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特許7243405冷却ロール、双ロール式連続鋳造装置、薄肉鋳片の鋳造方法、及び、冷却ロールの製造方法
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  • 特許-冷却ロール、双ロール式連続鋳造装置、薄肉鋳片の鋳造方法、及び、冷却ロールの製造方法 図1
  • 特許-冷却ロール、双ロール式連続鋳造装置、薄肉鋳片の鋳造方法、及び、冷却ロールの製造方法 図2
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  • 特許-冷却ロール、双ロール式連続鋳造装置、薄肉鋳片の鋳造方法、及び、冷却ロールの製造方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】冷却ロール、双ロール式連続鋳造装置、薄肉鋳片の鋳造方法、及び、冷却ロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20230314BHJP
   B22D 11/059 20060101ALI20230314BHJP
   C23C 4/11 20160101ALI20230314BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
B22D11/059 110D
C23C4/11
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019077010
(22)【出願日】2019-04-15
(65)【公開番号】P2020175394
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 浩太
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直嗣
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-047748(JP,A)
【文献】特開平08-267183(JP,A)
【文献】特開平10-211548(JP,A)
【文献】特開2019-217521(JP,A)
【文献】特開2001-219249(JP,A)
【文献】特開昭62-006738(JP,A)
【文献】特開2001-314944(JP,A)
【文献】特開昭55-165261(JP,A)
【文献】特開昭61-172654(JP,A)
【文献】特開2014-221937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
B22D 11/059
C23C 4/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの外周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置に用いられる冷却ロールであって、
ロール本体と、このロール本体の外周面に形成された溶射層と、を有し、前記溶射層は、チタニア含有酸化物で構成されており、
前記チタニア含有酸化物におけるチタニアの含有量(質量比)をW、前記チタニアの平滑面における溶融金属との接触角θ、前記チタニア以外の酸化物の含有量(質量比)をWMi、前記チタニア以外の酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θMiとして、前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θが以下の(1)式で定義され、
(1)式:θ=W×θ+Σ(WMi×θMi
この前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θと、前記溶射層の粗化率rと、前記溶融金属の凝固遅れが生じない限界接触角αとが、以下の(2)式を満足するように、前記溶射層の表面の粗化率rが調整されていることを特徴とする冷却ロール。
(2)式:cos-1(r×cosθ)<α
【請求項2】
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置であって、
請求項1に記載の冷却ロールを備えていることを特徴とする双ロール式連続鋳造装置。
【請求項3】
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の鋳造方法であって、
請求項1に記載の冷却ロールを用いることを特徴とする薄肉鋳片の鋳造方法。
【請求項4】
回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの外周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置に用いられる冷却ロールの製造方法であって、
前記冷却ロールは、ロール本体と、このロール本体の外周面に形成された溶射層と、を有し、前記溶射層は、チタニア含有酸化物で構成されており、
