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  • 特許-消失予防装置及び消失予防方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】消失予防装置及び消失予防方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/00 20060101AFI20230314BHJP
【FI】
G05D1/00 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019045738
(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2020149296
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【弁理士】
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】吉光 亮
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-163587(JP,A)
【文献】国際公開第2003/004352(WO,A1)
【文献】特開平09-146635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体が消失することを予防する消失予防装置であって、
前記移動体の位置及び向きを含む状態量を示す状態量情報を取得する第1取得部と、
記移動体を移動させるための操縦指令であって、前進速度指令値及び角速度指令値を含む操縦指令操縦装置から取得する第2取得部と、
前記状態量情報及び前記操縦指令に基づいて、予め定められた予測時間が経過したときに前記状態量情報を取得可能な監視範囲内に前記移動体が位置するか否かを判定する判定部と、
前記移動体が前記監視範囲内に位置すると判定された場合、前記移動体を移動させるための移動指令として前記操縦指令を前記移動体に送信し、前記移動体が前記監視範囲内に位置しないと判定された場合、前記予測時間が経過したときに前記移動体が前記監視範囲内に留まるように、0に設定された前進速度指令値と前記角速度指令値とを含む前記移動指令を生成して前記移動指令を前記移動体に送信する指令部と、
記移動体が前記監視範囲内に位置しないと判定された場合、前記操縦装置の操縦者に警告を出力する出力部と、
を備える、消失予防装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記予測時間が経過するまでの間、前記監視範囲内に前記移動体が位置し続けるか否かを判定する、請求項に記載の消失予防装置。
【請求項3】
移動体が消失することを予防する消失予防装置が行う消失予防方法であって、
前記移動体の位置及び向きを含む状態量を示す状態量情報を取得するステップと、
記移動体を移動させるための操縦指令であって、前進速度指令値及び角速度指令値を含む操縦指令操縦装置から取得するステップと、
前記状態量情報及び前記操縦指令に基づいて、予め定められた予測時間が経過したときに前記状態量情報を取得可能な監視範囲内に前記移動体が位置するか否かを判定するステップと、
前記移動体が前記監視範囲内に位置すると判定された場合、前記移動体を移動させるための移動指令として前記操縦指令を前記移動体に送信するステップと、
前記移動体が前記監視範囲内に位置しないと判定された場合、前記予測時間が経過したときに前記移動体が前記監視範囲内に留まるように、0に設定された前進速度指令値と前記角速度指令値とを含む前記移動指令を生成して前記移動指令を前記移動体に送信するステップと、
記移動体が前記監視範囲内に位置しないと判定された場合、前記操縦装置の操縦者に警告を出力するステップと、
を備える、消失予防方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、消失予防装置及び消失予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動ロボット等の移動体を遠隔操縦する遠隔操縦システムが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。このような遠隔操縦システムは、地上を移動するロボットだけでなく、ダム、港湾、及び原子炉内部のような水中に没しているインフラ施設を点検する水中移動ロボットにも適用され得る。上述のような移動ロボットを安全に移動させるために、移動ロボットの位置を把握することが求められる。例えば、特許文献1に記載の遠隔操縦システムは、移動ロボットと通信状態にある基地局に対応付けられたカメラを選択し、選択したカメラにより移動ロボットを撮影している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-229837号公報
