(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】クランク軸の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21K 1/08 20060101AFI20230314BHJP
B21J 5/02 20060101ALI20230314BHJP
B21J 13/02 20060101ALI20230314BHJP
F16C 3/08 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
B21K1/08
B21J5/02 A
B21J13/02 N
F16C3/08
(21)【出願番号】P 2019050931
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大久保 潤一
(72)【発明者】
【氏名】田村 憲司
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-164074(JP,A)
【文献】特開2010-230027(JP,A)
【文献】特開2015-016476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 1/08
B21J 5/02
B21J 13/02
F16C 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸の製造方法であって、
a)型鍛造で成形され、バリが除去され、クランクジャーナルと、前記クランクジャーナルに対して偏心するクランクピンと、前記クランクジャーナルと前記クランクピンとを連結するクランクアームと、前記クランクアームと一体に成形されたカウンターウエイトと、を有する仕上げ鍛造品を準備する工程と、
b)
一定の方向に沿って延びる突起部が形成された主面を有する工具を、前記突起部が前記カウンターウエイトの表面の幅方向の中央部に沿う位置の全体にわたって当接するように配置し、前記主面を前記カウンターウエイト
の前記表面に押し付け
ることにより、前記カウンターウエイトの幅方向で外側に向かって前記カウンターウエイトの材料を流動させる工程と、
を備える、製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記突起部は、前記カウンターウエイトの長手方向に沿って延び、三角形状の横断面を有する、製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法であって、
前記工具は、さらに、
前記主面と反対向きの裏面と、
前記幅方向における前記主面の両側縁に接続され、前記主面から前記裏面に向かい前記幅方向の内側に傾斜する側面と、
を含み、
前記工程b)では、前記側面の各々に対して楔部材を摺動させることにより、前記工具を前記カウンターウエイト側に移動させる、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クランク軸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車に搭載されるレシプロエンジンは、燃料の燃焼によるピストンの往復運動を回転運動に変換するため、クランク軸を備える。クランク軸は、クランクジャーナルと、クランクピンと、クランクアームと、を有する。クランクジャーナルは、クランク軸の主軸部であり、軸心周りに回転する。クランクピンは、クランクジャーナルに対して偏心して配置され、コネクティングロッドを介してピストンに接続される。クランクアームは、クランクジャーナルとクランクピンとを連結する。
【0003】
クランク軸は、例えば、型鍛造によって製造することができる。クランク軸を型鍛造によって製造する場合、まず、加熱されたビレットを予備成形して荒地を得る。次に、荒打ち及び仕上げ打ちを行って荒地から仕上げ鍛造品を成形し、この仕上げ鍛造品に対してバリ抜きを実施する。その後、バリなしの仕上げ鍛造品の必要箇所を圧下し、仕上げ鍛造品を最終製品の寸法及び形状に整形する。
【0004】
クランク軸の製造プロセスに関して、従来、様々な提案がなされている。例えば、特許文献1は、仕上げ打ち工程においてクランクピンに孔部を形成する方法を提案する。特許文献1において、荒地(予備成形品)は、仕上げ打ちに用いられる金型のキャビティよりも小さくなるように成形される。そのため、仕上げ打ち工程において予備成形品が金型内に配置された時点では、予備成形品と金型との間にクリアランスが存在する。しかしながら、予備成形品のクランクピンにパンチが挿入されることにより、このクリアランスに材料が充填される。特許文献1によれば、パンチの挿入によってクランクピンに孔部が形成されるため、クランク軸の軽量化を図ることができる。また、金型の閉塞空間内に材料を充填させて鍛造を行うため、クランク軸の寸法精度を向上させることができる。
