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  • 特許-転炉型溶銑予備処理における排滓方法 図1
  • 特許-転炉型溶銑予備処理における排滓方法 図2
  • 特許-転炉型溶銑予備処理における排滓方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】転炉型溶銑予備処理における排滓方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/46 20060101AFI20230314BHJP
【FI】
C21C5/46 103Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019149356
(22)【出願日】2019-08-16
(65)【公開番号】P2021031688
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【氏名又は名称】来田 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】金子 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】位 一平
(72)【発明者】
【氏名】松澤 玲洋
(72)【発明者】
【氏名】福山 博之
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-055315(JP,A)
【文献】特開2016-030850(JP,A)
【文献】特開2017-150034(JP,A)
【文献】国際公開第2018/151075(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉にて溶銑を精錬処理して、炉内に溶銑を残したまま該転炉からスラグを排出する転炉型溶銑予備処理における排滓方法であって、
前記転炉の炉口から排出される排滓流を可視撮像装置により撮像する工程と、
撮像した排滓流画像の画素ごとの輝度から背景輝度を除いて、最頻値を示す輝度値を求める工程と、
前記最頻値を示す輝度値が、予め設定した閾値未満となった時点で排滓を終了する工程とを備えることを特徴とする転炉型溶銑予備処理における排滓方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉にて溶銑を脱Si・脱P等の精錬処理する際、途中で炉内に溶銑を残したまま該転炉からスラグを排出し、引き続き該転炉にて溶銑の脱C処理等を行う転炉型溶銑予備処理における排滓方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄業における製鋼工程では、溶銑を精錬して、溶銑に含まれるC、Si、P、Mn、S等の不純物を除去して溶鋼とした後、溶鋼を鋳造することによって鋳片を製造する。製錬工程では、酸化還元反応により溶銑中の不純物をスラグ、ガスといった形で除去するが、転炉精錬では、近年、高速で酸素を供給できるため、スラグ発生量及び副原料使用量を削減できる転炉型溶銑予備処理が主流となっている。転炉型溶銑予備処理は、脱C処理のみならず脱Si・脱P処理も転炉にて行う溶銑予備処理である。
【0003】
しかし、転炉型溶銑予備処理では、脱P処理によりPを含んだスラグが発生するため、そのまま脱C処理に移行すると、転炉内の溶銑温度上昇と共にスラグ中のPが分解し、再び溶銑中にPとして戻ってしまう。生石灰を溶銑に投入することによりこの現象を防ぐことができるが、生石灰の使用による副原料使用量及びスラグ発生量の増加を招くことになる。そこで、転炉型溶銑予備処理では、生石灰使用量を極力増やさないようにするため、脱Si・脱P処理と脱C処理を工程として分別し、脱Si・脱P処理によって発生したスラグと溶銑とを分離する中間工程を設けている。
【0004】
スラグと溶銑とを分離する方法には、炉内に溶銑を残したまま転炉からスラグのみ排出して分離する方法と、転炉から溶銑を一旦排出してスラグを分離する方法がある。前者の方法による転炉からスラグのみ排出する作業は中間排滓と呼ばれ、転炉を傾け炉口よりスラグのみ排出する。スラグは溶銑よりも比重が小さいので優先的に排出されるが、やがてスラグに混じって溶銑が排出され始める。生石灰使用量を極力増やさないためには、スラグをできるだけ排出する必要があるが、スラグと共に排出された溶銑は鉄ロスとなり、歩留低下の原因となる。そのため、溶銑の排出は可能な限り低減しなければならない。
しかし、この中間排滓作業の終了判断は作業者によって行われており、排滓されるスラグの流れ(排滓流)を目視で観察してスラグ中に溶銑が混じったら終了判断を下すという属人的作業であり定量的な判断ではないため、終了と判断するタイミングのばらつきが大きく、溶銑の排出を助長する主な原因となっている。
【0005】
