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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】液晶乳化方法および液晶乳化物
(51)【国際特許分類】
   B01J 13/00 20060101AFI20230313BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230313BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230313BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20230313BHJP
【FI】
B01J13/00 A
A61K9/10 ZNM
A61K47/34
A61K47/44
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020001273
(22)【出願日】2020-01-08
(65)【公開番号】P2021109123
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 憲二
(72)【発明者】
【氏名】堀 容子
(72)【発明者】
【氏名】荒木 伸一
【審査官】宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0213579(US,A1)
【文献】特開2012-077282(JP,A)
【文献】特開2021-063171(JP,A)
【文献】鈴木敏幸,乳化技術の基礎(相図とエマルション),J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn.,日本,2010年,Vol.44, No.2,p.103-117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J13/00
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油中水型プレエマルジョン生成部において油中水型プレエマルジョンを生成し、液晶相形成部に液送して油中水型プレエマルジョンと水中油型エマルジョンとの遷移状態である液晶相を形成し、前記液晶相を水中油型エマルジョン生成部に液送し、水中油型エマルジョン生成部において水中油型エマルジョンを生成する、液晶乳化方法であって、
親水性と親油性の均衡を表すHLB値が8.0~19.0であるノニオン界面活性剤に対して、所定割合の水分および油分としてのシリコーン組成物を添加し、
前記油中水型プレエマルジョンを形成する際の温度を-40℃から-5℃の範囲から選択される温度で冷却することによって所定温度に設定し、最終的な水中油型エマルジョンの粒子径を制御することにより、最終的な水中油型エマルジョンの粒子径を調整し、選択された温度に応じた所定のせん断エネルギー付与により、界面活性剤が形成する二分子膜の間に油分および水分とが交互に配合した規則的な分子配列である液晶ラメラを調整することを特徴とする液晶乳化方法。
【請求項2】
ノニオン界面活性剤、油分がシリコーン組成物、および水分からなるO/Wエマルジョンを所定温度で形成し、そこから所定温度に亘って冷却して、界面活性剤が形成する二分子膜の間に油分と水分とが交互に配合した規則的な分子配列である液晶ラメラを形成する、請求項1に記載の液晶乳化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶乳化方法および液晶乳化物に関し、より詳細には、処方的な制約を軽減しつつ、分散相のサイズのばらつきが小さい状態で、分散相のサイズを調整可能な液晶乳化方法および液晶乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に開示のように、乳化の過程で液晶やD相のような分子の無限会合体の領域を経ると微細なエマルジョンが生成することが知られている。
具体的には、液晶乳化法、転相乳化法、転相温度乳化法、D相乳化法等がある。
このうち、液晶乳化法は、界面活性剤が形成する液晶中に分散相(O/Wエマルジョンでは油相)を分散・保持させる微細な乳化粒子を生成させる技術である。乳化は、液晶中に油相を分散・保持させて液晶中油(O/LC)型エマルジョンを生成させる第1ステップと、O/LCエマルジョンに水相を添加してO/Wエマルジョンとする第2ステップの2段階のプロセスからなる。O/LCエマルジョン生成過程では、液晶を構成する界面活性剤分子が効率よく油/水界面へ配向して界面張力を低下させるとともに、強固な液晶膜が乳化粒子を合一から保護する。
利用される液晶としては、液晶ラメラ、逆ヘキサゴナル液晶、キュービック液晶があり、逆ヘキサゴナル液晶の場合、疎水性が強い界面活性剤が利用され、キュービック液晶の場合、親水性が強い界面活性剤が利用され、融解温度から常温までの温度変化履歴を必要とするのに対して、液晶ラメラの場合、油成分の種類(所用HLB)にあまり影響されることがなく、このような温度変化履歴を必要としない。
【0003】
転相乳化法は、油相中に界面活性剤を溶解し、その後、水相を添加しながら攪拌し、連続相を油相から水相へ反転させることにより、O/Wエマルジョンを生成する方法であり、界面活性剤の種類、水相の添加速度などの処方が複雑に絡み、再現性のよりエマルジョンの調整が困難と指摘されている。このために、均一で微小なエマルジョンを生成させるためには、可溶化→液晶ラメラ→O/D(界面活性剤)エマルジョン→O/Wエマルジョンのステップを踏むことが必要と指摘されている。
【0004】
転相温度乳化法は、ノニオン界面活性剤、油、水の3成分系において、ある温度において、ノニオン界面活性剤が無限に会合し、多量の油と水とを含んだ巨視的な相として分離し、さらに温度を上げると、ノニオン界面活性剤が油相中に溶解することで、逆ミセルを形成し、水が可溶化することから、この転相温度を利用して乳化する方法であるが、転相温度付近で油滴の合一速度も速いので、合一に対して安定となる温度領域までいっきに冷却するという温度処方に対する制約が大きい。
【0005】
D相乳化法は、界面活性剤、油、水に多価アルコールを第4成分として加え、微細なO/Wエマルジョンを生成する方法であり、途中に、O/D(界面活性剤)エマルジョンが生成され、その際、界面活性剤の濃度が高いと、ヘキサゴナル相や液晶ラメラが現れるが、このような液晶の会合構造を破壊するのに多価アルコールの添付を要する。
【0006】
以上のように、液晶乳化法に限らず、転相乳化法、転相温度乳化法およびD相乳化法においても、液晶状態、特に液晶ラメラが形成されている。
【0007】
この点、特許文献1には、液晶乳化組成物の製造方法が開示されている。この液晶乳化組成物の製造方法において、界面活性剤の種類を限定し、親水性の高いノニオン界面活性剤と親油性の界面活性剤を用い、界面活性剤と油との比率を限定することにより、界面張力を低下して乳化することにより、100%の液晶ラメラを生成し、系全体が液晶である状態を形成する。
【0008】
液晶ラメラは、分子構造レベルにおいて、界面活性剤が層状に幾重にも重なった基本骨格をなし、層間に、分散相が入り込んだ構造であり、比較的広範囲な濃度、温度領域で形成可能であり、温度や被乳化油の種類に対して影響を受けにくい利点を有する。
しかしながら、従来の液晶ラメラによる液晶乳化組成物の製造方法において、たとえば、目的物がO/Wエマルジョンである場合に、油滴の粒子サイズを積極的に微細化するのが困難であった。
より詳細には、強固な液晶膜が乳化粒子を合一から保護する、換言すれば、油滴の拡径化を抑制するという消極的な面を有するに過ぎなかった。
O/Wエマルジョンは、化粧品を始め多用途に利用され、油滴の粒子サイズの積極的な調整技術が要望されている。
【0009】
非特許文献2には、従来、エマルションの粒子サイズ制御は、可溶化領域を利用した微細エマルションの調製と、高圧ホモジナイザーを用いた微細エマルションの調製とに大別され、前者においては、水溶液中にミセルが生成し油を可溶化した領域を利用することから、利用温度範囲が狭く、安定化に欠け、処方的な制限がある一方、後者においては、粒子サイズの分布が広いという欠点が報告されている。
【0010】
特許文献2には、ホスファチジルコリンを含有する水素添加リン脂質および水溶性多価アルコールとを主成分として含むゲル状混合物およびその他の成分からなる水中油型乳化化粧料、および該ゲル状混合物に水を添加して得られる液晶ラメラを経る水中油型乳化化粧料の製造方法が開示されている。これはゲル化乳化法とも呼ばれる方法であり、該文献に開示があるように、粒子径が10μm以下の制御は可能であるが、脂質二重層的な構造と思われるため、微細な粒子サイズの制御には適していないと思われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn., Vol.44, No.2(2010), p.103
