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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】固定式等速自在継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/223 20110101AFI20230313BHJP
【FI】
F16D3/223
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021193108
(22)【出願日】2021-11-29
【審査請求日】2022-12-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 智茂
(72)【発明者】
【氏名】小林 正純
(72)【発明者】
【氏名】杉山 達朗
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-79684(JP,A)
【文献】特表2009-507195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/223- 3/229
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記外側継手部材の内球面と前記保持器の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E1’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1よりも小さい固定式等速自在継手。
【請求項2】
前記外側継手部材の内球面の軸方向両端における直径DO’が、前記外側継手部材の内球面の軸方向中央部における直径DOよりも小さい請求項1に記載の固定式等速自在継手。
【請求項3】
前記保持器の外球面の軸方向両端における直径DCO’が、前記保持器の外球面の軸方向中央部における直径DCOよりも大きい請求項1又は2に記載の固定式等速自在継手。
【請求項4】
内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記保持器の内球面と前記内側継手部材の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E2’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E2よりも小さい固定式等速自在継手。
【請求項5】
前記保持器の内球面の軸方向両端における直径DCI’が、前記保持器の内球面の軸方向中央部における直径DCIよりも小さい請求項4に記載の固定式等速自在継手。
【請求項6】
前記内側継手部材の外球面の軸方向両端における直径DI’が、前記内側継手部材の外球面の軸方向中央部における直径DIよりも大きい請求項4又は5に記載の固定式等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のドライブシャフトは、車輪に取り付けられるアウトボード側の等速自在継手と、デファレンシャルギヤに取り付けられるインボード側の等速自在継手と、両等速自在継手を連結する中間シャフトとで構成される。通常、アウトボード側の等速自在継手には、大きな作動角を取れるが軸方向に変位しない固定式等速自在継手が使用される。一方、インボード側の等速自在継手には、最大作動角は比較的小さいが、作動角を取りつつ軸方向変位が可能な摺動式等速自在継手が使用される。
【0003】
近年、自動車の低燃費化に伴い、ドライブシャフトの小型・軽量化が求められ、これに設けられる等速自在継手にも小型・軽量化が求められている。例えば、下記の特許文献1及び2には、ボール数を8個として小型・軽量化を図った固定式等速自在継手が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3460107号公報
【文献】特開2003-004062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7に、従来の一般的な固定式等速自在継手100を示す。この固定式等速自在継手100は、外側継手部材101と、内側継手部材102と、ボール103と、保持器104とを有する。外側継手部材101の内球面101aは保持器104の外球面104aと嵌合し、保持器104の内球面104bは内側継手部材102の外球面102aと嵌合している。外側継手部材101の内球面101aに形成された複数のトラック溝101bと、内側継手部材102の外球面102aに形成された複数のトラック溝102bとで複数のボールトラックが形成され、各ボールトラックにボール103が一個ずつ配される。外側継手部材101のトラック溝101bの曲率中心と、内側継手部材102のトラック溝102bの曲率中心とは、継手中心に対して反対側にオフセットして配され、これにより、各ボールトラックが継手開口側(図中右側)へ向けて広がった楔形状を成している。
