(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】X線透過部材
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20230314BHJP
A61B 6/00 20060101ALI20230314BHJP
A61B 6/04 20060101ALI20230314BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20230314BHJP
G03B 42/02 20210101ALI20230314BHJP
【FI】
A61B6/03 323C
A61B6/00 300W
A61B6/04 331A
B32B5/24
G03B42/02 H
(21)【出願番号】P 2022562029
(86)(22)【出願日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2022032353
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2021142144
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹原 大洋
(72)【発明者】
【氏名】足立 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂井 秀敏
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/182076(WO,A1)
【文献】特開2006-035671(JP,A)
【文献】特開2018-064833(JP,A)
【文献】国際公開第2017/013911(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/029634(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/14
B32B 5/00 - 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線検査機器に用いられるX線透過部材であって、
多孔質体を含み、
芯材(I)と、芯材(I)の少なくとも片側に繊維強化樹脂からなる表皮材(II)を有し、芯材(I)が前記多孔質体であり、
前記多孔質体の表面のJIS B0601(2001)で定義される算術平均粗さRaが100μm以下であるX線透過部材。
【請求項2】
X線検査機器に用いられるX線透過部材であって、
芯材(I)と、芯材(I)の少なくとも片側に配置された表皮材(II)と、を有し、
芯材(I)は、多孔質体であり、
表皮材(II)は繊維強化樹脂からなり、
芯材(I)の、表皮材(II)側の接合面が形成する断面曲線のJIS B0601(2001)で定義される算術平均粗さRaが50μm以下であるX線透過部材。
【請求項3】
前記断面曲線の算術平均粗さRaが20μm以下である、請求項
2に記載のX線透過部材。
【請求項4】
前記多孔質体の密度が0.05g/cm
3以上0.50g/cm
3以下である、請求項1~
3のいずれかに記載のX線透過部材。
【請求項5】
前記多孔質体のJIS K7017(1999)で定義される曲げ弾性率が2.0GPa以上7.5GPa以下である、請求項1~
3のいずれかに記載のX線透過部材。
【請求項6】
前記多孔質体の曲げ強度が15MPa以上150MPa以下である、請求項1~
3のいずれかに記載のX線透過部材。
【請求項7】
前記多孔質体が、不連続の強化繊維を含む、請求項1~
3のいずれかに記載のX線透過部材。
【請求項8】
前記多孔質体が、不連続の強化繊維の交叉部分に樹脂が付着した三次元網目構造を有する、請求項
7に記載のX線透過部材。
【請求項9】
前記多孔質体の不連続の強化繊維の交叉部分に付着した樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項
8に記載のX線透過部材。
【請求項10】
前記多孔質体に含まれる不連続の強化繊維の平均繊維長が1.5mm以上15mm以下である、請求項
7に記載のX線透過部材。
【請求項11】
前記多孔質体の目付の変動係数が5%以下である、請求項1~
3のいずれかに記載のX線透過部材。
【請求項12】
前記表皮材(II)の厚みの和tsと前記芯材(I)の厚みの和tcの比ts/tcが、0.10以上0.55以下である、請求項
1~3のいずれかに記載のX線透過部材。
【請求項13】
表皮材(II)が連続の強化繊維を含む、請求項
1~3のいずれかに記載のX線透過部材。
【請求項14】
芯材(I)の多孔質体および/または表皮材(II)の前記強化繊維として炭素繊維を含む、請求項
1~3のいずれかに記載のX線透過部材。
【請求項15】
表皮材(II)の繊維強化樹脂のマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である、請求項
1~3のいずれかに記載のX線透過部材。
【請求項16】
芯材(I)と表皮材(II)との間に緩衝層(III)を含む、請求項
1~3のいずれかに記載のX線透過部材。
【請求項17】
前記X線検査機器が、人体のX線画像を取得する医療機器である、請求項1~
3のいずれかに記載のX線透過部材。
【請求項18】
請求項1~
3のいずれかに記載のX線透過部材を、X線が透過する領域を構成する構造部材として用いてなるX線検査機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線検査機器に用いられるX線透過部材、及びX線検査機器に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線による検査機器の撮影台や筐体には、放射線透過性が良好で、高剛性を有する部材が要求される。ここで、放射線としては特にX線が知られている。また、X線による検査機器としては、例えば、マンモグラフィ、X線カセッテ、CT装置およびIVR機器などのX線画像診断装置などが知られている。従来こうした部材としては、繊維強化樹脂や、繊維強化樹脂を表面材として、芯材である樹脂発泡体に貼り合わせたサンドイッチ状の積層体が適用されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の放射線撮影用ベッドは、炭素繊維とラジカル重合性マトリックス樹脂からなるプリプレグで樹脂発泡体を覆うように配置して、マトリックス樹脂を硬化させた構成である。かかる構成とすることで、放射線透過性、剛性、強度、耐水性、耐水蒸気性に優れる天板部を形成することができるとされている。