【0005】
特許文献2は、クランクアームに設けられたカウンターウエイトを矯正する方法を提案する。特許文献2では、バリなしの仕上げ鍛造品に対し、ツイスト工程でひねりを加え、リストライク工程で曲がり矯正を施す。その後、クランクピンを挟んで隣り合うカウンターウエイトの間に中間治具を挿入し、これらのカウンターウエイトを両側から加圧治具で加圧拘束することにより、カウンターウエイトの形状を矯正する。
【0006】
特許文献3は、クランク軸本体のクランクアームにカウンターウエイトを接合する方法を提案する。特許文献3では、クランク軸本体及びカウンターウエイトがそれぞれ冷間鍛造で成形される。カウンターウエイトは、クランクアームに対し、溶接及び塑性締結で接合される。特許文献3によれば、溶接による接合部が破壊された場合であっても、塑性締結による接合部によってカウンターウエイトがクランクアームから分離するのを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2010/110133号
【文献】特開2006-247730号公報
【文献】特開2012-97888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3では、カウンターウエイトがクランクアームと別個に成形される。これに対し、特許文献1及び2では、カウンターウエイトはクランクアームと一体として成形される。この場合、仕上げ打ち工程では、クランクアーム及びカウンターウエイトの縦軸を境に二分割する金型が用いられる。この金型から仕上げ鍛造品を取り出しやすくするため、カウンターウエイトの表面には抜け勾配が与えられる。
【0009】
カウンターウエイトの表面に抜け勾配が与えられることにより、カウンターウエイトの厚みは幅方向の中央部で増加する。すなわち、型鍛造時の抜け勾配に起因してカウンターウエイトが増量する。カウンターウエイトの増量に伴い、クランク軸も増量する。クランク軸の増量は、レシプロエンジンが搭載される自動車の燃費向上及び軽量化の観点から好ましくない。このため、カウンターウエイトには軽量化が求められている。
【0010】
カウンターウエイトは、クランク軸の回転バランスを保つ錘である。よって、カウンターウエイトには、軽量化と同時に、所望のモーメントを確保することも要求される。
【0011】
本開示は、カウンターウエイトを軽量化しつつ、カウンターウエイトのモーメントを確保することができるクランク軸の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に係るクランク軸の製造方法は、工程a)と、工程b)と、を備える。工程a)では、型鍛造で成形され、バリが除去された仕上げ鍛造品を準備する。仕上げ鍛造品は、クランクジャーナルと、クランクピンと、クランクアームと、カウンターウエイトと、を有する。クランクピンは、クランクジャーナルに対して偏心する。クランクアームは、クランクジャーナルとクランクピンとを連結する。カウンターウエイトは、クランクアームと一体に成形されている。工程b)では、カウンターウエイトの表面に対向する主面と、主面上に形成された突起部と、を含む工具をカウンターウエイトに押し付け、突起部により、カウンターウエイトの幅方向で外側に向かってカウンターウエイトの材料を流動させる。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係るクランク軸の製造方法によれば、カウンターウエイトを軽量化しつつ、カウンターウエイトのモーメントを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態に係るクランク軸の製造方法において工程a)で準備される仕上げ鍛造品の側面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す仕上げ鍛造品に含まれるクランクウェブの正面図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るクランク軸の製造方法において工程b)で使用される加工装置の模式図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す加工装置に含まれる工具の上面図及び背面図である。
【
図6A】
