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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】三次元造形装置による立体物作製方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20230314BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20230314BHJP
【FI】
B28B1/30
B33Y30/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019042229
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020142469
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505243788
【氏名又は名称】有限会社ニコラデザイン・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】前堀 伸平
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋二
(72)【発明者】
【氏名】御法川 学
(72)【発明者】
【氏名】水野 操
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140906(JP,A)
【文献】国際公開第2019/030255(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/083010(WO,A1)
【文献】特開2015-178193(JP,A)
【文献】特開平10-290966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30
B33Y 10/00-99/00
B05B 1/00-9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動するノズル部から押し出したセメント質混練物をステージ上に積層して固化させることで立体物を作製する三次元造形装置による立体物作製方法であって、
前記ノズル部の口径をdn[ミリメートル]、
前記ステージ上に押し出されたセメント質混練物の幅をb[ミリメートル]としたとき、
1.0≦b/dn≦2.5
とし、
前記ノズル部が移動する速さをfn[ミリメートル/セカンド]とし、
前記ノズル部からセメント質混練物が押し出される速さをfe[ミリメートル/セカンド]としたとき、
6≦fn≦12
3≦fe≦18、かつ、
1.0≦fe/fn≦2.5
とする、
ことを特徴とする三次元造形装置による立体物作製方法
【請求項2】
前記ステージ上に押し出されたセメント質混練物の単一層の高さである積層ピッチをp[ミリメートル]としたとき、
p≦dn
とする、
ことを特徴とする請求項1に記載された三次元造形装置による立体物作製方法
【請求項3】
前記ノズル部の口径を
4≦dn≦25
とする、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載された三次元造形装置による立体物作製方法
【請求項4】
前記ノズル部の先端部の外側に、湾曲面部を形成した
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載された三次元造形装置による立体物作製方法
【請求項5】
前記湾曲面部の曲率半径を、前記ノズル部の半径以上とした、
ことを特徴とする請求項に記載された三次元造形装置による立体物作製方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、三次元造形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピューターグラフィックス(CG:computer graphics)などで描かれた三次元の形状を、樹脂材料や粉体材料などで具現化する三次元造形装置として、いわゆる3Dプリンターがある。例えば、下記特許文献1に記載された3Dプリンターは、セメント系材料がノズルから押し出される。ノズルが振動することで、セメント系材料が円滑に押し出され、目詰まりなどが抑止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2015-502870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステージ上に押し出された材料の状態は、立体物の精度に影響する。仮に、押し出された材料が少なすぎた場合、移動するノズルによって材料が細長く引っ張られて隙間が生じ、完成した立体物の欠陥となる。一方で、押し出された材料が多すぎた場合、材料がステージ上で過度に広がり、または、押し出す際の圧力に斑が生じて、所望の立体物が成形されない場合がある。