【文献】特開2006-285548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基地局がカバーする通信可能エリアには限界があるので、操縦者が誤って通信可能エリア外に移動ロボットを移動させてしまうおそれがある。これに対し、特許文献2に記載の遠隔操作システムは、移動ロボットが通信可能エリア外に移動した場合に移動ロボットを停止させている。しかしながら、通信可能エリア外で移動ロボットを停止させると、移動ロボットの位置を把握することができず、移動ロボットを制御することができなくなる。このため、移動ロボットの移動を継続することができず、移動ロボットが消失するおそれがある。移動ロボットが消失してしまうと、操縦者は点検作業を中止し、移動ロボットを救出しなければならなくなるので、作業効率が下がる。加えて、消失した移動ロボットを救出できなければ点検作業の再開すら不可能になる場合がある。
【0005】
本開示は、移動体が消失する可能性を低減可能な消失予防装置及び消失予防方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る消失予防装置は、移動体が消失することを予防する装置である。この消失予防装置は、移動体の位置及び向きを含む状態量を示す状態量情報を取得する第1取得部と、操縦装置から移動体を移動させるための操縦指令を取得する第2取得部と、状態量情報及び操縦指令に基づいて、予め定められた予測時間が経過したときに状態量情報を取得可能な監視範囲内に移動体が位置するか否かを判定する判定部と、判定部によって、移動体が監視範囲内に位置しないと判定された場合、操縦装置の操縦者に警告を出力する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、移動体が消失する可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係る消失予防装置を含む遠隔操縦システムの構成を概略的に示す図である。
図2図2は、図1に示される消失予防装置のハードウェア構成を示す図である。
図3図3は、図1に示される消失予防装置の機能構成を示す図である。
図4図4は、図1に示される消失予防装置による移動ロボットの軌道予測を説明するための図である。
図5図5は、図1に示される消失予防装置が行う消失予防方法の一連の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]実施形態の概要
本開示の一側面に係る消失予防装置は、移動体が消失することを予防する装置である。この消失予防装置は、移動体の位置及び向きを含む状態量を示す状態量情報を取得する第1取得部と、操縦装置から移動体を移動させるための操縦指令を取得する第2取得部と、状態量情報及び操縦指令に基づいて、予め定められた予測時間が経過したときに状態量情報を取得可能な監視範囲内に移動体が位置するか否かを判定する判定部と、判定部によって、移動体が監視範囲内に位置しないと判定された場合、操縦装置の操縦者に警告を出力する出力部と、を備える。
【0010】
この消失予防装置では、状態量情報及び操縦指令に基づいて、予測時間が経過したときに監視範囲内に移動体が位置するか否かが判定され、移動体が監視範囲内に位置しないと判定された場合、操縦装置の操縦者に警告が出力される。このため、操縦装置に入力された操縦指令では移動体が監視範囲外に移動してしまうことを、移動体が監視範囲外に移動する前に事前に操縦者に認識させることができる。これにより、操縦指令を変更する等によって、移動体を監視範囲内に留めることが可能となる。その結果、移動体の移動を継続することができ、移動体が消失する可能性を低減することが可能となる。
【0011】
上記消失予防装置は、移動体を移動させるための移動指令を生成し、移動指令を移動体に送信する指令部をさらに備えてもよい。指令部は、判定部によって、移動体が監視範囲内に位置すると判定された場合、操縦指令を移動指令として移動体に送信してもよい。予測時間が経過したときに、移動体が監視範囲内に位置しているのであれば、操縦指令を変更する必要がない。このため、操縦指令を移動指令として用いることにより、操縦者の意図通りに移動体を移動させることが可能となる。
【0012】
