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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】ファーサイドエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20230314BHJP
   B60R 21/2338 20110101ALI20230314BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/2338
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019174944
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021049898
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】フランク ポーレン
(72)【発明者】
【氏名】アレキサンダー ディーデリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ フォースター
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-116153(JP,A)
【文献】特開2015-131586(JP,A)
【文献】特開2017-178147(JP,A)
【文献】特開2016-107721(JP,A)
【文献】特表2019-511414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の乗物用シートが同乗物用シートの幅方向に並設され、かつ同幅方向における両側部が第1側壁部及び第2側壁部により構成された乗物に適用され、前記第1側壁部に対し外部から衝撃が加わった場合、又は衝撃が加わることが予測される場合に、膨張用ガスをエアバッグに供給し、隣り合う前記乗物用シート間で前記エアバッグを展開及び膨張させることで、前記第1側壁部から遠い側の前記乗物用シートに着座している乗員の上半身を衝撃から保護するファーサイドエアバッグ装置であり、
前記エアバッグは、前記第1側壁部から遠い側の前記乗物用シートのうち、同第1側壁部に近い側の側部に固定され、かつ前記第1側壁部に近い側の前記乗物用シートに向けて展開及び膨張する第1チャンバと、前記第1チャンバの展開方向における前端部に対し、同第1チャンバに連通した状態で接続され、かつ前記乗物用シートの前方へ展開及び膨張する第2チャンバと、前記第1チャンバ及び前記乗物用シートの固定部分と、前記第2チャンバの展開方向における前端部との間に架け渡されたテザーとを備え、
前記第1チャンバは、前記第1側壁部に近い側の前記乗物用シートであって、同第1側壁部から遠い側の側面に対し、膨張した状態で接触するものであり、
前記第1チャンバには、膨張厚みを規制する厚み規制部が設けられており、
前記テザーは、膨張用ガスが前記第2チャンバに供給されたとき、前記第1チャンバと前記第2チャンバとの接続部分を支点として前記第2チャンバが前記第1チャンバから遠ざかる側へ回転することを規制するファーサイドエアバッグ装置。
【請求項2】
前記第2チャンバの展開方向における前端部に対し、同第2チャンバに連通した状態で接続され、かつ前記幅方向のうち、前記第1側壁部から遠い側の前記乗物用シート側へ展開及び膨張する第3チャンバをさらに備える請求項1に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項3】
複数の乗物用シートが同乗物用シートの幅方向に並設され、かつ同幅方向における両側部が第1側壁部及び第2側壁部により構成された乗物に適用され、前記第1側壁部に対し外部から衝撃が加わった場合、又は衝撃が加わることが予測される場合に、膨張用ガスをエアバッグに供給し、隣り合う前記乗物用シート間で前記エアバッグを展開及び膨張させることで、前記第1側壁部から遠い側の前記乗物用シートに着座している乗員の上半身を衝撃から保護するファーサイドエアバッグ装置であり、
前記エアバッグは、前記第1側壁部から遠い側の前記乗物用シートのうち、同第1側壁部に近い側の側部に固定され、かつ前記第1側壁部に近い側の前記乗物用シートに向けて展開及び膨張する第1チャンバと、前記第1チャンバの展開方向における前端部に対し、同第1チャンバに連通した状態で接続され、かつ前記乗物用シートの前方へ展開及び膨張する第2チャンバと、前記第2チャンバの展開方向における前端部に対し、同第2チャンバに連通した状態で接続され、かつ前記幅方向のうち、前記第1側壁部から遠い側の前記乗物用シート側へ展開及び膨張する第3チャンバと、前記第1チャンバ及び前記乗物用シートの固定部分と、前記第3チャンバであって、前記第2チャンバとの境界部に隣接する箇所との間に架け渡されたテザーとを備え、
前記第1チャンバは、前記第1側壁部に近い側の前記乗物用シートであって、同第1側壁部から遠い側の側面に対し、膨張した状態で接触するものであり、
前記第1チャンバ及び前記第2チャンバには、膨張厚みを規制する厚み規制部が設けられており、
前記テザーは、膨張用ガスが前記第2チャンバ及び前記第3チャンバに供給されたとき、前記第1チャンバと前記第2チャンバとの接続部分を支点として前記第2チャンバが前記第1チャンバから遠ざかる側へ回転することを規制するとともに、前記第2チャンバと前記第3チャンバとの接続部分を支点として前記第3チャンバが前記第2チャンバから遠ざかる側へ回転することを規制するファーサイドエアバッグ装置。
【請求項4】
前記第2チャンバは、前記乗員の上半身のうち頭部よりも低い箇所で展開及び膨張するものであり、
前記第2チャンバの上端部に対し、同第2チャンバに連通した状態で接続され、かつ上方へ展開及び膨張する第4チャンバをさらに備える請求項2又は3に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項5】
前記第3チャンバは、前記第2チャンバの前記上端部よりも低い箇所で同第2チャンバの前記前端部に接続されている請求項に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の乗物における側壁部に対し外部から衝撃が加わった場合、又は衝撃が加わることが予測される場合に、その側壁部から遠い側の乗物用シートに着座している乗員をエアバッグによって保護するファーサイドエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車幅方向に複数の車両用シートが並設された車両の中には、ファーサイドエアバッグ装置が搭載されたものがある。このタイプのエアバッグ装置におけるエアバッグは、車両用シートのうち、隣の車両用シートに近い側の側部内にガス発生器とともに固定される。
