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特許7243505Ni含有ブレーキディスク材のデスケーリング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】Ni含有ブレーキディスク材のデスケーリング方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 1/02 20060101AFI20230314BHJP
【FI】
B21J1/02 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019132600
(22)【出願日】2019-07-18
(65)【公開番号】P2021016874
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】原島 亜弥
(72)【発明者】
【氏名】近藤 泰光
(72)【発明者】
【氏名】日高 康善
(72)【発明者】
【氏名】大川 暁
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-111835(JP,A)
【文献】特開2009-270171(JP,A)
【文献】特開2005-342770(JP,A)
【文献】特開昭52-099907(JP,A)
【文献】特開2003-205309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.3~1.5質量%のNi、0.001~0.500質量%のSiを含有する鋼材を、1170℃以上1300℃以下の温度で、15分以上加熱をする加熱工程、高圧水を噴射して鋼材表面に生じたスケールを除去するデスケーリング工程、デスケーリング後の鋼材を熱間鍛造する工程を順に有するブレーキディスク材の製造において、
デスケーリング工程を通過する鋼材の速度をv(m/s)、噴射される水の単位幅当たりの流量をQ
とするとき、Q/v(kg/m2)が20以上であり、v(m/s)が0.05以上0.5以下であることを特徴とする、ブレーキディスク材のデスケーリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0.3~1.5質量%のNi、0.001~0.500質量%のSiを含有する鋼材からブレーキディスク材を製造する過程で生成する酸化スケールをデスケーリングする方法に関係する。
【背景技術】
【0002】
Niは、鋼材強度を上げる、靭性を向上させる、耐食性を上げる、まためっき密着性を向上させる等の作用を有することから、合金添加元素として広く利用されている。例えば、Ni含有鋼は、低温用の溶接構造用鋼材として液体タンクに広く利用されたり、ブレーキディスク材として利用されたりしている。
【0003】
合金鋼では、加熱過程や圧延過程において合金元素を含む鉄酸化物(スケール)が生成する。スケールが鋼表面に残ったまま圧延や鍛造等の加工が行われると、スケールが鋼内に押し込まれてスケール疵となり、製品の表面品質を悪化させる。
【0004】
特に、Niを含有する鋼材は、加熱時に生成するスケールと鋼との密着性を高める作用があるため、高圧水によるデスケーリングを行ってもスケールを除去しにくいという問題がある。概して、Ni含有率が高いほど、デスケーリングは困難になる。例えば、約1質量%のNiを含有するブレーキディスク材の熱間鍛造を行う際に、鍛造前にスケールが除去出来ていないと鍛造後にスケール疵の原因となり、歩留の低下や研削負荷の増大を招いている。
【0005】
この問題に関連して、特許文献1では、デスケーリングが困難なNi含有鋼の表面を機械的に研削した後、酸化防止剤を塗布して加熱し、圧延することにより、酸化スケールの生成自体を抑制する方法を提案している。しかしながら、特許文献1は、酸化スケールは低減するものの、生成する酸化スケールの除去が困難である点は解決できていない。また、特許文献1の方法は、コストおよび作業の負担が大きい。
【0006】
特許文献2は、Ni含有鋼に、酸化防止塗料を塗布して、均熱炉などの高温酸化雰囲気中(1100℃以下)における酸化スケールの発生を防止することを提案している。特許文献2では、当然のことながら、酸化防止塗料を塗布した箇所でしか、その酸化防止効果は得られない。そして、特許文献2も、生成した酸化スケールの除去が困難である点は解決できていない。
【0007】
