(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】錫めっき液及び錫合金めっき液
(51)【国際特許分類】
C25D 3/32 20060101AFI20230314BHJP
H01L 21/60 20060101ALN20230314BHJP
【FI】
C25D3/32
H01L21/92 604B
(21)【出願番号】P 2019130823
(22)【出願日】2019-07-16
【審査請求日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2018136599
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】巽 康司
(72)【発明者】
【氏名】古山 大貴
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-074963(JP,A)
【文献】特開2001-234387(JP,A)
【文献】特開2018-123421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00- 3/66
H01L 21/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性錫塩(A)と、ナフタレン系カルボニル化合物(B)と、不飽和カルボン酸(C)と、界面活性剤(D)とを含む錫めっき液であって、
前記界面活性剤(D)がポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンであり、
前記ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する前記界面活性剤(D)のモル比率(D/B)が0.5以上であり、
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンのポリオキシプロピレン(PO)に対するポリオキシエチレン(EO)の比(EO/PO比)が2~4であり、
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンのアルキル鎖における炭素数が16~18であり、
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンの質量平均分子量が2000~4000である
ことを特徴とする錫めっき液。
【請求項2】
前記ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する前記界面活性剤(D)のモル比率(D/B)が1以上10以下である請求項1記載の錫めっき液。
【請求項3】
可溶性錫塩(A)と、ナフタレン系カルボニル化合物(B)と、不飽和カルボン酸(C)と、界面活性剤(D)と、錫より貴な金属の可溶性塩(E)と、スルフィド化合物(F)を含む錫合金めっき液であって、
前記界面活性剤(D)がポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンであり、
前記ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する前記界面活性剤(D)のモル比率(D/B)が0.5以上であり、
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンのポリオキシプロピレン(PO)に対するポリオキシエチレン(EO)の比(EO/PO比)が2~4であり、
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンのアルキル鎖における炭素数が16~18であり、
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンの質量平均分子量が2000~4000であり、
前記スルフィド化合物(F)が下記一般式(1)で示される
ことを特徴とする錫合金めっき液。
【化1】
ただし、nは1~3である。
【請求項4】
前記ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する前記界面活性剤(D)のモル比率(D/B)が1以上10以下である請求項3記載の錫合金めっき液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路チップを回路基板に搭載する際に基板上に錫又は錫合金の突起電極となるバンプを製造するための錫めっき液及び錫合金めっき液に関する。更に詳しくは、建浴以降の液性状が安定であって消泡性が高く基板上のビアへのビアフィリング性に優れる錫めっき液及び錫合金めっき液に関するものである。本明細書では、ポリオキシエチレンをPOE又はEOということもある。またポリオキシプロピレンをPOP又はPOということもある。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のめっき液として、(a)メタクリル酸及びアクリル酸から選ばれるカルボキシル基含有化合物の1種又は2種と、(b)ベンザルアセトン、ナフトアルデヒド及びクロロベンズアルデヒドから選ばれるカルボニル基含有化合物の1種又は2種を含有する錫又は錫合金用電気めっき液が開示されている(例えば、特許文献1(請求項1、段落[0007]、段落[0011]、段落[0031])参照。)。このめっき液は、成分(a)が1.3g/L以上及び成分(b)が0.3g/L以上であり、成分(a)に対する成分(b)のモル比が10以下である。この発明の実施例のめっき液には、界面活性剤として、ポリオキシエチレンラウリルアミンが使用されている。
