(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】有機過酸化物含有マスターバッチ、ゴム組成物、およびゴム架橋物
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20230314BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C08J3/22 CES
C08J3/24 Z
(21)【出願番号】P 2019062161
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舘 佳奈子
(72)【発明者】
【氏名】坂田 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】高村 真澄
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-526732(JP,A)
【文献】特開2001-151898(JP,A)
【文献】特表平10-505621(JP,A)
【文献】特開2000-297119(JP,A)
【文献】特開平06-001878(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104672630(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/22
C08J 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)と、有機過酸化物(B)と、シリカ(C)と、炭酸カルシウム(D)を含む有機過酸化物含有マスターバッチであって、
前記エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)は、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が30以上150以下であり、
前記シリカ(C)は、pHが7.0以上8.5以下であり、
前記有機過酸化物含有マスターバッチ中、前記エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)の割合が
20質量%以上55質量%以下であり、前記有機過酸化物(B)の割合が10質量%以上35質量%以下であり、前記シリカ(C)の割合が8質量%以上25質量%以下であり、前記炭酸カルシウム(D)の割合が8質量%以上45質量%以下であることを特徴とする有機過酸化物含有マスターバッチ。
【請求項2】
前記シリカ(C)と前記炭酸カルシウム(D)の質量比(前記シリカ(C)/前記炭酸カルシウム(D))が0.3以上2以下であることを特徴とする請求項1記載の有機過酸化物含有マスターバッチ。
【請求項3】
前記有機過酸化物(B)は、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、およびペルオキシモノカーボネート類からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1または2記載の有機過酸化物含有マスターバッチ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の有機過酸化物含有マスターバッチと、熱可塑性エラストマーおよび/またはゴムを含むことを特徴とするゴム組成物。
【請求項5】
前記有機過酸化物含有マスターバッチが、前記熱可塑性エラストマーおよび/またはゴム100質量部に対して、0.2質量部以上15質量部以下であることを特徴とする請求項4記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項4または5記載のゴム組成物から得られることを特徴とするゴム架橋物。
【請求項7】
ブレーキキャップであることを特徴とする請求項6記載のゴム架橋物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機過酸化物含有マスターバッチ、ゴム組成物、およびゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーやゴムを含むゴム組成物から得られるゴム架橋物は、安価で、且つ弾性やシール性、圧縮永久歪などの物性に優れることから、自動車部品や電子機器、建材などに広く使用されている。このようなゴム組成物の架橋には、架橋剤として有機過酸化物が用いられる。
【0003】
上記のゴム組成物を架橋するためには、予めゴム組成物に有機過酸化物を混練し、均一に分散させる必要がある。しかしながら、有機過酸化物は、常温で液体、または混練温度以下の融点であるものが多く、混練時の作業性、およびゴム組成物への分散性が悪い。
【0004】
よって、これら問題を解決するため、上記のような有機過酸化物は、通常、エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム、シリカ、炭酸カルシウム、クレー、タルクなどの不活性充填剤と配合して、板状または粒状などに成形した有機過酸化物含有マスターバッチとして使用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような有機過酸化物含有マスターバッチは、製造後からゴム組成物の架橋剤として使用されるまでの間、輸送や貯蔵を必要とする場合が多く、製造から一定期間、純度変化をしないことが求められる。一方、上記の特許文献1で具体的に開示された有機過酸化物含有マスターバッチは、40℃で4週間保管した場合、純度保持率が98%程度であり、一定の純度低下が見られる。特に夏季の倉庫内は、40℃以上になることもあるため、有機過酸化物含有マスターバッチには、より優れた貯蔵安定性が要求されている。
