(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】滑り直動ガイド装置
(51)【国際特許分類】
F16C 29/02 20060101AFI20230313BHJP
F16N 13/00 20060101ALI20230313BHJP
F16C 37/00 20060101ALI20230313BHJP
F16C 35/02 20060101ALI20230313BHJP
B23Q 11/12 20060101ALI20230313BHJP
B23Q 1/26 20060101ALI20230313BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
F16C29/02
F16N13/00
F16C37/00 A
F16C35/02 C
B23Q11/12 E
B23Q1/26 Z
F16C33/10 Z
(21)【出願番号】P 2021544064
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2020033665
(87)【国際公開番号】W WO2021045213
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2019163282
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】星 良夫
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/053895(WO,A1)
【文献】特開2019-52757(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016208916(DE,A1)
【文献】特開2015-175422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/02
B23Q 11/12, 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と移動体との間に取り付けられる滑り直動ガイド装置において、
移動体の移動方向に延びる第1の案内面と、該第1の案内面に対して傾斜させて設けられ、かつ、前記移動方向に延びる2つの第2の案内面とを少なくとも有し、前記移動方向に延設されたレールと、
前記移動方向に往復動可能に前記レールの少なくとも一部を受容する受容凹部を有し、前記受容凹部に前記レールの一部を受容させたときに、該レールの前記第1の案内面に対面する第1の摺動面と、前記2つの第2の案内面にそれぞれ対面する2つの第2の摺動面とを有したキャリッジと、
前記摺動面に貼付された薄板状の摺動部材であって、周囲をランド部によって包囲された凹所より成る潤滑油ポケットを有し、前記受容凹部に前記レールの一部を受容させたときに、該レールの前記第1と第2の案内面に当接する複数の凸部が前記潤滑油ポケット内に形成されている摺動部材と、
前記キャリッジの往復移動方向に前記摺動部材の一端部分で前記潤滑油ポケットに開口するように前記キャリッジに形成された第1の通路と、
前記摺動部材の潤滑油ポケットにおいて前記第1の通路が開口する前記一端部分とは反対側で前記潤滑油ポケットに開口するように前記キャリッジに形成された第2の通路と、
前記レールの2つの第2の案内面と前記キャリッジの2つの第2の摺動面のいずれかの第2の案内面と第2の摺動面との間に挿入されるギブであって、前記第2の案内面と当接する側に前記摺動部材が貼付され、反摺動部材側の前記キャリッジと当接する面が前記案内面の傾斜の深さ方向に対して勾配が付き、深いほど厚さが薄くなるように形成されたギブと、
を具備することを特徴とした滑り直動ガイド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば工作機械のテーブルや主軸頭のような移動体と、該移動体を支持するベッドやコラムのような支持体との間に取り付けられる滑り直動ガイド装置に関する。本発明は、また、該滑り直動ガイド装置の移動体側に取り付けられるキャリッジに摺動部材を貼付する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の送り軸等に用いられる案内装置は、支持体の案内面に移動体の摺動面を案内させて、軸送り装置により移動体を移動させるものである。なお、一般に、案内装置には、動圧滑り案内方式、静圧滑り案内方式、一部荷重補償滑り案内方式等がある。本発明は、一部荷重補償滑り案内方式による移動体の案内装置に関するものである。
【0003】
特許文献1には、移動体に摺動部材を貼付して、該摺動部材を支持体の案内面に接触させながら案内する移動体の案内装置が記載されている。該案内装置は、摺動面に開口する潤滑油帰還通路と、潤滑油帰還通路にそれぞれ連通する、潤滑油供給通路と潤滑油排出通路とを移動体に設け、移動体の移動に伴い摺動面と潤滑油帰還通路との間で潤滑油を帰還させながら、潤滑油供給通路を介して潤滑油源から摺動面へ潤滑油を供給し、潤滑油排出通路を介して摺動面から外部へ潤滑油を排出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の案内装置では、摺動部材が移動体に直接貼付され、案内面が支持体に直接形成される。工作機械のテーブルや主軸頭のような移動体に摺動部材を貼付したり、潤滑油のための通路を移動体たるテーブルや主軸頭に形成することは難しい問題がある。この点、転がり直動ガイドのように、ユニットとして移動体と支持体に取り付けられるようにすれば取り扱い性は向上するが、ボールを利用した一般的な転がり直動ガイドでは、ボールが転がりにより振動や騒音を発生する問題がある。
【0006】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを目的としており、転がり直動ガイドのコンパクト性や取り扱い易さを生かしながら、制振性や静粛性はもとより、耐荷重性や直進性、減衰性を高めた滑り直動ガイド装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、支持体と移動体との間に取り付けられる滑り直動ガイド装置において、移動体の移動方向に延びる第1の案内面と、該第1の案内面に対して傾斜させて設けられ、かつ、前記移動方向に延びる2つの第2の案内面とを少なくとも有し、前記移動方向に延設されたレールと、前記移動方向に往復動可能に前記レールの少なくとも一部を受容する受容凹部を有し、前記受容凹部に前記レールの一部を受容させたときに、該レールの前記第1の案内面に対面する第1の摺動面と、前記2つの第2の案内面にそれぞれ対面する2つの第2の摺動面とを有したキャリッジと、前記摺動面に貼付された薄板状の摺動部材であって、周囲をランド部によって包囲された凹所より成る潤滑油ポケットを有し、前記受容凹部に前記レールの一部を受容させたときに、該レールの前記第1と第2の案内面に当接する複数の凸部が前記潤滑油ポケット内に形成されている摺動部材と、前記キャリッジの往復移動方向に前記摺動部材の一端部分で前記潤滑油ポケットに開口するように前記キャリッジに形成された第1の通路と、前記摺動部材の潤滑油ポケットにおいて前記第1の通路が開口する前記一端部分とは反対側で前記潤滑油ポケットに開口するように前記キャリッジに形成された第2の通路と、前記レールの2つの第2の案内面と前記キャリッジの2つの第2の摺動面のいずれかの第2の案内面と第2の摺動面との間に挿入されるギブであって、前記第2の案内面と当接する側に前記摺動部材が貼付され、反摺動部材側の前記キャリッジと当接する面が前記案内面の傾斜の深さ方向に対して勾配が付き、深いほど厚さが薄くなるように形成されたギブとを具備する滑り直動ガイド装置が提供される。
【0008】
更に、本発明によれば、前記滑り直動ガイド装置のキャリッジに前記摺動部材を貼付する方法において、前記キャリッジの第1の摺動面に対面可能に設けられ、前記摺動部材を受容して位置決めする位置決め凹部が形成された第1の押圧面を有する第1の治具を準備し、前記摺動部材の背面が前記位置決め凹部から突出するように、前記位置決め凹部内に前記摺動部材を配置し、前記摺動部材の背面に接着剤を塗布し、前記第1の治具の前記第1の押圧面を前記キャリッジの前記第1の摺動面に対面させて配置し、前記第1の治具を前記キャリッジに対してボルトにより固定することによって、前記位置決め凹部内の前記摺動部材の背面を前記第1の摺動面に押圧し、前記接着剤が硬化した後に前記ボルトを緩めて前記第1の治具を前記キャリッジから取り外すことを含む滑り直動ガイド装置のキャリッジに摺動部材を貼付する方法が提供される。