【0005】
本発明は、この様な実情に鑑みて提案されたものである。すなわち、適度な量の材料を押し出すことによって、所望の立体物を、高精度で安定して作製することができる三次元造形装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る三次元造形装置は、移動するノズル部から押し出したセメント質混練物をステージ上に積層して固化させることで立体物を作製する三次元造形装置であって、前記ノズル部の口径をdn[ミリメートル]、前記ステージ上に押し出されたセメント質混練物の幅をb[ミリメートル]としたとき、
1.0≦b/dn≦2.5
である、ことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る三次元造形装置は、前記ステージ上に押し出されたセメント質混練物の単一層の高さである積層ピッチをp[ミリメートル]としたとき、
p≦dn
である、ことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る三次元造形装置は、前記ノズル部が移動する速さをfn[ミリメートル/セカンド]とし、前記ノズル部からセメント質混練物が押し出される速さをfe[ミリメートル/セカンド]としたとき、
6≦fn≦12
3≦fe≦18、かつ、
1.0≦fe/fn≦2.5
である、ことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る三次元造形装置は、前記ノズル部の口径が、
4≦dn≦25
である、ことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る三次元造形装置は、前記ノズル部の先端部の外側に、湾曲面部が形成された、ことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る三次元造形装置は、前記湾曲面部の曲率半径が、前記ノズル部の半径以上である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る三次元造形装置は、ノズル部の口径をdn[ミリメートル]、ステージ上に押し出されたセメント質混練物の幅をb[ミリメートル]としたとき、
1.0≦b/dn≦2.5
である。すなわち、b/dnが所定の範囲であれば、押し出されたセメント質混練物が適量となるため、所望の立体物を、高精度で安定して作製することができる。
【0013】
本発明に係る三次元造形装置は、ステージ上に押し出されたセメント質混練物の単一層の高さである積層ピッチをp[ミリメートル]としたとき、
p≦dn
である。すなわち、ステージ上に押し出されたセメント質混練物の状態は、積層ピッチによって影響を受けるところ、積層ピッチが、ノズル部の口径以下であれば、ノズル部の先端部とステージとの間隔が比較的近いため、押し出されたセメント質混練物がステージとノズル部の先端部との間に挟まれて広がり、セメント質混練物の幅がノズル部の口径以上となって適量となる。したがって、所望の立体物を、高精度で安定して作製することができる。
【0014】
本発明に係る三次元造形装置は、ノズル部が移動する速さをfn[ミリメートル/セカンド]とし、ノズル部からセメント質混練物が押し出される速さをfe[ミリメートル/セカンド]としたとき、
6≦fn≦12
3≦fe≦18、かつ、
1.0≦fe/fn≦2.5
である。すなわち、ステージ上に押し出されたセメント質混練物の状態は、ノズル部が移動する速さ、および、ノズル部からセメント質混練物が押し出される速さによって影響を受けるところ、ノズル部が移動する速さ、および、ノズル部からセメント質混練物が押し出される速さが、所定の範囲であれば、ステージ上に押し出されるセメント質混練物の幅がノズル部の口径以上となる。したがって、押し出されたセメント質混練物が適量となり、所望の立体物を、高精度で安定して作製することができる。
【0015】
本発明に係る三次元造形装置は、ノズル部の口径が、
4≦dn≦25
である。したがって、比較的細かなものから大きなものまで、様々な立体物を作製することができる。
【0016】
本発明に係る三次元造形装置は、ノズル部の先端部の外側に、湾曲面部が形成され、湾曲面部の曲率半径が、ノズル部の半径以上である。ノズル部は、セメント質混練物を連続的に押し出しながら移動することから、ステージ上のセメント質混練物は、ノズル部の先端部に引きずられるが、湾曲面部においては、徐々にステージから離れる方向に湾曲していることから、押し出されたセメント質混練物が引きずられることなく、自然とノズル部の先端部から離れる。したがって、所望の立体物を、高精度で安定して作製することができる。
