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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】トレッド用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20230314BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230314BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20230314BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C08L9/06
C08K3/04
C08L15/00
B60C1/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018190186
(22)【出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2020059775
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三木 尚之
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108513(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148296(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/083818(WO,A1)
【文献】特開2013-185091(JP,A)
【文献】特開2006-152079(JP,A)
【文献】特開2006-124601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム成分、粘着性樹脂(ただし、下記一般式(I)で表されるα-メチルスチレン誘導体およびインデンの共重合体を除く)、液状ポリマーおよびカーボンブラックを含有するゴム組成物であって、
ジエン系ゴム成分中に5質量%トルエン溶液粘度が350mPa・s以上である直鎖状スチレンブタジエンゴムを30質量%以上含み、
ジエン系ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを50~200質量部、粘着性樹脂を40~100質量部含有し、
軟化剤の合計量が70~160質量部であるトレッド用ゴム組成物。
【化1】
(式中、Rは炭素数1~3のアルキル基を表す。)
【請求項2】
台上インサイド試験により測定した30km走行後の摩擦係数μ1および45km走行後の摩擦係数μ2が下記式(1):
μ2/μ1≧0.93 (1)
を満たす、請求項1記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
直鎖状スチレンブタジエンゴムのスチレン含量が35~45質量%、ビニル含量が35~45質量%、重量平均分子量が100万~140万である、請求項1または2記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
ジエン系ゴム成分100質量部に対して、CTAB/IAが1.0以上のカーボンブラックを10質量部以上含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
ジエン系ゴム成分100質量部に対して、スチレン含量が15~49質量%の液状スチレンブタジエンゴムを5~50質量部含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
ジエン系ゴム成分中に変性スチレンブタジエンゴムを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
加硫後のゴム組成物のアセトン抽出量が10質量%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のトレッド用ゴム組成物より構成されたトレッドを有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド用ゴム組成物および該トレッド用ゴム組成物より構成されたトレッドを有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トレッド用ゴム組成物に、カーボンブラック、可塑剤および樹脂成分を多量に配合することで、高いグリップ性能を達成することができる(例えば、特許文献1)。一方、路面走行中にゴムカスがタイヤ表面に付着し、接地面積が減少、不均一化することでグリップ性能が低下することが問題となっている。ゴムカスの化学的組成は、ポリマー鎖が切れて低分子になったものや、オイル、樹脂成分等の軟化剤と考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-137463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、良好なグリップ性能を有し、かつゴムカスの付着が抑制されたトレッド用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討の結果、直鎖状スチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴムおよびカーボンブラックを含有するトレッド用ゴム組成物が、良好なグリップ性能を有し、かつゴムカスの付着が抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、
〔1〕ジエン系ゴム成分およびカーボンブラックを含有するゴム組成物であって、
ジエン系ゴム成分中に5質量%トルエン溶液粘度が350mPa・s以上である直鎖状スチレンブタジエンゴムを30質量%以上含むトレッド用ゴム組成物、
〔2〕台上インサイド試験により測定した30km走行後の摩擦係数μ1および45km走行後の摩擦係数μ2が下記式(1):
μ2/μ1≧0.93 (1)
を満たす、〔1〕記載のトレッド用ゴム組成物、
〔3〕直鎖状スチレンブタジエンゴムのスチレン含量が35~45質量%、ビニル含量が35~45質量%、重量平均分子量が100万~140万である、〔1〕または〔2〕記載のトレッド用ゴム組成物、
