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特許7243429水性フレキソインキ、フレキソ印刷物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】水性フレキソインキ、フレキソ印刷物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/102 20140101AFI20230314BHJP
   C09D 11/107 20140101ALI20230314BHJP
   C09D 11/03 20140101ALI20230314BHJP
   B41M 1/04 20060101ALI20230314BHJP
   B41M 1/30 20060101ALI20230314BHJP
   B41M 7/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C09D11/102
C09D11/107
C09D11/03
B41M1/04
B41M1/30 D
B41M7/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019093540
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020186344
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三輪 剛之
(72)【発明者】
【氏名】高位 博明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武志
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203093(JP,A)
【文献】特開平08-283642(JP,A)
【文献】特開2005-154493(JP,A)
【文献】特開2012-072359(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0050383(US,A1)
【文献】特開2014-012824(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0328973(US,A1)
【文献】特開昭63-186782(JP,A)
【文献】特開昭58-069267(JP,A)
【文献】米国特許第04508570(US,A)
【文献】特開2013-249401(JP,A)
【文献】特開平07-102204(JP,A)
【文献】特開2001-146563(JP,A)
【文献】特開2006-002033(JP,A)
【文献】特開2018-131548(JP,A)
【文献】特表2005-518459(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0070628(US,A1)
【文献】特開平11-020123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/102
B41M 1/04
B41M 1/30
B41M 7/00
C09D 11/03
C09D 11/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂および水性アクリルウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の水性バインダー樹脂、及びポリエチレン粒子を含有する水性フレキソインキであって、
HLB値が6~19であるポリオキシエチレン化合物をインキ総質量中に1~20質量%含有し、
前記ポリオキシエチレン化合物は、下記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルおよび/または下記一般式(2)で表されるポリオキシエチレンアルキルアミンを含むことを特徴とする、水性フレキソインキ。
一般式(1)
【化1】
一般式(2)
【化2】
(式中、Rは、炭素数が8~18の、置換基を有してよいアルキル基またはアルケニル基を表し、n、およびmは、それぞれ独立に2~50の自然数を表す。)
【請求項2】
ポリオキシエチレン化合物は、重量平均分子量が100~4,000であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む、請求項1記載の水性フレキソインキ。
【請求項3】
水性ポリウレタン樹脂が、ポリエチレングリコール由来の構造単位を含み、酸価が10~60mgKOH/gである、請求項1または2に記載の水性フレキソインキ。
【請求項4】
水性アクリル樹脂は、酸価が10~300mgKOH/gの水性アクリル樹脂を含む、請求項1~3いずれかに記載の水性フレキソインキ。
【請求項5】
水性アクリルウレタン樹脂が、ウレタン樹脂部とアクリル樹脂部とを含んでなるエマルジョン樹脂であり、前記ウレタン樹脂部と前記アクリル樹脂部との質量比(ウレタン樹脂部:アクリル樹脂部)は90:10~30:70である、請求項1~4いずれかに記載の水性フレキソインキ。
【請求項6】
基材と、請求項1~いずれかに記載の水性フレキソインキからなるフレキソ印刷層を有する、フレキソ印刷物。
【請求項7】
請求項記載のフレキソ印刷物の製造方法であって、
アニロックスロールの線数が375lpi以上であり、アニロックス容量が1~8cm/mであるアニロックスと、
フレキソ版の線数が75lpi以上であるフレキソ版とを備えたフレキソ印刷機で印刷するフレキソ印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性フレキソインキ、それを用いたフレキソ印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や衛生用品の包装印刷には絵柄を付与する目的としてグラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、シルクスクリーン印刷、ロールコーター印刷等、各種の印刷方式が手法として広く用いられている。特にプラスチックフィルムを使用する軟包装材に対してはグラビア印刷方式またはフレキソ印刷方式が用いられてきた。フレキソ印刷とは凸版印刷の一種であり、樹脂製の凸版にアニロックスロールを介してインキを付着させ、更に凸版からプラスチック基材等にインキを転移させる印刷方式である。特にフレキソインキは高速印刷性に優れ、更にフレキソ印刷は凸版印刷であるため、インキ転移量が少量であっても細かい文字やシャープな表現を再現することができるため有用であり、印刷方式が異なることで、フレキソインキの設計はグラビアインキのそれとは異なる。
【0003】
水性フレキソインキは一般的に段ボールや紙袋といった紙基材用途で使用されてきたが、紙基材に使用される水性フレキソインキは水・アルコール等のインキ中の媒体について熱風乾燥(熱風ドライヤーという)による乾燥または紙基材への浸透による乾燥を加味して設計されている。しかし、プラスチック基材では浸透による乾燥ができないため、乾燥不良に起因して印刷層とプラスチック基材との間でブロッキング(インキが裏移りする現象)が発生する可能性がある。また、フレキソ印刷法はインキがアニロックスロールから凸版へ転移して更に凸版から基材へ転移するので印刷の条件や温度湿度等の環境によっては版絡み(印刷汚れ)などが懸念される。版絡みは、版の凸部だけでなく、凸部の側部やそのほかの部分(凹部)にまでインキが入り込み、凹部に溜まったインキにより、印刷物において本来印刷部分でない箇所にまでインキが転移されてしまう現象である。
【0004】
特許文献1ではコート紙に印刷されるバインダー樹脂がアクリル系樹脂であり、グリセリン、エチレングリコール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルを10~50質量%及び水50~90質量%を含有する紙用水性フレキソインキが開示されており、インキ表面張力をコントロールすることで転移性と重ね刷り適性の向上したことが示されている。しかしながら、該当インキではプラスチックフィルムへの印刷した際に媒体を乾燥させにくく、かつ媒体の乾燥が不十分であればフレキソ印刷層の脆弱化が起こり、巻き取り時のブロッキングが懸念される。
【0005】