【0017】
なお、従来のノズル部の先端部は、角張っているため、ノズル部が移動する際、エッジに材料が引っ掛かって引きずられ、部分的に途切れることや細くなる場合がある。例えば、ノズル部が直角に曲がって移動する際、曲がり角の内側では材料が寄せられて溜り、曲がり角の外側では材料が過度に引きずられて薄くなる場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施形態に係る三次元造形装置の概略図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る三次元造形装置のノズル部の概略断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る三次元造形装置によって押し出されたセメント質混練物の状態が示され、(a)は1.0=b/dnの場合の概略断面図、(b)は1.0<b/dnの場合の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態に係る三次元造形装置(以下、三次元造形装置を「3Dプリンター」と記す。)を図面に基づいて説明する。図1は、3Dプリンター1の構成の概略が示されている。
【0020】
3Dプリンター1は、三次元で表された立体物33のデータに基づいて、自在に移動するカートリッジ4からノズル部8を介してセメント質混練物30を押し出し、このセメント質混練物30をステージ3上に蓄積して固化させることで立体物33を具現化するものである。図1に示されているとおり、3Dプリンター1は、セメント質混練物30が積層されるステージ3と、セメント質混練物30を押し出すカートリッジ4と、このカートリッジ4を自在に移動させるガイド部2とを有している。なお、以下の説明では、図1に示されているとおり、互いに直交する三軸をX軸、Y軸、Z軸とし、ステージ3に平行で、かつ、ステージ3の横幅方向をY軸、ステージに並行で、かつ、ステージ3の奥行方向をX軸、カートリッジ4が昇降する高さ方向をZ軸とする。
【0021】
ステージ3は、四角形の平板状であり、立体物33が作製される場所である。ガイド部2は、Y軸方向に長手であり、ステージ3に対して平行な状態で、X軸において、ステージ3の奥側と手前側との間を自在に移動し、また、ステージ3に対してZ軸上を昇降する。カートリッジ4は、ガイド部2に支持され、Y軸において、ガイド部2を自在に移動する。
【0022】
カートリッジ4は、ピストン部5とシリンダ部6とから構成された本体部7と、シリンダ部6の下端に接続されたノズル部8とを有している。ここで、ノズル部8を図面に基づいて説明する。図2は、ノズル部8の断面の概略が示されている。
【0023】
図2に示されているとおり、ノズル部8は筒状であり、外径がほぼ同一の円筒状である一方で、内側の空隙が、先端である下端に向かうにしたがって徐々に小さくなっている。換言すれば、ノズル部8は、下端に向かうにしたがって徐々に肉厚が増している。詳説すれば、空隙を形成する内周面は、上部から下部に向かって順に、上部内周面部9、中間内周面部10、傾斜内周面部11および下部内周面部12が連接されている。上部内周面部9は、空隙において内径が最も大きく、上下において内径が同一である。中間内周面部10は、内径が上部内周面部9よりも小さく、上下において内径が同一である。傾斜内周面部11は、中間内周面部10の下端から下方に向かうにしたがって徐々に内径が小さくなっている。換言すれば、傾斜内周面部11は、下部が漏斗状に窄まっており、下方に向かうにしたがって内側に向けて傾斜している。下部内周面部12は、空隙において内径が最も小さく、上下において内径が同一である。空隙の下端である開口部14の口径をdn[ミリメートル:mm]とすれば、
4≦dn≦25
であることが好ましい。
【0024】
開口部14の近傍である先端部13は、外側に湾曲面部15が形成されている。湾曲面部15は、開口部14の縁からノズル部8の外周面に渡って、外側に向けて凸弧状に湾曲している。湾曲面部15の曲率半径Rは、開口部14の半径以上である。したがって、例えば、口径がdn=7[ミリメートル:mm]であれば、曲率半径は、3.5≦Rである。なお、曲率半径の上限は、任意であるが、例えば、口径がdn=7[ミリメートル:mm]であれば、R=8であることが好ましい。すなわち、曲率半径が大きくなるにしたがって、先端部13の外径が増すため、立体物33の大きさや、ステージ3上の同一層において隣接するセメント質混練物30同士の干渉を避ける観点から曲率半径の上限が選択される。
【0025】
