(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】車体構造部材及び車体構造部材の設計方法
(51)【国際特許分類】
B62D 25/00 20060101AFI20230314BHJP
B62D 21/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
B62D25/00
B62D21/00 Z
(21)【出願番号】P 2022501957
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006055
(87)【国際公開番号】W WO2021166988
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2020025171
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雅彦
【審査官】川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-98951(JP,A)
【文献】国際公開第2018/174082(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/61631(WO,A1)
【文献】特開2020-152257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00 - 25/08
B62D 25/14 - 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延在する車体構造部材であって、
前記長手方向の少なくとも一部において、前記長手方向に垂直な断面が、
複数の湾曲部のうち単位mmでの最大の曲率半径R1を有する最大曲率半径湾曲部と、
前記最大曲率半径湾曲部に連なり、かつ、前記最大曲率半径湾曲部と連なった端部とは反対側の端部が、曲率円の中心が前記断面の図心とは前記断面に対して同じ側にある前記湾曲部に連なる平面部のうち、単位mmでの最も長い断面長さb
fを有する基準平面部と、
前記最大曲率半径湾曲部の単位mmでの曲率半径R1の50%以下である曲率半径R2を有する小曲率半径湾曲部と、
を有し、
前記小曲率半径湾曲部は、前記断面の形状の図心を通るとともに前記基準平面部と平行な直線である基準線を間に挟んで前記基準平面部とは反対側に配置され、
下記(1)式~(3)式を満たす
ことを特徴とする車体構造部材。
【数1】
【数2】
【数3】
ただし、
σcr:前記基準平面部の単位MPaでの弾性座屈応力
σy:前記基準平面部の単位MPaでの降伏応力
k:座屈応力係数
E:前記基準平面部を形成する部分の単位MPaでのヤング率
t:前記基準平面部を形成する部分の単位mmでの板厚
ν:前記基準平面部を形成する部分のポアソン比
b
f:前記基準平面部の単位mmでの断面長さ
R1:前記最大曲率半径湾曲部の単位mmでの曲率半径
b:断面内の前記基準線に沿った方向における前記断面の単位mmでの最大外形寸法
である。
【請求項2】
前記基準平面部が、外部からの荷重が負荷される荷重受面である
事を特徴とする請求項1に記載の車体構造部材。
【請求項3】
前記断面が、前記長手方向の全長の50%以上に存在する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車体構造部材。
【請求項4】
下記(4)式を更に満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の車体構造部材。
【数4】
【請求項5】
前記基準平面部の引張強度が1180MPa以上である
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の車体構造部材。
【請求項6】
前記曲率半径R1が15mm以上である
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の車体構造部材。
【請求項7】
前記基準平面部の板厚が0.4~1.6mmである
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の車体構造部材。
【請求項8】
長手方向に延在するとともに、前記長手方向の少なくとも一部において、前記長手方向に垂直な断面が、複数の湾曲部のうち単位mmでの最大の曲率半径R1を有する最大曲率半径湾曲部と、前記最大曲率半径湾曲部に連なり、かつ、前記最大曲率半径湾曲部と連なった端部とは反対側の端部が、曲率円の中心が前記断面の図心とは前記断面に対して同じ側にある前記湾曲部に連なる平面部のうち、で最も長い単位mmでの断面長さb
fを有する基準平面部と、前記最大曲率半径湾曲部の単位mmでの曲率半径R1の50%以下である曲率半径R2を有する小曲率半径湾曲部と、を有し、前記小曲率半径湾曲部は、前記断面の形状の図心を通るとともに前記基準平面部と平行な直線である基準線を間に挟んで前記基準平面部とは反対側に配置される車体構造部材の設計方法であって、下記(1)式~(3)式を満たすように、前記車体構造部材を設計する
