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▶ アビオメド オイローパ ゲーエムベーハーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】血液ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/174 20210101AFI20230313BHJP
   A61M 60/242 20210101ALI20230313BHJP
   A61M 60/416 20210101ALI20230313BHJP
   A61M 60/546 20210101ALI20230313BHJP
   A61M 60/585 20210101ALI20230313BHJP
   A61M 60/865 20210101ALI20230313BHJP
   A61M 60/88 20210101ALI20230313BHJP
【FI】
A61M60/174
A61M60/242
A61M60/416
A61M60/546
A61M60/585
A61M60/865
A61M60/88
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020509454
(86)(22)【出願日】2018-08-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2018072322
(87)【国際公開番号】W WO2019034775
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】17186897.9
(32)【優先日】2017-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507116684
【氏名又は名称】アビオメド オイローパ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニックス クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ルンツェ カトリン
(72)【発明者】
【氏名】ジース トルステン
(72)【発明者】
【氏名】アボウルホースン ワリド
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-297174(JP,A)
【文献】特表2015-514529(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0215843(US,A1)
【文献】特表2012-519034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/174
A61M 60/242
A61M 60/416
A61M 60/546
A61M 60/585
A61M 60/865
A61M 60/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血管の中に経皮的に挿入されるための血管内血液ポンプ(50)の血流Qpump(t)を制御するための制御デバイス(100)であって、前記血液ポンプ(50)が、ポンプユニット(52)と、血流入口(54)から血流出口(56)に向かって血液を運搬するように構成される、前記ポンプユニットを駆動するための駆動ユニット(51)とを備え、
前記制御デバイス(100)が、選択可能なゼロ流量制御モードで前記血液ポンプ(50)を動作させるように構成され、血流コマンド信号Qpump set(t)が選択され、前記制御デバイスが第1の制御装置(401)および第2の制御装置(402)を備え、
前記第1の制御装置(401)が、前記駆動ユニット(51)に対する速度コマンド信号npump set(t)を調整することにより前記血流Qpump(t)を制御するように構成され、前記第2の制御装置(402)が、前記速度コマンド信号n pump set (t)に従って前記駆動ユニット(51)の駆動速度npump(t)を制御するように構成され、
前記制御デバイス(100)が、前記ゼロ流量制御モードにおいて、前記ゼロ流量制御モードが適用される度に1つ以上の特徴的な心臓パラメータの値を監視し、前記監視された1つ以上の特徴的な心臓パラメータの1つ以上の値の傾向を特定するように構成される、ことを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項2】
請求項1に記載の制御デバイス(100)であって、前記第1の制御装置(401)が、前記血流コマンド信号Qpump set(t)と前記血流Qpump(t)との間の差ΔQに基づいて前記速度コマンド信号npump set(t)を決定するようにさらに構成される、ことを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制御デバイス(100)であって、前記第2の制御装置(402)が、前記駆動ユニット(51)に供給される駆動電流Ipump(t)を調整することにより前記駆動速度npump(t)を制御するように構成される、ことを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記第1の制御装置(401)および前記第2の制御装置(402)がカスケード制御システムの一部であり、前記第1の制御装置(401)が外側制御装置であり、前記第2の制御装置が内側制御装置(402)である、ことを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記制御デバイス(100)が、所定のゼロ流量制御時間にわたって前記血流Qpump(t)を制御するように構成される、ことを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項6】
請求項5に記載の制御デバイス(100)であって、
前記所定のゼロ流量制御時間が、補助を受けている心臓の1回の心臓周期の一部分にわたって継続するように設定されるか、または
前記所定のゼロ流量制御時間が、少なくとも1回の完全な心臓周期にわたってまたは所定の回数の連続する完全な心臓周期にわたって継続するように設定される、
ことを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項7】
請求項5または6に記載の制御デバイス(100)であって、前記制御デバイス(100)が、前記ゼロ流量制御時間を、少なくとも1つの特徴的な心臓拍動サイクル事象の発生と同期させるように構成される、ことを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項8】
請求項7に記載の制御デバイスであって、前記ゼロ流量制御時間の開始および/または終了が、前記少なくとも1つの特徴的な心臓拍動サイクル事象の発生と同期される、ことを特徴とする制御デバイス。
【請求項9】
請求項8に記載の制御デバイス(100)であって、前記少なくとも1つの特徴的な心臓拍動サイクル事象が大動脈弁の開放または大動脈弁の閉鎖である、ことを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項10】
請求項1からのいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記制御デバイス(100)が、前記血液ポンプ(50)を定期的にまたは不規則に前記ゼロ流量制御モードで動作させるように構成される、ことを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記1以上の特徴的な心臓パラメータが、動脈圧の拍動性AOP|max-AOP|min、平均動脈圧、心臓の収縮性dLVP(t)/dt|max、心臓の弛緩dLVP(t)/dt|min、心拍数HR、のうちの少なくとも1つである、ことを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記制御デバイス(100)が、センサにより前記血流Qpump(t)を測定するように、または前記血流Qpump(t)を計算もしくは推定するように構成される、ことを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)であって、前記制御デバイス(100)が、前記血流Qpump(t)と、前記駆動速度npump(t)と、前記血流出口(56)と前記血流入口(54)との間の圧力差ΔPpump(t)および前記駆動ユニット(51)に供給される駆動電流Ipump(t)のうちの少なくとも一方と、の間の関係を表す参照テーブルを使用して前記血流Qpump(t)を決定するように構成される、ことを特徴とする制御デバイス(100)。