また近年では、印刷絵柄の美粧性向上のみならず、印刷時の有機溶剤排出量削減による環境負荷低減、有機溶剤に起因する火災予防その他の安全性、更に印刷物である包装体の残留溶剤低減といった要求の高まりから、有機溶剤含有量の少ない水性フレキソインキが望まれている。したがって、上記アルコール溶剤、グリコール溶剤及びグリコールエーテル溶剤その他の水溶性有機溶剤を多く含有させた場合、有機溶剤排出量削減(低VOC・ノンVOC)の観点では大気中に揮発する有機溶剤が多いため好ましくはない。また印刷層中に残留する懸念もある。しかしながら、エチレングリコール等の水溶性有機溶剤の使用量を削減して上記版絡み性を維持する技術は今まで成しえた発明はない。
【0006】
特許文献2ではコート紙に印刷されるバインダー樹脂がアクリル系樹脂であり、水混和性有機溶剤を10~50質量%及び水50~90質量%を含有することを特徴とする水性フレキソインキの表面張力をコントロールすることで浸透乾燥が僅かに期待できるコート紙での速やかな乾燥と重ね刷り適性の向上を検討している。しかしながら、このように得られた配合では浸透乾燥が全く期待できないプラスチックフィルムへの印刷した際の乾燥性の課題とプラスチック基材への十分なバインダー樹脂由来の密着性が確保できず、巻き取り時のブロッキングや基材からのインキ剥がれを起こす課題が残る。
【0007】
特許文献3ではアクリル系樹脂をバインダー樹脂とするフレキソインキにおいて、芳香族基を含有するポリオキシエチレン化合物を添加することにより光沢、転移濃度、レベリング性が向上する記載がある。しかしながら、浸透乾燥性のある段ボール等の紙基材への印刷を前提としたものであり、プラスチック基材へ適用すると、版絡み、ブロッキングの課題が発生した。
【0008】
従って有機溶剤排出量を削減でき、版絡み性、レベリング性、消泡性、並びに耐ブロッキング性等の被膜物性について満たすフレキソインキは報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平7-205533号公報
【文献】特開2001-146563号公報
【文献】特開平8-283642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は有機溶剤排出量を削減でき、版絡み性、レベリング性、消泡性、および耐ブロッキング性等の被膜物性を満たす水性フレキソインキを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは本願課題に対して鋭意検討を重ねた結果、以下に記載の水性フレキソインキを使用することで当該課題を解決できることを見出し本願発明を成すに至った。
【0012】
すなわち本発明は水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂および水性アクリルウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の水性バインダー樹脂を含有する水性フレキソインキであって、
HLB値が6~19であるポリオキシエチレン化合物をインキ総質量中に1~20質量%含有し、
前記ポリオキシエチレン化合物は、下記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルおよび/または下記一般式(2)で表されるポリオキシエチレンアルキルアミンを含むことを特徴とする、水性フレキソインキに関する。
【0013】
一般式(1)
【0014】
一般式(2)
【0015】
(式中、Rは、炭素数が8~18の、置換基を有してよいアルキル基またはアルケニル基を表し、n、およびmは、それぞれ独立に2~50の自然数を表す。)
【0016】
また、本発明は、ポリオキシエチレン化合物は、重量平均分子量が100~4,000であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む、上記水性フレキソインキに関する。
【0017】
また、本発明は、水性ポリウレタン樹脂が、ポリエチレングリコール由来の構造単位を含み、酸価が10~60mgKOH/gである、上記水性フレキソインキに関する。
【0018】
また、本発明は、水性アクリル樹脂は、酸価が10~300mgKOH/gの水性アクリル樹脂を含む、上記水性フレキソインキに関する。
【0019】
また、本発明は、水性アクリルウレタン樹脂が、ウレタン樹脂部とアクリル樹脂部とを含んでなるエマルジョン樹脂であり、前記ウレタン樹脂部と前記アクリル樹脂部との質量比(ウレタン樹脂部:アクリル樹脂部)は90:10~30:70である、上記水性フレキソインキに関する。
【0020】
また、本発明は、更に、ポリエチレン粒子を含有する、上記水性フレキソインキに関する。
【0021】
また、本発明は、基材と、上記水性フレキソインキからなるフレキソ印刷層を有する、フレキソ印刷物に関する。
【0022】
また、本発明は、上記フレキソ印刷物の製造方法であって、
アニロックスロールの線数が375lpi以上であり、アニロックス容量が1~8cm/mであるアニロックスと、
フレキソ版の線数が75lpi以上であるフレキソ版とを備えたフレキソ印刷機で印刷するフレキソ印刷物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、有機溶剤排出量を削減でき、版絡み性、レベリング性、消泡性、および耐ブロッキング性等の被膜物性を満たす水性フレキソインキを提供するができた。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する事項の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0025】
以下の説明において、水性フレキソインキを単に「フレキソインキ」や「インキ」と記載する場合があるが同義である。また、水性フレキソインキからなる印刷層は、単に「印刷層」、「インキ被膜」または「インキ層」と記載する場合があるが同義である。
【0026】
本発明は、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂および水性アクリルウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の水性バインダー樹脂を含有する水性フレキソインキであって、
HLB値が6~19であるであるポリオキシエチレン化合物を含有し、前記ポリオキシエチレン化合物である所定ポリオキシエチレンアルキルエーテルおよび/または所定ポリオキシエチレンアルキルアミンをインキ総質量中に1~20質量%含有する水性フレキソインキに関する。
HLB値が6~19であるポリオキシエチレンアルキルエーテルおよび/またはポリオキシエチレンアルキルアミンをインキ総質量中に1~20質量%含有すれば、ポリオキシエチレン化合物の疎水構造部分がインキ表面に浮遊し広がるがことで、版上での乾燥が制御され版絡み性が良好となる。ポリオキシエチレン化合物は、インキ総質量中に3~18質量%含有することが好ましく、3~15質量%含有することがさらに好ましい。該当範囲であれば、フレキソ版上におけるインキの乾燥に起因する版絡み性が抑制され、また耐ブロッキング性を確保できる。
また、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂および水性アクリルウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の水性バインダー樹脂を使用することでインキ被膜の強度を損なうことなく耐ブロッキング性を維持できる。ここでHLB値とは、化合物の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値をいい、HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く、20に近いほど親水性が高くことを意味する。なおHLB値はグリフィン法で求めることができる。当該グリフィン法とはHLB値を算出する計算方法の一つであり、以下の式で算出することができる。
HLB値=20×化合物中の親水部位の式量の総和/化合物の分子量
【0027】
<ポリオキシエチレンアルキルエーテル>
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、HLB値が6~19であり、下記一般式(1)で表されるものをいう。
一般式(1)

(式中、Rは炭素数が8~18の、置換基を有してよいアルキル基またはアルケニル基を表し、nは2~50の自然数を表す。)
その構造は一般式(1)の範囲であれば限定されない。HLB値は6~19であればよく、好ましくは8~19である。HLB値が6以上で水との相溶性が高まり、ポリオキシエチレンが、下記水性バインダー樹脂および水を含むインキ中に均一に馴染むことで版絡み抑制効果、印刷物の濃度ムラを抑制でき、良好な印刷物が得られる。
