(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】歯科用接着剤
(51)【国際特許分類】
A61K 6/30 20200101AFI20230313BHJP
A61C 13/23 20060101ALI20230313BHJP
A61C 7/02 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
A61K6/30
A61C13/23
A61C7/02
(21)【出願番号】P 2019570960
(86)(22)【出願日】2018-06-22
(86)【国際出願番号】 FR2018051514
(87)【国際公開番号】W WO2018234713
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-06-11
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518281328
【氏名又は名称】プロドゥイ デンタイル ピエール ロラン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【氏名又は名称】古賀 哲次
(72)【発明者】
【氏名】バンサン モラ
(72)【発明者】
【氏名】クレマンス ピジュロン
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-105216(JP,A)
【文献】特開2007-320929(JP,A)
【文献】特開2007-186538(JP,A)
【文献】特開2018-021105(JP,A)
【文献】特表2006-522197(JP,A)
【文献】特開2018-161359(JP,A)
【文献】トランスボンドTM XT プライマーの添付文書,第4版,2020年
【文献】日本レーザー歯学会誌,27巻 SpecialIssue号,2016年,p.126 (P-49)
【文献】American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics,1995年,Vol.108, No.3,pp.262-266
【文献】Lasers Med Sci,2015年,Vol.30,pp.869-874
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯の表面で重合され固着された歯科用接着剤を超音波振動を適用して脱固着する用途に用いる歯科用接着剤であって、少なくとも1種の重合性モノマーと、重合開始剤と、膨張剤を封入するシェルを含む熱膨張性粒子(6)とを含み、前記熱膨張性粒子(6)のシェルがアクリロニトリルとメタクリル酸メチルの共重合体でできていることを特徴とする、前記歯科用接着剤。
【請求項2】
熱膨張性粒子(6)の重量含有量が10%~45%の範囲である、請求項1に記載の歯の表面で重合され固着された歯科用接着剤を超音波振動を適用して脱固着する用途に用いる歯科用接着剤。
【請求項3】
熱膨張性粒子(6)の重量含有量が10%~20%の範囲である、請求項2に記載の歯の表面で重合され固着された歯科用接着剤を超音波振動を適用して脱固着する用途に用いる歯科用接着剤。
【請求項4】
前記重合性モノマーが、ジメタクリル酸ビスフェノールAグリシジル;ジメタクリル酸トリエチレングリコール;メタクリル酸ヒドロキシエチル;ジメタクリル酸ポリエチレングリコール;ジメタクリル酸ジウレタン;及びこれらのモノマーの混合物から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯の表面で重合され固着された歯科用接着剤を超音波振動を適用して脱固着する用途に用いる歯科用接着剤。
【請求項5】
適用される超音波振動の周波数は、26キロヘルツ(kHz)~36kHzの範囲にある、請求項1~4のいずれか一項に記載の歯の表面で重合され固着された歯科用接着剤を超音波振動を適用して脱固着する用途に用いる歯科用接着剤。
【請求項6】
