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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】非接触音響解析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/12 20060101AFI20230314BHJP
   G01N 29/46 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
G01N29/12
G01N29/46
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019095500
(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公開番号】P2020190460
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [公開の事実1] 刊行物:土木学会第73回年次学術講演会予稿集 第823-824頁 発行日:平成30年8月1日 集会名:土木学会第73回年次学術講演会 [公開の事実2] 刊行物:日本音響学会2018年秋季研究発表会講演論文集 第743-744頁 発行日:平成30年8月29日 集会名:日本音響学会2018年秋季研究発表会 [公開の事実3] 刊行物:第39回超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム(USE2018)(平成30年10月29日~31日開催)に配布されたUSBメモリー 収録日:平成30年9月28日 集会名:第39回超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム [公開の事実4] 刊行物:IEEE International Ultrasonics Symposium 2018(平成30年10月22日~25日開催)に配布されたUSBメモリー 収録日:平成30年10月1日 集会名:IEEE International Ultrasonics Symposium 2018 [公開の事実5] 集会名:日本非破壊検査協会 平成30年度 秋季講演大会,神戸商工会議所 開催日:平成30年11月15日 [公開の事実6] 刊行物:日本音響学会2019年春季研究発表会講演論文集 第703-704頁 発行日:平成31年2月19日 集会名:日本音響学会2019年春季研究発表会 [公開の事実7] 刊行物:安全・安心な社会を築く先進材料・非破壊計測技術シンポジウム論文集 第31-34頁 発行日:平成31年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】593232206
【氏名又は名称】学校法人桐蔭学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000172813
【氏名又は名称】佐藤工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221546
【氏名又は名称】東電設計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501091006
【氏名又は名称】株式会社東設土木コンサルタント
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】杉本 恒美
(72)【発明者】
【氏名】杉本 和子
(72)【発明者】
【氏名】歌川 紀之
(72)【発明者】
【氏名】黒田 千歳
(72)【発明者】
【氏名】森岡 宏之
(72)【発明者】
【氏名】中川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】杉崎 直人
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224891(JP,A)
【文献】特開2018-096858(JP,A)
【文献】特開2017-090091(JP,A)
【文献】特開2017-138239(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/199455(JP,A1)
【文献】特開2012-215600(JP,A)
【文献】特表平09-506425(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0225509(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0285626(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103940905(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の測定面に音波を照射して前記測定面を加振する音響発信源と、
前記測定面に定めた複数の計測点において前記測定面に対する振動速度スペクトルを計測するレーザードップラー振動計と、