【請求項14】
患者の血管の中に経皮的に挿入されるための血管内血液ポンプ(50)と、請求項1から13のいずれか1項の制御デバイス(100)とを備えることを特徴とするシステム。
【請求項15】
請求項14に記載のシステムであって、前記血液ポンプ(50)が、血液ポンプの可動部品がプラスチックで作られること、駆動ユニット(51)が前記駆動ユニット(51)によって駆動される可動部品の近くに配置されること、前記駆動ユニット(51)が回転駆動ケーブルまたは回転駆動ワイヤを有さないこと、のうちの1つ以上の特性を有する、ことを特徴とするシステム。
【請求項16】
患者の血管の中に経皮的に挿入されるための血管内血液ポンプ(50)の血流Qpump(t)を制御するための方法であって、前記血液ポンプ(50)が駆動ユニット(51)を備えるポンプユニット(52)を備え、血流入口(54)から血流出口(56)に向かって血液を運搬するように構成され、前記方法が、
所定のゼロ流量制御時間にわたって設定血流値Q pump set (t)がゼロである、ゼロ流量制御モードを提供するステップと、
第1の閉ループサイクルで制御誤差e(t)を得るために、前記設定血流値Qpump set(t)を血流値Qpump(t)と比較するステップと、
前記制御誤差e(t)から、駆動手段のための設定速度値npump set(t)を決定するステップと、
第2の閉ループサイクルで、前記設定速度値npump set(t)を駆動速度npump(t)と比較することにより、前記駆動ユニット(51)の前記駆動速度npump(t)を制御するステップと
前記ゼロ流量制御モードにおいて、前記ゼロ流量制御モードが適用される度に1つ以上の特徴的な心臓パラメータの値を監視するステップと、
前記1つ以上の特徴的な心臓パラメータの前記監視された値の傾向を特定するステップと、を含
これらのステップが、制御装置(100)によって実施される、
ことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、
助を受けている心臓の1回の心臓周期の一部分にわたって継続するように、あるいは少なくとも1回の完全な心臓周期または所定の回数の連続的な心臓周期の一部分および/もしくは完全な心臓周期にわたって継続するように、前記所定のゼロ流量制御時間を設定するステップをさらに含む、ことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項16または17に記載の方法であって、前記第1の閉ループサイクルがカスケード制御の外側制御ループであり、前記第2の閉ループサイクルが内側制御ループである、ことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項16から18のいずれか1項に記載の方法であって、
前記ゼロ流量制御時間を少なくとも1つの特定の特徴的な心臓拍動サイクル事象と同期させるステップ
をさらに含む、ことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項16から19のいずれか1項に記載の方法であって、前記ゼロ流量制御時間の開始および/または終了が、前記少なくとも1つの特徴的な心臓拍動サイクル事象の発生と同期される、ことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項16から20のいずれか1項の方法を実行するように構成される、請求項1から12のいずれか1項に記載の制御デバイス(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、詳細には患者の血管の中への経皮的な挿入のための血管内血液ポンプである、血管ポンプに関する。詳細には、本発明は、経皮的に挿入可能である血液ポンプの固有の制御方法、および対応する制御デバイス、さらには、この制御デバイスと、この血液ポンプとを備えるシステムに関する。本発明は血管内血液ポンプのために構成されるものであり、血管内血液ポンプに特に有用であるが、血管の内部または心臓の内部に配置されずに例えば胸腔の中に移植されるなどして患者の心臓の外部に配置されるVADなどのより大型の血液ポンプとは関連性が低い。
【背景技術】
【0002】
心室補助デバイス(VAD:Ventricular Assist Device)は、左心補助デバイス(LVAD:left ventricular assist device)または右心補助デバイス(RVAD:right ventricular assist device)として、患者の心臓の機能をサポートするのに使用される。一般的なVADは適切な導管により患者の心臓に接続され、心臓の外部にある患者の胸腔の中に移植される。経皮的な挿入のための血管内血液ポンプが、通常、カテーテルおよびポンプユニットを備え、例えば、大動脈を通して左心室の中に挿入されるなどして、アクセス経路を通して血管の中に挿入されてさらには患者の心臓の中に挿入される。ポンプユニットがカテーテルの遠位端に位置することができ、血流入口および血流出口と、カテーテルとを備え、カテーテルを通る血流が例えばポンプユニットのロータまたは羽根車によって作られる。例えば、カニューレが大動脈弁を通って延在することができ、ここでは血流入口が左心室内でカニューレの遠位端のところに配置され、血流出口が大動脈内でカニューレの近位端のところに配置される。血流を作ることにより、出口と入口との間の圧力差に打ち勝つ。
【0003】
血管内血液ポンプ(本明細書では以下で、単純に「血液ポンプ」とも称される)の重要な側面は、とりわけ、血管内血液ポンプを患者から除去することであり、ひいては生来の心臓機能が回復したことを確認することである。これは、例えば、血液ポンプによって提供される補助の程度を十分に低減することにより、行われ得、その結果、心臓が十分に回復したことが判明した後で血液ポンプが最終的に除去され得るようになる。この側面、つまり除去のための正確なタイミングを決定することは、通常は患者の胸腔の中に移植されて長期間の使用のために設計されるような、より大型のVADではそれ程重要ではない。
【0004】
これまでに、血管内血液ポンプが移植されている限り、心臓回復の状態を十分に示すことが知られている物理的信号は存在しない。血液ポンプは心臓を補助するが、補助を受けていない心臓機能を知ることは不可能である。また、血液ポンプがオフに切り換えられると、カニューレを通って逆流が起こり、その結果、補助を受けていない心臓機能を知ることが不可能となる。逆流は血管内血液ポンプの大きい問題である。その理由は、血液ポンプまたより具体的にはポンプのカニューレが、例えば大動脈弁などの心臓弁を通って延在することになり、それにより心臓弁を通る開経路が作られ、血液ポンプの非駆動時に心臓の中へと逆流するからである。このような流出は血管外デバイスでは通常起こらない。その理由は、血管外デバイスが心臓弁を通って延在せず、心臓弁を迂回するからであり、これは例えば胸腔内で心臓の外部に配置されるVADなどである。
【0005】
現況技術では、最新のポンプ速度の設定が、専門家の経験に基づいて、例えば1レベルずつ、医者によって段階的に手動で低減される。ポンプ速度が低減された後、平均大動脈圧が監視される。一部の施設は、超音波検査ベースの左室容積評価および継続的な心拍出力測定を実施する。平均大動脈圧が安定状態を維持する場合、心臓が血液ポンプから仕事を引き継ぐことができるとみなされる。しかし、平均大動脈圧が低下する場合、心臓が依然としてさらなる補助を必要としており、ひいてはポンプ速度を再び上げることが必要であるとみなされる。さらに、血液ポンプの除去の前に、いわゆるオン/オフ手法が適用される。こうすることで、ポンプ速度が例えば数時間にわたって大幅に低下し、ここでは、患者の生理学的状態および心室の膨張が特に観察され、これは例えば、超音波心臓検査(ECHO)の測定および/または心室造影法に基づく。ECHOがサイズおよび形状などの心臓に関する情報を提供することができ、例えば、内部の心室サイズの定量化、圧送能力に関する情報を提供することができ、心拍出力、駆出率、および心臓拡張機能の計算を可能にする。心室造影法は、圧送される血液の量を測定するための心臓の心室の中に造形剤を注入することを伴う。心室造影法によって達成される測定は、駆出率、1回拍出量、および心拍出力である。
【0006】
