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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】シールリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/18 20060101AFI20230313BHJP
   F16J 15/48 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
F16J15/18 C
F16J15/48
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020519917
(86)(22)【出願日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2019019501
(87)【国際公開番号】W WO2019221229
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2018095699
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】木村 航
(72)【発明者】
【氏名】徳永 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】瀧ヶ平 宜昭
(72)【発明者】
【氏名】河野 徹
(72)【発明者】
【氏名】笠原 英俊
(72)【発明者】
【氏名】弘松 純
(72)【発明者】
【氏名】大田 崇史
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/041832(WO,A1)
【文献】実開平05-061566(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16-15/32
F16J 15/46-15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸とハウジングとの間の隙間を軸封するシールリングであって、
摺動面には、周方向に配置され外径側に開口する引き圧を発生させるための複数の傾斜溝と、被密封流体側に開口し前記傾斜溝の内径側まで外径方向に延びる供給溝と、が設けられているシールリング。
【請求項2】
前記供給溝と前記傾斜溝との間には、周方向に連続するシール部が形成されている請求項1に記載のシールリング。
【請求項3】
複数の前記供給溝は、周方向に均等に配置されている請求項1または2に記載のシールリング。
【請求項4】
複数の前記供給溝は、前記シール部の内径側で周方向に延びる連通溝により連通されている請求項に記載のシールリング。
【請求項5】
周方向に隣り合う前記供給溝間には、被密封流体側に開口する動圧溝が設けられている請求項1ないし4のいずれかに記載のシールリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸とハウジングとの間の隙間を軸封するために用いられるシールリング、特に環状溝いわゆるスタフィングボックスに装着して用いられるシールリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シールリングは、回転軸の外周に装着され、回転軸に形成される摺動面に対してシールリングの摺動面を密接摺動させることにより、回転軸とハウジングとの間の隙間を軸封し、被密封流体(液体)の漏れを防止している。
【0003】
シールリングにおいて、密封性を長期間維持させるためには、「密封」と「潤滑」という相反する条件を両立させなければならない。特に近年においては、環境対策等のために、被密封流体の漏れ防止を図りつつ、機械的損失を低減させるべく、低摩擦化の要求が高まっている。低摩擦化は、回転軸の回転により摺動面間に動圧を発生させ、被密封流体による流体膜を介在させた状態で摺動させる手法により達成できる。
【0004】
回転軸の回転により摺動面間に動圧を発生させるようにしたシールリングとして、例えば特許文献1に記載されるようなシールリングが知られている。特許文献1のシールリングは、回転軸の外周に設けられる環状溝に装着され、高圧の被密封流体の圧力によってハウジング側かつ環状溝の一方の側壁面側に押し付けられ、環状溝の一方の側壁面の摺動面に対してシールリングの一方の側面の摺動面を密接摺動させている。また、シールリングの一方の側面の摺動面には、内径側に開口する動圧溝が周方向に複数設けられており、動圧溝は、周方向中央の深溝と、深溝の周方向両側に連続し周方向に延び底面が末端へ向けて徐々に浅くなるように傾斜する浅溝と、から構成されている。