(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】コイル状結合線路ハイブリッドカプラ
(51)【国際特許分類】
H10N 60/12 20230101AFI20230313BHJP
H01P 5/22 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
H10N60/12 Z
H01P5/22 Z
(21)【出願番号】P 2021530236
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(86)【国際出願番号】 US2019058793
(87)【国際公開番号】W WO2020162995
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-05-27
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520128820
【氏名又は名称】ノースロップ グラマン システムズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ストロング、ジョシュア エイ.
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0201224(US,A1)
【文献】米国特許第09722589(US,B1)
【文献】米国特許第10133299(US,B1)
【文献】特開2004-072115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/12
H01P 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導チップであって、
グランドプレーンと、
コイル状結合線路ハイブリッドカプラと
を備え、前記
コイル状結合線路ハイブリッドカプラは、
マイクロ波オブジェクトからの入力信号を受信するように構成された第1のポートと、
第2のポートおよび第3のポートであって、
前記第2のポートと前記第3のポートとの間で前記入力信号の電力
を約90°の位相分離で分割
するように構成された、第2のポートおよび第3のポートと、
前記第1のポートと
前記第2のポートとを電気的に接続するプライマリ伝送線路であって、互いに直列な少なくとも2つの二平面コイルにおいてコイル状に巻かれているプライマリ伝送線路と、
前記
第3のポートと電気的に接続されるとともに、前記プライマリ伝送線路とは電気的に接続されていないコイル状
のセカンダリ伝送線路と
を含み、前記セカンダリ伝送線路は、前記少なくとも2つの二平面コイルにおいてコイル状に巻かれており、前記少なくとも2つの
二平面コイルを含む結合長にわたって少なくとも1つの平面次元で、前記プライマリ伝送線路から結合距離だけほぼ均等に離間されており、それによって前記セカンダリ伝送線路は、前記プライマリ伝送線路に容量的および誘導的に結合されており、
前記少なくとも2つの
二平面コイルの各々の結合長の少なくとも一部にわたって、前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路のうちの一方は、一方の伝送線路の横断面から視て
、3つの側面が前記伝送線路のうちの他方に囲まれ、かつ前記伝送線路のうちの他方から実質的に
前記結合距離にあり、
前記
少なくとも2つの二平面コイルは、前記横断面から視て、前記グランドプレーンから約100ナノメートル~約500ナノメートル離れており、
前記結合距離は、前記
コイル状結合線路ハイブリッドカプラの奇数モードインピーダンスが約15オーム~約25オームであり、
前記コイル状結合線路ハイブリッドカプラの偶数モードインピーダンスが約100オーム~約140オームであるように選択されている、チップ。
【請求項2】
少なくとも2つのセルの直列アレイを備え、各セルは、前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路の各々の一部を含み、前記少なくとも2つのセルのうちの第1のセルは、前記少なくとも2つの
二平面コイルを含み、前記少なくとも2つのセルのうちの他の各セルは、前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路の少なくとも2つの追加のコイルを含む、請求項1に記載のチップ。
【請求項3】
少なくとも10個
のセルの接続された直列アレイを備え、
各セルは、前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路の各々の一部を含み、前記少なくとも10個のセルのうちの第1のセルは、前記少なくとも2つの二平面コイルを含み、前記少なくとも10個のセルのうちの他の各々は、前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路の少なくとも2つの
追加のコイルを含み、
前記少なくとも10個のセルの各々の各コイルは、直径が10~20マイクロメートルである、請求項
1に記載のチップ。
【請求項4】
前記
コイル状結合線路ハイブリッドカプラおよびRQLクロックネットワークを含むレシプロカル量子論理(RQL)回路を備え、前記
コイル状結合線路ハイブリッドカプラは、前記RQLクロックネットワークの同相および直交位相共振器をそれぞれ前記
コイル状結合線路ハイブリッドカプラの両端で前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路のうちの異なる1つに接続することによって前記RQLクロックネットワークに対して90°だけ位相が分離された信号を提供するように構成されている、請求項2に記載のチップ。
【請求項5】
前記
コイル状結合線路ハイブリッドカプラは、所定の周波数帯域にわたって約±0.5dBの電力公差および約±1°の位相公差を備えるオクターブ帯域幅を有する、請求項2に記載のチップ。
【請求項6】
前記少なくとも2つのセルの各々において、前
記少なくとも2つの
二平面コイル
または前記少なくとも2つの追加のコイルは実質的に同じ直径であり、前
記少なくとも2つの
二平面コイル
または前記少なくとも2つの追加のコイルのうちの第2のコイルは、少なくとも2つの平面次元で、前
記少なくとも2つの
二平面コイル
または前記少なくとも2つの追加のコイルのうちの第1のコイルから、約1つのコイル直径だけ変位している、請求項2に記載のチップ。
【請求項7】
各セルの前
記少なくとも2つの
二平面コイル
または前記少なくとも2つの追加のコイルは、少なくとも2つの異なる平面上に配置された前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路の平面状の実質的に正方形の螺旋トレースを含む、請求項6に記載のチップ。
【請求項8】
各セルにおいて、2つの接地されたビア壁をさらに備え、前
記少なくとも2つの
二平面コイル
または前記少なくとも2つの追加のコイルのうちの第1のコイルは、少なくとも3つの側面が前記ビア壁のうちの第1のビア壁によって囲まれ、第4の側面が前記ビア壁のうちの第2のビア壁によって囲まれ、前
記少なくとも2つの
二平面コイル
または前記少なくとも2つの追加のコイルのうちの第2のコイルは、少なくとも3つの側面が
前記ビア壁のうちの前記第2のビア壁によって囲まれ、第4の側面が
前記ビア壁のうちの前記第1のビア壁によって囲まれている、請求項7に記載のチップ。
【請求項9】
前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路は、2つの別個の平面上に実質的に平面状のトレースを含み、各コイルにおいて、前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路の前記トレースは、ハーフコイル横断面で視た場合に、それぞれ前記結合距離以下の水平距離および垂直距離だけ分離されている、請求項1に記載のチップ。
【請求項10】
前記ハーフコイル横断面における前記トレースの少なくとも8つの断面
を有し、前記トレースの断面のうちの少なくとも4つは、それぞれ、前記ハーフコイル横断面で視た場合に、逆の伝送線路の3つの他の隣接するトレースから前記結合距離内にある、請求項9に記載のチップ。
【請求項11】
チップ上にコイル状結合線路ハイブリッドカプラを製造する方法であって、
伝送線路トレースによって形成される前記コイル状結合線路ハイブリッドカプラのコモンモードおよびディファレンシャルモードのインピーダンスを、
100オーム~140オームの所定のコモンモードインピーダンスおよび
15オーム~25オームの所定の
ディファレンシャルモードインピーダンスに調整するために選択された1つまたは複数の実質的に均一な間隔で前記チップ上に互いに離間された容量的および誘導的に結合された伝送線路トレースを製造すること、