【0004】
特許文献2に記載のX線診断装置用天板は、不連続の炭素繊維と熱硬化性樹脂からなる多孔体を芯材として、その表面に化粧板を貼り合わせたサンドイッチ構造であり、芯材の剛性を高めることで全体としての剛性を高めている。
【0005】
また、特許文献3は、カーボン繊維を含む材料に発泡体層が埋め込まれたサンドイッチ構造の筐体を適用したX線カセッテに関し、表面側の層厚みを内面側の層厚みよりも厚くすることで、軽量性と衝撃強度を両立する技術が開示されている。筐体が軽量となることでX線透過率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭57-3625号公報
【文献】特開平8-280667号公報
【文献】国際公開第2014/080692号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、病巣の早期発見のためには、X線検査機器にて撮影される画像の画質向上が重要であるが、一般的には画質と被曝線量低減はトレードオフの関係にあると言われる。そのため、被曝線量の増加を伴わずに画質を向上させる技術が求められていた。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされてものであって、X線検査機器のX線透過部材として適用したときに得られるX線画像の画質が良好となる部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するための、本発明のX線透過部材の第一の態様は、X線検査機器に用いられるX線透過部材であって、
多孔質体を含み、
前記多孔質体の表面のJIS B0601(2001)で定義される算術平均粗さRaが100μm以下である。
【0010】
また、本発明のX線透過部材の第二の態様は、X線検査機器に用いられるX線透過部材であって、
芯材(I)と、芯材(I)の少なくとも片側に配置された表皮材(II)と、を有し、
芯材(I)は、多孔質体であり、
表皮材(II)は繊維強化樹脂からなり、
芯材(I)の、表皮材(II)側の接合面が形成する断面曲線のJIS B0601(2001)で定義される算術平均粗さRaが50μm以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のX線透過部材をX線検査機器におけるX線透過部分を含む構造部材として用いることにより、X線画像の画質を向上することができる。あるいは、同等の画質のX線画像を得るために必要な被爆線量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のX線透過部材の構成の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】本発明のX線透過部材の断面の一例を表す模式図である。
【
図3】本発明のX線透過部材において、芯材(I)の、表皮材(II)側の接合面が形成する断面曲線の求め方を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のX線透過部材の第一の態様は、X線検査機器に用いられるX線透過部材であって、多孔質体を含み、前記多孔質体の表面のJIS B0601(2001)で定義される算術平均粗さRaが100μm以下である。前記算術平均粗さRaは、50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。多孔質体表面の算術平均粗さRaをかかる範囲とすることで、多孔質体表面における異物付着によるX線画像のノイズ特性(Noise Power Spectrum)の悪化を抑制でき、得られるX線画像の画質悪化を抑えることができる。ノイズ特性が悪化する要因としては、多孔質体表面を塗装する場合の塗料溜まりや、多孔質体の表面をむき出しで使用する場合のゴミ溜まりなどが挙げられる。ここで、多孔質体の表面の算術平均粗さは、触針の先端が表面に直接触れる接触式表面粗さ測定機にて測定する。測定サンプルが非常に脆い等、接触式表面粗さ測定機で測定が困難な場合は、レーザー顕微鏡などを用いた非接触式の表面粗さ測定機にて測定してもよい。
【0014】
本発明のX線透過部材の第一の態様は、芯材(I)と、芯材(I)の少なくとも片側に繊維強化樹脂からなる表皮材(II)を有し、芯材(I)が前記多孔質体であることが好ましい。表皮材(II)を有することによる補強効果により、芯材(I)を薄くできるため、X線透過性が向上しやすくなる。また、多孔質体表面の算術平均粗さRaが上記範囲であることから、表皮材(II)と一体化する際の繊維強化樹脂中の樹脂や接着剤などの接着成分の流入が抑えられ、芯材(I)と表皮材(II)の境界を平滑にすることができるため、X線画像のノイズ特性がさらに良好となり、X線画像の画質がより向上する。
【0015】
本発明のX線透過部材の第二の態様は、X線検査機器に用いられるX線透過部材であって、芯材(I)と、芯材(I)の少なくとも片側に配置された表皮材(II)と、を有し、芯材(I)は、多孔質体であり、表皮材(II)は繊維強化樹脂からなり、芯材(I)の、表皮材(II)側の接合面が形成する断面曲線のJIS B0601(2001)で定義される算術平均粗さRaが50μm以下である。
【0016】
本発明のX線透過部材において、X線検査機器は、X線を用いて構造の内部を検査する機器であれば限定されず、具体的には、人体のX線画像を取得する医療機器や、物体の非破壊検査に使用される工業用X線検査機器などが挙げられる。本明細書におけるX線透過部材とは、こうしたX線検査機器において、X線が透過する領域を構成する構造部材である。X線透過部材の具体例としては、X線管を保護する筐体、X線を検出して画像へ変換する検出器を保護する筐体、医療機器であれば被検体を支持する撮影台、工業用X線検査機器であれば物体を支持する撮影台等を構成する部材を挙げることができる。
【0017】
本発明のX線透過部材において、X線検査機器が、人体のX線画像を取得する医療機器であることが好ましい。かかる医療機器の例としては、マンモグラフィ装置、X線カセッテ、CT天板およびIVR機器などが主として例示できる。
