(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板、鉄心、鉄心の製造方法、モータ、およびモータの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230314BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230314BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230314BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20230314BHJP
C21D 8/12 20060101ALN20230314BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
H01F1/147 175
H01F41/02 B
C21D8/12 A
(21)【出願番号】P 2022558030
(86)(22)【出願日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2022029059
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2021126291
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 岳顕
(72)【発明者】
【氏名】田中 一郎
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/149405(WO,A1)
【文献】特開2011-236486(JP,A)
【文献】特開2020-020005(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0071213(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.005%以下、
Si:1.0%以上5.0%以下、
sol.Al:2.5%未満、
Mn:3.0%以下、
P :0.3%以下、
S :0.01%以下、
N :0.01%以下、
B :0.10%以下、
O :0.10%以下、
Mg:0.10%以下、
Ca:0.01%以下、
Ti:0.10%以下、
V :0.10%以下、
Cr:5.0%以下、
Ni:5.0%以下、
Cu:5.0%以下、
Zr:0.10%以下、
Sn:0.10%以下、
Sb:0.10%以下、
Ce:0.10%以下、
Nd:0.10%以下、
Bi:0.10%以下、
W :0.10%以下、
Mo:0.10%以下、
Nb:0.10%以下、
Y :0.10%以下、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
板厚が0.10mm以上0.35mm以下であり、
平均結晶粒径が30μm以上200μm以下であり、
下記(式1)で規定されるX1値が
0.80以上0.845未満であり、
下記(式2)で規定されるE1値が0.930以上であり、
磁束密度1.0T、周波数1kHzで励磁した際の鉄損W
10/1kが80W/kg以下である
ことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
X1=(2×B
50L+B
50C)/(3×Is) (式1)
E1=E
L/E
C (式2)
(ここで、
B
50Lは磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向の磁束密度、
B
50Cは磁化力5000A/mで磁化した際の圧延直角方向の磁束密度、
Isは室温における自発磁化、
E
Lは圧延方向のヤング率、
E
Cは圧延直角方向のヤング率である。)
【請求項2】
下記(式3)で規定されるE2値が0.900以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
E2=(E
L+E
C)/
(2×E
D
) (式3)
(ここで、E
Dは圧延方向から45°方向のヤング率である。)
【請求項3】
下記(式4)で規定されるX2値が1.040以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
X2=(B
50L+B
50C)/
(2×B
50D
) (式4)
(ここで、B
50Dは磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向から45°方向の磁束密度である。)
【請求項4】
下記(式4)で規定されるX2値が1.040以下である
ことを特徴とする請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
X2=(B
50L+B
50C)/
(2×B
50D
) (式4)
(ここで、B
50Dは磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向から45°方向の磁束密度である。)
【請求項5】
前記化学組成として、質量%で、
Si:3.25%超5.0%以下
を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記化学組成として、質量%で、
C :0.0010%以上0.005%以下、
sol.Al:0.10%以上2.5%未満、
Mn:0.0010%以上3.0%以下、
P :0.0010%以上0.3%以下、
S :0.0001%以上0.01%以下、
N :0.0015%超0.01%以下、
B :0.0001%以上0.10%以下、
O :0.0001%以上0.10%以下、
Mg:0.0001%以上0.10%以下、
Ca:0.0003%以上0.01%以下、
Ti:0.0001%以上0.10%以下、
V :0.0001%以上0.10%以下、
Cr:0.0010%以上5.0%以下、
Ni:0.0010%以上5.0%以下、
Cu:0.0010%以上5.0%以下、
Zr:0.0002%以上0.10%以下、
Sn:0.0010%以上0.10%以下、
Sb:0.0010%以上0.10%以下、
Ce:0.001%以上0.10%以下、
Nd:0.002%以上0.10%以下、
Bi:0.002%以上0.10%以下、
W :0.002%以上0.10%以下、
Mo:0.002%以上0.10%以下、
Nb:0.0001%以上0.10%以下、
