(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】コンタクトレンズ用モノマー組成物およびコンタクトレンズ用重合体、ならびにコンタクトレンズおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20230314BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20230314BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
G02C7/04
G02B1/04
C08F290/06
(21)【出願番号】P 2020548372
(86)(22)【出願日】2019-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2019035531
(87)【国際公開番号】W WO2020066598
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2018179067
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】五反田 龍矢
(72)【発明者】
【氏名】小林 晃
(72)【発明者】
【氏名】高島 柊
(72)【発明者】
【氏名】岩切 規郎
(72)【発明者】
【氏名】松岡 陽介
(72)【発明者】
【氏名】原田 英治
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/135421(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/04
G02B 1/04
C08F 290/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1):
【化1】
で表される
化合物単独のシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマー、
又は式(1)の化合物と式(1)の化合物の副生物である下記式(1’)の化合物とを含むシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマーいずれかと、
【化2】
(B)N-ビニルピロリドン、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、およびN-ビニルアセトアミドからなる群から選択される1種以上のアミド基含有モノマーと、
(C)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、およびジエチレングリコールモノビニルエーテルからなる群から選択される1種以上の水酸基含有モノマーと、
(D)下記式(2)
【化3】
[式(2)中、R
1は水素原子またはメチル基であり、nは10~20である。]で表されるシロキサニル基含有(メタ)アクリレートと、
(E)架橋剤と、を含有
し、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを含まない組成物であり、
前記組成物中の(A)~(E)成分の合計100質量%に対して、(A)成分の含有割合
は、式(1)及び式(1’)の化合物の合計量が5~60質量%であり、(B)成分の含有割合が10~60質量%であり、(C)成分の含有割合が5~45質量%であり、(D)成分の含有割合が5~35質量%であり、かつ(E)成分の含有割合が0.1~15質量%である、
コンタクトレンズ用モノマー組成物。
【請求項2】
前記組成物がさらに(F)前記(A)~(E)成分以外のモノマーを含有し、前記組成物中の(A)~(E)成分の合計量100質量部に対して、(F)成分の含有割合が30質量部以下である、
請求項1に記載のコンタクトレンズ用モノマー組成物。
【請求項3】
前記組成物がさらに(G)水酸基を有する溶剤を含有し、前記組成物中の(A)~(E)成分の合計量100質量部に対して、(G)成分の含有割合が30質量部以下である、
請求項1または2に記載のコンタクトレンズ用モノマー組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のコンタクトレンズ用モノマー組成物の重合体からなる、コンタクトレンズ用重合体。
【請求項5】
請求項4に記載のコンタクトレンズ用重合体の水和物からなる、
コンタクトレンズ。
【請求項6】
請求項4に記載のコンタクトレンズ用重合体と、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、および2-プロパノールからなる群から選択される1種以上の溶媒とを混合し、前記重合体を洗浄する工程と、
前記重合体を生理食塩水に浸漬して水和させる工程と、を有する、
コンタクトレンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ用モノマー組成物、当該組成物の重合体、ならびに当該重合体の水和物からなるコンタクトレンズおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、シリコーンを含まない従来型のヒドロゲルコンタクトレンズと比較して、目の角膜への酸素供給量が多く、より安全性の高いレンズとして認識されている。
【0003】
