(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】電解液及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20230314BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230314BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230314BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20230314BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/052
H01M10/0569
H01M4/38 Z
(21)【出願番号】P 2019136448
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 佑介
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】岩田 寛
(72)【発明者】
【氏名】山路 智也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕介
(72)【発明者】
【氏名】大谷 まどか
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0254524(US,A1)
【文献】特表2019-507482(JP,A)
【文献】特表2018-505538(JP,A)
【文献】特開2006-252997(JP,A)
【文献】特開2017-199678(JP,A)
【文献】国際公開第2019/078965(WO,A1)
【文献】特開2015-099745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-0587
H01M 4/13-62
H01M 6/16
H01G 11/00-86
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(FSO
2)
2NLi、1,2-ジメトキシエタン、ジアルキルエーテル及び非イオン界面活性剤を含有する電解液であって、
電解液に含まれる全非水溶媒に対する1,2-ジメトキシエタン及びジアルキルエーテルの割合が、60~100体積%、又は、60~100質量%のいずれかであり、
前記非イオン界面活性剤の割合が前記電解液全体の5質量%以下であることを特徴とする電解液。
【請求項2】
(FSO
2)
2NLi、1,2-ジメトキシエタン、ジアルキルエーテル及び非イオン界面活性剤
のみからなる電解液であって、前記非イオン界面活性剤の割合が前記電解液全体の5質量%以下であることを特徴とする電解液。
【請求項3】
(FSO
2)
2NLiに対する前記1,2-ジメトキシエタンのモル比が0.5~2.5の範囲内である請求項1
又は2に記載の電解液。
【請求項4】
(FSO
2)
2NLiに対する前記ジアルキルエーテルのモル比が0.1以上である請求項1
~3のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項5】
正極、負極、及び、請求項1~
4のいずれか1項に記載の電解液を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記負極がSi含有負極活物質を備える請求項
5に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液、及び、当該電解液を備えるリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、リチウムイオン二次電池は、主な構成要素として、正極、負極及び電解液を備える。正極には、充放電に関与する正極活物質が具備されており、負極には、充放電に関与する負極活物質が具備されている。そして、電解液としては、電解質を非水溶媒に溶解した溶液が採用されるのが一般的である。
【0003】
詳細には、電解液の電解質としてLiPF6を採用するのが一般的であり、電解液の非水溶媒としてエチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状カーボネートを併用した混合溶媒を採用するのが一般的である。
【0004】
実際に、特許文献1~特許文献3には、電解質としてLiPF6を採用し、非水溶媒としてエチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート及び環状カーボネートであるエチレンカーボネートを併用した混合溶媒を採用した電解液を備えるリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている。
【0005】
非水溶媒として、鎖状エーテルである1,2-ジメトキシエタンを採用することも知られている。特許文献4には、電解質としてLiPF6を採用し、非水溶媒としてエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート及び1,2-ジメトキシエタンを併用した混合溶媒を採用した電解液を備えるリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている。
【0006】