【0003】
そして、側突等により、車両のサイドドア等の側壁部に対し、斜め前側方や側方から衝撃が加わった場合、又は衝撃が加わることが予測される場合には、ガス発生器から膨張用ガスが噴出される。この膨張用ガスにより、エアバッグが膨張して上記側部から出て、隣り合う車両用シート間で展開及び膨張される。衝撃の加わった側壁部から遠い側の車両用シートに着座している乗員の上半身は、慣性により、その側壁部側の斜め前側方や側方へ移動しようとするが、上記エアバッグによって受け止められ、衝撃から保護される。
【0004】
上記ファーサイドエアバッグ装置の一形態として、例えば、特許文献1に記載されたものがある。このファーサイドエアバッグ装置におけるエアバッグは、第1チャンバ、第2チャンバ及びテザーを備えている。第1チャンバは、車両用シートの上記側部内に固定されており、隣の車両用シートに向けて展開及び膨張する。第2チャンバは、第1チャンバの展開方向における前端部に対し、同第1チャンバに連通した状態で接続されており、車両用シートの前方へ展開及び膨張する。テザーは、第1チャンバ及び車両用シートの固定部分と、第2チャンバの展開方向における前端部との間に架け渡されている。テザーは、第2チャンバの膨張に伴い引っ張られて緊張状態になることで、第2チャンバが第1チャンバとの接続部分を支点として、同第1チャンバから遠ざかる側、すなわち、第2チャンバの第1チャンバとなす角が拡大する側へ回転するのを規制する。
【0005】
上記ファーサイドエアバッグ装置は、第1チャンバ及び第2チャンバをともに展開及び膨張させ、テザーを緊張状態にさせることで乗員を受け止め、その乗員の移動を規制しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2019-511414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特許文献1に記載されたファーサイドエアバッグ装置では、斜め前側方や側方へ移動しようとする乗員によってエアバッグが押されると、第1チャンバが第2チャンバを伴って、車両用シートとの固定部分を支点として後方へ回転するおそれがある。この場合には、乗員の移動を規制して同乗員を衝撃から保護する性能が十分に発揮されない。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、第1チャンバの回転を抑制して、乗員を衝撃から保護する性能を高めることのできるファーサイドエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するファーサイドエアバッグ装置は、複数の乗物用シートが同乗物用シートの幅方向に並設され、かつ同幅方向における両側部が第1側壁部及び第2側壁部により構成された乗物に適用され、前記第1側壁部に対し外部から衝撃が加わった場合、又は衝撃が加わることが予測される場合に、膨張用ガスをエアバッグに供給し、隣り合う前記乗物用シート間で前記エアバッグを展開及び膨張させることで、前記第1側壁部から遠い側の前記乗物用シートに着座している乗員の上半身を衝撃から保護するファーサイドエアバッグ装置であり、前記エアバッグは、前記第1側壁部から遠い側の前記乗物用シートのうち、同第1側壁部に近い側の側部に固定され、かつ前記第1側壁部に近い側の前記乗物用シートに向けて展開及び膨張する第1チャンバと、前記第1チャンバの展開方向における前端部に対し、同第1チャンバに連通した状態で接続され、かつ前記乗物用シートの前方へ展開及び膨張する第2チャンバとを備え、前記第1チャンバは、前記第1側壁部に近い側の前記乗物用シートであって、同第1側壁部から遠い側の側面に対し、膨張した状態で接触するものである。
【0010】
上記の構成によれば、乗物の第1側壁部に対し、斜め前側方から衝撃が加わると、隣り合う乗物用シートのうち、第1側壁部から遠い側の乗物用シートに着座している乗員の上半身は、慣性により、第1側壁部側の斜め前側方へ移動しようとする。また、上記第1側壁部に対し側方から衝撃が加わると、乗員の上半身は、慣性により、第1側壁部側の側方へ移動しようとする。
【0011】
一方、ファーサイドエアバッグ装置では、第1側壁部に対し外部から衝撃が加わった場合、又は衝撃が加わることが予測される場合、膨張用ガスがエアバッグに供給されて、同エアバッグが隣り合う乗物用シート間で展開及び膨張する。この際、第1側壁部から遠い側の乗物用シートのうち、同第1側壁部に近い側の側部から第1チャンバが、上記第1側壁部に近い側の乗物用シートに向けて展開及び膨張する。また、第2チャンバが、第1チャンバの展開方向における前端部から乗物用シートの前方へ展開及び膨張する。第2チャンバは、乗員の上半身の斜め前側方や側方に位置する。そのため、乗員の上半身が第2チャンバによって受け止められ、その上半身の斜め前側方や側方への移動が規制される。
【0012】
ここで、膨張した状態の第1チャンバは、上記第1側壁部に近い側の乗物用シートであって、同第1側壁部から遠い側の側面に接触する。この接触により、第1チャンバと上記側面との間に摩擦が生ずる。従って、第1側壁部側の斜め前側方や側方へ移動しようとする乗員によってエアバッグが押されても、第1チャンバが第2チャンバを伴って、乗物用シートの側部との固定部分を支点として後方へ回転することが起りにくい。その結果、乗員の移動を規制して同乗員を衝撃から保護するエアバッグの性能が高められる。
【0013】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記第2チャンバの展開方向における前端部に対し、同第2チャンバに連通した状態で接続され、かつ前記幅方向のうち、前記第1側壁部から遠い側の前記乗物用シート側へ展開及び膨張する第3チャンバをさらに備えることが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、第1側壁部に対し外部から衝撃が加わった場合、又は衝撃が加わることが予測される場合、第2チャンバが乗員の上半身の斜め前側方や側方で展開及び膨張する。これに加え、第3チャンバが、乗物用シートの前方で、第2チャンバの展開方向における前端部から、乗物用シートの幅方向のうち、乗員の着座している乗物用シート側へ展開及び膨張する。
【0015】