【0006】
図8は、固定式等速自在継手100が作動角(6°)を取った状態を示す。この状態で、固定式等速自在継手100にトルクを与えると、ボール103が、楔形状のボールトラック(トラック溝101b、102b)から継手開口側に向けた力Fを受ける。これにより、ボール103が継手開口側に押し込まれ、ボール103と接触する保持器104が継手開口側に移動する。
【0007】
上記の外側継手部材101の内球面101a及び保持器104の外球面104aは、何れも単一の球面からなる。そのため、図9に示すように、これらの間の球面隙間(球面間の面直方向の隙間)E3は均一である。この場合、外側継手部材101の内球面101aと保持器104の外球面104aとの間の軸方向隙間は、軸方向中央部から軸方向端部側に行くにつれて徐々に小さくなり、軸方向端部における軸方向隙間L1が最小となる(L2>L1)。従って、ボール103がトラック溝101b、102bから力F(図8参照)を受けて保持器104が継手開口側に移動すると、図10に示すように、保持器104の外球面104aが、外側継手部材101の内球面101aの継手開口側端部(図8のA部)に当接する。
【0008】
また、上記の保持器4の内球面104b及び内側継手部材102の外球面102aは、何れも単一の球面からなる。そのため、図11に示すように、これらの間の球面隙間E4は均一である。この場合、保持器104の内球面104bと内側継手部材102の外球面102aとの間の軸方向隙間は、軸方向中央部から軸方向端部側に行くにつれて徐々に小さくなり、軸方向端部における軸方向隙間L3が最小となる(L4>L3)。従って、ボール103がトラック溝101b、102bから力F(図8参照)を受けて保持器104が継手開口側に移動すると、図12に示すように、保持器104の内球面104bが内側継手部材102の外球面102aの継手奥側の端部(図8のB部)に当接する。
【0009】
このとき、互いに嵌合する外側継手部材101の内球面101aと保持器104の外球面104aとの間、及び、保持器104の内球面104bと内側継手部材102の外球面102aとの間の隙間が0であれば、保持器104が軸方向に移動しないため、作動角を取った状態でもボール103が作動角の二等分面内に配された理想的な状態を維持することができる。しかし、球面間の隙間を0にすると、組立性が低下すると共に、球面間に潤滑剤を介在させることができないため潤滑性が低下する。従って、実際には、互いに嵌合する球面間には隙間が設けられる。この場合、上記のように、トルク伝達時に保持器104が外側継手部材101及び内側継手部材102に対して軸方向に移動するため、ボール103が理想の位置(作動角の二等分面上)からずれて両継手部材101、102の等速性が崩れると共に、互いに接触する部品間の荷重や摺動にも影響が及んで各部品の耐久性の低下を招く恐れがある。
【0010】
そこで、本発明は、保持器の軸方向移動量を抑えることで、両継手部材の等速性を維持すると共に、各部品の耐久性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記外側継手部材の内球面と前記保持器の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E1’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1よりも小さい固定式等速自在継手を提供する。
【0012】
このように、本発明に係る固定式等速自在継手では、保持器が軸方向移動したときに外側継手部材と接触する部分、すなわち、外側継手部材と保持器との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E1’を小さくしている。これにより、保持器の軸方向移動量を抑えることができるため、大きな作動角を取ったときでも、ボールの二等分面からのずれを抑えて両継手部材の等速性を維持することができる。また、外側継手部材と保持器との嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1を確保することで、球面間に潤滑剤を介在させて潤滑性を高めることができる。
【0013】
上記の固定式等速自在継手では、外側継手部材の内球面の軸方向両端における直径DO’を、軸方向中央部における直径DOよりも小さくすることができる。また、上記の固定式等速自在継手では、保持器の外球面の軸方向両端における直径DCO’を、軸方向中央部における直径DCOよりも大きくすることができる。これらの一方又は双方により、外側継手部材と保持器との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E1’を、嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1よりも小さくすることができる。
