(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法,電極板の製造方法,および電極活物質合材の湿潤造粒体の製造装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/36 20060101AFI20230313BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20230313BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230313BHJP
【FI】
H01M4/36 A
H01M4/04 Z
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2021022617
(22)【出願日】2021-02-16
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 丈典
(72)【発明者】
【氏名】若林 祐介
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-032554(JP,A)
【文献】特開2020-013681(JP,A)
【文献】特開平04-281832(JP,A)
【文献】特開昭52-012680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
H01M 4/139
H01M 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質粉と導電材粉とを少なくとも含む固形物粉と,液成分とを混合して,前記固形物粉同士の対面箇所に前記液成分が存在するとともに,前記対面箇所の前記液成分同士が互いに繋がっておらず,前記固形物粉間の隙間の空間が全体として繋がっているペンジュラー状態の湿潤粉体を得る混合工程と,
前記混合工程で得られた前記湿潤粉体を粒状に成形して,電極活物質合材の湿潤造粒体の集合物を得る造粒工程とを有
し,
前記造粒工程は,
前記湿潤粉体を板状に成形する板状成形工程と,
板状に成形された前記湿潤粉体を複数箇所の互いに平行な切断線に沿って切断することで棒状とする棒状切断工程と,
棒状に成形された前記湿潤粉体をその長手方向に対して複数箇所で切断することで粒状とする粒状切断工程とを有する電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法。
【請求項2】
電極活物質粉と導電材粉とを少なくとも含む固形物粉と,液成分とを混合して,前記固形物粉同士の対面箇所に前記液成分が存在するとともに,前記対面箇所の前記液成分同士が互いに繋がっておらず,前記固形物粉間の隙間の空間が全体として繋がっているペンジュラー状態の湿潤粉体を得る混合工程と,
前記混合工程で得られた前記湿潤粉体を粒状に成形して,電極活物質合材の湿潤造粒体の集合物を得る造粒工程とを有
し,
前記造粒工程では,
いずれも,表面に複数の周方向の溝が形成されるとともに,溝と溝との間の凸部が刃状となっているものであり,前記凸部同士を突き合わせて対面して異なる周速で回転する第1刃付きロールと第2刃付きロールとを用い,
前記湿潤粉体を前記第1刃付きロールと前記第2刃付きロールとの対面箇所に供給して粒状とする電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法。
【請求項3】
請求項
2に記載の電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法であって,前記造粒工程は,
前記湿潤粉体を棒状に成形する棒状成形工程と,
棒状に成形された前記湿潤粉体をその長手方向に対して複数箇所で切断することで粒状とする粒状切断工程とを有
し,
前記粒状切断工程を,前記第1刃付きロールおよび前記第2刃付きロールにより行う電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法。
【請求項4】
請求項
3に記載の電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法であって,
前記棒状成形工程は,
前記湿潤粉体を板状に成形する板状成形工程と,
板状に成形された前記湿潤粉体を複数箇所の互いに平行な切断線に沿って切断することで棒状とする棒状切断工程とを有する電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法。
【請求項5】
第1ロールと第2ロールと第3ロールとを有し,前記第2ロールが前記第1ロールおよび前記第3ロールのいずれにも対面しているとともに,前記第1ロールと前記第3ロールとは対面しておらず,前記第3ロールに集電箔を掛けて前記第2ロールと前記第3ロールとの対面箇所を通過させるように搬送する3本ロール装置を使用し,
前記第1ロールと前記第2ロールとの対面箇所に対して電極活物質合材の湿潤造粒体を供給して当該対面箇所を通過させることで,前記第2ロールの表面上に前記湿潤造粒体を層状化した層を形成する層形成工程と,