電解質として(FSO2)2NLiを採用した電解液も知られている。特許文献5には、電解質として(FSO2)2NLi及びLiPF6を併用し、非水溶媒としてエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートを併用した混合溶媒を採用した電解液を備えるリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-185509号公報
【文献】特開2015-179625号公報
【文献】国際公開第2014/080608号
【文献】特開2019-36455号公報
【文献】特開2011-150958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり、リチウムイオン二次電池についての研究が精力的に行われている。そして、産業界からは、電池特性に優れるリチウムイオン二次電池が求められている。
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものであり、電池特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供するために、好適な電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、リチウムイオン二次電池の電池特性をさらに向上させるための技術について検討した。具体的には、負極と電解液との関係について検討を行った。
【0010】
従来、一般的に使用されていたカーボネート系の溶媒は、負極表面での還元分解にて、負極の表面にSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜を形成することが知られている。SEI被膜は、負極活物質と電解液との直接接触を防止できるが、カーボネート系の溶媒を原料として生成されたSEI被膜には、CO3基が存在すると考えられる。
【0011】
ここで、例えば、酸化に対して比較的耐性の低いSi含有負極活物質を備えるリチウムイオン二次電池の場合には、SEI被膜におけるCO3基の酸素がSi含有負極活物質を酸化すると推定される。また、Si含有負極活物質は、充放電時の膨張及び収縮の程度が大きいため、SEI被膜が破壊されて、SEI被膜で被覆されていない新たな箇所(以下、かかる箇所を「新生面」という。)が生じ得る。ここで、新生面におけるSi含有負極活物質がカーボネート系の溶媒と接触することで、Si含有負極活物質が酸化することが懸念される。
【0012】
そこで、本発明者は、電解液の非水溶媒として、負極表面での還元分解が生じ難く、酸化能力も低いと考えられるエーテルを採用することを指向した。
【0013】
本発明者がエーテルの一態様として1,2-ジメトキシエタンを選択し、これに電解質として一般的なLiPF6を溶解しようとしたところ、十分な濃度でのLiPF6の溶解が困難であることを知見した。
【0014】
そこで、LiPF6に替えて電解質として(FSO2)2NLiを採用したところ、十分な濃度で(FSO2)2NLiが1,2-ジメトキシエタンに溶解することを知見した。(FSO2)2NLi及び1,2-ジメトキシエタンは親和性に優れるといえる。
【0015】
しかしながら、(FSO2)2NLi及び1,2-ジメトキシエタンのみからなる電解液は比較的粘度が高い。粘度が高い電解液は、リチウムイオン二次電池の正極及び負極の間に配置されるセパレータへの浸透性に欠ける可能性があるし、さらに、リチウムイオン二次電池の円滑な充放電を妨げる可能性があると本発明者は考えた。
そこで、本発明者は、エーテルの一態様であるジアルキルエーテルを電解液に添加して、電解液の粘度を低下させることを指向した。
【0016】
ところが、(FSO2)2NLi及び1,2-ジメトキシエタンのみからなる電解液にジn-プロピルエーテルを添加したところ、電解液が2液相に分離することを知見した。
そこで、2液相を単相にすべく、界面活性剤を添加する検討を行ったところ、特定の界面活性剤を特定の量で添加することで電解液が単相になり、かつ、リチウムイオン二次電池の電解液として好適に使用可能であることを知見した。
【0017】
これらの知見に基づき、本発明は完成された。
【0018】
本発明の電解液は、(FSO2)2NLi、1,2-ジメトキシエタン、ジアルキルエーテル及び非イオン界面活性剤を含有する電解液であって、非イオン界面活性剤の割合が電解液全体の5質量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電解液を備えるリチウムイオン二次電池は電池特性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a~b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに、これらの数値範囲内から任意に選択した数値を、新たな上限や下限の数値とすることができる。
【0021】
本発明の電解液は、(FSO2)2NLi、1,2-ジメトキシエタン、ジアルキルエーテル及び非イオン界面活性剤を含有する電解液であって、非イオン界面活性剤の割合が電解液全体の5質量%以下であることを特徴とする。
【0022】
1,2-ジメトキシエタンはキレート化合物なので金属イオンに対する配位能(錯体の生成定数又は錯体の安定度定数)が高い。したがって、1,2-ジメトキシエタンは、電解液中で(FSO2)2NLiのリチウムイオンに優先的に配位して、安定な錯体を形成すると考えられる。
【0023】
