫抑制(例えば、寛容原性)応答をもたらした後、被験体に投与される投与量を指す。維持投与量は、例えば、初期投与量の後に得られる寛容原性効果を維持し、被験体における望ましくない免疫応答を防止し、または被験体が、免疫応答の望ましくないレベルを含む望ましくない免疫応答を起こすリスクがある被験体になることを防止する投与量であり得る。ある実施形態において、維持投与量は、望ましい免疫応答の適切なレベルを持続するのに十分な投与量である。
【0090】
「合成ナノキャリアの最大寸法」は、合成ナノキャリアの任意の軸に沿って測定されるナノキャリアの最大寸法を意味する。「合成ナノキャリアの最小寸法」は、合成ナノキャリアの任意の軸に沿って測定される合成ナノキャリアの最小寸法を意味する。例えば、球状合成ナノキャリアでは、合成ナノキャリアの最大および最小寸法は、実質的に同一であり、その直径のサイズであろう。同様に、立方体状合成ナノキャリアでは、合成ナノキャリアの最小寸法は、その高さ、幅または長さのうち最小である一方、合成ナノキャリアの最大寸法は、その高さ、幅または長さのうち最大であろう。一実施形態において、試料中の合成ナノキャリアの総数を基準にして、試料中の合成ナノキャリアの少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最小寸法が、100nm以上である。一実施形態において、試料中の合成ナノキャリアの総数を基準にして、試料中の合成ナノキャリアの少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最大寸法が、5μm以下である。好ましくは、試料中の合成ナノキャリアの総数を基準にして、試料中の合成ナノキャリアの少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最小寸法が、110nm超、より好ましくは120nm超、より好ましくは130nm超、更により好ましくは150nm超である。本発明の合成ナノキャリアの最大および最小寸法のアスペクト比は、実施形態に応じて変化し得る。例えば、合成ナノキャリアの最小寸法に対する最大寸法のアスペクト比は、1:1~1,000,000:1、好ましくは1:1~100,000:1、より好ましくは1:1~10,000:1、より好ましくは1:1~1000:1、更により好ましくは1:1~100:1、なおより好ましくは1:1~10:1で変化し得る。好ましくは、試料中の合成ナノキャリアの総数を基準にして、試料中の合成ナノキャリアの少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最大寸法が、3μm以下、より好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、より好ましくは800nm以下、より好ましくは600nm以下、更により好ましくは500nm以下である。好ましい実施形態において、試料中の合成ナノキャリアの総数を基準にして、試料中の合成ナノキャリアの少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最小寸法が、100nm以上、より好ましくは120nm以上、より好ましくは130nm以上、より好ましくは140nm以上、更により好ましくは150nm以上である。合成ナノキャリア寸法(例えば、直径)の測定は、合成ナノキャリアを液体(通常、水性)媒体中に懸濁させ、動的光散乱(DLS)を使用する(例えば、Brookhaven ZetaPALS機器を使用する)ことによって得られる。例えば、合成ナノキャリアの懸濁液が、水性緩衝液から精製水中へと希釈されて、約0.01~0.1mg/mLの最終的な合成ナノキャリア懸濁液濃度が得られる。希釈された懸濁液は、直接中で調製されても、またはDLS分析のために好適なキュベットに移されてもよい。次に、キュベットを、DLS中に入れ、制御された温度へと平衡化してから、十分な時間にわたって走査して、媒体の粘度および試料の屈折率についての適切な入力に基づいて安定した再現可能な分布を得る。次に、有効直径、または分布の平均が報告される。合成ナノキャリアの「寸法」または「サイズ」または「直径」は、動的光散乱を用いて得られる粒度分布の平均を意味する。
【0091】
「MHC」は、細胞表面における加工タンパク質の断片またはエピトープを示すMHC分子をコードする、殆どの脊椎動物に見られる、主要組織適合性複合体、大きいゲノム領域または遺伝子ファミリーを指す。細胞表面におけるMHC:ペプチドの提示は、免疫細胞、通常、T細胞による監視を可能にする。MHC分子の2つの一般的なクラス、即ちクラスIおよびクラスIIがある。一般に、クラスI MHC分子は、有核細胞に見られ、ペプチドを細胞毒性T細胞に提示する。クラスII MHC分子は、特定の免疫細胞、主に、総称してプロフェッショナルAPCとして知られているマクロファージ、B細胞および樹枝状細胞に見られる。MHC領域中の最もよく知られている遺伝子は、細胞表面における抗原提示タンパク質をコードするサブセットである。ヒトにおいて、これらの遺伝子は、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と呼ばれる。
【0092】
「非メトキシ末端ポリマー」は、メトキシ以外の部分で終端する少なくとも1つの末端を有するポリマーを意味する。ある実施形態において、ポリマーは、メトキシ以外の部分で終端する少なくとも2つの末端を有する。他の実施形態において、ポリマーは、メトキシで終端する末端を有さない。「非メトキシ末端プルロニック(pluronic)ポリマー」は、両方の末端にメトキシを有する直鎖状のプルロニックポリマー以外のポリマーを意味する。本明細書に提供されるポリマーナノ粒子は、非メトキシ末端ポリマーまたは非メトキシ末端プルロニックポリマーを含み得る。
【0093】
「薬学的に許容できる賦形剤」は、本発明の組成物を製剤化するために、記載される合成ナノキャリアと一緒に使用される薬理学的に不活性な材料を意味する。薬学的に許容できる賦形剤は、糖類(グルコース、ラクトースなど)、抗菌剤などの保存剤、再構成助剤、着色剤、生理食塩水(リン酸緩衝生理食塩水など)、および緩衝液を含むがこれらに限定されない、当該技術分野において公知の様々な材料を含む。
【0094】
「合成ナノキャリアの集団全体を平均したモノマーの比率」は、合成ナノキャリアの集団全体を平均した2つのモノマーの数(モル)の絶対値または相対値の比率を指す。ポリマーのモノマーの比率が、特定の合成ナノキャリア集団について計算される場合、同じタイプのアッセイに従って測定される同じタイプの値(絶対値または相対値)が使用される。合成ナノキャリア中のポリマーのモノマーの数(モル)を決定するための方法が、当業者に公知である。例えば、モノマーのモル比を決定するための方法が、プロトンNMR分光法の使用によって行われる。このような方法において、ポリマーは、好適な重水素化溶媒に溶解され、次に、プロトンNMR分光法に供され得る。次に、各モノマーに固有の部分の積分値が比較されて、比率が得られる。例えば、ラクチドのメチル基の積分値が、グリコリドのメチレン基の積分値と比較されて、PLGAのモノマーのモル比が得られる。
【0095】
「プロトコル」は、被験体への1種以上の物質の任意の投与計画を指す。投与計画は、投与の量、頻度および/または形態を含み得る。ある実施形態において、このようなプロトコルは、本発明の1つ以上の組成物を一人以上の被験体に投与するのに使用され得る。次に、これらの被験体における免疫応答は、プロトコルが望ましくない免疫応答の減少または望ましい免疫応答の生成(例えば、寛容原性効果の促進)に有効であったか否かを判定するために評価され得る。任意の他の治療および/または予防効果も、上記の免疫応答の代わりにまたはそれに加えて評価され得る。プロトコルが所望の効果を有していたか否かは、本明細書に提供されるか或いは当該技術分野において公知の方法の何れかを用いて判定され得る。特定の免疫細胞、サイトカイン、抗体などが減少、生成、活性化されたか否かなどを判定するために、例えば、細胞の集団が、本明細書に提供される組成物が特定のプロトコルに従って投与された被験体から取得され得る。免疫細胞の存在および/または数を検出するための有用な方法としては、以下に限定はされないが、フローサイトメトリー法(例えば、FACS)および免疫組織化学法が挙げられる。免疫細胞マーカーの特定の染色のための抗体および他の結合剤が市販されている。このようなキットは、通常、不均一な細胞集団からの所望の細胞集団のFACSに基づいた検出、分離および/または定量を可能にする複数の抗原のための染色試薬を含む。
【0096】
「被験体の提供」は、臨床医に被験体と接触させ、本明細書に提供される組成物を被験体に投与させるかまたは本明細書に提供される方法を被験体に対して行わせる任意の行動または一連の行動である。好ましくは、被験体は、本明細書に提供される寛容原性免疫応答を必要とする被験体である。行動または一連の行動は、自分自身で直接、または、限定はされないが、人の言動に対する信頼によって行動を取る無関係な第三者などによって間接的に、行われ得る。
【0097】
「放出」は、インビトロの放出試験の周囲媒体中への、合成ナノキャリア組成物などの組成物からの免疫抑制剤の流れを意味する。放出は、本明細書に提供されるように決定され得る。
【0098】
例えば、まず、合成ナノキャリアは、適切なインビトロの放出媒体中に入れることによって、放出試験用に準備される。これは、一般に、合成ナノキャリアを直接、適切な放出媒体中へと希釈することによって行われる。アッセイは、約37℃で適切な温度に制御された装置中に試料を入れることによって開始され得る。試料は、様々な時点で取り出される。
【0099】
合成ナノキャリアは、合成ナノキャリアをペレットにするために、遠心分離によって放出媒体から分離され得る。次に、放出媒体は、合成ナノキャリアから分散された免疫抑制剤についてアッセイされ得る。免疫抑制剤は、例えば、紫外・可視分光法(UV-Vis spectroscopy)を用いて測定されて、免疫抑制剤の含量が測定される。残りの取り込まれた免疫抑制剤を含有するペレットは、溶媒に溶解されるかまたは塩基によって加水分解されて、取り込まれた免疫抑制剤が合成ナノキャリアから取り除かれ得る。次に、ペレット含有免疫抑制剤は、同様に、紫外・可視分光法によって測定されて、所与の時点で放出されていない免疫抑制剤の含量が測定され得る。
【0100】
物質収支は、放出媒体中に放出された免疫抑制剤と、合成ナノキャリア中に留まっている免疫抑制剤との間で閉鎖されている。データは、放出された分率、パーセンテージ、または経時的に放出されるマイクログラムとして示される正味放出量などとして示され得る。
【0101】
「被験体」は、ヒトおよび霊長類などの温血哺乳動物;鳥類;ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマおよびブタなどの、家庭用の動物または家畜;マウス、ラットおよびモルモットなどの実験動物;魚類;は虫類;動物園の動物および野生動物などを含む動物を意味する。
【0102】
「合成ナノキャリア」は、自然界に見られず、サイズが5μm以下の少なくとも1つの寸法を有する個別の物体を意味する。アルブミンナノ粒子は、一般に、合成ナノキャリアとして含まれるが、特定の実施形態において、合成ナノキャリアは、アルブミンナノ粒子を含まない。実施形態において、本発明の合成ナノキャリアは、キトサンを含まない。他の実施形態において、本発明の合成ナノキャリアは、脂質ベースのナノ粒子ではない。更なる実施形態において、本発明の合成ナノキャリアは、リン脂質を含まない。
【0103】
合成ナノキャリアは、以下に限定はされないが、1つまたは複数の脂質ベースのナノ粒子(本明細書において脂質ナノ粒子とも呼ばれる、即ち、構造を構成する材料の大部分が脂質であるナノ粒子)、ポリマーナノ粒子、金属ナノ粒子、界面活性剤ベースのエマルジョン、デンドリマー、バッキーボール、ナノワイヤ、ウイルス様粒子(即ち、主にウイルス構造タンパク質から構成されるが、感染性でないかまたは低い感染性を有する粒子)、ペプチドまたはタンパク質ベースの粒子(本明細書においてタンパク質粒子とも呼ばれる、即ち、構造を構成する材料の大部分がペプチドまたはタンパク質である粒子)(アルブミンナノ粒子など)および/または脂質-ポリマーナノ粒子などのナノ材料の組合せを用いて形成されるナノ粒子であり得る。合成ナノキャリアは、球状、立方体状、錐体、楕円形(oblong)、円筒形、ドーナツ形などを含むがこれらに限定されない様々な異なる形状であり得る。本発明に係る合成ナノキャリアは、1つ以上の表面を含む。本発明の実施に使用するために適合され得る例示的な合成ナノキャリアは:(1)Gref et al.に付与された米国特許第5,543,158号明細書に開示される生分解性ナノ粒子、(2)Saltzman et al.への米国特許出願公開第20060002852号明細書のポリマーナノ粒子、(3)DeSimone et al.への米国特許出願公開第20090028910号明細書のリソグラフィー的に(lithographically)構成されたナノ粒子、(4)von Andrian et al.への国際公開第2009/051837号パンフレットの開示内容、(5)Penades et al.への米国特許出願公開第2008/0145441号明細書に開示されるナノ粒子、(6)de los Rios et al.への米国特許出願公開第20090226525号明細書に開示されるタンパク質ナノ粒子、(7)Sebbel et al.への米国特許出願公開第20060222652号明細書に開示されるウイルス様粒子、(8)Bachmann et al.への米国特許出願公開第20060251677号明細書に開示される核酸結合ウイルス様粒子、(9)国際公開第2010047839A1号パンフレットまたは国際公開第2009106999A2号パンフレットに開示されるウイルス様粒子、(10)P.Paolicelli et al.,“Surface-modified PLGA-based Nanoparticles that can Efficiently Associate and Deliver Virus-like Particles” Nanomedicine.5(6):843-853(2010)に開示されるナノ析出された(nanoprecipitated)ナノ粒子、または(11)米国特許出願公開第2002/0086049号明細書に開示されるアポトーシス細胞、アポトーシス小体または合成若しくは半合成類似体を含む。実施形態において、合成ナノキャリアは、1:1、1:1.2、1:1.5、1:2、1:3、1:5、1:7を超える、または1:10を超えるアスペクト比を有し得る。
【0104】
約100nm以下、好ましくは100nm以下の最小寸法を有する本発明に係る合成ナノキャリアは、補体を活性化するヒドロキシル基を有する表面を含まず、または代わりに補体を活性化するヒドロキシル基ではない部分から本質的になる表面を含む。好ましい実施形態において、約100nm以下、好ましくは100nm以下の最小寸法を有する本発明に係る合成ナノキャリアは、補体を実質的に活性化する表面を含まないかまたは代わりに補体を実質的に活性化しない部分から本質的になる表面を含む。より好ましい実施形態において、約100nm以下、好ましくは100nm以下の最小寸法を有する本発明に係る合成ナノキャリアは、補体を活性化する表面を含まないかまたは代わりに補体を活性化しない部分から本質的になる表面を含む。実施形態において、合成ナノキャリアは、ウイルス様粒子を除外する。実施形態において、合成ナノキャリアは、1:1、1:1.2、1:1.5、1:2、1:3、1:5、1:7を超える、または1:10を超えるアスペクト比を有し得る。
【0105】
「T細胞抗原」は、CD4+T細胞抗原、CD8+細胞抗原またはCD1d拘束性抗原を意味する。「CD4+T細胞抗原」は、CD4+T細胞における免疫応答によって認識され、それを引き起こす任意の抗原、例えば、クラスII主要組織適合遺伝子複合体分子(MHC)に結合された抗原またはその部分の提示によって、CD4+T細胞におけるT細胞受容体によって特に認識される抗原を意味する。「CD8+T細胞抗原」は、CD8+T細胞における免疫応答によって認識され、それを引き起こす任意の抗原、例えば、クラスI主要組織適合遺伝子複合体分子(MHC)に結合された抗原またはその部分の提示によって、CD8+T細胞におけるT細胞受容体によって特に認識される抗原を意味する。「CD1d拘束性抗原」は、CD1d分子に結合し、それに複合し(complex)、またはそれによって提示される1つ以上のエピトープを含む抗原を意味する。一般に、CD1d拘束性T細胞抗原は、不変NKT細胞に提示される脂質である。CD1d拘束性T細胞抗原は、α-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)、α-結合スフィンゴ糖脂質(スフィンゴモナス種(Sphingomonas spp.)に由来する)、ガラクトシルジアシルグリセロール(ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)に由来する)、リポホスホグリカン(ドノバン・リーシュマニア(Leishmania donovani)に由来する)、内因性または外因性β-グルコシルセラミド、およびホスファチジルイノシトールテトラマンノシド(PIM4)(らい菌(Mycobacterium leprae)に由来する)を含むがこれらに限定されない、1つ以上の脂質、または糖脂質を含み得る。CD1d拘束性抗原として有用な更なる脂質および/または糖脂質については、V.Cerundolo et al.,“Harnessing invariant NKT cells in vaccination strategies.” Nature Rev Immun,9:28-38(2009)を参照されたい。ある実施形態において、T細胞抗原である抗原は、B細胞抗原でもある。他の実施形態において、T細胞抗原はまた、B細胞抗原ではない。T細胞抗原は、一般に、タンパク質またはペプチドであるが、脂質および糖脂質などの他の分子であってもよい。
【0106】
「治療用タンパク質」は、被験体に投与され、治療効果を有し得る任意のタンパク質またはタンパク質に基づいた療法を指す。このような療法は、タンパク質補充療法およびタンパク質添加療法を含む。このような療法は、外因性または異種タンパク質の投与、抗体療法、および細胞療法または細胞に基づいた療法も含む。治療用タンパク質は、酵素、酵素補助因子、ホルモン、血液凝固因子、サイトカイン、増殖因子、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を含む。他の治療用タンパク質の例が、本明細書のどこかに提供される。治療用タンパク質は、細胞中で、細胞上でまたは細胞によって産生されてもよく、このような細胞から得られるかまたはこのような細胞の形態で投与され得る。実施形態において、治療用タンパク質は、哺乳類細胞、昆虫細胞、酵母細胞、細菌細胞、植物細胞、トランスジェニック動物細胞、トランスジェニック植物細胞などの中で、その上で、またはそれによって産生される。治療用タンパク質は、このような細胞中で組み換え技術によって産生され得る。治療用タンパク質は、ウイルス的に形質転換された(virally transformed)細胞中で、その上でまたはそれによって産生され得る。治療用タンパク質はまた、それを発現するようにトランスフェクトされたか、形質導入されたかまたは他の方法で操作された自己細胞中で、その上で、またはそれによって産生され得る。或いは、治療用タンパク質は、核酸としてまたは核酸を、ウイルス、VLP、リポソームなどに導入することによって投与され得る。或いは、治療用タンパク質は、このような形態から得られ、治療用タンパク質自体として投与され得る。従って、被験体は、上記のものの何れかを投与されたか、投与されているかまたは投与される予定である任意の被験体を含む。このような被験体は、遺伝子治療;治療用タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを発現するようにトランスフェクトされたか、形質導入されたかまたは他の方法で操作された自己細胞;或いは治療用タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを発現する細胞を投与されたか、投与されているかまたは投与される予定である被験体を含む。
【0107】
「治療用タンパク質抗原」は、治療用タンパク質と関連する抗原を意味し、このような抗原またはその一部は、免疫系の細胞による認識について提示され得、治療用タンパク質に対する望ましくない免疫応答(例えば、治療用タンパク質に特異的な抗体の促進)を生成し得る。治療用タンパク質抗原は、一般に、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、リポタンパク質を含み、或いは細胞中に、細胞上にまたは細胞によって含まれるかまたは発現される。
【0108】
「寛容原性免疫応答」は、抗原またはこのような抗原を発現する細胞、組織、臓器などに特異的な免疫抑制をもたらし得る任意の免疫応答を意味する。このような免疫応答は、抗原またはこのような抗原を発現する細胞、組織、臓器などに特異的な望ましくない免疫応答の任意の減少、遅延または阻害を含む。このような免疫応答は、抗原またはこのような抗原を発現する細胞、組織、臓器などに特異的な望ましい免疫応答の任意の刺激、生成、誘導、促進または動員も含む。従って、寛容原性免疫応答は、抗原反応性細胞によって媒介され得る抗原に対する望ましくない免疫応答の非存在または減少並びに抑制細胞の存在または促進を含む。本明細書に提供される寛容原性免疫応答は、免疫寛容を含む。「寛容原性免疫応答を生成する」は、抗原またはこのような抗原を発現する細胞、組織、臓器などに特異的な上記の免疫応答の何れかの生成を指す。寛容原性免疫応答は、MHCクラスI拘束性提示および/またはMHCクラスII拘束性提示および/またはB細胞提示および/またはCD1dによる提示などの結果であり得る。
【0109】
寛容原性免疫応答は、CD4+T細胞、CD8+T細胞またはB細胞増殖および/または活性の任意の減少、遅延または阻害を含む。寛容原性免疫応答は、抗原特異的な抗体産生の減少も含む。寛容原性免疫応答は、CD4+Treg細胞、CD8+Treg細胞、Breg細胞などの制御性細胞の刺激、誘導、産生または動員をもたらす任意の応答も含み得る。ある実施形態において、寛容原性免疫応答は、制御性細胞の産生、誘導、刺激または動員によって特徴付けられる制御性表現型への変換をもたらすものである。
【0110】
寛容原性免疫応答は、CD4+Treg細胞および/またはCD8+Treg細胞の刺激、産生または動員をもたらす任意の応答も含む。CD4+Treg細胞は、転写因子FoxP3を発現し、炎症反応および自己免疫炎症性疾患を阻害し得る(Human regulatory T cells in autoimmune diseases.Cvetanovich GL,Hafler DA.Curr Opin Immunol.2010 Dec;22(6):753-60.Regulatory T cells and autoimmunity.Vila J,Isaacs JD,Anderson AE.Curr Opin Hematol.2009 Jul;16(4):274-9)。このような細胞はまた、T細胞がB細胞を助けるのを抑制し、自己抗原および外来抗原の両方に対する寛容を誘導する(Therapeutic approaches to allergy and autoimmunity based on FoxP3+ regulatory T-cell activation and expansion.Miyara M,Wing K,Sakaguchi S.J Allergy Clin Immunol.2009 Apr;123(4):749-55)。CD4+Treg細胞は、APCにおけるクラスIIタンパク質によって提示されるときに抗原を認識する。クラスI(およびQa-1)によって提示される抗原を認識するCD8+Treg細胞はまた、T細胞がB細胞を助けるのを抑制し、自己抗原および外来抗原の両方に対する寛容を誘導する抗原特異的な抑制の活性化をもたらし得る。CD8+Treg細胞とのQa-1の相互作用の破壊は、免疫応答を調節不全にすることが示されており、自己抗体の形成および自己免疫を破壊する全身性エリテマトーデスの発生をもたらす(Kim et al.,Nature.2010 Sep 16,467(7313):328-32)。CD8+Treg細胞は、関節リウマチおよび大腸炎を含む自己免疫炎症性疾患のモデルを阻害することも示されている(CD4+CD25+ regulatory T cells in autoimmune arthritis.Oh S,Rankin AL,Caton AJ.Immunol Rev.2010 Jan;233(1):97-111.Regulatory T cells in inflammatory bowel disease.Boden EK,Snapper SB.Curr Opin Gastroenterol.2008 Nov;24(6):733-41)。ある実施形態において、提供される組成物は、両方のタイプの応答を有効にもたらし得る(CD4+TregおよびCD8+Treg)。他の実施形態において、FoxP3は、マクロファージ、iNKT細胞などの他の免疫細胞中で誘導され得、本明細書に提供される組成物は、同様にこれらの応答の1つ以上をもたらし得る。
