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特許7243159熱可塑性ポリエステル樹脂組成物および成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリエステル樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20230314BHJP
   B29C 70/02 20060101ALI20230314BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20230314BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20230314BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20230314BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20230314BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20230314BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230314BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C08L67/00
B29C70/02
C08J5/04 CFD
C08K7/02
C08K9/04
C08L25/04
C08L33/08
C08L63/00 A
C08L101/12
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018228007
(22)【出願日】2018-12-05
(65)【公開番号】P2019116613
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2017249490
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】東城 裕介
(72)【発明者】
【氏名】横江 牧人
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-534720(JP,A)
【文献】特開2010-024337(JP,A)
【文献】特開2018-031007(JP,A)
【文献】特開2007-119730(JP,A)
【文献】特開昭60-260646(JP,A)
【文献】特開昭59-217754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00
C08L 63/00
C08L 33/08
C08L 25/04
C08K 7/02
C08K 9/04
C08L 101/12
B29C 70/02
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)エポキシ化天然油0.1~2.0重量部(C)非晶性樹脂0.1~30重量部、および(D)繊維状強化材1~100重量部を配合してなり、該(C)非晶性樹脂が、非晶性ビニル系樹脂、芳香族二価フェノール系化合物とホスゲンまたは炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる重合体または共重合体であるポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルホン樹脂、およびポリエーテルイミド樹脂から選択されるいずれかである、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンデカンジカルボキシレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、およびポリブチレン/エチレンテレフタレートの中から選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート/セバケートの中から選ばれる少なくとも一つである請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)エポキシ化天然油が、エポキシ化亜麻仁油である請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)非晶性樹脂が、アクリレート系樹脂、およびスチレン系樹脂の中から選ばれる少なくとも一つである請求項1~4のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)非晶性樹脂が、AS樹脂である請求項1~5のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のエポキシ基濃度が10eq/t以上である請求項1~6のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
前記(D)繊維状強化材がエポキシ系収束剤で処理されたガラス繊維である請求項1~7のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
ポリオレフィン等衛生協議会が定める樹脂添加剤の溶出試験法による熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からの(B)エポキシ化天然油の溶出量が500μg/L以下である請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる成形品。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる食品用部品。
【請求項12】
請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる医療用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびそれを成形してなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた射出成形性や機械物性などの諸特性を生かし、機械機構部品、電気・電子部品および自動車部品などの幅広い分野に利用されている。しかしながら、熱可塑性ポリエステル樹脂は、加水分解により劣化するため、食品衛生用品や医療器具部品などの材料として使用するためには、一般の化学的および物理的諸特性のバランスに加えて、長期における耐加水分解性を有することや人体に有害な物質が溶出しにくいことが求められている。
【0003】
熱可塑性ポリエステル樹脂に耐加水分解性を付与する方法としては、熱可塑性ポリエステル樹脂にエポキシ化合物や、カルボジイミド化合物を配合する方法が知られている。かかる樹脂組成物として、例えば、これまでに、熱可塑性ポリエステル樹脂に対し、芳香族ビニル系樹脂、アミド化合物、3つ以上の水酸基を有する多価アルコール化合物、エポキシ化合物、繊維状充填材を配合してなるポリエステル樹脂組成物(特許文献1)が開示されている。さらに、人体や環境に対して悪影響を及ぼさないよう樹脂添加剤の衛生用途対応への規格として定められているポリオレフィン等衛生協会のポジティブリストに登録されている添加剤を用いた樹脂組成物として、熱可塑性ポリエステルに対して、カルボジイミド化合物を配合してなる樹脂組成物(特許文献2)、天然物由来のエポキシ化合物を含有する樹脂組成物として、エポキシ化された天然油もしくは脂肪酸エステル、または前記油もしくはエステルの混合物を配合してなる熱可塑性ポリエステル成形材料(特許文献3)、エポキシ化された脂肪酸エステル、オレフィン系エラストマーを配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-052172号公報
【文献】特開2000-256436号公報
【文献】特表2006-517605号公報
【文献】特開2016-190976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~4に開示された技術において、耐加水分解性は向上するものの、添加剤由来の物質が湿熱環境下で溶出してくるという課題があった。その中でも、特許文献1に開示された技術では、人体への感作性の高いビスフェノールA型エポキシやノボラック型エポキシが溶出し、特許文献2に開示された技術では、カルボジイミド化合物から毒性を有するイソシアネート化合物が生じ、当該イソシアネート化合物が溶出することから、それぞれ衛生用品へ適用する場合には使用環境条件の制限などの課題があった。
【0006】
また、特許文献3、4に開示された発明は、添加剤自体に天然物由来の化合物を選択することで、添加剤が溶出してきても人体に対して影響が少ない技術であるが、溶出物に対して雑菌が繁殖し、衛生環境を悪化させてしまうという課題があり、食品用途や医療用途には不適であった。
【0007】
本発明は、長期の耐加水分解性に優れ、かつ湿熱環境下においても添加剤の溶出を著しく抑制することができる成形品を得ることのできる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した課題を解決するために検討を重ねた結果、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂に、(B)エポキシ化天然油および(C)非晶性樹脂を特定量配合することにより、上記した課題を解決できることを見出し、本発明に達した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