ここで、1分子の(FSO2)2NLiに対して2分子の1,2-ジメトキシエタンが配位することで最安定な錯体が形成されると考えられる。したがって、錯体の安定性を考慮すると、本発明の電解液においては、(FSO2)2NLiに対する1,2-ジメトキシエタンのモル比は2程度が好適といえる。
ただし、リチウムイオン二次電池の充放電時には、Liが正極及び負極にて挿入及び離脱する必要がある。その際には、錯体の中心にあるLiが錯体の安定化エネルギーを超えて正極内部や負極内部に移動する必要がある。これらの事項を考慮すると、錯体は若干不安定な方が、電荷担体としては妥当であるともいえる。
【0024】
以上の事項から、本発明の電解液において、(FSO2)2NLiに対する1,2-ジメトキシエタンのモル比としては、0.5~2.5の範囲内が好ましく、0.8~2.0の範囲内がより好ましく、1.0~1.9の範囲内がさらに好ましく、1.2~1.7の範囲内が特に好ましく、1.4~1.6の範囲内が最も好ましい。
【0025】
ジアルキルエーテルは、その化学構造からみて、金属イオンに対する配位能(錯体の生成定数又は錯体の安定度定数)が1,2-ジメトキシエタンよりも低いと考えられる。よって、ジアルキルエーテルは、1,2-ジメトキシエタンとリチウムイオンで形成される錯体の安定性に影響を与えないと考えられる。
【0026】
ジアルキルエーテルは電解液の粘度を低くする目的で添加されるが、ジアルキルエーテルはLUMO水準が比較的高いため、負極近傍での還元分解に対する耐性の観点でも有利といえる。
【0027】
参考までに、ジn-プロピルエーテル及び一般的な電解液の非水溶媒であるジメチルカーボネートに対して、分子軌道法計算プログラムGaussianを用い、密度汎関数をB3LYPとし、基底関数を6-311G++gとして計算したLUMOの数値を表1に示す。
表1の結果から、ジn-プロピルエーテルのLUMOが、一般的な電解液の非水溶媒であるジメチルカーボネートのLUMOよりも高いことがわかる。
【0028】
【0029】
ジアルキルエーテルとしては、1種類を採用してもよいし、複数種類を併用してもよい。
ジアルキルエーテル全体の炭素数としては、6~12の範囲内が好ましく、6~10の範囲内がより好ましい。炭素数が少なすぎるジアルキルエーテルは低沸点なので、使用が困難な場合がある。炭素数が多すぎるジアルキルエーテルを用いると、電解液全体の極性が低くなり、イオン伝導性に悪影響が生じる場合がある。
【0030】
ジアルキルエーテルにおけるアルキル基としては、鎖状アルキル基、分岐アルキル基、環状アルキル基、及び、これらのアルキル基が置換したアルキル基のいずれであってもよい。ジアルキルエーテルにおける2つのアルキル基は同じでもよいし、異なるものでもよい。
【0031】
ジアルキルエーテルとして、鎖状アルキル基及び/又は分岐アルキル基を有する、下記一般式(A)で表されるものを例示できる。
一般式(A) CnH2n+1OCmH2m+1
一般式(A)において、n及びmは1以上の整数である。n及びmとしては、それぞれ独立に、1~18、1~12、1~8、1~6を例示できる。
【0032】
ジアルキルエーテルとして、2つの環状アルキル基を有する、下記一般式(B)で表されるものを例示できる。
一般式(B) CnH2n-1OCmH2m-1
一般式(B)において、n及びmは3以上の整数である。n及びmとしては、それぞれ独立に、3~8、4~7、5~6を例示できる。
【0033】
ジアルキルエーテルとして、1つの環状アルキル基を有し、鎖状アルキル基又は分岐アルキル基を有する、下記一般式(C)で表されるものを例示できる。
一般式(C) CnH2n-1OCmH2m+1
一般式(C)において、nは3以上の整数であり、mは1以上の整数である。nとしては、3~8、4~7、5~6を例示できる。mとしては、1~12、1~8、1~6を例示できる。
【0034】
本発明の電解液におけるジアルキルエーテルの配合量としては、(FSO2)2NLiに対するジアルキルエーテルのモル比が0.1以上であるのが好ましい。当該モル比の好ましい範囲として、0.1~10、0.3~8、0.5~6、1~4を例示できる。
なお、ジアルキルエーテルの配合量が過小であれば、本発明の電解液が高粘度となり、本発明の電解液をセパレータや電極に浸透させることが困難になる場合がある。
【0035】
非イオン界面活性剤の添加により、本発明の電解液は単相化される。
非イオン界面活性剤以外の界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤及び両性界面活性剤とのイオン性の界面活性剤が存在する。しかしながら、これらのイオン性の界面活性剤は、(FSO2)2NLi、1,2-ジメトキシエタン及びジアルキルエーテルの3成分の混合物との相性が悪い。
【0036】
非イオン界面活性剤の添加により、本発明の電解液は単相化されるものの、添加量が過剰であれば、再び本発明の電解液は2液相に分離する。よって、非イオン界面活性剤の割合が本発明の電解液全体の5質量%以下であることが必要である。
【0037】
ジアルキルエーテルの配合量にも左右されるが、非イオン界面活性剤の割合としては、0.01~5質量%、0.1~4.5質量%、0.5~4質量%、1~3.5質量%を例示できる。
【0038】
非イオン界面活性剤としては、エステル型、アルコール型、エーテル型、エステルエーテル型、アミド型を例示できる。非イオン界面活性剤としては、1種類を採用してもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0039】
