(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】コンタクトレンズ用モノマー組成物、その重合体、ならびにコンタクトレンズおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20230314BHJP
C08F 230/08 20060101ALI20230314BHJP
C08F 230/02 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
G02C7/04
C08F230/08
C08F230/02
(21)【出願番号】P 2020546029
(86)(22)【出願日】2019-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2019035530
(87)【国際公開番号】W WO2020054711
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2018172142
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松岡 陽介
(72)【発明者】
【氏名】五反田 龍矢
(72)【発明者】
【氏名】高島 柊
(72)【発明者】
【氏名】原田 英治
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/135421(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/04
C08F 230/08
C08F 230/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1):
【化1】
で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルエステルモノマーと、
(B)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、テトラメチレングリコールモノビニルエーテル、およびジエチレングリコールモノビニルエーテルからなる群から選択される1種以上の水酸基含有モノマーと、
(C)下記式(2):
【化2】
で表される
化合物単独のシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマー、
又は式(2)の化合物と式(2)の化合物の副生物である下記式(2’)の化合物とを含むシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマーいずれかと、
【化3】
(D)下記式(3):
【化4】
[式(3)中、R
1は水素原子またはメチル基であり、mは0又は1であり、nは10~20である。]で表されるシロキサニル基含有(メタ)アクリレートと、
(E)架橋剤と、を含有する組成物であり、
前記組成物中の(A)~(E)成分の合計100質量%に対して、(A)成分の含有割合が5~25質量%であり、(B)成分の含有割合が5~40質量%であり、(C)成分の含有割合
は、式(2)及び式(2’)の化合物の合計量が10質量%以上
27質量%
以下であり、(D)成分の含有割合が10~50質量%であり、かつ(E)成分の含有割合が0.1~10質量%である、
コンタクトレンズ用モノマー組成物。
【請求項2】
前記組成物がさらに(F)前記(A)~(E)成分以外のモノマーを含有し、前記組成物中の(A)~(E)成分の合計量100質量部に対して、(F)成分の含有割合が200質量部以下である、
請求項1に記載のコンタクトレンズ用モノマー組成物。
【請求項3】
前記組成物がさらに(G)水酸基を有する溶剤を含有し、前記組成物中の(A)~(E)成分の合計量100質量部に対して、(G)成分の含有割合が50質量部以下である、
請求項1または2に記載のコンタクトレンズ用モノマー組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のコンタクトレンズ用モノマー組成物の重合体である、
コンタクトレンズ用重合体。
【請求項5】
請求項4に記載のコンタクトレンズ用重合体の水和物を含有する、
コンタクトレンズ。
【請求項6】
請求項4に記載のコンタクトレンズ用重合体と、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、および2-プロパノールからなる群から選択される1種以上の溶剤とを混合し、前記重合体を精製する工程と、
前記重合体を生理食塩水に浸漬して水和させる工程と、を有する、
コンタクトレンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ用モノマー組成物、その重合体、ならびに当該重合体を含有する金型剥離性が良好で破断伸びに優れる柔軟性の高いコンタクトレンズおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来型のヒドロゲルコンタクトレンズは目の角膜への酸素供給量が不十分であり、長時間装用時の安全性に問題があった。この欠点を解決し、安全性を向上させたコンタクトレンズとして、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズが開発されている。しかし、コンタクトレンズの製造方法上の点で、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの表面を親水性にすることが困難であるという問題点を有している。すなわち、ソフトコンタクトレンズの一般的製造方法である、ポリプロピレン製モールドを使用したキャストモールド法でシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを製造した場合、ポリプロピレンが疎水性であるため、原料のシリコーンモノマーがモールドとの界面に配向した状態で重合される。その結果、レンズ表面にシリコーン重合体部が存在することになり、そのため、レンズ表面の親水性が小さくなる。