【0018】
本発明のX線透過部材の第二の態様は、多孔質体である芯材(I)と、芯材(I)の少なくとも片側に配置された、繊維強化樹脂からなる表皮材(II)とを有する構成において、芯材(I)の、表皮材(II)側の接合面が形成する断面曲線の、JIS B0601(2001)で定義される算術平均粗さRaを50μm以下としたものである。このように芯材(I)と、その芯材(I)に隣接する層(以下、隣接層という場合がある)との境界を平滑にすることにより、表皮材(II)の樹脂や接着剤が芯材(I)の表面に流入して、樹脂溜まりが発生することを抑制する。塗料やゴミ、樹脂など、多孔質体表面の凹部に異物溜まりが生じると、異物溜まりがある部分とない部分でX線の透過性が異なるため、X線画像のノイズ特性が悪化する。本発明のX線透過部材の第二の態様では、異物溜まりが生じる多孔質体表面の算術平均粗さを抑制することで、X線画像のノイズ特性が良好となり、X線画像の画質が向上する。そのため、X線検査の精度、すなわち、医療機器であれば病巣を特定する診断精度、物体の非破壊検査であれば内部構造を特定する検査精度が向上する。ここで、前記断面曲線の算術平均粗さRaを上記範囲とする方法としては、例えば、表皮材(II)と一体化する際の成型圧力を制御する方法、予め表面を熱盤で加熱および/または加圧処理した多孔質体を用いる方法、後述する緩衝層(III)を含む構成とする方法などが挙げられる。得られるX線画像の画質向上の観点から、本発明のX線透過部材の第二の態様において、前記断面曲線の算術平均粗さRaが20μm以下であることがより好ましい。一方、前記断面曲線の算術平均粗さRaの下限は特に限定されないが、芯材(I)と、表皮材(II)等の隣接層との接合強度に寄与する物理的なアンカリングの効果が大きくなりやすいことから、前記断面曲線の算術平均粗さRaは3μm以上であることが好ましい。なお、X線透過部材が後述するサンドイッチ構造体である場合、芯材(I)の両側の隣接層との境界の断面曲線の算術平均粗さRaを上記所定の範囲とすることが好ましい。
【0019】
ここで、断面曲線とは、X線透過部材の表面から垂直に切断した断面における、芯材(I)の多孔質構造と、表皮材(II)等のその隣接層との境界を近似した曲線である。断面曲線を画定するためには、まずX線CT、光学顕微鏡、走査電子顕微鏡(SEM)あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)等によって、X線透過部材の断面画像を取得する。X線透過部材の断面画像の模式図の一例を
図3に示す。
図3に示される断面画像5において、表皮材(II)2は芯材(I)3の片側に配置され、両者は境界6を構成しつつ密着している。断面画像5の表皮材(II)2の外表面7を基準線として、表皮材(II)2から芯材(I)3に向かって5μm間隔で垂基線8を描く。基準線から描かれる垂基線8が初めて芯材(I)の多孔質構造を構成する空隙4と交わる点をプロットし、プロットされた点を結んだ線を断面曲線9とする。
【0020】
本発明のX線透過部材は、芯材(I)と、芯材(I)の少なくとも片側に配置された繊維強化樹脂からなる表皮材(II)とを有する構造であり、このような構造としては、表皮材(II)が芯材(I)の片側に配置されたカナッペ構造、表皮材(II)が芯材(I)の両面に配置されたサンドイッチ構造が例示できる。
図1にサンドイッチ構造の一例を示す。
図1において、X線透過部材1は、表皮材(II)2が芯材(I)3の両面に配置されてなる。少なくともX線検査機器の外表面に位置する側に繊維強化樹脂からなる表皮材(II)を配置することで、外部から荷重や衝撃が作用した際に、X線透過部材の傷や凹みなどの破壊を抑制できるため好ましい。X線を透過する材料の重量を減らしてX線透過率を高める観点からはカナッペ構造が好ましく、外部から作用する荷重や衝撃からの保護とX線機器の内蔵部品との干渉による内蔵部品の故障といった不具合を抑制できる観点からはサンドイッチ構造が好ましい。なお、本発明のX線透過部材において、表皮材(II)は、芯材(I)の少なくとも片側の少なくとも一部を覆うように配置されていればそれ以外の構造は特に限定されず、表皮材(II)が芯材(I)に捲き回された構造や、表皮材(II)で芯材(I)を封止した構造であってもよい。また、後述するように、芯材(I)と表皮材(II)の間に緩衝層を有していてもよい。
【0021】
本発明のX線透過部材において、表皮材(II)の厚みの和tsと芯材(I)の厚みの和tcの比ts/tcが、0.10以上0.55以下であることが好ましい。比ts/tcを上記範囲とすることにより、X線透過部材の機械特性とX線透過性のバランスに優れやすくなる。
【0022】
本発明のX線透過部材における表皮材(II)は、繊維強化樹脂、すなわち強化繊維とマトリックス樹脂を含む成形体である。
【0023】
繊維強化樹脂を構成する強化繊維の種類としては、特に制限はなく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維、アラミド繊維などの有機繊維、あるいは天然繊維も使用でき、これらのうち1種または2種以上を併用してもよい。中でも、本発明のX線透過部材は、表皮材(II)の前記強化繊維として炭素繊維を含むことが好ましい。炭素繊維は、高い比強度、比剛性を有するため、X線透過率をより向上させることができる。炭素繊維の例としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などが挙げられる。一方、経済性の観点からは、強化繊維としてガラス繊維を含むことが好ましい。また、強度と経済性のバランスの観点から、強化繊維として炭素繊維とガラス繊維とを含むことも好ましい。
【0024】
繊維強化樹脂を構成する強化繊維の形態としては、特に制限はなく、例えば、連続の強化繊維であれば、織組織を形成した織物形態、一方向に引き揃えた形態などが挙げられる。また、例えば、不連続の強化繊維であれば、一方向に配列した形態、分散された形態などが挙げられる。これらを単独または積層したもの、2種類以上を併用して積層したものでも良い。なお、連続の強化繊維とは、短繊維状態に切断することなく、繊維束を連続した状態で引き揃えたものを意味する。ここで、短繊維とは長さが100mm以下の繊維のことを指す。中でもX線透過率の面内分布を均一にする、つまり面内の密度差を小さくする観点から、表皮材(II)が連続の強化繊維を含むことが好ましく、隙間無く並べやすい観点から、表皮材(II)が一方向に引き揃えられた連続の強化繊維を含むことがより好ましい。特に、一方向に引き揃えられた連続の強化繊維を含む場合においては、繊維の配向方向を所定の角度ずらして積層した形態とすることが好ましい。かかる形態にすることで、複数方向の力学特性を高めることができる。