前記チタニア含有酸化物におけるチタニアの含有量(質量比)をW、前記チタニアの平滑面における溶融金属との接触角θ、前記チタニア以外の酸化物の含有量(質量比)をWMi、前記チタニア以外の酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θMiとして、前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θが以下の(1)式で定義され、
(1)式:θ=W×θ+Σ(WMi×θMi
この前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θと、前記溶射層の粗化率rと、前記溶融金属の凝固遅れが生じない限界接触角αとが、以下の(2)式を満足するように、前記溶射層の表面の粗化率rを調整することを特徴とする冷却ロールの製造方法。
(2)式:cos-1(r×cosθ)<α
【請求項5】
前記ロール本体の外周面の粗化率を調整するロール本体表面処理工程を有し、粗化率が調整された前記ロール本体の外周面に溶射処理を行うことにより、前記溶射層の粗化率を調整することを特徴とする請求項4に記載の冷却ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの外周面に凝固シェルを形成・成長させて、薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置において用いられる冷却ロール、この冷却ロールを備えた双ロール式連続鋳造装置、薄肉鋳片の鋳造方法、冷却ロールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する方法として、内部に水冷構造を有し、互いに逆方向に回転する一対の冷却ロールを備え、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ロールの外周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ロールの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をロールキス点で圧着して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置が提供されている。このような双ロール式連続鋳造装置は、各種金属において適用されている。
【0003】
上述の双ロール式連続鋳造装置においては、冷却ロールの上方に配置された溶融金属容器から浸漬ノズルを介して溶融金属プール部に溶融金属を連続的に供給する。溶融金属は、溶融金属プール部の中央部に配置された浸漬ノズルから冷却ロールに向けて吐出され、冷却ロールに沿って一対のサイド堰側へとそれぞれ流れていく。回転する冷却ロールの外周面上では溶融金属が凝固成長して凝固シェルを形成し、各冷却ロールの外周面の凝固シェルがキス点で圧着される。
【0004】
ここで、上述の双ロール式連続鋳造装置においては、冷却ロールの冷却能が高く、冷却ロールと凝固シェルとが密着した部分で局所的に強冷却となって凝固が進行してしまうため、薄肉鋳片に熱ひずみが生じ、この熱ひずみに起因して、薄肉鋳片に割れや変形が生じることがあった。
そこで、例えば特許文献1-3には、冷却ロールの外周面に酸化物からなる溶射層を形成することにより、冷却ロールの外周面における緩冷却化を図り、熱ひずみに起因した割れや変形を抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭59-163056号公報
【文献】特開平08-047748号公報
【文献】特開平08-267183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の双ロール式連続鋳造装置においては、粗大な結晶組織を有する薄肉鋳片を製造することが可能となる。これにより、例えばSiを質量比で3%以上含む高Si鋼等の特性向上を図ることができる。ここで、双ロール式連続鋳造装置において製造される薄肉鋳片の結晶粒を均一に粗大化させるためには、緩冷却化する必要がある。
しかしながら、上述の特許文献1-3に示すように、冷却ロールの外周面に酸化物からなる溶射層を形成した場合には、酸化物と溶鋼との濡れ性が悪いため、凝固核起点が少なくなり、凝固が不均一になりやすくなる。このため、均一で粗大な結晶組織を有する薄肉鋳片を、安定して製造することはできなかった。
【0007】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、均一で粗大な結晶組織を有する薄肉鋳片を、安定して製造することが可能な冷却ロール、この冷却ロールを備えた双ロール式連続鋳造装置、薄肉鋳片の鋳造方法、及び、冷却ロールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、以下に示す知見を得た。
溶射層を形成する酸化物としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、イットリア、シリカ、チタニア等が挙げられる。この中で、チタニアは、溶鋼との濡れ性が比較的良好で、溶鋼の接触角が90°未満となる。