Y :0.002%以上0.10%以下、
の少なくとも1種を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記化学組成として、質量%で、
Siおよびsol.Alの合計含有量が4.0%超である
ことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項8】
前記X1値が0.80以上0.830未満である
ことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれかに記載の無方向性電磁鋼板を含む鉄心。
【請求項10】
請求項1から請求項8までのいずれかに記載の無方向性電磁鋼板を打抜加工し、歪取焼鈍する工程を有する鉄心の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の鉄心を含むモータ。
【請求項12】
請求項1から請求項8までのいずれかに記載の無方向性電磁鋼板を打抜加工し、歪取焼鈍して鉄心を製造する工程および前記鉄心を組み立てる工程を有するモータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板に関する。より詳しくは、本発明は、電気自動車やハイブリッド自動車などのモータの一体打抜き型鉄心に好適な無方向性電磁鋼板、鉄心、鉄心の製造方法、モータ、およびモータの製造方法に関する。
本願は、2021年7月30日に、日本に出願された特願2021-126291号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスを削減する必要性から、工業分野では消費エネルギーの少ない製品が開発されている。例えば、自動車分野においては、ガソリンエンジンとモータとを組み合わせたハイブリッド駆動自動車、モータ駆動の電気自動車等の低燃費自動車がある。これら低燃費自動車に共通した技術はモータであり、モータの高効率化が重要な技術となっている。
【0003】
一般に、モータは、固定子(ステータ)と回転子(ロータ)とで構成される。この固定子用の鉄心としては、一体打抜き型鉄心と分割鉄心とがある。一体打抜き型鉄心用および分割鉄心用としては、圧延方向(以下、「L方向」ともいう。)および圧延直角方向(以下、「C方向」ともいう。)の磁気特性が良好な無方向性電磁鋼板が求められている。
【0004】
また、モータは、その内部構造として固定子と回転子との間の隙間が小さいほど、モータとしての性能が向上する。そのため、モータの各部材は、形状精度が高いことが要求される。例えば、一体打抜き型鉄心および分割鉄心は、両者ともに、鋼板ブランクを打抜加工することで形成される。ただ、一体打抜き型鉄心は、鋼板ブランクを中空円板状に打抜加工するため、鋼板ブランクの機械的な異方性に由来して、打抜加工後の形状精度が低下してしまうことがある。特に、磁気的な異方性が大きい鋼板ほど、機械的な異方性も大きくなるので、打抜加工後の形状精度が低下しやすい。一体打抜き型鉄心用としては、機械的な異方性が小さい無方向性電磁鋼板が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板に関する技術が開示されている。特許文献2には、分割鉄心型モータのモータ効率を向上できる無方向性電磁鋼板に関する技術が開示されている。特許文献3には、磁気特性に優れる無方向性電磁鋼板に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特許第5447167号公報
【文献】日本国特許第5716315号公報
【文献】国際公開第2013/069754号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、一体打抜き型鉄心用として、磁気特性に優れ且つ機械的な異方性が小さい無方向性電磁鋼板、鉄心、鉄心の製造方法、モータ、およびモータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
(1)本発明の一態様にかかる無方向性電磁鋼板は、
質量%で、
C :0.005%以下、
Si:1.0%以上5.0%以下、
sol.Al:2.5%未満、
Mn:3.0%以下、
P :0.3%以下、
S :0.01%以下、
N :0.01%以下、
B :0.10%以下、
O :0.10%以下、
Mg:0.10%以下、
Ca:0.01%以下、
Ti:0.10%以下、
V :0.10%以下、
Cr:5.0%以下、
Ni:5.0%以下、
Cu:5.0%以下、
Zr:0.10%以下、
Sn:0.10%以下、
Sb:0.10%以下、
Ce:0.10%以下、
Nd:0.10%以下、
Bi:0.10%以下、
W :0.10%以下、
Mo:0.10%以下、
Nb:0.10%以下、
Y :0.10%以下、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
板厚が0.10mm以上0.35mm以下であり、
平均結晶粒径が30μm以上200μm以下であり、
下記(式1)で規定されるX1値が0.80以上0.845未満であり、
下記(式2)で規定されるE1値が0.930以上であり、
磁束密度1.0T、周波数1kHzで励磁した際の鉄損W10/1kが80W/kg以下である
ことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
X1=(2×B50L+B50C)/(3×Is) (式1)
E1=EL/EC (式2)
(ここで、
B50Lは磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向の磁束密度、
B50Cは磁化力5000A/mで磁化した際の圧延直角方向の磁束密度、
Isは室温における自発磁化、
ELは圧延方向のヤング率、
ECは圧延直角方向のヤング率である。)
(2)上記(1)に記載の無方向性電磁鋼板では、
下記(式3)で規定されるE2値が0.900以上であってもよい。
E2=(EL+EC)/(2×ED
) (式3)
(ここで、EDは圧延方向から45°方向のヤング率である。)
(3)上記(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板では、
下記(式4)で規定されるX2値が1.040以下であってもよい。
X2=(B50L+B50C)/(2×B50D
) (式4)
