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特許7242557低粘度及び低処理温度を有する銀分子インク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】低粘度及び低処理温度を有する銀分子インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/037 20140101AFI20230313BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20230313BHJP
   C09D 11/033 20140101ALI20230313BHJP
   C09D 11/10 20140101ALI20230313BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C09D11/037
C09D11/52
C09D11/033
C09D11/10
H01B1/22 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019563711
(86)(22)【出願日】2018-02-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 IB2018050791
(87)【国際公開番号】W WO2018146619
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-02-02
(31)【優先権主張番号】62/456,322
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500276482
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リュー、シャンヤン
(72)【発明者】
【氏名】パケ、シャンタル
(72)【発明者】
【氏名】ケル、アーノルド ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】マレファン、パトリック ロラン ルシアン
(72)【発明者】
【氏名】デオール、バーバナ
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104263082(CN,A)
【文献】国際公開第2015/192248(WO,A1)
【文献】特表2005-537386(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133767(WO,A1)
【文献】特開2015-109273(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0168408(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/037
C09D 11/52
C09D 11/033
C09D 11/10
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子インクであって、
インクの総重量を基準として、インク中に23重量%以上の銀充填量をもたらす量でインク中に存在する、カルボン酸銀;
インクの総重量を基準として5重量%~50重量%の有機アミンであって、アルキルアミン、ヒドロキシアルキルアミン又は環状アミンを含む、有機アミン;並びに
インクの総重量を基準として0.1重量%~10重量%の高分子バインダーであって、ポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミド又はそれらの任意の混合物を含み、当該高分子バインダーを前記有機アミンと相溶性にする官能基を有し、当該官能基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基及びスルホニル基のうちの1つ又は複数である、高分子バインダー、
を含み、前記カルボン酸銀はネオデカン酸銀である、分子インク。
【請求項2】
前記ネオデカン酸銀が、前記インクの総重量を基準として70重量%以上の量で存在する、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記有機アミンが、ピリジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、オキサゾリン、ピペリジン、イソオキサゾール又はモルホリンを含む、請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