【0003】
ソフトコンタクトレンズ表面の親水性が十分でない場合、脂質やタンパク質等の付着によるレンズの白濁や、付着物による眼疾患の懸念がある。そのため、親水性が不十分なシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、レンズの形成後にその表面へのプラズマガスや親水性ポリマーによるコーティングや、親水性モノマーによる表面グラフトポリマーの形成がなされている。しかし、これらの表面処理は、表面処理を必要としない場合と比較し、ソフトコンタクトレンズを製造するための多くの装置および工程を必要とするため、量産化において望ましくない。
【0004】
そこで、シリコーン含有共重合体を用いるソフトコンタクトレンズの表面の疎水性を改善することを目的として、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリジノン等のビニル基を有する親水性モノマーの使用が提案されている。しかしながら、このような親水性モノマーを使用しても、レンズ表面の親水性は十分とは言えない。
【0005】
特許文献1には、(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンモノマー、ビニル基を有する親水性モノマー、架橋性モノマー、および10時間半減期温度が70℃~100℃の重合開始剤を含むシリコーンヒドロゲル用組成物からレンズを製造する方法が開示されている。この方法は、原料モノマーの重合性の差を利用してレンズ表面の親水性を改善することを狙いとしているが、やはり満足のいく親水性は得られない。
【0006】
特許文献2には、ホスホリルコリン基含有(メタ)アクリルエステルモノマーと、水酸基を有する(メタ)アクリルエステルシリコーンモノマーと、架橋剤とを含むコンタクトレンズ用単量体組成物が開示されている。特許文献3には、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)と、ジメタクリロイルシリコーンマクロマーと、(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)プロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン(SiGMA)とを含む組成物から得られるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズが開示されている。特許文献4には、ホスホリルコリン基またはカルボキシベタイン基含有(メタ)アクリルエステルモノマー、2級水酸基を有する(メタ)アクリルエステルシリコーンモノマー、水酸基を有さない(メタ)アクリルエステル環状シリコーンモノマー、フッ化アルキル基を有するマレイン酸またはフマル酸ジエステルシリコーンモノマー等を含む組成物から得られるコンタクトレンズが開示されている。しかし、特許文献2~4に係るコンタクトレンズは、レンズ表面の親水性に改善が見られるものの、酸素透過性が低下するという問題がある。
【0007】
特許文献5には、ホスホリルコリン基含有(メタ)アクリルエステルモノマーと、水酸基を有する(メタ)アクリルエステルシリコーンモノマーと、シリコーン(メタ)アクリレートとを含む組成物が開示されており、その重合体がコンタクトレンズに利用できることが記載されている。特許文献6および7には、一級水酸基を有するシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマーとMPCとを含む組成物が開示されており、その重合体がコンタクトレンズに利用できることが記載されている。特許文献5~7では、レンズ表面の親水性および酸素透過性の点で良好な結果が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2015/001811号
【文献】特開2007-009060号公報
【文献】特開2014-089477号公報
【文献】特開2007-056220号公報
【文献】特開2007-197513号公報
【文献】国際公開第2010/104000号
【文献】国際公開第2018/135421号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献5~7に係るコンタクトレンズは、レンズ表面の親水性および酸素透過性の点で良好であるものの、破断伸びについては記載が無く、改善の余地があった。また、疎水性の金型からの脱型性についても改善の余地があった。
【0010】
本発明の課題は、ポリプロピレン等からなる疎水性のモールドを用いて製造した場合であっても、収率良く脱型することができ、優れた破断伸びおよび装用感を示し得るコンタクトレンズを提供することにある。なお、「収率良く脱型する」とは、実施例で詳述する重合型からの重合体の分離工程において、割れ等が発生しないものが70%以上のものを指すものとする。また、「優れた破断伸びを示す」とは、実施例で詳述する機械的強度測定において破断伸びが200%以上であることを指す。
【0011】
本発明の他の課題は、上記コンタクトレンズを得るために好適に使用できるモノマー組成物および重合体を提供することである。
【0012】