エステル型としては、長鎖脂肪酸とポリオールが縮合してエステル結合を形成したものが好ましい。長鎖脂肪酸としては、炭素数8~30、10~24、炭素数12~18のものを例示できる。ポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール、糖、糖アルコール及び糖アルコールの脱水環化物を例示できる。糖としては、グルコース、マンノース、リボース、キシロース、ショ糖、ラクトース、トレハロースを例示できる。糖アルコールとしては、グリセリン、エリスリトール、トレイトール、アラビトール、キシリトール、リビトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトールを例示できる。
【0040】
アルコール型としては、炭素数が多い脂肪族アルコールが好ましい。脂肪族アルコールの炭素数としては、7~18の範囲を例示できる。
【0041】
エーテル型としては、脂肪族アルコールとポリオールが縮合してエーテル結合若しくはグリコシド結合を形成したもの、又は、長鎖アルキル基で置換されたフェノールとポリオールが縮合してエーテル結合若しくはグリコシド結合を形成したものが好ましい。エーテル型における脂肪族アルコールしては、炭素数7~30、炭素数10~24、炭素数12~18のものを例示できる。長鎖アルキル基で置換されたフェノールにおける長鎖アルキル基としては、炭素数8~30、炭素数10~24、炭素数12~18のものを例示できる。ポリオールの説明は、いずれも、エステル型での説明を援用する。
【0042】
エステルエーテル型としては、長鎖脂肪酸と、エーテル結合を有するアルコールとが縮合してエステル結合を形成したものが好ましい。長鎖脂肪酸の説明は、エステル型での説明を援用する。エーテル結合を有するアルコールとしては、ポリオキシエチレングリコールや、ポリオールが縮合してエーテル結合を形成したものを例示できる。ポリオールの説明は、エステル型での説明を援用する。
【0043】
アミド型としては、長鎖脂肪酸とジエタノールアミンが縮合してアミド結合を形成したものが好ましい。長鎖脂肪酸の説明は、エステル型での説明を援用する。
【0044】
本発明の電解液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、(FSO2)2NLi以外の電解質や、1,2-ジメトキシエタン及びジアルキルエーテル以外の非水溶媒を添加してもよい。また、本発明の電解液には、各種の添加剤を配合してもよい。
【0045】
本発明の電解液に含まれる全電解質に対する(FSO2)2NLiの割合として、60~100モル%、70~99モル%、80~98モル%、90~95モル%を例示できる。
【0046】
本発明の電解液に含まれる全非水溶媒に対する1,2-ジメトキシエタン及びジアルキルエーテルの割合として、60~100体積%、70~98体積%、80~95体積%、85~90体積%、又は、60~100質量%、70~98質量%、80~95質量%、85~90質量%を例示できる。
【0047】
本発明の電解液を備えるリチウムイオン二次電池を本発明のリチウムイオン二次電池という。
本発明のリチウムイオン二次電池は、具体的には、本発明の電解液と、正極と、負極と、セパレータを備える。
【0048】
正極は、集電体と集電体の表面に形成された正極活物質層とを具備する。
【0049】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電体の材料は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はない。集電体の材料としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0050】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm~100μmの範囲内であることが好ましい。
【0051】
正極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る正極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む。正極活物質層には、正極活物質が正極活物質層全体の質量に対して、60~99質量%で含まれるのが好ましく、70~95質量%で含まれるのがより好ましい。結着剤及び導電助剤としては、負極で説明するものを適宜適切な量で採用すればよい。
【0052】
正極活物質としては、層状岩塩構造の一般式:LiaNibCocMdDeOf(MはMn及びAlから選択される。DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素である。a、b、c、d、e、fは0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、1.7≦f≦3を満足する。)で表されるリチウム複合金属酸化物、Li2MnO3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn2O4等のスピネル構造の金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物と層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO4、LiMVO4又はLi2MSiO4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePO4FなどのLiMPO4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO3などのLiMBO3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、リチウムイオンを含まないものを用いても良い。例えば、硫黄単体、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiS2などの金属硫化物、V2O5、MnO2などの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウムイオンを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予めリチウムを添加しておくのが好ましい。