血液ポンプがオフに切り換えられており、心臓が依然として不十分にしか機能していない場合、補助を受けなくなった心室が大幅に広がることになり、その結果、収縮期において心室から十分な血液量が排出されなくなり、それにより左心室の拡張終期容積および拡張終期圧が増大することになる。言い換えると、ポンプ速度が低下することにより心臓が負荷を受けることになり、これは依然として回復してない心臓に急激な過負荷を与えることに相当し得る。これにより治療が数日後退することになる可能性がある。
【0007】
したがって、血液ポンプの除去の前の実際的な監視プロセスは、程度の差はあるが、トライアルアンドエラーの手順となり、ここでは、患者の状態が安定状態を維持する場合にはポンプ速度がさらに下げられ、患者の状態が悪化すると、ポンプ速度を再び上げる必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、血管内血液ポンプのための改善された制御方法およびそれに対応する改善された制御デバイス、さらには、この制御デバイスと、血管内血液ポンプとを備えるシステムを提供することであり、ここでは、血管ポンプが、心臓回復の状態をより良好に評価しているのを確認することができように動作させられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的がそれぞれの独立請求項の特徴によって達成される。有利な実施形態および別の発展形態がそれぞれの従属請求項で定義される。
【0010】
明瞭さのために、本明細書では以下の定義が適用される。:
「心臓の特性パラメータ」という用語は、例えば過負荷または無負荷などの負荷に関するような、ならびに/あるいは虚弱、健康、または回復などの生理学的状態に関するような、心臓の状態の特徴を表すことができる生理学的信号から得られる特定値として理解されるものである。
【0011】
「ヒト循環系」は、血液を循環させるのを可能にする臓器系である。ヒト循環系の不可欠な構成要素は、心臓、血液、および血管である。循環系は、血液に酸素が送り込まれる場所である、肺を通る「ループ」である肺循環と、;酸素を豊富に含んだ血液を提供するために身体の残りの部分を通る「ループ」である体循環と、を含む。
【0012】
本明細書で開示される改善は、設定可能な血流レベルを有する血液ポンプに関連する。例えば、回転式血液ポンプの事例では、「設定可能な血流レベル」は、最小血流および最大血流によって画定される範囲内での、離散的な血流レベルまたは連続的に設定可能である血流レベルであってよい。
【0013】
本明細書で提案される、血管内血液ポンプを制御するための制御デバイスおよび対応する制御方法の基本的な考えは、血液ポンプを通る最新の血流をその血流出力能力と比較して非常に低く維持することができるようなまた好適にはゼロで維持することができるようなモードを実現することである。好適には、血液ポンプを通る血流が0L/分から1L/分の間で維持され、より好適には、0L/分から0.5L/分の間、0L/分から0.2L/分の間、またはさらには0L/分から0.1L/分の間で維持される。最も好適には、血液ポンプを通る血流がほぼゼロの流れで維持される。この事例では、血液ポンプが、正の血流または負の血流のいずれも作らないように制御される。この動作モードは、本明細書では、「ゼロ流量制御モード」と呼ばれる。例えば、血液ポンプの例えばモータなどの駆動ユニットを制御することにより、また具体的には例えばモータなどの駆動ユニットの最新の駆動速度を制御してひいては流量を制御することにより、ゼロ流量が確立および/または維持され得、その結果、血液ポンプの血流入口と血流出口との間の最新の圧力差のみが補償される。
【0014】
本文脈での「ゼロ流量」は、ゼロ流量としてまたは非常に低い血流として理解される必要がある。ゼロ流量制御モードの目的は心臓の回復状態に関する情報を得ることであるため、非常に低い血流を実施することでも十分となり得る。本文脈では、最大0.1L/分、最大0.2L/分、またはさらには最大0.5L/分などの、低い血流は「ゼロ流量」とみなされるものとする。いずれの場合も、「ゼロ流量」は負ではないものとする。言い換えると、ゼロ流量は血液ポンプを通る逆流を一切許容しないものとする。
【0015】
本文脈の経皮的な挿入のための血管内血液ポンプがカテーテルおよびポンプユニットを備え、血管を介して患者の心臓の中に挿入され、例えば大動脈を通って左心室の中に挿入される。ポンプユニットが、血流入口および血流出口と、カニューレとを備え、ポンプユニットを駆動するための駆動ユニットによりこのカニューレを通る血流が作られる。例えば、ポンプユニットが、例えばモータである、駆動ユニットによって駆動されるロータまたは羽根車を備えることができ、それにより血流入口から血流出口に向かって血液を運搬する。例えば、カニューレが大動脈弁を通って延在することができ、ここでは血流入口が左心室内でカニューレの遠位端のところに配置され、血流出口が大動脈内でカニューレの近位端のところに配置される。血管内血液ポンプが、約12French(F)(約4mm)から約21French(F)(約7mm)の範囲内の最大外径を有することができ、これは例えば、12F(約4mm)、18F(約6mm)、または21F(約7mm)であり、これは通常はポンプユニットの最大外径である。カテーテルが、ポンプユニットの外径未満である外径を有することができ、例えば9F(約3mm)を有することができる。
【0016】
生来の心臓機能は、例えば大動脈と左心室との間に圧力差を作る。正の血流を作るためには、血液ポンプがこの圧力差に打ち勝つ必要がある。そうではない場合、つまり血液ポンプによって作られる圧力が小さすぎる場合、大動脈と左心室との間の既存の圧力差が左心室の中への逆流を生じさせることになる。
【0017】
ゼロ流量制御モードを適用することにより、血液ポンプが心臓を補助しないかまたは非常にわずかにしか補助せず、それにより有利には逆流を回避し、つまり、血液ポンプが血液の逆流を許容しなくなる。例えば、左心室の補助の事例では、心臓拡張期において、血液ポンプが、大動脈から左心室に戻るような、血液の逆流を許容しない。
【0018】
ゼロ流量制御モードを適用することにより、血液ポンプの例えばロータまたは羽根車などの駆動ユニットが依然としてスピンすることになる。したがって、継続的に動いている部品により、血栓形成のリスクが低減される。
【0019】
ゼロ流量動作モードにより、心臓に対して血液ポンプにより提供される補助が、基本的にゼロとなるように設定される。「基本的にゼロ」とは、継続して作られるいかなる血流も少なくとも無視できる程度である必要があり、いずれにしても負ではないことを必要とし、つまり血液ポンプが血液ポンプを通る逆流を許容しない、ということを意味する。
【0020】
ゼロ流量動作モードでは、例えば左心室などの補助を受けている心室の中の圧力と例えば大動脈などの隣接する血管の中の圧力との間の圧力差に打ち勝つことにおける全体の仕事が、心臓のみによって提供される。このようにして、ゼロ流量動作モードが、心臓回復の状態のための指標として使用または解釈され得る心臓の1つ以上の適切な特徴的なパラメータを監視するのを可能にする。
【0021】
好適には、血液ポンプの血流が、例えばモータなどの駆動ユニットの駆動速度、駆動ユニットに供給される電流、および/または血液ポンプの出口と入口との間の圧力差に関連付けられる。この関連付けがメモリに記憶され得、例えば後でより詳細に説明されるように参照テーブル内に記憶され得る。つまり、コマンド信号値が制御デバイスのメモリまたは制御デバイスによってアクセス可能である血液ポンプ内のメモリに記憶され得る。
【0022】
第1の態様は、患者の血管の中に経皮的に挿入されるための血管内血液ポンプの血流Qpump(t)を制御するための制御デバイスを提供する。血液ポンプが、ポンプユニットと、血流入口から血流出口に向かって血液を運搬するように構成される、ポンプユニットを駆動するための駆動ユニットとを備える。制御デバイスが選択可能なゼロ流量制御モードで血液ポンプを動作させるように構成され、ここでは、血流コマンド信号Qpump set(t)が選択される。制御デバイスが第1の制御装置および第2の制御装置を備え、ここでは、第1の制御装置が、駆動ユニットに対する速度コマンド信号npump set(t)を調整することにより血流Qpump(t)を制御するように構成され、第2の制御装置が駆動ユニットの駆動速度npump(t)を制御するように構成される。より具体的には、制御デバイスが血管内血液ポンプを制御するように特に構成されるか、またはより一般的には後でより詳細に説明されるように低慣性デバイスを制御するように構成される。
【0023】
好適には、血管内血液ポンプが、血流入口と血流出口との間に、カニューレを備え、カニューレを通る血流がポンプユニットによって作られる。動作中、カニューレが例えば大動脈弁を通って延在することができ、この間、血流入口が左心室内に配置され、血流出口が大動脈内に配置される。