(ここで、B50Dは磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向から45°方向の磁束密度である。)
(4)上記(1)~(3)の何れか1つに記載の無方向性電磁鋼板では、
前記化学組成として、質量%で、
Si:3.25%超5.0%以下
を含有してもよい。
(5)上記(1)~(4)の何れか1つに記載の無方向性電磁鋼板では、
前記化学組成として、質量%で、
C :0.0010%以上0.005%以下、
sol.Al:0.10%以上2.5%未満、
Mn:0.0010%以上3.0%以下、
P :0.0010%以上0.3%以下、
S :0.0001%以上0.01%以下、
N :0.0015%超0.01%以下、
B :0.0001%以上0.10%以下、
O :0.0001%以上0.10%以下、
Mg:0.0001%以上0.10%以下、
Ca:0.0003%以上0.01%以下、
Ti:0.0001%以上0.10%以下、
V :0.0001%以上0.10%以下、
Cr:0.0010%以上5.0%以下、
Ni:0.0010%以上5.0%以下、
Cu:0.0010%以上5.0%以下、
Zr:0.0002%以上0.10%以下、
Sn:0.0010%以上0.10%以下、
Sb:0.0010%以上0.10%以下、
Ce:0.001%以上0.10%以下、
Nd:0.002%以上0.10%以下、
Bi:0.002%以上0.10%以下、
W :0.002%以上0.10%以下、
Mo:0.002%以上0.10%以下、
Nb:0.0001%以上0.10%以下、
Y :0.002%以上0.10%以下、
の少なくとも1種を含有してもよい。
(6)上記(1)~(5)の何れか1つに記載の無方向性電磁鋼板では、
前記化学組成として、質量%で、
Siおよびsol.Alの合計含有量が4.0%超であってもよい。
(7)上記(1)~(6)の何れか1つに記載の無方向性電磁鋼板では、
前記X1値が0.80以上0.830未満であってもよい。
(8)本発明の一態様にかかる鉄心は、上記(1)~(7)の何れか1つに記載の無方向性電磁鋼板を含んでもよい。
(9)本発明の一態様にかかる鉄心の製造方法は、上記(1)~(7)の何れか1つに記載の無方向性電磁鋼板を打抜加工し、歪取焼鈍する工程を有してもよい。
(10)本発明の一態様にかかるモータは、上記(8)に記載の鉄心を含んでもよい。
(11)本発明の一態様にかかるモータの製造方法は、上記(1)~(7)の何れか1つに記載の無方向性電磁鋼板を打抜加工し歪取焼鈍して鉄心を製造する工程、および上記鉄心を組み立てる工程を有してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記態様によれば、一体打抜き型鉄心用として、磁気特性に優れ且つ機械的な異方性が小さい無方向性電磁鋼板、鉄心、鉄心の製造方法、モータ、およびモータの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る無方向性電磁鋼板の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただ、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、下記する数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。各元素の含有量に関する「%」は、「質量%」を意味する。
【0013】
図1に、本発明の一実施形態に係る無方向性電磁鋼板の模式図を示す。
【0014】
(化学組成)
まず、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の化学組成の限定理由について説明する。
【0015】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、化学組成として、Siを含有し、必要に応じて選択元素を含有し、残部がFe及び不純物からなる。以下、各元素について説明する。
【0016】
C:0%以上0.005%以下
C(炭素)は、不純物として含有され、磁気特性を劣化させる元素である。したがって、C含有量は0.005%以下とする。好ましくは、0.003%以下である。C含有量は、少ないことが好ましいので、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、工業的に含有量を0%にすることは容易ではないので、下限値を、0%超としてもよく、0.0010%としてもよい。
【0017】
Si:1.0%以上5.0%以下
Si(ケイ素)は、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。したがって、Si含有量は1.0%以上とする。また、Siは、一体打抜き型鉄心用の無方向性電磁鋼板として、磁気特性と機械的な異方性とを両立させるのに有効な元素である。この場合、Si含有量は、3.25%超であることが好ましく、3.27%以上であることがさらに好ましく、3.30%以上であることがさらに好ましく、3.40%以上であることがさらに好ましい。一方、過剰に含有させると磁束密度が著しく低下する。したがって、Si含有量は5.0%以下とする。Si含有量は、4.0%以下であることが好ましく、3.5%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
sol.Al:0%以上2.5%未満
Al(アルミニウム)は、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な選択元素であるが、過剰に含有させると磁束密度が著しく低下する。このため、sol.Al含有量は2.5%未満とする。sol.Alは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記作用による効果をより確実に得るには、sol.Al含有量を0.10%以上とすることが好ましい。なお、sol.Alは、酸可溶性アルミニウムを意味する。
【0019】
ここで、SiおよびAlは、磁気特性と機械的な異方性とを両立させるのに有効な元素である。そのため、Siおよびsol.Alの合計含有量は、4.0%超であることが好ましく、4.10%超であることがさらに好ましく、4.15%超であることがさらに好ましい。一方、SiおよびAlは、固溶強化能が高いので、過剰に含有させると冷間圧延が困難になる。したがって、Siとsol.Alの合計含有量は5.5%未満とすることが好ましい。