【0025】
繊維強化樹脂を構成するマトリックス樹脂としては、特に限定されないが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれでも用いることができる。マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合には、成形時の加熱により、また必要に応じて成形後に熱硬化性樹脂が硬化する温度にさらに加熱することにより、熱硬化性樹脂が硬化し、マトリックス樹脂となる。樹脂が熱可塑性樹脂の場合には、成形時の加熱により溶融した樹脂を冷まして固化させることで、マトリックス樹脂となる。繊維強化樹脂を形成する成形基材としては、強化繊維に樹脂が含浸されてなるプリプレグを用いることが好ましい。
【0026】
熱硬化性樹脂としては、熱により架橋反応を起こし、少なくとも部分的な三次元架橋構造を形成するものであればよく、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0027】
熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂等が挙げられ、また、これらのいずれかの樹脂の前駆体である環状のオリゴマーも好ましく用いられる。
【0028】
加えて、以上に述べた樹脂を複数種混合して使用してもよく、硬化剤、硬化促進剤などの添加剤や充填剤を加えてもよい。耐薬品性の点から、表皮材(II)の繊維強化樹脂のマトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂であることが好ましい。
【0029】
本発明のX線透過部材における芯材(I)は、多孔質体である。多孔質体は、少なくとも樹脂と空隙を含むことが好ましい。多孔質体を用いることで、重量が低減されるとともにX線が通過する物体が減るため、X線透過性が向上する。
【0030】
本発明のX線透過部材において、多孔質体の密度が0.05g/cm3以上0.50g/cm3以下であることが好ましい。多孔質体の密度が0.05g/cm3以上であると、X線透過性の向上効果はやや薄れるものの、高い荷重でも潰れにくくなり、X線透過部材としたときに被検体を保持しやすくなる。また、多孔質体の密度が0.50g/cm3以下であると、X線透過性の向上効果が顕著になり、多孔質体に比べて力学特性に優れる中実体を適用した構成に比べても、X線透過部材としての機械特性とX線透過性のバランスが向上しやすくなる。多孔質体の密度を上記範囲とするための方法としては、多孔質体が後述の不連続の強化繊維を含む場合には、例えば、多孔質体を製造する際の膨張-冷却の過程において厚さ制御をする方法などが挙げられる。
【0031】
本発明のX線透過部材において、多孔質体のJIS K7017(1999)で定義される曲げ弾性率が2.0GPa以上7.5GPa以下であることが好ましい。多孔質体の曲げ弾性率をかかる範囲とすることで、X線透過部材に作用する荷重域において変形が抑制でき、ムラの無いX線画像が得られる。また、多孔質体の曲げ弾性率をかかる範囲とすることで、表皮材(II)と一体化する場合に表皮材(II)の厚みを薄くできるため、X線透過率の向上効果を高めることができる。多孔質体の曲げ弾性率を上記範囲とするための方法としては、例えば、多孔質体の密度を調整する方法が挙げられる。また、多孔質体が後述の不連続の強化繊維を含む場合には、例えば、強化繊維の含有量を増やすことにより、多孔質体の曲げ弾性率を高くする方法などが挙げられる。
【0032】
本発明のX線透過部材において、多孔質体の曲げ強度が15MPa以上150MPa以下であることが好ましい。多孔質体の曲げ強度をかかる範囲とすることで、X線透過部材に作用する荷重域での破損を抑制でき、ノイズ特性に優れるX線画像が得られる。また、表皮材(II)と一体化する場合には、多孔質体の破損に伴う表皮材(II)の割れが抑制できるため、被検体を保護する安全性が向上する。さらに、表皮材(II)の厚みを薄くできるため、X線透過率の向上効果を高めることができる。ここで、曲げ強度は、前述の曲げ弾性率同様にJIS K7017(1999)を参照して定義する。多孔質体の曲げ強度を上記範囲とするための方法としては、例えば、多孔質体の密度を調整する方法が挙げられる。また、多孔質体が後述の不連続の強化繊維を含む場合には、例えば、強化繊維の繊維長を調整する方法などが挙げられる。
【0033】
X線透過部材としての機械特性とX線透過性の観点から、本発明のX線透過部材において、多孔質体が前記曲げ弾性率の範囲と前記曲げ強度の範囲を同時に満たすことが特に好ましい。
【0034】
多孔質体を構成する材料としては、特に制限されないが、樹脂を含むことが好ましい。樹脂としては熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれでも用いることができる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂などが例示できる。熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂などが例示できる。また、これらのいずれかの樹脂の前駆体である環状のオリゴマーも好ましく用いられる。これらのうち1種または2種以上を併用してもよい。また、樹脂は、添加剤や充填剤を含んでもよい。
【0035】
