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特許7242579超音波探傷システムおよび超音波探傷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】超音波探傷システムおよび超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/06 20060101AFI20230313BHJP
【FI】
G01N29/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020001810
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021110606
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒井 穣
(72)【発明者】
【氏名】小池 正浩
(72)【発明者】
【氏名】永島 良昭
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-075415(JP,A)
【文献】特開2008-032466(JP,A)
【文献】特開平07-063739(JP,A)
【文献】特開2010-243375(JP,A)
【文献】特開平8-189918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象を走査して超音波エコーデータを取得する探傷器と、
前記試験対象の過去の検査の記録および前記試験対象の情報を記憶するデータベースと、
前記超音波エコーデータについての演算を行う処理装置と、
を有する超音波探傷システムにおいて、
前記処理装置は、前記探傷器で取得した前記超音波エコーデータに含まれる第一のエコーの反射源位置を第一の反射源位置として算出し、前記データベースに記憶された過去の検査記録に登録された反射源位置から第二の反射源位置を抽出し、前記第一の反射源位置と前記第二の反射源位置との距離が予め設定した距離以内にある場合には、前記第二の反射源位置に反射源を有するエコーを第二のエコーとして前記第一のエコーと前記第二のエコーの高さを比較し、エコー高さの変化量が所定の基準を上回った場合、前記第一のエコーを有意な変化があったエコーと判定することを特徴とする超音波探傷システム。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探傷システムにおいて、
前記処理装置の判定結果を表示するユーザインタフェースを備えたことを特徴とする超音波探傷システム。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波探傷システムにおいて、
探傷範囲についての指示入力を受けるユーザインタフェースを備え、
前記処理装置は、前記ユーザインタフェースでの指示入力に基づいて前記探傷器の走査経路を自動計画し、自動計画された前記走査経路に従って前記探傷器を走査した走査経路が前記指示入力を満たしているか否かを判定し、否と判定した場合に再度走査経路の自動計画を行うことを特徴とする超音波探傷システム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の超音波探傷システムにおいて、
前記処理装置は、前記第一のエコーと前記第二のエコーとの間の変化量を前記ユーザインタフェース上に図示し、前記ユーザインタフェース上で指示された図示の位置を受信し、その位置に対応する前記データベースに記憶された前記超音波エコーデータおよび過去の検査記録にアクセス可能とすることを特徴とする超音波探傷システム。
【請求項5】
探傷器により試験対象を走査して超音波エコーデータを取得し、データベースに保存された前記試験対象の過去の検査の記録と照合して評価を行う超音波探傷方法において、
前記探傷器で取得した前記超音波エコーデータに含まれる第一のエコーの反射源位置を第一の反射源位置として算出し、
前記データベースに記憶された過去の検査記録に登録された反射源位置から第二の反射源位置を抽出し、
前記第一の反射源位置と前記第二の反射源位置との距離が予め設定した距離以内にある場合には、前記第二の反射源位置に反射源を有するエコーを第二のエコーとし