[1](A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)エポキシ化天然油0.1~2.0重量部(C)非晶性樹脂0.1~30重量部、および(D)繊維状強化材1~100重量部を配合してなり、該(C)非晶性樹脂が、非晶性ビニル系樹脂、芳香族二価フェノール系化合物とホスゲンまたは炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる重合体または共重合体であるポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルホン樹脂、およびポリエーテルイミド樹脂から選択されるいずれかである、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[2]前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンデカンジカルボキシレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、およびポリブチレン/エチレンテレフタレートの中から選ばれる少なくとも一つである[1]に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[3]前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート/セバケートの中から選ばれる少なくとも一つである[1]または[2]に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[4]前記(B)エポキシ化天然油が、エポキシ化亜麻仁油である[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[5]前記(C)非晶性樹脂が、アクリレート系樹脂、およびスチレン系樹脂の中から選ばれる少なくとも一つである[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[6]前記(C)非晶性樹脂が、AS樹脂である1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[7]熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のエポキシ基濃度が10eq/t以上である[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物
]前記(D)繊維状強化材がエポキシ系収束剤で処理されたガラス繊維である[1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
]ポリオレフィン等衛生協議会が定める樹脂添加剤の溶出試験法による熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からの(B)エポキシ化天然油の溶出量が500μg/L以下である[1]~[]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
10][1]~[]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる成形品。
11][1]~[]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる食品用部品。
12][1]~[]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる医療用器具。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、耐熱性および機械物性、長期の耐加水分解性に優れ、かつ湿熱環境下においても添加剤の溶出を著しく抑制することができる成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物について、詳細に説明する。
【0011】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、(B)エポキシ化天然油0.1~2.0重量部および(C)非晶性樹脂0.1~30重量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、射出成形性に優れ、得られた成形品は機械物性に優れるものの、加水分解によりエステル結合が分解しやすく、その結果カルボキシル基濃度が増加する。カルボキシル基濃度の増加に伴い、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の分子量低下が促進され、その結果、成形品の機械物性が低下する。本発明においては、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂とともに(B)エポキシ化天然油を配合することにより、加水分解により生じる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基と(B)エポキシ化天然油のエポキシ基とが反応してカルボキシル基濃度の増加を抑制する。その結果、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂からなる成形品は高い機械物性を維持することができる。しかしながら、湿熱環境下では(B)エポキシ化天然油が成形品表面に溶出するため、成形品表面に菌が付着し、繁殖しやすくなり、衛生環境を悪化させてしまうため、食品トレー用途や医療器具用途では使用することができなかった。そこで、(C)非晶性樹脂をさらに添加することで、湿熱時に溶出するエポキシ化天然油を非晶性樹脂成分に吸着させ、成形品表面への溶出を防ぐことができる。
【0012】
ここで、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)成分、(B)成分および(C)成分が反応した反応物を含むが、当該反応物は複雑な反応により生成されたものであり、その構造を特定することは実際的でない事情が存在する。したがって、本発明は配合する成分により発明を特定するものである。
【0013】
本発明で用いられる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、(1)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体、(2)ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、および、(3)ラクトンからなる群より選択される少なくとも一種の残基を主構造単位とする重合体または共重合体である。ここで、「主構造単位とする」とは、全構造単位中(1)~(3)からなる群より選択される少なくとも一種の残基を50モル%以上有することを指し、それらの残基を80モル%以上有することが好ましい態様である。これらの中でも、(1)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体が、機械物性や耐熱性により優れる点で好ましい。
【0014】
上記のジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0015】
また、上記のジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなどの炭素数2~20の脂肪族または脂環式グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量200~100,000の長鎖グリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどの芳香族ジオキシ化合物およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0016】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を構造単位とする重合体または共重合体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリプロピレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/サクシネート、ポリプロピレンテレフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/アジペート、ポリプロピレンテレフタレート/セバケート、ポリブチレンテレフタレート/セバケート、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/サクシネート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/セバケートなどの芳香族ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの重合体および共重合体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。ここで、「/」は共重合体を表す。
【0017】
これらの中でも、機械物性および耐熱性をより向上させる観点から、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体がより好ましく、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基とプロピレングリコール、1,4-ブタンジオールから選ばれる脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体がさらに好ましい。