回転軸とシールリングとが相対回転すると、摺動面の内径側から深溝内に被密封流体が導入されるとともに、回転軸の反回転方向側のシールリングの浅溝では負圧が生じる一方、同回転方向側の浅溝では深溝内に導入された被密封流体が供給されることで正圧が生じ、回転方向側の浅溝の傾斜する底面によるくさび作用によって正圧が大きくなり、動圧溝全体として正圧が発生することにより、摺動面間を僅かに離間させる力、すなわち浮力が得られる。摺動面間が僅かに離間することにより、摺動面の内径側から摺動面間に高圧の被密封流体が流入するととともに、正圧が発生する回転方向側の浅溝からは摺動面間に被密封流体が流出していくため、摺動面間に流体膜が形成され摺動面間の潤滑性が維持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-210211号公報(第3頁、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のシールリングにおいては、動圧溝に対して回転軸の摺動面が周方向に移動しており、回転軸の回転数が上がるにつれて正圧が大きくなり、摺動面間に流体膜が形成されて摺動面の潤滑性が高まるが、動圧溝は深溝を挟んで両浅溝が同一円周上に位置しているため、特に高速回転時には、周方向に大きな正圧とともに大きな負圧が生じる領域ではキャビテーションが発生し、摺動面の周方向にわたって生じる浮力のばらつきが大きくなることにより流体膜が不均一になる等の流体膜への悪影響が生じ、潤滑性が不安定になる虞があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、広い回転域で安定した潤滑性能を発揮できるシールリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のシールリングは、
回転軸とハウジングとの間の隙間を軸封するシールリングであって、
摺動面には、周方向に配置され外径側に開口する引き圧を発生させるための複数の傾斜溝と、被密封流体側に開口し前記傾斜溝の内径側まで外径方向に延びる供給溝と、が設けられている。
これによれば、供給溝の内径側の開口から導入された高圧の被密封流体が外径側において回転軸の回転時に傾斜溝で生じる外径方向への流れによる引き圧により引き込まれ、供給溝と傾斜溝との間に被密封流体の外径方向の流れが形成されることとなるため、供給溝と傾斜溝との間において周方向にバランスよく流体膜を形成可能として、広い回転域で安定した潤滑性能を発揮できる。
【0009】
前記供給溝と前記傾斜溝との間には、周方向に連続するシール部が形成されていてもよい。
これによれば、被密封流体の径方向の流れが形成される供給溝と傾斜溝との間がシール部により径方向に分離されるため、シール部において周方向にバランスよく流体膜が形成される。
【0010】
複数の前記供給溝は、周方向に均等に配置されていてもよい。
これによれば、シール部に対する被密封流体の径方向の流れが周方向にバランスよく形成される。
【0011】
複数の前記供給溝は、前記シール部の内径側で周方向に延びる連通溝により連通されていてもよい。
これによれば、供給溝の内径側の開口から導入された高圧の被密封流体が連通溝により周方向に供給されるため、シール部に対する被密封流体の径方向の流れが周方向にバランスよく確実に形成される。
【0012】
周方向に隣り合う前記供給溝間には、被密封流体側に開口する動圧溝が設けられていてもよい。
これによれば、傾斜溝で生じる負圧を動圧溝で生じる正圧により一部相殺できるため、シール部において被密封流体の径方向の流れが形成されやすい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1におけるシールリングを一部簡略表記にて示す斜視図である。
図2】実施例1におけるシールリングによる回転軸とハウジングの間の隙間の軸封構造を示す断面図である。
図3】実施例1におけるシールリングの部分側面図である。
図4】(a)および(b)は、流体膜形成過程を段階に応じて模式的に示すシールリングの部分側面図およびA-A断面図である。
図5図4に引き続き、流体膜形成過程を段階に応じて模式的に示すシールリングの部分側面図およびA-A断面図である。
図6】本発明の実施例2におけるシールリングの部分側面図である。
図7図6のシールリングにおけるB-B断面図である。
図8】本発明の実施例3におけるシールリングの部分側面図である。
図9】本発明の実施例4におけるシールリングの部分側面図である。
図10】本発明の実施例5におけるシールリングの部分側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るシールリングを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0015】
