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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】設計支援装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/13 20200101AFI20230314BHJP
   E04B 2/72 20060101ALI20230314BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20230314BHJP
【FI】
G06F30/13
E04B2/72 Z ESW
G06F30/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019096793
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2020190988
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年7月30日株式会社建築メディア研究所が発行した「人と自然をつなぐ建築・都市 竹中工務店の環境建築」で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月21日すまい・るホールにおいて開催された第22回住宅・建築物の省CO2シンポジウムで発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月17日プラザ平成・未来科学技術館において開催された buildingSMART International Summit,Tokyo で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】海野 玄陽
(72)【発明者】
【氏名】花岡 郁哉
(72)【発明者】
【氏名】千賀 順
(72)【発明者】
【氏名】ペニシ フィアメッタ
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏治
(72)【発明者】
【氏名】矢野 諭
(72)【発明者】
【氏名】柴田 章吾
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-57214(JP,A)
【文献】特開2007-115041(JP,A)
【文献】特開2009-128952(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0234945(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104680004(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/13
E04B 2/72
G06F 30/20
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の複数の外壁であって、隣接する外壁との間に間隙を有する複数の外壁の形状を設計するための設計支援装置であって、
予め設定された太陽の日射情報、及び前記複数の外壁の形状に基づいて、前記外壁間の間隙を介した前記建物への太陽の直達光による熱負荷を計算する熱負荷計算部と、
前記複数の外壁の形状に基づいて、前記建物の室内にいる人物が感じる開放感を評価する開放感評価部と、
前記太陽の日射情報、及び前記複数の外壁の形状に基づいて、前記外壁間の間隙を介した太陽の光による前記建物の室内の明るさ及びグレアを計算する明るさ及びグレア計算部と、
前記熱負荷計算部によって計算された熱負荷、前記開放感評価部によって評価された開放感、及び前記明るさ及びグレア計算部によって計算された前記明るさ及びグレアに基づいて、前記複数の外壁の形状についての評価値を計算する形状評価部と、
を含む設計支援装置。
【請求項2】
前記複数の外壁の形状を繰り返し設定する外壁形状設定部を更に含み、
前記熱負荷計算部は、前記外壁形状設定部による設定毎に、前記外壁間の間隙を介した前記建物への太陽の直達光による熱負荷を計算し、
前記開放感評価部は、前記外壁形状設定部による設定毎に、前記建物の室内にいる人物が感じる開放感を評価し、
前記明るさ及びグレア計算部は、前記外壁形状設定部による設定毎に、前記外壁間の間隙を介した太陽の光による前記建物の室内の明るさ及びグレアを計算し、
