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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】耐火材、及び構造部材の耐火構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20230314BHJP
   C09K 21/04 20060101ALI20230314BHJP
   C09K 21/02 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
E04B1/94 V
C09K21/04
C09K21/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018157162
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020029741
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】501352619
【氏名又は名称】三商株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598089591
【氏名又は名称】株式会社東穂
(73)【特許権者】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 圭一
(72)【発明者】
【氏名】國本 雅也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 賢
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124285(JP,A)
【文献】特開2007-162319(JP,A)
【文献】特開2002-309183(JP,A)
【文献】特開2003-064261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
C09K 21/02-21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の合成樹脂と、ポリリン酸アンモニウムと、多価アルコールとを含有する第1の層と、
前記第1の層に重ねて配置され、第2の合成樹脂と、熱膨張性黒鉛とを含有する第2の層とを備え、
前記第2の層は、ホウ酸と酸化アルミニウムとを含有し、
前記ホウ酸の含有量は、前記第2の合成樹脂100重量部に対し、70重量部から250重量部であり、
前記熱膨張性黒鉛の含有量は、前記第2の合成樹脂100重量部に対し、2重量部から30重量部であり、
前記第2の層が含有する前記酸化アルミニウムと前記ホウ酸との比(酸化アルミニウム/ホウ酸)は、質量比で0.45~1.5の範囲であり、
前記第2の層は、カルシウム塩を含まない又は、前記ホウ酸に対する、前記カルシウム塩の合計の質量比が10%未満である耐火材。
【請求項2】
前記第2の層が、火災時に直接火炎にさらされる側に配置される、請求項1に記載の耐火材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の耐火材を用いた構造部材の耐火構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、耐火材、及び構造部材の耐火構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築分野に用いられる耐火材として、膨張性黒鉛と樹脂とを混練してシート状に成形した被覆材が提案されている(特許文献1参照)。この被覆材は、建築物の火災によって高温にさらされると、発泡、炭化して断熱層を形成し、この断熱層によって建築材を保護する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-189975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の被覆材は、800℃以上の高温時には脆弱となり、火炎による上昇気流によって吹き飛んでしまうおそれがあり、改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示される耐火材は、第1の合成樹脂と、ポリリン酸アンモニウムと、多価アルコールとを含有する第1の層と、前記第1の層に重ねて配置され、第2の合成樹脂と、熱膨張性黒鉛とを含有する第2の層とを備える。
【0006】