〔4〕ジエン系ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを50~200質量部含有する、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物、
〔5〕ジエン系ゴム成分100質量部に対して、CTAB/IAが1.0以上のカーボンブラックを10質量部以上含有する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物、
〔6〕ジエン系ゴム成分100質量部に対して、粘着性樹脂を5~100質量部含有する、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物、
〔7〕ジエン系ゴム成分100質量部に対して、スチレン含量が15~49質量%の液状スチレンブタジエンゴムを5~50質量部含有する、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物、
〔8〕ジエン系ゴム成分中に変性スチレンブタジエンゴムを含む、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物、
〔9〕加硫後のゴム組成物のアセトン抽出量が10質量%以上である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物、
〔10〕〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物より構成されたトレッドを有するタイヤ、に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良好なグリップ性能を有し、かつゴムカスの付着が抑制されたトレッド用ゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態であるトレッド用ゴム組成物は、直鎖状スチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴムおよびカーボンブラックを含有することを特徴とする。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0009】
<ゴム成分>
本実施態様において使用されるジエン系ゴムは、直鎖状のスチレンブタジエンゴム(S直鎖状SBR)を含む。直鎖状SBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0010】
(直鎖状SBR)
本実施形態において好適に使用されるゴム成分として、直鎖状SBRが挙げられる。SBRを構成するポリマーの分岐度を小さくすることにより、ポリマー鎖中の応力が集中しやすい箇所を減らし、ポリマーが切断されにくくすることができる。その結果、ポリマーが切断されることによって発生する粘着成分が減少するため、高いグリップ性能を維持しつつ、ゴムカスの付着を抑制することができる。
【0011】
本実施形態においては、ポリマー鎖の分岐の度合い(線状性)の指標として、5質量%トルエン溶液粘度(Tcp)を使用する。Tcpは、濃厚溶液中でのポリマー分子の絡みあいの程度を示し、ムーニー粘度が同じ場合、Tcpが大きいほどポリマーの分岐度は小さく、線状性が大きい傾向を示す。なお、本実施形態において、Tcpは、ゴム成分2.28gをトルエン50mLに溶解させた後、標準液として粘度計校正用標準液(JIS Z8809)を用い、キャノンフェンスケ粘度計No.400を使用して、25℃で測定した値として定義され得る。
【0012】
本実施形態に係る直鎖状SBRのTcpは、350mPa・s以上が好ましく、360mPa・s以上がより好ましく、370mPa・s以上がさらに好ましく、380mPa・s以上が特に好ましい。
【0013】
直鎖状SBRのスチレン含量は、グリップ性能の観点から、35質量%以上が好ましく、37質量%以上がより好ましい。また、該スチレン含量は、45質量%以下が好ましく、43質量%以下がより好ましい。なお、本実施形態におけるSBRのスチレン含量は、H1-NMR測定により算出される。
【0014】
直鎖状SBRのビニル含量は、グリップ性能の観点から、35質量%以上が好ましく、37質量%以上がより好ましい。また、該ビニル含量は、45質量%以下が好ましく、43質量%以下がより好ましい。なお、本実施形態において、SBRのビニル含量とはSBRにおけるブタジエン部の1,2-結合単位量のことを示し、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される。
【0015】
直鎖状SBRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性の観点から、100万以上が好ましく、105万以上がより好ましく、110万以上がさらに好ましい。また、カーボン等の分散の観点からは、140万以下が好ましく、135万以下がより好ましく、130万以下がさらに好ましい。なお、本実施形態におけるMwは、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値として算出され得る。
【0016】
直鎖状SBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、30質量%以上であり、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。なお、直鎖状SBRの含有量の上限は特に限定されず、ゴム成分中100質量%であってもよいが、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。なお、直鎖状SBRとして油展タイプの直鎖状SBRを用いる場合は、当該油展タイプの直鎖状SBR中に含まれる固形分としての直鎖状SBR自体の含有量をゴム成分中の直鎖状SBRの含有量とする。
【0017】
(変性SBR)
また、本実施形態において好適に使用されるゴム成分として、変性SBRが挙げられる。SBRを変性化することで、ポリマーとフィラーの相互作用を強化し、切断されたポリマー鎖がフィラーに結合して動かないようにし、ゴムカスとして放出されないようにすることができる。
【0018】
変性SBRとしては、特に限定されるものではなく、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)のいずれも使用することができる。また、主鎖および/または末端が変性剤により変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされたSBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等も使用することができる。これらの変性SBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