前記有機アミンが、アミノ-2-プロパノール、2-エチル-1-ヘキシルアミン又は2-エチル-2-オキサゾリンを含む、請求項1又は2に記載のインク。
【請求項5】
前記高分子バインダーが、ヒドロキシル末端及び/又はカルボキシル末端ポリエステルを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のインク。
【請求項6】
前記高分子バインダーが、前記インクの総重量を基準として0.5重量%~10重量%の量で存在する、請求項1~5のいずれか一項に記載のインク。
【請求項7】
溶媒を、前記インクの総重量を基準として5重量%から40重量%の範囲内の量でさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のインク。
【請求項8】
前記溶媒が、オクタノールを含む、請求項7に記載のインク。
【請求項9】
20.5℃でULアダプターを有するBrookfield RV-DV-IIIウルトラレオメータを使用して測定された、1cP~15,000cPの粘度を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のインク。
【請求項10】
基板上に導電性銀トレースを製造する方法であって、請求項1~9のいずれか一項に定義のインクを基板上に堆積させて、前記基板上に前記インクの非導電性トレースを形成する工程と、前記基板上の前記インクの前記非導電性トレースを焼結して、前記導電性銀トレースを形成する工程とを含む方法。
【請求項11】
前記焼結が、150℃~175℃の範囲内の温度で、1分~120分の範囲内の時間にわたって行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記基板が、ポリエチレンテレフタラート、ポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン、ポリスチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、熱可塑性ポリウレタン、シリコーン膜、ウール、シルク、綿、亜麻、ジュート、モーダル、竹、ナイロン、ポリエステル、アクリル、アラミド、スパンデックス、ポリラクチド、紙、ガラス、コーティングガラス、金属又は誘電体コーティングを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記堆積が、印刷を含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか一項に定義のインクから製造された導電性銀トレースを備える基板。
【請求項15】
請求項14に定義の基板を備える電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、インク、特に高い銀充填量を有し、比較的低温で焼結することができる低粘度印刷可能分子インクに関する。
【背景技術】
【0002】
ネオデカン酸銀をベースとする分子インクは、スクリーン印刷用に配合されている。これらのインクは良好な印刷品質を有すると同時に優れた機械的及び電気的特性を示したが、それらは少なくとも2つの制限を有する。
【0003】
第一に、溶媒又は担体への溶解度が低いため、均一なインクを形成するためには、銀塩を著しく希釈しなければならない。低濃度の銀塩は、印刷されると薄い銀堆積物をもたらす。得られるインクはまた、多くの印刷技術(エアロゾルジェット、インクジェット印刷、フレキソグラビア印刷)に必要とされるものよりも大きい、比較的高い粘度を有する。ネオデカン酸銀インクの厚いトレース(traces)を印刷するためには、複数の層が印刷される(インクジェット又はエアロゾルジェット)。印刷技術が低粘度インクを必要とする場合、ネオデカン酸銀インクを希釈してインクの相対銀含有量を低減しなければならず、これは一方で非常に薄い堆積物をもたらす。さらに、複数の層を印刷することは時間がかかり、印刷品質を低下させる可能性がある。
【0004】
第二に、これらのインクは約220~240℃の処理温度を必要とし、したがって、最高の導電性を追求する場合、熱焼結は一般にKapton(商標)等の高価な基板にのみ適合する。ネオデカン酸銀インクのトレースは、より低温で焼結することができるが、より長い処理時間が使用される場合に限られる。
【0005】
したがって、銀塩のより高い充填量を可能にし、及び/又は銀をより低い温度で焼結させることを可能にする銀塩インク配合物、特にネオデカン酸銀配合物が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