第2の層は、火災時に比較的低温の段階で発泡し、断熱層を形成する。第1の層は第2の層と比較して発泡温度が高く、ある程度高温になってから発泡して断熱層を形成するが、断熱層の強度が高く、800℃以上の高温になっても形状を維持することができる。このように、性質の異なる2つの層を組み合わせることによって、火災の初期から長時間かつ広い温度範囲にわたって、耐火性能を維持することができる。
【0007】
上記の構成において、前記第2の層が、火災時に直接火炎にさらされる側に配置されることが好ましい。
【0008】
このように構成することにより、雰囲気温度が500℃以下の比較的低温までしか上がらなかった場合には、第2の層が断熱層を形成し、耐火性能を発揮することができる。また、雰囲気温度が800℃を超えるような火災の場合には、第2の層が火災の上昇気流によって吹き飛んでしまう場合があるが、このような場合であっても、第1の層が発泡して形成された断熱層により、耐火性能を維持することができる。
【発明の効果】
【0009】
本明細書によって開示される耐火材、及び構造部材の耐火構造によれば、火災の初期から長時間かつ広い温度範囲にわたって、耐火性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の耐火材の一例を示す断面図
図2】実施形態の耐火材の他の一例を示す断面図
図3】実施形態の耐火材の他の一例を示す断面図
図4】実施形態の耐火材の他の一例を示す断面図
図5】実施形態における鉄骨梁の部分拡大斜視図
図6】実施形態における、鉄骨梁の耐火構造の断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態を、図1図6を参照しつつ説明する。本実施形態の耐火材は、第1の合成樹脂と、ポリリン酸アンモニウムと、多価アルコールとを含有する第1の層と、前記第1の層に重ねて配置され、第2の合成樹脂と、熱膨張性黒鉛とを含有する第2の層とを備える。
【0012】
第1の層は、第1の合成樹脂と、ポリリン酸アンモニウムと、多価アルコールとを含有する。
【0013】
第1の合成樹脂の種類は、特に限定されないが、EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体)、EEA(エチレン-酢酸エチル共重合体)等のエチレン共重合体樹脂、塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニル樹脂、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム等の合成ゴム等を用いることができる。特に、練り込み特性に優れるエチレン共重合体樹脂を用いることが好ましい。結合剤としてEVAを用いる場合には、充分な発泡倍率を得るために、VA比率(酢酸ビニルの含有率)が10~20%であることが好ましい。
【0014】
ポリリン酸アンモニウムは、難燃剤であり、火災時の燃焼熱により脱水縮合して発泡する。この脱水縮合は吸熱反応であり、この吸熱反応により、鉄骨等の被覆対象に火災時の燃焼熱が伝導することを遅らせることができる。吸熱反応はポリリン酸アンモニウムの脱アンモニア反応である。
【0015】
多価アルコールは、炭化剤であり、ポリリン酸アンモニウムと同様に、火災時の燃焼熱により脱水縮合して発泡する。多価アルコールの種類は、特に限定されないが、ペンタエリスリトールを好ましく用いることができる。
【0016】
第1の層は、酸化チタンを含んでいても構わない。酸化チタンは、増粘剤であり、火災時に形成された断熱層が、施工対象物からたれ落ちることを抑制して断熱層の強度を維持する。使用される酸化チタンの比表面積が大きいほどたれ落ち抑制効果が大きいが、製造時の混錬が困難となる。このため、酸化チタンの、JIS K5101-13に準拠して測定された吸油量が15g/100g以上25g/100g以下であることが好ましい。
【0017】
第1の層は、無機繊維(セラミックファイバー、ロックウール等)、離型剤(脂肪酸エステル)、滑剤、加工助剤(ポリカルボジイミド等)等を含んでいても構わない。
【0018】
第2の層は、第2の合成樹脂と、熱膨張性黒鉛とを含有する。
【0019】
第2の合成樹脂は、ゴム系樹脂または熱可塑性樹脂、あるいはその両方を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂は、特に制限されず、公知の熱可塑性樹脂をそのまま用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアクリロニトリルスチレン系樹脂、ABS系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ナイロン6あるいはナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンスルファイド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリスルフォン系樹脂等を用いることができる。