主鎖および/または末端の変性基としては、例えば、アルコキシシリル基、アミノ基、水酸基、グリシジル基、アミド基、カルボキシル基、エーテル基、チオール基、シアノ基、炭化水素基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、カルボニル基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、オキシ基、エポキシ基、スズやチタン等の金属原子等が挙げられ、なかでも、アミノ基(特に、グリシジルアミノ基)、エポキシ基、水酸基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、およびアルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)が好ましい。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。これらの変性SBRは、例えば、特開2014-19841号公報に記載された方法により製造することができる。
【0020】
変性SBRのスチレン含量は、グリップ性能の観点から、35質量%以上が好ましく、37質量%以上がより好ましい。また、該スチレン含量は、45質量%以下が好ましく、43質量%以下がより好ましい。
【0021】
変性SBRのビニル含量は、グリップ性能の観点から、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。また、該ビニル含量は、45質量%以下が好ましく、43質量%以下がより好ましい。
【0022】
変性SBRの重量平均分子量(Mw)は、10万以上が好ましく、20万以上がより好ましく、30万以上がさらに好ましい。また、カーボン等の分散の観点からは、140万以下が好ましく、135万以下がより好ましく、130万以下がさらに好ましい。
【0023】
変性SBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、変性SBRのゴム成分中の含有量は、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。なお、変性SBRとして油展タイプの変性SBRを用いる場合は、当該油展タイプの変性SBR中に含まれる固形分としての変性SBR自体の含有量をゴム成分中の変性SBRの含有量とする。
【0024】
(その他のゴム成分)
本実施態様において、直鎖状SBRおよび変性SBR以外に使用されるゴム成分としては、ジエン系ゴムであれば特に制限されず、例えば、直鎖状SBRおよび変性SBR以外のスチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)等が挙げられる。なかでも、グリップ性能および耐摩耗性能がバランスよく得られるという理由から、SBRおよびBRが好ましく、SBRがより好ましい。これらのゴム成分は、前記のうち1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
<フィラー>
本実施形態に係るトレッド用ゴム組成物は、フィラーとしてカーボンブラックを含有する。また、カーボンブラックとして、CTABとIAの比率(CTAB/IA)が1.0以上の高活性カーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンを高活性化することで、ポリマーとフィラーの相互作用を強化し、切断されたポリマー鎖がフィラーに結合して動かないようにし、ゴムカスとして放出されないようにすることができる。
【0026】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、ゴム用として一般的なものを適宜利用することができる。具体的にはN110,N115,N120,N125,N134,N135,N219,N220,N231,N234,N293,N299,N326,N330,N339,N343,N347,N351,N356,N358,N375,N539,N550,N582,N630,N642,N650,N660,N683,N754,N762,N765,N772,N774,N787,N907,N908,N990,N991等を好適に用いることができ、これ以外にも自社合成品等も好適に用いることができる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
カーボンブラックの臭化セチルトリメチルアンモニウム吸着比表面積(CTAB)は、耐摩耗性の観点から110m2/g以上が好ましく、120m2/g以上がより好ましく、130m2/g以上がさらに好ましい。一方、カーボンブラックのCTABに特に上限はないが、低発熱性の観点からは、300m2/g以下が好ましく、275m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。ここで、CTABはカーボンブラックの粒子径の大きさに相関する値であり、CTAB吸着比表面積が大きいほどカーボンブラックの粒子径が小さいことを表す。
【0028】
カーボンブラックのヨウ素吸着量(IA)は、耐摩耗性の観点から100mg/g以上が好ましく、110mg/g以上がより好ましく、120mg/g以上がさらに好ましい。一方、カーボンブラックのIAに特に上限はないが、加工性の観点からは、400mg/g以下が好ましく、375mg/g以下がより好ましく、350mg/g以下がさらに好ましい。
【0029】
カーボンブラックは、CTABとIAの比率(CTAB/IA)は、1.0以上が好ましく、1.05以上がより好ましく、1.1以上がさらに好ましい。また、カーボンブラックのCTAB/IAに特に上限はないが、2.0以下が好ましく、1.9以下がより好ましく、1.8以下がさらに好ましい。なお、本実施形態において、カーボンブラックのCTABおよびIAは、それぞれJIS K 6217-3:2001、JIS K 6217-1:2001に準拠して測定される。
【0030】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性の観点から120m2/g以上が好ましく、130m2/g以上がより好ましく、140m2/g以上がさらに好ましい。また、低燃費性の観点からは、400m2/g以下が好ましく、375m2/g以下がより好ましく、350m2/g以下がさらに好ましい。なお、本実施形態において、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217のA法に準拠して測定される。
