(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】卓上攪拌遠心機
(51)【国際特許分類】
B04B 5/02 20060101AFI20230314BHJP
B04B 9/10 20060101ALI20230314BHJP
B04B 9/08 20060101ALI20230314BHJP
B01F 29/321 20220101ALI20230314BHJP
B01F 29/322 20220101ALI20230314BHJP
【FI】
B04B5/02 Z
B04B9/10
B04B9/08
B01F29/321
B01F29/322
(21)【出願番号】P 2018194642
(22)【出願日】2018-10-15
【審査請求日】2021-09-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年3月20日~23日 日本化学会第98春季年会 にて公開 平成30年8月21日~9月11日 「小型卓上撹拌遠心機」のパンフレット にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000252300
【氏名又は名称】富士フイルム和光純薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢萩 秀二
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-030812(JP,A)
【文献】特開2011-218300(JP,A)
【文献】特開2013-255866(JP,A)
【文献】特開2007-152209(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0036694(US,A1)
【文献】特開2017-205747(JP,A)
【文献】特開平11-128712(JP,A)
【文献】特開2018-114164(JP,A)
【文献】特開平07-289873(JP,A)
【文献】特許第2711964(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B04B 1/00-15/12
B01F 29/00-33/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
公転軸周りに回転可能なロータ本体と、
前記ロータ本体に回転可能に取り付けられ、マイクロチューブを保持可能な保持部と、を備える卓上攪拌遠心機であって、
前記ロータ本体は、モータ出力軸が正回転と逆回転の何れの回転をしても、前記モータ出力軸と共に回転し、
前記保持部は、前記モータ出力軸が正回転する場合は前記ロータ本体に対して静止し、前記モータ出力軸が逆回転する場合は前記ロータ本体に対して自転軸周りに回転
し、
公転軸に対する自転軸の角度が、29~41度の範囲であり、
前記ロータ本体は、公転軸について回転対称の形状であるプレートを含んで構成され、
前記プレートは、
当該プレートにおける公転軸付近を構成する基部と、
当該プレートにおける前記基部の周囲を構成し、その板厚方向を自転軸と同じ方向に向けた板状に形成された傾斜部と、を有し、
前記傾斜部には、その板厚方向に貫通する保持孔が形成されており、
前記保持部は、マイクロチューブのチューブ本体の外周面に接すると共に、その軸方向が前記自転軸と平行である筒部を備え、
前記保持部は、前記保持孔を収容されている、
卓上攪拌遠心機。
【請求項2】
前記保持部が4個以上設けられ、全ての前記保持部が公転軸周りに等間隔に設けられている、
請求項1に記載の卓上攪拌遠心機。
【請求項3】
前記ロータ本体に中心軸受を介して取り付けられ、前記ロータ本体に対して公転軸周りに回転可能な中心副回転体と、
前記ロータ本体に対する前記中心副回転体の回転力を前記保持部に伝達する回転力伝達機構と、を更に備え、
前記モータ出力軸の回転力が、前記ロータ本体と前記中心副回転体との間に設けられた前記中心軸受を介して、前記ロータ本体から前記中心副回転体に伝達するように構成され、
前記中心副回転体は、一方向クラッチ機構により支持されており、
前記一方向クラッチ機構は、前記中心副回転体に伝達された回転力が正方向の場合は回転を許容し、前記中心副回転体に伝達された回転力が逆方向の場合は回転を規制するように構成され、
前記中心副回転体の回転が許容される場合は、前記中心副回転体は正回転する前記ロータ本体に対して静止し、前記中心副回転体に前記回転力伝達機構で繋がる前記保持部も前記ロータ本体に対して静止し、
