(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】電解液及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20230314BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230314BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230314BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/052
H01M10/0568
H01M4/38 Z
(21)【出願番号】P 2019103363
(22)【出願日】2019-05-31
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 佑介
(72)【発明者】
【氏名】山路 智也
(72)【発明者】
【氏名】岩田 寛
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕介
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 隆弘
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-056241(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101882696(CN,A)
【文献】特開2014-110235(JP,A)
【文献】国際公開第2015/020074(WO,A1)
【文献】特開2016-207313(JP,A)
【文献】国際公開第2011/136226(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-0587
H01M 4/13-62
H01M 6/16
H01G 11/00-86
C25D 3/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(FSO
2)
2NLi及びCH
3CH
2CNを含有し、
前記(FSO
2)
2NLiに対する前記CH
3CH
2CNのモル比が1~2.5の範囲内であることを特徴とする電解液
(但し、カーボネートを含む場合を除く)。
【請求項2】
下記一般式(A)で表されるフッ素置換エーテルを含有する請求項1に記載の電解液。
一般式(A) R
1OR
2
一般式(A)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、フッ素置換アルキル基である。R
1及びR
2は互いに結合して環を形成してもよい。
【請求項3】
前記フッ素置換エーテルが下記一般式(A-1)で表されるフッ素置換エーテルである請求項2に記載の電解液。
一般式(A-1) R
1-1OR
2-1
一般式(A-1)において、R
1-1はC
nH
aF
bで表され、nは1以上の整数であり、aは0以上の整数であり、bは1以上の整数であり、2n+1=a+bを満足する。
R
2-1はC
mH
cF
dで表され、mは1以上の整数であり、cは0以上の整数であり、dは1以上の整数であり、2m+1=c+dを満足する。又は、一般式(A-1)において、R
1-1及びR
2-1は互いに結合して環を形成しており、C
lH
eF
fで表され、lは3以上の整数であり、eは0以上の整数であり、fは1以上の整数であり、2l=e+fを満足する。
【請求項4】
正極、負極、及び、請求項1~3のいずれか1項に記載の電解液を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記負極がSi含有負極活物質を備える請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液、及び、当該電解液を備えるリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、リチウムイオン二次電池は、主な構成要素として、正極、負極及び電解液を備える。正極には、充放電に関与する正極活物質が具備されており、負極には、充放電に関与する負極活物質が具備されている。そして、電解液としては、電解質を非水溶媒に溶解した溶液が採用されるのが一般的である。
【0003】
ここで、電解液としては、電解質としてLiPF6を採用し、非水溶媒としてエチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状カーボネートを併用した混合溶媒を採用した電解液を用いるのが一般的である。
【0004】
実際に、特許文献1~特許文献3には、電解質としてLiPF6を採用し、非水溶媒としてエチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート及び環状カーボネートであるエチレンカーボネートを併用した混合溶媒を採用した電解液を備えるリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている。
【0005】
非水溶媒として、アセトニトリルを採用することも知られている。特許文献4には、電解質としてLiPF6を採用し、非水溶媒の主溶媒としてアセトニトリルを採用した電解液を備えるリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている。
【0006】
電解質として(FSO2)2NLiを採用した電解液も知られている。特許文献5には、電解質として(FSO2)2NLi及びLiPF6を併用し、非水溶媒としてエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートを併用した混合溶媒を採用した電解液を備えるリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-185509号公報