ことを特徴とする車体構造部材の設計方法。
【数5】
【数6】
【数7】
ただし、
σcr:前記基準平面部の単位MPaでの弾性座屈応力
σy:前記基準平面部の単位MPaでの降伏応力
k:座屈応力係数
E:前記基準平面部を形成する部分の単位MPaでのヤング率
t:前記基準平面部を形成する部分の単位mmでの板厚
ν:前記基準平面部を形成する部分のポアソン比
b
f:前記基準平面部の単位mmでの断面長さ
R1:前記最大曲率半径湾曲部の単位mmでの曲率半径
b:断面内の前記基準線に沿った方向における前記断面の単位mmでのでの最大外形寸法
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車体構造部材及び車体構造部材の設計方法に関する。本願は、2020年2月18日に、日本に出願された特願2020-025171号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体構造部材として、鋼板を材料として形成され所定の断面形状を有する中空部材が用いられている。これらの車体構造部材は、軽量化を実現するとともに、衝突等による衝撃が加えられた際に十分な耐荷重を有することが求められる。このため、近年、高い強度を有する高張力鋼板が材料として使用されることがある。
【0003】
下記の特許文献1には、軸方向圧縮曲げ変形を被る車体構造用部材において、軸方向圧縮曲げ強度が高い部材を実現するため、圧縮変形を受ける面を外側に凸に湾曲させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の技術は、部材の断面形状のうち、圧縮変形を受ける面の形状を外側に凸に湾曲させるのみであり、湾曲面に連続する平面も含めた断面形状が部材全体の曲げ耐力に与える影響を考慮していない。また、車体構造用部材に使用する材料の薄肉化及び高強度化は、当該部材の弾性座屈応力を低下させうる。このため、曲げ荷重を受ける部位、特に平面部において、材料の降伏応力に到達する前に弾性座屈が生じるおそれがあり、これにより曲げ耐力が低下するおそれがある。しかし、上記特許文献1に記載の技術を含め、従来の技術は、このような観点から部材の断面形状を設定するものではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、高い曲げ耐力を確保可能な、新規かつ改良された車体構造部材及びその設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の具体的態様は以下のとおりである。
(1)本開示の第一の態様は、長手方向に延在する車体構造部材であって、前記長手方向の少なくとも一部において、前記長手方向に垂直な断面が、複数の湾曲部のうち単位mmでの最大の曲率半径R1を有する最大曲率半径湾曲部と、前記最大曲率半径湾曲部に連なり、かつ、前記最大曲率半径湾曲部と連なった端部とは反対側の端部が、曲率円の中心が前記断面の図心とは前記断面に対して同じ側にある前記湾曲部に連なる平面部のうち、最も長い単位mmでの断面長さb
fを有する基準平面部と、前記最大曲率半径湾曲部の単位mmでの曲率半径R1の50%以下である曲率半径R2を有する小曲率半径湾曲部と、を有し、前記小曲率半径湾曲部は、前記断面の形状の図心を通るとともに前記基準平面部と平行な直線である基準線を間に挟んで前記基準平面部とは反対側に配置され、下記(1)式~(3)式を満たす車体構造部材である。
【数1】
【数2】
【数3】
ただし、
σcr:前記基準平面部の単位MPaでの弾性座屈応力
σy:前記基準平面部の単位MPaでの降伏応力
k:座屈応力係数
E:前記基準平面部を形成する部分の単位MPaでのヤング率
t:前記基準平面部を形成する部分の単位mmでの板厚
ν:前記基準平面部を形成する部分のポアソン比
b
f:前記基準平面部の単位mmでの断面長さ
R1:前記最大曲率半径湾曲部の単位mmでの曲率半径
b:断面内の前記基準線に沿った方向における前記断面の単位mmでの最大外形寸法
である。
(2)上記(1)に記載の車体構造部材では、前記断面が、前記長手方向の全長の50%以上に存在してもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の車体構造部材では、下記(4)式を更に満たしてもよい。
【数4】
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の車体構造部材では、前記基準平面部の引張強度が1180MPa以上であってもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の車体構造部材では、前記曲率半径R1が15mm以上であってもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の車体構造部材では、前記基準平面部の厚さが0.4~1.6mmであってもよい。