前記レーザードップラー振動計によって計測された前記振動速度スペクトルのそれぞれに対して周波数毎のスペクトルエントロピーである空間スペクトルエントロピーを適用することによって、当該振動速度スペクトルが計測された計測点を解析する解析装置と、
を備え、
前記構造物の欠陥部の共振周波数帯域および前記レーザードップラー振動計の共振周波数帯域を識別可能にする解析結果を、前記解析装置が出力することを特徴とする非接触音響解析システム。
【請求項2】
前記測定面に定める複数の計測点の配列が格子点になっていることによって、前記測定面が二次元空間を構成しており、
前記解析装置は、前記二次元空間を構成する複数の計測点において計測された前記振動速度スペクトルに対して前記空間スペクトルエントロピーを適用する請求項1に記載の非接触音響解析システム。
【請求項3】
前記解析装置は、前記振動速度スペクトルに対して前記空間スペクトルエントロピーを適用して導出される値が第1の閾値以下である場合、当該振動速度スペクトルが計測された計測点の内部に欠陥が生じているものと解析する請求項1または2に記載の非接触音響解析システム。
【請求項4】
前記解析装置は、前記振動速度スペクトルに対して前記空間スペクトルエントロピーを適用して導出される値が第2の閾値以上である場合、当該振動速度スペクトルが前記レーザードップラー振動計のレーザーヘッドの共振周波数又は共振周波数帯域であるものと解析する請求項1から3のいずれか一項に記載の非接触音響解析システム。
【請求項5】
前記第1の閾値が、前記振動速度スペクトルに対して前記空間スペクトルエントロピーを適用して導出される値の中央値より小さく、
前記第2の閾値が、前記中央値より大きい請求項3に従属する請求項4に記載の非接触音響解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触音響解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象物に対して音波を照射することによって、接触せずに検査対象物の健全性を解析する手法が知られている。
この種の非接触音響解析システムとして、下記の特許文献1を例示する。
【0003】
特許文献1には、空中音波で検査対象面を加振し,レーザードップラー振動計(LDV:Laser Doppler Vibrometer)を用いて検査対象面の振動速度を測定することによって、欠陥部における共振周波数を検出することによって、検査対象面内部の欠陥の有無を解析する手法(以下、非接触音響探査法)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-90091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている非接触音響探査を用いると、音源からの直接波や周囲からの反響等の影響により、高感度のレーザードップラー振動計が共振しやすい周波数帯域が生じうる。
通常の距離からの非接触音響探査は、その周波数帯域がごく狭い帯域(20~30Hz程度)に限られるため、その周波数帯域を除いたデータ解析でも、その周波数帯域と欠陥部における共振周波数が完全に重ならない限りは欠陥検出の目的を十分に達成できる。
一方、遠距離からの非接触音響探査については、距離が離れるほど空中音波の音圧を大きくする必要があるものの、解放的な空間(例えば、高架橋の下部)で実施される場合には、通常の距離からの非接触音響探査と同じように、通常と同様のデータ解析でも特に問題を生じない。しかしながら、閉鎖的な空間(例えば、地下空洞)では、周囲を囲むコンクリートからの反響や残響等の影響により、レーザードップラー振動計のレーザーヘッドの共振周波数帯域が広がる傾向にあり、通常と同様のデータ解析では欠陥検出に支障をきたす場合がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、解放空間及び閉鎖空間のいずれにおいても有効に非接触音響探査を実施可能とする非接触検査システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、構造物の測定面に音波を照射して前記測定面を加振する音響発信源と、前記測定面に定めた複数の計測点において前記測定面に対する振動速度スペクトルを計測するレーザードップラー振動計と、前記レーザードップラー振動計によって計測された前記振動速度スペクトルのそれぞれに対して周波数毎のスペクトルエントロピーである空間スペクトルエントロピーを適用することによって、当該振動速度スペクトルが計測された計測点を解析する解析装置と、を備え、前記構造物の欠陥部の共振周波数帯域および前記レーザードップラー振動計の共振周波数帯域を識別可能にする解析結果を、前記解析装置が出力することを特徴とする非接触音響解析システムが提供される。
【0008】
上記発明は、レーザードップラー振動計の計測結果(測定面上の複数の計測点において計測された振動速度スペクトル)に対して空間スペクトルエントロピーを適用して解析を行うものである。この空間スペクトルエントロピーは、振動速度スペクトルに係る情報エントロピーを複数の計測点において計測された振動速度スペクトルに対して周波数毎に算出したものであり、測定面における振動速度分布の白色性を周波数毎に解析することができる。
