(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】ポリアミド610マルチフィラメント
(51)【国際特許分類】
D01F 6/60 20060101AFI20230314BHJP
【FI】
D01F6/60 351C
(21)【出願番号】P 2019521503
(86)(22)【出願日】2019-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2019006913
(87)【国際公開番号】W WO2019163971
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2018031834
(32)【優先日】2018-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】久朗津 徳紘
(72)【発明者】
【氏名】松鳥 育夫
(72)【発明者】
【氏名】潤間 崇志
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-158428(JP,A)
【文献】特開昭55-084417(JP,A)
【文献】特開昭60-009910(JP,A)
【文献】国際公開第2017/082255(WO,A1)
【文献】特開2007-136571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A46B1/00-17/08
A46D1/00-99/00
A61C17/22-17/40
D01F1/00-6/96
9/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸相対粘度3.3~3.7、強度7.3~9.2cN/dtex、伸度20~30%
、強伸度積が39cN/dtex×√%以上であるポリアミド610マルチフィラメント。
【請求項2】
毛羽数が0個~4個/万mである請求項1に記載のポリアミド610マルチフィラメント。
【請求項3】
総繊度が420dtex~1500dtexである請求項1又は2に記載のポリアミド610マルチフィラメント。
【請求項4】
湿潤時強力/乾燥時強力が0.90以上である請求項1~3のいずれか一項に記載のポリアミド610マルチフィラメント。
【請求項5】
硫酸相対粘度3.6~4.0、水分率0.05~0.13%のポリアミド610チップを溶融紡出し、紡糸速度350~1100m/分で引き取り、一旦巻き取ることなく延伸倍率3~6倍で延伸する、請求項1に記載のポリアミド610マルチフィラメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド610マルチフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド6やポリアミド66のマルチフィラメントは、ポリエステルやポリプロピレン等の汎用マルチフィラメントと比較して強伸度が高く、毛羽品位に優れるため、エアバッグ、スポーツラケット用ガット、ロープ、漁網、鞄用ベルト等の多岐に渡る用途に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的にポリアミドは、吸水、吸湿性を有するポリマーである。ポリアミド6やポリアミド66などのいわゆる汎用ポリアミドのマルチフィラメントでは、吸水による強度低下や吸湿による寸法変化が大きい。
海洋ロープや漁網等の海洋用途では、吸水による強度低下が度々問題となっており、鞄地織物や鞄用ベルトは、湿潤-乾燥の繰り返しに伴う寸法変化により生地に皺が入る、いわゆるパッカリング現象が生じる問題があった。
【0005】
一方で、低吸水ポリアミドマルチフィラメントとして、ポリアミド11やポリアミド610、612などが知られており、例えば洗浄ブラシ用繊維として提案されたりしている(特許文献1)。しかし、従来手法で製造されるこれらのポリアミドマルチフィラメントは、ポリアミド6やポリアミド66対比、強度が低く、毛羽品位が悪いことから海洋ロープ等の高強度を必須とする用途や、鞄地織物や鞄用ベルトのような高強度かつ優れた毛羽品位を必須とする用途への展開は困難であった。
本発明の目的は、高強度かつ毛羽品位の優れた低吸水のポリアミド610のマルチフィラメントを提供することにより、上述のような吸水、吸湿によるポリアミド610マルチフィラメントの欠点を解消し、ポリアミド610マルチフィラメントの更なる用途拡大を図ることが可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を得た。すなわち、本発明は、下記の構成からなる。