インク中の銀塩の分散性(例えば溶解性)を高め、それによってインク中の銀の充填量を増やす分子銀インクが配合された。配合されたインクは、銀含有量を犠牲にすることなく既存の銀インクよりも低い粘度を有し得る。銀インクはまた、既存の銀インクよりも低い処理温度を必要とし得る。
【0007】
一態様において、カルボン酸銀と、有機アミンと、高分子バインダーを前記有機アミンと相溶性にする官能基を有するポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミド又はそれらの任意の混合物を含む前記高分子バインダーとを含む分子インクが提供される。
【0008】
別の態様において、基板上に導電性銀トレース(trace)を製造する方法であって、分子インクを基板上に堆積させて、基板上にインクの非導電性トレースを形成する工程と、基板上のインクの前記非導電性トレースを焼結して、導電性銀トレースを形成する工程とを含む方法が提供される。
【0009】
別の態様において、上述のような方法によって製造された導電性銀トレースを備える基板が提供される。
【0010】
別の態様において、上述のような方法によって製造された導電性銀トレースを有する基板を備える電子デバイスが提供される。
【0011】
さらなる特徴は、以下の詳細な説明の過程で説明される、又は明らかになるであろう。本明細書に記載の各特徴は、記載された他の特徴のうちの1つ又は複数との任意の組み合わせで利用され得ること、各特徴は、当業者に明らかな場合を除いて別の特徴の存在に必ずしも依存しないことを理解されたい。
【0012】
より明確に理解するために、添付の図面を参照しながら、好ましい実施形態を例として詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】線形目盛り(図1A)上にプロットされた、ネオデカン酸銀(AgND)重量分率(wt/wt)の関数としての様々なインクの粘度(cP)のグラフを示す図である。
図1B】半対数目盛り(図1B)上にプロットされた、ネオデカン酸銀(AgND)重量分率(wt/wt)の関数としての様々なインクの粘度(cP)のグラフを示す図である。図1Bの500cP粘度における黒い水平破線は、インクI1、インクI2及びインクI3が、インクC1及びインクC2よりも500cPでより大きなAgND充填量を有することを示す。
図2】異なる配合物(インクC1及びインクC2)を有する他のAgNDインクと比較した、本発明のネオデカン酸銀(AgND)インク(インクI1、インクI2及びインクI3)についての焼結温度(℃)の関数としての公称20ミルラインのシート抵抗率(mΩ/□/ミル)のグラフを示す図であり、インクは45分間焼結された。
図3】様々なインク(インクI1、インクI2、インクI3、インクC1及びインクC2)のトレースを200℃に45分間加熱した後の、AgND重量分率(wt/wt)の関数としての公称20ミルラインの断面積(mm)のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
カルボン酸銀は、銀イオンと、カルボン酸部分を含む有機基とを含む。カルボン酸塩は、好ましくは1~20個の炭素原子、より好ましくは6~15個の炭素原子、さらにより好ましくは8~12個の炭素原子、例えば10個の炭素原子を含む。カルボン酸塩は、好ましくはアルカノアートである。カルボン酸銀は、好ましくはアルカン酸の銀塩である。好ましいカルボン酸銀のいくつかの非限定的な例は、エチルヘキサン酸銀、ネオデカン酸銀、安息香酸銀、フェニル酢酸銀、イソブチル酢酸銀、ベンゾイル酢酸銀、シュウ酸銀、ピバル酸銀及びそれらの任意の混合物である。ネオデカン酸銀が特に好ましい。1種又は2種以上のカルボン酸銀がインク中に存在してもよい。カルボン酸銀は、好ましくはインク中に分散している。好ましくは、インクは、他の金属銀材料のフレーク又は粒子を含まない。
【0015】
カルボン酸銀は、好ましくは、インクの総重量を基準として、インク中に約23重量%以上の銀充填量をもたらす量でインク中に存在する。より好ましくは、カルボン酸銀は、約23.5重量%以上、又は約25重量%以上、又は約26.5重量%以上、又は約27重量%以上の銀充填量を提供する。カルボン酸銀がネオデカン酸銀である場合、ネオデカン酸銀は、好ましくは、インクの総重量を基準として約61重量%以上、又は約65重量%以上、又は約68重量%以上、又は約70重量%以上の量でインク中に存在してもよい。
【0016】