しかしながら、チタニアは耐熱性が低く、耐熱性に優れたアルミナやジルコニア等と混合して使用されるため、溶鋼との濡れ性が悪くなる。
【0009】
また、溶鋼との濡れ性(接触角)については、その表面の粗化率によって変化する。濡れ性が悪く接触角が90°以上の酸化物においては、粗化率が大きくなると、濡れ性が劣化して接触角がさらに大きくなる。一方、濡れ性が良く接触角が90°未満の酸化物においては、粗化率が大きくなると、濡れ性が良好となり、接触角がさらに小さくなる。なお、通常、溶射層の表面には凹凸が生じており、粗化率が大きいため、溶鋼との濡れ性(接触角)が90°以上の酸化物を用いた場合には、さらに溶融金属との濡れ性が劣化することになり、凝固遅れが生じやすくなる。
以上のことから、溶射層を構成する酸化物の組成(すなわち、溶射層を構成する酸化物の平滑面における接触角)に応じて、溶射層表面の粗化率を調整することにより、溶射層表面の濡れ性(接触角)を制御することが可能となる。
【0010】
ここで、上述のように、溶融金属との濡れ性が悪くなると、凝固核起点が少なくなり、凝固遅れ部が生じ、結晶粒が不均一となる。
そこで、予め溶融金属への浸漬実験等によって、溶融金属において凝固遅れが生じない臨界接触角αを把握しておく。
そして、溶射層表面の濡れ性(接触角)を、臨界接触角αよりも小さくなるように構成すれば、凝固遅れの発生を抑制することが可能となる。
【0011】
本発明は、上述した知見に基づいてなされたものであって、本発明に係る冷却ロールは、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの外周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置に用いられる冷却ロールであって、ロール本体と、このロール本体の外周面に形成された溶射層と、を有し、前記溶射層は、チタニア含有酸化物で構成されており、前記チタニア含有酸化物におけるチタニアの含有量(質量比)をW、前記チタニアの平滑面における溶融金属との接触角θ、前記チタニア以外の酸化物の含有量(質量比)をWMi、前記チタニア以外の酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θMiとして、前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θが以下の(1)式で定義され、
(1)式:θ=W×θ+Σ(WMi×θMi
この前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θと、前記溶射層の粗化率rと、前記溶融金属の凝固遅れが生じない限界接触角αとが、以下の(2)式を満足するように、前記溶射層の表面の粗化率rが調整されていることを特徴としている。
(2)式:cos-1(r×cosθ)<α
【0012】
この構成の冷却ロールによれば、溶射層を構成するチタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θを、上述の(1)式で算出しており、この接触角θと、前記溶射層の粗化率rと、前記溶融金属の凝固遅れが生じない限界接触角αと、が(2)式を満足しているので、凝固遅れの発生を抑制することができ、均一で粗大な結晶粒を有する薄肉鋳片を安定して製造することができる。
【0013】
本発明の双ロール式連続鋳造装置は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置であって、上述の冷却ロールを備えていることを特徴としている。
この構成の双ロール式連続鋳造装置によれば、上述の冷却ロールを備えているので、均一で粗大な結晶粒を有する薄肉鋳片を安定して製造することができる。
【0014】
本発明の薄肉鋳片の鋳造方法は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の鋳造方法であって、上述の冷却ロールを用いることを特徴としている。
この構成の薄肉鋳片の鋳造方法によれば、上述の冷却ロールを用いているので、均一で粗大な結晶粒を有する薄肉鋳片を安定して製造することができる。
【0015】
本発明の冷却ロールの製造方法は、回転する一対の冷却ロールと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に、溶融金属を供給し、前記冷却ロールの外周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する双ロール式連続鋳造装置に用いられる冷却ロールの製造方法であって、前記冷却ロールは、ロール本体と、このロール本体の外周面に形成された溶射層と、を有し、前記溶射層は、チタニア含有酸化物で構成されており、前記チタニア含有酸化物におけるチタニアの含有量(質量比)をW、前記チタニアの平滑面における溶融金属との接触角θ、前記チタニア以外の酸化物の含有量(質量比)をWMi、前記チタニア以外の酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θMiとして、前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θが以下の(1)式で定義され、