前記重合された歯科用接着剤(26)が、歯の空洞を閉じるための歯科用セメントであり、超音波振動を加えることにより、前記空洞からセメントが除去される、請求項1~5のいずれか一項に記載の歯の表面で重合され固着された歯科用接着剤を超音波振動を適用して脱固着する用途に用いる歯科用接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
歯列矯正用接着剤は、歯の表面に歯列矯正器具を固定するのに役立つ。
歯列矯正用接着剤は、典型的には、重合開始剤とともに、アクリレート又はメタクリレートタイプの1つ以上の重合性モノマーを含む。
歯列矯正器具は、接着剤中に存在するモノマーを、例えば青色光の照射下で重合させることにより、高い耐久性で歯に固定される。
【0002】
歯列矯正治療が実施されたら、歯列矯正器具を歯の表面から取り外す必要がある。
そのために器具は、その目的のために設計された鉗子を使用して機械的に取り外すことができる。この方法は比較的荒っぽく、エナメル質に病変を引き起こす可能性がある。鉗子の使用は、患者にとって痛みを伴うか、あるいはトラウマを引き起こす場合がある。接着剤は必ずしも完全に除去されるとは限らず、歯に残留物が残り、従ってこれを除去するために歯科用バーの使用が必要になる場合がある。この処置がまた、エナメル質にさらなる損傷をもたらす可能性がある。
【0003】
歯列矯正器具を外すためのその機械的方法の使用を避けるために、特開2007-320929号公報は、熱膨張性粒子を組み込んだ歯列矯正用接着剤を提案している。各熱膨張性粒子は、ブタンなどの膨張剤を封入したシェルの形をしている。温度が上昇すると、シェルに含まれる膨張剤が膨張して、それがシェルの膨張を引き起こし、粒子の体積が増加する。
【0004】
特開2007-320929号公報は、鉗子を使用するのではなく、熱膨張性粒子を膨張させるために接着剤を比較的高い温度に加熱し、それによりポリマー格子を破壊することにより、器具を剥がすことを提案する。しかし、比較的高い温度を適用するヒーター部材の使用は、不快感をもたらし、治療中の患者の火傷の危険さえももたらし得る。
【0005】
他のタイプの歯科用接着剤の除去も同様に、完全に満足できる方法で行うことは不可能である。この問題について、例えば虫歯を除去した後、歯の内部に形成された空洞に一時的に塞ぐ(plug)ために使用される歯科用セメントを除去することを言及し得る。そのような歯科用セメントは通常、歯科用バーを使用して機械的に除去される。その方法は、患者の歯の組織を損傷する可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の目的と概要)
本発明は、従来技術の欠点を克服する。
第1の態様において本発明は、少なくとも1種の重合性モノマーと、重合開始剤と、膨張剤を封入するシェルを含む熱膨張性粒子とを含む歯科用接着剤を提供し、この歯科用接着剤は、熱膨張性粒子のシェルがアクリロニトリルとメタクリル酸メチルの共重合体でできている点で、注目すべきである。
【0007】
本発明者らは、研究中に2つの主要な観察を行った。
【0008】
まず、超音波振動を使用すると、熱膨張性粒子が膨張し、これにより接着剤のポリマー格子が破壊され、接着力が低下することが観察された。この作用は、熱膨張性粒子のシェルの性質に関係なく発生する。その結果、超音波を適用することにより、歯科用接着剤を効果的かつ快適に剥がしながら、制限された加熱を行うことができ、それにより患者が火傷するリスクを低減できる。
【0009】
さらに、アクリロニトリルとメタクリル酸メチルの共重合体でできたシェルを有する特定の熱膨張性粒子を使用すると、これらの粒子の膨張が吸熱性の変換に相当する限り、超音波の適用中の加熱をさらに低減することが観察された。
【0010】
従って本発明は、治療の最後に、特に歯の組織の火傷及び損傷のリスクを低減することにより、患者にとって簡単でより快適な方法で歯科用接着剤を剥がすことを可能にする。
【0011】
1つの実施態様において、熱膨張性粒子の重量含有量は10%~45%の範囲である。