【文献】J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn., Vol.44, No.3(2010), p.199
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第3987551号公報
【文献】特開2007-314442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上の技術的問題点に鑑み、本願発明の目的は、処方的な制約を軽減しつつ、分散相のサイズのばらつきが小さい状態で、分散相のサイズを調整可能な液晶乳化方法および液晶乳化物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を達成するために、本発明の液晶乳化方法は、
所定範囲のHLBを有する界面活性剤に対して、所定割合の水分および/または油分を添加し、分散体またはエマルジョンを形成する際の温度を所定温度に設定することにより、界面活性剤が形成する二分子膜の間に油分および/または水分とが交互に配合した規則的な分子配列である液晶ラメラを調整する、構成としている。
【0015】
以上の構成において、液晶ラメラは、サーモトロピック液晶でなく、リオトロピック液晶であり、液晶発現に対する温度範囲の制約が比較的小さく、かつ、ネマティック液晶、コレステリック液晶でなく、スメクティック液晶であるから、他の液晶に比べて、分子配列の規則性が高く、固体結晶に近い性質を持っており、本発明は、このような液晶ラメラの特質に着目してなされたものである。
特に、液晶ラメラの形成の際の温度に応じて、形成される液晶ラメラの基本骨格である界面活性剤が形成する二分子膜の構造が変動することを発見するに至った。
より詳細には、液晶ラメラの形成の際の温度を低温にするほど、形成される液晶ラメラの基本骨格、特に層間距離が狭くなる傾向となり、これにより、たとえば、目的物がO/Wエマルジョンである場合に、層間に入り込む油分の大きさが異なることにより、液晶ラメラの基本骨格である規則的な分子配列により形成される層間に入り込む油分であることから、サイズのばらつきが小さい状態で、O/Wエマルジョンの油滴の粒子サイズに影響を及ぼし、以て、処方的な制約を軽減しつつ、分散相のサイズのばらつきが小さい状態で、分散相のサイズを調整可能である。
【0016】
さらにまた、ノニオン界面活性剤、油分がシリコーン組成物、および水分からなるO/Wエマルジョンを所定温度で形成し、そこから所定温度に亘って冷却して、界面活性剤が形成する二分子膜の間に油分と水分とが交互に配合した規則的な分子配列である液晶ラメラを形成するのがよい。
【0017】
加えて、ノニオン界面活性剤、油分がシリコーン組成物、および水分からなるO/Wエマルジョンを形成し、それを-40℃ないし-5℃の範囲から選択した温度まで冷却して、選択した温度に応じた所定のせん断エネルギー付与により、界面活性剤が形成する二分子膜の間に油分と水分とが交互に配合した規則的な分子配列である液晶ラメラを形成するのがよい。
【0018】
また、界面活性剤と水との分散体により、界面活性剤が形成する二分子膜の間に水分が配合した液晶ラメラを形成し、油分を添加する際に所定温度まで冷却して、せん断エネルギー付与により、界面活性剤が形成する二分子膜の間に油分と水分とが交互に配合した規則的な分子配列である液晶ラメラを形成してもよい。
【0019】
さらに、界面活性剤と水との分散体により、界面活性剤が形成する二分子膜の間に水分が配合した液晶ラメラを形成する段階で所定温度まで冷却し、そこに油分を添加して、せん断エネルギー付与により、界面活性剤が形成する二分子膜の間に油分と水分とが交互に配合した規則的な分子配列である液晶ラメラを形成してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、いわゆるローター/ステ―タタイプのせん断装置を利用して、W/Oエマルジョンから液晶ラメラの液晶乳化物により、O/Wエマルジョンを連続的に製造する場合を例として、以下に、本発明の実施形態を図面を参照しながら、詳細に説明する。
特に、ノニオン界面活性剤を用いてシリコーン組成物を油分とする水中油型エマルジョンについて、剥離フィルムに使用する剥離材の用途を例として説明する。
なお、本発明の液晶乳化方法または液晶乳化物は、油分がシリコーン組成物に限定されるものではなく、また、W/Oエマルジョンを経由することに限定されるものでもない。
【0021】
近年、各種電子デバイスにおいては軽薄短小化かつ多層構造化が進んでおり、そのデバイスの製造時には剥離フィルムを必要とする場面が多い。これは、タッチパネルやディスプレイなどの光学用接着剤向けや多層構造を有する軽薄短小な電子デバイスの製造工程において、剥離フィルムの剥離剤層の、フィルム基材との接触面の反対側の表面(以降、これを剥離面と記載することがある)に別の材料からなるフィルムを重ねてから後工程でそのフィルムを剥離させたり、剥離面に別の材料を塗工し(以降そのような材料を塗料と記載することがある)、それを乾燥させ、後工程でそれを剥離させるようなステップが用いられることが多くなっているためである。剥離面に粘着剤や塗料を塗工し、それを乾燥させ、後工程でその乾燥物を剥離させるというステップは、多層構造を有する軽薄短小な電子デバイスの製造時においては特に頻繁に用いられている。近年の各種電子デバイスの軽薄短小化・多層構造化に伴う塗料の薄膜化に伴い、極性を有する塗料を剥離フィルムに薄く(厚さ数ナノメーター~マイクロメーターのオーダーで)、塗工し乾燥させ剥離する場合でも実施できる必要がある。
そして、そのためには、剥離フィルムの表面は、高度の平滑性が求められ、突起物等も極力ないことが求められる。しかも、前述のような剥離フィルムの表面状態を達成するには、エマルジョン粒子径を小さくすることが求められている。
【0022】
こうした剥離フィルムに使用する剥離剤は、優れた剥離特性を付与できる観点からシリコーンを含有する剥離剤を使用することが好適とされており、しかも、溶剤タイプや無溶剤タイプに比して、安全面、応用面での利点が多いエマルジョンタイプを使用することがより好ましいとされている。
【0023】
図1に示すように、水中油型エマルジョン製造システム10は、油中水型プレエマルジョン生成部12と、液晶相形成部14と、水中油型エマルジョン生成部16とから、概略構成され、油中水型プレエマルジョン生成部12、液晶相形成部14、および水中油型エマルジョン生成部16が、この順に、互いに配管18を通じて、連通接続され、配管18の途中に配設された液送ポンプ20により、油中水型プレエマルジョン生成部12において生成された油中水型エマルジョンが、液晶相形成部14に液送され、そこで、油中水型プレエマルジョンと水中油型エマルジョンとの遷移状態である液晶相が形成され、形成された液晶相が、水中油型エマルジョン生成部16に液送され、そこで、水中油型エマルジョンが生成され、最終目的物である水中油型エマルジョンが製造されるようにしている。
【0024】
油中水型プレエマルジョン生成部12は、乳化分散部22と、冷却部24とから概略構成され、乳化分散部22は、機械的な撹拌力を用いて液滴にせん断力を与え、分散する従来の乳化機でよく、ホモミキサーに代表される高速撹拌機や超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどが採用可能である。
乳化分散部22において、水分量、後に説明する油分であるシリコーン組成物の量および後に説明するノニオン界面活性剤の量の割合を選択して、乳化分散させる。
【0025】
水中油型シリコーンエマルジョン組成物の構成は、典型的には、以下である。
(A)平均組成式が一般式(1)で表され、1分子中にケイ素原子と結合したアルケニル基を2個以上含有するジオルガノポリシロキサン20~60質量%、
(化1)
bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、Rはアルケニル基、aは0.998~2.998、bは0.002~2、a+bは1~3である。)、
(B)平均組成式が一般式(2)で表され、ケイ素原子と結合する水素原子を2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:5~30質量部、
(化2)
SiO(4-d-e)/2 (2)
(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一または異なる一価の炭化水素基、dは0.999~2.999、eは0.001~2、d+eは1~3をである。)
(C)ノニオン系界面活性剤:1~10質量部、
(D)白金系触媒:成分(A)に対して1~500ppm、
(E)水:30~80質量部。
本発明において適用しうる水中油型シリコーンエマルジョン組成物の構成は、上記の構成に限定はされない。例えば、上記成分(A)、(B)の代りに、何等かの反応性、非反応性を問わないシリコーン成分を用いることもできる。