【0009】
更に、本発明によれば、前記滑り直動ガイド装置のキャリッジに前記摺動部材を貼付する方法において、前記キャリッジの第1の摺動面に対面可能に設けられ、前記摺動部材を受容して位置決めする位置決め凹部が形成された第1の押圧面を有する第1の治具を準備し、前記摺動部材の背面が前記位置決め凹部から突出するように、前記位置決め凹部内に前記摺動部材を配置し、前記摺動部材の背面に接着剤を塗布し、前記第1の治具の前記第1の押圧面を前記キャリッジの前記第1の摺動面に対面させて配置し、前記第1の治具を前記キャリッジに対してボルトにより固定することによって、前記位置決め凹部内の前記摺動部材の背面を前記第1の摺動面に押圧し、前記接着剤が硬化した後に前記ボルトを緩めて前記第1の治具を前記キャリッジから取り外し、前記キャリッジの第2の摺動面に対面可能に設けられ、前記摺動部材を受容して位置決めする位置決め凹部が形成された第2の押圧面を有する第2の治具を準備し、前記キャリッジの第3の摺動面に対面可能に設けられ、前記摺動部材を受容して位置決めする位置決め凹部が形成された第3の押圧面を有する第3の治具を準備し、前記摺動部材の背面が前記位置決め凹部から突出するように、第2と第3の治具の各々の前記位置決め凹部内に前記摺動部材を配置し、前記摺動部材の背面に接着剤を塗布し、前記第2の治具の前記第2の押圧面を前記キャリッジの前記第2の摺動面に対面させて配置し、前記第3の治具の前記第3の押圧面を前記キャリッジの前記第3の摺動面に対面させて配置し、前記第2と第3の治具を互いにボルトにより固定することによって、各々の位置決め凹部内の摺動部材の背面をそれぞれ前記キャリッジの第2と第3の摺動面に押圧し、前記接着剤が硬化した後に前記ボルトを緩めて前記第2と第3の治具を前記キャリッジから取り外すことを含む滑り直動ガイド装置のキャリッジに摺動部材を貼付する方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、滑り直動ガイド装置を支持体と移動体との間に取り付けられるようにし、キャリッジに貼付した摺動部材の潤滑油ポケットに対して潤滑油を第1と第2の通路に供給、排出できるようにしたので、従来の転がり直動ガイドのコンパクト性や取り扱い易さを生かしながら、滑り直動ガイド装置の制振性、静粛性、耐荷重性や直進性、減衰性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の好ましい実施形態による滑り直動ガイド装置の端面図である。
【
図2】
図1の滑り直動ガイド装置のキャリッジの端面図である。
【
図4】
図1の滑り直動ガイド装置に用いられる摺動部材の一例を示す斜視図である。
【
図6】
図4の摺動部材の一部を拡大して示す部分拡大平面図である。
【
図8】滑り直動ガイド装置の使用時の配置をキャリッジ内の通路とともに示す端面図である。
【
図9】滑り直動ガイド装置の使用時の配置をキャリッジ内の通路とともに示す端面図である。
【
図10】キャリッジの製造方法を説明する図である。
【
図11】キャリッジの製造方法を説明する図である。
【
図12】キャリッジの仕上げ加工を行うための回転工具の略示側面図である。
【
図13】キャリッジの仕上げ加工を行うための他の回転工具の略示側面図である。
【
図14】キャリッジの仕上げ加工を説明するための図である。
【
図15】キャリッジの仕上げ加工を説明するための図である。
【
図16】キャリッジの第1の摺動面に摺動部材を貼付するための第1の治具の端面図である。
【
図17】キャリッジの第1の摺動面に摺動部材を貼付する方法を説明するための図である。
【
図18】キャリッジの第2の摺動面に摺動部材を貼付するための第2の治具の端面図である。
【
図19】キャリッジの第3の摺動面に摺動部材を貼付するための第3の治具の端面図である。
【
図20】キャリッジの第2と第3の摺動面に摺動部材を貼付する方法を説明するための図である。
【
図21】
図1の滑り直動ガイド装置を用いた直動ガイドシステムの構成および作用を説明するための略図である。
【
図22】キャリッジが
図21の場合と反対方向に移動する間の直動ガイドシステムを説明するための略図である。
【
図23】
図1の滑り直動ガイド装置を用いた他の直動ガイドシステムの構成および作用を説明するための略図である。
【
図24】キャリッジが
図23の場合と反対方向に移動する間の直動ガイドシステムの構成および作用を説明するための略図である。
【
図25】キャリッジをレールに組み付けるときに用いられる先細りのテーパ状に形成されたテーパレールを示す斜視図である。
【
図27】キャリッジがギブを備えている形態による滑り直動ガイド装置の側面図である。
【
図29】更に他の実施形態による滑り直動ガイド装置の斜視図である。
【
図32】
図30の滑り直動ガイド装置で使用可能な幅広の摺動部材の平面図である。
【
図33】
図29の滑り直動ガイド装置のレールの底面を見上げた斜視図である。
【
図34】
図29の滑り直動ガイド装置にギブが装着されている実施形態のキャリッジの端面図である。
【
図35】
図34の滑り直動ガイド装置のキャリッジの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1~3において、本発明の好ましい実施形態による滑り直動ガイド装置100は、レール300に沿って案内され、往復動するキャリッジ200を備えている。レール300は、直線状に延びる棒状の部材であり、例えば工作機械のテーブル(図示せず)、主軸頭(図示せず)その他の移動体を直線往復動可能に支持するベッド(図示せず)、コラム(図示せず)その他の支持体に固定されるベース部320と、該ベース部320に一体的に形成される案内部330とを有している。
【0013】
案内部330は、レール300を支持体に取り付けたときに、支持体の反対側に配置される第1の案内面または主案内面302が形成されている。主案内面302は、レール300を取り付ける支持体に対して平行に延設された平面より成る。また、本明細書では、移動体の移動方向、すなわちレール300の延設方向に延びる軸線を長手の中心軸O1、主案内面302に対して垂直に延びる軸線を垂直軸O2、中心軸O1および垂直軸O2に対して垂直に延びる軸線を横断軸O3と称する。なお、本明細書では、中心軸O1の方向を長手方向、垂直軸O2の方向を上下方向、横断軸O3の方向を左右方向とも記載する。
【0014】
主案内面302は、好ましくは、中心軸O1と横断軸O3がなす平面に平行で、かつ、垂直軸O2に関して左右対称形状に形成される。案内部330は、また、主案内面302を除く両側部に中心軸O1に平行に延びる一対の案内凹部が形成されている。一対の案内凹部の各々には、主案内面302に隣接する第2の案内面または上側案内面304、306と、ベース部320に隣接する第3の案内面または下側案内面308、310とが形成されている。
【0015】
上側案内面304、306は、中心軸O1の方向に延び、かつ、主案内面302に対して鋭角をなすように、垂直軸O2または横断軸O3に関して傾斜している。上側案内面304、306は、また、好ましくは、垂直軸O2に関して左右対称に配置されている。
【0016】
下側案内面308、310も同様に、中心軸O1の方向に延び、かつ、垂直軸O2または横断軸O3に関して傾斜している。下側案内面308、310もまた、好ましくは、垂直軸O2に関して左右対称に配置され互いに対をなしている。この場合、垂直軸O2はレール300の対称軸となっている。
【0017】
上側案内面304、306と下側案内面308、310は、また、好ましくは、横断軸O3に関して上下対称に配置され互いに対をなしている。上側案内面304、306および下側案内面308、310は、垂直軸O2および横断軸O3に関して45°の角度で傾斜させることができる。
【0018】
本実施形態では、上側案内面304、306と、下側案内面308、310との間に遷移面322、324が形成されている。遷移面322、324は中心軸O1と垂直軸O2がなす平面に平行とすることができる。こうして、案内部330の案内凹部は、上側案内面304、306と下側案内面308、310とによって形成される2つの斜面を有した略V字形の溝となる。
【0019】