【0111】
寛容原性免疫応答としては、以下に限定はされないが、Tregサイトカインなどの制御性サイトカインの誘導;抑制性サイトカインの誘導;炎症性サイトカイン(例えば、IL-4、IL-1b、IL-5、TNF-α、IL-6、GM-CSF、IFN-γ、IL-2、IL-9、IL-12、IL-17、IL-18、IL-21、IL-22、IL-23、M-CSF、C反応性タンパク質、急性期タンパク質、ケモカイン(例えば、MCP-1、RANTES、MIP-1α、MIP-1β、MIG、ITACまたはIP-10)の阻害、抗炎症性サイトカイン(例えば、IL-4、IL-13、IL-10など)、ケモカイン(例えば、CCL-2、CXCL8)、プロテアーゼ(例えば、MMP-3、MMP-9)、ロイコトリエン(例えば、CysLT-1、CysLT-2)、プロスタグランジン(例えば、PGE2)またはヒスタミンの産生;Th17、Th1またはTh2免疫応答への偏り(polarization)の阻害;エフェクター細胞特異的サイトカイン:Th17(例えば、IL-17、IL-25)、Th1(IFN-γ)、Th2(例えば、IL-4、IL-13)の阻害;Th1-、Th2-またはTH17-特異的転写因子の阻害;エフェクターT細胞の増殖の阻害;エフェクターT細胞のアポトーシスの阻害;寛容原性樹枝状細胞特異的遺伝子の誘導、FoxP3発現の誘導、IgE誘導またはIgE媒介性の免疫応答の阻害;抗体応答(例えば、抗原特異的な抗体産生)の阻害;Tヘルパー細胞応答の阻害;TGF-βおよび/またはIL-10の産生;自己抗体のエフェクター機能の阻害(例えば、細胞の枯渇、細胞若しくは組織の損傷または補体活性化の阻害)なども挙げられる。
【0112】
上記のいずれも、1つ以上の動物モデルにおいて生体内で測定されてもまたはインビトロで測定されてもよい。当業者には、このような生体内またはインビトロの測定が周知である。望ましくない免疫応答または寛容原性免疫応答が、例えば、免疫細胞の数および/または機能を評価する方法、四量体分析、ELISPOT、サイトカイン発現、サイトカイン分泌、サイトカイン発現プロファイリング、遺伝子発現プロファイリング、タンパク質発現プロファイリングのフローサイトメトリーに基づいた分析、細胞表面マーカーの分析、免疫細胞受容体遺伝子使用のPCRに基づいた検出などを用いて監視され得る(T.Clay et al.,“Assays for Monitoring Cellular Immune Response to Active Immunotherapy of Cancer” Clinical Cancer Research 7:1127-1135(2001)を参照されたい)。望ましくない免疫応答または寛容原性免疫応答はまた、例えば、血漿または血清中のタンパク質レベルを評価する方法、免疫細胞増殖および/または機能アッセイなどを用いて監視され得る。ある実施形態において、寛容原性免疫応答は、FoxP3の誘導を評価することによって監視され得る。更に、具体的な方法が、実施例により詳細に記載されている。
【0113】
好ましくは、寛容原性免疫応答は、本明細書に記載される疾病、疾患または病態の発症、進行または病状(pathology)の阻害をもたらす。本発明の組成物が、本明細書に記載される疾病、疾患または病態の発症、進行または病状の阻害をもたらし得るか否かが、このような疾病、疾患または病態の動物モデルを用いて測定され得る。
【0114】
ある実施形態において、望ましくない免疫応答の減少または寛容原性免疫応答の生成は、臨床的エンドポイント、臨床的有効性、臨床症状、疾病のバイオマーカーおよび/または臨床スコアを測定することによって評価され得る。望ましくない免疫応答または寛容原性免疫応答はまた、本明細書に提供される疾病、疾患または病態の存在または非存在を評価するための診断試験を用いて評価され得る。望ましくない免疫応答は、被験体における治療用タンパク質レベルおよび/または機能を測定する方法によって更に評価され得る。実施形態において、望ましくないアレルギー応答を監視または評価するための方法は、皮膚反応および/またはアレルゲン特異的抗体産生による被験体におけるアレルギー応答を評価することを含む。
【0115】
ある実施形態において、被験体における望ましくない免疫応答または寛容原性免疫応答の生成の監視または評価は、本明細書に提供される合成ナノキャリアの組成物の投与の前および/または移植可能な移植片若しくは治療用タンパク質の投与またはアレルゲンへの曝露の前であり得る。他の実施形態において、望ましくない免疫応答または寛容原性免疫応答の生成の評価は、本明細書に提供される合成ナノキャリアの組成物の投与の後および/または移植可能な移植片若しくは治療用タンパク質の投与またはアレルゲンへの曝露の後であり得る。ある実施形態において、評価は、合成ナノキャリアの組成物の投与の後であるが、移植可能な移植片若しくは治療用タンパク質の投与またはアレルゲンへの曝露の前に行われる。他の実施形態において、評価は、移植可能な移植片若しくは治療用タンパク質の投与またはアレルゲンへの曝露の後であるが、組成物の投与の前に行われる。更に他の実施形態において、評価は、合成ナノキャリアの投与および移植可能な移植片若しくは治療用タンパク質の投与またはアレルゲンへの曝露の両方の前に行われる一方、更に他の実施形態において、評価は、合成ナノキャリアの投与および移植可能な移植片若しくは治療用タンパク質の投与またはアレルゲンへの曝露の両方の後に行われる。更なる実施形態において、評価は、合成ナノキャリアの投与および/または移植可能な移植片若しくは治療用タンパク質の投与またはアレルゲンへの曝露の前および後の両方に行われる。更に他の実施形態において、望ましい免疫状態が、炎症性疾患、自己免疫疾患、アレルギー、臓器若しくは組織拒絶反応または移植片対宿主病に罹患しているかまたは罹患するリスクがある被験体などの被験体において維持されていることを判定するために、評価は、被験体につき2回以上行われる。他の被験体は、移植を行ったかまたは移植を行う予定である被験体並びに望ましくない免疫応答を起こしたか、起こしているかまたは起こすことが予測される治療用タンパク質を投与されたか、投与されているかまたは投与される予定である被験体を含む。
【0116】
抗体応答は、1つ以上の抗体力価を測定することによって評価され得る。「抗体力価」は、抗体産生の測定可能なレベルを意味する。抗体力価を測定するための方法が、当該技術分野において公知であり、酵素結合免疫吸着法(ELISA)を含む。実施形態において、抗体応答は、例えば、抗体の数、抗体の濃度または力価として定量化され得る。値は、絶対値であってもまたは相対値であってもよい。抗体応答を定量化するためのアッセイとしては、抗体捕捉アッセイ、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、阻害液相吸着アッセイ(ILPAA)、ロケット免疫電気泳動(RIE)アッセイおよび直線免疫電気泳動(LIE)アッセイが挙げられる。抗体応答が、別の抗体応答と比較されるとき、同じタイプの定量値(例えば、力価)および測定方法(例えば、ELISA)が、比較を行うのに好ましくは使用される。
【0117】
抗体力価を測定するためのELISA法、例えば、典型的なサンドイッチELISAは、以下の工程(i)対象とする抗体標的が基質ポリマーまたは他の好適な材料に結合されるようにELISAプレートコーティング材料を調製する工程、(ii)コーティング材料を水溶液(PBSなど)中で調製し、コーティングをマルチウェルプレート上に一晩付着させるために、コーティング材料溶液を、マルチウェルプレートのウェルに送達する工程、(iii)洗浄緩衝液(PBS中0.05%のTween-20など)でマルチウェルプレートを十分に洗浄して、過剰なコーティング材料を除去する工程、(iv)希釈剤溶液(PBS中10%のウシ胎仔血清など)を塗布することによって、非特異的結合用のプレートをブロッキングする工程、(v)プレートからのブロッキング/希釈剤溶液を、洗浄緩衝液で洗浄する工程、(vi)抗体および適切な標準物質(陽性対照)を含有する血清試料を、必要に応じて希釈剤で希釈して、ELISA応答を好適に満たす濃度を得る工程、(vii)ELISA応答曲線を生成するのに好適な濃度の範囲をカバーするように、マルチウェルプレートにおける血漿試料を連続希釈する工程、(viii)抗体-標的結合を得るようにプレートをインキュベートする工程、(ix)プレートを洗浄緩衝液で洗浄して、抗原に結合されていない抗体を除去する工程、(x)一次抗体を結合することが可能なビオチン結合検出抗体などの二次検出抗体を同じ希釈剤中に適切な濃度で加える工程、(xi)プレートを、塗布された検出抗体とともにインキュベートした後、洗浄緩衝液で洗浄する工程、(xii)ビオチン化抗体に見られる、ビオチンに結合し得るストレプトアビジン-HRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)などの酵素を加え、インキュベートする工程、(xiii)マルチウェルプレートを洗浄する工程、(xiv)基質(TMB溶液など)をプレートに加える工程、(xv)発色が完了したら停止液(2Nの硫酸など)を適用する工程、(xvi)基質の特定の波長でプレートウェルの光学密度を読み取る工程(450nmでの読み取り値から570nmでの読み取り値を差し引く)、(xvi)好適な多重パラメータ曲線適合をデータに適用し、プレートの標準についてのODの最大値の半値が得られる曲線における濃度として半数効果濃度(EC50)を定義する工程からなり得る。
【0118】
「移植可能な移植片」は、被験体に投与され得る、細胞、組織および臓器(全臓器または部分臓器)などの生体材料を指す。移植可能な移植片は、例えば、臓器、組織、皮膚、骨、神経、腱、ニューロン、血管、脂肪、角膜、多能性細胞、分化した細胞などの生体材料(生体内またはインビトロで得られるかまたは由来する)などの、自家移植片、同種移植片、または異種移植片であり得る。ある実施形態において、移植可能な移植片が、例えば、軟骨、骨、細胞外基質、またはコラーゲン基質から形成される。移植可能な移植片はまた、移植され得る、単一細胞、細胞並びに組織および臓器中の細胞の懸濁液であってもよい。移植可能な細胞は、通常、治療機能、例えば、レシピエント被験体において欠如しているかまたは低下された機能を有する。移植可能な細胞のいくつかの非限定的な例は、β細胞、肝細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、ニューロン、グリア細胞、またはミエリン形成細胞である。移植可能な細胞は、未修飾の細胞、例えば、ドナー被験体から得られ、いかなる遺伝子組み換えまたは後成的修飾も伴わずに移植に使用可能な細胞であり得る。他の実施形態において、移植可能な細胞は、改変細胞、例えば、遺伝的欠陥が補正された、遺伝的欠陥を有する被験体から得られる細胞または再プログラム化された細胞に由来する細胞、例えば、被験体から得られる細胞に由来する分化した細胞であり得る。
【0119】
「移植」は、移植可能な移植片を、(例えば、ドナー被験体から、インビトロの供給源(例えば、分化した自己細胞または異種の体内細胞または誘導された多能性細胞)から)レシピエント被験体へと、および/または同じ被験体の1つの身体部位から別の身体部位へと移す(移動する)プロセスを指す。
【0120】
「望ましくない免疫応答」は、抗原への曝露から生じ、本明細書に提供される疾病、疾患または病態(またはその症状)を促進または悪化させるか、或いは本明細書に提供される疾病、疾患または病態の兆候を示す任意の望ましくない免疫応答を指す。このような免疫応答は、一般に、被験体の健康に悪影響を与えるかまたは被験体の健康に対する悪影響の兆候を示す。
【0121】
本明細書において使用される際の「重量」は、特に断りのない限り、質量を指す。ポリマーの分子量が測定されるとき、それは、重量平均分子量または数平均分子量として測定され得る。本明細書に提供される組成物のポリマーについての「重量平均分子量」が、以下の式:
【数1】
(式中、Niが、分子量Miの分子の数である)によって計算される。重量平均分子量は、光散乱、小角中性子散乱(SANS)、X線散乱、核磁気共鳴(NMR)および沈降速度を含む様々な方法によって測定され得る。重量平均分子量についての代替法の一例は、保持時間対重量曲線を確定するために好適な追跡可能な重量の標準物質(traceable-weight standard)を用いたゲル透過クロマトグラフィーを行い、検量線と比較した試料ピークの積分値の平均から試料ポリマーの平均重量平均分子量を計算することである。「数平均分子量」は、NMRによって測定され得る。例えば、数平均分子量は、プロトンNMRによって測定可能であり、ここで、末端基に対するポリマー繰返し単位の比率が確定され、次に、それに、理論上の繰返し単位分子量が乗算される。或いは、滴定可能な(例えば、酸または塩基)末端基ポリマーの場合、公知の重量濃度が、確定され、次に、公知のモル濃度の適切な中和剤を用いて、指示染料の存在下で滴定されて、ポリマーの質量当たりの末端基のモル数が得られる。本明細書に提供されるポリマーの分子量のいずれも、重量平均分子量であってもまたは数平均分子量であってもよい。
【0122】
「重量%(1時間)」は、重量パーセントとして表され、合成ナノキャリア全体を平均した、1時間にわたるあるpHのインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量を、1時間にわたる上記pHのインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、1時間にわたる上記pHのインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和で除算した重量として定義される。
【0123】
「重量%(24時間)」は、重量パーセントとして表され、合成ナノキャリア全体を平均した、24時間にわたるあるpHのインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露に際に放出される免疫抑制剤の重量を、24時間にわたる上記pHのインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に放出される免疫抑制剤の重量と、24時間にわたる上記pHのインビトロ水性環境への合成ナノキャリアの曝露の際に合成ナノキャリア中に保持される免疫抑制剤の重量との和で除算した重量として定義される。
【0124】
C.本発明の組成物
特定の量の免疫抑制剤を特定の期間内で放出する合成ナノキャリアを含む組成物が本明細書に提供される。実施形態において、本明細書に記載される組成物は、(i)免疫抑制剤が結合された合成ナノキャリア、および(ii)APC提示可能抗原を含む組成物であり、ここで、免疫抑制剤が、以下の関係に従って合成ナノキャリアから放出され:重量%(1時間)が、0.01~60%であり、重量%(24時間)が、25~100%である。これらの組成物は、免疫応答を寛容原性免疫応答に有利に変化させることが予測される。実施形態において、提供される組成物は、本明細書に記載される寛容原性免疫応答の何れかをもたらし得る。
【0125】
上述されるように、合成ナノキャリアは、免疫抑制剤、ある実施形態において、寛容原性効果が望ましい抗原を含むように設計される。様々な合成ナノキャリアが、本発明に従って使用され得る。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、球体または回転楕円体である。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、平坦または板状である。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、立方体または立方体状である。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、楕円形または長円形である。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、円筒形、円錐形、または角錐形である。
【0126】
ある実施形態において、各合成ナノキャリアが類似の特性を有するようにサイズ、形状、および/または組成に関して比較的均一な合成ナノキャリアの集団を使用するのが望ましい。例えば、合成ナノキャリアの総数を基準にして、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の合成ナノキャリアが、合成ナノキャリアの平均直径または平均寸法の5%、10%、または20%の範囲内の最小寸法または最大寸法を有し得る。ある実施形態において、合成ナノキャリアの集団は、サイズ、形状、および/または組成に関して不均一であってもよい。
【0127】
合成ナノキャリアは、中実または中空であり得、1つ以上の層を含み得る。ある実施形態において、各層は、他の層と比べて独自の組成および独自の特性を有する。一例に過ぎないが、合成ナノキャリアは、コア/シェル構造を有してもよく、ここで、コアは1つの層(例えば、高分子コア)であり、シェルは第2の層(例えば、脂質二重層または単層)である。合成ナノキャリアは、複数の異なる層を含み得る。
【0128】
ある実施形態において、合成ナノキャリアは、任意に1つ以上の脂質を含み得る。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、リポソームを含み得る。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、脂質二重層を含み得る。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、脂質単層を含み得る。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、ミセルを含み得る。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、脂質層(例えば、脂質二重層、脂質単層など)によって囲まれるポリマーマトリクスを含むコアを含み得る。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、脂質層(例えば、脂質二重層、脂質単層など)によって囲まれた非高分子コア(例えば、金属粒子、量子ドット、セラミック粒子、骨粒子、ウイルス粒子、タンパク質、核酸、炭水化物など)を含み得る。
【0129】
他の実施形態において、合成ナノキャリアは、金属粒子、量子ドット、セラミック粒子などを含み得る。ある実施形態において、非高分子合成ナノキャリアは、金属原子(例えば、金原子)の集合体などの、非高分子成分の集合体である。
【0130】
ある実施形態において、合成ナノキャリアは、1つ以上のポリマーを含み得る。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、非メトキシ末端プルロニックポリマーである1つ以上のポリマーを含む。ある実施形態において、合成ナノキャリアを構成するポリマーの少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、または99%(重量/重量)が、非メトキシ末端プルロニックポリマーである。ある実施形態において、合成ナノキャリアを構成するポリマーの全てが、非メトキシ末端プルロニックポリマーである。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、非メトキシ末端ポリマーである1つ以上のポリマーを含む。ある実施形態において、合成ナノキャリアを構成するポリマーの少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、または99%(重量/重量)が、非メトキシ末端ポリマーである。ある実施形態において、合成ナノキャリアを構成するポリマーの全てが、非メトキシ末端ポリマーである。ある実施形態において、合成ナノキャリアは、プルロニックポリマーを含まない1つ以上のポリマーを含む。ある実施形態において、合成ナノキャリアを構成するポリマーの少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、または99%(重量/重量)が、プルロニックポリマーを含まない。ある実施形態において、合成ナノキャリアを構成するポリマーの全てが、プルロニックポリマーを含まない。ある実施形態において、このようなポリマーは、コーティング層(例えば、リポソーム、脂質単層、ミセルなど)によって囲まれ得る。ある実施形態において、合成ナノキャリアの様々な要素が、ポリマーと結合され得る。
【0131】
ある実施形態において、合成ナノキャリア組成物は、特定の分子量のポリマーを含むことによって製造される。一実施形態において、合成ナノキャリアは、少なくとも10kDaの分子量を有するポリマーを含む。更に別の実施形態において、合成ナノキャリアは、130kDa未満の分子量を有するポリマーを含む。ある実施形態において、ポリマーは、10~120kDa、10~110kDa、10~100kDa、10~90kDa、10~80kDa、10~70kDa、10~60kDa、10~50kDa、10~40kDa、10~30kDa、10~20kDa、20~120kDa、20~110kDa、20~100kDa、20~90kDa、20~80kDa、20~70kDa、20~60kDa、20~50kDa、20~40kDaまたは20~30kDaの分子量を有する。他の実施形態において、合成ナノキャリアは、10kDa、15kDa、20kDa、25kDa、30kDa、35kDa、40kDa、45kDa、50kDa、55kDa、60kDa、65kDa、70kDa、75kDa、80kDa、85kDa、90kDa、95kDa、100kDa、105kDa、110kDa、115kDa、120kDa、125kDa、または130kDaの分子量を有するポリマーを含む。
【0132】
合成ナノキャリア組成物は、ポリマーの特定のモノマー組成物を選択することにとって製造することもできる。更に他の実施形態において、合成ナノキャリアは、ラクチドおよびグリコリドを含むポリマーを含む。更に他の実施形態において、ポリマーのラクチド:グリコリド比は、少なくとも0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9または0.95である。更に別の実施形態において、合成ナノキャリアは、ラクチドを含み、かつグリコリドを含まないポリマーを含む。ポリマーは、本明細書に提供される分子量の何れかも有し得る。例えば、分子量は、10~130kDaであり得る。別の例として、分子量は、少なくとも20kDaである。更に別の実施形態において、合成ナノキャリアは、110kDa未満の分子量を有するポリマーを含む。ある実施形態において、ポリマーは、10または20~100kDa、10または20~90kDa、10または20~80kDa、10または2020~70kDa、10または20~60kDa、10または20~50kDa、10または20~40kDa或いは10または20~30kDaの分子量を有する。他の実施形態において、合成ナノキャリアは、10kDa、15kDa、20kDa、25kDa、30kDa、35kDa、40kDa、45kDa、50kDa、55kDa、60kDa、65kDa、70kDa、75kDa、80kDa、85kDa、90kDa、95kDa、100kDa、105kDa、110kDa、115kDa、120kDa、125kDa、または130kDaの分子量を有するポリマーを含む。
【0133】
合成ナノキャリアからの免疫抑制剤の放出は、合成ナノキャリア中の免疫抑制剤の負荷を制御することによって制御することもできる。更に別の実施形態において、免疫抑制剤の負荷は、合成ナノキャリア全体を平均して、0.0001%~50%、0.001%~50%、0.01%~50%、0.1%~50%、1%~50%、5%~50%、10%~50%、15%~50%、20%~50%、25%~50%、30%~50%、35%~50%、40%~50%または45~50%である。別の実施形態において、免疫抑制剤の負荷は、1%~45%、1%~40%、1%~35%、1%~30%、1%~25%、1%~20%、1%~15%、1%~10または1%~5%である。好ましくは、ある実施形態において、免疫抑制剤の負荷は、合成ナノキャリア全体を平均して、0.1%~10%、0.5%~10%、1%~10%、2%~10%、3%~10%、4%~10%、5%~10%、6%~10%、7%~10%、8%~10%または9%~10%である。
【0134】
免疫抑制剤および/または抗原は、いくつかの方法の何れかによって合成ナノキャリアに結合され得る。一般に、結合は、免疫抑制剤および/または抗原と合成ナノキャリアとの結合の結果であり得る。この結合により、免疫抑制剤および/または抗原が、合成ナノキャリアの表面に結合されるか、および/または合成ナノキャリア中に含まれ(封入され)得る。しかしながら、ある実施形態において、免疫抑制剤および/または抗原は、合成ナノキャリアへの結合ではなく、合成ナノキャリアの構造の結果として、合成ナノキャリアによって封入される。好ましい実施形態において、合成ナノキャリアは、本明細書に提供されるポリマーを含み、免疫抑制剤および/または抗原は、ポリマーに結合される。