前記第一のエコーと前記第二のエコーの高さを比較し、エコー高さの変化量が所定の基準を上回った場合、前記第一のエコーを有意な変化があったエコーと判定することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項6】
請求項5に記載の超音波探傷方法において、
探傷範囲についての指示入力に基づいて前記探傷器の走査経路を自動計画し、自動計画された前記走査経路に従って前記探傷器を走査した走査経路が前記指示入力を満たしているか否かを判定し、否と判定した場合に再度走査経路の自動計画を行うことを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の超音波探傷方法において、
前記第一のエコーと前記第二のエコーとの間の変化量を図示し、前記図示上で指示された位置を受信し、その位置に対応する前記データベースに記憶された前記超音波エコーデータおよび過去の検査記録にアクセス可能とすることを特徴とする超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非破壊検査の手法の一種である超音波を利用した超音波探傷システムおよび超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から溶接継手部の欠陥を検出するために、自動超音波探傷装置が利用されてきた。自動超音波探傷装置の例としては特許文献1がある。これは配管の周方向に仮設のガイドレールを設置し、その上を配管の長手方向に可動なアームを有する駆動装置を走行させるものであり、超音波探触子をアーム上に配置している。このような構造により自動超音波探傷装置では、配管等の試験対象の表面を探触子で走査しながら探傷することが可能になり、また探触子の位置情報が装置に組み込まれたセンサから得られるので、探触子の位置情報と超音波エコーの情報の紐付けが可能となり、エコーを返す反射源の位置を特定することができる。反射源の位置の特定の方法は例えば特許文献2に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61-175564号公報
【文献】特開平10-227771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶接構造部の健全性を確保するためには、製造時および使用されてからは定期的に溶接部の非破壊検査が実施されている。アクセスが可能な表面に開口した欠陥等に対しては、浸透探傷試験などの非破壊検査の適用が可能である。しかし、内部の欠陥や配管内面などアクセスが困難な表面欠陥を対象に検査するためには、超音波探傷試験(UT)が適用されている。
【0005】
溶接部のUTにおいては、超音波探触子を検査員が手で持って走査する手動探傷試験(手動UT)と超音波探触子を駆動装置(走査装置)に取り付けて機械走査する自動探傷試験(自動UT)がある。自動UTを実施するにあたっては、試験対象毎に超音波探触子の走査範囲、走査手順、走査条件などを事前に検討し、その検討結果に基づいて駆動装置の制御装置に制御条件を設定する必要がある。また、UTの結果、何らかの反射波(エコー)が受信された場合には、その反射源の位置などを特定するための反射源解析や過去のデータとの比較、反射源が欠陥か形状からの反射波であるかなどを評価する必要がある。これらの作業を溶接部ごとに手動で実施する場合には、各々の作業が煩雑で、検査員の負担も大きく、時間も要するとともにヒューマンエラーが生じる可能性もある。そのため、特許文献2にあるような反射源解析の自動化技術が開発されたが、過去のデータとの比較の自動化がなされておらず、その自動化が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
各々の作業を連携させて、一連の作業を連動させて、自動UTを実施する。具体的には、入力した試験部位の形状、試験範囲の条件やUT条件(屈折角など)に基づいて、超音波探触子の走査範囲、走査軌跡、走査条件などを計算し、その結果を表示するとともに駆動装置の制御装置に自動で入力する。この入力条件による制御装置からの指令に基づいて駆動装置の超音波探触子を走査して探傷試験を実施する。実施後に、駆動装置に設置したセンサからの信号に基づいて、実際に駆動装置で超音波探触子を走査した範囲や走査軌跡を出力する。実際の走査範囲、走査軌跡と予め計算で求めて制御装置にセットした走査範囲、走査軌跡と比較し、両者に有意な差がある場合には、再度走査条件を計算し、再探傷を実施する。両者に有意な差がない場合には、次のUT試験結果の評価のステップに進む。結果の評価では、まずあらかじめ設定したしきい値とエコーの振幅を比較し、しきい値より大きい信号の有無を確認する。しきい値より大きな信号がない場合には、試験結果の出力のステップに進む。一方、しきい値より大きい信号がある場合には、過去のUTデータと比較し、信号源の位置を解析(反射源解析)、振幅の大小関係を比較評価する。各々に有意な差がなければ、反射源に変化なしとして、試験結果の出力のステップに進む。もし、有意な差がある場合には、反射源に有意な変化ありと評価し試験結果の出力のステップに進む。