前記層が前記第2ロールと前記第3ロールとの対面箇所を通過するときに前記層を前記第2ロールの表面上から前記集電箔の表面上に転写する転写工程とにより,
前記集電箔上に前記電極活物質合材の湿潤体の層を有する電極板を製造する方法であって,
前記電極活物質合材の湿潤造粒体として,請求項1から請求項
4までのいずれか1つに記載の製造方法により製造されたものを用いる電極板の製造方法。
【請求項6】
対面して回転する第1
刃付きロールと第2
刃付きロールとを有し,
前記第1
刃付きロールと前記第2
刃付きロールとの
両方が,表面に複数の周方向の溝が形成されるとともに,溝と溝との間の凸部が刃状となっている
ものであり,
前記第1刃付きロールと前記第2刃付きロールとの対面箇所にて,前記第1刃付きロールの前記凸部と前記第2刃付きロールの前記凸部とが突き合わせられており,
前記第1
刃付きロールと前記第2
刃付きロールとが異なる周速で回転するように構成されており,
前記第1
刃付きロールと前記第2
刃付きロールとの対面箇所に供給された電極活物質合材の湿潤粉体の棒状の成形体を前記
第1刃付きロールの前記凸部
と前記第2刃付きロールの前記凸部とで切断して粒状とする電極活物質合材の湿潤造粒体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示技術は,電極活物質合材の湿潤造粒体に関する。さらには湿潤造粒体そのものの他に,その製造方法,それを用いた電極板の製造方法,その製造装置をも対象とする。
【背景技術】
【0002】
従来から,電極活物質をその添加材とともに集電箔の表面上に薄層状に成膜して電池用の電極板とすることが行われている。そのためには通常,電極活物質や添加材といった粉体成分を液成分とともに混合した混合物を集電箔の表面上に塗工することが行われる。特に近年では,成膜後の乾燥工程の負担を軽減する要請上,液成分を極力少なくするとともに,混合物を粒状化して使用することが行われている。特許文献1の技術では,混合物が粘土状となるような固形分比率としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の技術には次のような問題点があった。混合物の配合比率によっては,粘土状になりにくいのである。特に,添加材の1種である導電材の配合比率が高い場合に,粘土状の混合物を得にくい傾向がある。その理由は,導電材が液成分を吸収しやすいことにあると考えられる。このため,導電材の配合比率が高い場合には,混合物が粘土状にならずに,乾燥している粉体とあまり変わらないようになものになってしまう。このことにより,均一な粒度の粒状混合物が得られないのである。液成分を増量することも考えられるが,それでは成膜後の乾燥工程の負担が大きい。
【0005】
本開示技術は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,導電材の配合比率に関わらず粒度がほぼ揃った造粒体が得られる電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法を提供することにある。加えて,その湿潤造粒体そのもの,それを用いた電極板の製造方法,その製造装置をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示技術の一態様における電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法は,電極活物質粉と導電材粉とを少なくとも含む固形物粉と,液成分とを混合して,固形物粉同士の対面箇所に液成分が存在するとともに,対面箇所の液成分同士が互いに繋がっておらず,固形物粉間の隙間の空間が全体として繋がっているペンジュラー状態の湿潤粉体を得る混合工程と,混合工程で得られた湿潤粉体を粒状に成形して,電極活物質合材の湿潤造粒体の集合物を得る造粒工程とを有している。
【0007】
上記態様における電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法では,混合工程で,電極活物質粉と導電材粉と液成分とを含みつつ流動性がほとんどないペンジュラー状態の湿潤粉体を得る。造粒工程では,上記ペンジュラー状態の湿潤粉体を成形して電極活物質合材の湿潤造粒体を得る。この造粒体は,電極板への電極活物質合材の層の形成に適している。
【0008】
上記態様の電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法ではさらに,造粒工程が,湿潤粉体を棒状に成形する棒状成形工程と,棒状に成形された湿潤粉体をその長手方向に対して複数箇所で切断することで粒状とする粒状切断工程とからなることとすることができる。このように湿潤粉体をまず棒状に成形しそれを切断して粒状とすることで,粒度の揃った湿潤造粒体を得て,電極板の製造に良好に供することができる。
【0009】