【0008】
(7)本開示の第二の態様は、長手方向に延在する車体構造部材であって、前記長手方向の少なくとも一部において、前記長手方向に垂直な断面が、複数の湾曲部のうち単位mmでの最大の曲率半径R1を有する最大曲率半径湾曲部と、前記最大曲率半径湾曲部に連なり、かつ、前記最大曲率半径湾曲部と連なった端部とは反対側の端部が、曲率円の中心が前記断面の図心とは前記断面に対して同じ側にある前記湾曲部に連なる平面部のうち、最も長い単位mmでの断面長さb
fを有する基準平面部と、前記最大曲率半径湾曲部の単位mmでの曲率半径R1の50%以下である曲率半径R2を有する小曲率半径湾曲部と、を有し、前記小曲率半径湾曲部は、前記断面の形状の図心を通るとともに前記基準平面部と平行な直線である基準線を間に挟んで前記基準平面部とは反対側に配置される車体構造部材の設計方法であって、下記(1)式~(3)式を満たすように、前記車体構造部材を設計する車体構造部材の設計方法である。
【数5】
【数6】
【数7】
ただし、
σcr:前記基準平面部の単位MPaでの弾性座屈応力
σy:前記基準平面部の単位MPaでの降伏応力
k:座屈応力係数
E:前記基準平面部を形成する部分の単位MPaでのヤング率
t:前記基準平面部を形成する部分の単位mmでの板厚
ν:前記基準平面部を形成する部分のポアソン比
b
f:前記基準平面部の単位mmでの断面長さ
R1:前記最大曲率半径湾曲部の単位mmでの曲率半径
b:断面内の前記基準線に沿った方向における前記断面の単位mmでの最大外形寸法
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い曲げ耐力を確保可能な車体構造部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本開示の一実施形態に係る構造部材1を示す斜視図である。
【
図2】変形例に係る車体構造部材1Aの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【
図3】変形例に係る車体構造部材1A’の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【
図4】変形例に係る車体構造部材1A’’の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【
図5】変形例に係る車体構造部材1Bの長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【
図6】変形例に係る車体構造部材1B’の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【
図7】構造部材が適用される一例としての自動車骨格を示す斜視図である。
【
図8】実施例に係る車体構造部材の長手方向に垂直な断面の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、第一実施形態に係る車体構造部材、及び、第二実施形態に係る車体構造部材の設計方法に基づき詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、図中の各構成要素の寸法、比率は、実際の各構成要素の寸法、比率を表すものではない。
【0012】
以下の説明において、車体構造部材の材軸方向、すなわち、軸線が延びる方向を長手方向と呼称する。また、長手方向に垂直な方向のうち、天板部の表面に沿う方向を幅方向と呼称し、長手方向と幅方向に垂直な方向を上下方向、と呼称する場合がある。
「断面長さ」とは、車体構造部材の長手方向に垂直な断面における周方向に沿った長さを意味する。
「図心」とは、車体構造部材の長手方向に垂直な断面における図心を意味する。図心から離れる方向を外側方向、図心に向かう方向を内側方向と定義する。
「平面部」とは、車体構造部材の長手方向に垂直な断面において直線状の部位、具体的には、断面の最大外形寸法よりも曲率半径が大きい部位を意味する。また、幅方向又は上下方向の同一位置に複数の直線状の部位が存在する場合、当該複数の直線状の部位をまとめて一つの平面部という。また、最大外形寸法とは、一つの平面部の延長線と、湾曲部を介して当該平面部に連なって延びた2つの平面部の各延長線との交点間の距離のうちの最も長い距離を意味する。
「湾曲部」とは、車体構造部材の長手方向に垂直な断面のうち、平面部を除く部位、すなわち、曲率半径が断面の最大外形寸法以下の部位であり、車体構造部材の外側方向又は内側方向に凸の円弧状の部位を意味する。従って、R止まりとは、平面部と湾曲部との境界を意味する。
【0013】
湾曲部の曲率半径は、以下のようにして得られる。すなわち、車体構造部材の長手方向に垂直な断面において、2つのR止まりと、表面のうち湾曲部において上記2つのR止まりの点から上記表面に沿って等距離に位置する曲げ中央点と、の3点を求める。これら3点から公知の数学的手法により曲率を求めることで、当該湾曲部の曲率半径が得られる。なお、上記表面は、板材の曲げ外側の表面である。平面部の曲率半径についても、湾曲部の曲率半径と同様の算出方法により得られる。
