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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】ホットスラグリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/28 20060101AFI20230314BHJP
【FI】
C21C5/28 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018245347
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020105586
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】浅見 千裕
(72)【発明者】
【氏名】古河 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小山 達也
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-169492(JP,A)
【文献】特開平08-199218(JP,A)
【文献】特開2005-206924(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021019(WO,A1)
【文献】特開平09-279217(JP,A)
【文献】特開2016-151027(JP,A)
【文献】特開平10-306305(JP,A)
【文献】特開2001-020007(JP,A)
【文献】特開2002-285221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/00
C21C 5/28-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグの一部を転炉から排出させ、残部を前記転炉内に残存させる工程と、
固化材を、前記転炉に残存させた前記スラグに投入する工程と、
さらに、不活性ガスを、前記転炉に残存させた前記スラグに吹き付ける工程と、
を有し、
前記転炉に残存させた前記スラグの量を3~10トンとし、
前記固化材には、CaOを30質量%以上含ませ、
前記固化材の投入量を、前記転炉に残存させた前記スラグ1トンあたり250kg以上1700kg以下とし、
前記不活性ガスの吹き付け量を、前記転炉に残存させた前記スラグ1トンあたり50~250Nmし、
前記不活性ガスの吹き付け時間を15~45秒とする
ことを特徴とするホットスラグリサイクル方法。
【請求項2】
前記スラグの前記一部を前記転炉から排出する前に、前記転炉の内壁を前記スラグによってコーティングする工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のホットスラグリサイクル方法。
【請求項3】
前記固化材の粒度を1~100mmとすることを特徴とする請求項1または2に記載のホットスラグリサイクル方法。
【請求項4】
前記不活性ガスを、窒素ガス、アルゴンガス、及び炭酸ガス、並びにこれらの混合ガスのいずれか一つとすることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のホットスラグリサイクル方法。
【請求項5】
前記固化材にコールドスラグを含ませることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のホットスラグリサイクル方法。
【請求項6】
前記不活性ガスの吹き付け速度を平均30000~50000Nm/時とすることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のホットスラグリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットスラグリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉を用いて溶銑の精錬を実施することにより、転炉スラグが発生する。転炉スラグの処理コストの低減、及び製鋼プロセスの環境負荷の低減のために、この転炉スラグの発生量を減少させることが求められている。
【0003】