特許文献3は、デスケーリングの圧力、水量、噴射幅、鋼材の通過速度で決まる衝突エネルギーを、デスケーリング前の鋼材の温度との関係で規定することで、良好なデスケーリング性が得られる、と記載している。ただし、その対象は鋼帯であり、再酸化防止のために、デスケーリング後にできるだけ早く巻き取る必要がある。また、適用できる鋼種として、普通鋼、Si含有鋼または高Cr鋼が挙げられているが、Ni含有鋼については考慮されていない。すなわち、Niを含有するブレーキディスク材のような鍛造品についての教示はない。
【0008】
特許文献4は、Si含有鋼の赤スケールを除去することに主眼をおき、デスケーリングの圧力と水量に加え、ノズル高さと鋼材の通過速度を規定することで、良好なデスケーリング性が得られる、と記載している。ただし、上記のとおり、鋼種としてSi含有鋼に主眼をおいており、Ni含有鋼についての詳細な検討は行なわれていない。また、鋼材の通過速度は、40~80m/分(0.67~1.33m/秒)の範囲についてのみ検討されている。
【0009】
特許文献5も、Si含有鋼の赤スケールを除去することに主眼をおく。そのために、0.15質量%以上のSi含有鋼において、鋼材の通過速度および、デスケーリングの衝突力を規定することで、良好なデスケーリング性を得る、と記載されている。ただし、上記のとおり、鋼種としてSi含有鋼に主眼をおいており、Ni含有鋼については考慮されていない。また、鋼材の通過速度は、50~100m/分(0.83~1.67m/秒)の範囲についてのみ検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-212671号公報
【文献】特開平11-222564号公報
【文献】特開平6-99214号公報
【文献】特開平7-275921号公報
【文献】特開平11-267741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記に鑑みて、本発明は、Ni含有鋼であるブレーキディスク材を対象とするデスケーリング方法であって、酸化防止剤の塗布や、デスケーリング衝突力の増大等によらない、低コストのデスケーリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討の結果、Ni含有鋼のデスケーリングにおいては、従来のSi含有鋼で重要とされた噴射されるデスケ水のエネルギー(衝突力)ではなく、むしろ、スケールと母材との温度差に起因する熱応力がより重要な影響を及ぼすことを、知見した。この技術思想に基づき、鋼材の単位表面積当たりの水の散布量の制御を通じて、鋼材の冷却挙動を制御することにより、Ni含有鋼のデスケーリングが実現できることを知見し、本発明は完成された。
【0013】
本発明により、以下の手段が提供される。
[1]0.3~1.5質量%のNi、0.001~0.500質量%のSiを含有する鋼材を、1170℃以上1300℃以下の温度で、15分以上加熱をする加熱工程、高圧水を噴射して鋼材表面に生じたスケールを除去するデスケーリング工程、デスケーリング後の鋼材を熱間鍛造する工程を順に有するブレーキディスク材の製造において、
デスケーリング工程を通過する鋼材の速度をv(m/s)、噴射される水の単位幅当たりの流量をQ
とするとき、Q/v(kg/m2)が20以上であり、v(m/s)が0.05以上0.5以下であることを特徴とする、ブレーキディスク材のデスケーリング方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来困難であったNi含有鋼(Ni:0.3~1.5質量%)から製造されるブレーキディスクのデスケーリングを、酸化防止剤の塗布や、デスケーリング衝突力の増大等を行なわずに、低コストで行うことができる。より具体的には、鋼材の単位表面積当たりの水の散布量の制御を通じて、スケールと母材(鋼材)との温度差を適切に制御し、温度差に起因する熱応力を高めることにより、デスケーリング性を向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】Ni含有鋼に生成する酸化スケールの模式図。
図2】ブレーキディスク製造の工程を模式的に説明するフロー図。
図3】デスケーリング装置を模式的に説明する概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の要旨)
本発明により、
0.3~1.5質量%のNi、0.001~0.500質量%のSiを含有する鋼材を、1170℃以上1300℃以下の温度で、15分以上加熱をする加熱工程、高圧水を噴射して鋼材表面に生じたスケールを除去するデスケーリング工程、デスケーリング後の鋼材を熱間鍛造する工程を順に有するブレーキディスク材の製造において、