【文献】特開2015-179625号公報
【文献】国際公開第2014/080608号
【文献】特開2018-60693号公報
【文献】特開2011-150958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり、リチウムイオン二次電池に用いられる電解液についての研究が精力的に行われている。そして、産業界からは、電池特性に優れるリチウムイオン二次電池が求められている。
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものであり、電池特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供するために、好適な電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、リチウムイオン二次電池の電池特性をさらに向上させるための技術について検討した。具体的には、負極と電解液との関係について検討を行った。
【0010】
従来、一般的に使用されていたカーボネート系の溶媒は、負極表面での還元分解にて、負極の表面にSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜を形成することが知られている。SEI被膜は、負極活物質と電解液との直接接触を防止できるが、カーボネート系の溶媒を原料として生成されたSEI被膜には、CO3基が存在すると考えられる。
【0011】
ここで、例えば、酸化に対して比較的耐性の低いSi含有負極活物質を備えるリチウムイオン二次電池の場合には、SEI被膜におけるCO3基の酸素がSi含有負極活物質を酸化すると推定される。また、Si含有負極活物質は、充放電時の膨張及び収縮の程度が大きいため、SEI被膜が破壊されて、SEI被膜で被覆されていない新たな箇所(以下、かかる箇所を「新生面」という。)が生じ得る。ここで、新生面におけるSi含有負極活物質がカーボネート系の溶媒と接触することで、Si含有負極活物質が酸化することが懸念される。
【0012】
そこで、本発明者は、電解液の主溶媒として、従来、一般的に使用されていたカーボネート系の溶媒ではなく、C=O結合を有さない他の溶媒を選択することを指向した。まず、特許文献4に記載されているアセトニトリルを電解液の主溶媒として選択し、具体的なリチウムイオン二次電池を製造して評価した。その結果、アセトニトリルを主溶媒とする電解液は、Si含有負極活物質を備える負極との相性が良くないことを本発明者は知見した。
【0013】
そこで、本発明者は、アセトニトリルと類似の化学構造の有機溶媒であるCH3CH2CNに着目した。本発明者の鋭意検討の結果、CH3CH2CNを主溶媒とする電解液の電解質としては、一般的なLiPF6ではなく、(FSO2)2NLiが好適であることを知見した。また、(FSO2)2NLiに対するCH3CH2CNの配合量が変化することに因り、リチウムイオン二次電池の電池特性が変化することも知見した。
【0014】
これらの知見に基づき、本発明は完成された。
【0015】
本発明の電解液は、(FSO2)2NLi及びCH3CH2CNを含有し、前記(FSO2)2NLiに対する前記CH3CH2CNのモル比が1~2.5の範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電解液を備えるリチウムイオン二次電池は電池特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a~b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに、これらの数値範囲内から任意に選択した数値を、新たな上限や下限の数値とすることができる。
【0019】
本発明の電解液は、(FSO2)2NLi及びCH3CH2CNを含有し、前記(FSO2)2NLiに対する前記CH3CH2CNのモル比が1~2.5の範囲内であることを特徴とする。
【0020】
本発明の電解液においては、(FSO2)2NLiに対するCH3CH2CNのモル比が1~2.5の範囲内であることにより、電解液に含まれる概ねすべてのCH3CH2CNが、(FSO2)2NLiのリチウムに配位している状態となると考えられる。すなわち、本発明の電解液においては、CH3CH2CNがリチウムに配位している錯体が形成されていると考えられる。そして、CH3CH2CNがリチウムに配位している錯体が充放電条件下においても比較的安定であることに因り、本発明の電解液を備えるリチウムイオン二次電池は、特に寿命に優れていると考えられる。
【0021】
(FSO2)2NLiに対するCH3CH2CNのモル比が2.5を超える場合には、錯体形成に関与しないCH3CH2CNが存在することになると考えられる。そして、錯体形成に関与しないCH3CH2CNがリチウムイオン二次電池の電池特性に悪影響を及ぼす場合があると考えられる。
他方、(FSO2)2NLiに対するCH3CH2CNのモル比が1未満となる場合には、CH3CH2CNと配位できないリチウムが存在することになる。ここで、当該リチウムはCH3CH2CN以外の他の非水溶媒と配位することになる。そのため、CH3CH2CNがリチウムに配位している錯体の好適な効果が、打ち消される可能性が有る。
【0022】
本発明の電解液において、(FSO2)2NLiに対するCH3CH2CNのモル比としては、1.1~2.4、1.2~2.3、1.3~2.2、1.4~2.1、1.5~2、1.5~1.8を例示できる。
【0023】