【0135】
結合が、免疫抑制剤および/または抗原と合成ナノキャリアとの結合の結果として起こる場合、結合は、結合部分を介して起こり得る。結合部分は、免疫抑制剤および/または抗原が合成ナノキャリアに結合された任意の部分であり得る。このような部分は、アミド結合またはエステル結合などの共有結合、並びに免疫抑制剤および/または抗原を合成ナノキャリアに(共有または非共有)結合する別個の分子を含む。このような分子は、リンカーまたはポリマーまたはその単位を含む。例えば、結合部分は、免疫抑制剤および/または抗原が静電的に結合する荷電ポリマーを含み得る。別の例として、結合部分は、それが共有結合されるポリマーまたはその単位を含み得る。
【0136】
好ましい実施形態において、合成ナノキャリアは、本明細書に提供されるポリマーを含む。これらの合成ナノキャリアは、完全にポリマーであり得るかまたはポリマーと他の材料との混合物であり得る。
【0137】
ある実施形態において、合成ナノキャリアのポリマーは、ポリマーマトリクスを形成するために結合する。これらの実施形態のいくつかにおいて、免疫抑制剤または抗原などの成分が、ポリマーマトリクスの1つ以上のポリマーと共有結合され得る。ある実施形態において、共有結合は、リンカーを介して行われ得る。ある実施形態において、成分は、ポリマーマトリクスの1つ以上のポリマーと非共有結合され得る。例えば、ある実施形態において、成分は、ポリマーマトリクス中に封入されるか、それによって囲まれるか、および/またはその全体にわたって分散され得る。その代わりにまたはそれに加えて、成分は、疎水性相互作用、電荷相互作用、ファン・デル・ワールス力などによって、ポリマーマトリクスの1つ以上のポリマーと結合され得る。ポリマーマトリクスを形成するための様々なポリマーおよび方法が、従来から知られている。
【0138】
ポリマーは、天然または非天然(合成)ポリマーであり得る。ポリマーは、2つ以上のモノマーを含むホモポリマーまたはコポリマーであり得る。配列に関して、コポリマーは、ランダム、ブロックであってもよく、またはランダム配列とブロック配列との組合せを含んでいてもよい。通常、本発明に係るポリマーは有機ポリマーである。
【0139】
ある実施形態において、ポリマーは、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、またはポリエーテル、或いはそれらの単位を含む。他の実施形態において、ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、またはポリカプロラクトン、或いはそれらの単位を含む。ある実施形態において、ポリマーは生分解性であるのが好ましい。従って、これらの実施形態において、ポリマーが、ポリ(エチレングリコール)またはポリプロピレングリコールなどのポリエーテル或いはそれらの単位を含む場合、ポリマーは、ポリマーが生分解性であるように、ポリエーテルと生分解性ポリマーとのブロックコポリマーを含むのが好ましい。他の実施形態において、ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)またはポリプロピレングリコール或いはそれらの単位などの、ポリエーテルまたはその単位のみを含まない。
【0140】
本発明に使用するのに好適なポリマーの他の例としては、以下に限定はされないが、ポリエチレン、ポリカーボネート(例えばポリ(1,3-ジオキサン-2オン))、ポリ無水物(例えばポリ(セバシン酸無水物))、ポリプロピルフマレート、ポリアミド(例えばポリカプロラクタム)、ポリアセタール、ポリエーテル、ポリエステル(例えば、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリラクチド-コ-グリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酸(polyhydroxyacid)(例えばポリ(β-ヒドロキシアルカノエート)))、ポリ(オルトエステル)、ポリシアノアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリホスファゼン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ尿素、ポリスチレン、およびポリアミン、ポリリジン、ポリリジン-PEGコポリマー、およびポリ(エチレンイミン)、ポリ(エチレンイミン)-PEGコポリマーが挙げられる。
【0141】
ある実施形態において、本発明に係るポリマーとしては、ポリエステル(例えば、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(1,3-ジオキサン-2オン));ポリ無水物(例えば、ポリ(セバシン酸無水物));ポリエーテル(例えば、ポリエチレングリコール);ポリウレタン;ポリメタクリレート;ポリアクリレート;およびポリシアノアクリレートを含むがこれらに限定されない、米国連邦規則21(21 C.F.R.)§ 177.2600の下で米国食品医薬品局(FDA)によってヒトへの使用が承認されたポリマーが挙げられる。
【0142】
ある実施形態において、ポリマーは、親水性であり得る。例えば、ポリマーは、アニオン性基(例えば、リン酸基、硫酸基、カルボン酸基);カチオン性基(例えば、第四級アミン基);または極性基(例えば、ヒドロキシル基、チオール基、アミン基)を含み得る。ある実施形態において、親水性ポリマーマトリクスを含む合成ナノキャリアは、合成ナノキャリア内に親水性環境を生成する。ある実施形態において、ポリマーは、疎水性であり得る。ある実施形態において、疎水性ポリマーマトリクスを含む合成ナノキャリアは、合成ナノキャリア内に疎水性環境を生成する。ポリマーの親水性または疎水性の選択は、合成ナノキャリア内に組み込まれる(例えば、結合される)材料の性質に影響を与え得る。
【0143】
ある実施形態において、ポリマーは、1つ以上の部分および/または官能基で変性され得る。様々な部分または官能基が、本発明に従って使用され得る。ある実施形態において、ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、炭水化物、および/または多糖類に由来するアクリルポリアセタールで変性され得る(Papisov,2001,ACS Symposium Series,786:301)。特定の実施形態は、Gref et al.に付与された米国特許第5543158号明細書、またはVon Andrian et al.による国際公開公報の国際公開第2009/051837号パンフレットの一般的な教示を用いて作製され得る。
【0144】
ある実施形態において、ポリマーは、脂質または脂肪酸基で変性され得る。ある実施形態において、脂肪酸基は、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、またはリグノセリン酸のうちの1つ以上であり得る。ある実施形態において、脂肪酸基は、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、α-リノール酸、γ-リノール酸、アラキドン酸、ガドレイン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、またはエルカ酸のうちの1つ以上であり得る。
【0145】
ある実施形態において、ポリマーは、本明細書において「PLGA」と総称される、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)およびポリ(ラクチド-コ-グリコリド)などの、乳酸およびグリコール酸単位を含むコポリマー;並びに本明細書において「PGA」と呼ばれるグリコール酸単位と、本明細書において「PLA」と総称される、ポリ-L-乳酸、ポリ-D-乳酸、ポリ-D,L-乳酸、ポリ-L-ラクチド、ポリ-D-ラクチド、およびポリ-D,L-ラクチドなどの乳酸単位とを含むホモポリマーを含むポリエステルであり得る。ある実施形態において、例示的なポリエステルとしては、例えば、ポリヒドロキシ酸;PEGコポリマーおよびラクチドとグリコリドとのコポリマー(例えば、PLA-PEGコポリマー、PGA-PEGコポリマー、PLGA-PEGコポリマー、およびそれらの誘導体が挙げられる。ある実施形態において、ポリエステルとしては、例えば、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(カプロラクトン)-PEGコポリマー、ポリ(L-ラクチド-コ-L-リジン)、ポリ(セリンエステル)、ポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)、ポリ[α-(4-アミノブチル)-L-グリコール酸]、およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0146】
ある実施形態において、ポリマーは、PLGAであり得る。PLGAは、乳酸とグリコール酸との生体適合性および生分解性コポリマーであり、様々な形態のPLGAが、乳酸:グリコール酸の比率によって特徴付けられる。乳酸は、L-乳酸、D-乳酸、またはD,L-乳酸であり得る。PLGAの分解速度は、乳酸:グリコール酸の比率を変更することによって調整され得る。
【0147】
ある実施形態において、ポリマーは、1つ以上のアクリルポリマーであり得る。特定の実施形態において、アクリルポリマーとしては、例えば、アクリル酸およびメタクリル酸コポリマー、メチルメタクリレートコポリマー、エトキシエチルメタクリレート、シアノエチルメタクリレート、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、メタクリル酸アルキルアミドコポリマー、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(無水メタクリル酸)、メチルメタクリレート、ポリメタクリレート、ポリ(メチルメタクリレート)コポリマー、ポリアクリルアミド、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、グリシジルメタクリレートコポリマー、ポリシアノアクリレート、および上記のポリマーのうちの1つ以上を含む組合せが挙げられる。アクリルポリマーは、低い含量の第四級アンモニウム基を有するアクリル酸およびメタクリル酸エステルの完全重合したコポリマーを含み得る。
【0148】
ある実施形態において、ポリマーは、カチオン性ポリマーであり得る。一般に、カチオン性ポリマーは、核酸(例えばDNA、またはその誘導体)の負に帯電した鎖を縮合および/または保護することができる。ポリ(リジン)などのアミン含有ポリマー(Zauner et al.,1998,Adv.Drug Del.Rev.,30:97;およびKabanov et al.,1995,Bioconjugate Chem.,6:7)、ポリ(エチレンイミン)(PEI;Boussif et al.,1995,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,1995,92:7297)、およびポリ(アミドアミン)デンドリマー(Kukowska-Latallo et al.,1996,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,93:4897;Tang et al.,1996,Bioconjugate Chem.,7:703;およびHaensler et al.,1993,Bioconjugate Chem.,4:372)は、生理的pHで正に帯電しており、核酸とイオン対を形成し、様々な細胞株におけるトランスフェクションを媒介する。実施形態において、本発明の合成ナノキャリアは、カチオン性ポリマーを含まなくてもよい(即ち除外し得る)。
【0149】
ある実施形態において、ポリマーは、カチオン性側鎖を有する分解性ポリエステルであり得る(Putnam et al.,1999,Macromolecules,32:3658;Barrera et al.,1993、J.Am.Chem.Soc.,115:11010;Kwon et al.,1989,Macromolecules,22:3250;Lim et al.,1999,J.Am.Chem.Soc.,121:5633;およびZhou et al.,1990,Macromolecules,23:3399)。これらのポリエステルの例としては、ポリ(L-ラクチド-コ-L-リジン)(Barrera et al.,1993,J.Am.Chem.Soc.,115:11010)、ポリ(セリンエステル)(Zhou et al.,1990,Macromolecules,23:3399)、ポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)(Putnam et al.,1999,Macromolecules,32:3658;およびLim et al.,1999,J.Am.Chem.Soc.,121:5633)、およびポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)(Putnam et al.,1999,Macromolecules,32:3658;およびLim et al.,1999,J.Am.Chem.Soc.,121:5633)が挙げられる。
【0150】
これらのおよび他のポリマーの特性並びにそれらのポリマーを調製するための方法が、当該技術分野において周知である(例えば、米国特許第6,123,727号明細書;同第5,804,178号明細書;同第5,770,417号明細書;同第5,736,372号明細書;同第5,716,404号明細書;同第6,095,148号明細書;同第5,837,752号明細書;同第5,902,599号明細書;同第5,696,175号明細書;同第5,514,378号明細書;同第5,512,600号明細書;同第5,399,665号明細書;同第5,019,379号明細書;同第5,010,167号明細書;同第4,806,621号明細書;同第4,638,045号明細書;および同第4,946,929号明細書;Wang et al.,2001,J.Am.Chem.Soc.,123:9480;Lim et al.,2001,J.Am.Chem.Soc.,123:2460;Langer,2000,Acc.Chem.Res.,33:94;Langer,1999,J.Control.Release,62:7;およびUhrich et al.,1999,Chem.Rev.,99:3181を参照されたい)。より一般に、特定の好適なポリマーを合成するための様々な方法が、Concise Encyclopedia of Polymer Science and Polymeric Amines and Ammonium Salts,Ed.by Goethals,Pergamon Press,1980;Principles of Polymerization by Odian,John Wiley & Sons,Fourth Edition,2004;Contemporary Polymer Chemistry by Allcock et al.,Prentice-Hall,1981;Deming et al.,1997,Nature,390:386;並びに米国特許第6,506,577号明細書、同第6,632,922号明細書、同第6,686,446号明細書、および同第6,818,732号明細書に記載されている。
【0151】
ある実施形態において、ポリマーは、直鎖状または分枝鎖状ポリマーであり得る。ある実施形態において、ポリマーは、デンドリマーであり得る。ある実施形態において、ポリマーは、互いに実質的に架橋された状態であり得る。ある実施形態において、ポリマーは、実質的に架橋がなくてもよい。ある実施形態において、ポリマーは、架橋工程を行わずに本発明に従って使用され得る。本発明の合成ナノキャリアが、上記のおよび他のポリマーの何れかのブロックコポリマー、グラフトコポリマー、ブレンド、混合物、および/または付加物を含み得ることが更に理解されるべきである。当業者は、本明細書に挙げられるポリマーが、本発明に従って使用され得るポリマーの包括的ではなく例示的な一覧を表すことを認識するであろう。
【0152】
ある実施形態において、合成ナノキャリアは、金属粒子、量子ドット、セラミック粒子などを含み得る。ある実施形態において、非高分子合成ナノキャリアは、金属原子(例えば、金原子)の集合体などの、非高分子成分の集合体である。
【0153】
ある実施形態において、合成ナノキャリアは、任意に、1つ以上の両親媒性物質を含み得る。ある実施形態において、両親媒性物質は、増大した安定性、向上した均一性、または増大した粘度を有する合成ナノキャリアの生成を促進することができる。ある実施形態において、両親媒性物質は、脂質膜(例えば、脂質二重層、脂質単層など)の内面と結合され得る。当該技術分野において公知の多くの両親媒性物質が、本発明に従って合成ナノキャリアを作製するのに使用するのに好適である。このような両親媒性物質としては、以下に限定はされないが、ホスホグリセリド;ホスファチジルコリン;ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC);ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE);ジオレイルオキシプロピルトリエチルアンモニウム(DOTMA);ジオレイルホスファチジルコリン;コレステロール;コレステロールエステル;ジアシルグリセロール;ジアシルグリセロールスクシネート;ジホスファチジルグリセロール(DPPG);ヘキサンデカノール;ポリエチレングリコール(PEG)などの脂肪アルコール;ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル;パルミチン酸またはオレイン酸などの表面活性脂肪酸;脂肪酸;脂肪酸モノグリセリド;脂肪酸ジグリセリド;脂肪酸アミド;ソルビタントリオレエート(Span(登録商標)85)グリココレート;ソルビタンモノラウレート(Span(登録商標)20);ポリソルベート20(Tween(登録商標)20);ポリソルベート60(Tween(登録商標)60);ポリソルベート65(Tween(登録商標)65);ポリソルベート80(Tween(登録商標)80);ポリソルベート85(Tween(登録商標)85);ポリオキシエチレンモノステアレート;サーファクチン;ポロキサマー;ソルビタントリオレエートなどのソルビタン脂肪酸エステル;レシチン;リゾレシチン;ホスファチジルセリン;ホスファチジルイノシトール;スフィンゴミエリン;ホスファチジルエタノールアミン(セファリン);カルジオリピン;ホスファチジン酸;セレブロシド;ジセチルホスフェート;ジパルミトイルホスファチジルグリセロール;ステアリルアミン;ドデシルアミン;ヘキサデシル-アミン;パルミチン酸アセチル;リシノール酸グリセロール;ステアリン酸ヘキサデシル;ミリスチン酸イソプロピル;チロキサポール;ポリ(エチレングリコール)5000-ホスファチジルエタノールアミン;ポリ(エチレングリコール)400-モノステアレート;リン脂質;高い界面活性剤特性を有する合成および/または天然洗剤;デオキシコレート;シクロデキストリン;カオトロピック塩;イオン対形成剤;およびそれらの組合せが挙げられる。両親媒性物質成分は、異なる両親媒性物質の混合物であってもよい。当業者は、これが、界面活性剤活性を有する物質の包括的ではなく例示的な一覧であることを認識するであろう。任意の両親媒性物質が、本発明に従って使用される合成ナノキャリアの生成に使用され得る。
【0154】
ある実施形態において、合成ナノキャリアは、任意選択的に、1つ以上の炭水化物を含み得る。炭水化物は、天然であってもまたは合成であってもよい。炭水化物は、誘導体化天然炭水化物であってもよい。特定の実施形態において、炭水化物は、グルコース、フルクトース、ガラクトース、リボース、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース、セロビオース、マンノース、キシロース、アラビノース、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、グルコサミン、ガラクトサミン、およびノイラミン酸を含むがこれらに限定されない単糖または二糖を含む。特定の実施形態において、炭水化物は、プルラン、セルロース、微結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシセルロース(HC)、メチルセルロース(MC)、デキストラン、シクロデキストラン、グリコーゲン、ヒドロキシエチルデンプン、カラギーナン、グリコン(glycon)、アミロース、キトサン、N,O-カルボキシメチルキトサン、アルギンおよびアルギン酸、デンプン、キチン、イヌリン、コンニャク、グルコマンナン、プスツラン(pustulan)、ヘパリン、ヒアルロン酸、カードラン、およびキサンタンを含むがこれらに限定されない多糖である。実施形態において、本発明の合成ナノキャリアは、多糖などの炭水化物を含まない(または特に除外する)。特定の実施形態において、炭水化物は、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、およびラクチトールを含むがこれらに限定されない、糖アルコールなどの炭水化物誘導体を含み得る。
【0155】
本発明に係る組成物は、保存剤、緩衝液、生理食塩水、またはリン酸緩衝生理食塩水などの薬学的に許容できる賦形剤と組み合わせて、合成ナノキャリアを含む。組成物は、有用な剤形に達するために従来の薬剤製造および配合技術を用いて作製され得る。一実施形態において、本発明の合成ナノキャリアは、保存剤とともに注射するために滅菌生理食塩溶液中に懸濁される。
【0156】
実施形態において、キャリアとしての合成ナノキャリアを調製する場合、成分を合成ナノキャリアに結合するための方法が有用であり得る。成分が小分子である場合、合成ナノキャリアの組み立ての前に成分をポリマーに結合するのが有利であり得る。実施形態において、成分をポリマーに結合してから、このポリマー複合体を合成ナノキャリアの構成に使用するのではなく、表面基(これらの表面基の使用によって成分を合成ナノキャリアに結合するのに使用される)を有する合成ナノキャリアを調製するのも有利であり得る。
【0157】
特定の実施形態において、結合は、共有結合リンカーであり得る。実施形態において、本発明に係るペプチドは、ナノキャリアの表面上のアジド基と、アルキン基を含有する抗原または免疫抑制剤との1,3-双極性環状付加反応によって、またはナノキャリアの表面上のアルキンと、アジド基を含有する成分との1,3-双極性環状付加反応によって形成される1,2,3-トリアゾールリンカーを介して外面に共有結合され得る。このような環状付加反応は、好ましくは、好適なCu(I)リガンドおよびCu(II)化合物を触媒活性Cu(I)化合物へと還元するための還元剤とともに、Cu(I)触媒の存在下で行われる。このCu(I)触媒によるアジド-アルキン環状付加(CuAAC)は、クリック反応とも呼ばれることもある。
【0158】
更に、共有結合は、アミドリンカー、ジスルフィドリンカー、チオエーテルリンカー、ヒドラゾンリンカー、ヒドラジドリンカー、イミンまたはオキシムリンカー、尿素またはチオ尿素リンカー、アミジンリンカー、アミンリンカー、およびスルホンアミドリンカーを含む共有結合リンカーを含み得る。
【0159】
アミドリンカーは、抗原または免疫抑制剤などの1つの成分上のアミンと、ナノキャリアなどの第2の成分のカルボン酸基との間のアミド結合を介して形成される。リンカーにおけるアミド結合は、好適に保護されたアミノ酸および活性化カルボン酸(N-ヒドロキシスクシンイミドで活性化されたエステルなど)との従来のアミド結合形成反応の何れかを用いて作製され得る。
【0160】
ジスルフィドリンカーは、例えば、R1-S-S-R2の形態の2個の硫黄原子間のジスルフィド(S-S)結合の形成によって作製される。ジスルフィド結合は、チオール/メルカプタン基(-SH)を含有する抗原または免疫抑制剤の、ポリマーまたはナノキャリアにおける別の活性化チオール基とのチオール交換、またはチオール/メルカプタン基を含有するナノキャリアの、活性化チオール基を含有する成分とのチオール交換によって形成され得る。
【0161】
トリアゾールリンカー、特に、以下の形態の1,2,3-トリアゾール
【化1】
(式中、R1およびR2が、任意の化学物質であってもよい)は、ナノキャリアなどの第1の成分に結合されたアジドと、抗原または免疫抑制剤などの第2の成分に結合された末端アルキンとの1,3-双極性環状付加反応によって作製される。1,3-双極性環状付加反応は、触媒を用いてまたは用いずに、好ましくは、1,2,3-トリアゾール官能基によって2つの成分を結合するCu(I)触媒を用いて行われる。この化学作用は、Sharpless et al.,Angew.Chem.Int.Ed.41(14),2596,(2002)およびMeldal,et al,Chem.Rev.,2008,108(8),2952-3015に詳細に記載され、「クリック」反応またはCuAACと呼ばれることが多い。