デスケーリング工程を通過する鋼材の速度をv(m/s)、噴射される水の単位幅当たりの流量をQ
とするとき、Q/v(kg/m)が20以上であり、v(m/s)が0.05以上0.5以下であることを特徴とする、ブレーキディスク材のデスケーリング方法、が提供される。
【0017】
(従来知見)
従来、Ni含有鋼のデスケーリングが困難である原因として、以下が知られている。
Niを含有する鋼材を酸素雰囲気中で加熱した場合、スケールが生成する。雰囲気側から鋼表面に向かって、外層スケール、内層スケール、内部酸化層が生成し得る。外層スケールは、主に鉄の外向き拡散により成長したスケールであって、緻密な構造であるのに対して、内層スケールは、主に酸素の内向き拡散により成長したスケールである。内部酸化層は、酸素が鋼(地金)内に拡散し、鉄の酸化物が析出した層である。
Niを含有する鋼材に生成するスケールの一番の特徴は、内層スケールにある。そこではNiを固溶した金属粒子が分散している。これは、NiがFeより貴なためにFeが選択的に酸化され、Niが取り残されて次第に濃化される結果生じた金属粒子である。このNiを固溶した金属粒子が成長し、スケールを鋼につなぎとめる作用(アンカー効果)を生じて、デスケーリングを困難にしていると考えられている。(参考として、図1に示される、内層スケール中の金属粒子の状態を参照されたい。)概して、Ni含有率が高いほど、分散する金属粒子の体積分率が高く、金属粒子中のNiの濃度も高いので、デスケーリングはより困難になる。
【0018】
(本発明の経緯)
そのようなデスケーリングが困難なNi含有鋼に対して、特許文献1、2に記載されるような酸化防止材の塗布が提案されていた。また、Ni含有鋼ではないが、やはりデスケーリングが困難とされるSi含有鋼に対して、特許文献3~5に記載されるように、デスケーリング衝突力(噴射圧力等)を高めることが提案されていた。
しかしながら、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、Ni含有鋼のデスケーリングでは、デスケーリング水の衝突エネルギーよりも、むしろスケールと鋼材(母材)との温度差に起因する熱応力が重要な影響を及ぼすことを知見した。具体的には、デスケーリング工程における、デスケーリング水の流量、およびデスケーリング対象であるNi含有鋼の通過速度を種々に変化させて、スケール剥離挙動を調査し、その結果、過不足なくデスケーリングが実現できる手法およびその条件を見出し、本発明を完成させた。
【0019】
(ブレーキディスク材の製造プロセス)
本発明は、0.3~1.5質量%のNi、0.001~0.500質量%のSiを含有する鋼材から、ブレーキディスク材を製造する過程で、生成する酸化スケールをデスケーリングする方法に関係する。ブレーキディスク材の製造プロセスは、図2の概略図に示されるように、鋼材を加熱炉で加熱する加熱工程、加熱されて鋼材表面に生じたスケールを除去するデスケーリング工程、およびデスケーリングされた鋼材からブレーキディスクに鍛造するための熱間鍛造工程を時系列順に含む。
【0020】
(鋼材の成分に関する規定)
本発明では、0.3~1.5質量%のNi、および、0.001~0.500質量%のSiを含有する鋼材を取り扱う。このような濃度のNiおよびSiを含有する鋼材では、燃焼加熱時の鋼材表面の最高到達温度が1170℃以上に一旦でも加熱されれば、図1のように、Niを固溶した金属粒は大きくて複雑な形状となり、除去困難なスケールが生成する。
【0021】
Ni含有率が高いほど、デスケーリングは困難となるが、Ni含有率が0.3質量%未満である場合には、本発明を用いなくとも、一般的なデスケーリング手法によって、デスケーリング可能である。Ni含有率が0.3質量%以上である場合に、デスケーリングが特に困難になり、本発明の効果が明確に現れる。Ni含有率が1.5質量%を超えると、本発明を用いてもデスケーリングが困難である。
【0022】
本発明で取り扱う鋼材は、0.001~0.500質量%のSiを含有する。Siは、強度を確保したり、溶接性を向上させたりする観点から、鋼材に添加される元素であって、求める性能に応じて適宜添加してもよい。ただし、Si含有量を0.001質量%未満にするにはコストの上昇を招くことから、これを下限とする。また、Siは0.500質量%超を含むと、1170℃以上では本発明を用いなくてもデスケーリング性がよい。これは、鋼材が加熱されてスケールを形成する際に、鋼材中に含まれるSi分によって、Si-Fe系の液相酸化物が形成され、デスケーリング性を向上させるからである。そのため、本発明で取り扱う鋼材は、Si含有量の上限を0.500質量%とする。