前記中心副回転体の回転が規制される場合は、前記中心副回転体は逆回転する前記ロータ本体に対して回転し、前記中心副回転体に前記回転力伝達機構で繋がる前記保持部も前記ロータ本体に対して自転軸周りに回転する、
請求項1
または請求項2に記載の卓上攪拌遠心機。
【請求項4】
前記回転力伝達機構が、歯車機構とされており、前記中心副回転体は中心歯車であり、前記保持部には自転歯車が一体化されている、
請求項3に記載の卓上攪拌遠心機。
【請求項5】
前記プレートは、公転軸について回転対称の形状であり、
前記中心歯車は、前記基部の下側に配置されており、
前記自転歯車は、前記傾斜部の下側に配置されている、
請求項4に記載の卓上攪拌遠心機。
【請求項6】
前記基部は、当該基部を取り囲む前記傾斜部の内側端部に対して上方に突出する凸部を有しており、
前記凸部の頂部に、前記モータ出力軸が係合する係合孔が形成されており、
前記凸部の下側には、上方に凹んだ凹部が形成されており、
前記中心歯車は、歯部と、前記歯部の上側に形成された突部と、を有し、
前記凹部に前記中心歯車の前記突部が配置され、
前記中心歯車の前記歯部は、前記凹部の外に配置されている、
請求項5に記載の卓上攪拌遠心機。
【請求項7】
前記中心歯車と前記自転歯車との間に介在歯車が介在している、
請求項4~請求項6の何れか一項に記載の卓上攪拌遠心機。
【請求項8】
前記
プレートは、公転軸について回転対称の形状であ
り、
前記プレートの直径が8~9cmの範囲であり、前記傾斜部の傾斜角度が29~41度の範囲であり、前記中心歯車の直径が3~4cmの範囲であり、前記自転歯車の直径が2~3cmの範囲であり、公転軸から前記保持部の中心までの最短距離が2.8~3.8cmの範囲である、
請求項7に記載の卓上攪拌遠心機。
【請求項9】
前記保持部には自転歯車が一体化されており、
前記保持部は、マイクロチューブのチューブ本体の周面に接する筒部を備え、
前記筒部の外周面側に前記自転歯車が設けられていることにより、前記自転歯車が前記筒部よりも自転軸方向の下方側に突出していない、
請求項1~請求項8の何れか一項に記載の卓上攪拌遠心機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卓上攪拌遠心機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロチューブを用いることができる卓上遠心機が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、攪拌を行った後に遠心分離を行いたい場合、ボルテックスミキサー(容器の底部を高速旋回して内容液を撹拌する実験器具)等の他の機器を用いて攪拌を行い、その後、前述の卓上遠心機で分離を行うこととなる。そのため、マイクロチューブを付け替える必要がある。
【0005】
本発明は、マイクロチューブに保持される少量のサンプルを扱う場合において、作業効率を向上させることができる卓上攪拌遠心機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に係る卓上攪拌遠心機は、公転軸周りに回転可能なロータ本体と、前記ロータ本体に回転可能に取り付けられ、マイクロチューブを保持可能な保持部と、を備える卓上攪拌遠心機であって、前記ロータ本体は、モータ出力軸が正回転と逆回転の何れの回転をしても、前記モータ出力軸と共に回転し、前記保持部は、前記モータ出力軸が正回転する場合は前記ロータ本体に対して静止し、前記モータ出力軸が逆回転する場合は前記ロータ本体に対して自転軸周りに回転する、卓上攪拌遠心機である。
【0007】
この態様では、モータ出力軸を正回転させることで、保持部に保持されたマイクロチューブを公転させることができ、モータ出力軸を逆回転させることで、保持部に保持されたマイクロチューブを自公転させることができる。
このため、マイクロチューブに保持される少量のサンプルに対して、自公転による攪拌と公転による分離やスピンダウン、脱泡等を1台の卓上機により行うことができる。したがって、マイクロチューブを付け替えることなく、公転による分離・脱泡・スピンダウン等と自公転による攪拌等を行うことができる。
【0008】
なお、本明細書において「公転」という場合、多少の自転が起こる運動をも含む。すなわち、自公転比が1/50以下の運動も「公転」と呼ぶ。そして、上述の保持部のロータ本体に対する「静止」もこの範囲で解釈される。つまり、ロータ本体が50回転の公転する時間内に、保持部がロータ本体に対して1回転以下の回転(自転)をする場合も、第1の態様における「前記保持部は、・・・前記ロータ本体に対して静止し」に該当する。
【0009】
第2の態様に係る卓上攪拌遠心機は、第1の態様において、公転軸に対する自転軸の角度が、29~41度の範囲である。