【0028】
版絡み等が少なく、良質な印刷物が得るためには、上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの重量平均分子量が、100~4000であることが好ましい。200~3000であることがなお好ましい。200~2000であることが更に好ましい。
【0029】
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルにおいて、Rは置換もしくは未置換の、直鎖状もしくは分岐のアルキル基もしくはアルケニル基である。アルキル基やアルケニル基としては、以下に限定されないが、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基、リノール基等が好適に挙げられる。炭素数は8~18であればよいが、炭素数12~18であることが好ましく、中でもラウリル基、ステアリル基、オレイル基、の少なくともいずれかを含むことが好ましい。またオキシエチレン基の単位数nは2~50であればよいが、4~50であることがなお好ましい。
【0030】
アルキル基やアルケニル基が有してよい置換基としては、特に限定はないが、水酸基、アミノ基、置換アミノ基等が好適に挙げられる。水酸基である場合がより好ましい。
【0031】
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えば花王社製エマルゲンシリーズ、ライオン社製レオックスシリーズ、レオコールシリーズなどから上記HLB値範囲に適合する製品を選択して使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
<ポリオキシエチレンアルキルアミン>
上記ポリオキシエチレンアルキルアミンは、HLB値が6~19であり、下記一般式(2)で表されるものをいう。
一般式(2)
(式中、Rは炭素数が8~18の、置換基を有してよいアルキル基またはアルケニル基を表し、n、およびmはそれぞれ独立に2~50の自然数を表す。)
本発明に使用されるポリオキシエチレンアルキルアミンの構造は一般式(2)の範囲であり、HLB値が6~19であればよく、好ましくは8~19である。HLB値が6以上で水との相溶性が高まり、ポリオキシエチレンが、下記水性バインダー樹脂および水を含むインキ中に均一に馴染むことで版絡み抑制効果、印刷物の濃度ムラを抑制でき、良好な印刷物が得られる。
【0033】
版絡み等が少なく、良質な印刷物が得るためには、ポリオキシエチレンアルキルアミンの重量平均分子量としては100~4000であることが好ましい。200~3000であることがなお好ましい。
【0034】
上記ポリオキシエチレンアルキルアミンにおいて、Rは置換もしくは未置換の、直鎖状もしくは分岐のアルキル基もしくはアルケニル基である。アルキル基やアルケニル基としては、以下に限定されないが、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基、リノール基等が好適に挙げられる。炭素数は8~18であればよいが、炭素数12~18であることが好ましく、中でもラウリル基、ステアリル基、オレイル基、の少なくともいずれかを含むことが好ましい。またオキシエチレン基の単位数nおよびmはそれぞれ2~50であればよいが、4~50であることがなお好ましい。また、n+mの好ましい範囲は4~50、なお好ましくは4~20である。
【0035】
アルキル基やアルケニル基が有してよい置換基としては、特に限定はないが、水酸基、アミノ基、置換アミノ基等が好適に挙げられる。水酸基である場合がより好ましい。
【0036】
上記ポリオキシエチレンアルキルアミンとしては、例えば花王社製アミートシリーズ、ライオン社製リポールシリーズなどから上記HLB値範囲に適合する製品を選択して使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
<水性バインダー樹脂>
本願発明の水性フレキソインキは水性ポリウレタン樹脂、水性ウレタンアクリル樹脂および水性アクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の水性バインダー樹脂を含有し、前記水性バインダー樹脂は酸価を有する。なお、バインダー樹脂とはインキにおける結着樹脂をいう。水性バインダー樹脂は、インキ総質量中に2~30質量%含有することが好ましい。
【0038】
<水性ポリウレタン樹脂>
水性ポリウレタン樹脂は、ポリエステル系またはポリエーテル系、ポリカーボネート系の水性ポリウレタン樹脂であることが好ましい。なお、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系とは水性ポリウレタン樹脂の合成時の主原料としてそれぞれポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールを用いた水性ポリウレタン樹脂をいう。当該水性ポリウレタン樹脂は酸価を有し、酸価が10~60mgKOH/gであることが好ましく、20~50mgKOH/gであることがより好ましい。また、水酸基価が1~35mgKOH/gであることが好ましく、1~25mgKOH/gであることがより好ましい。また、ガラス転移温度(以下Tgと記載する場合がある)は-90~0℃であることが好ましく、-80~-10℃であることがなお好ましい。-70~-20℃であることが更に好ましい。基材密着性が良好となるためである。ここで、ガラス転移温度とは示差走査熱量測定(DSC)による測定値をいう。
なお水性ポリウレタン樹脂の重量平均分子量は10000~100000であることが好ましく、20000~70000であることがなお好ましい。
【0039】
上記水性ポリウレタン樹脂は、例えば特開2008-1911号公報や特開2017-8292号公報に記載の方法で適宜製造することができる。例えばポリエステルポリオールおよび/またはポリエーテルポリオール、低分子ジオール、ジヒドロキシ酸、並びに、ポリイソシアネートを反応させることで得られる。なお更にポリアミンを用いて鎖延長された水性ポリウレタン樹脂である場合も好ましい。
【0040】
<ポリエーテルポリオール>
水性ポリウレタン樹脂はポリエーテルポリオール由来の構造単位を有することが好ましい。ポリエーテルポリオールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合のポリエーテルポリオール、ポリテトラメチレングリコール等が好適である。なお、ポリエチレングリコールに由来する構造単位を有する水性ポリウレタン樹脂であることが好ましく、その含有量は水性ポリウレタン樹脂総質量中に1~35質量%含有することが好ましく、2~30質量%含有することがより好ましく、2~25質量%含有することが更に好ましい。ポリエチレングリコール由来の構造単位を当該範囲で有すると版絡み性が良好となる。
【0041】
<ポリエステルポリオール>
上記水性ポリウレタン樹脂を構成するポリエステルポリオールとしては二塩基酸と低分子ジオールの縮合物であることが好ましく、当該低分子ジオールとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,4-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール等の分岐構造を有する低分子ジオールが好ましい。なお、分岐構造を有する低分子ジオールとはジオールの有するアルキレン基の少なくとも一つの水素原子がアルキル基に置換された構造を有するジオールをいう。
二塩基酸としては、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸など多価カルボン酸あるいはこれらの無水物が好ましい。中でもアジピン酸、セバシン酸、アセライン酸、コハク酸その他の脂肪族二塩基酸であることが好ましい。
【0042】
低分子ジオールとしては上記のものに加え、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール等の脂肪族環構造を有するジオールが好適である。
【0043】
上記ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールその他のポリオールの数平均分子量は500~7000であることが好ましく、1000~5000であることがより好ましい。
【0044】
