(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】綿ベース原料をパルプ化する方法
(51)【国際特許分類】
D21H 11/12 20060101AFI20230314BHJP
D21C 3/02 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
D21H11/12
D21C3/02
(21)【出願番号】P 2019534661
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2017084357
(87)【国際公開番号】W WO2018115428
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-17
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507127314
【氏名又は名称】レンチング アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】シルバーマン、シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイラッハ、クリスチャン
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-093601(JP,A)
【文献】特開昭49-108301(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101289818(CN,A)
【文献】米国特許第05609762(US,A)
【文献】特開平07-165938(JP,A)
【文献】特開昭54-142303(JP,A)
【文献】特開昭57-176283(JP,A)
【文献】特開昭61-012991(JP,A)
【文献】特表2016-537521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00~D21J7/00
C08B1/00~37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a. i.約90℃~約185℃の温度、
ii.約45分~約270分のインキュベーション時間、
iii.セルロース安定化添加剤の存在下、
iv.綿ベース原料に対して約1%(w/w)~約35%(w/w)のアルカリ濃度、及び
v.約1バール~約21バール(約0.1MPa~約2.1MPa)の初期ガス圧で、
加圧容器中において、綿ベース原料を、アルカリ性溶液と共に、気体状酸化剤と組み合わせてインキュベートする工程;及び
b.生成したパルプを洗浄する工程
を含み、
前記綿ベース原料がプレコンシューマ材料またはポストコンシューマ材料であり、
前記セルロース安定化添加剤が、マグネシウム塩又は遷移金属キレート剤である、
溶解パルプを製造するために綿ベース原料をパルプ化する方法。
【請求項2】
前記アルカリ性溶液が、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、またはこれらの任意の組み合わせの溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記気体状酸化剤が、酸素(O
2)であるか、または酸素を含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記セルロース安定化添加剤の濃度が、前記綿ベース原料に対して約0.01%(w/w)~約5.00%(w/w)である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)に先立ち、綿ベース原料を機械的に分解する工程がある、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記温度が約100℃~約150℃であるか、前記インキュベーション時間が約90分~約150分であるか、前記アルカリ濃度が前記綿ベース原料に対して約4%(w/w)~約20%(w/w)であるか、前記初期ガス圧が約2バール~約10バール(約0.2MPa~約1.0MPa)であるか、前記セルロース安定化添加剤の濃度が前記綿ベース原料に対して約0.05%(w/w)~約2.00%(w/w)であるか、またはこれらの任意の組み合わせを満たす、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルカリ濃度が、約9以上のpHを得るのに十分である、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
溶解パルプ1g当たりのカルボニル基の含有量が0.37μmol以上約1.00μmol未満であるか、溶解パルプ1g当たりのカルボキシル基の含有量が3.97μmol以上約8.00μmol未満である、綿ベース原料をパルプ化して得られる溶解パルプ。
【請求項9】
約200mL/g~約1500mL/gの固有粘度、約80%以上であるISO白色度、約200以上であるビスコースフィルター値(FV)、またはこれらの任意の組み合わせを有する、請求項
8に記載の溶解パルプ。
【請求項10】
再生セルロース成形体を製造するための、請求項8
または請求項9に記載の溶解パルプの使用。
【請求項11】
前記再生セルロース成形体が、リヨセル、モダール、またはビスコースである、請求項
10に記載の使用。
【請求項12】
請求項8
または請求項9に記載の溶解パルプを出発物質として使用することを含む、リヨセルを製造する方法。
【請求項13】
請求項8
または請求項9に記載の溶解パルプを出発物質として使用することを含む、ビスコースを製造する方法。
【請求項14】
請求項8
または請求項9に記載の溶解パルプを出発物質として使用することを含む、モダールを製造する方法。
【請求項15】
請求項8
または請求項9に記載の溶解パルプから得られる再生セルロース成形体。
【請求項16】
リヨセル、ビスコース、またはモダールである、請求項
15に記載の再生セルロース成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解パルプを製造するために綿ベース原料をパルプ化する方法に関する。より詳細には、本発明は、アルカリ性条件下で気体状の酸化剤と組み合わせて溶解パルプを製造する方法に関する。本発明はさらに、綿ベース原料をパルプ化することによって得られるパルプ、特に本発明の方法によって得られる溶解パルプ、再生セルロース成形体を製造するためのかかる溶解パルプの使用、およびかかる溶解パルプを含むリヨセルまたはビスコースを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本質的に純粋なセルロースである溶解パルプは、様々な目的のために化学工業において重要な出発物質である。溶解パルプは例えば、再生セルロース成形体の製造において使用されたり、セルロースの化学誘導体化のための原料として使用されたりする。再生セルロース成形体とは、溶解パルプから作られたフィルムや繊維のような、三次元物体又は二次元物体である。溶解パルプから作られた典型的な再生セルロース成形体は、ビスコース、モダールおよびリヨセルである。化学誘導体化セルロースの典型的な例は、メチルセルロース、セルローストリアセテート、ニトロセルロース、カルボキシメチルセルロース、およびエチルセルロースである。メチルセルロースは典型的には増粘剤または乳化剤として使用され、セルローストリアセテートはフィルムおよび繊維を製造するために使用される。
【0003】
溶解パルプは化学的純度が高く、ヘミセルロースの含有量が低いことを特徴とする。これらの特徴は、上記の下流での使用に必要である。溶解パルプは主として、パルプ木材、すなわち、いわゆる亜硫酸塩法またはいわゆるクラフト法によってパルプを製造する目的で成長させた木材から製造される。セルロースの代替源である綿ベース原料から作られるのは、溶解パルプのうちほんの一部である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パルプ木材から作られたパルプを溶解することは、固有の制限および欠点を伴う。
例えば、パルプ木材から溶解パルプを製造する方法は、パルプ木材の大部分が、溶解パルプを製造する方法において除去しなければならない成分であるヘミセルロース及びリグニンから構成されているため、かなり非効率的である。さらに、森林減少と違法伐採は、パルプ木材からの溶解パルプ製造に関連する主要な懸案事項である。パルプウッドは責任ある持続可能な方法で栽培されるかもしれないが、これが無視された場合、エコロジー、社会、および気候における帰結は劇的なものとなり得る。一方、溶解パルプの世界市場は急速に成長している。従って、溶解パルプに対する増大する要求を満たすには、溶解パルプの製造のための代替的セルロース源が必要とされる。
【0005】
今日まで、綿ベース原料からの溶解パルプの工業生産は、原料としてのコットンリンターの使用に本質的に制限されている。溶解パルプを製造するために、コットンリンターは不純物(例えば、種子外皮や綿茎残渣)を除去し、綿繊維の高い重合度(DP)を減少させるために、過酷な条件下で処理される。したがって、コットンリンターのパルプ化では、一般に150℃を超える高い反応温度がプロセス化学薬品の広範な使用と組み合わせて適用される。必要とされる反応温度が高いため、セルロース分解反応が起こり、収率の実質的な損失をもたらし、製品に対する価格圧力を引き起こす。実際のパルプ化プロセスに加えて、パルプ用途を溶解するためのコットンリンターパルプの使用を可能にするために必要とされる白色度レベルを達成するために、多段階漂白プロセスが必要とされる。前記多段階漂白プロセスは典型的には環境に有害な化学物質(例えば、Cl2、CIO2、H2、O2、NaCIO)の使用を必要とする。
【0006】
さらに、コットンリンターパルプから当技術分野で知られている方法によって生成された溶解パルプは、一般に、例えばビスコースプロセスまたはリヨセルプロセスによる再生セルロース成形体の製造において、従来の木質系溶解パルプよりも反応性が低い。そのため、コットンリンターパルプの使用は、典型的にはセルロース誘導体(酢酸塩、エーテル)の製造などの特殊用途に限定される。コットンリント繊維は、従来、工業規模での溶解パルプへの加工に供されていない。
【0007】
したがって、パルプ木材以外のセルロース源から溶解パルプを製造するための改良された方法の開発が必要とされている。特に、コットンリンターから溶解パルプを製造するための既存の方法を改善すること、また持続可能なセルロース供給源およびパルプ木材の使用の代替物を提供する、他の綿ベース原料からの溶解パルプの製造のための追加的方法を提供することが必要とされている。
【0008】
綿ベース原料から生成された溶解パルプは、典型的には、下流用途、特に再生セルロース成形体の製造のための原料として有用であるために、特定の品質要件を満たさなければならない。例えば、生成された溶解パルプは高純度、すなわち、リグニン、ワックス、油、染料、ポリ芳香族化合物およびヘテロ芳香族化合物などの望ましくない汚染物質を本質的に含まず、ヘミセルロースの含有量が低くあるべきである。さらに、いくつかの下流用途では、溶解パルプは理想的には高レベルの白色度、均一な分子量分布(MWD)、および特定の範囲内の規定された粘度を有することが理想的である。これらは例えば、テキスタイルの製造に使用するのに特に望ましい特性である。これらの全ての要素は、ビスコースプロセス、モダールプロセス又はリヨセルプロセスのような下流用途におけるパルプの溶解反応性に影響を及ぼし得る。
【0009】