指令部は、判定部によって、移動体が監視範囲内に位置しないと判定された場合、予測時間が経過したときに移動体が監視範囲内に留まるように、移動指令を生成してもよく、移動指令を移動体に送信してもよい。この場合、操縦者が操縦指令を変更することなく、移動体を監視範囲内に留めることが可能となる。このため、移動体が消失する可能性をさらに低減することが可能となる。
【0013】
指令部は、判定部によって、移動体が監視範囲内に位置しないと判定された場合、移動体を停止させる移動指令を生成してもよく、移動指令を移動体に送信してもよい。この場合、移動体を停止させることで、移動体をより確実に監視範囲内に留めることが可能となる。このため、移動体が消失する可能性をより一層低減することが可能となる。
【0014】
判定部は、予測時間が経過するまでの間、監視範囲内に移動体が位置し続けるか否かを判定してもよい。例えば、予測時間が経過した時点では移動体は監視範囲内に位置するが、予測時間が経過するまでの間に、移動体が監視範囲外に移動してしまうことがある。このような場合でも、移動体が監視範囲外に移動する前に事前に操縦者に認識させることができる。これにより、移動体が消失する可能性をさらに低減することが可能となる。
【0015】
本開示の別の側面に係る消失予防方法は、移動体が消失することを予防する消失予防装置が行う方法である。この消失予防方法は、移動体の位置及び向きを含む状態量を示す状態量情報を取得するステップと、操縦装置から移動体を移動させるための操縦指令を取得するステップと、状態量情報及び操縦指令に基づいて、予め定められた予測時間が経過したときに状態量情報を取得可能な監視範囲内に移動体が位置するか否かを判定するステップと、判定するステップにおいて、移動体が監視範囲内に位置しないと判定された場合、操縦装置の操縦者に警告を出力するステップと、を備える。
【0016】
この消失予防方法では、状態量情報及び操縦指令に基づいて、予測時間が経過したときに監視範囲内に移動体が位置するか否かが判定され、移動体が監視範囲内に位置しないと判定された場合、操縦装置の操縦者に警告が出力される。このため、操縦装置に入力された操縦指令では移動体が監視範囲外に移動してしまうことを、移動体が監視範囲外に移動する前に事前に操縦者に認識させることができる。これにより、操縦指令を変更する等によって、移動体を監視範囲内に留めることが可能となる。その結果、移動体の移動を継続することができ、移動体が消失する可能性を低減することが可能となる。
【0017】
[2]実施形態の例示
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、一実施形態に係る消失予防装置を含む遠隔操縦システムの構成を概略的に示す図である。図2は、図1に示される消失予防装置のハードウェア構成を示す図である。図3は、図1に示される消失予防装置の機能構成を示す図である。図1に示される遠隔操縦システム1は、操縦者が操縦装置3を用いて移動ロボット2を遠隔操縦するシステムである。遠隔操縦システム1は、移動ロボット2(移動体)と、操縦装置3と、音響カメラ4と、消失予防装置10と、を備えている。
【0019】
移動ロボット2は、遠隔操縦の対象となる移動体である。移動ロボット2は、例えば、施設を点検するために用いられる。移動ロボット2の例としては、水中を移動する水中移動ロボット、及び陸上を移動する陸上移動ロボットが挙げられる。本実施形態では、移動ロボット2として水中移動ロボットを用いて説明する。本実施形態では、移動ロボット2は、2次元空間(XY平面)を移動可能に構成されている。移動ロボット2は、例えば、アクチュエータを備え、アクチュエータによって移動可能に構成されている。施設の点検等を行うために、移動ロボット2が移動する必要がある範囲(以下、「移動範囲」という。)は、予め定められている。
【0020】
移動ロボット2は、消失予防装置10から送信される移動指令に従って移動する。移動指令は、例えば、移動指令値を含む。移動指令値には、前進速度指令値及び角速度指令値が含まれ得る。移動ロボット2は、移動ロボット2の姿勢(向き)を検出するための姿勢検出センサを備えている。姿勢検出センサの例としては、ジャイロセンサが挙げられる。本実施形態では、移動ロボット2はXY平面上を移動するので、姿勢検出センサは移動ロボット2のヨー角を検出する。移動ロボット2は、移動ロボット2の姿勢を示す姿勢情報を消失予防装置10に送信する。
【0021】
操縦装置3は、操縦者によって用いられ、移動ロボット2を遠隔操縦するための装置である。操縦装置3の例としては、パッド、及びジョイスティックが挙げられる。操縦装置3は、操縦者によって入力された操縦指令を消失予防装置10に送信する。操縦指令は、移動ロボット2を移動させるための指令であり、例えば、操縦指令値を含む。移動指令値と同様に、操縦指令値には、前進速度指令値及び角速度指令値が含まれ得る。