(1)硫酸相対粘度3.3~3.7、強度7.3~9.2cN/dtex、伸度20~30%であるポリアミド610マルチフィラメント。
(2)毛羽数が0個~4個/万mである(1)記載のポリアミド610マルチフィラメント。
(3)総繊度が420dtex~1500dtexであることを特徴とする(1)または(2)記載のポリアミド610マルチフィラメント。
(4)湿潤時強力/乾燥時強力が0.90以上である(1)~(3)のいずれかに記載のポリアミド610マルチフィラメント。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ポリアミド6やポリアミド66マルチフィラメントと同等の強度、毛羽品位でポリアミド610マルチフィラメントを提供することができ、ポリアミド610マルチフィラメントの更なる用途拡大を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明で好ましく用いられる直接紡糸延伸装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態にかかるポリアミド610マルチフィラメントに用いる原料は、ポリアミド610である。
本発明の実施形態にかかるポリアミド610マルチフィラメントの原料チップ(以下、単にチップとも言う)の硫酸相対粘度(以下、単に粘度とも言う)は、3.6~4.0であることが好ましく、より好ましくは3.7~3.9であり、さらに好ましくは3.7~3.8である。チップの粘度が3.6以上であるとチップの水分率を本発明での規定範囲に取った際に、本発明で規定の粘度のポリアミド610マルチフィラメントを安定して得やすくなる。
【0010】
本発明の実施形態にかかるポリアミド610マルチフィラメントの原料となるポリアミド610のチップの水分率は、0.05%以上であることが好ましく、特に0.05~0.13%であることが好ましく、更には0.07~0.09%であることが好ましい。ポリアミド610は吸水しにくいことから、水分率による影響が少ないことが示唆されるが、チップの水分率を調整することにより、得られるポリアミド610マルチフィラメントの粘度調整をすることができ、劇的に強伸度、毛羽品位が改善したことは発明者らも驚きであった。ポリアミド610の水分率が0.05%未満であると毛羽品位が悪化する。ポリアミド610の水分率を調整する手法としては、チップを乾燥する方法、または、乾燥後のチップに計量した水を添加し、チップを攪拌する方法が好ましいが、上記範囲を達成すれば手法は問わない。
なお、水分率はHIRANUMA SANGYOのAQ-2200とHIRANUMA SANGYOのEV-2000を組み合わせた装置を用いて測定した。
【0011】
本発明の実施形態にかかるポリアミド610マルチフィラメントは、硫酸相対粘度3.3~3.7、強度7.3~9.2cN/dtex、伸度20~30%である。
本発明の実施形態にかかるポリアミド610マルチフィラメントは硫酸相対粘度が3.3~3.7である必要があり、3.3~3.6であることが好ましく、更には3.4~3.6であることが好ましい。硫酸相対粘度が3.3未満であると十分な強度を有する原糸を毛羽品位良く得ることができず、硫酸相対粘度が3.7より大きいと製糸性、毛羽品位が悪化する。
なお、硫酸相対粘度は、試料を98%硫酸に溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定した値をいう。
【0012】
本発明の実施形態にかかるポリアミド610マルチフィラメントは、強度が7.3~9.2cN/dtexである必要があり、8.0~9.2cN/dtexが好ましく、更には8.3~9.2cN/dtexであることが好ましく、より更には8.3~8.9cN/dtexであることが好ましい。すなわち、通常の方法で高強度糸を製造すると毛羽が発生しやすいが、本発明で用いるポリアミド610のチップの水分率の調整と粘度の適正化により、紡出および延伸工程での毛羽発生、糸切れ等が抑制され、品位の高いポリアミド610マルチフィラメントを得ることができる。
また、ポリアミド610マルチフィラメントの伸度は、20%~30%である必要があり、20%~25%であることがより好ましい。特に強度が上記範囲であり、且つ伸度がかかる範囲にあるようなポリアミド610マルチフィラメントにおいて特に有効に効果を発揮し、毛羽発生、糸切れ等が抑制され、極めて品位の高いポリアミド610マルチフィラメントが得られる。
【0013】
