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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】溶融金属用保持炉の炉壁構造
(51)【国際特許分類】
   B22D 45/00 20060101AFI20230314BHJP
   B22D 41/02 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
B22D45/00 B
B22D41/02 B
B22D41/02 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018201346
(22)【出願日】2018-10-25
(65)【公開番号】P2020066037
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】516016632
【氏名又は名称】株式会社アクセル技研
(73)【特許権者】
【識別番号】510014869
【氏名又は名称】株式会社ヤマト
(74)【代理人】
【識別番号】100100170
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 厚司
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩一
(72)【発明者】
【氏名】辻井 竜太
(72)【発明者】
【氏名】平田 亨寛
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-313547(JP,A)
【文献】登録実用新案第3192138(JP,U)
【文献】特開平05-071878(JP,A)
【文献】特開2007-125605(JP,A)
【文献】特開平02-187246(JP,A)
【文献】国際公開第2016/009522(WO,A1)
【文献】特開昭58-217650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 45/00
B22D 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属に直接接触する内張層と、当該内張層の背面に位置する断熱層とからなる溶融金属用保持炉の炉壁構造であって、
前記内張層が、炉床及び下部側壁を構成する不定形耐火物製一体成形体の第1内張層と、上部側壁を構成する断熱ボードの第2内張層とからなり、
前記第1内張層の上端面と前記第2内張層の下端面との接合面が溶融金属中に位置する
ことを特徴とする溶融金属用保持炉の炉壁構造。
【請求項2】
前記接合面が凹形の溝と当該溝に篏合する凸形の条とからなることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属用保持炉の炉壁構造。
【請求項3】
前記第1内張層がアルミナ系不定形耐火物であり、前記第2内張層が珪酸カルシュウム系耐熱ボードであることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融金属用保持炉の炉壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム合金等の溶融金属を鋳造する際に使用される溶融金属用保持炉の炉壁構造に関し、詳しくは溶融金属に直接接触する内張層の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
低圧鋳造用溶湯保持炉やダイカスト用溶湯保持炉等の鋳造用溶湯保持炉における炉壁構造は、アルミニウム合金等の溶湯に直接接触する内張層と、当該内張層の背面に位置する断熱層(バックアップ層)とから構成されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、内張層(バス)がセラミックスの一体成形体の内槽で構成され、断熱層が内槽の外側にセラミックスペーパー、無機質粒子又は無機質繊維からなる分離層、断熱板がこの順で設けられた炉壁構造が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、内張層(収納容器)がアルミナ質不定形耐火物の一体成形からなる溶湯収容容器で構成された炉壁構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-15439号公報
