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特許7243285コークス上昇管基部の付着カーボン燃焼除去方法及び燃焼除去装置
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  • 特許-コークス上昇管基部の付着カーボン燃焼除去方法及び燃焼除去装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】コークス上昇管基部の付着カーボン燃焼除去方法及び燃焼除去装置
(51)【国際特許分類】
   C10B 43/10 20060101AFI20230314BHJP
   C10B 27/06 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C10B43/10
C10B27/06 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019031731
(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公開番号】P2020132812
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-10-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡島 亮太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晴祈
(72)【発明者】
【氏名】鳥谷 誉子
(72)【発明者】
【氏名】山本 修史
(72)【発明者】
【氏名】稲田 光利
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-321000(JP,A)
【文献】特開平07-247482(JP,A)
【文献】特開平10-279947(JP,A)
【文献】特開平11-116965(JP,A)
【文献】特開平10-310773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 43/10
C10B 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス上昇管内上部壁面沿って設置された2つ以上のノズルから成るAir吹き付け装置から、炉内雰囲気を伴わない外気を随伴Airとするエジェクター効果を伴って上昇管基部に付着したカーボンにAirを吹き付けて、付着カーボンを燃焼除去することを特徴とするコークス上昇管基部の付着カーボン燃焼除去方法。
【請求項2】
上昇管基部に流量が1150Nm3/h以上のAirを20min以上吹き付けることを特徴とする請求項1に記載のコークス上昇管基部の付着カーボン燃焼除去方法。
【請求項3】
下記式1により求められる総Air量Q[Nm3/h]が1150Nm3/h以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のコークス上昇管基部の付着カーボンの燃焼除去方法。
Q =(A×α+B×V+C)×V ・・・(式1)
ここで、
A:ノズル角度影響の係数[1/°]
B:ノズルAir量影響の係数[h/(Nm3)]
C:定数[-]
α:ノズル角度[°]
V:ノズル総Air量[Nm3/h]
【請求項4】
ノズル本数が2本であり、各ノズルのノズル角度が0°であって、下記式2を満足するノズルの配置で付着カーボンを除去することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコークス上昇管基部の付着カーボンの燃焼除去方法。
(L-x)/D≧4.4 ・・・(式2)
ここで、
L:上昇管高さ(TOP~基部直上)[mm]
D:上昇管径[mm]
x:Air吹付けノズル先端位置(上昇管TOP基準)[mm]
【請求項5】
コークス上昇管内上部壁面沿って少なくとも2つ以上のAir吹き付けノズルが、炉内雰囲気を伴わない外気を随伴Airとする位置に配置されていることを特徴とするコークス上昇管基部の付着カーボン燃焼除去装置。
【請求項6】
ノズル本数が2本であり、各ノズルのノズル角度が0°であって、下記式2を満足するノズル配置であることを特徴とする請求項5に記載のコークス上昇管基部の付着カーボン燃焼除去装置。
(L-x)/D≧4.4 ・・・(式2)
ここで、
L:上昇管高さ(TOP~基部直上)[mm]
D:上昇管径[mm]
