(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20230314BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20230314BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230314BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20230314BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C11/03 Z
B60C1/00 A
C08L101/02
C08L9/06
(21)【出願番号】P 2018141905
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】鷲頭 健介
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-239445(JP,A)
【文献】特開2013-234227(JP,A)
【文献】特開2004-123887(JP,A)
【文献】特開2016-196288(JP,A)
【文献】特開2012-232644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
B60C 11/03
B60C 1/00
C08L 101/02
C08L 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水によって可逆的に硬度が変化し、下記式(1)を満たすゴム組成物によって構成されたトレッドを有し、
前記ゴム組成物が、スチレンブタジエンゴムを含有するゴム成分を含み、
前記ゴム成分100質量%中のスチレンブタジエンゴムの含有量が95質量%以下であり、
前記トレッドのランド比が30%以上であるタイヤ。
乾燥時の硬度-水湿潤時の硬度≧1 (1)
(式中、硬度は、ゴム組成物の25℃におけるJIS-A硬度である。)
【請求項2】
前記式(1)において、乾燥時の硬度-水湿潤時の硬度が2以上である請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記式(1)において、乾燥時の硬度-水湿潤時の硬度が3以上である請求項1記載のタイヤ。
【請求項4】
前記式(1)において、乾燥時の硬度-水湿潤時の硬度が4以上である請求項1記載のタイヤ。
【請求項5】
前記ゴム組成物が、ジエン系ゴムと、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを含む請求項1~4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記ヘテロ原子が、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子である請求項5記載のタイヤ。
【請求項7】
前記ポリマーが、水10mLに対し、1gを懸濁した場合の不溶分が5質量%以上である請求項5又は6に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記ポリマーが、テトラヒドロフラン10mLに対し、1gを懸濁した場合の不溶分が5質量%以上である請求項5~7のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項9】
前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、前記ポリマーを5質量部以上含む請求項5~8のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項10】
前記ゴム組成物が、イソプレン系ゴムを含む請求項1~9のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項11】
前記ゴム組成物が、ブタジエンゴムを含む請求項1~10のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項12】
前記トレッドが、タイヤ周方向に連続する溝及び/又はタイヤ周方向に非連続の溝を備える請求項1~
11のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車共通の課題として、安全性に対する意識がますます高まっており、ウェットグリップ性能の更なる改善が要求されている。これまで、ウェットグリップ性能改善のために様々な研究がなされており、シリカを配合したゴム組成物の発明が多々報告されている(例えば、特許文献1)。ウェットグリップ性能は、特に路面に接するトレッド部分のゴム組成物の性能に大きく左右されるため、トレッドなどのタイヤ用ゴム組成物の技術的改良が広く検討され、実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が鋭意検討した結果、シリカを用いたトレッド用ゴム組成物の技術的改良により、タイヤのウェットグリップ性能は大幅な進歩を遂げているが、ドライ路面からウェット路面、またはウェット路面からドライ路面への路面変化などが起こった場合のグリップ性能の変化については、重要な技術課題として残っており、改善の余地があることが判明した。
この点について、本発明者が鋭意検討した結果、従来のゴムは、水に濡れていないドライ状態から水に濡れた所謂ウェット状態に変化した場合において硬度は変化しないか、または、水に冷やされて硬くなる性質があるため、路面との接触面積が低下し、その結果、ウェットグリップ性能はドライグリップ性能に対して低下する傾向があることが判明した。
タイヤパターンの観点においては、ウェットグリップ性能を向上させる方法として、排水性を向上させる目的でトレッド面に溝が形成される。溝が連続であるパターンの場合、排水性は向上するが、ドライ路面時の接触面積が低下してドライグリップ性能が低下する傾向があるため、ドライグリップ性能が高い硬いゴムを優先的に使用する必要があり、ウェットグリップ性能が高い柔らかいゴムを使用できない場合がある。溝が非連続であるパターンの場合、上記とは逆に、ドライグリップ性能は向上するが、充分なウェットグリップが得られない傾向があるため、ウェットグリップ性能が高い柔らかいゴムを優先的に使用する必要があり、ドライグリップ性能が高い硬いゴムを使用できない場合がある。
このように、従来の技術では、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能を総合的に改善するという点では改善の余地があることが判明した。
本発明は、前記課題を解決し、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できるタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、水によって可逆的に硬度が変化し、下記式(1)を満たすゴム組成物によって構成されたトレッドを有し、