前記コイル状結合線路ハイブリッドカプラを複数の連続的に配置されたセルとして前記チップ上に製造すること
を含み、各セルは、前記
伝送線路トレースの1つまたは複数のコイルを含み、前記セルの数は、前記コイル状結合線路ハイブリッドカプラの最大結合周波数を所定の周波数に設定するように選択されて
おり、前記1つまたは複数のコイルは、100ナノメートル~500ナノメートルの分離距離だけグランドプレーンから離間するように製造される、方法。
【請求項12】
前記コモンモードのインピーダンスおよび前記ディファレンシャルモードのインピーダンスを調整するために選択された間隔で前記
伝送線路トレースから離間された接地されたビア壁をチップ上に製造することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
チップ上の前記コイル状結合線路ハイブリッドカプラは、超伝導金属で作られたマイクロストリップ伝送線路を用いて製造されている、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記セルの数は、10より大きくなるように選択されている、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
各セル内の各コイルは、直径が10~20マイクロメートルである、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して超伝導回路に関し、特にコイル状結合線路ハイブリッドカプラに関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピューティングの最先端技術は、室温よりも十分に低い、例えば約4ケルビン未満、いくつかの例では約0.1ケルビン未満で動作する超伝導回路に依存している。キュービット(量子コンピュータの論理オブジェクトとして機能する)と他の量子オブジェクトとの間の接続性および局所性が制限されていると、量子コンピュータが解決できる問題の数および種類が制限される可能性がある。受動伝送線路およびカプラは、量子オブジェクト間の接続性と、量子コンピューティングチップ上のそのようなオブジェクト間の許容距離とを増やすために使用できるデバイスの1つである。
【発明の概要】
【0003】
一例は、チップ上の超伝導コイル状結合線路ハイブリッドカプラを含む。カプラは、マイクロ波オブジェクトからの入力信号を受信するように構成された第1のポートと、2つの他のポートとを含み、2つの他のポートの間で入力信号の電力が約90°の相分離で分割される。カプラのプライマリ伝送線路は、第1のポートと2つの他のポートのうちの一方を電気的に(galvanically)接続する。プライマリ線路は、互いに直列な少なくとも2つのコイルにおいてコイル状に巻かれている。カプラのコイル状セカンダリ伝送線路は、プライマリ線路ではなく、2つの他のポートのうちの他方と電気的に接続している。セカンダリ線路は、少なくとも2つのコイルにおいてコイル状に巻かれており、少なくとも2つのコイルを含む結合長にわたって、少なくとも1つの平面次元でプライマリ線路からほぼ均等に離間されている。カプラは、グランドプレーンをさらに含む。少なくとも2つのコイルの各々の結合長の少なくとも一部にわたって、プライマリ伝送線路およびセカンダリ伝送線路のうちの一方は、一方の伝送線路の横断面から視て、少なくとも3つの側面が伝送線路のうちの他方に囲まれ、かつ伝送線路のうちの他方から結合距離内にある。
【0004】
別の例は方法を含み、ここでは、容量的および誘導的に結合された伝送線路トレース間の間隔が、コイル状結合線路ハイブリッドカプラのコモンモードインピーダンス(偶数モードインピーダンスとも呼ばれる)およびディファレンシャルモードインピーダンス(奇数モードインピーダンスとも呼ばれる)のインピーダンスを調整するために選択され、コイル状結合線路ハイブリッドカプラ内の直列に配置されたセルの数(各セルは、1つまたは複数の伝送線路コイルを含む)が、コイル状結合線路ハイブリッドカプラの最大結合周波数を設定するために選択される。コイル状結合線路ハイブリッドカプラは、次いで選択された伝送線路間隔および直列に配置されたセルの選択された数に基づいてチップ上に製造される。したがって、調整されたコモンモードインピーダンスおよびディファレンシャルモードインピーダンスは、それぞれ、所定のコモンモードインピーダンスおよび所定の奇数モードインピーダンスに設定することができ、したがって、コイル状結合線路ハイブリッドカプラの最大結合周波数は、所定の周波数に設定することができる。したがって、これらのインピーダンスおよびこの最大結合周波数は、特定のカプラアプリケーションの設計/製造時にカスタマイズすることができる。
【0005】
さらに別の例は、コイル状結合線路ハイブリッドカプラセルを含む。セルは、超伝導プライマリ伝送線路およびセカンダリ伝送線路を含む。プライマリ線路は、第1の平面上の平面螺旋形状の入力および出力プライマリトレースと、第1の平面の上方または下方の第2の平面上の、2つの接続された螺旋として形成された平面状キャリーオーバープライマリトレースを含む。キャリーオーバープライマリトレースの螺旋は、反対方向に巻回され、かつ2つの平面次元で互いに変位している。プライマリ線路のトレースは、プライマリ入力トレースおよびプライマリ出力トレースを接続するプライマリキャリーオーバートレースと直列に電気的に接続されている。セカンダリ線路は、第1の平面上の平面螺旋形状の入力および出力セカンダリトレースと、第2の平面上の、2つの接続された螺旋として形成された平面状キャリーオーバーセカンダリトレースとを含む。キャリーオーバーセカンダリトレースの螺旋は、反対方向に巻回され、かつ2つの平面次元で互いに変位している。セカンダリ線路のトレースは、セカンダリ入力トレースおよびセカンダリ出力トレースを接続するセカンダリキャリーオーバートレースと直列に電気的に接続されている。セルは、連続的にカプラセルに隣接して配置された場合に、同一のハイブリッドカプラセルの対応するポートに接続するように構成されたプライマリ線路およびセカンダリ線路の各々の入力および出力ポートをさらに含む。トレースは、プライマリ伝送線路とセカンダリ伝送線路との間に誘導性および容量性結合を提供する2つのコイルを形成する。
【0006】
さらに別の例は、前の段落で述べたようなセルを含むカプラを有するレシプロカル量子論理(RQL)と、RQLクロックネットワークとを含む。カプラは、RQLクロックネットワークの同相(「I」)および直交位相(「Q」)共振器をそれぞれカプラの両端でカプラの異なる伝送線路に接続することによって、RQLクロックネットワークに対して90°だけ位相が分離された信号を提供するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】コイル状結合線路ハイブリッドカプラを備えた例示的な超伝導システムのブロック図である。
【
図2】例示的なコイル状結合線路ハイブリッドカプラのブロック図である。
【
図3】例示的なコイル状結合線路ハイブリッドカプラセルのブロック図である。
【
図4】例示的なコイル状結合線路ハイブリッドカプラセルの斜視図である。
【
図5】
図4のコイルの半分のトレースおよびグランドプレーンの断面図である。
【
図6】下側平面伝送線路トレースを示すために上側平面伝送線路トレースが除去された例示的なコイル状結合線路ハイブリッドカプラセルの斜視図である。
【
図7】カプラセルの連続チェーンからなる例示的なコイル状結合線路ハイブリッドカプラの一部の平面図である。
【
図8】下側平面伝送線路トレースを示すために上側平面伝送線路トレースが除去された例示的なコイル状結合線路ハイブリッドカプラの一部の平面図である。
【
図9】複数のセルからなるコイル状結合線路ハイブリッドカプラのシミュレーション概略図である。
【
図10】
図9の回路の結合強度性能を周波数範囲で示すグラフである。
【
図11】
図9の回路の位相分離性能を同じ周波数範囲で示すグラフである。
【
図12】
図4に示されるようなハイブリッドカプラセルの偶数および奇数モードインピーダンス差を示すグラフである。
【
図13】コイル状結合線路ハイブリッドカプラを設計する例示的な方法のフロー図である。
【
図14】コイル状結合線路ハイブリッドカプラを製造する例示的な方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、概して、オンチップコイル状結合線路90°ハイブリッドカプラ、そのようなカプラを構成することができるコイル状伝送線路のセル、およびそのようなカプラを組み込んだ超伝導回路およびシステムに関する。開示されたカプラデバイスは、入力されるマイクロ波信号を、等しい電力の互いに(例えば90°だけ)位相分離された2つの出力信号に分割することができる。本明細書に開示されるオンチップコイル状結合線路ハイブリッドカプラは、レシプロカル量子論理(reciprocal quantum logic:RQL)システムのためのクロック分配ネットワーク、ならびにジョセフソンベースの位相シフタおよびベクトル変調器などの超伝導電子回路に組み込むことができる。