欠陥部におけるたわみ共振周波数帯域においては、測定面における振動速度分布の白色性が低くなる傾向があり、レーザードップラー振動計の共振周波数帯域における測定面における振動速度分布の白色性が高くなる傾向があるため、上記発明は、これらを区別した解析を実現でき、解放空間及び閉鎖空間のいずれで実施する非接触音響探査においても十分な精度で欠陥部を検出することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、解放空間及び閉鎖空間のいずれにおいても有効に非接触音響探査を実施可能とする非接触検査システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の解析に用いる空間スペクトルエントロピーの原理を示す概念図である。
図2】本発明に係る非接触音響解析システムの構成図である。
図3】本発明の評価試験に用いたコンクリート試供体の説明図である。
図4】円形空洞欠陥の中心部に対応する計測点における振動速度スペクトルを示す図である。
図5図4に図示した振動速度スペクトルに空間スペクトルエントロピーを適用した解析結果を示す図である。
図6】従来方法によって測定結果を映像化した画像を示す図である。
図7】空間スペクトルエントロピーの適用によって測定結果を映像化した画像を示す図である。
図8】地下大空洞の天井面を撮影した画像を示す図である。
図9】欠陥部と判断された計測点における振動速度スペクトルを示す図である。
図10図9に図示した振動速度スペクトルに空間スペクトルエントロピーを適用した解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0012】
<スペクトルエントロピーについて>
スペクトルエントロピーとは、一般的には時間信号に対して用いられ、時間信号のスペクトルを確率分布とみなし情報エントロピーを計算したものであり、その時間信号の白色性を示す特徴量である。
本発明では、レーザードップラー振動計の計測結果に対してスペクトルエントロピーを援用する。なお、本発明に用いるスペクトルエントロピーについては、単一の測定点に対するスペクトルエントロピーと区別するために空間スペクトルエントロピーと呼称する。
【0013】
図1は、本発明の解析に用いる空間スペクトルエントロピーの原理を示す概念図である。
図1に示すように、測定面2上にある測定点の振動速度スペクトルの周波数軸を考える。図1に図示される周波数軸は、各計測点(計測点r、計測点r、計測点r)における複数の振動速度スペクトル(振動速度スペクトルS、振動速度スペクトルS、振動速度スペクトルS)を示している。
本発明の解析において空間スペクトルエントロピーを適用するにあたり、解析装置は測定面2に配置された複数の計測点のそれぞれについてスペクトルエントロピーを計算することが好ましい。
以下の式(1)は、本発明の解析に用いる空間スペクトルエントロピーの演算式の一具体例を示すものである。
【0014】
【数1】
【0015】
ここで、Si,j(f)は、測定面2に定めた各計測点(ri,j)で計測された信号を離散フーリエ変換して得られるパワー・スペクトルの周波数成分を表すものであり、単位はHz(ヘルツ)である。
また、Pi,j(f)は、測定面2に定めた各計測点(ri,j)におけるパワー・スペクトルの周波数成分が、測定面内で存在する確率である。
【0016】
上述したように、上記の演算式は測定面2の全体(二次元の計測空間)に拡張されるものである。ここで、測定面2は、全ての領域が平面であることに限られず、領域の少なくとも一部に曲面が含まれてもよい。
【0017】
<本発明に係る解析システム10について>
図2は、本発明に係る非接触音響解析システム(以下、「解析システム」と略記する場合がある)10の構成図である。
【0018】
解析システム10は、構造物1の測定面2に音波を照射することをもって種々の解析(例えば、構造物1の内部に生じた欠陥部3の有無の解析等)を行うシステムである。
解析システム10は、少なくとも以下の音響発信源11、レーザードップラー振動計13、及びコンピュータ15を備える。
音響発信源11は、構造物1の測定面2に音波を照射して測定面2を加振する。
レーザードップラー振動計13は、測定面2に定めた複数の計測点(例えば、計測点r、計測点r、計測点r、計測点r及び計測点r)において測定面2に対する振動速度スペクトルを計測する。
コンピュータ15は、レーザードップラー振動計13によって複数の計測点において計測された振動速度スペクトルに対して空間スペクトルエントロピーを適用することによって、当該振動速度スペクトルが計測された計測点を解析する機能(本発明の解析装置に相当するもの)を有する。
本発明に係る解析システム10は、構造物1の欠陥部3の共振周波数帯域およびレーザードップラー振動計13の共振周波数帯域を識別可能にする解析結果を、コンピュータ15が出力することを特徴とする。