本発明の電解液は、CH3CH2CN以外の溶媒(以下、第2溶媒ということがある。)を含有してもよい。第2溶媒の存在に因り、本発明の電解液の粘度低下を期待できる。粘度の低い電解液は、正極、負極及びセパレータの空隙への浸透性に優れるといえる。
第2溶媒としては、CH3CH2CNよりもリチウムに対する配位能(錯体の生成定数又は錯体の安定度定数)が低いものが好ましい。
第2溶媒としては、鎖状エーテル、環骨格に酸素を有する環状エーテル及び炭化水素を例示できる。第2溶媒としては、1種類でもよいし、複数種類を併用してもよい。第2溶媒としては、フッ素を含有するものが好ましい。
【0024】
鎖状エーテルとしては、酸素数が1のものが好ましく、鎖状又は環状のフッ素置換エーテルがより好ましい。フッ素置換エーテルが好ましいのは、充電条件下での酸化分解されやすい環境であっても、耐性が高い点にある。
【0025】
フッ素置換エーテルとして、下記一般式(A)で表されるフッ素置換エーテルがさらに好ましい。
一般式(A) R1OR2
一般式(A)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、フッ素置換アルキル基である。R1及びR2は互いに結合して環を形成してもよい。
一般式(A)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、鎖状のフッ素置換アルキル基でもよいし、環状のフッ素置換アルキル基でもよい。
【0026】
フッ素置換エーテルとして、下記一般式(A-1)で表されるフッ素置換エーテルが特に好ましい。
一般式(A-1) R1-1OR2-1
一般式(A-1)において、R1-1はCnHaFbで表され、nは1以上の整数であり、aは0以上の整数であり、bは1以上の整数であり、2n+1=a+bを満足する。R2-1はCmHcFdで表され、mは1以上の整数であり、cは0以上の整数であり、dは1以上の整数であり、2m+1=c+dを満足する。又は、一般式(A-1)において、R1-1及びR2-1は互いに結合して環を形成しており、ClHeFfで表され、lは3以上の整数であり、eは0以上の整数であり、fは1以上の整数であり、2n=e+fを満足する。
【0027】
一般式(A-1)において、n及びmとしては、それぞれ独立に、1~18、1~12、1~8、1~6を例示できる。沸点の関係から、n+m≧4を満足するのが好ましい。一般式(A-1)において、a<bを満足する、又は、a+c<b+dを満足するものが好ましい。一般式(A-1)において、a=0及び/又はc=0であってもよい。
【0028】
一般式(A-1)で表される鎖状のフッ素置換エーテルとしては、CF3CH2OCF2CH3、CF3CH2OCF2CHF2、CHF2CF2CH2OCF2CHF2、CF3CF2CH2OCF2CHF2、CF3CHFCF2OCH2CF3、C3HF6CH(CH3)OC3HF6を例示できる。
【0029】
本発明の電解液において、CH3CH2CNと第2溶媒の配合比は特に限定されない。CH3CH2CNと第2溶媒との体積比として、10:90~90:10の範囲内、20:80~80:20の範囲内、30:70~70:30の範囲内を例示できる。CH3CH2CNと第2溶媒とのモル比として、1:9~9:1の範囲内、2:8~8:2の範囲内、3:7~7:3の範囲内を例示できる。
【0030】
本発明の電解液における(FSO2)2NLiの濃度としては、1~5mol/Lの範囲内、1.2~4.5mol/Lの範囲内、1.5~4mol/Lの範囲内、1.7~3.5mol/Lの範囲内、2~3mol/Lの範囲内を例示できる。
【0031】
本発明の電解液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、(FSO2)2NLi以外の電解質を添加してもよい。また、本発明の電解液には、各種の添加剤を配合してもよい。
【0032】
本発明の電解液に含まれる全電解質に対する(FSO2)2NLiの割合として、60~100モル%、70~99モル%、80~98モル%、90~95モル%を例示できる。
【0033】
本発明の電解液を備えるリチウムイオン二次電池を本発明のリチウムイオン二次電池という。
本発明のリチウムイオン二次電池は、具体的には、本発明の電解液と、正極と、負極と、セパレータを備える。
【0034】
正極は、集電体と集電体の表面に形成された正極活物質層とを具備する。
【0035】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電体の材料は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はない。集電体の材料としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0036】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm~100μmの範囲内であることが好ましい。
【0037】
正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、正極用集電体としてアルミニウムを採用するのが好ましい。
【0038】
具体的には、正極用集電体として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いるのが好ましい。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al-Cu系、Al-Mn系、Al-Fe系、Al-Si系、Al-Mg系、Al-Mg-Si系、Al-Zn-Mg系が挙げられる。