一般に、ソフトコンタクトレンズはキャストモールド法によって製造され、この方法ではポリプロピレン製モールドが用いられることが多い。シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズをこの方法で製造する場合、ポリプロピレンが疎水性であるため、シリコーンモノマーがモールド表面に配向した状態で重合される。そのためレンズ表面にシリコーン部が形成され、該表面の親水性が低くなる。レンズ表面の親水性が十分でない場合、脂質やタンパク質等が付着し、レンズの白濁や眼疾患を引き起こす懸念がある。
【0004】
そこで、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを調製した後、レンズ表面にプラズマガスや親水性ポリマーによるコーティングや、親水性モノマーによる表面グラフトポリマーを形成することが提案されている。しかしながら、これらの表面処理は多くの装置を必要とし、工程が煩雑となるため、量産化において望ましくない。
【0005】
モノマー組成物にポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマー湿潤剤を添加し、該組成物を重合させてシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを得る方法が知られている。この方法では、重合体に湿潤剤が含まれるため、上記表面処理を行わなくても十分な親水性が得られる。しかしながら、湿潤剤は重合体に架橋されていないため、重合後のアルコール抽出工程やレンズ装用期間中にレンズから溶出し、レンズ表面の親水性が低下し装用感が悪化する懸念がある。
【0006】
ポリプロピレン製モールドよりも親水性の高いモールドを用い、シリコーンモノマーがレンズ表面に配向し難い状態で重合してコンタクトレンズを製造する方法が知られている。しかしながら、このようなモールドに用いられる材料はポリプロピレンと比較して融点が高く、モールド形成時の加工性に問題がある。
【0007】
このような状況下、シリコーン含有共重合体を用いるソフトコンタクトレンズの表面の疎水性を改善することを目的として、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)、N-メチル-N-ビニルアセトアミド(MVA)、N-ビニルピロリジノン等の親水性モノマーを、モノマー組成物に用いる方法が提案されている。しかしながら、このような親水性モノマーを使用しても、レンズ表面の親水性は十分とは言えない。
【0008】
特許文献1は、シリコーンモノマーとして3-メタクリロイルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(TRIS)を含み、さらにビニルモノマーとしてNVPを含む組成物から得られるコンタクトレンズを開示している。このコンタクトレンズはTRISを含んでいるため、硬く、装用感が悪い。
【0009】
特許文献2には、ホスホリルコリン基含有(メタ)アクリルエステルモノマーと、水酸基を有する(メタ)アクリルエステルシリコーンモノマーと、シリコーン(メタ)アクリレートとを含む組成物が開示されており、その重合体がコンタクトレンズに利用できることが記載されている。
【0010】
特許文献3および4には、一級水酸基を有するシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマーと2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とを含む組成物が開示されており、その重合体がコンタクトレンズに利用できることが記載されている。特許文献3および4では、レンズ表面の親水性および酸素透過性の点で良好な結果が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2008/061992号
【文献】特開2007-197513号公報
【文献】国際公開第2010/104000号
【文献】国際公開第2018/135421号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2~4に係るコンタクトレンズは、レンズ表面の親水性および酸素透過性の点で良好であるものの、破断伸びについては記載が無く、改善の余地があった。
【0013】
本発明の課題は、ポリプロピレン等からなる疎水性のモールドを用い、表面親水化処理を行わずに製造した場合であっても、優れた破断伸びおよび表面親水性を示し得るコンタクトレンズを提供することにある。なお、「優れた破断伸びを示す」とは、実施例で詳述する機械的強度測定において破断伸びが200%以上であることを指す。また、「優れた表面親水性を示す」とは、実施例で詳述するWBUT(water film break up time)の評価において15秒以上であることを指す。
【0014】
本発明の他の課題は、上記コンタクトレンズを得るために好適に使用できるモノマー組成物および重合体を提供することである。
【0015】