【0014】
(第一実施形態)
以下、本開示の第一実施形態に係る車体構造部材1(以下、構造部材1と呼称する)について説明する。
【0015】
図1Aは、本実施形態に係る構造部材1を一例として示す斜視図である。構造部材1は、車体の構造部材、言い換えると骨格部材である。車体は、例えば自動車の車体である。
構造部材1は、
図1Aに示すように、長手方向に延在する中空筒状の部材である。
【0016】
構造部材1は、鋼板などの板材に対し公知の種々の加工技術を適用することにより、形成され得る。一例として、ブランク材を、冷間又は熱間でのプレス加工により所定の形状に成形して端部を接合することで、構造部材1が形成されてもよい。
構造部材1は、後述する基準平面部13における引張強度が1180MPa以上であることが好ましく、1500MPa以上であることがより好ましい。
なお、板材としては、構造部材1に求められる衝撃吸収特性や軽量化の観点から、例えば0.4mm以上1.6mm以下の鋼板であってよい。
素材板の素材としては、鋼の他、アルミなどの金属であってもよい。
【0017】
図1Bは、構造部材1の長手方向中央部における、長手方向に垂直な断面(
図1AのA-A断面)を示す。
図1Bに示すように、構造部材1は、長手方向に垂直な断面が、四つの湾曲部14と四つの平面部12とにより閉断面を構成している。
【0018】
本願においては、長手方向に垂直な断面において、最大の曲率半径を有する湾曲部を「最大曲率半径湾曲部」として定義する。従って、本実施形態に係る構造部材1においては、
図1Bに示す四つの湾曲部14のうち、単位mmでの最大の曲率半径R1を有する湾曲部が最大曲率半径湾曲部11である。
最大曲率半径湾曲部11は、平面部12に比べ圧縮応力により引き起こされる面外変形に対して高い剛性を有していることにより、曲げ荷重に対して高い剛性を有し、弾性座屈しにくい部位である。曲げ耐力を高めるために、曲率半径R1は最大外形寸法bの1/4以上であることが好ましい。曲率半径R1は、15mm以上であってもよい。
一方、曲率半径R1が大きすぎると、断面係数が低下し、優れた曲げ耐力を得ることができない。よって、曲率半径R1は、最大外形寸法bの1/2以下であることが好ましい。
【0019】
また、本願においては、最大曲率半径湾曲部の両端のR止まりにそれぞれ連なり、かつ、前記最大曲率半径湾曲部と連なった端部とは反対側の端部が、曲率円の中心が前記断面の図心とは前記断面に対して同じ側にある前記湾曲部に連なる平面部のうち、断面長さが大きい方の平面部を「基準平面部」として定義する。本実施形態に係る構造部材1においては、二つの平面部12において、R止まりQ1に連なる平面部12の断面長さは、R止まりQ2に連なる平面部12の断面長さよりも長い。従って、本実施形態に係る構造部材1においては、
図1Bに示すR止まりQ1、Q2にそれぞれ連なる二つの平面部のうち、R止まりQ1に連なる平面部12が基準平面部13である。基準平面部13は、最大曲率半径湾曲部11に連なる二つの平面部12のうち、曲げ荷重による弾性座屈が発生しやすい方の平面部である。従って、基準平面部13の断面長さb
fが小さいほど、基準平面部13の近傍での弾性座屈を抑制することができる。従って、曲げ耐力を向上するために、基準平面部13の断面長さb
fは、板厚1.0mm超1.6mm以下のとき45mm以下、板厚0.8mm超1.0mm以下のとき28.1mm以下、板厚0.8mm以下のとき22.5mm以下であることが好ましい。
一方、基準平面部13の断面長さb
fが小さすぎると、構造部材1の全体の断面長さ(全周長さ)を確保することができないため、断面係数が低下する。構造部材1の全体としての曲げ耐力を確保するために、基準平面部13の断面長さb
fは5mm以上であることが好ましい。基準平面部13の断面長さb
fは、板厚1.0mm超1.6mm以下のとき22.5mm以下、板厚0.8mm超1.0mm以下のとき14.1mm以下、板厚0.8mm以下のとき11.3mm以下であることが好ましい。
【0020】
図1Bに示す基準線Lは、断面形状の図心Pを通るとともに、基準平面部13に平行な直線である。本実施形態に係る構造部材1においては、基準線Lを間に挟んで基準平面部13とは反対側に、最大曲率半径湾曲部11の曲率半径R1(mm)の50%以下である曲率半径R2(mm)を有する二つの小曲率半径湾曲部15が配置されている。小曲率半径湾曲部15は、最大曲率半径湾曲部11と比べ、2つのR止まりのうちの基準線Lから近い方のR止まりまでの距離が大きく、曲げ剛性への寄与度が大きい部位である。構造部材1が、基準平面部13が曲げ内側となるような曲げ荷重を受けた際には、基準線Lを基準として基準平面部13が存在する領域が圧縮側、その反対側の領域が引張側となる曲げ応力が発生する。なお、曲げ内側となるような曲げ荷重を受ける基準平面部13を荷重受面と呼称する。