【0003】
特許文献1には、めっき液に、成分(a)のカルボキシル基含有化合物とともに特定の化合物である成分(b)のベンザルアセトン、ナフトアルデヒド等のカルボニル基含有化合物を特定の濃度で含有させ、このめっき液を用いて被めっき物に電気めっきすると、ブラインドビア又はスルーホールを信頼性高く短時間で充填する効果があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される成分(b)の特定の化合物は、成分(a)と併用することにより、上記優れた効果がある反面、水溶性が低く、建浴後及び電解めっき後のめっき液の安定性を悪化させる一因となっていた。また特許文献1の実施例に示される界面活性剤のポリオキシエチレンラウリルアミンは、他のめっき液成分と混合してめっき液を建浴するときに、非常に泡立ち、めっき装置内での泡立ちによる運用上の問題があった。このため、上記特定の化合物に対して水溶性が高く、建浴以降のめっき液の安定性に寄与し、かつ建浴時の消泡性に優れた界面活性剤が求められていた。
【0006】
本発明の目的は、建浴以降の液性状が安定であって消泡性が高く基板上のビアへのビアフィリング性に優れる錫めっき液を提供することにある。本発明の別の目的は、建浴以降の液性状が安定であって消泡性が高く基板上のビアへのビアフィリング性に優れる錫合金めっき液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、可溶性錫塩(A)と、ナフタレン系カルボニル化合物(B)と、不飽和カルボン酸(C)と、界面活性剤(D)とを含む錫めっき液である。その特徴ある点は、前記界面活性剤(D)がポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンであり、前記ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する前記界面活性剤(D)のモル比率(D/B)が0.5以上であり、前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンのポリオキシプロピレン(PO)に対するポリオキシエチレン(EO)の比(EO/PO比)が2~4であり、前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンのアルキル鎖における炭素数が16~18であり、前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンの質量平均分子量が2000~4000であることにある。
【0008】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する前記界面活性剤(D)のモル比率(D/B)が1以上10以下である錫めっき液である。
【0009】
本発明の第3の観点は、可溶性錫塩(A)と、ナフタレン系カルボニル化合物(B)と、不飽和カルボン酸(C)と、界面活性剤(D)と、錫より貴な金属の可溶性塩(E)と、スルフィド化合物(F)を含む錫合金めっき液である。その特徴ある点は、前記界面活性剤(D)がポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンであり、前記ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する前記界面活性剤(D)のモル比率(D/B)が0.5以上であり、前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンのポリオキシプロピレン(PO)に対するポリオキシエチレン(EO)の比(EO/PO比)が2~4であり、前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンのアルキル鎖における炭素数が16~18であり、前記アルキルアミンの質量平均分子量が2000~4000であり、前記スルフィド化合物(F)が下記一般式(1)で示されることにある。ただし、nは1~3である。
【0010】
【0011】
本発明の第4の観点は、第3の観点に基づく発明であって、前記ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する前記界面活性剤(D)のモル比率(D/B)が1以上10以下である請求項3記載の錫合金めっき液である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の観点の錫めっき液では、ナフタレン系カルボニル化合物(B)と不飽和カルボン酸(C)を用いることにより、基板上のビアへのビアフィリング性を高めることができる。またこの錫めっき液は、界面活性剤(D)として、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンを用い、ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する界面活性剤(D)のモル比率(D/B)を0.5以上にし、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンのポリオキシプロピレン(PO)に対するポリオキシエチレン(EO)の比(EO/PO比)を2~4とし、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンのアルキル鎖における炭素数が16~18とし、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミンの質量平均分子量を2000~4000とすることにより、建浴以降の液性状が安定であって消泡性に優れる特長がある。