熱膨張性粒子の重量含有量が10%以上であることは、超音波を使用した接着剤の剥離をさらに促進するのに有用である。この重量含有量を45%以下に制限することにより、治療中に接着剤による良好な固定を確保することも可能になる。
特に、熱膨張性粒子の重量含有量は10%~20%の範囲であり得る。
【0012】
1つの実施態様において、重合性モノマーは、ジメタクリル酸ビスフェノールAグリシジル(Bis-GMA);ジメタクリル酸トリエチレングリコール(TEGDMA);メタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA);ジメタクリル酸ポリエチレングリコール(PEGDMA);ジメタクリル酸ジウレタン(DUDMA);及びこれらのモノマーの混合物から選択される。
【0013】
本発明はまた、歯の表面に固定された重合された歯科用接着剤を剥がす方法も提供し、前記重合された接着剤は、少なくとも樹脂と熱膨張性粒子とを含み、前記方法は、重合された接着剤に超音波振動を加えることにより、重合接着剤が剥がされる点で注目に値する。
このような方法は、特に歯の組織の火傷及び損傷のリスクを低減することにより、患者にとって快適な方法で、重合された歯科用接着剤を剥がすことを可能にする。
【0014】
重合接着剤は、上記接着剤を重合することにより得ることができる。従って熱膨張性粒子は、膨張剤を封入するアクリロニトリルとメタクリル酸メチルの共重合体でできたシェルを有してもよい。
【0015】
上述のように、特定の熱膨張性粒子の使用は、超音波を用いる剥離中の加熱をさらに制限するのに役立つ。
特に、適用される超音波振動の周波数は、26キロヘルツ(kHz)~36kHzの範囲であり得る。
【0016】
上述の歯科用接着剤は、様々な歯科用途で使用され得る。
すなわち、第1の例において、歯科用接着剤は歯列矯正用接着剤であってもよく、これは、歯列矯正器具を歯の表面に固定するために使用することができる。
【0017】
そのような状況下では、歯列矯正治療の最後に、重合された接着剤に超音波振動を加えることにより、歯列矯正器具が剥がされる。従ってこの第1の例では、この方法は、重合された歯科用接着剤によって歯科用器具が歯の表面に固定され、そして、超音波振動を加えることにより前記器具が剥がれるようにする。
特に、歯列矯正器具を外した後、歯の表面に付着した重合された歯科用接着剤の残留物を剥がすために、超音波振動の適用を継続してもよい。
【0018】
第2の例において、歯科用接着剤は、歯に形成された空洞を閉じるために使用される歯科用セメントであってもよい。
従ってこの第2の例では、方法は、重合された歯科用接着剤が歯の空洞を閉じる歯科用セメントであり、そして超音波振動を加えることにより空洞からセメントが除去される(unplugged)されるようにするものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の他の特徴及び利点は、非限定的な例として与えられる以下の説明と、添付の図面を参照することにより明らかになる。
【
図1】本発明の例に関連して実施できるように、歯の表面に歯列矯正器具を貼り付け、次に剥がすために実施される様々な工程を示すフローチャートである。
【
図2】歯の表面に固定された歯列矯正器具を示す図である。
【
図3】本発明の方法の第1の例に関連して、歯の表面から歯列矯正器具を剥がすために超音波が適用されることを示す図である。
【
図4】本発明の方法の第1の例に関連して、歯列矯正器具が剥がされた後、接着剤の残留物を剥がすための超音波の適用を示す図である。
【
図5】本発明の方法の第1の例に関連して、接着剤残渣を除去した後に得られる歯の表面状態を示す図である。
【
図6】歯の内側に形成された空洞を一時的に塞ぎ(plug)、次に詰め物を除去する(unplug)ために実施される様々な工程を示すフローチャートであり、これらの工程は本発明の変更態様に関して実施することができる。
【
図7】本発明の方法の第2の例に関して、歯科用セメントで閉じられた空洞からセメントを除去する(unplug)ための超音波の適用を示す図である。
【