次に、ノズル部8から押し出されたセメント質混練物30の状態を図面に基づいて説明する。図3は、ステージ3上におけるセメント質混練物30の断面の概略が示されている。なお、図3は、図1においてY軸方向から視した場合のX-Z平面の断面であり、以下の説明におけるセメント質混練物30の幅とは、ノズル部8がステージ3に沿ってY軸方向に移動する方向と直交するX軸方向における大きさをいう。
【0026】
図3に示されているとおり、ステージ3上に押し出されたセメント質混練物30は、積層されて複数の層となり、立体物33が作製される。ここで、立体物33の精度は、移動するノズル部8から押し出される際のセメント質混練物30とノズル部8との接触状態によって影響を受ける。ノズル部8は、セメント質混練物30を連続的に押し出しながら移動することから、ステージ3上のセメント質混練物30は、ノズル部8の先端部13に引きずられるが、湾曲面部15においては、徐々にステージから離れる方向に湾曲していることから、押し出されたセメント質混練物30が引きずられることなく、自然とノズル部8の先端部13から離れる。したがって、高精度で安定した立体物33となる。
【0027】
また、傾斜内周面部11の下部が漏斗状に窄まっているため、セメント質混練物30の量が変動なく安定して押し出される。ノズル部8は、下端に向かうにしたがって徐々に肉厚が増しているので、高圧であっても振動や脈動することなく安定した量のセメント質混練物30が押し出される。なお、ノズル部8の口径が4ミリメートル未満であると、セメント質混練物30が細骨材を含む場合にはノズル部8からの押し出しが不安定となり、立体物33の表面が滑らかとならない場合がある。また、ノズル部8の口径が25ミリメートルを超えると、ノズル形状による押し出しに対する上記効果は小さくなる。
【0028】
さらに、立体物33の精度は、ステージ3上に押し出されたセメント質混練物30の状態によって影響を受け、セメント質混練物30の状態は、セメント質混練物30の単一層の高さ(厚み)である積層ピッチによって影響を受ける。最下層であるステージ3上の第一層31の積層ピッチは、ステージ3からノズル部8の先端部13までの間隔にほぼ等しい。ここで、積層ピッチをp[ミリメートル:mm]とすれば、
p≦dn
であることが好ましい。すなわち、積層ピッチが、ノズル部8の口径以下であれば、第一層31において、ノズル部8の先端部13とステージ3との間隔が比較的近いため、押し出されたセメント質混練物30がステージ3と先端部13との間に挟まれて広がり、セメント質混練物30の幅がノズル部8の口径以上となる(図3(b)参照。)。第一層31の上に積層された第二層32においても、セメント質混練物30が第一層31と先端部13との間に挟まれて広がり、セメント質混練物30の幅がノズル部8の口径以上となる。
【0029】
ここで、仮にノズル部8が過度に高速で移動すれば、セメント質混練物30がステージ3上で引きずられて過度に細くなって断面が小さくなる場合や途切れる場合があり、また、ノズル部8からセメント質混練物30が過度に高速で押し出されれば、層が過度に広がる場合がある。すなわち、セメント質混練物30の状態は、ノズル部8が移動する速さ、および、ノズル部8からセメント質混練物30が押し出される速さによっても影響を受ける。したがって、ノズル部8が移動する速さをfn[ミリメートル/セカンド:mm/s]とし、ノズル部8からセメント質混練物30が押し出される速さをfe[ミリメートル/セカンド:mm/s]とすれば、
6≦fn≦12
であることが好ましく、
6≦fn≦9
であることがより好ましい。また、
3≦fe≦18
であることが好ましく
6≦fe≦12
であることがより好ましい。
【0030】
さらには、
6≦fn≦12
3≦fe≦18
fn=fe
であり、かつ、fn、feそれぞれが一定となるように制御することが好ましい。
【0031】
さらには、
6≦fn≦9
6≦fe≦12
fn=fe
であり、かつ、fn、feそれぞれが一定となるように制御することが好ましい。なお、ノズル部8が移動する速さと、ノズル部8からセメント質混練物30が押し出される速さとを、厳密に一致させることは困難であるため、実際には、fn≒feも含まれる。
【0032】
また、仮に、fn≠feであったとしても、
6≦fn≦12
3≦fe≦18、かつ、
1.0≦fe/fn≦2.5
となるように制御することが好ましい。
【0033】
さらには、
6≦fn≦9
6≦fe≦12、かつ、
1.0≦fe/fn≦2.5
となるように制御することが好ましい。
【0034】
さらには、
6≦fn≦9
6≦fe≦12、かつ、
1.5≦fe/fn≦2.5
となるように制御することが好ましい。また、fe/fnが一定であることが好ましい。
【0035】
上記のとおりに、ノズル部8の形状の他、積層ピッチ、ノズル部8が移動する速さ、および、ノズル部8からセメント質混練物30が押し出される速さを制御することで、セメント質混練物30の状態が特定される。