前記トレッドのランド比が30%以上であるタイヤに関する。
乾燥時の硬度-水湿潤時の硬度≧1 (1)
(式中、硬度は、ゴム組成物の25℃におけるJIS-A硬度である。)
【0006】
上記式(1)において、乾燥時の硬度-水湿潤時の硬度が2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、4以上であることが更に好ましい。
【0007】
上記ゴム組成物は、ジエン系ゴムと、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを含むことが好ましい。
【0008】
上記ヘテロ原子が、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であることが好ましい。
【0009】
上記ポリマーが、水10mLに対し、1gを懸濁した場合の不溶分が5質量%以上であることが好ましい。
【0010】
上記ポリマーが、テトラヒドロフラン10mLに対し、1gを懸濁した場合の不溶分が5質量%以上であることが好ましい。
【0011】
前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、上記ポリマーを5質量部以上含むことが好ましい。
【0012】
前記ゴム組成物は、イソプレン系ゴムを含むことが好ましい。
【0013】
前記ゴム組成物は、ブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0014】
前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量%中のスチレンブタジエンゴムの含有量が95質量%以下であることが好ましい。
【0015】
前記トレッドは、タイヤ周方向に連続する溝及び/又はタイヤ周方向に非連続の溝を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水によって可逆的に硬度が変化し、上記式(1)を満たすゴム組成物によって構成されたトレッドを有し、上記トレッドのランド比が所定の範囲内であるタイヤであるので、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のタイヤは、水によって可逆的に硬度が変化し、下記式(1)を満たすゴム組成物によって構成されたトレッドを有し、上記トレッドのランド比が30%以上である。
乾燥時の硬度-水湿潤時の硬度≧1 (1)
(式中、硬度は、ゴム組成物の25℃におけるJIS-A硬度である。)
【0018】
上記タイヤは前述の効果が得られるが、このような作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。
上記タイヤのトレッドを構成するゴム組成物は、水によって可逆的に硬度が変化し、上記式(1)を満たす。ここで、上記式(1)は、乾燥時の硬度に比べて、水湿潤時の硬度が小さいことを意味する。すなわち、上記ゴム組成物は、水によって可逆的に硬度が変化し、上記式(1)を満たすものであるが、これは、乾燥時の硬度に比べて、水湿潤時の硬度が小さく、かつ、硬度が水の存在によって可逆的に変化することを意味する。
従って、ドライ路面からウェット路面へ変化すると、ゴム組成物が水によって湿潤されてゴム組成物の硬度が低下し、グリップ性能(ウェットグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ウェットグリップ性能)が得られる。これは、ウェット路面ではスリップしやすいためにドライ路面にとって好適な硬度のままでは充分なグリップ性能が得られないが、硬度が低下することにより、路面との接触面積が増大し、グリップ性能(ウェットグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ウェットグリップ性能)が得られるものと推測される。
一方、ウェット路面からドライ路面へ変化すると、水によって湿潤されたゴム組成物が乾燥されてゴム組成物の硬度が上昇し、グリップ性能(ドライグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ドライグリップ性能)が得られる。これは、ドライ路面ではスリップしにくいためにウェット路面にとって好適な硬度のままでは充分なグリップ性能が得られないが、硬度が上昇することにより、ドライ路面にとって好適な硬度となり、グリップ性能(ドライグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ドライグリップ性能)が得られるものと推測される。
このように、水によって可逆的に硬度が変化し、かつ、上記式(1)を満たすことにより、路面の水の状態(ウェット路面、ドライ路面)に応じた適切な硬度が得られるため、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できる。
更に、トレッドは、ランド比を上げることでドライグリップ性能が向上し、ランド比を下げることでウェットグリップ性能が向上するが、上記タイヤは、上記ゴム組成物で作製したトレッドのランド比が所定の範囲内であることで、ドライグリップ性能、ウェットグリップ性能の総合性能が向上する。
従って、上記タイヤは、トレッドを構成するゴム組成物が、水によって可逆的に硬度が変化し、かつ上記式(1)を満たし、更に、トレッドのランド比が所定の範囲内であることにより、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できる。
また、水によって可逆的に硬度変化するゴムを使用することで、路面状態に応じたグリップ性能を得ることが可能となるとともに、トレッドに使用できるゴムの硬さの範囲が広がるため、トレッド設計の自由度を向上させることができる。
なお、本明細書において、ゴム組成物の硬度は、加硫後のゴム組成物の硬度を意味する。
【0019】
本明細書において、上記タイヤが空気入りタイヤの場合、ランド比は、正規リム、正規内圧、正規荷重条件下における接地形状から計算される。非空気入りタイヤの場合、正規内圧を必要とせずに、同様に測定できる。
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば ”Design Rim”、或いはETRTOであれば”Measuring Rim”を意味する。
「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表”TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES” に記載の最大値、ETRTOであれば”INFLATION PRESSURE”を意味するが、乗用車用タイヤの場合には180kPaとする。