【0010】
この態様では、公転軸に対する自転軸の角度が、29~41度の範囲である。このため、マイクロチューブの蓋に対するサンプル付着が起こり難く、かつ、高い攪拌性能および脱泡性能を得ることができる。換言すると、公転軸に対する自転軸の角度が好ましい範囲である29~41度(より好ましくは29~36度の範囲、更に好ましくは31~36度、最も好ましくは34~36度)の範囲に設定されているので、安定した攪拌、脱泡、スピンダウン、遠沈処理を行うことができる。
【0011】
第3の態様に係る卓上攪拌遠心機は、第1または第2の態様において、前記保持部が4個以上設けられ、全ての前記保持部が公転軸周りに等間隔に設けられている。
【0012】
この態様では、保持部が4個以上設けられ、全ての保持部が公転軸周りに等間隔に設けられている。このため、多くのサンプルを同時に処理できると共に回転の安定性が高い。
なお、保持部の数を6個以上、更には8個以上とすることで、同時に処理を行えるサンプル数を増やすことができ、作業を効率化できる。
【0013】
第4の態様に係る卓上攪拌遠心機は、第1~第3の何れかの態様において、前記ロータ本体に中心軸受を介して取り付けられ、前記ロータ本体に対して公転軸周りに回転可能な中心副回転体と、前記ロータ本体に対する前記中心副回転体の回転力を前記保持部に伝達する回転力伝達機構と、を更に備え、前記モータ出力軸の回転力が、前記ロータ本体と前記中心副回転体との間に設けられた前記中心軸受を介して、前記ロータ本体から前記中心副回転体に伝達するように構成され、前記中心副回転体は、一方向クラッチ機構により支持されており、前記一方向クラッチ機構は、前記中心副回転体に伝達された回転力が正方向の場合は回転を許容し、前記中心副回転体に伝達された回転力が逆方向の場合は回転を規制するように構成され、前記中心副回転体の回転が許容される場合は、前記中心副回転体は正回転する前記ロータ本体に対して静止し、前記中心副回転体に前記回転力伝達機構で繋がる前記保持部も前記ロータ本体に対して静止し、前記中心副回転体の回転が規制される場合は、前記中心副回転体は逆回転する前記ロータ本体に対して回転し、前記中心副回転体に前記回転力伝達機構で繋がる前記保持部も前記ロータ本体に対して自転軸周りに回転する。
【0014】
この態様では、モータ出力軸の回転力が、ロータ本体と中心歯車との間に設けられた中心軸受を介して、ロータ本体から中心歯車に伝達するように構成されている。中心歯車は、一方向クラッチ機構により支持されており、一方向クラッチ機構は、中心歯車に伝達された回転力が正方向の場合は回転を許容し、中心歯車に伝達された回転力が逆方向の場合は回転を規制する。中心歯車の回転が許容される場合は、中心歯車は正回転するロータ本体に対して静止し、中心歯車に回転力伝達機構で繋がる保持部もロータ本体に対して静止する。他方、中心歯車の回転が規制される場合は、中心歯車は逆回転するロータ本体に対して相対的に回転し、中心歯車に回転力伝達機構で繋がる保持部もロータ本体に対して自転軸周りに回転する。
このため、一方向クラッチ機構を用いた簡易な構造により、本発明に係る作業効率性に優れた卓上攪拌遠心機を構成することができる。
なお、回転力伝達機構は、例えば歯車機構であるが、プーリ(滑車)やその他の機構であってもよい。
【0015】
第5の態様に係る卓上攪拌遠心機は、第4の態様において、前記回転力伝達機構が、歯車機構とされており、前記中心副回転体は中心歯車であり、前記保持部には自転歯車が一体化されている。
【0016】
この態様では、中心副回転体の回転力を保持部に伝達する回転力伝達機構が、歯車機構とされている。このため、例えばプーリー(滑車)等を用いて伝達する構成と比較してスペースを節約できる。その結果、多くの保持部を設けることも容易である。
【0017】
第6の態様に係る卓上攪拌遠心機は、第5の態様において、前記中心歯車と前記自転歯車との間に介在歯車が介在している。
【0018】
この態様では、介在歯車が、中心歯車と自転歯車との間に介在している。このため、例えば公転半径を保ったまま自転歯車の径を小さくすることができる。また、自転歯車の径を小さくできることで、配置できる自転歯車の数を多くすることができ、その結果、保持部の数を多くすることもできる。
なお、介在している介在歯車は、1個である必要はなく、2個以上であってもよい。1個である場合は、公転方向に対して自転方向を逆方向とすることができる。公転方向に対して自転方向を逆方向とすることで、高い攪拌性能を発揮させることができる。
【0019】
第7の態様に係る卓上攪拌遠心機は、第1~第6の何れかの態様において、前記ロータ本体は、公転軸について回転対称の形状であるプレートを含んで構成されている。