従来技術では、綿ベース原料をパルプ化する様々な方法が開示されている。例えば、米国特許第6174412号には、コットンリンターティッシュ製品およびその調製方法が記載されている。米国特許第4087316号には、セルロース繊維およびキシリトールを含むワタ種子外皮製品を得るための方法が記載されている。国際出願公開第2013/124265A1号には、セルロース含有材料の再生方法が記載されている。米国特許第2673148号には、気体状酸素を使用してアルカリパルプ化を行う方法が記載されている。米国特許第2686120号には、酸素の存在下でリグノセルロースをアルカリパルプ化して、パルプ、バニリンおよびその他のリグニン物質酸化生成物を生成する方法が記載されている。
【0010】
従来技術ではまた、綿ベース原料のような種々の材料を酸素で漂白することが開示されている。例えば、米国特許出願公開第2011/0061825号には、禾草類未漂白紙製品及びその製造方法が記載されている。国際出願公開第2004/085735A1号には、置換グアニジン系添加剤の存在下で標準的な漂白条件(過酸化物、酸素およびオゾンでの漂白)を用いて、テキスタイルおよび再生繊維などのセルロース系材料を漂白する方法が記載されている。米国特許第5322647号には、過酸化水素の不均化によるコットンリンターの酸素漂白のための方法が記載されている。
【0011】
上記で示したような下流の用途、例えば再生セルロース成形体の製造などに適している溶解パルプへと、広範囲の綿ベース原料を効果的かつ制御しつつ変換することを可能にする方法は、先行技術に開示されていない。先行技術の方法はいずれも、選択される出発物質が制限され、所望の最終生成物に適した十分な調節ができず、例えば、得られる溶解パルプの固有粘度を厳密に制御できず、上記の必要性を満たすパルプ、特に再生セルロース成形体の製造に使用できる溶解パルプを提供するものではない、という欠点を有する。
【0012】
本発明はこれらの必要性に対処し、以下により詳細に提示される従来技術を超えるさらなる利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のある態様は、溶解パルプ製造用の綿ベース原料をパルプ化する方法を提供する。前記方法は、i)約90~約185℃の温度、ii)約45~約270分のインキュベーション時間、iii)セルロース安定化添加剤の存在下、iv)綿ベース原料の約1~約35%(w/w)のアルカリ濃度、およびv)約1~約21バール(約0.1MPa~約2.1MPa)の初期ガス圧で、加圧容器中において、綿ベース原料を、アルカリ性溶液と共に、気体状酸化剤と組み合わせてインキュベートする工程、及び、生成したパルプを洗浄する工程を含む。
【0014】
ある実施形態では、アルカリ性溶液は水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、またはそれらの組み合わせ、好ましくは水酸化ナトリウム溶液である。さらなる実施形態では、気体状酸化剤は酸素(O2)であるか、または酸素を含む。さらなる実施形態では、セルロース安定化添加剤はマグネシウム塩、好ましくは硫酸マグネシウムである。本発明のさらなる実施形態では、セルロース安定化添加剤は遷移金属キレート剤、好ましくはEDTA、DTPA、NTA、DTPMPAまたはそれらの任意の組み合わせである。さらなる実施形態では、セルロース安定化添加剤の濃度は綿ベース原料の約0.01~約5.00%(w/w)である。さらなる実施形態では、綿ベース原料をアルカリ性溶液とインキュベートする工程の前に、綿ベース原料を機械的に分解する工程が行われる。さらなる実施形態では、綿ベース原料はプレコンシューマ材料またはポストコンシューマ材料である。特に好ましいパラメータを含む、さらなる実施形態では、温度は約100~約150℃であるか、インキュベーション時間は約90~約150分であるか、アルカリ濃度は綿ベース原料の約4~約20%(w/w) であるか、初期ガス圧は約2~約10バール(約0.2MPa~約1.0MPa)であるか、セルロース安定化添加剤の濃度は綿ベース原料の約0.05~約2.00%(w/w) であるか、またはそれらのうちいずれかもしくはすべてが組み合わされる。さらなる実施形態では、アルカリ性溶液中のアルカリ濃度は約9以上のpHを得るのに十分である。
【0015】
本発明の綿ベース原料のパルプ化方法は、リヨセル、モダールまたはビスコースのいずれか1つまたは複数などの再生セルロース成形体の製造に使用するのに適した、高品質の溶解パルプを提供する。本発明のパルプ化方法は温和なプロセス条件を使用し、したがって、例えば、有害な漂白薬品の使用を必要とせず、エネルギー消費が少ないので、環境に優しい。さらに、本質的にシングルステップである反応において、特定の性質、例えば特定の粘度を有する所望の溶解パルプ生成物を成すために、パルプ化プロセスを調整することができる。
【0016】
本発明のさらなる態様は、綿ベース原料をパルプ化することによって得られる溶解パルプであって、カルボニル基を本質的に含まないか、カルボキシル基を本質的に含まないか、またはカルボニル基およびカルボキシル基を本質的に含まない、溶解パルプを提供する。ある実施形態では、溶解パルプは、本出願において上記または他の箇所に記載された綿ベース原料のパルプ化方法によって得ることができる。さらなる実施形態では、溶解パルプは、約200~約1500mL/gの固有粘度、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約85%のISO白色度、少なくとも約200、好ましくは少なくとも約300のビスコースフィルター値(FV)、またはそれらのうちいずれかの組み合わせ及びそれらのすべての組み合わせを含む任意の組み合わせを有する。溶解パルプ中に存在し、カルボニル基やカルボキシル基を含むセルロースは、カルボニル基の化学反応性、カルボキシル基の化学反応性、またはその両方のせいで、溶解パルプの固有粘度を制御されない方法で低下させる傾向がある望ましくない分解反応を受けやすい。従って、溶解パルプ、例えば、カルボニル基を本質的に含まないか、カルボキシル基を本質的に含まないか、又はカルボニル基及びカルボキシル基を本質的に含まない、本明細書に記載の本発明の方法のいずれかによって得られる溶解パルプは、有利なことに化学分解に対してより耐性があり、その結果、その固有粘度は、有利なことに実験制御下においてより厳密に設定される。
【0017】
本発明のさらなる態様は、再生セルロース成形体を製造するための、本出願における上記またはその他の箇所に記載される溶解パルプ(本発明の溶解パルプ)の使用を提供する。好ましい実施形態では、再生セルロース成形体はリヨセル、モダールまたはビスコースのいずれか1つ以上である。しかしながら、本発明は、リヨセル、モダールまたはビスコースを製造するための本発明の溶解パルプの使用に限定されない。本発明の溶解パルプは、当業者に知られている任意の形態の再生セルロース成形体の製造または製造に使用することができる。
【0018】
本発明のさらなる態様は、本発明の溶解パルプを出発物質として使用することを含む、リヨセルの製造方法を提供する。この態様は、当業者に知られている確立されたリヨセルプロセスに関する。この態様において、本発明の溶解パルプは、リヨセルプロセスにおける出発物質として使用される。本発明の溶解パルプが特にリヨセルプロセスによる再生セルロース成形体の製造に特に適している、すなわち、本発明の溶解パルプをリヨセルプロセスに適するようにする、本出願の他の箇所に記載された特定の特徴が本発明の溶解パルプに備わっているため、このことが可能である。
【0019】
本発明のさらなる態様は、本発明の溶解パルプを出発物質として使用することを含むビスコースの製造方法を提供する。この態様は、当業者に知られている確立されたビスコースプロセスに関する。上述のように、リヨセルプロセスの前後関係において、本発明の溶解パルプはビスコースプロセスにおける使用に必要な特徴を全て満たすので、本発明の溶解パルプはビスコースプロセスにおける使用に特に適している。これらの特徴は、本出願のいずれかの箇所に記載されている。
【0020】
本発明のさらなる態様は、本発明の溶解パルプを出発物質として使用することを含む、モダールを製造する方法を提供する。この態様は、当業者に知られている確立されたモダールプロセスに関する。ビスコースおよびリヨセルについて記載されているように、本発明の溶解パルプは、本出願の他の箇所に記載されているその特徴のために、モダールの製造に特に適している。
【0021】
本発明のさらなる態様は、本発明の溶解パルプ、特に本発明のパルプ化方法によって製造される溶解パルプから得ることができる再生セルロース成形体を提供する。本発明のいくつかの実施形態では、再生セルロース成形体は、リヨセル、ビスコースまたはモダールのいずれか1つ以上である。本発明の溶解パルプから得られる再生セルロース成形体とは、再生セルロース成形体の製造方法、特にリヨセルプロセス、ビスコースプロセスまたはモダールプロセスにおいて、本発明の溶解パルプが出発原料として用いられることを意味する。上記の実施形態は、本発明の特に好ましい実施形態である。
【0022】
上記の実施形態は、本発明による綿ベース原料のパルプ化方法の実施の特に好ましい態様、本発明の溶解パルプの特に好ましい態様、本発明の溶解パルプの好ましい使用、およびリヨセル、ビスコースまたはモダールのいずれか1つ以上などの再生セルロース成形体を製造する方法に関する。上記の実施形態の任意の組み合わせ、またはその中のそれぞれの技術的特徴もまた、本発明の一部として本明細書に開示されることが強調される。当業者は、本発明が上記に明示的に列挙された実施形態に限定されず、上記または下記に明示的に開示されていない組み合わせも含むことを理解する。
【0023】
このような組み合わせは、例えば、上述した本発明の態様、実施形態、または特徴を、本発明の詳細な説明において以下に開示される本発明の態様、実施形態、または特徴と組み合わせることから生じる。当業者は実際に、上記の実施形態が、以下にさらに与えられる詳細な説明の対応するセクション、ならびに本出願に記載される実施例と共に考慮されるべきであることを理解する。
【0024】
本発明の他の態様、実施形態、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の詳細な説明、特異的な実施例および好適な実施例は例示としてのみ与えられるものであって、この詳細な説明によって当業者に明らかになる各種の変更や修正が、本発明の精神および範囲内にあることは、理解されなくてはならない。
【発明の詳細な説明】
【0025】
本明細書で使用する場合、「初期ガス圧」という用語は、周囲温度、例えば、25℃の標準室温において、気体状酸化剤および綿ベース原料の初期装入物を導入した後、加圧容器を閉鎖して、温度を約90~約185℃に上昇させる加熱前のインキュベーションのまさに開始時における、加圧容器(蒸解缶)の内部の圧力を意味する。例えば、気体状酸化剤が8バール(0.8MPa)の圧力で蒸解缶に導入され、蒸解缶が先には大気圧にあった場合、蒸解缶内の初期ガス圧は海面で約9バール(0.9MPa)になる。
当業者はまた、温度と圧力との間の直接的な関係を理解し、したがって、初期ガス圧を、既知の優勢な周囲温度を要因とする特定の本発明の範囲内の目標値に容易に調節するであろう。
【0026】
本明細書で使用するとき、溶解パルプまたはセルロースの「反応性」という用語は、パルプまたはセルロースが所与の反応またはプロセスに関与する能力を指す。例えば、リヨセルプロセス、モダールプロセスまたはビスコースプロセスに関して、「反応性」という用語は、溶解パルプまたはセルロースが、例えば出発物質として機能して、リヨセルプロセスやビスコースプロセスに関与するする能力を表す。この場合、反応性が高いほど、溶解パルプまたはセルロースは、リヨセルまたはビスコースプロセスに適している。
【0027】