遷移面322、324は必ずしも設けなければならないものではなく、上側案内面304、306と、下側案内面308、310とが中心軸O1に平行な直線で互いに接続されていてもよい。この場合には、案内部330の案内凹部は、上側案内面304、306と、下側案内面308、310とによって形成される2つの斜面から成るV字形の溝となる。
【0020】
遷移面322、324は、レール300の端部から見たときに、円弧状その他の曲線状を呈していてもよい。この場合も、案内部330の案内凹部は、上側案内面304、306と、下側案内面308、310とによって形成される2つの斜面を有した略V字形の溝となる。
【0021】
レール300は、また、ベース部320および案内部330を垂直軸O2に貫通する複数の固定穴312が形成されている。複数の固定穴312は、好ましくは、中心軸O1に沿って長手方向に等間隔に配置されている。固定穴312の各々に固定ボルト(図示せず)を挿通し、支持体に形成されているネジ穴(図示せず)に螺合することによって、レール300を支持体に固定することができる。固定穴312は、レール300を支持体に固定したときに、固定ボルトの頭部が主案内面302から突出しないように、該頭部を収容する大径部またはザグリ部312aを有している。
【0022】
キャリッジ200は、工作機械のテーブル、主軸頭その他の移動体に固定されるベース部220と、該ベース部220においてレール300の延設方向に延びる両縁部からレール300の方へ突出する第1と第2の腕部222、224を有して、コの字形の断面を有した部材である。ベース部220、第1と第2の腕部222、224によって、レール300の案内部330を受容する受容凹部202が形成される。
【0023】
ベース部220は、キャリッジ200をレール300に組み付けたときに、レール300の主案内面302に対面する第1の摺動面または主摺動面204が形成されている。主摺動面204には、内ねじが形成された複数の、少なくとも2つのボルト穴270(
図8参照)が形成されている。ボルト穴270は、主摺動面204に対して垂直に延設されている。
【0024】
第1と第2の腕部222、224の各々は、キャリッジ200をレール300に組み付けたときに、レール300の上側案内面304、306および下側案内面308、310に対面する第2の摺動面または上側摺動面206、208および第3の摺動面または下側摺動面210、212を有している。
【0025】
上側摺動面206、208および下側摺動面210、212は、キャリッジ200をレール300に組み付けたときに、それぞれ対面する上側案内面304、306および下側案内面308、310に対して平行に延設されている。また、上側摺動面206、208と、下側摺動面210、212との間は主摺動面204に垂直な遷移面214、216となっている。
【0026】
主摺動面204、上側摺動面206、208および下側摺動面210、212には、薄板状の摺動部材10が貼付されている。摺動部材10は、耐摩耗性が高くかつ摩擦係数の低い材料、例えばフッ素樹脂から薄板状に形成され、例えばターカイトやベアリーの商品名で市販されているベアリング材料を用いることができる。摺動部材10は、所定寸法に裁断した薄板状のベアリング材料の一方の表面に、エンドミルのような回転工具を用いてマシニングセンタにより、ランド部と凸部とを残して、ベアリング材料の表面を削り取ることによって潤滑油ポケットを形成することで製造することができる。この摺動部材70の切削加工は、マシニングセンタのテーブルに真空チャックを用いて摺動部材70を固定して行う。
【0027】
図6を参照すると、摺動部材10には、矩形状に延設され所定の幅を有したランド部12と、ランド部12によって囲繞される潤滑油ポケット14とが形成されている。潤滑油ポケット14には、多数の凸部16と、第1と第2のポート18a、18bが形成されている。なお、潤滑油ポケット14内に凸部16の表面の合計面積が、ランド部12の内側の面積の好ましくは15~50%となるように、凸部16の個数および寸法が決定される。
【0028】
図7を参照すると、凸部16は、長径Ajと短径Anとを有する細長い形状を有している。凸部16は、長径Ajに沿った両端部が、中央部よりも幅広に形成されている。好ましくは、凸部16は、短径Anを横断する両端部が円弧状に凹んでいる。また、凸部16は、長径Aj方向の両端が円弧状に膨出している。
【0029】
また、凸部16は、長径Ajが、摺動部材10の長手方向の中心軸Osに対して所定の角度α、-αを以て傾斜するように形成される。より詳細には、凸部16は、中心軸Osに対する長径Ajの傾斜角度α、-αが交互に入れ替わるように規則正しく機械加工される。長手方向の中心軸Osに対する長径Ajが、の傾斜角度は、キャリッジ200の移動速度やキャリッジ200に印加される荷重等を考慮して用途に応じて適宜選択することができる。
【0030】
摺動部材10の長手の中心軸Osに対して傾斜角度α、-αが交互に入れ替わるように凸部16を配置することによって、キャリッジ200、200′(200′は
図9参照)が往復動する間、潤滑油ポケット14内の潤滑油は、キャリッジ200、200′の移動方向に対して反対方向に流動するとともに、凸部16に当たったときに、摺動部材10の側方へも流動するようになる。
【0031】
第1と第2のポート18a、18bは、中心軸Osの方向に互いに離間させて摺動部材10の両端部に配置されており、潤滑油ポケット14内に開口するように形成されている。また、潤滑油ポケット14を囲繞するランド部12は、潤滑油ポケット14の中の凸部16と略同一の高さに形成され、ランド部12および凸部16の表面は、レール300の主案内面302、上側案内面304、306および下側案内面308、310と直接接触しながら、主案内面302、上側案内面304、306および下側案内面308、310に対して滑動する。
【0032】
図示する実施形態では、主摺動面204、上側摺動面206、208および下側摺動面210、212には、同一形状、寸法の摺動部材10が貼付されているが、用途に応じて異なる形状、寸法の摺動部材10または異なる形状、配置の凸部16を有した摺動部材10を貼付することができる。
【0033】
図8を参照すると、キャリッジ200には、各摺動部材10の第1と第2のポート18a、18bに連通している潤滑油帰還通路230、232、242、244、254、256と、潤滑油供給装置(図示せず)から潤滑油帰還通路230、232、242、244、254、256に連通し、潤滑油ポケット14へ向けて潤滑油を供給するための潤滑油供給通路234a、234b;238a、238b;246a、246b;250a、250b;258a、258b;262a、262bと、潤滑油帰還通路230、232、242、244、254、256に連通し、潤滑油帰還通路230、232、242、244、254、256を通して潤滑油ポケット14内の潤滑油を排出する潤滑油排出通路236a、236b;240a、240b;248a、248b;252a、252b;260a、260b;264a、264bとが形成されている。潤滑油排出通路236a、236b;240a、240b;248a、248b;252a、252b;260a、260b;264a、264bは潤滑油供給装置に接続されている。
【0034】
図8の実施形態は、特に垂直軸O2を鉛直方向に配置して、滑り直動ガイド装置100を用いる場合に適している。このとき、典型的には、中心軸O1および横断軸O3は水平に、つまり、レール300の主案内面302が水平に配置される。この場合、キャリッジ200には、
図8に示すように、垂直軸O2に平行に或いは主案内面302に垂直に荷重Lが作用する。
図8のキャリッジ200は、滑り直動ガイド装置100のこうした配置に限定されず、キャリッジ200に作用する荷重Lが、垂直軸O2に平行に或いは主案内面302に垂直な方向であれば、例えば、中心軸O1を水平方向から傾斜させた斜めの方向に、或いは、中心軸O1を鉛直方向になるように、滑り直動ガイド装置100を配置した場合にも用いることができる。
【0035】
図8の実施形態では、垂直軸O2に関して対称に配置され互いに対をなしている潤滑油帰還通路、つまり潤滑油帰還通路230、232、潤滑油帰還通路242、244および潤滑油帰還通路254、256の各々において、それぞれの潤滑油帰還通路が互いに略同じ圧力となるように潤滑油供給回路を構成することが好ましい。
【0036】
また、本発明の滑り直動ガイド装置の配置は上述した配置に限定されない。本発明の滑り直動ガイド装置は、