転炉スラグの発生量を抑制するための手段として、転炉スラグを製鋼プロセスにおいて再利用することが挙げられる。スラグリサイクルの手段は、コールドリサイクル及びホットリサイクルの2種類に大別される。コールドリサイクルとは、転炉から排出されたスラグを破砕、磁選、及び分級した後に、再度転炉に脱りん材等の添加材として装入するというものである。コールドリサイクルによって処理されたスラグはコールドスラグと称される。ホットリサイクルとは、精錬後の鋼を取り出す工程(出鋼)の後の転炉に、スラグの一部を残存させ、これをそのまま次の精錬に持ち越して添加材として用いるというものである。次の精錬に持ち越されるスラグはホットスラグと称される。
【0004】
コールドスラグリサイクル及びホットスラグリサイクルを比較すると、費用の観点からはホットスラグリサイクルが有利である。ホットスラグリサイクルでは、破砕、磁選、及び分級等のスラグ処理が不要である。また、ホットスラグリサイクルでは、持ち越されたホットスラグが有する熱を利用して、精錬時に投入する熱量を削減することが出来る。さらに、コールドスラグと比較して、ホットスラグはCaO量が高くP量が低いので、高い脱りん効率を有する。
【0005】
ただし、ホットスラグリサイクルの実施率は現在必ずしも高くない。ホットスラグリサイクルは転炉で繰り返し行われる精錬の合間に転炉において行う必要があるが、精錬を高頻度で実施すべき状況ではホットスラグリサイクルのための時間的猶予が無いからである。
【0006】
図4は、通常の精錬におけるスラグ排出のフローチャートである。ここでは、精錬後の鋼の転炉からの取り出し(出鋼)の後で、転炉に残存したスラグによって転炉の内壁をコーティングする工程(コーティング工程)と、スラグの全てを転炉から除去する工程(排滓)とを行い、その後に次の精錬のために溶銑を投入する。
【0007】
図5は、通常のホットスラグリサイクルのフローチャートである。通常のホットスラグリサイクルでは、出鋼した後に、転炉に残存したスラグによって転炉の内壁をコーティングする工程(コーティング工程)と、スラグの一部を転炉から除去し、残部を転炉内に残存させる工程(排滓工程)と、転炉内に残存させたホットスラグに固化材を投入する工程(固化材投入工程)と、転炉を傾動させる工程(炉振り工程)とを行う。
【0008】
通常のホットスラグリサイクルにおけるホットスラグ固化の手順について、以下に具体的に説明する。固化材投入工程では、転炉内に残存させたホットスラグの量に応じた量の固化材を、ホットスラグに投入する。固化材は所定量のCaOを含有するものであり、ホットスラグの温度を低下させる役割と、ホットスラグの成分を変化させ固化しやすくする効果を有する。炉振り工程では、転炉を傾動させることによって固化材とホットスラグとを撹拌する。固化材投入工程及び炉振り工程を経ることによって、ホットスラグが固化する。ホットスラグを固化させた後に、転炉に再度溶銑を装入する。
【0009】
このように、ホットスラグリサイクルを実施する場合、リサイクル対象となるホットスラグを転炉に残存させることに加えて、ホットスラグを固化させることが必要とされる。ホットスラグの固化が充分でない状態で溶銑を転炉に装入すると、ホットスラグが飛散するおそれがあるからである。しかしながら、ホットスラグを充分に固化させるために要する時間が、ホットスラグリサイクルの実施の妨げとなっている。
【0010】
ホットスラグリサイクルにおけるホットスラグの処理に関し、例えば以下のような技術が提案されている。しかし、これらは上述のホットスラグ固化の迅速化という産業界の要望に十分に応じられるものではない。
【0011】
特許文献1には、精錬容器にて溶銑の脱炭処理を行う際生成する脱炭滓を、前記精錬容器内に残し、CaCO粉、CaO粉、粉炭材の内の1種、またはこれらの内の2種以上の混合粉を炉内に挿入した粉体吹込み可能なランスまたは底吹羽口より脱炭滓表面に吹付けるか、または脱炭滓中に吹込んだ後、次の溶銑を装入し、脱りん処理または脱炭精錬することを特徴とする溶鋼製造法が開示されている。特許文献1に開示された技術によれば、溶銑装入時に生じる突沸やスラグフォーミングの発生を抑制することができ、安定した操業が可能となるとされている。しかし、特許文献1に開示された技術は、ホットスラグの固化に要する時間を短縮するという目的を有しておらず、またその時間短縮効果も不明確である。
【0012】