【0020】
Mn:0%以上3.0%以下
Mn(マンガン)は、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な選択元素である。ただ、Mnは、SiやAlに比べて合金コストが高いため、Mn含有量が多くなると経済的に不利となる。このため、Mn含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.5%以下である。Mnは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記作用による効果をより確実に得るには、Mn含有量は、0.0010%以上であることが好ましく、0.010%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
P:0%以上0.3%以下
P(リン)は、一般に不純物として含有される元素である。ただ、無方向性電磁鋼板の集合組織を改善して磁気特性を向上させる作用を有するので、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Pは固溶強化元素でもあるため、P含有量が過剰になると、鋼板が硬質化して冷間圧延が困難になる。このため、P含有量は0.3%以下とする。P含有量は、0.2%以下であることが好ましい。Pは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記作用による効果をより確実に得るには、P含有量は、0.0010%以上であることが好ましく、0.015%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
S:0%以上0.01%以下
S(硫黄)は、不純物として含有され、鋼中のMnと結合して微細なMnSを形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる。このため、S含有量は0.01%以下とする。S含有量は、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがさらに好ましい。S含有量は、少ないことが好ましいので、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、工業的に含有量を0%にすることは容易ではないので、下限値を0.0001%としてもよい。
【0023】
N:0%以上0.01%以下
N(窒素)は、不純物として含有され、Alと結合して微細なAlNを形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、磁気特性を劣化させる。このため、N含有量を0.01%以下とする。N含有量は、0.005%以下であることが好ましく0.003%以下であることがさらに好ましい。N含有量は、少ないことが好ましいので、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、工業的に含有量を0%にすることは容易ではないので、下限値は、0.0001%以上としてもよく、0.0015%超としてもよく、0.0025%以上としてもよい。
【0024】
Sn:0%以上0.10%以下
Sb:0%以上0.10%以下
Sn(錫)およびSb(アンチモン)は、無方向性電磁鋼板の集合組織を改善して磁気特性(例えば、磁束密度)を向上させる作用を有する選択元素であるので、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、過剰に含有させると、鋼を脆化させて冷延破断を引き起こすことがあり、また磁気特性を劣化させることがある。このため、SnおよびSbの含有量はそれぞれ0.10%以下とする。SnおよびSbは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記作用による効果をより確実に得るには、Sn含有量は、0.0010%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがさらに好ましい。また、Sb含有量は、0.0010%以上であることが好ましく、0.002%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがさらに好ましく、0.025%超であることがさらに好ましい。
【0025】
Ca:0%以上0.01%以下
Ca(カルシウム)は、粗大な硫化物を生成することで微細な硫化物(MnS、Cu2S等)の析出を抑制するので介在物制御に有効な選択元素であり、適度に添加すると結晶粒成長性を向上させて磁気特性(例えば、鉄損)を向上させる作用を有する。しかしながら、過剰に含有させると、上記作用による効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Ca含有量は0.01%以下とする。Ca含有量は、0.008%以下であることが好ましく、0.005%以下であることがさらに好ましい。Caは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記作用による効果をより確実に得るには、Ca含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。Ca含有量は、0.001%以上であることが好ましく、0.003%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
Cr:0%以上5.0%以下
Cr(クロム)は、固有抵抗を高めて、磁気特性(例えば、鉄損)を向上させる選択元素である。しかしながら、過剰に含有させると、飽和磁束密度を低下させることがあり、また上記作用による効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Cr含有量は5.0%以下とする。Cr含有量は、0.5%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。Crは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記作用による効果をより確実に得るには、Cr含有量は0.0010%以上であることが好ましい。
【0027】
Ni:0%以上5.0%以下