図9に示すように、荷重Lが、横断軸O3または主案内面302に平行な方向に、キャリッジ200′に作用するように配置することもできる。
【0037】
図9において、滑り直動ガイド装置100′は、典型的には、横断軸O3が鉛直に、かつ、中心軸O1および垂直軸O2が水平になるように配置される。荷重Lが、横断軸O3または主案内面302に平行な方向に、キャリッジ200′に作用すれば、中心軸O1が水平方向から傾斜させた斜めの方向になるように、滑り直動ガイド装置100′を配置してもよい。なお、
図9において、
図8と
図9の実施形態を区別するために、滑り直動ガイド装置およびキャリッジの参照符号に「′」が付されていることを除いて、
図8の滑り直動ガイド装置100と同様の構成要素には同じ参照番号が付されている。
【0038】
図9を参照すると、キャリッジ200′には、各摺動部材10の第1と第2のポート18a、18bに連通している潤滑油帰還通路230、232、272、274と、潤滑油供給装置(図示せず)から潤滑油帰還通路230、232、272、274に連通し、潤滑油ポケット14へ向けて潤滑油を供給するための潤滑油供給通路234a、234b;238a、238b;276a、278a、280a;282a、284a、286aと、潤滑油帰還通路230、232、272、274に連通し、潤滑油帰還通路230、232、272、274を通して潤滑油ポケット14内の潤滑油を排出する潤滑油排出通路236a、236b;240a、240b;276b、278b、280b;282b、284b、286bとが形成されている。潤滑油排出通路236a、236b;240a、240b;276b、278b、280b;282b、284b、286bは潤滑油供給装置に接続されている。
【0039】
図9の実施形態では、垂直軸O2に関して対称に配置され互いに対をなしている潤滑油帰還通路、つまり潤滑油帰還通路230、232、潤滑油帰還通路242、244および潤滑油帰還通路254、256の各々において、それぞれの潤滑油帰還通路が互いに略同じ圧力となるように潤滑油供給回路を構成することが好ましい。
【0040】
図8、9に示したように、キャリッジ200、200′が、潤滑油帰還通路230、232、242、244、254、256を備えている形態は、後述する
図21、22に示す直動ガイドシステムで用いるのに適している。これに対して、後述する
図23、24に示す直動ガイドシステムで用いる場合には、キャリッジ200は、潤滑油帰還通路230、232、242、244、254、256を備えていない。
【0041】
次に、
図10~
図20を参照して、キャリッジ200、200′の製造方法を説明する。まず、
図10~
図15を参照して、キャリッジ200、200′の切削加工方法を説明する。
【0042】
キャリッジ200、200′は、例えば、直交3軸の直線送り軸と少なくとも1つの回転送り軸を有したマシニングセンタによって製造することができる。以下の説明では、X軸、Y軸、Z軸の直線送り軸とA軸の回転送り軸を有した横型マシニングセンタによって摺動部材10を貼付前のキャリッジ200を切削加工する場合を説明する。キャリッジ200′もキャリッジ200と同様に切削加工することができる。
【0043】
ワーク(キャリッジ200、200′)は、A軸方向に回転送り可能なテーブル400に固定されている。ワークはテーブル400に直接固定したり、イケールのような治具またはパレットを介してテーブル400に固定することができる。ワークは、まず、エンドミルやT形カッタのような回転工具(図示せず)を工具ホルダ404を介して主軸(図示せず)に装着し、テーブル400と回転工具402とをワークの長手方向、図示する実施形態ではX軸方向に相対移動して、逃がし面218、219の間の寸法と遷移面214、216の間の寸法に等しい幅のT形断面を有した溝が加工される。
【0044】
次いで、テーブル400をA軸方向に上述した上側案内面304および下側案内面310の角度に相当する角度、本実施形態では-45°の回転位置に位置決めして、回転工具402をテーブル400に対してX軸方向に相対送りして、回転工具402の側面で、上側摺動面206および下側摺動面212を加工する(
図10)。
【0045】
次いで、テーブル400をA軸方向に上述した上側案内面306および下側案内面308の角度に相当する角度、本実施形態では45°の回転位置に位置決めして、回転工具402をテーブル400に対してX軸方向に相対送りして、回転工具402の側面で、上側摺動面208および下側摺動面210を加工する(
図11)。
【0046】
次に、キャリッジ200の一方の端面から長手の軸方向に潤滑油帰還通路230、232、242、244、254、256を穿設する。該端面における潤滑油帰還通路230、232、242、244、254、256の開口部は栓230a、232a、242a、244a、254a、256aによって閉塞される。
【0047】
更に、潤滑油帰還通路230、232、242、244、254、256および主摺動面204、上側摺動面206、208、下側摺動面210、212へ向けてキャリッジ200の側面から潤滑油供給通路234a、234b;238a、238b;246a、246b;250a、250b;258a、258b;262a、262bおよび潤滑油排出通路236a、236b;240a、240b;248a、248b;252a、252b;260a、260b;264a、264bが穿設される。
【0048】
キャリッジ200′の場合も同様に、キャリッジ200′の一方の端面から長手の軸方向に潤滑油帰還通路230、232、242、244、254、256が穿設され、潤滑油帰還通路230、232、242、244、254、256の開口部が栓230a、232a、242a、244a、254a、256aによって閉塞され、更に、潤滑油供給通路234a、234b;238a、238b;276a、278a、280a;282a、284a、286aおよび潤滑油排出通路236a、236b;240a、240b;276b、278b、280b;282b、284b、286bが穿設される。
【0049】
次に、
図16~
図20を参照して、キャリッジ200、200′への摺動部材10の貼付方法を説明する。
摺動部材10は、
図16に示すような第1の治具430を用いて、キャリッジ200、200′の主摺動面204に貼付することができる。第1の治具430は、キャリッジ200、200′の端面視において、主摺動面204、上側摺動面206、208によって包囲される台形形状よりも小さく、かつ、該台形形状に関して概ね相似形状の断面を有している。より詳細には、使用時にキャリッジ200、200′の主摺動面204に対面する第1の押圧面を形成する上面432と、上面432の反対側の背面434と、上側摺動面206、208に対面する2つの斜面436、438とを有している。第1の治具430は、更に、背面434から上面432へ貫通穴430aが形成されている。
【0050】
上面432には、摺動部材10を受容する左右一対の位置決め凹部432a、432bが形成されている。位置決め凹部432a、432bは、位置決め凹部432a、432b内に配置された摺動部材10が位置ずれを起こすことなく、しっかりと保持される寸法にて形成されている。また、位置決め凹部432a、432bは、摺動部材10が位置決め凹部432a、432b内に配置されたときに、摺動部材10が所定の寸法をもって上面432から垂直方向に突出する深さを有している。
【0051】
図17に示すように、摺動部材10をキャリッジ200、200′の主摺動面204に取り付ける際、摺動部材10の潤滑油ポケット14を位置決め凹部432a、432bの底面に対面させて、摺動部材10を位置決め凹部432a、432b内に配置する。このとき、潤滑油ポケット14とは反対側の摺動部材10の背面が位置決め凹部432a、432bから露出している。この背面に接着剤が塗布される。
【0052】
貫通穴430aに固定ボルト460を挿通し、ボルト穴270の内ねじに螺合させることによって、第1の治具430の上面432がキャリッジ200、200′の主摺動面204に対して位置決め、押圧される。固定ボルト460を螺合する間、第1の治具430が主摺動面204等に接触して、位置決め凹部432a、432b内の摺動部材10がずれてしまうことを防止するために、第1の治具430をキャリッジ200、200′に対して位置決めする更なる治具(図示せず)を用いてもよい。接着剤が硬化するのに要する所定時間が経過した後、第1の治具430は外される。