【0009】
ハイブリッドカプラは、伝送線路内の定義された量の電磁力を1つまたは複数のポートに結合し、入力信号を別の回路で使用できるようにするデバイスである。ハイブリッドカプラは、例えば、入力信号からの電力を2つの出力ポート間で均等に分割するために使用できる。結果として得られる2つの出力信号は、ほぼ等しい振幅であり、互いに対して、例えば約90°の位相差を有することができる。実際には、振幅および位相差は、カプラの動作周波数範囲にわたって、ある程度の公差を有することができる。結合線路ハイブリッドカプラは、一対の結合伝送線路、すなわち、入力ポートに接続された駆動される線路である主(または「プライマリ」)線路と、例えば抵抗器でグランドにその入力で終端することができる結合(または「セカンダリ」)線路とを含む。主線路および結合線路は、ガルバニック接触してはいないが、2つの線路が誘導的および容量的に結合されるように互いに近接して配置され、結合線路の電力が主線路の電力とは逆方向に流れるように構成されている。
【0010】
結合線路ハイブリッドカプラの伝送線路は、例えばマイクロストリップを使用して製造することができる。マイクロストリップは、基板として知られる誘電体層によってグランドプレーンから分離された導電性ストリップで構成される平面電気的伝送線路であり、マイクロ波周波数信号を伝送でき、既存の技術を使用して製造できる。
【0011】
いくつかの結合線路ハイブリッドカプラでは、結合伝送線路は直線状である。十分な結合を実現するために、このような直線配置は、結合された伝送線路の互いの距離よりもはるかに遠く離れた、例えば少なくとも4倍離れたグランドプレーンを必要とする。したがって、直線ハイブリッドカプラは、チップ上に実装するための実際的な問題として、しばしば利用可能でない誘電体の厚さを必要とする。本明細書に開示されるコイル状結合線路ハイブリッドカプラは、超伝導領域で動作するように設計および構成されているため、非実用的に厚い誘電体層を必要とせずに、より高い結合強度をもたらすことができるコイル状配置を利用することができる。このような超伝導動作およびそのための構成がないと、必要とされる細い線幅では電力損失が大きすぎて、カプラの効果を得ることができない。例えば、銅で実装された伝送線路は、本明細書で開示されるタイプのコイル状結合線路ハイブリッドカプラを実装するには損失が大きすぎるであろう。
【0012】
従来の結合線路ハイブリッドカプラは2つの直線結合伝送線路を使用するが、本出願は、2つの結合線路を一連の密なコイルとなるように巻いて、より少ないスペースでより強い結合を提供するカプラを開示する。コイルは、2つの異なるほぼ平行な面上に存在する接続された平面トレースで構成されていることを意味する、二平面(biplanar)コイルであってもよい。例えば、平行な伝送線路トレースがコイル中心に向かって内側に螺旋状に巻かれ、そこで両方のトレースが面内に切り替えを有し、次いで、それらが巻かれたのと同じ回転方向に巻き戻されるという、コイルが巻かれる特定の方法のために、プライマリ線路は、その上方のセカンダリ線路に結合され得ると共に、両側に結合され得る。同様に、セカンダリ線路は、従来の直線状カプラのように、1つだけではなく、3つの側面でプライマリ線路に結合できる。コイル状線路の幅および間隔、ならびに線路と接地されたビア壁との間の間隔は、カプラのコモン(すなわち偶数)モードおよびディファレンシャル(すなわち奇数)モードのインピーダンスを正確に決定し、各コイル状結合線路ハイブリッドカプラの応答を、カプラの特定の用途に合わせて製造中に調整することを可能にする。これにより、開示された構成は、従来の直線状カプラ設計よりも動作パラメータのより細かい制御を提供する。
【0013】
2つの伝送線路の単一コイルは、必要なインピーダンスを有するように調整できるが、通常、対象となる周波数帯域(例えば、約5~20ギガヘルツ)のためのハイブリッドカプラとして機能するのに十分なだけ長くはない。したがって、コイル状結合線路ハイブリッドカプラは、各セルに1つまたは複数の伝送線路コイルを有するセルの直列アレイとして実装することができる。個々のコイルまたは個々のセルは、AnsysのHFSS(高周波構造シミュレータ)またはKeysight TechnologiesのFEM Elementなどの電磁構造のための商用有限要素法ソルバーで効率的にシミュレーションされて、それらのコモンモード(すなわち偶数モード)およびディファレンシャルモード(すなわち奇数モード)インピーダンスを計算することができる。単一コイルまたは単一セルのSパラメータは、有限要素法ソルバー(例えばHFSS)から、Keysight TechnologiesのAdvanced Design System(ADS)などのマイクロ波アプリケーションのための電子設計自動化ソフトウェアにエクスポートされて、コイルまたはセルの連続アレイの応答を計算し、したがって、ハイブリッド構造(すなわち、コイルまたはセルの直列アレイ)全体の応答をシミュレートすることができる。このようなシミュレーションにより、本明細書に記載されているタイプのコイル状結合線路ハイブリッドカプラは、対象となる広い周波数帯域において、約±0.5dBの電力公差および約±1°の位相公差を備えたオクターブ帯域幅で実現できることが示されている。
【0014】
図1は、コイル状結合線路ハイブリッドカプラ102および3つのマイクロ波オブジェクト104,106,108を有する例示的な超伝導システム100を示している。例として、システム100は、量子コンピュータ、RQLシステムまたは回路、位相シフタ、またはRQLクロックネットワークのための駆動回路であってよい。システム100は、成膜およびエッチングなどの超伝導回路製造技術を使用してチップ上に製造することができる。第1のマイクロ波オブジェクト104から第1のポート110(入力ポートと見なすことができる)を介してカプラ102に提供される入力信号電力は、それぞれ第2のマイクロ波オブジェクト106および第3のマイクロ波オブジェクト108へのポート112,114を介した出力間でほぼ均等に分割される。「ほぼ均等に」とは、本明細書で説明するように、対象とする周波数範囲にわたって、例えば、±1dB、例えば、±0.5dB%など、ある程度の誤差公差が存在する可能性があることを意味する。カプラ102は、2つの伝送線路、主線路とも呼ばれるコイル状プライマリ線路116、および結合線路とも呼ばれるコイル状セカンダリ線路118を含む。カプラ102は、グランドプレーン120も含む。
【0015】
伝送線路116,118は、それらが互いにガルバニック接触しないように配置されるが、機能的に重要な容量性および誘導性結合を提供するように、本明細書では結合長(coupling length)と呼ばれる、それぞれの長さの十分な部分に沿って、十分に接近して配置されている。伝送線路116,118は、直線状の平行線路ではなく、一緒にコイル状に形成されている。伝送線路116,118は、実質的に平面状に製造することができ、例えば、マイクロストリップ線路として製造することができ、および/または超伝導金属、例えば、ニオブまたはアルミニウムで製造することができる。伝送線路116,118は、例えば、それぞれ、断面幅が100ナノメートルから10マイクロメートルの間、例えば、幅が500ナノメートルから3.5マイクロメートルの間、例えば、幅が900ナノメートルから2マイクロメートルの間、例えば、幅が約1マイクロメートルであってよい。伝送線路116,118は、結合長にわたって、100ナノメートルから10マイクロメートルの間、例えば、200ナノメートルから1マイクロメートルの間、例えば、250ナノメートルから500ナノメートルの間、例えば、約300ナノメートルの距離で、互いに離間するように配置することができる。伝送線路間のこの間隔は、本明細書では結合距離(coupling distance)と呼ばれ、この結合距離は、製造公差、コイルのコーナー曲がりなどの結果として、結合長にわたってわずかに変化し得ることが理解されるだろうが、少なくともいくつかの例では、結合長全体にわたって実質的に均一であってよく、すなわち、任意の偏差が結合の機能および性能パラメータに認識できる影響をあたえないように、例えば、結合長にわたる結合距離の不均一性によってカプラ102の性能パラメータが10%を超える、例えば5%を超える影響を受けないように、十分に均一であってよい。結合距離は、例えば、伝送線路とグランドプレーンとの間の距離のオーダーとすることができ、この距離は、本明細書では、グランドプレーン分離距離と呼ばれる。いくつかの例では、グランドプレーン分離距離は、約100ナノメートルから約500ナノメートルの間、例えば、約200ナノメートルである。
【0016】