有機アミンは、好ましくは、アルキルアミン、ヒドロキシアルキルアミン又は環状アミンである。有機アミンは、好ましくは、2~12個の炭素原子、より好ましくは2~8個の炭素原子を含む。アルキルアミンのいくつかの非限定的な例は、2-エチル-1-ヘキシルアミン、1-オクチルアミン、1-ヘキシルアミン等である。ヒドロキシアルキルアミンのいくつかの非限定的な例は、1,2-エタノールアミン、1-アミノイソプロパノール(アミノ-2-プロパノール)、1,3-プロパノールアミン、1,4-ブタノールアミン等である。環状アミンのいくつかの非限定的な例は、ピリジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、オキサゾリン、ピペリジン、イソオキサゾール、モルホリン等である。1種又は2種以上の有機アミンがインク中に存在してもよい。
【0017】
有機アミンは、任意の適切な量で、好ましくは約5重量%以上、より好ましくは約8重量%以上の量で、及び好ましくは約50重量%以下、より好ましくは約25重量%以下、さらにより好ましくは約20重量%以下の量でインク中に存在してもよく、全ての重量はインクの総重量を基準とする。例示的な好ましい範囲は、約5重量%~約50重量%、又は約10重量%~約50重量%、又は約5重量%~約25重量%である。
【0018】
高分子バインダーは、高分子バインダーを有機アミンと相溶性にする官能基を有するポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミド又はそれらの任意の混合物を含み得る。したがって、高分子バインダー中の有機アミンの混合物は、著しい相分離をもたらさない。高分子バインダーは、有機アミン中に分散可能、例えば可溶性であってもよい。高分子バインダーを有機アミンと相溶性にする官能基は、好ましくは、水素結合に関与することができる極性基、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基及びスルホニル基のうちの1つ又は複数である。好ましくは、高分子バインダーは、末端ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基を含む。高分子バインダーは、好ましくは、ポリエステルを有機アミンと相溶性にする官能基を有するポリエステルを含む。より好ましくは、高分子バインダーは、ヒドロキシル末端及び/又はカルボキシル末端ポリエステルを含む。
【0019】
他の種類の高分子バインダーが使用されてもよい。そのような他の種類の高分子バインダーは、ホモポリマー又はコポリマーであってもよい。そのような他の種類の高分子バインダーは、熱可塑性樹脂又はエラストマーであってもよい。他の高分子バインダーのいくつかの例は、例えば、熱可塑性ポリウレタン及びシリコーンエラストマーを含む。
【0020】
高分子バインダーは、任意の適切な量で、好ましくはインクの総重量を基準として約0.1重量%~約10重量%の範囲内でインク中に存在してもよい。より好ましくは、その量は、約0.5重量%~約10重量%、又は約0.1重量%~約5重量%、約0.5重量%~約3重量%、又は約1重量%~約2重量%の範囲内である。
【0021】
特に好ましい実施形態において、分子インクは、約61重量%以上のネオデカン酸銀;約5重量%~約50重量%のアミノ-2-プロパノール、2-エチル-1-ヘキシルアミン又は2-エチル-2-オキサゾリン;約0.5重量%~約3重量%のヒドロキシル末端及び/又はカルボキシル末端ポリエステルを含み、全ての重量はインクの総重量に基づく。
【0022】
分子インクは、任意選択で溶媒を含んでもよい。溶媒は、好ましくは、有機アミン又は高分子バインダーの一方又は両方と相溶性である。溶媒は、好ましくは、有機アミン及び高分子バインダーの両方と相溶性である。有機アミン及び/又は高分子バインダーは、好ましくは、溶媒中に分散可能、例えば可溶性である。溶媒は、好ましくは有機溶媒、より好ましくは非芳香族有機溶媒である。非芳香族有機溶媒は、例えば、グリコールエーテル(例えばジプロピレングリコールメチルエーテル)、アルコール(例えばメチルシクロヘキサノール、オクタノール、ヘプタノール)、カルビトール(例えば2-(2-エトキシエトキシ)エタノール)又はそれらの任意の混合物を含む。アルコールが好ましく、好ましくはC-C10アルカノール、より好ましくはC-Cアルカノール、例えばオクタノールである。使用される場合、溶媒は、インク中に任意の適切な量で、好ましくはインクの総重量を基準として約1重量%~約50重量%の範囲内で存在してもよい。より好ましくは、その量は、約2重量%~約50重量%、又は約5重量%~約50重量%、又は約5重量%~約40重量%、又は約5重量%~約20重量%の範囲内である。存在する場合、溶媒は、一般に、インクの残りを構成する。