【0020】
この態様では、ロータ本体が、公転軸について回転対称の形状(更に言うとn回対称(nは2以上の任意の整数)の形状)であるプレートを含んで構成されている。このため、回転の安定性が高い。
【0021】
第8の態様に係る卓上攪拌遠心機は、第7の態様において、前記プレートの直径が6~14cmの範囲である。
【0022】
この態様では、プレート40の直径が6~14cmの範囲であるため、小型で使いやすい卓上機となっている。
【0023】
第9の態様に係る卓上攪拌遠心機は、第6の態様において、前記ロータ本体は、公転軸について回転対称の形状であるプレートを含んで構成され、前記プレートは、前記モータ出力軸が係合する係合孔が形成された基部と、前記基部の周囲に形成され、水平に対して傾斜し、前記保持部が収容される保持孔が形成された傾斜部と、を含んで構成され、前記プレートの直径が8~9cmの範囲であり、前記傾斜部の傾斜角度が29~41度の範囲であり、前記中心歯車の直径が3~4cmの範囲であり、前記自転歯車の直径が2~3cmの範囲であり、公転軸から前記保持部の中心までの最短距離が2.8~3.8cmの範囲である。
【0024】
この態様では、プレートは、モータ出力軸が係合する係合孔が形成された基部と、基部の周囲に形成され、水平に対して傾斜し、保持部が収容される保持孔が形成された傾斜部と、を含んで構成されている。そして、プレートの直径が8~9cmの範囲であり、傾斜部の傾斜角度が29~41度(より好ましくは29~36度の範囲、更に好ましくは31~36度、最も好ましくは34~36度)の範囲であり、中心歯車の直径が3~4cmの範囲であり、自転歯車の直径が2~3cmの範囲であり、公転軸から保持部の中心までの最短距離が2.8~3.8cmの範囲である。このため、歯車機構を効率よく配置でき、多くの保持部を設けることができると共に充分な攪拌脱泡性能を発揮することができる卓上攪拌遠心機とすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、マイクロチューブに保持される少量のサンプルを扱う場合において、作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】卓上機本体およびロータで構成される卓上攪拌遠心機の斜視図である。
【
図2】ロータ(公転軸を通る平面での断面)とロータ取付軸を示す側面図である。
【
図6】ロータの斜視図(斜め下方から見た斜視図)である。
【
図7】保持部および自転歯車の拡大断面図(自転軸を通る平面での断面図)である。
【
図8】1.5mLと2.0mLのマイクロチューブの一例を示す図である。
【
図9】中心歯車の断面図(公転軸を通る平面での断面図)である。
【
図10】ロータの各構成の寸法を示す
図2と同じ断面図である。
【
図11】1.5mLのマイクロチューブを自転軸AX2の角度が約35度になるように保持した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の卓上攪拌遠心機10(以下、単に「卓上機10」という。)は、卓上機本体12と、ロータ14と、を備える。ロータ14は、卓上機本体12に対し、取付けおよび取外し可能とされている。
【0029】
卓上機本体12は、机やテーブルなどに載置可能なボディ21を備えている。ボディ21の上部には、平面視で円形の円形凹部22が形成されている。円形凹部22の中央部には、上方に向けて突出する山部27が設けられている。山部27は、円錐台の形状とされている。山部27の頂部には、ロータ取付軸23が設けられている。ロータ取付軸23は、その軸方向を上下方向に向けている。
【0030】
また、卓上機本体12は、開閉可能なリッド24を備えている。リッド24が閉じた状態で、円形凹部22とリッド24により形成される空間が攪拌遠心室25となる。リッド24の後部は、ボディ21の後部に回動可能な状態で連結されている。リッド24を閉じることで、ボディ21の前部の係止部26とリッド24の前部の被係止部(図示省略)とが係合し、リッド24が閉じた状態が維持される。
【0031】
リッド24は、略半形のドーム状の形状とされ、透明の合成樹脂製である。
【0032】
ロータ14は、卓上機本体12のロータ取付軸23に取り付けられる。
図2に拡大して示すように、ロータ取付軸23は、モータ出力軸31と、円筒部32と、を含んで構成されている。
【0033】
モータ出力軸31は、卓上機本体12の内部に設けられたモータ(図示省略)の出力軸であり、軸方向を上下方向に向けている。モータ出力軸31の軸は、後述する公転軸AX1と一致する。