(1)式:θ=W×θ+Σ(WMi×θMi
この前記溶射層を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θと、前記溶射層の粗化率rと、前記溶融金属の凝固遅れが生じない限界接触角αとが、以下の(2)式を満足するように、前記溶射層の表面の粗化率rを調整することを特徴としている。
(2)式:cos-1(r×cosθ)<α
【0016】
この構成の冷却ロールの製造方法によれば、溶射層を構成するチタニア含有酸化物の平滑面における溶融金属との接触角θを、上述の(1)式で算出し、この接触角θと、前記溶射層の粗化率rと、前記溶融金属の凝固遅れが生じない限界接触角αと、が(2)式を満足するように、前記溶射層の粗化率rを調整しているので、凝固遅れの発生を抑制可能な冷却ロールを製造することが可能となる。
【0017】
ここで、本発明の冷却ロールの製造方法においては、前記ロール本体の外周面の粗化率を調整するロール本体表面処理工程を有し、粗化率が調整された前記ロール本体の外周面に溶射処理を行うことにより、前記溶射層の粗化率を調整する構成としてもよい。
この場合、予め粗化率を調整したロール本体の外周面に溶射層を形成することで、溶射層の表面の粗化率rを所定の範囲に調整することができ、凝固遅れの発生を抑制可能な冷却ロールを安定して製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
上述のように、本発明によれば、均一で粗大な結晶組織を有する薄肉鋳片を、安定して製造することが可能な冷却ロール、この冷却ロールを備えた双ロール式連続鋳造装置、薄肉鋳片の鋳造方法、及び、冷却ロールの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態である冷却ロールを備えた双ロール式連続鋳造装置の説明図である。
図2】本発明の実施形態である冷却ロールの一部拡大説明図である。
図3】粗化率rの説明図である。
図4】アルミナにおける粗化率rと接触角との関係を示すグラフである。
図5】チタニア含有酸化物におけるチタニアの含有量と接触角との関係を示すグラフである。
図6】チタニア含有酸化物におけるチタニアの含有量及び粗化率と凝固遅れの発生との関係を示すグラフである。
図7】本発明の実施形態である冷却ロールの製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
本実施形態では、溶融金属として溶鋼を用いており、鋼材からなる薄肉鋳片1を製造するものとされている。なお、鋼種としては、例えば0.001~0.01%C極低炭鋼、0.02~0.05%C低炭鋼、0.06~0.4%C中炭鋼、0.5~1.2%C高炭鋼、SUS304鋼に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430鋼に代表されるフェライト系ステンレス鋼、3.0~4.0%Si方向性電磁鋼、0.1~6.5%Si無方向性電磁鋼等(なお、%は、質量%)が挙げられる。
また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が200mm以上1800mm以下の範囲内、厚さが0.8mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0022】
まず、本発明の実施形態である冷却ロール20を備えた双ロール式連続鋳造装置10について説明する。
図1に示す双ロール式連続鋳造装置10は、一対の冷却ロール20(20A,20B)と、薄肉鋳片1を支持するピンチロール12,12及び13,13と、一対の冷却ロール20(20A,20B)の幅方向端部に配設されたサイド堰15と、これら一対の冷却ロール20(20A,20B)とサイド堰15とによって画成された溶鋼プール部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ18と、このタンディッシュ18から溶鋼プール部16へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル19と、を備えている。
【0023】
この双ロール式連続鋳造装置10においては、タンディッシュ18から浸漬ノズル19を介して溶鋼プール部16に溶鋼3が供給される。溶鋼プール部16においては、溶鋼3が回転する冷却ロール20(20A,20B)に接触して冷却されることにより、冷却ロール20の外周面の上で凝固シェル5、5が成長する。そして、一対の冷却ロール20(20A,20B)にそれぞれ形成された凝固シェル5、5同士がロールキス点で圧着されることによって、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0024】
そして、本実施形態である冷却ロール20は、図2に示すように、ロール本体21と、このロール本体21の外周面に形成された溶射層25とを備えている。