【0013】
本発明の第2の観点の錫めっき液では、ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する界面活性剤(D)のモル比率(D/B)を1以上10以下にすることにより、めっき液の安定性がより一層優れ、めっき膜の膜厚が均一になる。
【0014】
本発明の第3の観点の錫合金めっき液では、上記一般式(1)で示されるスルフィド化合物(F)を用いる。この錫合金めっき液は、上記第1の観点に基づく発明の効果を有することに加えて、このスルフィド化合物が上述した一般式(1)において、分子中に酸素原子「-O-」を含むため、水との水素結合により、スルフィド化合物の水溶性を上げる効果がある。またS原子間にエーテル結合「C-O-C」が存在することにより、化合物自体の安定性に優れ、かつS原子を2~4個含むため、このS原子がめっき浴中の錫より貴な金属イオンを十分に錯体化して安定化することができる。これにより、この錫合金めっき液は使用中も保管中も長期間にわたって電解安定性及び経時安定性に優れる。また、めっき電極表面へのスルフィド化合物の吸着が適切に行われるため、界面活性剤(D)を併用した場合、界面活性剤の作用を阻害することが無い。
【0015】
本発明の第4の観点の錫合金めっき液では、ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する界面活性剤(D)のモル比率(D/B)を1以上10以下にすることにより、めっき液の安定性がより一層優れ、めっき膜の膜厚が均一になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例及び比較例のめっき液の基板上のビアへのビアフィリング性を評価するための凹み付き基板の断面構造を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0018】
<第1の実施の形態>
第1の実施形態のめっき液は、錫めっき液であって、可溶性錫塩(A)と、ナフタレン系カルボニル化合物(B)と、不飽和カルボン酸(C)と、界面活性剤(D)とを含む。
この錫めっき液の特徴ある点は、上記界面活性剤(D)がポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミン(以下、POE・POPアルキルアミンという。)であり、上記ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する前記界面活性剤(D)のモル比率(D/B)が0.5以上であり、上記POE・POPアルキルアミンのポリオキシプロピレン(PO)に対するポリオキシエチレン(EO)の比(EO/PO比)が2~4であり、上記POE・POPアルキルアミンのアルキル鎖における炭素数が16~18であり、上記POE・POPアルキルアミンの質量平均分子量が2000~4000であることにある。
【0019】
第1の実施形態の可溶性錫塩(A)はめっき液中でSn2+イオンを生成する可溶性塩である。例えば、錫の酸化物、ハロゲン化物、無機酸又は有機酸の錫塩などが挙げられる。具体的には、酸化第一錫、塩化第一錫、硫酸第一錫、錫酸ナトリウム、ホウフッ化第一錫、メタンスルホン酸第一錫、エタンスルホン酸第一錫等が挙げられる。この可溶性錫塩(A)の配合量は、錫量換算で、好ましくは5g/L以上200g/L以下、更に好ましくは20g/L以上100g/L以下である。ここで、可溶性錫塩(A)の好ましい配合量を錫量換算で5g/L以上200g/L以下の範囲内に限定したのは、5g/L未満では緻密なめっき皮膜になり難く、200g/Lを超えるとめっき皮膜の膜厚の均一性が低下し易くなるおそれがあるからである。
【0020】
第1の実施形態のナフタレン系カルボニル化合物(B)としては、1-ナフトアルデヒド、2-ナフトアルデヒド、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸、ベンズアルデヒド、ベンザルアセトン、グルタルアルデヒド、クロトンアルデヒド等より選ばれる少なくとも1種又は2種以上の化合物が挙げられる。ナフトアルデヒドは、その誘導体、例えば、2-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒド、2-メトキシ-1-ナフトアルデヒド、2-エトキシ-1-ナフトアルデヒド、4-メトキシ-1-ナフトアルデヒド、1-ヒドロキシ-2-ナフトアルデヒド、6-ヒドロキシ-2-ナフトアルデヒド、6-メトキシ-2-ナフトアルデヒド等が挙げられる。このナフタレン系カルボニル化合物は、水溶性に劣るため、メタノール、イソプロパノール等の溶剤と次に述べる界面活性剤(D)とにより、溶かしてから使用することが好ましい。このナフタレン系カルボニル化合物(B)の配合量は、好ましくは0.0001mol/L以上0.01mol/L以下、更に好ましくは0.0005mol/L以上0.005mol/L以下である。ここで、ナフタレン系カルボニル化合物(B)の好ましい配合量を0.0001mol/L以上0.01mol/L以下の範囲内に限定したのは、0.0001mol/L未満では十分なフィリング性能が得られ難くなるおそれがあり、0.01mol/Lを超えるとめっき皮膜の異常析出が生じるおそれがあるからである。