本明細書で使用される場合、「綿ベース原料」という用語は、ワタ植物に由来するセルロースを含有するか、もしくはワタ植物に由来するセルロースからなる、またはワタ植物によって最初に合成されたセルロースを含有するか、もしくはワタ植物によって最初に合成されたセルロースからなる、任意の材料を包含することを意味する。用語「綿ベース原料(cotton-based raw material)」および「綿ベース原料(cotton-based raw materials)」は、互換的に使用される。用語「綿ベース原料」は2つ以上の種類の綿ベース原料を含むことができ、例えば、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の異なる種類の綿ベース原料を含むことができる。特に、この用語は、コットンリントまたはコットンリンターに由来するセルロースを含有するか、またはコットンリントまたはコットンリンターに由来するセルロースからなる材料を指す。さらに、「綿ベース原料」という用語は、ワタ植物の任意のセルロース含有部分、例えばコットンリンターも包含する。特に、用語「綿ベース原料」は、ワタ植物に由来するセルロースを含有する任意の材料と組み合わせて、他の成分、例えば、人工繊維、合成繊維、または他の天然繊維、例えばほんの数例を挙げれば、ナイロン、ポリエステル、アクリル、リヨセル、モダール、ビスコース、羊毛、亜麻などを含む、いわゆるブレンドを包含する。用語「綿ベース原料」は特に、例えば、ワタ植物に由来するセルロースを含むか、もしくはワタ植物に由来するセルロースからなる、またはワタ植物によって最初に合成されたセルロースを含むか、もしくはワタ植物によって最初に合成されたセルロースからなる、古い衣類、または非衣類布などの、ポストコンシューマファブリックを包含する。本発明のいくつかの実施形態では、綿ベース原料はコットンリンターを含まない。
【0028】
本明細書で使用される場合、「セルロース安定化添加剤」という用語はセルロースの望ましくない化学分解を防止する物質または化合物を指す。これらの物質は、セルロース分子と直接相互作用して保護効果を発揮するか、または他の成分と相互作用することによってセルロースを化学分解から保護するかのいずれかであり得る。このようなセルロース安定化添加剤は、マグネシウム塩、好ましくは硫酸マグネシウムであってよい。
理論に束縛されるものではないが、マグネシウム塩はセルロース分子に直接結合し、それにより分解反応、特にセルロース剥離反応を防止することによって、パルプ化の方法の間にセルロースを安定化すると考えられる。本発明のセルロース安定化添加剤は、金属、例えば遷移金属を、錯体化、キレート化、スカベンジまたは結合する、EDTA、DTPA、DTPMPAまたはNTAのような、錯化剤、キレート剤、スカベンジャーまたは結合剤であってもよいが、これらに限定されない。理論に束縛されるものではないが、遷移金属はセルロース分解を引き起こす反応性の高い酸素ラジカルの生成を触媒すると考えられる。そのため、錯化剤、キレート剤、スカベンジャーまたは結合剤の添加により遷移金属を隔離することで、パルプ化の方法の間においてセルロースが安定化される。本発明のいくつかの実施形態では、セルロース安定化添加剤は、過炭酸ナトリウム、ポリスルフィド、亜ジチオン酸ナトリウムおよび/またはアニオン性界面活性剤を含まない。好ましくは、安定化添加剤は、過炭酸ナトリウム、ポリスルフィド、亜ジチオン酸ナトリウム、およびアニオン界面活性剤のいずれも含まず、特に、セルロース安定化添加剤の総量に対して、それぞれ20~30重量%、20~30重量%、25~35重量%、又は5~10重量%の量ではない。好ましくは、セルロース安定化添加剤に含まれないアニオン界面活性剤は、アルキルベンゼンスルホネートである。
【0029】
本明細書で使用される「プレコンシューマ材料またはポストコンシューマ材料」という用語は、綿ベース原料の特定のサブセットを指す。綿ベース原料のプレコンシューマ材料またはポストコンシューマ材料は、工業的に、技術的に、または手動で、処理されてきた。したがって、それは、コットンリンターまたはコットンリントなどの天然原料を除外する。本発明の意味における「プレコンシューマ材料」は、工業的に、技術的に、または手動で処理された、まだ最終消費者またはユーザに販売されていない、またはまだ到達していない、綿ベース原料である。プレコンシューマ材料は例えば、さらなる工業処理に向けられたバルク材料、例えばバルク織物またはバルク不織布、または工業プロセスから誘導された廃棄物を含む。本発明の意味における「ポストコンシューマ材料」は、販売済の、または最終消費者ユーザに到達済の、材料を指す。典型的なポストコンシューマ材料は、テキスタイルまたは不織布である。従って、ポストコンシューマ材料はいわゆる中古(secondhand)材料又は使用済(used)商品、特に中古のテキスタイル又は不織布、例えば、中古もしくは使用済の衣類又は他の中古もしくは使用済の布材料に関する。
【0030】
本明細書で使用されるように、量や時間的持続時間などの測定可能な値に言及する場合、用語「約」は、その測定可能な値自体に加えて、指定された値からの±20%または±10%、場合によっては±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%または±1%、場合によっては±0.9%、±0.8%、±0.7%、±0.6%、±0.5%、±0.4%、±0.3%、±0.2%または±0.1%の変動を含むことを意味する。特定の値に関する用語「約」は、その正確な特定の値が含まれるという明示的な言及の有無にかかわらず、その正確な特定の値自体を含むことが理解されるべきである。したがって、用語「約」が特定の正確に挙げられた値を含むという明示的な指示がないことは、特定の挙げられた値が用語「約」によって生成される変動の範囲から除外されていることであると理解されるべきではない。用語「約」が特定の正確に挙げられた値を含むという明示的な指示がない場合であっても、正確な特定の値は用語「約」によって生成される変動の範囲に依然として包含される。当業者は規定された値の周辺の偏差が端数であり得る場合(例えば、温度、圧力、または持続時間について)、およびかかる偏差が単に積であり得る場合(例えば、より大きな分子内の個別の部分について)のいずれであるかを認識する。用語「約」は、上記の一般的な定義に加えて、特に、規定されたpH値に対して±0.1pH単位、規定された温度値に対して±1℃、規定された圧力値に対して±0.5バール、規定された濃度に対して±1%(w/w)、規定された粘度に対して±1、±2、±3、±4、または±5mL/g、規定されたISO白色度に対して±0.1、±0.2、±0.3、±0.4、または±0.5、規定された粘度フィルター値(FV)に対して±5、±10、±15、±20、または±25、またはこれらの任意の組み合わせを意味するものであってもよい。用語「約」が数値範囲の前に記載される場合、用語「約」は、下限端点、上限端点、または下限端点と上限端点の両方を指すことができる。例えば、本発明の好ましい固有粘度が約200~1500mL/gであると述べられている場合、この範囲は、200の下限および1500mL/gの上限を包含する。
【0031】
本明細書で使用される「パルプ化」または「パルプ化方法」という用語は、綿ベース原料などの材料が、当該材料からセルロースを放出するように処理されるプロセスを指す。従って、パルプ化のプロセスにおいて、プロセスに添加された元の材料は、セルロースを産生するために、プロセスの過程にわたって分解される。
【0032】
本明細書で使用される場合、「溶解パルプ」という用語は、溶解セルロースまたは化学パルプとしても知られる、高純度の抽出セルロースを指す。本発明の意味での溶解パルプは、高い化学的純度、特に、低いヘミセルロース含量、高いセルロース含量、高いレベルの白色度および狭いMWDにより特徴付けられる。溶解パルプの形態のセルロースは例えば、ビスコースプロセスまたはリヨセルプロセスによって、溶液化し、繊維に紡糸することができ、または化学的に誘導体化することができる。溶解パルプは、メカニカルパルプまたはサーモメカニカルパルプとは異なる。メカニカルパルプ又はサーモメカニカルパルプとは、セルロースを含む材料であって、本発明に従う手段とは異なる手段により抽出された、溶解パルプよりも純度が低い材料をいう。このような当技術分野の方法は、例えば紙の製造に使用され、再生セルロース成形体の製造には適していない。
【0033】
本明細書で使用される場合、「本質的に含まない」という用語は、所与の被検物質の量が検出限界付近にあることを指す。特に、「本質的に含まない」という語は、カルボニル基を本質的に含まない、という文脈においては、カルボニル基の検出限界にあることを意味し、カルボキシル基を本質的に含まない、という文脈においては、カルボキシル基の検出限界にあることを意味する。CCOA法(以下に記載)を用いたカルボニル基の検出限界は、約0.50、約0.40、約0.30、または約0.20μmol/g(溶解パルプ1g当たりのμmolカルボニル基)であってよい。FDAM法(以下に記載)を用いたカルボキシル基の検出限界は、約4.00、約3.50又は約3.00μmol/g(溶解パルプ1g当たりのμmolカルボキシル基)であってよい。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「カルボニル」または「カルボニル基」は交換可能に使用され、非末端カルボニル基(-C(O)-)を指し、ここで、カルボニル基は2つの炭素原子(C-C(O)-C)、すなわち、ケトンまたはケトン基に結合される。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「カルボキシル」または「カルボキシル基」は、互換的に使用され、構造-COOHの化学官能基を指す。用語「カルボキシル」または「カルボキシル基」はプロトン化形態-COOH、すなわち遊離酸形態、ならびに脱プロトン化アニオン形態-COO、すなわち、1価の負電荷を担持するカルボキシレートアニオンを指すことができる。さらに、用語「カルボキシル」または「カルボキシル基」はまた、構造-COORのエステル形態を指し得、ここで、Rは炭素含有置換基を表し、カルボニルを成していない酸素は2つの炭素原子に結合している。
【0036】
本明細書中で使用される場合、用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」、「包含する(encompassing)」、または「含有する(containing)」を意味する広い標準を有する。それは、明示的に記載された要素を含み、また記載されていない他の要素の存在も許容する。本明細書で使用される、この広範な包含的語義に加えて、用語「含む」はまた、「からなる」という限定的な意味を有する可能性もある。これは、特定の特徴を含むものとして定義される本出願の任意の態様または実施形態が、明示的に述べられているか否かにかかわらず、単に前記特徴からなるという意味をも含む、ということを意味するさらに、用語「含む」はまた、「本質的に~からなる(consisting essentially of)」という意味を有する可能性がある。
【0037】
本明細書で使用される「再生セルロース成形体」という用語は、セルロースからなるか、またはセルロースを含み、溶解パルプから製造された、二次元物体または三次元物体を指す。典型的な再生セルロース成形体は、リヨセル、ビスコースまたはモダールのいずれか1つ以上から作られた繊維、フィルムまたはフィラメントである。
【0038】
上記または下記の本発明の任意の態様、実施形態または特徴は、上記または下記の本発明の任意の他の態様、実施形態または特徴と自由に組み合わせることができる。
このことは、このような組み合わせの可能性が明示的に上述されているか、または以下に記載されているかにかかわらず、適用される。
【0039】
パルプ化方法