前記形状評価部は、前記外壁形状設定部による設定毎に、前記複数の外壁の形状についての評価値を計算し、前記評価値が最適となる、前記複数の外壁の形状を決定する請求項1記載の設計支援装置。
【請求項3】
前記外壁形状設定部は、前記複数の外壁の各々について、横方向の両端部の各々の位置を、複数の方向の何れかの方向に所定量だけ変位させることにより、前記複数の外壁の形状を繰り返し設定する請求項2記載の設計支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、設計対象物の最適な設計値を計算する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の技術では、MOPSOアルゴリズムで用いる制約関数に、設計変数、信頼性指標、標準偏差及び単位勾配ベクトルからなる変数を代入し、目的関数空間上に配置されたパーティクルの各々について前記制約関数を満足するか否かを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-50899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の技術は、間隙を有する複数の外壁の形状を設計する際に、どのように評価すればよいのか記載されていない。
本発明は上記事実を考慮して、間隙を有する複数の外壁の形状を設計する際に、建物への太陽の直達光による熱負荷の計算、開放感の評価、及び建物の室内の明るさ及びグレアの計算という複数の観点の評価を同時に行うことができることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る設計支援装置は、建物の複数の外壁であって、隣接する外壁との間に間隙を有する複数の外壁の形状を設計するための設計支援装置であって、予め設定された太陽の日射情報、及び前記複数の外壁の形状に基づいて、前記外壁間の間隙を介した前記建物への太陽の直達光による熱負荷を計算する熱負荷計算部と、前記複数の外壁の形状に基づいて、前記建物の室内にいる人物が感じる開放感を評価する開放感評価部と、前記太陽の日射情報、及び前記複数の外壁の形状に基づいて、前記外壁間の間隙を介した太陽の光による前記建物の室内の明るさ及びグレアを計算する明るさ及びグレア計算部と、前記熱負荷計算部によって計算された熱負荷、前記開放感評価部によって評価された開放感、及び前記明るさ及びグレア計算部によって計算された前記明るさ及びグレアに基づいて、前記複数の外壁の形状についての評価値を計算する形状評価部と、を含んで構成されている。
【0006】
本発明に係る設計支援装置によれば、熱負荷計算部によって、予め設定された太陽の日射情報、及び前記複数の外壁の形状に基づいて、前記外壁間の間隙を介した前記建物への太陽の直達光による熱負荷を計算する。開放感評価部によって、前記複数の外壁の形状に基づいて、前記建物の室内にいる人物が感じる開放感を評価する。明るさ及びグレア計算部によって、前記太陽の日射情報、及び前記複数の外壁の形状に基づいて、前記外壁間の間隙を介した太陽の光による前記建物の室内の明るさ及びグレアを計算する。
そして、形状評価部によって、前記熱負荷計算部によって計算された熱負荷、前記開放感評価部によって評価された開放感、及び前記明るさ及びグレア計算部によって計算された前記明るさ及びグレアに基づいて、前記複数の外壁の形状についての評価値を計算する。
このように、間隙を有する複数の外壁の形状を設計する際に、建物への太陽の直達光による熱負荷の計算、開放感の評価、及び外壁間の間隙を介した太陽の光による建物の室内の明るさ及びグレアの計算という複数の観点の評価を同時に行うことができる。
【0007】
本発明に係る設計支援装置は、前記複数の外壁の形状を繰り返し設定する外壁形状設定部を更に含み、前記熱負荷計算部は、前記外壁形状設定部による設定毎に、前記外壁間の間隙を介した前記建物への太陽の直達光による熱負荷を計算し、前記開放感評価部は、前記外壁形状設定部による設定毎に、前記建物の室内にいる人物が感じる開放感を評価し、前記明るさ及びグレア計算部は、前記外壁形状設定部による設定毎に、前記外壁間の間隙を介した太陽の光による前記建物の室内の明るさ及びグレアを計算し、前記形状評価部は、前記外壁形状設定部による設定毎に、前記複数の外壁の形状についての評価値を計算し、前記評価値が最適となる、前記複数の外壁の形状を決定することができる。これにより、複数の外壁の形状を設定する毎に、各観点の同時評価を行うことができるため、最適な形状を容易に探索することができる。