また、小曲率半径湾曲部15は、最大曲率半径湾曲部11の単位mmでの曲率半径R1の50%以下である曲率半径R2を有することにより、圧縮側の弾性座屈を抑制しつつ、断面全体としては高い曲げ剛性を確保することができる。
従って、本実施形態に係る構造部材1は、衝突等により曲げ荷重の入力が想定される部位に基準平面部13を設けることにより、優れた曲げ耐力を発揮することが可能となる。
【0021】
上述のように、本実施形態に係る構造部材1は、最大曲率半径湾曲部11と小曲率半径湾曲部15とを有することにより、高い曲げ耐力を確保することが可能となる。小曲率半径湾曲部15は、基準線Lを間に挟んで基準平面部13とは反対側で、基準線Lからの距離が長いほど曲げ耐力が大きくなる。
ここで、構造部材1は、下記(1)式と(2)式を満たす場合に、高い曲げ耐力を確保可能となる。
【0022】
【数8】
【数9】
ただし、
σcr:基準平面部13の単位MPaでの弾性座屈応力
σy:基準平面部13の単位MPaでの降伏応力
k:座屈応力係数
E:基準平面部13を形成する部分の単位MPaでのヤング率
t:基準平面部13を形成する部分の単位mmでの板厚
ν:基準平面部13を形成する部分のポアソン比
b
f:基準平面部13の単位mmでの断面長さ
である。
【0023】
(2)式は、基準平面部13の弾性座屈応力σcrを示すものである。従って、(1)式を満足することにより、言い換えると基準平面部13の弾性座屈応力σcrが降伏応力σyよりも大きいことにより、基準平面部13の弾性座屈を発生させることなく材料の強度特性を合理的に活用でき、高い曲げ耐力を確保できると言える。
(2)式は、基準平面部13のヤング率E、板厚t、及び、ポアソン比νが大きいほど、また、基準平面部13の断面長さbfが小さいほど基準平面部13の弾性座屈応力σcrが大きくなるとの関係性を本発明者が新たに見出し、導出した計算式である。
ここで、座屈応力係数kは、平板の座屈の微分方程式と、それを満たす撓み形により求まる固有値から定まる値であり、下記の(3)式で求められる。
【0024】
【数10】
ただし、
R1:最大曲率半径湾曲部11の単位mmでの曲率半径
b:断面内の基準線Lに沿った方向における前記断面の単位mmでの最大外形寸法
である。
【0025】
仮に、最大曲率半径湾曲部の曲率半径が0mm(R1=0)である断面を想定した場合には、最大曲率半径湾曲部の定義上、当該断面におけるその他の湾曲部の曲率半径も0mmとなる。従って、基準平面部は、曲率半径が0mmである稜線で挟まれることになるため、基準平面部の拘束条件は回転自由且つ並進固定の拘束条件下にあると仮定できる。この場合、座屈応力係数は4.0となる。
しかし、本実施形態に係る構造部材1のように、軸方向圧縮耐力を向上させるために最大曲率半径湾曲部11の曲率半径R1をある程度大きく設計する場合においては、最大曲率半径湾曲部11に隣接する基準平面部13の幅方向の端部の並進は完全には固定されないことに本発明者は着目した。そして、本発明者は、基準平面部13の真の座屈応力係数kを4.0よりも低く設定することで、より正確な弾性座屈応力σcrを算出できることを見出した。
本発明者は、この知見に基づき更に鋭意研究を進め、座屈応力係数kが、最大曲率半径湾曲部11の単位mmでの曲率半径R1、基準平面部13を形成する部位の単位mmでの板厚t、基準平面部13の単位mmでの断面長さbf、及び、断面内の基準線Lの単位mmでの長さに相関があることを見出し、(3)式を導出した。
尚、基準平面部の拘束条件が回転自由且つ並進自由であるとき、座屈応力係数は0.425となる。従って、(3)式で求められる座屈応力係数kの値が0.425を下回る場合には、kの値を0.425としてもよい。
【0026】
尚、弾性座屈をより確実に防ぐ設計とするには、弾性座屈応力σcrの90%の値が、降伏応力σyよりも大きくすることが好ましい。すなわち、構造部材1は、下記(4)式を更に満たすことが好ましい。
【数11】
【0027】
以上、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明した。ここから、
図7を参照して本開示の構造部材の適用例について説明する。
図7は、構造部材が適用される一例としての自動車骨格2を示す図である。構造部材は、キャビン骨格または衝撃吸収骨格として自動車骨格2を構成し得る。
【0028】
本開示に係る構造部材の適用例は、ルーフセンタリンフォース201、ルーフサイドレール203、Bピラー207、サイドシル209、トンネル211、Aピラーロア213、Aピラーアッパー215、キックリーンフォース227、フロアクロスメンバ229、アンダーリーンフォース231、フロントヘッダ233等が挙げられる。また、衝撃吸収骨格としての本開示に係る構造部材の適用例は、リアサイドメンバー205、エプロンアッパメンバ217、バンパリーンフォース219、クラッシュボックス221、フロントサイドメンバー223等が挙げられる。上記の他、自動車のドアの内部に設けられた補強材としてのドアインパクトビーム等に本開示に係る構造部材を適用してもよい。要は、曲げ荷重が作用しうる部位であれば、本開示の構造部材を適用可能である。