【0031】
カーボンブラックのオイル吸収量(DBP吸油量(OAN))は、耐摩耗性の観点から、120cm3/100g以上が好ましく、125cm3/100g以上がより好ましく、130cm3/100g以上がさらに好ましい。また、グリップ性能の観点からは、250cm3/100g以下が好ましく、225cm3/100g以下がより好ましく、200cm3/100g以下がさらに好ましい。なお、本実施形態において、カーボンブラックのOANは、JIS K 6217-4:2008に準拠して測定される。
【0032】
カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は、グリップ性能の観点から、50質量部以上が好ましく、75質量部以上がより好ましく、100質量部以上がさらに好ましく、105質量部以上が特に好ましい。また、低燃費性能の観点からは、200質量部以下が好ましく、180質量部以下がより好ましく、160質量部以下がさらに好ましい。
【0033】
CTAB/IAが1.0以上の高活性カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムカスの付着抑制の観点から、10質量部以上が好ましく、15質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましい。また、低燃費性能の観点からは、200質量部以下が好ましく、180質量部以下がより好ましく、160質量部以下がさらに好ましい。
【0034】
カーボンブラック100質量%中のCTAB/IAが1.0以上の高活性カーボンブラックの含有率は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、該カーボンブラックの含有率の上限は特に限定されず、100質量%でもよいが、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0035】
(その他のフィラー)
フィラーとしては、カーボンブラック以外に、さらにその他のフィラーを用いてもよい。そのようなフィラーとしては、特に限定されず、例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、タルク、クレー等この分野で一般的に使用されるフィラーをいずれも用いることができる。これらのフィラーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
<軟化剤>
本実施形態に係るトレッド用ゴム組成物は、高いグリップ性能を得るために、軟化剤を配合することが好ましい。軟化剤としては、例えば、粘着性樹脂、オイル、液状ポリマー等が挙げられる。
【0037】
粘着性樹脂としては、タイヤ工業で慣用されるフェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、テルペン系樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ロジン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)等の芳香族炭化水素系樹脂や、C5樹脂、C8樹脂、C9樹脂、C5/C9樹脂等の脂肪族炭化水素系樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂は、水素添加処理を行ったものであってもよい。なかでも、芳香族炭化水素系樹脂が好ましく、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、テルペン樹脂、スチレン樹脂、およびアクリル樹脂がより好ましい。粘着性樹脂は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、2種以上の芳香族炭化水素系樹脂を使用することが好ましい態様として挙げられる。
【0038】
粘着性樹脂の軟化点は、グリップ性能の観点から、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。また、軟化点は、170℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。なお、本実施形態において、軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度として定義され得る。
【0039】
粘着性樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、グリップ性能の観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましく、40質量部以上が特に好ましい。また、ゴムカスの付着抑制の観点からは、100質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましい。
【0040】
オイルとしては、例えば、ナフテンオイル、アロマオイル、プロセスオイル、パラフィンオイル等の鉱物油等が挙げられる。
【0041】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましく、20質量部以上が特に好ましい。また、オイルの含有量は、60質量部以下が好ましく、55質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましい。なお、本実施形態において、オイルの含有量には油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0042】
液状ポリマーとしては、例えば、液状スチレンブタジエンポリマー、液状ブタジエンポリマー、液状イソプレンポリマー、液状スチレンイソプレンポリマー等が挙げられ、液状スチレンブタジエンポリマー(液状SBR)が好ましい。
【0043】
液状SBRのスチレン含量は、グリップ性能の観点から、15質量%以上が好ましく、18質量%以上がより好ましく、21質量%以上がさらに好ましい。また、該スチレン含量は、49質量%以下が好ましく、39質量%以下がより好ましく、34質量%以下がさらに好ましい。なお、液状SBRは、上記スチレン含量を満たしさえすれば、スチレンおよびブタジエン以外の第3のモノマーから構成された三元共重合体であってもよい。