【0008】
本発明に係る設計支援装置の前記外壁形状設定部は、前記複数の外壁の各々について、横方向の両端部の各々の位置を、複数の方向の何れかの方向に所定量だけ変位させることにより、前記複数の外壁の形状を繰り返し設定することができる。これにより、外壁の横方向の両端部の各々の位置を変位させることにより、多様な外壁形状を設定することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明の設計支援装置によれば、間隙を有する複数の外壁の形状を設計する際に、建物への太陽の直達光による熱負荷の計算、開放感の評価、及び外壁間の間隙を介した太陽の光による建物の室内の明るさ及びグレアの計算という複数の観点の評価を同時に行うことができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る設計支援装置を示すブロック図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る設計支援装置を示す機能ブロック図である。
図3】複数の外壁の形状の一例を示す上面図である。
図4】外壁の両端部の位置を変位させる方法を説明するための上面図である。
図5】本発明の第1の実施の形態に係る設計支援装置の設計支援処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
[第1の実施の形態]
<本発明の第1の実施の形態の設計支援装置の構成>
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る設計支援装置100は、CPU12、グラフィックカード13、GPU14、RAM16、HDD18、通信インタフェース21、及びこれらを相互に接続するためのバス23を備えている。
【0013】
CPU12、GPU14は、各種プログラムを実行する。RAM16は、CPU12による各種プログラムの実行時におけるワークエリア等として用いられる。記録媒体としてのHDD18には、後述する設計支援処理ルーチンを実行するためのプログラムを含む各種プログラムや各種データが記憶されている。
【0014】
本実施の形態における設計支援装置100を、設計支援処理ルーチンを実行するためのプログラムに沿って、機能ブロックで表すと、図2に示すようになる。設計支援装置100は、入力部10、演算部20、及び出力部50を備えている。
【0015】
入力部10は、隣接する外壁との間に間隙を有する複数の外壁を有する、計算対象の建物を表す3次元モデルのデータ(例えば、BIM(Building Information Modeling)を用いて生成される3次元モデルのデータ)を入力として受け付ける。
【0016】
演算部20は、建物情報設定部22、環境情報設定部24、外壁形状設定部26、シミュレーション部30、形状評価部40、及び最適形状決定部42を備えている。
【0017】
建物情報設定部22は、計算対象の建物を表す3次元モデルのデータに基づいて、計算空間における計算対象の建物に関する情報を設定する。例えば、計算対象の建物の位置、形状、向きなどを設定する。
【0018】
環境情報設定部24は、予め用意された太陽の日射情報を設定する。例えば、1年間の日毎及び時間毎の太陽の位置などを設定する。また、環境情報設定部24は、予め用意された、各建物を表す3次元モデルのデータに基づいて、計算空間における計算対象の建物の周辺建物に関する情報を設定する。例えば、計算対象の建物の周辺に存在する建物の位置、形状、向きなどを設定する。
【0019】
外壁形状設定部26は、計算対象の建物を表す3次元モデルのデータに基づいて、計算空間における計算対象の建物の複数の外壁の形状に関する情報を設定する。例えば、図3の上面図に示すように、隣接する外壁との間に間隙を有し、かつ、上から見た形状が湾曲状となる複数の外壁W1~W4の各々の位置、形状、向きなどを設定する。このような複数の外壁により反射させた間接光を取り込むことができ、自然光を柔らかく取り入れることができる。
【0020】