「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表”TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES” に記載の最大値、ETRTOであれば”LOAD CAPACITY”に、夫々0.88を乗じた荷重を意味する。
接地形状は、正規リムに組み付け、正規内圧を加え、25℃で24時間静置した後、タイヤトレッド表面に墨を塗り、正規荷重を負荷して厚紙に押しつけ(キャンバー角は0°)、紙に転写させることで得られる。
タイヤを周方向に72°ずつ回転させて、5か所で転写させる。すなわち、5回、接地形状を得る。
5つの接地形状について、タイヤ軸方向の最大長さの平均値をL、軸方向に直交する方向の長さの平均値をWとする。
ランド比は、厚紙の転写された5つの接地形状(墨部分)の平均面積/(L×W)×100(%)で計算される。
ここで、長さや面積の平均値は、5つの値の単純平均である。
【0020】
本明細書において、水によって可逆的に硬度が変化とは、水の存在によって、ゴム組成物(加硫後)の硬度が可逆的に大きくなったり、小さくなったりすることを意味する。なお、例えば、乾燥時→水湿潤時→乾燥時と変化した場合に、硬度が可逆的に変化すればよく、先の乾燥時と、後の乾燥時において、同一の硬度を有さなくてもよいし、先の乾燥時と、後の乾燥時において、同一の硬度を有していてもよい。
【0021】
本明細書において、乾燥時の硬度とは、乾燥している状態のゴム組成物(加硫後)の硬度を意味し、具体的には、実施例に記載の方法により乾燥したゴム組成物(加硫後)の硬度を意味する。
本明細書において、水湿潤時の硬度とは、水によって湿潤している状態のゴム組成物(加硫後)の硬度を意味し、具体的には、実施例に記載の方法により、水によって湿潤したゴム組成物(加硫後)の硬度を意味する。
【0022】
本明細書において、ゴム組成物(加硫後)の硬度(JIS-A硬度)は、JIS K6253-3(2012)の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-第3部:デュロメータ硬さ」に従って、タイプAデュロメータにより、25℃で測定される。
【0023】
上記式(1)の通り、(乾燥時の硬度-水湿潤時の硬度(乾燥時のゴム組成物(加硫後)の硬度-水湿潤時のゴム組成物(加硫後)の硬度))は1以上であり、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上、特に好ましくは5以上、最も好ましくは6以上、より最も好ましくは8以上、更に最も好ましくは11以上、特に最も好ましくは15以上、更には好ましくは18以上、更には好ましくは21以上、更には好ましくは24以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下、特に好ましくは28以下、最も好ましくは26以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
【0024】
乾燥時の硬度(乾燥時のゴム組成物(加硫後)の硬度)は、上記式(1)を満たす範囲内で適宜調整可能であるが、好ましくは20以上、より好ましくは25以上、更に好ましくは30以上、特に好ましくは40以上、また、好ましくは95以下、より好ましくは90以下、更に好ましくは85以下、特に好ましくは75以下である。上記硬度が上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
【0025】
水湿潤時の硬度(水湿潤時のゴム組成物(加硫後)の硬度)は、上記式(1)を満たす範囲内で適宜調整可能であるが、好ましくは20以上、より好ましくは25以上、更に好ましくは30以上であり、また、好ましくは70以下、より好ましくは65以下、更に好ましくは60以下である。上記硬度が上記範囲内であると、効果がより好適に得られる。
【0026】
なお、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化は、水に対して、水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能な化合物を配合することにより達成できる。より具体的に説明すると、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を実現できる。これは、ヘテロ原子は、ゴム組成物中で、水に対して、水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能であり、この分子結合が形成された結果、水湿潤時のゴム組成物の硬度が低下するためである。
更には、上記併用により、加硫の際に炭素-炭素2重結合によりポリマーがゴム成分に架橋されてゴム成分に固定されるため、ゴム成分からの上記ポリマーの遊離を抑制でき、ゴム表面に上記ポリマーが析出することを抑制でき、グリップ性能(ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能)の低下も抑制できる。
【0027】
また、乾燥時の硬度は、ゴム組成物に配合される薬品(特に、ゴム成分、充填材、オイルなどの軟化剤)の種類や量によって調整することが可能であり、例えば、軟化剤の量を増量すると乾燥時の硬度は小さくなる傾向、充填材の量を増量すると乾燥時の硬度は大きくなる傾向、硫黄の量を減らすと乾燥時の硬度は小さくなる傾向がある。また、硫黄と加硫促進剤の配合量を調整することによっても、乾燥時の硬度を調整できる。より具体的には、硫黄量を増やすと乾燥時の硬度は大きくなる傾向、加硫促進剤を増やすと乾燥時の硬度は大きくなる傾向がある。
【0028】
ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を達成する他の手段としては、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、加硫の際に炭素-炭素2重結合によりポリマーがゴム成分に架橋されてゴム成分に固定されるため、ゴム成分からの上記ポリマーの遊離を抑制でき、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を達成することができる。
炭素-炭素2重結合を持たない場合、ゴム組成物が水に触れた際に水中へ遊離してしまい、可逆的な硬度変化が得られない場合がある。
【0029】
また、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を達成する他の手段としては、例えば、ゴム分子間のイオン結合を、水の添加・乾燥によって可逆的に切断、再結合させる方法も挙げられる。より具体的に説明すると、ハロゲンや酸素を有するゴムと、金属、半金属や窒素を有する化合物とを併用することにより、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を実現できる。これは、該併用により、金属、半金属や窒素由来のカチオンと、ハロゲンや酸素由来のアニオンとによりゴム分子間でイオン結合が形成され、そして、ゴム分子間において、水の添加によるイオン結合の開裂、水の乾燥によるイオン結合の再結合が生じる結果、水湿潤時には硬度低下、乾燥時には硬度上昇が起きるためである。