【0021】
第1の実施形態の不飽和カルボン酸(C)としては、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸等より選ばれる少なくとも1種又は2種以上の化合物を挙げることができる。上述したナフタレン系カルボニル化合物(B)とこの不飽和カルボン酸(C)とをめっき液に含有させることにより、基板上のビアへのビアフィリング性を高める効果がある。この不飽和カルボン酸(C)の配合量は、好ましくは0.1g/L以上10g/L以下、更に好ましくは0.5g/L以上5g/L以下である。ここで、不飽和カルボン酸(C)の好ましい配合量を0.1g/L以上10g/L以下の範囲内に限定したのは、0.1g/L未満ではめっき皮膜の膜厚の均一性が低下し易くなり、10g/Lを超えると十分なフィリング性能が得られ難くなるおそれがあるからである。
【0022】
第1の実施形態の界面活性剤(D)は、POE・POPアルキルアミンである。このアルキルアミンは、ポリオキシエチレン(EO)とポリオキシプロピレン(PO)の交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体又はランダム重合体からなっている。交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体の分子式の例を下記式(2)及び式(3)にそれぞれ示し、これらの共重合体の構造式の例を式(4)及び式(5)にそれぞれ示す。なお、式(4)及び式(5)において、POは(CH2CH(CH3)O)と示されているが、(CH(CH3)CH2O)となる場合もある。式(2)~式(5)において、Rはアルキル基であり、a、b、c、d、e、fは1以上の整数である。この場合、EO/PO比=(ae+bf)/(ce+df)である。
R-N-(EO)ae+bf-(PO)ce+df-H (2)
R-N-(PO)ae+bf-(EO)ce+df-H (3)
【0023】
【0024】
【0025】
またポリオキシエチレン(EO)とポリオキシプロピレン(PO)のランダム重合体の分子式の例を下記式(6)及び式(7)にそれぞれ示す。式(6)及び式(7)において、Rはアルキル基であり、p、qは1以上の整数である。この場合、EO/PO比=p/qである。
R-N-(EO)p-ran-(PO)q-H (6)
R-N-(PO)q-ran-(EO)p-H (7)
上記界面活性剤(D)の配合量は、好ましくは0.0001mol/L以上0.01mol/L以下、更に好ましくは0.0002mol/L以上0.005mol/L以下である。ここで、界面活性剤(D)の好ましい配合量を0.0001mol/L以上0.01mol/L以下の範囲内に限定したのは、0.0001mol/L未満では緻密なめっき皮膜が形成し難くなり、0.01mol/Lを超えるとめっき皮膜の膜厚の均一性が低下するおそれがあるからである。
【0026】
第1の実施形態の界面活性剤(D)に関して、次の特徴がある。先ず、ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する界面活性剤(D)のモル比率(D/B)が0.5以上であることにある。D/Bが0.5未満では、界面活性剤(D)がナフタレン系カルボニル化合物(B)を溶かす力(可溶化力)が弱く、めっき液を建浴した後のめっき液の安定性に劣る。好ましいモル比率(D/B)は1以上10以下である。
【0027】
次いで、界面活性剤(D)のPOE・POPアルキルアミンにおいて、ポリオキシプロピレン(PO)に対するポリオキシエチレン(EO)の比(EO/PO比)が2~4である特徴がある。EO/PO比が2未満では、POが多過ぎて、界面活性剤(D)のナフタレン系カルボニル化合物への可溶化力が劣り、建浴後、一定時間経過すると、めっき液が白濁化し、めっき液の安定性が悪くなる。またEO/PO比が4を超えると、EOが多過ぎて、めっき液の消泡性が悪くなる。
【0028】
次に、界面活性剤(D)のPOE・POPアルキルアミンのアルキル鎖における炭素数(以下、アルキル鎖長と呼ぶこともある。)が16~18である特徴がある。アルキル鎖長が16未満では、界面活性剤(D)のナフタレン系カルボニル化合物への可溶化力が劣り、建浴後、一定時間経過すると、めっき液が白濁化し、めっき液の安定性が悪くなる。またアルキル鎖長が18を超えると、めっき液の消泡性及びビアフィリング性が悪化する。
【0029】
更に、界面活性剤(D)の質量平均分子量が2000~4000である特徴がある。この質量平均分子量が2000未満では、界面活性剤(D)のナフタレン系カルボニル化合物への可溶化力が劣り、建浴直後と建浴してから一定時間経過すると、めっき液が白濁化し、めっき液の安定性が悪くなる。また質量平均分子量が4000を超えると、基板上のビアへのビアフィリング性に劣る。好ましい質量平均分子量は2500~3500である。なお、質量平均分子量は液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)により、測定することができる。