図2は、
図1の超伝導システム100のカプラ102に対応し得る例示的なコイル状結合線路ハイブリッドカプラ200を示す。カプラ200は、N個の複数のセル202から204を含み、各セルは、ハイブリッドカプラの主伝送線路210のコイル状部分および結合伝送線路212のコイル状部分を含む。2つの伝送線路は、各セル全体にわたって、およびセル間で、実質的に均一な結合距離を維持することができる。カプラ200は、3つのポート206,208,214を有することができる。入力信号は、カプラ入力ポート206を介して第1のセル202に提供され、出力信号は、カプラ出力ポート208,214から送出され得る。示されるように、第1のカプラ出力ポート214は、N番目のセル204に接続され、第2のカプラ出力ポート208は、第1のセル202に接続され得る。したがって、ポート206,214,208は、
図1に示されるポート110,112,114にそれぞれ対応することができる。カプラ200の中央に描かれた省略記号は、カプラが、連続的に配置された2つ以上の任意の整数個のセルを有することができることを示している。各セルは、伝送線路210,212の直線的な経路によって次のセルに接続され得る。例えば、カプラ200は、10個を超えるセル、例えば、15個のセルを有することができる。各セル202から204は、他のセルと実質的に同じ構成および構造を有することができる。カプラ200内の各セル202から204は、1つまたは複数の伝送線路コイルを含むことができる。例えば、各セル202から204は、2つのコイルを含むことができる。カプラ200は、図には示されていない第4のポートを有することもでき、これは、例えばグランドへの抵抗で適切に終端することができ、または、いくつかのアプリケーションでは出力ポートとして使用することができる。
【0017】
図3は、
図2のカプラ200内のセル202から204のうちのいずれかに対応し得る例示的なコイル状結合線路ハイブリッドカプラセル300を示す。セル300内の第1のコイル状伝送線路は、実質的に平面状の入力プライマリトレース302、実質的に平面状のキャリーオーバープライマリトレース304、および実質的に平面状の出力プライマリトレース306によって構成することができる。実質的に平面状のトレース302,304,306は、異なる平面上に存在するように製造することができる。例えば、入力プライマリトレース302および出力プライマリトレース306は、第1の平面上に存在することができ、一方、キャリーオーバープライマリトレース304は、第2の平面上に存在することができる。
図3においてそれらを結ぶ線によって示されるように、入力プライマリトレース302は、例えば、複数の平面にまたがるコンタクトパッドにおいて、キャリーオーバープライマリトレース304に電気的に(galvanically)接触することができる。同様に、キャリーオーバープライマリトレース304は、例えば、複数の平面にまたがるコンタクトパッドにおいて、出力プライマリトレース306に電気的に接触することができる。キャリーオーバートレース304,310は、各々がそれぞれの入力トレースをそれぞれの出力トレースに電気的に接続し、そうでなければ電気的に接続されないので、本明細書ではそのように名付けられている。
【0018】
セル300内の第2のコイル状伝送線路は、実質的に平面状の入力セカンダリトレース308、実質的に平面状のキャリーオーバーセカンダリトレース310、および実質的に平面状の出力セカンダリトレース312によって構成することができる。トレース302,304,306と同様に、実質的に平面状のトレース308,310,312も、異なる平面上に存在するように製造することができる。例えば、入力セカンダリトレース308および出力セカンダリトレース312は、1つの平面、例えば、前述の第1の平面上に存在することができ、一方、キャリーオーバーセカンダリトレース310は、別の平面、例えば、前述の第2の平面上に存在することができる。
図3においてそれらを結ぶ線によって示されるように、入力セカンダリトレース308は、例えば、複数の平面にまたがるコンタクトパッドにおいて、キャリーオーバーセカンダリトレース310に電気的に接触することができる。同様に、キャリーオーバーセカンダリトレース310は、例えば、複数の平面にまたがるコンタクトパッドにおいて、出力セカンダリトレース312に電気的に接触することができる。
【0019】
トレース302,304,306,308,310,312の各々は、実質的に螺旋形状であってよく、そのような螺旋は、平面視で視た場合に、例として、円形、楕円形、三角形、正方形、長方形、五角形、六角形、七角形、八角形、九角形、または十角形であってよい各螺旋は、1つまたは複数の巻き(turn)、例えば2巻きを有することができ、1巻きは、(平面視で)螺旋の周りの完全な1回転ととして定義され、(例えば、螺旋またはコイルの「コーナー」における)トレースの長手方向の単なる変化ではない。
【0020】
第2の平面は、第1の平面の上方または下方にあり、トレースのコイルは、セル300のキャリーオーバープライマリトレース304が、上または下にある入力または出力セカンダリトレース308,312の配置(alignment)を実質的に追跡するように、そして同様に、キャリーオーバーセカンダリトレース310が、上または下にある入力または出力プライマリトレース302,306の配置を実質的に追跡するように構成され得る。ここで「配置を実質的に追跡する」とは、製造上のわずかな変動だけでなく、
図4および
図6に関して明らかになるように、コイルのトポロジーによって必要とされる任意の交差に対しても許容範囲が設けられることを意味する。2つのキャリーオーバートレース304,310は、例えばセル内の2つのコイル間の、セル300内の結合長の一部について、セル300内において、コイル状ではなく、直線状であり、互いに実質的に平行であり得る。
【0021】
セル300は、他のセルおよび/または入力/出力ポートおよび/または終端との接続性を有するように構成することができる。
図3のセル300の左右の水平コネクタ線によって示されるように、入力プライマリトレース302は、隣接セルの出力プライマリトレースに接続され、出力プライマリトレース306は、隣接セルの入力プライマリトレースに接続され、入力セカンダリトレース308は、隣接セルの出力セカンダリトレースに接続され、出力セカンダリトレース312は、隣接セルの入力セカンダリトレースに接続されることができる。代替的に、セルが、セルの連続チェーンの最初または最後である場合、必要に応じて、対応する入力または出力ポートまたは終端に接続されてもよい。セル300は、トレースのエッジを覆うことができるビア壁314,316を含むように製造することもできる。ビア壁は接地することができ、各々が2つの伝送線路の周りに組み立てられた壁で構成され、カプラの外側の回路に対してシールドを提供する。ビア壁はまた、コイルの外縁に沿った線路に追加の容量を提供する。ビア壁は、例えば、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、または伝送線路の製造に使用されるのと同じ超伝導金属で形成することができる。
【0022】
セル300のトレースは、1つまたは複数の螺旋として構成されて、複数のコイルを形成することができ、例えば、セルごとに2つのコイルとして形成され得る。コイルは、トレースが実質的に直線を有さず、鋭い(例えば、直角の)角度または経路の不連続性を有さないように、形状を丸くすることができる。しかしながら、製造を容易にするために、コイルは、ある角度、例えば直角に曲がる直線経路のトレースセグメントから構成することができる。したがって、異なる例では、平面視(すなわち、「上方」から)で視た場合、コイルは、実質的に円形、楕円形、三角形、長方形、正方形、五角形、六角形、七角形、八角形、九角形、十角形などであり得る。本明細書では、すべての螺旋またはコイルの形状および構成を示し、または説明することは不可能であるが、直角のトレースターンを有する
図4および
図6に示される実質的に正方形のコイルの例の設計は、他のトポロジーパラメータの中でも、角度、トレースセグメントの長さ、トレース螺旋のセグメントの数、螺旋の巻き数、コイルの層の数、トレースの幅および厚さなどを変更することによって、他の形状および構成に拡張することができる。
【0023】
コイルまたはセルは、任意の1つのコイルまたはセル内の伝送線路の総距離が、波長のごく一部、例えば、波長の半分未満、例えば、波長の4分の1未満、例えば、0.1波長未満となるように設計することができる。一般に、コイルの巻き数または絶対サイズのいずれかが大きいほど、コイルの効果が低下し、この理由の一部は、多くの巻き(例えば、2巻き以上)のコイルが、線路の長さ方向に非常に離れた部分の間である程度の望ましくない結合が発生するためであり、理由の一部は、コイルが大きくなると、螺旋が大きくなり、螺旋の外周部で伝送線路対が長くなって、実質的に平行線路カプラの結合に近づくためである。その結果、直列化されたより小さなコイルの性能は、単一のより大きなコイルの性能よりも優れていることが示されている。