【0018】
中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/セバケートおよびポリブチレンテレフタレート/ナフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂が特に好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンデカンジカルボキシレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレン/エチレンテレフタレートがより好ましく、湿熱時のエポキシ化天然油の溶出量を低減できる点で、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/セバケートがさらに好ましい。
【0019】
またこれらの中で、耐加水分解性と高温における剛性をより向上させる点から、2種以上のポリエステルを併用することが好ましい。その併用の組み合わせとして、ポリブチレンテレフタレート//ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート//ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンデカンジカルボキシレート/テレフタレート//ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート//ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート//ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート//ポリブチレンナフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート//ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート//ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート//ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンデカンジカルボキシレート/テレフタレート//ポリエチレンナフタレートが好ましい。ここで、「/」は共重合体を表し、「//」はそれぞれの樹脂を併用することを表す。
【0020】
本発明で用いられる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基量は、流動性、耐加水分解性および耐熱性の点で、50eq/t以下であることが好ましい。50eq/t以下とすることで、カルボキシル基が酸触媒として作用して耐加水分解性が低下することを抑制でき、さらに(B)エポキシ化天然油と反応するカルボキシル基が多いと(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の分子量の変化が大きくなり滞留安定性が著しく悪化する傾向にある。好ましくは40eq/t以下であり、より好ましくは30eq/t以下である。カルボキシル基量の下限値は、0eq/tである。ここで、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。
【0021】
本発明で用いられる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、機械物性をより向上させる点で、重量平均分子量(Mw)が8,000以上であることが好ましい。また、重量平均分子量(Mw)が500,000以下の場合、流動性が向上できるため、好ましい。より好ましくは300,000以下であり、さらに好ましくは250,000以下である。本発明において、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のMwは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0022】
本発明で用いられる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、公知の重縮合法や開環重合法などにより製造することができる。製造方法は、バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができるが、生産性の観点から、連続重合が好ましく、また、直接重合がより好ましく用いられる。
【0023】
本発明で用いられる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応することにより製造することができる。
【0024】
エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましい。重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステルあるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモンおよび酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0025】
これらの重合反応触媒の中でも、有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステルがさらに好ましく用いられる。重合反応触媒の添加量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.01~0.2重量部の範囲が好ましい。
【0026】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂に、(B)エポキシ化天然油を配合してなることを特徴とする。前述のとおり、熱可塑性ポリエステル樹脂は、加水分解により劣化しやすい傾向にあるが、(B)エポキシ化天然油を配合することにより、耐加水分解性を向上させることができる。
【0027】
本発明で用いられる(B)エポキシ化天然油は、不飽和脂肪酸エステルを含む天然由来の油脂の不飽和結合をエポキシ化した化合物であり、下記一般式(1)に示すような構造を例示することができる。
【0028】
【化1】
【0029】
一般式(1)中、Ra、RbおよびRcは、それぞれ、直鎖若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基、又は、直鎖若しくは分岐鎖状の不飽和脂肪族炭化水素基の炭素-炭素不飽和結合の一部若しくは全部がエポキシ化された一価の基(即ち、上記不飽和結合の一部若しくは全部がオキシラン環に変換された基;以下、エポキシ化脂肪族炭化水素基と称する場合がある)を示す。なお、Ra、RbおよびRcは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
前記直鎖若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基として、例えば、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。
【0031】
前記飽和脂肪族炭化水素基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基などが挙げられる。
【0032】
前記不飽和脂肪族炭化水素基として、ビニル基、アリル基、1-ブテニル基などのアルケニル基や、エチニル基、プロピニル基などのアルキニル基などの、1個以上の炭素-炭素不飽和結合を有する脂肪族炭化水素基などが挙げられる。
【0033】
前記エポキシ化脂肪族炭化水素基として、例えば、前記不飽和脂肪族炭化水素基の炭素-炭素不飽和結合の一部又は全部がエポキシ化された一価の基などが挙げられる。前記不飽和脂肪族炭化水素基の炭素数は、少ないと成形時の発生ガスが多くなりやすく、多いと流動性が悪化しやすくなることから、4~30が好ましく、6~20がより好ましい。
【0034】
中でも、一般式(1)で表される化合物として特に好ましいのは、Ra、Rb、Rcのいずれもがエポキシ化脂肪族炭化水素基である、エポキシ化脂肪酸トリグリセリドである。
【0035】
本発明において、エポキシ化天然油とは、オリーブ油、扁桃油、落花生油、椰子油、椿油、コーン油、綿実油、ゴマ油、カラシ油、菜種油、大豆油、亜麻仁油、桐油、芥子油、紫蘇油、胡桃油、荏油、紅花油、向日葵油、タラ肝油、イワシ油、ニシン油、牛脂、羊脂、バターなどの不飽和脂肪酸エステルの不飽和結合をエポキシ化した化合物であり、具体的にはエポキシ化ゴマ油、エポキシ化カラシ油、エポキシ化菜種油、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化桐油、エポキシ化芥子油、エポキシ化紫蘇油、エポキシ化胡桃油、エポキシ化荏油、エポキシ化タラ肝油、エポキシ化イワシ油、エポキシ化ニシン油などが挙げられる。これらエポキシ化天然油の中でも高い耐加水分解性と湿熱処理時の溶出量の低減を高いレベルで両立できることからエポキシ化亜麻仁油が好ましい。
【0036】
(B)エポキシ化天然油は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。特に好ましい、(B)エポキシ化天然油は、株式会社ADEKAからアデカサイザー(登録商標)、例えばアデカサイザー(登録商標)O-130P、アデカサイザー(登録商標)O-180Pという商品名で入手できる。