【0014】
また、前記課題を解決するために、本発明は、内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記保持器の内球面と前記内側継手部材の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E2’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E2よりも小さい固定式等速自在継手を提供する。
【0015】
このように、本発明に係る固定式等速自在継手では、保持器が軸方向移動したときに内側継手部材と接触する部分、すなわち、保持器と内側継手部材との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E2’を小さくしている。これにより、保持器の軸方向移動量を抑えることができるため、大きな作動角を取ったときでも、ボールの二等分面からのずれを抑えて両継手部材の等速性を維持することができる。また、保持器と内側継手部材との軸方向中央部における球面隙間E2を確保することで、球面間に潤滑剤を介在させて潤滑性を高めることができる。
【0016】
上記の固定式等速自在継手では、保持器の内球面の軸方向両端における直径DCI’を、軸方向中央部における直径DCIよりも小さくすることができる。また、上記の固定式等速自在継手では、内側継手部材の外球面の軸方向両端における直径DI’を、軸方向中央部における直径DIよりも大きくすることができる。これらの一方又は双方により、保持器と内側継手部材との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E2’を、嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E2よりも小さくすることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、保持器の軸方向移動量が抑えられるため、両継手部材の等速性を維持してトルク伝達効率を高めると共に、互いに嵌合する球面間の潤滑性を高めて各部品の耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る固定式等速自在継手の、ボール中心を通る縦断面図である。
図2】上記固定式等速自在継手の、ボールを通らない縦断面図である。
図3】上記固定式等速自在継手の外側継手部材と保持器との嵌合部の拡大断面図である。
図4】保持器と外側継手部材とが当接した状態を示す拡大断面図である。
図5】上記固定式等速自在継手の保持器と内側継手部材との嵌合部の拡大断面図である。
図6】保持器と内側継手部材とが当接した状態を示す拡大断面図である。
図7】従来の固定式等速自在継手の縦断面図である。
図8図7の固定式等速自在継手が作動角を取った状態を示す縦断面図である。
図9図8のA部周辺の拡大断面図である。
図10】保持器と外側継手部材とが当接した状態を示す拡大断面図である。
図11図8のB部周辺の拡大断面図である。
図12】保持器と内側継手部材とが当接した状態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明の一実施形態に係る固定式等速自在継手10は、図1に示すように、外側継手部材1と、内側継手部材2と、外側継手部材1と内側継手部材2との間でトルクを伝達する複数のボール3と、複数のボール3を保持する保持器4とを備える。この固定式等速自在継手10は、例えば、自動車のドライブシャフトのアウトボード側の等速自在継手として使用される。
【0021】
外側継手部材1は、軸方向一方側(図中右側)が開口し、軸方向他方側(図中左側)が閉じたカップ状を成している。外側継手部材の内球面1aには、軸方向に延びる複数の円弧状のトラック溝1bが形成されている。
【0022】
内側継手部材2の外球面2aには、軸方向に延びる複数の円弧状のトラック溝2bが設けられる。内側継手部材2には、軸方向に貫通したスプライン穴2cが設けられる。内側継手部材2のスプライン穴2cには、シャフト(例えば、自動車のドライブシャフトの中間シャフト)の端部の外周に設けられたスプラインが嵌合し、これにより両者がトルク伝達可能に結合される。
【0023】
外側継手部材1のトラック溝1bと内側継手部材2のトラック溝2bとが半径方向で対向して複数のボールトラックが形成され、各ボールトラックにボール3が一個ずつ配される。ボール3の数は5~8個の中から任意に選択することができる。外側継手部材1及び内側継手部材2には、それぞれボール3と同数のトラック溝1b、2bが形成される。