本発明の更なる課題は、上記重合体を用いてコンタクトレンズを得るための製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、2種類の親水性モノマーと2種類のシロキサニル基含有シリコーンモノマーとを含有するモノマー組成物をコンタクトレンズ用原料として使用し、これらのモノマーの組成比を特定の範囲内に調整することにより、上記目的を全て達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明の一形態によれば、(A)下記式(1)で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルエステルモノマーと、(B)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、テトラメチレングリコールモノビニルエーテル、およびジエチレングリコールモノビニルエーテルからなる群から選択される1種以上の水酸基含有モノマーと、(C)下記式(2)で表されるシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマーと、(D)下記式(3)で表されるシロキサニル基含有(メタ)アクリレートと、(E)架橋剤とを含有する組成物であり、前記組成物中の(A)~(E)成分の合計100質量%に対して、(A)成分の含有割合が5~25質量%であり、(B)成分の含有割合が5~40質量%であり、(C)成分の含有割合が10質量%以上30質量%未満であり、(D)成分の含有割合が10~50質量%であり、かつ(E)成分の含有割合が0.1~10質量%である、コンタクトレンズ用モノマー組成物が提供される。
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
式(3)中、R1は水素原子またはメチル基であり、mは0又は1であり、nは10~20である。
【0019】
本発明の他の形態によれば、上記コンタクトレンズ用モノマー組成物の重合体であるコンタクトレンズ用重合体が提供される。
【0020】
本発明の更なる形態によれば、上記コンタクトレンズ用重合体の水和物を含有するコンタクトレンズ、およびその製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物は、(A)~(E)成分を必須成分として特定割合で含有する。そのため、該組成物の重合体を用いて得られる本発明のコンタクトレンズは、金型からの剥離性が良好であり、かつ優れた破断伸びおよび装用感を示し得る。また、本発明のコンタクトレンズの製造方法によれば、上記優れた性能のシリコーンヒドロゲルソフトコンタクトレンズを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物は、必須成分として後述する(A)~(E)成分を含有し、さらに任意成分として後述する(F)~(H)成分のうち1種以上を含有し得る、均一な透明液体である。本発明のコンタクトレンズ用重合体はこのコンタクトレンズ用モノマー組成物の重合体であり、本発明のコンタクトレンズは当該コンタクトレンズ用重合体の水和物を含有する。以下、本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物を単に組成物と称する。また、本発明のコンタクトレンズ用重合体を単に重合体と称する。
【0023】
(A)成分:ホスホリルコリン基含有メタクリルエステルモノマー
(A)成分は、下記式(1)で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルエステルモノマー、具体的には2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)である。(A)成分を含有することにより、本発明の組成物の重合体から製造されるコンタクトレンズの、表面の親水性と潤滑性を良好にすることができる。
【0024】
【0025】
本発明の組成物において、(A)~(E)成分の合計を100質量%としたとき、(A)成分の含有割合は5~25質量%である。(A)成分の含有割合が5質量%未満であると、コンタクトレンズが十分な表面親水性を示さない。一方、25質量%を超えると、(A)成分を組成物中に溶解させることが困難となり、また、コンタクトレンズの機械的強度の低下が懸念される。
【0026】
(B)成分:水酸基含有モノマー
(B)成分は、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、テトラメチレングリコールモノビニルエーテル、およびジエチレングリコールモノビニルエーテルからなる群から選択される1種以上の水酸基含有モノマーである。(B)成分を所定量含有することにより、本発明の組成物中への(A)成分の溶解が良好となる。また、得られるコンタクトレンズの破断伸びが良好となる。(A)成分の当該溶解性の点で、(B)成分の水酸基は1級水酸基であることが好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル」は「アクリルおよび/またはメタクリル」を意味する。
【0027】
(B)成分の具体例としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラメチレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられる。(B)成分は、これらのモノマーのいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0028】
(A)成分の溶解性がより良好となる点で、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、およびジエチレングリコールモノビニルエーテルが好ましく、2-ヒドロキシエチルアクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、およびエチレングリコールモノビニルエーテルが特に好ましい。
【0029】
本発明の組成物において、(A)~(E)成分の合計を100質量%としたとき、(B)成分の含有割合は5~40質量%であり、好ましくは10~35質量%であり、より好ましくは10~25質量%である。(B)成分の含有割合が5質量%未満であると、得られるコンタクトレンズの破断伸びが悪化し脆くなる懸念がある。一方、40質量%を超えると、コンタクトレンズが白濁する懸念がある。
【0030】
(C)成分:シロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマー
(C)成分は、下記式(2)で表されるシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマーである。(C)成分はコンタクトレンズの酸素透過性および透明性の向上に寄与する。
【0031】
【0032】
式(2)で表されるモノマーは、イタコン酸モノエチレングリコールエステルと3-ヨードプロピル[トリス(トリメチルシロキシ)]シランとのエステル化反応により得られる。イタコン酸モノエチレングリコールエステルは、例えば特許文献6に記載のように無水イタコン酸とエチレングリコールとを反応させて得られる。また、3-ヨードプロピル[トリス(トリメチルシロキシ)]シランは市販品を用いてもよいが、得られる本発明のシリコーンモノマーの純度を高くするために、高純度品を用いることが好ましい。
【0033】
上記エステル化反応において、下記式(2’)で表される構造異性体が少量副生する場合がある。本発明では、式(2)のモノマーと、少量の式(2’)のモノマーとの混合物を、(C)成分として使用してもよい。すなわち、本発明において、「式(2)で表されるシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマー」は、式(2)のモノマー単独だけではなく、式(2)のモノマー以外に式(2’)の異性体が一部含まれるものも包含する。
【0034】
【0035】
本発明の組成物において、(A)~(E)成分の合計を100質量%としたとき、(C)成分の含有割合は10質量%以上30質量%未満であり、好ましくは10~27質量%である。(C)成分の含有割合が10質量%未満であると、本発明の組成物中への(A)成分の溶解が困難となる可能性や、製造されるコンタクトレンズ用重合体が白濁する可能性がある。一方、30質量%以上であると、コンタクトレンズの破断伸びが低下する懸念がある。
【0036】
(D)成分:シロキサニル基含有(メタ)アクリレート
(D)成分は、下記式(3)で表されるシロキサニル基含有(メタ)アクリレートである。(D)成分はコンタクトレンズの酸素透過性の向上と機械的強度の調節に寄与する。(D)成分は特開2014-031338号が開示している方法等によって調製でき、また市販品であってもよい。
【0037】
【0038】
式(3)中、R1は水素原子又はメチル基である。mはエチレンオキシ基の数を表し、0または1の整数である。nはジメチルシロキサン部の繰り返し数を表し、10~20である。
【0039】
(D)成分は繰り返し数nが異なる複数の化合物の混合物であってよい。この場合、nは数平均分子量における平均値であり、10~20の範囲内である。nが10未満では酸素透過性が低下するため好ましくない。またnが20よりも大きい場合、コンタクトレンズの表面親水性や機械的強度が低下する。
【0040】
式(3)中のmは0であることが好ましい。即ち、(D)成分は下記式(4)で表されるシロキサニル基含有(メタ)アクリレートであることが好ましい。なお、式(4)中のR1及びnは、式(3)中のそれらと同義である。
【0041】
【0042】
本発明の組成物において、(A)~(E)成分の合計を100質量%としたとき、(D)成分の含有割合は10~50質量%である。(D)成分の含有割合が10質量%未満であると、コンタクトレンズの機械的強度が大きくなりすぎ、装用感が優れない懸念がある。一方、50質量%を超えると、コンタクトレンズの破断伸びが低下する懸念がある。
【0043】
本発明の組成物において、(A)~(E)成分の合計を100質量%としたとき、(C)成分と(D)成分の合計含有割合は、好ましくは35~75質量%であり、より好ましくは55~70質量%である。この合計含有割合を35質量%以上とすることで、均一透明液体の本発明の組成物が得られ易くなる。一方、75質量%以下とすることで、コンタクトレンズが脆くなることを防ぐことができる。
【0044】
(E)成分:架橋剤
(E)成分は、(A)~(D)成分のモノマーの重合反応時に架橋剤として働く成分である。本発明の組成物は所定量の(E)成分を含有するため、本発明の重合体は架橋構造を有し、そのため本発明のコンタクトレンズは優れた耐溶剤性を示す。
【0045】
(E)成分の一例として、下記式(5)で表されるシリコーンジメタクリレートが挙げられる。
【0046】
【0047】
式(5)中、pおよびrはそれぞれ0または1である。qは10~70である。
【0048】
(E)成分のその他の具体例としては、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、メチレンビスアクリルアミド、アリルメタクリレート、(2-アリルオキシ)エチルメタクリレート、2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチルアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、および2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。(E)成分は、これら架橋剤のいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0049】
本発明の組成物において、(A)~(E)成分の合計を100質量%としたとき、(E)成分の含有割合は0.1~10質量%であり、好ましくは0.7~6質量%である。(E)成分の含有割合が0.1質量%未満であると、コンタクトレンズの耐溶剤性が不十分となる。一方、10質量%を超えると、コンタクトレンズが脆く破損が生じる懸念があり、また機械的強度が高くなりすぎてコンタクトレンズの装用感が悪化するおそれがある。
【0050】
(F)成分:(A)~(E)成分以外のモノマー
(F)成分は、(A)~(E)成分以外のモノマーである。(F)成分は任意成分であり、コンタクトレンズの含水率の調整等を目的として使用される。
【0051】