【0036】
ここで、ステージ3上に押し出されたセメント質混練物30の平均断面積をSm[平方ミリメートル:mm]とすると、Smは、以下の式1から求められる。
【0037】
[式1]
【数1】
【0038】
一方、ステージ3上に押し出されたセメント質混練物30の幅をb[ミリメートル:mm]とすると、図3(b)の概略断面図より、積層ピッチと、押し出されたセメント質混練物30の平均断面積との間には、以下の関係式が成り立つ。
【0039】
[式2]
【数2】
【0040】
式2より、押し出されたセメント質混練物30の平均断面積および積層ピッチが定まれば、押し出されたセメント質混練物30の幅bは一義的に定まる。
【0041】
上記のことから、セメント質混練物30の幅とノズル部8における開口部14の口径との関係は、
1.0≦b/dn≦2.5
であることが好ましい。さらには、
1.5≦b/dn≦2.0
であることが好ましい(以下、セメント質混練物30の幅bとノズル部8における開口部14の口径dnとの関係(b/dn)を「断面状態値」と記す。)。このことによって、高精度で安定した立体物33となる。
【0042】
次に、本発明の実施例を断面状態値と共に説明する。
【0043】
第一実施例では、ノズル部8が移動する速さ、ノズル部8からセメント質混練物30が押し出される速さを、同一とし、かつ、それぞれが一定となるように制御し、積層ピッチを1.0から7.0まで変化させて、ステージ3上に押し出されたセメント質混練物30の状態を評価した。各値は以下のとおりである。
ノズル部8の開口部14の口径dn=7[ミリメートル:mm]
ノズル部8が移動する速さfn=6.3[ミリメートル/セカンド:mm/s]
ノズル部8からセメント質混練物30が押し出される速さfe=6.3[ミリメートル/セカンド:mm/s]
fn、fe(fe/fn=1)それぞれが一定
ステージ3上に押し出されたセメント質混練物30の平均断面積Sm=38.5[平方ミリメートル:mm
【0044】
下表1からわかるとおり、断面状態値が5.5の実験例1、および、断面状態値が2.8の実験例2は、積層ピッチが小さいことから、ノズル部8が詰まって幅に変動が生じるなど所望の立体物33とならなかった。これは、ノズル部8が過度にステージ3と近接したことから、ノズル部8から押し出されたセメント質混練物30がステージ3から押し返され、ノズル部8からセメント質混練物30を押し出す際の圧力に斑が生じたことが原因であると考えられる。また、押し出されたセメント質混練物30の量が多すぎ、層が過度に広がったことも原因であると考えられる。
【0045】
一方で、断面状態値が1.0≦b/dn≦2.5の範囲内である実験例3ないし実験例7は、積層ピッチが適当であることから、ノズル部8とステージ3との間隔が適切であり、適切な立体物33が作製された。特に、断面状態値が1.5≦b/dn≦2.0の範囲内である実験例3および実験例4は、押し出されたセメント質混練物30がステージ3とノズル部8の先端部13との間に挟まれて広がり、セメント質混練物30の幅がノズル部8の口径以上となったことで(図3(b)参照。)、セメント質混練物30が密となって安定し、表面も滑らかであった。
【0046】
【表1】
【0047】
第二実施例では、積層ピッチを変化させず一定とし、ノズル部8が移動する速さ、ノズル部からセメント質混練物が押し出される速さを異ならせ、比率(fe/fn)を0.5から3.5まで変化させて、ステージ3上に押し出されたセメント質混練物30の状態を評価した。各値は以下のとおりである。
ノズル部8の開口部14の口径dn=7[ミリメートル:mm]
積層ピッチp=7[ミリメートル:mm]
【0048】
下表2からわかるとおり、断面状態値が0.6の実験例8は、ノズル部8からセメント質混練物30が押し出される速さに対して、ノズル部8が過度に高速で移動したため(換言すれば、ノズル部8が移動する速さに対して、ノズル部8からセメント質混練物30が過度に遅く押し出されたため)、セメント質混練物30の断面積が小さく、所望の立体物33とならなかった。これは、セメント質混練物30がステージ8上で引きずられて過度に細くなったことが原因であると考えられる。また、実験例13および実験例14は、ノズル部8が移動する速さに対して、ノズル部8からセメント質混練物30が過度に速く押し出されたため(換言すれば、ノズル部8からセメント質混練物30が押し出される速さに対して、ノズル部8が過度に遅く移動したため)、セメント質混練物30の断面積が大きく、かつ幅に変動が生じるなど、所望の立体物33とならなかった。これは、ノズル部8から押し出されたセメント質混練物30がステージ3から押し返され、ノズル部8からセメント質混練物30を押し出す際の圧力に斑が生じたことが原因であると考えられる。また、押し出されたセメント質混練物30の量が多すぎ、層が過度に広がったことが原因であると考えられる。