本発明の更なる課題は、上記重合体を用いてコンタクトレンズを得るための製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定のモノマー成分を特定割合で含有するモノマー組成物を使用することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明の一形態によれば、(A)下記式(1)で表されるシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマーと、(B)N-ビニルピロリドン、N-ビニル-N-メチルアセトアミドおよびN-ビニルアセトアミドからなる群から選択される1種以上のアミド基含有モノマーと、(C)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、およびジエチレングリコールモノビニルエーテルからなる群から選択される1種以上の水酸基含有モノマーと、(D)下記式(2)で表されるシロキサニル基含有(メタ)アクリレートと、(E)架橋剤とを含有する組成物であり、前記組成物中の(A)~(E)成分の合計100質量%に対して、(A)成分の含有割合が5~60質量%であり、(B)成分の含有割合が10~60質量%であり、(C)成分の含有割合が5~45質量%であり、(D)成分の含有割合が5~35質量%であり、かつ(E)成分の含有割合が0.1~15質量%である、コンタクトレンズ用モノマー組成物が提供される。
【0018】
【0019】
【0020】
式(2)中、R1は水素原子またはメチル基であり、nは10~20である。
【0021】
本発明の他の形態によれば、上記コンタクトレンズ用モノマー組成物の重合体であるコンタクトレンズ用重合体が提供される。
【0022】
本発明の更なる形態によれば、上記コンタクトレンズ用重合体の水和物を含有するコンタクトレンズ、およびその製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物は、(A)~(E)成分を必須成分として特定割合で含有する。そのため、該組成物の重合体を用いて得られる本発明のコンタクトレンズは優れた表面親水性および破断伸びを示し得る。本発明では、ポリプロピレン等からなる疎水性のモールドを用い、表面親水化処理を行わずにコンタクトレンズを製造した場合であっても、該コンタクトレンズが上記優れた特性を示し得る。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物は、必須成分として後述する(A)~(E)成分を含有し、さらに任意成分として後述する(F)~(G)成分のうち1種以上を含有し得る、均一な液体である。本発明のコンタクトレンズ用重合体はこのコンタクトレンズ用モノマー組成物の重合体からなり、本発明のコンタクトレンズは当該コンタクトレンズ用重合体の水和物を含有する。以下、本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物を単に組成物と称する。また、本発明のコンタクトレンズ用重合体を単に重合体と称する。
【0025】
(A)成分:シロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマー
(A)成分は、下記式(1)で表されるシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマーである。(A)成分はコンタクトレンズの酸素透過性および透明性の向上に寄与する。
【0026】
【0027】
式(1)で表されるモノマーを調製する過程で、下記式(1’)で表される構造異性体が少量副生する場合がある。本発明では、式(1)のモノマーと、少量の式(1’)のモノマーとの混合物を、(A)成分として使用してもよい。すなわち、本発明において、「式(1)で表されるシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマー」は、式(1)のモノマー単独だけではなく、式(1)のモノマー以外に式(1’)の異性体が一部含まれるものも包含する。
【0028】
【0029】
本発明の組成物において、(A)~(E)成分の合計を100質量%としたとき、(A)成分の含有割合は5~60質量%であり、好ましくは10~50質量%である。(A)成分の含有割合が5質量%未満であると、製造されるコンタクトレンズが白濁する懸念がある。一方、60質量%を超えると、コンタクトレンズの表面親水性が不十分となる場合がある。
【0030】
(B)成分:アミド基含有モノマー
(B)成分は、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、およびN-ビニルアセトアミドからなる群から選択される1種以上のアミド基含有モノマーである。(B)成分を所定量含有することで、コンタクトレンズの表面親水性を良好にし、コンタクトレンズの破断伸びを良好にすることができる。
【0031】
本発明の組成物において、(A)~(E)成分の合計を100質量%としたとき、(B)成分の含有割合は10~60質量%であり、好ましくは20~50質量%である。(B)成分の含有割合が10質量%未満であると、製造されるコンタクトレンズの表面親水性が不十分となる場合がある。一方、60質量%を超えると、破断伸びの悪化やコンタクトレンズが白濁する懸念がある。
【0032】
(C)成分:水酸基含有モノマー
(C)成分は、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、およびジエチレングリコールモノビニルエーテルからなる群から選択される1種以上の水酸基含有モノマーである。(C)成分を所定量含有することにより、コンタクトレンズの表面親水性が良好になる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル」は「アクリルおよび/またはメタクリル」を意味する。