【0026】
(成分(A))
成分(A)は、平均組成式が一般式(1)で表され、1分子中にケイ素原子と結合したアルケニル基を2個以上含有するジオルガノポリシロキサンである。成分(A)のジオルガノポリシロキサンを、以下、アルケニルオルガノポリシロキサンともいう。
(化1)
SiO(4-a-b)/2 (1)
式(1)中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一又は異なる一価の炭化水素基、Rはアルケニル基、aは0.998~2.998、bは0.002~2で、a+bは1~3である。
式(1)中、Rは、炭素原子1~18個を有することが好ましい。また、Rは、SiC-結合することが好ましい。さらに、Rは、脂肪族炭素-炭素多重結合を有していない置換又は非置換の炭化水素基であることが好ましい。
式(1)中、Rは、炭素原子1~18個を有することが好ましい。また、Rは、脂肪族炭素-炭素多重結合を有する一価の炭化水素基であることが好ましい。
式(1)中、aは0.998~2.998、bは0.002~2、a+bは1~3である。
また、一般式(1)で表されるアルケニルオルガノポリシロキサンは、分子1個当たり平均して少なくとも2個のRが存在することが好ましい。
【0027】
アルケニルオルガノポリシロキサンは、25℃における粘度が5~100000mPa・sであることが好ましい。
【0028】
成分(A)中のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-ブテニル基、1-ヘキセニル基等の炭素原子数2~8のアルケニル基を例示することができ、好ましくはビニル基、アリル基であり、特に好ましくはビニル基である。これらのアルケニル基は、後記成分(E)と反応して網目構造を形成する。アルケニル基は、成分(A)の分子中に平均約2個、好ましくは1.6個以上2.2個以下存在する。かかるアルケニル基は、分子鎖の末端のケイ素原子に結合していてもよいし、分子鎖の途中のケイ素原子に結合していてもよい。硬化反応速度の面からは、アルケニル基が分子鎖末端のケイ素原子のみに結合したアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンが好ましい。
【0029】
成分(A)中のケイ素原子に結合した他の有機基は、好ましくは炭素数1~12の脂肪族不飽和結合を含まない置換もしくは非置換の1価の炭化水素基である。上記他の有機基は、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基;これらの炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子、シアノ基等によって置換されたクロロメチル基、2-ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、クロロフェニル基、ジブロモフェニル基、テトラクロロフェニル基、ジフルオロフェニル基、β-シアノエチル基、γ-シアノプロピル基、β-シアノプロピル基等の置換炭化水素基等が挙げられる。特に好ましい有機基はメチル基、フェニル基である。
【0030】
成分(A)は、直鎖状でも分岐状でもよく、また、これらの混合物であってもよいが、分岐状のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンを含有する場合、架橋密度が高くなるため、低速での剥離力が高くなり、目的の剥離力を達することが難しいため、直鎖状がより好ましい。このアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは当業者に公知の方法によって製造される。
アルケニルオルガノポリシロキサン(A)の、25℃における粘度は、好ましくは5~2000000mPa・s、より好ましくは50~1000000mPa・s、特に好ましくは100~50000mPa・sの範囲内で付与される。5mPa・sより粘度が低い場合、ならびに2000000mPa・sより粘度が高い場合、乳化が難しく、安定なエマルジョンが得られない。さらに、
【0031】
成分(A)の含有量は、成分(A)~(E)の総質量を100質量部とした場合、20~60質量部である。60質量部を超えると、組成物の粘性が高まり、取り扱い性が悪くなる恐れがある。より好ましくは25~55質量部である。
【0032】
成分(A)のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは当業者に公知の方法によって製造されるものであり、硫酸、塩酸、硝酸、活性白土、亜リン酸トリス(2-クロロエチル)等の酸触媒、又は水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウム、水酸化テトラ-n-ブチルホスホニウム、ナトリウムシラノレート、カリウムシラノレートなどの塩基触媒を用いた鎖状及び/又は環状低分子量シロキサンの縮合及び/又は開環重合によって製造できる。
【0033】
成分(A)は、単一の成分でもよいし、上記の条件を満たす2種類以上の成分の混合物でもよい。
【0034】
(成分(B))
成分(B)は、平均組成式が一般式(2)で表され、1分子中にケイ素原子結合する水素原子を2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、成分(A)に対する架橋成分である。
(化2)
SiO(4-c-d)/2 (2)
式(2)中、Rは脂肪族不飽和基を含まない同一または異なる一価の炭化水素基、cは0.999~2.999、dは0.001~2、c+dは1~3を満たす。Rとしては、Rで例示した炭化水素基が用いられ、好ましくはアルキル基、より好ましくはメチル基が用いられる。成分(B)のケイ素原子に結合する水素原子は、好ましくは1分子中に3個以上である。
この成分(B)の25℃における粘度は、通常1~3000mPa・s、好ましくは5~500mPa・sである。
成分(B)の含有量は成分(A)~(E)の総質量を100質量部とした場合、5~30質量部である。5質量部未満だと、成分(A)の硬化が十分でなく、剥離フィルムに十分な強度が出なく、30質量部を超えると、組成物の粘性が高まり、取り扱い性が悪くなる恐れがあるほか、SiH基が過剰となり、剥離フィルム形成後に未反応の架橋剤がブリードアウトして何らかの不具合を起す可能性がある。より好ましくは10~20質量部である。
【0035】
本発明の水中油型シリコーンエマルジョン組成物の成分(B)の配合量は、成分(A)のアルケニル基の数に応じて配合されるものであり、成分(A)のケイ素原子に結合したアルケニル基の数(NA)と成分(B)のケイ素原子に結合した水素原子の数(NE)との比は1.0≦(NE/NA)≦6.0となる量、好ましくは1.5≦(NE/NA)≦4.0となる量に調節される。NE/NAが1未満だと、組成物の硬化が十分に進行せず、無反応のアルケニル基が剥離剤層に残留するので、経時的に剥離性が変化しやすい。また、NE/NAが6を超えると、オルガノハイドロジェンポリシロキサンにより、剥離性が本発明の意図に反して増強される。成分(B)は、公知の方法で当業者が製造することができる。
【0036】
成分(B)は、単一の成分でもよいし、上記の条件を満たす2種類以上の成分の混合物でもよい。
【0037】
成分(A)と成分(B)は互いに反応し合いシリコーン硬化物を形成するものである。従って、通常は、成分(A)単独と成分(C)以下の構成によるエマルジョン、および、成分(B)単独と成分(C)以下の構成によるエマルジョンを別々に作製し、キットとして用意しておき、これら2液を混合して用途に付すのが好適である。ただし、成分(A)と成分(B)を最初から共存させてエマルジョンを作製することも可能である。
【0038】
(成分(C))
成分(C)は、ノニオン界面活性剤であって、前記成分(A)、(B)、および、後述の成分(D)を水に分散させる役割を担うので、本発明の水中油型シリコーンエマルジョン組成物を提供することができる。親水性と親油性の均衡を表すHLB値が8.0~19.0であるノニオン界面活性剤が好ましく、特に10.0~18.0が好ましく、さらに好ましくは10.0~16.0である。このHLB値が上記範囲内のノニオン性界面活性剤であれば特に限定されるものではない。用いる界面活性剤のHLB値が適正でないと、たとえ乳化できたとしても、貯蔵安定性、希釈安定性が悪く十分な性能を発現することができない。HLB価が19.0を超えると、乳化力がなくなり、8.0に満たないと、油中水系エマルジョン状態で安定化してしまい液晶ラメラを形成し得ない。
その他の乳化助剤としてHLB値が低い界面活性剤を併用してもよい。
なお、HLBの適性範囲は、油分がシリコーン組成物でない場合、あるいは液晶ラメラの形成の具体的経路や方法によらず、等しく上記の適性範囲となる。
【0039】