(F)成分としては、アミド基、カルボキシル基、およびエステル基から選択される官能基を1種以上有するモノマーを例示でき、アミド基またはエステル基を有するモノマーであることが好ましい。アミド基を有するモノマーの例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリジン-2-オン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニル-3-メチル-2-カプロラクタム、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド等が挙げられ、これらのうちN-ビニルピロリドンが好ましい。カルボキシル基を有するモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸等が挙げられる。エステル基を有するモノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートや、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート等が挙げられ、これらのうちメチル(メタ)アクリレートが好ましい。(F)成分はこれらモノマーのいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。すなわち、(F)成分はこれらのモノマー群から選択される1種以上のモノマーであってよい。
【0052】
本発明の組成物が(F)成分を含有する場合、(A)~(E)成分の合計量100質量部に対して、(F)成分の含有割合は好ましくは200質量部以下であり、より好ましくは150質量部以下であり、さらに好ましくは120質量部以下である。200質量部以下であれば、(A)成分の組成物中への溶解性が良好であり、またコンタクトレンズの破断伸びを一定以上に保持させ易くなる。
【0053】
(G)成分:水酸基を有する溶剤
(G)成分は、水酸基を有する溶剤である。(G)成分は任意成分であり、(A)成分の組成物中への溶解性をより良好にする目的で配合してもよい。(G)成分を用いることにより、本発明の組成物中での(A)成分の溶解速度を高くし、その溶解を容易にすることができる。
【0054】
(G)成分の水酸基を有する溶剤はアルコール類またはカルボン酸類であってよい。アルコール類の具体例としては、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、tert-アミルアルコール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、1-デカノール、1-ドデカノール等が挙げられる。カルボン酸類の具体例としては、グリコール酸、乳酸、酢酸等が挙げられる。(G)成分はこれら溶剤のいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。(A)成分の溶解性および組成物のpH安定性の点において、(G)成分はエタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、および1-ヘキサノールから選ばれる1種以上であることが特に好ましい。
【0055】
本発明の組成物が(G)成分を含有する場合、組成物中の(A)~(E)成分の合計を100質量部としたとき、(G)成分の含有割合は好ましくは50質量部以下である。50質量部以下であれば、製造される重合体の強度が不足せず、コンタクトレンズの破断伸びを一定以上に保持させ易くなる。
【0056】
(H)成分:重合開始剤
本発明の組成物は、(H)成分として重合開始剤を含有していてもよい。(H)成分を含有する場合、組成物の保管等に留意が必要であるが、組成物を加熱等するだけで重合体が安定した品質で簡便に得られるという利点がある。
【0057】
(H)成分は公知の重合開始剤であってよく、好ましくは熱重合開始剤である。熱重合開始剤を用いると、重合途中の温度変化による各モノマー成分の共重合性の変化が容易である。
【0058】
熱重合開始剤の例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェイトジハイドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジハイドレート、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-{1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等のアゾ系重合開始剤や、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシヘキサノエート、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の過酸化物系重合開始剤等が挙げられる。
【0059】
(H)成分として、これら重合開始剤のいずれか1種類を配合しても、2種類以上を配合してもよい。(H)成分としては、安全性と入手性の点でアゾ系重合開始剤が好ましく、反応性の点から2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、および2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が特に好ましい。
【0060】
(H)成分を含有する場合、その含有割合は、組成物中の(A)~(E)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部であり、より好ましくは0.2~1質量部である。0.1質量部未満の場合、組成物の重合性が不十分で、(H)成分を配合する利点が得られないおそれがある。3質量部超の場合は、重合体を洗浄してコンタクトレンズを製造するときに、(H)成分の反応分解物の抽出除去が不十分になるおそれがある。
【0061】