また、外壁形状設定部26は、複数の外壁の各々について、横方向の両端部の各々の位置を、複数の方向の何れかの方向に所定量だけ変位させることにより、複数の外壁の形状を繰り返し設定する。例えば、図4に示すように、外壁W2について、横方向の両端部の各々の位置E21、E22を、2方向(例えば、北方向と南方向)の何れかの方向に所定量だけ変位させることを示す変数の値(0又は1)をランダムに決定し、外壁W2の基準点R21、R22から両端部の各々の位置E21、E22までの形状を変形させる。また、同様に、外壁W3について、横方向の両端部の各々の位置E31、E32を、2方向の何れかの方向に所定量だけ変位させることを示す変数の値(0又は1)をランダムに決定し、外壁W3の基準点R31、R32から両端部の各々の位置E31、E32までの形状を変形させる。このように、複数の外壁の形状を、両端部それぞれの変数の値によって表現する。
【0021】
シミュレーション部30は、熱負荷計算部32、開放感計算部34、及び明るさ及びグレア計算部36を備えている。
【0022】
熱負荷計算部32は、外壁形状設定部26による複数の外壁の形状の設定毎に、計算対象の建物を表す3次元モデルのデータと、当該複数の外壁の形状と、太陽の日射情報と、周辺建物に関する情報とに基づいて、外壁間の間隙を介した建物への太陽の直達光による熱負荷を計算する。具体的には、冬期の暖房負荷となる、外壁間の間隙を介した建物への太陽の直達光による放射熱と、夏期の冷房負荷となる、外壁間の間隙を介した建物への太陽の直達光による放射熱と、を計算し、冬期と夏期の放射熱をそれぞれ、熱負荷の評価値として計算する。このとき、冬期の放射熱が多いほど評価がよくなるように、熱負荷の評価値を計算し、夏期の放射熱が少ないほど評価がよくなるように、熱負荷の評価値を計算する。
【0023】
開放感計算部34は、外壁形状設定部26による複数の外壁の形状の設定毎に、計算対象の建物を表す3次元モデルのデータと、当該複数の外壁の形状とに基づいて、計算対象の建物の室内から外壁を見た人物が感じる開放感を評価する。具体的には、室内の所定位置から外壁への複数の視線方向を決定し、決定された複数の視線方向の各々について、当該所定位置から当該視線方向のオブジェクトまでの長さを取得する。このとき、当該視線方向に外壁間の間隙が存在する場合には、当該視線方向のオブジェクトまでの長さが長くなる。そして、複数の視線方向の各々の、オブジェクトまでの長さの合計を、開放感の評価値として計算する。
【0024】
明るさ及びグレア計算部36は、外壁形状設定部26による複数の外壁の形状の設定毎に、計算対象の建物を表す3次元モデルのデータと、外壁形状設定部26による設定から得られる、複数の外壁の形状及び物性値と、太陽の日射情報と、予め設定された内装反射率とに基づいて、外壁間の間隙を介した太陽の光による建物の室内の明るさ及びグレアを計算する。
【0025】
具体的には、1年のうちの特定の時期における特定の時間帯について、計算対象の建物の室内の明るさとして、評価対象となる部屋内の各位置における、特定方向を撮影したカメラ画像の輝度値を計算すると共に、計算対象の建物の室内のグレアとして、評価対象となる部屋内の各位置における、特定方向を撮影したカメラ画像から、グレアDGP(Discomfort Glare Probability)を計算する。そして、カメラ画像の輝度値の各々に基づいて、輝度値が高いほど評価がよくなるように、明るさの評価値を計算する。また、グレアDGPの各々に基づいて、グレアDGPが低いほど評価がよくなるように、グレアの評価値を計算する。
【0026】
形状評価部40は、外壁形状設定部26による複数の外壁の形状の設定毎に、熱負荷計算部32によって計算された熱負荷の評価値、開放感計算部34によって評価された開放感の評価値、並びに明るさ及びグレア計算部36によって計算された明るさの評価値及びグレアの評価値に基づいて、当該複数の外壁の形状についての評価値を計算する。
【0027】
具体的には、形状評価部40は、熱負荷計算部32によって計算された熱負荷の評価値、開放感計算部34によって評価された開放感の評価値、並びに明るさ及びグレア計算部36によって計算された明るさの評価値及びグレアの評価値の各々を正規化する。例えば、熱負荷の評価値の取り得る最大値及び最小値を用いて、熱負荷の評価値を、0~1の値に正規化し、開放感の評価値の取り得る最大値及び最小値を用いて、開放感の評価値を、0~1の値に正規化し、明るさの評価値の取り得る最大値及び最小値を用いて、明るさの評価値を、0~1の値に正規化し、グレアの評価値の取り得る最大値及び最小値を用いて、グレアの評価値を、0~1の値に正規化する。これにより、単位とドメインが異なる各評価値を、0~1の値に正規化することができる。
【0028】