ロール本体21は、熱伝導性に優れた金属で構成されており、本実施形態では、銅又は銅合金で構成されている。
溶射層25は、酸化物からなる溶射粒子がロール本体21の外周面に堆積することで形成されている。
【0025】
このように、酸化物からなる溶射層25を形成して緩冷却化を図ることにより、熱ひずみに起因した薄肉鋳片の割れや変形を抑制するが可能となるとともに、結晶粒を粗大化することができる。ここで、例えば、Siを質量比で3%以上含む高Si鋼においては、結晶粒が粗大化することにより、特性の向上を図ることが可能となる。
【0026】
しかしながら、溶鋼3との濡れ性が悪い(接触角が大きい)酸化物からなる溶射層25を形成すると、凝固核起点が少なくなって凝固が不均一となり、凝固遅れが生じるおそれがある。このため、溶射層25においては、溶鋼3との濡れ性を改善し、凝固遅れの発生を抑制することが求められる。
ここで、溶射層25を構成する酸化物の一例を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
チタニア(TiO)は、酸化物の中でも、溶鋼3との濡れ性が比較的良好であり、接触角が72°である。しかしながら、チタニア(TiO)は耐熱性が低いため、耐熱性に優れたアルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)といった他の酸化物と混合して使用することが好ましい。
そこで、本実施形態においては、溶射層25は、チタニアを含有するチタニア含有酸化物で構成されている。
【0029】
ここで、溶射層25を構成するチタニア含有酸化物における溶鋼3との接触角θは、溶鋼3と接触する面における各種酸化物の割合に依存すると考えられる。
このため、本実施形態では、溶射層25を構成する前記チタニア含有酸化物の平滑面における溶鋼3との接触角θを、チタニア含有酸化物におけるチタニアの含有量(質量比)をW、チタニアの平滑面における溶鋼3との接触角θ、チタニア以外の酸化物の含有量(質量比)をWMi、チタニア以外の酸化物の平滑面における溶鋼3との接触角θMiとしたとき、以下の(1)式で定義した。
(1)式:θ=W×θ+Σ(WMi×θMi
【0030】
また、溶射層25における溶鋼3との濡れ性については、溶射層25の表面粗度の指標である粗化率が影響する。そこで、本発明では表面粗度の指標として粗化率rを用いた。一般的に、固体表面の濡れ性に対する粗化率の影響は、以下の(A)式(Wenzelの式)で表される。ここで、(A)式において、θは平滑な固体面と液滴のなす角度(接触角)であり、φは粗化率の影響を考慮した実質接触角であり、rは粗化率である。
(A)式:cosφ=r×cosθ
【0031】
上述の粗化率rは、粗化率r=(実際の表面積)/(水平面への投影表面積)で定義されるものである。
ここで、図3に示すように、表面の凹凸の幅をX、深さをRzと定義すると、見かけの表面積はX、実際の表面積は(X+Rz0.5であるため、粗化率rは、図3の(B)式で表すことができる。
【0032】
上述のように、溶射層25を構成するチタニア含有酸化物の成分割合と、溶射層25の表面の粗化率rと、を調整することにより、溶射層25における溶鋼3との濡れ性を制御することが可能となる。
そこで、本実施形態においては、鋳造する溶鋼3において凝固遅れが生じない限界接触角αを予め求めておき、下記の(2)式を満足するように、溶射層25を構成するチタニア含有酸化物の成分割合(チタニア含有酸化物の平滑面における接触角θ)と、粗化率rと、を設定している。
(2)式:cos-1(r×cosθ)<α
【0033】
以下に、凝固遅れが生じないように、溶射層25の成分割合及び粗化率rを設定する手順について具体例を用いて説明する。
【0034】
まず、凝固遅れが生じずに良好な材質の薄肉鋳片1を製造可能な冷却ロール20の表面(溶射層25の表面)における接触角の条件を求めた。
本実施形態では、双ロール式連続鋳造法を模擬した鋳型浸漬実験を実施した。100mm×100mm×30mm厚の銅板の表面にアルミナ(Al)からなる溶射層を成膜し、表面の粗化率を変更した各種鋳型板を準備した。これらの鋳型板を、大気溶解炉に貯留された温度1575℃の溶鋼(本実施形態では、質量比で3.0%のSiを含有するSi含有鋼)に、20mpmの速度で浸漬させ、0.8秒浸漬した後、同様の速度で引き上げ、鋳型板(溶射層)の表面に鋳片を形成した。
【0035】
この鋳片の幅方向において中央から±30mmの領域の鋳片厚を5mmピッチでマイクロメータを用いて測定した。その後、鋳片の断面を切り出して研磨し、ナイタールエッチングを施し、光学顕微鏡観察した。
以下の(C)式で定義した凝固不均一度CV値が15以上のときに、凝固遅れが生じたと判断した。ここで、dAVEは鋳片厚の平均値、σは鋳片厚の標準偏差である。
(C)式:CV=(σ/dAVE)×100
【0036】
そして、上述のCV値が15未満であって凝固遅れが生じなかったときの粗化率とアルミナの平滑面における接触角とから実質接触角φを算出するとともに、凝固遅れが生じない限界接触角αを求めた。