図8】歯科用セメントを除去した後に得られる、セメントが除去された(unplugged)空洞を示す図である。
【
図9】2種類の熱膨張性粒子の膨張の吸熱特性を比較する示差走査熱量測定によって得られた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施態様の詳細な説明)
図1~
図5を参照して、歯の表面に歯列矯正器具を固定するために接着剤が使用される本発明の例を以下に説明する。
【0021】
歯列矯正器具に貼り付けるために、最初に、歯列矯正器具に及び/又は器具を取り付ける歯の表面に、接着剤の層が塗布される(工程E1)。歯の表面を洗浄し及び媒染剤(mordant)を塗布する慣用の予備処理を、事前に実施してもよい。
【0022】
接着剤は、少なくとも1種の重合性モノマーと重合開始剤を含む。前記少なくとも1種の重合性モノマーは、アクリレート又はメタクリレートモノマーであってもよい。接着剤は、単一の重合性モノマーを有してもよく、又は複数の異なる重合性モノマーの混合物を含んでもよい。
【0023】
本発明に関連して使用される接着剤は、熱膨張性粒子をさらに含む。各熱膨張性粒子は、膨張剤を封入するシェルを提供する。
【0024】
好適な方法において、シェルは、アクリロニトリルとメタクリル酸メチルの共重合体(AN/MMA)から作られる。そのようなシェルを提示する粒子は、供給業者AkzoNobelからの参照名Expancel FG52 DU 80又はExpancel 031 DU 40で入手可能である。
【0025】
変更態様において、塩化ビニリデンとアクリロニトリルの共重合体(VCl2/AN)から作られたシェルを持つ熱膨張性粒子を使用することができる。そのようなシェルを提示する粒子は、供給業者 Matsumoto から 参照名 Microsphere(登録商標)F-30 で入手できる。
【0026】
例として、膨張剤はブタンなどの炭化水素であってもよい。膨張剤は気体状態であってもよい。
熱膨張性粒子の平均サイズ(D50)は、6マイクロメートル(μm)~80μmの範囲にある。
【0027】
接着剤はまた、オルガノシランなどのカップリング剤を含んでもよい。接着剤はまた、シリカなどの少なくとも1種の充填剤を含んでもよい。
【0028】
特に、接着剤は以下を含んでもよい:
- 重量含有量が24%~84.8%の範囲、例えば57.5%~79.4%の範囲の前記少なくとも1種の重合性モノマー;
- 重量含有量が0.1%~1%の範囲、例えば0.1%~0.5%の範囲の重合開始剤;
- 重量含有量が10%~45%の範囲、例えば10%~20%の範囲の熱膨張性粒子;
- 任意選択的に、重量含有量が5%~25%の範囲、例えば10%~20%の範囲の充填剤;そして
- 任意選択的に、重量含有量が0.01%~5%の範囲、例えば0.5%~2%の範囲のカップリング剤。
【0029】
接着剤が塗布されると、歯列矯正器具は歯の表面に配置される(工程E2)。
歯列矯正器具は、歯列矯正ワイヤーが固定される歯列矯正ブラケットであってもよい。変更態様において、歯列矯正器具は、例えば歯列矯正リング又は保持アーチであってもよい。歯列矯正器具は、金属、セラミック、又は複合材料でできていてもよい。
【0030】
歯列矯正器具が所定の位置に配置されると、モノマーは、例えば光照射の影響下で重合される(工程E3)。得られる重合された接着剤は、重合性モノマーの重合から生じる樹脂を含む。重合は重合開始剤により開始される。歯科矯正器具は、重合された接着剤によって歯の表面に固定される。患者の歯に複数の歯列矯正ブラケットを固定することが可能である。歯列矯正ブラケットが所定の位置に配置されたら、これらのブラケットを使用して歯列矯正ワイヤーを固定し、目的の歯列矯正治療を行うことができる。
【0031】
歯科矯正治療の最後に、重合された接着剤層に超音波を適用することにより、歯科矯正器具が剥がされる(工程E4)。
【0032】
この工程を実施するには、超音波チップなどの超音波アプリケーターを重合された接着剤の位置に移動させる。適切な超音波アプリケーターの例として、供給業者Satelecによって販売されている No.10P インサートを挙げることができる。剥離を実施するために適用される超音波の周波数は、26kHz~36kHzの範囲にあってよい。