【0053】
高容量及び耐久性などに優れる点から、正極活物質として、層状岩塩構造の一般式:LiaNibCocMdDeOf(MはMn及びAlから選択される。DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素である。a、b、c、d、e、fは0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、1.7≦f≦3を満足する。) で表されるリチウム複合金属酸化物を採用することが好ましい。
【0054】
上記一般式において、b、c、dの値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、0<b<1、0<c<1、0<d<1であるものが良く、また、b、c、dの少なくともいずれか一つが0.1≦b≦0.95、0.01≦c≦0.5、0.01≦d≦0.5の範囲であることが好ましく、0.3≦b≦0.9、0.03≦c≦0.3、0.03≦d≦0.3の範囲であることがより好ましく、0.5≦b≦0.9、0.05≦c≦0.2、0.05≦d≦0.2の範囲であることがさらに好ましい。
【0055】
a、e、fについては、上記一般式で規定する範囲内の数値であればよく、好ましくは0.5≦a≦1.5、0≦e<0.2、1.8≦f≦2.5、より好ましくは0.8≦a≦1.3、0≦e<0.1、1.9≦f≦2.1をそれぞれ例示することができる。
【0056】
高容量及び耐久性などに優れる点から、正極活物質として、スピネル構造のLixMn2―yAyO4(Aは、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Ga、Geから選ばれる少なくとも1の元素、及び、Niなどの遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素から選択される。0<x≦2.2、0≦y≦1)を例示できる。xの値の範囲としては、0.5≦x≦1.8、0.7≦x≦1.5、0.9≦x≦1.2を例示でき、yの値の範囲としては、0≦y≦0.8、0≦y≦0.6を例示できる。具体的なスピネル構造の化合物として、LiMn2O4、LiMn1.5Ni0.5O4を例示できる。
【0057】
具体的な正極活物質として、LiFePO4、Li2FeSiO4、LiCoPO4、Li2CoPO4、Li2MnPO4、Li2MnSiO4、Li2CoPO4Fを例示できる。他の具体的な正極活物質として、Li2MnO3-LiCoO2を例示できる。
【0058】
負極は、集電体と集電体の表面に形成された負極活物質層とを具備する。
集電体としては、正極で説明したものを適宜適切に採用すればよい。
【0059】
負極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む。
【0060】
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池に使用可能なものを採用すればよい。好適な負極活物質として、黒鉛やSi含有負極活物質を例示できる。
Si含有負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得るSi含有材料が使用可能である。
【0061】
Si含有材料の具体例として、Si単体や、SiOx(0.3≦x≦1.6)を例示できる。SiOxのxが下限値未満であると、Siの比率が過大になるため、充放電時の体積変化が大きくなりすぎてリチウムイオン二次電池のサイクル特性が低下する場合がある。一方、xが上限値を超えると、Si比率が過小になってエネルギー密度が低下する。xの範囲は0.5≦x≦1.5であるのがより好ましく、0.7≦x≦1.2であるのがさらに好ましい。
【0062】
Si含有材料の具体例として、国際公開第2014/080608号などに開示されるシリコン材料(以下、単に「シリコン材料」という。)を挙げることができる。
【0063】
シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有するものである。シリコン材料は、例えば、CaSi2と酸とを反応させてポリシランを主成分とする層状シリコン化合物を合成する工程、さらに、当該層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して水素を離脱させる工程を経て製造されるものである。
【0064】
シリコン材料の製造方法を、酸として塩化水素を用いた場合の理想的な反応式で示すと以下のとおりとなる。
3CaSi2+6HCl → Si6H6+3CaCl2
Si6H6 → 6Si+3H2↑
【0065】