上記された工程(「課題を解決するための手段」を参照)または下記の工程を含む、本発明による溶解パルプを製造するための綿ベース原料をパルプ化する方法は、例えばリヨセル、ビスコースまたはモダールのいずれか1つ以上のような再生セルロース成形体の製造に使用するための、下流用途に適した高品質溶解パルプを提供する。本発明のパルプ化法は、気体状の酸化剤、好ましくは酸素(O2)を、アルカリ反応条件と組み合わせる工程を含む。アルカリ性溶液の形態であるアルカリ反応条件と気体状酸化剤との組み合わせは、従来技術のパルプ化プロセスにおいて適用されるような追加の漂白工程を必要とすることなく、一段階の協奏的方法で、特に高いISO白色度、例えば90%を超えるISO白色度を有する、高品質の溶解パルプを製造することを可能にする。これにより、本発明のパルプ化方法を、洗浄工程に加えて、一段階の蒸解工程(cooking step)で実施することができる。このような協奏的性能によって得られる効率に加えて、本発明のパルプ化方法はまた、環境的に有害な漂白薬品を必要としない。したがって、本発明の方法はより単純で、より首尾一貫しており、協奏的なプロセスフローを提供し、それによって、例えば、取り扱い損失を低減し、最終的にコストを低減し、歩留まりを向上させ、同時に、環境に対する潜在的に有害な影響を回避する。本発明のパルプ化方法のいくつかの実施形態では、過炭酸ナトリウム、ポリスルフィド、亜ジチオン酸ナトリウムおよび/またはアニオン界面活性剤は添加されない。好ましくは、本発明のパルプ化方法は、過炭酸ナトリウム、ポリスルフィド、亜ジチオン酸ナトリウムおよびアニオン性界面活性剤のいずれか1つを添加することを含まず、特に、言及した成分とさらに添加されうる硫酸マグネシウムのいずれかとの総量に対して、過炭酸ナトリウム20~30重量%、ポリスルフィド20~30重量%、亜ジチオン酸ナトリウム25~35重量%、又はアニオン性界面活性剤5~10重量%を添加することを含まない。好ましくは、本発明の方法において添加されないアニオン界面活性剤は、アルキルベンゼンスルホネートである。
【0040】
本発明のパルプ化方法は、生成された溶解パルプがリヨセル、ビスコースまたはモダールのいずれか1つ以上などの再生セルロース成形体の製造に使用するのに適しているような方法(以下に記載)で実施される。リヨセル、ビスコースまたはモダールのいずれか1つ以上のような再生セルロース成形体の製造に使用するのに適した溶解パルプの特定の特性は本出願において、例えば、以下の本発明の溶解パルプに関するセクションにおいて、詳細に記載される。特に、本発明のパルプ化方法の個々のパラメータは、上記のような所望の特性を有する高品質の溶解パルプの製造を確実にするように選択される。例えば、アルカリ性溶液のpH値に加えて、温度、インキュベーション時間、セルロース安定化添加剤、アルカリの濃度、および初期ガス圧、ならびに出発材料として使用される綿ベース原料は、すべて、上記のような所望の特性を有する高品質の溶解パルプの製造が確実になるように選択される。
【0041】
本発明のパルプ化方法は少なくとも部分的に、加圧容器(蒸解缶)中で実施することができる。少なくとも、綿ベース原料をアルカリ性溶液と共に気体状酸化剤と組み合わせてインキュベートする工程(「蒸解(cooking)」工程(a))は、蒸解缶内で実施することができる。本発明のいくつかの実施形態では、さらなる工程、例えば、1つ以上の前処理工程、または1つ以上の洗浄工程を、蒸解缶内で実施することができる。蒸解工程の前に、アルカリ性溶液を綿ベース原料と合わせる。アルカリ性溶液と綿ベース原料との組み合わせは、本明細書では「反応混合物」と呼ばれる。反応混合物は、セルロース安定化添加剤をさらに含む。反応混合物は、追加の成分を含むことができる。反応混合物の全ての成分、例えばアルカリ性溶液、綿ベース原料およびセルロース安定化添加剤は、一緒に、または順次に、蒸解缶に導入される。いくつかの実施形態において、反応混合物の特定の成分は蒸解缶に一緒に添加されてもよく、一方、他の成分は別々に、すなわち、順次に添加される。例えば、アルカリ性溶液と綿ベース原料を、蒸解缶に導入する前に組み合わせ、次いで蒸解缶に一緒に導入し、一方、セルロース安定化添加剤を後で添加することもできる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態では、蒸解缶に、反応混合物のすべての固体および液体成分、例えば、綿ベース原料、アルカリ性溶液、およびセルロース安定化添加剤を充填し、次いで、約1~約21バール(約0.1~約2.1MPa)の初期ガス圧を得るように、気体状酸化剤を添加する。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態では、蒸解缶はバッチ反応器である。
【0044】
本発明の蒸解缶は、蒸解工程の前に密封され、蒸解工程の間、周囲温度よりも高い温度、約90~約185℃の温度に上昇させるために、熱が加えられる。当業者であれば、蒸解缶内のガス圧力は、蒸解缶内の温度が上昇するにつれて、初期ガス圧を超えて上昇することを理解するであろう。
【0045】
典型的には、洗浄工程の前に反応混合物が蒸解缶から除去される。圧力を解放するために、反応混合物をブロータンクに移すことができる。典型的には、洗浄工程の前に、反応混合物をまず周囲温度まで冷却し、圧力を大気圧まで低下させる。しかしながら、蒸解缶の構造に応じて、洗浄工程が蒸解缶内で実施される実施形態も考えられる。このようなシナリオでは、反応混合物の液相を最初に蒸解缶から取り出して、不溶性の、すなわちセルロース混合物成分を保持することができる。続いて、この残留物の洗浄を、おそらく同じ蒸解缶内で、複数の反復洗浄/すすぎ段階にて行うことができる。
【0046】
洗浄工程は、水、例えば脱イオン水、またはアルコール、特にエタノールなどの有機溶媒で洗浄することを含んでもよい。あるいはまたはさらに、洗浄工程は界面活性剤を含有する水溶液で洗浄することを含み得る。特に、洗浄工程は、パルプ化プロセスで回収された有機性または水性の液体、例えば、1つ以上の処理流に由来する水で洗浄することを含み得る。回収された有機性または水性の液体は例えば、洗浄工程に続く前処理工程または乾燥工程から得ることができる。回収された有機性または水性の液体、例えば、洗浄工程に続く乾燥工程で溶解パルプから分離された水は、洗浄工程で再び直接使用されてもよく、または洗浄工程で再び使用される前に精製されてもよい。洗浄工程はまた、上述の液体のいずれかの任意の混合物で洗浄することを含んでもよい。洗浄工程は蒸解工程中に綿ベース原料から放出された汚染物質、例えば、染料、ワックス、油、多環芳香族化合物および/または複素芳香族化合物を除去する目的を果たす。
【0047】
本発明のパルプ化方法は、パルプ化工程の出発原料として綿ベース原料を使用する。綿ベース原料は、ワタ植物に由来するセルロース、またはワタ植物によって最初に合成されたセルロースを含有するか、またはそれらからなる任意の材料である。特に、この用語は、コットンリントまたはコットンリンターに由来するセルロースを含有するか、またはセルロースからなる材料を指す。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態では、綿ベース原料はテキスタイルである。テキスタイルは、織り、棒針編み、かぎ針編み、または紐結びによって形成される。本発明の意味において、綿ベース原料であるテキスタイルとは、綿繊維からなるか、または綿繊維を含有するものである。本発明の文脈における綿繊維に加えて、綿ベース原料、例えばテキスタイルは、追加的な合成繊維、例えば、ナイロン、ポリエステル、またはアクリルを含有してもよい。
【0049】
本発明のさらなる実施形態では、綿ベース原料、例えばテキスタイルは、リヨセル、ビスコース、またはモダールのいずれか1つまたは複数などの再生セルロース成形体を含んでもよい。本発明のいくつかの実施形態では、テキスタイルはファブリック(fabric)またはクロス(cloth)である。本発明のさらなる実施形態では、テキスタイルは、仕立ての際に生じる端切れなど、プレコンシューマテキスタイルの廃棄物であってもよい。本発明のさらなる実施形態では、テキスタイルは、中古の、使用済の、または廃棄された、衣類、寝具またはカーテンなど、ポストコンシューマテキスタイルであってもよい。本発明の文脈において綿ベース原料として考えられる綿含有テキスタイルの例示的な形態としては、デニム、コードロイ、チノ、ダマスク、ドリル、フリース、フランネル、レース、生デニム、サテエン、ベロア、ツイル、およびベルベットが挙げられる。
【0050】
本発明の綿ベース原料はまた、綿を含有するか、または綿からなる不織布を含む。不織布は、織られても、棒針編みされても、かぎ針編みされても、結ばれてもいない。不織布は、繊維またはフィラメントを絡ませることによって機械的、熱的または化学的に互いに結合されたシートまたはウェブ構造を含む。本発明のいくつかの実施形態における不織布のほんの数例としては、フェルト材料、カーペット、衣類、フィルター、容器、ジオテキスタイル、包装材料、および断熱材料が挙げられる。本発明のいくつかの実施形態では、不織布はプレコンシューマ不織布またはポストコンシューマ不織布であってもよい。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、不織布が工業用不織布廃棄物であってもよい。本発明の綿ベース原料、特に本発明のテキスタイルまたは不織布は、本発明のパルプ化方法の間に除去されるジッパー、ボタン、ノブまたはタグのような追加の物質を含んでもよい。これらの追加の物質は例えば、蒸解工程に先行する前処理工程で除去することができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、本発明のパルプ化方法は、前処理工程、または複数の前処理工程を含んでもよい。この前処理工程、またはこれらの前処理工程は、蒸解工程に先行する。本発明のいくつかの実施形態では、前処理工程、または複数の前処理工程は、綿ベース原料を、例えば粉砕、細断、または切断によって、機械的に分解する工程を含んでもよい。典型的には、この工程またはこれらの工程は、インキュベーション工程(蒸解工程)が行われる加圧容器に綿ベース原料が導入される前に実施される。本発明のいくつかの実施形態において、前処理工程、または複数の前処理工程は、ジッパー、ボタン、ノブまたはタグの除去のような追加物質を綿ベース原料から除去することを含む。
【0052】
本発明のパルプ化方法の蒸解工程(すなわち、綿ベース原料をアルカリ性溶液と気体状酸化剤との組み合わせと共にインキュベートする工程である、工程(a))は約80~約185℃、または約80~約185℃の間の温度で実施される。好ましくは、蒸解工程は約90~約185℃、または約90~約185℃の間の温度で実施される。本発明のさらなる実施形態では、温度は少なくとも約95℃、少なくとも約100℃、少なくとも約105℃、少なくとも約110℃、少なくとも約115℃、少なくとも約120℃、少なくとも約125℃、少なくとも約130℃、少なくとも約135℃、少なくとも約140℃、または少なくとも約145℃であってもよいが、本発明による蒸解工程の温度は約185℃を超えてはならない。もちろん、上述の最低温度および約185℃の最高温度によって規定される範囲は、本発明の文脈において、それぞれの端点を含むものまたは除外するもののいずれであるかが、熟慮される。例えば、本発明のさらなる実施形態では、上述の温度範囲が約100~約185℃、または約100~約185℃の間である。本発明のいくつかの実施形態では、最高温度が約165℃、約160℃、約155℃、約150℃、または約145℃であってもよい。約185℃の最高温度の場合と同様に、これらの代替的最高温度も、上述の最低温度のいずれかと組み合わせることができる。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、蒸解工程の温度は、約100~約160℃であるか、または約100~約160℃の間である。また、上記の範囲の全てについて、それぞれの下限の端点が含まれ且つそれぞれの上限の端点が除外された範囲、ならびに、それぞれの下限の端点が除外され且つそれぞれの上限の端点が含まれる範囲も考えられる。本発明のパルプ化方法は、リヨセル、ビスコースまたはモダールのいずれか1つ以上などの再生セルロース成形体の製造に使用するのに適した溶解パルプを製造するのに適した温度で実施される。このような溶解パルプの特定の特徴は、本出願において、例えば、以下の本発明の溶解パルプに関するセクションにおいて、詳細に記載される。