【0162】
実施形態において、ポリマー鎖の末端にアジド基またはアルキン基を含有するポリマーが調製される。次に、このポリマーは、複数のアルキン基またはアジド基が該当するナノキャリアの表面上に配置されるように合成ナノキャリアを調製するのに使用される。或いは、合成ナノキャリアは、別の経路によって調製され、その後、アルキンまたはアジド基で官能化され得る。成分は、アルキン基(ポリマーがアジド基を含有する場合)またはアジド基(ポリマーがアルキン基を含有する場合)の何れかの存在によって調製される。次に、成分は、1,4-二置換1,2,3-トリアゾールリンカーによって成分を粒子に共有結合する触媒を用いてまたは用いずに、1,3-双極性環状付加反応によってナノキャリアと反応される。
【0163】
チオエーテルリンカーは、例えば、R1-S-R2の形態の硫黄-炭素(チオエーテル)結合の形成によって作製される。チオエーテルは、1つの成分におけるチオール/メルカプタン(-SH)基の、第2の成分におけるハロゲン化物またはエポキシドなどのアルキル化基によるアルキル化の何れかによって作製され得る。チオエーテルリンカーはまた、1つの成分におけるチオール/メルカプタン基の、マイケル受容体としてマレイミド基またはビニルスルホン基を含有する第2の成分における電子不足アルケン基へのマイケル付加によって形成され得る。別の方法では、チオエーテルリンカーは、1つの成分におけるチオール/メルカプタン基と、第2の成分におけるアルケン基とのラジカルチオール-エン反応によって調製され得る。
【0164】
ヒドラゾンリンカーは、1つの成分におけるヒドラジド基と、ナノキャリアなどの第2の成分におけるアルデヒド/ケトン基との反応によって作製される。
【0165】
ヒドラジドリンカーは、1つの成分におけるヒドラジン基と、第2の成分におけるカルボン酸基との反応によって形成される。このような反応は、一般に、カルボン酸が活性化試薬で活性化されるアミド結合の形成と同様の化学作用を用いて行われる。
【0166】
イミンまたはオキシムリンカーは、1つの成分におけるアミンまたはN-アルコキシアミン(またはアミノオキシ)基と、第2の成分におけるアルデヒドまたはケトン基との反応によって形成される。
【0167】
尿素またはチオ尿素リンカーは、1つの成分におけるアミン基と、第2の成分におけるイソシアネートまたはチオイソシアネート基との反応によって調製される。
【0168】
アミジンリンカーは、1つの成分におけるアミン基と、第2の成分におけるイミドエステル基との反応によって調製される。
【0169】
アミンリンカーは、1つの成分におけるアミン基と、第2の成分におけるハロゲン化物、エポキシド、またはスルホン酸エステル基などのアルキル化基とのアルキル化反応によって作製される。或いは、アミンリンカーはまた、シアノ水素化ホウ素ナトリウムまたは水素化トリアセトキシホウ素ナトリウムなどの好適な還元試薬を用いた、1つの成分におけるアミン基と、第2の成分におけるアルデヒドまたはケトン基との還元的アミノ化によって作製され得る。
【0170】
スルホンアミドリンカーは、1つの成分におけるアミン基と、第2の成分におけるハロゲン化スルホニル基(塩化スルホニルなど)との反応によって作製される。
【0171】
スルホンリンカーは、ビニルスルホンへの求核試薬のマイケル付加によって作製される。ビニルスルホンまたは求核試薬の何れかが、ナノキャリアの表面にあるかまたは成分に結合され得る。
【0172】
成分はまた、非共有結合方法によってナノキャリアに結合され得る。例えば、負に帯電した抗原または免疫抑制剤が、静電吸着によって正に帯電したナノキャリアに結合され得る。金属リガンドを含有する成分はまた、金属リガンド錯体を介して、金属錯体を含有するナノキャリアに結合され得る。
【0173】
実施形態において、成分は、合成ナノキャリアの組立の前に、ポリマー、例えばポリ乳酸-ブロック-ポリエチレングリコールに結合され得るか、または合成ナノキャリアは、その表面における反応性または活性化可能な基を用いて形成され得る。後者の場合、成分は、合成ナノキャリアの表面によって提示される結合化学作用と適合する基を用いて調製され得る。他の実施形態において、ペプチド成分が、好適なリンカーを用いてVLPまたはリポソームに結合され得る。リンカーは、2個の分子を一緒に結合することが可能な化合物または試薬である。一実施形態において、リンカーは、Hermanson 2008に記載されるように、ホモ二官能性またはヘテロ二官能性の試薬であり得る。例えば、表面にカルボン酸基を含有するVLPまたはリポソーム合成ナノキャリアが、EDCの存在下で、ホモ二官能性リンカー、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)で処理されて、ADHリンカーによって対応する合成ナノキャリアが形成され得る。次に、得られるADH結合合成ナノキャリアは、NCにおけるADHリンカーの他端を介して酸性基を含有するペプチド成分と結合されて、対応するVLPまたはリポソームペプチド複合体が生成される。
【0174】
利用可能な結合方法の詳細な説明については、Hermanson G T “Bioconjugate Techniques”,2nd Edition Published by Academic Press,Inc.,2008を参照されたい。共有結合に加えて、成分は、予め形成された合成ナノキャリアへの吸着によって結合され得るかまたは成分は、合成ナノキャリアの形成中の封入によって結合され得る。
【0175】
本明細書に提供される任意の免疫抑制剤は、合成ナノキャリアに結合され得る。免疫抑制剤としては、以下に限定はされないが、スタチン;ラパマイシンまたはラパマイシン類似体などのmTOR阻害剤;TGF-βシグナル伝達剤;TGF-β受容体アゴニスト;ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;コルチコステロイド;ロテノンなどのミトコンドリア機能の阻害剤;P38阻害剤;NF-κβ阻害剤;アデノシン受容体アゴニスト;プロスタグランジンE2アゴニスト;ホスホジエステラーゼ4阻害剤などのホスホジエステラーゼ阻害剤;プロテアソーム阻害剤;キナーゼ阻害剤;Gタンパク質共役受容体アゴニスト;Gタンパク質共役受容体アンタゴニスト;糖質コルチコイド;レチノイド;サイトカイン阻害剤;サイトカイン受容体阻害剤;サイトカイン受容体活性化剤;ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体アンタゴニスト;ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体アゴニスト;ヒストンデアセチラーゼ阻害剤;カルシニューリン阻害剤;ホスファターゼ阻害剤、および酸化ATPが挙げられる。免疫抑制剤としては、IDO、ビタミンD3、シクロスポリンA、アリール炭化水素受容体阻害剤、レスベラトロール、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、アスピリン、ニフルム酸、エストリオール、トリプトリド、インターロイキン(例えば、IL-1、IL-10)、シクロスポリンA、siRNA標的化サイトカインまたはサイトカイン受容体なども挙げられる。
【0176】
スタチンの例としては、アトルバスタチン(LIPITOR(登録商標)、TORVAST(登録商標))、セリバスタチン、フルバスタチン(LESCOL(登録商標)、LESCOL(登録商標)XL)、ロバスタチン(MEVACOR(登録商標)、ALTOCOR(登録商標)、ALTOPREV(登録商標))、メバスタチン(COMPACTIN(登録商標))、ピタバスタチン(LIVALO(登録商標)、PIAVA(登録商標))、ロスバスタチン(PRAVACHOL(登録商標)、SELEKTINE(登録商標)、LIPOSTAT(登録商標))、ロスバスタチン(CRESTOR(登録商標))、およびシンバスタチン(ZOCOR(登録商標)、LIPEX(登録商標))が挙げられる。
【0177】
mTOR阻害剤の例としては、ラパマイシンおよびその類似体(例えば、CCL-779、RAD001、AP23573、C20-メタアリルラパマイシン(C20-Marap)、C16-(S)-ブチルスルホンアミドラパマイシン(C16-BSrap)、C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシン(C16-iRap)(Bayle et al.Chemistry & Biology 2006,13:99-107))、AZD8055、BEZ235(NVP-BEZ235)、クリソファン酸(クリソファノール)、デフォロリムス(MK-8669)、エベロリムス(RAD0001)、KU-0063794、PI-103、PP242、テムシロリムス、およびWYE-354(Selleck(Houston,TX,USA)から入手可能)が挙げられる。
【0178】
TGF-βシグナル伝達剤の例としては、TGF-βリガンド(例えば、アクチビンA、GDF1、GDF11、骨形態形成タンパク質、nodal、TGF-βs)およびそれらの受容体(例えば、ACVR1B、ACVR1C、ACVR2A、ACVR2B、BMPR2、BMPR1A、BMPR1B、TGFβRI、TGFβRII)、R-SMADS/コ-SMADS(例えば、SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD4、SMAD5、SMAD8)、およびリガンド阻害剤(例えば、ホリスタチン、ノギン、コーディン、DAN、lefty、LTBP1、THBS1、デコリン(Decorin))が挙げられる。
【0179】
ミトコンドリア機能の阻害剤の例としては、アトラクチロシド(二カリウム塩)、ボンクレキン酸(三アンモニウム塩)、カルボニルシアニドm-クロロフェニルヒドラゾン、カルボキシアトラクチロシド(例えば、アトラクチリス・グミフェラ(Atractylis gummifera)由来)、CGP-37157、(-)-デグエリン(例えば、ムンドゥレア・セリセア(Mundulea sericea)由来)、F16、ヘキソキナーゼII VDAC結合ドメインペプチド、オリゴマイシン、ロテノン、Ru360、SFK1、およびバリノマイシン(例えば、ストレプトマイセス・フルビシムス(Streptomyces fulvissimus)由来)(EMD4Biosciences,USA)が挙げられる。
【0180】
P38阻害剤の例としては、SB-203580(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルフィニルフェニル)-5-(4-ピリジル)1H-イミダゾール)、SB-239063(トランス-1-(4ヒドロキシシクロヘキシル)-4-(フルオロフェニル)-5-(2-メトキシ-ピリミジン-4-イル)イミダゾール)、SB-220025(5-(2アミノ-4-ピリミジニル)-4-(4-フルオロフェニル)-1-(4-ピペリジニル)イミダゾール))、およびARRY-797が挙げられる。
【0181】
NF(例えば、NK-κβ)阻害剤の例としては、IFRD1、2-(1,8-ナフチリジン-2-イル)-フェノール、5-アミノサリチル酸、BAY 11-7082、BAY 11-7085、CAPE(コーヒー酸フェネチルエステル)、マレイン酸ジエチル、IKK-2阻害剤IV、IMD 0354、ラクタシスチン、MG-132[Z-Leu-Leu-Leu-CHO]、NFκB活性化阻害剤III、NF-κB活性化阻害剤II、JSH-23、パルテノリド、フェニルアルシンオキシド(PAO)、PPM-18、ピロリジンジチオカルバミン酸アンモニウム塩、QNZ、RO 106-9920、ロカグラミド、ロカグラミドAL、ロカグラミドC、ロカグラミドI、ロカグラミドJ、ロカグラオール、(R)-MG-132、サリチル酸ナトリウム、トリプトリド(PG490)、ウェデロラクトンが挙げられる。
【0182】
アデノシン受容体アゴニストの例としては、CGS-21680およびATL-146eが挙げられる。
【0183】
プロスタグランジンE2アゴニストの例としては、E-プロスタノイド2およびE-プロスタノイド4が挙げられる。
【0184】
ホスホジエステラーゼ阻害剤(非選択的および選択的阻害剤)の例としては、カフェイン、アミノフィリン、IBMX(3-イソブチル-1-メチルキサンチン)、パラキサンチン、ペントキシフィリン、テオブロミン、テオフィリン、メチル化キサンチン、ビンポセチン、EHNA(エリトロ-9-(2-ヒドロキシ-3-ノニル)アデニン)、アナグレリド、エノキシモン(PERFANTM)、ミルリノン、レボシメンダン、メセンブリン、イブジラスト、ピクラミラスト、ルテオリン、ドロタベリン、ロフルミラスト(DAXASTM、DALIRESPTM)、シルデナフィル(REVATION(登録商標)、VIAGRA(登録商標))、タダラフィル(ADCIRCA(登録商標)、CIALIS(登録商標))、バルデナフィル(LEVITRA(登録商標)、STAXYN(登録商標))、ウデナフィル、アバナフィル、イカリイン、4-メチルピペラジン、およびピラゾロピリミジン-7-1が挙げられる。
【0185】
プロテアソーム阻害剤の例としては、ボルテゾミブ、ジスルフィラム、エピガロカテキン-3-ガラート、およびサリノスポラミドAが挙げられる。
【0186】
キナーゼ阻害剤の例としては、ベバシズマブ、BIBW 2992、セツキシマブ(ERBITUX(登録商標))、イマチニブ(GLEEVEC(登録商標))、トラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))、ゲフィチニブ(IRESSA(登録商標))、ラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標))、ペガプタニブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、スニチニブ、エルロチニブ、ニロチニブ、ラパチニブ、パニツムマブ、バンデタニブ、E7080、パゾパニブ、ムブリチニブが挙げられる。
【0187】
糖質コルチコイドの例としては、ヒドロコルチゾン(コルチゾール)、酢酸コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、酢酸フルドロコルチゾン、酢酸デオキシコルチコステロン(DOCA)、およびアルドステロンが挙げられる。
【0188】
レチノイドの例としては、レチノール、レチナール、トレチノイン(レチノイン酸、RETIN-A(登録商標))、イソトレチノイン(ACCUTANE(登録商標)、AMNESTEEM(登録商標)、CLARAVIS(登録商標)、SOTRET(登録商標))、アリトレチノイン(PANRETIN(登録商標))、エトレチナート(TEGISONTM)およびその代謝産物のアシトレチン(SORIATANE(登録商標))、タザロテン(TAZORAC(登録商標)、AVAGE(登録商標)、ZORAC(登録商標))、ベキサロテン(TARGRETIN(登録商標))、およびアダパレン(DIFFERIN(登録商標))が挙げられる。
【0189】
サイトカイン阻害剤の例としては、IL1ra、IL1受容体アンタゴニスト、IGFBP、TNF-BF、ウロモデュリン、α-2-マクログロブリン、シクロスポリンA、ペンタミジン、およびペントキシフィリン(PENTOPAK(登録商標)、PENTOXIL(登録商標)、TRENTAL(登録商標))が挙げられる。
【0190】
ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体アンタゴニストの例としては、GW9662、PPARγアンタゴニストIII、G335、T0070907(EMD4Biosciences,USA)が挙げられる。
【0191】
ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体アゴニストの例としては、ピオグリタゾン、シグリタゾン、クロフィブラート、GW1929、GW7647、L-165,041、LY 171883、PPARγ活性化因子、Fmoc-Leu、トログリタゾン、およびWY-14643(EMD4Biosciences,USA)が挙げられる。
【0192】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の例としては、トリコスタチンAなどのヒドロキサム酸(またはヒドロキサメート)、環状テトラペプチド(トラポキシンBなど)およびデプシペプチド、ベンズアミド、求電子性ケトン、フェニルブチレートおよびバルプロ酸などの脂肪族酸化合物、ボリノスタット(SAHA)、ベリノスタット(PXD101)、LAQ824、およびパノビノスタット(LBH589)などのヒドロキサム酸、エンチノスタット(MS-275)、CI994、およびモセチノスタット(MGCD0103)などのベンズアミド、ニコチンアミド、NADの誘導体、ジヒドロクマリン、ナフトピラノン、および2-ヒドロキシナフタルアルデヒドが挙げられる。
【0193】
カルシニューリン阻害剤の例としては、シクロスポリン、ピメクロリムス、ボクロスポリン、およびタクロリムスが挙げられる。
【0194】
ホスファターゼ阻害剤の例としては、BN82002塩酸塩、CP-91149、カリクリンA、カンタリジン酸、カンタリジン、シペルメトリン、エチル-3,4-デフォスタチン、フォストリエシンナトリウム塩、MAZ51、メチル-3,4-デフォスタチン、NSC 95397、ノルカンタリジン、プロロセントラム・コンカバム(prorocentrum concavum)に由来するオカダ酸アンモニウム塩、オカダ酸、オカダ酸カリウム塩、オカダ酸ナトリウム塩、フェニルアルシンオキシド、様々なホスファターゼ阻害剤混合物、タンパク質ホスファターゼ1C、タンパク質ホスファターゼ2A阻害剤タンパク質、タンパク質ホスファターゼ2A1、タンパク質ホスファターゼ2A2、オルトバナジウム酸ナトリウムが挙げられる。
【0195】
ある実施形態において、本明細書に記載されるAPC提示可能抗原はまた、合成ナノキャリアに結合される。ある実施形態において、APC提示可能抗原は、どの免疫抑制剤が結合されるかに応じて、同じかまたは異なる合成ナノキャリアに結合される。他の実施形態において、APC提示可能抗原は、いずれの合成ナノキャリアにも結合されない。APC提示可能抗原は、本明細書に提供される抗原の何れかを含む。このような抗原としては、炎症性疾患、自己免疫疾患、アレルギー、移植片対宿主病に関連するAPC提示可能抗原、移植抗原および治療用タンパク質抗原が挙げられる。
【0196】
治療用タンパク質の例としては、以下に限定はされないが、不融性治療用タンパク質、酵素、酵素補助因子、ホルモン、血液凝固因子、サイトカインおよびインターフェロン、増殖因子、モノクローナル抗体、およびポリクローナル抗体(例えば、補充療法として被験体に投与されるもの)、およびポンペ病に関連するタンパク質(例えば、アルグルコシダーゼアルファ、rhGAA(例えば、MyozymeおよびLumizyme(Genzyme))が挙げられる。治療用タンパク質は、血液凝固カスケードに関与するタンパク質も含む。治療用タンパク質の例としては、以下に限定はされないが、第VIII因子、第VII因子、第IX因子、第V因子、フォン・ヴィレブランド因子、フォン・ヘルデブラント因子(von Heldebrant Factor)、組織プラスミノーゲン活性化因子、インスリン、成長ホルモン、エリスロポエチンα、VEGF、トロンボポエチン、リゾチーム、抗トロンビンなどが挙げられる。治療用タンパク質は、レプチンおよびアディポネクチンなどのアディポカインも含む。治療用タンパク質の他の例は、以下および本明細書のどこかに記載されているとおりである。抗原として提供される治療用タンパク質の何れかの断片または誘導体も含まれる。
【0197】
リソソーム貯蔵障害に罹患した被験体の酵素補充療法に使用される治療用タンパク質の例としては、以下に限定はされないが、ゴーシェ病の治療のためのイミグルセラーゼ(例えば、CEREZYME(商標))、ファブリー病の治療のためのa-ガラクトシダーゼA(a-gal A)(例えば、アガルシダーゼベータ、FABRYZYME(商標))、ポンペ病の治療のための酸性a-グルコシダーゼ(GAA)(例えば、アルグルコシダーゼアルファ、LUMIZYME(商標)、MYOZYME(商標))、ムコ多糖症の治療のためのアリールスルファターゼB(例えば、ラロニダーゼ、ALDURAZYME(商標)、イデュルスルファーゼ、ELAPRASE(商標)、アリールスルファターゼB、NAGLAZYME(商標))が挙げられる。
【0198】
酵素の例としては、オキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、およびリガーゼが挙げられる。
【0199】
ホルモンの例としては、メラトニン(N-アセチル-5-メトキシトリプタミン)、セロトニン、チロキシン(またはテトラヨードチロニン)(甲状腺ホルモン)、トリヨードチロニン(甲状腺ホルモン)、エピネフリン(またはアドレナリン)、ノルエピネフリン(またはノルアドレナリン)、ドパミン(またはプロラクチン抑制ホルモン)、抗ミュラー管ホルモン(またはミュラー管抑制因子またはホルモン)、アディポネクチン、副腎皮質刺激ホルモン(またはコルチコトロピン)、アンギオテンシノーゲンおよびアンジオテンシン、抗利尿ホルモン(またはバソプレシン、アルギニンバソプレシン)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(またはアトリオペプチン)、カルシトニン、コレシストキニン、コルチコトロピン放出ホルモン、エリスロポエチン、卵胞刺激ホルモン、ガストリン、グレリン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GIP、ゴナドトロピン放出ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、ヒト胎盤性ラクトーゲン、成長ホルモン、インヒビン、インスリン、インスリン様成長因子(またはソマトメジン)、レプチン、黄体形成ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、オレキシン、オキシトシン、副甲状腺ホルモン、プロラクチン、レラキシン、セクレチン、ソマトスタチン、トロンボポエチン、甲状腺刺激ホルモン(またはサイロトロピン)、サイロトロピン放出ホルモン、コルチゾール、アルドステロン、テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステンジオン、ジヒドロテストステロン、エストラジオール、エストロン、エストリオール、プロゲステロン、カルシトリオール(1,25-ジヒドロキシビタミンD3)、カルシジオール(25-ヒドロキシビタミンD3)、プロスタグランジン、ロイコトリエン、プロスタサイクリン、トロンボキサン、プロラクチン放出ホルモン、リポトロピン、脳性ナトリウム利尿ペプチド、神経ペプチドY、ヒスタミン、エンドセリン、膵臓ポリペプチド、レニン、およびエンケファリンが挙げられる。
【0200】
血液および血液凝固因子の例としては、第I因子(フィブリノゲン)、第II因子(プロトロンビン)、組織因子、第V因子(プロアクセレリン、不安定因子)、第VII因子(安定因子、プロコンバーチン)、第VIII因子(抗血友病グロブリン)、第IX因子(クリスマス因子または血漿トロンボプラスチン成分)、第X因子(スチュアート・プロワー因子)、第Xa因子、第XI因子、第XII因子(ハーゲマン因子)、第XIII因子(フィブリン安定化因子)、フォン・ヴィレブランド因子、プレカリクレイン(フレッチャー因子)、高分子量キニノーゲン(HMWK)(フィッツジェラルド因子)、フィブロネクチン、フィブリン、トロンビン、抗トロンビンIII、ヘパリン補因子II、プロテインC、プロテインS、プロテインZ、プロテインZ関連プロテアーゼ阻害剤(ZPI)、プラスミノーゲン、α2-抗プラスミン、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、ウロキナーゼ、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤-1(PAI1)、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤-2(PAI2)、癌由来凝血促進因子、およびエポエチンアルファ(Epogen、Procrit)が挙げられる。
【0201】
サイトカインの例としては、リンホカイン、インターロイキン、およびケモカイン、IFN-γ、TGF-βなどの1型サイトカイン、並びにIL-4、IL-10、およびIL-13などの2型サイトカインが挙げられる。
【0202】