x:Air吹付けノズル先端位置(上昇管TOP基準)[mm]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス上昇管基部の付着カーボン燃焼除去方法及び燃焼除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス炉で乾留中の石炭から発生した生ガス(乾留ガス)は、コークス炉端上部に設置されている上昇管を通り、通常、ドライメーンへと送られ回収される。上昇管内には、生ガスおよび生ガスに随伴する微粉炭が通過するため、その基部にカーボンが付着し成長する。このような事象が続くことで、上昇管の基部が付着カーボンで塞がれてしまうと、炉内で発生する生ガスが回収できず、コークス炉の操業停止につながる。よって、コークス安定生産のためには、定期的に上昇管の基部に付着したカーボンの除去が必要である。
【0003】
特許文献1に記載されているように、これまでも、上昇管の基部に付着するカーボンを除去する装置について様々な開発が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4358314号公報
【0005】
しかしながら、継続的に利用できる装置の開発にまでは至っておらず、現在は、図8に示すように、作業者が棒状治具を用いて突落しによる清掃を行っている。この作業は暑熱環境下で行われる重労働であり、作業負荷は極めて大きい。また、人手による作業のため、一窯あたりの清掃頻度が3~4日間に1回と、少なめになってしまい、付着カーボンによる上昇管の閉塞を見逃すリスクも大きい。以上の理由から、上昇管の基部に付着したカーボンの清掃作業は、簡易且つ効率的に行えるようにすることが強く求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような背景でなされた発明であり、本発明が解決しようとする課題は、上昇管の基部に付着したカーボンの清掃作業を簡易且つ効率的に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、コークス上昇管内上部に設置されたノズルから成るAir吹き付け装置からエジェクター効果を伴って上昇管基部に付着したカーボンにAirを吹き付けて、付着カーボンを燃焼除去することを特徴とするコークス上昇管基部の付着カーボン燃焼除去方法とする。
【0008】
また、上昇管基部に流量が1150Nm3/h以上のAirを20min以上吹き付けることが好ましい。
【0009】
また、下記式1により求められる総Air量Q[Nm3/h]が1150Nm3/h以上であるようにすることが好ましい。
Q =(A×α+B×V+C)×V ・・・(式1)
ここで、A:ノズル角度影響の係数[1/°]、B:ノズル総Air量影響の係数[h/(Nm3)]、C:定数[-]、α:ノズル角度[°]、V:ノズル総Air量[Nm3/h]とする。
【0010】
また、ノズル本数が2本であり、各ノズルのノズル角度が0°であって、下記式2を満足するノズルの配置で付着カーボンを除去することが好ましい。
(L-x)/D≧4.4 ・・・(式2)
ここで、L:上昇管高さ(TOP~基部直上)[mm]、D:上昇管径[mm]、x:Air吹付けノズル先端位置(上昇管TOP基準)[mm]とする。
【0011】
また、コークス上昇管内上部に少なくとも2つ以上のAir吹き付けノズルが配置されていることを特徴とするコークス上昇管基部の付着カーボン燃焼除去装置とする。
【0012】
また、ノズル本数が2本であり、各ノズルのノズル角度が0°であって、下記式2を満足するノズル配置であることを特徴とする請求項5に記載のコークス上昇管基部の付着カーボン燃焼除去装置。
(L-x)/D≧4.4 ・・・(式2)
ここで、L:上昇管高さ(TOP~基部直上)[mm]、D:上昇管径[mm]、x:Air吹付けノズル先端位置(上昇管TOP基準)[mm]とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明を用いると、上昇管の基部に付着したカーボンの清掃作業を簡易且つ効率的に行えるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】Air吹き付け装置のノズルをコークス炉の上昇管に取り付けた状態の概略図である。
図2】実機におけるAir吹込み試験の結果を示した図である。
図3】「ノズル角度(鉛直下向きからの傾き)」と、「総Air量(ノズル総Air量+随伴Air量)/ノズル総Air量」の関係を示す図である。
図4】「ノズルAir量」と「総Air量(ノズル総Air量+随伴Air量)/ノズル総Air量」の関係を示す図である。
図5】実測値と式1による推定値の相関を示す図である。
図6】各種のノズル仕様におけるAir吹付け時の基部の風速分布を示す図である。