実施例1に係るシールリングにつき、図1から図5を参照して説明する。以下、図2の紙面右側を被密封流体側L、紙面左側を大気側Aとして説明する。尚、被密封流体側Lにおける被密封流体の流体圧力は、大気圧よりも高いものとして説明する。また、摺動面は、平坦面と該平坦面よりも凹む溝とにより構成されるものとし、説明の便宜上、側面図において、摺動面を構成する平坦面を白色表記、摺動面を構成する溝をドット表記により図示している。
【0016】
本実施例に係るシールリング1は、相対的に回転する回転機械の回転軸2とハウジング3との間を軸封することにより、ハウジング3の内部を被密封流体側Lと大気側A(図2参照)とに仕切り、被密封流体側Lから大気側Aへの被密封流体の漏れを防止している。尚、回転軸2およびハウジング3は、ステンレス鋼等の金属製の素材から形成されている。また、被密封流体は、回転機械の機械室に設けられる図示しない歯車やベアリング等の冷却および潤滑を目的に使用されるもの、例えば油である。
【0017】
図1図3に示されるように、シールリング1は、PTFE等の樹脂成形品であって、周方向の1箇所に合口部1aが設けられることでC字状を成し、回転軸2の外周に沿って設けられた断面矩形状の環状溝20に対して装着されて使用されるものであって、回転軸2は図3における白矢印で示す時計回りに回転し、シールリング1は回転軸2の環状溝20に対して反時計回りに相対回転する。尚、図2においては、シールリング1を径方向に切断した断面が模式的に図示されている。
【0018】
また、シールリング1は、断面矩形状を成し、被密封流体側Lの側面に作用する被密封流体の流体圧力によって大気側Aへ押し付けられることにより、大気側Aの側面10(以下、単に側面10と言うこともある。)側に形成される摺動面S1を環状溝20の大気側Aの側壁面21(以下、単に側壁面21と言うこともある。)側の摺動面S2に対して摺動自在に密接させている。また、シールリング1は、内周面に作用する被密封流体の流体圧力によって拡開方向の応力を受け、外径方向に押し付けられることにより、外周面11をハウジング3の軸孔30の内周面31に対して密接させている。
【0019】
尚、摺動面S1,S2とは、それぞれシールリング1の側面10と回転軸2の環状溝20の側壁面21との実質的な摺動領域を成すものである。また、側面10側には、摺動面S1の外径側に非摺動面S1’が連なっており、側壁面21側には、摺動面S2の内径側に非摺動面S2’が連なっている(図2参照)。
【0020】
図1図4に示されるように、シールリング1の側面10側に形成される摺動面S1は、平坦面16と、側面10の内径側端部より径方向に延設された複数の供給溝13と、供給溝13の外径側端部に連通され合口部1aを挟んで略環状に連続して連なる連通溝14と、連通溝14の外径側端部近傍(後述するシール部16aの外径側端部)から回転軸2の回転する方向に傾斜して延び側面10の外径側端部(大気側A)に連通して形成された複数の傾斜溝15と、により構成されている。尚、供給溝13は、合口部1a付近を除いた摺動面S1の周方向に等配されており、傾斜溝15は、摺動面S1から非摺動面S1’に渡って延び合口部1a付近を除いた周方向に等配されている。
【0021】
平坦面16は、連通溝14の外径側端部と複数の傾斜溝15の内径側端部との間に位置し合口部1aを挟んで略環状に連続して連なるシール部16aと、隣り合う供給溝13,13に周方向に挟まれる内径側潤滑部16bと、隣り合う傾斜溝15,15に周方向に挟まれる外径側潤滑部16cとからなっている(図3参照)。シール部16aは、径方向の寸法は、摺動面S1の径方方向寸法の1/20(好ましくは1/5~1/50)であり、外径側潤滑部16cの周方向の寸法と略同寸となっている。尚、シール部16aの径方向の寸法は、被密封流体が乗り越えやすいという観点から短寸である方が良好である。
【0022】
図2図5に示されるように、供給溝13は、回転軸2の回転/停止にかかわらず被密封流体が大気よりも高圧であれば被密封流体を摺動面S1,S2間に供給するものであって、側面視矩形状をなし、摺動面S1の内径側(被密封流体側)に開口し、外径側が連通溝14に連通されている。また、供給溝13の底面13d(図4(a)参照)は、平坦に形成され平坦面16と平行となっており、供給溝13の深さは、数十μm~数百μm、好ましくは100~200μmに形成されている。尚、供給溝13の深さは、さらに深く(深さ1mm程度まで)形成されていてもよい。
【0023】
連通溝14は、摺動面S1の径方向中央よりも外径側の位置において周方向に延びて形成され、側面視弧状をなし、径方向の寸法が供給溝13の周方向の寸法よりも短寸である。また、連通溝14の底面14dは、平坦に形成され平坦面16と平行となっているとともに、供給溝13の底面13dと連続しており、連通溝14の深さは供給溝13と略同一である(図4(a)参照)。
【0024】