【0029】
このように構造部材1が車体の骨格部材として使用される場合、構造部材1は高い曲げ耐力を有するので、衝突時の変形を低減できる。また、変形能も向上して、骨格内部を保護することができる。
【0030】
以上、本開示の第一実施形態に係る構造部材1について説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0031】
(第一変形例)
例えば、上記の構造部材1は、長手方向に垂直な断面が筒状の閉断面の部材であったが、
図2に示す変形例に係る構造部材1Aのように、長手方向に垂直な断面が略ハット型形状の開断面の部材であってもよい。
具体的には、
図2に示すように、構造部材1Aでは、長手方向に垂直な断面が、四つの湾曲部14Aと、五つの平面部12Aとにより略ハット型の開断面を構成している。五つの平面部12Aのうち、一端が自由端となっている平面部12Aをフランジ部と呼称することがあり、湾曲部14Aを介してフランジ部と連なっている平面部12Aを縦壁部と呼称することがあり、縦壁部におけるフランジ部と連なっている端部とは反対側の端部で湾曲部14Aを介して当該縦壁部と連なっている平面部12Aを天板部と呼称することがある。
構造部材1Aの断面においては、
図2に示すように、四つの湾曲部14Aのうち単位mmでの最大の曲率半径R1を有する湾曲部14Aが最大曲率半径湾曲部11Aである。構造部材1Aでは、四つのうちの二つの湾曲部14Aの曲率半径が最大となっているが、この場合、上記二つの湾曲部14Aのうちの一つを最大曲率半径湾曲部11とみなす。
最大曲率半径湾曲部11Aの端部のR止まりQ1に連なる平面部12Aにおいて、R止まりQ1に連なる端部とは反対側の他端は、曲率円の中心が断面の図心Pとは断面に対して同じ側にある湾曲部14Aに連なっている。一方、最大曲率半径湾曲部11Aの端部のR止まりQ2に連なる平面部12Aにおいて、R止まりQ2に連なる端部とは反対側の他端は、曲率円の中心が断面の図心Pとは断面に対して反対側にある湾曲部14Aに連なっている。よって、最大曲率半径湾曲部11Aの両端のR止まりQ1、Q2にそれぞれ連なる平面部12Aのうち、断面長さが大きい方の平面部12Aが基準平面部13Aである。換言すると、基準平面部13Aは、最大曲率半径湾曲部11AのR止まりQ1に連なる平面部12Aである。また、構造部材1Aでは、基準平面部13Aが天板部である。
図2に示す基準線Lは、構造部材1Aの長手方向に垂直断面の断面形状の図心Pを通るとともに、基準平面部13Aに平行な直線である。この構造部材1Aにおいては、基準線Lを間に挟んで基準平面部13Aとは反対側に、最大曲率半径湾曲部11Aの単位mmでの曲率半径R1の50%以下である曲率半径R2を有する二つの小曲率半径湾曲部15Aが配置されている。小曲率半径湾曲部15Aは、最大曲率半径湾曲部11Aと比べ、曲げ耐力が大きい部位である。このため、構造部材1Aが曲げ荷重を受けた際には、基準線Lを基準として基準平面部13Aが存在する領域が圧縮側、その反対側の領域が引張側となる曲げ応力が発生しやすい。
また、小曲率半径湾曲部15Aは、最大曲率半径湾曲部11Aの単位mmでの曲率半径R1の50%以下である曲率半径R2を有することにより、優れた曲げ耐力を発揮する部位でもある。
従って、構造部材1Aは、衝突等により曲げ荷重の入力が想定される部位に基準平面部13Aを設けることにより、優れた曲げ耐力を発揮することが可能となる。
そして、構造部材1Aにおいても、構造部材1と同様に、上記(1)式~(3)式、好ましくは上記(1)式~(4)式を満たす場合に、高い曲げ耐力を確保可能となる。
【0032】
また、
図3に示すように、縦壁部である平面部12A’の断面長さが天板部である平面部12A’の断面長さより長い場合も、天板部である平面部12A’が基準平面部13A’である。
【0033】
また、本開示に係る構造部材は、
図4に示す変形例に係る構造部材1A’’のように、天板部となる平面部12A’’の一部が凹部16を有していてもよい。凹部16の幅方向両側に配置されている平面をまとめてここでは一つの平面部12A’’とみなす。また、凹部16を構成する湾曲部及び平面部は、本開示における湾曲部及び平面部には含めないものとする。
図4に示すように、構造部材1A’’では、長手方向に垂直な断面が、四つの湾曲部14A’’と、五つの平面部12A’’とにより開断面を構成している。このような場合も、基準平面部13A’’は、最大曲率半径湾曲部11A’’のR止まりQ1に連なる平面部12A’’である。