このようなノニオン性界面活性剤の例として、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコールペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸アミド、ポリアルキルグリコシド等が挙げられる。これらのノニオン界面活性剤は、安全性、安定性、価格面からも好ましく、単体又は2種類以上の混合物として用いることができる。特に乳化安定性の観点からはポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。成分(C)の含有量は、成分(A)~(E)の総質量を100質量部とした場合、1~10質量部である。1質量部未満では分散が困難であり、10質量部を超えると、組成物の粘度が高くなり取り扱い性が悪くなる。より好ましくは3~6質量部である。
【0040】
(成分(D))
成分(D)は、白金属系触媒であって、成分(A)が、成分(B)を介した架橋構造を形成するとき起こる付加反応を触媒するヒドロシリル化触媒である。成分(A)の重量に対して1~500ppmとなる量、好ましくは5~200ppmとなる量、より好ましくは20~100ppmとなる量で含有される。含有量が1ppm未満では硬化に時間がかかり、本発明の水中油型シリコーンエマルジョン組成物を塗工された剥離フィルムの生産効率が悪くなる恐れがある。500ppmを超えると、当該組成物の作業可能時間が短くなるので、当該組成物をフィルム基材へ塗工するときに、作業性が落ちる恐れがある。
【0041】
成分(D)は、金属またはこの金属を含む化合物からなる。金属またはその化合物には例えば、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウムおよびイリジウム、好ましくは白金または白金を含む化合物を用いることができる。これらの中で特に白金系触媒は反応性が高く、好適である。金属は微粒子状の担体材料(例えば、活性炭、酸化アルミニウム、酸化ケイ素)に固定してもよい。白金化合物としては、白金ハロゲン化物(例えば、PtCl、HPtCl・6HO、NaPtCl・4HO、HPtCl・6HOとシクロヘキサンからなる反応生成物)、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金-アルコラート錯体、白金-エーテル錯体、白金-アルデヒド錯体、白金-ケトン錯体、白金-ビニルシロキサン錯体(例えば、白金-1,3-ジビニル1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、ビス-(γ-ピコリン)-白金ジクロライド、トリメチレンジピリジン-白金ジクロライド、ジシクロペンタジエン-白金ジクロライド、シクロオクタジエン-白金ジクロライド、シクロペンタジエン-白金ジクロライド)、ビス(アルキニル)ビス(トリフェニルホスフィン)白金錯体、ビス(アルキニル)(シクロオクタジエン)白金錯体等が挙げられる。また、ヒドロシリル化触媒はマイクロカプセル化した形で用いることもできる。この場合触媒を含有し、かつオルガノポリシロキサン中に不溶の微粒子固体は、例えば、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル樹脂又はシリコーン樹脂)である。また、白金系触媒は包接化合物の形で、例えば、シクロデキストリン内で用いることも可能である。
【0042】
(成分(E))
成分(E)は、前記成分(A)~(D)を乳化する際の分散媒となる水である。水は特に限定されないが、イオン交換水を用いることが好ましく、好ましくはpH2~12、特に好ましくはpH4~10である。鉱水の使用は推奨されないが、用いる場合は金属不活性剤等と合わせて用いることが好ましい。分散させる成分の総質量を100質量部とした場合、、30~80質量部、好ましくは35~70質量部に相当する量を添加する。
【0043】
本発明の水中油型シリコーンエマルジョン組成物は、上記成分(A)~(D)のすべてを同時に成分(E)に分散させて製造するのではなく、上記成分(A)~(D)のうち、少なくとも2種類以上の成分を成分(E)に分散させたキットを用意し、それを水中油型シリコーンエマルジョン組成物として最終的に混合することで製造するのが好ましい。成分(A)~(D)をすべて同時に成分(E)に分散させてしまうと、成分(A)、(B)、および(D)の間で起こる付加反応が組成物の製造中に進行してしまい、塗工膜を形成することができない。製造方法には例えば、成分(A)、(C)、(D)を成分(E)に分散させたキットを作製する一方で、成分(B)と成分(D)を成分(E)に別途分散させたキットを作製し、それら2つを混合させるという方法が挙げられる。成分(A)と成分(B)は、キットを何種類用意しても、最終的な水中油型シリコーンエマルジョン組成物において、成分(A)のケイ素原子に結合したアルケニル基の数(NA)と、成分(B)のケイ素原子に結合した水素原子の数(NE)との比が、1.0≦(NE/NA)≦6.0となる量、好ましくは1.5≦(NE/NA)≦4.0となる量に調製されるものとし、成分(C)は必ず成分(A)の重量に対して1~500ppm、好ましくは5~200ppmとなる量、より好ましくは20~120ppmとなる量に調製されるものとする。本発明の水中油型シリコーンエマルジョン組成物は、成分(A)~(D)をキットとして成分(E)に何種類分散させても、分散媒の成分(E)が水なので、結局、溶剤タイプとは異なる、環境や人体への影響に配慮されたエマルジョンタイプの組成物となる。
【0044】
成分(A)~(D)を、成分(E)に分散させる方法には公知の方法を採用することができる。例えば、ホモジナイザー、コロイドミル、ホモミキサー、高速ステータローター攪拌装置等を用いて、上記成分を混合、乳化する方法を採用することができる。成分(A)~(D)を、成分(E)に分散させる際は、具体的に、成分(A)~(D)に対して、成分(E)を一部添加し攪拌して、油中水型とした後、更に残部の水を添加し水中油型とすれば、成分(A)~(D)の分散が容易となり、エマルジョンの安定性が向上する。
【0045】
本発明の水中油型シリコーンエマルジョン組成物は、シリコーン以外の成分、例えば、有機系のポリマー等が含有されていても構わない。所望の条件を満たせば、目的の塗工性と剥離性が得られる。しかし、より十分な塗工性おとび剥離性を得るには、シリコーンが主体の組成物であることが好ましい。
【0046】
本発明の水中油型シリコーンエマルジョン組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、基材への密着性を上げる目的として密着向上剤、または、剥離性を調整する目的として移行成分、または、防腐を目的とする防腐剤を含んでいてよい。
このような成分として、例えば密着向上剤には一般的なシランカップリング剤、移行成分には水中油型シリコーンエマルジョン、防腐剤としてはソルビン酸、ソルビン酸塩、酢酸、乳酸、安息香酸、サリチル酸、フェノキシエタノール、ホルマリン等が挙げられる。
【0047】
冷却部24は、プレート式熱交換器26と、冷媒温度調整部28と、温度検出部30とを有し、乳化分散部22において常温で生成された油中水型プレエマルジョンがプレート式熱交換器26に液送され、ここで、温度検出部30により検出された冷却後の油中水型プレエマルジョンの温度に基づいて、冷媒温度調整部28により温度がフィードバック制御された冷媒により、油中水型プレエマルジョンを所定温度に冷却するようにしている。
ここで、プレート式熱交換器26は、従来既知のもので、詳しい説明は省略するが、内部に複数の伝熱プレートを互いに平行に間隔を隔てて配置し、各プレートの間に形成される流路に対して、1枚置きに冷媒と油中水型プレエマルジョンとを、対向式または平行式に交互に流すことにより、油中水型プレエマルジョンが伝熱プレートを介して冷媒により冷却されるようにしている。
採用する冷媒は、冷却温度が低温であることから、たとえば、エチレングリコール、シリコーンオイルが好ましい。
なお、油中水型プレエマルジョンの油分中の無数の水滴がプレート式熱交換器26内で凍結しないように、プレート式熱交換器26に液送する油中水型プレエマルジョンの流量を調整するようにしている。
これにより、たとえば、所定温度に管理された冷却室内に油中水型プレエマルジョンを保管することにより、冷却保持する必要なしに、換言すれば、省エネルギーおよび余分な工程を省略しつつ、水中油型エマルジョンを製造する際、乳化分散部22からの常温の油中水型プレエマルジョンを、連続的に所定温度に冷却し、下流側の液晶相形成部14に液送することが可能であり、後に説明するように、液晶相形成部14においても同様に、連続的に液晶相を形成することから、油中水型プレエマルジョン生成部12において生成された油中水型プレエマルジョンを用いて、連続的に水中油型エマルジョンを製造することが可能である。
【0048】