円筒部32は、モータ出力軸31の周囲を囲むように設けられている。円筒部32は、モータ出力軸31よりも低く形成されており、円筒部32の上端の開口部からモータ出力軸31の上部が露出している。
モータ出力軸31は、後述するプレート40に係合する係合部31aを有する。係合部31aが六角柱の形状とされている。モータ出力軸31の係合部31aがプレート40の係合孔40aに係合することで、モータ出力軸31が正回転と逆回転の何れの回転をしてもプレート40がモータ出力軸31と共に回転することとなる。係合部31aは、モータ出力軸31の上端付近のみに形成されており、モータ出力軸31のうち係合部31aの下側部分は、円柱形状とされている。モータ出力軸31の係合部31aの全体が円筒部32から露出している。
【0034】
(ロータ14)
図2等に示すように、ロータ14は、公転軸AX1に対して回転対称の形状であるプレート40を含んで構成されている。プレート40には、複数(本実施形態では8個)の保持孔42aが形成されている。保持孔42aには、自転軸受95を介して保持部51が取り付けられている。これにより、プレート40に対して保持部51が回転可能とされている。以下、保持部51の回転軸を自転軸AX2という。
【0035】
保持部51は、マイクロチューブ60を保持可能に構成されている。保持部51がマイクロチューブ60を保持した状態で、自転軸AX2とマイクロチューブ60の中心軸は略一致する。
【0036】
具体的には、
図7に拡大して示すように、保持部51は、マイクロチューブ60のフランジ62(
図8参照)に接触する鍔部51aと、マイクロチューブ60のチューブ本体61に接触する筒部51bと、から構成されている。鍔部51aおよび筒部51bは、合成樹脂で一体に形成されている。保持部51の鍔部51a側からマイクロチューブ60が挿入され、鍔部51aにマイクロチューブ60のフランジ62の下面が接触してマイクロチューブ60が保持される。保持された状態で、筒部51bは、マイクロチューブ60のチューブ本体61の外周面に接触する。
【0037】
保持部51は、1.5mLのマイクロチューブ60Aと2.0mLのマイクロチューブ60Bの両方を保持可能に構成されている。1.5mLのマイクロチューブ60Aと2.0mLのマイクロチューブ60Bのチューブ本体61の外径は略同じである。
【0038】
図2等に示すように、ロータ14の中心における下側には、「中心副回転体」としての中心歯車70が設けられている。中心歯車70は、プレート40に対し、中心軸受75を介して取り付けられており、プレート40に対して公転軸AX1周りを回転可能とされている。
【0039】
中心歯車70は、介在歯車80を介して、保持部51と一体化された自転歯車90と噛み合っている。中心歯車70がプレート40に対して公転軸AX1周りを回転すると、自転歯車90がプレート40に対して自転軸AX2周りを回転し、自転歯車90と一体化された保持部51もプレート40に対して自転軸AX2周りを回転(自転)する。
【0040】
中心歯車70は、ロータ取付軸23の円筒部32と係わり合うことで一方向クラッチ機能を発揮する一方向クラッチ機構71を有している。一方向クラッチ機構71は、ロータ取付軸23の円筒部32を受入可能に下方に開放されている。
【0041】
ロータ14をロータ取付軸23に取り付けた状態では、ロータ取付軸23のモータ出力軸31の係合部31aがロータ14のプレート40の係合孔40aに係合し、ロータ取付軸23の円筒部32が中心歯車70の一方向クラッチ機構71に係合する。なお、本明細書でいう「係合」とは、係わり合っている程度の意味合いである。
【0042】
モータ出力軸31の六角形(六角柱形状)の係合部31aと、プレート40の六角形(六角柱形状)の係合孔40aとが係合するので、モータ出力軸31が正回転するとプレート40も同じ回転速度で正回転し、モータ出力軸31が逆回転するとプレート40も同じ回転速度で逆回転する。
一方、ロータ取付軸23の円筒部32と、中心歯車70の一方向クラッチ機構71とが係合することにより、ロータ取付軸23の円筒部32に対する中心歯車70の正回転は許容されるが、逆回転は禁止される状態となる。
【0043】
なお、モータ出力軸31の上面にはネジ孔(図示省略)が形成されており、ロータ14をロータ取付軸23に取り付けた状態において、図示しない固定ネジをモータ出力軸31のネジ孔に螺合することができる。これにより、ロータ14がロータ取付軸23から外れることを防止することができる。
【0044】
介在歯車80は、プレート40に対し、介在軸受85を介して取り付けられている。介在歯車80の回転軸は、自転歯車90の回転軸と平行である。介在軸受85の内輪は、プレート40を貫通して設けられた貫通支持体86に固定されている。貫通支持体86は、その一部がプレート40の傾斜部42から下側に突出して介在歯車80が固定された筒部86bと、筒部86bの上側端部に形成されたフランジ85aと、を有している。