【0049】
一方で、断面状態値が1.0≦b/dn≦2.5の範囲内である実験例9ないし実施例12は、ノズル部8が移動する速さと、ノズル部8からセメント質混練物30が押し出される速さとの関係が適当であることから、適切な立体物33が作製された。特に、断面状態値がほぼ1.5≦b/dn≦2.0の範囲内である実験例11は、セメント質混練物30が密となって安定し、表面も滑らかであった。
【0050】
【表2】
【0051】
以上のことから、断面状態値が、
1.0≦b/dn≦2.5
であり、さらには、
1.5≦b/dn≦2.0
であれば、押し出されたセメント質混練物30が適量となって、所望の立体物33を、高精度で安定して作製できることがわかる。
【0052】
なお、ノズル部8の外側に湾曲面部15が形成されていることを前提とすれば、上記した実施形態の他の実施形態として、ノズル部8の内側を形成する内周面の形状は任意である。例えば、内径が、上端から下端に渡って同一であってもよい。
【0053】
また、積層ピッチとノズル部8の口径との関係が、
dn<p
であっても、ノズル部8が移動する速さや、ノズル部8からセメント質混練物30が押し出される速さを制御することで、断面状態値を適切な範囲に設定することもできる。
【0054】
次に、本発明の実施形態に係るセメント質混練物を説明する。
【0055】
<造形用セメント組成物>
造形用セメント組成物は、少なくとも、セメント含有結合材を25~70質量%、混和剤を0.1~5質量%、および細骨材を25~70質量%含む組成物である。ただし、前記セメント含有結合材、混和剤、および細骨材の合計は100質量%である。前記各構成成分が前記範囲内にあれば、セメント質混練物のチクソトロピー性が高く、造形性に優れる。
なお、セメント含有結合材の含有率は、好ましくは35~65質量%、より好ましくは40~60質量%であり、混和剤の含有率は、好ましくは0.3~4.0質量%、より好ましくは0.5~3.5質量%であり、細骨材の含有率は、好ましくは35~65質量%、より好ましくは40~60質量%である。
以下、さらに、(i)セメント含有結合材、(ii)混和剤、および(iii)細骨材に分けて説明する。
【0056】
(i)セメント含有結合材
該セメント含有結合材は、セメント、非晶質アルミノケイ酸塩のいずれか、並びに、石膏および/または硫酸アルカリ金属塩を任意の成分として含む混合物である。
前記セメントは、白色ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、シリカフューム含有セメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、超速硬セメント、コロイドセメント、およびエコセメント等から選ばれる1種以上が挙げられる。
前記セメント含有結合材中のセメントの含有率は、好ましくは50~90質量%である。該値が50質量%未満では、造形物の特に短期強度の発現性が充分でない場合があり、90質量%を超えるとセメント含有結合材中のセメント以外の必須成分の含有率が、その分低くなり、チクソトロピー性が低下し、形状の保持性が低下するおそれがある。なお、セメントの含有率は、より好ましくは60~85質量%、さらに好ましくは65~80質量%である。
【0057】
前記非晶質アルミノケイ酸塩は、A型、X型、Y型、Pc型、およびT型等のゼオライトや、カオリン、アナルサイム、チヤバサイト、モルデナイト、エリオナイト、ホージャサイト、並びに、クリノパチロライトから選ばれる1種以上に対して、酸処理、イオン交換処理、および焼成処理から選ばれる1種以上の処理をして得られる、非晶質化したアルミノケイ酸塩が挙げられる。また、一部が非晶質化しているフライアッシュ等も使用できる。
前記セメント含有結合材中の非晶質アルミノケイ酸塩の含有率は、好ましくは7~30質量%である。該値が7質量%未満では、チクソトロピー性の低下により形状の保持性が十分でなく、30質量%を超えると相対的にセメントの含有率が低下して、セメントによる強度発現性が低下するおそれがある。なお、非晶質アルミノケイ酸塩の含有率は、より好ましくは7~25質量%、さらに好ましくは10~20質量%である。
【0058】
前記石膏は、無水石膏、半水石膏、および二水石膏から選ばれる1種以上が挙げられる。また、該石膏は天然石膏のほか、フッ酸石膏、リン酸石膏、芒硝石膏、排脱石膏等の副産石膏や、廃石膏ボード等の廃材を加熱処理して得られる再生石膏が使用できる。
前記硫酸アルカリ金属塩は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸水素ナトリウム、および硫酸水素カリウムから選ばれる1種以上が挙げられる。