上記態様の電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法ではさらに,棒状成形工程が,湿潤粉体を板状に成形する板状成形工程と,板状に成形された湿潤粉体を複数箇所の互いに平行な切断線に沿って切断することで棒状とする棒状切断工程とからなることとすることができる。このように湿潤粉体をまず板状に成形に成形しそれを切断して棒状とすることで,太さの揃った棒状の湿潤粉体を得て,湿潤造粒体の形成に良好に供することができる。
【0010】
本開示技術の別の一態様における電極板の製造方法では,第1ロールと第2ロールと第3ロールとを有し,第2ロールが第1ロールおよび第3ロールのいずれにも対面しているとともに,第1ロールと第3ロールとは対面しておらず,第3ロールに集電箔を掛けて第2ロールと第3ロールとの対面箇所を通過させるように搬送する3本ロール装置を使用し,第1ロールと第2ロールとの対面箇所に対して電極活物質合材の湿潤造粒体を供給して当該対面箇所を通過させることで,第2ロールの表面上に湿潤造粒体を層状化した層を形成する層形成工程と,その層が第2ロールと第3ロールとの対面箇所を通過するときにその層を第2ロールの表面上から集電箔の表面上に転写する転写工程とにより,集電箔上に電極活物質合材の湿潤体の層を有する電極板を製造する。ここで,電極活物質合材の湿潤造粒体として,上記のいずれかの態様の電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法により製造されたものを用いる。このため,流動性がほとんどない湿潤粉体により良好に電極板を製造できる。
【0011】
本開示技術の別の一態様における電極活物質合材の湿潤造粒体は,上記のいずれかの態様の電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法により製造された湿潤造粒体である。この湿潤造粒体は,電極板の製造に適している。
【0012】
本開示技術のさらに別の一態様における電極活物質合材の湿潤造粒体の製造装置は,対面して回転する第1刃付きロールと第2刃付きロールとを有し,第1刃付きロールと第2刃付きロールとの両方が,表面に複数の周方向の溝が形成されるとともに,溝と溝との間の凸部が刃状となっているものであり,第1刃付きロールと第2刃付きロールとの対面箇所にて,第1刃付きロールの凸部と第2刃付きロールの凸部とが突き合わせられており,第1刃付きロールと第2刃付きロールとが異なる周速で回転するように構成されているものである。これにより,第1刃付きロールと第2刃付きロールとの対面箇所に供給された電極活物質合材の湿潤粉体の棒状の成形体を両刃付きロールの凸部で切断して粒状とする。前述の粒状切断工程もこの装置により可能である。
【発明の効果】
【0013】
本開示技術によれば,導電材の配合比率に関わらず粒度がほぼ揃った造粒体が得られる電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法,その湿潤造粒体そのもの,それを用いた電極板の製造方法,その製造装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】実施の形態における板状成形工程および棒状切断工程を示す断面図である。
【
図4】湿潤粉体の板状の成形物を棒状に切断しさらに粒状に切断する手順を示す斜視図である。
【
図5】実施の形態における粒状切断工程およびその装置を示す斜視図である。
【
図6】実施の形態における電極板の製造工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,本開示技術を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン電池の正極板用の電極活物質合材の湿潤造粒体に関して本開示技術を具体化したものである。
【0016】
本形態における正極活物質混合物の原材料のうち固形成分は,以下のいずれも粒子状の粉末材とした。
・活物質:ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(粒径10μm程度)
・導電材:アセチレンブラック(粒径3~5nm程度)
・バインダ樹脂:ポリフッ化ビニリデン
・配合比:活物質/導電材/バインダ樹脂=90/5/5(重量%)
【0017】
上記のうちバインダ樹脂は,分散媒との混合の際に分散媒に溶解してしまうものである。このため以下の説明では実質的に分散媒に含まれるものとして取り扱うこととする。分散媒としては,N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用い,固形分比率は6.4重量%とした。この固形分比率は,混合物がほとんど流動性を持たない湿潤粉末となる程度のものである。
【0018】
本形態における正極板の製造の手順は,次の通りである。
(1)混合 →(2)造粒 →(3)成膜
【0019】