本発明のX線透過部材において、多孔質体が、不連続の強化繊維を含むことが好ましく、多孔質体中において不連続の強化繊維が面内方向でランダムに分散している構造であることが特に好ましい。多孔質体が、不連続の強化繊維を含むことで、力学特性が大幅に向上する。特に、不連続の強化繊維が面内方向でランダムに分散している構造である場合、力学的に等方性が発現するため、成形時に想定される配置間違えによる性質変化が実質的に生じなくなり、X線機器の信頼性がより向上する。ここで、面内方向とはX線透過部材において厚さ方向と直交する方向のことを意味する。また、ランダムに分散している状態は、不連続の強化繊維の繊維二次元配向角によって定義することができる。二次元配向角の平均値は30度以上60度以下が好ましい範囲である。ここで、繊維二次元配向角の平均値を導出する方法としては、以下の方法が例示できる。X線透過部材において厚さ方向と直交する面で無作為に選択した強化繊維単繊維に対して、交叉している全ての強化繊維単繊維となす角度、即ち二次元配向角の平均値を測定する。なお、交叉する、とは繊維同士が接触している必要はなく、多孔質体の断面において繊維同士が交わって見えればよい。また、二次元配向角には、得られる2つの角度のうち鋭角の方を採用する。強化繊維単繊維に交叉する強化繊維単繊維が多数の場合には、交叉する強化繊維単繊維を20本選ぶ。本測定を別の強化繊維単繊維に着目して、合計5回繰り返し、100個の二次元配向角の平均値を二次元配向角の平均値として算出する。
【0036】
本発明のX線透過部材において、多孔質体に含まれる不連続の強化繊維の平均繊維長が1.5mm以上15mm以下であることが好ましい。かかる範囲とすることで、多孔質体中の不連続の強化繊維の配置の均質性と、多孔質体の補強効率のバランスに優れるため、得られるX線画像の画質がより向上する。ここで、不連続の強化繊維の平均繊維長とは、繊維長の算術平均のことである。その計測方法としては、X線透過部材から不連続の強化繊維を分離し、分離した不連続の強化繊維を無作為に400本抽出し、光学顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡にて得られる観察画像から測定して、平均値を計算する。なお、X線透過部材から不連続の強化繊維を分離する方法としては、X線透過部材の樹脂を溶解させる溶媒により十分溶解させた後にろ過などの公知の操作により抽出する方法、焼きとばし法により樹脂を焼きとばして抽出する方法などが例示できる。
【0037】
本発明のX線透過部材において、不連続の強化繊維の平均繊維長Lfと平均繊維直径dの比Lf/dが、100以上2500以下であることがより好ましい。比Lf/dをかかる範囲とすることで、不連続の強化繊維が屈曲することで発生する繊維同士の交点ムラを抑え、局所的なX線透過率の変動を抑制できるため、得られるX線画像のノイズ特性が向上しやすくなる。ここで、不連続の強化繊維の平均繊維長Lfと平均繊維直径dの計測方法としては、X線透過部材から不連続の強化繊維を分離し、分離した不連続の強化繊維を無作為に400本抽出し、光学顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡にて得られる観察画像から測定して、平均値を計算する。なお、X線透過部材から不連続の強化繊維を分離する方法としては、X線透過部材の樹脂を溶解させる溶媒により十分溶解させた後にろ過などの公知の操作により抽出する方法、焼きとばし法により樹脂を焼きとばして抽出する方法などが例示できる。
【0038】
また、多孔質体に含まれる不連続の強化繊維の種類としては、特に制限はなく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維、アラミド繊維などの有機繊維、あるいは天然繊維も使用でき、これらのうち1種または2種以上を併用してもよい。中でも、本発明のX線透過部材は、芯材(I)の多孔質体の前記強化繊維として炭素繊維を含むことが好ましい。炭素繊維は、高い比強度、比剛性を有するため、X線透過率をより向上させることができる。炭素繊維の例としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0039】
さらに、X線画像として均質な画像を得ることができるためには、そのような不連続の強化繊維は略単繊維状に分散していることがさらに好ましい。ここで、略単繊維状とは、不連続の強化繊維の単糸が500本未満の細繊度ストランドにて存在することを指す。なお、不連続の強化繊維の単糸径は、X線画像の均質性の観点から、20μm以下が好ましく、10μm以下がさらに好ましい。単糸径が20μmより太い場合、X線画像の均質性が低下する可能性がある。
【0040】
本発明のX線透過部材において、多孔質体が、不連続の強化繊維の交叉部分に樹脂が付着した三次元網目構造を有することが特に好ましい。このような構造において、多孔質体に含まれる空隙は、不連続の強化繊維と樹脂により形成された三次元網目構造において、不連続の強化繊維と樹脂が存在しない領域である。このような構造とすることで、樹脂単体で多孔質体を形成する場合に比べて、弾性率や強度といった力学特性が向上する効果を発現できるため、芯材(I)、表皮材(II)の両方を薄肉化することができ、X線透過性が向上する。また、X線機器に用いられるX線透過部材として、外部からの荷重や衝撃による破壊を抑制する効果がより高くなり、X線機器のメンテナンスコストを抑えることができる。
【0041】
このような構造において、強化繊維の交叉部分に付着している樹脂の種類としては、上記多孔質体を構成する材料と同種のものを用いることができる。本発明のX線透過部材において、多孔質体の不連続の強化繊維の交叉部分に付着した樹脂が熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂であることで、強化繊維の交叉部分に樹脂を付着させる制御が容易となり、均質な構造を得ることができるため、X線画像の画質をより向上させることができる。中でも、多孔質体の不連続の強化繊維の交叉部分に付着した樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、密度が低いため、X線透過性がより向上しやすくなる。ポリオレフィン系樹脂の例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などが挙げられる。
【0042】
本発明のX線透過部材において、多孔質体の目付の変動係数(Coefficient of Variation。以下、CV値という場合がある)が5%以下であることが好ましい。CV値をかかる範囲とすることにより、得られるX線画像の均質性がより向上する。CV値は、X線透過部材のうちX線が照射される領域全域を、投影面積を基準に3cm×3cmの格子状に切り分けたサンプルの重量から目付を計算し、その平均値と標準偏差から導出することができる。なお、格子状に切り分ける際は、X線が照射される領域全域の投影面積における図心まわりから順に切り出し、上記サイズに切り出せないX線透過部の端部の余り部分は測定対象から除外する。なお、切り分けたサンプルに表皮材(II)が接合されている場合は、カッターや研磨機を用いて除去する方法が例示できる。