増殖因子の例としては、アドレノメデュリン(AM)、アンジオポエチン(Ang)、自己分泌型運動因子、骨形成タンパク質(BMP)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、上皮成長因子(EGF)、エリスロポエチン(EPO)、線維芽細胞成長因子(FGF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、増殖分化因子-9(GDF9)、肝細胞増殖因子(HGF)、肝細胞癌由来増殖因子(HDGF)、インスリン様成長因子(IGF)、遊走刺激因子、ミオスタチン(GDF-8)、神経成長因子(NGF)および他の神経栄養因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、トロンボポエチン(TPO)、形質転換成長因子α(TGF-α)、形質転換成長因子β(TGF-β)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、血管内皮成長因子(VEGF)、Wntシグナル経路、胎盤増殖因子(PlGF)、[(ウシ胎仔ソマトトロピン)](FBS)、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、およびIL-7が挙げられる。
【0203】
モノクローナル抗体の例としては、アバゴボマブ、アブシキシマブ、アダリムマブ、アデカツムマブ、アフェリモマブ、アフツズマブ、アラシズマブペゴール、ALD、アレムツズマブ、ペンテト酸アルツモマブ、アナツモマブマフェナトクス、アンルキンズマブ、抗胸腺細胞グロブリン、アポリズマブ、アルシツモマブ、アセリズマブ、アトリズマブ(トシリズマブ)、アトロリムマブ、バピネオズマブ、バシリキシマブ、バビツキシマブ、ベクツモマブ、ベリムマブ、ベンラリズマブ、ベルチリムマブ、ベシレソマブ、ベバシズマブ、ビシロマブ、ビバツズマブメルタンシン、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブベドチン、ブリアキヌマブ、カナキヌマブ、カンツズマブメルタンシン、カプロマブペンデチド、カツマキソマブ、セデリズマブ、セルトリズマブペゴール、セツキシマブ、シタツズマブボガトクス、シクスツムマブ、クレノリキシマブ、クリバツズマブテトラキセタン、コナツムマブ、ダセツズマブ、ダクリズマブ、ダラツムマブ、デノスマブ、デツモマブ、ドルリモマブアリトクス、ドルリキシズマブ、エクロメキシマブ、エクリズマブ、エドバコマブ、エドレコロマブ、エファリズマブ、エフングマブ、エロツズマブ、エルシリモマブ、エンリモマブペゴール、エピツモマブシツキセタン、エプラツズマブ、エルリズマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、エクスビビルマブ、ファノレソマブ、ファラリモマブ、ファルレツズマブ、フェルビズマブ、フェザキヌマブ、フィギツムマブ、フォントリズマブ、フォラビルマブ、フレソリムマブ、ガリキシマブ、ガンテネルマブ、ガビリモマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、GC1008、ギレンツキシマブ(Girentuximab)、グレムバツムマブベドチン(Glembatumumab vedotin)、ゴリムマブ、ゴミリキシマブ、イバリズマブ、イブリツモマブチウキセタン、イゴボマブ、イムシロマブ、インフリキシマブ、インテツムマブ、イノリモマブ、イノツズマブオゾガマイシン、イピリムマブ、イラツムマブ、ケリキシマブ、ラベツズマブ、レブリキズマブ、レマレソマブ、レルデリムマブ、レクサツムマブ、リビビルマブ、リンツズマブ、ロルボツズマブメルタンシン、ルカツムマブ、ルミリキシマブ、マパツズマブ、マスリモマブ、マツズマブ、メポリズマブ、メテリムマブ、ミラツズマブ、ミンレツモマブ、ミツモマブ、モロリムマブ、モタビズマブ、ムロモナブ-CD3、ナコロマブタフェナトクス、ナプツモマブエスタフェナトクス、ナタリズマブ、ネバクマブ、ネシツムマブ、ネレリモマブ、ニモツズマブ、ノフェツモマブメルペンタン、オクレリズマブ、オズリモマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オマリズマブ、オポルツズマブモナトクス、オレゴボマブ、オテリキシズマブ、パギバキシマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、パノバクマブ、パスコリズマブ、ペムツモマブ、パーツズマブ、ペキセリズマブ、ピンツモマブ、プリリキシマブ、プリツムマブ、ラフィビルマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、ラキシバクマブ、レガビルマブ、レスリズマブ、リロツムマブ、リツキシマブ、ロバツムマブ、ロンタリズマブ、ロベリズマブ、ルプリズマブ、サツモマブペンデチド、セビルマブ、シブロツズマブ、シファリムマブ、シルツキシマブ、シプリズマブ、ソラネズマブ、ソネプシズマブ、ソンツズマブ、スタムルマブ、スレソマブ、タカツズマブテトラキセタン、タドシズマブ、タリズマブ、タネズマブ、タプリツモマブパプトクス、テフィバズマブ、テリモマブアリトクス、テナツモマブ、テネリキシマブ、テプリズマブ、チシリムマブ(トレメリムマブ)、ティガツズマブ、トシリズマブ(アトリズマブ)、トラリズマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、トレメリムマブ、ツコツズマブセルモロイキン、ツビルマブ、ウルトキサズマブ、ウステキヌマブ、バパリキシマブ、ベドリズマブ、ベルツズマブ、ベパリモマブ、ビジリズマブ、ボロシキシマブ、ボツムマブ、ザルツムマブ、ザノリムマブ、ジラリムマブ、およびゾリモマブアリトクスが挙げられる。
【0204】
注入療法または注射用の治療用タンパク質の例としては、例えば、トシリズマブ(Roche/Actemra(登録商標))、α-1アンチトリプシン(Kamada/AAT)、Hematide(登録商標)(Affymaxおよび武田薬品(Takeda)、合成ペプチド)、アルブインターフェロンα-2b(Novartis/Zalbin(商標))、Rhucin(登録商標)(Pharming Group、C1阻害剤補充療法)、テサモレリン(Theratechnologies/Egrifta、合成成長ホルモン放出因子)、オクレリズマブ(Genentech、RocheおよびBiogen)、ベリムマブ(GlaxoSmithKline/Benlysta(登録商標))、ペグロチカーゼ(Savient Pharmaceuticals/Krystexxa(商標))、タリグルセラーゼアルファ(Protalix/Uplyso)、アガルシダーゼアルファ(Shire/Replagal(登録商標))、ベラグルセラーゼアルファ(Shire)が挙げられる。
【0205】
本発明の態様に従って有用な更なる治療用タンパク質は、当業者に明らかであり、本発明は、これに関して限定されない。
【0206】
ある実施形態において、抗原または免疫抑制剤などの成分が、単離され得る。「単離される」は、要素が、その天然の環境から分離され、その同定または使用を可能にするのに十分な量で存在することを指す。これは、例えば、要素が、(i)発現クローニングによって選択的に生成され得るかまたは(ii)クロマトグラフィーまたは電気泳動によって精製され得ることを意味する。単離された要素は、実質的に純粋であり得るが、実質的に純粋である必要はない。単離された要素は、医薬製剤中で薬学的に許容できる賦形剤と混合され得るため、要素は、製剤のほんのわずかな重量パーセントを占め得る。それにもかかわらず、要素は、生物系中でそれと関連し得る物質から分離されたという点で単離される、即ち、他の脂質またはタンパク質から単離される。本明細書に提供される要素のいずれも単離されてもよい。本明細書に提供される抗原のいずれも、単離された形態で組成物中に含まれ得る。
【0207】
D.本発明の組成物を作製および使用するための方法並びに関連する方法
合成ナノキャリアは、当該技術分野において公知の様々な方法を用いて調製され得る。例えば、合成ナノキャリアは、ナノ析出(nanoprecipitation)、流体チャネルを用いたフローフォーカシング(flow focusing)、噴霧乾燥、単一および二重乳化溶媒蒸発、溶媒抽出、相分離、ミリング、マイクロエマルジョン法、マイクロ加工、ナノ加工(nanofabrication)、犠牲層、単純コアセルベーションおよび複合コアセルベーション、並びに当業者に周知の他の方法のような方法によって形成され得る。その代わりにまたはそれに加えて、単分散半導体ナノ材料、伝導性ナノ材料、磁性ナノ材料、有機ナノ材料、および他のナノ材料のための水性および有機溶媒合成が、記載されている(Pellegrino et al.,2005,Small,1:48;Murray et al.,2000,Ann.Rev.Mat.Sci.,30:545;およびTrindade et al.,2001,Chem.Mat.,13:3843)。更なる方法が、文献に記載されている(例えば、Doubrow,Ed.,“Microcapsules and Nanoparticles in Medicine and Pharmacy,” CRC Press,Boca Raton,1992;Mathiowitz et al.,1987,J.Control.Release,5:13;Mathiowitz et al.,1987,Reactive Polymers,6:275;およびMathiowitz et al.,1988,J.Appl.Polymer Sci.,35:755;米国特許第5578325号明細書および同第6007845号明細書;P.Paolicelli et al.,“Surface-modified PLGA-based Nanoparticles that can Efficiently Associate and Deliver Virus-like Particles” Nanomedicine.5(6):843-853(2010)を参照されたい)。
【0208】
様々な材料が、C.Astete et al.,“Synthesis and characterization of PLGA nanoparticles” J.Biomater.Sci.Polymer Edn,Vol.17,No.3,pp.247-289(2006);K.Avgoustakis “Pegylated Poly(Lactide)and Poly(Lactide-Co-Glycolide)Nanoparticles:Preparation,Properties and Possible Applications in Drug Delivery” Current Drug Delivery 1:321-333(2004);C.Reis et al.,“Nanoencapsulation I.Methods for preparation of drug-loaded polymeric nanoparticles” Nanomedicine 2:8-21(2006);P.Paolicelli et al.,“Surface-modified PLGA-based Nanoparticles that can Efficiently Associate and Deliver Virus-like Particles” Nanomedicine.5(6):843-853(2010)を含むがこれらに限定されない様々な方法を用いて、所望により合成ナノキャリアへと封入され得る。2003年10月14日にUngerに付与された米国特許第6,632,671号明細書に開示される方法を含むがこれに限定されない、オリゴヌクレオチドなどの材料を合成ナノキャリア中に封入するのに好適な他の方法が使用され得る。
【0209】
特定の実施形態において、合成ナノキャリアは、ナノ析出プロセスまたは噴霧乾燥によって調製される。合成ナノキャリアを調製するのに使用される条件は、所望のサイズまたは特性(例えば、疎水性、親水性、外的形態、「粘着性」、形状など)の粒子を得るために変更され得る。合成ナノキャリアを調製する方法および使用される条件(例えば、溶媒、温度、濃度、空気流量など)は、合成ナノキャリアに結合される材料および/またはポリマーマトリクスの組成に左右され得る。
【0210】
上記の方法の何れかによって調製される粒子が、所望の範囲を外れたサイズ範囲を有する場合、粒子は、例えば、ふるいを用いてサイズ分けされ得る。
【0211】
本発明の合成ナノキャリアの要素(即ち、成分)(免疫特徴表面を構成する部分、標的部分、ポリマーマトリクス、抗原、免疫抑制剤など)が、合成ナノキャリア全体に、例えば、1つ以上の共有結合によって結合されてもよく、または1つ以上のリンカーによって結合されてもよい。合成ナノキャリアを官能化する更なる方法が、Saltzman et al.への米国特許出願公開第2006/0002852号明細書、DeSimone et al.への米国特許出願公開第2009/0028910号明細書、またはMurthy et al.の公開された国際特許出願の国際公開第/2008/127532 A1号パンフレットから適合され得る。
【0212】
その代わりにまたはそれに加えて、合成ナノキャリアは、本明細書に提供される成分に、直接または非共有相互作用を介して間接的に結合され得る。非共有の実施形態において、非共有結合には、電荷相互作用、親和性相互作用、金属配位、物理吸着、ホスト-ゲスト相互作用、疎水性相互作用、TTスタッキング相互作用、水素結合相互作用、ファン・デル・ワールス相互作用、磁気相互作用、静電相互作用、双極子間相互作用、および/またはそれらの組合せを含むがこれらに限定されない非共有相互作用が介在する。このような結合は、本発明の合成ナノキャリアの外面または内面にあるように配置され得る。実施形態において、封入および/または吸収が、結合の形態である。
【0213】
実施形態において、本発明の合成ナノキャリアは、同じビヒクルまたは送達系中で混合することによって、抗原と組み合わされ得る。
【0214】
合成ナノキャリアの集団は、従来の薬剤混合方法を用いて、本発明に係る医薬剤形を形成するように組み合わされ得る。これらには、ナノキャリアの1つ以上のサブセットをそれぞれが含有する2つ以上の懸濁液が直接組み合わされるかまたは希釈剤を含む1つ以上の容器によって合わされる液-液混合が含まれる。また、合成ナノキャリアが、粉末形態で製造または貯蔵され得る際、2つ以上の粉末の再懸濁が共通の媒体中で行われ得るように粉末同士の乾式混合が行われ得る。ナノキャリアの特性およびそれらの相互作用ポテンシャルに応じて、1つまたは別の混合経路に与えられる利点があり得る。
【0215】
合成ナノキャリアを含む典型的な本発明の組成物は、無機または有機緩衝液(例えば、リン酸の、炭酸の、酢酸の、またはクエン酸のナトリウム塩またはカリウム塩)およびpH調整剤(例えば、塩酸、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム、クエン酸のまたは酢酸の塩、アミノ酸およびその塩)酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、α-トコフェロール)、界面活性剤(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン9-10ノニルフェノール、デソキシコール酸ナトリウム)、溶液および/または冷凍/溶解安定剤(例えば、スクロース、ラクトース、マンニトール、トレハロース)、浸透圧調整剤(例えば、塩または糖)、抗菌剤(例えば、安息香酸、フェノール、ゲンタマイシン)、消泡剤(例えば、ポリジメチルシロキサン)、保存剤(例えば、チメロサール、2-フェノキシエタノール、EDTA)、ポリマー安定剤および粘度調整剤(例えば、ポリビニルピロリドン、ポロキサマー488、カルボキシメチルセルロース)および共溶媒(例えば、グリセリロール、ポリエチレングリコール、エタノール)を含み得る。
【0216】
本発明に係る組成物は、薬学的に許容できる賦形剤と組み合わせて、本発明の合成ナノキャリアを含む。組成物は、有用な剤形に達するために従来の薬剤製造および配合技術を用いて作製され得る。本発明を実施する際に使用するのに好適な技術は、Handbook of Industrial Mixing: Science and Practice,Edited by Edward L.Paul,Victor A.Atiemo-Obeng,and Suzanne M.Kresta,2004 John Wiley & Sons,Inc.;およびPharmaceutics:The Science of Dosage Form Design,2nd Ed.Edited by M.E.Auten,2001,Churchill Livingstoneに見出され得る。一実施形態において、本発明の合成ナノキャリアは、保存剤とともに注射するために滅菌生理食塩溶液中に懸濁される。
【0217】
本発明の組成物は、任意の好適な方法で作製され得、本発明は、本明細書に記載される方法を用いて製造され得る組成物に決して限定されないことを理解されたい。適切な方法の選択は、関連する特定の部分の特性に配慮することを必要とし得る。
【0218】
ある実施形態において、本発明の合成ナノキャリアは、滅菌条件下で製造されるかまたは最終的に滅菌される。これにより、得られる組成物を確実に無菌かつ非感染性にすることができるため、非無菌組成物と比較した際に安全性が向上される。これは、特に、合成ナノキャリアを投与される被験体が、免疫不全を有するか、感染症に罹患しているか、および/または感染症に罹患しやすい場合、有益な安全対策を提供する。ある実施形態において、本発明の合成ナノキャリアは、活性を失うことなく、長期間にわたって、製剤化手法に応じて懸濁液中にまたは凍結乾燥粉末として、凍結乾燥され、貯蔵され得る。
【0219】
本発明の組成物は、皮下、鼻腔内、経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、経粘膜、経粘膜、舌下、直腸、点眼、経肺、皮内、経真皮(transdermal)、経皮(transcutaneous)または皮内を含むがこれらに限定されない様々な経路によって或いはこれらの経路の組合せによって投与され得る。投与経路は、吸入または経肺エアゾールによる投与も含む。エアゾール送達系を調製するための技術が、当業者に周知である(例えば、参照により援用される、Sciarra and Cutie,“Aerosols,” in Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th edition,1990,pp.1694-1712を参照されたい)。
【0220】
本発明の細胞に基づいた療法として提供される移植可能な移植片または治療用タンパク質は、非経口、動脈内、鼻腔内または静脈内投与によって、或いはリンパ節または前眼房への注射によって、或いは対象とする臓器または組織への局所投与によって投与され得る。投与は、皮下、髄腔内、脳室内、筋肉内、腹腔内、冠動脈内、膵臓内、肝臓内または気管支内注射によって行われ得る。
【0221】
本発明の組成物は、本明細書のどこかに記載される有効量などの、有効量で投与され得る。剤形の投与量は、本発明に係る、様々な量の合成ナノキャリアの集団および/または様々な量の、免疫抑制剤および/または抗原を含有する。本発明の剤形中に存在する合成ナノキャリアおよび/または免疫抑制剤および/または抗原の量は、抗原および/または免疫抑制剤の性質、達成される治療効果、および他のこのようなパラメータに応じて変更され得る。実施形態において、投与量決定試験が、合成ナノキャリアの集団の最適な治療量並びに剤形中に存在する免疫抑制剤および/または抗原の量を確定するために行われ得る。実施形態において、合成ナノキャリアおよび/または免疫抑制剤および/または抗原は、被験体への投与の際に、抗原に対する寛容原性免疫応答を生成するのに有効な量で剤形中に存在する。被験体における従来の投与量決定試験および技術を用いて寛容原性免疫応答を生成するのに有効な免疫抑制剤および/または抗原の量を決定することが可能であり得る。本発明の剤形は、様々な頻度で投与され得る。好ましい実施形態において、剤形の少なくとも1回の投与が、薬理学的に関連する応答を生成するのに十分である。より好ましい実施形態において、剤形の少なくとも2回の投与、少なくとも3回の投与、または少なくとも4回の投与が、薬理学的に関連する応答を確実にするのに用いられる。
【0222】
本発明の組成物の予防的投与が、疾病、疾患または病態の発症の前に開始され得、または治療的投与が、疾患、疾患または病態が定着した後に開始され得る。
【0223】
ある実施形態において、合成ナノキャリアの投与は、例えば、治療用タンパク質、移植可能な移植片の投与またはアレルゲンへの曝露の前に行われる。例示的実施形態において、合成ナノキャリアは、以下に限定されないが、治療用タンパク質、移植可能な移植片の投与またはアレルゲンへの投与の30、25、20、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、または0日前などに、1回以上投与される。それに加えてまたはその代わりに、合成ナノキャリアは、治療用タンパク質、移植可能な移植片の投与またはアレルゲンへの曝露の後、被験体に投与され得る。例示的実施形態において、合成ナノキャリアは、以下に限定はされないが、治療用タンパク質、移植可能な移植片の投与またはアレルゲンへの曝露の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30日後などに、1回以上投与される。
【0224】
ある実施形態において、(例えば、本明細書に提供される合成ナノキャリアの)維持投与量は、例えば、初期投与量の後に得られる寛容原性効果を維持するために、被験体における望ましくない免疫反応を防止するために、または被験体が、望ましくない免疫応答または望ましくないレベルの免疫応答を起こすリスクがある被験体になるのを防止するために、初期投与が被験体における寛容原性応答をもたらした後に被験体に投与される。ある実施形態において、維持投与量は、被験体に投与された初期投与量と同じ投与量である。ある実施形態において、維持投与量は、初期投与量より低い投与量である。例えば、ある実施形態において、維持投与量は、初期投与量の約3/4、約2/3、約1/2、約1/3、約1/4、約1/8、約1/10、約1/20、約1/25、約1/50、約1/100、約1/1,000、約1/10,000、約1/100,000、または約1/1,000,000(重量/重量)である。
【0225】
本明細書に記載される組成物および方法は、寛容原性免疫応答を誘導または促進し、および/または免疫抑制のために望ましくない免疫応答を抑制し、調節し、指向し(direct)または指向し直す(redirect)ために使用され得る。本明細書に記載される組成物および方法は、免疫抑制が治療効果を与えるであろう疾病、疾患または病態の診断、予防および/または治療に使用され得る。このような疾病、疾患または病態は、自己免疫疾患、炎症性疾患、アレルギー、臓器若しくは組織拒絶反応および移植片対宿主病を含む。本明細書に記載される組成物および方法は、移植を行ったかまたは移植を行う予定である被験体にも使用され得る。本明細書に記載される組成物および方法は、被験体が望ましくない免疫応答を生成したかまたは生成することが予測される治療用タンパク質を投与されたか、投与されているかまたは投与される予定である被験体にも使用され得る。
【0226】
自己免疫疾患としては、以下に限定はされないが、関節リウマチ、多発性硬化症、免疫介在性または1型糖尿病、炎症性腸疾患(例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎)、全身性エリテマトーデス、乾癬、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患、円形脱毛症、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、セリアック病、シェーグレン症候群、リウマチ熱、胃炎、自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、膵島炎、卵巣炎、精巣炎、ブドウ膜炎、水晶体起因性ブドウ膜炎、重症筋無力症、原発性粘液水腫、悪性貧血、自己免疫性溶血性貧血、アジソン病、強皮症、グッドパスチャー症候群、腎炎、例えば、糸球体腎炎、乾癬、尋常性天疱瘡、類天疱瘡、交感性眼炎、特発性血小板減少性紫斑病、特発性白血球減少症、ウェゲナー肉芽腫および多発性/皮膚筋炎が挙げられる。
【0227】
本発明における使用が想定される、いくつかの更なる例示的な自己免疫疾患、関連する自己抗原、および自己抗体が、以下の表1に記載されている:
【0228】
【表1-1】
【0229】
【表1-2】
【0230】
【表1-3】
【0231】
炎症性疾患としては、以下に限定はされないが、アルツハイマー病、強直性脊椎炎、関節炎、喘息、アテローム性動脈硬化症、ベーチェット病、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、クローン病、大腸炎、嚢胞性線維症、皮膚炎、憩室炎、肝炎、過敏性腸症候群(IBS)、エリテマトーデス、筋ジストロフィー、腎炎、パーキンソン病、帯状疱疹および潰瘍性大腸炎が挙げられる。炎症性疾患としては、例えば、心血管疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支拡張症、慢性胆嚢炎、結核、橋本甲状腺炎、敗血症、サルコイドーシス、珪肺症および他の塵肺症、並びに創傷に埋め込まれた異物も挙げられるが、そのように限定されない。本明細書において使用される際、「敗血症」という用語は、微生物侵入に対する宿主の全身性炎症反応に関連するよく認識された臨床症候群を指す。本明細書において使用される際の「敗血症」という用語は、発熱または体温低下、頻拍、および頻呼吸によって通常示される病態を指し、重篤な例では、血圧低下、臓器機能不全、更には死に至ることさえある。