【0033】
(C)成分の具体例としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラメチレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられる。(C)成分は、これらのモノマーのいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0034】
本発明の組成物において、(A)~(E)成分の合計を100質量%としたとき、(C)成分の含有割合は5~45質量%であり、好ましくは10~40質量%である。(C)成分の含有割合が5質量%未満であると、コンタクトレンズの表面親水性および機械的強度が不十分となる場合がある。一方、45質量%を超えると、モジュラスが高くなり装用感が悪くなる懸念がある。
【0035】
本発明の組成物において、(B)成分と(C)成分の質量比[(C)成分/(B)成分]は、好ましくは0.1~3であり、より好ましくは0.1~2である。当該質量比を0.1以上とすることで、製造されるコンタクトレンズが白濁することを防ぐことができる。また、3以下とすることで、機械的強度と破断伸びの悪化を防ぐことができる。
【0036】
(D)成分:シロキサニル基含有(メタ)アクリレート
(D)成分は、下記式(2)で表されるシロキサニル基含有(メタ)アクリレートである。(D)成分はコンタクトレンズの機械的強度の調節に寄与する。(D)成分は特開2014-031338号が開示している方法等によって調製でき、また市販品であってもよい。
【0037】
【0038】
式(2)中、R1は水素原子またはメチル基である。nはジメチルシロキサン部の繰り返し数を表し、10~20である。
【0039】
(D)成分は繰り返し数nが異なる複数の化合物の混合物であってよい。この場合、nは数平均分子量における平均値であり、10~20の範囲内である。nが10未満では酸素透過性が低下するため好ましくない。またnが20よりも大きい場合、コンタクトレンズの表面親水性や機械的強度が低下するため好ましくない。
【0040】
本発明の組成物において、(A)~(E)成分の合計を100質量%としたとき、(D)成分の含有割合は5~35質量%であり、好ましくは5~30質量%である。(D)成分の含有割合が5質量%未満であると、コンタクトレンズの機械的強度が大きくなりすぎ、装用感が優れない懸念がある。一方、35質量%を超えると、コンタクトレンズの表面親水性や機械的強度が不十分となる場合がある。
【0041】
(E)成分:架橋剤
(E)成分は、2つ以上の重合性不飽和基を有し、(A)~(D)成分のモノマーを架橋することが可能な架橋剤である。本発明の組成物は所定量の(E)成分を含有するため、本発明の重合体は架橋構造を有し、そのため本発明のコンタクトレンズは優れた耐溶剤性を示す。
【0042】
(E)成分の具体例としては、下記式(3)で表されるシリコーンジメタクリレート、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、メチレンビスアクリルアミド、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(アルキレンの炭素数2~6)、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(アルキレンの炭素数2~4)、ジビニルスルホン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アリルメタクリレート、(2-アリルオキシ)エチルメタクリレート、2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。これらのうち、式(3)で表されるシリコーンジメタクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル、およびテトラエチレングリコールジ(メタ)クリレートが特に好ましい。(E)成分は、これら架橋剤のいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0043】
【0044】
式(3)中、pおよびrは同じであり0または1である。qはジメチルシロキサン部の繰り返し数を表し、10~70である。式(3)で表されるシリコーンジメタクリレートは繰り返し数qが異なる複数の化合物の混合物であってよい。この場合、qは数平均分子量における平均値であり、入手性の面から10~70の範囲内である。
【0045】
本発明の組成物において、(A)~(E)成分の合計を100質量%としたとき、(E)成分の含有割合は0.1~15質量%であり、好ましくは0.1~10質量%である。(E)成分の含有割合が0.1質量%未満であると、重合体の耐溶媒性が低下し、重合体の洗浄時に破損するおそれがある。一方、15質量%を超えると、コンタクトレンズが脆く破損が生じる懸念があり、また機械的強度が高くなりすぎて装用感が悪化する場合がある。
【0046】
(F)成分:(A)~(E)成分以外のモノマー
(F)成分は、(A)~(E)成分以外のモノマーである。(F)成分は任意成分であり、コンタクトレンズの含水率の調整等を目的として使用される。
【0047】