【0044】
液状ポリマーを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましく、20質量部以上が特に好ましい。また、液状ポリマーの含有量は、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。
【0045】
軟化剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量(複数の軟化剤を併用する場合は全ての合計量)は、グリップ性能の観点から、20質量部以上が好ましく、40質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましく、100質量部以上が特に好ましい。また、ゴムカスの付着抑制の観点からは、200質量部以下が好ましく、180質量部以下がより好ましく、160質量部以下がさらに好ましい。
【0046】
本実施形態に係る加硫後のゴム組成物のアセトン抽出量(AE量)は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上が特に好ましい。また、該アセトン抽出量の上限は特に制限されないが、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。なお、該アセトン抽出量は、上記加硫ゴム組成物に含有される軟化剤中の有機低分子化合物の濃度の指標となるものである。アセトン抽出量は、各加硫ゴム試験片を90℃で24時間アセトンに浸漬して可溶成分を抽出し、抽出前後の各試験片の質量を測定し、下記式により求めることができる。
アセトン抽出量(%)={(抽出前のゴム試験片の質量-抽出後のゴム試験片の質量)/(抽出前のゴム試験片の質量)}×100
【0047】
<その他の成分>
本実施形態に係るトレッド用ゴム組成物は、前記成分以外にも、ゴム工業において一般的に使用される配合剤、例えば、ステアリン酸、酸化亜鉛、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0048】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加硫速度の観点から、0.2質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加工性の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0049】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加硫速度の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0050】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0051】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保し、良好なグリップ性能および耐摩耗性能を得るという観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、劣化の観点からは、3.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましい。なお、本明細書において、硫黄の含有量とは、ゴム組成物に配合される加硫剤の純硫黄分の合計含有量を意味する。ここで、純硫黄分とは、例えば、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合には、オイル含有硫黄に含まれる硫黄分を意味する。
【0052】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤が挙げられる。これらの加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、加硫特性に優れ、加硫後のゴムの物性において、低燃費性能に優れるという理由からスルフェンアミド系加硫促進剤が好ましく、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CZ)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)等が挙げられる。
【0053】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫速度を確保するという観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がさらに好ましい。また、ブルーミングを抑制するという観点からは、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0054】
本実施形態に係るトレッド用ゴム組成物は、台上インサイド試験により測定した30km走行後の摩擦係数μ1および45km走行後の摩擦係数μ2が下記式(1):
μ2/μ1≧0.93 (1)
を満たすことが好ましい。この条件を満たすことにより、グリップ性能の急激な低下が抑制される。コードへのゴム付き状態と関係があり、トレッドへのゴムカスの付着が抑制されることによりグリップ性能の低下が抑制されると考えられる。
【0055】
<タイヤの製造方法>
本発明の一実施形態であるタイヤは、上記のトレッド用ゴム組成物を用いて、一般的な方法により製造され得る。ゴム組成物もまた、一般的な方法により製造され得る。一例を挙げると、ゴム組成物は、バンバリーミキサー、ニーダー、オープンロール等の、ゴム工業において一般的に使用される公知の混練機が使用され、上記した各成分のうち、加硫剤および加硫促進剤以外の成分が混練りされ、これに、加硫剤および加硫促進剤が加えられてさらに混練りされる。次いで、未加硫の段階で各タイヤ部材の形状にあわせて上記ゴム組成物を押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、次いで、汎用の方法にて成型することにより未加硫タイヤを得て、その後、加硫機中で加熱加圧することにより製造され得る。
【実施例
【0056】
実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。本発明は、これら実施例に限定されない。
【0057】
実施例および比較例で使用した各種薬品を以下に示す。