図6Aは、工程b)における加工装置の動作を説明するための模式図である。
【
図6B】
図6Bは、工程b)における加工装置の動作を説明するための別の模式図である。
【
図6C】
図6Cは、工程b)における加工装置の動作を説明するための、さらに別の模式図である。
【
図7】
図7は、工程b)においてカウンターウエイトが加工される様子を説明するための模式図である。
【
図8】
図8は、工程b)の後のクランクウェブの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態に係るクランク軸の製造方法は、工程a)と、工程b)と、を備える。工程a)では、型鍛造で成形され、バリが除去された仕上げ鍛造品を準備する。仕上げ鍛造品は、クランクジャーナルと、クランクピンと、クランクアームと、カウンターウエイトと、を有する。クランクピンは、クランクジャーナルに対して偏心する。クランクアームは、クランクジャーナルとクランクピンとを連結する。カウンターウエイトは、クランクアームと一体に成形されている。工程b)では、カウンターウエイトの表面に対向する主面と、主面上に形成された突起部と、を含む工具をカウンターウエイトに押し付け、突起部により、カウンターウエイトの幅方向で外側に向かってカウンターウエイトの材料を流動させる(第1の構成)。
【0016】
第1の構成によれば、バリを除去した後の仕上げ鍛造品のカウンターウエイトに対し、工具が押し付けられる。カウンターウエイトの材料は、この工具に形成された突起部により、幅方向の外側に向かって流動する。そのため、カウンターウエイトの重心が幅方向の中央部側から両端部側に移動してクランク軸の回転軸から遠ざかり、回転軸周りにおけるカウンターウエイトのモーメントが大きくなる。すなわち、第1の構成に係る製造方法で製造されたクランク軸では、一般的な型鍛造で製造されたクランク軸と比較して、モーメントが同程度であればカウンターウエイトの重量が小さい。よって、第1の構成によれば、カウンターウエイトを軽量化しつつ、カウンターウエイトのモーメントを確保することができる。
【0017】
突起部は、カウンターウエイトの長手方向に沿って延び、三角形状の横断面を有することが好ましい(第2の構成)。
【0018】
第2の構成によれば、三角形状の突起部の側面により、カウンターウエイトの材料を円滑に案内することができる。また、カウンターウエイトの長手方向に沿って突起部が延びているため、カウンターウエイトの広範囲で幅方向の外側に材料を流動させることができる。よって、カウンターウエイトの重心をより確実に移動させることができ、カウンターウエイトのモーメントをより大きくすることができる。
【0019】
工具は、さらに、主面と反対向きの裏面と、幅方向における主面の両側縁に接続される側面と、を含んでいてもよい。側面の各々は、主面から裏面に向かい幅方向の内側に傾斜する。工程b)では、側面の各々に対して楔部材を摺動させることにより、工具をカウンターウエイト側に移動させることができる(第3の構成)。
【0020】
第3の構成によれば、楔部材を工具側に差し込んで工具の両側面に摺動させるだけで、工具をカウンターウエイト側に移動させることができる。このため、工程b)におけるカウンターウエイトの加工を容易に行うことができる。
【0021】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0022】
[クランク軸の製造方法]
本実施形態に係るクランク軸の製造方法は、典型的には、熱間鍛造によるクランク軸の製造方法である。本実施形態に係るクランク軸の製造方法は、クランク軸の仕上げ鍛造品を準備する工程a)と、当該仕上げ鍛造品を加工する工程b)と、を備える。以下、各工程について説明する。
【0023】
工程a)
本実施形態に係るクランク軸の製造方法では、まず、工程a)において、クランク軸の仕上げ鍛造品を準備する。仕上げ鍛造品は、一般的な型鍛造によって成形される。すなわち、加熱されたビレットを予備成形して荒地を得た後、この荒地の荒打ち及び仕上げ打ちを行ってバリ付きの仕上げ鍛造品を得る。その後、仕上げ鍛造品のバリ抜きを実施し、バリなしの仕上げ鍛造品を得る。
【0024】
図1は、バリ抜き後の仕上げ鍛造品10を模式的に示す側面図である。仕上げ鍛造品10は、最終製品であるクランク軸とほとんど同一の寸法及び形状を有する。仕上げ鍛造品10は、複数のクランクジャーナル11と、複数のクランクピン12と、複数のクランクアーム13と、複数のカウンターウエイト14と、を有する。
図1では、4気筒エンジン用のクランク軸の仕上げ鍛造品10を例示する。ただし、本実施形態に係る製造方法で製造されるクランク軸は、4気筒エンジン用のクランク軸に限られない。