【0024】
例えば、制御される血流が一定となり得る。血流入口と血流出口との間の最新の圧力差を補償することにより、血液ポンプを通る実際の血流がゼロ流量となる。つまり、ゼロ流量制御モードでは、駆動速度の制御を介して血流を制御することにより、血流出口と血流入口との間の最新の圧力差の影響が弱められる。
【0025】
好適には、第1の制御装置が、血流コマンド信号Qpump set(t)と血流Qpump(t)との間の差ΔQに基づいて速度コマンド信号npump set(t)を決定するように構成される。言い換えると、第1の制御装置が、速度コマンド信号npump set(t)を決定することを目的として実際の血流Qpump(t)を血流コマンド信号Qpump set(t)と比較するように構成される。
【0026】
好適には、第2の制御装置が、駆動ユニットに供給される駆動電流Ipump(t)を調整することにより駆動速度npump(t)を制御するように構成される。例えば、駆動ユニットが、モータ、また具体的には電気モータを備えることができ、調整される駆動電流がモータに供給されるモータ電流であってよい。したがって、回転式駆動ユニットの場合、駆動ユニットのコマンド速度信号npump set(t)および設定駆動速度npump set(t)が回転速度であってよい。モータがポンプユニット内に位置してよく、例えば機械的接続または磁気的結合により、羽根車に直接にまたは間接的に結合される。
【0027】
好適には、第1の制御装置および第2の制御装置がカスケード制御システムの一部であり、ここでは、第1の制御装置が外側制御装置であり、第2の制御装置が内側制御装置である。外側制御装置が外側制御ループに埋設され得、血流コマンド信号を発生血流と比較することによりおよび内側制御ループの設定点をつまり血液ポンプの速度コマンド信号を設定することにより、血液ポンプによって発生する血流を管理することができる。内側制御装置が内側制御ループの一部分であり、それに従ってモータ電流を調整することにより血液ポンプの速度を制御することができる。
【0028】
好適には、制御デバイスが、所定のゼロ流量制御時間にわたって血流Qpump(t)を制御するように構成される。
【0029】
例えば、所定のゼロ流量制御時間が、補助を受けている心臓の1回の心臓周期の一部分にわたって継続するように設定され得る。つまり、ゼロ流量制御モードが単に短期間に「1回の心拍(within-a-beat)」に適用される。この事例では、所定のゼロ流量時間が、好適には、心臓拍動サイクルの継続時間と比較して短い。このようにして、心臓に過負荷を一切かけることなく、心臓の回復状態に関する情報が収集され得る。その理由は、心臓に対しての補助のない継続時間が最短として維持されるからである。
【0030】
例えば、所定のゼロ流量制御時間が、少なくとも1回の完全な心臓周期にわたってまたは所定の回数の完全な連続の心臓拍動サイクルにわたって継続するように設定され得る。
【0031】
好適には、制御デバイスが、ゼロ流量制御時間を、少なくとも1つの特徴的な心臓拍動サイクル事象の発生と同期させるように構成される。例えば、ゼロ流量制御時間の開始および/または終了が、少なくとも1つの特徴的な心臓拍動サイクル事象の発生と同期される。特に、ゼロ流量制御時間の開始および終了が、2つの特徴的な心臓拍動サイクル事象の発生と同期され得る。このようにして、ゼロ流量制御モードが心臓周期の時間間隔に合うように設定され得、ここでは、心臓の特定の特徴的なパラメータが、心臓回復の状態を直接的にまたは間接的に示す特に有用な情報を提供することができる。
【0032】
例えば、特徴的な心臓拍動サイクル事象が大動脈弁の開放または大動脈弁の閉鎖であってよい。例えば、制御デバイスは、左心室圧または大動脈圧の平衡状態の存在、心電図のR波の発生、ECG、補助を受けている心臓の患者から送られる信号のうちの1つにより大動脈弁の開放を検出するように構成され得る。
【0033】
さらに、特徴的な心臓拍動サイクル事象が、僧帽弁の開放、僧帽弁の閉鎖、または拡張終期左心室圧の発生であってよい。
【0034】
好適には、制御デバイスが、1つ以上の特徴的な心臓パラメータの値を監視するように構成される。つまり、制御デバイスが、ゼロ流量制御モードを適用するたびに、ゼロ流量制御モードにおいて、1つ以上の特徴的な心臓パラメータを監視するように構成され得る。
【0035】
好適には、制御デバイスが、血管内血液ポンプを定期的にまたは不規則にゼロ流量制御モードで動作させるように構成される。ゼロ流量制御モードの定期的なまたは不規則的な適用が、例えば1回の心臓拍動サイクルの一部分から最大数日までの、所定の期間にわたって実施される。
【0036】
好適には、制御デバイスが、監視される特徴的な心臓パラメータの1つ以上の値の傾向を特定するように構成される。このように監視される1つ以上の特徴的な心臓パラメータの傾向が、心臓の回復状態のためのまたは心臓回復の状態のための指標として使用され得、つまり回復の進展の有無に関わらず補助を行うことができる。この傾向は制御デバイスのユーザインターフェースを介して医者に示され得、その結果、医者が心臓回復状態に関しての決定を行うことが可能となる。
【0037】
例えば、心臓の少なくとも1つの特徴的なパラメータが、ゼロ流量動作モードを確立するたびに測定される動脈血圧であってよい。ゼロ流量制御モードを適用することにより、動脈血圧が低下し得る。圧力低下が限界値に達するかまたは限界の低下を示すことにより、心臓が回復していないことを理由として、血液ポンプを除去することが不可能であることが示される。別の例では、ゼロ流量制御モードにおいて、動脈血圧が安定状態に留まる可能性があり、つまり小さい圧力低下のみしか示さない可能性がある。このような事例では、心臓が十分に回復しており、血液ポンプが除去され得るとみなされ得る。
【0038】
好適には、少なくとも1つの特徴的な心臓パラメータが、:動脈圧の拍動性AOP|max-AOP|min、平均動脈圧、心臓の収縮性dLVP(t)/dt|max、心臓の弛緩dLVP(t)/dt|min、心拍数HRのうちの少なくとも1つである。
【0039】
制御デバイスが、センサにより血流Qpump(t)を測定するように、または血流Qpump(t)を計算もしくは推定するように構成され得る。例えば、血流出口と血流入口との間の圧力差が、血液ポンプの入口および出口に位置するそれぞれの圧力センサによって決定され得、つまり血液ポンプのその後の荷重を捕捉する圧力センサおよび血液ポンプの予荷重を捕捉する圧力センサによって決定され得る。血液ポンプが、別法としてまたは加えて、圧力差を直接的な形でのみ測定するように構成される1つのセンサを含むことができる。さらに、代替形態では、血流出口と血流入口との間の圧力差が、推定、測定、または計算され得る。
【0040】
血流Qpump(t)を測定するのではなく、参照テーブルを使用して血流Qpump(t)が決定され得、この参照テーブルは、血流と、駆動速度と、血流出口と血流入口との間の圧力差および駆動ユニットに供給される駆動電流のうちの少なくとも一方との間の関係を表すことができる。このような参照テーブルは、それぞれの関係を表す特性曲線のセットを含むことができ、これは例えば各々が特定のポンプ速度に対応する曲線のセットである。他の適切な参照テーブルも使用され得ること、および参照テーブル内の値が多様な単位で与えられ得ることが認識されよう。
【0041】
モータ電流および血流などの参照テーブルで使用されるためのデータが、ポンプによって作られる流れを記録しながら、所与のモータ速度でおよび所定のポンプ負荷(入口と出口との間の圧力差)で流体中で血液ポンプを動かすことにより、試験台組立体(test bench assembly)に記録され得る。モータ電流および血流が記録される間、例えば、ポンプ負荷がゼロ負荷(血流入口と血流出口との間に圧力差がなく、つまり最大流量である)から最大負荷(ポンプが機能せず、つまり流れがない)まで経時的に増大する可能性がある。このような参照テーブルは、複数の異なるモータ速度のために作られ得る。血流Qpump(t)を決定するためにこのような参照テーブルを使用することにより、特には血流Qpump(t)を測定または計算する手法と比較して、血液ポンプの動作中に血流Qpump(t)を決定するためのより有利な手法を実現することができる。参照テーブルを用いることにより、血液ポンプの容易に入手可能である動作パラメータのみに基づいて、血流Qpump(t)が決定される。したがって、患者の脈管の内部の圧力差を検出するための圧力センサまたは流れセンサなどの、患者のパラメータを検出するためのセンサは必要ない。さらに、参照テーブルから血流Qpump(t)のための値を読み取ることには、コンピュータによる集中的な計算が必要ない。