【0030】
以下、使用可能な薬品について説明する。
【0031】
ゴム成分としては、例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ジエン系ゴムが好ましく、イソプレン系ゴム、BR、SBRがより好ましく、SBRが更に好ましい。イソプレン系ゴム、SBRの併用、BR、SBRの併用、イソプレン系ゴム、BR、SBRの併用も好ましい。
【0032】
ここで、ゴム成分は、重量平均分子量(Mw)が15万以上が好ましく、より好ましくは35万以上のゴムである。Mwの上限は特に限定されないが、好ましくは400万以下、より好ましくは300万以下である。
【0033】
ゴム成分100質量%中のジエン系ゴムの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0034】
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
SBRのスチレン量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0036】
SBRのビニル量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは40質量%以上、最も好ましくは50質量%以上であり、また、好ましくは75質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。上記範囲内であると、BRとの相溶性が良好となり、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0037】
SBRは、非変性SBRでもよいし、変性SBRでもよい。
変性SBRとしては、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を有するSBRであればよく、例えば、SBRの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性SBR(末端に上記官能基を有する末端変性SBR)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性SBRや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性SBR(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性SBR)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性SBR等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)、アミド基が好ましい。
【0039】
SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等により製造・販売されているSBRを使用することができる。
【0040】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0041】
BRとしては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
BRのシス量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは97質量%以上である。上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0043】
BRは、非変性BR、変性BRのいずれでもよい。変性BRとしては、前述の官能基が導入された変性BRが挙げられる。好ましい態様は変性SBRの場合と同様である。
【0044】
BRとしては、例えば、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0045】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0046】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、NRが好ましい。
【0047】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0048】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
また、シス量(シス-1,4-結合ブタジエン単位量)、ビニル量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定でき、スチレン量は、1H-NMR測定によって測定できる。
【0049】
上記ゴム組成物は、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー(重合体)を含むことが好ましい。
【0050】
炭素-炭素2重結合は、ジエン系ゴムと架橋されるために必要であり、その数は特に限定されない。
【0051】
ヘテロ原子は、炭素原子、水素原子以外の原子を意味し、水に対して、水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能な限り特に限定されないが、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であることが好ましく、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子がより好ましく、酸素原子が更に好ましい。なお、ヘテロ原子は、上記ポリマーの主鎖(骨格)中に存在することが好ましく、上記ポリマーの繰り返し単位中に存在することがより好ましい。
【0052】
酸素原子を含む構造、基としては、エーテル基、エステル、カルボキシ基、カルボニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。なかでも、エーテル基が好ましく、オキシアルキレン基がより好ましい。
窒素原子を含む構造、基としては、アミノ基(第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基)、アミド基、ニトリル基、ニトロ基等が挙げられる。なかでも、アミノ基が好ましく、第三級アミノ基がより好ましい。
ケイ素原子を含む構造、基としては、シリル基、アルコキシシリル基、シラノール基等が挙げられる。なかでも、シリル基が好ましく、アルコキシシリル基がより好ましい。
硫黄原子を含む構造、基としては、スルフィド基、硫酸基、硫酸エステル、スルホ基等が挙げられる。