【0024】
外側継手部材1のトラック溝1bの曲率中心O1と、内側継手部材2のトラック溝2bの曲率中心O2は、継手中心Oに対して軸方向反対側に等距離だけオフセットしている。図示例では、外側継手部材1のトラック溝1bの曲率中心O1が、継手中心Oに対して継手開口側(図中右側)にオフセットし、内側継手部材2のトラック溝2bの曲率中心O2が、継手中心Oに対して継手奥側(図中左側)にオフセットしている。その結果、トラック溝1b、2bで形成されるボールトラックが、継手開口側へ向けて開いた楔形状を成している。これにより、任意の作動角において、保持器4で保持されたボール3が常に作動角の二等分面内に配置され、外側継手部材1と内側継手部材2との間での等速性が確保される。
【0025】
保持器4は、ボール3を保持する複数のポケット4aを有する。ポケット4aは、円周方向等間隔に配されている。図2に示すように、保持器4の外球面4bは、外側継手部材1の内球面1aと摺接する。保持器4の内球面4cは、内側継手部材2の外球面2aと摺接する。
【0026】
外側継手部材1の内球面1aと保持器4の外球面4bとは互いに嵌合しており、この嵌合部には球面隙間が設けられる。すなわち、外側継手部材の内球面1aの直径は、保持器4の外球面4bの直径よりも大きい。
【0027】
本実施形態では、図3に示すように、外側継手部材1の内球面1aが、軸方向中央部に設けられた球面部1a1と、球面部1a1の軸方向両側に設けられた準球面部1a2とからなる。球面部1a1の曲率中心は、継手中心Oと一致している。準球面部1a2は、球面部1a1と滑らかに連続し、軸方向外側に行くにつれて徐々に縮径している。すなわち、準球面部1a2と、球面部1a1の曲率中心(継手中心O)との距離RO’(図2参照)が、軸方向外側に行くほど小さくなっている。そのため、外側継手部材1の内球面1aの軸方向両端における直径DO’(RO’の2倍)は、内球面1aの軸方向中央部における直径(球面部1a1の直径)DOよりも小さい(DO’<DO)。
【0028】
また、本実施形態では、図3に示すように、保持器4の外球面4bが、軸方向中央部に設けられた球面部4b1と、球面部4b1の軸方向両側に設けられた準球面部4b2とからなる。球面部4b1の曲率中心は、継手中心Oと一致している。準球面部4b2は、球面部4b1と滑らかに連続し、軸方向外側に行くにつれて徐々に拡径している。すなわち、準球面部4b2と、球面部4b1の曲率中心(継手中心O)との距離RCO’(図2参照)が、軸方向外側に行くほど大きくなっている。そのため、保持器4の外球面4bの軸方向両端における直径DCO’(RCO’の2倍)は、外球面4bの軸方向中央部における直径(球面部4b1の直径)DCOよりも大きい(DCO’>DCO)。
【0029】
以上のように、外側継手部材1の内球面1aの軸方向両端における直径DO’を軸方向中央部における直径DOよりも小さくし(DO’<DO)、且つ、保持器4の外球面4bの軸方向両端における直径DCO’を軸方向中央部における直径DCOよりも大きくする(DCO’>DCO)ことにより、これらの球面の軸方向両端における直径差ΔD1’(=DO’-DCO’)が軸方向中央部における直径差ΔD1(=DO-DCO)よりも小さくなる。その結果、外側継手部材1の内球面1aと保持器4の外球面4bとの嵌合部の軸方向両端における球面隙間E1’が、上記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1よりも小さくなる(E1’<E1)。
【0030】
外側継手部材1の内球面1aと保持器4の外球面4bとの軸方向中央部における直径差ΔD1は、例えば0.02mm以上とされる。一方、外側継手部材1の内球面1aと保持器4の外球面4bとの軸方向両端における直径差ΔD1’は、正の値とされる。ΔD1とΔD1’との差は、例えば0.02mm以下とされる。本実施形態では、外側継手部材1の内球面1aの軸方向端部と軸方向中央部との直径差(DO-DO’)が0.01mm以下に設定され、保持器4の外球面4bの軸方向端部と軸方向中央部との直径差(DCO’-DCO)が0.01mm以下に設定される。
【0031】
保持器4の内球面4cと内側継手部材2の外球面2aとは互いに嵌合しており、この嵌合部には球面隙間が設けられる。すなわち、保持器4の内球面4cの直径は、内側継手部材2の外球面2aの直径よりも大きい。
【0032】
本実施形態では、図5に示すように、保持器4の内球面4cが、軸方向中央部に設けられた球面部4c1と、球面部4c1の軸方向両側に設けられた準球面部4c2とからなる。球面部4c1の曲率中心は、継手中心Oと一致している。準球面部4c2は、球面部4c1と滑らかに連続し、軸方向外側に行くにつれて徐々に縮径している。すなわち、準球面部4c2と、球面部4c1の曲率中心(継手中心O)との距離RCI’(図2参照)が、軸方向外側に行くほど小さくなっている。そのため、保持器4の内球面4cの軸方向両端における直径DCI’(RCI’の2倍)は、内球面4cの軸方向中央部における直径(球面部4c1の直径)DCIよりも小さい(DCI’<DCI)。