ゴム系樹脂は、特に制限されず、公知のゴム系樹脂をそのまま用いることができる。ゴム系樹脂としては、例えば、天然ゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、スチレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム、エチレン-酢酸ビニルゴム等が使用できる。これらの中でも、耐老化性に優れており入手しやすく安価であるという観点から、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、が好ましく、ブチルゴムがより好ましい。また、これらの熱可塑性樹脂およびゴム系樹脂は、溶融温度や柔軟性等を調整するために、二種以上が併用されてもよい。
【0020】
熱膨張性黒鉛は、加熱により膨張する性質があり、中和して用いることが好ましい。熱膨張性黒鉛は、20~200メッシュのものを用いることが好ましい。20メッシュよりも荒いとゴム系樹脂あるいは熱可塑性樹脂への混合性が悪化する傾向にあり、200メッシュよりも細かいと膨張倍率が少なくなる傾向にある。
【0021】
熱膨張性黒鉛は、ゴム系樹脂または熱可塑性樹脂、あるいはそれらの合計100重量部に対し、2重量部から30重量部であることが好ましく、より好ましくは3重量部から20重量部であり、さらに好ましくは5重量部から15重量部である。2重量部よりも少ないと、膨張が不十分なために、被覆する鉄骨表面の温度上昇を抑制する効果が小さくなる傾向にある。また、30重量部よりも多いと、膨張倍率が大きすぎて保形性が得られず、加温された際に貫通孔小口から脱落してしまう。2重量部から30重量部とすることで、保形性を有しつつ十分に膨張することができる。
【0022】
第2の層には、無機充填剤として、ホウ酸、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、石膏繊維、けい酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化けい素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム「MOS」(商品名)、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化けい素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥が挙げられる。これらのうち、含水無機物及び金属炭酸塩を用いることが好ましい。
【0023】
無機充填剤としてホウ酸を用いる場合には、例えば、オルトホウ酸HBO、メタホウ酸HBO、無水ホウ酸(酸化ホウ素)Bが使用でき、これらの中でもオルトホウ酸HBOが好ましい。
【0024】
ホウ酸は、加熱することにより分解してHOを放出する。この反応が吸熱反応であるということと、HOは不燃性ガスであるため可燃性ガスの濃度を低下させ着火しにくくするということにより、耐火被覆材の耐火性能を高める効果がある。また、分解の結果生じた酸化ホウ素は450℃で粘性の高い液体となり、本実施形態の耐火被覆材が加熱され膨張した際に、耐火被覆材の保形性を高め、耐火被覆材が崩壊・剥離・脱落するのを防ぐ働きがある。さらに、ホウ酸だけでは800℃以上の高温では分解して生じた酸化ホウ素の液体の粘度が低くなるため、熱膨張成分により膨張した材料が液体に溶けこんで縮んでしまい、耐火性を低下させてしまうが、原料として酸化アルミニウムを配合しておくと、酸化ホウ素の液体が酸化アルミニウムと反応し、新たにホウ酸アルミニウムAl1833の結晶を酸化ホウ素の液体中に生成することにより、膨張した材料の形状を保持することができるようになる。
【0025】
ホウ酸は、ゴム系樹脂あるいは熱可塑性樹脂100重量部に対し、70重量部から250重量部であることが好ましく、より好ましくは100重量部から200重量部である。70重量部よりも少ないと、膨張後の耐火被覆材の保形性を高める効果が劣る傾向にあり、250重量部よりも多いと、バインダーとなるゴム系樹脂あるいは熱可塑性樹脂の量が相対的に少なくなるため、成形が困難になる。70重量部から250重量部とすることにより、成形性と保形性とを両立することができる。ホウ酸は、単独で用いてもよいし、二種以上のホウ酸を用いてもよい。
【0026】