(1)の混合は,粉末材を分散媒とともに混合する処理である。この処理では,粉体が塊状に凝集した凝集体が混合物中に残存しないようにすることが好ましい。例えば,まずプラネタリーミキサー等の一般的な混合機で事前混合を行い,その後にロールペア装置に混合物を通過させて凝集体を解消する2段階の混合処理を行うことができる。これにより,分散が進んだ均一性の高い湿潤粉体,すなわち電極活物質合材が得られる。
【0020】
本形態では混合処理により,いわゆるペンジュラー状態の混合物が生成される。ペンジュラー状態とは,混合物内で,液成分および空孔の状況が次のいずれをも満たすことをいう(
図1)。
・液成分2は,固体1(個々の粉末のこと)同士の対面箇所に挟まれてのみ存在し,他の対面箇所の液成分2と繋がっていない。
・固体1間の空孔3が混合物全体にわたって3次元的に連続している。
【0021】
ペンジュラー状態は,次の条件を満たすファニキュラー状態よりも固形分比率が高い状態である(
図2)。
・液成分2は,固体1同士の対面箇所に挟まれて存在するだけでなく,固体1の表面上であって他の固体1との対面箇所ではない箇所にも存在しており,混合物全体にわたって液成分2が連続している。
・固体1間に空孔3はあるが,空孔3同士は必ずしも繋がっておらず,空孔3と空孔3とが液成分2により遮断されている箇所がある。
【0022】
上記のペンジュラー状態およびファニキュラー状態はいずれも,スラリー状態あるいはキャピラリー状態(粘土状態)の混合物と比較して,流動性がほとんどない湿潤粉末状のものである。本形態では,これら2つの状態の中でもより液成分の少ない方であるペンジュラー状態となるように固形分比率を決定したものである。
図1および
図2ではあたかも固体1が1種類しかないように描いているが,実際には前述のように複数種類ある。
【0023】
(2)の造粒は,(1)の混合工程で得られた混合物である湿潤粉体を粒状に成形して,電極活物質合材の湿潤造粒体を得る処理である。本形態における造粒処理は,次の手順で行われる。
(2-1)板状成形 →(2-2)棒状切断 →(2-3)粒状切断
【0024】
(2-1)の板状成形は,湿潤粉体を板状に成形する工程である。この工程は,
図3の矢印Aの箇所に示すように,ロールペア装置30を用いて行うことができる。ロールペア装置30では,2つのロール31,32が互いに順方向にかつ異なる周速で回転するように構成されている。速い方のロール31には,スクレイパー33が当てられている。スクレイパー33は,ロール31におけるロール32との対面箇所より回転方向の下流側の位置に接触している。
【0025】
ロールペア装置30では,2つのロール31,32の対面箇所に対して回転方向の上流側から湿潤粉体の集合物34を供給する。集合物34が対面箇所に引き込まれて成形されることで,対面箇所の下流側に,湿潤粉体の板状の成形物35が得られる。板状の成形物35は,周速の速い方のロール31に載って進み,スクレイパー33でロール31から剥がされる。板状の成形物35の厚さは,ロール31,32の対面箇所のギャップと同じになる。このギャップは,最終的に得ようとする湿潤造粒体の直径とだいたい同じくらいにしておくのがよい。上記の方法によることで,混合物が流動性に乏しいペンジュラー状態のものであっても,狙い通りの厚さの板状の成形物35が安定的に得られる。
【0026】
(2-2)の棒状切断は,板状の成形物35を棒状に切断する工程である。この工程は,
図3の矢印Bの箇所に示すように,ロータリーカッター36を用いて行うことができる。ロータリーカッター36は,長尺状の多数のカッターを,刃先が放射状に外に向くように基端同士を接合した構造のものである。ロータリーカッター36は,スクレイパー33でロール31から剥がされた板状の成形物35が当たる位置に配置されている。ロータリーカッター36の回転により
図4に示すように,板状の成形物35が複数箇所の互いに平行な切断線38に沿って切断され,棒状の成形物37となる。
【0027】
(2-1)の板状成形と(2-2)の棒状切断とを合わせて,湿潤粉体の集合物34を棒状に成形する棒状成形工程という。
図4中の切断線38は,切断位置を示すために引いた仮想的な線であり,実際の成形物35にそのような線が描かれている訳ではない。上記のようにして得られる棒状の成形物37の太さは,安定しておりばらつきが少ない。切断前の板状の成形物35の厚さが安定しているからである。また,切断幅はロータリーカッター36の回転速度により規定できるからである。
【0028】
(2-3)の粒状切断は,棒状の成形物37を粒状に切断する工程である。この工程は,
図5に示す粒状切断装置10を用いて行うことができる。粒状切断装置10は,第1刃付きロール11と第2刃付きロール12とを有している。第1刃付きロール11および第2刃付きロール12はいずれも,表面に複数の周方向の溝4が形成されているものである。溝4と溝4との間の凸部5は刃状となっている。粒状切断装置10では,第1刃付きロール11と第2刃付きロール12との対面箇所にて,第1刃付きロール11の凸部5と第2刃付きロール12の凸部5とが突き合うようになっている。
【0029】