また、水性ポリウレタン樹脂は、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール等、複数の水酸基を有す低分子化合物を原料に用いられることも好ましい。中でもトリメチロールプロパンが好ましく、前記いずれかに由来する構成単位を水性ポリウレタン中に0.1~0.8質量%含有することが好ましい。インキ被膜の凝集力を向上させるためである。
【0045】
<ポリイソシアネート>
上記ポリイソシアネートとしては、公知のものを使用でき、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、および脂環族ジイソシアネート等が挙げられ、脂肪族ジイソシアネートまたは脂環族ジイソシアネートであることが好ましい。以下に好ましい態様を示す。
芳香族ジイソシアネートとしては例えば、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、および2,6-ジイソシアネート-ベンジルクロライド等が挙げられる。
脂肪族ジイソシアネートとしては例えば、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、およびリジンジイソシアネート等が挙げられる。
脂環族ジイソシアネートとしては例えば、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメリールジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、およびダイマー酸のカルボキシ基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等が挙げられる。
【0046】
<ジヒドロキシ酸>
上記ジヒドロキシ酸としては、例えば2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のジメチロールアルカン酸;グルタミン、アスパラギン、リジン、ジアミノプロピオン酸、オルニチン、ジアミノ安息香酸、ジアミノベンゼンスルホン酸等のジアミン型アミノ酸類が好適に挙げられる。ジメチロールアルカン酸に由来する構造単位を有することが好ましい。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。ウレタン樹脂合成ではカルボキシル基は50~140℃の温和な反応条件下ではカルボキシル基が残存する。
【0047】
<水性化>
更に上記ジメチロールアルカン酸に由来するカルボキシル基が塩基性化合物で中和されることでポリウレタン樹脂は水性化する。塩基性化合物としては、アンモニア、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等のアミン化合物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機酸化物等が好適であり、1種または2種以上を組み合わせて用いられる。中でもアミン化合物が好ましく、アンモニアの使用が好ましい。より水溶性が良好となるためである。
【0048】
なお水性ポリウレタン樹脂は水溶性であっても水性エマルジョンであってもよいが、水溶性であることが好ましい。なお水性エマルジョンとは水へ難溶解性の樹脂が粒子状に乳濁安定化した状態の樹脂液をいう。
【0049】
上記ポリアミンとしては、以下が好適であり、例えば、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等のヒドロキシル基を含有する有機ジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミン、さらにダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミン等のヒドロキシル基を含有しない有機ジアミンが挙げられる。
【0050】
<水性アクリルウレタン樹脂>
以下の説明において、「アクリル」とは、「アクリル」および「メタクリル」の併記を意味する。
【0051】
上記水性アクリルウレタン樹脂とは、アクリル樹脂部とウレタン樹脂部からなるバインダー樹脂をいう。ただし、当該水性アクリルウレタン樹脂は上記水性ポリウレタン樹脂である場合を含まない。
アクリル樹脂部とウレタン樹脂部は交互共重合体であってもよいし、主鎖がウレタン樹脂部、側鎖がアクリル樹脂部もしくは主鎖がアクリル樹脂部、側鎖がウレタン樹脂部である、いわゆるグラフト重合体であってもよく、グラフト重合体であることが好ましい。
水性アクリルウレタン樹脂の製造は、例えば特開平04-103614号公報、特開平10-139839号公報等に記載の方法で製造することができる。水性アクリルウレタン樹脂は酸価を有することが好ましく、酸性基を中和することで水性化する。上記水性ポリウレタン樹脂の場合と同様にウレタン樹脂部にジメチロールアルカン酸を用いて、それに由来する酸性基を中和することで水性化してもよいし、アクリル樹脂部を構成するアクリルモノマーにおいて酸性モノマーを共重合して酸性基を導入し、その酸性基を中和することで水性化してもよい。
【0052】
水性アクリルウレタン樹脂の酸価は25~100mg/KOHgであることが好ましい。なお25~80mg/KOHgがより好ましく、30~60mg/KOHgが更に好ましい。また重量平均分子量は10,000~120,000であることが好ましく、20,000~80,000であることがより好ましい。また、ウレタン樹脂部とアクリル樹脂部の質量比(ウレタン樹脂部:アクリル樹脂部)は90:10~30:70が好ましい。
【0053】
なお水性アクリルウレタン樹脂は水溶性であっても水性エマルジョンであってもよいが、水性エマルジョンであることが好ましく、その平均粒子径は60nm~1000nmの範囲になることが好ましく、60nm~400nmの範囲が更に好ましい。なお平均粒子径は動的光散乱法による測定値をいう。
【0054】
アクリル樹脂部のガラス転移温度は-10℃~110℃であることが好ましく、40~110℃であることが好ましく、60~110であることが更に好ましい。具体的には、アクリル樹脂部として配合した各モノマーのホモポリマーにおけるガラス転移温度をTg1~Tgm、アクリル樹脂部として使用した各モノマーの重量比率をW1~Wmとしたとき、以下FOX式で表される。
1/Tg=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+…+(Wm/Tgm)
W1+W2+・・・+Wm=1
なお示差走査熱量測定(DSC)による測定値であってもよい。近しい値となるためである。
【0055】
なお、水性アクリルウレタン樹脂におけるウレタン樹脂部を構成する原料等は上記水性ポリウレタン樹脂の場合と同様のものを適宜使用可能である。ポリエーテルポリオールおよび/またはポリエステルポリオール由来の構造単位をウレタン樹脂部総質量中に50質量%以上含有することが好ましく、60質量%以上含有することがなお好ましい。
【0056】
水性アクリルウレタン樹脂を構成するアクリル樹脂部を構成する原料アクリルモノマーは以下のものが好ましく、例えば、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等の芳香族系アルキル基含有アクリルモノマー、
更には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル基含有アクリルモノマー、
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有アクリルモノマー、
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有アクリルモノマー、
(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N-メトキシメチル-N-(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等のアミド基含有アクリルモノマー、
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有アクリルモノマー、
ポリエチレングリコールモノアクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPE-90、200、350、350G、AE-90、200、400等)ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日本油脂社製、ブレンマー50PEP-300、70PEP-350等)、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPME-400、550、1000、4000等)等のポリエチレンオキサイド基含有アクリルモノマー等を使用することができる。