特許文献2には、転炉で脱炭処理を行う際に生成する脱炭滓の全量を転炉内に残し、次チャージに必要な溶銑の5~10%を先に装入し、装入完了後2~3分間放置して、溶銑中の炭素による脱炭滓中の酸化鉄還元処理を行った後、残りの溶銑を装入することを特徴とする転炉製鋼法と、転炉で脱炭処理を行った後、生成した溶鋼の85%超95%未満を出鋼し、残溶鋼と生成した脱炭滓の全量を転炉内に残し、生成溶鋼1トン当たり1~4kgの炭材を添加して、2~5分間放置して、炭材中の炭素による溶鋼の脱酸および脱炭滓中酸化鉄の還元処理を行った後に次チャージの溶銑を装入することを特徴とする転炉製鋼法が開示されている。特許文献2に開示された技術によれば、脱炭処理後の脱炭滓を迅速に脱酸処理でき、突沸やスラグフォーミングの発生なく、次チャージ溶銑を安全に装入することが可能となるとされている。しかし、特許文献2に開示された技術の一方では、溶銑の装入を2回に分けて行う必要があり、精錬を高頻度で実施すべき状況ではこれの実施が困難である。特許文献2に開示された技術の他方では、精錬後の溶鋼の一部をスラグリサイクルの材料とする必要があるので、精錬効率が損なわれる。
【0013】
特許文献3には、転炉に溶銑、または溶銑とスクラップを主原料として装入する第一工程、脱Si・脱Pを行う第二工程、生成したスラグを排滓する第三工程、その後脱C吹錬を行う第四工程、脱C精錬後スラグを残して出鋼する第五工程、その後第一工程に戻り、第二工程の脱Si・脱Pでは第五工程で残したスラグをリサイクル使用し、前記五工程までを繰り返し実施するに際し、前記第五工程での脱C精錬後のスラグ冷却に酸化鉄を多量に含有する冷却材を用いる転炉製鋼法が開示されている。特許文献3に開示された技術によれば、脱C滓の熱間再使用時の冷却材として鉄鉱石等を用いることにより、スラグ冷却時間を短縮すると共に、副原料としての生石灰の節減ができ、通常操業以上の脱P効率を得ることができるとされている。しかし、本発明者の実験によれば、特許文献3に開示された冷却材の添加によっても、ホットスラグ固化に要する時間を充分に短縮することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平7-216431号公報
【文献】特開平7-316620号公報
【文献】特開2001-192720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のように、ホットスラグリサイクル率を向上させて転炉で発生するスラグ量を減少させるためには、ホットスラグリサイクルに要する時間、特にホットスラグの固化に要する時間を短縮することが必要とされる。そこで本発明は、ホットスラグを迅速に固化させることが可能なホットスラグリサイクル方法の提供を、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係るホットスラグリサイクル方法は、スラグの一部を転炉から排出させ、残部を前記転炉内に残存させる工程と、固化材を、前記転炉に残存させた前記スラグに投入する工程と、さらに、不活性ガスを、前記転炉に残存させた前記スラグに吹き付ける工程と、を有し、前記転炉に残存させた前記スラグの量を3~10トンとし、前記固化材には、CaOを30質量%以上含ませ、前記固化材の投入量を、前記転炉に残存させた前記スラグ1トンあたり250kg以上1700kg以下とし、前記不活性ガスの吹き付け量を、前記転炉に残存させた前記スラグ1トンあたり50~250Nmし、前記不活性ガスの吹き付け時間を15~45秒とする
(2)上記(1)に記載のホットスラグリサイクル方法は、前記スラグの前記一部を前記転炉から排出する前に、前記転炉の内壁を前記スラグによってコーティングする工程をさらに有してもよい。
(3)上記(1)又は(2)のいずれか一項に記載のホットスラグリサイクル方法では、前記固化材の粒度を1~100mmとしてもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載のホットスラグリサイクル方法では、前記不活性ガスを、窒素ガス、アルゴンガス、及び炭酸ガス、並びにこれらの混合ガスのいずれか一つとしてもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載のホットスラグリサイクル方法では、前記固化材にコールドスラグを含ませてもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載のホットスラグリサイクル方法では、前記不活性ガスの吹き付け速度を平均30000~50000Nm/時としてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ホットスラグの固化に要する時間を短縮し、ひいてはホットスラグリサイクルに要する時間を短縮することが出来る。従って、本発明によれば、精錬を高頻度で実施すべき状況であってもホットスラグリサイクルを容易に実施することが出来るので、転炉スラグの発生量を抑制し、転炉スラグの処理コストの低減、及び製鋼プロセスの環境負荷の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係るホットスラグリサイクル方法を示すフローチャートである。