【発明の効果】
【0007】
自動で走査範囲、走査軌跡、走査条件を計算し、制御装置にセットし、探傷試験終了後に走査範囲、走査軌跡、走査条件の計算結果と実際の結果を比較評価する機能およびUT試験結果の振幅値に予め設定したしきい値より大きな信号がある場合には過去の試験データと比較評価する機能を備えた超音波探傷システムにより、検査員の負担が軽減するとともに、ヒューマンエラーが生じる可能性を低減する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1に係る超音波探傷システムの構成を示すブロック図である。
図2】実施例1に係る超音波探傷システムによる試験方法を示す全体フロー図である。
図3】実施例1に係る超音波探傷システムでの全体フロー図における走査範囲などの比較評価機能を説明するフロー図である。
図4】実施例1に係る超音波探傷システムでの走査範囲、走査軌跡の演算結果を示す図である。
図5】実施例1に係る超音波探傷システムでの走査範囲、走査軌跡の演算結果と実際の走査範囲、走査軌跡との比較を示す図である。
図6】実施例1に係る超音波探傷システムでの全体フロー図における探傷試験結果の評価機能を示すフロー図である。
図7】実施例1に係る超音波探傷システムでの超音波探傷試験結果としきい値の比較を説明する図である。
図8】実施例1に係る超音波探傷システムでの超音波探傷試験結果の反射体解析図を説明する図である。
図9】実施例1に係る超音波探傷システムでの超音波探傷試験結果と過去の結果の比較を説明する図である。
図10】実施例1に係る超音波探傷システムでの超音波探傷試験結果と過去の結果の比較を説明する別の図である。
図11】実施例1に係る超音波探傷システムでの超音波探傷試験結果と過去の結果の比較を説明する別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の超音波探傷システムおよび超音波探傷方法の実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0010】
実施例1における超音波探傷システムおよび超音波探傷方法について、図1乃至図11を用いて説明する。
【0011】
実施例1では、溶接構造物の溶接部を超音波探傷試験する際に、予め求めた走査範囲、走査軌跡と実際の走査範囲、走査軌跡を比較する機能と今回の探傷試験結果と過去の結果を比較する機能を有する超音波探傷システムやそれを好適に用いた超音波探傷方法について説明する。
【0012】
図1は、実施例1に係る超音波探傷システムの構成を示すブロック図である。
実施例1の超音波探傷システムは、データベース11と、オペレータの操作を受け付けるキーボードとポインティングデバイス、文字や図表の表示を行うディスプレイ、文字や図表の印刷を行うプリンタから構成されるユーザインタフェース2と、演算・収録・処理装置5と、駆動制御装置6と、超音波送受信を行う探傷器7と、超音波探触子10を自動走査する駆動装置(走査装置)9から構成される。
【0013】
データベース11には、予め試験対象の寸法・形状や材質、過去の試験データ(UTデータおよびUT以外の非破壊試験方法のデータ)、過去の評価・判定結果や、今回の試験データ(UTデータ)などが保存される。
【0014】
図1と実施例1に係る超音波探傷システムによる試験方法を示す全体フロー図である図2を用いて、探傷試験時の全体の流れを説明する。
【0015】
最初に、オペレータがユーザインタフェース2から試験部位など試験対象に関する情報を入力するとその情報は演算・収録・処理装置5に転送される(ステップ102)。
【0016】
該入力情報に基づいてデータベース11から、試験対象の材質や寸法・形状、超音波探触子10の屈折角や寸法など、走査範囲、走査軌跡、走査条件を計画するのに必要な情報を、演算・収録・処理装置5に読み込む(ステップ103)。