【0039】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al-Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al-Fe系)が挙げられる。
【0040】
正極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る正極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む。正極活物質層には、正極活物質が正極活物質層全体の質量に対して、60~99質量%で含まれるのが好ましく、70~95質量%で含まれるのがより好ましい。結着剤及び導電助剤としては、負極で説明するものを適宜適切な量で採用すればよい。
【0041】
正極活物質としては、層状岩塩構造の一般式:LiaNibCocMdDeOf(MはMn及びAlから選択される。DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素である。a、b、c、d、e、fは0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、1.7≦f≦3を満足する。)で表されるリチウム複合金属酸化物、Li2MnO3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn2O4等のスピネル構造の金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物と層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO4、LiMVO4又はLi2MSiO4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePO4FなどのLiMPO4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO3などのLiMBO3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、リチウムイオンを含まないものを用いても良い。例えば、硫黄単体、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiS2などの金属硫化物、V2O5、MnO2などの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウムイオンを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予めリチウムを添加しておくのが好ましい。
【0042】
高容量及び耐久性などに優れる点から、正極活物質として、層状岩塩構造の一般式:LiaNibCocMdDeOf(MはMn及びAlから選択される。DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素である。a、b、c、d、e、fは0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、1.7≦f≦3を満足する。) で表されるリチウム複合金属酸化物を採用することが好ましい。
【0043】
上記一般式において、b、c、dの値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、0<b<1、0<c<1、0<d<1であるものが良く、また、b、c、dの少なくともいずれか一つが0.1≦b≦0.95、0.01≦c≦0.5、0.01≦d≦0.5の範囲であることが好ましく、0.3≦b≦0.9、0.03≦c≦0.3、0.03≦d≦0.3の範囲であることがより好ましく、0.5≦b≦0.9、0.05≦c≦0.2、0.05≦d≦0.2の範囲であることがさらに好ましい。
【0044】
a、e、fについては、上記一般式で規定する範囲内の数値であればよく、好ましくは0.5≦a≦1.5、0≦e<0.2、1.8≦f≦2.5、より好ましくは0.8≦a≦1.3、0≦e<0.1、1.9≦f≦2.1をそれぞれ例示することができる。
【0045】
高容量及び耐久性などに優れる点から、正極活物質として、スピネル構造のLixMn2―yAyO4(Aは、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Ga、Geから選ばれる少なくとも1の元素、及び、Niなどの遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素から選択される。0<x≦2.2、0≦y≦1)を例示できる。xの値の範囲としては、0.5≦x≦1.8、0.7≦x≦1.5、0.9≦x≦1.2を例示でき、yの値の範囲としては、0≦y≦0.8、0≦y≦0.6を例示できる。具体的なスピネル構造の化合物として、LiMn2O4、LiMn1.5Ni0.5O4を例示できる。
【0046】
具体的な正極活物質として、LiFePO4、Li2FeSiO4、LiCoPO4、Li2CoPO4、Li2MnPO4、Li2MnSiO4、Li2CoPO4Fを例示できる。他の具体的な正極活物質として、Li2MnO3-LiCoO2を例示できる。
【0047】
後述する具体的な評価結果からみて、正極活物質としては、リチウム基準で4V以上の電位にて充放電を行うものであるのが好ましい。そのような正極活物質として、上記の層状岩塩構造の一般式:LiaNibCocMdDeOfで表されるリチウム複合金属酸化物、スピネル構造のLixMn2―yAyO4などを例示できる。好ましい正極活物質が充放電するリチウム基準の電位としては、4~5.5V、4.1~5V、4.2~4.8V、4.3~4.5Vを例示できる。
【0048】
負極は、集電体と集電体の表面に形成された負極活物質層とを具備する。
集電体としては、正極で説明したものを適宜適切に採用すればよい。