従って、第1側壁部に対し外部から衝撃が加わった場合に、乗員の上半身が慣性により、第1側壁部側の斜め前側方や側方へ移動しようとしても、エアバッグは、第2チャンバ及び第3チャンバにおいて乗員の上半身に巻き付いたような形態となって、同上半身を受け止める。そのため、第3チャンバが設けられない場合に比べ、乗員の上半身の斜め前側方や側方への移動がより規制され、乗員を衝撃から保護する性能がさらに高められる。
【0016】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記第2チャンバは、前記乗員の上半身のうち頭部よりも低い箇所で展開及び膨張するものであり、前記第2チャンバの上端部に対し、同第2チャンバに連通した状態で接続され、かつ上方へ展開及び膨張する第4チャンバをさらに備えることが好ましい。
【0017】
上記の構成によれば、第1側壁部に対し外部から衝撃が加わった場合、又は衝撃が加わることが予測される場合、第2チャンバが乗員の上半身のうち、頭部よりも低い箇所で展開及び膨張する。これに加え、第4チャンバが、第2チャンバの上端部から上方へ展開及び膨張する。
【0018】
従って、第1側壁部に対し外部から衝撃が加わった場合、乗員の上半身のうちの頭部が、同頭部よりも低い部位とともに、慣性により、第1側壁部側の斜め前側方や側方へ移動しようとしても、頭部よりも低い部位の移動が第2チャンバによって規制される。また、頭部の移動が第4チャンバによって規制される。そのため、第4チャンバが設けられない場合に比べ、頭部を衝撃から保護する性能が高められる。
【0019】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記第3チャンバは、前記第2チャンバの前記上端部よりも低い箇所で同第2チャンバの前記前端部に接続されていることが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、第1側壁部に対し外部から衝撃が加わって、乗員の上半身が第1側壁部側の斜め前側方へ移動しようとした場合、頭部は第4チャンバ上を滑った後に、第2チャンバの上端部よりも低く、かつ前方に位置する第3チャンバによって受け止められる。この場合、第3チャンバは頭部の移動を規制する機能を発揮し、第4チャンバは頭部の移動を規制しつつ同頭部を第3チャンバに導く機能を発揮する。その結果、頭部を衝撃から保護する性能がさらに高められる。
【0021】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記第1チャンバ及び前記乗物用シートの固定部分と、前記第2チャンバの展開方向における前端部との間に架け渡されたテザーをさらに備えることが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、第2チャンバの展開及び膨張に伴い、その展開方向における前端部に接続されたテザーが引っ張られる。テザーが緊張状態になると、第2チャンバが第1チャンバとの接続部分を支点として、同第1チャンバから遠ざかる側、すなわち、第2チャンバの第1チャンバとなす角が拡大する側へ回転することがテザーによって規制される。そのため、テザーが設けられない場合に比べ、第2チャンバが乗員の上半身の移動を規制する性能が高められる。
【0023】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記第1チャンバ及び前記乗物用シートの固定部分と、前記第3チャンバであって、前記第2チャンバとの境界部に隣接する箇所との間に架け渡されたテザーをさらに備えることが好ましい。
【0024】
上記の構成によれば、第3チャンバの展開及び膨張に伴い、同第3チャンバであって、第2チャンバとの境界部に隣接する箇所に接続されたテザーが引っ張られる。テザーが緊張状態になると、第2チャンバが第1チャンバとの接続部分を支点として、乗物用シートの幅方向のうち、乗員から遠ざかる側、すなわち、第2チャンバの第1チャンバとなす角が拡大する側へ回転することをテザーによって規制される。これに加え、第3チャンバが第2チャンバとの接続部分を支点として、同第2チャンバから遠ざかる側、すなわち、第3チャンバの第2チャンバとなす角が拡大する側へ回転することが、テザーによって規制される。そのため、テザーが設けられない場合に比べ、第2チャンバ及び第3チャンバのそれぞれについて、乗員の上半身の移動を規制する性能が高められる。
【発明の効果】
【0025】
上記ファーサイドエアバッグ装置によれば、第1チャンバの回転を抑制して、乗員を衝撃から保護する性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】一実施形態におけるファーサイドエアバッグ装置が搭載された車両の部分平面図。
図2】一実施形態における車両用シート、エアバッグ及び乗員の側面図。
図3】一実施形態におけるエアバッグが、隣り合う車両用シート間で展開及び膨張して、乗員を衝撃から保護する様子を説明する部分平面図。
図4】一実施形態において、車両用シート、エアバッグ、乗員及び第2側壁部を車両前方から見た部分断面図。
図5】一実施形態において、エアバッグモジュールが組込まれたシートバックの側部の内部構造を示す部分平断面図。
図6】一実施形態におけるエアバッグが膨張されずに展開された状態を示す展開図。
図7】一実施形態において展開及び膨張した状態のエアバッグを第3チャンバ側から見た斜視図。
図8】一実施形態において展開及び膨張した状態のエアバッグを第1チャンバ側から見た斜視図。
図9】一実施形態におけるエアバッグが、隣り合う車両用シート間で展開及び膨張して、乗員を衝撃から保護する様子を説明する部分斜視図。
図10】一実施形態における第3及び第4チャンバにより乗員の頭部を衝撃から保護する様子を説明する部分正面図。
図11】(a),(b)は、図10と同じく、第3及び第4チャンバにより乗員の頭部を衝撃から保護する様子を説明する部分正面図。
図12】エアバッグの変形例を示す図であり、図6に対応する展開図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、車両用のファーサイドエアバッグ装置に具体化した一実施形態について、図1図11を参照して説明する。
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。さらに、車両用シートには、衝突試験用のダミーと同様の体格を有する乗員が正規の姿勢で着座しているものとする。
【0028】