【0017】
これらの情報に基づいて演算・収録・処理装置5で、超音波探触子10の走査範囲、走査軌跡、走査条件などの計画を所定のアルゴリズムに従う演算により求める(ステップ104)。
【0018】
該演算結果を、駆動制御装置6に入力するとともにデータベース11に保存する。次に、オペレータがユーザインタフェース2で探傷試験開始の指示を入力することで、駆動制御装置6からの指令に基づいて駆動装置9に設置した超音波探触子10を走査し、探傷試験を開始する。探傷試験開始とともに、超音波探触子10では、探傷器7(超音波送受信装置)からの送信信号に基づいて超音波を試験体中に発信し、試験体内部からの反射波を受信し、探傷器7へ送る。探傷器7では、該信号を増幅して演算・収録・処理装置5に送る。また、その増幅された信号を受け取った演算・収録・処理装置5は該信号の波形を数値化するとともに、駆動制御装置6より探触子10の位置情報を受信して、数値化された受信波形に紐付けてデータベース11に記憶する。これにより、探傷器7から送られてきた信号を受けたときの探触子10の位置が分かるようになる。(ステップ105)。
【0019】
演算・収録・処理装置5では、データベース11に保存されている走査範囲、走査軌跡の演算結果と実際に超音波探触子10を走査した範囲、走査した軌跡と比較する(ステップ106)。
【0020】
次に、探傷試験結果を評価(ステップ107)し、過去の検査データと比較して有意な変化があったと評価された反射源の位置および波高値についての情報を試験結果として図や表としてユーザインタフェース2に画面表示や印刷物として出力(ステップ108)し、一連の超音波探傷試験が終了する。
【0021】
演算・収録・処理装置5で実施する、走査範囲、走査軌跡の演算結果と実際に超音波探触子10を走査した範囲、走査した軌跡と比較(ステップ106)と、探傷試験結果の評価(ステップ107)の詳細について、以下で説明する。
【0022】
走査範囲などの演算(ステップ104)から走査範囲などの比較評価(ステップ106)までの詳細を、図3乃至5を用いて説明する。図3は、ステップ103からステップ106までの詳細フローを示した図である。演算に必要なデータを、データベースから読込み(ステップ103)、走査範囲、走査軌跡、走査条件の計画を演算(ステップ104)した結果一例を、図4に示す。
【0023】
図4では、平板を溶接した試験体211(溶接部212)を対象に、超音波探触子10を矩形走査する場合の結果を示す(走査方向がY方向、送り方向がX方向)。溶接部212を含んだ範囲を試験範囲213とすると、該試験範囲213を斜角超音波214で探傷するのに必要な、超音波探触子10の計画上の走査範囲は、破線で示した215の範囲となる。実際の超音波探触子10は、駆動装置の精度などを加味して少し広い範囲を走査する。そのための計画走査軌跡を実線216で示す、このとき超音波探触子10を動かす範囲は走査方向のY方向にLY、送り方向のX方向にLXで送りピッチがΔXとなる。ΔXは、超音波探触子10の振動子の寸法などを考慮して求める。なお、ステップ103においてデータベース11から読み込んだ試験体211の形状情報から、計画上の走査範囲215の範囲に超音波探触子10を走査できない範囲があることが分かっている場合には、走査できない範囲を計画上の走査範囲215から除外し、走査可能な範囲のみを走査するように計画走査軌跡216を計画する。
【0024】
この演算結果の計画上の走査範囲、計画走査軌跡と走査速度などを含めた走査条件を、駆動制御装置6に入力する(ステップ201)。そして駆動制御装置6は該入力データに基づいて探傷試験を実施(ステップ105)し、実際の走査範囲、走査軌跡を演算・収録・処理装置5へ出力する(ステップ202)。
【0025】
次に、ステップ203にて演算・収録・処理装置5は走査範囲、走査軌跡の計画と実際に超音波探触子10を走査した範囲、走査した軌跡をユーザインタフェース2のディスプレイ上に表示するとともに比較を行う。この表示および比較を図示した一例が、図5である。実線で示した計画走査軌跡216に対して、実際の走査軌跡218を二点鎖線で示している。この結果では、斜線217で示した範囲が探傷を行わなければならない試験範囲にもかかわらず実際には未探傷の範囲である。このように、必要な走査範囲に対して実際に走査した範囲を視覚的に示すことで、試験範囲の過不足を短時間で把握することができる利点がある。比較した結果、計画上の走査範囲215の範囲内に未探傷の範囲217がある場合にはステップ204に進み、未探傷の範囲217がない場合はステップ107に進む。(ステップ203)。