【0022】
音響カメラ4は、監視範囲Rm(図4参照)内に存在する物体を検出する装置である。音響カメラ4は、イメージングソナーとも称される。監視範囲Rmは、音響カメラ4による撮影(検出)が可能な範囲であり、「視野」とも称される。監視範囲Rmは、音響カメラ4の最大測定距離Lと、音響カメラ4の画角Φ(=2φ)と、によって規定される扇形の範囲である。音響カメラ4は、監視範囲Rmが移動ロボット2の移動範囲を含むように設置される。
【0023】
音響カメラ4は、移動ロボット2の位置を検出するために用いられる。つまり、監視範囲Rmは、移動ロボット2の状態量情報を取得可能な範囲である。状態量情報については後述する。音響カメラ4は、監視範囲Rmで超音波を発し、超音波が物体によって反射されることで生成される反射波の強度を輝度に変換することで、画像データを生成する。画像データでは、監視範囲Rm内に存在する物体の像は、周囲と異なる輝度を有する。音響カメラ4は、最大測定距離L及び画角Φを含む範囲情報と、画像データと、を消失予防装置10に送信する。
【0024】
消失予防装置10は、移動ロボット2が消失することを予防する装置である。消失予防装置10は、操縦装置3から操縦指令を受信すると、操縦指令に基づいて移動指令を生成し、移動指令を移動ロボット2に送信する。移動指令の生成方法は後述する。消失予防装置10は、例えば、コンピュータ等の情報処理装置によって構成される。
【0025】
図2に示されるように、消失予防装置10は、物理的には、1又は複数のプロセッサ101、主記憶装置102、補助記憶装置103、入力装置104、出力装置105、及び通信装置106等のハードウェアを備えるコンピュータとして構成され得る。プロセッサ101の例としては、CPU(Central Processing Unit)が挙げられる。主記憶装置102は、例えば、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)で構成される。補助記憶装置103は、例えば、ハードディスク装置又はフラッシュメモリで構成され、一般に主記憶装置102よりも大量のデータを記憶可能な容量を有する。入力装置104は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、及び操作ボタンで構成される。出力装置105は、例えば、ディスプレイ、及びスピーカで構成される。通信装置106は、例えば、ネットワークインタフェースカード(NIC)又は無線通信モジュールで構成される。
【0026】
消失予防装置10の図3に示される各機能は、主記憶装置102等のハードウェアに1又は複数の所定のコンピュータプログラムを読み込ませることにより、1又は複数のプロセッサ101の制御のもとで各ハードウェアを動作させるとともに、主記憶装置102及び補助記憶装置103におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0027】
図3に示されるように、消失予防装置10は、機能的には、取得部11(第1取得部)と、取得部12(第2取得部)と、判定部13と、指令部14と、出力部15と、を備えている。
【0028】
取得部11は、移動ロボット2の位置及び向きを含む状態量を示す状態量情報を取得する。取得部11は、例えば、音響カメラ4から受け取った画像データに基づいて、移動ロボット2の位置(位置座標)を算出する。具体的に説明すると、画像データには、移動ロボット2の像だけでなく、監視範囲Rm内に存在する移動ロボット2以外の物体(固定物)の像が含まれている。このため、取得部11は、音響カメラ4から時間差で受け取った複数の画像データに基づいて背景差分処理を行うことで、画像データから移動ロボット2のピクセル情報のみを抽出する。そして、取得部11は、抽出したピクセル情報の輝度重心を求め、輝度重心を移動ロボット2の画像データにおける位置(ピクセル)とする。
【0029】
監視範囲Rmは固定されているので、画像データの各ピクセルと実空間の位置座標とは対応している。この対応関係は、予め求められ、消失予防装置10に格納されている。取得部11は、画像データにおける輝度重心の座標(ピクセル)を実空間の位置座標に変換し、変換した位置座標を移動ロボット2の位置とする。なお、移動ロボット2の画像データにおける位置は輝度重心に限られない。例えば、取得部11は、移動ロボット2のピクセル情報の重心を移動ロボット2の画像データにおける位置としてもよい。