図2】不活性ガスの吹き付け量と、吹き付け終了後のホットスラグ温度との関係を示すグラフである。
図3】不活性ガスの吹き付け量と、ホットスラグの温度降下量との関係を示すグラフである。
図4】ホットスラグリサイクルをしない精錬におけるスラグ処理方法を示すフローチャートである。
図5】通常のホットスラグリサイクル方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者は、排滓工程後に転炉内に残存させたホットスラグを迅速に固化させる方法について検討を重ねた。その結果、本発明者は、排滓工程後に固化材が投入されたホットスラグに不活性ガスを吹き付けることにより、迅速にホットスラグを固化させられるという新たな知見を得た。
【0020】
不活性ガスをスラグに吹き付けるという技術としては、SSC(スラグスプラッシュコーティング)というものがある。これは、排滓前にスラグに不活性ガスを吹き付けることにより、スラグを転炉の内壁に付着させる技術である。即ちSSCとは、上述のコーティング工程を実施するための手段の一つである。しかし、SSCは排滓前のスラグに対して行われるものである。また、SSCは排滓前のスラグの固化を目的としていない。本実施形態に係るホットスラグリサイクル方法のように、固化を目的として、排滓工程後のホットスラグに不活性ガスを吹き付ける技術は、例がない。
【0021】
不活性ガスを利用してホットスラグを固化させることがこれまで検討されていなかった理由の一つとして、不活性ガス自体が有する熱容量があまり高くないこと、及び不活性ガスとスラグとの熱交換効率が高くないことが挙げられる。即ち、不活性ガス自体には、ホットスラグを迅速に固化させる冷媒としての効果が期待できない。
【0022】
また、通常のSSCは、排滓前のスラグを固化させるような条件では実施されない。何故なら、上述のようにSSCは排滓前のスラグを飛散させることを目的としており、さらにSSC後には排滓が行われるからである。排滓前のスラグが固化すると、スラグの飛散及び排滓が実施できない。
【0023】
一方、本発明者の知見によれば、固化材の投入と不活性ガスの吹き付けとを組み合わせた場合に顕著な温度降下をホットスラグに生じさせることが出来る。これは、不活性ガスの吹き付けによって固化材とホットスラグとの撹拌が効率的に生じたからであると推測される。
【0024】
上述の知見によって得られた、本実施形態に係るホットスラグリサイクル方法を実施するための具体的な形態について、以下に説明する。
【0025】
本実施形態に係るホットスラグリサイクル方法は、図1に示されるように、スラグの一部を転炉から排出させ、残部を転炉内に残存させる工程(排滓工程)と、固化材を、転炉に残存させたスラグに投入する工程(固化材投入工程)と、不活性ガスを吹き付ける工程(吹き付け工程)とを備える。
【0026】
排滓工程では、精錬後の鋼を転炉から取り出す工程(出鋼)の後で、一部のスラグを転炉から排出するが、リサイクル対象となるスラグ(ホットスラグ)は転炉内に残存させる。転炉内に残存させるスラグの量が多い方が、リサイクルの効率の点で有利である。ただし、転炉内に残存させるスラグが多すぎると、後述するスラグの固化が遅延することとなり、ホットスラグリサイクルに要する時間が増大し、ホットスラグリサイクルを実施する機会が失われる可能性がある。排滓工程において転炉に残存させるスラグの量(ホットスラグ量)は特に限定されないが、ホットスラグリサイクルの全体的な効率を考慮すると、3~10トンとすることがよいと考えられている。
【0027】
固化材投入工程では、転炉内に残存させたホットスラグに固化材を投入する。固化材は、ホットスラグの温度を低下させる役割と、ホットスラグの成分を改質する役割とを有する。固化材の投入量は、転炉に残存させたホットスラグ1トンあたり250kg以上とする。固化材の投入量が不足している場合、たとえ後続の不活性ガスの吹き付けを実施したとしても、ホットスラグが充分に冷却されず、固化を迅速に完了させることが出来ない。一方、固化材の投入量の上限は特に限定されない。固化を促進するという観点からは、固化剤の投入量が多いほど好ましい。ただし、製鋼プロセス全体での転炉スラグの生成量の増大を防止するという観点から、固化剤の投入量を、転炉に残存させたホットスラグ1トンあたり1700kg以下と規定してもよい。
【0028】