Ni(ニッケル)は、磁気特性(例えば、飽和磁束密度)を向上させる選択元素である。しかしながら、過剰に含有させると、上記作用による効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Ni含有量は5.0%以下とする。Ni含有量は、0.5%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。Niは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記作用による効果をより確実に得るには、Ni含有量は0.0010%以上であることが好ましい。
【0028】
Cu:0%以上5.0%以下
Cu(銅)は、鋼板強度を向上させる選択元素である。しかしながら、過剰に含有させると、飽和磁束密度を低下させることがあり、また上記作用による効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Cu含有量は5.0%以下とする。Cu含有量は、0.1%以下であることが好ましい。Cuは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記作用による効果をより確実に得るには、Cu含有量は0.0010%以上であることが好ましい。
【0029】
Ce:0%以上0.10%以下
Ce(セリウム)は、粗大な硫化物、酸硫化物を生成することで微細な硫化物(MnS、Cu2S等)の析出を抑制し、粒成長性を良好にして鉄損を低減させる選択元素である。しかしながら、過剰に含有させると、硫化物および酸硫化物以外に酸化物も生成し、鉄損を劣化させることがあり、また上記作用による効果は飽和してコストの増加を招く。したがって、Ce含有量は0.10%以下とする。Ce含有量は、0.01%以下であることが好ましく、0.009%以下であることがさらに好ましく、0.008%以下であることがさらに好ましい。Ceは、下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。ただ、上記作用による効果をより確実に得るには、Ce含有量は0.001%以上であることが好ましい。Ce含有量は、0.002%以上であることがさらに好ましく、0.003%以上であることがさらに好ましく、0.005%以上であることがさらに好ましい。
【0030】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の化学組成は、上記の元素に加えて、選択元素として、例えば、B、O、Mg、Ti、V、Zr、Nd、Bi、W、Mo、Nb、Yを含有してもよい。これらの選択元素の含有量は、公知の知見に基づいて制御すればよい。例えば、これらの選択元素の含有量は、以下とすればよい。
B :0%以上0.10%以下、
O :0%以上0.10%以下、
Mg:0%以上0.10%以下、
Ti:0%以上0.10%以下、
V :0%以上0.10%以下、
Zr:0%以上0.10%以下、
Nd:0%以上0.10%以下、
Bi:0%以上0.10%以下、
W :0%以上0.10%以下、
Mo:0%以上0.10%以下、
Nb:0%以上0.10%以下、
Y :0%以上0.10%以下。
【0031】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、化学組成として、質量%で、
C :0.0010%以上0.005%以下、
sol.Al:0.10%以上2.5%未満、
Mn:0.0010%以上3.0%以下、
P :0.0010%以上0.3%以下、
S :0.0001%以上0.01%以下、
N :0.0015%超0.01%以下、
B :0.0001%以上0.10%以下、
O :0.0001%以上0.10%以下、
Mg:0.0001%以上0.10%以下、
Ca:0.0003%以上0.01%以下、
Ti:0.0001%以上0.10%以下、
V :0.0001%以上0.10%以下、
Cr:0.0010%以上5.0%以下、
Ni:0.0010%以上5.0%以下、
Cu:0.0010%以上5.0%以下、
Zr:0.0002%以上0.10%以下、
Sn:0.0010%以上0.10%以下、
Sb:0.0010%以上0.10%以下、
Ce:0.001%以上0.10%以下、
Nd:0.002%以上0.10%以下、
Bi:0.002%以上0.10%以下、
W :0.002%以上0.10%以下、
Mo:0.002%以上0.10%以下、
Nb:0.0001%以上0.10%以下、
Y :0.002%以上0.10%以下、
の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0032】
また、B含有量は0.01%以下であることが好ましく、O含有量は0.01%以下であることが好ましく、Mg含有量は0.005%以下であることが好ましく、Ti含有量は0.002%以下であることが好ましく、V含有量は0.002%以下であることが好ましく、Zr含有量は0.002%以下であることが好ましく、Nd含有量は0.01%以下であることが好ましく、Bi含有量は0.01%以下であることが好ましく、W含有量は0.01%以下であることが好ましく、Mo含有量は0.01%以下であることが好ましく、Nb含有量は0.002%以下であることが好ましく、Y含有量は0.01%以下であることが好ましい。また、Ti含有量は0.001%以上であることが好ましく、V含有量は0.002%以上であることが好ましく、Nb含有量は0.002%以上であることが好ましい。
【0033】
上記した化学組成は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、化学組成は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、sol.Alは、試料を酸で加熱分解した後の濾液を用いてICP-AESによって測定すればよい。また、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用い、Oは不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて測定すればよい。
【0034】
なお、上記化学組成は、絶縁被膜等を含まない無方向性電磁鋼板の組成である。測定試料となる無方向性電磁鋼板が、表面に絶縁被膜等を有している場合は、これを除去した後に測定する。例えば、次の方法で絶縁被膜等を除去すればよい。まず、絶縁被膜等を有する無方向性電磁鋼板を、水酸化ナトリウム水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液に順に浸漬後、洗浄する。最後に、温風で乾燥させる。これにより、絶縁被膜が除去された無方向性電磁鋼板を得ることができる。また、研削によって絶縁被膜等を除去してもよい。