【0007】
また、ゴム組成物には、低硬度化や加工性向上を目的として、プロセスオイルなどの可塑剤などを含有するものがある。しかしながら、可塑剤などは、ゴム架橋物からブリードアウトすることにより、最終製品の品質に悪影響を与える場合がある。よって、有機過酸化物含有マスターバッチは、ゴム組成物に可塑剤などを可能な限り配合しなくてよいように、低硬度およびゴム組成物に対する良好な加工性を有するものが求められている。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑み、優れた貯蔵安定性、低硬度、およびゴム組成物に対する良好な加工性を有する有機過酸化物含有マスターバッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)と、有機過酸化物(B)と、シリカ(C)と、炭酸カルシウム(D)を含む有機過酸化物含有マスターバッチであって、前記シリカ(C)は、pHが7.0以上8.5以下であり、前記有機過酸化物含有マスターバッチ中、前記エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)の割合が10質量%以上55質量%以下であり、前記有機過酸化物(B)の割合が10質量%以上35質量%以下であり、前記シリカ(C)の割合が8質量%以上25質量%以下であり、前記炭酸カルシウム(D)の割合が8質量%以上45質量%以下である有機過酸化物含有マスターバッチに関する。
【0010】
また、本発明は、前記有機過酸化物含有マスターバッチと、熱可塑性エラストマーおよび/またはゴムを含むゴム組成物に関する。
【0011】
さらに、本発明は、前記ゴム組成物から得られるゴム架橋物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機過酸化物含有マスターバッチにおける効果の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。ただし、本発明は、この作用メカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0013】
本発明の有機過酸化物含有マスターバッチは、エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)と、有機過酸化物(B)と、シリカ(C)と、炭酸カルシウム(D)を含む。本発明の有機過酸化物含有マスターバッチは、上記の特許文献1で具体的に開示された有機過酸化物含有マスターバッチとは異なり、シリカ(C)として、pHが7.0以上8.5以下であるシリカを用いているため、有機過酸化物(B)はマスターバッチ中の酸性成分による分解が抑制できることから、優れた貯蔵安定性を有する。また、本発明の有機過酸化物含有マスターバッチは、特定量の、上記の(A)~(D)成分を含有するため、低硬度およびゴム組成物に対する良好な加工性を有する。
【0014】
とくに、自動車などのガスケット、オイルシール、O-リング、ブレーキキャップなどの部材では、当該部材(ゴム架橋物)に可塑剤などが含まれる場合、例えば、ブレーキキャップ中の可塑剤などがブレーキオイル中に混入し、ブレーキオイルの汚染や油圧に悪影響を与えるなどの可能性がある。よって、本発明の有機過酸化物含有マスターバッチは、低硬度およびゴムに対する良好な加工性を有するため、上記のような部材に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の有機過酸化物含有マスターバッチは、エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)と、有機過酸化物(B)と、シリカ(C)と、炭酸カルシウム(D)を含む。
【0016】
<エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)>
前記エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)は、エチレン-プロピレン共重合体(EPM)および/またはエチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)であり、当該共重合体の重合方法は公知の手法を適用できる。前記共重合体中のプロピレン含有量は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。また、前記共重合体は、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が30以上であることが好ましい。前記共重合体は、ムーニー粘度およびプロピレン含有量の上限はとくに限定されないが、一般的に入手可能な共重合体は、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が150以下程度であり、プロピレン含有量が50質量%以下程度である。前記エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0017】
前記エチレン・プロピレン・ジエンゴムにおいて、構成単位のジエンモノマーとしては、特に限定されず、例えば、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-プロピリデン-5-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの環状ジエン類;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,7-オクタジエンなどの鎖状非共役ジエン類などが挙げられる。