リン原子を含む構造、基としては、リン酸基、リン酸エステル等が挙げられる。
ハロゲン原子を含む構造、基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲノ基等が挙げられる。
【0053】
オキシアルキレン基とは、-(AO)-で表される基であり、-(AO)n-で表される基(nは繰り返し単位数)であることが好ましい。
オキシアルキレン基AO中のアルキレン基Aの炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0054】
オキシアルキレン基AO中のアルキレン基Aは、直鎖状、分岐状のいずれでもよいが、より嵩高い構造となり、効果がより好適に得られるという理由から、分岐状が好ましい。
効果がより好適に得られるという理由から、AOは、炭素数2~3のオキシアルキレン基(オキシエチレン基(EO)、オキシプロピレン基(PO))、炭素数2~3のオキシアルキレン基に分岐鎖R4(R4は、ヘテロ原子を有してもよい炭化水素基を表す。)が結合した基であることが好ましく、炭素数2~3のオキシアルキレン基、炭素数2~3のオキシアルキレン基に分岐鎖R4が結合した基を併用することがより好ましい。なお、分岐鎖R4は、酸素原子に隣接する炭素原子に結合していることが好ましい。
【0055】
R
4のヘテロ原子を有してもよい炭化水素基は、特に限定されない。炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは4以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
R
4のヘテロ原子を有してもよい炭化水素基としては、下記式で表される基が好ましい。
【化1】
【0056】
-(AO)-で表される基は、下記式(B)で表される基であることが更に好ましく、下記式(A)~(B)で表される基であることが特に好ましく、下記式(C)で表される基を併用することもできる。
【化2】
【0057】
上記ポリマーが2種以上のオキシアルキレン基を含む場合、オキシアルキレン基の配列はブロックでもランダムでもよい。
【0058】
上記ポリマーとしては、上記式(B)で表される基(構造単位)を含む重合体が好ましく、上記式(A)~(B)で表される基(構造単位)からなる重合体がより好ましい。
上記ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は、好ましくは2mol%以上、より好ましくは5mol%以上であり、好ましくは50mol%以下、より好ましくは40mol%以下、更に好ましくは30mol%以下、特に好ましくは20mol%以下である。
【0059】
上記ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1万以上、より好ましくは5万以上、更に好ましくは10万以上、特に好ましくは50万以上であり、好ましくは300万以下、より好ましくは250万以下、更に好ましくは200万以下、特に好ましくは150万以下、最も好ましくは100万以下である。
【0060】
上記ポリマーは、水10mLに対し、1gを懸濁した場合の不溶分(水不溶分)が5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上、最も好ましくは70質量%以上、より最も好ましくは80質量%以上、更に最も好ましくは90質量%以上であり、上限は特に限定されない。
上記不溶分は、実施例に記載の方法により測定できる。
上記不溶分が多いほど、ゴムを水に湿潤した場合に、上記ポリマーが水に溶出する量を低減でき、可逆的な硬度変化をより好適に達成できる。
【0061】
上記ポリマーは、テトラヒドロフラン10mLに対し、1gを懸濁した場合の不溶分(THF不溶分)が5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上、最も好ましくは70質量%以上、より最も好ましくは90質量%以上であり、上限は特に限定されない。
上記不溶分は、実施例に記載の方法により測定できる。
ジエン系ゴムはテトラヒドロフランに対し、溶解性を有するため、上記ポリマーのテトラヒドロフランに対する不溶分が多いほど、ジエン系ゴムに相容せずに水湿潤時の硬度低下効果を十分に得られる傾向がある。
【0062】
上記ポリマーは、市販品を用いてもよいが、ヘテロ原子を有するモノマーから重合物を調製することにより製造してもよい。
ヘテロ原子を有するモノマーとしては、特に限定されるわけではないが、酸素原子を有するモノマーの例としては、ビニルエーテル、アルコキシスチレン、アリルグリシジルエーテル、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフランなどのエーテル類、(メタ)アクリル酸およびそれらのエステル類、酸無水物、窒素原子を有するモノマーとしては、アクリロニトリル、N-ビニルカルバゾール、カルバミン酸、カプロラクタム、ケイ素原子を有するモノマーとしては、アルコキシシリルスチレン、アルコキシシリルビニル類などが挙げられる。
ヘテロ原子を有するモノマーに不飽和結合が含まれていない場合は、ヘテロ原子を有するモノマーと共に、炭素-炭素2重結合を有するモノマー(例えば、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンモノマー、スチレンなどのビニルポリマー)を重合すればよい。
重合方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができる。
【0063】
上記ポリマーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、特に好ましくは30質量部以上、最も好ましくは40質量部以上、より最も好ましくは50質量部以上、更に最も好ましくは60質量部以上、特に最も好ましくは70質量部以上であり、また、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0064】
上記ゴム組成物は、シリカを含んでもよい。
シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、40m2/g以上、好ましくは60m2/g以上、より好ましくは80m2/g以上、更に好ましくは160m2/g以上である。また、上記N2SAは、好ましくは600m2/g以下、より好ましくは300m2/g以下、更に好ましくは250m2/g以下、特に好ましくは200m2/g以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0066】
シリカとしては、例えば、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