【0030】
<第2の実施の形態>
第2の実施形態のめっき液は、錫合金めっき液であって、可溶性錫塩(A)と、ナフタレン系カルボニル化合物(B)と、不飽和カルボン酸(C)と、界面活性剤(D)と、錫より貴な金属の可溶性塩(E)と、スルフィド化合物(F)を含む。この錫合金めっき液の特徴ある点は、上記界面活性剤(D)がPOE・POPアルキルアミンであり、上記ナフタレン系カルボニル化合物(B)に対する上記界面活性剤(D)のモル比率(D/B)が0.5以上であり、上記アルキルアミンのポリオキシプロピレン(PO)に対するポリオキシエチレン(EO)の比(EO/PO比)が2~4であり、上記アルキルアミンのアルキル鎖における炭素数が16~18であり、上記アルキルアミンの質量平均分子量が2000~4000であり、上記スルフィド化合物(F)が上述した一般式(1)で示されることにある。
【0031】
第2の実施形態の可溶性錫塩(A)、ナフタレン系カルボニル化合物(B)、不飽和カルボン酸(C)及び界面活性剤(D)は、第1の実施形態のそれらと同じであるので、繰返しての説明は省略する。
【0032】
第2の実施形態の錫より貴な金属の可溶性塩(E)は、水に溶解する塩である。この錫より貴な金属としては、金属は、銀、銅、ビスマス、ニッケル、アンチモン、インジウム、亜鉛等より選ばれる少なくとも1種又は2種以上の金属を挙げることができる。この可溶性塩(E)はめっき液中でAg+、Cu+、Cu2+、Bi3+、Ni2+、Sb3+、In3+、Zn2+等の各種金属イオンを生成する任意の可溶性塩を意味し、例えば、当該金属の酸化物、ハロゲン化物、無機酸又は有機酸の当該金属塩などが挙げられる。この錫より貴な金属の可溶性塩(E)の配合量は、錫より貴な金属量換算で、好ましくは0.05g/L以上10g/L以下、更に好ましくは0.1g/L以上5g/L以下である。
【0033】
上記金属酸化物としては、酸化銅、酸化銀、酸化ニッケル、酸化ビスマス、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化亜鉛などが挙げられ、金属のハロゲン化物としては、塩化ビスマス、臭化ビスマス、塩化第一銅、塩化第二銅、塩化ニッケル、塩化アンチモン、塩化インジウム、塩化亜鉛などが挙げられる。
【0034】
上記無機酸又は有機酸の金属塩としては、硫酸銅、硫酸ビスマス、硫酸ニッケル、硫酸アンチモン、硝酸ビスマス、硝酸銀、硝酸銅、硝酸アンチモン、硝酸インジウム、硝酸ニッケル、硝酸亜鉛、酢酸銅、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、メタンスルホン酸銀、メタンスルホン酸銅、メタンスルホン酸ビスマス、メタンスルホン酸ニッケル、メタンスルホン酸インジウム、ビスメタンスルホン酸亜鉛、2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ビスマスなどが挙げられる。
【0035】
錫合金めっき液から作られる錫合金は、錫と、銀、銅、ビスマス、ニッケル、アンチモン、インジウム、亜鉛より選ばれた所定金属との合金であり、例えば、錫-銀合金、錫-銅合金、錫-ビスマス合金、錫-ニッケル合金、錫-アンチモン合金、錫-インジウム合金、錫-亜鉛合金の2元合金、錫-銅-ビスマス、錫-銅-銀合金などの3元合金が挙げられる。
【0036】
第2の実施形態のスルフィド化合物(F)は、上述した一般式(1)で示され、nは1~3である。このスルフィド化合物は、濃硫酸やアルキルスルホン酸等の脱水作用をもつ強酸中でチオジエタオール(n=0)を脱水縮合して得られる。このときの反応温度、反応時間及び精製条件を変えることにより、一般式(1)中のnの値を制御することができる。このnが3を超えると、スルフィド化合物は水溶性でなくなり、疎水性となる。水溶液中でスルフィド化合物を溶解させるためには、nは3以下である必要がある。上述したように、スルフィド化合物が上述した一般式(1)において、分子中に酸素原子「-O-」を含むため、水との水素結合により、スルフィド化合物の水溶性を上げる効果がある。またS原子間にエーテル結合「C-O-C」が存在することにより、化合物自体の安定性に優れ、かつ、1つの分子中にS原子を2~4個含むため、このS原子がめっき浴中の錫より貴な金属イオンを十分に錯体化して安定化することができる。このスルフィド化合物の構造は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高速液体クロマトグラム質量分析計(LC-MS)、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、核磁気共鳴装置(NMR)等の分析機器を併用することにより分析することができる。
【0037】
第1の実施形態及び第2の実施形態で作られる錫又は錫合金のめっき液を用いてめっきするときの液温は一般に70℃以下、好ましくは10~40℃である。電気めっきによるめっき膜形成時の電流密度は、0.1A/dm2以上100A/dm2以下の範囲、好ましくは0.5A/dm2以上20A/dm2以下の範囲である。電流密度が低すぎると生産性が悪化し、高すぎるとバンプの高さ均一性が悪化してしまう。
【0038】