【0037】
(B)エポキシ化天然油の配合量は、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.1~2.0重量部である。(B)成分の配合量が0.1重量部未満の場合、長期耐加水分解性が低下する。より好ましくは0.3重量部以上であり、さらに好ましくは0.5重量部以上である。一方、(B)成分の配合量が2.0重量部を超えると、湿熱時の溶出量が顕著に増加する。より好ましくは1.8重量部以下であり、さらに好ましくは1.6重量部以下である。
【0038】
また、本発明において、(B)エポキシ化天然油の配合量の好ましい範囲は、(B)エポキシ化天然油のエポキシ当量に応じて設定することができる。例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に配合する(A)熱可塑性ポリエステル樹脂由来のカルボキシル基の量に対する、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に配合する(B)エポキシ化天然油由来のエポキシ基の量の比(エポキシ基配合量(eq/g)/カルボキシル基配合量(eq/g))は、0.5~6が好ましい。(エポキシ基配合量(eq/g)/カルボキシル基配合量(eq/g))が0.5以上の場合、長期耐加水分解性をより向上させることができる。1以上が好ましく、2以上がより好ましい。また、(エポキシ基配合量(eq/g)/カルボキシル基配合量(eq/g))が6以下の場合、滞留安定性、耐熱性、機械物性をより高いレベルで両立することができる。5以下が好ましく、4以下がより好ましい。
【0039】
なお、本発明において、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に配合する(A)熱可塑性ポリエステル樹脂由来のカルボキシル基の量は、(A)成分のカルボキシル基濃度と、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物全体における(A)成分の配合割合とから求めることができる。(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基濃度は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂をo-クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)混合溶液に溶解させた溶液を、1%ブロモフェノールブルーを指示薬として、0.05mol/Lエタノール性水酸化カリウムで滴定することにより算出することができる。
【0040】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂に、さらに(C)非晶性樹脂を配合してなることを特徴とする。前述のとおり、(B)エポキシ化天然油を特定量で配合した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、湿熱処理時に熱可塑性ポリエステル樹脂の非晶部が結晶化し、熱可塑性ポリエステル樹脂の非晶部に相溶していたエポキシ化天然油由来の成分が樹脂組成物の表面に溶出する。そのため、溶出したエポキシ化天然油由来の成分に対して菌が繁殖し、衛生環境を悪化させてしまうことがあった。しかし、(C)非晶性樹脂を配合することにより、湿熱処理時にエポキシ化天然油を非晶性樹脂に吸着することができ、樹脂組成物の表面に溶出することを著しく抑制することができる。そして、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物では、衛生環境の維持が必要な食品衛生用途や医療器具用途へ適用できる。
【0041】
本発明で用いられる(C)非晶性樹脂は、ガラス転移点が250℃以下の結晶性を有しない熱可塑性高分子量樹脂であり、非晶性ビニル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等があげられる。
【0042】
非晶性ビニル系樹脂の具体例としては、例えば、ポリスチレン樹脂やポリスチレン-アクリルニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン-ブタジエン共重合体などのスチレン系樹脂、ポリメチルメタアクリレート(PMMA樹脂)やポリブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリルスチレン、ポリメチルアクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレートなどのアクリレート系樹脂、ポリアクリルニトリル、ポリビニルアルコール(PVA樹脂)、ポリビニルクロライド(PVC樹脂)などが挙げられる。これらを二種以上用いてもよい。
【0043】
ポリカーボネート樹脂は芳香族二価フェノール系化合物とホスゲンまたは炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる重合体または共重合体である。ここで、二価フェノール系化合物としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1-フェニル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン等が挙げられる。これらを二種以上用いてもよい。
【0044】
ポリアリレート樹脂は、二価フェノール成分および芳香族ジカルボン酸成分をモノマー成分として重合した非晶性ポリエステル樹脂である。二価フェノール成分の具体例として、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン〔BisAP〕、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5,5-テトラメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,4-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチル-5-エチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(3,5-ジフェニル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸成分の具体例として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテル-2,2’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-2,3’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-2,4’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-3,3’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-3,4’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0045】
ポリフェニレンエーテル樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテルなどが挙げられる。
【0046】
ポリスルホン樹脂等の具体例としては、ポリ(p-フェニレンエーテルスルホン):-{(p-C)-SO-(p-C)-O-}-や”ユーデル”(登録商標)ポリスルホン:-{(p-C)-SO-(p-C)-O-(p-C)-C(CH-(p-C)-O}-のほか、-{(p-C)-SO-(p-C)-O-(p-C)-O}-、-{(p-C)-SO-(p-C)-S-(p-C)-O}-、-{(p-C)-SO -(p-C)-O-(p-C)-C(CF-(p-C)-O}-などの構造をした重合体である。
【0047】
(C)非晶性樹脂の中でも、耐加水分解性と滞留安定性をより向上することができる点で、アクリレート系樹脂、スチレン系樹脂が好ましく、(B)エポキシ化天然油と親和性が高く、湿熱処理時に溶出を高度に抑えられる点で、AS樹脂がさらに好ましい。
【0048】
(C)非晶性樹脂の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.1~30重量部である。(C)非晶性樹脂の配合量が0.1重量部未満であると、エポキシ化天然油の溶出を低減する効果が得られない。より好ましくは1.0重量部以上であり、さらに好ましくは2重量部以上である。一方、(C)非晶性樹脂の配合量が30重量部を超えると、耐熱性が低下する傾向がある。より好ましくは20重量部以下であり、さらに好ましくは15重量部以下である。
【0049】