前記セメント含有結合材中の石膏および/または硫酸アルカリ金属塩の配合量は、非晶質アルミノケイ酸塩100質量部に対し10~150質量部が好ましく、より好ましくは20~120質量部、さらに好ましくは30~100質量部である。
なお、石膏と硫酸アルカリ金属塩を併用する場合、石膏と硫酸アルカリ金属塩の割合は特に制限されないが、石膏:硫酸アルカリ金属塩の質量比で、好ましくは99.99:0.01~70:30、より好ましくは99.95:0.05~80:20である。
【0059】
前記セメント含有結合材は、さらに水酸化カルシウムを含有することが好ましい。セメント含有結合材中の水酸化カルシウムの含有率は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは0.5~4.5質量%、さらに好ましくは1~3質量%である。水酸化カルシウムの含有率が前記範囲内であれば、セメント混練物の急硬性が向上するとともに、チクソトロピー性による形状の保持性も向上する。
【0060】
(ii)混和剤
該混和剤は、減水剤、消泡剤、並びに、増粘剤および/または粉末セルロースを、必須の成分として含む混合物である。
前記減水剤は、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩(メラミン系)、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩(ナフタレン系)、アクリル酸塩-アクリル酸エステルの共重合体などを主鎖としポリエチレンオキサイド等をグラフト鎖として有するポリカルボン酸系と称されるものなど、通常、コンクリートに用いられる減水剤が使用できるが、本発明では、特にメラミン系減水剤が好ましい。
前記減水剤は、液体状、粉末状の別は問わないが、その取り扱いの利便性から粉末状のものが好ましい。
該混和剤中の減水剤の割合は、混和剤を100質量%として、流動性向上の観点から、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~40質量%である。
【0061】
前記消泡剤は、シリコーン系、エーテル系、鉱物油系、エステル系、エマルション系、およびノニオン系等から選ばれる1種以上が挙げられる。
前記消泡剤は、エマルジョン、粉末状の別は問わないが、取り扱いの利便性から粉末状のものが好ましい。
前記混和剤中の消泡剤の割合は、前記減水剤100質量部に対して、好ましくは1~300質量部、より好ましくは3~200質量部、さらに好ましくは5~150質量部である。なお、減水剤としてメラミン系粉末減水剤を使用する場合は、消泡剤の割合は、メラミン系粉末減水剤100質量部に対して、好ましくは2~200質量部、より好ましくは2.5~150質量部、さらに好ましくは5~100質量部である。消泡剤の割合が該範囲内であれば、空気の混入を抑制できる。
【0062】
前記増粘剤は、増粘効果を有するものであれば特に限定されず、例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルエチルセルロース(HEEC)、アルギン酸、β-1,3グルカン、プルラン、ウェランガム、キサンタンガム、グアガム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ペクチン、メチルスターチ、エチルスターチ、プロピルスターチ、メチルプロピルスターチ、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルスターチ等の増粘多糖類;ポリアクリル酸;ポリビニルアルコール;ポリエチレングリコール等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、前記粉末セルロースは、繊維長が18~1000μm、繊維径が15~50μmのセルロース繊維である。
【0063】
前記混和剤中の増粘剤および/または粉末セルロースの割合は、前記減水剤100質量部に対して、好ましくは5~900質量部、より好ましくは10~800質量部、さらに好ましくは15~700質量部である。なお、減水剤としてメラミン系粉末減水剤を使用する場合は、増粘剤および/または粉末セルロースの割合は、メラミン系粉末減水剤100質量部に対して、好ましくは10~600質量部、より好ましくは20~550質量部、さらに好ましくは30~500質量部である。増粘剤および/または粉末セルロースの割合が該範囲内であれば、粘性が適切なため造形性が高く、また形状保持性にも優れる。
なお、増粘剤と粉末セルロースを併用する場合は、増粘剤と粉末セルロースの割合は特に制限されないが、増粘剤:粉末セルロースの質量比で、好ましくは99:1~1:99、より好ましくは98:2~2:98である。