【0019】
図2に図示した構成は一具体例であり、本発明の実施における解析システム10は、不図示の構成が追加されてもよい。
例えば、音響発信源11から照射する音波の周波数を制御する装置(ファンクションジェネレータ)や音響発信源11から照射する音波の出力を増幅させる装置(オーディオアンプ)等が追加されてもよい。
また、音響発信源11は、必ずしも固定的に設置される必要はなく、不図示の移動体(車両や航空機等)に搭載されて移動可能であってもよい。
【0020】
解析システム10によって解析される構造物1としては、例えば、コンクリート構造物(橋梁やトンネル等の建築物)や鋼構造物(鋼橋や鉄塔の構造物)等が挙げられる。
【0021】
音響発信源11には、測定面2を面的に加振しうるフラットスピーカを好ましく用いることができる。音響発信源11には、フラットスピーカの他、パラメトリックスピーカ、ラウドスピーカ、パルスレーザ、高圧ガスガン、衝撃波管等を用いることができる。
【0022】
音響発信源11から測定面2に照射される音波は、測定面2に係る振動速度がレーザードップラー振動計13によって測定できる程度に、測定面2を振動させることができる音波であればよい。
音響発信源11から送出される音波の周波数は、欠陥部3の共振特性に合わせて調整可能であることが好ましく、可聴帯域の音波(音響波)及び可聴帯域より高い帯域の音波(超音波)を含みうる。
【0023】
レーザードップラー振動計13は、音波により加振された測定面2の振動速度を光学的に計測する手段である。
レーザードップラー振動計13は、100~150メートル程度離れている位置に存在する測定面2についても振動速度を計測可能であるため、構造物1が比較的大きな建築物であっても解析対象としうる。
【0024】
レーザードップラー振動計13については、1回の計測で1点における計測が可能なシングルレーザタイプのものを用いることも可能である。
しかしながら、レーザードップラー振動計13は、1回の計測で複数点における計測が可能なスキャニングレーザタイプのものを用いることが好ましい。言い換えれば、測定面2に定める計測点(図2の例によれば、計測点r、計測点r、計測点r、計測点r、計測点r)が複数になっており、レーザードップラー振動計13は、測定面2上に定められた複数の計測点において振動速度スペクトルを並行して計測するものであることが好ましい。
これにより、コンピュータ15(解析装置)は、測定面2上に定められた複数の計測点において計測された振動速度スペクトルのそれぞれに対して空間スペクトルエントロピーを適用することができる。
【0025】
測定面2に定める複数の計測点については、上述した空間スペクトルエントロピーを用いることを前提とするならば、その配列が格子点になっていることによって測定面2が二次元空間を構成していることが好ましい。そして、コンピュータ15(解析装置)は、二次元空間を構成する複数の計測点において計測された振動速度スペクトルに対して空間スペクトルエントロピーを適用することが好ましい。しかしながら、本発明の実施はこの実施態様に限られない。
例えば、測定面2に定める複数の計測点が直線状に配列されていることや、測定面2に定める計測点がランダムな配置であることを許容する。なお、これらの変形例において、コンピュータ15が解析に用いる空間スペクトルエントロピーの演算式は、式(1)のまま適用することができる。
【0026】
コンピュータ15は、本発明の解析装置に相当する機能を有する他に、音響発信源11による音波の出力を制御する機能や音響発信源11の出力と同期してレーザードップラー振動計13による計測を開始させる機能等を更に有してもよい。
コンピュータ15を実現するハードウェアは、上述した種々の機能を実現できるものであれば特に限定されず、汎用的なコンピュータを用いることができる。
【0027】
<本発明の評価試験について>
以下、本発明(上述の空間スペクトルエントロピーを適用して解析を行う解析システム10)の評価試験について、説明する。
【0028】
(評価試験方法について)
図3は、本発明の評価試験に用いたコンクリート試供体1Aの説明図である。
コンクリート試供体1A自体の大きさは、幅2m、高さ2m、奥行き0.3mである。
コンクリート試供体1Aの内部には、空洞欠陥を模した円形の発泡スチロール(以下、円形空洞欠陥3Aと称する)が埋設されている。
円形空洞欠陥3Aの直径Rは200mmであり、円形空洞欠陥3Aの厚みD2は25mmである。
円形空洞欠陥3Aが埋設されている深さD1は、コンクリート試供体1Aの表面から60mmである。
【0029】
音響発信源11からコンクリート試供体1Aの測定面2までの距離は5.0mである。
レーザードップラー振動計13からコンクリート試供体1Aの測定面2までの距離は7.7mである。
音響発信源11から出力される音波には、トーンバースト波(2000~6000Hz、変調周波数200Hz、インターバル50m秒)が用いられる。ここでトーンバースト波とは、所定のインターバルごとに周波数の異なる要素波形を複数含むものをいう。
この評価試験における加算平均回数は5回であり、計測点の数は121点(11×11)である。
【0030】