目付[g/m2]=サンプル重量[g]/投影面積[m2]
目付のCV値[%]=目付の標準偏差[g/m2]/目付の平均値[g/m2]×100
CV値を上記範囲とするための方法としては、例えば、多孔質体として、樹脂と空隙からなる多孔質体を用いる方法などが挙げられる。また、多孔質体が前述の不連続の強化繊維を含む場合には、例えば、不連続の強化繊維の分散状態を調整する方法、平均繊維長Lfと平均繊維直径dの比(Lf/d)を調整する方法、強化繊維の弾性率を適宜選択することにより強化繊維の屈曲性を調整する方法などが挙げられる。
【0043】
本発明のX線透過部材は、芯材(I)と表皮材(II)との間に緩衝層(III)を含むことも好ましい。かかる態様とすることで、X線透過部材を成形する際に生じる、芯材(I)と表皮材(II)の変形や流動に伴う構造変化を抑制することができ、前述の断面曲線の算術平均粗さRaの制御が容易となる。また、緩衝層(III)の厚さは、芯材(I)と表皮材(II)の変形や流動に伴う構造変化を抑制することができれば特に制限は無い。X線透過性と剛性の観点から、緩衝層(III)の厚さは、30μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0044】
緩衝層(III)は、樹脂層とすることができる。樹脂層を構成する樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれでも良いが、熱硬化性樹脂に比べて粘度が高い熱可塑性樹脂が、X線透過部材を成形する時の変形を抑制する効果が高いため好ましい。また、熱可塑性樹脂とすることで、表皮材(II)を構成する繊維強化樹脂の前駆体に熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂としたプリプレグを用いた場合、成形時に生じるプリプレグから芯材(I)表面への樹脂流動を抑制することができる。表皮材(II)を構成する繊維強化樹脂の表面に予め緩衝層(III)となる熱可塑性樹脂層を設けておくことで、芯材(I)との一体化の際に接着層として機能させることもできる。このとき、熱可塑性樹脂層の樹脂として、芯材(I)および表皮材(II)よりも軟化または溶融温度が低い熱可塑性樹脂を選択することが、X線透過部材を成形する時の変形を抑制する効果を得る観点から好ましい。また、熱硬化性樹脂を緩衝層(III)に用いる場合は、芯材(I)への樹脂流動を抑制するため、成形時の加熱によって表皮材(II)を構成する樹脂よりも速硬化性を有する熱硬化性樹脂を選択することが好ましい。緩衝層(III)に用いる樹脂層は不連続の強化繊維を含んでいてもよい。不連続の強化繊維の種類としては、上記繊維強化樹脂を構成する強化繊維と同種のものを用いることができる。
【0045】
緩衝層(III)が不織布状基材を含む態様は特に好ましい。このような態様は、典型的には、X線透過部材を成形する際に芯材(I)と表皮材(II)の間に不織布状基材を配置しておくことで、成形中に表皮材(II)や芯材(I)から流動した樹脂を不織布状基材が吸引し、結果として不織布状基材に樹脂が含浸した層として残ることにより形成される。このように不織布状基材を用いることで、芯材(I)と表皮材(II)の境界を制御しやすくなる。不織布状基材の中でも、不連続の強化繊維が略単繊維状に分散した基材を含むことが、X線透過部材を成形する時の表皮材(II)および/または芯材(I)から流動する樹脂を吸引する効果がより高まるため、好ましい。
【0046】
本発明のX線透過部材の第二の態様を製造する方法としては、プレス成形、オートクレーブ成形、ハンドレイアップ成形などの公知の手法を用いることができるが、製造のサイクルタイムを短くする観点から、プレス成形が好ましい。
【0047】
また、プレス成形による製造方法としては、以下に示す工程(A)~(C)を含むことが好ましい。
工程(A):表皮材(II)を構成する強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化樹脂またはその前駆体を準備する工程。
工程(B):芯材(I)を構成する多孔質体またはその前駆体を準備する工程。
工程(C):工程(A)で得られた基材を工程(B)で得られた基材の少なくとも片側に配置し、一対の両面型にて加熱、加圧し、一体化する工程。
【0048】
本発明のX線透過部材の第二の態様を製造する方法において、前述の緩衝層(III)を形成する方法としては、前記工程(A)にて形成する方法、前記工程(C)にて形成する方法が例示できる。工程(A)にて緩衝層(III)を形成する方法としては、例えば、繊維強化樹脂の前駆体に緩衝層(III)を積層して加熱・加圧することで、緩衝層(III)が樹脂を含む場合は表皮材(II)と緩衝層(III)が一体となった繊維強化樹脂とする方法、樹脂を含まない場合は表皮材(II)の繊維強化樹脂に緩衝層(III)を貼り合わせる方法が例示できる。このとき、緩衝層(III)としては、熱可塑性樹脂層が好ましい。熱可塑性樹脂層とすることで、工程(C)の加熱によって熱可塑性樹脂層が軟化、溶融し、芯材(I)またはその前駆体と強固に一体化することができる。工程(C)にて緩衝層(III)を形成する方法としては、例えば、表皮材(II)の繊維強化樹脂またはその前駆体と、芯材(I)またはその前駆体との間に緩衝層(III)を配する方法が例示できる。このとき、緩衝層(III)としては、不織布状基材が好ましい。不織布状基材とすることで、工程(C)にて繊維強化樹脂または繊維強化樹脂の前駆体から流動した樹脂を吸引し、芯材(I)と表皮材(II)の境界を制御しやすく、結果として不織布状基材に樹脂が含浸した層として緩衝層(III)が形成される。
【0049】
本発明のX線検査機器は、本発明のX線透過部材を、X線が透過する領域を構成する構造部材として用いてなる。本発明のX線透過部材を用いることで、高いX線透過率を達成しながら、画像のノイズ特性を良好にできるため、得られるX画像の画質が向上する。X線検査機器の具体例は、上述のとおりである。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0051】