図1に示すように、乗物としての車両10の左右方向の両側部は、ドア、ピラー等からなる第2側壁部12及び第1側壁部11によって構成されている。車室内の前部には、一対の車両用シート13,14が前席の乗物用シートとして、左右方向に並べられた状態で配置されている。第2側壁部12に近い側の車両用シート13は運転席として機能するものであり、ここに乗員P1が着座する。第1側壁部11に近い側の車両用シート14は助手席として機能するものであり、ここに乗員P2が着座する。車両用シート13,14は互いに同様の構成を有している。
【0029】
なお、本実施形態では、衝突による衝撃は、第1側壁部11に対し加わるものとする。ファーサイドエアバッグ装置により保護される乗員は、衝撃の加わる第1側壁部11から遠い側の車両用シート13に着座している乗員P1である。そのため、ここでは一方の車両用シート13についてのみ説明し、車両用シート14については説明を省略する。この点は、車両用シート13,14毎に設けられるファーサイドエアバッグ装置についても同様である。
【0030】
図2図4に示すように、車両用シート13は、シートクッション15、シートバック16及びヘッドレスト17を備えている。シートクッション15は、車体の床に設置された図示しないレールに対し、前後位置調整可能に取付けられている。シートバック16は、シートクッション15の後部から上側ほど後方に位置するように傾斜した状態で起立しており、傾斜角度を調整可能に構成されている。ヘッドレスト17は、シートバック16上に配置されており、同シートバック16に対し上下位置調整可能に取付けられている。車両用シート13は、シートバック16が前方を向く姿勢で車室内に配置されている。このように配置された車両用シート13の幅方向は、左右方向と合致する。
【0031】
次に、車両用シート13のシートバック16のうち、隣の車両用シート14に近い側の側部の内部構造について説明する。
シートバック16の内部には、その骨格をなすシートフレームが配置されている。シートフレームの一部は、図5に示すように、シートバック16のうち、隣の車両用シート14に近い側の側部内に配置されたサイドフレーム部21により構成されている。サイドフレーム部21は、金属板を曲げ加工等することによって形成されている。
【0032】
サイドフレーム部21の主要部分は、前後方向及び上下方向に延びる板状をなしている。サイドフレーム部21を含むシートフレームの前側には、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッド22が配置されている。また、シートフレームの後側には、合成樹脂等によって形成されたバックボード23が配置されている。なお、シートパッド22は表皮によって被覆されているが、図5ではその表皮の図示が省略されている。
【0033】
シートパッド22内において、サイドフレーム部21よりも隣の車両用シート14に近い側の近傍には、収納部24が設けられている。この収納部24には、ファーサイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールABMが組み込まれている。収納部24の前部であって隣の車両用シート14に近い側の角部からは、斜め前方であって車両用シート14に近づく側に向けてスリット25が延びている。シートパッド22の前部であって、車両用シート14に近い側の角部22cとスリット25とによって挟まれた箇所、例えば、図5において二点鎖線の枠で囲んだ箇所は、エアバッグ39によって破断される破断予定部26を構成している。
【0034】
図2及び図5に示すように、エアバッグモジュールABMは、ガス発生器30及びエアバッグ39を主要な構成部材として備えている。次に、これらの構成部材の各々について説明する。
【0035】
<ガス発生器30>
ガス発生器30は、インフレータ31及びリテーナ32を備えている。インフレータ31は略円柱状をなしており、その内部には、膨張用ガスを発生する図示しないガス発生剤が収容されている。インフレータ31は、その上端部にガス噴出部31aを有している。また、インフレータ31の下端部には、同インフレータ31への作動信号の入力配線となる図示しないハーネスが接続されている。
【0036】
一方、リテーナ32は、膨張用ガスの噴出する方向を制御するディフューザとして機能するとともに、インフレータ31を、エアバッグ39と一緒にサイドフレーム部21に固定する機能を有する部材である。リテーナ32の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって略筒状に形成されていて、インフレータ31を覆っている。
【0037】
リテーナ32には、同リテーナ32をサイドフレーム部21に固定するための固定部材として、ボルト33が固定されている。なお、ガス発生器30は、インフレータ31とリテーナ32とが一体になったものであってもよい。
【0038】
<エアバッグ39>
図3図4及び図6に示すように、エアバッグ39は、互いに同一形状をなす2枚の布片40を重ね合わせ、その重ね合わされた部分を袋状となるように結合させることによって形成されている。各布片40は、基布、パネル布等とも呼ばれる。
【0039】
なお、エアバッグ39は、1枚の布片によって形成されてもよい。この場合、エアバッグ39は、1枚の布片を、その中央部分に設定した折り線に沿って二つ折りして重ね合わせ、その重ね合わされた部分を袋状となるように結合させることにより形成される。
【0040】
図6は、膨張されることなく展開させられた状態のエアバッグ39を示している。エアバッグ39における各布片40は、第1布部41、第2布部42、第3布部43及び第4布部44を備えている。
【0041】
第1布部41及び第2布部42は、いずれも上下方向に細長く、同上下方向における寸法が互いに同一である縦長の長方形状をなしている。第1布部41及び第2布部42は長辺部分において隣り合っており、互いに繋がっている。
【0042】
第3布部43は、第2布部42を挟んで第1布部41とは反対側、図6では第2布部42の左側に位置し、略正方形状をなしており、第2布部42に繋がっている。第3布部43は、第2布部42よりも上下方向に短い寸法を有している。第3布部43の上端は、第2布部42の上端よりも低い箇所に位置し、同第3布部43の下端は、第2布部42の下端よりも高い箇所に位置している。
【0043】
第1~第3布部41~43の配列方向、すなわち、図6の左右方向における第4布部44の寸法は、同配列方向における第2布部42の寸法と同一である。第4布部44は、上記配列方向における寸法よりも上下方向の寸法が短い横長の長方形状をなしている。第4布部44は第2布部42の上側に隣接し、同第2布部42に繋がっている。第4布部44は、第1布部41及び第3布部43に対しては繋がっていない。
【0044】