変形例として、冷却部24に設ける熱交換器は、乳化分散部22に供給されるまでにプレエマルジョンの温度が所定温度範囲にあることが達成される限り、プレート式熱交換器に限定されることなく、たとえば、表面積が広いホースや、内部にらせん羽根を有するスタティックミキサーをジャケットに内蔵したタイプでもよい。
【0049】
図2に示すように、液晶相形成部14は、油中水型プレエマルジョン生成部12からの流入口32と、水中油型エマルジョン生成部16への流出口34とを有する液晶相形成容器36内に、中心軸37を中心に回転可能なローター38と、ローター38と、所定隙間39(δ)を隔てて外筒として同心状に配置されたステータ40とを有し、ステータ40には、周方向に所定角度間隔を隔てて複数のスリット42が設けられ、油中水型プレエマルジョンを所定隙間39に流入させ、スリット42を介して流出するまでに、せん断エネルギーを付与するようにしている。δは通常、1~2mmに設定する。ローターの周速とδの関係の調整によりせん断速度が決まる。せん断速度の値により隙間に存在する物質へのせん断エネルギーを規定することができる。
ここで述べる液晶相形成とは、液晶ラメラの形成、そしてそれに続く液晶相の細分化の双方を言う。
なお、中心軸37は、モーター43に連結され、ローター38が中心軸37を中心に、矢印のように回転するように構成しているが、形成された液晶相は、ローター38の回転力を駆動源として、液晶相形成容器36の流出口34から下流側の水中油型エマルジョン生成部16へ液送されるようにしている。なお、ローター38は中実である。また、液晶相形成容器出口温度計測器44が設置され、液晶相形成容器にてせん断エネルギー付与終了直後の流出物の温度を計測できるようにしている。
【0050】
ローター38とステータ40との組み合わせは、液晶相形成容器36内に縦置きに配置され、流入口32は、所定隙間の真上に設けられ、流出口34は、液晶相形成容器36の側面に設けられ、液晶相形成容器36内に導かれるプレエマルジョンは、循環式でなく、通過式のワンスルー方式により、所定隙間に直接流入してから流出するまでの間でせん断エネルギーが付与されるようにしており、たとえば、容器内に設けたせん断羽根の回転により循環式によりせん断エネルギーを付与する従来技術に比し、容器内での場所によるバラツキなく、プレエマルジョンに対して一様にせん断エネルギーを付与することが可能である。
【0051】
より詳細には、油中水型プレエマルジョンと水中油型エマルジョンとの遷移状態である液晶ラメラ形成の際、液晶ラメラ形成に伴い、油中水型プレエマルジョンの粘度は急激に上昇するところ、密閉空間内に流入した油中水型プレエマルジョンには、ステータ40のスリット42から流出するまでの間、一定回転するローター38の内表面との間の摩擦によりせん断エネルギーが与えられるが、粘度上昇に伴い、時間当たりに与えられるせん断エネルギーは増大する。
【0052】
ここで、推定ではあるが、本発明において、-40℃ないし-5℃という好ましいプレエマルジョンの冷却温度範囲で、液晶ラメラが形成、成長する時のメカニズムと、液晶ラメラが形成されたことをどのように確認できるか、について以下に記載する。
プレエマルジョンを常温で作製した段階では、主に、油相が連続相となった状態が形成されるものと考えられる。端的には油中水系エマルジョンであるが、その形を取っていなくても、油相が連続相になっていることで、プレエマルジョン全体が氷結することを防ぐことができるので、液晶ラメラ形成のための要件を満たすと考えられる。
図3に示すように、プレエマルジョンを上記の温度範囲で冷却すると、図3の(a)のように、界面活性剤が層状(あるいは他の形状)に水の層と交互に繰り返す構造が形成するものと考えられる。いわば、液晶ラメラの前駆的な枠組みが形成されると考えられる。
その状態で、せん断をかけ始めると、油分が、上記枠組みの層間に挿入されるものと考えられる。図3の(b)の状態であり、これが液晶ラメラである。この状態が形成されると、系の粘度が増大するのだが、液晶同士が無限数会合するので、液晶ラメラ全体としては構造粘性を発現する。よって、単に粘度が増大するのではなく、いわゆるゴム弾性的な物性を確認できる。
【0053】
液晶ラメラ以外の液晶相も、無限会合状態といえるため、一定の構造粘性を発現するが、液晶内部の会合密度は液晶ラメラよりも低いため、発現する構造粘性も液晶ラメラの場合より低いものとなる。また、油中水型エマルジョンに対し一定方向にせん断速力をかけた場合、エマルジョン中の分散成分は、せん断速度によって生じる層流間の速度勾配に応じて平面状に引き伸ばされ高度に積層した構造、すなわちラメラ構造を形成するに至る。
さらに、液晶ラメラが形成された場合、ゴム弾性的であり、かつ、その物に荷重をかけていくと、ある降伏点を示して崩れる傾向がある。ラメラ状でない液晶もゴム弾性的な場合があり得るが、降伏点を示すのはラメラの特徴である。
よって、油中水型エマルジョンに対し一定方向にせん断速力をかけた生成物が、ゴム弾性を示し、かつ荷重をかけた場合に降伏点を示したなら、液晶ラメラが形成されたと考えてよい。
【0054】
これをもって液晶ラメラが形成したことを確認できる。このような低温でも、層間にラメラが挿入できるのは、シリコーンの本質と深くかかわっている。シリコーンは、主鎖の自由回転が容易であるので、ガラス転移点が低く、通常の有機系ポリマーに比して、より低温でも流動性を保つことができる。特に、-25℃のような低温においても、シリコーンは流動性を保ち、かつ、界面活性剤、水との相互作用により液晶ラメラのような微細な相分離構造を形成することができる。従って、-25℃のような低温において、通常の有機系ポリマーでは全く不可能な液晶ラメラの形成が、シリコーンでは可能である。
【0055】
ここで、ラメラ1層当たりの水の層の幅d、油の層の幅d´はともに、冷却温度が低いほど、ラメラの凝集性が高まるため、小さくなる、すなわち、液晶ラメラの層の間隔が小さくなると考えられ、そのことが、最終的な水中油型エマルジョンの粒子径が小さくなることにつながると考えられる。実験事実としては、液晶ラメラ全体としての物性がより硬くなる方が、最終的なエマルジョンの粒子径は小さくなることが経験的に得られている。このことは上記の液晶ラメラの間隔が最終粒子径へ及ぼす効果の推定と一致する。液晶ラメラの層の間隔が小さくなると、層の間を取り持つ水素結合の数が増大するので、液晶ラメラの硬さが増すと考えられる。
また、液晶ラメラの層の間隔が小さくなるほど、層の間隔のばらつきも小さくなるので、最終的に得られる水中油型エマルジョンの粒子径分布も小さくなる傾向がある。
【0056】
図3の(c)のように、液晶ラメラが成長するには、吸熱を伴う活性化エネルギーと、粘度増大による摩擦熱の発生が起こる。詳細は下記の段落で述べる。
【0057】
それに対して、油中水型プレエマルジョンが液晶ラメラを形成するには、活性化エネルギーが必要であるが、必要な活性化エネルギーは、油中水型プレエマルジョンの温度が低いほど、増大する傾向である。
よって、液晶ラメラおよび細分化の液晶相の形成段階において、ローター38の一定回転数を選択するとともに、細分化の液晶相の形成完了時点において、細分化の液晶相温度が選択温度以下となるように、油分量に対する界面活性剤の量比に応じて、油中水型プレエマルジョンの製造段階において、油中水型プレエマルジョンを所定温度まで冷却することにより、第1に、常温の油中水型プレエマルジョンを利用して液晶ラメラを形成する場合に比べ、細分化の液晶相形成完了時点の温度上昇は抑制される点、第2に、油中水型プレエマルジョンを所定温度まで冷却することにより、液晶ラメラ形成開始時点の初期粘度は上昇し、それにより、液晶ラメラ形成に必要な活性化エネルギーが増大する点、第3に、ローター38の一定回転数の選択により、密閉空間内での液晶ラメラの加熱時間が選択されるとともに、液晶ラメラ形成開始時点の初期粘度の上昇により、発生するせん断エネルギーが増大する点、以上より、油中水型プレエマルジョンの冷却温度の選択により、密閉空間内での、形成された液晶ラメラの余分な加熱抑制を通じて、油中水型プレエマルジョンに付与されるせん断エネルギーと、液晶ラメラ形成にとって必要な活性化エネルギーとのバランスを図ることにより、小規模構造の液晶相形成完了時点の温度を所望温度とし、以て、水中油型エマルジョンの油滴の粒子径の調整が可能となる。
【0058】
活性化エネルギーは、油分と界面活性剤と組み合わせに応じて変わり得るので、多少の試行錯誤は必要となるが、プレエマルジョンの低温化により、低温化しない場合に比し、液晶ラメラ形成時のプレエマルジョンの初期温度が低くなるとともに、活性化エネルギーが増大することにより、細分化の液晶相形成完了の際の液晶相の温度上昇を抑制することが可能である。
たとえば、スリットの開口面積、周方向に隣接するスリット間の角度間隔、および隙間の大きさは、このような観点から定めるのが好ましい。
【0059】