【0018】
前記エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)の市販品としては、可塑剤などを含有する油展グレードと、可塑剤などを含有しない非油展グレードがあり、後述の熱可塑性エラストマーおよび/またはゴムに求められる物性によって適宜選択すればよい。前記エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)の非油展グレードの市販品としては、例えば、商品名:「三井EPT3045」、「三井EPTX―4010M」、「三井EPT4021」、「三井EPT4045」、「三井EPT4045M」、「三井EPT8030M」(以上、三井化学製のEPDM)、商品名:「JSREP33」、「JSRT7241」、「JSREP21」、「JSREP51」、「JSREP22」、「JSREP123」(以上、JSR社製のEPDM)、商品名:「三井EPT0045」(以上、三井化学製のEPM)、商品名:「JSREP11」(以上、JSR製のEPM)などが挙げられる。
【0019】
<有機過酸化物(B)>
前記有機過酸化物(B)は、後述の熱可塑性エラストマーおよび/またはゴムの架橋形態に応じて適宜選択すればよい。前記有機過酸化物(B)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0020】
前記有機過酸化物(B)としては、例えば、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、ヒドロペルオキシド類、ペルオキシモノカーボネート類、ペルオキシジカーボネート類などが挙げられるが、熱分解性の観点から、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、ペルオキシモノカーボネート類が好ましい。前記パーオキシケタール類としては、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルペルオキシ)ブタン、n-ブチル4,4-ジ-(t-ブチルペルオキシ)バレラート、2,2-ジ(4,4-ジ-(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキシル)プロパンなどが挙げられる。また、前記ジアルキルパーオキサイド類としては、例えば、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシンなどが挙げられる。また前記ペルオキシモノカーボネート類としては、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネートなどが挙げられる。これらの中でも、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルペルオキシドが好ましい。
【0021】
前記有機過酸化物(B)は、安定性の観点から、10時間半減期温度(有機過酸化物を0.2モル/L濃度としたベンゼン溶液中で熱分解したとき、有機過酸化物の濃度が10時間で半分になる温度)が60℃以上であることが好ましい。また、前記有機過酸化物(B)は、0℃~30℃条件下で、固体または液体であるものが好ましい。
【0022】
<シリカ(C)>
前記シリカ(C)は、pHが7.0以上8.5以下である。前記シリカ(C)は、有機過酸化物含有マスターバッチ中の有機過酸化物の分解がより抑制できる観点から、pHが7.5以上8.5以下であることが好ましい。前記pHは、ISO787-9に準じて求められ、具体的には、ガラス容器に、水を用いて試験するシリカの質量分率10%懸濁液を調製し、容器に栓をして1分間激しく振とう後、5分間静置した後に栓を取り外し、懸濁液のpHを0.1の単位で測定して求める。前記シリカ(C)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0023】
前記シリカ(C)は、数平均粒子径は5μm以上120μm以下であることが好ましい。前記シリカ(C)の数平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により得られるシリカ(C)の分散粒子像から測定できる。具体的には、視野内で確認可能な独立した粒子の数を400μm2(縦20μm、横20μm)以上の範囲でカウントし、少なくとも合計100個の粒子径を目盛り付き定規で測定し、数平均により算出した数平均粒子径を意味する。但し、SEM観察により得られる粒子像が円形でない場合、粒子の占める面積を算出した後、同面積を有する円形に置き換えた時の円の直径を粒子径と称する。また、数平均粒子径に対する標準偏差は、前記数平均粒子径を測定するために得られたそれぞれの粒径の標準偏差(σ)を算出し、数平均粒子径あたりに直すことで求められる。
【0024】
前記シリカ(C)は、pHが7.0以上8.5以下であれば、湿式でも乾式であってもよい。また、比表面積、吸油量、表面修飾の有無などの基本性能はとくに限定されるものではない。一般的に、比表面積が40~140m2/g程度、細孔容積が0.1~0.6ml/g程度のものが使用される。
【0025】
前記シリカ(C)の市販品としては、例えば、商品名:「ニップシールER」、「ニップシールER-R」(以上、東ソーシリカ製)、商品名:「トクシール532」(オリエンタルシリカ製)、商品名:「ゼオシール500V」(多木化学製)、商品名:「カープレックス♯67」(EVONIK製)などが挙げられる。
【0026】
<炭酸カルシウム(D)>