【文献】特開2018-12131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炉壁構造の内張層を特許文献1,2に開示されているような耐熱キャスタブルで構成することは、任意の炉内形状を得ることができ、しかも施工が容易であること、及び耐久性に優れている一方、熱伝導率(W/m・k)が耐熱ボードと比較して高い。例えば、アルミナ系不定形耐火物の熱伝導率は、2.13~2.62W/m・k(at 800℃)であるのに対し、耐熱ボードである珪酸カルシウム質ボードは0.15W/m・k(at 400℃)である。
【0007】
ところで、アルミニウム合金等の鋳造作業では、鋳造用溶湯保持炉内の溶湯を一定量毎に鋳造機に供給し、炉内の溶湯が減少した時点で新たな溶湯を炉内に供給することを繰り返している。このため、保持炉内の湯面は、所定範囲で昇降する。また、湯面の昇降する領域における側壁(内張層表面)には強固な酸化物が付着することから、一定期間毎或いは付着酸化物の状態に基づき、付着酸化物の除去作業が行われている。
【0008】
したがって、内張層が耐熱キャスタブルで構成される炉壁構造では、熱伝導率が高いため、湯面から露出している側壁を介しての熱放散が多い。特に、ダイカスト用溶湯保持炉では、鋳造作業時に汲出し口が大気開放されており、しかも湯面が漸次低下して大気に晒される側壁面積が漸次増大するため、熱放散が著しい。このため、溶湯を所定温度(750~800℃)に保持するのに必要な熱量が増大し、その結果、溶湯を加熱保持するヒータ容量も大きくする必要がある。
【0009】
また、側壁面の付着酸化物を除去する作業中において、側壁を損傷した場合には、局部的な側壁の補修が不可能であるため、炉壁の全面補修が避けられない。このため、炉壁の補修が長期化し、補修費が増大する等の問題があった。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、内張層からの熱放散を減少し、ヒータの容量を軽減するとともに、補修が容易な溶融金属用保持炉の炉壁構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、
溶融金属に直接接触する内張層と、当該内張層の背面に位置する断熱層とからなる溶融金属用保持炉の炉壁構造であって、
前記内張層が、炉床及び下部側壁を構成する不定形耐火物製一体成形体の第1内張層と、上部側壁を構成する断熱ボードの第2内張層とからなり、
前記第1内張層の上端面と前記第2内張層の下端面との接合面が溶融金属中に位置する
ことを特徴とする。
【0012】
前記接合面が凹形の溝と当該溝に篏合する凸形の条とからなることが好ましい。
これにより、断熱層への溶融金属の侵入を抑制することができる。
【0013】
前記第1内張層がアルミナ系不定形耐火物であり、前記第2内張層が珪酸カルシウム系耐熱ボードであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第1内張層と第2内張層との接合面が溶融金属中に位置するので、溶融金属の湯面より上方には上部側壁を構成する第2内張層が露出している。第2内張層は、耐熱ボードからなり、熱伝導率が低いので、溶融金属からの伝熱量が低減し、大気に晒される側壁からの放熱量を減少することができる。また、放熱量の減少により、炉内に設置されるヒータの容量を縮小することができる。
溶融金属に直接接触する下部側壁の第1内張層は、不定形耐火物製であることから、溶融金属の断熱層内への侵入、及び内張層の破損が減少し、耐久性の向上を図ることができる。
側壁への付着酸化物を除去する作業中に内張層が破損しても、その破損部位は耐熱ボードの第2内張層であるから、内張層全体を補修する必要がなく、補修期間を短縮でき、また補修費も安価となる等の効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る溶融金属用保持炉の断面図。
図2図1のII-II線断面図。
図3図1の溶融金属用保持炉の平面図。
図4図1の溶融金属用保持炉の炉本体の平面図。
図5】第1内張層と第2内張層との接合部の拡大断面図。
図6図4のVI-VI線断面図。
図7図1のVII-VII線断面図。
図8図4のVIII-VIII線断面図。