総繊度、単繊維繊度にも依存するが、強伸度積は35cN/dtex×√%以上であることが好ましく、より好ましくは39cN/dtex×√%以上であり、さらに好ましくは40cN/dtex×√%以上である。強伸度積が高いことで、毛羽発生、糸切れ等が抑制され、高強度でも極めて品位の高いポリアミド610マルチフィラメントが得られる。なお、強度(cN/dtex)および伸度(%)は、JIS L1013(1999)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した値をいい、強伸度積は強度×√(伸度)で算出される値である。
【0014】
単繊維繊度は4~35dtexであることがより好ましい。単繊維繊度が4~35dtexあれば、品位を維持しつつ高強度のポリアミド610マルチフィラメントを安定して得ることができる。単糸数に特に規定はなく、重要なのは単繊維繊度である。
本発明のポリアミド610マルチフィラメントは、総繊度が420dtex~1500dtexであることが好ましく、更に好ましくは450dtex~1200dtexであり、より更に好ましくは450dtex~1050dtexである。総繊度が低い程、冷却効率が高まるため、毛羽品位良く製糸することができる。
なお、総繊度は、JIS L1013(1999) 8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定した値をいう。
【0015】
本発明の実施形態にかかるポリアミド610マルチフィラメントは、毛羽数が0個~4個/万mであることが好ましく、特に0~3個/万m、更には0~2個/万mであることが好ましい。毛羽数が少ないことで、鞄などの優れた毛羽品位を要求される用途への展開が可能となる。
なお、毛羽数は500m/分の速度で巻き返しながらフィラメント長1万m以上で毛羽総数を測定し、1万mあたりの個数に換算した値をいう。
本発明の実施形態にかかるポリアミド610マルチフィラメントは、湿潤時強力/乾燥時強力が0.90以上であることが好ましく、特に0.95以上であることが好ましく、さらには0.98以上であることが好ましい。湿潤時強力/乾燥時強力が0.90以上であれば、汎用ポリアミドであるポリアミド6やポリアミド66に比して、湿潤時の強力低下を抑制することができ、海洋ロープや魚網等の水系用途における強力低下を抑制し得る。
なお、湿潤時強力/乾燥時強力は、JIS L1013(1999)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した値より算出でき、実施例に記載の方法により算出した値をいう。
【0016】
次に、本発明の実施形態にかかるポリアミド610マルチフィラメントを製造する方法について説明する。ポリアミド610マルチフィラメントは、通常の溶融紡糸をベースにし、以下の方法により好ましく製造することができるが、本発明の実施形態は、ポリアミド610フィラメントを直接紡糸延伸法により製造する場合に特に有効である。また、溶融紡糸をする際、チップを適正な粘度に管理した上で、所定量の水分を付与することが好ましく、これにより強伸度を向上させ、延伸時の糸切れや毛羽の発生を抑制することができるので、結果として強度が高く、品位に優れたポリアミド610マルチフィラメントを得ることができるのである。
【0017】
以下、
図1を例にとり、説明する。
図1は、本発明の実施形態で好ましく用いられる直接紡糸延伸装置の概略図である。
ポリアミド610チップをエクストルーダー型紡糸機(
図1には図示されていない)で溶融・混練し、紡糸部において、紡糸口金1より吐出して紡糸する。紡糸口金1から紡出した糸条5は加熱筒2を経て、クロスフロー冷却装置3により冷却風4で冷却される。冷却された糸条5はダクト6を通過し、給油装置7により処理剤を付与されながら、引き取りローラ8により引き取られる。引き取られた糸条5は引き取りローラ8と給糸ローラ9の間でプレストレッチ延伸をかけられる。その後、第1延伸ローラ10、第2延伸ローラ11、第3延伸ローラ12において3段延伸され、弛緩ローラ13において弛緩される。弛緩された糸条5は交絡付与装置14により交絡を付与され、ワインダー15により巻き取られ、繊維パッケージ16となる。
【0018】
上記ポリアミド610チップの粘度は3.6~4.0であることが好ましい。
上記において引き取る際の引き取り速度は350~1100m/分であることが好ましい。本発明の実施形態における処理剤は、非水系処理剤を用いることが好ましいが、含水処理剤を用いても十分な物性を得られる。処理剤の付与方法はオイリング装置やガイド給油が好ましい。