ただし、ポリシランであるSi6H6を合成する上段の反応では、副生物や不純物除去の観点から、通常、反応溶媒として水が用いられる。そして、Si6H6は水と反応し得るため、上段の反応を含む層状シリコン化合物を合成する工程において、層状シリコン化合物がSi6H6のみを含むものとして製造されることはほとんどなく、層状シリコン化合物はSi6Hs(OH)tXu(Xは酸のアニオン由来の元素若しくは基、s+t+u=6、0<s<6、0<t<6、0<u<6)で表されるものとして製造される。なお、上記の化学式においては、残存し得るCaなどの不可避不純物については、考慮していない。そして、当該層状シリコン化合物を加熱して得られるシリコン材料も、酸素や酸のアニオン由来の元素を含む。
【0066】
既述のとおり、シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有する。リチウムイオンが効率的に吸蔵及び放出されるためには、板状シリコン体は厚さが10nm~100nmの範囲内のものが好ましく、20nm~50nmの範囲内のものがより好ましい。板状シリコン体の長手方向の長さは、0.1μm~50μmの範囲内のものが好ましい。また、板状シリコン体は、(長手方向の長さ)/(厚さ)が2~1000の範囲内であるのが好ましい。板状シリコン体の積層構造は走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。また、この積層構造は、原料のCaSi2におけるSi層の名残りであると考えられる。
【0067】
シリコン材料には、アモルファスシリコン及び/又はシリコン結晶子が含まれるのが好ましい。特に、上記板状シリコン体において、アモルファスシリコンをマトリックスとし、シリコン結晶子が当該マトリックス中に点在している状態が好ましい。シリコン結晶子のサイズは、0.5nm~300nmの範囲内が好ましく、1nm~100nmの範囲内がより好ましく、1nm~50nmの範囲内がさらに好ましく、1nm~10nmの範囲内が特に好ましい。なお、シリコン結晶子のサイズは、シリコン材料に対してX線回折測定を行い、得られたX線回折チャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。
【0068】
シリコン材料に含まれる板状シリコン体、アモルファスシリコン及びシリコン結晶子の存在量や大きさは、主に加熱温度や加熱時間に左右される。加熱温度は、350℃~950℃の範囲内が好ましく、400℃~900℃の範囲内がより好ましい。
【0069】
Si含有負極活物質は、粒子の集合体である粉末状のものが好ましい。Si含有負極活物質の平均粒子径は、1~30μmの範囲内が好ましく、2~20μmの範囲内がより好ましい。平均粒子径が小さすぎるSi含有負極活物質を用いると、製造作業が困難になる場合がある。他方、平均粒子径が大きすぎるSi含有負極活物質を用いた負極を具備するリチウムイオン二次電池は、好適な充放電ができない場合がある。
なお、本明細書における平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で試料を測定した場合におけるD50を意味する。
【0070】
Si含有負極活物質として、Si含有負極活物質を炭素層で被覆した炭素層被覆-Si含有負極活物質を採用してもよい。炭素層被覆-Si含有負極活物質は、炭素層とSi含有負極活物質とが一体化しているものが好ましい。そのような炭素層被覆-Si含有負極活物質の製造方法としては、Si含有負極活物質及び炭素粉末の混合物に対して、強い圧力を付した上で撹拌して一体化するメカニカルミリング法や、炭素源から生じる炭素をSi含有負極活物質に蒸着させるCVD(chemical vapor deposition)法を例示できる。
【0071】
Si含有負極活物質の表面を薄い炭素層で均一に被覆できる点から、CVD法が好ましい。そして、CVD法のうち、炭素源である気体状態の有機物を熱で分解して炭素を発生させる熱CVD法が好ましい。
【0072】
熱CVD法を用いて炭素層被覆-Si含有負極活物質を製造する、熱CVD工程について具体的に説明する。詳細に述べると、熱CVD工程は、非酸化性雰囲気下及び加熱条件下にて、Si含有負極活物質を有機物と接触させて、Si含有負極活物質の表面に有機物が炭素化してなる炭素層を形成させる工程である。熱CVD工程を行う場合には、ホットウォール型、コールドウォール型、横型、縦型などの型式の、流動層反応炉、回転炉、トンネル炉、バッチ式焼成炉、ロータリーキルンなどの公知のCVD装置を用いればよい。
【0073】
有機物としては、非酸化性雰囲気下での加熱によって熱分解して炭化し得るものが用いられ、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサンなどの飽和脂肪族炭化水素、エチレン、プロピレン、アセチレンなどの不飽和脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、ベンゾフラン、ピリジンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル類、脂肪酸類などから選択される一種又は混合物が挙げられる。
【0074】
熱CVD工程における処理温度は、有機物の種類によって異なるが、有機物が熱分解する温度より50℃以上高い温度とすることが望ましい。しかし、加熱温度が過度に高いと、系内に遊離炭素(煤)が発生する場合があるので、遊離炭素(煤)が発生しない条件を選択することが好ましい。形成される炭素層の厚さは、処理時間によって制御することができる。
【0075】