なお、アクリルモノマー以外で、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族系モノマーを更に含有することが好ましい。
【0057】
アクリル樹脂部は上記モノマーをウレタン樹脂部の存在下でラジカル重合することでグラフト重合樹脂としてエマルジョンを得ることができ、当該ラジカル重合の開始剤には公知の有機過酸化物を使用することができる。有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイドなど使用が好ましい。
【0058】
水性アクリルウレタン樹脂の有する酸性基は塩基性化合物で中和されて水性化される。該当する塩基性化合物としては、ポリウレタン樹脂で例示したものと同じものを挙げられる。中でもアミン化合物が好ましく、アンモニアの使用が好ましい。
【0059】
アクリルウレタン樹脂のウレタン樹脂部とアクリル樹脂部の質量比(ウレタン樹脂部:アクリル樹脂部)は90:10~30:70が好ましい。アクリル樹脂部が10質量%以上でインキ被膜の耐水性が良好であり、アクリル樹脂部が70質量%以下であればプラスチック基材に対する密着性が十分に得ることができ、また耐ブロッキング性も良好である。
【0060】
上記水性アクリルウレタン樹脂はポリオール、ポリイソシアネート、場合によりジメチロールアルカン酸を用いてポリウレタン樹脂を有機溶剤中で製造、当該ポリウレタン樹脂を塩基性化合物で中和したのち、更に溶剤を水に置換後、アクリルモノマーおよびラジカル重合開始剤として有機過酸化物を混合加熱して重合反応を行う事でエマルジョン状の水性アクリルウレタン樹脂を得ることができる。なお、アクリルモノマーはポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールその他のポリオールに由来する構造単位に含まれるアルキレン基上の水素原子による水素引抜反応によりラジカル重合が進むものと考えられる。なお、上記反応は40~140℃で反応を行うことが好ましく、反応時間は30分~10時間程度であることが好ましい。
【0061】
<水性アクリル樹脂>
上記水性アクリル樹脂は、アクリルモノマー構成単位を有するものである。更にスチレン系モノマー、マレイン酸系モノマーなどを共重合して得られるアクリル樹脂であっても好ましい。なお、アクリル樹脂はカルボキシル基を有し、乳化剤および/または塩基性化合物の存在下で水性化されたものが好ましい。
ただし、当該水性アクリル樹脂は上記水性アクリルウレタン樹脂である場合を含まない。
【0062】
上記アクリルモノマーとしては、上記アクリルウレタン樹脂の場合と同様のアクリルモノマーを使用することができるが、中でも(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のアルキルアミド、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル等を好適に挙げることができる。なお、アルキルエステル等を構成するアルキル基は炭素数が1~18であることが好ましい。
【0063】
上記スチレン系モノマーとしては、たとえばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレンその他が好適であり、マレイン酸系モノマーとしては、無水マレイン酸やマレイン酸が好適であり、炭素数が1~18のアルキルエステル、炭素数が1~18のアルキルアミド、炭素数が2~4のヒドロキシアルキルエステルとなっていてもよい。さらに、本発明で使用する水性アクリル樹脂は、反応成分として上記以外の一般に水性アクリル系樹脂の反応成分として使用される既知のモノマーをさらに使用してもよい。
【0064】
これらの各反応成分を用いて、既知の製造方法でアクリル系樹脂を製造でき、また、既知の乳化剤ないし高分子の保護コロイドを用いる方法や、分子内にカルボキシル基を導入し、塩基性化合物で中和する方法により水性化することができる。塩基性化合物としては、ポリウレタン樹脂で例示したものと同じものを挙げることができ、中でもアミン化合物が好ましく、アンモニアの使用が好ましい。また、水性アクリル樹脂は水性エマルジョンであることが好ましい。
【0065】
なお、当該水性アクリル樹脂の酸価としては、10~300mgKOH/gが好ましく、15~300mgKOH/gであることがなお好ましく、15~250mgKOH/gであることがさらに好ましい。当該酸価によって良好な水溶性の樹脂が得られ、版絡み性の特性が向上するためである。また、水性アクリル樹脂はガラス転移温度が-20~150℃であることが好ましく、-10~130℃であることがなお好ましい。当該ガラス転移温度範囲によって基材密着性が向上するためである。また、当該水性アクリル樹脂の重量平均分子量は5,000~700,000であることが好ましく、8,000~500,000であることがより好ましく、8,000~200,000であることが更に好ましい。
【0066】
<顔料>
本発明の水性フレキソインキは、水性バインダー樹脂以外に必要に応じて、顔料、水、有機溶剤、ポリエチレン粒子、硬化剤、添加剤などを使用できる。
本発明の水性フレキソインキに使用される顔料としては、一般のインキ、塗料、および記録材などに使用されている有機、無機顔料を挙げることができる。有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、ジクトピロロピロール系、イソインドリン系などの顔料が挙げられる。無機顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、シリカ、ベンガラ、アルミニウム、マイカ(雲母)などが挙げられる。なお、カラーインデックスに収載のC.I.ピグメントとして記載されている顔料を随時使用することができる。
【0067】
これらの顔料は1種類、または2種類以上併用して用いることができる。上記顔料は水性フレキソインキ総質量中に0.05~60質量%含有することが好ましく、有機顔料またはカーボンブラックの場合は0.05~35質量%、酸化チタンや硫酸バリウム等の無機顔料の場合は5~60質量%で含有することが好ましい。
【0068】
<有機溶剤>
本発明における水性フレキソインキに含まれる揮発成分である媒体としては水が主成分(揮発成分のうち50質量%以上)であるが、その目的等に支障のない範囲で有機溶剤を使用してもよく、使用する場合はアルコール系有機溶剤、グリコール系有機溶剤、グリコールエーテル系有機溶剤であることが好ましい。かかる有機溶剤は例えばアルコール系有機溶剤ではエタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、t-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール等が挙げられ、グリコール系有機溶剤としてはエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられ、またグリコールエーテル系有機溶剤としてはエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。本発明の水性フレキソインキにおいて、基材への濡れ性等を制御することができるため、インキ総質量中に10%以下、更には5%以下で使用することが好ましい。
【0069】
<ポリエチレン粒子>
本発明の水性フレキソインキはポリエチレン粒子を含有することが好ましく、プラスチックフィルム基材のインキ被膜の耐摩擦性とブロッキング性を向上する目的および水・有機溶剤の乾燥性を向上させる目的で用いられる。ポリエチレン粒子は融点が90~140℃であるポリエチレンワックスであることが好ましく、95~135℃であることがより好ましく、95~125℃であることが更に好ましい。平均粒子径は0.5~10μmであることが好ましく、0.5~8μmであることがより好ましく、0.5~5μmであることが更に好ましい。なお、平均粒子径はコールターカウンター法による測定値である。該当するポリエチレン粒子では、上記水性ポリウレタン樹脂、水性アクリルウレタン樹脂および水性アクリル樹脂、並びに、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアルキルアミンとなじんだときに良好なインキ被膜を形成し、基材密着性および版絡みの良化を促す。
【0070】