【0026】
ステップ204では未探傷の範囲217が発生した原因が外的要因、例えばデータベース11に記憶されている試験体211の形状情報にない障害物等の存在等である可能性がある場合はステップ205に進み、そうでない場合はステップ207に進む(ステップ204)。
【0027】
ステップ205では演算・収録・処理装置6はユーザインタフェース2のディスプレイに外的要因を取り除くようにオペレータに促す表示を行う指令を出し(ステップ205)、次いでステップ206に進んで次のオペレータの操作があるまで走査を一時停止する。オペレータの走査があり次第ステップ207に進む(ステップ206)。
【0028】
ステップ207では、演算・収録・処理装置6は走査軌跡、走査条件を再計画し、その結果を駆動制御装置6に入力するステップ201に戻る(ステップ207)。なお、ステップ207で再計画される走査軌跡は未探傷範囲217のみを走査する軌跡にしても良いし、最初に探傷を計画した範囲215の全体を走査する軌跡としても良い。
【0029】
探傷試験結果の評価(ステップ107)の詳細を、図6乃至9を用いて説明する。図6は、ステップ107の詳細フローを示した図である。
走査範囲などの比較評価(ステップ106)の結果で未探傷の範囲217がない場合には、ステップ301(ステップ107に含まれる処理)に進み、ステップ105でデータベース11に記憶した探傷試験結果の受信波形について、ステップ301で波高値Hを予め設定したしきい値SHと比較する。図7に示すように、超音波探触子10から試験体211内に超音波214を送信した場合に、試験体211の内部に欠陥などの反射体311が存在すると、超音波214が反射体311で超音波探触子10の方向に反射して、超音波探触子10で反射波が受信される。その時の受信波形312を、図7の上図に示す。312の横軸が超音波の伝搬距離、縦軸が受信した超音波の振幅である。大きな振幅313は、反射体311からの反射波を表し、受信波313の伝搬距離W、振幅Hを求める。ステップ301では、該受信波313の波高値Hと予め設定したしきい値314(SH)を比較する。波高値Hがしきい値SH以上である場合には、評価が必要な反射源と判定してステップ302に進み反射体位置解析を行う。波高値Hが式位置SH未満である場合は評価不要な反射源と判定しステップ108に進む(ステップ301)。
【0030】
ステップ302では反射体位置解析を行う。具体的には、超音波314の入射位置321、超音波探触子10の屈折角θと伝搬距離Wから、反射体位置322を求める(図8)。
【0031】
試験体表面からの深さ位置=W×cosθ
入射位置からY方向位置=W×sinθ
なお入射位置については、ステップ105で受信波形と紐付けられてデータベース11に記憶した超音波探触子10の位置情報から算出する。
【0032】
図8は1か所での反射体位置解析の例を示したが、複数個所でしきい値以上の受信波が得られた場合には、各位置で反射体解析を行って反射体位置322の座標を求める(ステップ302)。
【0033】
過去の超音波探傷試験データとの比較は、反射体の位置および波高値を比較する。反射体の位置の比較では、過去と今回の探傷で同一の反射体、異なる反射体および位置に有意な差はあるが同一の可能性がある反射体のいずれかに分類する。その分類の手順を以下に記載する。
【0034】
ステップ302で反射体位置解析を行った後に、データベース11に登録された過去の検査データに登録された反射体位置情報から1つの反射体323の位置情報と波高値情報を呼び出す(ステップ303)。
【0035】
図9に、今回の超音波探傷試験で評価された反射体322を白丸で過去に評価された反射体323を黒丸で示す。反射体322と323のX,Y,Z方向の座標差をδX、δY、δZとする。もし、δX、δY、δZすべてが予め設定したX、Y、Z方向の距離(DX1、DY1、DZ1)以内にあれば、同一反射体と評価してステップ305に進み、次に波高値を比較し、それ以外の場合はステップ306に進む。(ステップ304)。
ステップ305では反射体322からの反射波の波高値と、過去の検査データに含まれる反射体323の波高値情報を比較し、その変動が予め設定した変動の範囲DH未満であれば、波高値に有意な差がないと評価してステップ308に進み、変動がDH以上であれば有意な差があると評価してステップ310に進む(ステップ305)。