【0033】
それぞれがAN/MMA共重合体でできたシェルを有する熱膨張性粒子の使用が好ましい。
図9は示差走査熱量測定(DSC)によって得られた実験結果を示しており、AN/MMA粒子(曲線A)の膨張はVCl
2/AN粒子(曲線B)の膨張よりも吸熱性が大きいことを示す[13.83J/gと比較して69.62ジュール/グラム(J/g)]。この試験は、供給業者 Matsumoto からの参照名Expancel FG52 DU 80 のAN/MMA粒子と、参照名 Microsphere(登録商標)F-30 のVCl
2/AN粒子を使用して実施された。試験の間、温度は毎分3°Cの割合で60°Cから140°Cまで上昇させた。DSC試験で熱活性化中、AN/MMA粒子はVCl
2/AN粒子が膨張する温度よりも少し高い温度で膨張した。それにもかかわらず、本発明の文脈のように、超音波振動を適用することにより粒子が膨張する場合、AN/MMA粒子をより高い温度に上げる必要はなく、また剥離中に生じる加熱は、VCl
2/AN粒子よりも、AN/MMA粒子においてより著しく制限されている。従って、AN/MMA粒子を使用すると、超音波を使用した接着剤の剥離が、VCl
2/AN粒子を使用した場合よりもより快適になることを確実にすることが可能になる。
【0034】
図2は、歯列矯正ブラケット1が歯の表面5に固定されている歯列矯正治療の使用を示す。
ブラケット1は、樹脂4と熱膨張性粒子6とを含む重合された接着剤16の層によって表面5に接着させられる。
重合された接着剤16の層は、ブラケット1の後壁1aと表面5との間に存在する。歯列矯正治療を行うために、歯列矯正ワイヤー2がブラケット1に固定される。
【0035】
図3及び4は、矯正治療の最後にブラケット1が剥がされることを示す。
超音波チップ10は重合された接着剤16まで移動され、超音波周波数で振動する(
図3)。その影響で熱膨張性粒子6が膨張し、それにより接着剤のポリマー格子が破壊される。超音波チップ10には、歯の表面からの接着剤20の除去を促進するために、水を送るためのノズルが設けられてもよい。
【0036】
オペレーターは、制限された加熱と、歯の組織を損傷するリスクなしで、歯の表面5からブラケット1を簡単に剥がすことができる(
図4の矢印D)。
図4に示すように、ブラケット1を剥がした後、歯の表面5に接着剤の残留物20が残る可能性がある。
【0037】
有利には、ブラケット1を剥がした後、残留物20を除去するために、超音波の印加を継続することができる。次に、
図5に示すように、接着剤のない表面状態5の歯が得られる。
【0038】
超音波の使用は、接着剤の残留物を除去するために歯科用バーを使用することを回避するのに有利に役立ち、それにより、歯の組織を損傷するリスクがさらに制限される。
【0039】
図6~8を参照して、接着剤が、歯に存在する空洞を一時的に塞ぐ(plug)ために使用される歯科用セメントである変更態様の実施を以下に説明する。例えば、そのような歯科用セメントは、次の治療を待つ間に、虫歯を除去することから生じる空洞を塞ぐ(plug)ために使用することができる。
【0040】
図6を参照すると、本明細書に記載される測定例は、上述の歯科用接着剤によって構成される歯科用セメントを用いて空洞を埋めることを含む(工程E10)。
【0041】
次に接着剤は、空洞内で重合された歯科用セメントを得るために、上記のように重合される(工程E30)。従って、重合された歯科用セメントは、次の歯科治療を待つ間、所望の期間、空洞を閉じているのに役立つ。
【0042】
所望の時間に、重合された歯科用セメントは超音波を適用することにより除去される。上述の方法と同様の方法で、超音波を適用すると、熱膨張性粒子が膨張して歯科用セメントが剥がされ、その結果空洞からセメントが除去される(工程E40)。
【0043】
空洞からセメントを除去する方法については、
図7及び8を参照して説明される。
