(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】排気ガス浄化触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 29/76 20060101AFI20230313BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230313BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20230313BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20230313BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
B01J29/76 A ZAB
B01D53/94 222
F01N3/035 A
F01N3/08 B
F01N3/28 301P
(21)【出願番号】P 2020519940
(86)(22)【出願日】2019-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2019019648
(87)【国際公開番号】W WO2019221266
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2018095467
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018177792
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220804
【氏名又は名称】東京濾器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 高行
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/100384(WO,A1)
【文献】特表2017-519627(JP,A)
【文献】特開2014-198654(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163984(WO,A1)
【文献】特表2010-501326(JP,A)
【文献】特開2015-112559(JP,A)
【文献】特開2005-152774(JP,A)
【文献】国際公開第2017/134007(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/021,3/035,3/08,3/24,3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを含有し、一次粒子径が0.5μm以下であ
り、かつ動的光散乱法により測定した50%粒子径が1.7μm以上2.0μm以下であるゼオライトを用いて作製した、25℃において粘度が10mPa・s以上20mPa・s以下のスラリーを、DPF基材に
付着量が125g/Lとなるように充填してなることを特徴とする、排気ガス浄化触媒。
【請求項2】
さらに、前記ゼオライトの、動的光散乱法により測定した90%粒子径が2.5μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の排気ガス浄化触媒。
【請求項3】
さらに、前記スラリーにおける、前記ゼオライトの50%粒子径が2.0μm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の排気ガス浄化触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化触媒に関し、詳細には、高いNOx浄化能力を有するSCR担持DPF触媒に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
排気ガス浄化システムは、自動車から排出される排気ガスを処理するために用いられる。排気ガス浄化システムの小型化にあたって、排気ガス中に含まれるPM(Particulate Matters:粒子状物質)の捕集能力とNOxの浄化能力とを両立可能なSCR担持DPF触媒(以下、「SCR/DPF触媒」と称する)の開発が進められている。
【0003】
SCR(Selective Catalytic Reduction:選択的還元触媒)とは、尿素やその加水分解により生成するアンモニアを還元剤として、NOxを、N2やH2Oに還元する触媒である。DPF(Diesel Particulate Filter)とは、PMを除去するディーゼル微粒子捕集フィルターである。使用する際は、SCRで充填したDPF(SCR/DPF触媒)を、たとえば自動車の底部に配置する。
【0004】
ここで、SCRとして、現在主流となっているゼオライト系SCRがある(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ゼオライト系SCRは、かさ比重が小さい。従って、NOx浄化能力を向上させるために、DPFに対して多量のゼオライト系SCRを充填すると、DPFの細孔が閉塞してしまう。その結果、排気ガスの流れが妨げられ、逆にNOx浄化能力が低下する可能性がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ゼオライト系SCRを多量に使用しても、PMの捕集能力とNOxの浄化能力とを両立可能な排気ガス浄化触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述の目的を達成するため、鋭意検討の結果、Cuを含有し、一次粒子径が0.5μm以下であるゼオライトを用いて作製した、25℃において粘度が20mPa・s以下のスラリーを、DPF基材に充填してなることを特徴とする、排気ガス浄化触媒に想到した。