【0053】
摺動部材10は、また、
図18、19に示すような第2と第3の治具440、450を用いて、キャリッジ200、200′の上側摺動面206、208および下側摺動面210、212に貼付することができる。
図18において、第2の治具440は、第1の治具430と概ね同じ形状を有しており、使用時にキャリッジ200、200′の主摺動面204に対面する上面442と、上面442の反対側の下面444と、上側摺動面206、208に対面し、第2の押圧面を形成する2つの斜面446、448とを有している。第2の治具440は、更に、下面444から垂直に内ねじが形成されたボルト穴440aが形成されている。
【0054】
斜面446、448には、摺動部材10を受容する位置決め凹部446a、448aが形成されている。位置決め凹部446a、448aは、位置決め凹部446a、448a内に配置された摺動部材10が位置ずれを起こすことなく、しっかりと保持される寸法にて形成されている。また、位置決め凹部446a、448aは、摺動部材10が位置決め凹部446a、448a内に配置されたときに、摺動部材10が所定の寸法をもって斜面446、448から垂直方向に突出する深さを有している。
【0055】
図19を参照すると、第3の治具450は、上下が入れ替わっている点を除いて、第2の治具440と概ね同じ形状を有しており、使用時に第2の治具440の下面444に対面する上面452と、上面452の反対側の下面454と、下側摺動面210、212に対面し、第3の押圧面を形成する2つの斜面456、458とを有している。第3の治具450は、更に、下面454から上面452へ垂直に延びる貫通穴450aが形成されている。
【0056】
斜面456、458には、摺動部材10を受容する位置決め凹部456a、458aが形成されている。位置決め凹部456a、458aは、位置決め凹部456a、458a内に配置された摺動部材10が位置ずれを起こすことなく、しっかりと保持される寸法にて形成されている。また、位置決め凹部456a、458aは、摺動部材10が位置決め凹部456a、458a内に配置されたときに、摺動部材10が所定の寸法をもって斜面456、458から垂直方向に突出する深さを有している。
【0057】
図20を参照すると、摺動部材10をキャリッジ200、200′の上側摺動面206、208および下側摺動面210、212に取り付ける際、摺動部材10の潤滑油ポケット14を第2と第3の治具440、450の位置決め凹部446a、448a;456a、458aの底面に対面させて、摺動部材10を位置決め凹部446a、448a;456a、458a内に配置する。このとき、潤滑油ポケット14とは反対側の摺動部材10の背面が位置決め凹部446a、448a;456a、458aから露出している。この背面に接着剤が塗布される。
【0058】
貫通穴450aに固定ボルト462を挿通し、ボルト穴440aの内ねじに螺合させることによって、第2と第3の治具440、450が互いに接近し、斜面446、448;456、458が、キャリッジ200、200′の上側摺動面206、208;210、212に対して位置決め、押圧される。固定ボルト462を螺合する間、第2と第3の治具440、440が、上側摺動面206、208;210、212等に接触して、位置決め凹部446a、448a:456a、458a内の摺動部材10がずれてしまうことを防止するために、第2と第3の治具440、445をキャリッジ200、200′に対して位置決めする更なる治具(図示せず)を用いてもよい。
【0059】
摺動部材10を上側摺動面206、208および下側摺動面210、212に対して一定の圧力を以て押圧するために、固定ボルト462は所定の締付トルクを以てボルト穴440aの内ねじに螺合することが好ましい。固定ボルト462を螺合した後、接着剤が硬化するのに要する所定の時間が経過するまで、第2と第3の治具440、450はキャリッジ200、200′に対して固定された状態で保持される。摺動部材10の背面に塗布した接着剤によっては、固定ボルト462を螺合した後、第2と第3の治具440、450およびキャリッジ200、200′を恒温器のような加熱器内に入れて、所定時間、所定の高温に維持するようにしてもよい。
【0060】
次いで、主摺動面204、上側摺動面206、208および下側摺動面210、212の表面に貼付された摺動部材10の表面が、
図12、13に示すような回転工具で仕上げ加工される。
図12は、主摺動面204および下側摺動面210、212に貼付した摺動部材10を仕上げ加工するための回転工具の一例を示しており、
図13は、上側摺動面206、208に貼付した摺動部材10を仕上げ加工するための回転工具を示している。
【0061】
図12において、回転工具410は正面フライスであり、工具ホルダ404に装着するシャンク部412と、該シャンク部412に結合された円錐台状のカッタボディ414とを有している。カッタボディ414には、複数の底刃416が周方向に等間隔で配設されている。また、円錐台状のカッタボディ414は、底刃416が配設されている底面に対する円錐面の母線の角度は、主摺動面204に貼付した摺動部材10の仕上げ加工の間に、カッタボディ414の表面(円錐面)が上側摺動面206、208の摺動部材10に干渉しない角度とする。
【0062】
図13において、回転工具420は、工具ホルダ404に装着するシャンク部422と、該シャンク部422に結合された倒立円錐台状のカッタボディ424とを有している。カッタボディ424には、複数の上刃426が周方向に等間隔に配設されている。また、円錐台状のカッタボディ424は、上刃426とは反対側の底面に対する円錐面の母線の角度は、上側摺動面206、208に貼付した摺動部材10の仕上げ加工の間に、カッタボディ424の表面(円錐面および底面)が主摺動面204の摺動部材10に干渉しない角度とする。
【0063】
上述のように、主軸に回転工具410を装着し、テーブル400をA軸方向にO°の角度位置に位置決めして、回転工具410をテーブル400に対してX軸方向に相対送りして、回転工具410の底刃416で、主摺動面204の摺動部材10を仕上げ加工する(
図14)。本実施形態のように、回転工具410の底刃416の直径が主摺動面204の幅よりも小さい場合には、Y軸方向に複数の位置、
図14では、2つの位置で回転工具410をテーブル400に対してX軸方向に相対送りしている。
【0064】
次いで、キャリッジ200、200′の第1と第2の腕部222、224の一方、
図15では、第1の腕部222の先端部内側に形成された下側摺動面210の傾斜角度に合わせて、テーブル400をA軸方向に回転位置決めし、回転工具410をテーブル400に対してX軸方向に相対送りして、回転工具410の底刃416で下側摺動面210の摺動部材10を仕上げ加工する。次いで、主軸に装着されている回転工具410を回転工具420に交換し、回転工具420をテーブル400に対してX軸方向に相対送りして、回転工具420の上刃426で反対側の第2の腕部224の上側摺動面208の摺動部材10を仕上げ加工する。上側摺動面208の傾斜角度が下側摺動面210の傾斜角度と異なる場合には、上側摺動面208の摺動部材10を仕上げ加工する前に、上側摺動面208の傾斜角度に適合するように、テーブル400をA軸方向に回転位置決めすることは言うまでもない。
【0065】
次いで、上側摺動面208とは反対側の上側摺動面206の傾斜角度に適合するように、テーブル400をA軸方向に回転位置決めし、回転工具420をテーブル400に対してX軸方向に相対送りして、回転工具420の上刃426で上側摺動面206の摺動部材10を仕上げ加工する。次いで、主軸に装着されている回転工具420を回転工具410に交換し、回転工具410をテーブル400に対してX軸方向に相対送りして、回転工具410の底刃416で下側摺動面212の摺動部材10を仕上げ加工する。下側摺動面212の傾斜角度が上側摺動面206の傾斜角度と異なる場合には、下側摺動面212の摺動部材10を仕上げ加工する前に、下側摺動面212の傾斜角度に適合するように、テーブル400をA軸方向に回転位置決めすることは言うまでもない。
【0066】
また、上記の説明では、主摺動面204、下側摺動面210、上側摺動面208、上側摺動面206および下側摺動面212の順序で各摺動部材10を仕上げ加工するようになっているが、本発明は、この順序に限定されない。仕上げ加工する摺動面の順序は、加工を行う工作機械側の条件やワークの搬入、搬出方法その他の条件によって適宜決定することができる。また、回転工具410、420は、正面フライスに代えて、ダイヤモンド砥粒を用いたカップ砥石でもよい。