図2図5に示されるように、傾斜溝15は、シール部16aから外径側かつ回転軸2の回転方向へ、すなわち径方向に対して傾斜して延び、回転軸2の回転時に傾斜溝15で生じる外径方向への流れによる引き圧を発生させる機能を有するものであって、シール部16aの外径側端部に沿って延びる閉塞部15d、回転軸2の反回転方向側に位置し底面15eに直交する平面状の外傾斜壁部15b、回転軸2の回転方向側に位置し底面15eに直交する平面状の内傾斜壁部15c、内壁部14bと外壁部14cとに交差し非摺動面S1’側(大気側A)に連通する開口15aにより、側面視平行四辺形状をなし、周方向の寸法が連通溝14の径方向の寸法と略同寸であり、延設方向の寸法が周方向の寸法よりも長寸となっている。また、傾斜溝15の底面15eは、平坦に形成され平坦面16と平行となっており、傾斜溝15の深さは、供給溝13や連通溝14よりも浅い。
【0025】
また、周方向に隣り合う傾斜溝15,15の間には、傾斜溝15の周方向の寸法よりも周方向の寸法が短寸な外径側潤滑部16cが介在している。尚、両者の寸法は同じでも外径側潤滑部16cが長寸であってもよい。また、複数の傾斜溝15,15,…は、外径側潤滑部16cが略均一幅で外径側まで形成されるように曲率を持たせて形成されていてもよい。
【0026】
次いで、シールリング1の摺動面S1と環状溝20の側壁面21の摺動面S2との間(以下、単に摺動面S1,S2間と言うこともある。)における流体膜形成について図4および図5を用いて説明する。尚、ここでは、回転軸2が図3における白矢印で示す時計回りに回転する場合、言い換えるとシールリング1が回転軸2の環状溝20に対して図3における反時計回りに相対回転する場合を例に説明する。さらに尚、図4および図5では、側方から見たシールリング1を拡大して示した部分側面図と、該図における供給溝13、連通溝14、傾斜溝15に沿って破断したA-A断面図とを互いに対応させて模式的に示している。
【0027】
先ず、図4(a)に示されるように、回転軸2が静止している際には、流体圧力によって供給溝13、連通溝14へ被密封流体が充填されている。また、供給溝13および連通溝14には高圧の被密封流体が供給されており静止圧によって、摺動面S1,S2間を離間させる力が作用している。
【0028】
次に、図4(b)に示されるように、回転軸2の回転時には、側壁面21(図2参照)側の摺動面S2に対して、側面10側の摺動面S1が摺動する。これに伴い、連通溝14内の被密封流体が当該連通溝14に沿って時計回りの流れが生じる。また、図示を省略するが供給溝13上を摺動面S2が通過することで、被密封流体が供給溝13から回転軸2の回転方向に追従して流出するようになっている。
【0029】
一方、シール部16aよりも外径側では、傾斜溝15内の被密封流体や空気が傾斜溝15の閉塞部15d側から開口15a側に向けて移動することで、傾斜溝15の閉塞部15d側から開口15a側に向けて引き圧が発生し、閉塞部15d側で負圧が発生している。
【0030】
この負圧よりシール部16aにおいて流体膜を形成している被密封流体は傾斜溝15内に引き込まれ、これに伴い連通溝14内の被密封流体はシール部16a側に染み出し、連通溝14からシール部16aを乗り越えて傾斜溝15に引き込まれる被密封流体の流れFが形成されるようになり(図5参照)、シール部16aに確実に流体膜が形成され、潤滑性が高められている。このような流れFや静止圧等によって摺動面S1,S2間には被密封流体の流体膜が形成され、潤滑性が高められている。
【0031】
また、複数の傾斜溝15,15,…は、周方向に亘って等配に形成されていることから、摺動面S1の外径側(シール部16a)に亘って略均一に動圧が発生するため、周方向に亘って安定した浮力を得ることができる。
【0032】
また、上述したように主に連通溝14から摺動面S2とシール部16aとの間に被密封流体が供給されるばかりでなく、周方向に隣り合う傾斜溝15,15間に介在する外径側潤滑部16cに傾斜溝15や連通溝14から高圧の被密封流体が供給されること、および、隣り合う供給溝13,13および連通溝14によって画成される内径側潤滑部16bに摺動面S1の内径側や供給溝13から高圧の被密封流体が供給されることで、摺動面S1,S2の間に被密封流体による略均等厚の流体膜が形成される。
【0033】
このように、供給溝13の内径側の開口から導入された高圧の被密封流体がシール部16aを乗り越え、外径側において回転軸2の回転時に傾斜溝15で生じる外径方向への流れによる引き圧により引き込まれ、供給溝13および連通溝14と傾斜溝15との間に被密封流体の外径方向の流れFが形成されることとなるため、供給溝13および連通溝14と傾斜溝15との間において周方向にバランスよく流体膜を形成可能として、広い回転域で安定した潤滑性能を発揮できる。
【0034】
また、上述したように被密封流体が十分に供給されるため、確実に広い回転域において摺動面S1,S2間に流体膜を形成可能として、シールリング1の潤滑性を高めることができる。
【0035】