各布片40は、さらに、一対の第5布部45及び第6布部46を備えている。
両第5布部45は、第3布部43の上下両側に位置している。各第5布部45は、上下方向よりも上記配列方向に細長い横長の長方形状をなしている。各第5布部45の上記配列方向における寸法は、第3布部43の同配列方向における寸法よりも長い。各第5布部45は、第3布部43に対しては、第2布部42側の略半分に対し繋がっている。各第5布部45は、第3布部43のうち、第2布部42とは反対側の略半分に対しては、隣り合っているのみで、繋がってはいない。上側の各第5布部45は、第4布部44に対し繋がっていない。
【0045】
上側の第5布部45の上端は、上下方向については、第1布部41及び第2布部42の各上端と同じ高さに位置している。上側の第5布部45は、第2布部42のうち、第3布部43よりも上側の部分に繋がっている。
【0046】
下側の第5布部45の下端は、上下方向については、第1布部41及び第2布部42の各下端と同じ高さに位置している。下側の第5布部45は、第2布部42のうち、第3布部43よりも下側の部分に繋がっている。
【0047】
第6布部46は、第1布部41において第2布部42とは反対側であり、かつ下側の角部に位置しており、略正方形状をなしている。第6布部46は、下側ほど第1布部41から遠ざかるように傾斜した状態で配置されており、第1布部41に繋がっている。
【0048】
各布片40としては、強度が高く、伸びにくく、しかも可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。
【0049】
両布片40の上記結合は、それらの周縁部の多くの部分に沿って設けられた周縁結合部48においてなされている。第1布部41では、周縁結合部48は、第2布部42との境界部分、及び第6布部46との境界部分を除く周縁部に設けられている。第2布部42では、周縁結合部48は、第1布部41との境界部分、第3布部43との境界部分、及び第4布部44との境界部分を除く周縁部に設けられている。この周縁部には、第2布部42の各第5布部45との境界部分が含まれている。第3布部43では、周縁結合部48は、第2布部42との境界部分を除く周縁部に設けられている。この周縁部には、第3布部43の各第5布部45との境界部分が含まれている。
【0050】
第4布部44では、周縁結合部48は、第2布部42との境界部分を除く周縁部に設けられている。各第5布部45では、周縁結合部48は、第2布部42との境界部分、及び第3布部43との境界部分のうち、第2布部42側の略半分に設けられているのみで、それ以外の周縁部には設けられていない。
【0051】
なお、第3布部43の各第5布部45との境界部分における周縁結合部48からは、補強用の結合部49が分岐している。各第5布部45が、第3布部43の第2布部42側の略半分に対し繋がっていることについては既述した通りである。各結合部49は、各第5布部45において、第3布部43に対する非接続部の接続部との境界部分を補強することで、同境界部分を起点として上記接続部が破断されるのを抑制している。
【0052】
第6布部46では、周縁結合部48は、第1布部41との境界部分と、同境界部分とは反対側の周縁部とを除く周縁部に設けられている。
周縁結合部48及び両結合部49は、重ね合わされた両布片40を、縫製、すなわち、縫糸で縫合することにより形成されている。また、周縁結合部48及び両結合部49は、図6では、一定長さの太線を断続的に並べて表現した線によって図示されている。これらの点は、後述する環状結合部62,63,64についても同様である。
【0053】
なお、周縁結合部48は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されてもよい。この点は、上記環状結合部62~64についても同様である。
【0054】
図3及び図6に示すように、両第1布部41の間であって、周縁結合部48、第2布部42及び第6布部46によって囲まれた部分は、第1チャンバ51を構成している。第1チャンバ51は、エアバッグ39のうち、収納部24において車両用シート13の側部に固定され、隣の車両用シート14に向けて展開及び膨張する部分である。膨張した状態の第1チャンバ51は、隣の車両用シート14であって、車両用シート13側の側面14sに接触する大きさ及び形状を有している。
【0055】
両第2布部42の間であって、周縁結合部48の下縁部、第1布部41、第3布部43、第4布部44及び両第5布部45によって囲まれた部分は、第2チャンバ52を構成している。第2チャンバ52は、エアバッグ39のうち、第1チャンバ51の展開方向における前端部51fに対し、同第1チャンバ51に連通した状態で接続されている部分である。また、第2チャンバ52は、乗員P1の上半身のうち頭部PHよりも低い箇所において、車両用シート13の前方へ展開及び膨張する部分でもある。第2チャンバ52は、第1チャンバ51との境界部分に設定され、かつ上下方向へ延びる折り線55に沿って折り曲げられている。
【0056】
両第3布部43の間であって、周縁結合部48、第2布部42及び両第5布部45によって囲まれた部分は、第3チャンバ53を構成している。第3チャンバ53は、エアバッグ39のうち、第2チャンバ52の展開方向における前端部52fであって、同第2チャンバ52の上端部52tよりも低い箇所で、同第2チャンバ52に対し連通した状態で接続されている。また、第3チャンバ53は、左右方向のうち、乗員P1の着座している車両用シート13側(図3では上側)へ展開及び膨張する部分である。第3チャンバ53は、第2チャンバ52との境界部分に設定され、かつ上下方向へ延びる折り線56に沿って折り曲げられている。
【0057】
両第4布部44の間であって、周縁結合部48及び第2布部42によって囲まれた部分は、第4チャンバ54を構成している。第4チャンバ54は、第2チャンバ52の上端部52tに対し、同第2チャンバ52に連通した状態で接続されている。また、第4チャンバ54は、上記上端部52tから上方へ展開及び膨張する部分である。
【0058】
既述したように、両第6布部46において、第1布部41との境界部分と、同境界部分とは反対側の周縁部とでは、周縁結合部48による結合がなされていない。両第5布部45は、周縁結合部48によって結合されることで筒状をなしている。この筒状部分は、ガス発生器30の挿入部57を構成している。また、挿入部57は、インフレータ31から延びるハーネスをエアバッグ39の外部へ引き出す箇所としても利用される。
【0059】