【0023】
インクは、約1cP~約50,000cPの範囲内の粘度を有することができる。例えば、インクの粘度は、約1cP~約15,000cPの範囲内であってもよい。
【0024】
インクの各成分の相対量は、既存のネオデカン酸銀インクよりも低い粘度及び低い処理温度を提供しながら、インク中のカルボン酸銀の分散性(例えば溶解度)を調整するのに重要な役割を果たし得る。インク中の各成分の量の好ましい実施形態は、より低い粘度及びより高い銀充填量において特に改善された処理温度を有するインクをもたらす。
【0025】
インクは、基板上にインクの非導電性トレースを形成するための任意の適切な方法によって基板上に堆積させることができる。インクは、印刷、例えばスクリーン印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷(例えばスタンプ)、グラビア印刷、オフセット印刷、エアブラシ、エアロゾル印刷、植字、プロッティング又は他の任意の方法に特に適している。インクは、様々な異なる印刷技術に対して独自に最適化され得る。
【0026】
基板上に堆積した後、非導電性トレース内のカルボン酸銀を乾燥及び分解することによって導電性トレースが形成される。乾燥及び分解は、任意の適切な技術によって達成することができ、その技術及び条件は、その上にトレースが堆積される基板の種類及びインク中のカルボン酸銀の種類によって導かれる。例えば、インクの乾燥及びカルボン酸銀の分解は、加熱及び/又はフォトニック焼結によって達成することができる。
【0027】
一技術では、基板を加熱することによりトレースを乾燥及び焼結させて、導電性トレースを形成する。焼結は、カルボン酸銀を分解して、銀の導電性粒子(例えばナノ粒子)を形成する。比較的高導電性銀トレースを生成しながら、加熱を約185℃未満、特に約150~185℃、又は約150~175℃の比較的低い温度範囲で行うことができることが有利である。より低い温度で焼結する能力はインクの利点であるが、必要に応じてより高い温度で、例えば約185℃以上の温度又は約250℃までの温度で加熱を行ってもよい。
【0028】
加熱は、好ましくは約3時間以内、より好ましくは約2時間以内、例えば約1~180分、又は約2~120分の範囲内の時間行われる。加熱は、導電性トレースを形成するために基板上のトレースを焼結させるのに十分な温度と時間のバランスで行われる。加熱装置の種類も、焼結に必要な温度及び時間に影響する。焼結は、酸化性雰囲気(例えば空気)又は不活性雰囲気(例えば窒素及び/又はアルゴンガス)下で基板を用いて行うことができる。
【0029】
別の技術では、フォトニック焼結システムは、広帯域スペクトルの光を送達する高輝度ランプ(例えばパルスキセノンランプ)を特徴とし得る。ランプは、トレースに約5~20J/cmのエネルギーを送達することができる。パルス幅は、好ましくは約0.58~1.5msの範囲内である。駆動電圧は、好ましくは、約1.6~2.8kVの範囲内である。フォトニック焼結は、周囲条件下で(例えば空気中で)行うことができる。フォトニック焼結は、ポリエチレンテレフタラート及びポリイミド基板に特に適している。より低いエネルギー(例えば10J/cm未満)の使用は、ポリエチレンテレフタラート及びポリエチレンナフタラート等の低温基板上でのインクの適合性を高め、本明細書に記載のようなアミンを含有するネオデカン酸銀系インクでは、基板損傷(例えば溶融及び/又は反り)が著しく少ない。
【0030】
インクを基板上で乾燥及び焼結することによって形成された導電性トレースは、任意の所望の厚さ及び幅のものであってもよい。比較的高い導電率(すなわち比較的低い抵抗率)を維持しながら、インクを乾燥及び焼結して、比較的薄い及び/又は狭い導電性トレースを形成することができることが有利である。さらに、インクから形成された焼結トレースは可撓性であってもよく、開回路遮断なしに(すなわち開放故障なしに)ASTM F1683-02屈曲及び折り目試験に合格することができる。製造アプリケーションでは、可能な限り低い抵抗値の変化が必要である。開回路遮断は、導電率の全損失(すなわち無限の抵抗率)として定義される。
【0031】