延伸から巻取りまでの工程は、通常2段以上の多段延伸したのち、弛緩処理して巻き取る方法が好ましく、多段延伸は3段以上であることがより好ましい。2段以上で延伸する際、プレストレッチ延伸を施した後、延伸することが好ましい。プレストレッチ延伸、1段目延伸はガラス転移温度前後で熱延伸を行い、残りの延伸は通常150~220℃の高温で行うことが好ましい。より好ましくは170~210℃である。延伸段数を増やすことでマルチフィラメントが結晶化温度以上の温度で処理される時間が長くなる。処理時間が長くなるほど繊維中の高分子鎖の結晶化が促進されるため、高強度マルチフィラメントを製造することができる。
【0019】
延伸倍率、すなわち引き取りローラ8から第3延伸ローラ12間の延伸倍率は通常3~6倍の範囲で行う。なお。巻取速度は通常2000~5000m/分であることが好ましく、2500~4500m/分であることがより好ましい。また、糸条は、巻取張力は20~250gfの条件下で巻取装置にてチーズ状に巻き上げることが好ましい。
以上のような方法により、本発明の実施形態にかかるポリアミド610マルチフィラメントを製造することができる。
本発明の実施形態にかかるポリアミド610マルチフィラメントは様々な用途、例えば、海洋ロープや漁網等の海洋用途、鞄地織物や鞄用ベルト等の鞄用途などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明に関し、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。なお、実施例中の各測定値の測定方法は以下の通りである。
【0021】
(1)硫酸相対粘度(ηr):ポリマチップまたは原糸を試料として、試料0.25gを98%硫酸25mlに溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定し、以下の式から硫酸相対粘度(ηr)を求めた。測定値は5サンプルの平均値から求めた。
ηr= 試料溶液の流下秒数/硫酸のみの流下秒数
【0022】
(2)水分率:HIRANUMA SANGYOのAQ-2200とHIRANUMA SANGYOのEV-2000を組み合わせて用いて測定した。すなわち、HIRANUMA SANGYOのEV-2000を用いて、試料チップ中の水分を抽出し、HIRANUMA SANGYOのAQ-2200を用いて、水分率を計測した。試料は1.5gとし、水分気化に用いる窒素は0.2L/minとした。
【0023】
測定条件は以下の通りとした。
・ステップ1 温度 210℃、時間 21分
・空焼き時間 0分
・終了 B.G. 0μg
・冷却時間 1分
・B.G.安定回数 30回
・バックパージ゛時間 20秒
【0024】
(3)総繊度:JIS L1013(1999) 8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定して総繊度とした。
【0025】
(4)単糸数:JIS L1013(1999) 8.4の方法で算出した。
【0026】
(5)(乾燥時)強力・強度・伸度:JIS L1013(1999) 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT-100を用い、掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分で行った。強力はS-S曲線における最大強力、伸度はS-S曲線における最大強力を示した点の伸びから求め、強度は強力を総繊度で除して求めた。
【0027】
(6)製糸毛羽数:得られた繊維パッケージを500m/分の速度で巻き返し、巻き返し中の糸条から2m離れた箇所にヘバーライン社製レーザー式毛羽検知機“フライテックV”を設置し、検知された毛羽総数を評価した。評価は1万m以上行い、1万mあたりの個数に換算して表示した。
【0028】
(7)8.7cN/dtexにおける毛羽数:各実施例・比較例で作製した繊維とは別に、各実施例・比較例で使用したのと同じチップで強度8.7cN/dtexの繊維を作製し、得られたパッケージを500m/分の速度で巻き返し、巻き返し中の糸条から2m離れた箇所にヘバーライン社製レーザー式毛羽検知機“フライテックV”を設置し、検知された毛羽総数を評価した。評価は1万m以上行い、1万mあたりの個数に換算して表示した。
この評価は、繊維においては一般的に毛羽数は強度に依存する傾向が強いことから、強度を同一にして同列で毛羽数を比較するためのものである。強度8.7cN/dtexの繊維は、各実施例・比較例と同じ総繊度およびフィラメント数で、紡糸、延伸及び弛緩熱処理条件等を適宜調整して作製した。
【0029】