【0035】
(磁気特性)
磁束密度に関しては、下記(式1)で規定されるX1値が0.845未満とする。この磁気特性を向上させるためには、0.820以上であることが好ましい。
X1=(2×B50L+B50C)/(3×Is) (式1)
ここで、
B50Lは磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向の磁束密度、
B50Cは磁化力5000A/mで磁化した際の圧延直角方向の磁束密度、
Isは室温における自発磁化である。
【0036】
(式1)におけるIsは、下記(式5)および(式6)により求めればよい。なお、(式5)は、鋼板の自発磁化がFe以外の元素によって単純に希釈されると仮定して自発磁化を求めるものである。また、(式5)における鋼板の密度はJIS Z8807:2012に従って測定すればよい。また、絶縁被膜が施されている場合は、絶縁被膜を有する状態で当該の方法にて測定すればよく、後述する磁気特性の評価の際にも同じ密度値を使用する。また、(式5)におけるFeの密度は、7.873g/cm3とすればよい。
Is=2.16×{(鋼板の密度)/(Feの密度)}×[Feの含有量(質量%)]/100 (式5)
Feの含有量(質量%)=100(質量%)-[C、Si、Mn、sol.Al、P、S、N、B、O、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Ni、Cu、Zr、Sn、Sb、Ce、Nd、Bi、W、Mo、Nb、Yの合計含有量(質量%)] (式6)
【0037】
一体打抜き型鉄心用の無方向性電磁鋼板として、磁気特性と機械的な異方性とを両立させるには、X1値が、0.840未満であることがさらに好ましく、0.835未満であることが好ましく、さらに0.830未満であることが好ましい。なお、X1値は、下限値を制限する必要がないが、必要に応じて、下限値を0.80としてもよい。
【0038】
また、下記(式4)で規定されるX2値が1.040以下であることが好ましい。
X2=(B50L+B50C)/2×B50D (式4)
ここで、B50Dは磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向から45°方向の磁束密度である。
【0039】
X2値が1.040以下であるとき、磁気的な異方性が好ましく小さく、モータ真円度も確保できると判断できる。X2値は、1.038以下であることが好ましく、1.036以下であることがさらに好ましい。なお、X2値は、下限値を制限する必要がないが、必要に応じて、下限値を1.030としてもよい。
【0040】
鉄損に関しては、磁束密度1.0T、周波数1kHzで励磁した際の鉄損W10/1kが80W/kg以下とする。鉄損W10/1kは、70W/kg以下であることが好ましく、49W/kg以下であることがさらに好ましい。なお、鉄損W10/1kは、下限値を制限する必要がないが、必要に応じて、下限値を30W/kgとしてもよい。
【0041】
磁気特性は、JIS C2556:2015に規定される単板磁気特性試験法(Single Sheet Tester:SST)により測定すればよい。なお、JISに規定されるサイズの試験片を採取することに代えて、より小さいサイズの試験片、例えば、幅55mm×長さ55mmの試験片を採取して、単板磁気特性試験法に準拠した測定を行ってもよい。また、幅55mm×長さ55mmの試験片が採取できない場合には、幅8mm×長さ16mmの試験片を2枚用いて幅16mm×長さ16mmの試験片として単板磁気特性試験法に準拠した測定を行ってもよい。その際、JIS C 2550:2011に規定されるエプスタイン試験器での測定値へ換算したエプスタイン相当値とすることが好ましい。磁気特性は、歪取焼鈍後の値であってもよい。
【0042】
(平均結晶粒径)
結晶粒径は、過大であっても過小であっても高周波条件での鉄損が劣化することがある。そのため、平均結晶粒径は30μm以上200μm以下とする。平均結晶粒径は、歪取焼鈍後の値であってもよい。
【0043】
平均結晶粒径は、JIS G0551:2020に規定される切断法により測定すればよい。例えば、縦断面組織写真において、板厚方向および圧延方向について切断法により測定した結晶粒径の平均値を用いればよい。この縦断面組織写真としては光学顕微鏡写真を用いることができ、例えば50倍の倍率で撮影した写真を用いればよい。
【0044】
(板厚)
板厚は、0.35mm以下とする。好ましくは0.30mm以下である。一方、過度の薄肉化は鋼板やモータの生産性を著しく低下させるので、板厚は0.10mm以上とする。好ましくは、0.15mm以上である。
【0045】
板厚は、マイクロメーターにより測定すればよい。なお、測定試料となる無方向性電磁鋼板が、表面に絶縁被膜等を有している場合は、これを除去した後に測定する。絶縁被膜の除去方法は、上述の通りである。
【0046】
(機械的な異方性)
機械的な異方性として、下記(式2)で規定されるE1値が0.930以上とする。
E1=EL/EC (式2)
ここで、
ELは圧延方向のヤング率、
ECは圧延直角方向のヤング率である。
【0047】
E1値が0.930以上であるとき、打抜加工後の形状精度の低下が抑制され、例えば、真円打抜加工したときの真円度が向上する。E1値は、0.940以上であることが好ましく、0.950以上であることがさらに好ましい。なお、E1値は、上限値を制限する必要がないが、必要に応じて、上限値を1.00としてもよい。
【0048】
また、下記(式3)で規定されるE2値が0.900以上であることが好ましい。
E2=(EL+EC)/2×ED (式3)
ここで、EDは圧延方向から45°方向のヤング率である。
【0049】
E2値が0.900以上であるとき、打抜加工後の形状精度の低下が抑制され、例えば、真円打抜加工したときの真円度が向上する。E2値は、0.905以上であることが好ましく、0.910以上であることがさらに好ましい。なお、E2値は、上限値を制限する必要がないが、必要に応じて、上限値を1.10としてもよい。
【0050】