ポリエチレン粒子の使用量は、水性フレキソインキ総質量中で固形分として0.5~5質量%使用することが好ましい。0.5質量%以上で耐摩擦性とブロッキング性が向上し、5質量%以下で使用すると水性ポリウレタン樹脂または水性アクリルウレタン樹脂との相溶性が良好となり、更にフレキソインキの経時安定性も良好となる。
【0071】
本発明の水性フレキソインキはpHが6.5~10.0に調整されていることが好ましい。pHの調整には上記の無機水酸化物またはアミン化合物を使用することが好ましい。
【0072】
<硬化剤>
本発明の水性フレキソインキには、バインダー樹脂に対して硬化剤を用いて架橋させることで基材への密着性向上、インキ被膜のラミネート強度、耐水性向上させることができる。バインダー樹脂がカルボキシル基などの酸性基を有する場合、ヒドラジン系化合物、カルボジイミド化合物またはエポキシ化合物を使用することが好ましい。
ヒドラジン系化合物としてはアジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドその他のジヒドラジド化合物が好ましい。
カルボジイミド化合物とは、カルボジイミド基を有する化合物であり、例えば日清紡社製カルボジライトE-02、E-03A、SV-02、V-02、V02-L2、V-04等が挙げられる。
エポキシ化合物とはエポキシ基を有する化合物をいい、例えばADEKA社製アデカレジンEP-4000、EP-4005、7001などの脂環式エポキシが挙げられる。
当該硬化剤は水性フレキソインキ総質量に対して0.1~5質量%で使用することが好ましく、0.1~3質量%で使用することがより好ましい。
【0073】
<その他添加剤>
上記以外で使用できる添加剤としては、ブロッキング防止剤、増粘剤、レオロジー調整剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、表面張力調整剤、pH調整剤およびポリエチレン粒子などが好適に挙げられる。
【0074】
<水性フレキソインキの製造方法>
本発明の水性フレキソインキは、水性バインダー樹脂、顔料などを水および規定量のポリエーテルポリオール中に溶解および/または分散処理(顔料分散)をすることにより製造することができる。その後、得られた分散体に、必要に応じて添加剤、水および必要に応じ有機溶剤等を配合することにより水性フレキソインキを製造することができる。
【0075】
顔料分散に使用する分散機としては、一般に使用される、例えば、ローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを用いることができる。サンドミル、ガンマミルその他のビーズミルで分散することが好ましい。
【0076】
前記方法で製造された水性フレキソインキの粘度は、顔料の沈降を防ぎ、適度に分散させる観点から10mPa・s以上、インキ製造時や印刷時の作業性効率の観点から1000mPa・s以下の範囲であることが好ましい。尚、上記粘度はトキメック社製B型粘度計で25℃において測定された粘度である。
【0077】
<フレキソ印刷方法>(アニロックスロール)
本発明のフレキソ印刷物を作成するにあたりフレキソ印刷に使用されるアニロックスロールとしては、セル彫刻が施されたセラミックアニロックスロール、クロムメッキアニロックスロール等を使用することができる。優れたドット再現性を有する印刷物を得るために印刷する際に使用するフレキソ版の版線数の5倍以上好ましくは6倍以上の線数を有するアニロックスロールが使用される。例えば、使用する版線数が75lpi(Lines per inch)の場合は375(好ましくは400)lpi以上のアニロックスロールが必要であり、版線数が150lpiの場合は750lpi以上のアニロックスロールが必要である。アニロックス容量については本発明の水性フレキソインキの乾燥性とブロッキング性の観点から1~8cm/mの容量、好ましくは2~6cm/mのアニロックスロールである。
【0078】
<フレキソ印刷方法>(フレキソ版)
本発明のフレキソ印刷物の製造方法に使用されるフレキソ印刷に使用される版としてはUV光源による紫外線硬化を利用する感光性樹脂版またはダイレクトレーザー彫刻方式を使用するエラストマー素材版が挙げられる。フレキソ版の画像部の形成方法に関わらず版のスクリーニング線数において75lpi以上のものが使用される。版を貼るスリーブやクッションテープについては任意のものを使用することができる。
【0079】
<フレキソ印刷方法>(印刷機)
フレキソ印刷機としてはCI型多色フレキソ印刷機、ユニット型多色フレキソ印刷機等があり、インキ供給方式についてはチャンバー方式、2ロール方式が挙げることが出来、適宜の印刷機を使用することができる。
【0080】
<基材>
本発明の印刷物に使用できる基材としてはプラスチック基材でも紙基材でもよく、特に限定は無いが、プラスチック基材に特に有用であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸などのポリエステル、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのポリスチレン系樹脂、ナイロン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セロハン、もしくはこれらの複合材料からなるフィルム状の基材が挙げられる。また、シリカ、アルミナ、アルミニウムなどの無機化合物をポリエチレンテレフタレート、ナイロンフィルムに蒸着した蒸着基材も用いることができ、更に蒸着処理面がポリビニルアルコールなどによるコート処理を施されていても良い。
基材は、印刷される面(印刷層と接する面)が易接着処理されていることが好ましく、易接着処理とは、例えば、コロナ放電処理、紫外線/オゾン処理、プラズマ処理、酸素プラズマ処理、プライマー処理等が挙げられる。例えばコロナ放電処理では基材上に水酸基、カルボキシル基、カルボニル基等が発現する。水素結合を利用できるためインキ中には水酸基やアミノ基、カルボジイミド基といった官能基を有する化合物を含むことが好ましい。
【0081】
<積層体>
上記印刷物の印刷層上に、更に異なる基材を、接着剤を介して貼り合わせる(ラミネート)事でラミネート積層体を得ることもできる。積層体は例えば工業用袋、軟包装用袋を製造するために用いられることに有用である。
【実施例
【0082】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、以下に記載したものは本発明における実施態様の一例または代表例であり、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」および「%」は、特に注釈の無い場合、「質量部」および「質量%」を表す。
【0083】
(水酸基価)
なお、水酸基価は、樹脂中の水酸基を過剰のアセチル化試薬にてアセチル化し、残存する酸をアルカリで逆滴定して算出した樹脂1g中の水酸基量を、水酸化カリウムのmg数に換算した値で、JISK0070に従って行った値である。
【0084】
(ガラス転移温度・融点)
示差走査熱量計(DSC)測定によりベースラインシフトにおける変曲点の温度をガラス転移温度とし、融点は吸熱ピークの温度とした。測定装置はリガク社製DSC8231を用いた。測定温度範囲は-100~200℃で行った。
【0085】
(酸価)
樹脂固形分1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数であり、乾燥させた樹脂について、JIS K2501に記載の方法に従い、水酸化カリウム・エタノール溶液で電位差滴定により算出した。
【0086】
(重量平均分子量)
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算値であり、樹脂をテトラヒドロフランに溶解させ、0.1%の溶液に調製し、東ソー製HLC-8320-GPC(カラム番号M-0053分子量測定範囲約2000~約4000000)により重量平均分子量を測定した。
【0087】
(水性エマルジョンの平均粒子径)
マイクロトラック・ベル社製 ナノトラックUPA150を用いて、動的光散乱法による粒子分布測定法で測定し、D50の値を平均粒子径とした。
(ポリエチレン粒子の平均粒子径)
ベックマンコールター社製 コールターマルチサイザーを用いて、コールターカウンター法による粒子分布測定法で測定した。測定範囲0.4~1600(μm)
【0088】
以下の実施例および比較例において使用したポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンおよび比較例で使用した化合物を表1に示した。
