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特許7243047補助電源装置及び電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】補助電源装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/04 20060101AFI20230314BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230314BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20230314BHJP
   H02P 29/68 20160101ALI20230314BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230314BHJP
   H02J 7/34 20060101ALI20230314BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20230314BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20230314BHJP
   B62D 107/00 20060101ALN20230314BHJP
【FI】
H02J7/04 L
B62D5/04
B62D6/00
H02P29/68
H02J7/00 303C
H02J7/34 B
H02J7/00 P
H02J7/00 302C
B62D137:00
B62D119:00
B62D107:00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018109425
(22)【出願日】2018-06-07
(65)【公開番号】P2019213400
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】篠田 智史
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-157519(JP,A)
【文献】特開2009-248695(JP,A)
【文献】特開2007-153006(JP,A)
【文献】特開2016-054628(JP,A)
【文献】特開2012-091629(JP,A)
【文献】特開2002-142373(JP,A)
【文献】特開2009-124914(JP,A)
【文献】特開2008-178183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
B62D 5/04
B62D 6/00
H02P 29/68
B60R 16/02
B62D 107:00
B62D 119:00
B62D 137:00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電源から給電対象への給電経路に設置される補助電源装置であって、キャパシタを有するとともに、前記主電源からの給電により前記キャパシタに電荷を充電する充電状態と、前記キャパシタに充電した電荷を保持する保持状態と、前記キャパシタに充電した電荷を前記給電対象に放電する放電状態と、を切替可能な補助電源装置において、
前記キャパシタの温度が既定の低温判定温度以下のときには、前記キャパシタの温度が前記低温判定温度を超えるときよりも高い電圧となるように、前記キャパシタの温度に応じて最大充電電圧を設定するとともに、前記充電状態にあるときに前記キャパシタの充電電圧が前記最大充電電圧以上となったときに前記充電状態から前記保持状態への切り替えを行うように構成されており、
前記充電状態は、前記給電対象が必要な電力である要求電力が前記主電源から前記補助電源装置に給電される主電源電力以下であり、且つ前記充電電圧が前記最大充電電圧未満の場合に、前記主電源に対して前記給電対象と前記キャパシタとを並列に接続する状態であり、
前記保持状態は、前記要求電力が前記主電源電力以下であり、且つ前記充電電圧が前記最大充電電圧以上の場合に、前記主電源と前記給電対象とから前記キャパシタを電気的に切り離す状態であり、
前記放電状態は、前記要求電力が前記主電源電力を超える場合に、前記主電源と前記給電対象との間で前記キャパシタを前記主電源と直列に接続する状態である
補助電源装置。
【請求項2】
前記充電状態において前記主電源の電圧を昇圧して前記キャパシタに印加する昇圧回路を備える
請求項1に記載の補助電源装置。
【請求項3】