本発明の組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、紫外線吸収剤や色素等のコンタクトレンズに使用される成分を配合することができる。組成物中の他成分の含有割合は、組成物中の(A)~(E)成分の合計量100質量部に対して、各々5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0062】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、各成分を任意の順または一括して撹拌(混合)装置に投入し、40℃以下の温度で、均一になるまで撹拌(混合)することにより製造できる。ただし、組成物が(H)成分として熱重合開始剤を含有する場合は、混合時に重合反応が開始するのを避けるために、40℃以下で、かつ熱重合開始剤の10時間半減期温度よりも10℃以上低い温度で混合するのが好ましい。(A)成分の溶解性が良好となる点において、(A)、(B)、および(C)成分の3成分を混合溶解した後、他の成分を添加して混合することが好ましい。
【0063】
本発明の重合体は上記本発明の組成物の重合体である。組成物が(H)成分を含有しない場合は、組成物に重合開始剤を添加して重合反応を行うことが好ましい。添加する重合開始剤の例としては、上記(H)成分の例と同様のものが挙げられる。また、組成物が(G)成分を含有する場合、重合体が(G)成分を含有していてもよい。
【0064】
以下、本発明の重合体の製造方法について説明する。以下に示す製造方法は該重合体を得る方法の一実施形態にすぎず、本発明の重合体は当該製造方法によって得られるものに限定されない。
【0065】
本発明の組成物をモールドに充填して重合反応を行うことにより、本発明の重合体を製造できる。該モールドとしては、ポリプロピレン等からなる疎水性表面を有するモールドを使用してよい。組成物が(H)成分を含有しない場合は、(H)成分と同様の重合開始剤を、(H)成分の配合量と同程度になるように組成物に添加してモールドに充填するのが好ましい。
【0066】
重合反応は、例えば、使用する重合開始剤の分解温度に合わせて45℃~140℃の温度で組成物を1時間以上維持する1段階重合法により行ってよいが、以下に示す重合工程1および重合工程2を含む2段階以上の重合法によって実施するのが好ましい。この場合、コンタクトレンズの表面の親水性をより向上させることができる。重合終了後、例えば60℃以下まで冷却し、重合体をモールドから取り出してよい。
【0067】
[重合工程1]
重合工程1では、必要に応じて組成物に重合開始剤を添加し、45℃~75℃の温度で1時間以上維持する。
【0068】
重合工程1の維持温度(重合温度)は45~75℃であり、好ましくは50℃~70℃であり、より好ましくは55℃~70℃である。重合工程1の重合温度が45℃よりも低い場合は、重合開始剤からのラジカル生成量が少なく、重合体の物性が安定せず、重合体の品質が安定しないおそれがある。また、75℃よりも高い場合は、重合時において親水性モノマーおよび/または重合途中の親水性部が、組成物とモールドとの界面に配向する率が低くなるおそれがあり、その結果、コンタクトレンズの表面親水性が低くなる可能性がある。
【0069】
重合工程1の維持時間(重合時間)は1時間以上であり、好ましくは2時間以上12時間以下である。重合時間が1時間未満であると、親水性モノマーおよび/または重合途中の親水性部が、組成物とモールドとの界面に配向する率が低くなるおそれがあり、その結果、製造されるコンタクトレンズの表面の親水性が低くなる可能性がある。12時間を超える場合は、重合工程が長くなりすぎ、生産性が低下するので好ましくない。なお、この維持時間は上記重合温度に到達するまでの昇温時間は含まない。
【0070】
[重合工程2]
重合工程2は重合工程1の後に実施され、重合工程1よりも高い温度である90℃~140℃で1時間以上維持する工程である。
【0071】
重合工程2の維持温度(重合温度)は90~140℃であり、好ましくは100℃~120℃である。90℃よりも低い温度では重合反応が完了しない場合がある。また、140℃を超える温度では、モールドが変形し、それに連動して重合体も変形するおそれがあり、その結果、コンタクトレンズの形状異常が懸念される。
【0072】
重合工程2の維持時間(重合時間)は1時間以上であり、好ましくは10時間以下である。重合時間が1時間未満であると重合反応が完了しない場合がある。10時間を超える場合は、重合工程が長くなりすぎ、生産性が低下するので好ましくない。なお、重合工程1と同様、この維持時間は昇温時間を含まない。
【0073】
重合工程1および2を行う雰囲気は特に限定されないが、重合工程1および2のいずれも、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行うのが重合率を向上させる点で好ましい。この場合、組成物に不活性ガスを通気したり、モールドの組成物充填場所を不活性ガス雰囲気としてよい。
【0074】
モールド内の圧力は大気圧~微加圧でよい。不活性ガス雰囲気中で重合する場合は、ゲージ圧で1kgf/cm2以下とすることが好ましい。
【0075】
本発明のコンタクトレンズはシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズであり、上記重合体の水和物を含む。すなわち、本発明の重合体を水和し、含水させてヒドロゲル形態とすることで、本発明のコンタクトレンズ(シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ)が得られる。なお、本明細書中において「シリコーンヒドロゲル」とは、重合体中にシリコーン部を有するヒドロゲルのことをいう。本発明の組成物はシリコーン含有モノマーである(C)および(D)成分を含有するので、その重合体はシリコーン部を有しており、水和(含水)させることによりシリコーンヒドロゲルを形成できる。
【0076】