図7】ノズル本数2本、双方のノズルのノズル角度0°のときの「(L-x)/D」と「基部壁面Air流速の標準偏差」の関係を示す図である。
図8】上昇管の基部に付着したカーボンを棒状治具により突き落としている状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に発明を実施するための形態を示す。図1に示されていることから理解されるように、本実施形態のコークス上昇管81の基部82の付着カーボン燃焼除去方法は、コークス上昇管81内の上部に設置されたノズル21から成るAir吹き付け装置からエジェクター効果を伴って上昇管81の基部82に付着したカーボン91にAirを吹き付けて、付着カーボン91を燃焼除去するものである。このため、上昇管81の基部82に付着したカーボン91の清掃作業を簡易且つ効率的に行える。なお、上昇管81は、コークス炉1の運転時にコークス炉1内で発生した生ガスをドライメーン83に送るための経路の一部となるものであり、コークス炉1の上部に設けられている。
【0016】
また、実施形態のコークス上昇管81の基部82の付着カーボン燃焼除去装置は、コークス上昇管81内の上部に少なくとも2つ以上のAir吹き付けノズル21が配置されている。この付着カーボン燃焼除去装置を用いれば、上昇管81の基部82に付着したカーボン91の清掃作業を簡易且つ効率的に行えるようにすることが可能となる。
【0017】
図1に本発明にかかる上昇管81のAir吹込み設備の概要を示す。本発明では、コークス押し出し後から石炭装入開始までの空窯期間(~20min)に、上昇管81の上部に設けたTOPカバー84を開放した状態で、上昇管81の内部の上部に設置したノズル21から基部82に向けてAirを吹き付ける。このとき、エジェクター効果により、上昇管81の上部の開口部から大量の随伴Airが上昇管81の基部82に供給され、付着カーボン91を燃焼させる。つまりは、上昇管81の上部から導入されたAir及び随伴Airが、十分に熱された炉内側に流れ込む際に、上昇管81の基部82周りに付着してできたカーボン91の塊を燃焼するために用いられることになる。なお、燃焼ガスはコークス炉1のC/Sの上部に設置されている燃焼ガス排出機構から系外へ排出される。
【0018】
ところで、Air吹付けによる燃焼除去においては、吹き付けAirが生ガスとの燃焼に消費されるのを避けるようにするのが良い。このため、炉内のコークスを押し出した後、次の石炭が装入されるまでの空窯状態の短期間(一般的に、20min程度以下)で実施することになる。また、基部82への吹付けAir量に偏りがある場合、基部82の一部分しか清掃できず、付着カーボン91の成長を抑制できない懸念がある。また、基部82の一部に過度にAirを吹き付ける場合、基部82のレンガの過加熱(≧1100℃)または過冷却により、レンガを損傷させてしまう懸念がある。よって、Air吹付けによる付着カーボン燃焼除去を適切に実施するには、限られた時間内に必要な量のAirを基部82の円周方向に均一に吹き付けるようにするのが良い。
【0019】
ここで、実機を用いた基部82の付着カーボン91の燃焼除去の試験について説明する。試験は3水準について行った。水準1では未清掃期間(カーボン91の堆積期間)を1日とし、この期間で堆積したカーボン91を燃焼させるために基部82に送る総Air量を682Nm3/hとした場合のカーボン91の変化を、Airを送ってから0分後、10分後、20分後で観察した。水準2では未清掃期間を1日とし、総Air量を1149Nm3/hとした場合のカーボン91の変化を0分後、10分後、20分後で観察した。水準3では未清掃期間を4日とし、総Air量を2361Nm3/hとした場合のカーボン91の変化を0分後、10分後、20分後で観察した。図2に、実機におけるAir吹込み試験の結果を示す。なお、総Air量はノズル総Air量と、エジェクター効果による随伴Air量を合わせたものである。
【0020】
図2より、20min程度の限られた空窯期間で付着カーボン91を除去、またはその成長を抑制するためには、上昇管81の基部82へ供給する総Air量を水準2の1149Nm3/h≒1150Nm3/h以上とするのが良いことがわかる。つまり、上昇管81の基部82に流量が1150Nm3/h以上のAirを20min以上吹き付ければ、付着カーボン91の除去、または付着カーボン91の成長の抑制が可能となる。なお、総Air量をノズル21のみで賄うように、ノズル21から大量のAirを吹き込むと、ノズル21の本数やコンプレッサー基数が増加し、費用とメンテナンス性の面から問題となる。しかしながら、本発明では、上昇管81に対してエジェクター効果で外気を導入しているため、少ないノズル21からのAir吐出量で、上昇管81の基部82へ大量かつ均一にAirを吹付けることができ、このような問題を回避することができる。