(測定結果について)
図4は、円形空洞欠陥3Aの中心部に対応する計測点における振動速度スペクトルを示す図である。
図4に図示する2500Hz付近の共振ピークP1は、レーザードップラー振動計13のレーザーヘッドの共振によるものである。
図4に図示する4100Hz付近の共振ピークP2は、円形空洞欠陥3Aの共振によるものである。
【0031】
図5は、図4に図示した振動速度スペクトルに空間スペクトルエントロピーを適用した解析結果を示す図である。
図5に示すように、当該解析結果における空間スペクトルエントロピーの値は、2500Hz付近(ピークP3)で増加しており、4100Hz付近(ピークP4)で減少している。
【0032】
図4図5を比較すれば明らかであるように、ピークP3はレーザードップラー振動計13のレーザーヘッドの共振によるものであり、ピークP4は円形空洞欠陥3Aの共振によるものであり、これらの値の大小に着目することによって、各々の共振周波数帯域を適切に区別することが可能である。
従って、コンピュータ15が図5に示す解析結果を出力することによって、解析者はコンクリート試供体1Aの円形空洞欠陥3Aの共振周波数帯域およびレーザードップラー振動計13の共振周波数帯域を目視により識別することができる。
【0033】
(円形空洞欠陥の映像化について)
図6は、従来方法によって測定結果を映像化した画像を示す図である。
図7は、空間スペクトルエントロピーの適用によって測定結果を映像化した画像を示す図である。
なお、図6及び図7において白色破線で囲っている領域は、円形空洞欠陥3Aが内在している位置を示すものである。
【0034】
図6及び図7は共に、コンピュータ15が、レーザードップラー振動計13によって測定された振動速度スペクトルから、目的とする時間帯及び周波数帯域を選択的に抽出して不要信号を除去し、不要信号除去後の振動速度スペクトルに基づいて計測点ごとの振動エネルギー比を算出して可視化したものである。
但し、上述した空間スペクトルエントロピーを適用した解析(図5参照)によって、円形空洞欠陥3Aの共振周波数は4100Hz付近と推測されるので、図7の映像化については、振動エネルギー比を算出する周波数帯域を4000~4250Hzに絞り込んでいる。一方、図6の映像化については、従来方法に従って、トーンバースト波の全周波数帯域である2000~6000Hzについて振動エネルギー比を算出した。
【0035】
図6図7を比較すると、空間スペクトルエントロピーを適用した解析結果(図7の画像)の方が従来方法の解析結果(図6の画像)に比べて、円形空洞欠陥3Aの位置をより忠実に再現していることがわかる。
また、空間スペクトルエントロピーを適用した解析結果の方が、従来方法の解析結果に比べて、円形空洞欠陥3Aが内在している位置とその周囲(健全な部分)との間の階調差(コントラスト)が大きくなることがわかる。
【0036】
<閉鎖空間における本発明の実施について>
続いて、実際の閉鎖空間における本発明の実施について説明する。
【0037】
(実施環境について)
閉鎖空間として地下大空洞を選定し、その地下大空洞の天井面を測定面2として、本発明に係る解析システム10を用いた非接触音響探査法を実施した。
なお、当該天井面は、吹き付けコンクリートになっている。
【0038】
音響発信源11から測定面2までの距離は21.5mである。
レーザードップラー振動計13から測定面2までの距離は22.0mである。
音響発信源11から出力される音波には、マルチトーンバースト波を用いた。ここでマルチトーンバースト波とは、所定のインターバルごとに到来する1回の送出タイミングにおいて、そのインターバルより短い時間長さであって且つ各々が異なる周波数である要素波形を複数含むものをいう。マルチトーンバースト波は、1回の出力で複数とおり周波数帯域にわたってカバーすることができるので、試験時間の短縮を図ることができる。
【0039】
図8は、地下大空洞の天井面(測定面2)を撮影した画像を示す図である。
図8に示される数字は計測点の識別番号であり、各数字の左側に示す+(プラス)の標記は計測点の位置を示している。
図8に示すとおり、この実施において測定面2に定めた計測点の数は121点(11×11)である。
また、図8における白色破線で囲われている領域は、地下大空洞における断層FAの位置を示すものである。
【0040】
(測定結果について)
図9は、欠陥部と判断された計測点(図8に「60」の識別番号が付与された計測点)における振動速度スペクトルを示す図である。
図9に図示する600Hz付近の共振ピークP5は、地下大空洞の天井面における欠陥部の共振によるものである。
図9に図示する630Hz付近の共振ピークP6及び1480Hz付近の共振ピークP7は、レーザードップラー振動計13のレーザーヘッドの共振によるものである。
【0041】
図10は、図9に図示した振動速度スペクトルに空間スペクトルエントロピーを適用した解析結果を示す図である。
図10に示すように、当該解析結果における空間スペクトルエントロピーの値は、600Hz付近(ピークP8及びピークP9)で減少し、当該付近が地下大空洞の天井面における欠陥部の共振周波数帯域であることがわかる。