表中、R、nおよびmは上記一般式(1)または(2)におけるRに相当する部分構造式または自然数を表し、不飽和結合数とは表1中の化合物の含有するアルキル基が有する不飽和基を表し、HLB値はグリフィン法による計算値を表す。
【0089】
[合成例1](水性ポリウレタン樹脂UR1)
還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、撹拌装置、温度計を備えた4ツ口の2000mlフラスコにPTG-2000SN(保土ヶ谷化学工業株式会社製 数平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール)240部、PEG2000(数平均分子量2000のポリエチレングリコール)24部、DMBA(ハイケム株式会社製 ジメチロールブタン酸)35部、IPDI(エボニックデグサジャパン社製 イソホロンジイソシアネート)75部、MEK(メチルエチルケトン)94部を入れ、乾燥窒素で置換し、撹拌下にて、温度を徐々に85℃まで昇温し、5時間反応させた。次に、冷却しながら、28%アンモニア水8.9部とイオン交換水900部とイソプロピルアルコール(IPA)119部の混合溶液を上記溶剤型ポリウレタン樹脂に徐々に滴下して中和することにより水溶化させた。その後、溶剤を減圧留去し、留去分をイオン交換水で置換することで固形分25%の水性ポリウレタン樹脂水溶液UR1を得た。
UR1はポリエチレングリコール由来の構造単位6.4%、重量平均分子量は30000、ガラス転移温度は-80℃、酸価35mgKOH/gであった。
【0090】
[合成例2](水性ポリウレタン樹脂UR2)
還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、撹拌装置、温度計を備えた4ツ口の2000mlフラスコにPTG-2000SN 140部、PEG2000 77部、DMBA 28部、IPDI60部、MEK(メチルエチルケトン)130部を入れ、乾燥窒素で置換し、撹拌下にて、温度を徐々に85℃まで昇温し、5時間反応させた。次に、冷却しながら、28%アンモニア水7.8部とイオン交換水 940部とイソプロピルアルコール138部の混合溶液を上記溶剤型ポリウレタン樹脂に徐々に滴下して中和することにより水溶化させた。その後、溶剤を減圧留去し、留去分をイオン交換水で置換することで固形分25%の水性ポリウレタン樹脂水溶液UR2を得た。UR2はポリエチレングリコール由来の構造単位25%、重量平均分子量は25000、ガラス転移温度は-85℃、酸価35mgKOH/gであった。
【0091】
[合成例3](水性ポリウレタン樹脂UR3)
還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、撹拌装置、温度計を備えた4ツ口の2000mlフラスコにP-2010(クラレ社製 アジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールの縮合物からなる数平均分子量2000のポリエステルポリオール)263部、DMBA 34部、IPDI 78部、MEK(メチルエチルケトン)250部を入れ、乾燥窒素で置換し、撹拌下にて、温度を徐々に85℃まで昇温し、5時間反応させた。次に、冷却しながら、28%アンモニア水13部とイオン交換水723部とイソプロピルアルコール73部の混合溶液を上記溶剤型ポリウレタン樹脂に徐々に滴下して中和することにより水溶化させた。その後、溶剤を減圧留去し、留去分をイオン交換水で置換することで固形分25%の水性ポリウレタン樹脂水溶液UR3を得た。UR3は、重量平均分子量は30000、ガラス転移温度は-55℃、酸価35mgKOH/gであった。
【0092】
[合成例4](アクリルウレタン樹脂におけるウレタンプレポリマーAの合成)
還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、撹拌装置、温度計を備えた4ツ口の2000mlフラスコにP-2010を130部、IPDIを20.0部仕込み、攪拌しながら、窒素還流下で温度90℃まで昇温する。次に、触媒として、2-エチルヘキサン酸スズを0.03部添加し、3時間反応させた後、反応物中の水酸基がイソシアネート基と全て反応したことを確認し、ノルマルプロパノール30.0部を添加して、更に1時間反応させた。イソシアネート基の消失を確認した後に、冷却してメチルエチルケトン120部を添加し更に30分撹拌して均一状態を確認した後に取り出しを行い、不揮発分50%、重量平均分子量は14000 酸価0mgKOH/gのウレタンプレポリマー溶液Aを得た。
【0093】
[合成例5](アクリルウレタン樹脂UR-AC1の合成)
攪拌器、温度計、滴下漏斗および還流器を備えた反応容器に、上記ウレタンプレポリマー溶液Aを120部とメチルエチルケトン30部を仕込み、攪拌しながら、窒素還流下で温度80℃まで昇温した。次に、滴下漏斗に、アクリル酸4部、メタクリル酸メチル6部、ターシャリーブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.2部を予め混合撹拌したものを仕込み、80℃において反応容器に2時間をかけて滴下した。その後、さらに1時間反応させて、ターシャリーブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1部を反応器内に添加し、更に1時間反応させて再度ターシャリーブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1部を反応器内に添加した。反応容器を冷却し、アクリル樹脂からなるグラフト鎖を有するアクリルウレタン樹脂を得た。次に、40℃以下で25%アンモニア水4部を加えてアクリルグラフト鎖を有するウレタン樹脂溶液を中和した。のち脱溶剤および水置換を行い、固形分を34%に調整し、質量比(ウレタン樹脂部:アクリル樹脂部)が86:14、アクリル樹脂部のTgが105℃の水性アクリルウレタン樹脂エマルジョンであるUR-AC1を得た。重量平均分子量は20,000、酸価は43mgKOH/g、エマルジョンの平均粒子径は210nmであった。
【0094】
[合成例6](アクリルウレタン樹脂UR-AC2の合成)
ウレタン樹脂プレポリマー溶液Aを120部、メチルエチルケトン30部、アクリル酸7部、スチレン8部、メチルメタクリレート35部、n-ブチルメタクリルレート10部、ターシャリーブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.2部を用いた以外は合成例5と同様の方法にて固形分34%、質量比(ウレタン樹脂部:アクリル樹脂部)が50:50、アクリル樹脂部のTgが67℃の水性アクリルウレタン樹脂エマルジョンであるUR-AC2を得た。重量平均分子量は23000、酸価は44mgKOH/g、分散体の平均粒子径は230nmであった。
【0095】
[合成例7](アクリルウレタン樹脂におけるウレタンプレポリマーBの合成)
還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、撹拌装置、温度計を備えた4ツ口の2000mlフラスコにPTG-2000SNを51.5部、P2010を34.9部、IPDIを13.6部、チタンジイソプロポキシビズ(エチルアセトアセテート)を0.02部を添加して、110℃にて5時間反応させた。続いて、メチルイソブチルケトン40.0部、2-アミノエタノール1.9部を加え、75℃で2時間反応させた。さらにメチルイソブチルケトン62.3部を添加して、30分撹拌して均一状態を確認した後に取り出しを行い、不揮発分50%、重量平均分子量は20000、酸価は0mgKOH/gのウレタンプレポリマー溶液Bを得た。
【0096】
[合成例8](アクリルウレタン樹脂UR-AC3の合成)
攪拌器、温度計、滴下漏斗、還流器を備えた反応容器に、上記ウレタンプレポリマー溶液Bを60部とノルマルプロパノール30部、アクリル酸8部、メチルメタクリレート52部、n-ブチルアクリレート30.0部を加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら75℃まで昇温させた。滴下漏斗に、メチルイソブチルケトン20.0部、開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.35部を反応槽に滴下した。75℃で8時間反応させた後、イオン交換水および25%アンモニア水7.9部を加えて中和した。脱溶剤処理および水を用いて固形分調整して固形分34%水性アクリルウレタン樹脂のエマルジョンを得た。得られた水性アクリルウレタン樹脂AcUr3は質量比(ウレタン樹脂部:アクリル樹脂部)が25:75、アクリル樹脂部のTgが37℃、酸価は41.0mgKOH/g、分子量40000、エマルジョンの平均粒子径は420nmであった。