また、被密封流体の径方向の流れが形成される供給溝13および連通溝14と傾斜溝15との間がシール部16aにより径方向に分離されるため、シール部16aにおいて周方向にバランスよく流体膜が形成される。これにより、シール部16aにおける潤滑性を高めることができる。
【0036】
また、複数の供給溝13,13,…は、周方向に均等に配置されていることから、シール部16aに対する被密封流体の径方向の流れが周方向にバランスよく形成される。
【0037】
また、複数の供給溝13,13,…は、シール部16aの内径側で周方向に延びる連通溝14により連通されていることから、供給溝13の内径側の開口から導入された高圧の被密封流体が連通溝14により周方向に供給されるため、シール部16aに対する被密封流体の径方向の流れが周方向にバランスよく確実に形成される。
【0038】
また、シールリング1は、C字状であるため、熱膨張収縮によりシールリング1の周長が変化してもシール性能を安定して維持できるようになっている。
【実施例2】
【0039】
次に、実施例2に係るシールリングにつき、図6および図7を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0040】
実施例2におけるシールリング101について説明する。図6に示されるように、本実施例において、シールリング101の側面110に形成される摺動面S1(図2参照)は、平坦面16と、複数の供給溝13と、連通溝14と、複数の傾斜溝15と、周方向に隣り合う供給溝13,13の間に設けられる動圧溝12と、により構成されている。
【0041】
動圧溝12は、回転軸2の回転に応じて動圧を発生させる機能を有するものであって、シールリング1の内径側(被密封流体側)に開口しており、周方向中央に設けられる深溝120と、深溝120から周方向両側に連続し周方向に延びる1対の浅溝121,122(正圧発生部,負圧発生部)と、から構成され、動圧溝12と周方向に隣り合う供給溝13,13および連通溝14との間には、側面視下向きU字状の内径側潤滑部16bが配置されている。尚、図6および図7において、深溝120を挟んで紙面右側が浅溝121(正圧発生部)、紙面左側が浅溝122(負圧発生部)である。
【0042】
特に図7に示されるように、深溝120は、底面が平坦に形成され、浅溝121,122は、底面が深溝120側からそれぞれの周方向の末端へ向けて徐々に浅くなる傾斜面として形成されている。また、深溝120の底面は、浅溝121,122の最深部よりもさらに深くなるように形成されており、深溝120の深さは、数十μm~数百μm、好ましくは100~200μmに形成されている。
【0043】
これによれば、摺動面S1,S2間の流体膜形成において、回転軸2の回転方向とは反対方向側(図6紙面左側)のシールリング1の浅溝122(以下、単に浅溝122と言う。)では負圧が生じる一方、同回転方向と同方向側(図6紙面右側)のシールリング1の浅溝121(以下、単に浅溝121と言う。)では深溝120内に導入された被密封流体が供給され傾斜面によるくさび作用によって正圧が生じる。そして、動圧溝12全体として正圧が発生することにより、摺動面S1,S2間を僅かに離間させる力、いわゆる浮力が得られる。すなわち、摺動面S1,S2の外径側ばかりでなく、動圧溝12によって内径側においても正圧(浮力)を発生させることができることから、回転軸2の回転に対する流体膜形成の応答性を高めることができる。
【0044】
また、負圧が発生する浅溝122には、周囲の摺動面S1,S2間に存在する被密封流体を吸い込む力が作用するため、浅溝122およびその周辺の内径側潤滑部16bには、周方向に隣接する供給溝13から被密封流体が供給されるとともに、動圧溝12における負圧発生部としての浅溝122が内径側(被密封流体側)に開口し、摺動面S1の内径側からも被密封流体が導入されることにより、浅溝122に被密封流体が保持されやすくなっている。
【0045】
また、摺動面S1の外径側で発生する正圧で傾斜溝15により発生する負圧を一部相殺することができるとともに、動圧溝12全体で発生する動圧により摺動面S1,S2間を離間させやすくなっているため、シール部16aにおいて被密封流体の径方向の流れが形成されやすい。
【0046】
また、摺動面S1の内径側に配置される動圧溝12は、自由に構成されてもよく、例えばT字溝、レイリーステップ、スパイラル溝等として形成されていてもよい。
【実施例3】
【0047】
次に、実施例3に係るシールリングにつき、図8を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0048】
実施例3におけるシールリング201について説明する。図8に示されるように、本実施例において、シールリング201の側面210に形成される摺動面S1(図2参照)は、平坦面16と、複数の供給溝13と、連通溝14と、複数の傾斜溝15と、周方向に隣り合う供給溝13,13の間に設けられる動圧溝112と、により構成されている。