【0042】
しかし、1回の心拍のゼロ流量制御モードを適用することのみにより1つ以上の適切な特徴的な心臓パラメータを監視することでは、心臓が血液ポンプの不足的な補助に対して十分には適合され得ない。したがって、監視される特徴的な心臓パラメータが心臓回復の真の状態を依然として十分に示すことができない可能性があり、例えば心臓の実際の圧送能力を十分に示すことができない可能性がある。したがって、複数の連続する心臓拍動サイクルにおいて1回の心拍のゼロ流量制御モードを繰り返すことが可能である。
【0043】
したがって、所定のゼロ流量時間が、少なくとも1回の完全な心臓周期にわたってまたは所定の回数の完全な連続の心臓拍動サイクルにわたって継続するように設定され得る。例えば、所定のゼロ流量時間が、最大数時間において1回の心臓拍動サイクルの一部分となるように設定され得る。このようにして、心臓が血液ポンプによる補助のない状態に完全に適合され得、その結果、心臓回復の実際の状態がより良好に確認され得るようになる。
【0044】
1回の心拍のゼロ流量と完全な心臓拍動サイクルにわたるゼロ流量とを組み合わせることも可能である。例えば、ゼロ流量制御モードが、最初に、比較的短い時間にわたって適用され得、例えば1回の心臓拍動サイクルの一部分にわたって、または1回から300回の連続の心臓拍動サイクルにわたって適用され得る。生来の心臓機能および十分な回復状態が認められた後で、ゼロ流量制御モードが長時間にわたって適用され得、これは、数分または数時間にわたってまた最大で数日にわたるような複数回の完全な心臓拍動サイクルにわたってなどである。
【0045】
第2の態様は、心臓の補助のための血管内血液ポンプと、第1の態様による制御デバイスとを備えるシステムを提供する。
【0046】
好適には、血液ポンプがカテーテルベースであり、つまり、血液ポンプが、好適には、カテーテルと、ポンプユニットとを備え、好適にはポンプユニットがカテーテルの遠位端に位置する。
【0047】
好適には、血液ポンプが、回転式血液ポンプとして、つまり回転モータによって駆動される血液ポンプとして実装され得る。
【0048】
血液ポンプは、対応する血管を通して心臓の中に経皮的に直接に移植または配置されるために、カテーテルベースであってよい。例えば、血液ポンプは、例えば米国特許第5911685号で公開されているような血液ポンプであってよく、これは特には、患者の左心または右心の中に一時的に配置または移植されるように構成されるものである。上で言及したように、本発明は血管内血液ポンプのために特に有用であり、血管の内部または心臓の内部に配置されずに例えば胸腔の中に移植されるなどして患者の心臓の外部に配置されるより大型のVADとの関連性が低い。
【0049】
好適には、血液ポンプは低慣性デバイスである。(a)この血液ポンプは以下の特性のうちの1つ以上の特性を有することにより低慣性デバイスとなる。:(b)血液ポンプの例えばロータまたは羽根車などの具体的には回転部品である可動部品が、例えばプラスチックなどの軽量材料で作ることにより低質量を有すること。;(c)電気モータなどの駆動ユニットが、駆動ユニットによって駆動されるポンプユニットの例えばロータまたは羽根車などの可動部品の近くに配置され、好適には非常に近くに配置され、最も好適には隣接するように配置されること。;(d)血液ポンプがカテーテルベースである場合、回転駆動ケーブルまたは回転駆動ワイヤが存在しないこと。;(e)駆動ユニットによって駆動されるポンプユニットの例えばロータまたは羽根車などの回転部品との、駆動ユニットの例えばシャフトなどの結合部分または接続部分が短いこと。;ならびに(f)血液ポンプの具体的には回転部品などのすべての可動部品が小さい直径を有すること。
【0050】
低慣性デバイスが、特には、患者の血管の中に経皮的に挿入されるための血管内血液ポンプを有する。特に比較的嵩張るものであるVADと比較して小さい直径を有することを理由として、血管内血液ポンプのすべての可動部品が軽量であり、回転軸の近くに位置する。これにより、ポンプ速度を非常に正確に制御することが可能となる。その理由は、羽根車の回転が羽根車の慣性の影響をわずかにしか受けないからである。これは、コマンド信号と血液ポンプの実際の反応との間にわずかな遅延しか生じないことを意味する。これとは対照的に、例えば遠心血液ポンプとして設計されるVADは嵩張る可能性があり、大きい直径を有する可能性があり、それにより、より大きい質量を有する大きいロータを有する可能性があり、「低慣性デバイス」と称されない可能性がある。
【0051】
低慣性デバイスの1つの特性は、例えば、低慣性デバイスのポンプ速度を低下させることには、また具体的にはポンプ速度を急激に低下させることには、負の速度信号(大型のVADで通常必要となる)または他の制動コマンドが必要ではなく、モータ電流を直接に低減することによりポンプ速度が低下することであり、したがって単純にモータ電流を低減することにより血液ポンプがゼロ流量制御モードとされ得る。これは特には1回の心拍での制御に関連する。その理由は、心臓周期が非常に短く、心臓周期には血液ポンプの可動部品の短い反応時間が必要となるからである。逆もまた同様であり、ゼロ流量制御モードを終了させるためには、可動部品を迅速に加速させること、つまりポンプ速度を急激に上げることが同様に望ましい。
【0052】
例えば、本発明の意味においての低慣性デバイスを用いる場合、例えば約50ms以内から約100ms以内などの、また好適には60msから80msの、非常に短い時間でポンプ速度を大幅に上げるまたは低下させることが可能である。言い換えると、ポンプ速度が迅速に変化することができるかまたは「階段状変化」することができる。
【0053】
例えば、上記時間の範囲内で、ポンプ速度が約35,000rpmから約10,000rpmまで低下させられ得るかまたは別の血液ポンプでは約51,000rpmから約25,000rpmまで低下させられ得、あるいは逆も同様であり、ポンプ速度が相応に上げられ得る。しかし、ポンプ速度の変化の継続時間は、血流、圧力差、ポンプ速度の意図される変化量(つまり、意図される速度変化の前のポンプ速度と後のポンプ速度との間の差)、または心臓周期におけるタイミング(収縮期に血流が加速され、拡張期に血流が減速されることによる)のようなほかのファクタによっても決定される。
【0054】
第3の態様は、第1の態様で考察された血管内血液ポンプの血流Qpump(t)を制御する方法を提供する。つまり、血液ポンプが駆動ユニットを備えるポンプユニットを備え、血流入口から血流出口に向かって血液を運搬するように構成される。この方法は、:(i)第1の閉ループサイクルで制御誤差e(t)を得るために、設定血流値Qpump set(t)を血流値Qpump(t)と比較するステップと、;(ii)制御誤差e(t)から、駆動手段のための設定速度値npump set(t)を決定するステップと、;第2の閉ループサイクルで、設定速度値npump set(t)を駆動速度npump(t)と比較することにより、駆動ユニットの駆動速度npump(t)を制御するステップと、を含む。
【0055】
好適には、この方法は、所定のゼロ流量制御時間にわたって設定血流値Qpump set(t)がゼロである、ゼロ流量モードを提供するステップをさらに含み、また好適には、補助を受けている心臓の1回の心臓周期の一部分にわたって継続するように、あるいは少なくとも1回の完全に心臓周期または所定の回数の連続的な心臓周期の一部分および/または完全な心臓周期にわたって継続するように、所定のゼロ流量制御時間を設定するステップをさらに含む。
【0056】
制御デバイスに関連して上でより詳細に説明したように、この方法は、適切な参照テーブルを使用して血流Qpump(t)を決定または推定するステップを含むことができる。
【0057】
好適には、第1の閉ループサイクルがカスケード制御の外側制御ループであり、第2の閉ループサイクルが内側制御ループである。外側制御ループおよび内側制御ループを有するカスケード制御システムは制御デバイスに関連して上でより詳細に説明されており、本方法にも有効である。
【0058】
好適には、この方法は、ゼロ流量制御時間を少なくとも1つの特定の特徴的な心臓拍動サイクル事象と同期させることをさらに含む。
【0059】
好適には、ゼロ流量制御時間の開始および/または終了が、少なくとも1つの特徴的な心臓拍動サイクル事象の発生と同期される。
【0060】
好適には、この方法は、特徴的な心臓パラメータの1つ以上の値を監視することをさらに含む。
【0061】