前記キャパシタの温度が、前記低温判定温度よりも高い既定の温度である高温判定温度以上のときには、前記キャパシタの温度が前記低温判定温度を超え、且つ前記高温判定温度未満のときよりも、前記最大充電電圧を低くする
請求項1又は2に記載の補助電源装置。
【請求項4】
前記キャパシタは、リチウムイオンキャパシタである
請求項1~3の何れか1項に記載の補助電源装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の補助電源装置と、操舵補助用のモータと、を備えており、且つ前記モータを前記補助電源装置の給電対象とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補助電源装置、及び同補助電源装置を備えた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される電動装置として、運転者の操舵を補助する電動パワーステアリング装置がある。電動パワーステアリング装置は、操舵補助用のモータを備えている。そして、電動パワーステアリング装置は、ステアリングホイール等の操舵部材の回転操作に応じて操舵補助用のモータを駆動して、同モータが発生した動力を舵取機構に加えることで操舵を補助している。
【0003】
また、特許文献1に見られるように、キャパシタを有した補助電源装置を備える電動パワーステアリング装置が提案されている。補助電源装置は、主電源としての車載バッテリからアシストモータへの給電回路に設けられている。こうした補助電源装置を備える電動パワーステアリング装置では、モータの負荷が低いときに主電源からの給電により補助電源装置のキャパシタを充電している。そして、停車中や低速走行中の操舵時、いわゆる据切り操舵時などの大きい操舵補助力が必要なときに、主電源からの給電に加えてキャパシタの放電によりモータを駆動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-157519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、キャパシタは、その温度が一定の温度よりも低くなると、内部抵抗が急激に増加する。内部抵抗が増加すると、キャパシタの放電初期の電圧降下が大きくなるため、低温時には補助電源装置の出力電圧が低下する。
【0006】
なお、主電源からの給電によりキャパシタを充電するとともに、そのキャパシタの放電により給電を行う補助電源装置を、電動パワーステアリング装置以外の電動装置に適用することが考えられる。そうした場合にも、低温時における補助電源装置の出力電圧の低下は同様に生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する補助電源装置は、主電源から給電対象への給電経路に設置される補助電源装置であって、キャパシタを有するとともに、前記主電源からの給電により前記キャパシタに電荷を充電する充電状態と、前記キャパシタに充電した電荷を保持する保持状態と、前記キャパシタに充電した電荷を前記給電対象に放電する放電状態と、を切替可能な補助電源装置において、前記キャパシタの温度が既定の低温判定温度以下のときには、前記キャパシタの温度が前記低温判定温度を超えるときよりも高い電圧となるように、前記キャパシタの温度に応じて最大充電電圧を設定するとともに、前記充電状態にあるときに前記キャパシタの充電電圧が前記最大充電電圧以上となったときに前記充電状態から前記保持状態への切り替えを行う。
【0008】
上記構成では、充電状態にあるときにキャパシタの充電電圧が最大充電電圧以上となると、補助電源装置の動作状態が充電状態から保持状態に切り替えられる。すなわち、充電電圧が最大充電電圧を超えない範囲内でキャパシタの充電が行われる。
【0009】
キャパシタの温度が低いときには、内部抵抗が大きくなって放電初期の電圧降下が大きくなる。その点、上記構成では、キャパシタの温度が低いときには同温度が高いときよりも高い電圧が最大充電電圧として設定される。これにより、キャパシタの温度が低いときには同温度が高いときよりも高い電圧までキャパシタの充電が行われる。このように低温時にキャパシタをより高電圧まで充電しておけば、放電初期の電圧降下が大きくても、補助電源装置の出力電圧の低下を抑えられる。
【0010】
上記補助電源装置は、前記充電状態において前記主電源の電圧を昇圧して前記キャパシタに印加する昇圧回路を備えることが望ましい。こうした場合、充電状態での昇圧回路の昇圧電圧を調整することで、キャパシタの温度に応じた最大充電電圧の変更が可能となる。
【0011】