【0025】
複数のクランクジャーナル11は、それぞれ、仕上げ鍛造品10の中心軸X1を軸心とする概略円柱状をなす。中心軸X1は、仕上げ鍛造品10から製造されるクランク軸の回転軸X1となる。クランクジャーナル11は、回転軸X1に沿って配列され、クランク軸の主軸部を構成する。
【0026】
複数のクランクピン12は、それぞれ概略円柱状をなし、クランクジャーナル11に対して偏心する。すなわち、複数のクランクピン12は、回転軸X1の周りに所定の位相差で配置される。本実施形態において、回転軸方向で両端に位置するクランクピン12は、中央の2つのクランクピン12と180°の位相差を有する。
【0027】
クランクアーム13の各々は、回転軸方向においてクランクジャーナル11とクランクピン12との間に配置される。クランクアーム13は、クランクジャーナル11とクランクピン12とを連結する。クランクアーム13は、回転軸方向と交差する表面131,132を有する。表面131,132のうち、一方の表面131にはクランクジャーナル11が接続され、他方の表面132にはクランクピン12が接続される。本実施形態では、必要に応じ、回転軸方向に並ぶ8枚のクランクアーム13を、フロント16側からフランジ17側に向かって順に、第1~第8クランクアーム13a~13hと称して区別する。
【0028】
カウンターウエイト14の各々は、クランクアーム13と一体で成形される。必要な場合、第1~第8クランクアーム13a~13hの各カウンターウエイト14を第1~第8カウンターウエイト14a~14hと称して区別する。本実施形態では、全てのクランクアーム13がカウンターウエイト14を一体で有する。ただし、カウンターウエイト14は、一部のクランクアーム13にのみ設けられていてもよい。各カウンターウエイト14の形状は、他のカウンターウエイト14と同一であってもよいが、他のカウンターウエイト14と異なっていてもよい。
【0029】
カウンターウエイト14は、回転軸方向と交差する表面141,142を有する。一方の表面141は、クランクアーム13のクランクジャーナル11側の表面131と連続する。他方の表面142は、クランクアーム13のクランクピン12側の表面132と連続する。
【0030】
一体で成形されたクランクアーム13及びカウンターウエイト14は、一般に、クランクウェブ15と称される。
図2は、クランクウェブ15をクランクジャーナル11側から見た図である。
図3は、クランクウェブ15をカウンターウエイト14側から見た図である。
【0031】
図2を参照して、本実施形態では、説明の便宜上、クランクウェブ15において、クランクジャーナル11側の面を正面、クランクピン12側の面を背面と称する。クランクウェブ15において、クランクピン12の中心軸X2及び回転軸X1に直交する軸を縦軸Zと定義する。縦軸Zが延びる方向が長手方向であり、縦軸Z及び回転軸X1に垂直な方向が幅方向である。長手方向に関してクランクアーム13側を上、カウンターウエイト14側を下といい、幅方向の両側を左右という場合がある。
【0032】
図2に示すカウンターウエイト14は、クランクアーム13から下方に向かって拡幅する。カウンターウエイト14は、例えば、正面視で概略扇状をなす。
図3を参照して、カウンターウエイト14の表面141,142には、抜け勾配が与えられている。すなわち、カウンターウエイト14の表面141,142は、それぞれ、幅方向の中央から左右に向かって下降傾斜している。このため、カウンターウエイト14の厚み(回転軸方向の寸法)は、幅方向の中央部側で大きく、幅方向の両端部側で小さい。カウンターウエイト14は、回転軸X1の位置で最大厚みAtを有する。
【0033】
工程b)
工程b)では、バリなしの仕上げ鍛造品10を加工する。より詳細には、表面141,142に抜け勾配が存在するカウンターウエイト14を加工する。
【0034】
まず、カウンターウエイト14を加工するための装置について、
図4を参照しつつ説明する。
図4は、工程b)で使用される加工装置20の模式図である。
【0035】
図4では、加工装置20が加工する仕上げ鍛造品10を二点鎖線で示す。
図4において、仕上げ鍛造品10は、第3~第6カウンターウエイト14c~14fが手前側、残りのカウンターウエイト14が奥側に位置するように、加工装置20内に配置されている。すなわち、仕上げ鍛造品10が加工装置20内に配置された状態で、カウンターウエイト14の長手方向は加工装置20の奥行き方向と一致し、カウンターウエイト14の幅方向は上下方向と一致する。
【0036】