【0030】
取得部11は、移動ロボット2から受け取った姿勢情報を移動ロボット2の向きを示す情報とする。なお、取得部11は、音響カメラ4から受け取った画像データに基づいて、移動ロボット2の向きを算出してもよい。取得部11は、状態量情報を判定部13に出力する。
【0031】
取得部12は、操縦装置3から操縦指令を取得する。取得部12は、取得した操縦指令を判定部13及び指令部14に出力する。
【0032】
判定部13は、状態量情報及び操縦指令に基づいて、予測時間Tが経過したときに監視範囲Rm内に移動ロボット2が位置するか否かを判定する。予測時間Tは、予め設定されている。なお、予測時間Tは操作性に関わるので、操縦者が0以上の値を予測時間Tとして任意に設定してもよい。
【0033】
判定部13は、例えば、式(1)に示される状態遷移方程式を用いて、現在の時刻kから予測時間Tが経過した時点での予測状態量を算出する。状態遷移方程式は、現在の時刻kでの状態量Xと現在の時刻kでの操縦指令値Uとから、時刻k+1での状態量Xk+1を求めるための式である。時刻の値は、制御周期(「ステップ」とも称される。)ごとに1増加される。すなわち、時間の経過とともに時刻k、時刻k+1、時刻k+2・・・の順で時刻の値が変化する。以下において、パラメータに時刻を示して説明する場合には、パラメータを示す符号の後に時刻を示す番号が付加される。
【数1】
【0034】
なお、移動ロボット2の状態遷移方程式は、予め定められている。本実施形態では、移動ロボット2の状態遷移方程式として式(2)が用いられる。
【数2】
【0035】
ここで、図4に示されるように、座標系には、例えば、音響カメラ4の設置位置を原点とし、画角Φの中心をY軸正方向としたXY直交座標系が用いられる。状態量Xは、位置xと、位置yと、角度θと、を含む。位置xは、時刻kにおけるX軸方向の位置を示す。位置yは、時刻kにおけるY軸方向の位置を示す。角度θは、時刻kにおけるヨー角を示し、X軸正方向を基準(0度)として反時計回りに値が大きくなる。操縦指令値Uは、時刻kにおける操縦指令値であり、前進速度指令値uと、角速度指令値uθと、を含む。前進速度指令値uは、前進速度の指令値である。角速度指令値uθは、角速度の指令値である。時間dtは、1ステップ分の時間であり、制御周期を意味する。具体的には、時間dtは、時刻kから時刻k+1までに経過する時間である。
【0036】
判定部13は、式(3)に示されるように、状態遷移方程式を用いて、時刻kから時刻k+Nまでの予測状態量を順に算出する。
【数3】
【0037】
なお、時刻k+Nは、時刻kから予測時間Tだけ経過した時刻である。ステップ数Nは、式(4)に示されるように、予測時間Tをステップ数に換算した値である。
【数4】
【0038】
つまり、判定部13は、時刻kから予測時間Tが経過するまでの間、操縦指令値Uが同じ値を維持したと仮定して、状態量Xk+Npを算出する。判定部13は、状態量Xk+Npを用いて、時刻k+Nにおいて移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置するか否かを判定する。判定部13は、例えば、判定式(5)を用いて判定を行う。なお、判定部13は、音響カメラ4から受け取った範囲情報から、最大測定距離L及び角度φを取得する。角度φは、画角Φの半分の値である。
【数5】
【0039】
判定式(5)の右辺の第1式及び第2式は、位置xk+Np及び位置yk+Npが、音響カメラ4の画角Φ内に収まっていることを示す条件式である。判定式(5)の右辺の第3式は、位置xk+Np及び位置yk+Npが音響カメラ4から最大測定距離L以内の位置であることを示す条件式である。判定値Dが1(=TRUE)である場合、移動ロボット2は監視範囲Rm内に位置することを意味する。一方、判定値Dが0(=FALSE)である場合、移動ロボット2は監視範囲Rm内に位置しない(監視範囲Rm外に位置する)ことを意味する。例えば、図4に示されるように、時刻k+Nにおいて移動ロボット2が音響カメラ4から最大測定距離Lよりも離れた位置に移動する場合、移動ロボット2は監視範囲Rm外に位置するので、判定値Dは0となる。判定部13は、判定値Dを含む判定結果を指令部14及び出力部15に出力する。
【0040】