【0023】
これら以外の鋼に含有する化学成分は、特に限定されないが、Cで0.001~1.000質量%、Mnで0.001~2.000質量%、Pで0.001~0.100質量%、Sで0.001~0.100質量%の範囲の組成であれば、本発明範囲のデスケーリング性に影響を与えることはなく、本発明の効果を享受できる。
Cは、安価に強度を確保するために有効な元素であるが、添加量が多くなると加工性が低下するため、0.001~1.000質量%とするのが望ましい。
Mnも強度の改善に添加される元素である。Mnによる強度改善効果はMn含有量が多いほど大きい。しかし、Mn含有量が2.000質量%を超えても、添加量に伴い強度は増大するものの加工性を劣化させる傾向である。そのため、Mn含有量を0.001~2.000質量%とするのが望ましい。
Pも強度の改善に有効な合金元素であるとともに、P系の酸化物は、共晶温度を低下させ液相が増加するため、スケールの剥離性は良好となる。この効果を得るために、Pを0.001質量%以上含有してもよい。しかし、0.100質量%を超えて含有させてもスケールの剥離性におよぼす効果は飽和するとともに、粒界脆化が起こりやすくなり加工性が劣化する傾向であるため、上限は0.100質量%とするのが望ましい。
Sは、本来不純物であり、多量に含有すると冷間または熱間加工性を害するので、可能な限り少ないことが好ましいが、通常不可避的に含有される0.100質量%以下であれば本発明上何ら問題はない。
なお、Crは耐蝕性や、耐酸化性を高めるために有効な元素であり、本発明で取り扱う鋼がそれらの目的で一定程度のCrを含んでもよい。しかしながら、Crを多く含有する鋼、例えば9.000質量%以上のCrを含有するステンレス鋼は、スケールの生成が遅く、スケールの生成機構が、ほかの鋼材とは大きく異なることがある。そのため、本発明で取り扱う鋼は、Cr含有率を9.000質量%未満としてもよい。一般的に、ステンレス鋼はNiを含有するものの、9.000質量%以上のCrを含むので、ステンレス鋼を本発明で取り扱う鋼の対象外としてもよい。
【0024】
(加熱工程)
本発明では、鋼材の加熱温度を1170℃以上1300℃以下の場合に限定した。その理由は、前述のとおり、加熱温度が1170℃以上の場合には、内層スケールに含まれるNiを固溶した金属粒が大きく複雑な形状となり、デスケーリングが困難となるためである。ここに、鋼板加熱温度は、厳密には鋼材の表面温度またはスケール温度で管理されるべきである。実用的には、それを加熱炉内温度(雰囲気温度)で管理してもよい。それは、鋼材の表面温度またはスケール温度に概ね一致するので、デスケーリングの難易度を制御することが可能である。表面温度は放射温度計を用いて計測してもよい。
【0025】
鋼材を加熱する温度は、本来、圧延、鍛造等の熱間加工に要する変形抵抗や加工の程度を考慮して必要十分な温度が採用される。通常、1100~1300℃の温度範囲となる。1100℃未満では、圧延不良、鍛造不良等の加工不良が生じるおそれがある。ただし、本発明では、1170℃以上で鋼板の加熱をするので、その後の熱間加工上で問題が生じることはない。圧延不良、鍛造不良等の加工不良は生じず、圧延負荷が高くなることもない。
一方で、この加熱により、鋼材にスケールが成長し、表面疵の原因となるため、デスケーリングが必要となる。特に、1300℃超では、加工のしやすさは飽和する一方で、スケールの生成が促進され歩留まりが低下する。そのため、鋼材の加熱温度の上限を1300℃とする。
加熱手段は、1170℃以上に加熱することができるものであればよく、特に限定されない。メタンやプロパンのような燃焼ガスを直接鋼材に吹き付けながら燃焼させることにより、加熱してもよい。また、誘導加熱、ランプ加熱、通電加熱、電気炉加熱、ラジアントチューブ、ロータリーキルン炉等の加熱手段を用いてもよい。
加熱雰囲気は、特に限定されず、加熱燃焼のための燃焼ガス雰囲気としてよい。
加熱時間は、鍛造等の加工の対象となる鋼材の中心まで、所望の温度になるように設定される。一般的なブレーキディスク材では、およそ15分以上の加熱をしてもよい。さらに、鋼材の内部が十分に加熱されるように、加熱時間の下限を1時間としてもよい。加熱時間の上限は特に制限されるものではないが、長くしすぎても、加工のしやすさは飽和する一方でスケールの生成が促進され歩留まりが低下するので、加熱時間の上限を10時間としてもよい。