【0024】
図4は、
図3に概略的に示されたセル300に対応し得る例示的なコイル状結合線路ハイブリッドカプラセル400を示す。図示のセル400は、2つのコイル402,404を有する。スケールのインジケータは、
図4の下部近くに示されている。各コイルは、例えば、直径が1マイクロメートルから50マイクロメートルの間、例えば、直径が10マイクロメートルから20マイクロメートルの間、例えば、直径が約14マイクロメートルであってよい。コイルの平面サイズは、伝送線路の幅および結合距離、およびコイルの巻き数に依存し、これらは、本明細書で説明するように、異なる性能特性を有するカプラを作成するための調整可能なパラメータである。各コイルは、2つの伝送線路を含むことができ、実質的に平面状に製造することができ、例えば、マイクロストリップ線路として製造することができ、および/または超伝導金属、例えば、ニオブまたはアルミニウムで製造することができる複数の導電性トレースから構成することができる。各伝送線路は、異なる平面上にある複数の電気的に接続されたトレースを備えることができる。
【0025】
図4のセル400において、第1のコイル402は、例えば、下側平面上の第1のトレース406と、下側平面上の第2のトレース408と、下側平面の上方にほぼ結合距離となるように製造され得る、上側平面上の第3のトレース410と、上側平面上の第4のトレース412とから構成することができる。第1のトレース406は、
図3の入力プライマリトレース302に対応し得る。第2のトレース408は、
図3の出力セカンダリトレース312に対応し得る。第3のトレース410は、
図3のキャリーオーバープライマリトレース304に対応し得る。第4のトレース412は、
図3のキャリーオーバーセカンダリトレース310に対応し得る。同様に、
図4のセル400において、第2のコイル404は、上側平面上の第3のトレース410および第4のトレース412と、それぞれ
図3の出力プライマリトレース306および入力セカンダリトレース308に対応し得る下側平面上の第5のトレース414および第6のトレース416とから構成することができる。セル400は、例えば、実質的に均一な距離だけ、コイル402,404を取り囲むビア壁418,420を有することができる。ビア壁は接地することができ、各々が2つの伝送線路の周りに組み立てられた壁で構成され、カプラの外側の回路に対してシールドを提供する。ビア壁はまた、コイルの外縁に沿った線路に追加の容量を提供する。
【0026】
上側平面トレースは、接続点またはコンタクトパッド422,424において下側平面トレースに電気的に接続することができ、接続点またはコンタクトパッド422,424は、接続点またはコンタクトパッドが複数の平面にまたがるように、コイル402,404の中心の指定された点でトレースを厚くすることによって形成することができ、したがって、そうでなければほぼ平行であり得る別個の平面上にあるトレースを電気的に接続することができる。「ほぼ平行」とは、平面が、製造上のわずかな偏差に対してある程度許容される誤差で平行であることを意味する。
図4では、8つのそのような厚い部分が、4つのコンタクトパッドを形成し、そのうちの2つだけが
図4において符号を付されている。その結果、トレース406,410,414は、すべて電気的に統合されて第1のコイル状伝送線路を形成し、一方、トレース408,412,416は、すべて電気的に統合されて第1の伝送線路に誘導的および容量的に結合される第2のコイル状伝送線路を形成する。したがって、いくつかの例では、トレース406,410,414で構成される第1の伝送線路は、
図1のプライマリ線路116に対応することができ、トレース408,412,414で構成される第2の伝送線路は、
図1のセカンダリ線路118に対応することができ、または他の例では、その逆であってよい。トレース、したがってそれらが構成する2つの伝送線路は、一緒にコイル状に巻かれている。
【0027】
図4に示されるように、入力トレース406は、コンタクトパッド422でその上側平面キャリーオーバートレース410と電気的に結合するまで、コイル402の下側平面上で時計回り方向にコイル状に巻かれている。次に、キャリーオーバートレース410は、コイル402の上側平面上で、まだ時計回り方向に巻き戻され、コイル404の上側平面上で、今度は反時計回り方向に、それが下側平面出力トレース414と電気的に結合するまで、再びコイル状に巻かれ、下側平面出力トレース414は、コイル404の下側平面上で反時計回りに巻き戻し続ける。したがって、1つの伝送線路(例えば、セル400のプライマリ伝送線路)が形成される。
図4を右から左に見ると、入力トレース416は、それ自体の接続パッド(符号なし)でその上側平面キャリーオーバートレース412と電気的に結合するまで、コイル404の下側平面上で時計回り方向にコイル状に巻かれている。次に、キャリーオーバートレース412は、コイル404の上側平面上で、まだ時計回り方向に巻き戻され、コイル402の上側平面上で、今度は反時計回り方向に、それが下側平面出力トレース408と電気的に結合するまで、再びコイル状に巻かれ、下側平面出力トレース408は、コイル402の下側平面上で反時計回りに巻き戻し続ける。したがって、別の伝送線路(例えば、セル400のセカンダリ伝送線路)が形成される。
図4の例示的なセル400の各コイル402,404は、約2巻きを有しているが、他の例は、より多いまたはより少ない巻き数を有することができる。(螺旋配置の定義を満たすには、少なくとも完全な1巻き以上が必要とされる。)図示のセル設計400を考慮して、コイルは、各トレースが、トレースのいずれかの側にある他の伝送線路のトレースへの結合距離内にあり、かつ結合長の大部分についてトレースの上方または下方にあるように設計され得る。対照的に、並列線路カプラでは、各伝送線路は、片側だけで他の伝送線路に結合される。
【0028】
複数のコイルを有するセルでは、コイルは、コイルが製造されるチップの平面に沿って二次元で互いに空間的に変位させることができる。したがって、
図4の例示的なセル400では、第2のコイル404は、第1の次元において、いずれかのコイル(2つのコイル402,404は、図示の例では同じサイズである)の直径、例えば10%以内、例えば5%以内だけ第1のコイル402から変位し、第2の次元において、いずれかのコイルの直径、例えば10%以内、例えば5%以内だけ第1のコイル402から変位している。相対変位は、例えば、コイルの中心から測定することができる。
【0029】
図5は、トレースのハーフコイル横断面500、すなわち、
図400からのコイル402などの例示的な伝送線路コイルの半分における横断面を示している。伝送線路の横断面を通る図示の断面500において、すなわち、伝送線路の接線長手方向軸に垂直な平面(長手方向軸は、電流の方向と一致するか、または逆であるかのいずれかである)において、各コイルの各巻きは、各平面上に各伝送線路から1つずつ、合計でトレースの8つの断面を形成する2つのトレースを有していることが分かる。異なる伝送線路のトレースは、水平結合距離502だけ、および水平結合距離502とほぼ等しいか、わずかに小さい垂直距離504だけ分離されていることも確認できる。各トレースは、例えば、約1マイクロメートルの断面幅506を有することができる。結合距離502,504は、例えば、伝送線路とグランドプレーン510との間のグランドプレーン分離距離508のオーダーであってよい。グランドプレーン分離距離508は、結合距離502,504のいずれかの4倍未満であってよい。例えば、グランドプレーン分離距離508は、2マイクロメートル未満、例えば、1.5マイクロメートル未満、例えば、500ナノメートル未満であり得る。いくつかの例では、トレース間のスペースは、誘電体材料、例えば、二酸化ケイ素で満たされている。
【0030】
さらに、断面500では、上側平面から2つ、下側平面から2つの、断面500の中央にあるトレースの4つの断面の各々は、すべて結合距離502内で3つの側面が逆の伝送線路のトレースに囲まれていることが観察できる。例えば、左中央の下側平面上の出力セカンダリ線路トレース408の断面部分は、下側平面上でその左側面および右側面が入力プライマリ線路トレース部分406によって囲まれ、上側平面上でその上がキャリーオーバープライマリ線路トレース部分410によって囲まれている。別の例として、右中央の上側平面上のキャリーオーバーセカンダリ線路トレース412の断面部分は、上側平面上でその左側面および右側面がキャリーオーバーセカンダリ線路トレース部分410によって囲まれ、下側平面上でその下が入力プライマリ線路トレース部分406によって囲まれている。したがって、トレース断面の4つは、ハーフコイル横断面で視た場合に、逆の伝送線路の3つの他の隣接するトレースからそれぞれ結合距離内にある。これにより、本明細書に記載のカプラは、プライマリ伝送線路およびセカンダリ伝送線路のうちの一方が、一方の伝送線路の横断面から視て、少なくとも3つの側面が伝送線路のうちの他方によって囲まれ、かつ伝送線路のうちの他方から結合距離内にあるコイルを提供する。