一方の第1布部41における挿入部57の上方近傍には、ボルト孔58があけられている。第1布部41のボルト孔58の周辺部分は、エアバッグ39がサイドフレーム部21に固定される箇所である固定部59を構成している。
【0060】
そして、ガス発生器30が、挿入部57を通じ、第1チャンバ51内に挿入されている。ガス発生器30が、上下方向に延びる姿勢にされたうえで、ボルト33が上記ボルト孔58に挿通されている。この挿通により、ガス発生器30が第1チャンバ51に対し位置決めされた状態で係止されている。
【0061】
上側の両第5布部45、及び下側の両第5布部45は、いずれも上述したように、布片40の一部によって構成されていて、一方の端部45aにおいて、第2布部42及び第3布部43に繋がっている。
【0062】
図6図8に示すように、上側の両第5布部45における他方の端部45bは、上記固定部59に固定されている。ここでは、上側の両第5布部45の端部45bは、第1チャンバ51の周縁部であって、ボルト孔58の上方近傍となる箇所51aに結合されている。
【0063】
下側の両第5布部45における他方の端部45bもまた上記固定部59に固定されている。ここでは、下側の両第5布部45の端部45bは、第1チャンバ51の周縁部であって、ボルト孔58の側方近傍となる箇所51bに固定されている。
【0064】
上述した上側の両第5布部45及び下側の両第5布部45はそれぞれ、第1チャンバ51及び車両用シート13の固定部分と、第3チャンバ53であって、第2チャンバ52との境界部に隣接する箇所との間に架け渡されるテザー61を構成している。
【0065】
さらに、図6に示すようにエアバッグ39は、その膨張厚みを規制する厚み規制部として、3種類の環状結合部を備えている。各環状結合部は、一般的に「シーム」と呼ばれるものと同様の構成を有している。
【0066】
3種類の環状結合部は、第1チャンバ51に設けられた一対の環状結合部62と、第2チャンバ52及び第3チャンバ53に跨がって設けられた単一の環状結合部63と、第2チャンバ52及び第4チャンバ54に跨がって設けられた一対の環状結合部64とからなる。
【0067】
両環状結合部62は、上下方向については、第1チャンバ51の同上下方向に互いに離間した箇所に設けられている。各環状結合部62は、上記配列方向に延びる横長の形状をなしており、両第1布部41を互いに接触させた状態で結合している。
【0068】
環状結合部63は、上下方向については、第2チャンバ52及び第3チャンバ53のそれぞれの同上下方向における中央部分に位置している。環状結合部63は、上記配列方向に延びる横長の形状をなしており、両第2布部42を互いに接触させた状態で結合するとともに、両第3布部43を互いに接触させた状態で結合している。
【0069】
両環状結合部64は、第2チャンバ52及び第4チャンバ54において、上記配列方向に互いに離間した箇所に設けられている。各環状結合部64は、上下方向に延びる縦長の形状をなしており、両第2布部42を互いに接触させた状態で結合するとともに、両第4布部44を互いに接触させた状態で結合している。
【0070】
ところで、エアバッグモジュールABMは、エアバッグ39が折り畳まれることにより、図5に示すように、コンパクトな収納用形態にされている。これは、エアバッグモジュールABMを、シートバック16の側部における限られた大きさの収納部24に対し、収納に適したものとするためである。
【0071】
エアバッグ39が収納用形態にされたエアバッグモジュールABMは、収納部24に収納されている。リテーナ32から延びて第1布部41に挿通されたボルト33がサイドフレーム部21に対し挿通され、同ボルト33にナット34が締付けられている。このようにして、ガス発生器30のボルト33が利用されて、エアバッグ39が第1チャンバ51の固定部59においてガス発生器30とともにサイドフレーム部21に固定されている。
【0072】
なお、ガス発生器30は、上述したボルト33及びナット34とは異なる部材によってサイドフレーム部21に固定されてもよい。また、リテーナ32が用いられることなくインフレータ31がサイドフレーム部21に固定されてもよい。
【0073】
ファーサイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールABMのほかに、図2に示す衝撃センサ71及び制御装置72を備えている。衝撃センサ71は加速度センサ等からなり、第1側壁部11に加えられる衝撃を検出する。制御装置72は、衝撃センサ71の検出信号に基づきインフレータ31の作動を制御する。
【0074】
また、図3及び図9に示すように、車室内には、車両用シート13に着座している乗員P1をその車両用シート13に拘束するためのシートベルト装置73が設けられている。なお、図1図2及び図4においては、シートベルト装置73の図示が省略されている。
【0075】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
図1において実線の白抜きの矢印で示すように、車両10の第1側壁部11に対し斜め前側方から、衝突等により衝撃が加わると、第1側壁部11から遠い側の車両用シート13に着座している乗員P1の上半身が、慣性により、第1側壁部11側の斜め前側方へ移動しようとする。
【0076】
一方で、第1側壁部11に対し、斜め前側方を含む外方から所定値以上の衝撃が加わったことが衝撃センサ71によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置72からインフレータ31に対し、これを作動させるための作動信号が出力される。この作動信号に応じて、インフレータ31のガス噴出部31aから膨張用ガスが噴出されると、その膨張用ガスは、まずガス発生器30が配置された第1チャンバ51に供給され、同第1チャンバ51が展開及び膨張を開始する。
【0077】
上記第1チャンバ51の展開及び膨張の途中で、同第1チャンバ51が他のチャンバを伴って図5のシートパッド22を押圧し、破断予定部26においてシートパッド22を破断させる。その後も膨張用ガスの供給が続けられることにより、第1チャンバ51は、固定部59及びその近傍部分を収納部24内に残した状態で、同収納部24から斜め前側方へ出る。引き続き供給される膨張用ガスにより、第1チャンバ51は、図3及び図9に示すように、隣の車両用シート14に向けて展開及び膨張する。この際、第1チャンバ51の膨張厚みは、一対の環状結合部62によって規制される。また、第1チャンバ51の剛性は、両環状結合部62によって高められる。
【0078】