【0026】
(デスケーリング工程)
加熱工程で加熱された鋼材の表面にはスケールが生成しており、そのスケールをデスケーリング工程で除去する。デスケーリングとは、高温(例えば900℃以上)の鋼材表面に、水をノズルから噴射することで、鋼材表面のスケールを剥離させて除去する方法をいう。図3は、デスケーリング装置を模式的に説明する概略構成図である。搬送台1によって鋼材2が速度v(m/s)で移動(通過)し、噴射ノズル4から噴射されたデスケーリング水によって、鋼材2の表面のデスケーリングが行なわれる。なお、搬送台1で搬送される鋼材2の表面に対して、均一にデスケーリングするため、つまり、もれがなく且つ重複もないように、デスケーリングするために、噴射ノズル4から噴射されたデスケーリング水を、扇状に広がって噴射する、フラットスプレーノズルを用いる。このとき、噴射ノズル4からのデスケーリング水量は、単位時間、単位長さ(幅)当たりに噴射される量Q
として表される。厳密には、デスケーリング水は、扇の広がる方向に対して垂直な方向に関して、線状ではなくある程度の幅を有する帯状に噴射されるが、その幅は鋼材の通過速度v(m/s)より十分に小さいので、考慮しない。
【0027】
本発明では、デスケーリング工程を通過する鋼材の速度をv(m/s)、噴射される水の単位幅当たりの流量をQ
とするとき、Q/v(kg/m2)が20以上であり、v(m/s)が0.05以上0.5以下であることを特徴とする。
上記の条件でデスケーリングを行うと、スケールと母材(鋼材)との温度差が適切に制御され、温度差に起因する熱応力を高まることにより、スケールと母材(鋼材)との間の密着性が低下し、結果としてデスケーリング性が向上する。特定の理論に拘束されることは望まないが、以下が考えられる。Q/v(kg/m2)は、鋼材表面の単位面積当たりに噴射されるデスケーリング水量に相当するものであり、概ね、スケールおよび母材(鋼材)表面近傍の冷却量に比例すると考えられる。なお、過度に長時間冷却するなどの特殊な条件をのぞけば、通常のデスケーリング条件では、母材の表面近傍より内部(母材の中心部等)は、ほとんど冷却されない。
【0028】
ここで、Q/v(kg/m2)が20未満であると、冷却が十分でなく、デスケーリング性が向上しない。つまりスケールおよび母材(鋼材)表面近傍が十分に冷却されないので、スケールと母材の温度差が十分でなく、温度差に起因する熱応力が十分に得られず、結果としてデスケーリング性が向上しない。Q/v(kg/m2)が20以上であると、冷却が十分であり、デスケーリング性が向上する。つまりスケールと母材(鋼材)の表面近傍が十分に冷却され、スケールと母材の温度差が十分に得られ、温度差に起因する熱応力が高まり、スケールと母材(鋼材)との間の密着性が低下し、結果としてデスケーリング性が向上する。Q/v(kg/m2)が20以上であれば、原理的には、十分な熱応力が得られ、デスケーリング性が向上するが、実際の操業では、Q
およびv(m/s)の制限が存在する。
【0029】
鋼材の通過速度v(m/s)は、0.05~0.5である。0.5m/s以下に通過速度を低下させることにより、冷却時間が適度に長くなり、鋼材の単位表面積当たりに所望の水量(Q/v)を散布できる。0.5m/sを超えると鋼材が受ける水量が減り、十分な冷却が得られず、デスケーリング性が低下することがある。
一般的なデスケーリング装置では、vが0.05m/s未満では、デスケーリング装置の入口から実際にデスケーリングが行なわれる位置まで、またそこからデスケーリング装置出口までの搬送時間が長くなり、冷却時間が長くなりすぎて、母材(鋼材)内部の温度も低下し、デスケの際に、スケールと母材の温度差が十分に得られず、温度差に起因する熱応力が十分に得られず、結果としてデスケーリング性が向上しないことがある。また、生産性も低下する。
【0030】
デスケーリング水量Q
は、10~20であることが好ましい。水量Q
の下限は、一般的なデスケーリング用ノズルの仕様を参考に決定したものであり、Q/v(kg/m2)が上記の範囲に収まるものであれば、これよりも水量の小さいデスケーリングノズルを用いてもよい。水量Q
を大きくしても、鋼材の通過速度v(m/s)を調整することにより、Q/v(kg/m2)が上記の範囲に収まるようにすることは可能である。ただし、水量Q
が20を超えると、水量が多すぎて、過大なスプレー装置が必要となり、コスト増となり、好ましくない。
【0031】