【0031】
図6の斜視図は、
図4と同一であるが、上側平面トレース(すなわち、セル400のキャリーオーバートレース)が削除されて、そうでなければ
図4では殆ど隠されている下側平面トレースのみをよりよく示すようにしている。
【0032】
図4および
図6を参照すると、複数のセル400を直列に接続することができる。例えば、セル400の第1のトレース406は、先行するセルの第5のトレースに電気的に接続することができ、セル400の第5のトレース414は、後続のセルの第1のトレースに電気的に接続することができ、セル400の第2のトレース408は、先行するセルの第6のトレースに電気的に接続することができ、セル400の第6のトレース416は、後続のセルの第2のトレースに電気的に接続することができる。複数の連続セルは、伝送線路が実質的に連続するように、すなわち、セル間のトレースに不連続性がなく、したがって、セル間のインタフェースで特別な接続機能またはトレースの変更が不要になるように、(例えば、単一のチップ上に)一緒に製造できる。
【0033】
図7は、コイル状結合線路ハイブリッドカプラの部分700を示すことにより、そのような直列配置を平面図で示し、その2つのコイル部分702は、単一のセルに対応し、そのセルのトレースパターンは、どちらの方向にも連続的に繰り返されている。
図8の平面図は、
図7と同一であるが、上側平面トレース(すなわち、各セルのキャリーオーバートレース)が削除されて、そうでなければ
図7では殆ど隠されている下側平面トレースのみをよりよく示すようにしている。
【0034】
ここで、
図4のセル400は、セルの連続チェーンの最初または最後であり、入力または出力トレースの端は、必要に応じて入力または出力ポートまたは終端に接続できる。図示の例では、第3のトレース410および第4のトレース412は、セル400に限定され、他のトレース406,408,414,416を介する場合を除いて、セル400の外側に直接電気的に接続しない。
【0035】
図9は、シミュレーション概略図としての例示的なコイル状結合線路ハイブリッドカプラ回路900を示し、これは、
図10~
図11に示されるように、その挙動を特徴付けるプロットを生成するために使用することができる。ハイブリッドカプラ900は、セル902(図示の例では、15個のそのようなセル)から構築され、各セル902は、例えば、
図3のセル300または
図4のセル400に対応する。動作周波数範囲内で、入力ポート904に供給される電力は、
図11に示すように、主伝送線路の第1の出力ポート906と、結合伝送線路の第2の出力ポート908との間でほぼ均等に分割され、2つの出力信号間に約90°の位相差がある。結合線路の入力ポートである第4のポート910は、3ポート実装では、接地に対する抵抗で終端することができ、または、以下でより詳細に説明するように、ポート906および908が調整可能な共振器に接続される場合、位相シフタのための単一の出力を提供するように使用され得る。
【0036】
図10のSパラメータプロットは、2つの出力の振幅を周波数の関数として実効的に示しており、
図11のプロットは、同じスペクトル、すなわち5から10ギガヘルツの間の周波数の関数として2つの出力間の位相差を示している。
図10では、プロット1002は、デシベルで、ポート906に供給される入力電力の一部、すなわち、入力によって駆動される伝送線路(別名「メイン線路」または「プライマリ線路」)の出力を示し、プロット1004は、ポート908に供給される入力電力の一部、すなわち、駆動されていない(別名「結合」または「セカンダリ」)伝送線路の出力を示す。
図10の0dBのSパラメータ測定値は、入力電力のすべてが、プロットされた出力ポートから出力されていることを示す。-10dBの測定値は、入力電力の10分の1が、プロットされた出力ポートから出力されていることを示す。約-3dBの測定値は、入力ポートに供給される電力の半分が、プロットされた出力ポートで観測されることを示す。したがって、理想的なハイブリッドカプラに対する
図10のようなプロットは、出力ポートプロットの両方を、周波数帯域全体にわたって約-3dBの水平線として表示する。
【0037】
図10は、シミュレートされた周波数帯域にわたって約-3dB±0.4dBでのプロットを示し、多くのアプリケーションにとって、本明細書に開示されるコイル状結合線路ハイブリッドカプラが非常に満足のいく電力分割性能であることを示している。弱い結合は、
図10のグラフにおいて、プロット1004の低い値およびプロット1002の高い値により現れている。
図10のプロット1002,1004から分かるように、非常に低い周波数(例えば、5ギガヘルツ未満)および非常に高い周波数(例えば、10ギガヘルツを超える)では、比例して非常に少ない入力電力が、駆動されていない線路に結合される。しかしながら、プロットされた動作周波数範囲内では、主線路出力電力1002および結合線路電力1004の両方が、約-3.5dBから-2.8dBの範囲内にある。強い結合は、
図10のグラフにおいて、プロット1004の高い値およびプロット1002の低い値により現れている。動作範囲の中央、約7.5GHzで、1/4波長がカプラデバイス900内に収まるように1/4波長が整合され、最大結合が観察される。すなわち、入力電力の大部分が結合線に転送されるため、直接伝送線路上の電力1002は比較的低くなるが、結合線の電力1004は比較的高くなる。結合は、5.8GHzおよび9.2GHz付近のプロット1002,1004の交差点で最も均等である。
【0038】
図11の周波数図のプロット1102は、出力ポート908および906での出力信号間の位相差を示し、特に、約9ギガヘルツの動作周波数での出力信号間の90°の位相分離を示し、6~10ギガヘルツの間ではわずか±1°の誤差しかないことを示している。したがって、シミュレートされたコイル状結合線路ハイブリッドカプラ回路900は、回路の全動作範囲に対して90°に非常に近い出力間の位相分離を生成する。位相差は、より高い周波数で最大になり、より低い周波数で最小になる。
【0039】
図12は、
図4に示されるようなセルのために、HFSSによって生成された、広い周波数範囲にわたるコイル状結合線路ハイブリッドの1つのセルの偶数モードインピーダンス1202(コモンモードインピーダンスとも呼ばれる)および奇数モードインピーダンス1204(ディファレンシャルモードインピーダンスとも呼ばれる)をプロットしている。縦軸はオーム、横軸はギガヘルツで示されている。そのようなカプラに望まれるように、プロットは、ハイブリッドカプラセルの動作範囲について、約120オームの偶数モードインピーダンス、および約20オームの奇数モードインピーダンスを示している。これらのインピーダンスは、伝送線路の幅およびそれらの結合距離(すなわち、伝送線路間の間隔)を調整することにより、設計および製造中に調整できる。実効結合は、奇数モードおよび偶数モードのインピーダンスが互いに近づくにつれて減少し、離れるにつれて増加する。例えば、奇数および偶数モードインピーダンスの両方が、両方とも約50オームである場合、カプラはほぼゼロの実効結合を示す。カプラは、奇数/偶数インピーダンスについて、約20オーム/120オームの範囲でほぼ等しい結合を示す。
【0040】
伝送線路幅および結合距離を調整することとは別に、性能、本明細書に記載のカプラの他の設計態様もまた、1つまたは複数のカプラ性能パラメータを調整するように変更または調整することができる。例えば、コイルの巻き数を増減することができ、カプラの総コイル数または総セル数を増減することができる。一般に、カプラ内のコイルまたはセルが多いほど、ハイブリッドカプラが最大の結合を生成する周波数は低くなる。したがって、例えば、10セルの設計で10ギガヘルツのハイブリッドカプラが得られる場合、20セルの設計では5ギガヘルツのハイブリッドカプラが得られる可能性がある。
図10が示すように、
図9の15セル設計902は、約7.5GHzで最大結合を示す。数百メガヘルツ以下の動作範囲は、数百のセルを連続化することで実現できる可能性がある。
【0041】
図13は、特定のマイクロ波用途のために調整されたコイル状結合線路ハイブリッドカプラを作製する方法1300を示している。容量的および誘導的に結合された伝送線路トレース間の間隔が、コイル状結合線路ハイブリッドカプラのコモンモードおよびディファレンシャルモードのインピーダンスを調整するために選択(例えば、選択、決定、または調整)1302することができる。これらの間隔は、伝送線路の結合長全体にわたって実質的に均一にすることができる。そのような間隔は、前述の結合距離であってよく、異なる空間次元での異なる距離を含み得る。一例として、結合距離は、インピーダンスが、カプラの奇数モードの場合、約15オームと約25オームとの間、例えば、約20オームに設定されるように、およびカプラの偶数モードの場合、約100オームと約140オームとの間、例えば、約120オームに設定されるように選択することができる。