ホウ酸から生成した酸化ホウ素と酸化アルミニウムが800℃以上で反応することにより、ホウ酸アルミニウムAl1833が生成し、シートの形状を保持することができるようになる。酸化アルミニウムとホウ酸との比(酸化アルミニウム/ホウ酸)は、質量比で0.45~1.5の範囲である。0.45よりも小さいと、800℃以上の高温においては、熱膨張成分により膨張した材料が、ホウ酸から変化した酸化ホウ素の液体中に溶けこんで縮んでしまい、膨張が不十分となり、梁温度の上昇を抑える効果が不十分になる。1.5よりも大きいと、ホウ酸が膨張後の耐火被覆材の保形性を高める効果が劣る傾向にある。酸化アルミニウム/ホウ酸の比を、0.45~1.5とすることで、熱膨張時に梁温度の上昇を抑える効果と保形性とを両立することができる。
【0027】
無機充填剤として酸化アルミニウムを用いる場合のBET比表面積は、0.5~50m/gであることが好ましく、3~30m/gであることがより好ましく、10~20m/gであることがさらに好ましい。BET比表面積をこの範囲に収めることにより、800℃以上でのホウ酸アルミニウムの生成速度が高まり、シートの形状保持能力がさらに高まる。また、膨張倍率も高めることができる。
【0028】
水酸化アルミニウムも高温で脱水して酸化アルミニウムになるが、脱水により質量が35%も減少してしまうため、形状保持能力が酸化アルミニウムよりも小さく、適さない。
【0029】
無機充填剤としてホウ酸および酸化アルミニウムを用いる場合は、亜リン酸アルミニウムを、原材料コストがそれほど上がらない程度までの量であれば添加することができる。亜リン酸アルミニウムは、Al(HPOで表されるものであり、例えば、太平化学産業(株)の製品名APA-100等を用いることができる。亜リン酸アルミニウムを加えることにより、膨張したシートの形状を保持する能力がさらに高まる。
【0030】
無機充填剤としてホウ酸および酸化アルミニウムを用いる場合は、ケイ酸塩化合物、マグネシウム塩あるいはカルシウム塩を含まないか(0%)、含んだとしてもホウ酸に対するこれらの物質の合計の質量比が10%未満である必要がある。ここで言うケイ酸塩化合物とは、二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、アルミノケイ酸塩、フライアッシュ、シリカフューム、タルク、粘土、クレー、カオリン、シラス、マイカ、パーライト、珪藻土、ガラス、珪砂、珪石粉、ワラストナイト、砂等のことを言う。また、マグネシウム塩とは、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等のことを言う。ホウ酸に対するケイ酸塩化合物あるいはマグネシウム塩の質量比が10%以上になると、800℃以上の高温において、熱膨張成分により膨張した材料の一部または全部がホウ酸から変化した酸化ホウ素の液体中に溶け、体積が縮んでしまい、膨張が不十分となり、梁の耐火性能を改善する性能が得られない。また、カルシウム塩とは、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム等のことを言う。ホウ酸に対するカルシウム塩の合計の質量比が10%以上になると、膨張後の耐火被覆材の保形性を高める効果が劣る傾向にある。
【0031】
これらの材料は通常、かさ増しのための増量材として用いられることが多いが、上述したように、本組成物においては耐火性能に悪影響を与えてしまうため、用いる量が制限される。ホウ酸に対するケイ酸塩化合物あるいはマグネシウム塩の質量比を10%未満とすることで、耐火性能と保形性とを優れたものとすることができる。
【0032】
第2の層には難燃剤、酸化防止剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、顔料、界面活性剤、製泡剤、触媒、紫外線吸収剤、ゴム軟化剤(例えばプロセスオイルやポリブテンなど)、ゴム配合油、粘着付与剤等を含有させても良い。
【0033】
難燃剤としては例えば、テトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモシクロドデカン、トリブロモフェノール、エチレンビステトラブロモフタルイミド、臭素化ポリスチレン、エチレンビスペンタブロモジフェニール等の臭素系難燃剤、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化脂環化合物、含塩素リン酸エステル等の塩素系難燃剤、赤リン、三塩化リン、五塩化リン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等の無機リン系難燃剤、リン酸エステル等の有機リン系難燃剤、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤、水酸化アルミニウム、ホウ酸塩化合物、モリブデン化合物、スズ化合物、金属酸化物等の無機系難燃剤が挙げられる。これらは、ゴム系樹脂あるいは熱可塑性樹脂の難燃性を高める役割を担う。
【0034】