第1チャンバ51の展開及び膨張の途中から、膨張用ガスが第2チャンバ52に供給される。この膨張用ガスにより、第2チャンバ52は、第1チャンバ51の前端部51fから、展開及び膨張する。第2チャンバ52の膨張に伴い、両テザー61が引っ張られることで、第2チャンバ52の展開方向が規制される。なお、上記環状結合部62は、第1チャンバ51にのみ設けられており、第2チャンバ52には跨がっていない。そのため、第2チャンバ52は、第1チャンバ51との境界部分である前端部51fを支点として折れ曲がりやすい。
【0079】
この際、第2チャンバ52の膨張厚みは、環状結合部63及び一対の環状結合部64によって規制される。第2チャンバ52は、乗員P1の上半身の斜め前側方に位置する。そのため、乗員P1の上半身、特に肩部PSの斜め前側方への移動が、第2チャンバ52によって規制される。
【0080】
ここで、図3に示すように、膨張した状態の第1チャンバ51は、上記第1側壁部11に近い側の車両用シート14であって、同第1側壁部11から遠い側、すなわち、車両用シート13側の側面14sに接触する。この接触により、第1チャンバ51と側面14sとの間に摩擦が生ずる。従って、第1側壁部11側の斜め前側方へ移動しようとする乗員P1によって第2チャンバ52が押されて、同乗員P1による押圧力が第2チャンバ52を介して第1チャンバ51に伝わっても、第1チャンバ51が第2チャンバ52を伴って、固定部59を支点として後方へ回転することが起りにくい。乗員P1の移動を規制して同乗員P1を衝撃から保護するエアバッグ39の性能を高めることができる。
【0081】
第2チャンバ52の展開及び膨張の途中から、膨張用ガスが第3チャンバ53に供給される。この膨張用ガスにより、第3チャンバ53は、乗員P1の前方で、第2チャンバ52の前端部52fから展開及び膨張する。この際、第3チャンバ53の展開方向が両テザー61によって規制される。第3チャンバ53は、車両用シート13の幅方向のうち、乗員P1の着座している車両用シート13側へ展開及び膨張する。また、この際には、第3チャンバ53の膨張厚みは、環状結合部63によって規制される。
【0082】
ここで、図6に示すように、第3チャンバ53の第2チャンバ52側の略半分が環状結合部63によって上下2つに仕切られている。第3チャンバ53において、環状結合部63よりも上側の部分の膨張厚みと、下側の部分の膨張厚みとは、環状結合部63が設けられない場合の第3チャンバ53の膨張厚みよりも小さくなる。第3チャンバ53は、環状結合部63が設けられない場合に比べ、第2チャンバ52に対し折れ曲がりやすい。
【0083】
従って、上記衝撃に応じ、乗員P1の上半身が、慣性により、第1側壁部11側の斜め前側方へ移動しようとしても、エアバッグ39は、図3及び図9に示すように、第2チャンバ52及び第3チャンバ53において乗員P1の肩部PSや胸部PTに巻き付いたような形態となって、それらの肩部PSや胸部PTを受け止める。そのため、第3チャンバ53が設けられない場合に比べ、乗員P1の上半身の斜め前側方への移動をより規制し、乗員P1を衝撃から保護する性能をさらに高めることができる。
【0084】
また、第2チャンバ52の展開及び膨張の途中から、膨張用ガスが第4チャンバ54に供給される。この膨張用ガスにより、第4チャンバ54は、乗員P1の頭部PHの斜め前側方で、第2チャンバ52の上端部52tから上方へ展開及び膨張する。この際、第4チャンバ54の膨張厚みは、一対の環状結合部64によって規制される。
【0085】
従って、上記衝撃に応じ、乗員P1の上半身のうちの頭部PHが、同頭部PHよりも低い部位とともに、慣性により、第1側壁部11側の斜め前側方へ移動しようとしても、頭部PHよりも低い部位の移動が第2チャンバ52によって規制され、頭部PHの移動が第4チャンバ54によって規制される。そのため、第4チャンバ54が設けられない場合に比べ、頭部PHを衝撃から保護する性能を高めることができる。
【0086】
ここで、第4チャンバ54に設けられて、同第4チャンバ54の膨張厚みを規制する一対の環状結合部64のそれぞれが下方へ延長されている。各環状結合部64は、第4チャンバ54及び第2チャンバ52に跨がっている。これらの環状結合部64は、第4チャンバ54が第2チャンバ52に対し折れ曲がるのを規制する。第4チャンバ54は、頭部PHから荷重を受けても、第2チャンバ52との境界部分である上端部52tを支点として、頭部PHから遠ざかる側へ折れ曲がりにくい。第4チャンバ54が頭部PHを受け止める性能を高めることができる。
【0087】
また、第3チャンバ53は、第2チャンバ52の上端部52t及び第4チャンバ54よりも低い箇所で同第2チャンバ52の前端部52fに接続されている。そのため、頭部PHが第1側壁部11側の斜め前側方へ移動しようとした場合、図10及び図11(a),(b)に示すように、頭部PHは第4チャンバ54上を滑った後に、第4チャンバ54よりも低い箇所に位置する第3チャンバ53によって受け止められる。このときには、第3チャンバ53は頭部PHの移動を規制する機能を発揮し、第4チャンバ54は頭部PHの移動を規制しつつ同頭部PHを第3チャンバ53に導く機能を発揮する。その結果、頭部PHが過剰に下方へ移動するのを規制し、頭部PHを衝撃から保護する性能をさらに高めることができる。
【0088】
さらに、図6に示すように、各テザー61では第5布部45の端部45aが、第3チャンバ53であって、第2チャンバ52との境界部に隣接する箇所に接続されている。このことから、両テザー61が緊張状態になると、第2チャンバ52が第1チャンバ51との接続部分である前端部51fを支点として、同第1チャンバ51から遠ざかる側、すなわち、第2チャンバ52の第1チャンバ51となす角が拡大する側へ回転することが両テザー61によって規制される。これに加え、第3チャンバ53が第2チャンバ52との接続部分である前端部52fを支点として、同第2チャンバ52から遠ざかる側、すなわち、第3チャンバ53の第2チャンバ52となす角が拡大する側へ回転することが、両テザー61によって規制される。そのため、テザー61が設けられない場合に比べ、第2チャンバ52及び第3チャンバ53がそれぞれ乗員P1の上半身の移動を規制する性能を高めることができる。
【0089】
一方、図1において二点鎖線の白抜きの矢印で示すように、第1側壁部11に対し側方から衝撃が加わった場合には、第1側壁部11から遠い側の車両用シート13に着座している乗員P1の上半身が、慣性により、第1側壁部11側の側方へ移動しようとする。
【0090】
この場合にも、制御装置72からインフレータ31に対し作動信号が出力される。この作動信号に応じて、インフレータ31から噴出された膨張用ガスが、第1チャンバ51~第4チャンバ54のそれぞれに供給され、それらが上記と同様に各々展開及び膨張する。