前記炭酸カルシウム(D)は、公知のものが使用でき、重質炭酸カルシウムであってもよく、軽質炭酸カルシウムであってもよい。また、前記炭酸カルシウム(D)は、その形状に制限はなく、表面処理を施したものであってもよい。当該表面処理としては、特に限定されず、シランカップリング剤処理、ステアリン酸カルシウムなどによる金属石鹸処理などが挙げられる。前記炭酸カルシウム(D)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0027】
前記炭酸カルシウム(D)は、数平均粒子径は1μm以上50μm以下であることが好ましい。当該炭酸カルシウム(D)の数平均粒子径および数平均粒子径に対する標準偏差は、上記の前記シリカ(C)の数平均粒子径および数平均粒子径に対する標準偏差と同様の方法で求められる。
【0028】
以下、本発明の有機過酸化物含有マスターバッチの各成分の配合量について説明する。
【0029】
前記有機過酸化物含有マスターバッチ中、前記エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)の割合は、10質量%以上55質量%以下である。前記有機過酸化物含有マスターバッチ中、前記エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)の割合は、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、そして、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
前記有機過酸化物含有マスターバッチ中、前記有機過酸化物(B)の割合は、10質量%以上35質量%以下である。前記有機過酸化物含有マスターバッチ中、前記有機過酸化物(B)の割合は、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、そして、30質量%以下であることが好ましい。
【0031】
前記有機過酸化物含有マスターバッチ中、前記シリカ(C)の割合は8質量%以上25質量%以下である。前記有機過酸化物含有マスターバッチ中、前記シリカ(C)の割合は、10質量%以上であることが好ましく、そして、20質量%以下であることが好ましい。
【0032】
前記有機過酸化物含有マスターバッチ中、前記炭酸カルシウム(D)の割合が8質量%以上45質量%以下である。前記有機過酸化物含有マスターバッチ中、前記炭酸カルシウム(D)の割合は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、そして、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
前記シリカ(C)と前記炭酸カルシウム(D)の質量比(前記シリカ(C)/前記炭酸カルシウム(D))が0.3以上2以下であることが好ましい。前記シリカ(C)と前記炭酸カルシウム(D)の質量比(前記シリカ(C)/前記炭酸カルシウム(D))は、マスターバッチ中からの有機過酸化物の流出を防止する観点、およびシリカ(C)の分散性を向上させ硬度を低下させる観点から、0.5以上であることがより好ましく、そして、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。
【0034】
<有機過酸化物含有マスターバッチの製造方法>
本発明の有機過酸化物含有マスターバッチの製造方法は、上記の各成分を混合することにより得ることができる。混練方法は、エラストマーの加工で一般的に用いられている公知の手法を使用することができ、例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機、トランスファーミキサーなどの混練機が使用可能であり、ニーダーが好ましい。前記有機過酸化物含有マスターバッチは、形状が特に限定されないが、ゴム組成物の架橋時のハンドリング性が良好である観点から、板状または粒状が好ましい。形状加工の方法は、公知の手法を使用することができ、例えば、ペレタイザー、裁断機などが使用される。
【0035】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、前記有機過酸化物含有マスターバッチと、熱可塑性エラストマーおよび/またはゴムを含む。
【0036】
前記熱可塑性エラストマーおよび/またはゴムは、前記有機過酸物による架橋を必要とする公知のものが使用でき、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、天然ゴム(NR)、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブチレン、ポリイソブチレン、ポリアクリル酸エステル、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(NBR)、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン3元共重合体、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、塩素化ポリエチレンなどが挙げられる。前記熱可塑性エラストマーおよび/またはゴムは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0037】
前記ゴム組成物において、前記有機過酸化物含有マスターバッチは、前記熱可塑性エラストマーおよび/またはゴム100質量部に対して、0.2質量部以上15質量部以下であることが好ましい。前記有機過酸化物含有マスターバッチは、前記熱可塑性エラストマーおよび/またはゴム100質量部に対して、ゴム組成物の架橋を十分に進行させる観点から、0.3質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましく、そして、適度な架橋によってゴム架橋物の物性を向上させる観点から、10質量部以下であることが好ましく、6質量部以下であることがより好ましい。