次いで、水中油型エマルジョン生成部16は、油中水型プレエマルジョン生成部12および液晶相形成部14と同様に、従来既知の乳化分散装置を有し、乳化分散装置において、液晶相形成部14において形成された液晶相に対して、希釈用の水が添加され、転相が引き起こされて水中油型エマルジョンを生成するようにしている。なお、希釈用の水の流量は、希釈用の水が添加された液晶相の状態に応じて、調整するようにしている。
この段階では、水が過剰となるため、液晶ラメラよりもエネルギー的に安定な水中油型エマルジョンへと転相される。その転相に必要なせん断エネルギーは、通常用いられる乳化機によるもので十分である。転相においては、液晶ラメラにおける油分の層が最終的な水中油型エマルジョンの粒子に移行する際に、その層の間隔を維持しながら、粒子になる、すなわち、層の間隔が粒子径になると考えられる。よって、この段階で与えるせん断エネルギーの違い等の製造条件で、液晶ラメラの効果が大きく左右されることはない。従って、この段階は、本願発明の課題達成にとっては重要なプロセスではない。
なお、連続的に製造された水中油型エマルジョンは、適宜、タンクに保管される。
【0060】
以上のように、通常、油中水型プレエマルジョンを常温で生成する場合には、界面活性剤が親水基と疎水基とに分極して、油相と水相との界面に存在する一方、余分な界面活性剤は会合してミセル構造体を形成するところ、油中水型プレエマルジョンを低温化して、たとえば、-25℃まで冷却することにより、界面活性剤はこのようなミセル構造体よりも会合度が強い構造を形成することから、低温化油中水型プレエマルジョンを液晶ラメラとする場合には、常温での油中水型プレエマルジョンに比べて、必要な活性化エネルギーが増大するので、液晶ラメラ形成段階において、付与されるせん断エネルギーに対して、活性化エネルギーとして消費されるエネルギーが増えることになり、せん断エネルギーが付与される際の油中水型プレエマルジョンの温度が低いことと相まって、形成される液晶相の温度上昇を効果的に防止し、温度上昇に起因する水中油型エマルジョンの油滴の粒子の拡径化を抑制することが可能であるのみならず、油中水型プレエマルジョンの低温化温度を調整することにより、水中油型エマルジョンの油滴の粒子の調整が可能である。
特に、液晶相形成部14におけるローター38の回転数を一定に維持することにより、密閉空間内において油中水型プレエマルジョンに付与されるせん断エネルギーは、粘度上昇につれて増大するが、液晶相形成部14に流入する際、低温化される油中水型プレエマルジョンの温度との関係で、一定に維持するローター38の回転数を設定することにより、水中油型エマルジョンの油滴の粒径の調整とともに、せん断速度(ローター38の回転速度)の変動に伴う形成される液晶相の不均一性を制限することにより、油滴の粒度分布の広がりを抑制することも可能である。
【0061】
変形例として、特に、油中水型エマルジョンから液晶乳化法により水中油型エマルジョンを連続的に製造する場合、油中水型エマルジョン(プレエマルジョン)を低温化することにより、液晶ラメラ形成に必要な活性エネルギーを増大することにより、プレエマルジョンに付与されるせん断エネルギーに基づいて形成された液晶ラメラの温度上昇を抑制することにより、以て、水中油型エマルジョン中の油滴の粒径の拡径化を抑制するだけでなく、油中水型エマルジョン(プレエマルジョン)を低温化するだけでなく、プレエマルジョンに付与されるせん断エネルギーも低減することにより、必要となる活性化エネルギーおよび付与されるせん断エネルギーの両方を調整することにより、水中油型エマルジョン中の油滴の粒径の拡径化を抑制するのみならず、油滴の粒径を調整することが可能となる。
【0062】
この場合、油中水型エマルジョン(プレエマルジョン)を低温化することにより、プレエマルジョンを液晶化する際の初期粘度が増大することから、水中油型エマルジョンを連続的に製造するのに必要な流量確保が困難であることから、流量を確保可能な範囲で、油中水型エマルジョン(プレエマルジョン)を低温化する一方、付与されるエネルギーの低減により、必要となる活性化エネルギーと付与されるせん断エネルギーとのバランスを図ることにより、油滴の粒径を調整することが可能となる。
たとえば、回転するローターとステータタイプとの所定隙間において、プレエマルジョンにせん断エネルギーを付与する場合には、ローターの回転数を調整することにより、付与されるせん断エネルギーの増減が可能である。
【0063】
プレエマルジョンの冷却温度、すなわち、液晶ラメラの温度が低いほど、細分化の液晶相の温度、すなわち、乳化機を出た時点でのエマルジョンの温度は低くなるが、その温度上昇、すなわち、液晶ラメラの温度と乳化機を出た時点でのエマルジョンの温度の差、は大きくなる。
例えば、液晶ラメラの温度が-25℃の場合は、乳化機を出た時点でのエマルジョンの温度は30℃となる。また、前者温度が20℃の場合は、後者温度は60℃となる。
この理由については、次のように推定する。
液晶ラメラが崩壊して微細な液晶相へ細分化される温度は、液晶相が生成した温度によらず一定であると考えられ、-5℃から40℃の範囲であると考えられる。
この温度範囲において、液晶相は吸熱反応をもって細分化する。その際、より低温で生成した液晶相の方が、液晶相の生成のための活性化エネルギーが大きいため、その吸熱の程度が大きくなる。よって、細分化の温度範囲内においては、外部から与えられるせん断エネルギーを吸収する程度は、液晶相の生成温度が低い方が大きい。
しかし、液晶の細分化が起き始める-5℃まで温度が上昇するまでの間は、与えるせん断エネルギーは液晶細分化には使われず、摩擦熱として散逸することと、および外気との熱のやり取りで、系は25℃まで上昇して行く。
よって、-25℃のような極低温で生成した液晶相にせん断を加える時、25℃までの温度上昇は起きるので、温度上昇の程度は大きくなる。
一方、20℃のようなより高温で生成した液晶相は、生成のための活性化エネルギーが小さいので、細分化のための吸熱の程度が小さく、温度は50℃、即ち液晶相の細分化が終了する温度、を超えるようになる。50℃以上では、摩擦熱等の影響でさらに温度が高くなる。
本発明の実施形態に係る水中油型エマルジョンの製造システム10の液晶相形成部14において、プレエマルジョンの冷却温度とせん断開始後の温度上昇を示す関係図を図4に示す。
【0064】
プレエマルジョンの冷却においては、液晶ラメラの形成の中途段階で、水分単体、界面活性剤単体、あるいは、水分と界面活性剤が氷結することを避けなければならない。氷結すると、油分が、水分と界面活性剤からなる層の間に入って行くことができないからである。そのため、プレエマルジョンであるところの油中水型エマルジョンを製造完了してから冷却することが好ましい。このようにすれば、所定の冷却温度において、所望の液晶ラメラの構造、すなわち、水層、界面活性剤層、油層の3層の連続構造、を得ることができる。
ただし、水分単体、界面活性剤単体、あるいは、水分と界面活性剤が先行して氷結することが防げるのであれば、製造時の温度から下げることでもよく、あるいは油中水型エマルジョンを製造中に温度を下げるのでもよい。最終的に液晶ラメラの形成が完了しようとしている時点において、設定の冷却温度になっていればよい。しかし、プレエマルジョンの製造時から、または、製造中に冷却を始めると、組成が偏在している状態で液晶ラメラが形成を始めるなどが起こり、最終的に形成される液晶ラメラが均一でなくなる可能性があるので、この意味でも、油中水型エマルジョンを製造完了してから冷却することが好ましい。
【実施例
【0065】
本出願人は、実施形態において説明した水中油型エマルジョンの製造システム10を用いて、油中水型プレエマルジョンの温度をパラメータとして、製造した水中油型エマルジョンの油滴の粒子径を測定する試験を行った。
各実施例、比較例に用いたエマルジョンの組成、条件、結果について、表1に示す。
【0066】
<硬さ測定法(液晶ラメラ生成評価法)>
各実施例、比較例にて、液晶相形成容器と作製条件と同じ条件が出せる模擬装置にて、せん断速度付加後0.03秒後の生成物が、液晶ラメラの形成ができたかどうか、そして、液晶ラメラの層の間隔の程度を評価するために、次の測定、評価を行った。
生成物200gを200g広口カップに詰めて、100g/cmの圧力で表面が平らになるまでならし、テクスチャーアナライザー(Texture Analyzer TA-XT2R、SMS社製)を用い、プローブ(1/2”stainless spherical、P/0.5S、ロードセル5kg)を1mm/sで投入し、深度15mmに達したときに観測されるForce(g)を最大70gの範囲で測定した。また、降伏点があるかどうかの確認も行った。
評価基準: レベル3=Forceが60g以上である。液晶ラメラの層の間隔が狭い。レベル2=Forceが、40g以上60g未満である。液晶ラメラの層の間隔が中程度である。レベル1=Forceが20g以上40g未満である。液晶ラメラの層の間隔が大きく粗である。レベル0=Forceが20g未満である。流動性があり、液晶ラメラの形成ができていない。
【0067】
<実施例1>