本実施形態の耐火材は、シート状またはテープ状であっても構わない。例えば、図1に示す耐火材10のように、第1の層11と第2の層12との2層構造を有するテープ状であっても構わない。また、図2に示す耐火材20のように、第1の層21の表裏両面に第2の層22を配した3層構造のテープ状であっても構わない。
【0035】
本実施形態の耐火材は、被覆される構造部材の形状に合わせた立体的な形状を有していても構わない。例えば、図3に示す耐火材30のように、ハーフパイプ状の第1の層31の外周面に、ブロック状の第2の層32が重ねられた構成であっても構わない。あるいは、図4に示す耐火材40のように、円筒状の第1の層41の内周面に、同じく円筒状の第2の層42が重ねられた構成であっても構わない。
【0036】
第1の層および第2の層は、上記の材料を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、二本ロール等の公知の混練装置を用いて溶融混練し、プレス成形、押出成形、カレンダー成形等の公知の成形方法により成形することによって得ることができる。
【0037】
第1の層と第2の層とは共押出によって同時に成形されることが好ましいが、第1の層と第2の層とを別々に成形して貼り合わせても構わない。
【0038】
上記の耐火材は、火災時の燃焼熱によって発泡して炭化し、断熱層を形成する。この断熱層によって、建築物の構造部材表面の温度上昇を抑制したり、隙間を塞いで火炎の貫通や空気(酸素)の流入を防いだりすることができる。
【0039】
第2の層は、火災時に比較的低温の段階で発泡し、断熱層を形成する。第1の層は第2の層と比較して発泡温度が高く、ある程度高温になってから発泡して断熱層を形成するが、断熱層の強度が高く、800℃以上の高温になっても形状を維持することができる。このように、性質の異なる2つの層を組み合わせることによって、火災の初期から長時間かつ広い温度範囲にわたって、耐火性能を維持することができる。
【0040】
第2の層は、火災時に直接火炎にさらされる側に設けられていることが好ましい。このように構成することにより、雰囲気温度が500℃以下の比較的低温までしか上がらなかった場合には、第2の層が断熱層を形成し、耐火性能を発揮することができる。また、雰囲気温度が800℃を超えるような火災の場合には、第2の層が火災の上昇気流によって吹き飛んでしまう場合があるが、このような場合であっても、第1の層が発泡して形成された断熱層により、耐火性能を維持することができる。
【0041】
上記の耐火材は、耐火性が要求される建築部材を被覆する耐火性の被覆材として、あるいは、建築部材そのものとして、好適に用いられる。
【0042】
例えば、窓、戸などの枠体の内縁または周縁、または仕切り壁の貫通孔の内縁に、テープ状に形成された耐火材を設けることができる。
【0043】
また、建物の壁、または車のエンジンルームと室内を分ける仕切り壁に貫通する貫通孔とダクトなどとの隙間の詰め物として耐火材を設けることができる。
【0044】
また、貫通孔に貫通する電線ケーブルなどに、テープ状に形成された耐火材を巻き付けて使用することができる。
【0045】
また、ALC、金属サンドイッチパネル、耐火性能が必要とされる外壁の目地に、テープ状に形成された耐火材を貼り付けておくことができる。これにより、外壁が火炎にさらされた際に、変形して目地が開いてしまっても、耐火材が膨張して隙間を塞ぎ、炎が室内側に貫通することを防ぐことができる。
【0046】
また、耐火材を建物の免震装置周りの耐火被覆の目地としても使用することができる。
【0047】
また、耐火材を内部に設けた扉を防火扉として使用することができる。
【0048】
また、第1の層をサッシの形状に成形して、その表面に部分的に第2の層を積層させても良い。このように構成することにより、樹脂サッシそのものの耐火性を向上させることができるとともに、特に火炎が貫通しやすい部分について第2の層により保護することができる。
【0049】
本実施形態の耐火材を、構造部材の耐火構造に適用した一例を、以下に説明する。
【0050】
構造部材100は、図5および図6に示すように、貫通孔102を有する鉄骨梁101と、この鉄骨梁101に取り付けられ、貫通孔102の周辺部分を補強する補強部材111とを備える。鉄骨梁101は、H形鋼であって、図6に示すように、コンクリートスラブSの下に配置されている。補強部材111は、貫通孔102の内部に通されるスリーブ管112(挿通部材に該当)と、このスリーブ管112に接合されるとともに、鉄骨梁101に溶接される2つのリング鋼材114(リング部材に該当)とで構成される。スリーブ管112は、貫通孔102の孔径とほぼ等しいか、僅かに小さい外径を有する短い円筒状の部材であって、筒の内部空間が挿通孔113に該当する。スリーブ管112の外周面には、詳細には図示しないが、ねじ山が設けられている。2つのリング鋼材114のそれぞれは、ねじ孔115を有するリング状の板材であって、スリーブ管112にねじ付けにより固定可能となっている。各リング鋼材114は、ねじ孔115を取り囲むように配置された複数の溶接孔116を有している。溶接孔116は、プラグ溶接を施すための孔である。