【0045】
プレート40は、プレート40における公転軸AX1付近を構成する基部41と、プレート40における基部41の周囲を構成する傾斜部42と、を有している。傾斜部42は、その板厚方向を自転軸AX2と同じ方向に向けた板状に形成されており、この傾斜部42に、板厚方向に貫通する保持孔42aが形成されている。基部41と傾斜部42とは合成樹脂で一体に成形されている。
【0046】
基部41は、上方に突出した凸部43を有している。凸部43は、基部41を取り囲む傾斜部42の内側端部(中心側の端部)に対して上方に突出するように形成されている。凸部43の頂部に、モータ出力軸31が係合する六角形の係合孔40aが形成されている。凸部43が形成されていることで、凸部43の下方に一方向クラッチ機構71が配置される広い空間が確保されている。具体的には、基部41の凸部43の下側には、上方に凹んだ凹部44が形成されている。この凹部44に中心歯車70の突部70B(
図9参照)が配置されている。他方、中心歯車70の歯部70Aは、凹部44の外に配置されている。なお、中心歯車70の歯部70Aは、傘歯車とされている。
【0047】
(公転動作)
モータ出力軸31が正回転(本実施形態では反時計回りの回転)をすると、モータ出力軸31の六角形の係止部26に係合した六角形の係合孔40aを介してプレート40に回転力が伝わり、プレート40も正回転する。
プレート40が正回転すると、プレート40に対して中心軸受75を介して取り付けられた中心歯車70には、中心軸受75を介してプレート40からの回転力が伝わり、中心歯車70も正回転しようとする。
ここで、中心歯車70の一方向クラッチ機構71は、ロータ取付軸23の円筒部32と係わり合っており、一方向クラッチ機構71は、円筒部32に対する中心歯車70の正回転を許容するように構成されている。
そのため、中心歯車70はプレート40と同じように正回転する。したがって、中心歯車70は、プレート40に対しては回転せず静止した状態となり、保持部51もプレート40に対して静止した状態となる。その結果、保持部51に保持されたマイクロチューブ60は、公転運動(公転軸AX1に対する公転のみをし、自転軸AX2に対する自転はしない運動)をする。
【0048】
(自公転動作)
モータ出力軸31が逆回転(本実施形態では時計回りの回転)をすると、モータ出力軸31の六角形の係止部26に係合した六角形の係合孔40aを介してプレート40に回転力が伝わり、プレート40も逆回転する。
プレート40が逆回転すると、プレート40に対して中心軸受75を介して取り付けられた中心歯車70には、中心軸受75を介してプレート40からの回転力が伝わり、中心歯車70も逆回転しようとする。
ここで、中心歯車70の一方向クラッチ機構71は、ロータ取付軸23の円筒部32と係わり合っており、一方向クラッチ機構71は、円筒部32に対する中心歯車70の逆回転を規制するように構成されている。
そのため、中心歯車70は卓上機本体12に対して静止する。したがって、中心歯車70は、プレート40に対しては回転した状態となり、保持部51もプレート40に対して回転した状態となる。その結果、保持部51に保持されたマイクロチューブ60は、自公転運動(公転軸AX1に対する公転と自転軸AX2に対する自転の両方をする運動)をする。
【0049】
公転動作している状態でも自公転動作をしている状態でも、ロータ14のうち、プレート40や貫通支持体86などは、公転軸AX1周りを公転運動のみをする。本開示では、ロータ14のうち、これらの部分(公転軸AX1周りの公転運動のみをする部分)を「ロータ本体14A」という。
【0050】
本実施形態では、公転動作時の公転速度は約4000rpmである。自公転動作時の公転速度は、約1700rpmであり、自転速度は、約1600rpmである。但し、これらの速度は、特に限定されない。
公転動作時の公転速度は、通常3000~6000rpm、好ましくは3300~5500rpm、より好ましくは3500~5000rpmである。
自公転動作時の公転速度は、通常1000~2500rpm、好ましくは1300~2300rpm、より好ましくは1500~2000rpmであり、自転速度は、通常1000~2500rpm、好ましくは1200~2200rpm、より好ましくは1400~1900rpmである。
【0051】
<作用効果>
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0052】