【0097】
[実施例1](水性フレキソインキS1)
藍顔料(フタロシアニン系顔料、リオノールブルーFG7358G、トーヨーカラー社製)20部 水性ポリウレタン樹脂水溶液(UR1)50.5部、イオン交換水24.5部をディスパーにて撹拌混合後、サンドミルで30分間分散し、藍顔料分散液を得た。得られた上記藍顔料分散液に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルA(表1参照)3.0部、ポリエチレン粒子(平均粒子径3μm 融点120℃ pH9 固形分40%水分散体)2.0部をディスパーにて撹拌混合し、水性フレキソインキS1を得た。
【0098】
[実施例2~16](水性フレキソインキS2~S16)
表2-1に示す原料および配合組成を用いた以外は実施例1と同様の方法で水性フレキソインキS2~S16を調製した。なお、表中の略称は以下を示す。
【0099】
[実施例17](水性フレキソインキT1)
藍顔料(フタロシアニン系顔料、リオノールブルーFG7358G、トーヨーカラー社製)20部 水性アクリルウレタン樹脂水溶液(UR-AC1)53.5部、イオン交換水 21.5部を加え、ディスパーにて撹拌混合後、サンドミルで分散し、藍顔料分散液を得た。得られた上記藍顔料分散液に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルA 3.0部、ポリエチレン粒子(平均粒子径3μm 融点120℃ pH9 固形分40%水分散体)2.0部を加え、ディスパーにて撹拌混合し水性フレキソインキT1を得た。
【0100】
[実施例18~31](水性フレキソインキT2~T15)
表2に示す原料および配合組成を用いた以外は実施例17と同様の方法で水性フレキソインキT2~T15を調製した。
【0101】
[実施例32](水性フレキソインキU1)
藍顔料(フタロシアニン系顔料、リオノールブルーFG7358G、トーヨーカラー社製)20部、AC1(BASF社製 水性スチレン-アクリル共重合樹脂水溶液 重量平均分子量16500 酸価240mgKOH/g ガラス転移温度102℃ 固形分30%)35部、AC3(BASF社製 水性アクリル樹脂エマルジョン 重量平均分子量 15万 酸価100mgKOH/g ガラス転移温度0℃ 固形分50%)20部、イオン交換水20部をディスパーにて撹拌混合後、サンドミルで分散し、藍顔料分散液を得た。得られた上記藍顔料分散液に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルAを3部、 ポリエチレン粒子(平均粒子径3μm 融点120℃ pH9 固形分40%水分散体)2部を加え、水性フレキソインキU1を得た。
【0102】
[実施例33~48](水性フレキソインキU2~U17)
表2-3に示す原料および配合組成を用いた以外は実施例32と同様の方法で水性フレキソインキU2~U17を調製した。なお、表中の略称は以下を示す。
AC2:水性アクリル樹脂エマルジョン BASF社製 重量平均分子量20万 酸価7mgKOH/g ガラス転移温度9℃ 固形分50%
AC4:水性アクリル樹脂エマルジョン 星光PMC社製 重量平均分子量20万 酸価19mgKOH/g ガラス転移温度15℃ 固形分47%
【0103】
[比較例1~15](水性フレキソインキSS1~SS16)
表3に示す原料および配合組成を用いた以外は実施例1、17または32と同様の方法で比較例となる水性フレキソインキSS1~SS16を調製した。
【0104】
<水性フレキソインキS1の印刷>
上記水性フレキソインキS1を、フレキソ版(感光性樹脂版 KODAK社製 FLEXCEL NXHデジタルフレキソプレート 版厚1.14mm 版線数150lpi)及びアニロックスロール(900lpi 3cc/m2)を具備したフレキソ印刷機(MIRAFLEX CM)にて、コロナ処理ポリエステル(PET)基材(東洋紡績社製 E5100、厚さ12μm)にて速度300m/分にて2000m印刷を行い、印刷物を得た。なお印刷層の乾燥条件は乾燥温度:色間ドライヤー100℃、トンネルドライヤー100℃とした。
【0105】
<水性フレキソインキS2~S16、T1~T15U1~U17およびSS1~SS16の印刷>
水性フレキソインキS2~S16、T1~T15U1~U17およびSS1~SS16を使用した以外は上記と同様にフレキソ印刷を行いそれぞれのインキに対応する印刷物を得た。
【0106】
上記実施例および比較例で得られたそれぞれの水性フレキソインキまたは印刷物を使用して、網点部の版絡み性、耐ブロッキング性、消泡性および接着性を評価した。
【0107】
[版絡み性の評価]
上記実施例および比較例で得られた印刷物について、印刷速度300m/分で2000m印刷後の印刷部にて1%網点部の版絡み性を目視にて評価した。
A:1%網点部の太りが見られず鮮明な画像が形成されている。(優秀)
B:1%網点部にやや太りが認められ、網点同士は繋がっていない。(良好)
C:1%網点部の形状が崩れ、網点の繋がり(ドットブリッジ)が若干認められる。(使用可)
D:1%網点部の形状が崩れ、網点の繋がり(ドットブリッジ)がはっきり認められる(不良)
なお実用レベルの評価はA~Cである。
【0108】
[レベリング性の評価]
上記実施例および比較例で得られた印刷物について、印刷速度300m/分で2000m印刷後の印刷部にてベタ部(100%網点部)の濃度ムラ、素抜け(ピンホール)の有無を目視にて確認した。
A:ベタ部での濃度ムラがなく、ピンホールもない。(優秀)
B:ベタ部での若干の濃度ムラは見られるが、ピンホールの発生はない。(良好)
C:ベタ部での若干の濃度ムラとピンホールが見られる。(使用可)
D:ベタ部での濃度ムラまたは/及びピンホールが目立つ。(不良)
なお実用レベルの評価はA~Cである。
【0109】
[印刷濃度の評価]
上記実施例および比較例で得られた印刷物について、印刷速度300m/分で2000m印刷後の印刷部にてベタ部(100%網点部)の印刷濃度をエックスライト社製 X-RiteeXact(濃度ステータス:ISOステータスE、白色基準:絶対値、フィルター:なし、イルミナント/観測者視野:D50/2°)を用い計測した。
A:ベタ部での印刷濃度が1.60以上(優秀)
B:ベタ部での印刷濃度が1.50以上、1.60未満(良好)
C:ベタ部での印刷濃度が1.40以上、1.50未満(使用可)
D:ベタ部での印刷濃度が1.40未満(不良)
なお実用レベルの評価はA~Cである。
【0110】
[耐ブロッキング性]
上記実施例および比較例で得られた印刷物について、印刷物の印刷層と印刷に用いたPET基材の非コロナ処理面を重ねた後、荷重5kg/cm、温度25℃-湿度50%の環境下で24時間放置し、印刷物の印刷層と重ねた基材を剥がし、重ねた基材へとの剥離抵抗または転移面積にて耐ブロッキング性を評価した。
A:剥離抵抗がなく、印刷層の転移がない(優良)
B:弱い剥離抵抗があるが、印刷層の転移がない(良好)
C:やや強い剥離抵抗があるが、印刷層の転移がない(使用可)
D:印刷層から基材フィルム非処理面への転移が30%未満の面積で認められる(不良)
なお実用レベルの評価はA~Cである。
【0111】
[消泡性]
上記で作製した水性フレキソインキ(U1~21、UA1~20、Ac1~22)に300重量部を1Lメスシリンダーに入れ、インキの温度が25℃となるように適宜調整し、スクリュー型撹拌羽を使用して3,000rpmで5分間撹拌させた。撹拌停止後、泡が消失する時間または泡の残り具合(泡面の高さ)を計測し、次の基準で評価を行った。
A:撹拌停止後、生じた泡が10秒以内に破泡し、液面が確認される(優良)
B:撹拌停止後、生じた泡が60秒以内に破泡し、液面が確認される(良好)
C:撹拌停止後、生じた泡が300秒以内に破泡し、液面が確認される(使用可)
D:撹拌停止後、液面が確認されるまで300秒以上要する(不良)
なお実用レベルの評価はA~Cである。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2-1】
【0114】
【表2-2】
【0115】
【表2-3】
【0116】
【表3】
【0117】
上記評価結果より本発明の水性フレキソインキを使用すれば、有機溶剤排出量を削減でき、版絡み性、レベリング性、印刷濃度、消泡性及び耐ブロッキング性に良好である水性フレキソインキを得ることができた。