好適には、この方法は、特徴的な心臓パラメータの1つ以上の監視される値の傾向を特定することをさらに含む。
【0062】
第4の態様は、第3の態様による方法を実行するように構成される、第1の態様による制御デバイスを提供する。
【0063】
この制御デバイスの上で考察した機能または機能性およびこの制御方法の対応する機能および機能性が、制御デバイスのハードウェアまたはソフトウェアあるいはその任意の組み合わせの中にある対応する計算ユニットによって実装され得る。この計算ユニットは、それぞれの必要な制御ステップを計算ユニットに実施させるための、ソフトウェアコードを有する対応するコンピュータプログラムにより構成され得る。このプログラム可能な計算ユニットは基本的に当技術分野で周知であり、当業者に周知である。したがって、このプログラム可能な計算ユニットをここで詳細に説明する必要はない。また、この計算ユニットは、特定の機能のために有用である特定の専用ハードウェアを備えることができ、これは例えば、例えば考察した測定信号を処理および/または分析するための1つ以上の信号プロセッサなどである。さらに、血液ポンプの駆動装置の速度を制御するためのそれぞれのユニットが、同様に、それぞれのソフトウェアモジュールによって実装され得る。
【0064】
対応するコンピュータプログラムが、コンピュータプログラムを含むデータ媒体に記憶され得る。別法として、コンピュータプログラムが、データ媒体を必要とすることなく、例えばインターネットを介して、コンピュータプログラムを含むデータストリームの形態で、伝送され得る。
【図面の簡単な説明】
【0065】
本明細書の以下で、添付図面を参照して本発明を例として説明する。
図1】フィードバック制御を示すブロック図である。
図2】血液ポンプのポンプ速度のための制御デバイスのブロック図と併せて、大動脈弁を通って左心室の中まで延在する、大動脈を通るように配置されている例示の血液ポンプを示す図である。
図3図1の例示の血液ポンプを示す詳細図である。
図4】血液ポンプの吸入口と出口との間の実際の圧力差と、血液ポンプの実際のポンプ速度と、血液ポンプを通って作られる血流との間の関係を表す特性曲線のセットを示す例示のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0066】
図1は、カスケード制御システムとして実現される、血流制御のためのフィードバック制御ループの実施例であるブロック図である。制御ループは、外側制御装置401と、内側制御装置402とを備える。外側制御装置401は外側制御ループに埋設され、血流コマンド信号Qpump set(t)を発生血流Qpump(t)と比較することによりおよび内側制御ループの設定点をつまり血液ポンプ50の速度コマンド信号npump set(t)を設定することにより、例えば図3に示される血液ポンプ50の発生する血流Qpump(t)を管理する。内側制御装置402は内側制御ループの一部分であり、それに従ってモータ電流Ipump(t)を調整することにより血液ポンプ50の速度npump(t)を制御する。
【0067】
図1に示されるフィードバックループでは、発生する血流Qpump(t)が、電流Ipump(t)と、速度npump(t)と、発生する血流Qpump(t)との関係を例えば表す参照テーブルにより、見本として計算される。別法としてまたは加えて、別の参照テーブルが、血液ポンプ出口56と血液ポンプ入口54との間の圧力差(図3を参照)と、速度npump(t)と、血流Qpump(t)との関係を表すのに使用され得る。発生する血流Qpump(t)のデータ取得のための別の代替形態または追加のオプションとして、流れセンサを使用することがある。
【0068】
この流れ制御が、一定の値(設定値とも称される)であってよいかまたは経時的な変化信号であってよい血流コマンド信号Qpump set(t)に従って血液ポンプ50を通る血流Qpump(t)を管理する。一定の血流設定値Qpump set(t)が[-5...10]L/分の範囲であってよく、好適には[0...5]L/分の範囲であってよく、最も好適には0L/分であってよく、あるいはゼロ流量としての非常に小さい血流であってもよい。
【0069】
ここで開示される流れ制御の狙いの1つは、心臓機能に対してのポンプの影響を低減しながら心臓の回復状態を決定することを目的として、移植されたポンプ50を用いる場合の心臓の特徴的なパラメータの値を監視することである。この狙いのために、流れ制御は、0L/分の設定血流Qpump set(t)またはゼロ流量としての非常に小さい血流を使用することができる。
【0070】
内側制御ループが外側制御ループと比較して一定の短い時間を有することができることが分かっている。このようにして、内側制御ループが外側制御ループより迅速に反応するようになる。加えて、内側制御ループが、外側制御ループより高いサンプリングレートで成し遂げられる。
【0071】
例えば、内側制御ループ内のデータのサンプリングレートfsINが、[250...10k]Hzの範囲であってよく、好適には[1...3]kHzの範囲であってよく、最も好適には2.5kHzであってよい。
【0072】
例えば、外側制御ループ内のデータのサンプリングレートfsOUTが、[25...1000]Hzの範囲であってよく、好適には[100...300]Hzの範囲であってよく、最も好適には250Hzであってよい。
【0073】
図2および図3は血液ポンプの実施例を示す。この血液ポンプは、心臓の中に経皮的に挿入されるように構成される血管内血液ポンプである。示される実施形態では、血液ポンプがマイクロアキシャル回転式血液ポンプであり、これは以下では血液ポンプ50と称される。このような血液ポンプは、例えば、米国特許第5911685号から知られている。
【0074】
血液ポンプ50はカテーテル20に基づくものであり、カテーテル20により、血液ポンプ50が脈管を介して患者の心臓の心室の中に一時的に導入され得る。血液ポンプ50は、カテーテル20に加えて、カテーテル20に固定される回転式駆動ユニット51を備える。回転式駆動ユニット51は、回転式駆動ユニット51から一定の軸方向距離のところに位置するポンプユニット52に結合される。
【0075】
流れカニューレ53がその一方の端部のところでポンプユニット52に接続され、ポンプユニット52から延在し、そのもう一方の端部のところに位置する血流入口54を有する。血流入口54は、血液入口54に取り付けられる柔らかい可撓性の先端部55を有する。
【0076】
ポンプユニット52は血流出口56を備えるポンプハウジングを備える。さらに、ポンプユニット52は、駆動ユニット51からポンプユニット52のポンプハウジングの中へと突出する駆動シャフト57を備える。駆動シャフト57は推進要素としての羽根車58を駆動する。血液ポンプ50の動作中、血液が血流入口54を通して吸引され、カニューレ53を通して運搬され、血流出口56を通して排出される。血流は、駆動ユニット51によって駆動される回転羽根車58によって作られる。
【0077】
示される実施形態では、カテーテル20を通る形で3つの線材が通過しており、つまりこの3つ線材は、2つの信号線材28A、28B、および血液ポンプ50の駆動ユニット51に電力を供給するための電力供給線材29である。信号線材28A、28Bおよび電力供給線材29がそれらの近位端のところで制御デバイス100(図2)に取り付けられている。信号線材28A、28Bがそれぞれの血圧センサに関連付けられ、これらのそれぞれの血液センサがそれぞれの対応するセンサヘッド30および60を備える。電力供給線材29が、駆動ユニット51に電力を供給するための供給線材を備える。
【0078】
駆動ユニット51は同期モータであってよい。例示の構成では、電気モータが、駆動シャフト57に結合される羽根車58を駆動するための複数のモータ巻線ユニットを備えることができる。同期モータのロータが少なくとも1つの界磁巻線を備えることができるか、または別法として、永久磁石によって励磁される同期モータの場合では、永久磁石を備えることができる。
【0079】
好適な実施形態では、血液ポンプ50が、患者の脈管を通して患者の心臓の中に経皮的に挿入されるための、カテーテルベースのマイクロアキシャル回転式血液ポンプである。ここでは、「マイクロ」は、心臓に向かう血管を介して、例えば心臓の心室のうちの一方の中へといったように、血液ポンプを心臓の中に経皮的に挿入するのを可能にするように、サイズが十分に小さいことを示す。これはさらに、血液ポンプ50を、経皮的に挿入されるための「血管内」血液ポンプとして定義する。ここでは、「アキシャル」は、ポンプユニット52およびポンプユニット52を駆動する駆動ユニット51がアキシャル構成として配置されることを示す。ここでは、「回転式」は、ポンプの機能性が、駆動ユニット51の回転式電気モータによって駆動される推進要素のつまり羽根車58の回転動作に基づくということを意味する。