【0049】
負極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む。
【0050】
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池に使用可能なものを採用すればよい。後述する具体的な評価結果からみて、好適な負極活物質として、黒鉛やSi含有負極活物質を例示できる。
【0051】
Si含有負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得るSi含有材料が使用可能である。
【0052】
Si含有材料の具体例として、Si単体や、SiOx(0.3≦x≦1.6)を例示できる。SiOxのxが下限値未満であると、Siの比率が過大になるため、充放電時の体積変化が大きくなりすぎてリチウムイオン二次電池のサイクル特性が低下する場合がある。一方、xが上限値を超えると、Si比率が過小になってエネルギー密度が低下する。xの範囲は0.5≦x≦1.5であるのがより好ましく、0.7≦x≦1.2であるのがさらに好ましい。
【0053】
Si含有材料の具体例として、国際公開第2014/080608号などに開示されるシリコン材料(以下、単に「シリコン材料」という。)を挙げることができる。
【0054】
シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有するものである。シリコン材料は、例えば、CaSi2と酸とを反応させてポリシランを主成分とする層状シリコン化合物を合成する工程、さらに、当該層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して水素を離脱させる工程を経て製造されるものである。
【0055】
シリコン材料の製造方法を、酸として塩化水素を用いた場合の理想的な反応式で示すと以下のとおりとなる。
3CaSi2+6HCl → Si6H6+3CaCl2
Si6H6 → 6Si+3H2↑
【0056】
ただし、ポリシランであるSi6H6を合成する上段の反応では、副生物や不純物除去の観点から、通常、反応溶媒として水が用いられる。そして、Si6H6は水と反応し得るため、上段の反応を含む層状シリコン化合物を合成する工程において、層状シリコン化合物がSi6H6のみを含むものとして製造されることはほとんどなく、層状シリコン化合物はSi6Hs(OH)tXu(Xは酸のアニオン由来の元素若しくは基、s+t+u=6、0<s<6、0<t<6、0<u<6)で表されるものとして製造される。なお、上記の化学式においては、残存し得るCaなどの不可避不純物については、考慮していない。そして、当該層状シリコン化合物を加熱して得られるシリコン材料も、酸素や酸のアニオン由来の元素を含む。
【0057】
既述のとおり、シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有する。リチウムイオンが効率的に吸蔵及び放出されるためには、板状シリコン体は厚さが10nm~100nmの範囲内のものが好ましく、20nm~50nmの範囲内のものがより好ましい。板状シリコン体の長手方向の長さは、0.1μm~50μmの範囲内のものが好ましい。また、板状シリコン体は、(長手方向の長さ)/(厚さ)が2~1000の範囲内であるのが好ましい。板状シリコン体の積層構造は走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。また、この積層構造は、原料のCaSi2におけるSi層の名残りであると考えられる。
【0058】
シリコン材料には、アモルファスシリコン及び/又はシリコン結晶子が含まれるのが好ましい。特に、上記板状シリコン体において、アモルファスシリコンをマトリックスとし、シリコン結晶子が当該マトリックス中に点在している状態が好ましい。シリコン結晶子のサイズは、0.5nm~300nmの範囲内が好ましく、1nm~100nmの範囲内がより好ましく、1nm~50nmの範囲内がさらに好ましく、1nm~10nmの範囲内が特に好ましい。なお、シリコン結晶子のサイズは、シリコン材料に対してX線回折測定を行い、得られたX線回折チャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。
【0059】
シリコン材料に含まれる板状シリコン体、アモルファスシリコン及びシリコン結晶子の存在量や大きさは、主に加熱温度や加熱時間に左右される。加熱温度は、350℃~950℃の範囲内が好ましく、400℃~900℃の範囲内がより好ましい。
【0060】
Si含有負極活物質は、粒子の集合体である粉末状のものが好ましい。Si含有負極活物質の平均粒子径は、1~30μmの範囲内が好ましく、2~20μmの範囲内がより好ましい。平均粒子径が小さすぎるSi含有負極活物質を用いると、製造作業が困難になる場合がある。他方、平均粒子径が大きすぎるSi含有負極活物質を用いた負極を具備するリチウムイオン二次電池は、好適な充放電ができない場合がある。
なお、本明細書における平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で試料を測定した場合におけるD50を意味する。
【0061】
Si含有負極活物質として、Si含有負極活物質を炭素層で被覆した炭素層被覆-Si含有負極活物質を採用してもよい。炭素層被覆-Si含有負極活物質は、炭素層とSi含有負極活物質とが一体化しているものが好ましい。そのような炭素層被覆-Si含有負極活物質の製造方法としては、Si含有負極活物質及び炭素粉末の混合物に対して、強い圧力を付した上で撹拌して一体化するメカニカルミリング法や、炭素源から生じる炭素をSi含有負極活物質に蒸着させるCVD(chemical vapor deposition)法を例示できる。