【0067】
図21、22を参照して、既述の実施形態による滑り直動ガイド装置100を用いた直動ガイドシステムを説明する。
図21、22において、直動ガイドシステム900は、レール910と、レール910の案内面912に沿って往復動するキャリッジ902を含む。キャリッジ902の摺動面914には、
図4~6に示した摺動部材10が貼付されている。
【0068】
図21、22を参照すると、レール910は既述の実施形態ではレール300によって形成される。案内面912は主案内面302、上側案内面304、306、下側案内面308、310によって形成される。キャリッジ902は、キャリッジ200、200′によって形成される。摺動面914は主摺動面204、上側摺動面206、208、下側摺動面210、212によって形成される。
【0069】
キャリッジ902は、潤滑油帰還通路904、第1の通路906および第2の通路908を有している。潤滑油帰還通路904は、キャリッジ200、200′の潤滑油帰還通路230、232、242、244、254、256によって形成される。第1の通路906は、キャリッジ200の潤滑油供給通路234a、234b;238a、238b;246a、246b;250a、250b;258a、258b;262a、262b、および、キャリッジ200′の潤滑油供給通路234a、234b;238a、238b;276a、278a、280a;282a、284a、286aによって形成される。第2の通路908は、キャリッジ200の潤滑油排出通路236a、236b;240a、240b;248a、248b;252a、252b;260a、260b;264a、264b、および、キャリッジ200′の潤滑油排出通路236a、236b;240a、240b;276b、278b、280b;282b、284b、286bによって形成される。
【0070】
潤滑油は、潤滑油供給装置920から潤滑油供給管路922を介して第1の通路906に供給され、第2の通路908から潤滑油排出管路924を介して潤滑油供給装置920に回収される。潤滑油供給装置920は、第2の通路908および潤滑油排出管路924を介して摺動部材10から回収した潤滑油を貯留する潤滑油タンク926、潤滑油を冷却して温度を一定に制御するための潤滑油温度制御装置928、潤滑油タンク926から潤滑油を吸引し潤滑油供給管路922を介して第1の通路906へ潤滑油を圧送するポンプ930、ポンプ930の吐出側に設けられポンプ930により潤滑油中に発生する脈動を除去するアキュムレータ932を具備する。脈動の少ないポンプを用いたり、脈動の影響が問題とならない場合は、アキュムレータ932を省略してもよい。潤滑油温度制御装置928およびポンプ930は潤滑油制御装置940によって制御される。潤滑油制御装置940は、例えば、直動ガイドシステム900を適用する機械、例えば工作機械の機械制御装置(図示せず)またはNC装置の一部として構成することができる。
【0071】
また、潤滑油タンク926は、仕切り壁926cによって内部空間を受入側タンク926aと供給側タンク926bとに分割し、新しい潤滑油および潤滑油排出管路924からの潤滑油を受入側タンク926aに貯留し、該受入側タンク926aに貯留されている潤滑油を潤滑油温度制御装置928によって温度調整して供給側タンク926bに貯留し、該供給側タンク926bから潤滑油をポンプ930によってキャリッジ902へ供給するようにできる。
【0072】
キャリッジ902が、
図21において矢印A1で示すように、レール910に対して相対的に摺動部材10の第1のポート18a側に移動するとき、潤滑油ポケット14内の潤滑油は、矢印L1で示すように、キャリッジ902に対して相対的に摺動部材10の第2のポート18b側に移動する。これによって、潤滑油ポケット14内では、キャリッジ902の移動方向に関して後側となる第2のポート18b側が相対的に高圧になり第1のポート18a側が低圧となる。従って、潤滑油供給装置920から潤滑油供給管路922を介して第1の通路906へ供給された低温の潤滑油は、その一部が第1のポート18aから潤滑油ポケット14内に流入し、残りの部分は第2の通路908へ向けて潤滑油帰還通路904内を流通する。
【0073】
潤滑油ポケット14内に流入した潤滑油は、第2のポート18b側へ向けて潤滑油ポケット14内を流通して、第2のポート18bから第2の通路908および潤滑油排出管路924を介して潤滑油供給装置920へ回収される。潤滑油が潤滑油ポケット14内を流通する際、従前に潤滑油ポケット14内の摺動によって温度の上昇した潤滑油は、第1のポート18aから新たに供給される低温の潤滑油によって第2のポート18bを通じて潤滑油ポケット14から排出される。この潤滑油の入替り作用によって、摺動部材10および案内面912は冷却される。
【0074】
キャリッジ902が、
図22において矢印A2で示すように、レール910に対して相対的に潤滑油帰還通路904の第2のポート18b側に移動するとき、潤滑油ポケット14内の潤滑油は、矢印L2で示すように、キャリッジ902に対して相対的に潤滑油帰還通路904の第1のポート18a側に移動する。これによって、潤滑油ポケット14内では、キャリッジ902の移動方向に関して後側となる第1のポート18a側が相対的に高圧になり第2のポート18b側が低圧となる。従って、潤滑油ポケット14内の摺動によって温度の上昇した潤滑油は、第1のポート18aから第1の通路906へ向って流出し、第1の通路906からの低温の潤滑油と合流して幾分温度が低下し、潤滑油帰還通路904内に流入する。潤滑油帰還通路904内を流通する潤滑油の一部が、第2のポート18bから潤滑油ポケット14内に流入し、残りの部分は第2の通路908および潤滑油排出管路924を介して潤滑油供給装置920へ回収される。
【0075】
潤滑油が潤滑油ポケット14内を流通する際、従前に潤滑油ポケット14内に存在していた温度の上昇した潤滑油は、第2のポート18bから新たに供給される幾分温度が低下した潤滑油によって第1のポート18aを通じて潤滑油ポケット14から排出される。この潤滑油の入替り作用によって、摺動部材10および案内面912が冷却される。
【0076】
本実施の形態によれば、摺動部材10と案内面912との間の潤滑油を直接冷却可能となり、摺動部材10および案内面912の発熱領域を直接冷却可能となる。また、摺動部材10に形成されたランド部18に包囲された潤滑油ポケット14に潤滑油が供給されるので、摺動部材10と案内面912との間から漏洩する潤滑油量が低減される。
【0077】
図23、24を参照して、直動ガイドシステムの他の実施形態を説明する。
図23、24において、直動ガイドシステム500は、レール530と、レール530の案内面532に沿って往復動するキャリッジ502を含む。キャリッジ502の摺動面504には、
図4~6に示した摺動部材10が貼付されている。
【0078】
レール530は既述の実施形態ではレール300によって形成される。案内面532は主案内面302、上側案内面304、306、下側案内面308、310によって形成される。キャリッジ502は、キャリッジ200、200′によって形成される。摺動面504は主摺動面204、上側摺動面206、208、下側摺動面210、212によって形成される。
【0079】
キャリッジ502は、摺動部材10の第1のポート18aに連通する第1の通路506と、摺動部材10の第2のポート18bに連通する第2の通路508とを有している。第1の通路506は、キャリッジ200の潤滑油供給通路234a、234b;238a、238b;246a、246b;250a、250b;258a、258b;262a、262b、および、キャリッジ200′の潤滑油供給通路234a、234b;238a、238b;276a、278a、280a;282a、284a、286aによって形成される。第2の通路508は、キャリッジ200の潤滑油排出通路236a、236b;240a、240b;248a、248b;252a、252b;260a、260b;264a、264b、および、キャリッジ200′の潤滑油排出通路236a、236b;240a、240b;276b、278b、280b;282b、284b、286bによって形成される。キャリッジ502は、潤滑油帰還通路を備えていない。
【0080】