加工装置20は、例えば、ダイクッションを有するプレス機械である。加工装置20は、スライド21aと、ボルスタ21bと、ダイクッションプレート22a,22bと、弾性部材23a,23bと、金型24と、複数の楔部材30a,30bと、複数の工具40と、を有する。
【0037】
スライド21aは、図示しないガイドに沿って昇降可能に構成されている。スライド21aは、例えば、機械式機構によって駆動されてもよいし、油圧や液圧等を駆動源としてもよい。ボルスタ21bは、スライド21aの下方に配置されている。
【0038】
スライド21aとボルスタ21bとの間には、ダイクッションプレート22a,22bが配置される。ダイクッションプレート22aは、複数の弾性部材23aを介してスライド21aに接続されている。ダイクッションプレート22bは、複数の弾性部材23bを介してボルスタ21bに接続されている。
【0039】
弾性部材23a,23bは、上下方向に伸縮する部材である。弾性部材23a,23bは、例えば、コイルばねや空気ばね、油圧シリンダ等である。
【0040】
スライド21a、ボルスタ21b、ダイクッションプレート22a,22b、及び弾性部材23a,23bは、公知のプレス機械及びダイクッションにおけるスライド、ボルスタ、ダイクッションプレート、及び弾性部材と同様である。そのため、本実施形態ではこれらに関する詳細な説明を省略する。
【0041】
金型24は、仕上げ鍛造品10を最終製品の形状及び寸法に整形する。このため、金型24は、最終製品の形状及び寸法に対応するキャビティを有する。金型24は、上型24aと、下型24bと、を有する。上型24aは、上側のダイクッションプレート22aに取り付けられる。下型24bは、下側のダイクッションプレート22bに取り付けられる。
【0042】
複数の楔部材30aは、スライド21aの下面に取り付けられる。楔部材30aは、仕上げ鍛造品10の回転軸方向に配列されている。楔部材30aの各々は、先端部31を含む。先端部31は、楔部材30aにおいて下側に位置付けられ、少なくとも1つの傾斜面311を有する。本実施形態では、回転軸方向で両端に位置する楔部材30aは、先端部31に1つの傾斜面311を有し、残りの楔部材30aは、先端部31に2つの傾斜面311を有する。楔部材30aの先端部31が2つの傾斜面311を有する場合、この2つの傾斜面311は、互いに逆向きの勾配を有する。
【0043】
複数の楔部材30bは、ボルスタ21bの上面に取り付けられる。下側の楔部材30bは、上側の楔部材30aと対応してボルスタ21bに設けられる。楔部材30bの各々は、対応する楔部材30aと同様の先端部31を有する。楔部材30bは、水平面に対して楔部材30aと対称に配置される。すなわち、楔部材30bでは、先端部31が上側に位置付けられる。
【0044】
工具40は、カウンターウエイト14を加工する部材である。本実施形態の加工装置20には、8枚のカウンターウエイト14に対応し、8つの工具40が設けられている。工具40の各々は、下側のダイクッションプレート22b及び楔部材30bによって支持される。ダイクッションプレート22b内には、楔部材30bの先端部31及び工具40の一部を収容する空間221が設けられる。上側のダイクッションプレート22a内にも、下側のダイクッションプレート22bと同様の空間221が設けられる。
【0045】
工具40の各々は、楔部材30bから上方に延び、下型24bを貫通する。工具40の各々は、下型24b上のクランクジャーナル11と干渉しないように、例えば、仕上げ鍛造品10の回転軸方向視で概略U字状に形成されている。下型24bの底壁部には、各工具40を通すための貫通口241が形成されている。上型24aの上壁部にも、下型24bの貫通口241に対応する位置及び大きさで、貫通口241が形成されている。
【0046】
上側のダイクッションプレート22a内の空間221は、楔部材30aの上下方向の移動を許容する。下側のダイクッションプレート22b内の空間221は、楔部材30bの上下方向の移動を許容する。ダイクッションプレート22a,22b内の空間221及び金型24の貫通口241は、回転軸方向における工具40の移動を許容する。
【0047】
図5は、工具40の上面図(平面図)及び背面図である。
図5では、工具40のうち、カウンターウエイト14(
図4)の加工に寄与する部分を示す。
図5を参照して、工具40は、概ね板状をなす。工具40は、主面41と、裏面42と、側面43と、突起部44と、を有する。
【0048】
主面41は、工程b)の加工を行う際、カウンターウエイト14(
図4)に対向する面である。裏面42は、主面41と反対向きに配置される。主面41及び裏面42は、概略板状の工具40における幅広面である。
【0049】