図9図4のIX-IX線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る炉壁構造を備えた溶融金属用保持炉1を示す。溶融金属用保持炉1は、図4に示すように、溶湯受入室2、溶湯保持室3及び溶湯汲出室4から構成され、各室は上から見て略矩形で、上方に開口している。溶湯受入室2は溶融金属用保持炉1の正面から見て左側後方に配置され、溶湯汲出室4は左側前方に配置され、溶湯保持室3は右側に配置されている。溶湯受入室2と溶湯汲出室4は、第1仕切壁5を介して隣接して配置されている。溶湯保持室3は、第2仕切壁6を介して溶湯受入室2と溶湯汲出室4に隣接して配置されている。
【0018】
溶湯受入室2の炉床面は、溶湯汲出室4の炉床面よりも高い位置に形成されている。溶湯保持室3の炉床面は、溶湯受入室2の炉床面と同じ高さにあり、溶湯保持室3の炉床面の一部(第2仕切壁6の第2連通開口8付近)は、1段低い溜り部3aが形成され、該溜り部3aの炉床面は、溶湯汲出室4の炉床面と同じ高さに形成されている。図2に示すように、第2仕切壁6の下部には、溶湯受入室2と溶湯保持室3を連通する第1連通開口7が形成されるとともに、溶湯保持室3と溶湯汲出室4を連通する第2連通開口8が形成されている。これにより、図4に示すように、溶湯受入室2、溶湯保持室3及び溶湯汲出室4は、溶融金属用保持炉1の上から見て、溶湯受入室2から第1連通開口7を介して溶湯保持室3に連通し、溶湯保持室3から第2連通開口8を介して溶湯汲出室4に連通するように、コ字形に配置されている。
【0019】
図3に示すように、溶湯受入室2の上方の溶湯受入開口2aは、断熱蓋9で覆われている。断熱蓋9の所定箇所には、溶湯受入室2に溶湯を導入する桶10の下方開口(溶湯導入口)と連通する上方開口が設けられている。桶10の上方開口には、蓋11が開閉可能に設けられている。蓋11は、通常は閉状態で、溶湯導入時のみ開状態にされる。
【0020】
溶湯保持室3の上方開口3bは、図3に示すように、断熱蓋12で覆われている。溶湯汲出室4の上方の溶湯汲出開口4aは、着脱式の断熱蓋13a,13bで覆われている。操業時には、溶湯汲出開口4aの一部が断熱蓋13aで塞がれるが、他は溶湯を汲み出せるように開放される。操業停止時には、溶湯汲出開口4aは、断熱蓋13a,13bで塞がれる。
【0021】
溶湯保持室3の溜り部3aには、断熱蓋12の貫通口12aに浸漬ヒータ14が垂直に挿入されている。溶湯汲出室4には、当該溶湯汲出室4の肩部から断熱蓋13aの貫通口に浸漬ヒータ15が斜めに挿入されている。
【0022】
溶融金属用保持炉1の溶湯受入室2、溶湯保持室3及び溶湯汲出室4のそれぞれの炉壁は、溶融金属に直接接触する内張層16と、当該内張層16の背面に位置する断熱層17とから構成されている。
【0023】
図5に示すように、内張層16は、炉床及び下部側壁を構成する不定形耐火物製一体成形体の第1内張層16aと、上部側壁を構成する耐熱ボードの第2内張層16bとからなる。第1内張層16aと第2内張層16bとの接合面18は、溶融金属中に位置する。すなわち、接合面18は、湯面の下限LLよりも下に位置している。HLは湯面の上限である。
【0024】
第1仕切壁5は、図8に示すように、第1内張層16aの炉床と一体構造で下部壁を構成する下部仕切壁5aと、上部壁を構成する耐熱ボードの上部仕切壁5bとからなる。下部仕切壁5aと上部仕切壁5bとの接合面は、内張層16と同様に溶融金属中に位置するまた、第2仕切壁6は耐熱ボードで構成され、図9に示すように、両端が第2内張層16bで保持され、下端が溶融金属中に位置する。
【0025】
第1内張層16aの不定形耐火物としては、アルミナ系不定形耐火物、例えばカルデリス(株)のアルコン(商品名)からなり、その熱伝導率は、2.62W/m・k(800℃)程度である。
【0026】
第2内張層16b、第1仕切壁5の上部仕切壁5b及び第2仕切壁6の耐熱ボードとしては、珪酸カルシウム質ボード、例えばニチアス(株)のルミボード(商品名)からなり、その熱伝導率は、0.15W/m・k(400℃)程度である。第2内張層16b、第1仕切壁5の上部仕切壁5b及び第2仕切壁6の耐熱ボードは、モルタル等の接着剤を介して2枚重ね合わされている。
【0027】
図5図7に示すように、第1内張層16a及び下部仕切壁5aの各上面は凹形の溝19が形成され、第2内張層16b及び上部仕切壁5bの各下面は凸形の条20が形成されている。第1内張層16a及び下部仕切壁5aの各上面の凹形の溝19と、第2内張層16b及び上部仕切壁5bの各下面の凸形の条20は、モルタル等の接着剤を介して互いに嵌合し接合されている。