図4に示す基準線Lは、構造部材1A’’の長手方向に垂直断面の断面形状の図心Pを通るとともに、基準平面部13A’’に平行な直線である。構造部材1A’’においても、基準線Lを間に挟んで基準平面部13A’’とは反対側に、最大曲率半径湾曲部11A’’の単位mmでの曲率半径R1の50%以下である曲率半径R2を有する二つの小曲率半径湾曲部15A’’が配置されている。また、構造部材1A’’においても、構造部材1と同様に、上記(1)式~(3)式、好ましくは上記(1)式~(4)式を満たす場合に、高い曲げ耐力を確保可能となる。ただし、天板部に凹部16を有する構造部材1A’’では、上記(4)式における基準線Lの長さb
fを、基準平面部12A’’における最大曲率半径湾曲部11A’’に連なる平面のR止まりQ1から、凹部16における最大曲率半径湾曲部11A’’に連なる平面のR止まりQ3までの距離b
f’に置き換える。また、天板部に凹部16を有する構造部材1A’’では、上記(4)式における基準線Lに沿った方向における前記断面の単位mmでの最大外形寸法bを、基準平面部12A’’に連なる凹部16における上下方向に沿った平面部の延長線と基準平面部13A’’との延長線との交点p1から、縦壁部である平面部12A’’の延長線と基準平面部13A’’との延長との交点p2までの距離b’に置き換える。
【0034】
(第二変形例)
更には、
図5に示す変形例に係る構造部材1Bのように、フランジ部である平面部12Bに対し、鋼板100を接合してもよい。
【0035】
また、
図6に示す変形例に係る構造部材1B’のように、鋼板100の代わりに、ハット型部材100Aなどを接合してもよい。
具体的には、
図6に示すように、構造部材1B’では、長手方向に垂直な断面が、八つの湾曲部14B’と、十の平面部12B’とにより閉断面を構成している。
構造部材1B’の断面においては、
図6に示すように、八つの湾曲部14B’のうち単位mmでの最大の曲率半径R1を有する湾曲部14B’が最大曲率半径湾曲部11B’である。構造部材1B’では、八つのうちの二つの湾曲部14B’の曲率半径が最大となっているが、この場合、上記二つの湾曲部14B’のうちの一つを最大曲率半径湾曲部11B’とみなす。
最大曲率半径湾曲部11B’の端部のR止まりQ1に連なる平面部12B’において、R止まりQ1に連なる端部とは反対側の他端は、曲率円の中心が断面の図心Pとは当該断面に対して同じ側にある湾曲部14B’に連なっている。一方、最大曲率半径湾曲部11B’の端部のR止まりQ2に連なる平面部12B’において、R止まりQ2に連なる端部とは反対側の他端は、曲率円の中心が断面の図心Pとは当該断面に対して反対側にある湾曲部14B’に連なっている。よって、最大曲率半径湾曲部11B’の両端のR止まりQ1、Q2にそれぞれ連なる二つの平面部12B’のうち、他端が最大曲率半径湾曲部11B’とは反対側(内側方向)に湾曲した湾曲部14B’に連なっている平面部12B’が基準平面部13B’である。換言すると、基準平面部13B’は、最大曲率半径湾曲部11B’のR止まりQ1に連なる平面部12B’である。
図6に示す基準線Lは、構造部材1B’の長手方向に垂直断面の断面形状の図心Pを通るとともに、基準平面部13B’に平行な直線である。この構造部材1B’においては、基準線Lを間に挟んで基準平面部13B’とは反対側に、最大曲率半径湾曲部11B’の単位mmでの曲率半径R1の50%以下である曲率半径R2を有する二つの小曲率半径湾曲部15B’が配置されている。この構造部材1B’においては、小曲率半径湾曲部15B’とは、基準線Lを間に挟んで基準平面部13B’とは反対側に配された、最大曲率半径湾曲部11B’の単位mmでの曲率半径R1の50%以下である曲率半径R2を有する4つの湾曲部14B’のうち、基準線Lからの最も距離が遠い二つの湾曲部14B’のそれぞれをいう。
【0036】
第一実施形態に係る構造部材1、1A、1A’、1A’’、1B、1B’は、全長に亘り一様の断面形状を有するが、全長に亘り一様の断面形状を有さなくてもよく、(1)式~(3)式、好ましくは(1)式~(4)式を満たす断面の部位が、長手方向の全長の一部に存在していればよい。より好ましくは、(1)式~(3)式、好ましくは(1)式~(4)式を満たす断面の部位が、長手方向の全長の50%以上に存在することが好ましく、80%以上であることが更に好ましい。
第一実施形態に係る構造部材1は、一つの最大曲率半径湾曲部11を有するが、例えば、
図2~6に示すように、複数の最大曲率半径湾曲部11を有してもよい。その場合は、任意の一つを最大曲率半径湾曲部11とみなすことができる。
第一実施形態に係る構造部材1は、二つの小曲率半径湾曲部15を有するが、小曲率半径湾曲部15は少なくとも一つ有していればよい。
第一実施形態に係る構造部材1は、最大曲率半径湾曲部11に連なる二つの平面部を有するが、最大曲率半径湾曲部11に連なる平面部は一つであってもよい。すなわち、最大曲率半径湾曲部11の一方の端部は他の湾曲部に直接連なっていたり、自由端とされていたりしてもよい。その場合、最大曲率半径湾曲部11に連なる一つの平面部が基準平面部13である。
【0037】
本開示の第二の実施形態は、構造部材の設計方法である。