一般に、ヤング率の測定として、3種類の方法(機械的試験法、共振法、超音波パルス法)が用いられるが、本実施形態では、機械的試験法によってヤング率を測定すればよい。例えば、引張試験で棒状あるいは板状の試験片に引張荷重を加え、その変位を求めることによりヤング率Eを算出すればよい。例えば、常温にて、荷重-変位の関係を求めればよい。また、試験片サイズは特に制限されない。例えば、1.9mm×3.6mmの極微小引張試験片を用いてもよい。
E=(σn+1-σn)/(εn+1-εn)・・・・(1)
σ=P/S0・・・・・・・・・・・・・・・(2)
ε=(Yn+1-Yn)/l×100・・・・・・・・・(3)
ここで、
Eはヤング率(N/m2)、
σは引張応力(N/m2)、
εは引張ひずみ、
σn+1-σnは引張荷重を変動させた時の引張応力の変化量(N/m2)、
εn+1-εnは引張荷重を変動させた時の引張ひずみの変化量、
Pは引張荷重(N)、
S0は試験片の初期の断面積(m2)、
Yn+1-Ynは引張荷重を変動させた時の標点距離の変化量(mm)、
lは標点距離(mm)である。
【0051】
また、真円度が0.020%以下であるとき、打抜部材の形状精度が高い効果が得られる。その結果、モータとして使用する際に、コギングトルクの増加や、振動騒音の増加を好ましく抑制できる。上記の真円度は、0.019%以下であることが好ましい。なお、真円度は、下限値を制限する必要がないが、必要に応じて、下限値を0%としてもよい。
【0052】
例えば、JIS B0621:1984では、真円度は、円形形体の幾何学的に正しい円からの狂いの大きさと定義され、また、真円度は、円形形体を二つの同心の幾何学的円で挟んだとき、同心二円の間隔が最小となる場合の二円の半径差で表すと記載されている。
本実施形態では、真円度を、円の直径の最大値と最小値との差を平均径で除算して得られる比率とすればよい。なお、円の直径の最大値は、上記同心二円のうち大きい円の直径に対応し、円の直径の最小値は、上記同心二円のうち小さい円の直径に対応する。また、平均径とは円の直径の最大値と最小値とを平均した値である。したがって、本実施形態の真円度は、JIS B0621:1984に記載された二円の半径差(同心二円の間隔が最小となる場合の二円の半径差)を、二円の半径の平均値で除算して得られる比率に相当する。
一例として、無方向性電磁鋼板から金型で直径φ60mmの円板を各5枚打抜き、真円度を測定し、5枚の平均値をその材料の真円度として採用する。
【0053】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、一体打抜き型鉄心用として、磁気特性に優れ且つ真円度に優れる。例えば、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、X1値:0.845未満、鉄損W10/1k:80W/kg以下、およびE1値:0.930以上を満足し、その結果、真円度が優れるという効果を得られる。
【0054】
(鉄心およびモータ)
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、磁気特性に優れ且つ機械的な異方性が小さいので、電気自動車やハイブリッド自動車などのモータの一体打抜き型鉄心に好適である。そのため、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を含む鉄心は、優れた性能を示す。また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は一体打抜き型鉄心に好適であるので、この鉄心を含むモータは、優れた性能を示す。
【0055】
(製造方法)
以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の一例を説明する。なお、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、上述の構成を有すれば、製造方法は特に限定されない。下記の製造方法は、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を製造するための一つの例であり、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の好適な例である。
【0056】
例えば、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、下記工程を有する。
(A)上述の化学組成を有する熱延鋼板に10%以上99%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.10mm以上0.35mm以下の板厚とする冷間圧延工程
(B)冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、室温から650℃までの平均昇温速度を5℃/秒以上20℃/秒以下とし、650℃から仕上焼鈍温度までの平均昇温速度を20℃/秒超100℃/秒以下とし、仕上焼鈍温度を720℃以上780℃以下とする仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程
【0057】
以下、各工程について説明する。
【0058】
(冷間圧延工程)
冷間圧延工程においては、上記化学組成を有する熱延鋼板に10%以上99%以下の圧下率(累積圧下率)の冷間圧延を施して0.10mm以上0.35mm以下の板厚とする。
冷間圧延工程における圧下率が10%未満であると、目的とする磁気特性および機械的な異方性を得ることができない場合がある。また、圧下率が99%以下であると、無方向性電磁鋼板を工業的に安定して製造できる。したがって、冷間圧延工程における圧下率は10%以上99%以下とする。
【0059】
板厚は0.10mm以上0.35mm以下とする。板厚は、0.15mm以上0.30mm以下であることが好ましい。
【0060】
冷間圧延時の鋼板温度、圧延ロール径など、冷間圧延の上記以外の条件は特に限定されるものではなく、熱延鋼板の化学組成、目的とする鋼板の板厚などにより適宜選択するものとする。また、必要に応じて、冷間圧延の途中で、鋼板に中間焼鈍を施してもよいが、本実施形態では、中間焼鈍を行わない場合に、目的とする磁気特性および機械的な異方性を得やすい。
【0061】
熱延鋼板は、通常、熱間圧延の際に鋼板表面に生成したスケールを酸洗により除去してから冷間圧延に供される。後述するように熱延鋼板に熱延板焼鈍を施す場合には、熱延板焼鈍前あるいは熱延板焼鈍後のいずれかにおいて酸洗すればよい。