さらに、上記補助電源装置において、キャパシタの温度が、前記低温判定温度よりも高い既定の温度である高温判定温度以上のときには、前記キャパシタの温度が前記低温判定温度を超え、且つ前記高温判定温度未満のときよりも、前記最大充電電圧を低くすることが望ましい。キャパシタの温度が高くなると、充放電の繰り返しによる劣化が進みやすくなるが、そうした場合には最大充電電圧を低く設定することで、劣化の進行を抑えられる。
【0012】
リチウムイオンキャパシタは、電気二重層キャパシタなどの他のタイプのキャパシタよりも、低温時の内部抵抗の増大が顕著となる。そのため、低温時の内部抵抗の増大による出力低下を抑制可能な上記補助電源装置は、リチウムイオンキャパシタを採用する場合に特に好適である。
【0013】
なお、上記補助電電装置は例えば、操舵補助用のモータを備えており、且つ前記モータを補助電源装置の給電対象とする電動パワーステアリング装置に適用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低温時の出力電圧の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の構成を模式的に示す略図。
図2】同電動パワーステアリング装置の電気回路の構成を示す回路図。
図3】実施形態の補助電源装置の各動作状態におけるスイッチング素子の動作状態を示す表。
図4】同補助電源装置に設けられたキャパシタの温度と内部抵抗との関係を示すグラフ。
図5】同補助電源装置におけるキャパシタの温度と最大充電電圧との関係を示すグラフ。
図6】放電時のキャパシタ電圧の推移を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、補助電源装置及び電動パワーステアリング装置の一実施形態を、図1図6を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(以下、EPS1と記載する)には、一端にステアリングホイール2が固定され、他端にピニオンギア3が固定されたステアリングシャフト4を備える。ピニオンギア3は、ラックシャフト5に形成されたラックギア6に噛み合わされている。これらピニオンギア3及びラックギア6は、ステアリングシャフト4の回転運動をラックシャフト5の長手方向の直線運動に変換するラックアンドピニオン機構を構成する。なお、電動パワーステアリング装置1が車両に組付けられた際に、ラックシャフト5はその長手方向が車幅方向となるように車体に取り付けられ、更に同ラックシャフト5の両端は、左右の転舵輪7にタイロッド8を介してそれぞれ接続される。
【0017】
ステアリングシャフト4には、ステアリングホイール2の操作によりステアリングシャフト4に加えられた操舵トルクTRを計測するためのトルクセンサ9が装着されている。本実施形態では、トルクセンサ9として、ステアリングシャフト4の一部を構成するトーションバーの捻じり量を検出して、その捻じり量に基づいて操舵トルクTRを計測する構成のセンサが採用されている。
【0018】
また、ステアリングシャフト4には、操舵補助用のモータ(以下、アシストモータ10と記載する)が、同アシストモータ10の回転を減速してステアリングシャフト4に伝達する減速機11を介して連結されている。本実施形態では、アシストモータ10として、3相ブラシレスモータを採用している。また、本実施形態では、ウォームギア機構が減速機11として採用されている。
【0019】
さらに電動パワーステアリング装置1は、モータ駆動回路12、補助電源装置13、及び電子制御ユニット14を備えている。モータ駆動回路12には、アシストモータ10の各相にそれぞれ2つのスイッチング素子を備えた公知の回路が採用されている。また、電動パワーステアリング装置1が車両に組付けられた際に補助電源装置13及び電子制御ユニット14は、主電源としての車載バッテリ15にそれぞれ接続される。
【0020】
電子制御ユニット14は、電動パワーステアリング装置1の制御に係る演算処理を実行する演算処理回路16と、制御用のプログラムやデータが規則されたメモリ17と、を備えている。また、電子制御ユニット14には上述のトルクセンサ9が接続されている。さらに、電動パワーステアリング装置1が車両に組付けられた際に、電子制御ユニット14には、車両に設置されて同車両の走行速度VSを検出する車速センサ18が接続される。
【0021】
電子制御ユニット14は、車両に組付けられた状態の電動パワーステアリング装置1において、アシストモータ10により付与される操舵補助力の制御を行っている。操舵補助力の制御に際して電子制御ユニット14はまず、操舵トルクTR及び走行速度VSに基づき、操舵補助力の目標値である目標補助力を決定する。そして、電子制御ユニット14は、目標補助力分の操舵補助力を発生すべく、モータ駆動回路12及び補助電源装置13の動作を制御する。