基板は、任意の適切な表面、特に印刷可能な表面であってもよい。印刷可能な表面は、中でも例えばポリエチレンテレフタラート(PET)(例えばMelinex(商標))、ポリエチレンナフタラート(PEN)、ポリオレフィン(例えばシリカ充填ポリオレフィン(Teslin(商標))、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン、ポリカーボネート、ポリイミド(例えばKapton(商標))、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、シリコーン膜、ウール、シルク、綿、亜麻、ジュート、モーダル、竹、ナイロン、ポリエステル、アクリル、アラミド、スパンデックス、ポリラクチド、紙、ガラス、コーティングガラス(例えば、ITOコーティングガラス)、金属、誘電体コーティングを含み得る。
【0032】
基板上に堆積された導電性トレースは、電子デバイス、例えば電気回路、導電性バスバー(例えば太陽電池用)、センサ(例えばタッチセンサ、ウェアラブルセンサ)、アンテナ(例えばRFIDアンテナ)、薄膜トランジスタ、ダイオード、スマートパッケージング(例えばスマートドラッグパッケージング)、機器及び/又は車両における適合性インサート、並びに高温に耐えることができる適合性表面上のローパスフィルタ、周波数選択表面、トランジスタ及びアンテナを含む多層回路及びMIMデバイスに組み込むことができる。インクは、そのような電子デバイスの小型化を可能にする。
【実施例
【0033】
[例1]ネオデカン酸銀インク
一連のネオデカン酸銀(AgND)系インクを、表1に記載のように配合した。インクI1、I2及びI3は本発明に従って配合され、インクC1及びC2はAgND系インクの他の配合物の比較試料である。インクは、インクの分解温度に影響を与える様々な種類の担体を有する。各インクは、担体の最大重量分率を構成する異なる成分、すなわちオクタノール(インクI1及びインクC2)、アルキルアミン(インクI2)、オキサゾリン(インクI3)並びにテルペンアルコール(インクC1)を有する。
【0034】
【表1】
【0035】
1-アミノ-2-プロパノール(ヒドロキシアミン)、2-エチル-1-ヘキシルアミン(アルキルアミン)及び2-エチル-2-オキサゾリン(オキサゾリン)を含有するインクを、まずオクタノール中のネオデカン酸銀塩の濃縮懸濁液を調製することによって調製した。次いで、1-アミノ-2-プロパノール、2-エチル-1-ヘキシルアミン又は2-エチル-2-オキサゾリンを乳鉢と乳棒を用いて懸濁液にゆっくりと混和し、透明で均質な粘性溶液が形成されるまで混合した。他のインクは、全ての成分を合わせ、溶液が均一になるまでプレナリーミキサー(plenary mixer)で混合することによって調製した。2つの高分子バインダー、Rokrapol(商標)7075(ポリエステル)又はエチルセルロース46cPのうちの1つをインクに添加した。
【0036】
インクの粘度は、AgND充填量の関数として決定された。これらの試験のために、インクのネオデカン酸銀成分を、表1の配合物に対する同じ比率でそれぞれの担体及びアミンで希釈した。これらのインクの粘度は、20.5℃でULアダプターを有するBrookfield RV-DV-IIIウルトラレオメータを使用して測定した。
【0037】
4つのインクを、400のメッシュ数を有するスクリーン(19μmのスレッド直径及び45μmのメッシュ開口部を有するステンレス鋼スクリーン)を使用して、Kapton(商標)HPP-STの8.5×11インチシートの上にスクリーン印刷した。スクリーンは、長さ10cm、幅2~20ミルの線を含んでいた。印刷されたトレースは、表2に記載の加熱プログラムを使用して151℃から229℃まで変化するリフロー温度(T)で空気中で熱焼結された(表2の温度は、炉の目標温度に対応する)。表3及び図2における抵抗率データを得るために使用される温度は、Kapton(商標)基板に取り付けられた熱電対によって測定された温度である。
【0038】
【表2】
【0039】
トレースの電気的特性は、抵抗計を用いて10cm長のトレースにわたる抵抗を測定することによって特性決定された。焼結トレースの幅及び厚さは、光学的表面形状測定器(Cyber Technologies 3D Surface Profiler)を使用して測定した。トレース幅を使用して、長さ10cmの各トレースの平方数を決定し、続いてそれを使用してシート抵抗を計算することができる。トレースの断面積は、トレースの測定幅及び厚さを乗じることにより計算した。厚さ測定値を使用して、トレースのシート抵抗値を計算した。焼結トレースの電気的特性を、図2に提供する。
【0040】