粒状切断装置10では,第1刃付きロール11と第2刃付きロール12との対面箇所に対して棒状の成形物37を投入することで,棒状の成形物37を切断する。棒状の成形物37は,その長手方向が第1刃付きロール11および第2刃付きロール12の軸方向と平行になるようにして投入される。これにより棒状の成形物37は,凸部5同士の突き合わせ箇所で寸断され,粒状とされる。
【0030】
第1刃付きロール11および第2刃付きロール12における溝4の幅,すなわち凸部5の間隔は,最終的に得ようとする湿潤造粒体の直径とだいたい同じくらいにしておくのがよい。これにより,狙いとするサイズの粒状の成形物8を得ることができる。溝4の断面形状は,半円形であることが望ましい。その場合の半円の曲率半径は,最終的に得ようとする湿潤造粒体の半径とだいたい同じくらいにしておくのがよい。これにより,完全な真球になるとは限らないにしてもある程度角のとれた形状の成形物8が得られる。
【0031】
粒状切断装置10ではさらに,第1刃付きロール11と第2刃付きロール12とが異なる周速で回転するようにされている。このため凸部5で切断された成形物8は,両ロール間の周速差に引きずられて回転する。これにより粒状の成形物8はさらに丸められる。これが本形態における粒状切断工程である。以下,粒状の成形物8を湿潤造粒体8という。上記のようにして得られた湿潤造粒体8では,粒径のばらつきが少ない。元の棒状の成形物37の太さが安定していることと,切断間隔が凸部5の間隔で決まってしまうこととによる。
【0032】
上記のようにして得られた電極活物質合材の湿潤造粒体8を用いて,電極板を製造することができる。電極板の製造は,
図6に示す3本ロール装置20を用いて行うことができる。
図6の3本ロール装置20は,第1ロール21と第2ロール22と第3ロール23とを有している。第2ロール22は第1ロール21および第3ロール23のいずれにも対面しているが,第1ロール21と第3ロール23とは対面していない。第3ロール23には集電箔24が掛けられている。集電箔24は,第2ロール22と第3ロール23との対面箇所を通過するように搬送される。
【0033】
図6の3本ロール装置20では,第1ロール21と第2ロール22との対面箇所に対してそれらの回転方向の上流側から,前述の湿潤造粒体8を多数供給する。湿潤造粒体8は,第1ロール21および第2ロール22の回転によりそれらの対面箇所に引き込まれて層状に押し潰される(層形成工程)。押し潰されてできた電極活物質合材の湿潤体の層9は,周速がより速い方の第2ロール22の表面上に載って進む。
【0034】
第2ロール22の表面上の層9は,第2ロール22と第3ロール23との対面箇所に至ると,周速がさらに速い方の第3ロール23側に転写される(転写工程)。第3ロール23には集電箔24が掛けられているので,層9は以後,集電箔24に載って進むこととなる。これにより,集電箔24上に電極活物質合材の湿潤体の層9を有する電極板25が製造される。本形態のこの方法では,均一な厚さの層9を安定して形成することができる。湿潤造粒体8の粒度が揃っているため,第1ロール21と第2ロール22との対面箇所への単位長さ当たりの湿潤造粒体8の供給個数を規制することで,過不足のない湿潤体の供給が容易にできるからである。
【0035】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば,ペンジュラー状態となるような少なめの液成分比率の混合物を,まず板状に成形し,ついで棒状に切断し,さらに粒状に切断して湿潤造粒体8を得ることとしている。また,湿潤体の棒状の成形物37の粒状への切断を,刃付きロール11,12を有する粒状切断装置10で行うこととしている。これにより,流動性がほとんどない湿潤粉末を原材料として,粒度の揃った湿潤造粒体8を安定的に製造できるようにしている。このことは,電極活物質合材における導電材が占める配合比に関わらず成り立つ。かくして,導電材の配合比率に関わらず粒度がほぼ揃った造粒体が得られる電極活物質合材の湿潤造粒体の製造方法,その湿潤造粒体そのもの,それを用いた電極板の製造方法,その製造装置が実現されている。
【0036】
本実施の形態および実施例は単なる例示にすぎず,本開示技術を何ら限定するものではない。したがって本開示技術は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,上記ではリチウムイオン電池の正極板用として説明したが,電極活物質と導電材と分散媒とを用いる手法であれば電池種や極性が違っていても適用可能である。導電材以外にさらに別の種類の添加物粉体を含んでもよい。
【0037】
各製造プロセスに対して示した装置については,同様の機能を奏する別の構成であってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 固体
2 液成分
4 溝
5 凸部
8 粒状の成形物
9 湿潤体の層
10 粒状切断装置
11 第1刃付きロール
12 第2刃付きロール
20 3本ロール装置
21 第1ロール
22 第2ロール
23 第3ロール
24 集電箔
25 電極板
34 湿潤粉体の集合物
35 板状の成形物
37 棒状の成形物