コンタクトレンズの含水率(コンタクトレンズの総質量に対する水の割合)は、好ましくは35質量%以上65質量%未満であり、より好ましくは40質量%以上60質量%以下である。含水率が35質量%未満であるとコンタクトレンズの親水性が得られ難く、65%以上では高い酸素透過性が得られない懸念がある。
【0077】
次に、本発明のコンタクトレンズの製造方法について説明する。以下に示す製造方法は本発明のコンタクトレンズを得る方法の一実施形態にすぎず、本発明のコンタクトレンズは当該製造方法によって得られるものに限定されない。
【0078】
上記重合反応の後、重合体は、未反応のモノマー成分(未反応物)、各成分の残渣、副生成物、残存した溶剤等との混合物の状態にある場合がある。このような混合物をそのまま水和処理に供することも可能であるが、水和処理の前に、精製用溶剤を用いて重合体を精製することが好ましい。
【0079】
精製用溶剤としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、これらの混合物等が挙げられる。精製は、例えば、10℃~40℃の温度で、重合体をアルコール溶剤に10分間~5時間浸漬し、次に水に10分間~5時間浸漬する、等のように実施できる。また、アルコール溶剤に浸漬後、アルコール濃度20~50重量%の含水アルコールに10分間~5時間浸漬し、さらに水に浸漬してもよい。水としては、純水、イオン交換水等が好ましい。
【0080】
精製した重合体を生理食塩水に浸漬し、所定の含水率となるように水和させることによって、本発明のコンタクトレンズが得られる。生理食塩水は、ホウ酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等であってよい。また、生理食塩水を含有するソフトコンタクトレンズ用保存液に浸漬してもよい。生理食塩水の浸透圧は250~400mOms/kgであることが水和の点で好ましい。
【0081】
本発明のコンタクトレンズは、レンズ表面の親水性が良好で、脂質等の汚れが付着しにくく、また付着した場合も洗浄除去が容易であり、かつ機械的強度に優れているので、所望により通常の使用形態で1カ月程度使用することができる。当然ながら、それより短期間で交換してもよい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に限定されるものではない。まず、実施例および比較例で用いた成分を以下に示す。
【0083】
(A)成分:ホスホリルコリン基含有メタクリルエステルモノマー
・MPC:(2-メタクリロイルオキシエチル)ホスホリルコリン
【0084】
(B)成分:水酸基含有モノマー
・HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
・HEAA:N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド
・HPMA:2-ヒドロキシプロピルメタクリレート
・HBMA:2-ヒドロキシブチルメタクリレート
・EMVE:エチレングリコールモノビニルエーテル
・TMMVE:テトラメチレングリコールモノビニルエーテル
・DEMVE:ジエチレングリコールモノビニルエーテル
【0085】
(C)成分:シロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマー
・ETS:イタコン酸モノエチレングリコールエステルと3-ヨードプロピル[トリス(トリメチルシロキシ)]シランとのエステル化反応物である式(2)の化合物
【0086】
(D)成分:シロキサニル基含有メタクリレート
・FM-0711:式(3)で表される化合物(R1=メチル基、m=0、n=11、数平均分子量Mn=約1,000)
【0087】
(E)成分:架橋剤
・TEGDV:トリエチレングリコールジビニルエーテル
・DEGDV:ジエチレングリコールジビニルエーテル
・EGDV:エチレングリコールジビニルエーテル
・TEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート
・FM-7711:式(5)で表される化合物(p=r=0、数平均分子量Mn=約1,000)
【0088】
(F)成分:(A)~(E)成分以外のモノマー
・NVP:N-ビニルピロリドン
・MMA:メチルメタクリレート
【0089】
(G)成分:溶剤
・NPA:1-プロパノール(ノルマルプロピルアルコール)
・HeOH:1-ヘキサノール(ノルマルヘキサノール)
【0090】
(H)成分:重合開始剤
・AIBN:2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(10時間半減期温度65℃)
【0091】
実施例および比較例の組成物、重合体、およびコンタクトレンズ(モデルコンタクトレンズ)について、以下の項目を評価した。以後、各評価項目および各表での「組成物」、「重合体」および「コンタクトレンズ(モデルコンタクトレンズ)」とは、各々実施例だけでなく、比較例に係るものも含む。
【0092】
[組成物の均一性および透明性]
組成物を無色透明な容器へ入れ、組成物の状態を目視により以下の基準で評価した。
○:均一透明
×:白濁または沈殿あり
【0093】
[重合体の形態]
重合体の形態を目視により以下の基準で評価した。
○:固体
×:液体(粘調液体含む)
【0094】
[重合体の透明性]
重合体の透明性を目視により以下の基準で評価した。
○:透明
△:微濁
×:白濁
【0095】
[重合体の剥離性]
0.2mm厚のPETフィルムをスペーサーとして、2枚のポリプロピレン板で作成した重合用セル(25mm×70mm×0.2mm)に、開始剤を含むモノマー組成物を入れ、重合して硬化させた後、2枚のポリプロピレン板の片側を剥離させた。10枚剥離したときの重合体の様子を目視で評価した。
○:ヒビ、欠けが生じた重合体が10枚中2枚以下
△:ヒビ、欠けが生じた重合体が10枚中3枚以上5枚以下
×:ヒビ、欠けが生じた重合体が10枚中6枚以上
【0096】
[コンタクトレンズの透明性]
重合体を精製した後、ISO-18369-3に記載の生理食塩水中に浸漬し膨潤させて得られるヒドロゲルをモデルコンタクトレンズとし、目視により以下の基準で評価した。