成分(A)として、メチル基とビニル基を有し、25℃での粘度が5,000mPa・sであるオルガノポリシロキサンを50質量部、、成分(C)として、ノニオン系界面活性剤(HLB=15.0)を5.0質量部、成分(D)として、油分量に対するノニオン界面活性剤の量比を0.1に設定した。
さらに、白金触媒を成分(A)に対して100ppm、成分(E)として精製水を残部として、100質量部の油中水型プレエマルジョンを作製した。このプレエマルジョンの作成直後の初期粘度は6,000mPa・s(25℃、10s-1)であった。
このプレエマルジョンを-25℃で冷却し、全体の温度が一定になるまで保管した。これに対して、2,000s-1のせん断速度にて、密閉空間であり、液晶相形成容器であるところのローター・ステータに流入させ、そのシェアギャップ間を、滞留時間が0.06秒となるように通過させた。以上の作製条件と同じ条件が出せる模擬装置にて、せん断速度付加後0.03秒後には、ゲル化し流動性を失った(粘度測定不能)。ゲル化の程度は大であった。生成物はゴム弾性を示した。硬さ測定の結果は、レベル3だった。また、降伏点が存在した。また、液晶相形成容器の出口の温度は25℃であった。
上記ローター・ステータの通過をもって、水中油型エマルジョンの形成準備状態とし、その後、一定量の水とともに、連結したローター・ステータ型の乳化機にさらに投入することで、水中油型エマルジョンを作製した。
得られた水中油型エマルジョンのエマルジョン粒子の平均粒子径を計測したところ、0.20μmであった。
【0068】
<実施例2>
成分(A)として、メチル基とビニル基を有し、25℃での粘度が5,000mPa・sであるオルガノポリシロキサンを52.5質量部、成分(C)として、ノニオン系界面活性剤を(HLB=15.0)2.5質量部、成分(D)として、油分量に対するノニオン界面活性剤の量比を0.05に設定した。
さらに、白金触媒を成分(A)に対して100ppm、成分(E)として精製水を残部として、100質量部の油中水型プレエマルジョンを作製した。このプレエマルジョンの作成直後の初期粘度は6,100mPa・s(25℃、10s-1)であった。
このプレエマルジョンを-25℃で冷却し、全体の温度が一定になるまで保管した。これに対して、2,000s-1のせん断速度にて、密閉空間であり、液晶相形成容器であるところのローター・ステータに流入させ、そのシェアギャップ間を、滞留時間が0.06秒となるように通過させた。以上の作製条件と同じ条件が出せる模擬装置にて、せん断速度付加後0.03秒後には、ゲル化し流動性を失った(粘度測定不能)。ゲル化の程度は大であった。生成物はゴム弾性を示した。硬さ測定の結果は、レベル3だった。また、降伏点が存在した。また、液晶相形成容器の出口の温度は30℃であった。
上記ローター・ステータの通過をもって、水中油型エマルジョンの形成準備状態とし、その後、一定量の水とともに、連結したローター・ステータ型の乳化機にさらに投入することで、水中油型エマルジョンを作製した。
得られた水中油型エマルジョンのエマルジョン粒子の平均粒子径を計測したところ、0.20μmであった。
【0069】
<実施例3>
成分(A)として、メチル基とビニル基を有し、25℃での粘度が5,000mPa・sであるオルガノポリシロキサンを50質量部、成分(C)として、ノニオン系界面活性剤(HLB=15.0)を5質量部、成分(D)として、油分量に対するノニオン界面活性剤の量比を0.1に設定した。
さらに、白金触媒を成分(A)に対して100ppm、成分(E)として精製水を残部として、100質量部の油中水型プレエマルジョンを作製した。このプレエマルジョンの作成直後の初期粘度は6,000mPa・s(25℃、10s-1)であった。
このプレエマルジョンを-10℃で冷却し、全体の温度が一定になるまで保管した。これに対して、2,000s-1のせん断速度にて、密閉空間であり、液晶相形成容器であるところのローター・ステータに流入させ、そのシェアギャップ間を、滞留時間が0.06秒となるように通過させた。以上の作製条件と同じ条件が出せる模擬装置にて、せん断速度付加後0.03秒後には、ゲル化し流動性を失った(粘度測定不能)。ゲル化の程度は中であった。生成物はゴム弾性を示した。硬さ測定の結果は、レベル2だった。また、降伏点が存在した。また、液晶相形成容器の出口の温度は25℃であった。
上記ローター・ステータの通過をもって、水中油型エマルジョンの形成準備状態とし、その後、一定量の水とともに、連結したローター・ステータ型の乳化機にさらに投入することで、水中油型エマルジョンを作製した。
得られた水中油型エマルジョンのエマルジョン粒子の平均粒子径を計測したところ、0.22μmであった。
【0070】
<実施例4>
成分(A)として、メチル基とビニル基を有し、25℃での粘度が5,000mPa・sであるオルガノポリシロキサンを50質量部、、成分(C)として、ノニオン系界面活性剤(HLB=13.0)を5.0質量部、成分(D)として、油分量に対するノニオン界面活性剤の量比を0.1に設定した。
さらに、白金触媒を成分(A)に対して100ppm、成分(E)として精製水を残部として、100質量部の油中水型プレエマルジョンを作製した。このプレエマルジョンの作成直後の初期粘度は6,000mPa・s(25℃、10s-1)であった。
このプレエマルジョンを-25℃で冷却し、全体の温度が一定になるまで保管した。これに対して、2,000s-1のせん断速度にて、密閉空間であり、液晶相形成容器であるところのローター・ステータに流入させ、そのシェアギャップ間を、滞留時間が0.06秒となるように通過させた。以上の作製条件と同じ条件が出せる模擬装置にて、せん断速度付加後0.03秒後には、ゲル化し流動性を失った(粘度測定不能)。ゲル化の程度は大であった。生成物はゴム弾性を示した。硬さ測定の結果は、レベル3だった。また、降伏点が存在した。また、液晶相形成容器の出口の温度は25℃であった。
上記ローター・ステータの通過をもって、水中油型エマルジョンの形成準備状態とし、その後、一定量の水とともに、連結したローター・ステータ型の乳化機にさらに投入することで、水中油型エマルジョンを作製した。
得られた水中油型エマルジョンのエマルジョン粒子の平均粒子径を計測したところ、0.20μmであった。
【0071】
<実施例5>
成分(A)として、メチル基とビニル基を有し、25℃での粘度が5,000mPa・sであるオルガノポリシロキサンを50質量部、成分(C)として、ノニオン系界面活性剤(HLB=15.0)を5質量部、成分(D)として、油分量に対するノニオン界面活性剤の量比を0.1に設定した。
さらに、白金触媒を成分(A)に対して100ppm、成分(E)として精製水を残部として、100質量部の油中水型プレエマルジョンを作製した。このプレエマルジョンの作成直後の初期粘度は6,000mPa・s(25℃、10s-1)であった。
このプレエマルジョンを20℃で冷却し(または保温し)、全体の温度が一定になるまで保管した。これに対して、2,000s-1のせん断速度にて、密閉空間であり、液晶相形成容器であるところのローター・ステータに流入させ、そのシェアギャップ間を、滞留時間が0.06秒となるように通過させた。以上の作製条件と同じ条件が出せる模擬装置にて、せん断速度付加後0.03秒後には、ゲル化し流動性を失った(粘度測定不能)。ゲル化の程度は小であった。生成物はゴム弾性を示した。硬さ測定の結果は、レベル1だった。また、降伏点が存在した。また、液晶相形成容器の出口の温度は60℃であった。
上記ローター・ステータの通過をもって、水中油型エマルジョンの形成準備状態とし、その後、一定量の水とともに、連結したローター・ステータ型の乳化機にさらに投入することで、水中油型エマルジョンを作製した。
得られた水中油型エマルジョンのエマルジョン粒子の平均粒子径を計測したところ、0.30μmであった。
【0072】
<実施例6>
成分(A)として、メチル基とビニル基を有し、25℃での粘度が5,000mPa・sであるオルガノポリシロキサンを54質量部、成分(C)として、ノニオン系界面活性剤(HLB=15.0)を1質量部、成分(D)として、油分量に対するノニオン界面活性剤の量比を0.1に設定した。
さらに、白金触媒を成分(A)に対して100ppm、成分(E)として精製水を残部として、100質量部の油中水型プレエマルジョンを作製した。このプレエマルジョンの作成直後の初期粘度は6,200mPa・s(25℃、10s-1)であった。
このプレエマルジョンを-10℃で冷却し、全体の温度が一定になるまで保管した。これに対して、2,000s-1のせん断速度にて、密閉空間であり、液晶相形成容器であるところのローター・ステータに流入させ、そのシェアギャップ間を、滞留時間が0.06秒となるように通過させた。以上の作製条件と同じ条件が出せる模擬装置にて、せん断速度付加後0.03秒後には、ゲル化し流動性を失った(粘度測定不能)。ゲル化の程度は中であった。生成物はゴム弾性を示した。硬さ測定の結果は、レベル1だった。また、降伏点が存在した。また、液晶相形成容器の出口の温度は45℃であった。