図10に示すように、当該解析結果における空間スペクトルエントロピーの値は、630Hz付近(ピークP10)及び1480Hz付近(ピークP11)で増加し、当該付近がレーザードップラー振動計13のレーザーヘッドの共振周波数帯域であることがわかる。
【0042】
また、図10には、当該解析結果における空間スペクトルエントロピーの中央値Mが図示されている。
図10に示すように、ピークP8及びピークP9は中央値Mより小さい値であり、ピークP10及びピークP11は中央値Mより大きい値である。
従って、中央値Mより小さい閾値(以下、第1の閾値と称す)と、中央値Mより大きい閾値(以下、第2の閾値と称す)と、を適切に定めることによって、以下のような解析が可能になる。
まず、空間スペクトルエントロピーが第1の閾値以下である場合、コンピュータ15(解析装置)は、その振動速度スペクトルが計測された計測点の内部に欠陥が生じているものと解析することができる。一方、空間スペクトルエントロピーが第2の閾値以上である場合、コンピュータ15(解析装置)は、その振動速度スペクトルがレーザードップラー振動計のヘッドの共振周波数又は共振周波数帯域であるものと解析することができる。
従って、コンピュータ15が上記のような閾値を用いた解析の結果を出力することによって、地下大空洞の天井面の欠陥部の共振周波数帯域およびレーザードップラー振動計13の共振周波数帯域を自動的に(目視判断を要さずに)識別することができる。
【0043】
なお、上記の第1の閾値を用いた解析及び第2の閾値を用いた解析は、本発明の実施において必ずしもコンピュータ15が実行可能である必要はなく、双方を実行できなくてもよいし、いずれか一方のみが実行できてもよい。
また、上記の第1の閾値を用いた解析及び第2の閾値を用いた解析は、欠陥部の共振周波数帯域とレーザードップラー振動計13の共振周波数帯域とを、コンピュータ15が自動的に識別可能とするための手法の一具体例に過ぎず、これに代えて別の手法を用いてもよい。
【0044】
また、図示省略するが、コンピュータ15は、図7に示した画像と同様に、本試験の測定結果についても計測点ごとの振動エネルギー比を算出して可視化した画像を生成してもよい。
【0045】
<まとめ>
以上、説明したように、本発明に係る解析システム10は、空間スペクトルエントロピーを適用した解析処理を行うことによって、検査対象物(構造物1)に内在する欠陥部3の共振周波数帯域と、レーザードップラー振動計13のレーザーヘッドの共振周波数帯域と、を区別して検出することができる。
また、本発明に係る解析システム10は、空間スペクトルエントロピーについて適切な閾値を設定することによって、これらの共振周波数帯域を自動的に検出することができる。
【0046】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)構造物の測定面に音波を照射して前記測定面を加振する音響発信源と、前記測定面に定めた複数の計測点において前記測定面に対する振動速度スペクトルを計測するレーザードップラー振動計と、前記レーザードップラー振動計によって計測された前記振動速度スペクトルのそれぞれに対して周波数毎のスペクトルエントロピーである空間スペクトルエントロピーを適用することによって、当該振動速度スペクトルが計測された計測点を解析する解析装置と、を備え、前記構造物の欠陥部の共振周波数帯域および前記レーザードップラー振動計の共振周波数帯域を識別可能にする解析結果を、前記解析装置が出力することを特徴とする非接触音響解析システム。
(2)前記測定面に定める複数の計測点の配列が格子点になっていることによって、前記測定面が二次元空間を構成しており、前記解析装置は、前記二次元空間を構成する複数の計測点において計測された前記振動速度スペクトルに対して前記空間スペクトルエントロピーを適用する(1)に記載の非接触音響解析システム。
(3)前記解析装置は、前記振動速度スペクトルに対して前記空間スペクトルエントロピーを適用して導出される値が第1の閾値以下である場合、当該振動速度スペクトルが計測された計測点の内部に欠陥が生じているものと解析する(1)または(2)に記載の非接触音響解析システム。
(4)前記解析装置は、前記振動速度スペクトルに対して前記空間スペクトルエントロピーを適用して導出される値が第2の閾値以上である場合、当該振動速度スペクトルが前記レーザードップラー振動計のレーザーヘッドの共振周波数又は共振周波数帯域であるものと解析する(1)から(3)のいずれか一つに記載の非接触音響解析システム。
(5)前記第1の閾値が、前記振動速度スペクトルに対して前記空間スペクトルエントロピーを適用して導出される値の中央値より小さく、前記第2の閾値が、前記中央値より大きい(3)に従属する(4)に記載の非接触音響解析システム。
【符号の説明】
【0047】
1 構造物
1A コンクリート試供体
2 測定面
3 欠陥部
3A 円形空洞欠陥
10 解析システム
11 音響発信源
13 レーザードップラー振動計
15 コンピュータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10