(8)湿潤時強力:吸水時の強力保持率:JIS L1013(1999) 8.3.1 A法の要領で所定糸長の小かせを作成し、小かせを20℃の水道水に24時間浸漬させた。24時間経過後に、小かせを取り出し、10分以内にJIS L1013(1999)8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。
【0030】
(9)湿潤時強力/乾燥時強力:湿潤時強力(上記(8)項で測定)を乾燥時強力(上記(5)項で測定)で除した値。
【0031】
[実施例1-9、比較例1-3]
液相重合で得られたポリアミド610チップに酸化防止剤として酢酸銅の5重量%水溶液を添加して混合し、ポリマー重量に対し銅として70ppm添加吸着させた。次に沃化カリウムの50重量%水溶液および臭化カリウムの20重量%水溶液をポリマーチップ100重量部に対してそれぞれカリウムとして0.1重量部となるよう添加吸着させ、固相重合装置を用いてポリマーチップを固相重合させた後、水分を添加し、表1又は2の硫酸相対粘度、水分率のポリアミド610ペレットを得た。
【0032】
紡糸装置としては
図1の装置を用いた。前記したポリアミド610ペレットをエクストルーダーへ供給し、計量ポンプにより総繊度が約470dtexになるように吐出量を調整した。紡糸温度は285℃とし、紡糸パック内にて金属不織布フィルターで濾過したのち、孔数48の紡糸口金を通して紡糸した。紡出糸条は250℃の温度に加熱した加熱筒を通過させたのち風速40m/minの冷却風により冷却固化した。冷却固化した糸条には、処理剤を付与し、紡糸引き取りローラに旋回し、表1又は表2の紡糸速度で糸条を引き取った。引き取った糸条にはその後、一旦巻き取ることなく引き取りローラ8と給糸ローラ9の間で5%のストレッチをかけた。次いで給糸ローラ9と第1延伸ローラ10の間で該ローラ間の回転速度比が2.7となるように1段目の延伸、続いて第1延伸ローラ10と第2延伸ローラ11の間で該ローラ間の回転速度比が1.4となるように2段目の延伸を行った。続いて、第2延伸ローラ11と第3延伸ローラ12の間で3段目の延伸を行った。
【0033】
引き続き、第3延伸ローラ12と弛緩ローラ13との間で8%の弛緩熱処理を施し、交絡付与装置にて糸条を交絡処理した後、ワインダー15にて巻き取った。各ローラの表面温度は、引き取りローラが常温、給糸ローラ40℃、第1延伸ローラ95℃、第2延伸ローラ150℃、第3延伸ローラ202℃、弛緩ローラ150℃となるように設定した。交絡処理は、交絡付与装置内で走行糸条に直角方向から高圧空気を噴射することにより行った。交絡付与装置の前後には走行糸条を規制するガイドを設け、噴射する空気の圧力は0.2MPaで一定とした。
【0034】
[実施例10]
表2の硫酸相対粘度、水分率のポリアミド610ペレットを用い、計量ポンプにより表2の総繊度になるように吐出量を調整し、孔数204の紡糸口金を通して紡糸し、紡糸速度、及び延伸倍率を表2のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で製造した。
【0035】
[実施例11]
表2の硫酸相対粘度、水分率のポリアミド610ペレットを用い、計量ポンプにより表2の総繊度になるように吐出量を調整し、孔数204の紡糸口金を通して紡糸し、紡糸速度を表2のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で製造した。
【0036】
[実施例12]
表2の硫酸相対粘度、水分率のポリアミド610ペレットを用い、計量ポンプにより表2の総繊度になるように吐出量を調整し、孔数306の紡糸口金を通して紡糸し、紡糸速度、及び延伸倍率を表2のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で製造した。
【0039】
[参考例1]
液相重合で得られたポリアミド66チップに酸化防止剤として酢酸銅の5重量%水溶液を添加して混合し、ポリマー重量に対し、銅として68ppm添加吸着させた。次に沃化カリウムの50重量%水溶液および臭化カリウムの20重量%水溶液をポリマーチップ100重量部に対してそれぞれカリウムとして0.1重量部となるよう添加吸着させ、固相重合装置を用いてポリマーチップを固相重合させた後、水分を添加し、表2の硫酸相対粘度、水分率のポリアミド66ペレットを得た。
【0040】
紡糸装置としては