【0062】
(仕上焼鈍工程)
仕上焼鈍工程においては、上記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、室温から650℃までの平均昇温速度を5℃/秒以上20℃/秒以下とし、650℃から仕上焼鈍温度までの平均昇温速度を20℃/秒超100℃/秒以下とし、仕上焼鈍温度を720℃以上780℃以下とする仕上焼鈍を施す。
仕上焼鈍工程における上記の各条件を満たさない場合、目的とする磁気特性および機械的な異方性を得ることができない場合がある。仕上焼鈍の上記以外の条件は特に限定されるものではない。
【0063】
720℃以上780℃以下の温度域に保持する仕上焼鈍時間は特に規定せずともよいが、良好な磁気特性をより確実に得るには1秒間以上とすることが好ましい。一方、生産性の観点からは仕上焼鈍時間を120秒間以下とすることが好ましい。
【0064】
(熱延板焼鈍工程)
上記冷間圧延工程に供する熱延鋼板には、熱延板焼鈍を施してもよい。熱延板焼鈍を施すことにより、一層良好な磁気特性が得られる。
熱延板焼鈍は箱焼鈍および連続焼鈍のいずれによって行ってもよい。箱焼鈍により行う場合には、700℃以上900℃以下の温度域に60分以上20時間(1200分)以下保持することが好ましい。連続焼鈍により行う場合には、900℃以上1100℃以下の温度域に1秒間(0.0167分)以上600秒間(10分)以下保持することが好ましい。
熱延板焼鈍の上記以外の条件は特に限定されるものではない。
【0065】
(熱間圧延工程)
上記冷間圧延工程に供する熱延鋼板は、上記化学組成を有する鋼塊または鋼片(以下、「スラブ」ともいう。)に熱間圧延を施すことにより得ることができる。
【0066】
熱間圧延においては、上記化学組成を有する鋼を、連続鋳造法あるいは鋼塊を分塊圧延する方法など一般的な方法によりスラブとし、加熱炉に装入して熱間圧延を施す。この際、スラブ温度が高い場合には加熱炉に装入しないで熱間圧延を行ってもよい。
熱間圧延の各種条件は特に限定されるものではない。
【0067】
(その他の工程)
上記仕上焼鈍工程後に、一般的な方法に従って、有機成分のみ、無機成分のみ、あるいは有機無機複合物からなる絶縁被膜を鋼板表面に塗布するコーティング工程を行ってもよい。環境負荷軽減の観点から、クロムを含有しない絶縁被膜を塗布しても構わない。また、コーティング工程は、加熱・加圧することにより接着能を発揮する絶縁コーティングを施す工程であってもよい。接着能を発揮するコーティング材料としては、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂またはメラミン樹脂などを用いることができる。
【0068】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、打抜加工に供されることが多い。例えば、打抜加工後に歪取焼鈍を施してもよい。歪取焼鈍の各種条件は特に限定されるものではない。例えば、750℃以上850℃以下の温度域に60分以上150分以下保持すればよい。
【0069】
(鉄心の製造方法、およびモータの製造方法)
上記のように製造した本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を用いて、一体打抜き型鉄心を製造すればよい。この鉄心の製造方法は、上記した無方向性電磁鋼板を打抜加工して歪取焼鈍する工程を有すればよい。また、この一体打抜き型鉄心を用いて、モータを製造すればよい。このモータの製造方法は、上記した無方向性電磁鋼板を打抜加工し歪取焼鈍して鉄心を製造する工程、およびこの鉄心を組み立てる工程を有すればよい。
【実施例1】
【0070】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。以下、実施例および比較例を例示して、本発明を具体的に説明する。
【0071】
化学組成を調整したスラブを用いて、表1~16に示す条件で各工程を実施して無方向性電磁鋼板を製造した。なお、熱延板焼鈍を実施しない場合は、熱間圧延後に酸洗を実施した。熱延板焼鈍を実施する場合、試験No.1、7、および19は熱延板焼鈍前に酸洗を実施し、それ以外は熱延板焼鈍後に酸洗を実施した。また、仕上焼鈍の保持時間は30秒とした。また、必要に応じて歪取焼鈍を行った。
【0072】
製造した無方向性電磁鋼板について、化学組成、板厚、平均結晶粒径、磁束密度に関するX1値およびX2値、鉄損W10/1k、ヤング率に関するE1値およびE2値、真円度を測定した。これらの測定方法は、上述の通りである。なお、歪取焼鈍を行った鋼板の平均結晶粒径および磁気特性は、歪取焼鈍後に測定を実施した。これらの測定結果を表1~16に示す。製造した無方向性電磁鋼板の化学組成は、スラブの化学組成と実質的に同一であった。表中で「-」で表す元素は、意識した制御および製造をしていないことを示す。また、表中で「3.3」で示すSi含有量は、3.25%超であった。また、表中で「-」で表す製造条件は、その制御を行っていないことを示す。また、製造した無方向性電磁鋼板の板厚は、冷間圧延工程後の仕上板厚と同一であった。
【0073】
表1~16に示すように、試験No.1~106のうち、本発明例は、いずれも無方向性電磁鋼板として、磁気特性に優れ且つ機械的な異方性に優れていた。一方、試験No.1~106のうち、比較例は、磁気特性および機械的な異方性の少なくとも一方が優れなかった。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の上記態様によれば、一体打抜き型鉄心用として、磁気特性に優れ且つ機械的な異方性が小さい無方向性電磁鋼板、鉄心、鉄心の製造方法、モータ、およびモータの製造方法の提供が可能となるので、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0091】
1: 無方向性電磁鋼板
L: 圧延方向
C: 圧延直角方向
D: 圧延方向から45°方向
【要約】
この無方向性電磁鋼板は、化学組成として、質量%で、Si:1.0%以上5.0%以下を含有し、板厚が0.10mm以上0.35mm以下であり、平均結晶粒径が30μm以上200μm以下であり、X1=(2×B50L+B50C)/(3×Is)で規定されるX1値が0.845未満であり、E1=EL/ECで規定されるE1値が0.930以上であり、鉄損W10/1kが80W/kg以下である。