指令部14は、移動ロボット2を移動させるための移動指令を生成する。移動指令は、移動指令値Mを含む。移動指令値Mは、時刻kにおける移動指令値であり、前進速度指令値mと、角速度指令値mθと、を含む。指令部14は、例えば、判定部13によって、移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置しないと判定された場合、時刻k+Nにおいて移動ロボット2が監視範囲Rm内に留まるように、移動指令値Mを生成する。このような移動指令値Mの例として、移動ロボット2を停止させる移動指令値Mが挙げられる。つまり、指令部14は、前進速度指令値m及び角速度指令値mθを0に設定する。指令部14は、例えば、判定部13によって、移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置すると判定された場合、操縦指令値Uを移動指令値Mとする。指令部14は、上述のようにして生成された移動指令値Mを移動ロボット2に送信(出力)する。
【0041】
出力部15は、操縦装置3の操縦者に警告等を出力する。例えば、出力部15は、判定部13によって、移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置しないと判定された場合、操縦装置3の操縦者に警告を出力する。出力部15は、不図示のスピーカに警告音を出力してもよく、不図示のディスプレイに警告メッセージを出力してもよい。出力部15は、判定部13によって、移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置すると判定された場合、何も出力しないか、正常な状態を示す情報を出力する。
【0042】
次に、消失予防装置10が行う消失予防方法について説明する。図5は、図1に示される消失予防装置が行う消失予防方法の一連の処理を示すフローチャートである。図5に示される消失予防方法は、例えば、制御周期ごとに開始される。なお、時刻kにおいて一連の処理が行われると仮定して、以下の説明を行う。
【0043】
まず、取得部11が、状態量情報を取得する(ステップS11)。例えば、取得部11は、音響カメラ4から画像データを取得すると、画像データに基づいて移動ロボット2の位置(位置x及び位置y)を算出する。また、取得部11は、移動ロボット2から姿勢情報を受け取ると、姿勢情報を移動ロボット2の向き(角度θ)を示す情報とする。このようにして、取得部11は、移動ロボット2の位置x、位置y、及び角度θを含む状態量Xを示す状態量情報を生成(取得)し、状態量情報を判定部13に出力する。
【0044】
続いて、取得部12は、操縦装置3から操縦指令値Uを含む操縦指令を取得する(ステップS12)。そして、取得部12は、取得した操縦指令を判定部13及び指令部14に出力する。
【0045】
続いて、判定部13は、状態量情報及び操縦指令に基づいて、時刻kから予測時間T経過した時刻k+Nに、監視範囲Rm内に移動ロボット2が位置しているか否かを判定する(ステップS13)。例えば、判定部13は、式(2)及び式(3)を用いて、時刻k+Nでの移動ロボット2の状態量Xk+Npを算出する。そして、判定部13は、式(5)を用いて、時刻k+Nにおいて移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置するか否かを判定する。そして、判定部13は、判定値Dを含む判定結果を指令部14及び出力部15に出力する。
【0046】
ステップS13において、移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置すると判定された場合(ステップS13;YES)、指令部14は、操縦指令に含まれる操縦指令値Uを移動指令値Mとして、移動指令を生成する(ステップS14)。そして、指令部14は、移動指令を移動ロボット2に送信する(ステップS15)。このとき、出力部15は、操縦者に向けて何も出力しない。出力部15は、操縦者に向けて正常な状態を示す情報を出力してもよい。以上により、消失予防装置10が行う消失予防方法の一連の処理が終了する。
【0047】
一方、ステップS13において、移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置しないと判定された場合(ステップS13;NO)、指令部14は、時刻k+Nにおいて移動ロボット2が監視範囲Rm内に留まるような移動指令値Mを有する移動指令を生成する。ここでは、指令部14は、前進速度指令値m及び角速度指令値mθを0に設定することで、移動指令を生成する(ステップS16)。そして、指令部14は、移動指令を移動ロボット2に送信する(ステップS17)。続いて、出力部15は、操縦装置3の操縦者に警告音及び警告メッセージといった警告を出力する(ステップS18)。以上により、消失予防装置10が行う消失予防方法の一連の処理が終了する。
【0048】