図1の装置を用いた。前記したポリアミド66ペレットをエクストルーダーへ供給し、計量ポンプにより総繊度が約1400dtexになるように吐出量を調整した。紡糸温度は295℃で行い、紡糸パック内にて金属不織布フィルターで濾過したのち、孔数204の紡糸口金を通して紡糸した。紡出糸条は280℃の温度に加熱した加熱筒を通過させたのち風速33m/minの冷却風により冷却固化した。冷却固化した糸条には、含水系処理剤を付与し、紡糸引き取りローラに旋回し、表2の紡糸速度で糸条を引き取った。引き取られた糸条にはその後、一旦巻き取られることなく引き取りローラ8と給糸ローラ9の間での3%のストレッチをかけ、次いで給糸ローラ9と第1延伸ローラ10の間で該ローラ間の回転速度比が2.8となるように1段目の延伸、続いて第1延伸ローラ10と第2延伸ローラ11の間で該ローラ間の回転速度比が1.3となるように2段目の延伸を行った。続いて、第2延伸ローラ11と第3延伸ローラ12の間で3段目の延伸を行った。
【0041】
引き続き、第3延伸ローラ12と弛緩ローラ13との間で8%の弛緩熱処理を施し、交絡付与装置にて糸条を交絡処理した後、ワインダー15にて巻き取った。各ローラの表面温度は、引き取りローラが常温、給糸ローラ54℃、第1延伸ローラ140℃、第2延伸ローラ205℃、第3延伸ローラ228℃、弛緩ローラ144℃となるように設定した。交絡処理は、交絡付与装置内で走行糸条に直角方向から高圧空気を噴射することにより行った。交絡付与装置の前後には走行糸条を規制するガイドを設け、噴射する空気の圧力は0.3MPaで一定とした。
【0042】
[参考例2]
液相重合で得られたポリアミド6チップに酸化防止剤として酢酸銅の5重量%水溶液を添加して混合し、ポリマー重量に対し、銅として68ppm添加吸着させた。次に沃化カリウムの50重量%水溶液および臭化カリウムの20重量%水溶液をポリマーチップ100重量部に対してそれぞれカリウムとして0.1重量部となるよう添加吸着させ、固相重合装置を用いてポリマーチップを固相重合させた後、水分を添加し、表2の硫酸相対粘度、水分率のポリアミド6ペレットを得た。
【0043】
紡糸装置としては
図1の装置を用いた。
前記したポリアミド6ペレットをエクストルーダーへ供給し、計量ポンプにより総繊度が約1400dtexになるように吐出量を調整した。紡糸温度は285℃で行い、紡糸パック内にて金属不織布フィルターで濾過したのち、孔数204の紡糸口金を通して紡糸した。紡出糸条は290℃の温度に加熱した加熱筒を通過させたのち風速30m/minの冷却風により冷却固化した。冷却固化した糸条には、含水系処理剤を付与し、紡糸引き取りローラに旋回し、表2の紡糸速度で糸条を引き取った。引き取られた糸条にはその後、一旦巻き取られることなく引き取りローラ8と給糸ローラ9の間で9%のストレッチをかけ、次いで給糸ローラ9と第1延伸ローラ10の間で該ローラ間の回転速度比が2.8となるように1段目の延伸、続いて第1延伸ローラ10と第2延伸ローラ11の間で該ローラ間の回転速度比が1.4となるように2段目の延伸を行った。続いて、第2延伸ローラ11と第3延伸ローラ12の間で3段目の延伸を行った。
【0044】
引き続き、第3延伸ローラ12と弛緩ローラ13との間で8%の弛緩熱処理を施し、交絡付与装置にて糸条を交絡処理した後、ワインダー15にて巻き取った。この際、引取速度と延伸速度比で表される総合延伸倍率は表2記載の倍率となるように調節した。各ローラの表面温度は、引き取りローラが常温、給糸ローラ45℃、第1延伸ローラ107℃、第2延伸ローラ170℃、第3延伸ローラ197℃、弛緩ローラ144℃となるように設定した。交絡処理は、交絡付与装置内で走行糸条に直角方向から高圧空気を噴射することにより行った。交絡付与装置の前後には走行糸条を規制するガイドを設け、噴射する空気の圧力は0.3MPaで一定とした。
【0045】
【0046】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により、高強度かつ毛羽品位の優れた低吸水のポリアミド610マルチフィラメントを提供することができる。それにより、吸水、吸湿よるポリアミド610マルチフィラメントの欠点を解消し、ポリアミド610マルチフィラメントの更なる用途拡大を図ることができる。
【0048】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2018年2月26日出願の日本特許出願(特願2018-31834)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0049】
1:紡糸口金
2:加熱筒
3:クロスフロー冷却装置
4:冷却風
5:糸条
6:ダクト
7:給油装置
8:引き取りローラ
9:給糸ローラ
10:第1延伸ローラ
11:第2延伸ローラ
12:第3延伸ローラ
13:弛緩ローラ
14:交絡付与装置
15:ワインダー
16:繊維パッケージ