【0080】
上で考察したように、血液ポンプ50はカテーテル20に基づくものであり、カテーテル20により、脈管を通した血液ポンプ50の挿入が実施され得、さらには電力供給線材29が駆動ユニット51に電力を供給するためにおよび例えば例えば駆動ユニット51およびセンサヘッド30、60から制御信号を供給するために、カテーテル20を通過していてよい。
【0081】
上で言及したように、本発明は、図3に示される血液ポンプ50などの血管内血液ポンプのために特に構成されるものであり、例えば患者の心臓に接続されて胸腔の中に配置されさらには多様なポンプ速度範囲で動作するような遠心血液ポンプなどの、患者の心臓の外側に移植されるVADのために構成されることは少なく、またはさらにはVADには適さない。本明細書で説明されるように、これは特には、大型のVADの機能に有意に影響するような慣性効果を理由とするが、この慣性効果は血管内血液ポンプなどの低慣性デバイスでは回避され得る。
【0082】
図2に示されるように、各信号線材28A、28Bが、対応するセンサヘッド30および60を備えるそれぞれの1つの血圧センサに接続され、対応するセンサヘッド30および60のそれぞれがポンプユニット52のハウジングにおいて外側に位置する。第1の圧力センサのセンサヘッド60が信号線材28Bに接続され、血流出口56における血圧を測定することを目的とする。第2の血圧センサのセンサヘッド30が信号線材28Aに接続され、血流入口54における血圧を測定することを目的とする。基本的に、例えば光学的起源、液圧的起源、または電気起源などの、任意適切な物理的起源であってよい信号、そして、センサの場所における圧力に関するそれぞれの情報を伝えるための、圧力センサによって捕捉される信号が、それぞれの信号線材28A、28Bを介して、制御デバイス100のデータ処理ユニット110の対応する入力装置まで伝達される。図2に示される実施例では、血液ポンプ50が大動脈内に配置され、さらには大動脈弁を介して心臓の左心室内に配置され、その結果、圧力センサが、センサヘッド60により大動脈圧AoP(t)を測定するようにおよびセンサヘッド30により左心室圧LVP(t)を測定するように配置される。
【0083】
データ処理ユニット110は信号処理のための外部信号および内部信号を取得するように構成され、信号処理には、例えば、発生する血流Qpump(t)を推定するための基礎として圧力信号間の差を計算することが含まれる。外部信号および内部信号は、いくつか例を挙げると、この流れ制御手法のための、取得されて計算された信号に基づいて心臓周期中の特徴的な事象の発生を検出することを目的とした信号分析のための、および速度コマンド信号発生器120を始動させることを目的としたトリガ信号σ(t)を発生させるための、制御信号として機能することができる。
【0084】
流れ制御手法の所与の実施例として、速度コマンド信号発生器120が図1の外側制御装置401を表している。
【0085】
示される実施形態では、データ処理ユニット110が、対応する信号線材を介して、全体として300で描かれている追加の測定デバイスに接続される。このような追加の測定デバイスは、この実施形態では、患者監視ユニット310および心電計(ECG:electrocardiograph)320であるが、これらの2つのデバイス310および320が単に2つの例であり、包括的なものではなく、つまりほかの測定デバイスが同様に有用な信号を提供するのに使用されてもよいことは明白である。描かれるECG320は、データ処理ユニット110にECG信号ECG(t)を提供する。
【0086】
制御デバイス100がユーザインターフェース200をさらに備える。ユーザインターフェース200はデバイスの使用者と相互作用するためのものである。ユーザインターフェース200が、出力手段としてのディスプレイ210と、入力手段としての通信インターフェース220とを備える。ディスプレイ210上で、設定パラメータの値、測定される圧力値などの監視されるパラメータの値、および他の情報が表示される。さらに、通信インターフェース220により、制御デバイス100の使用者が、例えば、血液ポンプと、制御デバイス100とから構成されるシステム全体のセットアップおよび設定を変更することにより、制御デバイス100を制御することが可能となる。
【0087】
ここで与えられる流れ制御手法の例について、設定は、図1の所望のポンプ流れQpump set(t)を選択することである。
【0088】
データ処理ユニット110が、補助を受けている心臓の心臓周期中の1つ以上の所定の特徴的な事象の発生のタイミングを導き出すかまたは予測するように特には構成される。例えば、データ処理ユニット110が、監視される信号の実時間の分析により、心臓周期中の所定の特徴的な心臓周期事象を検出するように構成される。別法としてまたは加えて、例えばR波などの、所定の特徴的な心臓周期事象が、ECG320からのECG信号によって特定され得る。
【0089】
1つ以上の決定された所定の特徴的な事象の発生が、1つの特定のトリガ信号σ(t)または一連のトリガ信号σ(t)を発生させるのに利用される。得られるトリガ信号σ(t)(または、一連のトリガ信号)が速度コマンド信号発生器120に転送され、それによりそれに応じて、速度制御ユニット130に提供される速度コマンド信号の変更を始動させる。
【0090】
本発明の文脈では、速度コマンド信号発生器120が、ゼロ流量制御モードで血液ポンプ50を動作させるように構成される。
【0091】
データ処理ユニット110が、最新のおよび/または以前の心臓周期中に発生する特徴的な心臓周期事象に関する記憶される情報に基づいて、次の心臓周期中の少なくとも1つの所定の特徴的な心臓周期事象の発生タイミングを予測するように、およびこれらの速度コマンド信号npump set(t)の以前の値も同様に分析するように構成される。
【0092】
例えば、特徴的な心臓周期事象は、収縮期の開始時における心臓の収縮の開始であってよい。このような特徴的な心臓周期事象の検出される発生または予測される発生が、血液ポンプ50のための特定の制御手法の一連の適用を、1回または複数回の心臓周期の範囲にまたは心臓周期の特定の時間間隔の範囲に同期させるのに利用され得る。
【0093】
それに対応して、速度コマンド信号発生器120が、例えば0L/分となるように設定され得る所与の血流コマンド信号Qpump set(t)に従って、発生する血流Qpump(t)を制御することを目的として、血液ポンプ50に対する速度コマンド信号npump set(t)を調整するように構成される。
【0094】
発生する血流Qpump(t)を制御するために、速度コマンド信号発生器120が、発生する血流Qpump(t)を継続的に制御することによる時間を途絶えさせない形(第1のセットアップとして)でまたは事象ベースで切り換えを行う制御の形(第2のセットアップとして)で、適切な速度コマンド信号npump set(t)を速度制御ユニット130に提供するための、カスケード制御システム内にある外側制御装置として構成される。
【0095】
第1のセットアップでは、コマンド信号発生器120が、データ処理ユニット10により外部信号および内部信号の供給を受けているカスケード血流制御システムと一部として、速度コマンド信号npump set(t)を速度制御ユニット130に継続的に提供する。
【0096】
第2のセットアップでは、速度コマンド信号発生器120が第1のセットアップと同様に動作し、ここでは継続的な血流制御をオンおよびオフに切り換えるための追加の構造部を用いる。
【0097】
ゼロ流量制御モードでは、速度コマンド信号npump set(t)が、外側制御ループ内にある流れ制御装置により継続的に調整される。オン/オフの切り換えが、データ処理ユニット110によって提供される少なくとも1つのトリガ信号σ(t)によって始動される。
【0098】
ゼロ流量制御が短い時間間隔のみで適用される場合、第2のセットアップが適切であり、この時間間隔は具体的には1回の心臓周期の継続時間と比較した場合に短いものである。言い換えると、発生する血流が、この心臓周期における短い時間間隔のみで0L/分の血流コマンド信号Qpump set(t)を用いて制御される(1回の心拍での血流制御)。
【0099】
速度制御ユニット130は、速度コマンド信号npump set(t)に従って、電力供給線材29を介して血液ポンプ50の駆動ユニット51に電流Ipump(t)を供給することにより、血液ポンプ50の速度npump(t)を制御する。