第1の実施形態及び第2の実施形態で作られる錫又は錫合金のめっき液を被めっき物である電子部品に適用して、電子部品に所定の金属皮膜を形成することができる。電子部品としては、プリント基板、フレキシブルプリント基板、フィルムキャリア、半導体集積回路、抵抗、コンデンサ、フィルタ、インダクタ、サーミスタ、水晶振動子、スイッチ、リード線などが挙げられる。
【実施例】
【0039】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0040】
(実施例及び比較例で用いる可溶性錫塩(A))
実施例1~17及び比較例1~11において使用される可溶性錫塩(A)を表1に示す。
【0041】
【0042】
(実施例及び比較例で用いるナフタレン系カルボニル化合物(B))
実施例1~17及び比較例1~11において使用されるナフタレン系カルボニル化合物(B)を表2に示す。
【0043】
【0044】
(実施例及び比較例で用いる不飽和カルボン酸(C))
実施例1~17及び比較例1~11において使用される不飽和カルボン酸(C)を表3に示す。
【0045】
【0046】
(実施例及び比較例で用いる界面活性剤(D))
実施例1~17及び比較例1~11において使用される界面活性剤(D)を表4に示す。
【0047】
【0048】
(実施例及び比較例で用いる錫より貴な金属の可溶性錫塩(E))
実施例1~17及び比較例1~11において使用される錫より貴な金属の可溶性錫塩(E)を表5に示す。
【0049】
【0050】
(Snめっき液の建浴)
<実施例1>
可溶性錫塩(A)としてのメタンスルホン酸Sn水溶液に、遊離酸としてのメタンスルホン酸と、不飽和カルボン酸(C)としてのメタクリル酸とを混合して、均一な溶液を調製した。一方、イソプロパノールと界面活性剤(D)としてのPOE・POPアルキルアミン(EO/PO比:2.1、アルキル鎖における炭素数:16、質量平均分子量:2700)とを混合し、この混合液にナフタレン系カルボニル化合物(B)としての1-ナフトアルデヒドを添加混合して、均一な溶液を調製した。2つの溶液を混合して撹拌し、最後にイオン交換水を加えて下記組成のSnめっき液を建浴した。なお、メタンスルホン酸Sn水溶液は、金属Sn板をメタンスルホン酸水溶液中で電解させることにより調製した。このSnめっき液では、界面活性剤(D)/ナフタレン系カルボニル化合物(B)のモル比率は5であった。
以下の表6に実施例1と次に述べる実施例2~14及び比較例1~9におけるめっき液の成分(A)、(B)、(C)、(D)及びモル比率(D)/(B)を示す。
【0051】
(Snめっき液の組成)
メタンスルホン酸Sn(Sn2+として):50g/L
メタンスルホン酸(遊離酸として):100g/L
ナフタレン系カルボニル化合物:0.001mol/L
不飽和カルボン酸:2g/L
界面活性剤:0.005mol/L
イソプロパノール:5g/L
イオン交換水:残部
【0052】
【0053】
<実施例2~11、14及び比較例1~7>
実施例2~11、14及び比較例1~7では、実施例1と同一の可溶性錫塩(A)としてのメタンスルホン酸Sn水溶液と、ナフタレン系カルボニル化合物(B)としての1-ナフトアルデヒドと、不飽和カルボン酸(C)としてのメタクリル酸をそれぞれ用いた。界面活性剤(D)としてのPOE・POPアルキルアミンは、表6に示す性状の界面活性剤を用いた。また界面活性剤(D)/ナフタレン系カルボニル化合物(B)のモル比率は表6に示すように調整した。具体的には、ナフタレン系カルボニル化合物(B)の含有量を実施例1と同様に0.001mol/Lに固定し、界面活性剤(D)の添加量を表6に示すモル比率となるように調整した。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例2~11、14及び比較例1~7のSnめっき液を建浴した。
【0054】
<実施例12>
ナフタレン系カルボニル化合物(B)として1-ナフトエ酸を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例12のSnめっき液を建浴した。
【0055】
<実施例13>
不飽和カルボン酸(C)としてクロトン酸を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例13のSnめっき液を建浴した。
【0056】
<比較例8>
界面活性剤(D)としてPOEアルキルアミン(EO/PO比:算出不能.アルキル鎖における炭素数:16、質量平均分子量:2300)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、比較例8のSnめっき液を建浴した。
【0057】
<比較例9>
界面活性剤(D)としてPOEアルキルアミン(EO/PO比:算出不能.アルキル鎖における炭素数:12、質量平均分子量:1850)を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、比較例9のSnめっき液を建浴した。
【0058】
(SnAgめっき液の建浴)
<実施例15>