【0062】
Si含有負極活物質の表面を薄い炭素層で均一に被覆できる点から、CVD法が好ましい。そして、CVD法のうち、炭素源である気体状態の有機物を熱で分解して炭素を発生させる熱CVD法が好ましい。
【0063】
熱CVD法を用いて炭素層被覆-Si含有負極活物質を製造する、熱CVD工程について具体的に説明する。詳細に述べると、熱CVD工程は、非酸化性雰囲気下及び加熱条件下にて、Si含有負極活物質を有機物と接触させて、Si含有負極活物質の表面に有機物が炭素化してなる炭素層を形成させる工程である。熱CVD工程を行う場合には、ホットウォール型、コールドウォール型、横型、縦型などの型式の、流動層反応炉、回転炉、トンネル炉、バッチ式焼成炉、ロータリーキルンなどの公知のCVD装置を用いればよい。
【0064】
有機物としては、非酸化性雰囲気下での加熱によって熱分解して炭化し得るものが用いられ、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサンなどの飽和脂肪族炭化水素、エチレン、プロピレン、アセチレンなどの不飽和脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、ベンゾフラン、ピリジンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル類、脂肪酸類などから選択される一種又は混合物が挙げられる。
【0065】
熱CVD工程における処理温度は、有機物の種類によって異なるが、有機物が熱分解する温度より50℃以上高い温度とすることが望ましい。しかし、加熱温度が過度に高いと、系内に遊離炭素(煤)が発生する場合があるので、遊離炭素(煤)が発生しない条件を選択することが好ましい。形成される炭素層の厚さは、処理時間によって制御することができる。
【0066】
熱CVD工程は、Si含有負極活物質を流動状態にして行うことが望ましい。このようにすることで、Si含有負極活物質の全表面を有機物と接触させることができ、より均一な炭素層を形成することができる。Si含有負極活物質を流動状態にするには、流動床を用いるなど各種方法があるが、Si含有負極活物質を撹拌しながら有機物と接触させるのが好ましい。例えば、内部に邪魔板をもつ回転炉を用いれば、邪魔板に留まったSi含有負極活物質が回転炉の回転に伴って所定高さから落下することで撹拌され、その際に有機物と接触して炭素層が形成されるので、Si含有負極活物質の全体にいっそう均一な炭素層を形成することができる。
【0067】
炭素層被覆-Si含有負極活物質の炭素層は非晶質及び/又は結晶質であり、そして、当該炭素層はSi含有負極活物質粒子の表面全体を被覆しているのが好ましい。炭素層の厚みは、1nm~100nmの範囲内が好ましく、5~50nmの範囲内がより好ましく、10~30nmの範囲内がさらに好ましい。
【0068】
負極活物質層には、負極活物質が負極活物質層全体の質量に対して、60~99質量%で含まれるのが好ましく、70~95質量%で含まれるのがより好ましい。
【0069】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムなどの公知のものを採用すればよい。
【0070】
また、国際公開第2016/063882号に開示される、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのカルボキシル基含有ポリマーをジアミンなどのポリアミンで架橋した架橋ポリマーを、結着剤として用いてもよい。
【0071】
架橋ポリマーに用いられるジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン等の含飽和炭素環ジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,5-ジアミノ安息香酸、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、ベンジジン、o-トリジン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0072】
負極活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:結着剤=1:0.005~1:0.3であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0073】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独又は二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
【0074】
負極活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:導電助剤=1:0.01~1:0.5であるのが好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0075】
集電体の表面に正極活物質層又は負極活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に正極活物質又は負極活物質を塗布すればよい。具体的には、正極活物質又は負極活物質、結着剤、溶剤、並びに必要に応じて導電助剤を混合してスラリーにしてから、当該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0076】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0077】
本発明のリチウムイオン二次電池の具体的な製造方法について述べる。