【0021】
次に、本発明における、上昇管81の基部82へ吹付けられる総Air量の推定方法について述べる。エジェクター効果による随伴Air量は、ノズル21の角度とノズル21からの吐出Air量から推定することができる。ノズル角度が鉛直下向きを基準として水平方向に傾くほど、下向きの速度成分が小さくなるため、随伴Air量は小さくなる。また、総Air量が大きくなると、炉内圧が上昇し、随伴Air量は小さくなる。
【0022】
図3に、「ノズル角度」と「総Air量(ノズル総Air量+随伴Air量)/ノズル総Air量」の関係を示す。また、図4に、「ノズル総Air量」と「総Air量(ノズル総Air量+随伴Air量)/ノズル総Air量」の関係を示す。
【0023】
図3図4から理解されるように、ノズル角度α[°]とノズル総Air量V[Nm3/h]から、総Air量Q[Nm3/h]の推定する下記の式1が得られる。この式1の算出結果の総Air量が前述の1150Nm3/h以上であることが好ましい。
Q =(A×α+B×V+C)×V ・・・(式1)
A:ノズル角度影響の係数[1/°]
B:ノズル総Air量影響の係数[h/(Nm3)]
C:定数[-]
(実施形態では:A=-0.06, B=-0.02, C=14.33)
なお、図5に、実測値と式1による推定値の相関を示す。
【0024】
次に、基部82へ均一にAirを吹き付けるためのノズル設計について述べる。ノズル21はメンテナンス上、少ない本数ほど望ましい。特に、メンテナンス性が求められる場合は、1~2本であることが好ましい。ノズル21の数が多くなるとAir吐出流速が低下して随伴Air量が低下するため、ノズル21の本数はこのようなものとすることが望ましい。同様の理由でノズル21はφ30mm程度のものが好ましい。ノズル21の径が大きくなるとAir吐出流速が低下して随伴Air量が低下するためである。
【0025】
ところで、構造上、上昇管81の壁面近傍に近い位置にノズル21を配置するほうがメンテナンスにおいて有利である。但し、1本のノズル21を上昇管81内の中心に設置した場合、短時間のAir吹付けで除去しきれない量のカーボン91が付着していた場合やAir吹き付け装置トラブル時に、人力によるカーボン91の突落し作業の実施が困難になる。よって、ノズル21は上昇管81内の端に付けることが望ましい。
【0026】
図6に、Air吹付け時の基部82の風速分布を示す。図6に示すことから理解されるように、ノズル21の本数は2本以上であることが望ましい。つまり、コークス上昇管81内の上部に少なくとも2つ以上のAir吹き付けノズル21が配置されていることが好ましい。また、ノズル角度αは小さい程望ましい。ノズル21の本数が増えるとノズル21からのAir吐出風速が低下し、エジェクター効果による随伴Air量が低下するため、好ましくないが、これは、ノズルAir吐出量を増加させることで補える。但し、ノズル総Air量を増加させると、コンプレッサーやブロワーの設備費が上がるため望ましくない。また、上記したように、ノズル21の本数増加とともに装置メンテナンス負荷が増加するので、ノズル21の本数の過剰な増加は望ましくない。これらを総合的に考慮するとノズル21の本数は2本とすることが望ましい。また、各ノズル21のノズル角度は0°とすることが好ましい。
【0027】
図7に、ノズル21の本数2本、双方のノズル21のノズル角度0°のときの上昇管81の基部82へのAir吹付けシミュレーション結果を示す。上昇管81のサイズ、ノズルAir吐出流速にかかわらず基部82に均一にAirを吹き付けるためには、上昇管81のサイズ(L,D)と上昇管81のTOPからノズル21の先端までの距離(x)の関係を、式2を満たす範囲に決める必要がある。
(L-x)/D≧4.4 ・・・(式2)
L:上昇管高さ(TOP~基部直上)[mm]
D:上昇管径[mm]
x:Air吹付けノズル先端位置(上昇管TOP基準)[mm]
【0028】
ところで、付着カーボン91の除去方法としては、機械的に突き落す方法、Airにより燃焼除去する方法の2通りがある。しかし、機械的に突き落す方法は基部82のレンガを損傷させる懸念が大きい。このため、自動化には不向きである。一方、Airによる燃焼除去であれば、自動化することも可能となる。
【0029】
以上、実施形態を中心として本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
21 ノズル
81 上昇管
82 基部
91 付着カーボン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8