○:透明
△:微濁
×:白濁
【0097】
[コンタクトレンズの機械的強度および破断伸び]
山電社製BAS-3305(W)破断強度解析装置を用い、JIS-K7127に従ってモデルコンタクトレンズのモジュラス[MPa]を測定し、機械的強度を評価した。詳しくは、モデルコンタクトレンズを幅2mmに切断した測定試料を使用し、200gfのロードセルを用い、クランプ間6mmとして1mm/秒の速度で引張り、初期の応力からモジュラスを測定した。モジュラスが0.2MPa以上0.7MPa未満の場合、機械的強度が良好と判定した。また、測定試料が破断するまでの距離を測定し、サンプル長6mmに対する伸び率を破断伸び[%]とし、以下の基準で評価した。
◎:350%以上
○:200%以上350%未満
×:200%未満
【0098】
[コンタクトレンズの表面潤滑性]
モデルコンタクトレンズの潤滑性を指先での官能評価により評価した。評価用の標準コンタクトレンズとしてpolymaconおよびomafilcon Aを用いた。polymaconの潤滑性を2、omafilcon Aの潤滑性を8として、1~10の10段階で評価した。評価点7以上の場合は表面潤滑性良好、4~6の場合は表面潤滑性普通、3以下の場合は表面潤滑性不良と判定する。
【0099】
[参考例1]
0.5g(5.0質量%)のMPC、1.85g(18.5質量%)のHPMA、1.23g(12.3質量%)のEMVE、2.96g(29.6質量%)のETS、および0.62g(6.2質量部)のNPAを容器中で混合し、室温下で、MPCが溶解するまで撹拌した。さらに、3.34g(33.4質量%)のFM-0711、0.12g(1.2質量%)のTEGDV、2.47g(24.7質量部)のNVP、および0.12g(1.2質量部)のAIBNを容器に添加し、室温下で、均一になるまで撹拌して組成物を得た。この組成物について上記評価を行った。
【0100】
0.3gの上記組成物を、厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとして2枚のポリプロピレン板の間に挟みこんだ25mm×70mm×0.2mmのセル内に流し込み、オーブン内へ置いた。オーブン内の窒素置換を行った後、65℃まで昇温し該温度で3時間維持した後、さらに120℃に昇温し1時間維持して、組成物を重合させて重合体を得た。重合体をセルから取り出し、上記評価を行った。
【0101】
上記重合体を40gの2-プロパノールに4時間浸漬した後、50gのイオン交換水に4時間浸漬して未反応物等を除去して精製した。精製後の重合体をISO-18369-3に記載の生理食塩水に浸漬し、膨潤(水和)させてモデルコンタクトレンズを作製した。このモデルコンタクトレンズを各評価試験に適したサイズおよび形状のサンプルに加工し、各評価を行った。組成物中の各成分の配合割合、重合条件、および各評価結果を表1に示す。
【0102】
[実施例2~7、9、10、参考例8及び11]
各成分の含有割合および重合条件を表1に示すように変更したこと以外は参考例1と同様に、実施例2~7、9、10、参考例8及び11の組成物、重合体、およびモデルコンタクトレンズを調製し、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
[比較例1]
2.22g(22.2質量%)のMPC、1.48g(14.8質量%)のHPMA、6.18g(61.8質量%)のETS、および1.23g(12.3質量部)のNPAを容器中で混合し、室温下で撹拌した。さらに、0.12g(1.2質量%)のTEGDV、2.47g(24.7質量部)のNVP、および0.12g(1.2質量部)のAIBNを容器に添加し、室温下で均一になるまで撹拌して比較例1の組成物を得た。比較例1の組成物について上記評価を行った。
【0104】
0.3gの上記組成物を、厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとして2枚のポリプロピレン板の間に挟みこんだ25mm×70mm×0.2mmのセル内に流し込み、オーブン内へ置いた。オーブン内の窒素置換を行った後、65℃まで昇温し該温度で1時間維持した後、さらに120℃に昇温し5時間維持して、組成物を重合させて比較例1の重合体を得た。重合体をセルから取り出し、上記評価を行った。ポリプロピレン板の剥離時に、10枚の重合体中、4枚が破損した。
【0105】
比較例1の重合体を40gの2-プロパノールに4時間浸漬した後、50gのイオン交換水に4時間浸漬して未反応物等を除去して精製した。精製後の重合体をISO-18369-3に記載の生理食塩水に浸漬し、膨潤(水和)させて比較例1のモデルコンタクトレンズを作製した。このモデルコンタクトレンズを各評価試験に適したサイズおよび形状のサンプルに加工し、各評価を行った。比較例1の組成物中の各成分の配合割合、重合条件、および各評価結果を表2に示す。
【0106】
比較例1の重合体は、各実施例の重合体と比較して透明性および剥離性が劣っていた。また、比較例1のコンタクトレンズは、各実施例のコンタクトレンズと比較して透明性および破断伸びが極端に悪く、表面潤滑性も劣っていた。
【0107】
[比較例2~4]
各成分の含有割合および重合条件を表2に示すように変更したこと以外は比較例1と同様に、比較例2~4の組成物、重合体、およびモデルコンタクトレンズの調製を試み、評価試験を行った。結果を表2に示す。比較例3では組成物が均一とならなかったため重合を実施しなかった。従って、比較例3の重合体およびモデルコンタクトレンズは調製できず、その評価も実施できなかった。
【0108】
比較例2の重合体は、各実施例の重合体と比較して剥離性が劣っていた。また、比較例2のコンタクトレンズは、各実施例のコンタクトレンズと比較して破断伸びが極端に悪く、表面潤滑性も劣っていた。比較例4の重合体およびコンタクトレンズは、比較例1と同様に各実施例と比較して非常に劣っていた。
【0109】
【0110】