表1から明らかなように、本発明のインクI1、I2、I3、I4及びI5に対するネオデカン酸銀の充填量は、他のAgND系インクにおけるネオデカン酸銀の充填量よりもはるかに大きくなり得る。表3のトレースの断面積によって示されるように、より高いネオデカン酸銀充填量は、より高い銀堆積物をもたらす。表3は、200℃で45分間の加熱後の、インクI1、インクI2、インクI3、インクC1及びインクC2から作製された長さ10cmの銀トレースの抵抗、線幅、線厚、断面積及びシート抵抗の比較を提供する。図3は、インク中のネオデカン酸銀充填量と200℃で45分間焼結した後の銀トレースの断面積との間の関係を示す。
【0041】
図2に基づいて、低粘度(フレキソ印刷及びプロッターベースの印刷に適している)を有し、高いネオデカン酸銀充填量(約48%~約67%、アミンに依存する)を維持するインクを生成するために、追加のアミン及びオクタノールの添加によりインクを配合できることもまた明らかである。さらに、図2から、インクI1、I2及びI3は、良好な導電性を有する銀トレースを提供しながら、インクC1及びC2よりも大幅に低い温度で焼結することができることが明らかである。さらに、低温基板上に印刷されたこれらのインクのフォトニック硬化は、下の基板への損傷が大幅に少ないより低いエネルギーで実行することができる。
【0042】
【表3】
【0043】
焼結条件及び基板を変えてインクI3を用いてさらに3つの実験を行った。
【0044】
第1の実験では、上述の方法を用いてインクI3をKapton(登録商標)HPP-ST上にスクリーン印刷して焼結したが、ただし焼結は、200℃の温度で45分間ではなく30分間行った。結果を表4A及び表4Bに示す。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
第2の実験では、上述の方法を用いてインクI3をKapton(登録商標)上にスクリーン印刷して焼結したが、ただし焼結は、200℃ではなく180℃の温度で、45分間ではなく30分間行った。結果を表5A及び表5Bに示す。表5A及び表5Bは、機械的特性(ASTM F1683-02屈曲及び折り目試験による可撓性)を提供する。
【0048】
【表6】
【0049】
【表7】
【0050】
第3の実験では、360カウント/インチ(SS360)のメッシュカウントを有するステンレス鋼スクリーンを通してMelinex(登録商標)上にインクI3をスクリーン印刷し、強力パルス光(IPL)焼結(340V/1500μ秒)を用いてフォトニック焼結し、続いて160℃の温度で30分間熱焼結した。結果を表6A及び表6Bに示す。
【0051】
【表8】
【0052】
【表9】
【0053】
インクI3に関する表中のデータは、1-オクタノール及び2-エチル-オキサゾリンの組み合わせが極めて導電性のトレース(ほとんどの線幅に対して体積抵抗値約10μΩ・cm)の製造を可能にすることを示唆している。この性能は、例えばインクC1よりも少ないエネルギーを用いてトレースを導電性銀に変換する能力に起因すると思われる。インクI3から得られたトレースの機械的特性もまた優れており、屈曲及び折り目試験(ASTM1683-02)後の抵抗増加は3%を超えて増加しない(表5A及び5B)。
【0054】
360カウント/インチ(SS360)のメッシュカウント及び約7~10μmのエマルジョン厚を有するステンレス鋼スクリーンを使用して、0.06μmのRMS粗度を有するガラス基板上にインクI4をスクリーン印刷し、200℃で30分間焼結した。スクリーン印刷パターンは、4Bのクロスハッチを有した。結果を表7に示す。
【0055】
【表10】
【0056】
データは、高分子バインダー及びインク成分の組み合わせが、非常に滑らかな状態(RMS表面粗度約0.06μm)を保ちながら、銀トレースをガラス基板に非常に良好(4B)に付着させることを示唆している。
【0057】
13μmのワイヤ直径を有する織られたタングステンワイヤを含む高解像度スクリーンを通して、インクI5をMelinex(登録商標)上にスクリーン印刷したが、このスクリーンは430カウント/インチのメッシュカウントを有していた。スクリーン印刷されたインクを5分間乾燥させ、続いて165℃で30分間熱焼結した。結果を表8に示す。表8に見られるように、10~20μΩ・cmの間の体積抵抗率で50μm未満の測定線幅を有するトレースを容易に製造することができる。これは、インクが透明導電性電極(TCE)用途に使用され得ることを示唆している。
【0058】
【表11】
【0059】
新規な特徴は、説明を検討すれば当業者に明らかとなるであろう。しかしながら、特許請求の範囲は実施形態によって限定されるべきではなく、特許請求の範囲の文言及び明細書全体と一致する最も広い解釈が与えられるべきであることを理解されたい。
図1A
図1B
図2
図3