【0022】
図2に示すように、補助電源装置13は、入力ポート20と出力ポート21とを備えている。入力ポート20は、電動パワーステアリング装置1が車両に組付けられる際に、車載バッテリ15に接続される。また、出力ポート21は、電動パワーステアリング装置1に組付けられた際に、モータ駆動回路12を介して給電対象であるアシストモータ10に接続される。
【0023】
補助電源装置13には、車載バッテリ15からの給電を断接するリレー22を介して入力ポート20に接続された配線である低電位ライン23が設けられている。本実施形態では、リレー22として、2つのMOSFETにより構成された非接点リレーが採用されている。
【0024】
また、補助電源装置13は、電荷を充放電可能な蓄電器24を備えている。蓄電器24の一端は低電位ライン23に接続されており、他端は後述の高電位ライン26に接続されている。蓄電器24は、直列に接続された2つのキャパシタ24A,24Bにより構成されている。なお、本実施形態では、各キャパシタ24A,24Bとして、リチウムイオンキャパシタを採用している。
【0025】
各キャパシタ24A,24Bの近傍には、キャパシタ24A,24Bの温度(以下、キャパシタ温度TCと記載する)を検出するための温度センサ27が設置されている。そして、温度センサ27は、電子制御ユニット14に接続されている。なお、本実施形態では、温度センサ27としてサーミスタを採用している。
【0026】
さらに、補助電源装置13は、昇圧用のコイルであるチョッパコイル25を備えている。チョッパコイル25の一端は、低電位ライン23に接続されており、他端は第1のスイッチング素子(以下、FET1と記載する)を介してグランドに接続されるとともに、第2のスイッチング素子(以下、FET2と記載する)を介して蓄電器24における低電位ライン23に接続された側と反対側の端に接続されている。上述の高電位ライン26は、FET2と蓄電器24とを繋ぐ配線となっている。高電位ライン26は、第3のスイッチング素子(以下、FET3と記載する)を介して出力ポート21に接続されている。なお、上述の低電位ライン23は、第4のスイッチング素子(以下、FET4と記載する)を介して出力ポート21に接続されている。
【0027】
本実施形態では、各スイッチング素子(FET1~4)としてMOSFETを採用している。これらFET1~FET4、及びリレー22を構成するMOSFETは、それぞれのゲートに対する電子制御ユニット14からの駆動信号の入力に応じて開閉する。なお、電子制御ユニット14は、高電位ライン26の電圧をキャパシタ24A,24Bの充電電圧VCとして取得している。
【0028】
続いて、電子制御ユニット14が実行する補助電源装置13の給電制御を説明する。電子制御ユニット14は、車両の起動(IGオン)後、故障診断等の起動時処理を行った後、リレー22をオンとした上で給電制御を開始する。給電制御において、電子制御ユニット14は、目標補助力に基づき、アシストモータ10が目標補助力分の操舵補助力を発生するために必要な電力である要求電力EPSを演算する。そして、電子制御ユニット14は、車載バッテリ15から補助電源装置13に給電される電力(主電源電力PS)、要求電力EPS、及び充電電圧VCに応じて、充電状態、保持状態、放電状態の間で補助電源装置13の動作状態を切り替える。なお、図3には、各状態におけるFET1~4の駆動状態が示されている。
【0029】
電子制御ユニット14は、要求電力EPSが主電源電力PS以下であり、且つ充電電圧VCが後述する最大充電電圧VMAX未満の場合、補助電源装置13の動作状態を充電状態とする。充電状態では、FET3がオフ(開)状態とされるとともに、FET4がオン(閉)状態とされる。一方、このときのFET1及びFET2は、交番にオン状態となるようにPWM駆動される。このときにも、車載バッテリ15から低電位ライン23を通ってモータ駆動回路12に電流が流れる。さらに、このときには、FET1、FET2、蓄電器24のキャパシタ24A,24B、及びチョッパコイル25が昇圧回路として動作する。そしてその結果、高電位ライン26の電圧が昇圧されるため、キャパシタ24A,24Bに電荷が充電される。
【0030】
電子制御ユニット14は、要求電力EPSが主電源電力PS以下であり、且つ充電電圧VCが最大充電電圧VMAX以上の場合、補助電源装置13の動作状態を保持状態とする。保持状態では、FET1、FET2、FET3がオフ状態とされるとともに、FET4がオン状態とされる。このときには、車載バッテリ15から低電位ライン23を通ってモータ駆動回路12に電流が流れる。なお、このときには、FET2及びFET3が共にオフ状態となっているため、キャパシタ24A,24Bに充電された電荷が保持される。