【0009】
また、前記ゼオライトは、動的光散乱法により測定した50%粒子径が2.0μm以下であることが好ましい。
【0010】
さらに、前記ゼオライトは、動的光散乱法により測定した90%粒子径が2.5μm以下であることが好ましい。
【0011】
さらに、前記スラリーは、動的光散乱法により測定した50%粒子径が2.0μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ゼオライト系SCRを多量に使用しても、PMの捕集能力とNOxの浄化能力とを両立可能なSCR/DPF触媒を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1~3および比較例1-3および6における、各温度とNOx浄化率との関係を示すグラフ。
【
図2】比較例4および5における、各温度とNOx浄化率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の形態について説明するが、本発明の範囲は、実施例を含めた当該記載に限定されるものではない。また、「%」は、特にことわりのない限り、「重量%」を表すものとする。
【0015】
<排気ガス浄化触媒>
SCR/DPF触媒は、自動車のエンジンから排出された排気ガスに含まれるPMをDPFで捕集することにくわえ、SCRでNOxを無害なN2やH2Oに還元する触媒であり、通常、自動車の底部に設けられる。
【0016】
DPFの基材としては、コージェライト、SiC、およびチタン酸アルミナなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
DPFに用いられる構造体としては、ウォールフロー型の構造体が挙げられる。その構造は、互いに平行して延びる複数個の排気流通路(ハニカムセル)を具備するものである。
【0018】
排気流通路は、下流端が栓により閉塞(目止め)された排気ガス流入通路と、上流端が栓により閉塞(目止め)された排気ガス流出通路と、多孔質の隔壁とで構成される。
【0019】
排気ガス流入通路と、排気ガス流出通路とは、隔壁により互いに隔てられている。
【0020】
また、SCRは、隔壁の細孔に充填(複数ある細孔の一部の箇所を充填、他の細孔をコートする形態も含む)する。なお、SCRの詳細については後述する。
【0021】
このようなSCR/DPF触媒を用いることにより、排気ガス流入通路から流入した排気ガス成分は、隔壁を通過して排気ガス流出通路へ移動する。その際、隔壁に設けられた無数の細孔により、固体であるPMが捕集される。また、隔壁の細孔に充填されたSCRによりNOxが浄化される。
【0022】
上記のようなPM捕集能力とNOx浄化能力とを併せ持つ触媒を、SCR/DPF触媒と呼称する。なお、これを公知の尿素添加装置と組み合わせることによって、NOxの浄化能力をより高めることができる。
【0023】
<SCR>
本実施形態に係るSCRは、一次粒子径が0.5μm以下である、Cuを含有するゼオライトである。なお、ゼオライトを粉末化した状態においては、一次粒子は分散して存在していてよいし、一次粒子が凝集していわゆる二次粒子を形成していて一次粒子径より大きなサイズになっていても良い。
【0024】
ゼオライトとしては、NOx浄化能力を有するものであれば、種々のものを用いてよい。また、天然に産出されるものを用いても、任意の方法で合成してなるものを用いても良い。
【0025】
好ましいゼオライトの一例として、CHA構造を有するゼオライトが用いられる。CHA構造を有するゼオライトとは、酸素8員環から構成される3次元細孔構造を有するゼオライトであり、主としてCa6
2+[Si24Al12O72]の組成を有するものである。
【0026】
また、ゼオライトは、動的光散乱法により測定した50%粒子径が2.0μm以下であることが好ましく、さらに、90%粒子径が2.5μm以下であることが好ましい。
【0027】
SCRをDPFに対して充填する際には、スラリー化したものを用いる。スラリーは、ゼオライトを水に分散させることによって作製される。本実施形態におけるスラリーは、25℃において粘度が20mPa・s以下の条件を満たす。
【0028】
この条件を満たすスラリーを、DPFに充填してSCR/DPF触媒を作製することにより、DPF基材に多量のスラリーを充填しても、DPF細孔の閉塞を起こすことがない。
【0029】
さらに、スラリーは、動的光散乱法により測定した50%粒子径が2.0μm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0030】
次に、実施例により本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
<実施例1-3、比較例1-3および6>
一次粒子径が0.5μm以下であるCHA構造を有するゼオライトまたは一次粒子径が2μmであるCHA構造を有するゼオライトをイオン交換水に分散させ、実施例1-3、比較例1-3および6にかかる、SCRとしてのスラリーを作製した。各実施例、比較例においていずれのゼオライトを使用したかについては、表1で明示する(比較例4、5についても同じ)。
【0032】
作製したスラリーを、イビデン社製 SiC-DPF(気孔率58%、セル厚11ミル、セル密度350cpi)に充填し、乾燥後、450℃以上で焼成した。焼成体をくりぬき、φ25mm×50mmのサイズに形成した上で、両端面を互い違いに目止めしたものを、SCR/DPF触媒として使用した。
【0033】
<比較例4、5>