本発明においては、従来の技術では達成できなかった耐加水分解性を付与するための第一の要因として、(B)エポキシ化天然油および(C)非晶性樹脂を配合し、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂に元々存在するカルボキシル末端基を反応により減少させることが重要である。その観点から、溶融混練後の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中におけるカルボキシル基濃度、すなわち(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、および(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と(B)エポキシ天然油との反応物の合計量に対する、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂由来のカルボキシル基濃度、および(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と(B)エポキシ化天然油との反応物由来のカルボキシル基濃度はできる限り低いことが好ましく、20eq/t以下が好ましく、さらには15eq/t以下であることが特に好ましい。最も好ましい態様は0eq/tである。なお、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中における(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、および(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と(B)エポキシ化天然油との反応物の合計量に対する、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂由来のカルボキシル基濃度、および(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と(B)エポキシ化天然油との反応物由来のカルボキシル基濃度は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物をo-クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)混合溶液に溶解させた溶液を、1%ブロモフェノールブルーを指示薬として、0.05mol/Lエタノール性水酸化カリウムで滴定することにより算出することができる。
【0050】
従来の技術では達成できなかった耐加水分解性を付与するための第二の要因として、熱可塑性ポリエステル樹脂の加水分解により新たに生成するカルボキシル基をエポキシ基と反応させ、カルボキシル基の増加を抑制することが重要である。その観点から、溶融混練後の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のエポキシ基濃度は、10eq/t以上が好ましい。15eq/t以上がさらに好ましく、20eq/t以上が特に好ましい。また、溶融混練後の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のエポキシ基濃度が150eq/t以下の場合、長期耐加水分解性、高温での滞留安定性、機械物性をより高いレベルで両立することができ好ましい。130eq/t以下がより好ましい。なお、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中のエポキシ基濃度は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物をo-クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)混合溶液に溶解させた後、酢酸および臭化トリエチルアンモニウム/酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸酢酸によって電位差滴定することにより算出することができる。
【0051】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、さらに(D)繊維状強化材を配合することが好ましい。(D)繊維状強化材により、機械強度と耐熱性をより向上させることができる。
【0052】
前記の(D)繊維状強化材の具体例としては、ガラス繊維、アラミド繊維、および炭素繊維などが挙げられる。上記のガラス繊維としては、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維であり、アミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、アクリル酸/スチレン共重合体などのアクリル酸からなる共重合体、アクリル酸メチル/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体などの無水マレイン酸からなる共重合体、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやノボラック系エポキシ化合物などの一種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられる。エポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が、耐加水分解性をより向上できることからさらに好ましい。シランカップリング剤および/または集束剤はエマルジョン液に混合されて使用されていてもよい。また、繊維状強化材の繊維径は通常1~30μmの範囲が好ましい。ガラス繊維の樹脂中の分散性の観点から、その下限値は好ましくは5μmである。機械強度の観点からその上限値は好ましくは15μmである。また、前記の繊維断面は通常円形状であるが、任意の縦横比の楕円形ガラス繊維、扁平ガラス繊維およびまゆ型形状ガラス繊維など任意な断面を持つ繊維状強化材を用いることもでき、射出成形時の流動性向上と、ソリの少ない成形品が得られる特徴がある。
【0053】
また、(D)繊維状強化材の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは、1~100重量部である。(D)繊維状強化材を1重量部以上配合することにより、機械強度と耐熱性をより向上させることができる。2重量部以上がより好ましく、3重量部以上がさらに好ましい。一方、(D)繊維状強化材を100重量部以下配合することにより、機械強度と耐熱性をより向上させることができる。95重量部以下がより好ましく、90重量部以下がさらに好ましい。
【0054】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、繊維状強化材以外の強化材を配合することができ、例えば無機充填材を配合することができる。無機充填材を配合することで、成形品の結晶化特性、耐アーク性、異方性、機械強度、難燃性あるいは熱変形温度などの一部を改良することができ、特に、異方性に効果があるためソリの少ない成形品が得られる。
【0055】
前記の繊維状強化材以外の強化材としては、針状、粒状、粉末状および層状の無機充填材が挙げられ、具体例としては、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスフレーク、チタン酸カリウムウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、ワラステナイト、シリカ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、スメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイト、ヘクトライト)、バーミキュライト、マイカ、フッ素テニオライト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウム、およびドロマイトなどが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。ミルドファイバー、ガラスフレーク、カオリン、タルクおよびマイカを用いた場合は、異方性に効果があるためソリの少ない成形品が得られる。また、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウムおよび酸化ケイ素を(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01~1重量部の範囲で配合した場合は、滞留安定性をより向上させることができる。
【0056】
また、上記の繊維状強化材以外の強化材には、カップリング剤処理、エポキシ化合物、あるいはイオン化処理などの表面処理が行われていてもよい。また、粒状、粉末状および層状の無機充填材の平均粒径は、衝撃強度の点から0.1~20μmであることが好ましい。無機充填材の樹脂中での分散性の観点から、特に0.2μm以上であることが好ましく、機械強度の観点から10μm以下であることが好ましい。また、繊維状強化材以外の無機充填材の配合量は、成形時の流動性と成形機や金型の耐久性の点から、繊維状強化材の配合量と合わせて(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、100重量部以下が好ましい。また、繊維状強化材以外の無機充填材の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは1~50重量部である。繊維状強化材以外の無機充填材の配合量が1重量部以上であれば、異方性を低減させ、滞留安定性をより向上させることができる。2重量部以上がより好ましく、3重量部以上がさらに好ましい。一方、繊維状強化材以外の無機充填材の配合量が50重量部以下であれば、機械強度を向上させることができる。
【0057】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤および帯電防止剤などの任意の添加剤を1種以上配合してもよい。