【0067】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上であり、また、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは80質量部以下、特に好ましくは60質量部以下、最も好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0068】
上記ゴム組成物において、充填剤(補強性充填剤)100質量%中のシリカの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0069】
上記ゴム組成物がシリカを含有する場合、更にシランカップリング剤を含有することが好ましい。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。市販されているものとしては、例えば、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、効果がより良好に得られる傾向がある点から、スルフィド系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤が好ましく、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドなどのジスルフィド結合を有するジスルフィド系シランカップリング剤がより好ましい。
【0070】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0071】
上記ゴム組成物は、カーボンブラックを含んでもよい。
カーボンブラックとしては、特に限定されず、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは80m2/g以上、より好ましくは100m2/g以上であり、また、好ましくは150m2/g以下、より好ましくは130m2/g以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのN2SAは、JIS K6217-2:2001に準拠して測定される値である。
【0073】
カーボンブラックとしては、例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱化学(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。
【0074】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、特に好ましくは30質量部以上であり、また、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは80質量部以下、特に好ましくは60質量部以下、最も好ましくは50質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0075】
上記ゴム組成物は、オイルを含んでもよい。
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物が挙げられる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、効果が良好に得られるという理由から、プロセスオイルが好ましく、アロマ系プロセスオイルがより好ましい。
【0076】
オイルとしては、例えば、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。
【0077】
オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは50質量部以下、より好ましくは35質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。なお、オイルの含有量には、ゴム(油展ゴム)に含まれるオイルの量も含まれる。
【0078】
上記ゴム組成物は、樹脂を含有していてもよい。
樹脂としては、タイヤ工業で汎用されているものであれば特に限定されず、ロジン系樹脂、クマロンインデン樹脂、α-メチルスチレン系樹脂、テルペン系樹脂、p-t-ブチルフェノールアセチレン樹脂、アクリル系樹脂、C5樹脂、C9樹脂等が挙げられる。市販品としては、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、JXエネルギー(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)、東亞合成(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0080】
上記ゴム組成物は、ワックスを含んでもよい。
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックスなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、石油系ワックスが好ましく、パラフィンワックスがより好ましい。
【0081】
ワックスとしては、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。
【0082】
ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0083】
上記ゴム組成物は、老化防止剤を含んでもよい。
老化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、p-フェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤が好ましい。
【0084】
老化防止剤としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
【0085】
老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0086】
上記ゴム組成物は、ステアリン酸を含有してもよい。
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、NOF社、花王(株)、和光純薬工業(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
【0087】
ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0088】
上記ゴム組成物は、酸化亜鉛を含有してもよい。
酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0089】
酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0090】
上記ゴム組成物は硫黄を含有してもよい。
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0091】