可溶性錫塩(A)としてのメタンスルホン酸Sn水溶液に、遊離酸としてのメタンスルホン酸と、不飽和カルボン酸(C)としてのメタクリル酸と、錯体化剤としての一般式(1)のn=1のスルフィド化合物を混合して溶解させた。この溶液に更に錫より貴な金属の可溶性錫塩(E)としてのメタンスルホン酸Ag水溶液を加えて混合し、均一な溶液を調製した。一方、イソプロパノールと界面活性剤(D)としてのPOE・POPアルキルアミン(EO/PO比:2.1、アルキル鎖における炭素数:16、質量平均分子量:2700)とを混合し、この混合液にナフタレン系カルボニル化合物(B)としての1-ナフトアルデヒドを添加混合して、均一な溶液を調製した。2つの溶液を混合して撹拌し、最後にイオン交換水を加えて、下記組成のSnAgめっき液を建浴した。なお、メタンスルホン酸Sn水溶液及びメタンスルホン酸Ag水溶液は、金属Sn板及び金属Ag板をメタンスルホン酸水溶液中で電解させることにより調製した。このSnAgめっき液では、界面活性剤(D)/ナフタレン系カルボニル化合物(B)のモル比率は5であった。
以下の表7に実施例15と次に述べる実施例16、17及び比較例10におけるめっき液の成分(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、モル比率(D)/(B)及びスルフィド化合物のnの数を示す。
【0059】
(SnAgめっき液の組成)
メタンスルホン酸Sn(Sn2+として):50g/L
メタンスルホン酸Ag(Ag+として):0.5g/L
メタンスルホン酸(遊離酸として):100g/L
ナフタレン系カルボニル化合物:0.001mol/L
不飽和カルボン酸:2g/L
界面活性剤:0.005mol/L
スルフィド化合物:5g/L
イソプロパノール:5g/L
イオン交換水:残部
【0060】
【0061】
(SnCuめっき液の建浴)
<実施例16>
錫より貴な金属の可溶性錫塩(E)としてのメタンスルホン酸Cu水溶液を実施例15と同様に調製した。そして、メタンスルホン酸Ag水溶液の代わりに、調整したメタンスルホン酸Cu水溶液を用いた。上記以外は、実施例15と同様にして、実施例16のめっき液を建浴した。
【0062】
(SnCuめっき液の組成)
メタンスルホン酸Sn(Sn2+として):50g/L
メタンスルホン酸Cu(Cu2+として):0.5g/L
メタンスルホン酸(遊離酸として):100g/L
ナフタレン系カルボニル化合物:0.001mol/L
不飽和カルボン酸:2g/L
界面活性剤:0.005mol/L
錯体化剤:5g/L
イソプロパノール:5g/L
イオン交換水:残部
【0063】
(SnAgCuめっき液の建浴)
<実施例17>
錫より貴な金属の可溶性錫塩(E)としてのメタンスルホン酸Ag水溶液とメタンスルホン酸Cu水溶液を実施例15と同様に調製した。そして、メタンスルホン酸Ag水溶液の代わりに、調整したメタンスルホン酸Ag水溶液とメタンスルホン酸Cu水溶液を用いた。上記以外は、実施例15と同様にして、実施例17のめっき液を建浴した。
【0064】
(SnAgCuめっき液の組成)
メタンスルホン酸Sn(Sn2+として):50g/L
メタンスルホン酸Ag(Ag+として):0.5g/L
メタンスルホン酸Cu(Cu2+として):0.5g/L
メタンスルホン酸(遊離酸として):100g/L
ナフタレン系カルボニル化合物:0.001mol/L
不飽和カルボン酸:2g/L
界面活性剤:0.005mol/L
錯体化剤:5g/L
イソプロパノール:5g/L
イオン交換水:残部
【0065】
(SnAgめっき液の建浴)
<比較例10>
錯体化剤として、一般式(1)のnが0であるスルフィド化合物を加えた以外は、実施例15と同様にしてSnAgめっき液を建浴した。
【0066】
<比較例11>
錯体化剤として、一般式(1)のnが4であるスルフィド化合物を加えた以外は、実施例15と同様にしてSnAgめっき液を建浴した。
【0067】
<比較試験及び評価>
実施例1~17及び比較例1~11の28種類の建浴しためっき液の液性状の安定性と、消泡性と、基板上のビアへのビアフィリング性を評価した。実施例1~14及び比較例1~9の結果を表8に、実施例15~17及び比較例10、11の結果を表9にそれぞれ示す。
【0068】
(1)液性状の安定性
28種類のめっき液を建浴した直後、建浴から一定時間保管した後の経時保管後及び電解後の液の外観を目視で観察した。具体的には、建浴直後のめっき液をガラス製の透明なボトルに密封して液の外観を目視で観察した。またこのボトルをインキュベーター内で40℃で1ヶ月保管した後の液の外観を目視で観察した。更に電解液中にアノードとして金属Sn板を、カソードとしてSUS板をそれぞれ配置し、浴温30℃、カソード電流密度4A/dm2で50Ah/Lまで電解めっきを行った。電解後のめっき液をガラス製の透明なボトルに入れて液の外観を目視で観察した。目視観察で、液が透き通った状態のものを「透明」と判定し、白濁化するものを「白濁」と判定し、液成分が沈殿するものを「沈殿」と判定した。
【0069】
(2)めっき液の消泡性
ロスマイルス試験機を用いて、28種類のめっき液を滴下し、滴下終了直後を初期として5分後の泡の高さを測定した。5分後の泡の高さが初期の1/4未満を「良」と判定し、1/4以上1/3未満を「可」と判定し、1/3以上を「不可」と判定した。
【0070】
(3)基板上のビアへのビアフィリング性
図1に示すように、基板1上にソルダーレジスト(SR)2及びドライフィルムレジスト(DFR)3が形成された凹み付き基板4を用意した。5はCu導通層である。ここで、DFR3の開口径は75μmであり、DFR3の厚さは50μmであった。またSR2の開口径は30μmであり、SR2の厚さは15μmであった。この凹み付き基板4をカソードとして、金属Sn板をアノードとして、図示しない電解液中にそれぞれ配置し、浴温30℃、カソード電流密度2A/dm