上記課題を解決するため、定量的な排滓終了判定を目的として、排滓流から発せられる輝度(物体の明るさ)を撮像装置を用いて測定し、スラグと溶銑を可視化する手法がある。輝度は放射率と絶対温度の関数であり、排滓流中のスラグの温度と溶銑の温度がほぼ等しいと考えると、輝度は放射率に依存することになる。一方、スラグと溶銑の放射率は異なっている(スラグの放射率>溶銑の放射率)。故に、測定されるスラグと溶銑の輝度値は異なり、溶銑流出の定量的な判定を下すことが可能となる。
【0006】
例えば、特許文献1では、排滓流から発せられる熱放射エネルギーや輝度を赤外線カメラやCCDカメラで測定し、スラグと溶鋼の熱放射エネルギーや輝度値の違いを利用して画像処理を行うことにより定量的な中間排滓終了を判断する方法が提示されている。
また特許文献2記載の技術では、特許文献1と同じ原理の可視撮像装置を用いた排滓流の輝度測定値と、赤外撮像装置を用いた排滓流の温度測定値とから算出される値が規定値以上であるか否かで中間排滓終了判断をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-55315号公報
【文献】特開2016-30850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1記載の方法は、赤外線カメラで得られる熱放射エネルギーの強度や、CCDカメラで得られる輝度値等がスラグ部分と溶鋼部分で大きく異なることを利用して溶鋼流出を判定するものである。しかし、実際に溶鋼が流出し始めた排滓流から得られる熱放射エネルギー強度や輝度値によって、溶鋼の流出を明確に判定することは困難である。なぜなら、溶鋼はスラグよりも比重が大きいので、溶鋼が排出され始めるときはスラグ中に紛れるような状態となり、熱放射エネルギー強度や輝度値の変化が小さくなるからである。そのため、溶鋼が排滓流の表面に露出してくるくらい多量の溶鋼が流出しない限り、溶鋼流出を判断することは難しい。
【0009】
特許文献2記載の方法も、特許文献1記載の方法と同様、排滓流から観測される輝度が溶銑と判定される閾値を超過しない限り溶銑流出と判定されない。そのため、鉄ロスの検出が遅れてしまうことになる。測定される輝度がスラグの輝度と溶銑の輝度の混合値であることから、排滓流中の溶銑を正確に検出するためには、排滓流中の溶銑の懸濁状況に応じて輝度が変化することを考慮しなければならない。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、転炉型溶銑予備処理における排滓方法において、従来に比べて高い精度で溶銑の流出を検知して排滓終了判定を下すことのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、転炉にて溶銑を精錬処理して、炉内に溶銑を残したまま該転炉からスラグを排出する転炉型溶銑予備処理における排滓方法であって、
前記転炉の炉口から排出される排滓流を可視撮像装置により撮像する工程と、
撮像した排滓流画像の画素ごとの輝度から背景輝度を除いて、最頻値を示す輝度値を求める工程と、
前記最頻値を示す輝度値が、予め設定した閾値未満となった時点で排滓を終了する工程とを備えることを特徴としている。
【0012】
ここで、「背景輝度」は、排滓流以外の周辺の輝度である。
【0013】
精錬処理した後のスラグには粒子状の溶銑が懸濁しており、スラグの排出が進むにつれて排滓流中に懸濁している溶銑の量が多くなる。溶銑が懸濁した排滓流から発せられる輝度はスラグの輝度と溶銑の輝度の混合値である。そのため、従来の方法より早いタイミングで溶銑の流出を検出するためには、排滓流中の溶銑の懸濁状態を考慮して排滓流の輝度を評価する必要がある。
【0014】
撮像した排滓流画像の画素ごとの輝度値を求めて、輝度値のヒストグラムを作成すると、ある輝度値でピーク(最頻値)をもつ輝度値分布が得られる。この最頻値を示す輝度値は、排滓流中の溶銑の懸濁割合により変化する。従って、最頻値を示す輝度値と排滓流中の溶銑の懸濁割合との関係を調査し、鉄ロス抑制のために許容できる排滓流中の溶銑懸濁割合の閾値を設定し、それに対応する輝度値を閾値として予め設定しておくことにより、排滓の終了タイミングを決定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る転炉型溶銑予備処理における排滓方法では、排滓流中の溶銑の懸濁状態を考慮して排滓流の輝度を評価するので、従来に比べて高い精度で溶銑の流出を検知して排滓終了判定を下すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態に係る転炉型溶銑予備処理における排滓方法に使用する装置の構成図である。
図2】同転炉型溶銑予備処理における排滓方法の手順を示したフロー図である。
図3】(A)は排滓初期における輝度値のヒストグラム、(B)は排滓末期における輝度値のヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
【0018】
本発明の一実施の形態に係る転炉型溶銑予備処理における排滓方法に使用する装置の構成を図1に示す。