表1に示したゼオライトをイオン交換水に分散させ、スラリーを作製した。作製したスラリーを、日本ガイシ社製 コージェライト フロースルーハニカム基材(セル厚5ミル、セル密度300cpi)に充填し、乾燥後、450℃以上で焼成した。焼成体をくりぬき、φ25mm×50mmのサイズに形成したものを、SCRとして使用した。
【0034】
なお、比較例4および5で用いたフロースルーハニカム基材は、隔壁による細孔も、基材の両端に目止め部もないものであり、PMを捕集する構造になっていない。すなわち、実施例1等で使用するDPF基材とは異なるものである。
【0035】
一方で、触媒材料は基材の表面のみに充填されており、反応ガスは流路内を通過しつつ触媒に接触して反応するため、DPFのように基材細孔内の閉塞の影響などを受けない状態であるから、このフロースルーハニカム基材によるNOxを浄化する能力は、ゼオライト自体の性能を比較的よく反映するものと考えられる。
【0036】
上記実施例1-3、および比較例1-6にかかるゼオライトの一次粒子径、動的光散乱法により測定した粒子径、およびCu濃度、ならびにそれを用いて調整したスラリーの動的光散乱法により測定した粒子径、粘度、およびDPF基材(またはフロースルー)へのSCR充填量を、表1に示す。
【0037】
なお、一次粒子径は、以下のように測定した。
(1)FE-SEM装置を用い、ゼオライト粉末を10,000倍で撮影した。
(2)その画像にて、CHA構造に特有な立方体形状を有している最小単位結晶について少なくとも20個以上、画像解析ソフトでサイズ(フェレー径)を測定し、その平均径を求めた。なお凝集状態にある場合は、表面に露出している面の対角線長さを計測してその値も使用した。
【0038】
動的光散乱法粒径(D50、D90)は、MT3300EX(マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて測定した。また、スラリー粘度は円筒形回転粘度計VT-03F(リオン株式会社)を用いて測定した。
【0039】
【0040】
実施例1-3、および比較例1-6で作製したSCR/DPF触媒を用いて、排気ガスを模した模擬ガス中に含まれるNOxの浄化能力の測定を行った。
【0041】
(NOx浄化能力測定方法)
排気ガスを模した模擬ガスの組成は次の通りである。
【0042】
NO:500ppm、NH3:50ppm、H2:5%、N2:その他
【0043】
上記模擬ガスを、流速(SV)60000/hでSCR/DPF触媒に流入させ、30℃/minで昇温を行った。100℃から10℃昇温させる毎にSCR/DPF触媒流入前、および流出後のNOxの量を測定した。(1-(流出後のNOx量)÷(流入前のNOx量))×100を、各温度におけるNOx浄化率とした。
【0044】
このようにして計算した、実施例1-3、比較例1-3および6における触媒のNOx浄化率を
図1に、比較例4、5におけるNOx浄化率を
図2に、それぞれグラフとして示す。具体的には、横軸に模擬ガスの温度、縦軸にNOx浄化率を示す。
【0045】
また、実施例1-3、および比較例1-6における触媒のNOx浄化率を、表2に示す。
【0046】
【0047】
実験結果から明らかなように、実施例1にかかるSCR/DPF触媒は、DPF基材の単位体積に対するスラリーの充填量が同程度であり、ゼオライトの一次粒子径が0.5μm、動的光散乱法により測定した50%粒子径が2.0μm、および90%粒子径が2.5μmを大幅に超えている上に、25℃におけるスラリーの粘度も20mPa・sを超えている比較例1、ゼオライトの一次粒子径が0.5μm以下、動的光散乱法により測定した50%粒子径が2.0μm以下、および90%粒子径が2.5μm以下であるものの、25℃におけるスラリーの粘度が20mPa・sを超えている比較例2、および、25℃におけるスラリーの粘度が20mPa・s以下であるものの、比較例1と同じくゼオライトの一次粒子径、動的光散乱法により測定した50%粒子径、および90%粒子径が上記規定値を超えている比較例6よりも、200℃~400℃の温度範囲において、NOxを浄化する能力が高くなることが確認された。
【0048】
また、実施例2および3と比較例3との比較より、実施例2および3にかかるSCR/DPF触媒は、25℃におけるスラリーの粘度が20mPa・sを超えている比較例3よりも、200℃~400℃の温度範囲において、NOxを浄化する能力が高くなることが確認された。
【0049】
さらに、実施例1と実施例2および3との比較から明らかな通り、スラリーの充填量が100g/Lを超えても、すなわちゼオライト系SCRを多量に使用しても、NOxを浄化する能力の低下はほとんど生じていないことが確認された。
【0050】
比較例4、5における、フロースルーハニカム基材を用いての評価から、一次粒子径が0.5μm以下であるゼオライトおよび一次粒子径が2μmであるゼオライトの2種類のゼオライトそのものの性能自体は大差なく、特に約250℃以上の領域においては、ほぼ同等の性能であることがわかる。
【0051】
フロースルーハニカム基材上ではNOxを浄化する能力が同等であるにもかかわらず、実施例1-3と比較例1-3および6との間でNOxを浄化する能力に差が生じている理由は、DPF特有の問題であると考えられる。
【0052】
なお、上述の通り、本発明にかかるSCR/DPF触媒は、尿素SCRと併用することがある。その際、尿素は200℃以上で浄化能力を発揮するので、その温度範囲における性能が重要となる。その観点から考えると、実施例1-3の結果によれば、SCR/DPF触媒は200℃以上でも浄化性能を十分発揮できていることがわかる。すなわち、尿素SCRと併用する場合であっても浄化能力を保てることがわかる。