このように、移動ロボット2の将来の軌道が定量的に予測され、予測された軌道から、移動ロボット2が音響カメラ4の監視範囲Rm外に出ようとしていると判定された場合に、移動指令値Mが自動的に0に設定される。なお、ステップS11とステップS12とは、任意の順番で行われてもよく、並行して行われてもよい。また、ステップS16,17とステップS18とは、任意の順番で行われてもよく、並行して行われてもよい。
【0049】
以上説明したように、遠隔操縦システム1、消失予防装置10、及び消失予防装置10が行う消失予防方法では、状態量情報及び操縦指令に基づいて、予測時間Tが経過したとき(時刻k+N)に監視範囲Rm内に移動ロボット2が位置するか否かが判定され、移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置しないと判定された場合、操縦装置3の操縦者に警告が出力される。このため、操縦装置3に入力された操縦指令では移動ロボット2が監視範囲Rm外に移動してしまうことを、移動ロボット2が監視範囲Rm外に移動する前に事前に操縦者に認識させることができる。これにより、操縦指令を変更する等によって、移動ロボット2を監視範囲Rm内に留めることが可能となる。その結果、移動ロボット2の移動を継続することができ、移動ロボット2が消失する可能性を低減することが可能となる。したがって、移動ロボット2による点検作業等を効率よく実施することが可能となる。
【0050】
時刻k+Nにおいて、移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置しているのであれば、操縦指令を変更する必要がない。このため、判定部13によって、時刻k+Nにおいて移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置すると判定された場合、操縦指令を移動指令として用いることにより、操縦者の意図通りに移動ロボット2を移動させることが可能となる。
【0051】
判定部13によって、時刻k+Nにおいて移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置しないと判定された場合、時刻k+Nにおいて移動ロボット2が監視範囲Rm内に留まるように、移動指令が生成される。具体的には、移動ロボット2を停止させる移動指令が生成される。これにより、移動ロボット2を停止させることで、操縦者が操縦指令を変更することなく、移動ロボット2をより確実に監視範囲Rm内に留めることが可能となる。その結果、移動ロボット2が消失する可能性をさらに低減することが可能となる。
【0052】
移動ロボット2を安全に移動させるために、操縦者が移動ロボット2の位置と移動ロボット2の周囲情報とを常に把握することが求められる。例えば、移動ロボット2にカメラを搭載することが考えられる。しかし、移動ロボット2に搭載されたカメラの画像だけでは、移動ロボット2の位置及び向きを特定することが困難な場合がある。これに対し、音響カメラ4が移動ロボット2を俯瞰する位置に設けられているので、音響カメラ4によって生成された画像データから、移動ロボット2の位置を特定することができ、移動ロボット2の周囲情報を得ることができる。
【0053】
遠隔操縦システム1では、1台の音響カメラ4が用いられる。このため、音響カメラ4の設置作業を軽減することができる。特に、水中に没しているインフラ施設の点検のように、人が直接立ち入ることが困難な場所に移動ロボット2を投入する場合には、音響カメラ4の設置作業は非常に手間及びコストが掛かる。このような場合でも、音響カメラ4の設置作業及びコストを軽減することができる。
【0054】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0055】
例えば、移動ロボット2の位置座標には、直交座標系が用いられているが、極座標系が用いられてもよい。また、座標系の原点は、音響カメラ4の設置位置でなくてもよい。
【0056】
上記実施形態では、移動ロボット2は、2次元空間を移動可能に構成されているが、3次元空間を移動可能に構成されてもよい。この場合、音響カメラ4として、3次元空間の監視範囲Rm内に存在する物体を検出可能なカメラが用いられる。移動ロボット2の状態量は、X軸方向の位置、Y軸方向の位置、及びヨー角の角度に加えて、Z軸方向の位置、ピッチ角の角度、及びロール角の角度をさらに含む。これに伴い、状態遷移方程式も拡張される。
【0057】