【0064】
(iii)細骨材
該細骨材は、川砂、陸砂、海砂、砕砂、軽量骨材、重量骨材、スラグ骨材、石灰石砂、珪砂、および人工砂から選ばれる1種以上である。そして、細骨材の最大粒径は、好ましくは2.5mm以下である。細骨材の最大粒径が2.5mmを超えると、繊細なデザインの造形が困難となる。なお、デザインの造形の繊細さの観点から、細骨材の最大粒径は、より好ましくは1.8mm以下、さらに好ましくは0.6mm以下であり、粉末状であってもよい。
【0065】
(iv)造形用セメント組成物のその他の任意の成分
前記造形用セメント組成物は、前記(i)~(iii)の必須の成分のほか、組成物の機能を著しく損なう可能性のない任意の成分を含有できる。例えば、該任意の成分は、各種のスラグ(高炉スラグ、徐冷スラグ、鉄鋼スラグ等)、ポゾラン物質、膨張材、収縮低減剤、ポリマーディスパージョン(液状のエマルション、再乳化型の粉末の別は問わない。)、中空微粒子、樹脂粉末、硬化遅延剤、繊維、発泡剤、起泡剤、および空気連行剤等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0066】
<セメント質混練物>
該混練物は、前記造形用セメント組成物と水を混練したものであり、セメント質混練物の流動性は、好ましくは、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に規定するフローコーンに該混練物を充填した後、該フローコーンを上方に垂直に取り去って、50Hzの振動を10秒間加えて流動が停止したときのフロー値で150~220mmである。該フロー値を有するセメント質混練物であれば、粘性が適正で押し出し後の混練物は自立して造形性が高い。
前記セメント質混練物は、造形用セメント組成物100質量部に対し、水を好ましくは15~35質量部添加して混練して調製する。なお、用いる水は水道水でよい。
【0067】
セメント質混練物は、さらに硬化促進剤を任意の成分として含んでもよい。
硬化促進剤を含むセメント質混練物は、硬化促進剤を含まないセメント質混練物に、硬化促進剤を接触させた混練物である。硬化促進剤の使用により、セメント質混練物の硬化が促進して造形効率が向上する。ここで前記セメント質混練物に硬化促進剤を接触させるとは、セメント質混練物層に硬化促進剤を滴下、塗布、散布、噴霧、またはセメント質混練物中に硬化促進剤を含めるなどの行為をいう。
前記硬化促進剤は、アルミン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、カルシウムアルミネート、カルシウムサルフォアルミネート、硫酸アルミニウム、およびミョウバン等から選ばれる1種以上の固体(粉体)、懸濁液、または水溶液が使用可能であるが、硬化促進性、長期強度発現性、および作業の安全性から、特に、硫酸アルミニウムを主成分とする水溶液が好ましい。
前記硫酸アルミニウム水溶液中の硫酸アルミニウムの濃度は、好ましくは5質量%以上である。該濃度が5質量%未満では、硬化の促進が小さい。なお、該濃度の上限は飽和濃度である。下層となるセメント質混練物の硬化が進み、表面が乾燥していると、上層の混練物層との一体化が困難になるため、下層となるセメント質混練物の硬化層が前記試験方法において終結以前の硬化の状態で、上層のセメント質混練物層を形成するのが、一体性を確保する上で好ましい。
【0068】
なお、造形物の養生方法は、特に限定されず、1種類または2種類以上の養生方法を併用してもよく、例えば、気中養生、封緘養生、湿空養生、蒸気養生、水中養生、温熱養生、炭酸ガス養生、およびオートクレーブ養生等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0069】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。そして本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。上記では、力の大きさとして「速さ」を用いたが、ベクトルを考慮して「速度」を用いてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 3Dプリンター(三次元造形装置)
2 ガイド部
3 ステージ
4 カートリッジ
5 ピストン部
6 シリンダ部
7 本体部
8 ノズル部
9 上部内周面部
10 中間内周面部
11 傾斜内周面部
12 下部内周面部
13 先端部
14 開口部
15 湾曲面部
30 セメント質混練物
31 第一層
32 第二層
33 立体物
b 質混練物の幅
dn 口径
fn ノズル部が移動する速さ
fe ノズル部からセメント質混練物が押し出される速さ
p 積層ピッチ
R 曲率半径
Sm 平均断面積
図1
図2
図3