硫黄としては、例えば、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0092】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0093】
上記ゴム組成物は、加硫促進剤を含有してもよい。
加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N′-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、効果がより好適に得られるという理由から、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。
【0094】
加硫促進剤としては、例えば、川口化学(株)、大内新興化学(株)製等の製品を使用できる。
【0095】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0096】
上記ゴム組成物には、前記成分の他、タイヤ工業において一般的に用いられている添加剤、例えば、有機過酸化物;炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカなどの充填剤;等を更に配合してもよい。これらの添加剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~200質量部が好ましい。
【0097】
上記ゴム組成物は、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0098】
混練条件としては、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常100~180℃、好ましくは120~170℃である。加硫剤、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常120℃以下、好ましくは80~110℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫等の加硫処理が施される。加硫温度としては、通常140~190℃、好ましくは150~185℃である。加硫時間は、通常5~15分である。
【0099】
上記ゴム組成物は、トレッドに用いることができる。キャップトレッド及びベーストレッドで構成されるトレッドの場合、キャップトレッドに好適に使用可能である。
【0100】
上記タイヤにおいて、トレッドのランド比は、30%以上であればよいが、ドライグリップ性能の観点からは、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは75%以上である。上限は、ウェットグリップ性能の観点から、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、更に好ましくは85%以下である。
また、トレッドを構成する上記ゴム組成物は、ランド比が30%以上60%未満の場合、乾燥時の硬度60~75、水湿潤時の硬度55~70が好ましく、ランド比が60%~95%の場合、乾燥時の硬度55~70、水湿潤時の硬度30~55が好ましい。
【0101】
上記タイヤにおけるトレッドは、タイヤ周方向に連続する溝、及び/又は、タイヤ周方向に非連続の溝を備えてもよい。このような溝を有するパターンとして、リブ型、ラグ型、リブラグ型、ブロック型が挙げられる。
【0102】
上記タイヤ(空気入りタイヤ等)は、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッド(キャップトレッド)の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【0103】
なお、上記タイヤのトレッドは、少なくとも一部が上記ゴム組成物で構成されていればよく、全部が上記ゴム組成物で構成されていてもよい。
【0104】
上記タイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ、スタッドレスタイヤ(冬用タイヤ)、オールシーズンタイヤ、ランフラットタイヤ、航空機用タイヤ、鉱山用タイヤ等として好適に用いられる。上記タイヤは、空気入りタイヤであってもよいし、非空気入りタイヤであってもよい。
【実施例】
【0105】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0106】
(製造例1)
窒素置換されたオートクレーブ反応器に、ヘキサン、1,3-ブタジエン、スチレン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルを投入した。次に、ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン及びn-ブチルリチウムを、それぞれ、シクロヘキサン溶液及びn-ヘキサン溶液として投入し、重合を開始した。
撹拌速度を130rpm、反応器内温度を65℃とし、単量体を反応器内に連続的に供給しながら、1,3-ブタジエンとスチレンの共重合を3時間行った。次に、得られた重合体溶液を130rpmの撹拌速度で撹拌し、N-(3-ジメチルアミノプロピル)アクリルアミドを添加し、15分間反応を行った。重合反応終了後、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥して変性スチレンブタジエンゴム(SBR)を得た。
【0107】
(製造例2)重合体1(エポキシド・アリルグリシジルエーテル共重合体)の合成
窒素置換したガラス製フラスコにジエチルエーテルを500mL添加し、内部温度を0℃以下に冷却した後、0.55mol/Lのトリイソブチルアルミニウム/ヘキサン溶液を10mL添加し、次いで0.55mol/Lのエタノール/ジエチルエーテル溶液を内部温度が10℃を超えないよう滴下した。次いで、エチレンオキサイドおよびアリルグリシジルエーテルをモル比で9/1、合計重量200gになるように混合した溶液を、内部温度が10℃を超えないように滴下した後、8時間撹拌させた。次いで、外部温度50℃/内部圧力1.0kPa以下で溶媒を減圧留去した後、残った残渣を水に懸濁させたものを濾過して、濾過残渣をTHFで洗浄した後、50℃/1kPa以下で恒量に達するまで減圧乾燥し、80%の収率で重合体1(赤外吸収スペクトルにて上記式(A)に由来するエーテル基および上記式(B)に由来する炭素-炭素のピークが確認された。重量平均分子量(Mw)は78万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%であった)を得た。
【0108】
(製造例3)重合体2(アミン・アリルグリシジルエーテル共重合体)の合成