【0232】
ある実施形態において、炎症性疾患は、非自己免疫性炎症性腸疾患、術後癒着、冠動脈疾患、肝線維症、急性呼吸窮迫症候群、急性炎症性膵炎、内視鏡的逆行性胆道膵管造影によって誘発される膵炎、熱傷、冠動脈、大脳動脈および末梢動脈のアテローム発生、虫垂炎、胆嚢炎、憩室炎、内臓線維性障害(visceral fibrotic disorder)、創傷治癒、皮膚瘢痕障害(skin scarring disorder)(ケロイド、汗腺膿瘍)、肉芽腫性疾患(サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変)、喘息、壊疽性膿皮症、スイート症候群、ベーチェット病、原発性硬化性胆管炎または膿瘍である。ある好ましい実施形態において、炎症性疾患は、炎症性腸疾患(例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎)である。
【0233】
他の実施形態において、炎症性疾患は、自己免疫疾患である。自己免疫疾患は、ある実施形態において、関節リウマチ、リウマチ熱、潰瘍性大腸炎、クローン病、自己免疫性炎症性腸疾患、インスリン依存性糖尿病、糖尿病、若年性糖尿病、自然発症自己免疫性糖尿病、胃炎、自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性肝炎、甲状腺炎、橋本甲状腺炎、膵島炎、卵巣炎、精巣炎、ブドウ膜炎、水晶体起因性ブドウ膜炎、多発性硬化症、重症筋無力症、原発性粘液水腫、甲状腺機能亢進症、悪性貧血、自己免疫性溶血性貧血、アジソン病、強直性脊椎炎、サルコイドーシス、強皮症、グッドパスチャー症候群、ギラン・バレー症候群、グレーブス病、糸球体腎炎、乾癬、尋常性天疱瘡、類天疱瘡、血液脱出、水疱性類天疱瘡、交感性眼炎、特発性血小板減少性紫斑病、特発性白血球減少症、シェーグレン症候群、全身性硬化症、ウェゲナー肉芽腫、多発性/皮膚筋炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、ループスまたは全身性エリテマトーデスである。
【0234】
移植片対宿主病(GVHD)は、新たに移植された物質が移植レシピエントの身体を攻撃する、多能性細胞(例えば、幹細胞)または骨髄の移植の後に起こり得る合併症である。場合によっては、GVHDは、輸血後に起こる。移植片対宿主病は、急性型および慢性型に分類され得る。この疾病の急性型または劇症型(aGVHD)は、通常、移植後最初の100日以内に観察され、それに伴う疾病率および死亡率のために、移植の大きな課題である。移植片対宿主病の慢性型(cGVHD)は、通常、100日以降に起こる。cGVHDの中等度から重度の症例の発現は、長期生存に悪影響を与える。
【実施例
【0235】
実施例1:イブプロフェンが結合されたメソ多孔質シリカナノ粒子(理論実験例)
メソ多孔質SiO2ナノ粒子コアを、ゾル・ゲル法によって生成する。ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)(0.5g)を、脱イオン水(500mL)に溶解させ、次に、2MのNaOH水溶液(3.5mL)を、CTAB溶液に加える。溶液を30分間撹拌し、次に、テトラエトキシシラン(TEOS)(2.5mL)を溶液に加える。得られたゲルを、80℃の温度で3時間撹拌する。生じる白色の沈殿物を、ろ過によって捕捉した後、脱イオン水で洗浄し、室温で乾燥させる。次に、残っている界面活性剤を、HClのエタノール溶液中で一晩懸濁させることによって粒子から抽出する。粒子を、エタノールで洗浄し、遠心分離し、超音波処理により再分散させる。この洗浄手順を更に2回繰り返す。
【0236】
次に、SiO2ナノ粒子を、(3-アミノプロピル)-トリエトキシシラン(APTMS)を用いてアミノ基で官能化する。これを行うために、粒子をエタノール(30mL)に懸濁させ、APTMS(50μL)を懸濁液に加える。懸濁液を室温で2時間静置し、次に、4時間沸騰させて、エタノールを定期的に加えることによって体積を一定に保つ。残っている反応剤を、遠心分離による洗浄および純粋エタノール中への再分散の5回のサイクルによって除去する。
【0237】
分離反応において、直径1~4nmの金シードが生成される。この反応に使用される全ての水を、まず脱イオン化し、次に、ガラスから蒸留する。水(45.5mL)を、100mLの丸底フラスコに加える。撹拌しながら、0.2MのNaOH水溶液(1.5mL)を加えた後、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド(THPC)の1%の水溶液(1.0mL)を加える。THPC溶液の添加の2分後、少なくとも15分間熟成させたクロロ金酸の10mg/mLの水溶液(2mL)を加える。金シードを水に対する透析によって精製する。
【0238】
コア-シェルナノキャリアを形成するために、上で形成されたアミノ官能化SiO2ナノ粒子を、まず、室温で2時間、金シードと混合する。金で装飾されたSiO2粒子を、遠心分離によって収集し、クロロ金酸および炭酸水素カリウムの水溶液と混合して、金シェルを形成する。次に、粒子を、遠心分離によって洗浄し、水に再分散させる。ナトリウムイブプロフェン(1mg/L)の溶液中で粒子を72時間懸濁させることによって、イブプロフェンを充填する。次に、遊離イブプロフェンを、遠心分離によって粒子から洗浄し、水に再分散させる。
【0239】
実施例2:シクロスポリンAを含有するリポソーム(理論実験例)
リポソームを、薄膜水和(thin film hydration)を用いて形成する。1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)(32μmol)、コレステロール(32μmol)、およびシクロスポリンA(6.4μmol)を、純粋なクロロホルム(3mL)に溶解させる。この脂質溶液を、50mLの丸底フラスコに加え、溶媒を、60℃の温度でロータリーエバポレータにおいて蒸発させる。次に、フラスコを、窒素ガスでフラッシュして、残りの溶媒を除去する。リン酸緩衝生理食塩水(2mL)および5つのガラスビーズをフラスコに加え、60℃で1時間振とうすることによって脂質膜を水和して、懸濁液を形成する。懸濁液を小型の圧力管に移し、各パルス間に30秒の遅延を伴う30秒のパルスの4回のサイクルにわたって、60℃で、超音波で分解する。次に、懸濁液を室温で2時間そのままにしておき、完全に水和させる。リポソームを、遠心分離によって洗浄した後、新鮮なリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させる。
【0240】
実施例3:ポリマー-ラパマイシンコンジュゲートを含有するポリマーナノキャリア(理論実験例)
PLGA-ラパマイシンコンジュゲートの調製:
酸性末端基を有するPLGAポリマー(7525 DLG1A、酸価0.46mmol/g、Lakeshore Biomaterials;5g、2.3mmol、1.0当量)を、30mLのジクロロメタン(DCM)に溶解させる。N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(1.2当量、2.8mmol、0.57g)を加えた後、ラパマイシン(1.0当量、2.3mmol、2.1g)および4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(2.0当量、4.6mmol、0.56g)を加える。混合物を室温で2日間撹拌する。次に、混合物をろ過して、不溶性ジシクロヘキシル尿素を除去する。ろ液を、約10mLの体積に濃縮し、100mLのイソプロピルアルコール(IPA)に加えて、PLGA-ラパマイシンコンジュゲートを析出させる。IPA層を除去し、次に、ポリマーを、50mLのIPAおよび50mLのメチルt-ブチルエーテル(MTBE)で洗浄する。次に、ポリマーを、35Cで2日間、真空下で乾燥させて、白色の固体としてPLGA-ラパマイシン(約6.5g)を得る。
【0241】
PLGA-ラパマイシンコンジュゲートおよびオボアルブミンペプチド(323-339)を含有するナノキャリアの調製:
PLGA-ラパマイシンを含有するナノキャリアを、実施例1に記載される手順に従って、以下のとおりに調製する:
【0242】
ナノキャリア形成のための溶液を以下のとおりに調製する:
溶液1:希塩酸水溶液中20mg/mLのオボアルブミンペプチド323-339。オボアルブミンペプチドを0.13Mの塩酸溶液に室温で溶解させることによって溶液を調製する。溶液2:塩化メチレン中100mg/mLのPLGA-ラパマイシン。LGA-ラパマイシンを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製する。溶液3:塩化メチレン中100mg/mLのPLA-PEG。PLA-PEGを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製する。溶液4:100mMのpH8のリン酸緩衝液中50mg/mLのポリビニルアルコール。
【0243】
第1の油中水型エマルジョンをまず調製する。溶液1(0.2mL)、溶液2(0.75mL)、および溶液3(0.25mL)を、小型の圧力管中で組み合わせて、Branson Digital Sonifier 250を用いて、50%の振幅で40秒間、超音波で分解することによって、W1/O1を調製する。次に、溶液4(3.0mL)を、第1のW1/O1エマルジョンと組み合わせて、10秒間ボルテックスし、Branson Digital Sonifier 250を用いて、30%の振幅で60秒間、超音波で分解することによって、第2のエマルジョン(W1/O1/W2)を調製する。W1/O1/W2エマルジョンを、70mMのpH8のリン酸緩衝液(30mL)を含むビーカーに加え、室温で2時間撹拌して、塩化メチレンを蒸発させ、ナノキャリアを形成させる。ナノキャリア懸濁液を遠心分離管に移し、75,600×gおよび4℃で35分間遠心分離し、上清を除去し、ペレットをリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させることによって、ナノキャリアの一部を洗浄する。洗浄手順を繰り返し、約10mg/mLの最終的なナノキャリア分散体のために、ペレットを、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させる。
【0244】
実施例4:ラパマイシンを含有する金ナノキャリア(AuNC)の調製(理論実験例)
HS-PEG-ラパマイシンの調製:
乾燥DMF中のPEG酸ジスルフィド(1.0当量)、ラパマイシン(2.0~2.5当量)、DCC(2.5当量)およびDMAP(3.0当量)の溶液を、室温で一晩撹拌する。不溶性ジシクロヘキシル尿素を、ろ過によって除去し、ろ液をイソプロピルアルコール(IPA)に加えて、PEG-ジスルフィド-ジ-ラパマイシンエステルを析出させ、IPAで洗浄し、乾燥させる。次に、ポリマーを、DMF中のトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩で処理して、PEGジスルフィドを還元して、チオールPEGラパマイシンエステル(HS-PEG-ラパマイシン)にする。得られたポリマーを、IPAからの沈殿によって回収し、上述されるように乾燥させ、H NMRおよびGPCによって分析する。
【0245】
金NC(AuNC)の形成:
500mLの1mMのHAuCl4の水溶液を、凝縮器を備えた1Lの丸底フラスコ中で激しく撹拌しながら、10分間加熱還流させる。次に、50mLの40mMのクエン酸三ナトリウムの溶液を、撹拌溶液に素早く加える。得られた濃いワインレッドの溶液を、25~30分間還流状態に保ち、熱を取り除いて、溶液を室温に冷ます。次に、溶液を、0.8μmの薄膜フィルタを通してろ過して、AuNC溶液を得る。AuNCを、可視分光法および透過電子顕微鏡法を用いて特性評価する。AuNCは、直径が約20nmであり、クエン酸塩でキャッピングされ、520nmでピーク吸収を有する。
【0246】
HS-PEG-ラパマイシンとのAuNCコンジュゲート:
150μlのHS-PEG-ラパマイシン(10mMのpH9.0の炭酸緩衝液中10μΜ)の溶液を、1mLの20nmの直径のクエン酸塩でキャッピングされた金ナノキャリア(1.16nM)に加えて、2500:1のチオール対金のモル比を得る。混合物を、アルゴン下で、室温で1時間撹拌して、金ナノキャリア上でチオールとクエン酸塩との完全な交換を可能にする。次に、表面におけるPEG-ラパマイシンと複合したAuNCを、12,000gで30分間の遠心分離によって精製する。上清をデカントし、次に、AuNC-S-PEG-ラパマイシンを含有するペレットを、1×PBS緩衝液で洗浄する。次に、精製された金-PEG-ラパマイシンナノキャリアを、更なる分析およびバイオアッセイのために、好適な緩衝液に再懸濁させる。
【0247】
実施例5:オボアルブミンを含有するメソ多孔質シリカ-金コア-シェルナノキャリア(理論実験例)
メソ多孔質SiO2ナノ粒子コアを、ゾル・ゲル法によって生成する。ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)(0.5g)を、脱イオン水(500mL)に溶解させ、次に、2MのNaOH水溶液(3.5mL)を、CTAB溶液に加える。溶液を30分間撹拌し、次に、テトラエトキシシラン(TEOS)(2.5mL)を溶液に加える。得られたゲルを、80℃の温度で3時間撹拌する。生じる白色の沈殿物を、ろ過によって捕捉した後、脱イオン水で洗浄し、室温で乾燥させる。次に、残っている界面活性剤を、HClのエタノール溶液中で一晩懸濁させることによって粒子から抽出する。粒子を、エタノールで洗浄し、遠心分離し、超音波処理により再分散させる。この洗浄手順を更に2回繰り返す。
【0248】
次に、SiO2ナノ粒子を、(3-アミノプロピル)-トリエトキシシラン(APTMS)を用いてアミノ基で官能化する。これを行うために、粒子をエタノール(30mL)に懸濁させ、APTMS(50μL)を懸濁液に加える。懸濁液を室温で2時間静置し、次に、4時間沸騰させて、エタノールを定期的に加えることによって体積を一定に保つ。残っている反応剤を、遠心分離による洗浄および純粋エタノール中への再分散の5回のサイクルによって除去する。
【0249】
分離反応において、直径1~4nmの金シードが生成される。この反応に使用される全ての水を、まず脱イオン化し、次に、ガラスから蒸留する。水(45.5mL)を、100mLの丸底フラスコに加える。撹拌しながら、0.2MのNaOH水溶液(1.5mL)を加えた後、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド(THPC)の1%の水溶液(1.0mL)を加える。THPC溶液の添加の2分後、少なくとも15分間熟成させたクロロ金酸の10mg/mLの水溶液(2mL)を加える。金シードを水に対する透析によって精製する。
【0250】
コア-シェルナノキャリアを形成するために、上で形成されたアミノ官能化SiO2ナノ粒子を、まず、室温で2時間、金シードと混合する。金で装飾されたSiO2粒子を、遠心分離によって収集し、クロロ金酸および炭酸水素カリウムの水溶液と混合して、金シェルを形成する。次に、粒子を、遠心分離によって洗浄し、水に再分散させる。チオール化オボアルブミン(オボアルブミンを2-イミノチオラン塩酸塩で処理することによって作製される)を、粒子をチオール化オボアルブミン(1mg/L)の溶液に72時間懸濁させることによって充填する。次に、粒子を、1×PBS(pH7.4)でペレット洗浄して、遊離タンパク質を除去する。次に、オボアルブミンを含有する得られたシリカ-金コア-シェルナノキャリアを、更なる分析およびアッセイのために、1×PBSに再懸濁させる。
【0251】
実施例6:ラパマイシンおよびオボアルブミンを含有するリポソーム(理論実験例)
リポソームを、薄膜水和によって形成する。1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)(32μmol)、コレステロール(32μmol)、およびラパマイシン(6.4μmol)を、純粋なクロロホルム(3mL)に溶解させる。この脂質溶液を、10mLのガラス管に加え、溶媒を窒素ガス流下で除去し、真空下で6時間乾燥させる。過剰量のオボアルブミンを含有する2.0mlの25mMのMOPS緩衝液(pH8.5)による薄膜の水和によって、多重膜ベシクルを得る。脂質薄膜が管表面から剥がれるまで、管をボルテックスする。多重膜ベシクルを単層膜へと分解するために、10回のサイクルの凍結(液体窒素)および解凍(30℃の水浴)を行う。次に、試料を25mMのMOPS緩衝液(pH8.5)中で1mlまで希釈する。200nmの細孔のポリカーボネートフィルタに試料を10回通すことによって、得られたリポソームのサイズを、押出しによって均一にする。次に、得られたリポソームを、更なる分析およびバイオアッセイのために使用する。
【0252】
実施例7:表面共役オボアルブミンで修飾されたポリアミノ酸から構成されたポリマーナノキャリア(理論実験例)
工程1。L-フェニルアラニンエチルエステル(L-PAE)で修飾されたポリ(γ-グルタミン酸)(γ-PGA)の調製:4.7mmol単位のγ-PGA(Mn=300kD)を、0.3NのNaHCO3水溶液(50mL)に溶解させる。L-PAE(4.7mmol)およびEDC.HCl(4.7mmol)を溶液に加え、4Cで30分間撹拌する。次に、溶液を24時間撹拌しながら室温に維持する。低分子量の化学物質を、50kDのMWCOを有する透析膜を用いて透析によって除去する。得られたγ-PGA-グラフト-L-PAEは、凍結乾燥によって得られる。
【0253】
工程2。γ-PGA-グラフト-L-PAEポリマーからのナノ粒子の調製:γ-PGA-グラフト-L-PAEから構成されるナノ粒子を、沈殿および透析方法によって調製する。γ-PGA-グラフト-L-PAE(20mg)を、2mlのDMSOに溶解させた後、2mLの水を加えて、半透明の溶液を形成した。次に、溶液を、セルロース膜管(50,000MWCO)を用いて蒸留水に対して透析して、ナノ粒子を形成し、室温で72時間有機溶媒を除去する。蒸留水を、12時間の間隔で交換する。次に、得られたナノ粒子溶液(水中10mg/mL)を、抗原の共役に使用する。
【0254】
工程3。γ-PGAナノ粒子へのオボアルブミン共役:γ-PGAナノ粒子(10mg/ml)の表面カルボン酸基を、周囲温度で2時間、EDCおよびNHS(リン酸緩衝液中それぞれ10mg/mL、pH5.8)によってまず活性化する。過剰なEDC/NHSを除去するためのペレット洗浄の後、活性化されたナノ粒子を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)中の1mLのオボアルブミン(10mg/ml)と混合し、混合物を4~8Cで24時間インキュベートする。得られたオボアルブミン共役γ-PGAナノ粒子を、PBSで2回洗浄し、更なる分析およびバイオアッセイのために、PBS中5mg/mLで再懸濁させる。
【0255】
実施例8:エリスロポエチン(EPO)封入γ-PGAナノ粒子(理論実験例)
EPO封入γ-PGAナノ粒子を調製するために、0.25~4mgのEPOを、1mLのPBS(pH7.4)に溶解させ、1mLのγ-PGA-グラフト-L-PAE(DMSO中10mg/mL)をEPO溶液に加える。得られた溶液を、14,000×gで15分間遠心分離し、PBSで繰り返しすすぐ。次に、得られたEPO封入γ-PGAナノ粒子を、更なる分析およびバイオアッセイのためにPBS(5mg/mL)に再懸濁させる。
【0256】
実施例9:オボアルブミンを含有する金ナノキャリア(AuNC)の調製(理論実験例)
工程1。金NC(AuNC)の形成:500mLの1mMのHAuCl4の水溶液を、凝縮器を備えた1Lの丸底フラスコ中で激しく撹拌しながら、10分間加熱還流させる。次に、50mLの40mMのクエン酸三ナトリウムの溶液を、撹拌溶液に素早く加える。得られた濃いワインレッドの溶液を、25~30分間還流状態に保ち、熱を取り除いて、溶液を室温に冷ます。次に、溶液を、0.8μmの薄膜フィルタを通してろ過して、AuNC溶液を得る。AuNCを、可視分光法および透過電子顕微鏡法を用いて特性評価する。AuNCは、直径が約20nmであり、クエン酸塩でキャッピングされ、520nmでピーク吸収を有する。
【0257】
工程2。AuNCへのオボアルブミンの共役:150μlのチオール化オボアルブミン(10mMのpH9.0の炭酸緩衝液中10μΜ)の溶液を、1mLの20nmの直径のクエン塩でキャッピングされた金ナノキャリア(1.16nM)に加えて、2500:1のチオール対金のモル比を生成する。混合物を、アルゴン下で、室温で1時間撹拌して、金ナノキャリア上でチオールとクエン酸塩との完全な交換を可能にする。次に、表面におけるオボアルブミンとAuNCを、12,000gで30分間にわたる遠心分離によって精製する。上清をデカントし、次に、AuNC-オボアルブミンを含有するペレットを、1×PBS緩衝液でペレット洗浄する。次に、精製された金-オボアルブミンナノキャリアを、更なる分析およびバイオアッセイのために、好適な緩衝液に再懸濁させる。
【0258】
実施例10:オボアルブミンペプチド(323-339)を用いたおよび用いない結合ラパマイシンを含む合成ナノキャリアの免疫応答
材料
オボアルブミンタンパク質のTおよびB細胞エピトープであることが知られている17アミノ酸のペプチドである、オボアルブミンペプチド323-339を、Bachem Americas Inc.(3132 Kashiwa Street,Torrance CA 90505;パーツ番号4065609)から購入した。ラパマイシンを、TSZ CHEM(185 Wilson Street,Framingham,MA 01702;製品カタログ番号R1017)から購入した。3:1のラクチド:グリコリド比および0.75dL/gの固有粘度を有するPLGAを、SurModics Pharmaceuticals(756 Tom Martin Drive,Birmingham,AL 35211;製品コード7525 DLG 7A)から購入した。ポリビニルアルコール(85~89%加水分解されたもの)を、EMD Chemicals(製品番号1.41350.1001)から購入した。
【0259】
溶液1:希塩酸水溶液中20mg/mLのオボアルブミンペプチド323-339。オボアルブミンペプチドを0.13Mの塩酸溶液に室温で溶解させることによって溶液を調製した。溶液2:塩化メチレン中50mg/mLのラパマイシン。ラパマイシンを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液3:塩化メチレン中100mg/mLのPLGA。PLGAを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液4:100mMのpH8のリン酸緩衝液中50mg/mLのポリビニルアルコール。
【0260】
ラパマイシンおよびオボアルブミン(323-339)を含有する合成ナノキャリアを調製するための方法
第1の油中水型エマルジョンをまず調製した。溶液1(0.2mL)、溶液2(0.2mL)、および溶液3(1.0mL)を、小型の圧力管中で組み合わせて、Branson Digital Sonifier 250を用いて、50%の振幅で40秒間、超音波で分解することによって、W1/O1を調製した。次に、溶液4(3.0mL)を、第1のW1/O1エマルジョンと組み合わせて、10秒間ボルテックスし、Branson Digital Sonifier 250を用いて、30%の振幅で60秒間、超音波で分解することによって、第2のエマルジョン(W1/O1/W2)を調製した。
【0261】
W1/O1/W2エマルジョンを、70mMのpH8のリン酸緩衝液(30mL)を含むビーカーに加え、室温で2時間撹拌して、塩化メチレンを蒸発させ、合成ナノキャリアを形成させた。合成ナノキャリア懸濁液を遠心分離管に移し、21,000×gおよび4℃で1時間遠心分離し、上清を除去し、ペレットをリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させることによって、合成ナノキャリアの一部を洗浄した。洗浄手順を繰り返し、約10mg/mLの最終的な合成ナノキャリア分散体のために、ペレットを、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させた。
【0262】
合成ナノキャリア中のペプチドおよびラパマイシンの量を、HPLC分析によって測定した。懸濁液のmL当たりの、乾燥した合成ナノキャリアの総質量を、重量法によって測定した。
【0263】
ラパマイシンを含有する合成ナノキャリアを製造するための方法