【0053】
本発明のパルプ化方法の蒸解工程は、約45~約270分(分)のインキュベーション時間、または約45~約270分のインキュベーション時間で実施される。本発明のさらなる実施形態では、蒸解工程のインキュベーション時間は少なくとも約55分、少なくとも約65分、少なくとも約75分、少なくとも約85分、少なくとも約95分、少なくとも約105分、少なくとも約115分、少なくとも約125分、または少なくとも約135分である。蒸解工程のインキュベーション時間は、約270分を超えてはならない。もちろん、上記の最短インキュベーション時間および約270分の最長インキュベーション時間によって規定され、それぞれの端点を含むかまたは除外した、任意の範囲も、また意図される。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、インキュベーション時間は約115~約270分、または約115~約270分の間である。本発明のいくつかの実施形態では、最長インキュベーション時間は約260分、約250分、約240分、約230分、約220分、約210分、約200分、約190分、または約180分であってもよい。上記の最短インキュベーション時間とこれらの最長インキュベーション時間との組み合わせによって生じ、それぞれの端点を含むかまたは除外した、任意の範囲も、また意図される。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、蒸解工程のインキュベーション時間は約65分~約250分、または約65分~約250分の間である。また、上記の範囲の全てについて、それぞれの下限の端点が含まれ且つそれぞれの上限の端点が除外された範囲、ならびに、それぞれの下限の端点が除外され且つそれぞれの上限の端点が含まれる範囲も考えられる。蒸解工程のインキュベーション時間は、リヨセル、ビスコースまたはモダールのいずれか1つ以上などの再生セルロース成形体の製造に使用するのに適した溶解パルプを製造するのに適している。このような溶解パルプの特定の特徴は本出願において、例えば、以下の本発明の溶解パルプに関するセクションにおいて、詳細に記載される。
【0054】
本発明のパルプ化方法は、蒸解工程においてセルロース安定化添加剤が存在することを特徴とする。このセルロース安定化添加剤は、パルプ化プロセス中、すなわち本発明のパルプ化方法中における、セルロースの分解を防止する。セルロース安定化添加剤は特に、望ましくない制御不可能なセルロース分解を防止し、したがって、例えば、特定の固有粘度、ビスコースフィルター値、および狭いMWDを有する溶解パルプを生成するようにパルプ化プロセスを調節することを可能にする。特に、セルロース安定化添加剤は、セルロース分解の制御、したがって、得られる溶解パルプの固有粘度の制御を可能にする。セルロース安定化添加剤はセルロース分子と直接相互作用するか、または、例えばFe、Cu、Mn、Co、Cr、Ni、およびZnのような遷移金属など、セルロース分解を起こしうる他の薬剤を、スカベンジ、キレート化、もしくは錯体化することによって機能する。遷移金属は、酸化的セルロース分解を触媒することが知られている。したがって、本発明のいくつかの実施形態では、セルロース安定化添加剤は、遷移金属の錯化剤、キレート剤、スカベンジャーまたは結合剤である。本発明の文脈において意図される典型的なスカベンジャー、キレート剤または結合剤は、EDTA、DTPA、DTPMPAおよびNTAである。本発明のさらなる実施形態において、セルロース安定化添加剤は、マグネシウム塩、例えば、水酸化マグネシウムまたは硫酸マグネシウムである。
【0055】
セルロース安定化添加剤は、綿ベース原料の約0.01~約5.00%(w/w)の量(濃度)で存在する。本発明のいくつかの実施形態では、セルロース安定化添加剤の濃度は、少なくとも約0.05%(w/w)、少なくとも約0.10%(w/w)、少なくとも約0.20%(w/w)、少なくとも約0.40%(w/w)、少なくとも約0.50%(w/w)、約1.00%(w/w)、約1.50%(w/w)、約2.00%(w/w)、約2.50%(w/w)、約3.00%(w/w)、約3.50%(w/w)、約4.00%(w/w)、または約4.50%(w/w)である。しかしながら、セルロース安定化添加剤の濃度は、約5.00%(w/w)を超えてはならない。上記の最小濃度と5.00%(w/w)の最大濃度とによって規定され、それぞれの端点を含むかまたは除外した、任意の範囲も、また意図される。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、セルロース安定化添加剤が約1.00~約5.00%(w/w)、または約1.00~約5.00%(w/w)間ので存在する。好ましい濃度は約0.10%(w/w)である。本発明のいくつかの実施形態では、セルロース安定化添加剤の最大濃度は約4.50%、約4.00%、約3.50%、約3.00%、約2.50%、約2.00%、約1.5%、約1.00%、または約0.50%(w/w)である。上記のセルロース安定化添加剤の最小濃度とこれらのセルロース安定化添加剤の最大濃度との組み合わせによって規定され、それぞれの端点を含むかまたは除外した、任意の範囲も、また意図される。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、セルロース安定化添加剤は約0.05~約1.00%(w/w)、または約0.05~約1.00%(w/w)の間である。また、上記の範囲の全てについて、それぞれの下限の端点が含まれ且つそれぞれの上限の端点が除外された範囲、ならびに、それぞれの下限の端点が除外され且つそれぞれの上限の端点が含まれる範囲も考えられる。一般に、セルロース安定化添加剤の濃度は、蒸解工程中のセルロースの望ましくない制御不能な分解が防止されるように選択される。
【0056】
蒸解工程で使用されるアルカリ性溶液は、アルカリを含有する(contain)か、またはアルカリを含む(comprise)。アルカリは、好ましくは水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、またはそれらのうちのいずれかの組み合わせであり、好ましくは水酸化ナトリウムである。アルカリ、特に水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムまたはそれらのうちのいずれかの組み合わせの濃度は、綿ベース原料の約1~約35%(w/w)、または約1~約35%(w/w)の間である。綿ベース原料がポリエステルを含む場合、約30%(w/w)のアルカリ濃度が特に有用である。本発明のいくつかの実施形態において、アルカリの濃度は、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%、少なくとも約26%、少なくとも約27%、少なくとも約28%、少なくとも約29%、少なくとも約30%、少なくとも約31%、 少なくとも約33%、または少なくとも約34%(w/w)である。しかし、アルカリの濃度は、約35%(w/w)を超えてはならない。上記の最小濃度と35%(w/w)の最大濃度とによって規定され、それぞれの端点を含むかまたは除外した、任意の範囲も、また意図される。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、アルカリの濃度は約5%~約35%(w/w)、または約5%~約35%(w/w)の間である。本発明のいくつかの実施形態では、アルカリの最大濃度は約34%(w/w)、約33%(w/w)、約32%(w/w)、約31%(w/w)、約30%(w/w)、約29%(w/w)、約28%(w/w)、約27%(w/w)、約26%(w/w)、約25%(w/w)、約24%(w/w)、約23%(w/w)、約22%(w/w)、約21%(w/w)、約20%(w/w)、約19%(w/w)、約18%(w/w)、約17%(w/w)、または約16%(w/w)である。上記のアルカリの最小濃度と、これらのアルカリの最大濃度との組み合わせによって規定され、それぞれの端点を含むかまたは除外した、任意の範囲も、また意図される。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、アルカリの濃度が約2%(w/w)~約20%(w/w)、約3%(w/w)~約19%(w/w)、もしくは約4%(w/w)~約18%(w/w)、または約2%(w/w)~約20%(w/w)の間、約3%(w/w)~約19%(w/w)の間、もしくは約4%(w/w)~約18%(w/w)の間であり、好ましくはアルカリは水酸化ナトリウムである。また、上記の範囲の全てについて、それぞれの下限の端点が含まれ且つそれぞれの上限の端点が除外された範囲、ならびに、それぞれの下限の端点が除外され且つそれぞれの上限の端点が含まれる範囲も考えられる。
【0057】
アルカリ性溶液のpHは、約pH7~約pH14、または約pH7~約pH14の間の範囲である。好ましくは、蒸解工程で使用されるアルカリ性溶液のpHは、約pH9以上、より好ましくは約pH10以上である。あるいは、アルカリ性溶液のpHは、約pH7以上、約pH8以上、約pH11以上、または約pH12以上であってもよい。本発明のいくつかの実施形態では、最大pH値は、約pH13、約pH12、約pH11、約pH10、約pH9、約pH8、または約pH7であってもよい。上記の最小pH値または最大pH値によって規定され、それぞれの端点を含むかまたは除外した、任意の範囲もまた、本発明の文脈において意図される。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、アルカリ性溶液のpHは、約pH9~約pH13の範囲、もしくは約pH9~約pH13の間の範囲、または約pH9~約pH12の範囲、もしくは約pH9~約pH12の間の範囲である。また、上記の範囲の全てについて、それぞれの下限の端点が含まれ且つそれぞれの上限の端点が除外された範囲、ならびに、それぞれの下限の端点が除外され且つそれぞれの上限の端点が含まれる範囲も考えられる。
【0058】