第1と第2の通路506、508は、第1と第2の管路510、512を介して切換弁518に接続されている。切換弁518は、潤滑油供給管路514と潤滑油排出管路516とによって潤滑油供給装置(図示せず)に接続されている。潤滑油供給装置は、
図21、22の潤滑油供給装置920と同様の潤滑油供給装置とすることができる。
【0081】
切換弁518は、一例として、ソレノイド520を有した2位置4ポートの方向制御弁とすることができる。ソレノイド520は、切換弁518のソレノイド制御装置600に接続されている。ソレノイド制御装置600は、例えば、
図21、22の潤滑油供給装置920のための潤滑油制御装置940の一部として構成したり、或いは、直動ガイドシステム900を適用する機械、例えば工作機械の機械制御装置(図示せず)またはNC装置の一部として構成することができる。切換弁518は、ソレノイド制御装置600によってソレノイド520が励磁されると、
図23に示す第1の位置から
図24に示す第2の位置に移動する。ソレノイド520が消磁されると、スプリング522の付勢力によって、第2の位置から第1の位置に移動する。
【0082】
切換弁518が、第1の位置にあるとき、第1の管路510が潤滑油供給管路514に連通し、第2の管路512が潤滑油排出管路516に連通する。切換弁518が、第2の位置にあるとき、第1の管路510が潤滑油排出管路516に連通し、第2の管路512が潤滑油供給管路514に連通する。
【0083】
潤滑油供給管路514には減圧弁524を配設することができる。減圧弁524は、例えば、直動ガイドシステム500を適用する機械、例えば工作機械の送りモータ(図示せず)の負荷トルクや、キャリッジ502に作用する負荷に応じて潤滑油ポケット14に供給する潤滑油の圧力(バックアップ圧力)を調節する圧力制御弁とすることができる。潤滑油排出管路516には背圧弁526を配設することができる。背圧弁526は潤滑油ポケット14内の圧力(潤滑油排出管路516の上流側の圧力)が所定値となるよう、圧力調節する圧力制御弁とすることができる。
【0084】
図23において、キャリッジ502が、摺動部材10の第1のポート18a側(矢印B1で示す方向)に移動するときは、潤滑油ポケット14内の潤滑油は、
図21、22の場合と同様に、キャリッジ502に対して相対的に摺動部材10の第2のポート18b側に移動する。このとき、ソレノイド制御装置600はソレノイド520を励磁して、切換弁518を第1の位置に駆動する。これにより、潤滑油ポケット14内の高温の潤滑油は、第2のポート18b、第2の管路512、切換弁518、潤滑油排出管路516を介して潤滑油供給装置へ排出されると共に、新たな低温の潤滑油が、潤滑油供給装置から潤滑油供給管路514、切換弁518、第1の管路510、第1のポート18aを介して潤滑油ポケット14内に供給される。これにより、摺動部材10および案内面532が冷却される。
【0085】
図24において、キャリッジ502が、摺動部材10の第2のポート18b側(矢印B2で示す方向)に移動するときは、潤滑油ポケット14内の潤滑油は、キャリッジ502に対して相対的に摺動部材10の第1のポート18a側に移動する。このとき、ソレノイド制御装置600はソレノイド520を消磁して、スプリング522の付勢力によって切換弁518が第2の位置に駆動される。これにより、潤滑油ポケット14内の高温の潤滑油は、第1のポート18a、第1の管路510、切換弁518、潤滑油排出管路516を介して潤滑油供給装置へ排出されると共に、新たな低温の潤滑油が、潤滑油供給装置から潤滑油供給管路514、切換弁518、第2の管路512、第2のポート18bを介して潤滑油ポケット14内に供給され、これにより、摺動部材10および案内面532が冷却される。
【0086】
図21、22の実施形態では、キャリッジ902が第1のポート18a側に移動するときには、反対方向の第2のポート18b側に移動するときよりも多くの潤滑油供給装置920からの潤滑油が摺動部材10に供給され、潤滑油ポケット14内の温度が下がることとなり、キャリッジ902の移動方向に関する潤滑油ポケット内の温度の不均一性が生じる。
【0087】
これに対して、
図23、24の実施形態では、切換弁518によって、摺動部材10の第1と第2のポート18a、18bの接続を潤滑油供給管路514と、潤滑油排出管路516との間で切り換えるようになっている。これにより、潤滑油ポケット14内の昇温した潤滑油は、その全量が、第1と第2のポート18a、18bのうちキャリッジ502の移動方向に関して後ろ側になるポートから排出され、新たに供給される低温の潤滑油の全量が、先頭側のポートから供給されるので、潤滑油の温度が、キャリッジ502の移動方向によって変化することがない。
【0088】
本発明は、既述した実施形態に限定されない。例えば、
図25、26に示すように、レール300の一方の端部にテーパレール350を設けることができる。テーパレール350は、レール300との接合部とは反対側の先端方向に全体的に先細りとなるように形成されている。テーパレール350は、レール300と同様に、主案内面352、上側案内面354、356、下側案内面358、360および遷移面262、264を有している。
【0089】
テーパレール350の主案内面352は、テーパレール350をレール300に接合したときに、レール300の主案内面302と面一となる。テーパレール350の上側案内面354、356、下側案内面358、360および遷移面262、264は、テーパレール350をレール300に接合したときに、レール300の上側案内面304、306と下側案内面308、310および遷移面322、324に対して段差なく接続される。
【0090】
テーパレール350のレール300の上側案内面304、306と下側案内面308、310および遷移面322、324によって形成される案内部は、テーパレール350の先端方向に拡開するように形成されている。
【0091】
テーパレール350は、また、レール300と同様に、主案内面352に対して垂直にテーパレール350を貫通する複数の貫通穴366が形成されており、該貫通穴366に固定ボルトを挿通して支持体のボルト穴の内ねじに螺合することによって、テーパレール350を支持体に固定することができる。キャリッジ200をテーパレール350の方から挿入して、レール300に所定のはめあいで嵌合させる。テーパレール350は送り軸の公称ストロークの外側に設置される。
【0092】
また、摺動部材10は、長期間の使用において摩耗することがある。摺動部材10が摩耗すると、キャリッジ200、200′を円滑に動作せることができなくなったり、レール300に対するキャリッジ200、200′の位置決め制度が低下する。そこで、
図27、28に示す実施形態による滑り直動ガイド装置100″では、キャリッジにギブを設けて、レール300に対するキャリッジ位置を調節可能にすることができるようになっている。
【0093】
図27、28において、キャリッジ200″は、ベース部220″と、該ベース部220″においてレール300の延設方向に延びる両縁部からレール300の方へ突出する第1と第2の腕部222″、224″を有して、コの字形の断面を有した部材である。第1と第2の腕部222″、224″の一方、本実施形態では、第2の腕部224″には、ギブ290を受容する欠切部292が形成されている。なお、
図27、28の滑り直動ガイド装置100″は、
図9に示すような形態で用いるのに適している。
【0094】
ギブ290は、キャリッジ200″の第2の腕部224″の上側摺動面208および下側摺動面212に相当する上側摺動面294aおよび下側摺動面294bを有している。上側摺動面294aおよび下側摺動面294bには、摺動部材10が貼付される。
【0095】
欠切部292は、少なくともレール300の案内部330に対面する側面(内側面)に開口するように、第2の腕部224″においてベース部220″の反対側の先端部に形成されている。欠切部292は、キャリッジ200″の中心軸O1方向の一方の端部291aから他方の端部291bへ貫通するように形成されている。
【0096】
特に、欠切部292内においてレール300の案内部に対面する側面290aは、前記一方の端部291aから他方の端部291bへ、横断軸O3方向に直線的にレール300に接近するように勾配が形成されている。