主面41は、幅方向の両端に側縁411を有する。側縁411の各々には、側面43が接続されている。各側面43は、主面41から裏面42に向かい、幅方向の内側に傾斜する。工具40の両側面43のうち、一方の側面43は、上側の楔部材30aの傾斜面311(
図4)に接触し、他方の側面43は、下側の楔部材30bの傾斜面311(
図4)に接触する。側面43は、接触する傾斜面311に対応した勾配を有する。側面43により、工具40の幅は、主面41から裏面42に向かって徐々に小さくなっている。
【0050】
突起部44は、主面41上に形成される。突起部44は、主面41上において、カウンターウエイト14(
図4)の幅方向の中央部に対応する位置に配置されている。突起部44は、主面41上で幅方向に対して垂直な方向、すなわちカウンターウエイト14の長手方向に沿って延びている。本実施形態では、突起部44は、主面41の全体にわたり、カウンターウエイト14の長手方向に延びている。ただし、突起部44の長さは、クランク軸の設計要件等に応じて適宜変更することができる。
【0051】
突起部44の横断面(幅方向に沿う断面)は、実質的に三角形状である。突起部44は、三角形の頂点部分に相当する稜線441と、三角形の斜辺部分に相当する側面442と、を有する。突起部44は、稜線441に対して対称である。稜線441には、R面取り加工が施されていてもよい。側面442の各々は、稜線441から幅方向の外側、且つ主面41側に向かって下降傾斜する。
【0052】
突起部44は、全体にわたって概ね一定の高さHを有する。高さHは、主面41から稜線441までの、主面41に垂直な方向における距離である。高さHは、カウンターウエイト14の最大厚みAt(
図3)の1/2以下であることが好ましい(H≦At/2)。
【0053】
突起部44は、全体にわたって概ね一定の幅Wを有する。幅Wは、クランク軸の設計要件等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、10mm~60mmとすることができる。
【0054】
各側面442の角度θは、65°~85°であることが好ましい。角度θは、主面41に垂直な方向に対し、側面442がなす角度である。
【0055】
次に、
図6A~
図6Cを参照して、加工装置20を用いてカウンターウエイト14を加工する方法について説明する。
図6A~
図6Cは、工程b)でカウンターウエイト14を加工する際の加工装置20の動作を説明するための模式図である。
【0056】
図6Aに示すように、まず、バリなしの仕上げ鍛造品10を加工装置20内に配置する。仕上げ鍛造品10は、下型24bの型割り面上にカウンターウエイト14の縦軸Z(
図2)が位置するように、下型24bのキャビティ上に載置される。このとき、カウンターウエイト14は、回転軸X1の手前又は奥に位置付けられる。
【0057】
図6Aの例では、第3~第6カウンターウエイト14c~14fが回転軸X1よりも手前に位置付けられている。このため、第3~第6カウンターウエイト14c~14fに対応する工具40の主面41及び突起部44(
図5)も、回転軸X1の手前に配置される。残りのカウンターウエイト14は、回転軸X1よりも奥に位置付けられている。よって、残りのカウンターウエイト14に対応する工具40の主面41及び突起部44は、回転軸X1の奥に配置される。
【0058】
加工装置20内に仕上げ鍛造品10を配置したら、スライド21aを下降させる。これに伴い、
図6Bに示すように、ダイクッションプレート22a及び上型24aが下降し、上型24aが下型24bに接触する。すなわち、金型24が閉じられ、仕上げ鍛造品10の必要箇所が金型24によって圧下される。
【0059】
スライド21aをさらに下降させると、伸張状態にあった弾性部材23aが圧縮される。これにより、
図6Cに示すように、楔部材30aが対応する工具40に押し付けられ、楔部材30aが工具40の側面43に対して摺動する。楔部材30aの傾斜面311は、カウンターウエイト14の幅方向の内側、つまり下方に向かい、工具40の側面43上を摺動する。
【0060】
スライド21aの下降に伴って負荷される荷重により、伸張状態にあった弾性部材23bも圧縮され、工具40が下側の楔部材30bに押し付けられる。これにより、工具40の側面43は、下方に向かい、楔部材30bの傾斜面311上を摺動する。すなわち、相対的には、楔部材30bがカウンターウエイト14の幅方向の内側に向かい、工具40の側面43に対して摺動する。
【0061】
楔部材30a,30bが工具40の各側面43上を摺動することにより、工具40がカウンターウエイト14側に移動し、カウンターウエイト14に押し付けられる。本実施形態では、カウンターウエイト14のクランクジャーナル11側の表面に工具40が押し付けられる。