【0033】
また、本実施形態では、図5に示すように、内側継手部材2の外球面2aが軸方向中央部に設けられた球面部2a1と、球面部2a1の軸方向両側に設けられた準球面部2a2とからなる。球面部2a1の曲率中心は、継手中心Oと一致している。準球面部2a2は、球面部2a1と滑らかに連続し、軸方向外側に行くにつれて徐々に拡径している。すなわち、準球面部2a2と、球面部2a1の曲率中心(継手中心O)との距離RI’(図2参照)が、軸方向外側に行くほど大きくなっている。そのため、内側継手部材2の外球面2aの軸方向両端における直径DI’(RI’の2倍)は、外球面2aの軸方向中央部における直径(球面部2a1の直径)DIよりも大きい(DI’>DI)。
【0034】
以上のように、保持器4の内球面4cの軸方向両端における直径DCI’を軸方向中央部における直径DCIよりも小さくし(DCI’<DCI)、且つ、内側継手部材2の外球面2aの軸方向両端における直径DI’を軸方向中央部における直径DIよりも大きくする(DI’>DI)ことにより、これらの球面の軸方向両端における直径差ΔD2’(=DCI’-DI’)が軸方向中央部における直径差ΔD2(=DCI-DI)よりも小さくなる。その結果、保持器4の内球面4cと内側継手部材2の外球面2aとの嵌合部の軸方向両端における球面隙間E2’が、上記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E2よりも小さくなる(E2’<E2)。
【0035】
保持器4の内球面4cと内側継手部材2の外球面2aとの軸方向中央部における直径差ΔD2は、例えば0.02mm以上とされる。一方、保持器4の内球面4cと内側継手部材2の外球面2aとの軸方向両端における直径差ΔD2’は、正の値とされる。ΔD2とΔD2’との差は、例えば0.02mm以下とされる。本実施形態では、保持器4の内球面4cの軸方向端部と軸方向中央部との直径差(DCI-DCI’)が0.01mm以下に設定され、内側継手部材2の外球面2aの軸方向端部と軸方向中央部との直径差(DI’-DI)が0.01mm以下に設定される。
【0036】
上記のように、外側継手部材1の内球面1aと保持器4の外球面4bとの嵌合部の軸方向端部における球面隙間E1’を小さくすることで、外側継手部材1の内球面1aと保持器4の外球面4bとの嵌合部の軸方向端部における軸方向隙間L1’(図3参照)が、従来品における軸方向隙間L1(図9参照)よりも小さくなる(L1’<L1)。これにより、図4に示すように、保持器4が継手開口側(図中右側)に移動して外側継手部材1の内球面1aの継手開口側端部に当接したときの軸方向移動量(=軸方向隙間L1’)を、従来品の保持器104の軸方向移動量(=軸方向隙間L1)よりも小さくすることができる。
【0037】
また、上記のように、保持器4の内球面4cと内側継手部材2の外球面2aとの嵌合部の軸方向端部における球面隙間E2’を小さくすることで、保持器4の内球面4cと内側継手部材2の外球面2aとの嵌合部の軸方向端部における軸方向隙間L3’(図5参照)が、従来品における軸方向隙間L3(図11参照)よりも小さくなる(L3’<L3)。これにより、図6に示すように、保持器4が継手開口側(図中右側)に移動して内側継手部材2の外球面2aの継手奥側(図中左側)端部に当接したときの軸方向移動量(=軸方向隙間L3’)を、従来品の保持器104の軸方向移動量(=軸方向隙間L3)よりも小さくすることができる。
【0038】
以上のように、保持器4の軸方向移動量を抑えることにより、作動角の二等分面からのボール3のずれを抑えることができる。これにより、作動角を取ったときの両継手部材1、2の間の等速性を維持することができるため、トルクの伝達効率を高めることができる。また、ボールを常に理想の位置(作動角の二等分面上)に配することで、トルク伝達がスムーズになり、各部品の耐久性が高められる。一方、外側継手部材1の内球面1aと保持器4の外球面4bとの嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1、及び、保持器4の内球面4cと内側継手部材2の外球面2aとの嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E2は確保されるため、この隙間に十分な量の潤滑剤(グリース)を介在させることができる。これにより、外側継手部材1と保持器4との間、及び、保持器4と内側継手部材2との間の潤滑性が向上し、各部品の耐久性がさらに高められる。
【0039】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については説明を省略する。