【0031】
これに対して、電子制御ユニット14は、要求電力EPSが主電源電力PSを超える場合、補助電源装置13の動作状態を放電状態とする。放電状態では、FET1、FET2、FET4がオフ状態とされるとともに、FET3がオン状態とされる。このときには、車載バッテリ15から低電位ライン23、蓄電器24、高電位ライン26を通ってモータ駆動回路12に電流が流れる。そのため、このときの補助電源装置13は、車載バッテリ15の電圧を、キャパシタ24A,24Bの充電電圧VCの分、昇圧して出力する。
【0032】
このように本実施形態では、要求電力EPSが小さいときにキャパシタ24A,24Bに電荷を充電しておくようにしている。そして、据切り操舵時などの要求電力EPSが大きくなったときに、充電しておいた電荷を放電することで、車載バッテリ15の給電量を増加させずにアシストモータ10への給電量を増大できるようにしている。そのため、急速放電による車載バッテリ15の充電量の急低下や温度上昇を抑えながら、大きい操舵補助力を発生することが可能となる。
【0033】
図4に示すように、キャパシタ24A,24Bには、低温になるほど内部抵抗が増大する温度特性を有している。本実施形態においてキャパシタ24A,24Bとして採用しているリチウムイオンキャパシタは、電気二重層キャパシタなどの他のキャパシタに比べ、温度低下に伴う内部抵抗の増加が特に大きいことが知られている。内部抵抗が増加すると、放電初期の電圧降下が大きくなり、その分、補助電源装置13の出力電圧が低下する。
【0034】
同図に示すように、キャパシタ温度TCの変化に対する内部抵抗の変化の割合は、一定の温度(以下、低温判定温度T1と記載する)未満の低温度域では、低温判定温度T1以上の温度域に比べて大きくなっている。低温判定温度T1は、氷点下数十度の極低温であるが、本実施形態の電動パワーステアリング装置1は極低温の環境下での使用も想定されているため、その影響は無視しえないものとなっている。一方、キャパシタ24A,24Bは、一定の温度(以下、高温判定温度T2と記載する)を超える高温度域では、充放電の繰り返しによる劣化の進行が早まることが知られている。これに対して本実施形態では、キャパシタ温度TCに応じて最大充電電圧VMAXの値を変更することで、低温度域での出力電圧の低下、及び高温度域での劣化の進行を抑えるようにしている。
【0035】
図5に、本実施形態での最大充電電圧VMAXの設定態様を示す。同図に示すように、キャパシタ温度TCが低温判定温度T1から高温判定温度T2までの通常温度域にある場合、既定の標準電圧V2が最大充電電圧VMAXの値として設定される。これに対して、キャパシタ温度TCが低温判定温度T1以下の低温度域にある場合、標準電圧V2よりも高い低温時用電圧V3(>V2)が最大充電電圧VMAXの値として設定される。また、キャパシタ温度TCが高温判定温度T2以上の高温度域にある場合、標準電圧V2よりも低い高温時用電圧V1(<V1)が最大充電電圧VMAXの値として設定される。
【0036】
図6には、次の3つの状況1~3で保持状態から放電状態への切替えが行われたときの充電電圧VCの推移がそれぞれ示されている。状況1は、本実施形態の補助電源装置13においてキャパシタ温度TCが通常温度域にある場合であり、同図にはその場合の充電電圧VCの推移が実線で示されている。状況2は、本実施形態の補助電源装置13においてキャパシタ温度TCが低温度域にある場合であり、同図にはその場合の充電電圧VCの推移が二点鎖線で示されている。状況3は、低温度域において最大充電電圧VMAXを標準電圧V2に設定して補助電源装置13の給電制御を行った場合であり、同図にはその場合の充電電圧VCの推移が破線で示されている。
【0037】
状況1~3のいずれの場合にも、放電開始の直後に充電電圧VCが急減する、いわゆる放電初期の電圧降下が生じる。放電初期の電圧降下は、内部抵抗が大きいほど大きくなる。そのため、低温度域では、通常温度域に比べ、放電初期の電圧降下が大きくなる。こうした放電初期の電圧降下の後の充電電圧VCは、キャパシタ24A,24Bの放電に応じて徐々に低下していく。
【0038】
状況3の場合には、標準電圧V2を最大充電電圧VMAXの値に設定して低温度域でのキャパシタ24A,24Bの充電が行われる。そのため、この場合の放電開始前の充電電圧VCは、状況1の場合と同じく標準電圧V2となる。一方、この場合には、キャパシタ温度TCが低くて内部抵抗が大きい分、放電初期の電圧降下は状況1の場合よりも大きくなる。そして、電圧降下が大きい分、状況3の場合には、放電開始後の充電電圧VCが状況1の場合よりも低くなる。放電中の補助電源装置13の出力電圧は、車載バッテリ15の出力電圧に充電電圧VCを加えた値となるため、状況3の場合の放電中の補助電源装置13の出力電圧は状況1の場合よりも低くなる。