例えば、正極と負極とでセパレータを挟持して電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極の積層体を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までを、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に本発明の電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
【0078】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0079】
本発明のリチウムイオン二次電池は、高電位条件下での充放電に対する耐久性に優れる。よって、本発明のリチウムイオン二次電池は、高電位まで充電されるのが好ましい。ここでの高電位とは、リチウム基準で4V以上の電位を意味する。高電位の範囲としては、リチウム基準で4~5.5V、4.1~5V、4.2~4.8V、4.3~4.5Vを例示できる。
【0080】
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0081】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0082】
以下に、実施例及び比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
(FSO2)2NLiとCH3CH2CNと第2溶媒であるCHF2CF2CH2OCF2CHF2をモル比1:1.5:2で混合し、(FSO2)2NLiを溶解して、実施例1の電解液を製造した。
【0084】
実施例1の電解液を用いて、実施例1-Nのリチウムイオン二次電池を、以下のとおり製造した。
【0085】
重量平均分子量150万のポリアクリル酸と3,5-ジアミノ安息香酸と水を混合して、混合水溶液とした。ここで、ポリアクリル酸を構成するアクリル酸モノマーと3,5-ジアミノ安息香酸のモル比は16:1とした。
窒素ガス雰囲気下、混合水溶液を80℃で2時間撹拌することで、結着剤溶液を製造した。なお、結着剤溶液において、水の含有量は85質量%であった。
【0086】
Si含有負極活物質として炭素被覆シリコン材料80質量部、導電助剤としてアセチレンブラック10質量部、結着剤として固形分が10質量部となる量の上記結着剤溶液、及び、適量の水を混合して、スラリーを製造した。負極用集電体として銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥することで、水を除去した。その後、プレスし、230℃で加熱するとの手順で、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極を製造した。
【0087】
負極を評価極とした。厚さ500μmの金属リチウム箔を対極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。
対極、ガラスフィルター、celgard2400、評価極の順に、2種のセパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに実施例1の電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例1-Nのリチウムイオン二次電池とした。
【0088】
実施例1の電解液を用いて、実施例1-Pのリチウムイオン二次電池を、以下のとおり製造した。
【0089】
正極活物質として層状岩塩構造を示すLiNi0.5Co0.3Mn0.2O2、結着剤としてポリフッ化ビニリデン及び導電助剤としてアセチレンブラックを、LiNi0.5Co0.3Mn0.2O2とポリフッ化ビニリデンとアセチレンブラックとの質量比が94:3:3となるように混合し、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンを添加してスラリーとした。正極用集電体としてアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を乾燥することで、溶剤を除去した。以上の手順で、アルミニウム箔の表面に正極活物質層が形成された正極を製造した。
【0090】
正極を評価極とした。厚さ500μmの金属リチウム箔を対極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。
対極、ガラスフィルター、celgard2400、評価極の順に、2種のセパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに実施例1の電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例1-Pのリチウムイオン二次電池とした。
【0091】
(実施例2)
(FSO2)2NLiとCH3CH2CNと第2溶媒であるCHF2CF2CH2OCF2CHF2をモル比1:2:2で混合し、(FSO2)2NLiを溶解して、実施例2の電解液を製造した。
実施例2の電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2-N及び実施例2-Pのリチウムイオン二次電池を製造した。
【0092】
(比較例1)
(FSO2)2NLiとCH3CH2CNと第2溶媒であるCHF2CF2CH2OCF2CHF2をモル比1:3:2で混合し、(FSO2)2NLiを溶解して、比較例1の電解液を製造した。
比較例1の電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1-N及び比較例1-Pのリチウムイオン二次電池を製造した。