固化材の成分は、CaOを30質量%以上含むものとする必要がある。固化材のCaO含有量が低すぎる場合、スラグ成分の改質効果が小さくなり、固化材としての効果が小さくなるからである。上述の要件が満たされる限り、固化材のその他成分は特に限定されない。例えば、コールドスラグを固化材に含有させることは、転炉スラグのリサイクル率を一層向上させることが出来るので、好ましい。コールドスラグとは、別途行われるコールドスラグリサイクルによって処理されたスラグである。
【0029】
固化材の形態は、特に限定されないが、粒状とすることが好ましい。固化材の粒度は1~100mmとすることが好ましい。固化材の粒度が小さすぎる場合、固化材が舞い散りやすくなり、固化材の転炉内への投入が困難となるおそれがある。一方、固化材の粒度が大きすぎる場合、後続の吹き付け工程において固化材とホットスラグとの撹拌が進行しづらくなり、ホットスラグの固化が遅延するおそれがある。
【0030】
吹き付け工程では、不活性ガスをホットスラグに吹き付ける。不活性ガスとは、炉内の物質(内壁及びホットスラグ等)と化学反応を生じないガスである。不活性ガスの成分は特に限定されないが、例えば窒素ガス、アルゴンガス、及び炭酸ガス、並びにこれらの混合ガスのいずれかとすることができる。費用の観点から、不活性ガスを窒素ガスとすることが最も好ましい。
【0031】
不活性ガスの吹き付け量は、転炉に残存させたスラグ1トンあたり50~250Nmとする。吹き付け量が不足する場合、固化材とホットスラグとの撹拌が不十分となり、ホットスラグの固化が遅延する。一方、吹き付け量が過剰である場合、ホットスラグの固化の観点からは特に問題はないが、転炉の保護という観点から問題が生じうる。不活性ガスの吹き付けは、転炉の底部に備えられたOB(Oxygen Bottom blowing)羽口の寿命を縮めるおそれがあるからである。OB羽口とは、転炉の底部から溶銑に酸素を吹き込むための噴気孔である。OB羽口が損傷した場合、補修作業が必要となり、転炉精錬が実施できなくなる。ホットスラグの固化を促進し、且つ転炉寿命に悪影響を及ぼさない範囲として、上述の数値範囲が選択された。
【0032】
不活性ガスの吹き付け速度は特に限定されない。ただし、ホットスラグの固化を促進する観点からは、吹き付け速度(吹き付けられる不活性ガスの流速)を大きくするほうが良く、転炉の保護の観点からは、吹き付け速度を小さくする方が良い。これらの両方の観点を考慮した場合、不活性ガスの吹き付け速度を平均30000~50000Nm/時とすることが好ましいと考えられる。なお、吹き付け速度の平均値とは、全吹き付け量を吹き付け時間で割って得られる値である。
【0033】
本実施形態に係るホットスラグリサイクル方法は、排滓工程の前に、転炉の内部をスラグによってコーティングする工程(コーティング工程)をさらに備えてもよい。コーティング工程は、スラグを転炉の内壁に付着させることによって内壁を保護するために行われる。コーティング工程により、転炉の寿命を延ばすことが出来る。なお、コーティング工程においては、炉壁保護効果を有するMgOを含むコーティング材をスラグに投入することが通常である。
【0034】
コーティング工程の具体的な手段、及びコーティング材の種類は特に限定されず、公知の方法を適宜選択することが出来る。なお、コーティング工程がホットスラグリサイクル方法に含まれる場合、転炉に残存させたスラグの量には、内壁に付着させたスラグの量を含めないものとする。
【実施例
【0035】
以下に、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
通常の方法により溶銑を精錬した後、転炉から溶鋼を取り出した。次いで、転炉を傾動させ、これによりスラグを転炉の内壁に付着させた。次いで、スラグの一部を転炉から排出させ、残部を転炉内に残存させた。転炉内に残存させるホットスラグ量は3トンとした。そして、固化材を転炉に残存させたスラグ(ホットスラグ)に投入し、さらに不活性ガスをホットスラグに吹き付けた。固化材の成分は、CaOを約30質量%含むコールドスラグ(別途コールドスラグリサイクルによって処理されたスラグ)とした。固化材の粒度は1~100mmとした。不活性ガスは、100%窒素ガスとした。その他の条件は、表1に示す通りとした。なお、水準3~9においては、転炉から溶鋼を取り出してから転炉を傾動させるまでの間に、コーティング材(0.6~2.5tのドロマイト)を転炉に残されたスラグに投入した。
【0037】
【表1】
【0038】
水準3、5~9は、本発明の要件を満たす。一方、水準1、2、及び4は、ホットスラグ1トン当たりの窒素吹き付け量が本発明で定められた下限値を下回る。
【0039】