本実施形態の卓上機10は、公転軸AX1周りに回転可能なロータ本体14Aと、ロータ本体14Aに回転可能に取り付けられ、マイクロチューブ60を保持可能な保持部51と、を備える。ロータ本体14Aは、モータ出力軸31が正回転と逆回転の何れの回転をしても、モータ出力軸31と共に回転し、保持部51は、モータ出力軸31が正回転する場合はロータ本体14Aに対して静止し、モータ出力軸31が逆回転する場合はロータ本体14Aに対して自転軸AX2周りに回転する。
これにより、モータ出力軸31を正回転させることで、保持部51に保持されたマイクロチューブ60を公転させることができ、モータ出力軸31を逆回転させることで、保持部51に保持されたマイクロチューブ60を自公転させることができる。
このため、マイクロチューブ60に保持される少量のサンプルに対して、自公転による攪拌と公転による分離や脱泡、スピンダウン等を1台の卓上機により行うことができる。したがって、マイクロチューブ60を付け替えることなく、公転による分離・脱泡・スピンダウン等と自公転による攪拌等を行うことができる。
【0053】
なお、卓上機10の用途は特に限定されず、粉体の溶解や磁気ビーズ、金属材料等の不溶性粉体の攪拌や高粘度物質の混錬、粉体のみの攪拌、脱泡、遠心(遠沈)に用いることができる。
【0054】
また、本実施形態では、公転軸AX1に対する自転軸AX2の角度が、約35度である。このため、マイクロチューブ60の蓋63に対するサンプル付着が起こり難く、かつ、高い攪拌性能および脱泡性能を得ることができる。換言すると、公転軸AX1に対する自転軸AX2の角度が好ましい範囲である29~41度(より好ましくは29~36度の範囲、更に好ましくは31~36度、最も好ましくは34~36度)の範囲に設定されているので、安定した攪拌、脱泡、遠沈処理を行うことができる。
なお、
図8に示す1.5mLのマイクロチューブ60Aは、チューブ本体61の下部61aが略円錐形状となっている。
図11に示すように、このマイクロチューブ60Aを、自転軸AX2の角度が約35度になるように保持すると、上述の略円錐形状の下部61aの下側壁は、鉛直軸に対して約45度の角度となる。このように、チューブ本体61の下側壁の鉛直軸に対する角度を約45度に設定することで、安定した攪拌性能を発揮させることができる。
【0055】
また、本実施形態では、保持部51が8個設けられ、全ての保持部51が公転軸AX1周りに等間隔に設けられている。このため、多くのサンプルを同時に処理できると共に回転の安定性が高い。
【0056】
また、本実施形態では、モータ出力軸31の回転力が、ロータ本体14Aと中心歯車70との間に設けられた中心軸受75を介して、ロータ本体14Aから中心歯車70に伝達するように構成されている。中心歯車70は、一方向クラッチ機構71により支持されており、一方向クラッチ機構71は、中心歯車70に伝達された回転力が正方向の場合は回転を許容し、中心歯車70に伝達された回転力が逆方向の場合は回転を規制する。中心歯車70の回転が許容される場合は、中心歯車70は正回転するロータ本体14Aに対して静止し、中心歯車70に回転力伝達機構で繋がる保持部51もロータ本体14Aに対して静止する。他方、中心歯車70の回転が規制される場合は、中心歯車70は逆回転するロータ本体14Aに対して相対的に回転し、中心歯車70に回転力伝達機構で繋がる保持部51もロータ本体14Aに対して自転軸AX2周りに回転する。
このため、一方向クラッチ機構71を用いた簡易な構造により、本発明に係る作業効率性に優れた卓上攪拌遠心機10を構成することができる。
なお、本実施形態での回転力伝達機構は、歯車機構であるが、プーリ(滑車)やその他の機構であってもよい。
【0057】
また、本実施形態では、中心副回転体70の回転力を保持部51に伝達する回転力伝達機構が、歯車機構とされている。このため、例えばプーリー(滑車)等を用いて伝達する構成と比較してスペースを節約できる。その結果、多くの保持部51を設けることも容易である。
【0058】
また、本実施形態では、介在歯車80が、中心歯車70と自転歯車90との間に介在している。このため、例えば公転半径を保ったまま自転歯車90の径を小さくすることができる。また、自転歯車90の径を小さくできることで、配置できる自転歯車90の数を多くすることができ、その結果、保持部51の数を多くすることもできる。
なお、介在している介在歯車80は、1個である必要はなく、2個以上であってもよい。1個である場合は、公転方向に対して自転方向を逆方向とすることができる。公転方向に対して自転方向を逆方向とすることで、高い攪拌性能を発揮させることができる。
更に、本実施形態では、プレート40を貫通している貫通支持体86が介在歯車80を回転可能に支持している。このため、介在歯車80のプレート40に対する支持が安定し、故障しにくいロータ14とすることができる。