【0038】
本発明のゴム組成物は、エラストマーの加工で一般的に使用される充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、難燃化剤、カーボンブラックなどの顔料、染料、プロセスオイルなどの可塑剤、ステアリン酸などの滑剤などのその他の成分を任意の割合で配合することができる。ただし、後述するゴム架橋物をブレーキキャップなどの可塑剤などの使用が望まれない部材に使用する場合、可塑剤、および滑剤の配合は必要最小限に留めることが好ましい。ゴム組成物の加工上などの諸事情により可塑剤および滑剤を含む場合、その含有量は5質量%以下にすることが好ましく、3質量%以下にすることがより好ましく、1質量%以下にすることがさらに好ましい。前記滑剤としては、例えば、炭素数12~24の脂肪酸または脂肪酸誘導体、あるいは融点70~120℃の炭化水素系のワックスが挙げられる。前記その他の成分は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。なお、前記その他の成分は、予め、前記有機過酸化物含有マスターバッチに配合してもよい。
【0039】
<ゴム架橋物>
本発明のゴム架橋物は、前記ゴム組成物を架橋することにより得られる。架橋方法は、公知の方法で実施できるが、例えば、オープンロール、ニーダーなどの混合機で上記の各成分を混練して、ゴム組成物を製造した後、プレス、押出機などにより通常140~200℃で5~30分間熱処理することにより架橋できるが、これら架橋条件は使用される有機過酸化物の種類および架橋しようとするエラストマーの種類、必要とする物性などによって適宜決められる。
【0040】
本発明のゴム架橋物は、優れた貯蔵安定性、低硬度、およびゴム組成物に対する良好な加工性を有する有機過酸化物含有マスターバッチを含むため、自動車などのガスケット、オイルシール、O-リング、ブレーキキャップなどの部材に好適である。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0042】
<実施例1~8、比較例1~8>
<使用したシリカ>
各実施例および比較例で使用するシリカについて、上述の測定方法にて求めたpH、数平均粒子径(μm)、およびその数平均粒子径に対する標準偏差(%)を表1に示す。なお、走査型電子顕微鏡(SEM)は、日立ハイテク製の「S-3000N」を用い、各シリカを金蒸着することで測定した。
【0043】
【0044】
表1中、
シリカ1は、商品名:「ニップシールER」(東ソーシリカ製);
シリカ2は、商品名:「ニップシールER-R」(東ソーシリカ製);
シリカ3は、商品名:「ゼオシール500V」(多木化学製);
シリカ4は、商品名:「トクシールUR-T」(オリエンタルシリカ製);
シリカ5は、商品名:「シペルナート50S」(EVONIK製);を示す。
【0045】
<有機過酸化物含有マスターバッチの製造>
各実施例および比較例において、表2に示す原料を配合(単位:質量%)し、ニーダーで均一に混練りしたのち、ロール機で延伸し板状に成形した。次いで、室温まで冷却することにより、有機過酸化物含有マスターバッチを製造した。
【0046】
<貯蔵安定性の評価>
貯蔵安定性の評価は、上記で得られた有機過酸化物含有マスターバッチを、40℃で4週間貯蔵した後、目視にて外観、および有機過酸化物(B)のブリードアウトの有無を評価し、PO純度をGCにて測定した。GC測定は、有機過酸化物マスターバッチ中の有機過酸化物をシクロヘキサンにて抽出し、その抽出液をフィルター濾過したサンプルをGCに打ち込み、100℃から200℃まで昇温することで分析した。この測定結果より、PO純度保持率(%)を下記式(1)にて算出した。
【数1】
【0047】
<硬度の評価>
硬度の評価は、JIS K 6253-3:2012に準じて、自動定圧荷重器「GS―610」(TECLOCK製)に、デュロメータ硬度計(タイプE、TECLOCK製)を取り付け測定した。
【0048】
<分散性の評価>
分散性の評価は、上記で得られた有機過酸化物含有マスターバッチを、プレス機を用いて薄膜化し、目視で凝集物を確認した。凝集物の直径が1mm以上のものを×、0.3mm以上1mm未満のものを○、0.3mm未満もしくは凝集物が確認されない場合を◎とした。
【0049】
【0050】
表2中、
EPDMは、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(三井化学製、商品名「EPT4045」、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が45、プロピレン含有量が37.9%);
EPMは、エチレン-プロピレン共重合体(JSR製、商品名「EP11」、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が40、プロピレン含有量が48.0%);
有機過酸化物1は、ジクミルペルオキシド(10時間半減期温度が116℃、純度が99.9%);
有機過酸化物2は、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(10時間半減期温度が119℃、純度が99.0%);
有機過酸化物3は、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン(10時間半減期温度が90.7℃、純度が94.1%);