図4に、アルミナの場合の粗化率rと実質接触角φとの関係を示す。上述の鋳型浸漬実験の結果、粗化率r=1.2(実質接触角φ=126°)では凝固遅れが確認されず、粗化率r=1.3(実質接触角φ=131°)では凝固遅れが確認された。
そこで、本実施形態では、質量比で3.0%のSiを含有するSi含有鋼における限界接触角αを126°とした。
【0037】
次に、溶射層25を構成するチタニア含有酸化物の成分割合について検討した。
図5に、チタニアとアルミナの2元系のチタニア含有酸化物、及び、チタニアとジルコニアの2元系のチタニア含有酸化物において、チタニアの含有量と上述の(1)式で算出される接触角θとの関係を示す。なお、アルミナとジルコニアは、表1に示すように、いずれも接触角が120°であることから、図5において同様の関係を示すことになる。
この図5から、チタニアの含有量が60%を超えると接触角θが90°未満となり、粗化率rを大きくすることで実質接触角φがさらに小さくなり、濡れ性が向上する。一方、チタニアの含有量が60%以下の場合には接触角θが90°以下となり、粗化率rを大きくすることで実質接触角φがさらに大きくなり、濡れ性が劣化する。
【0038】
そして、限界接触角α=126°とした場合において、粗化率rとチタニアの含有量との関係を図6に示す。
この図6に示すように、チタニアの含有量が増加するにつれて粗化率rが大きくなっても凝固遅れが生じなくなることが確認される。この図6のグラフから、チタニア含有酸化物におけるチタニアの含有量、及び、溶射層25表面の粗化率rを、設定することが可能となる。
【0039】
次に、図7のフロー図を用いて、本実施形態である冷却ロールの製造方法について説明する。
【0040】
(溶射層設定工程S01)
まず、上述した手順によって、鋳造対象となる溶鋼の凝固遅れが生じない限界接触角αを確認し、(1)式及び(2)式から、溶射層25を構成するチタニア含有酸化物の成分割合、溶射層25表面の粗化率rを設定する。
【0041】
(ロール本体表面処理工程S02)
まず、ロール本体21に対して表面処理を行い、ロール本体21の外周面の粗化率を調整する。このとき、上述の溶射層設定工程S01において設定された溶射層25表面の粗化率rに応じて、ロール本体21の外周面の粗化率を調整する。
なお、表面処理方法について特に限定はなく、ショットブラスト加工、切削加工や研磨加工等の表面処理手段を適宜選択して適用すればよい。
【0042】
(溶射層形成工程S03)
次に、粗化率を調整したロール本体21の外周面に対して、溶射処理を行って、溶射層25を形成する。このとき、上述の溶射層設定工程S01において設定されたチタニア含有酸化物を用いて溶射層25を形成する。
溶射処理は、溶射粒子を加熱・加圧し、高速で母材に衝突させ、母材の表面を被覆する表面処理方法である。本実施形態では、上述のように、各種酸化物からなる溶射粒子を用いている。溶射方法には、フレーム溶射、アーク溶射、プラズマ溶射、高速フレーム溶射、爆発溶射などがあるが、それぞれで溶射粒子の加熱・加圧方法が異なる。本実施形態では、爆発溶射によって溶射層25を形成する。
また、溶射層25の厚みDは、0.1mm以上1mm以下の範囲内とすることが好ましく、0.1mm以上0.15mm以下の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0043】
この溶射層形成工程S03においては、ロール本体21の外周面に沿って溶射粒子が堆積して溶射層25が形成されるため、溶射層25(冷却ロール20)の外周面の粗化率rは、ロール本体21の外周面の粗化率とほぼ同等となる。
その後、乾式研磨を行い、溶射層25の外周面の粗化率rを目的の粗化率に調整する。
【0044】
上述の工程によって、本実施形態における冷却ロール20が形成される。
【0045】
以上のような構成とされた本実施形態である冷却ロール20、双ロール式連続鋳造装置10及び薄肉鋳片1の製造方法によれば、鋳造対象となる溶鋼の凝固遅れが生じない限界接触角αを把握し、これに応じて、(1)式及び(2)式を満足するように、溶射層25を構成するチタニア含有酸化物の成分割合、及び、溶射層25の粗化率rが設定されているので、鋳造時において凝固遅れの発生を抑制することができ、均一で粗大な結晶粒を有する薄肉鋳片1を安定して製造することができる。
【0046】
また、本実施形態である冷却ロール20の製造方法によれば、鋳造対象となる溶鋼3の凝固遅れが生じない限界接触角αを把握し、これに応じて、(1)式及び(2)式を満足するように、溶射層25を構成するチタニア含有酸化物の成分割合、及び、溶射層25の粗化率rを設定し、ロール本体21の外周面に溶射層25を形成しているので、凝固遅れの発生を抑制可能な冷却ロール20を製造することが可能となる。
【0047】