(F)成分の具体例としては、(メタ)アクリル酸、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキルメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、および(2-メタクリロイルオキシエチル)ホスホリルコリン等が挙げられる。(F)成分はこれらモノマーのいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。すなわち、(F)成分はこれらのモノマー群から選択される1種以上のモノマーであってよい。
【0048】
本発明の組成物が(F)成分を含有する場合、(A)~(E)成分の合計量100質量部に対して、(F)成分の含有割合は30質量部以下である。30質量部以下であれば、(A)成分の組成物中への溶解性が良好であり、またコンタクトレンズの破断伸びを一定以上に保持させ易くなる。
【0049】
(G)成分:水酸基を有する溶剤
(G)成分は水酸基を有する溶剤である。(G)成分はアルコール類またはカルボン酸類であってよく、具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、tert-アミルアルコール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、1-デカノール、1-ドデカノール、グリコール酸、乳酸、酢酸等が挙げられる。(G)成分はこれら溶剤のいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。入手性およびpH安定性の点において、(G)成分はエタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、および1-ヘキサノールから選ばれる1種以上であるのが好ましい。
【0050】
本発明の組成物が(G)成分を含有する場合、組成物中の(A)~(E)成分の合計を100質量部としたとき、(G)成分の含有割合は好ましくは30質量部以下であり、より好ましくは20質量部以下である。30質量部以下であれば、コンタクトレンズの機械的強度および形状をバランスよく保持できる。
【0051】
本発明の組成物は、上記(A)~(G)成分に加え、本発明の目的を阻害しない範囲で、紫外線吸収剤や色素等のコンタクトレンズに使用される成分を配合することができる。通常、組成物中の他成分の含有割合は、コンタクトレンズの厚さ等によるが、組成物中の(A)~(E)成分の合計量100質量部に対して、各々5質量部以下が好ましく、0.02~3質量部がより好ましい。5質量部を超えると、コンタクトレンズの機械的強度や安全性が低下する場合がある。
【0052】
本発明の組成物は、例えば、各成分を任意の順または一括して撹拌(混合)装置に投入し、10℃~50℃の温度で、均一になるまで撹拌(混合)することにより製造できる。
【0053】
本発明の重合体は上記本発明の組成物の重合体からなる。以下、本発明の重合体の製造方法について説明する。以下に示す製造方法は該重合体を得る方法の一実施形態にすぎず、本発明の重合体は当該製造方法によって得られるものに限定されない。
【0054】
本発明の組成物をモールドに充填して重合反応を行うことにより、本発明の重合体を製造できる。該モールドとしては、ポリプロピレン等からなる疎水性表面を有するモールドが好ましい。重合反応を行う際には組成物に重合開始剤を添加することが好ましい。この場合、熱重合や光重合等によって重合を効率的に行うことができる。
【0055】
重合開始剤は公知のものであってよく、好ましくは光重合開始剤である。光重合開始剤を用いることで光重合を効果的に行うことができ、生産性等を高めることができる。組成物に光重合開始剤を添加し、後述の方法によって光重合することが特に好ましい。
【0056】
光重合開始剤の具体例としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド(DMBAPO)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド(イルガキュア(Irgacure)819)、2,4,6-トリメチルベンジルジフェニルホスフィン・オキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾインメチルエステル、カンファーキノン、エチル-4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾエート等が挙げられる。また市場において入手可能な光重合開始剤として、イルガキュア819(I-819)、イルガキュア1700、イルガキュア1800、イルガキュア819、イルガキュア1850、ダロキュア(Darocur)1173(D-1173)、ダロキュア2959等が挙げられる。本発明の組成物はこのような重合開始剤を単独で含有してもよく、2種類以上を含有していてもよい。
【0057】
添加する重合開始剤の量は、本発明の組成物中の(A)~(E)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部であり、より好ましくは0.1~2質量部である。0.1~3質量部であれば、重合率が高く、満足する物性のコンタクトレンズを得ることができる。
【0058】
重合反応は、組成物に可視光またはUV光を所定時間照射することにより行うことができる。
【0059】