本装置は、転炉10の炉口から排出される排滓流13を撮像する可視撮像装置14と、撮像した排滓流13の画像に基づいて排滓終了判定を行う排滓終了判定装置17とから概略構成される。
【0019】
可視撮像装置14には、例えばCCDカメラやCMOSカメラなどを使用することができる。粉塵や火の粉から可視撮像装置14を防護するため、可視撮像装置14はハウジングボックス15で覆われ、さらにハウジングボックス15を取り囲むように、耐熱板16が撮像の支障とならない位置に設置されている。また、高温に曝される可視撮像装置14を冷却するため、ハウジングボックス15内には冷却エア20が供給される。
【0020】
排滓終了判定装置17は、可視撮像装置14によって撮像された排滓流画像の画素ごとの輝度値を求めて輝度値のヒストグラムを作成する画像解析部18と、画像解析部18によって得られた最頻値を示す輝度値が、予め設定した閾値未満であるかどうか判定する溶銑流出判定部19とを備えている。排滓終了判定装置17には、パーソナルコンピュータなどを使用することができる。
【0021】
次に、転炉型溶銑予備処理において、上記装置を用いて排滓終了判定を行う手順について、図2のフロー図を用いて説明する。
[STEP1]転炉10による脱Si・脱P処理終了後、傾動装置11により転炉10を徐々に傾動させて、炉内に溶銑を残したまま炉口からスラグを排滓流13として排出する(ST1)。炉口から排出される排滓流13は、転炉10の下方に配置されている排滓鍋12に貯留される。
【0022】
[STEP2]転炉10の炉口から排出される排滓流13を可視撮像装置14により撮像する(ST2)。撮像された排滓流13の画像データは排滓終了判定装置17に入力される。
【0023】
[STEP3]排滓終了判定装置17では、先ず、画像解析部18において、排滓流13の画像から画素ごとの輝度値が算出され、最頻値を示す輝度値が求められる(ST3)。本実施の形態では、輝度値のヒストグラムを作成することにより、最頻値を示す輝度値(ピーク輝度値)を求める。
図3に輝度値のヒストグラムを示す。背景輝度26を除いた最頻値を示す輝度値25は撮像タイミングによって変化する。最頻値を示す輝度値25は、排滓時間が経過するにつれて徐々に低位方向に変化する(図3(A)、(B)参照)。即ち、最頻値を示す輝度値25の低位方向への変化は、排滓流13中の溶銑懸濁割合が増加傾向にあることを示している。
【0024】
[STEP4]溶銑流出判定部19は、最頻値を示す輝度値25が、予め設定した閾値未満であるかどうか判定する(ST4)。
【0025】
本実施の形態では、最頻値を示す輝度値25と排滓流13中の溶銑の懸濁割合との関係を予め調査し、鉄ロス抑制のために許容できる排滓流中の溶銑懸濁割合の閾値を設定し、それに対応する輝度値25を閾値とする。
なお、低P鋼や極低P鋼等は、多少鉄ロスが増えたとしても、転炉内に残存するPを多く含むスラグ量を少なくしたほうが、排滓した後の吹錬における脱P負荷の観点からコスト的に有利な場合もある。従って、鋼種毎に排滓流中の溶銑懸濁割合の閾値を設定し、それぞれに対応した閾値を決めることが望ましい。
【0026】
最頻値を示す輝度値25が、予め設定した閾値以上である場合、STEP2に戻る。
最頻値を示す輝度値25が、予め設定した閾値未満である場合、排滓終了と判断し、転炉10を初期位置に復帰させる(ST5)。
【0027】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
【実施例
【0028】
本発明の効果について検証するために実施した検証試験について説明する。
鋼種は普通鋼、溶銑量は400tonとして転炉型溶銑予備処理を行った。その際、作業者の目視判断によって排滓終了判定を行う場合と、前述した本実施の形態に係る方法によって排滓終了判定を行う場合について、それぞれ10チャージずつ行った。そして、排出されたスラグを磁力選鉱にてスラグと地金に分別した後、地金を秤量したものを排滓時の溶銑流出量とした。
【0029】
ここで、最頻値を示す輝度値と排滓流中の溶銑懸濁割合との関係を予め求め、鉄ロス抑制のために許容できる排滓流中の溶銑懸濁割合を20質量%として、排滓終了を判定する閾値を設定した。
【0030】
その結果、排滓時の溶銑流出量(溶銑処理量1ton当たりの流出量)は、作業者の目視判断によって排滓終了判定を行った場合、3.4~5.6kg/tonであったのに対し、本実施の形態に係る方法によって排滓終了判定を行った場合、3.2~3.6kg/tonとなり、本実施の形態に係る方法によって溶銑流出量が低減されると共に、ばらつきも小さくなることが確認できた。
【符号の説明】
【0031】
10:転炉、11:傾動装置、12:排滓鍋、13:排滓流、14:可視撮像装置、15:ハウジングボックス、16:耐熱板、17:排滓終了判定装置、18:画像解析部、19:溶銑流出判定部、20:冷却エア、25:最頻値を示す輝度値、26:背景輝度
図1
図2
図3