2で電解めっきを行った。このめっきにより膜厚40μmのSnめっき皮膜(バンプ)6を得た。めっき後のバンプ6の断面SEM像から、
図1に示すように、バンプトップの凹み深さdを計測し、深さdが2μm未満を{良}と判定し、2μm以上5μm未満を「可」と判定し、5μm以上を「不可」と判定した。
【0071】
【0072】
【0073】
表8から明らかなように、比較例1では、建浴直後のめっき液は「透明」であり、めっき液の消泡性及びビアフィリング性はそれぞれ「良」であったが、EO/PO比が1.0と小さ過ぎ、POが多過ぎたため、界面活性剤自体の1-ナフトアルデヒドへの可溶化力が不足し、経時保管後及び電解後のめっき液が白濁化し、めっき液の安定性が悪かった。
【0074】
比較例2では、建浴直後、経時保管後及び電解後のめっき液はそれぞれ「透明」であり、めっき液は安定しており、かつビアフィリング性は「良」であったが、EO/PO比が5.2と大き過ぎ、EOが多過ぎたため、めっき液の消泡性が「不可」であった。
【0075】
比較例3では、建浴直後のめっき液は「透明」であり、めっき液の消泡性及びビアフィリング性はそれぞれ「良」であったが、POE・POPアルキルアミンのアルキル鎖における炭素数(アルキル鎖長)が12と少な過ぎた。このアルキル鎖長が短過ぎると、界面活性剤自体の1-ナフトアルデヒドへの可溶化力が不足し、経時保管後及び電解後のめっき液が白濁化し、めっき液の安定性が悪かった。
【0076】
比較例4では、建浴直後及び経時保管後のめっき液は「透明」であり、めっき液の消泡性及びビアフィリング性はそれぞれ「良」であったが、POE・POPアルキルアミンのアルキル鎖における炭素数(アルキル鎖長)が14と少な過ぎた。比較例3よりも炭素数が僅かに多かったため、界面活性剤自体の1-ナフトアルデヒドへの可溶化力が若干不足し、電解後のめっき液が白濁化し、めっき液の安定性が悪かった。
【0077】
比較例5では、建浴直後、経時保管後及び電解後のめっき液はそれぞれ「透明」であり、めっき液は安定していたが、POE・POPアルキルアミンのアルキル鎖における炭素数(アルキル鎖長)が20と多過ぎた。このアルキル鎖長が長過ぎると、めっき液の消泡性及びビアフィリング性がそれぞれ「不可」であった。
【0078】
比較例6では、めっき液の消泡性は「良」であったが、POE・POPアルキルアミンの質量平均分子量が850と小さ過ぎたため、界面活性剤自体の1-ナフトアルデヒドへの可溶化力が不足し、建浴直後、経時保管後及び電解後のめっき液はそれぞれ白濁化した。またビアフィリング性も「不可」であった。
【0079】
比較例7では、建浴直後、経時保管後及び電解後のめっき液はそれぞれ「透明」であり、めっき液は安定しており、かつめっき液の消泡性は「良」であったが、POE・POPアルキルアミンの質量平均分子量が4500と大き過ぎたため、ビアフィリング性が「不可」であった。
【0080】
比較例8では、建浴直後、経時保管後及び電解後のめっき液はそれぞれ「透明」であり、めっき液は安定しており、かつビアフィリング性は「良」であったが、界面活性剤がPOEアルキルアミンであったため、めっき液の消泡性が「不可」であった。
【0081】
比較例9では、建浴直後のめっき液は「透明」であり、かつビアフィリング性は「良」であったが、界面活性剤がPOEアルキルアミンであり、かつその質量平均分子量が1850と小さ過ぎたため、経時保管後及び電解後のめっき液が白濁化し、めっき液の安定性が悪かった。まためっき液の消泡性も「不可」であった。
【0082】
これに対して、実施例14において電解後のめっき液が白濁化していたものの、経時保管後及び電解後のめっき液はそれぞれ「透明」であり、めっき液は安定していた。実施例1~13では、建浴直後、経時保管後及び電解後のめっき液はそれぞれ「透明」であり、めっき液は安定していた。また実施例1~14では、めっき液の消泡性は「良」又は「可」であり、かつビアフィリング性も「良」又は「可」であった。
【0083】
表9から明らかなように、比較例10では、建浴直後のめっき液は「透明」であり、めっき液の消泡性及びビアフィリング性はそれぞれ「良」であったが、錯体化剤として、一般式(1)のnが0であるスルフィド化合物を加えたため、Agイオンが十分に錯体化されずに金属Ag及び/又はAg化合物となって、経時保管後及び電解後のめっき液に沈殿し、めっき液の安定性が悪かった。
【0084】
比較例11では、錯体化剤として、一般式(1)のnが4であるスルフィド化合物を加えたため、スルフィド化合物の水溶性が悪く、建浴直後のめっき液が白濁化し、めっき液の安定性が悪かった。またビアフィリング性が「不可」であった。
【0085】
これに対して、実施例15~17では、建浴直後、経時保管後及び電解後のめっき液はそれぞれ「透明」であり、めっき液は安定していた。また実施例15~17では、めっき液の消泡性及びビアフィリング性はそれぞれ「良」であった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のめっき液は、プリント基板、フレキシブルプリント基板、フィルムキャリア、半導体集積回路、抵抗、コンデンサ、フィルタ、インダクタ、サーミスタ、水晶振動子、スイッチ、リード線などの電子部品の一部に利用することができる。