重合反応は大気中で行ってもよいが、モノマーの重合率を向上させる目的で、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。不活性ガス雰囲気中で重合する場合、重合系内の圧力は1kgf/cm2以下とするのが好ましい。
【0060】
重合後、モールドの変形により、重合体を乾燥状態で取り出すことができる。また、重合体をモールドと共に溶媒(例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、これらの混合物等)中に浸漬し、重合体のみを膨潤させ、自然にモールドから脱離させてもよい。溶媒を使用せず、重合体を乾燥状態で取り出すことが好ましい。
【0061】
本発明のコンタクトレンズは、上記重合体の水和物を含有するシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズである。すなわち、本発明の重合体を水和し、ヒドロゲル状とすることで、本発明のコンタクトレンズが得られる。
【0062】
次に、本発明のコンタクトレンズの製造方法について説明する。以下に示す製造方法は本発明のコンタクトレンズを得る方法の一実施形態にすぎず、本発明のコンタクトレンズは当該製造方法によって得られるものに限定されない。
【0063】
上記重合反応の後、重合体は、未反応のモノマー成分(未反応物)、各成分の残渣、副生成物、残存した溶剤等との混合物の状態にある場合がある。このような混合物をそのまま水和処理に供することも可能であるが、水和処理の前に重合体を溶媒で洗浄することが好ましい。
【0064】
洗浄に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、これらの混合物等が挙げられる。洗浄は、例えば、10℃~40℃の温度で、重合体をアルコール溶媒に10分間~5時間浸漬して実施できる。また、アルコール洗浄後、アルコール濃度20~50質量%の含水アルコールに10分間~5時間浸漬して洗浄し、さらに水で洗浄してもよい。水としては、純水、イオン交換水等が好ましい。
【0065】
洗浄した重合体を生理食塩水に浸漬し、所定の含水率となるように水和させることによって、本発明のコンタクトレンズが得られる。生理食塩水は、ホウ酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等であってよい。また、生理食塩水を含有するソフトコンタクトレンズ用保存液に浸漬してもよい。
【0066】
本発明のコンタクトレンズは、表面親水性および酸素透過性が高く、脂質等の汚れが付着しにくく、また付着した場合も洗浄除去が容易であり、かつ機械的強度が適当であり装用感に優れているので、通常の使用形態で1ヶ月程度使用することができる。即ち、本発明のコンタクトレンズの交換頻度は最長1ヶ月であってよい。当然ながら、それより短期間で交換してもよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例および比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。まず、実施例および比較例で用いた各成分を以下に示す。
【0068】
(A)成分:シロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマー
・ETS:イタコン酸モノエチレングリコールエステルと3-ヨードプロピル[トリス(トリメチルシロキシ)]シランとのエステル化反応物である式(1)の化合物
【0069】
(B)成分:アミド基含有モノマー
・NVP:N-ビニルピロリドン
・MVA:N-ビニル-N-メチルアセトアミド
・VA:N-ビニルアセトアミド
【0070】
(C)成分:水酸基含有モノマー
・HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
・HEAA:N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド
・HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
・HPMA:2-ヒドロキシプロピルメタクリレート
・HBMA:2-ヒドロキシブチルメタクリレート
・EMVE:エチレングリコールモノビニルエーテル
・DEMVE:ジエチレングリコールモノビニルエーテル
【0071】
(D)成分:シロキサニル基含有メタクリレート
・FM-0711:式(2)で表される化合物(R1=メチル基、n=約11、数平均分子量Mn=約1,000)
【0072】
(E)成分:架橋剤
・TEGDV:トリエチレングリコールジビニルエーテル
・TEGDMA:テトラエチレングリコールジメタクリレート
・FM-7711:式(3)で表される化合物(p=r=0、数平均分子量Mn=約1,000)
【0073】
(F)成分:(A)~(E)成分以外のモノマー
・MMA:メチルメタクリレート
【0074】
(G)成分:溶剤
・NPA:1-プロパノール
・HeOH:1-ヘキサノール
【0075】
重合開始剤
・I-819:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド
・D-1173:2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン
【0076】