【0051】
スリーブ管112は、両端がそれぞれ鉄骨梁101の板面から突出するようにして、貫通孔102の内部に通されている。2つのリング鋼材114は、鉄骨梁101を挟むように配置され、それぞれスリーブ管112にねじ付けられることによって固定され、さらに、プラグ溶接によって鉄骨梁101に接合されている。
【0052】
挿通孔113の内周面には、図6に示すように、全周にわたって、耐火材121が配置されている。耐火材121は、テープ状に形成されて、挿通孔113の内周面に貼り付けられている。耐火材121は、第1の層122と、第2の層123とが重ね合わされた2層構造をなしており、第1の層122が挿通孔113の内周面に接しており、第2の層123がその内側、すなわち、火災の際に火炎に直接さらされる側に配されている。
【0053】
耐火材121が設けられた挿通孔113の内部には、図6に示すように、電気の配線等を通すための配管Pが挿通される。火災が起きていない通常時においては、耐火材121の内周面と、配管Pの外周面との間には、ある程度の隙間がある。
【0054】
鉄骨梁101の表面には、図6に示すように、吹き付けロックウールによって耐火被覆Rが形成されてもよい。
【0055】
火災が生じると、耐火材121が発泡して膨張するとともに炭化し、断熱層を形成する。この断熱層が構造部材への熱の伝達を抑制するとともに、挿通孔113の内周面と配管Pとの隙間をある程度埋めることで、火炎や熱が挿通孔113を通って拡がることを抑制できる。
【0056】
<試験例>
[試験体の作製]
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂100質量部、ポリリン酸アンモニウム150質量部、ペンタエリスリトール60質量部、酸化チタン75質量部を二軸混練押出機を用いて溶融混錬し、ストランド状に押し出された溶融樹脂を水冷し、ペレタイザーで長さ5mmにカットしてペレットとした。続いて該ペレットを短軸押出機を用いて溶融混練し、下記表1に示す厚みのシート状として第1の層を得た。
【0057】
ブチルゴム100質量部、熱膨張性黒鉛(株式会社鈴裕化学製、GREP-EG、膨張倍率180cc/g)7.5質量部、ホウ酸(関東化学株式会社製、試薬特級)150質量部、酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、A11、BET比表面積1.1m/g)148質量部、亜リン酸アルミニウム(太平化学産業株式会社製、APA-100)50質量部、プロセスオイル(出光興産株式会社製、PA90)45質量部を短軸押出機を用いて溶融混練し、下記表1に示す厚みのシート状として第2の層を得た。
【0058】
得られた第1の層と第2の層とを両面テープを用いて貼り合わせて試験体とした。
【0059】
[加熱試験]
各試験体を、電気炉を用いて、下記表1に示す温度に加熱して1時間保持した後、自然冷却して、発泡倍率(試験後厚さ÷試験前厚さ)を測定した。
【0060】
また、丸型テンションゲージOB-110G(株式会社大場計器製作所製)を用いて、発泡層が破壊されるときの荷重(破壊荷重)を測定した。
【0061】
なお、加熱は第2の層が上側を向くように設置して行った。ただし、実施例2については第1の層が上側を向くようにして加熱した。
【0062】
[結果]
実施例1~6および比較例1について、各試験体の第1の層および第2の層の厚さ、発泡倍率、破壊荷重を表1に示した。
【0063】
【表1】
【0064】
なお、破壊荷重の「110>」とは、使用したテンションゲージの最大荷重を超えても発泡層が破壊されなかったことを示す。
【0065】
第1の層がなく、第2の層のみの比較例1では、加熱温度500℃の場合には、使用したテンションゲージの最大荷重(110gf)を超えても発泡層が破壊されず、強度が保たれていたが、加熱温度800℃では、破壊荷重が52gfと低くなった。これに対し、第1の層と第2の層とが積層された実施例1~5では、加熱温度500℃、800℃のいずれの場合でも、破壊荷重が70gf以上であり、極めて高温の環境下にさらされてもある程度の強度が保たれることが分かった。
【符号の説明】
【0066】
10、20、30、40、121…耐火材
11、21、31、41、122…第1の層
12、22、32、42、123…第2の層
図1
図2
図3
図4
図5
図6