【0091】
膨張した第1チャンバ51は、隣の車両用シート14の側面14sに接触し、その側面14sとの間に摩擦を生ずる。従って、乗員P1によってエアバッグ39が押されても、第1チャンバ51が第2チャンバ52を伴って、固定部59を支点として後方へ回転するのを抑制することができる。乗員P1の移動を規制して同乗員P1を衝撃から保護するエアバッグ39の性能を高めることができる。
【0092】
また、エアバッグ39は、上記第2チャンバ52及び第3チャンバ53において乗員P1の上半身に巻き付いたような形態となって、同上半身を受け止める。そのため、第3チャンバ53が設けられない場合に比べ、乗員P1の上半身の側方への移動をより規制し、乗員P1を衝撃から保護する性能をさらに高めることができる。
【0093】
また、第2チャンバ52の上端部52tから上方へ展開及び膨張した第4チャンバ54は、第1側壁部11側の側方へ移動しようとする頭部PHを受け止める。そのため、第4チャンバ54が設けられない場合に比べ、頭部PHを衝撃から保護する性能を高めることができる。
【0094】
さらに、第1チャンバ51~第3チャンバ53のそれぞれの展開及び膨張に伴い引っ張られて緊張状態になるテザー61は、第2チャンバ52が前端部51fを支点として第1チャンバ51から遠ざかる側へ回転したり、第3チャンバ53が前端部52fを支点として、第2チャンバ52から遠ざかる側へ回転したりするのを規制する。そのため、テザー61が設けられない場合に比べ、第2チャンバ52及び第3チャンバ53がそれぞれ乗員P1の上半身の移動を規制する性能を高めることができる。
【0095】
なお、図1における第2側壁部12に対し斜め前側方や側方から衝撃が加わった場合については説明しないが、上記と同様の作用が行なわれて、車両用シート14に着座している乗員P2が衝撃から保護される。この場合、第2側壁部12が特許請求の範囲における第1側壁部に該当する。
【0096】
上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0097】
<エアバッグ39について>
・エアバッグ39の固定部59が、車両用シート13,14のうち隣の車両用シート14,13に近い側の側部に位置する部材であって、サイドフレーム部21と同程度に高い剛性を有する部材に固定されてもよい。
【0098】
・エアバッグ39は、上記実施形態のようにその略全体が膨張するものであってもよいが、膨張用ガスが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
【0099】
・第3チャンバ53及び第4チャンバ54の少なくとも一方が省略されてもよい。
<厚み規制部について>
・上記環状結合部62に代えて、両第1布部41間に、帯状の布が架け渡されることにより、厚み規制部が構成されてもよい。
【0100】
環状結合部63,64についても、上記と同様の変更がなされてもよい。
<テザー61について>
図12に示すように、第5布部45の端部45aが、第2チャンバ52の展開方向における前端部52fのみに接続されてもよい。この場合、各第5布部45は第3布部43に接続されない。
【0101】
このようにすると、第2チャンバ52の展開及び膨張に伴い両テザー61が引っ張られる。両テザー61が緊張状態になると、第2チャンバ52が第1チャンバ51との接続部分である前端部51fを支点として、同第1チャンバ51から遠ざかる側、すなわち、第2チャンバ52の第1チャンバ51となす角が拡大する側へ回転することが両テザー61によって規制される。そのため、テザー61が設けられない場合に比べ、第2チャンバ52が乗員P1の上半身の移動を規制する性能を高めることができる。
【0102】
・テザー61が、布片40とは別の布によって構成されてもよい。
・テザー61の数が1又は3以上に変更されてもよい。
・各第5布部45の端部45bは、固定部59における第1チャンバ51の周縁部に対し、周縁結合部48とは別に設けられた結合部によって結合されてもよいし、周縁結合部48によって結合されてもよい。
【0103】
・各第5布部45の端部45bは、第1チャンバ51の周縁部に代えて、ガス発生器30のボルト33に固定されてもよい。この場合には、各第5布部45の端部45bに孔があけられ、この孔において、端部45bがボルト33に引っ掛けられることにより、第5布部45がボルト33に係止される。
【0104】
また、各第5布部45の端部45bは、シートフレームであって、エアバッグ39の固定部59の近傍に対し固定されてもよい。要は、端部45bは、エアバッグ39と車両用シート13との固定部分に固定されればよい。
【0105】
<その他>
・制御装置72は、第1側壁部11又は第2側壁部12に対し、斜め前側方又は側方からの衝撃が加わることを予測した場合に、インフレータ31に作動信号を出力する仕様に変更されてもよい。
【0106】
・上記ファーサイドエアバッグ装置は、シートバック16が車両10の前方とは異なる方向、例えば側方を向く姿勢で複数の車両用シート13,14が配置された車両10にも適用可能である。この場合、車両10において、車両用シート13,14を、それらの幅方向における両側から挟み込む一対の壁部が、特許請求の範囲における第1側壁部及び第2側壁部に該当する。
【0107】
・上記ファーサイドエアバッグ装置は、3つ以上の車両用シートがそれらの幅方向に並設された車両にも適用可能である。この場合、車両の第1側壁部に対し、衝撃が加わったとき、又は衝撃が加わることが予測されるときに、隣り合う車両用シート間でエアバッグを展開及び膨張させる。
【0108】
・上記ファーサイドエアバッグ装置が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
・上記ファーサイドエアバッグ装置は、車両以外の乗物、例えば航空機、船舶等に装備されて、隣り合う乗物用シート間でエアバッグを展開及び膨張させることで、衝撃の加わる側壁部から遠い側の乗物用シートに着座している乗員を衝撃から保護するファーサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0109】
10…車両(乗物)、11…第1側壁部、12…第2側壁部、13,14…車両用シート(乗物用シート)、14s…側面、39…エアバッグ、51…第1チャンバ、51f,52f…前端部、52…第2チャンバ、52t…上端部、53…第3チャンバ、54…第4チャンバ、61…テザー、P1,P2…乗員、PH…頭部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12