【0039】
これに対して本実施形態では、放電初期の電圧降下が大きい低温度域では、最大充電電圧VMAXを標準電圧V2よりも高い低温時用電圧V3に設定している。そのため、状況2の場合には、状況3の場合よりも、放電中の補助電源装置13の出力電圧が高くなる。
【0040】
また、本実施形態では、高温度域では、最大充電電圧VMAXが標準電圧V2よりも低い高温時用電圧V1に設定される。そのため、劣化が進行しやすい高温度域では、通常温度域の場合よりも低電圧側の範囲においてキャパシタ24A,24Bの充放電が行われることになり、劣化の進行が抑えられる。
【0041】
以上の本実施の形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)キャパシタ温度TCが低温判定温度T1未満の低温度域では、キャパシタ温度TCが低温判定温度T1以上の通常温度域、高温域の場合よりも高い電圧(低温時用電圧V3)を最大充電電圧VMAXの値として設定している。そのため、低温時の補助電源装置13の出力電圧の低下を抑えられる。
【0042】
(2)キャパシタ温度TCが高温判定温度T2を超える高温度域では、通常温度域の場合よりも低い電圧(高温時用電圧V1)を最大充電電圧VMAXの値として設定している。そのため、高温時のキャパシタ24A,24Bの劣化の進行を抑えられる。
【0043】
(3)キャパシタ24A,24Bの内部抵抗が増大する低温時にも補助電源装置13の出力電圧の低下を抑えられるため、低温時の内部抵抗の増大が顕著なリチウムイオンキャパシタを補助電源装置13に採用し易くなる。
【0044】
なお、上記実施の形態は以下のように変更して実施することもできる。
・温度センサ27としてサイリスタ以外の温度センサを採用してもよい。
・上記実施形態では、車載バッテリ15が、補助電源装置13に給電する主電源となっていたが、発電機などの車載バッテリ以外の電源、或いは車載バッテリとそれ以外の電源とを組み合わせたものを主電源とするようにしてもよい。
【0045】
・リレー22としてメカニカルリレーを採用してもよい。
・アシストモータ10として三相ブラシレスモータ以外のモータを採用してもよい。
・スイッチング素子(FET1~FET4)の一部、又はすべてをMOSFET以外のスイッチング素子により構成してもよい。
【0046】
・補助電源装置13のキャパシタ24A,24Bとして、電気二重層キャパシタ等のリチウムイオンキャパシタ以外のキャパシタを採用してもよい。
・補助電源装置13の蓄電器24を構成するキャパシタの数は適宜に変更可能であり、単一のキャパシタ、或いは3つ以上のキャパシタにより同蓄電器24を構成するようにしてもよい。
【0047】
・上記実施形態では、最大充電電圧VMAXの値を、低温度域、通常温度域、及び高温度域での3段階に切り替えていたが、通常温度域及び高温度域の最大充電電圧VMAXを同じ値として、低温度域だけ最大充電電圧VMAXの値を変えるようにしてもよい。
【0048】
・上記実施形態の電動パワーステアリング装置1は、ステアリングシャフト4に減速機11を介してアシストモータ10が連結された、いわゆるコラムアシスト型の電動パワーステアリング装置として構成されていた。アシストモータ10が減速機11を介してラックシャフト5に連結されたラックアシスト型の装置として電動パワーステアリング装置1を構成してもよい。
【0049】
・上記実施形態の補助電源装置13は、電動パワーステアリング装置1以外の電気機器に適用してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…電動パワーステアリング装置、2…ステアリングホイール、3…ピニオンギア、4…ステアリングシャフト、5…ラックシャフト、6…ラックギア、7…転舵輪、8…タイロッド、9…トルクセンサ、10…アシストモータ(操舵補助用のモータ)、11…減速機、12…モータ駆動回路、13…補助電源装置、14…電子制御ユニット、15…車載バッテリ(主電源)、16…演算処理回路、17…メモリ、18…車速センサ、20…入力ポート、21…出力ポート、22…リレー、23…低電位ライン、24…蓄電器、24A,24B…キャパシタ、25…チョッパコイル、26…高電位ライン、27…温度センサ、FET1~FET4…スイッチング素子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6