第1の油中水型エマルジョンをまず調製した。0.13Mの塩酸溶液(0.2mL)、溶液2(0.2mL)、および溶液3(1.0mL)を、小型の圧力管中で組み合わせて、Branson Digital Sonifier 250を用いて、50%の振幅で40秒間、超音波で分解することによって、W1/O1を調製した。次に、溶液4(3.0mL)を、第1のW1/O1エマルジョンと組み合わせて、10秒間ボルテックスし、Branson Digital Sonifier 250を用いて、30%の振幅で60秒間、超音波で分解することによって、第2のエマルジョン(W1/O1/W2)を調製した。
【0264】
W1/O1/W2エマルジョンを、70mMのpH8のリン酸緩衝液(30mL)を含むビーカーに加え、室温で2時間撹拌して、塩化メチレンを蒸発させ、合成ナノキャリアを形成させた。合成ナノキャリア懸濁液を遠心分離管に移し、21,000×gおよび4℃で1時間遠心分離し、上清を除去し、ペレットをリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させることによって、合成ナノキャリアの一部を洗浄した。洗浄手順を繰り返し、約10mg/mLの最終的な合成ナノキャリア分散体のために、ペレットを、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させた。
【0265】
合成ナノキャリア中のラパマイシンの量を、HPLC分析によって測定した。懸濁液のmL当たりの、乾燥した合成ナノキャリアの総質量を、重量法によって測定した。
【0266】
ラパマイシン負荷を測定するための方法
約3mgの合成ナノキャリアを収集し、遠心分離して、上清を合成ナノキャリアペレットから分離した。アセトニトリルをペレットに加え、試料を超音波で分解し、遠心分離して、あらゆる不溶性材料を除去した。上清およびペレットをRP-HPLCに注入し、吸光度を278nmで読み取った。ペレットに見られたμgを用いて、取り込み%(負荷)を計算し、上清およびペレットのμgを用いて、回収された合計μgを計算した。
【0267】
オボアルブミン(323-339)負荷を測定するための方法
約3mgの合成ナノキャリアを収集し、遠心分離して、上清を合成ナノキャリアペレットから分離した。トリフルオロエタノールをペレットに加え、試料を超音波で分解して、ポリマーを溶解させ、0.2%のトリフルオロ酢酸を加え、試料を超音波で分解し、次に、遠心分離して、あらゆる不溶性材料を除去した。上清およびペレットをRP-HPLCに注入し、吸光度を215nmで読み取った。ペレットに見られたμgを用いて、取り込み%(負荷)を計算し、上清およびペレットのμgを用いて、回収された合計μgを計算した。
【0268】
Treg細胞発生に対する抗原特異的な寛容原性樹枝状細胞(tDC)活性
このアッセイには、免疫優性(immune-dominant)オボアルブミンペプチド(323-339)に特異的なトランスジェニックT細胞受容体を有するOTIIマウスの使用が含まれていた。抗原特異的なtDCを生成するために、CD11c脾細胞を単離し、オボアルブミンペプチド(323-339)をインビトロで1μg/mLでまたは抗原なしで加えた。次に、可溶性またはナノキャリア封入ラパマイシンを、2時間にわたってDCに加え、次に、それを十分に洗浄して、遊離ラパマイシンを培養物から除去した。精製されたレスポンダーCD4CD25細胞を、OTIIマウスから単離し、10:1のT対DC比でtDCに加えた。次に、tDCとOTII T細胞との混合物を4~5日間培養し、Treg細胞(CD4CD25highFoxP3)の頻度を、図1に示されるようにフローサイトメトリーによって分析した。アイソタイプコントロールに基づいて領域を選択した。
【0269】
ナノキャリアの寸法を測定する方法
合成ナノキャリアの寸法の測定を、動的光散乱(DLS)によって行った。合成ナノキャリアの懸濁液を、精製水で希釈して、約0.01~0.1mg/mLの最終的な合成ナノキャリア懸濁液濃度を得た。希釈された懸濁液を、DLS分析のために、好適なキュベットの中で直接調製した。次に、キュベットを、Brookhaven Instruments Corp.のZetaPALS中に入れ、25℃へと平衡化してから、十分な時間にわたって走査して、媒体の粘度および試料の屈折率についての適切な入力に基づいて安定した再現可能な分布を得た。次に、有効直径、または分布の平均を報告した。
【0270】
結果
概念実証実験では、寛容誘導薬剤ラパマイシンを、クラスII結合オボアルブミンペプチド323-339と組み合わせて使用した。ラパマイシンは、同種異系間移植の拒絶反応を抑制するのに使用される免疫抑制剤であり、mTORの阻害剤であり、これは、APCおよびT細胞の挙動を含むいくつかの細胞機能の調節剤である。合成ナノキャリアを、上記に従って調製した。その代表例が、以下の表(表2~4)により詳細に記載されている。
【0271】
【表2】
【0272】
【表3】
【0273】
【表4】
【0274】
代表的なフローサイトメトリー分析からの結果は、DCを遊離ラパマイシンおよび遊離オボアルブミン(323-339)で処理した場合のCD4CD25highFoxP3細胞の数の増加(図1)を示す。
【0275】
遊離ラパマイシンまたはラパマイシンを含有する合成ナノキャリアを、遊離可溶性オボアルブミン(323-339)と組み合わせて、tDCの誘導(図2)を評価した。遊離オボアルブミン(323-339)と組み合わされたラパマイシンを含有するナノキャリアがTreg発生を誘導することが分かった。簡潔に述べると、樹枝状細胞(CD11c脾細胞)を単離し、それらを、オボアルブミン(323-339)ペプチドおよび可溶性またはナノキャリア封入ラパマイシン(合成ナノキャリア番号13、14、15および16)と組み合わせて2時間培養した後、十分に洗浄することによって、抗原特異的なtDCが得られた。精製されたレスポンダーCD4CD25細胞を、OTIIマウスから単離し、tDCに加えた。次に、tDCとOTII T細胞との混合物を4~5日間培養し、Treg細胞(CD4CD25highFoxP3)の頻度を、フローサイトメトリーによって分析した。データは、遊離ラパマイシンおよびナノキャリア封入ラパマイシンの両方についてのCD4CD25highFoxP3の用量依存的増加を示し、これは、ラパマイシンナノキャリアで処理されたDCによるTregの誘導を示唆している。
【0276】
様々なナノキャリア組成物を用いて、tDCの誘導(図3)を評価し、Tregの誘導を実証した。共封入されたラパマイシンおよびオボアルブミン(323-339)ペプチドを有するナノキャリアが、非刺激(1.3%)またはラパマイシン単独(2.7%)の何れかよりFoxP3発現細胞の高い誘導(6.5%)をもたらしたことが分かった。興味深いことに、ラパマイシン単独を含有する2つの別個のナノキャリア組成物(合成ナノキャリア番号7および8)が、遊離オボアルブミン(323-339)ペプチドとの混合物(それぞれ12.7%および17.7%)と比較して、オボアルブミン(323-339)を含有する合成ナノキャリアの集団と組み合わされた際に、FoxP3発現細胞のより優れた誘導(それぞれ22.4%および27.2%)を示した。全体に、データは、ナノキャリア封入ラパマイシンを用いた際にCD4CD25highFoxP3の増加を示し、より優れた応答が、共封入されたオボアルブミン(323-339)ペプチドまたは混合されたオボアルブミン(323-339)ペプチドの何れかを含有するナノキャリアで見られた。
【0277】
実施例11:T細胞表現型分析による寛容原性免疫応答の評価(理論実験例)
本発明の組成物を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解させ、500μgの組成物を含有する0.1~0.2mlで雌のLewisラットに筋肉注射する。ラットの対照群には、0.1~0.2mlのPBSを投与する。注射の9~10日後、脾臓およびリンパ節を、ラットから採取し、組織を40μmのナイロンのセルストレーナー(cell strainer)に通して浸軟させることによって単細胞懸濁液を得る。関連するモノクローナル抗体の適切な希釈でPBS(1%のFCS)中で試料を染色する。プロピジウムヨージド染色細胞は、分析から除外する。試料をLSR2フローサイトメータ(BD Biosciences,USA)で取得し、FACS Divaソフトウェアを用いて分析する。マーカーCD4、CD25highおよびFoxP3の発現を細胞において分析する。CD4CD25highFoxP3細胞の存在は、Treg細胞の誘導を示唆する。
【0278】
実施例12:生体内のAPC提示可能抗原に対する寛容原性免疫応答の評価(理論実験例)
Balb/cマウスに、不完全フロイントアジュバント中のAPC提示可能抗原で免疫を与えて、T細胞増殖(例えば、CD4T細胞)を誘導し、そのレベルを評価する。その後、APC提示可能抗原および免疫抑制剤を含む本発明の組成物を、用量依存的に皮下投与する。次に、同じマウスをAPC提示可能抗原に再度曝露し、T細胞増殖のレベルを再度評価する。次に、T細胞集団の変化を、寛容原性免疫応答を誘導するAPC提示可能抗原を引き続き負荷した際のT細胞増殖の減少によって監視する。
【0279】
実施例13:ポリマー組成物をベースとする合成ナノキャリアからのラパマイシンの放出
合成ナノキャリアロット1の材料
オボアルブミンタンパク質のTおよびB細胞エピトープであることが知られている17アミノ酸のペプチドであるオボアルブミンペプチド323-339を、Bachem Americas Inc.(3132 Kashiwa Street,Torrance CA 90505;パーツ番号4065609)から購入した。ラパマイシンを、TSZ CHEM(185 Wilson Street,Framingham,MA 01702;製品カタログ番号R1017)から購入した。0.71dL/gの固有粘度を有するPLAを、SurModics Pharmaceuticals(756 Tom Martin Drive,Birmingham,AL 35211;製品コード100 DL 7A)から購入した。ポリビニルアルコール(85~89%加水分解されたもの)を、EMD Chemicals(製品番号1.41350.1001)から購入した。
【0280】
合成ナノキャリアロット1を製造するための方法
溶液を以下のとおりに調製した:
溶液1:希塩酸水溶液中50mg/mLのオボアルブミンペプチド323-339。オボアルブミンペプチドを0.13Mの塩酸溶液に室温で溶解させることによって溶液を調製した。溶液2:塩化メチレン中50mg/mLのラパマイシン。ラパマイシンを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液3:塩化メチレン中100mg/mLのPLA。PLAを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって、溶液を調製した。溶液4:100mMのpH8のリン酸緩衝液中50mg/mLのポリビニルアルコール。
【0281】
第1の油中水型エマルジョンをまず調製した。溶液1(0.25mL)、溶液2(0.2mL)、および溶液3(1.0mL)を、小型の圧力管中で組み合わせて、Branson Digital Sonifier 250を用いて、50%の振幅で40秒間、超音波で分解することによって、W1/O1を調製した。次に、溶液4(3.0mL)を、第1のW1/O1エマルジョンと組み合わせて、10秒間ボルテックスし、Branson Digital Sonifier 250を用いて、30%の振幅で60秒間、超音波で分解することによって、第2のエマルジョン(W1/O1/W2)を調製した。W1/O1/W2エマルジョンを、70mMのpH8のリン酸緩衝液(30mL)を含むビーカーに加え、室温で2時間撹拌して、塩化メチレンを蒸発させ、ナノキャリアを形成させた。ナノキャリア懸濁液を遠心分離管に移し、21,000×gおよび4℃で45分間遠心分離し、上清を除去し、ペレットをリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させることによって、ナノキャリアの一部を洗浄した。洗浄手順を繰り返し、約10mg/mLの最終的なナノキャリア分散体のために、ペレットを、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させた。
【0282】
ナノキャリアのサイズを、動的光散乱によって測定した。ナノキャリア中のペプチドおよびラパマイシンの量を、HPLC分析によって測定した。懸濁液のmL当たりの、乾燥したナノキャリアの総質量を、重量法によって測定した。
【0283】
【表5】
【0284】
合成ナノキャリアロット2用の材料
オボアルブミンタンパク質のTおよびB細胞エピトープであることが知られている17アミノ酸のペプチドであるオボアルブミンペプチド323-339を、Bachem Americas Inc.(3132 Kashiwa Street,Torrance CA 90505;パーツ番号4065609)から購入した。ラパマイシンを、TSZ CHEM(185 Wilson Street,Framingham,MA 01702;製品カタログ番号R1017)から購入した。0.21dL/gの固有粘度を有するPLAを、SurModics Pharmaceuticals(756 Tom Martin Drive,Birmingham,AL 35211;製品コード100 DL 2A)から購入した。ポリビニルアルコール(85~89%加水分解されたもの)を、EMD Chemicals(製品番号1.41350.1001)から購入した。
【0285】
合成ナノキャリアロット2を製造するための方法
溶液を以下のとおりに調製した:
溶液1:希塩酸水溶液中50mg/mLのオボアルブミンペプチド323-339。オボアルブミンペプチドを0.13Mの塩酸溶液に室温で溶解させることによって溶液を調製した。溶液2:塩化メチレン中50mg/mLのラパマイシン。ラパマイシンを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液3:塩化メチレン中100mg/mLのPLA。PLAを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって、溶液を調製した。溶液4:100mMのpH8のリン酸緩衝液中50mg/mLのポリビニルアルコール。
【0286】
第1の油中水型エマルジョンをまず調製した。溶液1(0.25mL)、溶液2(0.2mL)、および溶液3(1.0mL)を、小型の圧力管中で組み合わせて、Branson Digital Sonifier 250を用いて、50%の振幅で40秒間、超音波で分解することによって、W1/O1を調製した。次に、溶液4(3.0mL)を、第1のW1/O1エマルジョンと組み合わせて、10秒間ボルテックスし、Branson Digital Sonifier 250を用いて、30%の振幅で60秒間、超音波で分解することによって、第2のエマルジョン(W1/O1/W2)を調製した。W1/O1/W2エマルジョンを、70mMのpH8のリン酸緩衝液(30mL)を含むビーカーに加え、室温で2時間撹拌して、塩化メチレンを蒸発させ、ナノキャリアを形成させた。ナノキャリア懸濁液を遠心分離管に移し、21,000×gおよび4℃で45分間遠心分離し、上清を除去し、ペレットをリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させることによって、ナノキャリアの一部を洗浄した。洗浄手順を繰り返し、約10mg/mLの最終的なナノキャリア分散体のために、ペレットを、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させた。
【0287】
ナノキャリアのサイズを、動的光散乱によって測定した。ナノキャリア中のペプチドおよびラパマイシンの量を、HPLC分析によって測定した。懸濁液のmL当たりの、乾燥したナノキャリアの総質量を、重量法によって測定した。
【0288】
【表6】
【0289】
合成ナノキャリアロット3用の材料
オボアルブミンタンパク質のTおよびB細胞エピトープであることが知られている17アミノ酸のペプチドであるオボアルブミンペプチド323-339を、Bachem Americas Inc.(3132 Kashiwa Street,Torrance CA 90505;パーツ番号4065609)から購入した。ラパマイシンを、TSZ CHEM(185 Wilson Street,Framingham,MA 01702;製品カタログ番号R1017)から購入した。3:1のラクチド:グリコリド比および0.75dL/gの固有粘度を有するPLGAを、SurModics Pharmaceuticals(756 Tom Martin Drive,Birmingham,AL 35211;製品コード7525 DLG 7A)から購入した。ポリビニルアルコール(85~89%加水分解されたもの)を、EMD Chemicals(製品番号1.41350.1001)から購入した。
【0290】
合成ナノキャリアロット3を製造するための方法
溶液を以下のとおりに調製した:
溶液1:希塩酸水溶液中50mg/mLのオボアルブミンペプチド323-339。オボアルブミンペプチドを0.13Mの塩酸溶液に室温で溶解させることによって溶液を調製した。溶液2:塩化メチレン中50mg/mLのラパマイシン。ラパマイシンを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液3:塩化メチレン中100mg/mLのPLGA。PLGAを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液4:100mMのpH8のリン酸緩衝液中50mg/mLのポリビニルアルコール。
【0291】
第1の油中水型エマルジョンをまず調製した。溶液1(0.25mL)、溶液2(0.2mL)、および溶液3(1.0mL)を、小型の圧力管中で組み合わせて、Branson Digital Sonifier 250を用いて、50%の振幅で40秒間、超音波で分解することによって、W1/O1を調製した。次に、溶液4(3.0mL)を、第1のW1/O1エマルジョンと組み合わせて、10秒間ボルテックスし、Branson Digital Sonifier 250を用いて、30%の振幅で60秒間、超音波で分解することによって、第2のエマルジョン(W1/O1/W2)を調製した。W1/O1/W2エマルジョンを、70mMのpH8のリン酸緩衝液(30mL)を含むビーカーに加え、室温で2時間撹拌して、塩化メチレンを蒸発させ、ナノキャリアを形成させた。ナノキャリア懸濁液を遠心分離管に移し、21,000×gおよび4℃で45分間遠心分離し、上清を除去し、ペレットをリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させることによって、ナノキャリアの一部を洗浄した。洗浄手順を繰り返し、約10mg/mLの最終的なナノキャリア分散体のために、ペレットを、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させた。
【0292】
ナノキャリアのサイズを、動的光散乱によって測定した。ナノキャリア中のペプチドおよびラパマイシンの量を、HPLC分析によって測定した。懸濁液のmL当たりの、乾燥したナノキャリアの総質量を、重量法によって測定した。
【0293】
【表7】
【0294】
合成ナノキャリアロット4用の材料
オボアルブミンタンパク質のTおよびB細胞エピトープであることが知られている17アミノ酸のペプチドであるオボアルブミンペプチド323-339を、Bachem Americas Inc.(3132 Kashiwa Street,Torrance CA 90505;パーツ番号4065609)から購入した。ラパマイシンを、TSZ CHEM(185 Wilson Street,Framingham,MA 01702;製品カタログ番号R1017)から購入した。3:1のラクチド:グリコリド比および0.22dL/gの固有粘度を有するPLGAを、SurModics Pharmaceuticals(756 Tom Martin Drive,Birmingham,AL 35211;製品コード7525 DLG 2.5A)から購入した。ポリビニルアルコール(85~89%加水分解されたもの)を、EMD Chemicals(製品番号1.41350.1001)から購入した。
【0295】
合成ナノキャリアロット4を製造するための方法
溶液を以下のとおりに調製した:
溶液1:希塩酸水溶液中50mg/mLのオボアルブミンペプチド323-339。オボアルブミンペプチドを0.13Mの塩酸溶液に室温で溶解させることによって溶液を調製した。溶液2:塩化メチレン中50mg/mLのラパマイシン。ラパマイシンを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液3:塩化メチレン中100mg/mLのPLGA。PLGAを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液4:100mMのpH8のリン酸緩衝液中50mg/mLのポリビニルアルコール。
【0296】
第1の油中水型エマルジョンをまず調製した。溶液1(0.25mL)、溶液2(0.2mL)、および溶液3(1.0mL)を、小型の圧力管中で組み合わせて、Branson Digital Sonifier 250を用いて、50%の振幅で40秒間、超音波で分解することによって、W1/O1を調製した。次に、溶液4(3.0mL)を、第1のW1/O1エマルジョンと組み合わせて、10秒間ボルテックスし、Branson Digital Sonifier 250を用いて、30%の振幅で60秒間、超音波で分解することによって、第2のエマルジョン(W1/O1/W2)を調製した。W1/O1/W2エマルジョンを、70mMのpH8のリン酸緩衝液(30mL)を含むビーカーに加え、室温で2時間撹拌して、塩化メチレンを蒸発させ、ナノキャリアを形成させた。ナノキャリア懸濁液を遠心分離管に移し、21,000×gおよび4℃で45分間遠心分離し、上清を除去し、ペレットをリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させることによって、ナノキャリアの一部を洗浄した。洗浄手順を繰り返し、約10mg/mLの最終的なナノキャリア分散体のために、ペレットを、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させた。
【0297】
ナノキャリアのサイズを、動的光散乱によって測定した。ナノキャリア中のペプチドおよびラパマイシンの量を、HPLC分析によって測定した。懸濁液のmL当たりの、乾燥したナノキャリアの総質量を、重量法によって測定した。
【0298】
【表8】
【0299】
合成ナノキャリアロット5用の材料
オボアルブミンタンパク質のTおよびB細胞エピトープであることが知られている17アミノ酸のペプチドであるオボアルブミンペプチド323-339を、Bachem Americas Inc.(3132 Kashiwa Street,Torrance CA 90505;パーツ番号4065609)から購入した。ラパマイシンを、TSZ CHEM(185 Wilson Street,Framingham,MA 01702;製品カタログ番号R1017)から購入した。1:1のラクチド:グリコリド比および0.69dL/gの固有粘度を有するPLGAを、SurModics Pharmaceuticals(756 Tom Martin Drive,Birmingham,AL 35211;製品コード5050 DLG 7A)から購入した。ポリビニルアルコール(85~89%加水分解されたもの)を、EMD Chemicals(製品番号1.41350.1001)から購入した。
【0300】
合成ナノキャリアロット5を製造するための方法
溶液を以下のとおりに調製した:
溶液1:希塩酸水溶液中50mg/mLのオボアルブミンペプチド323-339。オボアルブミンペプチドを0.13Mの塩酸溶液に室温で溶解させることによって溶液を調製した。溶液2:塩化メチレン中50mg/mLのラパマイシン。ラパマイシンを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液3:塩化メチレン中100mg/mLのPLGA。PLGAを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液4:100mMのpH8のリン酸緩衝液中50mg/mLのポリビニルアルコール。
【0301】
第1の油中水型エマルジョンをまず調製した。溶液1(0.25mL)、溶液2(0.2mL)、および溶液3(1.0mL)を、小型の圧力管中で組み合わせて、Branson Digital Sonifier 250を用いて、50%の振幅で40秒間、超音波で分解することによって、W1/O1を調製した。次に、溶液4(3.0mL)を、第1のW1/O1エマルジョンと組み合わせて、10秒間ボルテックスし、Branson Digital Sonifier 250を用いて、30%の振幅で60秒間、超音波で分解することによって、第2のエマルジョン(W1/O1/W2)を調製した。W1/O1/W2エマルジョンを、70mMのpH8のリン酸緩衝液(30mL)を含むビーカーに加え、室温で2時間撹拌して、塩化メチレンを蒸発させ、ナノキャリアを形成させた。ナノキャリア懸濁液を遠心分離管に移し、21,000×gおよび4℃で45分間遠心分離し、上清を除去し、ペレットをリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させることによって、ナノキャリアの一部を洗浄した。洗浄手順を繰り返し、約10mg/mLの最終的なナノキャリア分散体のために、ペレットを、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させた。