図7は、空洞Cを閉じる重合された歯科用セメント26の近傍における超音波チップ10の存在を示す。上述のように、セメント26は樹脂4及び熱膨張性粒子6を含む。歯列矯正用接着剤、例えばさまざまな成分の内容物を説明するときに上記された特徴は、この実施に適用される。
【0044】
超音波の影響で熱膨張性粒子6が膨張する結果として、セメント26は剥がれ、空洞Cから除去される。
この処理により、
図8に示すように、セメントのない(unplugged)空洞が現れる。
【0045】
超音波を使用して歯科用セメントによって閉じられた空洞のセメントを除去する(unplug)この方法は、有利なことに、歯科用バーの使用を回避し、それにより、歯の組織を損傷するリスクを制限するのに役立つ。
【0046】
本発明は、天然の歯又は人工の歯の治療に適用される。
【実施例】
【0047】
以下の表1に示される組成を有する歯列矯正用接着剤が調製された。各成分の割合は、重量パーセントで示される。
【表1】
【0048】
上記表1に示された組成を有する歯科矯正用接着剤を製造するために、以下の操作プロトコルが実施された。
【0049】
BIS-GMAとTEGDMAモノマーの最初の混合物は、ビーカー内のターボテストタイプのスターラーを使用して作成された。混合段階の合計時間は15分であった。攪拌は毎分200回転(rpm)の速度で実施された。
【0050】
光開始剤系を最初の混合物に取り込み、「ターボテスト」スターラーを使用して40分間撹拌した。光開始剤系は、カンフォロキノンと第3級アミン系であった。光への暴露を避けるために、ビーカーはアルミ箔で囲んだ。撹拌は180rpmの速度で実施した。このようにして得られた混合物の内容物を、次にプラネタリーミキサーの容器に移し、真空下で5分間混合した。こうして、第2の混合物が得られた。
【0051】
第2の混合物に充填剤を加え、約10分間撹拌してペーストを得た。次に、得られたペーストを撹拌する追加の段階を真空下で5分間実施した。こうして、第3の混合物が得られた。
【0052】
次に、第3の混合物にExpancel FG52 DU 80熱膨張性粒子を加えた。最初の攪拌を5分間行って粒子を完全に取り込み、次に真空下で5分間の2回目の攪拌を行った。こうして、第4の混合物が得られた。
【0053】
次に、第4混合物にゲル化剤を加えた。撹拌を2分間行ってゲル化剤を完全に取り込んだ。次に、真空下で撹拌を8分間行った。
最終的に得られた歯科矯正用接着剤の重量は91.91グラム(g)であった。得られた接着剤は、粘着性があり濃密な淡黄色ペーストの形態であった。
【0054】
このようにして得られた歯科矯正用接着剤を使用して、次に歯列矯正ブラケットを歯の表面に貼り付け、超音波でブラケットを外す可能性を評価した。次の操作プロトコルが実施された:
- 各歯の表面を洗浄;
- ゲル状の媒染剤(mordant)を同じ表面に塗布し、これを所定の位置に置き、そのまま30秒間(s)~60秒間放置;
- 媒染剤(mordant)ゲルの除去し、すすぎ、塗布されていた表面を乾燥;
- シリンジを使用して、歯科矯正用ブラケットの背面壁に固定のために歯科矯正用接着剤を塗布;
- 歯の表面にブラケットを配置し、フックを使用してその位置を調整;
- ブラケットを動かさずに、ブラケットのベースの周りの余分な接着剤を除去;
- 供給業者Satelecにより販売されている「ミニLED」装置からの青色光放射線を使用して、各隣接面間の上で5秒~25秒の時間にわたって歯科矯正用接着剤を重合;
- 治療する歯列弓全体に対して上記の操作の繰り返す;そして
- 最後のブラケットを固定した後、歯列矯正ワイヤーを配置;
【0055】
次に、供給業者Satelecが販売している10Pインサートを使用して、接着剤とブラケットの間の界面で各ブラケットの周りに超音波を当てた。従って、ブラケットは制限された加熱と、歯の組織を損傷することなく、歯の表面から簡単に外された。
【0056】
歯列矯正ワイヤーとブラケットを取り外した後、接着剤の付着物が残っていた歯を、すべての残留物がなくなるまで超音波を当てて洗浄した。
【0057】
用語「...から...の範囲にある」は、境界を含むと理解されるべきである。