図27の例では、キャリッジ200″の前記一方の端部291a側から他方の端部291bの方向にギブ290を押圧することによって、ギブ290はレール300へ向けて横断軸O3の方向に移動する。これにより、摺動部材10の摩耗によりキャリッジ200″とレール300との間の摺動抵抗を適正値に調整できる。
【0097】
キャリッジ200″のベース部220″および第1の腕部222″にも、キャリッジ200″の潤滑油帰還通路230、232、潤滑油供給通路276a、278a、280aおよび潤滑油排出通路276b、278b、280bが形成されている。
図27、28には特に図示されていないが、ギブ290にも同様の潤滑油帰還通路、潤滑油供給通路および潤滑油排出通路が形成されている。
【0098】
既述の実施形態による滑り直動ガイド装置100では、レール300は、主案内面302、上側案内面304、306、下側案内面308、310を有し、上側案内面304、306、下側案内面308、310によって概ねV字形の案内凹部が形成されている。本発明は、こうした形態に限定されない。
図29~
図31を参照して、本発明の更に他の実施形態を説明する。
【0099】
図29~
図31において、滑り直動ガイド装置150は、レール800に沿って案内され、往復動するキャリッジ700を備えている。滑り直動ガイド装置150のレール800は、ベース部802と、該ベース部802に一体的に形成される案内部804とを有している。案内部804には、第1の案内面または主案内面806、第2の案内面または上側案内面808、810とが形成されているが、下側案内面は形成されていない。ベース部802には、垂直軸O2方向に貫通する複数の固定穴820が形成されている。複数の固定穴820は、好ましくは、中心軸O1に沿って長手方向に等間隔に配置されている。
【0100】
キャリッジ700は、ベース部702と、該ベース部702においてレール800の延設方向に延びる両縁部からレール800の方へ突出する第1と第2の腕部704、706を有して、コの字形の断面を有した部材である。ベース部702、第1と第2の腕部704、706によって、レール800の案内部804を受容する受容凹部が形成される。
【0101】
ベース部702は、キャリッジ700をレール800に組み付けたときに、レール800の主案内面806に対面する第1の摺動面または主摺動面708が形成されている。主摺動面708には、内ねじが形成された複数の、少なくとも2つのボルト穴(図示せず)を形成することができる。
【0102】
第1と第2の腕部704、706の各々は、キャリッジ700をレール800に組み付けたときに、レール800の上側案内面808、810に対面する第2の摺動面または上側摺動面710、712を有している。本実施形態では、キャリッジ700は、第3の摺動面または下側摺動面は有していない。上側摺動面710、712は、キャリッジ700をレール800に組み付けたときに、それぞれ対面する上側案内面808、810に対して平行に延設されている。
【0103】
本実施形態では、上側摺動面710、712には、既述の実施形態と同様の摺動部材10が貼付されているが、主摺動面708には、
図32に示したような幅広の摺動部材11が貼付されている。摺動部材11は幅が広いので、第1と第2のポート18a、18bは、それぞれ2つずつ設けられている。第1と第2のポート18a、18bの個数は、適切な量の潤滑油を供給、排出できるように、摺動部材の幅、ポート径、潤滑油の性状、キャリッジに印加される負荷等の条件に応じて適宜決定できる。
【0104】
キャリッジ700には、各摺動部材10の第1と第2のポート18a、18bに連通している潤滑油帰還通路713、714、716、718を有している。キャリッジ700は、更に、キャリッジ200、200′と同様の潤滑油供給通路720a、720bおよび潤滑油排出通路722a、722bを有している。潤滑油供給通路および潤滑油排出通路は、例えば
図21、22に示した潤滑油供給装置920と同様の潤滑油供給装置に接続されている。
【0105】
図33において、レール800の底面812には、長手方向に液溝814が形成され、その周囲は閉じたループ状のシール部材816で取り囲まれている。レール800の底面812が、例えば工作機械の支持体に密着され、固定穴820にボルトを通してレール800が固定される。レール800に対してキャリッジ700が摺動すると、摩擦により熱が発生する。キャリッジ700に接着されている摺動部材10,11の熱伝導率よりレール800の熱伝導率の方がはるかに大きく、熱はもっぱらレール800に伝わり、レール800が発熱する。冷却液を液溝814の一端に連通する供給ポート818aから導入し、液溝814を長手方向に流通させ、液溝814の他端に連通した回収ポート818bから回収する。レール800の発熱は、液溝814を流通する冷却液(図示せず)により脱熱され、工作機械の熱変形は低減される。
【0106】
図34、35において、キャリッジ700の第2の腕部706にギブ730が第1の腕部704に対面するように装着されている。
図34において、ギブ730の摺動部材10の貼付面732は、垂直軸O2に対して例えば15°傾斜している。ギブ730の反対面734は、垂直軸O2に対して例えば20°傾斜している。つまり、ギブ730は傾斜の深さ方向に対して勾配が付き、深いほど厚さが薄く形成されている。ギブ730の高さは、レール800を受容する受容凹部の高さとほぼ同じである。また、ギブ730の長さは、キャリッジ700の長さとほぼ同じか、若干短くなっている。ギブ730の貼付面732には、摺動部材10が接着剤によって貼付される。なお、キャリッジ700の第1の腕部704の上側摺動面710は、垂直軸O2に対して-15°傾斜しており、ギブ730の摺動面733は、上側摺動面710と垂直軸O2に関して対称形をしている。
【0107】
図34において、キャリッジ700の第2の腕部706には、垂直軸O2に対して20°傾斜したギブ受け面736が形成され、ギブ730の反対面734が密着する。ギブ730の反対面734には、キャリッジ700の第2の腕部706の外側から反対面734に垂直にボルト738が貫通して螺合している。第2の腕部706のボルト738の通し穴は、上下方向に径が大きい長穴に形成され、座金740を介して、長手方向3か所にあるボルト738を締め付けると、ギブ730はキャリッジ700に固定される。
【0108】
また、ギブ730は、傾斜の深さ方向に圧縮ばね750で常時付勢されている。圧縮ばね750は、キャリッジ700に形成されたばね室752に収容され、圧縮ばね750を貫通し、ギブ730に螺合したボルト754が、キャリッジ700の上面の座ぐり穴756からギブ730を引っ張り上げるように保持している。圧縮ばね750、ボルト754は長手方向4か所に設けられている。ボルト738を緩め、ボルト754を圧縮ばね754のばね力に抗して締めると、ギブ730がギブ受け面736に沿って上昇し、受容凹部の開口は広がる。この場合、上述の実施形態のテーパレール350を用いなくとも、キャリッジ700をレール800に組み付けるのが容易になる。こうしてキャリッジ700をレール800に組付け後、ボルト754を緩めて、ギブ730がレール800に密着し、適切な摺動抵抗になるようにボルト754の締付けトルクを調整する。そしてボルト738を締め付ける。なお、キャリッジ700には、ギブ730が上昇できるように凹所758が形成されている。
【0109】
ギブ730の摺動面733には、上側摺動面710と同様に潤滑油ポケット、第1の通路、第2の通路を有し、さらに潤滑油帰還通路、潤滑油供給管路、潤滑油排出管路を有している。流体継手760,762は、ポンプから潤滑油供給管路へのポート、および潤滑油排出管路から外部へのポートである。なお、摺動部材11の摺動面733の加工は、ボルト754を所定のトルクで締め付けた状態でボルト738を締め付けてギブ730をキャリッジ700に固定した状態で、レール800の寸法に合わせて行う。このような形態のギブ730を用いることによって、経年変化で摺動抵抗が変化したとき、ボルト738を一旦緩め、ボルト754の締付けトルクを調整することによって、圧縮ばね750のばね力でギブ730が下方へ押圧され、適正な摺動抵抗を容易に得ることができる。
【符号の説明】
【0110】
10 摺動部材
12 ランド部
14 潤滑油ポケット
16 凸部
18a 第1のポート
18b 第2のポート
100 滑り直動ガイド装置
200 キャリッジ
230 潤滑油帰還通路
234a 潤滑油供給通路
234b 潤滑油供給通路
236a 潤滑油排出通路
236b 潤滑油排出通路
242 潤滑油帰還通路
300 レール