【0058】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、(A)および(C)成分以外の熱可塑性樹脂を配合してもよく、成形性、寸法精度、成形収縮および靭性などを向上させることができる。(A)成分以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、芳香族または脂肪族ポリケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などを挙げることができる。なお、(A)成分以外の熱可塑性樹脂のうち、(C)非晶性樹脂に該当するものは、(C)非晶性樹脂として扱う。前記オレフィン系樹脂の具体例としては、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/ブテン-1/無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0059】
なかでも、樹脂組成物の靭性および耐加水分解性を向上できる点から、耐加水分解性の高いオレフィン系樹脂を添加することが好ましい。
【0060】
また、オレフィン系樹脂の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.1~30重量部が好ましい。配合量が0.1重量部以上であれば、靭性および耐加水分解性がより向上する。配合量は0.5重量部以上がより好ましく、さらに好ましくは1重量部以上である。一方、配合量が30重量部以下であれば、機械物性がより向上する。配合量は20重量部以下がより好ましく、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0061】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、離型剤を配合することができ、溶融加工時に金型からの離型性をよくすることができる。離型剤としては、モンタン酸やステアリン酸などの高級脂肪酸エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックス、エチレンビスステアロアマイド系ワックスなどが挙げられる。
【0062】
また、離型剤の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01~1重量部が好ましい。離型性の観点から、0.03重量部以上がより好ましく、耐熱性の観点から0.6重量部以下がより好ましい。
【0063】
本発明の樹脂組成物は、さらに、カーボンブラック、酸化チタンおよび種々の色の顔料や染料を1種以上配合することができ、種々の色に調色したり、耐候(光)性および導電性を改良することも可能である。カーボンブラックとしては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、アントラセンブラック、油煙、松煙、および、黒鉛などが挙げられる。カーボンブラックは、平均粒径が500nm以下であり、ジブチルフタレート吸油量が50~400cm/100gであるものが好ましく用いられる。酸化チタンとしては、ルチル形あるいはアナターゼ形などの結晶形を持ち、平均粒径5μm以下の酸化チタンが好ましく用いられる。
【0064】
これらカーボンブラック、酸化チタンおよび種々の色の顔料や染料は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、ポリオール、およびシランカップリング剤などで処理されていてもよい。また、本発明の樹脂組成物における分散性向上や製造時のハンドリング性の向上のため、種々の熱可塑性樹脂と溶融ブレンドあるいは単にブレンドした混合材料として用いてもよい。
【0065】
顔料や染料の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01~3重量部が好ましい。着色ムラ防止の観点から、0.03重量部以上がより好ましく、機械強度の観点から1重量部以下がより好ましい。
【0066】
樹脂組成物からの(B)エポキシ化天然油の溶出量に関し、ポリオレフィン等衛生協議会が定める樹脂添加剤の溶出試験法で溶出量を確認することができる。ポリオレフィン等衛生協議会とは、個別の樹脂・添加剤ごとに食品用素材としての衛生性、安全性を確保していくことを目的に自主規制を定めている協議会である。樹脂組成物からの(B)エポキシ化天然油の溶出量が少なければ、衛生環境の悪化を抑制することができる。溶出量の好ましい範囲は500μg/L以下が好ましく、さらに好ましくは300μg/L以下であり、さらに好ましくは200μg/L以下である。ポリオレフィン等衛生協議会が定める樹脂添加剤の溶出試験法による(B)エポキシ化天然油の溶出量を測定する具体的な方法については後述する。
【0067】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、例えば、前記(A)成分~(C)成分および必要に応じてその他の成分を溶融混練することにより得ることができる。
【0068】
溶融混練の方法としては、例えば、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)エポキシ化天然油、(C)非晶性樹脂、および各種添加剤などを予備混合して、押出機などに供給して十分溶融混練する方法、あるいは、重量フィダーなどの定量フィダーを用いて各成分を所定量押出機などに供給して十分溶融混練する方法などが挙げられる。
【0069】
上記の予備混合の例として、ドライブレンドする方法や、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合する方法などが挙げられる。また、(D)繊維状強化材や繊維状強化材以外の無機充填材は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加してもよい。また、(B)エポキシ化天然油などの液体の添加剤の場合は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加する方法や、元込め部などから定量ポンプで供給する方法などを用いてもよい。
【0070】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、ペレット化してから成形加工することが好ましい。ペレット化の方法として、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機などを用いて、ストランド状に吐出され、ストランドカッターでカッティングする方法が挙げられる。
【0071】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形することにより、フィルム、繊維およびその他各種形状の成形品を得ることができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形およびブロー成形などが挙げられ、射出成形が特に好ましく用いられる。
【0072】
射出成形の方法としては、通常の射出成形方法以外にもガスアシスト成形、2色成形、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
【0073】
本発明の成形品は、長期の耐加水分解性や引張強度や伸びなどの機械物性、耐熱性に優れる特徴を活かした機械機構部品、電気部品、電子部品、自動車部品、食品用部品、医療用器具などの成形品として用いることができる。また、本発明の成形品は、長期に衛生環境を維持できることから、特に食品用部品や医療用器具に有用である。
【0074】
機械機構部品、電気部品、電子部品および自動車部品の具体的な例としては、ブレーカー、電磁開閉器、フォーカスケース、フライバックトランス、複写機やプリンターの定着機用成形品、一般家庭電化製品、OA機器などのハウジング、バリコンケース部品、各種端子板、変成器、プリント配線板、ハウジング、端子ブロック、コイルボビン、コネクター、リレー、ディスクドライブシャーシー、トランス、スイッチ部品、コンセント部品、モーター部品、ソケット、プラグ、コンデンサー、各種ケース類、抵抗器、金属端子や導線が組み込まれる電気・電子部品、コンピューター関連部品、音響部品などの音声部品、照明部品、電信機器関連部品、電話機器関連部品、エアコン部品、VTRやテレビなどの家電部品、複写機用部品、ファクシミリ用部品、光学機器用部品、自動車点火装置部品、自動車用コネクター、および各種自動車用電装部品などが挙げられる。
【0075】
食品用部品とは、食品用の容器や包装など食品に接触するものや、食品を取り扱う機器の少なくとも一部に使用されるものである。食品用部品の具体例としては、お椀や皿などの食品用トレー、弁当箱、冷凍食品用トレー、食品包装用フィルム、食品加工用機械部品、箸、調理器具部品、電子レンジ用調理器、電子レンジの回転台受け、IH炊飯器、炊飯器内蓋、コーヒーメーカー部品、オーブン付レンジ受皿、およびそれらの部品などが挙げられる。
【0076】
医療用器具の具体例としては、歯間ブラシ、ピンセット、カニュレ、鉗子、滅菌トレー、滅菌コンテナ、シャーレ、超音波治療器ヘッド、点眼器ノズル、フィンガースプレッダー、シリンジ、カテーテル、医療用クリップ、医療用ナイフ柄、医療用スパーテル、インシュリンペン、およびそれらの部品などが挙げられる。
【実施例
【0077】
次に、実施例により本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物についての効果を、具体的に説明する。実施例および比較例に用いられる原料を次に示す。ここで%および部とは、すべて重量%および重量部を表し、下記の樹脂名中の「/」は共重合を意味する。なお、実施例1~20は参考例とする。
【0078】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂
<A-1>ポリブチレンテレフタレート樹脂:東レ(株)製、カルボキシル基量20eq/tのポリブチレンテレフタレート樹脂を用いた。
<A-2>ポリブチレンテレフタレート樹脂:東レ(株)製、カルボキシル基量40eq/tのポリブチレンテレフタレート樹脂を用いた。
<A-3>ポリエチレンテレフタレート樹脂:東レ(株)製、カルボキシル基量40eq/tのポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた。
<A-4>ポリ乳酸樹脂:東レ(株)製、カルボキシル基量60eq/tのポリ乳酸樹脂を用いた。
【0079】
(B)エポキシ化天然油
<B-1>エポキシ当量176g/eqのエポキシ化亜麻仁油:(株)ADEKA製“アデカサイザー”(登録商標)O-180Aを用いた。
<B-2>エポキシ当量232g/eqのエポキシ化大豆油:(株)ADEKA製“アデカサイザー”(登録商標)O-130Pを用いた。
【0080】
(C)非晶性樹脂
<C-1>AS樹脂(アクリロニトリル/スチレン共重合体):スチレンとアクリロニトリルを懸濁重合してビーズ状のビニル系共重合体を調製した。各成分の重量比はスチレン/アクリロニトリル=24/76(重量部/重量部)である。
<C-2>ポリスチレン:PSジャパン(株)製の“GPPS”(登録商標)HF77を用いた。
<C-3>PMMA樹脂:住友化学(株)製の“スミペックス”(登録商標)MHFを用いた。
<C-4>ポリカーボネート:出光興産(株)製の“タフロン”(登録商標)A1900を用いた。
<C’-5>エチレン/1-ブテン共重合体:三井化学 (株)製“タフマー” (登録商標)(登録商標)A35050を用いた。
【0081】
(D)繊維状強化材
<D-1>エポキシ化合物を含有する集束剤により処理されたガラス繊維:日本電気硝子(株)製ガラス繊維ECS03T―187、断面の直径13μm、繊維長3mmを用いた。
<D-2>無水マレイン酸からなる共重合体を含有する集束剤により処理されたガラス繊維:日本電気硝子(株)製ECS03T-253、断面の直径13μm、繊維長3mmを用いた。
【0082】
[各特性の測定方法]
実施例、比較例においては、次に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
【0083】
1.(A)成分に由来するカルボキシル基配合量
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂をo-クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)混合溶液に溶解させた溶液を、1%ブロモフェノールブルーを指示薬として、0.05mol/Lエタノール性水酸化カリウムで滴定し、下記式によりカルボキシル基濃度を算出した。なお、滴定の終点は、青色(色調D55-80(2007年Dpockettype日本塗料工業会))とした。
カルボキシル基濃度[eq/g]=((A)成分を溶解させたo-クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)混合溶液の滴定に要した0.05mol/Lエタノール性水酸化カリウム[ml]-o-クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)混合溶液の滴定に要した0.05mol/Lエタノール性水酸化カリウム[ml])×0.05mol/Lエタノール性水酸化カリウムの濃度[mol/ml]×1/滴定に用いた(A)成分の採取量[g]。
【0084】
前述の滴定により算出した(A)成分のカルボキシル基濃度と、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物全体量から、下記式により熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中における(A)成分由来のカルボキシル基配合濃度を算出した。
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中における(A)成分由来のカルボキシル基配合量[eq/g]=((A)成分のカルボキシル基濃度[eq/g]×(A)成分の配合量[重量部])/熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の全体量[重量部]。
【0085】
2.(B)成分に由来するエポキシ基配合量
JISK7236:2001に従い、(B)エポキシ化天然油をクロロホルムに溶解させた溶液に、酢酸および臭化トリエチルアンモニウム/酢酸溶液を加え、0.1mol/L過塩素酸酢酸によって電位差滴定し、下記式によりエポキシ基濃度を算出した。
エポキシ基濃度[eq/g]=((B)成分をクロロホルムに溶解させた後、酢酸および臭化トリエチルアンモニウム/酢酸溶液を加えた溶液の滴定に要した0.1mol/L過塩素酸酢酸[ml]-クロロホルムに酢酸および臭化トリエチルアンモニウム/酢酸溶液を加えた溶液の滴定に要した0.1mol/L過塩素酸酢酸[ml])×0.1mol/L過塩素酸酢酸の濃度[mol/ml]×1/滴定に用いた(B)成分の採取量[g])。
【0086】
前述の電位差滴定により算出した(B)成分のエポキシ基濃度と、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物全体量から、下記式により熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中における(B)由来のエポキシ基濃度を算出した。
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中における(B)成分由来のエポキシ基配合量[eq/g]=((B)成分のエポキシ基濃度[eq/g]×(B)成分の配合量[重量部])/熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の全体量[重量部]。
【0087】
3.機械物性(引張強度および引張伸度)
日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用いて、成形温度を250℃の温度条件とし、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で、試験片厚み1/8インチ(約3.2mm)厚みのASTM1号ダンベルの引張物性評価用試験片を得た。また、(A)成分としてポリエチレンテレフタレート樹脂を使用した場合、成形温度を270℃の温度条件とし、ポリ乳酸樹脂を用いた場合は、成形温度を230℃の温度条件とした以外は同様の成形条件にて引張物性評価用試験片を得た。得られた引張物性評価用試験片を用い、ASTM D638(2005年)に従い、引張最大点強度(引張強度)および引張最大点伸び(引張伸度)を測定した。値は3本の測定値の平均値とした。引張強度の値が大きい材料を機械強度に優れていると判断し、引張伸度の値が大きい材料を靭性に優れていると判断した。
【0088】
4.耐熱性(熱変形温度)
日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用いて、上記3.項の引張物性と同一の射出成形条件で、1/8インチ(約3.2mm)厚みのダンベルの熱変形温度評価用試験片を得た。得られた熱変形温度評価用試験片を用い、ASTM D648(2005年)に従い、測定荷重1.82MPaの条件で熱変形温度を測定した。値は3本の測定値の平均値とした。熱変形温度が50℃未満の材料は耐熱性に劣ると判断し、熱変形温度の数字が大きい材料ほど耐熱性に優れると判断した。
【0089】
5.長期耐加水分解性(引張強度保持率)
日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用いて、上記3.項の引張物性と同一の射出成形条件で、試験片厚み1/8インチ(約3.2mm)厚みのASTM1号ダンベルの引張物性評価用試験片を得た。得られたASTM1号ダンベルを121℃×100%RHの温度と湿度に設定されたエスペック(株)社製高度加速寿命試験装置EHS-411に投入し、96時間(4日間)、湿熱処理を行った。湿熱処理後の成形品について、上記3.項の引張試験と同一の条件で引張最大点強度を測定し、3本の測定値の平均値を求めた。湿熱処理後の引張最大点強度と湿熱処理未処理の引張最大点強度から、下記式により引張強度保持率を求めた。
引張強度保持率(%)=(湿熱処理後の引張最大点強度÷湿熱処理前の引張最大点強度)×100
【0090】
引張強度保持率が50%未満の材料は耐加水分解性に劣ると判断し、引張強度保持率の数字が大きい材料ほど耐加水分解性に優れていると判断した。
【0091】
6.滞留安定性(溶融粘度指数の変化率)
東洋精機(株)製C501DOSを用いて、温度270℃、荷重325gおよび温度270℃、荷重325gの条件で、ASTM D1238(1999年)に準じて熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度指数(メルトフローインデックス)を測定した。
【0092】
さらに、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物をシリンダ内で30分間滞留させた後、同条件で溶融粘度指数を測定し、滞留前の溶融粘度指数に対する滞留前後の溶融粘度指数の差(変化率(%))を求めた。ここで算出される変化率(%)は絶対値であり正の値で算出した。溶融粘度指数の変化率が150%を超える場合は滞留安定性に劣ると判断し、変化率が小さいほど滞留安定性に優れると判断した。