【0042】
コイル状結合線路ハイブリッドカプラにおいて連続的に配置されるセルの数は、コイル状結合線路ハイブリッドカプラの最大結合周波数を設定するために選択(例えば、選択、決定、または調整)1304することができる。各セルは、1つまたは複数の伝送線路コイルを含むことができる。本明細書で使用される用語として、「最大結合周波数」は、カプラが最大結合を達成する周波数であり、この用語は、カプラが任意の結合を達成する最大周波数を意味するものではない。選択1302および1304のいずれかまたは両方において、本明細書に記載の回路シミュレーションを使用して、セルの間隔および数を選択することができる。コイル状結合線路ハイブリッドカプラは、次いで選択された伝送線路間隔および連続的に配置されるセルの選択された数に基づいて、例えばチップ上に、製造1306することができる。例えば、製造されたカプラは、選択された間隔および選択された数の連続的に配置されたセルを有することができる。カプラは、超伝導伝送線路トレースを使用して製造され得る。この方法は、コモンモードインピーダンスおよびディファレンシャルモードインピーダンスを調整するために伝送線路トレースと接地されたビア壁との間の間隔を選択すること、および伝送線路トレースとビア壁との間の選択された間隔に基づいてビア壁を有するようにカプラを製造することをさらに含むことができる。
【0043】
図14は、例えば、特定のマイクロ波用途のために調整された、チップ上にコイル状結合線路ハイブリッドカプラを製造する方法1400を示している。容量的および誘導的に結合された伝送線路トレースは、トレースによって形成されたコイル状結合線路ハイブリッドカプラのコモンモードおよびディファレンシャルモードのインピーダンスを調整するために選択された(例えば、選択、決定、または調整された)1つまたは複数の実質的に均一な間隔で互いに離間されて、チップ上に製造1402されることができる。そのような間隔は、前述の結合距離であってよく、異なる空間次元での異なる距離を含み得る。一例として、結合距離は、インピーダンスが、カプラの奇数モードの場合は約20オーム、カプラの偶数モードの場合は120オームに設定されるように選択することができる。コイル状結合線路ハイブリッドカプラは、チップ上に複数の連続的に配置されたセルとして製造1404することができ、各セルは、トレースの1つまたは複数のコイルを含み、セルの数は、コイル状結合線路ハイブリッドカプラの最大結合周波数を設定するために選択(例えば、選択、決定、または調整)される。本明細書で使用される用語として、最大結合周波数は、カプラが最大結合を達成する周波数であり、カプラが結合を達成する最大周波数ではない。この方法は、コモンモードインピーダンスおよびディファレンシャルモードインピーダンスを調整するために選択された間隔でトレースから離間された接地されたビア壁をチップ上に製造することをさらに含むことができる。
【0044】
本明細書に開示されるコイル状結合線路ハイブリッドカプラおよび方法は、直線カプラ設計よりも優れた設計時パラメータ調整能力を提供し、また、グランドプレーンが伝送線路に近すぎて直線伝送線路との十分な結合を達成できない超伝導チップ上のハイブリッドカプラにおける十分な結合を提供することに関連する課題を解決する。それらは、RQLシステムのためのクロック分配ネットワーク、並びにジョセフソンベースの位相シフタおよびベクトル変調器のような超伝導電子回路に組み込むことができる。
【0045】
RQLクロック分配ネットワークアプリケーションに関して、本明細書に開示されているカプラは、4相クロックを使用するRQLデバイスの実装において、同相(「I」)および直交位相(「Q」)クロック共振器に供給するために使用できる。このようなデバイスでは、RQL回路への電力は、(0°位相)I共振器および90°位相Q共振器を介して、4相電源で供給することができる。これらは互いに90°位相がずれて駆動されるため、および本明細書に記載のハイブリッドカプラは所望の90°位相分離信号を提供できるため、本明細書に記載のハイブリッドカプラを使用して、それぞれのクロック共振器に入力を供給することができる。
【0046】
位相シフタは、調整可能な素子を2つのハイブリッドカプラ出力(例えば、
図1のポート112および114、
図2のポート214および208、または
図10のポート1006および1008)に接続することによって、本明細書に開示されるようなハイブリッドカプラを用いて構築することができる。このような調整可能な素子は、素子の共振周波数の調整を可能にする制御可能なDCバイアスを備えた超伝導量子干渉デバイス(SQUID)共振器で構成することができる。ハイブリッドカプラの入力ポートに送信される信号は、これらの調整可能な素子から分割されて反射し、ハイブリッドカプラの前述の第4のポート、すなわち3ポートアプリケーションにおける抵抗によって接地に終端されたポート(例えば、
図9のカプラ900のポート910)から出力されるが、この場合、これは、位相シフタの唯一の出力ポートとして使用される。これにより入力信号が取得する位相の変化は、2つの調整可能な素子の調整された周波数に応じて変更できる。
【0047】
本発明のハイブリッドカプラは、様々な超伝導電子機器の用途に使用することができ、冷却される動作温度は用途によって異なる。例として、本明細書に記載のハイブリッドカプラが、古典的コンピューティング(例えば、RQL回路を使用する)または電波天文学などの超伝導RFアプリケーションで使用される場合、ハイブリッドカプラが製造されるチップは、動作中に約4ケルビンまで冷却することができ、著しく低い温度で動作させる必要はない。本明細書に記載のハイブリッドカプラが量子コンピューティングアプリケーションで使用される場合、ハイブリッドカプラが製造されるチップは、著しく低い温度、例えば、約0.1ケルビン未満にまで冷却されてもよい。本明細書に記載のハイブリッドカプラ回路および方法は、量子コンピューティングアプリケーションに限定されない。
【0048】
上記で説明したのは、本発明の例である。もちろん、本発明を説明する目的で構成要素または方法の考えられるすべての組み合わせを説明することは不可能であるが、当業者は、本発明の多くのさらなる組み合わせおよび置換が可能であることを認識するであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲を含む、本出願の範囲内に含まれるそのようなすべての変更、修正、および変形を包含することが意図されている。さらに、開示またはクレームが「1つの(a,an)」、「第1の」、「もう一つの(another)」要素、またはそれらの均等物を記載する場合、1つまたは複数のそのような要素を含むと解釈されるべきであり、2つ以上のそのような要素を必要とも除外もしない。本明細書で使用される場合、「含む(includes,including)」という用語は、限定することなく含むことを意味する。「基づく(based on)」という用語は、少なくとも部分的に基づくことを意味する。
以下に、本開示に含まれる技術思想を付記として記載する。
[付記1]
超伝導チップであって、
グランドプレーンと、
コイル状結合線路ハイブリッドカプラと
を備え、前記カプラは、
マイクロ波オブジェクトからの入力信号を受信するように構成された第1のポートと、
第2のポートおよび第3のポートであって、それらの間で前記入力信号の電力が約90°の位相分離で分割される、第2のポートおよび第3のポートと、
前記第1のポートと2つの他のポートのうちの一方とを電気的に接続するプライマリ伝送線路であって、互いに直列な少なくとも2つの二平面コイルにおいてコイル状に巻かれているプライマリ伝送線路と、
前記2つの他のポートのうちの他方と電気的に接続されるとともに、前記プライマリ伝送線路とは電気的に接続されていないコイル状セカンダリ伝送線路と
を含み、前記セカンダリ伝送線路は、前記少なくとも2つの二平面コイルにおいてコイル状に巻かれており、前記少なくとも2つのコイルを含む結合長にわたって少なくとも1つの平面次元で、前記プライマリ伝送線路から結合距離だけほぼ均等に離間されており、それによって前記セカンダリ伝送線路は、前記プライマリ伝送線路に容量的および誘導的に結合されており、
前記少なくとも2つのコイルの各々の結合長の少なくとも一部にわたって、前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路のうちの一方は、一方の伝送線路の横断面から視て、少なくとも3つの側面が前記伝送線路のうちの他方に囲まれ、かつ前記伝送線路のうちの他方から実質的に結合距離にあり、