また、本実施形態では、介在歯車80は、二段歯車とされている。介在歯車80のうち径が小さく歯数の少ない小歯車82が自転歯車90と噛み合い、径が大きく歯数の多い大歯車81が中心歯車70と噛み合っている。これにより、中心歯車70の径L2が自転歯車90の径L3よりも大きい本実施形態において、自公転比(公転速度に対する自転速度の比率)を1以下とすることができている。
【0059】
また、本実施形態では、ロータ本体14Aが、公転軸AX1について回転対称の形状(更に言うとn回対称(nは2以上の任意の整数)の形状)であるプレート40を含んで構成されている。このため、回転の安定性が高い。
更に、本実施形態では、プレート40は、モータ出力軸31が係合する係合孔40aが形成された基部41と、基部41の周囲に形成され、水平に対して傾斜し、保持部51が収容される保持孔42aが形成された傾斜部42と、を含んで構成されている。このため、ロータ本体14Aの大部分をプレート40で構成することができ、より一層回転の安定性が高められている。
【0060】
また、本実施形態では、
図10に示すように、プレート40の直径L1が約8.5cmである。つまり、プレート40の直径L1が6~14cmの範囲であるため、小型で使いやすい卓上機10となっている。なお、保持部51が8個の場合は約8cm、4個の場合は約6cm、6個の場合は約7cm、12個の場合は約10cm、16個の場合は約14cmなどと、保持部51の数に応じてプレート40の直径L1は適宜変更してよい。
【0061】
更に、本実施形態では、プレート40の直径L1が8~9cmの範囲であり、傾斜部42の傾斜角度θが29~41度(より好ましくは29~36度の範囲、更に好ましくは31~36度、最も好ましくは34~36度)の範囲であり、中心歯車70の直径L2が3~4cmの範囲であり、自転歯車90の直径L3が2~3cmの範囲であり、公転軸AX1から保持部51の中心(なお、保持部51の中心とは、円形の鍔部51aの中心点をいう。)までの最短距離D1が2.8~3.8cmの範囲である。このため、歯車機構を効率よく配置でき、多くの保持部51を設けることができると共に充分な攪拌脱泡性能を発揮することができる卓上攪拌遠心機10とすることができる。
【0062】
また、本実施形態では、
図1に示すように、モータ出力軸31の正回転と逆回転とを切り替える切替スイッチ19が攪拌遠心室25に設けられている。換言すると、公転運転と自公転運動とを切り替える切替スイッチ19が、攪拌遠心室25に設けられている。このため、攪拌遠心室25を閉じた状態で切替スイッチ19を誤操作してしまうことが防止されている。
更に、本実施形態では、リッド24が閉じた状態でモータが駆動し、リッド24が開いた状態ではモータが駆動しないように構成されている。このため、モータの駆動時に切替スイッチ19を誤操作することが防止されている。
【0063】
また、本実施形態では、
図7に示すように、マイクロチューブ60を保持可能な保持部51が、マイクロチューブ60のチューブ本体61の周面に接する筒部51bと、マイクロチューブ60の鍔部51aに接する鍔部51aと、を含んで構成されている。このため、例えば保持部51が筒部51bを含まない態様と比較して、保持部51によるマイクロチューブ60の保持力が確保されている。
更に、本実施形態では、筒部51bの長さH(自転軸AX2に平行な長さ)が、1cm以上とされている。このため、保持部51による保持力がより一層確保されている。
【0064】
また、本実施形態では、
図7に示すように、保持部51の筒部51bの外周面側に自転歯車90が設けられている。これにより、保持部51の筒部51bよりも自転歯車90が自転軸AX2方向の下方側に突出しないようになっている。このため、保持部51による高い保持力を確保したまま(筒部51bの長さHを確保しつつ)、ロータ14の大型化(厚みの増加)を抑制することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 卓上攪拌遠心機(卓上機)
12 卓上機本体
14 ロータ
14A ロータ本体
21 ボディ
23 ロータ取付軸
31 モータ出力軸
31a 係合部
32 円筒部
40 プレート
40a 係合孔
41 基部
42 傾斜部
42a 保持孔
51 保持部
60 マイクロチューブ
70 中心歯車(中心副回転体)
71 一方向クラッチ機構
80 介在歯車
90 自転歯車
θ 公転軸に対する自転軸の角度、傾斜部の傾斜角度
AX1 公転軸
AX2 自転軸
L1 プレートの直径
L2 中心歯車の直径
L3 自転歯車の直径
D1 公転軸から保持部の中心までの最短距離