そして、形状評価部40は、各々正規化された、熱負荷の評価値、開放感の評価値、明るさの評価値、及びグレアの評価値の重み付き加算値を、当該複数の外壁の形状についての評価値として計算する。なお、熱負荷の評価値、開放感の評価値、明るさの評価値、及びグレアの評価値の各々に対する重み係数は、実験的に予め設定しておけばよい。あるいは、設計者が、熱負荷の評価値、開放感の評価値、明るさの評価値、及びグレアの評価値の各々に対する重み係数を設定してもよい。
【0029】
最適形状決定部42は、形状評価部40による計算結果に基づいて、評価値が最適となる、建物の複数の外壁の形状を決定し、出力部50により出力する。
【0030】
<設計支援装置の動作>
次に、本発明の第1の実施の形態に係る設計支援装置100の動作について説明する。
【0031】
入力部10によって、隣接する外壁との間に間隙を有する複数の外壁を有する、計算対象の建物を表す3次元モデルのデータを入力として受け付けると、設計支援装置100によって、図5に示す設計支援処理ルーチンが実行される。
【0032】
まず、ステップS100において、建物情報設定部22は、計算対象の建物を表す3次元モデルのデータに基づいて、計算空間における計算対象の建物に関する情報を設定する。
【0033】
ステップS102では、環境情報設定部24は、予め用意された太陽の日射情報を設定すると共に、周辺建物に関する情報を設定する。
【0034】
ステップS104では、外壁形状設定部26は、計算対象の建物を表す3次元モデルのデータに基づいて、計算空間における計算対象の建物の複数の外壁の形状に関する情報を設定する。
【0035】
ステップS106では、熱負荷計算部32は、計算対象の建物を表す3次元モデルのデータと、複数の外壁の形状と、太陽の日射情報と、周辺建物に関する情報とに基づいて、外壁間の間隙を介した建物への太陽の直達光による熱負荷を計算する。
【0036】
ステップS108では、開放感計算部34は、計算対象の建物を表す3次元モデルのデータと、複数の外壁の形状とに基づいて、計算対象の建物の室内から外壁を見た人物が感じる開放感を評価する。
【0037】
ステップS110では、明るさ及びグレア計算部36は、計算対象の建物を表す3次元モデルのデータと、外壁形状設定部26による設定から得られる、複数の外壁の形状及び物性値と、太陽の日射情報と、あらかじめ設定された内装反射率とに基づいて、外壁間の間隙を介した太陽の光による建物の室内の明るさ及びグレアを計算する。
【0038】
ステップS112では、形状評価部40は、熱負荷計算部32によって計算された熱負荷の評価値、開放感計算部34によって評価された開放感の評価値、並びに明るさ及びグレア計算部36によって計算された明るさの評価値及びグレアの評価値に基づいて、当該複数の外壁の形状についての評価値を計算する。
【0039】
そして、ステップS114で、外壁形状設定部26の他の設定について繰り返し計算することを終了するか否かを判定する。外壁形状設定部26の他の設定について繰り返し計算する場合には、上記ステップS104へ戻る。一方、外壁形状設定部26の他の設定について繰り返し計算することを終了する場合には、ステップS116へ移行する。
【0040】
ステップS116では、最適形状決定部42は、形状評価部40による計算結果に基づいて、評価値が最適となる、建物の複数の外壁の形状を決定し、出力部50により出力して、設計支援処理ルーチンを終了する。
【0041】
以上説明したように、本発明の第1の実施の形態に係る設計支援装置によれば、複数の外壁の形状を設計した場合のシミュレーションとして、建物への太陽の直達光による熱負荷の計算、開放感の評価、並びに建物の室内の明るさ及びグレアの計算という複数の観点の評価を同時に行うことができる。また、外壁形状を設定する毎に、各観点の同時評価を行うことができるため、最適な形状を容易に探索することができる。特に、複数の外壁の形状を、熱負荷や照度といった物理量のみでなく、視線の通り抜けという、感覚量での効果を考慮した、最適な複数の外壁の形状を探索することができる。
【0042】
また、熱負荷(夏期の冷房負荷、冬期の暖房負荷)が最小となり、室内を明るくしつつグレアを抑制し、3次元視深度(室内の所定位置から、外壁を見たときに抜ける視線の長さの合計が最大となるような、複数の外壁の形状の最適値を探索することができる。特に、できるだけ反射した柔らかい自然光を多く採り入れることで、年間の室内の明るさを向上させ、夏期の日射熱負荷を削減するために直射光はできるだけ遮光するとともに眺望性を確保するような、複数の外壁面の各々の角度の最適値を探索することができる。また、外壁の間に間隙を設け、各々の間隙の位置や大きさもずらすことで、外壁の間からの眺望、間接光の室内への採光を可能とした外壁の形状を探索することができる。