【0028】
断熱層17は、内張層16の外側にセラミックファイバーと耐火骨材を配合したセラミックファイバー不定形耐火物、バルク等の断熱充填層及び珪酸カルシウム系ボード等の断熱層で構成されている。
【0029】
次に、溶融金属用保持炉1の炉壁の施工方法について説明する。
【0030】
まず、図6図7に示すように、鉄皮からなる外板の内側に断熱ボード等で複数の層に断熱層17を施工する。断熱層17の表面から所定間隔(第1内張層16aの厚み相当分)をもって発泡スチロール製型枠を設置し、当該型枠と断熱層17の間に水等で混練したアルミナ質系不定形耐火物を流し込み、所定時間放置(養生)して脱枠した後、所定の昇温・冷却スケジュールで乾燥・冷却することで第1内張層16a及び第1仕切壁5の下部仕切壁5aを成形する。第1内張層16a及び下部仕切壁5aの上端面は、溶融金属用保持炉1の湯面より下で、常時溶融金属が浸漬状態となる位置である。
【0031】
第1内張層16a及び下部仕切壁5aの各上端面に、図7に示すように、凹形の溝19を形成し、各上端面に接着剤を塗布する。第1内張層16a及び下部仕切壁5aの上端面から保持炉の上端まで、珪酸カルシウム質ボードを設置する。珪酸カルシウム質ボードは、設置場所に合わせて適宜裁断し、下端面に第1内張層16a及び下部仕切壁5aの凹形の溝19に嵌合する凸形の条20を形成する。珪酸カルシウム質ボードを全ての第1内張層16a及び下部仕切壁5aの上端面に設置して、第2内張層16b及び第1仕切壁5を形成する。第2内張層16b及び第1仕切壁5の上部仕切壁5bは、第1内張層16aの厚さに応じて、1枚、又はそれ以上の枚数の珪酸カルシウム質ボードを重ねる。重ねた珪酸カルシウム質ボード間には接着剤が介在する。必要に応じて、珪酸カルシウム質ボード同士をねじ止めして積層してもよい。
【0032】
図4図6図9に示すように、溶融金属用保持炉1の第1仕切壁5の上部仕切壁5bの一方端は第2内張層16bの側面に形成した凹形の溝21に、他方端は第2仕切壁の側面に形成した凹形の溝21に、また第2仕切壁6の両端面は、第2内張層16bの側面に形成した凹形の溝21にそれぞれ接着剤を介して嵌合し接合するようにする。
【0033】
第1内張層16aは、前述したように型枠を使用するキャスタブル構造ではなく、予め所定形状に一体成形したものを断熱層17内に設置してもよい。この場合、断熱層17の内面と一体成形の第1内張層16aの裏面との隙間にバルク等の断熱材を充填する。
【0034】
以上説明した実施形態の溶融金属用保持炉1では、第1内張層16aと第2内張層16bとの接合面18が溶融金属中に位置するので、溶融金属の湯面より上方には上部側壁を構成する第2内張層16bが露出している。第2内張層16bは、耐熱ボードからなり、熱伝導率が低いので、溶融金属からの伝熱量が低減し、大気に晒される側壁からの放熱量を減少することができる。また、放熱量の減少により、炉内に設置される浸漬ヒータ14,15の容量を縮小することができる。
【0035】
また、溶融金属に直接接触する下部側壁の第1内張層16aは、不定形耐火物製であることから、溶融金属の断熱層17内への侵入、及び内張層16の破損が減少し、耐久性の向上を図ることができる。
【0036】
側壁への付着酸化物を除去する作業中に内張が破損しても、その破損部位は耐熱ボードの第2内張層16bであるから、内張全体を補修する必要がなく、補修期間を短縮でき、また補修費も安価となる。
【0037】
また第1内張層16aと第2内張層16bの接合面18が凹凸形状であるため、接合面18から断熱層17への溶融金属の侵入を抑制することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…溶融金属用保持炉
2…溶湯受入室
3…溶湯保持室
3a…溜り部
3b…上方開口
4…溶湯汲出室
4a…溶湯汲出開口
5…第1仕切壁
5a…下部仕切壁
5b…上部仕切壁
6…第2仕切壁
7…第1連通開口
8…第2連通開口
9…断熱蓋
10…桶
11…蓋
12…断熱蓋
12a…貫通口
13a…断熱蓋
13b…断熱蓋
14…浸漬ヒータ
15…浸漬ヒータ
16…内張層
16a…第1内張層
16b…第2内張層
17…断熱層
18…接合面
19…溝
20…条
21…溝


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9