【0093】
(比較例2)
(FSO2)2NLiとアセトニトリルとCHF2CF2CH2OCF2CHF2をモル比1:2:2で混合し、(FSO2)2NLiを溶解して、比較例2の電解液を製造した。
比較例2の電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2-N及び比較例2-Pのリチウムイオン二次電池を製造した。
【0094】
(比較例3)
(FSO2)2NLiと1,2-ジメトキシエタンとCHF2CF2CH2OCF2CHF2をモル比1:2:2で混合し、(FSO2)2NLiを溶解して、比較例3の電解液を製造した。
比較例3の電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3-N及び比較例3-Pのリチウムイオン二次電池を製造した。
【0095】
(参考例1)
LiPF6とCH3CH2CNと第2溶媒であるCHF2CF2CH2OCF2CHF2をモル比1:1.5:2で混合し、LiPF6を溶解して、参考例1の電解液を製造した。
【0096】
(参考例2)
(CF3SO2)2NLiとCH3CH2CNと第2溶媒であるCHF2CF2CH2OCF2CHF2をモル比1:1.5:2で混合し、(CF3SO2)2NLiを溶解して、参考例2の電解液を製造した。
【0097】
(評価例1)
実施例1、参考例1及び参考例2の電解液につき、以下の条件で、イオン伝導度を測定した。結果を表1に示す。なお、実施例1、参考例1及び参考例2の電解液においては、電解質の種類のみが相違する。
<イオン伝導度>
白金極を備えたセルに電解液を封入し、25℃、10kHzでの抵抗を測定した。抵抗の測定結果から、イオン伝導度を算出した。測定機器はSolartron 147055BEC(ソーラトロン社)を使用した。
【0098】
【0099】
表1の結果からみて、(FSO2)2NLiがCH3CH2CN溶媒に適する電解質であるといえる。
【0100】
(評価例2)
実施例1-N~実施例2-N、比較例1-N~比較例3-Nのリチウムイオン二次電池に対して、0.2mAで0.01Vまで充電し、0.2mAで1.0Vまで放電を行うとの初回充放電を行った。さらに、各リチウムイオン二次電池に対して、0.5mAで0.01Vまで充電し、0.5mAで1.0Vまで放電を行うとの充放電サイクルを30回繰り返した。
なお、本評価例では、Si含有負極活物質がリチウムを吸蔵する印加を充電といい、Si含有負極活物質がリチウムを放出する印加を放電という。
【0101】
以下の式で、初期効率と容量維持率を算出した。結果を表2に示す。
初期効率(%)=100×(初回放電容量)/(初回充電容量)
容量維持率(%)=100×(30サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)
なお、以下の表において、DMEとは1,2-ジメトキシエタンの略称である。
【0102】
【0103】
表2から、実施例1-N~実施例2-N及び比較例3-Nのリチウムイオン二次電池は、初期効率及び容量維持率の両者に優れていることがわかる。
他方、(FSO2)2NLiに対するCH3CH2CNのモル比が3である電解液を備える比較例1-Nのリチウムイオン二次電池は、初期効率が劣り、容量維持率が著しく劣ることがわかる。CH3CH2CNに替えてアセトニトリルを採用した電解液を備える比較例2-Nのリチウムイオン二次電池も、初期効率が劣り、容量維持率が著しく劣ることがわかる。
【0104】
(評価例3)
実施例1-P~実施例2-P、比較例1-P~比較例3-Pのリチウムイオン二次電池に対して、0.2mAで4.35Vまで充電し、0.2mAで3.0Vまで放電を行うとの初回充放電を行った。さらに、各リチウムイオン二次電池に対して、0.5mAで4.35Vまで充電し、0.5mAで3.0Vまで放電を行うとの充放電サイクルを30回繰り返した。
【0105】
以下の式で、初期効率と容量維持率を算出した。結果を表3に示す。
初期効率(%)=100×(初回放電容量)/(初回充電容量)
容量維持率(%)=100×(30サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)
【0106】
【0107】
表3から、実施例1-P~実施例2-P及び比較例1-P~比較例2-Pのリチウムイオン二次電池は、初期効率及び容量維持率の両者に優れていることがわかる。
他方、比較例3-Pのリチウムイオン二次電池は、初期効率及び容量維持率の両者が実施例1-P~実施例2-Pのリチウムイオン二次電池よりも劣ることがわかる。
【0108】
電解液と負極の関係を評価した評価例2の結果、及び、電解液と正極の関係を評価した評価例3の結果から、本発明の電解液は負極及び正極の両者との関係が良好であるといえる。
【0109】
(評価例4)
実施例2-P及び比較例3-Pのリチウムイオン二次電池に対して、0.02mAで4.35Vまで充電を行った。充電後の各リチウムイオン二次電池を解体して正極を取り出し、径2mmの大きさとした。かかる実施例2-Pの正極をDSC試験用のサンプルパンに入れ、さらに実施例2の電解液を添加して、サンプルパンを密封して試料とした。同様に、かかる比較例3-Pの正極をDSC試験用のサンプルパンに入れ、さらに比較例3の電解液を添加して、サンプルパンを密封して試料とした。
示差走査熱量装置(DSC)を用い、窒素ガスの流通下、5℃/分の速度で各試料を昇温し、50℃~350℃の範囲における発熱量を測定した。
結果を表4及び
図1に示す。
【0110】
【0111】
表4及び
図1の結果から、本発明の電解液は、充電状態の正極存在下、かつ、高温条件下においての発熱量が少ないことがわかる。そのため、本発明の電解液は、正極充電状態との酸化分解されやすい条件下においても、安定性に優れるといえる。