熱CVD工程は、Si含有負極活物質を流動状態にして行うことが望ましい。このようにすることで、Si含有負極活物質の全表面を有機物と接触させることができ、より均一な炭素層を形成することができる。Si含有負極活物質を流動状態にするには、流動床を用いるなど各種方法があるが、Si含有負極活物質を撹拌しながら有機物と接触させるのが好ましい。例えば、内部に邪魔板をもつ回転炉を用いれば、邪魔板に留まったSi含有負極活物質が回転炉の回転に伴って所定高さから落下することで撹拌され、その際に有機物と接触して炭素層が形成されるので、Si含有負極活物質の全体にいっそう均一な炭素層を形成することができる。
【0076】
炭素層被覆-Si含有負極活物質の炭素層は非晶質及び/又は結晶質であり、そして、当該炭素層はSi含有負極活物質粒子の表面全体を被覆しているのが好ましい。炭素層の厚みは、1nm~100nmの範囲内が好ましく、5~50nmの範囲内がより好ましく、10~30nmの範囲内がさらに好ましい。
【0077】
負極活物質層には、負極活物質が負極活物質層全体の質量に対して、60~99質量%で含まれるのが好ましく、70~95質量%で含まれるのがより好ましい。
【0078】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムなどの公知のものを採用すればよい。
【0079】
また、国際公開第2016/063882号に開示される、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのカルボキシル基含有ポリマーをジアミンなどのポリアミンで架橋した架橋ポリマーを、結着剤として用いてもよい。
【0080】
架橋ポリマーに用いられるジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン等の含飽和炭素環ジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,5-ジアミノ安息香酸、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、ベンジジン、o-トリジン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0081】
負極活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:結着剤=1:0.005~1:0.3であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0082】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独又は二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
【0083】
負極活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:導電助剤=1:0.01~1:0.5であるのが好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0084】
集電体の表面に正極活物質層又は負極活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に正極活物質又は負極活物質を塗布すればよい。具体的には、正極活物質又は負極活物質、結着剤、溶剤、並びに必要に応じて導電助剤を混合してスラリーにしてから、当該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0085】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0086】
本発明のリチウムイオン二次電池の具体的な製造方法について述べる。
例えば、正極と負極とでセパレータを挟持して電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極の積層体を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までを、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に本発明の電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
【0087】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0088】
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0089】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0090】
以下に、実施例及び比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0091】
(実施例1)
374mgの(FSO2)2NLiと、270mgの1,2-ジメトキシエタンと、409mgのジn-プロピルエーテルと、30mgの非イオン界面活性剤であるソルビタントリオレエートとを混合して、単相の溶液である実施例1の電解液を製造した。
実施例1の電解液において、(FSO2)2NLiに対する1,2-ジメトキシエタンのモル比は1.5であり、(FSO2)2NLiに対するジn-プロピルエーテルのモル比は2であった。また、非イオン界面活性剤の割合は、実施例1の電解液全体の2.8質量%であった。
【0092】