【0036】
ステップ306ではδX、δY、δZのすべてが予め設定したX,Y,Z方向の距離(DX2、DY2、DZ2)内にある場合は反射体322と323について、反射体位置に有意な差があるが同一反射体による反射波の可能性ありと評価しステップ307に進む。それ以外の場合については反射体322と323が異なる反射体であると評価してステップ308に進む(ステップ306)。なお、DX2≧DX1、DY2≧DY1、DZ2≧DZ1である。
【0037】
ステップ307では反射体322と323からの反射波の波高値についても比較し、予め設定した変動の範囲DH以内であれば、波高値に有意な差がないと評価し、DHを超える変動があれば波高値についても有意な差があると評価してステップ310に進む(ステップ310)。
【0038】
ステップ308では反射体322の位置・波高値について過去の検査データに含まれるすべての反射体と比較が終わったかを判定する。終わっていない場合はステップ303に戻り、次の比較対象とする過去の反射体の情報を呼び出す。すべて反射体との比較が終わった場合はステップ309に進む(ステップ308)。
【0039】
ステップ309では反射体322からの反射波の波高値と、予め設定するしきい値THと比較する。波高値がTH未満であれば位置・波高値のいずれにも有意差なしと評価してステップ108に進む。波高値がTH以上である場合は波高値に有意差ありと評価してステップ310に進む(過去の探傷では波高値SH以下であったため記録されていない反射源について有意差が発生したとみなす)。ただし、TH≧SHとなるように定める。
【0040】
ステップ310では反射体322について過去の検査からの有意な変化があった反射体として、その位置、反射波の波形・波高値、変化した要素(位置、波高値)等の情報をデータベース11に登録してステップ108に進む(ステップ310)。
【0041】
このようにして演算・収録・処理装置7は今回の超音波探傷試験で評価された反射体すべてについて過去の検査データとの有意差の有無を評価する。
【0042】
図10に示したように、波高値の比較を視覚的に表すことも可能である。図10では今回の探傷試験結果の平面像(Cスコープ)501と過去の探傷試験結果の平面像(Cスコープ)502との差分結果として、予め設定した変動の範囲DHより差が大きい領域を平面像(Cスコープ)503で表示している。このようにすることで過去の検査データと今回の検査データの変化が視覚的に表現されるため、評価者の理解を助けて負荷を低減すると共に有意な変化の見落としのリスクが低減される。なお、上では波高値の比較を例に挙げたが、反射源位置の比較についても同様に図示することができる。
【0043】
更に、図11に示すように、例えば、過去の探傷試験結果の平面像(Cスコープ)で反射体が表示されている部分にカーソルを持っていくことで、反射体解析図、過去の判定結果などの情報が表示されるようにすることもできる。これにより、評価の際に素早く必要な情報にアクセス可能となるため、評価に要する時間の短縮の効果が得られる。
【0044】
図10乃至11では、過去の超音波探傷試験結果との比較を示したが、過去の超音波探傷試験結果がない場合などは、超音波探傷試験結果以外の試験結果(例えば、放射線試験結果や浸透探傷試験結果など)も活用して、反射体の識別などを実施する。
【0045】
図6のフローは、探傷試験などを含めた一連のフローを記載したものであり、探傷試験を実施済みで保存されたデータの解析、評価のみ行う場合には、ステップ104~106をスキップして、ステップ103から301のフローの場合もある。
【0046】
なお、本実施例では駆動装置9は自動としているが、探傷時の超音波探触子10の位置情報を検出して反射波の情報を紐付けする手段があれば、人力で超音波探触子10を操作するシステムであっても同様な手順で同様な効果を得られる。
【0047】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0048】
2…ユーザインタフェース
5…演算・収録・処理装置
6…駆動制御装置
7…探傷器
9…駆動装置
10…超音波探触子
11…データベース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11