【0040】
上記の実施形態では、互いに嵌合する外側継手部材1の内球面1a及び保持器4の外球面4bの双方に直径差を設けた場合(DO’<DO、DCO’>DCO)を示したが、これに限らず、何れか一方を単一の球面で形成しもよい。例えば、外側継手部材1の内球面1aに上記の実施形態と同様の直径差を設け、保持器4の外球面4bを単一の球面で形成してもよい(DO’<DO、DCO’=DCO)。この場合、外側継手部材1の内球面1aの軸方向中央部と軸方向両端との直径差(DO-DO’)は、例えば0.02mm以下に設定される。あるいは、保持器4の外球面4bに上記の実施形態と同様の直径差を設け、外側継手部材1の内球面1aを単一の球面で形成してもよい(DO’=DO、DCO’>DCO)。この場合、保持器4の外球面4bの軸方向中央部と軸方向両端との直径差(DCO’-DCO)は、例えば0.02mm以下に設定される。
【0041】
また、上記の実施形態では、互いに嵌合する保持器4の内球面4cと内側継手部材2の外球面2aの双方に直径差を設けた場合(DCI’<DCI、DI’>DI)を示したが、これに限らず、何れか一方を単一の球面で形成しもよい。例えば、保持器4の内球面4cに上記の実施形態と同様の直径差を設け、内側継手部材2の外球面2aを単一の球面で形成してもよい(DCI’<DCI、DI’=DI)。この場合、保持器4の内球面4cの軸方向中央部と軸方向両端との直径差(DCI-DCI’)は、例えば0.02mm以下に設定される。あるいは、内側継手部材2の外球面2aに上記の実施形態と同様の直径差を設け、保持器4の内球面4cを単一の球面で形成してもよい(DCI’=DCI、DI’>DI)。この場合、内側継手部材2の外球面2aの軸方向中央部と軸方向両端との直径差(DI’-DI)は、例えば0.02mm以下に設定される。
【0042】
また、上記の実施形態では、外側継手部材1と保持器4との嵌合部、及び、保持器4と内側継手部材2との嵌合部の双方において、軸方向両端における球面隙間を軸方向中央部における球面隙間よりも小さくした場合(E1’<E1、E2’<E2)を示したが、これに限らず、何れかの嵌合部の球面隙間を均一にしてもよい。例えば、外側継手部材1と保持器4との嵌合部の球面隙間を上記の実施形態と同様に軸方向端部側で小さくする一方で、保持器4の内球面4c及び内側継手部材2の外球面2aをそれぞれ単一の球面で形成して、これらの嵌合部の球面隙間を均一にしてもよい(E1’<E1、E2’=E2)。あるいは、保持器4と内側継手部材2との嵌合部の球面隙間を上記の実施形態と同様に軸方向端部側で小さくする一方で、外側継手部材1の内球面1a及び保持器4の外球面4bをそれぞれ単一の球面で形成して、これらの嵌合部の球面隙間を均一にしてもよい(E1’=E1、E2’<E2)。
【0043】
本発明を適用可能な固定式等速自在継手10の構成は上記に限られない。例えば、上記の実施形態では、保持器4の外球面4bの球面部4b1の曲率中心(すなわち、外側継手部材1の内球面1aの球面部1a1の曲率中心)と、保持器4の内球面4cの球面部4c1の曲率中心(すなわち、内側継手部材2の外球面2aの球面部2a1の曲率中心)とが継手中心Oと一致した場合を示したが、これに限らず、例えば、保持器4の外球面4bの球面部4b1の曲率中心と、保持器4の内球面4cの球面部4c1の曲率中心とを、継手中心Oに対して軸方向で反対側にオフセットさせてもよい。
【0044】
また、上記の実施形態では、外側継手部材1のトラック溝1bと内側継手部材2のトラック溝2bとで形成されるボールトラックが、継手開口側へ向けて開いた楔形状である場合を示したが、これとは逆に、継手奥側へ向けて開いた楔形状としてもよい。この他、アンダーカット型の等速自在継手や、クロスグルーブ型の等速自在継手に、本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0045】
1 外側継手部材
1a 内球面
1a1 球面部
1a2 準球面部
1b トラック溝
2 内側継手部材
2a 外球面
2a1 球面部
2a2 準球面部
2b トラック溝
3 ボール
4 保持器
4a ポケット
4b 外球面
4b1 球面部
4b2 準球面部
4c 内球面
4c1 球面部
4c2 準球面部
10 固定式等速自在継手
O 継手中心
【要約】
【課題】保持器の軸方向移動量を抑えて、両継手部材の等速性を維持すると共に、各部品の耐久性を高める。
【解決手段】外側継手部材1の内球面1aと保持器4の外球面4bとの嵌合部の軸方向両端における球面隙間E1’を、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1よりも小さくする。
【選択図】図3
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