【0302】
ナノキャリアのサイズを、動的光散乱によって測定した。ナノキャリア中のペプチドおよびラパマイシンの量を、HPLC分析によって測定した。懸濁液のmL当たりの、乾燥したナノキャリアの総質量を、重量法によって測定した。
【0303】
【表9】
【0304】
合成ナノキャリアロット6用の材料
オボアルブミンタンパク質のTおよびB細胞エピトープであることが知られている17アミノ酸のペプチドであるオボアルブミンペプチド323-339を、Bachem Americas Inc.(3132 Kashiwa Street,Torrance CA 90505;パーツ番号4065609)から購入した。ラパマイシンを、TSZ CHEM(185 Wilson Street,Framingham,MA 01702;製品カタログ番号R1017)から購入した。1:1のラクチド:グリコリド比および0.25dL/gの固有粘度を有するPLGAを、SurModics Pharmaceuticals(756 Tom Martin Drive,Birmingham,AL 35211;製品コード5050 DLG 2.5A)から購入した。ポリビニルアルコール(85~89%加水分解されたもの)を、EMD Chemicals(製品番号1.41350.1001)から購入した。
【0305】
合成ナノキャリアロット6を製造するための方法
溶液を以下のとおりに調製した:
溶液1:希塩酸水溶液中50mg/mLのオボアルブミンペプチド323-339。オボアルブミンペプチドを0.13Mの塩酸溶液に室温で溶解させることによって溶液を調製した。溶液2:塩化メチレン中50mg/mLのラパマイシン。ラパマイシンを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液3:塩化メチレン中100mg/mLのPLGA。PLGAを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液4:100mMのpH8のリン酸緩衝液中50mg/mLのポリビニルアルコール。
【0306】
第1の油中水型エマルジョンをまず調製した。溶液1(0.25mL)、溶液2(0.2mL)、および溶液3(1.0mL)を、小型の圧力管中で組み合わせて、Branson Digital Sonifier 250を用いて、50%の振幅で40秒間、超音波で分解することによって、W1/O1を調製した。次に、溶液4(3.0mL)を、第1のW1/O1エマルジョンと組み合わせて、10秒間ボルテックスし、Branson Digital Sonifier 250を用いて、30%の振幅で60秒間、超音波で分解することによって、第2のエマルジョン(W1/O1/W2)を調製した。W1/O1/W2エマルジョンを、70mMのpH8のリン酸緩衝液(30mL)を含むビーカーに加え、室温で2時間撹拌して、塩化メチレンを蒸発させ、ナノキャリアを形成させた。ナノキャリア懸濁液を遠心分離管に移し、21,000×gおよび4℃で45分間遠心分離し、上清を除去し、ペレットをリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させることによって、ナノキャリアの一部を洗浄した。洗浄手順を繰り返し、約10mg/mLの最終的なナノキャリア分散体のために、ペレットを、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させた。
【0307】
ナノキャリアのサイズを、動的光散乱によって測定した。ナノキャリア中のペプチドおよびラパマイシンの量を、HPLC分析によって測定した。懸濁液のmL当たりの、乾燥したナノキャリアの総質量を、重量法によって測定した。
【0308】
【表10】
【0309】
免疫抑制剤ラパマイシン(Rapa)およびAPC提示可能抗原トリオボアルブミンペプチド323-339(Ova)を含有するナノキャリア組成物を、水中油中水型ダブルエマルジョン方法を用いて合成した。キャリアPLGAポリマー分子量およびラクチド:グリコリド比を、様々な組成で変更して、様々な速度でのラパマイシンの制御放出を可能にした。上記の方法を用いて負荷を得た。ラクチド含量は、該当する購入されたポリマーの製造業者によって示されていた。
【0310】
【表11】
【0311】
ナノキャリア(約300μg)を、小型の撹拌子を含む15mLの遠心分離管の中で5mLの放出緩衝液(100mMのpH4.5のクエン酸ナトリウム緩衝液中0.5% wt/vのドデシル硫酸ナトリウム)へと希釈した。次に、試料を37℃の水浴に浸漬し、撹拌した。分析のためのアリコート(1.1mL)を、37℃におけるインキュベーションの5分後、1時間後、6時間後、または24時間後に抜き取った。アリコートを、22,000×gおよび20℃で30分間遠心分離して、ナノキャリアをペレットへと形成した。上清(1mL)を各アリコートから除去し、ラパマイシン含量についてアッセイした。ナノキャリアペレットをアセトニトリル(1mL)に再懸濁させ、超音波浴に10分間浸漬して、ラパマイシンを抽出した。ペレット試料を再度遠心分離し、上清をラパマイシン含量についてアッセイした。試料(0.3mL)を96ウェルプレートのウェルに加え、マイクロプレートリーダーを用いて278nmにおける各試料の吸光度を読み取り、次に、吸光度値を標準曲線と比較して、ラパマイシン含量を測定することによって、ラパマイシン含量を測定した。
【0312】
結果
ラパマイシン放出を、pH4.5およびpH6.5において試験した。図4~7は、免疫抑制剤ラパマイシンの放出が、免疫抑制剤が結合される合成ナノキャリアのポリマーの平均分子量、モノマー組成などにどのように影響されるかを示す。ラパマイシン放出は、主に、使用されるポリマーの分子量に影響され、高い分子量のポリマーほど、放出が少なかった。小さい(20~25kDa)分子量を有するポリマーを用いた3つの製剤は全て、何れかのpHにおいて24時間後に73~92%の封入ラパマイシンを放出した一方、約100kDaのポリマーを用いた3つの製剤は、同じ期間にわたってわずか27~39%の封入ラパマイシンを放出した。ラパマイシンのバースト放出は、主に、ポリマーラクチド:グリコリド比によって制御され、増加したグリコリド含量はバーストを減少させた。
【0313】
実施例14:免疫応答に対する抗原および免疫抑制剤を含むナノキャリアの効果の評価
材料および方法
ナノキャリア1
オボアルブミンタンパク質のTおよびB細胞エピトープであることが知られている17アミノ酸のペプチドであるオボアルブミンペプチド323-339を、Bachem Americas Inc.(3132 Kashiwa Street,Torrance CA 90505;パーツ番号4065609)から購入した。3:1のラクチド:グリコリド比および0.75dL/gの固有粘度を有するPLGAを、SurModics Pharmaceuticals(756 Tom Martin Drive,Birmingham,AL 35211;製品コード7525 DLG 7A)から購入した。約5,000DaのPEGブロックと約20,000DaのPLAブロックとのPLA-PEGブロックコポリマーを合成した。ポリビニルアルコール(85~89%加水分解されたもの)を、EMD Chemicals(製品番号1.41350.1001)から購入した。
【0314】
溶液を以下のとおりに調製した:
溶液1:希塩酸水溶液中20mg/mLのオボアルブミンペプチド323-339。オボアルブミンペプチドを0.13Mの塩酸溶液に室温で溶解させることによって溶液を調製した。溶液2:塩化メチレン中100mg/mLのPLGA。PLGAを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液3:塩化メチレン中100mg/mLのPLA-PEG。PLA-PEGを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液4:100mMのpH8のリン酸緩衝液中50mg/mLのポリビニルアルコール。
【0315】
第1の油中水型エマルジョンをまず調製した。溶液1(0.2mL)、溶液2(0.75mL)、および溶液3(0.25mL)を、小型の圧力管中で組み合わせて、Branson Digital Sonifier 250を用いて、50%の振幅で40秒間、超音波で分解することによって、W1/O1を調製した。次に、溶液4(3.0mL)を、第1のW1/O1エマルジョンと組み合わせて、10秒間ボルテックスし、Branson Digital Sonifier 250を用いて、30%の振幅で60秒間、超音波で分解することによって、第2のエマルジョン(W1/O1/W2)を調製した。W1/O1/W2エマルジョンを、70mMのpH8のリン酸緩衝液(30mL)を含むビーカーに加え、室温で2時間撹拌して、塩化メチレンを蒸発させ、ナノキャリアを形成させた。ナノキャリア懸濁液を遠心分離管に移し、75,600×gおよび4℃で35分間遠心分離し、上清を除去し、ペレットをリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させることによって、ナノキャリアの一部を洗浄した。洗浄手順を繰り返し、約10mg/mLの最終的なナノキャリア分散体のために、ペレットを、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させた。
【0316】
ナノキャリアのサイズを、動的光散乱によって測定した。ナノキャリア中のペプチドの量を、HPLC分析によって測定した。懸濁液のmL当たりの、乾燥したナノキャリアの総質量を、重量法によって測定した。
【0317】
【表12】
【0318】
ナノキャリア2
オボアルブミンタンパク質のTおよびB細胞エピトープであることが知られている17アミノ酸のペプチドであるオボアルブミンペプチド323-339を、Bachem Americas Inc.(3132 Kashiwa Street,Torrance CA 90505;パーツ番号4065609)から購入した。ラパマイシンを、TSZ CHEM(185 Wilson Street,Framingham,MA 01702;製品カタログ番号R1017)から購入した。3:1のラクチド:グリコリド比および0.75dL/gの固有粘度を有するPLGAを、SurModics Pharmaceuticals(756 Tom Martin Drive,Birmingham,AL 35211;製品コード7525 DLG 7A)から購入した。約5,000DaのPEGブロックと約20,000DaのPLAブロックとのPLA-PEGブロックコポリマーを合成した。ポリビニルアルコール(85~89%加水分解されたもの)を、EMD Chemicals(製品番号1.41350.1001)から購入した。
【0319】
溶液を以下のとおりに調製した:
溶液1:希塩酸水溶液中20mg/mLのオボアルブミンペプチド323-339。オボアルブミンペプチドを0.13Mの塩酸溶液に室温で溶解させることによって溶液を調製した。溶液2:塩化メチレン中50mg/mLのラパマイシン。ラパマイシンを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液3:塩化メチレン中100mg/mLのPLGA。PLGAを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液4:塩化メチレン中100mg/mLのPLA-PEG。PLA-PEGを純粋な塩化メチレンに溶解させることによって溶液を調製した。溶液5:100mMのpH8のリン酸緩衝液中50mg/mLのポリビニルアルコール。
【0320】
第1の油中水型エマルジョンをまず調製した。溶液1(0.2mL)、溶液2(0.2mL)、溶液3(0.75mL)、および溶液4(0.25mL)を、小型の圧力管中で組み合わせて、Branson Digital Sonifier 250を用いて、50%の振幅で40秒間、超音波で分解することによって、W1/O1を調製した。次に、溶液5(3.0mL)を、第1のW1/O1エマルジョンと組み合わせて、10秒間ボルテックスし、Branson Digital Sonifier 250を用いて、30%の振幅で60秒間、超音波で分解することによって、第2のエマルジョン(W1/O1/W2)を調製した。W1/O1/W2エマルジョンを、70mMのpH8のリン酸緩衝液(30mL)を含むビーカーに加え、室温で2時間撹拌して、塩化メチレンを蒸発させ、ナノキャリアを形成させた。ナノキャリア懸濁液を遠心分離管に移し、21,000×gおよび4℃で45分間遠心分離し、上清を除去し、ペレットをリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させることによって、ナノキャリアの一部を洗浄した。洗浄手順を繰り返し、約10mg/mLの最終的なナノキャリア分散体のために、ペレットを、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させた。
【0321】
ナノキャリアのサイズを、動的光散乱によって測定した。ナノキャリア中のペプチドおよびラパマイシンの量を、HPLC分析によって測定した。懸濁液のmL当たりの、乾燥したナノキャリアの総質量を、重量法によって測定した。
【0322】
【表13】
【0323】
免疫化
動物に治療を行うと同時に、2週間ごとに動物に免疫を与えた。これらの群のそれぞれを、誘導されたIg力価を調節するための様々な治療剤の能力を試験するためにサブグループに分けた。対照サブグループには、寛容原性治療剤を投与しなかった。2つのサブグループに、OVA323-339ペプチドのみを有するかまたはラパマイシンと組み合わせられたナノキャリアを投与した。
【0324】
免疫化を、以下の経路を介して行った(値は動物ごとの値である):1肢当たり20μlのOVA+CpG(12.5μgのOVA+10μgのCpG)を、両方の後肢に皮下投与。寛容原性治療剤を、以下の経路を介して投与した(値は動物ごとの値である):200μlのナノキャリアを、100μg/mlのOVA323-339含量で与えた。
【0325】
IgGの測定
IgG抗体のレベルを測定した。このレベルは、アレルギーに特に関連する、IgEを含む、免疫グロブリン一般の指標である。PBS中のBlocker Casein(Thermo Fisher、カタログ番号37528)を、希釈剤として使用した。10mlのTween-20((Sigma、カタログ番号P9416-100mL)を、2リットルの10×PBSストック(PBS:OmniPur(登録商標)10×PBS液体濃縮物、4L、EMD Chemicals、カタログ番号6505)および18リットルの脱イオン水に加えることによって調製されたPBS中0.05%のTween-20を、洗浄緩衝液として使用した。5mg/mlのストック濃度におけるOVAタンパク質を、コーティング材料として使用した。5μg/mlへの1:1000の希釈を、作用濃度として使用した。アッセイプレートの各ウェルを、ウェル当たり100μlの希釈されたOVAでコーティングし、プレートを、密封フィルム(VWRカタログ番号60941-120)で密封し、4℃で一晩インキュベートした。Costar9017の96ウェル平底プレートを、アッセイプレート、Costar9017として使用した。
【0326】
低結合ポリプロピレン96ウェルプレートまたは管を、セットアッププレートとして使用し、セットアッププレートにおいて、アッセイプレートに移す前に試料を調製した。セットアッププレートは、抗原を全く含有しないため、血清抗体は、試料のセットアップ中にプレートに結合しなかった。セットアッププレートを試料の調製に使用して、抗原でコーティングされたプレートを用いて試料を調製した場合に試料の調製またはピペット操作中に起こり得る結合を最小限に抑えた。セットアッププレートにおいて試料を調製する前に、ウェルを希釈剤で被覆して、あらゆる非特異的な結合を阻止し、プレートを密封し、4℃で一晩インキュベートした。
【0327】
アッセイプレートを、洗浄緩衝液で3回洗浄し、洗浄緩衝液を、最後の洗浄の後、ウェルから完全に吸引した。洗浄後、300μlの希釈剤を、アッセイプレートの各ウェルに加えて、非特異的な結合を阻止し、プレートを、室温で少なくとも2時間インキュベートした。血清試料を、適切な出発希釈でセットアッププレートにおいて調製した。出発希釈を、希釈剤を用いて1.5mlの管中で調製した場合もあった。適切な出発希釈を、利用できる場合には以前のデータに基づいて決定した。以前のデータを利用できない場合、最低出発希釈は、1:40であった。希釈後、200μlの出発希釈の血清試料を、セットアッププレートの適切なウェルから移した。
【0328】
例示的なセットアッププレートの配置が以下のとおりに記載される:カラム2および11は、1μg/mL(1:4000の希釈率)に希釈された、抗オボアルブミンモノクローナルIgG2bアイソタイプ(AbCam、ab17291)標準を含んでいた。カラム3~10は、(適切な希釈率で)血清試料を含んでいた。カラム1および12は、周辺効果による測定の偏りを避けるために、試料または標準に使用しなかった。その代わりに、カラム1および12は、200μlの希釈剤を含んでいた。1:40で希釈された正常なマウスの血清を陰性対照として使用した。0.5mg/mLのストック(BD Bioscience)から1:500で希釈された抗マウスIgG2aを、アイソタイプ対照として使用した。
【0329】
全ての試料をセットアッププレートにおいて調製してから、プレートを密封し、アッセイプレートのブロックが完了するまで4℃で貯蔵した。アッセイプレートを、洗浄緩衝液で3回洗浄し、最後の洗浄後、洗浄緩衝液を完全に吸引した。洗浄後、100μLの希釈剤を、アッセイプレートの行B~Hにおいて全てのウェルに加えた。12チャンネルピペットを用いて、試料をセットアッププレートからアッセイプレートに移した。150μlの希釈された血清を上下に3回ピペット操作することによって、試料を移動前に混合した。混合後、150μlの各試料を、セットアッププレートから移し、それぞれのアッセイプレートの行Aに加えた。
【0330】
各試料の出発希釈を、セットアッププレートから、アッセイプレートの行Aへと移してから、連続希釈を、アッセイプレートにおいて以下のようにピペット操作した:50μlの各血清試料を、12チャンネルピペットを用いて行Aから取り出し、行Bの各ウェルに予め加えられた100μlの希釈剤と混合した。この工程を、プレート全体に至るまで繰り返した。最終行の希釈をピペット操作した後、50μlの流体を最終行のウェルから除去し、廃棄し、アッセイプレートのウェルごとに100μlの最終的な体積を得た。試料希釈をアッセイプレートにおいて調製してから、プレートを室温で少なくとも2時間インキュベートした。
【0331】
インキュベーションの後、プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄した。検出抗体(HRPを共役させたヤギ抗マウス抗IgG、AbCam ab98717)を、希釈剤中1:1500(0.33μg/mL)で希釈し、100μlの希釈された抗体を各ウェルに加えた。プレートを室温で1時間インキュベートし、次に、洗浄緩衝液で3回洗浄し、各洗浄工程は少なくとも30秒間の浸漬時間を含んでいた。
【0332】
洗浄後、検出基質をウェルに加えた。等しい部の基質Aおよび基質B(BD Biosciences TMB Substrate Reagent Set、カタログ番号555214)を、アッセイプレートへの添加の直前に組み合わせて、100μlの混合基質溶液を各ウェルに加え、暗所で10分間インキュベートした。10分後に50μlの停止液(2NのH2SO4)を各ウェルに加えることによって、反応を停止させた。停止液を加えた直後のウェルの光学密度(OD)を、プレートリーダーにおいて450nmで評価した(570nmにおける読み取り値を差し引く)。Molecular DeviceのソフトウェアSoftMax Pro v5.4を用いて、データ分析を行った。場合によっては、希釈率をx軸(対数目盛り)におよびOD値をy軸(線形目盛り)にとって、4つのパラメータのロジスティック曲線適合グラフを作成し、各試料についての最大値の半値(EC50)を決定した。配置の上部におけるプレートテンプレートを、各試料の希釈率(カラム当たり1)を反映するように調整した。
【0333】
OVA+分裂B細胞の%の測定
オボアルブミン+B細胞分裂を、フローサイトメトリーによって評価した。実験動物からの脾細胞を、長期間の細胞標識に好適なチオール反応性の蛍光プローブであるCell Tracker Orange(CTO)で染色し、オボアルブミンタンパク質またはペプチドとともに5%のCOで37Cの完全培地において3日間培養した。3日目に、細胞を洗浄し、抗CD16/32抗体でブロックし、次に、B220およびCD19に特異的な共役された抗体で染色した。Alexa 647共役オボアルブミンタンパク質も、オボアルブミン特異的BCRを標識するために、細胞とともにインキュベートした。CD19+B220+OVA-Alexa647+であったそれらの脾細胞を、CTO染色の差を比較することによって、増殖について評価した。CTO染色濃度が低い(CTO low)ものを、増殖オボアルブミン+B細胞として標識し、パーセンテージを定量化するために、CTO染色濃度が高い(CTO high)オボアルブミン+B細胞と比較した。
【0334】
結果
図8は、ovaペプチドおよび免疫抑制剤ラパマイシンを含む合成ナノキャリアの投与による、抗原特異的なIgGレベルの減少を示す。図9も、合成ナノキャリアによる減少(但し、抗原特異的なB細胞の数の減少)を示す。これらの結果は、ovaペプチド(MHCクラスII拘束性エピトープを含む)および免疫抑制剤に結合された合成ナノキャリアによるアレルギーおよびアレルギー応答に関連する望ましくない免疫応答の減少を示す。
【0335】
実施例15:アレルギー性喘息に対する抗原および免疫抑制剤を含むナノキャリアの効果の評価
ナノキャリア
ナノキャリアを、上で提供される方法に従って調製した(実施例14)。
【0336】
免疫化
ナノキャリアを解凍し、平衡化した。初期希釈は、10倍ストック溶液であり、これを、OVA323-339中100μg/mlの濃度に、即ち1倍溶液へと更に希釈した。この1倍溶液を、静脈注射当たり200μlで注射に使用した。動物をOVAタンパク質(OVA)で免疫化し、OVA323-339ペプチドで処理して、B細胞抗原の非存在下でアレルギー応答を制御するナノキャリアの能力を評価した。免疫化経路は以下のとおりであった:免疫学的にナイーブな雌のBalb/Cマウスのそれぞれにつき400μlで、10μgのOVA+4mgのミョウバンの腹腔内投与。実験群は、それぞれ5匹の動物からなっていた。脾臓細胞を、CFSEまたはCTOを用いて抗原で再度刺激して、Ag特異的な増殖の量を測定した。
【0337】
特定の型の免疫細胞のレベル
FCSファイルを、FlowJoソフトウェアを用いて分析した。7AAD陽性細胞(死細胞を標識する核染料)陽性細胞を、除外し、CD4、CD8、Gr-1、F4/80、B220、TCRbおよびCD11bの細胞形態に依存する発現を定量化した。
T細胞サブセットについてのゲーティング法→7AAD-F4/80-GR-1-TCRb+CD4+/-CD8+/-
B細胞サブセットについてのゲーティング法→7AAD-B220+TCRb-
好酸球についてのゲーティング法→7AAD-F4/80-Gr-1+TCRb-CD11b+Gr-1+
【0338】
分裂CD4+T細胞の%の測定
オボアルブミン反応性CD4T細胞の頻度を、フローサイトメトリーによって計算した。実験動物からの脾細胞を、長期間の細胞標識に好適なチオール反応性の蛍光プローブであるCFSEで染色し、オボアルブミンタンパク質とともに5%のCOの37Cの完全培地において3日間培養した。3日目に、細胞を洗浄し、抗CD16/32抗体でブロックし、次に、TCR CD4およびCD8aに特異的な共役された抗体で染色した。TCR+CD4またはTCR+CD8a+であったそれらの脾細胞を、CFSE染色の差を比較することによって、増殖について評価した。
【0339】
結果
図10および11は、動物モデルにおけるナノキャリアの有効性を示す。具体的には、図10は、OVA323-339(MHCクラスII拘束性エピトープ)および免疫抑制剤を含む合成ナノキャリアで処理された動物被験体からの洗浄試料におけるCD4+T細胞の数の減少を示す。図11は、同じ処理の結果としての分裂CD4+T細胞のパーセンテージの低下を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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