分岐状SBR:下記の分岐状SBRの製造方法により調製した分岐状SBR(油展(ゴム固形分100質量部に対してオイル分が37.5質量部含まれる)、スチレン含量:40質量%、ビニル含量:40質量%、Mw:120万、5質量%トルエン溶液粘度:340mPa・s)
直鎖状SBR:下記の直鎖状SBRの製造方法により調製した直鎖状SBR(油展(ゴム固形分100質量部に対してオイル分が37.5質量部含まれる)、スチレン含量:40質量%、ビニル含量:40質量%、Mw:120万、5質量%トルエン溶液粘度:390mPa・s)
変性SBR:油展変性SBR(ゴム固形分100質量部に対してオイル分が25質量部含まれる)、スチレン含量:40質量%、ビニル含量:32質量%、Mw:39万、5質量%トルエン溶液粘度:270mPa・s
カーボンブラック1:CTAB:196m2/g、IA:331mg/g、CTAB/IA:0.59、N2SA:310m2/g、OAN:130cm3/100g
カーボンブラック2:CTAB:145m2/g、IA:130mg/g、CTAB/IA:1.12、N2SA:145m2/g、OAN:133cm3/100g
液状ポリマー:CRAY VALLEY社製のRicon100(液状SBR、スチレン含量:25質量%、ビニル含量:70質量%)
粘着樹脂1:BASF社製のコレシン(フェノール系樹脂、軟化点:145℃)
粘着樹脂2:ヤスハラケミカル(株)製のクリアロンM125(水素添加されたテルペン系樹脂、水添率:90%、軟化点:125℃)
粘着樹脂3:アリゾナケミカル社製のSylvatraxx4401(αメチルスチレン樹脂、軟化点:85℃)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
硫黄:細井化学工業(株)製のHK-200-5(5質量%オイル含有粉末硫黄)
【0058】
SBRの製造方法において用いた各種薬品を以下に示す。
シクロヘキサン:関東化学(株)製
ピロリジン:関東化学(株)製
ジビニルベンゼン:シグマアルドリッチ社製
1.6Mのn-ブチルリチウムヘキサン溶液:関東化学(株)製
イソプロパノール:関東化学(株)製
スチレン:関東化学(株)製
ブタジエン:高千穂化学工業(株)製
テトラメチルエチレンジアミン:N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、関東化学(株)製
【0059】
<分岐状SBRの製造方法>
充分に窒素置換した3Lの耐圧ステンレス容器に、ヘキサン1000g、ブタジエン60g、スチレン40g、およびTMEDA20mmolを投入した。次に、重合開始剤の失活に作用する不純物をあらかじめ無毒化するために、スカベンジャーとして少量のn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液を重合容器に投入した。さらに、n-ブチルリチウム/ヘキサン溶液(n-ブチルリチウムの含有量として0.332mmol)を加え、50℃で3時間重合反応を行った。テトラクロロシランを0.083mmol加えた。その後、1Mイソプロパノール/ヘキサン溶液を1500mL滴下し、反応を終了させた。次に、重合液を24時間室温で蒸発させ、さらに80℃で24時間減圧乾燥し、分岐状SBRを得た。
【0060】
<直鎖状SBRの製造方法>
充分に窒素置換した3Lの耐圧ステンレス容器に、ヘキサン1000g、ブタジエン60g、スチレン40g、およびTMEDA20mmolを投入した。次に、重合開始剤の失活に作用する不純物をあらかじめ無毒化するために、スカベンジャーとして少量のn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液を重合容器に投入した。さらに、n-ブチルリチウム/ヘキサン溶液(n-ブチルリチウムの含有量として0.083mmol)を加え、50℃で3時間重合反応を行った。その後、1Mイソプロパノール/ヘキサン溶液を1500mL滴下し、反応を終了させた。次に、重合液を24時間室温で蒸発させ、さらに80℃で24時間減圧乾燥し、直鎖状SBRを得た。
【0061】
(実施例および比較例)
以下の表1に示される配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、加硫剤および加硫促進剤以外の薬品を排出温度170℃になるまで5分間混練りし、混練物を得た。得られた混練物を、バンバリーミキサーにより、排出温度150℃で4分間、再度混練りした(リミル)。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を所定の形状の口金を備えた押し出し機でタイヤトレッドの形状に押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を製造した。
【0062】
<アセトン抽出量(AE量)>
各ゴム試験片を90℃で24時間アセトンに浸漬し、可溶成分を抽出した。抽出前後の各試験片の質量を測定し、下記計算式によりアセトン抽出量を求めた。なお、各ゴム試験片は、各試験用タイヤのトレッドから切り出したものを用いた。
アセトン抽出量(%)={(抽出前のゴム試験片の質量-抽出後のゴム試験片の質量)/(抽出前のゴム試験片の質量)}×100
【0063】
<ゴムカス量の評価>
加硫シートをガラス板の上に押し付け、加硫シートが100℃になるまで回転させた際のゴムカス量を目視で評点付けした。評点が大きいほどゴムカスの付着量が多いことを示す。
【0064】
<台上インサイド試験>
加硫シートを偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型摩擦試験機を用い、測定温度30℃、荷重7.0kN、ドラム回転速度200km/時の条件下で、30km走行後の摩擦係数μ1および45km走行後の摩擦係数μ2を測定した。
【0065】
【表1】
【0066】
表1の結果より、所定量の直鎖状スチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴムおよびカーボンブラックを含有する本発明のトレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤは、良好なグリップ性能を有し、かつゴムカスの付着が抑制されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のトレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤは、良好なグリップ性能を有し、かつゴムカスの付着が抑制されるので、特にレース用タイヤに好適に使用される。