実施例1の電解液を用いて、実施例1のリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
【0093】
ポリアクリル酸、4,4’-ジアミノジフェニルメタン及びN-メチル-2-ピロリドンを混合し、加熱撹拌することで、結着剤溶液を製造した。
【0094】
Si含有負極活物質として炭素層被覆シリコン材料72.5質量部、導電助剤としてアセチレンブラック13.5質量部、結着剤として固形分が14質量部となる量の上記結着剤溶液、及び、適量のN-メチル-2-ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。負極用集電体として厚み10μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を80℃、15分間乾燥することで、N-メチル-2-ピロリドンを除去した。その後、プレスすることで、厚み25μmの負極活物質層が形成された負極を製造した。
【0095】
負極を径11mmに裁断し、評価極とした。厚さ500μmの金属リチウム箔を径13mmに裁断し対極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。対極、ガラスフィルター、celgard2400、評価極の順に、2種のセパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに実施例1の電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例1のリチウムイオン二次電池とした。
【0096】
(実施例2)
ジn-プロピルエーテルに替えて、521mgのジn-ブチルエーテルを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の電解液及びリチウムイオン二次電池を製造した。
実施例2の電解液において、(FSO2)2NLiに対する1,2-ジメトキシエタンのモル比は1.5であり、(FSO2)2NLiに対するジn-ブチルエーテルのモル比は2であった。また、非イオン界面活性剤の割合は、電解液全体の2.5質量%であった。
【0097】
(比較例1)
非イオン界面活性剤を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の電解液を製造した。しかし、比較例1の電解液は2液相に分離していたため、以後の検討を中止した。
【0098】
(比較例2)
非イオン界面活性剤を100mg使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の電解液を製造した。しかし、比較例2の電解液は2液相に分離していたため、以後の検討を中止した。
なお、非イオン界面活性剤の割合は、比較例2の電解液全体の8.7質量%であった。
【0099】
(比較例3)
非イオン界面活性剤に替えて、イオン性の界面活性剤であるステアリン酸を30mg使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3の電解液を製造した。しかし、比較例3の電解液は懸濁液となったため、以後の検討を中止した。
【0100】
(比較例4)
非イオン界面活性剤に替えて、イオン性の界面活性剤であるステアリン酸リチウムを30mg使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例4の電解液を製造した。しかし、比較例4の電解液は懸濁液となったため、以後の検討を中止した。
【0101】
(比較例5)
非イオン界面活性剤に替えて、イオン性の界面活性剤であるステアリン酸ナトリウムを30mg使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例5の電解液を製造した。しかし、比較例5の電解液は懸濁液となったため、以後の検討を中止した。
【0102】
(比較例6)
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比3:7で混合して混合溶媒とした。混合溶媒にLiPF6を溶解して、LiPF6の濃度が1mol/Lである比較例6の電解液を製造した。なお、比較例6の電解液は、従来の一般的な電解液である。
比較例6の電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例6のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0103】
(評価例1)
実施例1、実施例2及び比較例6のリチウムイオン二次電池に対して、0.2mAで0.01Vまで充電し、0.2mAで1.0Vまで放電を行うとの初回充放電を行った。さらに、各リチウムイオン二次電池に対して、0.5mAで0.01Vまで充電し、0.5mAで1.0Vまで放電を行うとの充放電サイクルを30回繰り返した。
なお、本評価例では、Si含有負極活物質がリチウムを吸蔵する印加を充電といい、Si含有負極活物質がリチウムを放出する印加を放電という。
【0104】
以下の式で、初期効率と容量維持率を算出した。結果を表2に示す。
初期効率(%)=100×(初回放電容量)/(初回充電容量)
容量維持率(%)=100×(30サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)
【0105】
【0106】
表2から、本発明の電解液を備えるリチウムイオン二次電池は、従来の一般的な電解液を備えるリチウムイオン二次電池と比較して、初期効率に優れ、かつ、容量維持率に著しく優れることがわかる。