前記コイルは、前記横断面から視て、前記グランドプレーンから約100ナノメートル~約500ナノメートル離れており、
前記結合距離は、前記カプラの奇数モードインピーダンスが約15オーム~約25オームであり、偶数モードインピーダンスが約100オーム~約140オームであるように選択されている、チップ。
[付記2]
少なくとも2つのセルの直列アレイを備え、各セルは、前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路の各々の一部を含み、前記少なくとも2つのセルのうちの第1のセルは、前記少なくとも2つのコイルを含み、前記少なくとも2つのセルのうちの他の各セルは、前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路の少なくとも2つの追加のコイルを含む、付記1に記載のチップ。
[付記3]
前記セルのうちの少なくとも10個の接続された直列アレイを備え、前記セルの各々は、前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路の少なくとも2つのコイルを含み、各セルの各コイルは、直径が10~20マイクロメートルである、付記2に記載のチップ。
[付記4]
前記カプラおよびRQLクロックネットワークを含むレシプロカル量子論理(RQL)回路を備え、前記カプラは、前記RQLクロックネットワークの同相および直交位相共振器をそれぞれ前記カプラの両端で前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路のうちの異なる1つに接続することによって前記RQLクロックネットワークに対して90°だけ位相が分離された信号を提供するように構成されている、付記2に記載のチップ。
[付記5]
前記カプラは、所定の周波数帯域にわたって約±0.5dBの電力公差および約±1°の位相公差を備えるオクターブ帯域幅を有する、付記2に記載のチップ。
[付記6]
各セルにおいて、前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路のそれぞれの少なくとも2つのコイルは実質的に同じ直径であり、前記それぞれの少なくとも2つのコイルのうちの第2のコイルは、少なくとも2つの平面次元で、前記それぞれの少なくとも2つのコイルのうちの第1のコイルから、約1つのコイル直径だけ変位している、付記2に記載のチップ。
[付記7]
各セルの前記それぞれの少なくとも2つのコイルは、少なくとも2つの異なる平面上に配置された前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路の平面状の実質的に正方形の螺旋トレースを含む、付記6に記載のチップ。
[付記8]
各セルにおいて、2つの接地されたビア壁をさらに備え、前記それぞれの少なくとも2つのコイルのうちの第1のコイルは、少なくとも3つの側面が前記ビア壁のうちの第1のビア壁によって囲まれ、第4の側面が前記ビア壁のうちの第2のビア壁によって囲まれ、前記それぞれの少なくとも2つのコイルのうちの第2のコイルは、少なくとも3つの側面が前記第2のビア壁によって囲まれ、第4の側面が前記第1のビア壁によって囲まれている、付記7に記載のチップ。
[付記9]
前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路は、2つの別個の平面上に実質的に平面状のトレースを含み、各コイルにおいて、前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路の前記トレースは、ハーフコイル横断面で視た場合に、それぞれ前記結合距離以下の水平距離および垂直距離だけ分離されている、付記1に記載のチップ。
[付記10]
前記ハーフコイル横断面における前記トレースの少なくとも8つの断面、および前記トレースの断面のうちの少なくとも4つは、それぞれ、前記ハーフコイル横断面で視た場合に、逆の伝送線路の3つの他の隣接するトレースから前記結合距離内にある、付記9に記載のチップ。
[付記11]
チップ上にコイル状結合線路ハイブリッドカプラを製造する方法であって、
伝送線路トレースによって形成される前記コイル状結合線路ハイブリッドカプラのコモンモードおよびディファレンシャルモードのインピーダンスを、所定のコモンモードインピーダンスおよび所定の奇数モードインピーダンスに調整するために選択された1つまたは複数の実質的に均一な間隔で前記チップ上に互いに離間された容量的および誘導的に結合された伝送線路トレースを製造すること、
前記コイル状結合線路ハイブリッドカプラを複数の連続的に配置されたセルとして前記チップ上に製造すること
を含み、各セルは、前記トレースの1つまたは複数のコイルを含み、前記セルの数は、前記コイル状結合線路ハイブリッドカプラの最大結合周波数を所定の周波数に設定するように選択されている、方法。
[付記12]
前記コモンモードのインピーダンスおよび前記ディファレンシャルモードのインピーダンスを調整するために選択された間隔で前記トレースから離間された接地されたビア壁をチップ上に製造することをさらに含む、付記11に記載の方法。
[付記13]
チップ上の前記コイル状結合線路ハイブリッドカプラは、超伝導金属で作られたマイクロストリップ伝送線路を用いて製造されている、付記11に記載の方法。
[付記14]
前記セルの数は、10より大きくなるように選択されている、付記11に記載の方法。
[付記15]
各セル内の各コイルは、直径が10~20マイクロメートルである、付記14に記載の方法。
[付記16]
レシプロカル量子論理(RQL)回路であって、
コイル状結合線路ハイブリッドカプラセルを含むカプラ
を備え、前記セルは、
第1の平面上の平面螺旋形状の入力および出力プライマリトレース、および前記第1の平面の上方または下方の第2の平面上の、2つの接続された螺旋として形成された平面状キャリーオーバープライマリトレースを含む超伝導プライマリ伝送線路であって、前記キャリーオーバープライマリトレースの前記螺旋は、反対方向に巻回されるとともに、2つの平面次元で互いに変位されており、前記プライマリ伝送線路のトレースは、プライマリ入力トレースおよびプライマリ出力トレースを接続する前記キャリーオーバープライマリトレースと直列に電気的に接続されている、前記超伝導プライマリ伝送線路と、
前記第1の平面上の平面螺旋形状の入力および出力セカンダリトレース、および前記第2の平面上の2つの接続された螺旋として形作られた平面状キャリーオーバーセカンダリトレースを含む超伝導セカンダリ伝送線路であって、前記キャリーオーバーセカンダリトレースの前記螺旋は、反対方向に巻回されるとともに、2つの平面次元で互いに変位されており、前記セカンダリ伝送線路のトレースは、セカンダリ入力トレースおよびセカンダリ出力トレースを接続する前記キャリーオーバーセカンダリトレースと直列に電気的に接続されている、前記超伝導セカンダリ伝送線路と、
連続的に前記カプラセルに隣接して配置された場合に、同一のハイブリッドカプラセルの対応するポートに接続するように構成された前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路の各々のための入力および出力ポートと
を含み、
前記トレースは、前記プライマリ伝送線路と前記セカンダリ伝送線路との間に誘導性および容量性結合を提供する2つのコイルを形成し、
前記RQL回路は、RQLクロックネットワークをさらに備え、前記カプラは、前記RQLクロックネットワークの同相(「I」)および直交位相(「Q」)共振器をそれぞれ前記カプラの両端で前記カプラの異なる伝送線路に接続することによって、前記RQLクロックネットワークに対して90°だけ位相が分離された信号を提供するように構成されている、RQL回路。
[付記17]
前記プライマリ伝送線路および前記セカンダリ伝送線路の隣接する平行部分は、前記2つのコイルを含む結合長にわたって実質的に均一に結合距離だけ互いに横に離間されており、前記結合距離は、前記カプラセルに対して、約100オーム~約140オームの偶数モードインピーダンスおよび約15オーム~約25オームの奇数モードインピーダンスを提供するように構成されている、付記16に記載のRQL回路。
[付記18]
前記結合距離は、前記カプラセルに対して、約120オームの偶数モードインピーダンスおよび約100オーム~約140オームの奇数モードインピーダンスを提供するように構成されている、付記17に記載のRQL回路。
[付記19]
前記カプラは、前記セルの少なくとも10個のインスタンスの接続された直列アレイを含む、付記16に記載のRQL回路。
[付記20]
前記カプラは、所定の周波数帯域にわたって約±0.5dBの電力公差および約±1°の位相公差を備えるオクターブ帯域幅を有する、付記16に記載のRQL回路。