さらに、本実施形態では、ロール本体21の外周面の粗化率を調整するロール本体表面処理工程S02と、粗化率が調整されたロール本体21の外周面に溶射処理を行う溶射層形成工程S03と、を備えているので、粗化率が調整されたロール本体21の外周面に沿って溶射粒子が堆積して溶射層25が形成されることで、溶射層25(冷却ロール20)の外周面の粗化率rがロール本体21の外周面の粗化率と同等となるため、溶射層25の表面の粗化率rを所定の範囲に精度良く調整することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態である冷却ロールの製造方法、及び、薄肉鋳片の鋳造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、図1に示すように、ピンチロールを配設した双ロール式連続鋳造装置を例に挙げて説明したが、これらのロール等の配置に限定はなく、適宜設計変更してもよい。
また、図5においては、チタニアとアルミナの2元系のチタニア含有酸化物、及び、チタニアとジルコニアの2元系のチタニア含有酸化物を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、その他のチタニア含有酸化物によって溶射層を構成してもよい。
【実施例
【0049】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
【0050】
図1に示す構成の双ロール式連続鋳造装置を用いて、3.0%Si鋼(質量%で、0.05%C、3.0%Si、0.2%Mn、0.010%P、0.0015%S、0.5%Al、残部Fe及び不純物とされた組成の鋼)、及び、3.5%Si鋼(質量%で、0.05%C、3.5%Si、0.2%Mn、0.010%P、0.0015%S、0.5%Al、残部Fe及び不純物とされた組成の鋼)からなる薄肉鋳片を、鋳造速度0.7m/sで60トン鋳造した。
【0051】
冷却ロールは、直径600mm、幅600mmとし、ロール本体の外周面に表面処理を行って粗化率rを調整し、粗化率rを調整したロール本体の外周面に爆発溶射を行い、その後、乾式研磨を行うことで、表2、3に示す構造の溶射層を形成した。なお、参考として表面凹凸の幅X,深さRzも併せて表2、3に示す。また、溶射層は、チタニアとアルミナの2元系のチタニア含有酸化物、及び、チタニアとジルコニアの2元系のチタニア含有酸化物で構成した。
ここで、上述の実施形態の欄に記載したように鋳型浸漬実験を実施した結果、3.0%Si鋼の限界接触角α=126°、3.5%Si鋼の限界接触角α=143°であった。
【0052】
そして、得られた薄肉鋳片の鋳造が安定した箇所から、鋳片の幅中央から±30mmで長さ60mmのサンプルを採取し、鋳片の凝固不均一度(凝固CV値)、平均結晶粒径、結晶粒の均一性を、以下のように評価した。
【0053】
(鋳片の凝固不均一度)
上述のサンプルの幅方向において、中央から±30mmの領域の鋳片厚を5mmピッチでマイクロメータを用いて測定した。そして、鋳片の厚さの平均値dAVE、及び鋳片の厚さの標準偏差σを算出し、上述の(C)式からCV値を求めた。評価結果を表2、3に示す。
【0054】
(結晶粒観察)
上述のサンプルから60mm幅の断面を研磨し、ナイタールエッチングを施し、結晶粒界を顕出し、光学顕微鏡観察した。
平均結晶粒径は、1/4厚部において切片法によって測定した。
結晶粒の均一性は、切片法で求めた平均結晶粒径よりも2倍以上大きい結晶粒が存在する場合を均一性「×」と評価し、切片法で求めた平均結晶粒径よりも2倍以上大きい結晶粒が存在しない場合を均一性「〇」と評価した。評価結果を表2、3に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
比較例1~6においては、溶射層の粗化率を考慮した接触角φが、3.0%Si鋼の限界接触角α=126°を超えており、凝固CV値が22を超え、結晶粒均一性の評価が「×」となった。
比較例7,8においては、溶射層の粗化率を考慮した接触角φが、3.5%Si鋼の限界接触角α=143°を超えており、凝固CV値が25を超え、結晶粒均一性の評価が「×」となった。
【0058】
これに対して、本発明例1~11、17、18においては、溶射層の粗化率を考慮した接触角φが、3.0%Si鋼の限界接触角α=126°よりも小さく、凝固CV値が15以下となり、結晶粒均一性の評価が「〇」となった。なお、本発明例1~11では、チタニアとアルミナの2元系のチタニア含有酸化物を用いており、本発明例17,18では、チタニアとジルコニアの2元系のチタニア含有酸化物を用いたが、いずれも同様の結果となった。
また、本発明例12~16においては、溶射層の粗化率を考慮した接触角φが、3.5%Si鋼の限界接触角α=143°よりも小さく、凝固CV値が15以下となり、結晶粒均一性の評価が「〇」となった。
【0059】
以上の結果から、本発明によれば、均一で粗大な結晶組織を有する薄肉鋳片を、安定して製造することが可能な冷却ロール、この冷却ロールを備えた双ロール式連続鋳造装置、薄肉鋳片の鋳造方法、及び、冷却ロールの製造方法を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0060】
1 薄肉鋳片
3 溶鋼(溶融金属)
5 凝固シェル
10 双ロール式連続鋳造装置
15 サイド堰
16 溶鋼プール部(溶融金属プール部)
20 冷却ロール
21 ロール本体
25 溶射層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7