上記水準1~9でホットスラグリサイクルを行った結果を、ホットスラグの固化が達成できたか否かという点で評価した。ホットスラグが固化しているか否かは、窒素吹き付けの終了時点から約15秒後に、転炉を傾動させた際のホットスラグ表面を目視で観察することにより判断した。ホットスラグ表面に波打ちが認められた場合は、ホットスラグが固化していないと判断し、表1に固化判定結果として記号「×」を記載した。た。また、排滓時、及び上述の固化確認時のホットスラグの温度を測定することによって、各水準におけるホットスラグの温度降下量を求めた。
【0040】
実験結果を以下に説明する。水準1、2、及び4では、窒素吹き付け終了時にホットスラグが固化していなかった。一方、水準3、5~9では、窒素吹き付け終了時にホットスラグが固化していた。なお、従来のホットスラグリサイクル方法においては、ホットスラグを固化させるために、固化材の投入及び炉振りが行われる。この固化材の投入及び炉振りにかかる時間は概ね90秒である。一方、水準2~4の条件によるホットスラグリサイクル方法によれば、窒素の吹き付け中に固化材の投入も実施でき、30秒の窒素吹き付けによってホットスラグの固化が達成された。従って、本発明の範囲内にある水準2~4の条件によるホットスラグリサイクル方法は、ホットスラグリサイクルに要する時間を約1分短縮できた。
【0041】
図2は、各水準における、窒素ガス吹き付け終了時のホットスラグ温度(即ち、表1に記載された固化確認時温度)と、ホットスラグ1トン当たりの窒素吹き付け量との関係を示すグラフである。ホットスラグ重量当たりの窒素吹き付け量が不足していた水準1、2、及び4(図2における窒素吹き付け量42Nm/トンのデータポイントに対応)では、窒素ガス吹き付け終了時のホットスラグの温度が1250℃を下回ることがなかった。一方、水準3、5~9(図2における窒素吹き付け量56Nm/トンのデータポイント及び69Nm/トンのデータポイントに対応)では、窒素ガス吹き付け終了時のホットスラグの温度が1210℃を下回った。なお、スラグが凝固する温度は、スラグ組成によって若干左右するが、おおむね1220~1230℃の範囲内である(図2中のハッチング範囲)。水準1ではホットスラグ表面の揺動が認められ、一方水準2~4では揺動が認められなかった事実は、図2に示される温度測定結果と整合する。
【0042】
図3は、各水準における、固化材投入及び窒素ガス吹き付けによるホットスラグの温度降下量を示す。ホットスラグの温度降下量とは、排滓終了時のホットスラグ温度と、窒素吹き付け終了時のホットスラグ温度との差を示す。窒素吹き付け量が多いほど、温度降下量が大きくなることが図3からわかる。測定結果のばらつきは、ホットスラグの性状が一定していなかったことに起因すると推定される。
【0043】
(実施例2)
上述の実施例1(水準1~9)では、転炉内に残存させるホットスラグ量は3トンとしたが、種々の量のホットスラグに対しても本発明の効果があることを確認するために、表2に示す種々の量のホットスラグに対して本発明によるホットスラグリサイクルを実施した。結果を表2に示す。なお、実施例2におけるリサイクル実施手順は原則的に実施例1(水準1~9)と同様としたが、以下の点で実施例1とは相違する。
排滓時温度及び固化確認時温度の測定:省略した。
固化剤:水準13、15、17、18、23、24、及び26では消石灰100%とし、水準19~22及び33ではコールドスラグと鉄鉱石との混合物であってCaOを30質量%以上含むものとし、水準32ではコールドスラグと石灰石との混合物であってCaOを30質量%以上含むものとし、水準36ではコールドスラグと消石灰との混合物であってCaOを30質量%以上含むものとした。
【0044】
【表2】
【0045】
表2に示された結果によれば、本発明の範囲内のホットスラグリサイクル方法は、3トン超のホットスラグをも短時間で十分に固化させることが可能であることがわかる。一方、固化剤投入量が不足した場合は、ホットスラグの固化が遅延した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、ホットスラグの固化に要する時間を短縮し、ひいてはホットスラグリサイクルに要する時間を短縮することが出来る。即ち、本発明によれば、精錬を高頻度で実施すべき状況であってもホットスラグリサイクルを容易に実施することが出来るので、転炉スラグの発生量を抑制し、転炉スラグの処理コストの低減、及び製鋼プロセスの環境負荷の低減が可能となる。従って、本発明は転炉を用いた銑鉄の精錬に関して、高い産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5