[材料]
<プリプレグ>
・プリプレグ1
表皮材として用いる繊維強化樹脂の前駆体として、東レ(株)製の“トレカ(登録商標)プリプレグ”F6347B-05Kを用いた。
・プリプレグ2
表皮材として用いる繊維強化樹脂の前駆体として、東レ(株)製の“トレカ(登録商標)プリプレグ”P3252S-10を用いた。
【0052】
<ポリプロピレン(PP)フィルム>
・PPフィルム1
ポリプロピレン(未変性ポリプロピレン(“プライムポリプロ”(登録商標)J106MG(プライムポリマー(株)製))90質量%と、酸変性ポリプロピレン(“アドマー”(登録商標)QE800(三井化学(株)製))、10質量%とを混合してなるマスターバッチを用いて、目付100g/m2のポリプロピレンフィルムを作製した。
・PPフィルム2
酸変性ポリプロピレン(三洋化成(株)製ユーメックス1010)30質量%と、ポリプロピレン(三井化学(株)製J229E)70質量%とを混合してなるマスターバッチを用いて、目付30g/m2のポリプロピレンフィルムを作製した。
【0053】
<炭素繊維抄造体>
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、及び表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本の連続炭素繊維からなる炭素繊維(繊維直径7μm)をカートリッジカッターで長さ6mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。その後、水と界面活性剤からなる分散媒を作製し、抄造装置に投入した。その後、所望の目付となるように、質量を調整したチョップド炭素繊維を、分散媒中に投入して攪拌することにより、炭素繊維が分散したスラリーを得た。次いで、抄造装置の貯水層からスラリーを吸引し、脱水した後、熱風乾燥機にて150℃、2時間の条件下で乾燥させ、目付100g/m2の炭素繊維抄造体を得た。
【0054】
<炭素繊維マット>
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、及び表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本の連続炭素繊維からなる炭素繊維(繊維直径7μm)をカートリッジカッターで長さ10mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。得られたチョップド炭素繊維を80cmの高さから自由落下させて、チョップド炭素繊維がランダムに分散した、目付100g/m2の炭素繊維マットを得た。
【0055】
[測定方法]
<断面曲線の算術平均粗さRa>
各実施例・比較例で作製したX線透過部材を、表面と垂直方向、つまり厚さ方向にダイヤモンドカッターでカットし、その断面を包埋・研磨した後、光学顕微鏡を用いて、200倍で撮影した。撮影した画像を、面方向に2mm以上の領域が画像範囲となるように連結することで、断面画像を得た。断面の一例を表す模式図を
図2に示す。
【0056】
図3の模式図を例として用いて断面曲線の求め方を説明する。得られた断面画像中の任意の2mm幅の観察範囲において、以下のように断面曲線を取得した。長方形型の断面画像5の表皮材(II)2側の外表面7を基準線として、表皮材(II)2から芯材(I)3に向かって5μm間隔で垂基線8を描いた。基準線から描かれる垂基線8が初めて芯材(I)を構成する多孔質体の空隙4と交わる点をプロットし、プロットされた点を結んだ線を断面曲線9とした。得られた断面曲線からJIS B0601(2001)に準拠し、基準長さを2mmとして、断面曲線の算術平均粗さRaを求めた。
【0057】
<X線透過率>
IEC61331-1に準拠したナロービーム体系で、IEC62220-1に準拠した線質であるRQA-M2にて、評価を実施した。X線透過率としては、サンプルを配置しない状態で検出される値を100として、各実施例・比較例で作製したX線透過部材を透過したときに検出される値の割合を評価した。
【0058】
<X線画像の画質特性評価>
IEC62220-1に準拠した線質であるRQA-M2にて、各実施例・比較例で作製したX線透過部材のX線画像を撮影した。得られたX線画像を解析してNPS曲線を取得し、空間周波数1Cycle/mmのときのNPSの値を画質特性として評価した。なお、NPSの値が低いほど、画質に係わるノイズが減っていることを意味し、画質特性が優れる。
【0059】
<多孔質体の密度>
JIS K7222(2005)に準拠して、各実施例・比較例で作製した多孔質体の密度を取得した。なお、表皮材(II)が接合され芯材(I)単独の取得が困難な場合は、NC加工機を用いて表皮材(II)を除去することで多孔質体を抽出した。
【0060】
<多孔質体の曲げ特性評価>
JIS K7017(1999)に準拠して、各実施例・比較例で作製した多孔質体の曲げ弾性率および曲げ強度を取得した。試験片サイズは、上記規格のクラスIを採用した。なお、表皮材(II)が接合され芯材(I)単独の取得が困難な場合は、NC加工機を用いて表皮材(II)を除去することで多孔質体を抽出した。
【0061】
<X線透過部材の表皮材(II)の厚みの和tsと芯材(I)の厚みの和tc>
各実施例・比較例で作製したX線透過部材を、表面と垂直方向、つまり厚さ方向にダイヤモンドカッターでカットし、その断面を包埋・研磨した後、光学顕微鏡を用いて、200倍で撮影した。撮影した画像を、厚さの全領域が含まれ、かつ面方向に2mm以上の領域が画像範囲となるように連結することで、断面画像を得た。
【0062】
得られた断面画像中の任意の2mm幅の観察範囲において、表皮材(II)側の外表面を基準線として、表皮材(II)から芯材(I)に向かって垂基線を描き、基準線から描かれる垂基線が初めて芯材(I)を構成する多孔質体の空隙と交わったときの垂基線長さを記録した。任意の箇所で10回測定し、その平均値をtsとした。表皮材(II)が複数層ある場合は、それぞれ垂基線長さの平均値を求めてそれらの平均値をtsとした。
【0063】
芯材(I)の厚みの和tcは、X線透過部材の厚みから前記の手法で求めたtsを差し引くことで求めた。
【0064】
[実施例1]