本発明のパルプ化方法は、約1バール(0.1MPa)~21バール(2.1MPa)の初期ガス圧で実施される。特に、蒸解工程は、約1バール(0.1MPa)~約20 21バール(2.0 1MPa)の初期ガス圧で実施される。本発明のいくつかの実施形態において、初期ガス圧は、少なくとも約1バール(0.1MPa)、少なくとも約2バール(0.2MPa)、少なくとも約3バール(0.3MPa)、少なくとも約4バール(0.4MPa)、少なくとも約5バール(0.5MPa)、少なくとも約6バール(0.6MPa)、少なくとも約7バール(0.7MPa)、少なくとも約8バール(0.8MPa)、少なくとも約9バール(0.9MPa)、少なくとも約10バール(1.0MPa)、少なくとも約11バール(1.1MPa)、少なくとも約12バール(1.2 MPa)、少なくとも約13バール(1.3MPa)、少なくとも約14バール(1.4MPa)、少なくとも約15バール(1.5MPa)、1.6MPa、少なくとも約17bar(1.7MPa)、少なくとも約18bar(1.8MPa)、少なくとも約19bar(1.9MPa)、少なくとも約20bar(2.0MPa)または少なくとも約21bar(2.1MPa)である。初期ガス圧は、約21バール(2.1MPa)を超えてはならない。上記の最小初期ガス圧および最大初期ガス圧によって規定され、それぞれの端点を含むかまたは除外した、任意の範囲もまた、意図される。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、初期ガス圧は、約3バール(0.3MPa)~約21バール(2.1MPa)、または約3バール(0.3MPa)~約21バール(2.1MPa)の間である。本発明のいくつかの実施形態では、最大初期ガス圧は、約21バール(2.1MPa)より低く、例えば、約20バール(2.0MPa)、約19バール(1.9MPa)、約18バール(1.8MPa)、約17バール(1.7MPa)、約16バール(1.6MPa)、約15バール(1.5MPa)、約14バール(1.4MPa)、約13バール(1.3MPa)、約12バール(1.2MPa)、約11バール(1.1MPa)、約10バール(1.0MPa)、約9バール(0.9MPa)、または約8バール(0.8MPa)である。これらの最大初期ガス圧および上述の最小初期ガス圧によって規定される任意の範囲もまた意図される。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、初期ガス圧は、約2バール(0.2MPa)~約10バール(1.0MPa)、約3バール(0.3MPa)~約10バール(1.0MPa)、または約4バール(0.4MPa)~約10バール(1.0 MPa)である。好ましくは、初期ガス圧は約8バール(0.8MPa)である。また、上記の範囲の全てについて、それぞれの下限の端点が含まれ且つそれぞれの上限の端点が除外された範囲、ならびに、それぞれの下限の端点が除外され且つそれぞれの上限の端点が含まれる範囲も考えられる。
【0059】
本発明の気体状酸化剤は本発明の綿ベース原料を漂白し、綿ベース原料のISO白色度を高めるのに適している。さらに、気体状酸化剤はセルロース繊維の分解を促進し、溶解パルプの固有粘度を制御するのに適している。本発明のある実施形態では、気体状酸化剤は分子状酸素(O2)である。他の本発明の実施形態では、気体状酸化剤は分子状酸素(O2)を含む気体、例えば大気である。
【0060】
蒸解工程の反応温度、蒸解工程のインキュベーション時間、蒸解工程におけるアルカリの濃度、および蒸解工程における気体状酸化剤の初期ガス圧が、例えば、生成された溶解パルプの固有粘度に、影響を及ぼすことを、当業者は理解するであろう。特に、他のすべてのそれぞれのパラメータが一定に保たれるならば、反応温度が高くなればなるほど、インキュベーション時間が長くなればなるほど、アルカリの濃度が高くなればなるほど、または、気体状酸化剤の初期ガス圧が高くなるほど、生成される溶解パルプの固有粘度は低くなるであろう。1つのパラメータの増加、例えば、温度または反応時間の増加は、1つ以上の他のパラメータの減少とバランスをとりうることを、当業者は理解するであろう。例えば、反応温度の上昇は、同時にアルカリの濃度を低下させ、それによって生成された溶解パルプの固有粘度を一定レベルに維持することによって、バランスをとることができる。
【0061】
所望の固有粘度、特に約200mL/g~約1500mL/gの範囲内の固有粘度を達成するために、本発明の異なるパラメータ、例えば、蒸解工程の反応温度、蒸解工程のインキュベーション時間、蒸解工程におけるアルカリの濃度、および蒸解工程の初期ガス圧を、どのように変更するかを、当業者は理解するであろう。
【0062】
また、綿ベース原料の品質が、製造された溶解パルプの固有粘度にも影響を及ぼすことも、当業者は理解するであろう。蒸解工程の上述のパラメータは、所望の固有粘度を達成するために、所与の綿ベース原料に適応するように調整することができる。例えば、綿ベース原料中の合成繊維の量が増えた等、綿ベース原料中の不純物が増加した場合、製造された溶解パルプの所望の固有粘度を達成するためには、1つ以上の上記パラメータ、例えばアルカリの濃度を、上昇させる必要があり得る。
【0063】
セルロース安定化添加剤が存在することで、所望の固有粘度を有する溶解パルプを達成するために、1つ以上の上記パラメータを調節することによって、フレキシブルでありながら、再現可能かつ予測可能なやり方で、本発明のパルプ化の方法を調整することが可能となる。
【0064】
溶解パルプ
本発明の溶解パルプは、その高い純度、低いヘミセルロース含量、固有粘度、高いISO明度、有利なビスコースフィルター値(FV)、例えばリヨセル、ビスコースまたはモードのいずれか1つ以上のような再生セルロース成形体の製造への適性、低いカルボニル基含量、低いカルボキシル基含量またはその両方、すなわち、本質的にカルボニル基、カルボキシル基またはその両方を含まないこと、狭いMWD、またはそれらのうちいずれかの組み合わせ及びそれらのすべての組み合わせを含む任意の組み合わせによって、特徴付けることができる。
【0065】
本発明の溶解パルプが高純度であるとは、本発明の溶解パルプが主として純粋なセルロースから成るか、または純粋なセルロースから本質的に成り、本発明の文脈では不純物と考えられる他の分子を、わずかな画分しか含まない、ということを意味する。
【0066】
特に、本発明の溶解パルプの高い純度とは、以下を意味する。本発明の溶解パルプは、溶解パルプの全重量に対して、約20%(w/w)未満、約19%(w/w)未満、約18%(w/w)未満、約17%(w/w)未満、約16%(w/w)未満、約15%(w/w)未満、約14%(w/w)未満、約13%(w/w)未満、約12%(w/w)未満、約11%(w/w)未満、約10%(w/w)未満、約9%(w/w)未満、約8%(w/w)未満、約7%(w/w)未満、約6%(w/w)未満、約5%(w/w)未満、約4%(w/w)未満、約3%(w/w)未満、約2%(w/w)未満、または約1%(w/w)未満であり得る。特に好ましいのは、約10%(w/w)未満、約9%(w/w)未満、約8%(w/w)未満、約7%(w/w)未満、約6%(w/w)未満、約5%(w/w)未満、約4%(w/w)未満、約3%(w/w)未満、約2%(w/w)未満、または約1%(w/w)未満のヘミセルロースを含む溶解パルプである。最も好ましいのは、約5%(w/w)未満または約1%(w/w)未満のヘミセルロースを含む溶解パルプである。言い換えれば、本発明の溶解パルプのセルロース含有量は、溶解パルプの全重量に対して、好ましくは約90%(w/w)より大きく、約91%(w/w)より大きく、約92%(w/w)より大きく、約93%(w/w)より大きく、約94%(w/w)より大きく、約95%(w/w)より大きく、約96%(w/w)より大きく、約97%(w/w)より大きく、約98%(w/w)より大きく、約99%(w/w)より大きい。ヘミセルロースの特に好ましい含有量、またはセルロースの含有量は、リヨセル、ビスコース、またはモダールのいずれか1つまたは複数などの再生セルロース成形体を製造するのに特に適した含有量である。一般に、ヘミセルロースの含有量が低く、セルロースの含有量が高いほど、溶解パルプは再生セルロース成形体の製造により適する。
【0067】
本発明の溶解パルプは、1グラムあたり約200~約1900m(mL/g)の固有粘度、または1グラムあたり約200~約1900mL(mL/g)の固有粘度を有する。約200~約1500mL/g、または約200~約1500mL/gの間の固有粘度が特に好ましい。固有粘度範囲の特に好ましい下限は、約300mL/g、約400mL/g、約500mL/g、約600mL/g、約700mL/gおよび約800mL/gである。固有粘度範囲の特に好ましい上限は約1900mL/g、約1800mL/g、約1700mL/g、約1600mL/g、約1500mL/g、約1400mL/g、および約1300mL/g、約1200mL/g、および約1100mL/gである。固有粘度範囲の上記で列挙した下限端点または上限端点のいずれかを、他の範囲の端点のいずれかと組み合わせることができる。特に、約300~約1500mL/g(または約300~約1500mL/gの間)、約400~約1500mL/g(または約400~約1500mL/gの間)、約500~1500mL/g(または約500~約1500mL/gの間)、約200~約1400mL/g(または約200~約1400mL/gの間)、約200~約1300mL/g(または約200~約1300mL/gの間)、約200~約1200mL/g(または約200~約120mL/gの間)、約300~約1400mL/g(または約300~約1400mL/gの間)、約400~約1300mL/g(または約400~約130mL/gの間0)および約500~約1200mL/g(または約500~約1200mL/gの間)の範囲が好ましい。また、上記の範囲の全てについて、それぞれの下限の端点が含まれ且つそれぞれの上限の端点が除外された範囲、ならびに、それぞれの下限の端点が除外され且つそれぞれの上限の端点が含まれる範囲も考えられる。特に好ましい固有粘度範囲は、リヨセル、ビスコースまたはモダールのいずれか1つ以上などの再生セルロース成形体を製造するのに特に適した粘度範囲である。典型的には、約200mL/g未満の固有粘度または約1500mL/gを超える固有粘度は、リヨセル、ビスコースまたはモダールのいずれか1つ以上などの再生セルロース成形体を製造するのに適していない。
【0068】
本発明の文脈において、限界粘度数(LVN)またはシュタウディンガー指数とも呼ばれる固有粘度は、当業者に公知であり、その全体が本明細書中に参考として援用される、確立された国際規格ISO 5351、第1版、2004年6月15日に従って、ミリリットル/グラム(mL/g)で測定される。簡単に述べると、国際規格ISO 5351は、銅エチレンジアミン(CED)希薄溶液中の溶解パルプの固有粘度の推定値である数を生じる方法を規定している。固有パルプのCED希薄溶液を調製し、調製された溶液の粘度計からの流下時間を測定する。
【0069】
本発明の溶解パルプは、約80%以上、約81%以上、約82%以上、約83%以上、約84%以上、約85%以上、約86%以上、約87%以上、約88%以上、約89%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%、または約99%以上のISO明度を有する。特に好ましいのは、約85%以上、約90%以上、または約95%以上のISO白色度である。
【0070】
本発明の文脈において、青色反射率とも呼ばれるISO白色度は当業者に公知であり、参照により組み込まれる、確立された国際規格ISO 2470-1、第1版、2009年1月10日に従って測定される。本発明の文脈において、用語「ISO」、「ISO白色度」および「白色度」は、互換的に使用される。
【0071】
本発明の溶解パルプは、約200以上、約250以上、約300以上、約350以上、約400以上、約450以上、約500以上、約550以上、または約600以上のビスコースフィルター値(FV)を有する。
約300以上のビスコースフィルター値が特に好ましい。
【0072】