デスケーリングの圧力は、Ni含有鋼のためのデスケーリングで一般的に採用される、比較的高圧の条件でよく、噴射ノズル前のヘッダー圧で100kg/cm2(9.8MPa)以上であることが望ましい。上限は特に制限されないが、装置コスト等を考慮して、1000kg/cm2(98MPa)以下としてもよい。この範囲であれば、鉄鋼の熱間圧延や鍛造プロセスで一般的に使われている条件範囲であり、追加の設備や手間を必要とせず好ましい。また、上記のデスケーリング条件を満たす限り、デスケーリング水の噴射距離、噴射角度等は適宜調整することが可能である。
【0032】
(鍛造工程)
鍛造は、鋼材を加熱し、柔らかい状態にした上で、プレス機等によって圧力をかけ、金型成形することである。上記のデスケーリングされた鋼材の内部は未だ十分に高い温度を維持しており、鍛造により、ブレーキディスクに成形される。上記のデスケーリングにより、十分にスケールが除去されているので、ブレーキディスクのスケール疵を抑制できる。鍛造の条件は、一般的な条件を採用することができ、所望のブレーキディスクを得るために適宜調整してもよい。
【0033】
(発明の効果)
本発明によれば、従来困難であったNi含有鋼(Ni:0.3~1.5質量%)のデスケーリングを、酸化防止剤の塗布や、デスケーリング衝突力の増大等を行なわずに、低コストで行うことができる。
【実施例
【0034】
本発明について、以下の実施例を用いて説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定して解釈されるべきものではない。
【0035】
使用した鋼材の化学成分を下記表1に示す。各鋼材を、空気比1.1に設定したLPGの燃焼ガス雰囲気中、共晶点(1170℃)以上の所定温度にて所定時間で加熱(表2参照)した。ここで、加熱温度は、炉内雰囲気温度を用いた。加熱完了後の鋼材を炉から取り出し、デスケーリング(デスケーリング水圧力 100~200kg/cm2(9.8~19.6MPa))を行った後、熱間鍛造(プレス圧力2000kg/cm2(196MPa))を行った。熱間鍛造した後の表面疵(スケール疵)の有無を判定した。
ここで、デスケーリング時の水の流量(Qに相当)はオリフィス径(ノズル型番)とデスケーリング水圧力を変えて調整した
。また、鋼材の通過速度(vに相当)はベルト速度を変えて調整した(0.02~1.0m/s)。種々の流量と鋼材通過速度を組み合わせて、Q/vを調整した(10~667kg/m2)。
表面疵の判定は、製品の表面品質上問題となる程度のものが目視で確認された場合、または、品質上問題無い程度のものが断面観察で確認された場合を×(「表面疵発生」)、表面疵のないことが目視および断面観察で確認された場合を○(「表面疵なし」)とした。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
本発明例1~11では、本発明の範囲内の温度と時間で加熱をしており、本発明の範囲内の鋼材通過速度v(m/s)および単位面積当たりの水量Q/v(kg/m2)を満たすので、いずれもデスケーリングによりスケールが十分に除去され、その後の鍛造で表面品質上許容できない疵を生じることはなかった(○)。
比較例2、4、6、7では、本発明の上限値(0.5m/s)より高速で鋼材を通過させ、デスケーリングを行ってもスケールが十分に除去されず、その後の鍛造で表面品質上問題となる疵を生じた(×)。デスケーリングによる単位面積当たりの冷却水量が十分でなかったことが示唆される。
比較例3、5では、本発明の下限値(0.05m/s)より低速で鋼材を通過させたところ、デスケーリングを行ってもスケールが十分に除去されず、その後の鍛造で表面品質上問題となる疵を生じた(×)。鋼材の搬送開始後、デスケーリング前に鋼材表面温度が低くなり、デスケーリングによる冷却の効果が十分でなかったことが示唆される。
【0039】
本発明例11では、加熱温度を1300℃、加熱時間を10時間としたが、この場合にも本発明の範囲内のデスケーリングをすることによりスケールが十分に除去され、その後の鍛造で表面品質上許容できない疵を生じることはなかった(○)。すなわち、本発明は高温且つ長時間の加熱をした場合でも有効であるという結果が得られた。
また、本発明例10では、加熱温度を1180℃、加熱時間を1時間としたが、この場合でもデスケーリングによりスケールが十分に除去され、その後の鍛造で表面品質上許容できない疵を生じることはなかった。すなわち、本発明の範囲の下限付近の加熱温度、加熱時間であっても、本発明の効果が奏されることが裏付けられた。
図1
図2
図3