【0043】
また、外壁の両端部の位置を変位させることにより、多様な外壁の形状を設定することができる。
【0044】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態に係る設計支援装置について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0045】
第2の実施の形態では、複数の外壁の形状についての評価値を算出するために、熱負荷の評価値、開放感の評価値、明るさの評価値、及びグレアの評価値を入力とする学習済みモデルを用いている点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0046】
<本発明の第2の実施の形態の設計支援装置の構成>
本実施の形態における設計支援装置の形状評価部40は、熱負荷計算部32によって計算された熱負荷の評価値、開放感計算部34によって評価された開放感の評価値、並びに明るさ及びグレア計算部36によって計算された明るさの評価値及びグレアの評価値を入力とし、複数の外壁の形状についての評価値を推定するための学習済みモデルを用いて、建物の複数の外壁の形状についての評価値を推定する。
【0047】
なお、学習済みモデルは、以下のように予め学習しておけばよい。例えば、熱負荷の評価値、開放感の評価値、明るさの評価値、及びグレアの評価値の組み合わせと、人手で付与した、建物の複数の外壁の形状についての評価値とのペアを、学習データとして複数用意し、学習データに基づいて、熱負荷の評価値、開放感の評価値、明るさの評価値、及びグレアの評価値の組み合わせを入力とし、建物の複数の外壁の形状についての評価値を出力するモデルを学習する。
【0048】
なお、第2の実施の形態に係る設計支援装置の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0049】
以上説明したように、本発明の第2の実施の形態に係る設計支援装置によれば、学習済みモデルを用いて、建物の複数の外壁の形状を精度よく評価することができる。
【0050】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0051】
例えば、建物を表す3次元モデルのデータを入力とする場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、実際の建物において計測されたデータを入力としてもよい。
【0052】
また、最適な外壁の形状を探索する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、評価対象の複数の外壁の形状のデータを受け付け、評価対象の複数の外壁の形状についての評価値を出力するように構成してもよい。また、特定の時点での、室内の各位置の温度や明るさを計算し、温度分布や明るさ分布をデジタルサイネージ等で可視化してもよい。これにより、外壁の形状により、あえて温熱環境や光環境が不均質な環境を作り、温度分布や明るさ分布を可視化することで、各執務者が、自分にとっての執務にふさわしい場所を選択できるようにする。
【0053】
また、最適な外壁の形状を探索せずに、複数の外壁の形状の設定毎に、当該複数の外壁の形状についての評価値を表示したグラフを出力することで、どの形状の外壁が最適であるかを瞬時に判断する手助けを与えるようにしてもよい。また、複数の外壁の形状の設定毎に、特定の時点での、室内の各位置の温度や明るさを計算し、温度分布や明るさ分布を可視化してもよい。これにより、多様な環境を短時間に設計でき、執務者各人によって異なる環境の嗜好性を満足させる最適な空間を設計することができる。
【0054】
また、本発明のプログラムは、記憶媒体に格納して提供するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 入力部
20 演算部
22 建物情報設定部
24 環境情報設定部
26 外壁形状設定部
30 シミュレーション部
32 熱負荷計算部
34 開放感計算部
36 明るさ及びグレア計算部
40 形状評価部
42 最適形状決定部
50 出力部
100 設計支援装置
図1
図2
図3
図4
図5