実施例および比較例の組成物、重合体、およびコンタクトレンズ(モデルコンタクトレンズ)について、以下の項目を評価した。
【0077】
[組成物の均一性および透明性]
組成物を無色透明な容器へ入れ、目視により以下の基準で評価した。
○:均一透明
×:白濁または沈殿あり
【0078】
[重合体の形態]
重合体の形態を目視により以下の基準で評価した。
○:固体
×:液体(粘調液体含む)
【0079】
[重合体の透明性]
重合体の透明性を目視により以下の基準で評価した。
○:透明
△:微濁
×:白濁
【0080】
[コンタクトレンズの透明性]
重合体を精製した後、ISO-18369-3に記載の生理食塩水中に浸漬し、膨潤させて得られるヒドロゲルをコンタクトレンズ(モデルコンタクトレンズ)とし、目視により以下の基準で評価した。
○:透明
△:微濁
×:白濁
【0081】
[コンタクトレンズの機械的強度および破断伸び]
山電社製BAS-3305(W)破断強度解析装置を用い、JIS-K7127に従ってモデルコンタクトレンズのモジュラス[MPa]を測定し、機械的強度を評価した。詳しくは、モデルコンタクトレンズを幅2mmに切断した測定試料を使用し、200gfのロードセルを用い、クランプ間6mmとして1mm/秒の速度で引張り、初期の応力からモジュラスを測定した。モジュラスが0.2MPa以上1.0MPa未満の場合、機械的強度が良好と判定した。また、測定試料が破断するまでの距離を測定し、サンプル長6mmに対する伸び率を破断伸び[%]とした。破断伸びが200%以上の場合を破断伸びが良好と判断した。
【0082】
[コンタクトレンズの表面親水性(WBUT)]
コンタクトレンズの表面親水性を、WBUT(water film break up time)により評価した。詳しくは、ISO生理食塩水中にコンタクトレンズを一晩浸漬し、ピンセットで外周部をつまんで水面から引き上げ、水面から引き上げた時からレンズ表面の水膜が切れるまでの時間(水膜保持時間)を測定した。水膜が切れた状態は目視により判定した。この測定を3回行い、その平均値を求め、以下の基準で評価した。
◎:20秒以上
○:15秒以上20秒未満
△:5秒以上15秒未満
×:0秒以上5秒未満
【0083】
[コンタクトレンズの含水率]
ISO-18369-4に記載の方法で含水率を測定した。
【0084】
[実施例1]
1.96g(19.6質量%)のETS、2.45g(24.5質量%)のNVP、2.45g(24.5質量%)のHEMA、0.98g(9.8質量%)のEMVE、1.96g(19.6質量%)のFM-0711、0.10g(1.0質量%)のTEGDV、0.10g(1.0質量%)のTEGDMA、0.98g(9.8質量部)のMMA、および0.98g(9.8質量部)のHeOHを混合し、均一溶解して組成物を得た。この組成物について上記評価を行った。各成分の含有割合および評価結果を表1に示す。
【0085】
上記組成物に0.12g(1.2質量部)のI-819を添加し、厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとして2枚のポリプロピレン板の間に挟みこんだ25mm×70mm×0.2mmのセル内に流し込み、UV照射装置(CCS株式会社製)内に置いた。UV照射装置内で405nm、1.5mW/cm2のUV光を40分間照射して、組成物を重合させて重合体を得た。重合体をセルから取り出し、上記評価を行った。重合条件および評価結果を表1に示す。
【0086】
上記重合体を40gの2-プロパノールに4時間浸漬した後、50gのイオン交換水に4時間浸漬して未反応物等を除去して精製した。精製後の重合体をISO-18369-3に記載の生理食塩水中に浸漬し、膨潤(水和)させて水和物を調製した。この水和物を各評価試験に適した形状に加工してコンタクトレンズのサンプルを得た。各評価の結果を表1に示す。評価結果から、実施例1のコンタクトレンズは良好な破断伸びおよび高い表面親水性を有することを確認した。
【0087】
[実施例2~4]
各成分の含有割合を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様に、実施例2~4の組成物、重合体、およびコンタクトレンズを調製し、各評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0088】
[実施例5~9]
各成分の含有割合、重合開始剤、およびUV照射の波長を表2に示したように変更したこと以外は実施例1と同様に、実施例5~9の組成物、重合体、およびコンタクトレンズを調製し、各評価試験を行った。結果を表2に示す。評価結果から、実施例5~9のコンタクトレンズは良好な破断伸びおよび高い表面親水性を有することを確認した。
【0089】
[比較例1~4]
比較例1および2は各成分の含有割合を表3に示すように変更し、比較例3および4は各成分の含有割合および重合開始剤を表3に示すように変更したこと以外は実施例1と同様に、比較例1~4の組成物、重合体、およびコンタクトレンズを調製し、各評価試験を行った。結果を表3に示す。
【0090】
表3から明確なように、比較例1~3はコンタクトレンズの表面親水性が各実施例と比較して極端に劣っていた。また、比較例1および2はコンタクトレンズの透明性に劣り、さらに比較例2は破断伸びが非常に劣っていた。比較例4は、コンタクトレンズの透明性および破断伸びの点で、各実施例と比較して極端に劣っていた。
【0091】
【0092】
【0093】