軽質炭酸カルシウムは、軽質炭酸カルシウム(丸尾カルシウム製、商品名「軽質炭酸カルシウム」、数平均粒子径が2.0μm);を示す。
【0051】
実施例1~8で得られた有機過酸化物含有マスターバッチは、低硬度および高いPO純度保持率(%)を達成し、さらに、外観の着色や有機過酸化物(B)のブリードアウトも見られず、優れた貯蔵安定性を有していた。
【0052】
比較例1および2で得られた有機過酸化物含有マスターバッチは、pH7.0未満のシリカ(C)を使用したため、PO純度保持率(%)の低下がみられ、黄色に着色した。
【0053】
比較例3で得られた有機過酸化物含有マスターバッチは、有機過酸化物(B)の配合割合が35質量%超であるため、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)とシリカ(C)が有機過酸化物(B)を保持しきれなくなり、有機過酸化物(B)がブリードアウトして、PO純度保持率(%)が低下した。
【0054】
比較例4で得られた有機過酸化物含有マスターバッチは、炭酸カルシウム(D)の配合割合が8質量%未満であるため、硬度が高くなり分散性が悪化した。
【0055】
比較例5で得られた有機過酸化物含有マスターバッチは、シリカ(C)の配合割合が8質量%未満であるため、エチレン・プロピレンゴム(A)とシリカ(C)が有機過酸化物(B)を保持しきれなくなり、有機過酸化物(B)がブリードアウトして、PO純度保持率(%)が低下した。
【0056】
比較例6で得られた有機過酸化物含有マスターバッチは、シリカ(C)の配合割合が25質量%超であるため、硬度が高くなり分散性が悪化した。
【0057】
比較例7で得られた有機過酸化物含有マスターバッチは、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(A)の配合割合が10質量%未満であるため、成形できなかった。
【0058】
比較例8で得られた有機過酸化物含有マスターバッチは、エチレン・プロピレンゴム(A)の配合割合が55質量%超であるため、ニーダーからコンパウンドが排出できなかった。また、加工時の発熱が高くなることで、PO純度保持率(%)が低下した。
【0059】
<ゴム組成物の製造>
各実施例および比較例において、表3に示す原料を配合(単位:質量部)し、ニーダーで均一に混練りしたのち、ロール機で延伸し板状に成形した。次いで、室温まで冷却することにより、ゴム組成物を製造した。
【0060】
<外観の評価、および加工性の評価>
外観の評価は、上記で得られたゴム組成物の外観を目視にて評価した。外観が無色であるものを〇、黄色に着色しているものを×とした。また、加工性に問題のなかったものを〇、何らかの問題があったものを×とした。
【0061】
<ゴム架橋物の製造>
上記で得られたゴム組成物を金型にいれ、180℃で15分間加熱することでブレーキキャップ状のゴム架橋物を製造した。
【0062】
<オイル漏れの評価>
得られたゴム架橋物を直径5cm、厚み5mmの円柱形に切り取り、切り取ったゴム架橋物でプロセスオイル(出光興産製、商品名「ダイアナプロセスオイルPW-32」)が入った口径3.5cmのガラス瓶に蓋をし、逆さにして10秒間静止した後、プロセスオイルの漏れの有無を目視で確認した。これを6回繰り返し、一度でも漏れが確認されたものを○、確認されなかったものを×とした。
【0063】
【0064】
表3中、
EPDMは、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(三井化学製、商品名「EPT4045」、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が45、プロピレン含有量が37.9%);
EPMは、エチレン-プロピレン共重合体(JSR製、商品名「EP11」、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が40、プロピレン含有量が48.0%);
NBRは、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ランクセス製、商品名「ペルブナン3945F」ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が45、ACNが39.0%);
IRは、イソプレンゴム(JSR製、商品名「IR2200」ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が82、シス1,4-結合が98%);
カーボンブラックは、カーボンブラック(東海カーボン製、商品名「シースト3」);
老化防止剤は、1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン(大内新興化学製、商品名「ノクラック224」);を示す。
【0065】
実施例1-1~8-1で得られたゴム組成物は、外観の着色がみられず、ゴム組成物に対する加工性に問題がなく、また、これらのゴム架橋物は、オイル漏れがなく、良好な結果を示した。
【0066】
比較例1-1および2-1で得られたゴム組成物は、使用した有機過酸化物含有マスターバッチが黄色に着色しているため、ゴム組成物も黄色に着色した。
【0067】
比較例3-1および5-1で得られたゴム組成物は、使用した有機過酸化物含有マスターバッチは有機過酸化物(B)がブリードアウトしているため、ニーダー、ロール機、架橋時のプレス機の金型などが汚れるため、加工性が不良であった。
【0068】
比較例4-1および6-1で得られたゴム組成物は、使用した有機過酸化物含有マスターバッチの硬度が高いため、混練時の加工性が不良であった。