上記ローター・ステータの通過をもって、水中油型エマルジョンの形成準備状態とし、その後、一定量の水とともに、連結したローター・ステータ型の乳化機にさらに投入することで、水中油型エマルジョンを作製した。
得られた水中油型エマルジョンのエマルジョン粒子の平均粒子径を計測したところ、0.28μmであった。
【0073】
<比較例1>
成分(A)として、メチル基とビニル基を有し、25℃での粘度が5,000mPa・sであるオルガノポリシロキサンを50質量部、、成分(C)として、ノニオン系界面活性剤(HLB=5.0)を5.0質量部、成分(D)として、油分量に対するノニオン界面活性剤の量比を0.1に設定した。
さらに、白金触媒を成分(A)に対して100ppm、成分(E)として精製水を残部として、100質量部の油中水型プレエマルジョンを作製した。このプレエマルジョンの作成直後の初期粘度は6,000mPa・s(25℃、10s-1)であった。
このプレエマルジョンを-25℃で冷却し、全体の温度が一定になるまで保管した。これに対して、2,000s-1のせん断速度にて、密閉空間であり、液晶相形成容器であるところのローター・ステータに流入させ、そのシェアギャップ間を、滞留時間が0.06秒となるように通過させた。以上の作製条件と同じ条件が出せる模擬装置にて、せん断速度付加後0.03秒後には、増粘はしたものの、ゲル化には至らなかった。生成物はゴム弾性を示さなかった。硬さ測定の結果は、レベル0だった。また、降伏点は存在しななかった。また、液晶相形成容器の出口の温度は25℃であった。
よって、水中油型エマルジョンの形成準備状態には至らなかった。
【0074】
<比較例2>
成分(A)として、メチル基とビニル基を有し、25℃での粘度が5,000mPa・sであるオルガノポリシロキサンを50質量部、、成分(C)として、ノニオン系界面活性剤(HLB=19.5)を5.0質量部、成分(D)として、油分量に対するノニオン界面活性剤の量比を0.1に設定した。
さらに、白金触媒を成分(A)に対して100ppm、成分(E)として精製水を残部として、100質量部の油中水型プレエマルジョンを作製した。このプレエマルジョンの作成直後の初期粘度は6,000mPa・s(25℃、10s-1)であった。
このプレエマルジョンを-25℃で冷却し、全体の温度が一定になるまで保管した。これに対して、2,000s-1のせん断速度にて、密閉空間であり、液晶相形成容器であるところのローター・ステータに流入させ、そのシェアギャップ間を、滞留時間が0.06秒となるように通過させた。以上の作製条件と同じ条件が出せる模擬装置にて、せん断速度付加後0.03秒後には、ゲル化し流動性を失った(粘度測定不能)。ゲル化の程度は小であった。生成物はゴム弾性を示した。硬さ測定の結果は、レベル1だった。また、降伏点が存在した。また、液晶相形成容器の出口の温度は25℃であった。
上記ローター・ステータの通過をもって、水中油型エマルジョンの形成準備状態とし、その後、一定量の水とともに、連結したローター・ステータ型の乳化機にさらに投入することで、水中油型エマルジョンの作製を試みたが、乳化は不可能であった。
【0075】
【表1】
【0076】
各実施例、比較例の結果から、下記のことが導き出される。
1.各実施例とも、プレエマルジョンにせん断をかけて0.03秒後に粘度が計測不能まで上昇し、ゲル化し流動性を失い、ゴム弾性を示し、一定の硬度を示し、降伏点を示したので、液晶形成容器内で液晶ラメラが生成したことが推認される。かつ最終的にはゲル状ではなくなり、水中油型エマルジョンが生成したことから、液晶ラメラを経由して液晶乳化が達成できたことが推認される。
一方、比較例1では、同条件のせん断でゲル化に至らなかったため、液晶ラメラが生成しなかったことが推認できる。また、比較例2では、ゲル化し流動性を失い、ゴム弾性を示し、一定の硬度を示し、降伏点を示したので、液晶形成容器内で液晶ラメラが生成したことが推認される。しかし、水中油型エマルジョンを形成するための乳化ができなかったので、液晶乳化が達成できなかった。
以上より、液晶乳化を達成するためには、使用する界面活性剤のHLBは所定の範囲内である必要があることが示唆される。
2.実施例1~4では、得られた水中油型エマルジョンの平均粒子径が、0.20~0.22μmという好ましい径が得られた。実施例1、2、4ではプレエマルジョンの冷却温度が-25℃だが、実施例3では-10℃であり、前者の最終最中油型エマルジョンの粒子径が0.20μmなのに対し、後者が0.22μmだった。液晶ラメラの凝集度が低温の冷却ほど大きくなり、すなわち液晶ラメラの層の間隔が小さくなり、そのことで粒子径が小さくなったことが推認される。
実施例5、6では、得られた水中油型エマルジョンの平均粒子径が、0.28~0.30μmという好ましくない径が得られた。実施例5では冷却温度が20℃のため、液晶ラメラの凝集度が低く、最終の粒子径が大きくなったこと、そして実施例6では冷却温度は-10℃だが、シリコーン油分に対する界面活性剤の量比が小さかったために、液晶ラメラの凝集度が上がらずに最終の粒子径が高かったものと推認される。ただし、実施例5、6では液晶形成装置の出口の温度が、それぞれ60℃、45℃と高かったため、拡径化も起きた可能性がある。
以上より、ラメラ1層当たりの油の層の幅が小さくなり、これを基礎に形成される水中油型エマルジョンの油分の粒子サイズが小さくなる、換言すれば、プレエマルジョン冷却温度の設定により、液晶ラメラを介して、水中油型エマルジョンの油分の粒子サイズに対して影響することを推認させるものである。
【0077】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において、当業者であれば、種々の修正あるいは変更が可能である。
たとえば、本実施形態において、液晶相形成部14について、液晶相形成部14に供給される油中水型エマルジョンにせん断エネルギーを付与するのに、連続式タイプのものとして、ローター/ステータ式を説明したが、それに限定されることなく、液晶乳化物の液晶ラメラの調整をするのに、水中油型エマルジョン生成の際の温度を所定温度に設定する限り、バッチ式タイプ、たとえば、開放容器内に油中水型プレエマルジョンを溜めて、循環繰り返しでせん断エネルギーを付与するものでもよい。
たとえば、本実施形態において、液晶相形成部14について、液晶相形成部14に供給される油中水型エマルジョンにせん断エネルギーを付与するのに、連続式タイプのものとして、ローター/ステータ式を説明したが、それに限定されることなく、水中油型エマルジョン生成の際の温度を所定温度に設定することにより、液晶乳化物の液晶ラメラの調整をするのに、水中油型エマルジョンに吸熱反応により吸収される活性化エネルギーを付与することが可能である限り、バッチ式タイプ、たとえば、開放容器内に油中水型プレエマルジョンを溜めて、循環繰り返しでせん断エネルギーを付与するものでもよい。
たとえば、本実施形態において、液晶相形成部14について、連続式タイプのものとして説明したが、それに限定されることなく、液晶相形成部14において、余分なせん断エネルギーの付与に伴う液晶相の温度上昇の可能性がある限り、バッチ式タイプ、たとえば、開放容器内に油中水型プレエマルジョンを溜めて、循環繰り返しでせん断エネルギーを付与するものでもよい。
たとえば、本実施形態において、ローターについて、ステータとの間に所定隙間を形成する筒状の構造として説明したが、それに限定されることなく、液晶相形成部14において、せん断エネルギーの付与が可能である限り、たとえば、外周面に所定角度間隔を隔てて複数のローター羽根を設けるものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】本発明の実施形態に係る水中油型エマルジョンの製造システム10の全体概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る水中油型エマルジョンの製造システム10の液晶相形成部14の液相乳化装置の主要部を示す概略図である。
図3】本発明の実施形態に係る水中油型エマルジョンの製造システム10の液晶相形成部14において、油中水型プレエマルジョンの低温化による液晶ラメラの形成および成長を示す概念図である。
図4】本発明の実施形態に係る水中油型エマルジョンの製造システム10の液晶相形成部14において、プレエマルジョンの冷却温度とせん断開始後の温度上昇を示す関係図である。
【符号の説明】
【0079】
10 水中油型エマルジョン製造システム
12 油中水型プレエマルジョン生成部
14 液晶相形成部
16 水中油型エマルジョン生成部
18 配管
20 液送ポンプ
22 乳化分散部
24 冷却部
26 プレート式熱交換器
28 冷媒温度調整部
30 温度検出部
32 流入口
34 流出口
36 液晶相形成容器
37 中心軸
38 ローター
39 所定隙間
40 ステータ
42 スリット
43 モーター
44 液晶相形成容器出口温度計測器
図1
図2
図3
図4