溶融粘度指数の変化率(%)=(滞留前後における溶融粘度指数の差(絶対値)/滞留前の溶融粘度指数)×100
【0093】
7.カルボキシル基濃度(樹脂組成物中のカルボキシル基濃度)
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中における、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、および(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と(B)エポキシ化天然油との反応物の合計量に対する、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂由来のカルボキシル基濃度、および(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と(B)エポキシ化天然油との反応物由来のカルボキシル基濃度は、樹脂組成物2gをo-クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)混合溶液50mLに溶解させた溶液を、1%ブロモフェノールブルーを指示薬として、0.05mol/Lエタノール性水酸化カリウムで滴定し、組成物中のカルボキシル基濃度を算出した後に、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の配合比を掛け合わせることで求めた。
【0094】
8.エポキシ基濃度
熱可塑性ポリエステル組成物中のエポキシ基濃度は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物2gをo-クレゾール/クロロホルム(2/1,vol/vol)30mL混合溶液に溶解させた後、酢酸20mLおよび臭化トリエチルアンモニウム/酢酸20wt%溶液10mLを加え、0.1mol/L過塩素酸酢酸によって電位差滴定することにより算出した。
【0095】
9.耐溶出性
日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用いて、上記3.項の引張物性と同一の射出成形条件で、約1.6mm厚みの13mm×130mm短冊状ダンベルの溶出評価用試験片を得た。得られた溶出評価用試験片に寺西化学工業製“マジックインキ”No.500により印字を行い121℃×100%RHの温度と湿度に設定されたエスペック(株)社製高度加速寿命試験装置EHS-411に48時間(2日間)投入し湿熱処理を行った。湿熱処理後の成形品外観を目視観察し、印字された文字のインクは溶出物に溶けてにじむため、次の基準により添加剤溶出の判定を行った。溶出量としては、C判定>B判定>A判定の順で少ないと判断し、C判定の樹脂組成物は耐溶出性が劣ると判断した。
A:成形品に液状もしくは白粉状の溶出物および印字された文字のインクにじみが観察されない。
B:成形品に液状もしくは白粉状の溶出物は観察されないが、印字された文字のインクにじみが観察される。
C:成形品の一部もしくは随所に液状または白粉状のブリードアウトが観察され、かつ印字された文字のインクにじみが観察される。
【0096】
10.溶出量(ポリオレフィン等衛生協議会法)
ポリオレフィン等衛生協議会が定める樹脂添加剤の溶出試験法に従い測定した。具体的には日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用いて、上記3.項の引張物性と同一の射出成形条件で、約1.6mm厚みの13mm×130mm短冊状ダンベルの溶出量評価用試験片を得た。200mLの丸底フラスコに溶出量評価用試験片(約5.4g)と水40mL(溶出媒)を入れ、130℃のオイルバスで加熱し、沸騰状態を90分間維持した。冷却後、内容物の水を取り出し、分液ロートにて100mLのジクロロメタンを接触させ、溶出物を抽出した。その後、抽出媒であるジクロロメタンをエバポレーターにて濃縮した後、濃縮物をトルエン(0.25mL)で溶解させた後、0.1M MeONa/MeOH(0.25mL)を添加し、50℃のホットプレート上で30分インキュベーションしてメチル化した。その後、酢酸を25μL添加した後、水1mL/ヘキサン2mLを加え、分液工程によりヘキサンに溶出物を抽出し、ヘキサン層をパスツールにて採取した。得られたヘキサン溶液を窒素気流にてエバポレーションし、分析サンプルを得た(以下、これをメチル化処理後サンプルと呼ぶ)。得られたメチル化処理後サンプルに1mLのヘキサンを加え、ガスクロマトグラフィー測定用サンプルとした。得られた測定サンプルを島津製ガスクロマトグラフィーGC-14B(検出器:FID)にて測定した。エポキシ化天然油単体を標品として、濃度を調整後に測定した結果から検量線を作成し、測定サンプルから溶出したエポキシ化天然油の質量(溶出物質量)を求め、下記式により溶出量を算出した。
溶出量(μg/L)=ガスクロマトグラフィーより求めた溶出物質量(g)/溶出試験に用いた溶出媒(水)の量
ここで、溶出試験に用いた溶出媒(水)の量は、0.04(L)である。
【0097】
[実施例1~25]、[比較例1~6]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)を用いて、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)エポキシ化天然油、(C)非晶性樹脂、および必要に応じてその他材料を表1~表4に示した組成で混合し、二軸押出機の元込め部から添加した。なお、(B)エポキシ化天然油は元込め部から定量ポンプを用いて添加し、(D)繊維状強化材は、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。さらに、混練温度260℃、スクリュー回転150rpmの押出条件で溶融混合を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。また、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂として、ポリ乳酸樹脂を用いた場合は、240℃の温度条件とした以外は同様の条件にて、溶融混合を行った。
【0098】
得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥後、前記方法で評価し、表1~表4にその結果を示した。熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中における、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂および(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と(B)エポキシ化天然油との反応物の合計量に対する、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂由来のカルボキシル基濃度および(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と(B)エポキシ化天然油との反応物由来のカルボキシル基濃度は、表中において「樹脂組成物中のカルボキシル基濃度」として表記した。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
実施例1~20と比較例1~5の比較より、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して(B)成分の配合量および(C)成分の配合量を特定の範囲とすることで機械物性、耐加水分解性、耐熱性、270℃での滞留安定性および耐溶出性の特性のバランスに優れる材料が得られた。
【0104】
実施例12、15、16と実施例17の比較より、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンデカンジカルボキシレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、およびポリブチレン/エチレンテレフタレートの中から選ばれる少なくとも一つである場合に、さらに機械物性、耐加水分解性、耐熱性、270℃での滞留安定性および耐溶出性の特性のバランスに優れ、(B)エポキシ化天然油の溶出量の少ない材料が得られた。
【0105】
実施例3、5と実施例8、9の比較より、(B)エポキシ化天然油として、エポキシ化亜麻仁油を使用した場合、さらに機械物性、耐加水分解性、耐熱性、270℃での滞留安定性および高温成形時の特性のバランスに優れる材料が得られた。
【0106】
実施例12,18、19と実施例20の比較により、(C)非晶性樹脂がアクリレート系樹脂、およびスチレン系樹脂の中から選ばれる少なくとも一つである場合に、耐加水分解性と滞留安定性の特性により優れる材料が得られた。
【0107】
実施例12と実施例18~20の比較により、(C)非晶性樹脂がAS樹脂である場合に、耐溶出性のより優れる材料が得られた。
【0108】
実施例2~7と比較例1の比較により、熱可塑性ポリエステル組成物のエポキシ基濃度が10eq/t以上である場合に、耐加水分解性と滞留安定性の特性により優れる材料が得られた。
【0109】
実施例21、24と実施例13および比較例6の比較により、(D)繊維状強化材を1~100重量部配合した場合に、機械物性と耐熱性、長期耐加水分解性、270℃での滞留安定性、耐溶出性の特性のバランスにより優れる材料が得られた。
【0110】
実施例22と24の比較により、(D)繊維状強化材がエポキシ系収束剤含有するガラス繊維である場合にさらに耐加水分解性の特性により優れる材料が得られた。