ビスコースフィルター値(FV)は、典型的には約700以下、約750以下、または約800以下である。ビスコースフィルター値(FV)は、溶解パルプの反応性を決定するために最も一般的に使用される尺度である。ビスコースフィルター値(FV)が高いほど、特にリヨセルプロセスおよびビスコースプロセスにおける溶解パルプの反応性が高い。本発明の溶解パルプは、溶解パルプをリヨセルプロセスおよびビスコースプロセスに特に適したものにする高いビスコースフィルター値を有することを特徴とする。ビスコースフィルター値を決定し、その濾過性を測定するのに必要なビスコース試料を調製する方法、すなわちビスコースフィルター値を決定する方法は、当業者に公知であり、参照により組み込まれるH[ue]pfl JおよびZauner JのPr[ue]fung von Chemiefaserzellstoffen an einer Viskose-Kleinstanlage、Das Papier、20、3、1966、125-132に記載されている。本発明の文脈において、ビスコースフィルター値(FV)は、上記の参考文献(H[ue]pfl J,1966)に従って決定される。本発明の溶解パルプは、狭いMWDを有する。狭いMWDは、再生セルロース成形体を製造する際に有益である均質な反応を確実にする傾向がある。例えば、典型的には、全ての他の条件が一定に保たれるならば、MWDが狭ければ狭いほど、得られる再生セルロース繊維は強くなる。特に、狭いMWDの溶解パルプは、リヨセルプロセスおよびビスコースプロセスにおける溶解パルプの使用に有益である。高分子量画分および低分子量画分は、リヨセルプロセス、ビスコースプロセスまたはモダールプロセスを妨害し得、そして例えば、繊維構造がより弱い最終生成物を生じ得る。狭いMWDとは、溶解パルプのセルロースの大部分が狭い分子量領域内にあることを意味する。本発明の文脈において、MWDは、当業者に公知であり、参照により組み込まれるSchelosky N et al、Molmassenverilung cellulosischer Producte mittels Gr[oe][ss]enausschlu[ss]chromatographie in DMAc/LiCI、Das Papier、12/99、728-738に従って測定される。MWDの幅は、多分散性指数(PDI)で表される。本発明の意味における狭いMWDとは、PDIが約2.5未満、約2.2未満、約2.0未満、約1.8未満、約1.6未満、約1.4未満、または約1.2未満であることを意味する。当業者は、PDIの可能な最小の下限が少なくとも理論的には1.0であることを知っているであろう。これは、例えばSchelosky et al.による上記刊行物に示されているように、パラメータPDIがどのように計算されるかに起因する。本発明のいくつかの実施形態では、PDIの下限は約1.8、約1.6、約1.4または約1.2である。本発明のいくつかの実施形態では、上記に列挙した用語「約~未満(below about)」は、「略等しいか、または約~未満である」ことも意味し得る。上述の最大PDI値の1つと上述の下限値の1つとを組み合わせることによって定義される任意の範囲、例えば、約1.2~約1.8の範囲も、本発明の一部として考えられる。このように考えられる任意の範囲は、範囲を規定する端点(限界)を含んでもよく、または除外したものでもよい。また、上記の範囲の全てについて、それぞれの下限の端点が含まれ且つそれぞれの上限の端点が除外された範囲、ならびに、それぞれの下限の端点が除外され且つそれぞれの上限の端点が含まれる範囲も考えられる。
【0073】
本発明の溶解パルプはさらに、リヨセル、ビスコースまたはモダールのいずれか1つ以上などの再生セルロース成形体の調製における本発明の溶解パルプの使用などの下流用途を妨害する反応性化学基が、低レベル、不在、または本質的に不在であることによって特徴付けられる。特に、驚くべきことに、本発明の溶解パルプ、特に本発明のパルプ化方法によって製造された溶解パルプは、従来技術の溶解パルプと比較して、カルボニル基もしくはカルボキシル基またはその両方の含有量が減少しているか、またはカルボニル基もしくはカルボキシル基もしくはその両方を本質的に含まないことが見出された。本発明の文脈において、下流での適用を妨害する化学基が低レベルであるということ、特にカルボニル基、カルボキシル基またはその両方が低レベルであるということは、前記基のレベルが、パルプ木材、特に広葉樹予備加水分解クラフトパルプから製造されるパルプ、蒸解工程において気体状酸化剤およびセルロース安定化添加剤の存在なしでコットンリンターから製造される溶解パルプ、またはそれらの両方における前記基のレベルを、ほぼ下回る、ということを意味する。カルボニル基、カルボキシル基、またはその両方が低レベルであるパルプを溶解するさらなる実施形態は、本明細書において以下に記載される。
【0074】
本発明の文脈におけるカルボニル基の存在は、R[oe]hrling J、et al、A Novel Method for Determination of Carbonyl Groups in Cellulosics by Fluorescence Labelingに開示された方法によって測定される。1.Method Development、Biomacromolecules、2002、3、959-968; Rohrling J、et al、A Novel Method for Determination of Carbonyl Groups in Cellulosics by Fluorescence Labeling. 2.Validation and Applications、Biomacromolecules、2002、3、969-975; Potthast A、et al、A Novel Method for Determination of Carbonyl Groups in Cellulosics by Fluorescence Labeling. 3.Monitoring Oxidative Processes, Biomacromolecules, 2003, 4, 743-749、以上全て当業者に周知であり、参照により本明細書に組み込まれる。これらの文献に開示され、本発明の文脈で使用される方法は、カルバゾール-9-カルボン酸[2-(2-アミノオキシエトキシ)エトキシ]アミド(CCOA)の使用に基づく。したがって、この方法は「CCOA法」と呼ばれる。
【0075】
本発明の文脈におけるカルボキシル基の存在は、当業者に周知であり、参照により本明細書に組み込まれるBohrn R, et al, The FDAM Method: Determination of Carboxyl Profiles in Cellulosic Materials by Combining Group-Selective Fluorescence Labeling with GPC, Biomacromolecules, 2006, 7, 1743-1750に開示された方法によって測定される。この文献に開示された方法は9H-フルオレン-2-イル-ジアゾメタン(FDAM)を使用し、したがって「FDAM法」と呼ばれる。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態では、溶解パルプ、特に本発明の方法によって製造される溶解パルプは、カルボニル基、カルボキシル基またはカルボニル基およびカルボキシル基の含有量が低レベルである。本発明のいくつかの実施形態では、カルボニル基、カルボキシル基、またはカルボニル基およびカルボキシル基の含有量が低レベルであるとは、溶解パルプが、カルボニル基、カルボキシル基、またはカルボニル基およびカルボキシル基を本質的に含まないことを意味する。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態では、カルボニル基含有量が低レベルであるとは、溶解パルプ、特に本発明の方法によって製造される溶解パルプの1g当たりのカルボニル基のμmol単位での含有量(μmol/g)が、約1.00未満、約0.90未満、約0.80未満、約0.70未満、約0.60未満、約0.50未満、約0.40未満、約0.30未満、または約0.20未満であることを意味する。用語「約~未満」は、「略等しいかまたは約~未満」を意味することもできる。好ましくは、溶解パルプのカルボニル基含有量は、約0.60μmol/g未満、約0.50μmol/g未満、約0.40μmol/g未満、約0.30μmol/g未満、または約0.20μmol/g未満であり、より好ましくは約0.40μmol/g未満である。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態では、カルボキシル基含有量が低レベルであるとは、溶解パルプ、特に本発明の方法によって製造される溶解パルプの1g当たりのカルボキシル基のμmol単位での含有量(μmol/g)が、約8.00未満、約7.00未満、約6.00未満、約5.00未満、約4.00未満、約3.50未満、約3.00未満、約2.50未満、または約2.00未満の量であることを意味する。用語「約~未満」は、「略等しいかまたは約~未満」を意味することもできる。好ましくは、溶解パルプのカルボキシル基含有量は、約4.00μmol/g未満である。
【0079】
カルボニル基およびカルボキシル基は、上述した溶解パルプの下流適用、特にリヨセルプロセス、ビスコースプロセスおよびモダールプロセスを妨害する。すなわち、溶解パルプ中におけるカルボニル基およびカルボキシル基の存在は、リヨセルプロセス、ビスコースプロセスおよびモダールプロセスにおける溶解パルプの反応性を低下させる。カルボニル基およびカルボキシル基は例えば、これらのプロセスに関与する求核性物質と反応する化学的反応性位置をセルロース内に構成し、セルロースポリマーの分解性開裂をもたらして、上述した下流での適用を妨害する。このような切断は、特定の欠点を伴う。所与の処理条件セット下において、このような開裂反応の発生は、溶解パルプ中に存在するセルロースポリマーの長さを短縮し、それによって溶解パルプの粘度を低下させる。このような開裂の程度は主として溶解パルプ中のセルロース内の反応基の量に依存し、したがって、主として実験者の制御から外れているので、このような制御されていない開裂は、再生セルロース成形体を形成するためのリヨセルプロセス、ビスコースプロセス、またはモダールプロセスなどの下流プロセスが適切に機能することを確実にするために必要とされる最小固有粘度未満にまで、溶解パルプの粘度を低下させてしまうおそれがある。さらに、溶解パルプ中にカルボニル基、カルボキシル基またはその両方が存在すると、このような溶解パルプから製造される再生セルロース成形体の望ましくない変色、特に黄変が促される。
【0080】
溶解パルプ中のカルボニル基、カルボキシル基またはその両方のような反応性化学基の量を減少させ、例えば本質的にゼロにすると、リヨセルプロセス、ビスコースプロセスまたはモダールプロセスのような下流プロセスにおいて溶解パルプの使用を妨げるおそれのある制御不能な変数の源が、効果的に低減または除去される。このような低減は同時に、上記の困難にもかかわらず形成された成形体の価値を低下させるおそれのある望ましくない経時的な変色を、回避せしめる。本発明の方法は、カルボニル基、カルボキシル基、またはその両方を本質的に含まないことによって上記の欠点を回避し、工業的に要求される外観の基準を満たす再生セルロース成形体へのさらなる加工に十分に適した溶解パルプを提供する。
【0081】
本発明のいくつかの実施形態では、前記溶解パルプは、本発明の方法によって得ることができ、カルボニル基の含有量が約0.40μmol/g未満であるか、カルボキシル基の含有量が4.00μmol/g未満であるか、固有粘性が約200~約1500mL/gであるか、ISO明度が約80%以上、好ましくは約85%以上であるか、ビスコースフィルター値(FV)が約200以上、好ましくは約300以上であるか、またはそれらのうちいずれかの組み合わせを有する。本発明の特に好ましい態様において、前記溶解パルプは、本発明の方法によって得ることができ、カルボニル基の含有量が約0.40μmol/g未満であり、カルボキシル基の含有量が4.00μmol/g未満であり、固有粘性が約200~約1500mL/gであり、ISO明度が約80%以上、好ましくは約85%以上であり、且つビスコースフィルター値(FV)が約200以上、好ましくは約300以上である。
【0082】
再生セルロース成形体の製造方法