本実施形態に係る設計方法は、第一実施形態に係る構造部材の設計方法であって、(1)式~(3)式を満たすように、構造部材を設計する。
具体的には、(1)式~(3)式を満たすように、構造部材の断面形状や材質の変更、更には補強部材の追加などの設計変更を行うことにより、設計に要するコストを抑えることが可能となる。
【0038】
(実施例)
以下、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
【0039】
実験No.1~9の各実験では、板厚1.0mm、引張強度1180MPa、降伏応力σy943MPa、ポアソン比0.3、ヤング率206000MPaの鋼板から成形された、長さが184.0mmであり、一様断面を有する中空部材について、数値解析を行い、曲げ耐力を評価した。
実験No.1の長手方向に垂直な断面の形状は、
図8に示すように、外形(最大外形寸法)bが46.0mmであり、四つの角部の曲率半径がいずれも2.0mm(すなわち、最大の曲率半径R1=2.0mm)の略矩形の断面形状とした。
【0040】
実験No.2~7では、実験No.1の中空部材の断面形状について、外形(最大外形寸法)bは固定しつつ、四つの角部のうち、圧縮側の二つの角部についてのみ、曲率半径を5.0mm、10.0mm、11.0mm、15.0mm、18.0mm、及び20.0mmに変更して数値解析を行い、曲げ耐力を評価した。変更した角部の曲率半径が最大の曲率半径R1に対応する。また、曲率半径を変更していない角部の曲率半径がR2に対応する。よって、実験No.2~7では、R2=2.0mmである。
実験No.8では、最大の曲率半径R1を18.0mm、引張側の二つの角部の曲率半径R2を8.5mmに変更して数値解析を行った。
実験No.9では、最大の曲率半径R1を18.0mm、引張側の二つの角部の曲率半径R2を9.5mmに変更して数値解析を行った。
各実験例においては、最大外径寸法bを固定しつつ、圧縮側の二つの角部の曲率半径を変更したことに応じて、基準平面bfの長さはそれぞれ異なる値となる。
【0041】
4つの湾曲部の曲率半径が等しい実験No.1の曲げ耐力を基準とし、実験No.1の曲げ耐力よりも曲げ耐力が大きかった場合をB、その中でも曲げ耐力が最も大きくなったものはA、実験No.1の曲げ耐力よりも曲げ耐力が小さかった場合をCと評価し、AとBを合格基準とした。曲げ耐力は、以下の方法で算出した。すなわち、部材端部を回転させる純曲げ解析を実施して曲げモーメントM-たわみ角θ線図を取得し、たわみ角θが0rad.<θ<0.1rad.の範囲における曲げモーメントMの最大値を曲げ耐力とした。たわみ角θは、部材の長手方向の両端における、変形前の部材の軸線と、変形した部材の軸線との成す角の角度である。
部材を構成する要素にはシェル要素を用い、要素タイプは完全積分要素とし、板厚方向に5点の積分点を設けた。平面部の要素サイズを2.0mm×2.0mmとし、湾曲部の要素サイズを2.0mm×0.7mmとした。部材を構成する材料の物性タイプは多直線近似等方弾塑性体とし、1180MPa級鋼板の引張試験の結果から得た相当応力-相当組成ひずみ関係を定義した。この降伏応力は943MPaであった。本解析では、初期不正は無視して行われた。
【0042】
【0043】
実験No.2、3では、(1)式を満たさないことにより、基準平面部で弾性座屈が発生し、高い曲げ耐力を発現することができなかった。
一方、最大曲率半径湾曲部の曲率半径R1の値を11.0mm以上とした実験No.4~8では、(1)式を満たすことにより、弾性座屈が発生せず、基準平面部で降伏応力相当の圧縮応力を担保することができ、優れた曲げ耐力を発現することができた。
特に、最大曲率半径湾曲部の曲率半径R1の値を15.0mmとした実験No.5では、(1)式に加えて(4)式も満たすことにより、更に優れた曲げ耐力を発現することができた。
ただし、最大曲率半径湾曲部の曲率半径R1の値を18.0mm以上にまで増加させた実験No.6~8では、断面係数が減少したことにより、実験No.5ほどの曲げ耐力を発現することができなかった。
実験No.9では、最大曲率半径湾曲部の曲率半径R1に対する小曲率半径湾曲部の曲率半径R2の比であるR2/R1が50%超であったため、基準平面部で弾性座屈が発生し、高い曲げ耐力を発現することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、高い曲げ耐力を確保可能な、新規かつ改良された車体構造部材及びその設計方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
1,1A,1A’,1A’’,1B,1B’ 構造部材
11,11A,11A’’,11B,11B’ 最大曲率半径湾曲部
12,12A,12A’’,12B,12B’ 平面部
13,13A,13A’’,13B,13B’ 基準平面部
14,14A,14A’’,14B,14B’ 湾曲部
15,15A,15A’’,15B,15B’ 小曲率半径湾曲部
100 鋼板
100A ハット形鋼板