【0049】
動圧溝112は、シールリング1の内径側(被密封流体側)に開口しており、周方向中央に設けられ外径側端部が連通溝に連通する深溝220と、深溝220から周方向両側に連続し周方向に延びる1対の浅溝121,122と、から構成され、動圧溝112と隣り合う供給溝13,13および連通溝14との間には、側面視L字状の内径側潤滑部16bが配置されている。
【0050】
これによれば、摺動面S1,S2間の流体膜形成において、供給溝13ばかりでなく、動圧溝112の深溝220からも連通溝14に被密封流体を供給できることから、より確実に広い回転域において摺動面S1,S2間に流体膜を形成可能として、シールリング1の潤滑性を高めることができる。
【実施例4】
【0051】
次に、実施例4に係るシールリングにつき、図9を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0052】
実施例4におけるシールリング301について説明する。図9に示されるように、本実施例において、シールリング301の側面310に形成される摺動面S1(図2参照)は、平坦面16と、複数の供給溝113と、各供給溝113の外径側端部近傍(シール部16aの外径側端部)より側面10の外径側端部にかけて回転軸2の回転方向に傾斜する一つの傾斜溝115と、により構成されている。これによれば、簡素な構成で、摺動面S1,S2の最外径部においてシール部16aを乗り越える流れF(図5参照)を形成することができる。
【実施例5】
【0053】
次に、実施例5に係るシールリングにつき、図10を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0054】
実施例5におけるシールリング401について説明する。図10に示されるように、本実施例において、シールリング401の側面410に形成される摺動面S1(図2参照)は、平坦面16と、複数の供給溝213と、隣り合う一組の供給溝213,213に連通される複数の連通路14と、連通路14の外径側端部近傍(シール部16aの外径側端部)より側面10の外径側端部にかけて相対的に回動する方向に傾斜する複数の傾斜溝215と、により構成されている。これによれば、実施例1~3よりも簡素な構成で、摺動面S1,S2の最外径部においてシール部16aを乗り越える流れF(図5参照)を形成することができる。
【0055】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0056】
例えば、前記実施例4,5に対して、前記実施例2または前記実施例3の動圧溝の構成を適用してもよい。
【0057】
また、回転軸2を時計回りに回動させることで傾斜溝15において動圧を発生させる態様について説明してきたが、回転軸2を反時計回りに回転させることで、傾斜溝15の開口15a側から閉塞部15d側へ被密封流体を移動させて、応答性良く被密封流体の流出を抑制させることができる。
【0058】
また、シールリングの摺動面S1や非摺動面S1’に設けられる動圧溝、供給溝、連通路、傾斜溝の数や形状は、所望の動圧効果を得られるように適宜変更されてよい。尚、被密封流体を導入する動圧溝の深溝、供給溝、連通路、傾斜溝の設置位置や形状については、摺動面の想定される摩耗の程度に応じて適宜変更されてよい。
【0059】
また、傾斜溝は、底面が導入口側から閉塞部へ向けて徐々に浅くなる傾斜面として形成されていてもよい。この態様であれば、テーパ作用によってさらに引き圧が発生し易くなる。
【0060】
また、シールリングは、合口部1aが設けられない環状に構成されていてもよく、その外形は、側面側から見た形状が円形のものに限らず、多角形状として形成されていてもよい。
【0061】
また、シールリングは、断面矩形状のものに限らず、例えば断面台形状、断面多角形状であってもよく、摺動面S1が形成される側面が傾斜するものであってもよい。
【0062】
また、回転軸2の環状溝20の摺動面S2に対して前記実施例に示した溝が形成されていてもよい。
【0063】
また、被密封流体は油を例に説明したが、水、クーラント等の液体であっても、空気、窒素等の気体であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1~401 シールリング
2 回転軸
3 ハウジング
10 側面
12 動圧溝
13 供給溝
14 連通溝
15 傾斜溝
16 平坦面
16a シール部
16b 内径側潤滑部
16c 外径側潤滑部
20 環状溝
21 側壁面
110 側面
112 動圧溝
113 供給溝
14 連通路
115 傾斜溝
210 側面
213 供給溝
215 傾斜溝
310 側面
410 側面
S1,S2 摺動面
S1’,S2’ 非摺動面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10