再生セルロース成形体の製造方法は、当業者に既に知られている。特に水性アミンオキシド、特に好ましくは4-メチルモホリンN-オキシド(NMMO)を使用する、リヨセルプロセスは、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれるEP0356419B1およびEP0584318B1に開示されている。ビスコースプロセスは、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれるG[oe]tze、Chemiefasern nach dem Viskose verfahren、1967に開示されている。モダールプロセスは、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる特許AT287905に開示されている。
【実施例】
【0083】
実施例1:気体状酸化剤なし、アルカリ条件下で綿をパルプ化する方法(参考例)
実施例1は参考例であり、ここでは気体状酸化剤およびセルロース安定化添加剤の非存在下でパルプ化を行った。パルプ化試験は、化学的に未処理のカード処理コットンリント繊維を用いて、5リットルバッチ蒸解缶中で行った。前処理として、繊維を切断ミルで切断し、繊維長を3~6mmとした。均質な混合物を得るために、反応混合物(繊維とアルカリ性溶液を含む)を加圧容器(蒸解缶)に充填する前に、繊維をアルカリ性溶液中で撹拌した。蒸解缶に反応混合物を充填した後、反応混合物を加熱した。試験は130℃で2.5時間行った。蒸解液は、セルロース11%(w/w)のNaOH水溶液からなった。蒸解後に得られたパルプは、80.2%のISO白色度および1560mL/gの固有粘度を有する。収率は91.7%と計算された。
【0084】
実施例2:気体状酸化剤およびセルロース安定化添加剤の存在下、アルカリ条件下で綿をパルプ化する方法
実施例2では、本発明における意味で綿ベース原料であるコットンリント繊維を、酸素およびセルロース安定化添加剤としての硫酸マグネシウムの存在下においてアルカリ性条件下でパルプ化することにより、リヨセル、モダール、またはビスコースのいずれか1つ以上などの再生セルロース成形体の製造における出発材料としての下流での使用に適した高品質の溶解パルプが提供されることを実証する。
【0085】
実施例2で使用したコットンリント繊維(出発材料)、蒸解パラメータおよび前処理は、実施例1におけるものと同じであった。
【0086】
さらに、硫酸マグネシウム(MgSO4)を、セルロースに対して0.1%(w/w)の割合で蒸解液に添加した。酸素を気体状酸化剤として選択した。蒸解缶の圧力は8バールに設定した。
【0087】
蒸解後に得られたパルプは、91.0%のISO白色度および755mL/gの固有粘度を有する。収率は91.7%と計算された。
【0088】
実施例2の結果は、実施例1と比較して、一定の収率と共に、白色度の著しい増加および固有粘度の有意な低下を示す。固有粘度の低下は、リヨセルプロセス、ビスコースプロセスまたはモダールプロセスなどの下流用途に特に有用である。これは例えば、実施例6に例示されており、そこでは、実施例2の方法に従って製造された溶解パルプが415という非常に高いフィルター値を有するため、ビスコースプロセスに特に適していることが示されている(実施例6参照)。
【0089】
実施例3:気体状酸化剤およびセルロース安定化添加剤の存在下で、綿ファブリックをパルプ化する方法
実施例3では、実施例2で得られた結果を拡張し、コットンリント繊維だけでなく、綿ファブリックも本発明によるパルプ化方法において綿ベース原料として使用できることを実証する。実施例3で使用した蒸解パラメータ、添加剤および前処理は、実施例2におけるものと同じであった。未漂白綿ファブリックを用いて蒸解試験を行った。
【0090】
蒸解後に得られたパルプは90.4%のISO白色度および715mL/gの固有粘度を有し、収率は91.4%と計算された。
【0091】
実施例3の結果は実施例2の結果と一致し、本発明の方法においては、広範囲の綿ベース原料を、リヨセル、ビスコースまたはモダールなどの再生セルロース成形体の製造に使用するのに適した高品質の溶解パルプを得るために使用できることを実証している。実施例3の溶解パルプのISO白色度は、参考例(実施例1)で得られたISO白色度をはるかに超えている。ISO白色度の増加は、溶解パルプを、リヨセル、ビスコース、またはモダールのいずれか1つ以上などの再生セルロース成形体を製造するのに特に適したものにする。さらに、実施例3の方法に従って製造された溶解パルプの固有粘度は1500mL/gの値未満に実質的に低下しており、したがって、リヨセルプロセス、ビスコースプロセス、またはモダールプロセスに特に適している。対照的に、参考例(実施例1)の固有粘度は1560mL/gである。
【0092】
実施例4:気体状酸化剤およびセルロース安定化添加剤の存在下で、綿/ポリエステルファブリックをパルプ化する方法
実施例4では、純粋な綿ベース原料のみならず、綿とポリエステル(PES)のような他の合成繊維とのブレンド(これは主に綿からなる)も、本発明の方法に適していることを実証する。実施例4で使用した蒸解パラメータ、添加剤および前処理は、実施例3におけるものと同じであった。蒸解試験は、綿/PESファブリックを用いて行った。元のファブリックのPES含有量は32.7%と測定され、67.3%の綿含有量に相当した。
【0093】
蒸解後に得られたパルプは93.1%のISO白色度および740mL/gの固有粘度を有し、収率は59.8%と計算された。
【0094】
実施例4の結果は、実施例3と比較して、白色度の増加を示す。全体のセルロース収率は、収率計算の目的でPES含有量を考慮した場合、実施例3の結果と一致する。驚くべきことに、本発明のパルプ化方法においては、相当量の合成繊維、例えばPESを含む綿ベース原料であってもなお、出発原料として使用することができる。かかるブレンドは依然として、リヨセル、ビスコース、またはモダールのいずれか1つまたは複数などの再生セルロース成形体の製造における下流での使用に適した高品質の溶解パルプを生じる。事実、このようなブレンドから得られる溶解パルプのISO白色度および固有粘度は、純粋な綿出発物質のISO白色度および固有粘度に、より良好ではないにしても、確実に匹敵する。したがって、実施例4は、本発明のパルプ化方法が多種多様な異なる出発原料、すなわち、実質的な量の非セルロース成分を含み得る異なる綿ベース原料にも適用可能であることを実証している。
【0095】
実施例5:気体状酸化剤なしで綿繊維をパルプ化し、続いて酸素漂白工程を行う方法
実施例5では、後からパルプを漂白しても、本発明のパルプ化方法と同じ結果はもたらされないことを示す。実施例5で使用したコットンリント繊維、蒸解パラメータおよび前処理は、実施例1のものと同じであった。パルプ化プロセスの結果は、実施例1の結果と一致する。
【0096】
パルプ化工程に続いて、過酷な酸素漂白工程を行った。実施例5で使用した漂白条件は、実施例2の蒸解条件と同じであった。
【0097】
漂白後に得られたパルプは86.8%のISO白色度および1210mL/gの固有粘度を有し、漂白損失は0.5%と計算され、(パルプ化および漂白で)91.2%の収率をもたらした。
【0098】
実施例5の結果は、実施例2の結果と比較して、白色度および収率の値が低く、固有粘度の値が高い。特に、実施例5で生成された溶解パルプは粘度フィルター値がわずか50であり、これは、溶解パルプをビスコースプロセスに適しないものとする(実施例6を参照のこと)。
【0099】
実施例6:H[ue]pfl J(1966)にしたがうビスコースの適用試験(ビスコースフィルター値、FV)
ビスコースフィルター値(FV)は、再生セルロースの製造方法の一例であるビスコースプロセスにおける溶解パルプの反応性を決定するための重要なパラメータである。実施例1~5から得られた全ての溶解パルプのビスコースフィルター値(FV)をH[ue]pfl J(1966)に従って測定し、再生セルロース成形体の製造のための例示的な下流プロセス、特にビスコースプロセスにおいての、生成溶解パルプの反応性を調べた。
【0100】
【0101】
表1に示す結果は、気体状酸化剤およびセルロース安定化添加剤の存在下でアルカリ性条件を使用する、本発明によるパルプ化方法(実施例2、3および4)が、ビスコースなどの再生セルロース成形体を製造するための非常に優れた反応性を有する溶解パルプを製造することを実証している。
【0102】
蒸解工程において気体状酸化剤およびセルロース安定化添加剤が存在しない場合、得られる溶解パルプのビスコースフィルター値(FV)は有意に低く、ビスコースプロセスにおける反応性が低いことを示している。特に、実施例5の溶解パルプは、1210mL/gの固有粘性および86.8%のISO白色度を有するにもかかわらず、フィルター価はわずか50であり、このことは、当該溶解パルプがビスコースプロセスに本質的に適していないことを意味する。再生セルロースの他の型(例えば、リヨセル)について利用可能な適用試験の全ての結果は、実施例6に示された結果と一致する。
【0103】
実施例7:本発明の溶解パルプからのリヨセルの製造
実施例7は、本発明の溶解パルプがリヨセルの製造に特に適していることを示している。上記実施例1および実施例2に記載したコットンリント繊維を、150℃で1.5時間、蒸解試験に供した。蒸解液は、セルロース15%(w/w)のNaOH水溶液からなった。硫酸マグネシウム(Mg(SO4))を、セルロースに対して0.1%の濃度まで蒸解液に添加した。酸素を気体状酸化剤として選択し、6バールの初期ガス圧で蒸解缶に添加した。
【0104】
蒸解後に得られたパルプは91.4%のISO白色度および436mL/gの固有粘度を有し、収率は90.3%であると計算された。
【0105】
本発明のパルプから出発して、40.0cN/texの強度(tenacity)および9.3%の伸度(elongation)を有する1.3dtexのリヨセル繊維が製造された。1texは1g/1000mに相当する。
【0106】
実施例8:カルボニルおよびカルボキシル含量の測定
驚くべきことに、本発明者らは、本発明の溶解パルプのカルボニル基、カルボキシル基、またはカルボニル基およびカルボキシル基が、低レベルであることを見出した。実施例8は未処理コットンリント繊維(試料1)、本発明の溶解パルプ(試料2)、および先行技術の参考例、すなわち、パルプウッド由来のパルプである参考広葉樹予備加水分解クラフトパルプ(試料3)、およびR[oe]hrling J, et al, A Novel Method for the Determination of Carbonyl Groups in Cellulosics by Fluorescence Labeling. 2. Validation and Applications, Biomacromolecules, 2002, 3, 969-975, Table 1に開示される参考コットンリンターパルプ(試料4)について、カルボニル基およびカルボキシル基の量を比較して示すものである。
2
【0107】
カルボニル基の量はCCOA法により測定し、カルボキシル基の量はFDAM法により測定した。
【0108】
表2に示されるように、本発明の溶解パルプ(試料2)のカルボニル基の量は、カルボニル基の量を決定するために使用されたCCOA法の検出限界付近である、特に低い量である。特に、カルボニル基の量は、同じく綿ベース原料、すなわちコットンリンターから製造された、参照パルプ中のカルボニル基の量よりも、有意に少ない(試料4)。さらに、本発明の溶解パルプ中のカルボニル基の量はまた、参照広葉樹予備加水分解クラフトパルプ中のカルボニル基の量よりも、劇的に低い。加えて、本発明の溶解パルプのカルボキシル基の量もまた、参照広葉樹予備加水分解クラフトパルプ中のカルボキシル基の量よりも、劇的に低い。この文脈において、溶解パルプの最大画分は依然として、試料3によって示されるように、多量のカルボキシル基を有するパルプ木材から生成されることに留意しなければならない。
【0109】
【0110】
上記から分かるように、本発明の方法は、本発明の方法によって製造されたものでない従来の溶解パルプに較べてカルボニル基およびカルボキシル基の量が大幅に低減されている、という利点を有する溶解パルプを生じる。