エチレンオキサイドをトリグリシジルアミンに変更した点以外は、製造例2と同様に操作して、80%の収率でトリグリシジルアミンとアリルグリシジルエーテルの重合体2(製造例2と同様の分析を行いアミンの吸収と炭素-炭素2重結合由来のピークを確認し、重量平均分子量は98万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%であった)を得た。
【0109】
(製造例4)重合体3(シリル・アリルグリシジルエーテル共重合体)の合成
エチレンオキサイドをトリエトキシシリルグリシジルエーテルに変更した点以外は、製造例2と同様に操作して、80%の収率でトリエトキシシリルグリシジルエーテルとアリルグリシジルエーテルの重合体3(製造例2と同様の分析を行いシラノールの吸収と炭素-炭素2重結合由来のピークを確認し、重量平均分子量は64万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%であった)を得た。
【0110】
また、得られた重合体1~3について下記の評価を行った。
【0111】
<水不溶分の測定>
ガラス製フラスコにポリマーを1g計量し、水10mLを注ぎ、内部温度66℃で10分撹拌した後、内部温度25℃以下になるまで撹拌を続けた後、材質セルロース、メッシュサイズ5Cのろ紙により濾過し、濾紙に残った残渣を温度80℃、内圧0.1kPa以下で8時間乾燥し、重量を測定し、下記式により水不溶分を算出した。
水不溶分(質量%)=残渣の乾燥重量(g)/ポリマーの初期重量(g)x100
【0112】
<THF不溶分の測定>
ガラス製フラスコにポリマーを1g計量し、テトラヒドロフラン10mLを注ぎ、内部温度66℃で10分撹拌した後、内部温度25℃以下になるまで撹拌を続けた後、材質セルロース、メッシュサイズ5Cのろ紙により濾過し、濾紙に残った残渣を温度80℃、内圧0.1kPa以下で8時間乾燥し、重量を測定し、下記式によりTHF不溶分を算出した。
THF不溶分(質量%)=残渣の乾燥重量(g)/ポリマーの初期重量(g)x100
【0113】
以下、各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:上記方法で合成したSBR(変性S-SBR、スチレン量:25質量%、ビニル量:59モル%、非油展品)
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス量:97質量%)
NR:TSR20
重合体1:上記方法で合成した重合体1(水不溶分:96質量%、THF不溶分:96質量%)
重合体2:上記方法で合成した重合体2(水不溶分:82質量%、THF不溶分:96質量%)
重合体3:上記方法で合成した重合体3(水不溶分:92質量%、THF不溶分:92質量%)
シリカ:ローデシア社製のZEOSIL 1165MP(N2SA:160m2/g)
カーボンブラック:東海カーボン(株)製のシースト9H(DBP吸油量115ml/100g、N2SA:110m2/g)
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi75(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX-140(アロマ系プロセスオイル)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤:フレキシス(株)製のサントフレックス13(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD))
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン)
【0114】
(配合例)
表1に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を160℃の条件下で4分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で4分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0115】
得られた加硫ゴム組成物を下記により評価した。結果を表1に示す。
【0116】
(加硫ゴムの硬度(Hs))
JIS K6253-3(2012)の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-第3部:デュロメータ硬さ」に従って、タイプAデュロメータにより、加硫ゴム組成物(試験片)のショア硬度(Hs)を測定した(JIS-A硬度)。測定は25℃で行った。
【0117】
(水湿潤時の硬度)
加硫ゴム組成物(30mm×30mm×4mmの直方体形状)を20mlの水に25℃で6時間浸漬させることにより、水湿潤後の加硫ゴム組成物を得た。得られた水湿潤後の加硫ゴム組成物の硬度を上記の方法で測定し、水湿潤時の硬度とした。
【0118】
(乾燥時の硬度)
水湿潤後の加硫ゴム組成物を80℃、1kPa以下の条件で恒量になるまで減圧乾燥し、乾燥後の加硫ゴム組成物を得た。得られた乾燥後の加硫ゴム組成物の温度を25℃に戻した後、乾燥後の加硫ゴム組成物の硬度を上記の方法で測定し、乾燥時の硬度とした。
【0119】
(再水湿潤時の硬度)
乾燥後の加硫ゴム組成物(30mm×30mm×4mmの直方体形状)を20mlの水に25℃で6時間浸漬させることにより、再水湿潤後の加硫ゴム組成物を得た。得られた再水湿潤後の加硫ゴム組成物の硬度を上記の方法で測定し、再水湿潤時の硬度とした。
【0120】
(タイヤの作製)
得られた未加硫ゴム組成物をトレッド形状に成形して、他のタイヤ部材と張り合わせ170℃/12分でプレス加硫することで、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を作成した。実施例1~18、比較例1~3は、ブロックパターンのタイヤであり、実施例19~36、比較例4~6は、ラグパターンのタイヤである。
【0121】
(ランド比の測定)
本明細書に記載のランド比の測定方法にしたがい、JATMAの規格を用いて、ランド比(%)を測定した。測定結果を表2、3に示す。
【0122】
(ウェットグリップ性能指数)
上記試験用タイヤを車両に装着し、予め路面に散水した1周2kmのテストコースを8周走行して、グリップ性能を比較例1又は4を100として、200点満点でテストドライバーが評価した。評価結果を表2、3に示す。
【0123】
(ドライグリップ性能指数)
上記試験用タイヤを車両に装着し、乾燥路面の1周2kmのテストコースを8周走行して、グリップ性能を比較例1又は4を100として、200点満点でテストドライバーが評価した。評価結果を表2、3に示す。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
表1~3より、水によって可逆的に硬度が変化し、上記式(1)を満たすゴム組成物によって構成されたトレッドを有し、該トレッドのランド比が所定の範囲内である実施例は、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できることが分かった。