PPフィルム1を4枚と、炭素繊維抄造体2枚とを、PPフィルム1/炭素繊維抄造体/PPフィルム1/PPフィルム1/炭素繊維抄造体/PPフィルム1の順で積層した。油圧プレス機を用いて、得られた積層体を180℃の温度で加熱、3MPaの圧力で加圧によりポリプロピレン樹脂を含浸させた後、圧力を解放して2.5mmのスペーサーをツール板の間に挟み、100℃で冷却して、芯材Aを得た。この芯材Aの片面にプリプレグ1を積層し、油圧プレス機を用いて150℃30分間、面圧0.5MPaで加熱加圧して、X線透過部材を得た。
【0065】
[実施例2]
プリプレグ1の片面に、PPフィルム2を積層し、油圧プレス機を用いて、150℃30分間、面圧0.5MPaで加熱加圧して、片面に緩衝層(III)となるポリプロピレンの層を有する繊維強化樹脂Bを得た。芯材として実施例1に記載の方法にて得られた芯材Aを準備した。この芯材Aの片面に繊維強化樹脂Bのポリプロピレンの層が芯材A側となるように積層し、油圧プレス機を用いて160℃10分間、面圧1.0MPaで加熱加圧した後、面圧を保持した状態で50℃まで冷却して、X線透過部材を得た。
【0066】
[実施例3]
表皮材(II)として実施例2に記載の方法にて得られた繊維強化樹脂Bを準備した。アクリルフォーム(“フォーマック(登録商標)”S#1000、積水化学工業(株)製)を切り出して、厚さ2.5mmの芯材Cを得た。この芯材Cの片面に、繊維強化樹脂Bのポリプロピレンの層が芯材C側となるように積層し、油圧プレス機を用いて160℃10分間、面圧1.0MPaで加熱加圧した後、面圧を保持した状態で50℃まで冷却して、X線透過部材を得た。
【0067】
[比較例1]
芯材Aの片面にプリプレグ1を積層し、油圧プレス機を用いて150℃30分間、面圧3.0MPaで加熱加圧して、X線透過部材を得た。
【0068】
[比較例2]
芯材Cの片面にプリプレグ1を積層し、油圧プレス機を用いて150℃30分間、面圧3.0MPaで加熱加圧して、X線透過部材を得た。
【0069】
[実施例4]
PPフィルム1を2枚と、炭素繊維抄造体1枚とを、PPフィルム1/炭素繊維抄造体/PPフィルム1の順で積層した。油圧プレス機を用いて得られた積層体を180℃の温度で加熱、3MPaの圧力で加圧によりポリプロピレン樹脂を含浸させた後、圧力を解放して1.0mmのスペーサーをツール板の間に挟み、100℃で冷却して、芯材Dを得た。この芯材Dの両面に、[0/90/芯材D/90/0]の積層構成となるようプリプレグ2を積層し、油圧プレス機を用いて150℃30分間、面圧0.5MPaで加熱加圧して、X線透過部材を得た。なお、上記積層構成の表記に関して、予め定めた基準軸に対してプリプレグ2の繊維方向が一致する層が[0]、繊維直交方向が一致する層が[90]である。
【0070】
[実施例5]
PPフィルム1を2枚と、炭素繊維抄造体1枚とを、PPフィルム1/炭素繊維抄造体/PPフィルム1の順で積層した。油圧プレス機を用いて得られた積層体を180℃の温度で加熱、3MPaの圧力で加圧によりポリプロピレン樹脂を含浸させた後、100℃の温度で3MPaの圧力にて加圧して、シート状の芯材前駆体を得た。この芯材前駆体の両面に、[0/90/芯材前駆体/90/0]の積層構成となるようプリプレグ2を積層し、油圧プレス機を用いて150℃30分間、面圧0.5MPaで加熱加圧して、予備成形体を得た。得られた予備成形体を180℃のオーブンで10分間予熱することで芯材前駆体を膨張させて多孔質体とした後、1.4mmのスペーサーを配したツール板の間に挟み、100℃で冷却してX線透過部材を得た。
【0071】
[実施例6]
プリプレグ2を[0/90]の積層構成となるように積層した積層体の片面に、PPフィルム2を積層し、油圧プレス機を用いて、150℃30分間、面圧0.5MPaで加熱加圧して、片面に緩衝層(III)となるポリプロピレンの層を有する繊維強化樹脂Eを2セット作製した。芯材(I)として実施例4に記載の方法にて得られた芯材Dを準備した。この芯材Dの両面に繊維強化樹脂Eのポリプロピレンの層が芯材D側となり、かつ表面の繊維配向方向が一致するように積層し、油圧プレス機を用いて160℃10分間、面圧1.0MPaで加熱加圧した後、面圧を保持した状態で50℃まで冷却して、X線透過部材を得た。
【0072】
[実施例7]
炭素繊維抄造体に変えて、炭素繊維マットを用いた以外は、実施例4と同様の方法でX線透過部材を得た。
【0073】
[実施例8]
表皮材(II)として実施例6に記載の方法にて得られた繊維強化樹脂Eを準備した。ポリメタクリルイミドフォーム(“ROHACELL(登録商標)”110 IG-F、ダイセル・エボニック(株)製)を切り出して、厚さ1.0mmの芯材Fを得た。この芯材Fの両面に繊維強化樹脂Eのポリプロピレンの層が芯材F側となり、かつ表面の繊維配向方向が一致するように積層し、油圧プレス機を用いて160℃10分間、面圧1.0MPaで加熱加圧した後、面圧を保持した状態で50℃まで冷却して、X線透過部材を得た。
【0074】
[実施例9]
表皮材(II)として実施例6に記載の方法にて得られた繊維強化樹脂Eを準備した。ポリプロピレンフォーム(“エフセル(登録商標)”RC2010、古河電気工業(株)製)を切り出して、厚さ1.0mmの芯材Gを得た。この芯材Gの両面に繊維強化樹脂Eのポリプロピレンの層が芯材G側となり、かつ表面の繊維配向方向が一致するように積層し、油圧プレス機を用いて160℃10分間、面圧1.0MPaで加熱加圧した後、面圧を保持した状態で50℃まで冷却して、X線透過部材を得た。
【0075】
上記実施例および比較例で得られたX線透過部材の特性を表1および表2にまとめる。
【0076】
【0077】
【符号の説明】
【0078】
1 X線透過部材
2 表皮材(II)
3 芯材(I)
4 空隙
5 断面画像
6 境界
7 端面
8 垂基線
9 断面曲線
【要約】
本発明は、X線検査機器のX線透過部材として適用したときに得られるX線画像の画質が良好となる部材を提供することを目的とする。
上記目的を達するための本発明のX線透過部材の一態様は、
X線検査機器に用いられるX線透過部材であって、
芯材(I)と、芯材(I)の少なくとも片側に配置された表皮材(II)と、を有し、
芯材(I)は、多孔質体であり、
表皮材(II)は繊維強化樹脂からなり、
芯材(I)の、表皮材(II)側の接合面が形成する断面曲線のJIS B0601(2001)で定義される算術平均粗さRaが50μm以下である。