上記実施形態では、移動ロボット2は、遠隔操縦されるロボットであるが、自律移動可能なロボットであってもよい。この場合、例えば、作業者が移動ロボット2の移動経路(ウェイポイント)を予め作成しておき、移動ロボット2が当該移動経路に従って移動する。移動経路を規定するウェイポイントの一部が監視範囲Rm外に設定されている場合には、移動ロボット2は位置検出不可能な位置に移動する。また、移動ロボット2が障害物を自律的に回避する機能を有している場合には、移動ロボット2が障害物を回避した際に監視範囲Rm外に移動してしまうことがある。これらの場合においても、移動ロボット2が移動経路を移動している途中に、消失予防装置10は、移動ロボット2が監視範囲Rm外に移動すると判定する。これにより、移動ロボット2が消失する可能性を低減することが可能となる。
【0058】
遠隔操縦システム1の構成は、図1に示される構成に限られない。例えば、消失予防装置10はいずれの場所に設けられてもよく、移動ロボット2が消失予防装置10を備えていてもよい。
【0059】
遠隔操縦システム1は、1台の音響カメラ4を備えているが、2台以上の音響カメラ4を備えていてもよい。この場合、監視範囲Rmを広くすることができるので、移動ロボット2が消失する可能性をさらに低減することが可能となる。
【0060】
音響カメラ4に代えて、移動ロボット2の位置を検出可能な別の装置が用いられてもよい。例えば、移動ロボット2が陸上移動ロボットである場合には、GPS(Global Positioning System)、及びレーザレーダ装置等が用いられてもよい。慣性航法装置、及びUSBL(Ultra Short Base Line)方式の位置検出装置が用いられてもよい。
【0061】
操縦装置3から操縦指令が送信されるタイミングと、当該操縦指令に基づいて移動ロボット2が実際に移動するタイミングとの間には、遅延時間Tが生じ得る。このため、判定部13は、遅延時間Tを考慮して、時刻kから時刻k+Nまでの予測状態量を順に算出してもよい。
【0062】
例えば、予測時間Tが経過した時点では移動ロボット2は監視範囲Rm内に位置するが、予測時間Tが経過するまでの間に、移動ロボット2が監視範囲Rm外に移動してしまうことがある。このような場合、時刻k+Nにおいて移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置するか否かを判定するだけでは不十分である。このため、判定部13は、時刻k以降であり、時刻k+Nまでのいずれの時刻においても移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置するか否かを判定してもよい。つまり、判定部13は、時刻kから予測時間Tが経過するまでの間、移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置し続けているか否かを判定してもよい。例えば、判定部13は、判定式(5)において、ステップ数Nに代えて変数j(0≦j≦N)を用いて判定を行ってもよい。この構成では、予測時間Tが経過するまでの間に移動ロボット2が監視範囲Rm外に移動し、予測時間Tが経過した時点で移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置する場合でも、移動ロボット2が監視範囲Rm外に移動する前に事前に操縦者に認識させることができる。これにより、移動ロボット2が消失する可能性をさらに低減することが可能となる。
【0063】
指令部14は、判定部13によって、移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置しないと判定された場合、前進速度指令値mのみを0に設定してもよい。また、指令部14は、判定部13によって、移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置しないと判定された場合、前進速度指令値mを前進速度指令値uよりも小さい値に設定してもよい。また、指令部14は、判定部13によって、移動ロボット2が監視範囲Rm内に位置しないと判定された場合、時刻k+Nに移動ロボット2が監視範囲Rmから出ないように、角速度指令値mθを微調整してもよい。
【0064】
出力部15は、段階的に警告を出力してもよい。例えば、出力部15は、移動ロボット2が監視範囲Rm内から監視範囲Rm外に移動すると予測される時刻が時刻kに近いほど、高い警告レベルで警告を出力してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 遠隔操縦システム
2 移動ロボット(移動体)
3 操縦装置
4 音響カメラ
10 消失予防装置
11 取得部(第1取得部)
12 取得部(第2取得部)
13 判定部
14 指令部
15 出力部
Rm 監視範囲
予測時間
図1
図2
図3
図4
図5