【0062】
図7は、工具40によるカウンターウエイト14の加工の様子を説明するための模式図である。工具40をカウンターウエイト14に接近させると、主面41上の突起部44がカウンターウエイト14の表面に押し当てられる。カウンターウエイト14の材料は、突起部44によって押し分けられ、幅方向の中央部から両端部に向かって順次流動する。これにより、カウンターウエイト14の幅方向の中央部が薄肉化される。
【0063】
図6Cに戻り、工具40をカウンターウエイト14に所定時間押し付けた後、スライド21aを上昇させる。これにより、上側の弾性部材23aが伸張し、楔部材30aが工具40から後退する。スライド21aをさらに上昇させると、ダイクッションプレート22a及び上型24aが上昇する。これに伴い、下側の弾性部材23bが伸張し、ダイクッションプレート22bが若干上昇する。工具40は、楔部材30bの傾斜面311に沿い、上方に移動しつつカウンターウエイト14から離間する。加工装置20が
図6Aに示す初期状態に戻ったら、加工装置20から仕上げ鍛造品10を取り出す。これにより、工程b)におけるカウンターウエイト14の加工、及び仕上げ鍛造品10の整形が完了する。
【0064】
図8及び
図9は、それぞれ、工程b)の後のクランクウェブ15の正面図及び底面図である。
図8及び
図9を参照して、カウンターウエイト14のクランクジャーナル11側の表面141のうち、幅方向の中央部には、凹部143が形成されている。すなわち、工程b)の後のカウンターウエイト14では、表面141から抜け勾配がなくなり、幅方向の中央部が薄肉化されている。凹部143は、工具40の突起部44(
図5)の形状に対応した形状を有する。
【0065】
[実施形態の効果]
本実施形態に係るクランク軸の製造方法では、仕上げ鍛造品10からバリを除去した後、この仕上げ鍛造品10の各カウンターウエイト14に対し、工具40の突起部44を押し付ける。これにより、カウンターウエイト14において、幅方向の中央部の材料が両端部側に流動し、幅方向の中央部が薄肉化される。よって、カウンターウエイト14の重心が回転軸X1から遠ざかり、回転軸X1周りにおけるカウンターウエイト14のモーメントが大きくなる。このため、カウンターウエイト14を増量せずに所望のモーメントを確保することが可能となり、カウンターウエイト14の軽量化及びモーメント確保の双方を実現することができる。
【0066】
本実施形態では、工具40の突起部44が実質的に三角形状の横断面を有する。よって、突起部44をカウンターウエイト14に押し付けたとき、カウンターウエイト14の材料が突起部44によって案内される。より具体的には、カウンターウエイト14の材料は、三角形の斜面部分に相当する両側面442に案内され、幅方向の外側に向かって円滑に流動する。このため、工程b)において、カウンターウエイト14を狙いの形状に容易に成形することができる。
【0067】
本実施形態では、楔部材30a,30bの傾斜面311に対応して、工具40の両側面43を傾斜させている。このため、楔部材30a,30bを工具40の両側から差し込んで両側面43に対して相対的に摺動させるだけで、工具40をカウンターウエイト14側に移動させることができる。よって、工程b)におけるカウンターウエイト14の加工を容易に行うことができる。
【0068】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0069】
例えば、本実施形態では、工程b)において、カウンターウエイト14のクランクジャーナル11側の表面141のみを加工する。しかしながら、工程b)では、カウンターウエイト14のクランクピン12側の表面142のみを加工してもよいし、両表面141,142を加工してもよい。工程b)においてカウンターウエイト14の両表面141,142を加工する場合、カウンターウエイト14の両側に工具40を配置し、カウンターウエイト14の表面141,142各々に工具40の突起部44を押し付ければよい。
【0070】
本実施形態では、工程b)は、一般的な鍛造クランク軸の製造プロセスにおける整形工程と同時に実施されている。しかしながら、工程b)は、整形工程とは別工程であってもよい。例えば、バリなしの仕上げ鍛造品10に対して工程b)を実施した後、通常の整形工程を実施することもできる。
【符号の説明】
【0071】
10:仕上げ鍛造品
11:クランクジャーナル
12:クランクピン
13:クランクアーム
30a,30b:楔部材
40:工具
41:主面
42:裏面
43:側面
44:突起部