【0100】
供給されるモータ電流Ipump(t)の最新のレベルは、例えば速度コマンド信号npump set(t)によって画定される目標速度レベルを確立するために例えば駆動ユニット51の電気モータによりその時点で必要とされる電流に一致する。供給されるモータ電流Ipump(t)などの測定信号が、制御デバイス100の内部信号の代表信号として使用され得、さらなる処理のためにデータ処理ユニット110に提供され得る。電力供給線材29を介して、血液ポンプ50がさらに制御ユニット100と通信することができる。
【0101】
基本的には、とりわけ、制御デバイス100が、選択可能なゼロ流量制御モードで血液ポンプ50を動作させるように構成され、この選択可能なゼロ流量制御モードでは、血液ポンプ50の血流Qpump(t)が、外乱とみなされ得る心拍動を原因として血液出口56と血液入口54との間の変化する圧力差の影響を弱めるように制御される。速度コマンド信号npump set(t)を調整することにより、血流Qpump(t)が制御される。本明細書で提案されるように、制御デバイス100が血液ポンプ50の血流Qpump(t)を制御するように構成され、その結果、血液ポンプ50が所定のゼロ流量制御時間にわたってゼロ血流を発生させる。
【0102】
継続的な流れ制御を用いる第1のセットアップでは、所定のゼロ流量制御時間が、少なくとも1回の完全な心臓周期にわたってまたは所定の回数の連続的な完全な心臓拍動サイクルにわたって継続するように設定される。さらに、第1のセットアップでは、制御デバイス100が、移植される血液ポンプ50を用いて1つ以上の特徴的な心臓パラメータの値を監視するように構成される。やはり、1つ以上の特徴的な心臓パラメータの監視される値が、心臓回復の状態のための指標として使用され得る。
【0103】
事象ベースのゼロ流量制御を用いる第2のセットアップでは、所定のゼロ流量制御時間が、血液ポンプ50を移植されている心臓の1回の心臓周期の継続時間の一部分となるように設定される。このセットアップでは、制御デバイス100が、ゼロ流量制御時間の開始および終了を特定の特徴的な心臓拍動サイクル事象の発生と同期させるように構成される。
【0104】
特には、制御デバイス100が、定期的にまたは不規則に血液ポンプ50を通る血流Qpump(t)を制御することができる。
【0105】
特定の実装形態では、特徴的な心臓拍動サイクル事象が、大動脈弁の開放もしくは大動脈弁の閉鎖であるか、または僧帽弁の開放もしくは僧帽弁の閉鎖であるか、あるいは拡張終期の左心室圧としての特定の圧力値である。
【0106】
さらに、第2のセットアップでは、第1のセットアップと同様に、制御デバイス100が、ゼロ流量制御時間中の、血液ポンプ50を移植されている心臓の1つ以上の特徴的な心臓パラメータの値を監視するように構成される。1つ以上の特徴的な心臓パラメータの監視される値が、同様に、心臓回復の状態のための指標として使用され得る。
【0107】
制御デバイス100が、1つ以上の監視される特徴的なパラメータの値の傾向を特定するようにさらに構成される。本明細書において上で言及したように、この傾向も、心臓回復の状態のための指標として解釈され得る。
【0108】
いずれの場合も、ゼロ流量制御モードを実施するために、制御デバイス100が、血液ポンプ50の速度コマンド信号npump set(t)を調整することにより血流Qpump(t)を制御するように構成され、それにより駆動速度npump(t)が、心臓周期中に、血液ポンプ50の血流出口56と血液ポンプ50の血流入口54との間の変化する血圧差の影響を受ける。
【0109】
特には、制御デバイス100が、例えば、駆動速度npump(t)、電流Ipump(t)、および/または血液ポンプ50の血流出口56と血流入口54との間の圧力差などの、所定の信号に基づいて血液ポンプ50の血流Qpump(t)を決定するように構成される。
【0110】
図4は、血液ポンプ50の血流出口56と血流入口54との間の圧力差ΔPpump(t)と、血液ポンプ50の駆動速度npump(t)と、血液ポンプ50によって発生する例えば図3の流れカニューレ53を通る血流Qpump(t)との間の関係を表す特性曲線のセットを示す例示のグラフである。
【0111】
ゼロ流量制御を成し遂げるために、データ処理ユニット110が、既知の速度npump(t)、ポンプユニット51に供給される既知の電流Ipump(t)、および/または血液ポンプ50の血流出口56と血流入口54との間の監視される圧力差ΔPpump(t)に基づいて、血液ポンプ50によって発生する血流Qpump(t)を継続的に決定するように構成される。設定血流値Qpump set(t)はゼロであってよいか、または少なくとも、ゼロに近い正の値であってよい。
【0112】
例えば、図4に基づくと、血液ポンプ50の血流出口56と血流入口54との間の監視される圧力差ΔPpump(t)が60mmHgであるような事例では、駆動速度npump(t)が、約0L/分の血流Qpump(t)を発生させるためには約20.000 1/分(rpm)である必要がある。
【0113】
図4の特性グラフに示される曲線の値、関係、および形状が単に例示であり、使用される血液ポンプ、患者、または他のファクタに応じて変化してよいことが認識されよう。具体的には、各々のすべての血液ポンプが、またはさらには同様の種類の血液ポンプでも、個別の特徴的なグラフを有することができ、つまり参照テーブルはポンプ固有のものであってよい。さらに、患者に移植されると、この特性グラフは患者固有の補正ファクタによって適合される必要がある可能性があり、この補正ファクタには、血液の粘度、血液ポンプの場所などのような、多様なファクタが含まれる。補正ファクタを使用することにより、参照テーブルにより達成される流れの推定の精度を向上させることができる。
【0114】
上で考察したように、最新の圧力差ΔPpump(t)が、血液ポンプ50の圧力センサ(例えば、図3のセンサ30、60)によって決定され得る。したがって、速度制御ユニット130が、例えば図4(ここでは、上で考察した値、ΔPpump(t)、Qpump(t)、およびnpump(t)の間の関係を表す)の特性曲線を中に記憶している参照テーブルなどの記憶ユニットからの値を継続的に提供され得る。この記憶ユニットはデータ処理ユニット110のリードオンリーメモリであってよいか、あるいは別法として血液ポンプ50の中にある記憶チップであってよいかまたはその制御コンソール130の中にある記憶チップであってよい。
【0115】
少なくとも1つの特徴的な心臓パラメータの値は、:ゼロ流量動作モードを確立するたびに測定される動脈血圧、のうちの少なくとも1つである。
【0116】
好適には、血液ポンプ50が低慣性デバイスである。これは特には、血液ポンプ50の例えばロータまたは羽根車などの可動部品また具体的には回転部品が例えばプラスチックなどの軽量材料で作られることにより低質量を有することで達成される。加えて、電気モータなどの駆動ユニットが、駆動ユニットによって駆動される例えばロータまたは羽根車58などの推進要素などの部品の近くに配置され、好適には非常に近くに配置され、最も好適には隣接するように配置される。加えて、血液ポンプ50がカテーテルベースである場合であっても、回転駆動ケーブルまたは回転駆動ワイヤが存在しない。加えて、駆動ユニット51によって駆動される例えばロータまたは羽根車58などの推進要素との結合部分または接続部分、すなわち、駆動ユニット51の例えばシャフト57などの結合部分または接続部分が短く保たれる。加えて、血液ポンプ50の具体的には回転部品などのすべての可動部品が小さい直径を有する。
【0117】
まとめると、本明細書で提案されるゼロ流量制御手法では、制御デバイス100が、外側制御ループおよび内側制御ループから構成されるカスケード制御内で血液ポンプ50を通る発生する血流Qpump(t)を制御する。これは、ポンプユニット50を通る発生する血流Qpump(t)が、外側制御ループ内にある血液ポンプ50の駆動ユニット51に対する速度コマンド信号npump set(t)を調整することによって制御され、電流Ipump(t)を調整することによる駆動速度npump(t)が内側制御ループ内で制御されることを意味する。このゼロ流量制御手法は継続的にまたは一部継続的に適用されるものであり、つまりゼロ流量制御時間が、1回または複数回の完全な心臓周期にわたってあるいは1回の心臓周期の一部部のみにわたって継続する。所定のゼロ流量制御時間が心臓周期の継続時間の一部のみにわたって継続するような事例では、ゼロ流量制御時間が、心臓周期の少なくとも1つの特徴的な事象による心拍動と同期され得る。
図1
図2
図3
図4