(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-13
(45)【発行日】2023-03-22
(54)【発明の名称】ニコチン摂取の影響による血管壁のコラーゲン分解防止剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20230314BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230314BHJP
A61P 9/14 20060101ALI20230314BHJP
A61K 31/36 20060101ALI20230314BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20230314BHJP
C07D 493/04 20060101ALN20230314BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20230314BHJP
【FI】
A23L33/105
A61P9/00
A61P9/14
A61K31/36
A61K36/185
C07D493/04 101C
A61K131:00
(21)【出願番号】P 2020526742
(86)(22)【出願日】2018-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2018024070
(87)【国際公開番号】W WO2020003363
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390019460
【氏名又は名称】稲畑香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】財満 信宏
(72)【発明者】
【氏名】松村 晋一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 百合
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/016682(WO,A1)
【文献】特開2010-099048(JP,A)
【文献】特開平08-268887(JP,A)
【文献】特開2007-215406(JP,A)
【文献】国際公開第2012/101746(WO,A1)
【文献】特開2011-102272(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0182828(US,A1)
【文献】特開2009-091319(JP,A)
【文献】特開平01-104062(JP,A)
【文献】特表2007-528204(JP,A)
【文献】特開平07-238020(JP,A)
【文献】特開昭53-099310(JP,A)
【文献】望月美佳,4.ゴマリグナンによる血管内皮機能改善効果,Functional Food,2013年,Vol.7, No.2,pp.97-101
【文献】久後裕菜等,Nicotine投与がラット腹部大動脈血管壁に及ぼす影響の評価,日本栄養・食糧学会近畿支部大会講演要旨集,2014年,Vol.53,p.49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/105
A61P
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セサミン(化1)および/またはセサモリン(化2)を有効成分として含有する、ニコチン摂取の影響による血管壁
のコラーゲ
ン分解防止剤。
【化1】
【化2】
【請求項2】
セサミンおよび/またはセサモリンが、ゴマの抽出物から得られるものであることを特徴とする、請求項1に記載の
ニコチン摂取の影響による血管壁のコラーゲン分解防止剤。
【請求項3】
ゴマの抽出物を有効成分として含有し、前記抽出物が、セサミンおよび/またはセサモリンを含むことを特徴とする、ニコチン摂取の影響による血管壁
のコラーゲ
ン分解防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための健康食品または医薬組成物に関する。
より詳しくは、セサミンおよび/またはセサモリンを有効成分として含有する、ニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための健康食品または医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腹部大動脈瘤(AAA)は、横隔膜より下に位置する腹部大動脈に発生する動脈瘤であり、最も頻度の高い大動脈瘤である。
腹部大動脈瘤の発生には大動脈壁の脆弱化が大きく関与しているとされ、炎症性疾患や先天性結合組織異常症、粥状硬化等による壁の構造異常や破壊によってもたらされると考えられている。
【0003】
近年の腹部大動脈瘤の研究から、タバコの煙の主成分であるニコチンが、腹部大動脈瘤の発生および破裂と密接に関連していることが示唆されている(非特許文献1参照)。
ニコチンは、酸化ストレスおよびマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-2発現を増加させ、血管壁の中膜に存在するエラスチンを分解することで血管壁の弱化を誘導する。
ニコチンは上記機構により腹部大動脈瘤の発生を促進すると考えられている。
【0004】
叙上の通り、ニコチンが腹部大動脈瘤の発生を促進することが示唆されているため、腹部大動脈瘤の発生を予防するために、ニコチンによる血管壁の弱化(すなわち、血管の劣化)の防止方法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kugo H,Zaima N,Tanaka H,Urano T,Unno N,Moriyama T(2017)The effects of nicotine administration on the pathophysiology of rat aortic wall.Biotech Histochem.92(2):141-148.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
叙上の通り、ニコチンは腹部大動脈瘤の発生を促進すると考えられているため、ニコチンによる血管の劣化の防止方法が求められている。
しかしながら、ニコチンによって誘導される血管の劣化の予防方法については、ほとんど知られていない。
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、セサミンおよびセサモリンが、ニコチンによって誘導される血管の劣化を防止する作用を有することを見出した。
その結果、本発明者らは、セサミンおよび/またはセサモリンを有効成分として含有する、ニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための健康食品または医薬組成物の創出に至った。
すなわち、本発明者らは、従来技術の問題点を解決した、セサミンおよび/またはセサモリンを有効成分として含有する、ニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための健康食品または医薬組成物を初めて開発した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、セサミン(化1)および/またはセサモリン(化2)を有効成分として含有する、ニコチン摂取の影響による血管壁のコラーゲン分解防止剤に関する。
【0009】
【0010】
【0011】
請求項2に係る発明は、セサミンおよび/またはセサモリンが、ゴマの抽出物から得られるものであることを特徴とする、請求項1に記載のニコチン摂取の影響による血管壁のコラーゲン分解防止剤に関する。
【0012】
請求項3に係る発明は、ゴマの抽出物を有効成分として含有し、前記抽出物が、セサミンおよび/またはセサモリンを含むことを特徴とする、ニコチン摂取の影響による血管壁のコラーゲン分解防止剤に関する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、健康食品または医薬組成物が、セサミンおよび/またはセサモリンを有効成分として含有するため、ニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止することができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、セサミンおよび/またはセサモリンが、ゴマの抽出物から得られるものであるため、ニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止することができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、健康食品または医薬組成物が、ゴマの抽出物を有効成分として含有し、前記抽出物が、セサミンおよび/またはセサモリンを含むため、ニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】胸部大動脈におけるセサミンおよびセサモリンの投与の影響に関する試験結果を示す図であって、(a)は弾性板波状構造の欠損率の測定結果を示す図、(b)はコラーゲン陽性面積の測定結果を示す図、(c)は血管壁の厚みの測定結果を示す図である。
【
図2】腹部大動脈におけるセサミンおよびセサモリンの投与の影響に関する試験結果を示す図であって、(a)は弾性板波状構造の欠損率の測定結果を示す図、(b)はコラーゲン陽性面積の測定結果を示す図、(c)は血管壁の厚みの測定結果を示す図である。
【
図3】ニコチン摂取の影響による血管壁の劣化におけるセサミンおよびセサモリンの投与の影響に関する試験結果を示す図であって、(a)は第1群~第4群の試験中の平均体重の変動を示す図、(b)は第1群~第4群の試験中の1日あたりの平均摂餌量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための健康食品または医薬組成物の好適な実施形態について説明する。
尚、本明細書において、ニコチン摂取の影響による血管の劣化とは、ニコチンの摂取により、血管壁のエラスチンが分解された状態を指す。
血管壁のエラスチンが分解されることにより、血管壁は弾力性を失い、腹部大動脈瘤の発生および腹部大動脈瘤の破裂を促進する。
【0018】
本発明のニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための健康食品または医薬組成物は、セサミンおよび/またはセサモリンを有効成分として含有する。
【0019】
セサミンは、CAS番号607-80-7であって、下式(化3)に示す構造を有している。
【0020】
【0021】
セサモリンは、CAS番号526-07-8であって、下式(化4)に示す構造を有している。
【0022】
【0023】
本発明において、セサミンおよびセサモリンは標準品を用いることができる。
また、カレースパイス等の抽出物から得たものを用いることができ、特にゴマの抽出物から得たものを用いることができる。
【0024】
ゴマ(英名:Sesame、学名:Sesamum indicum)は、ゴマ科ゴマ属の一年草である。
草丈は約1mになり、葉腋に薄紫色の花をつけ、実の中に多数の種子を含む双子葉植物である。
野生種はアフリカで多く自生しているが、世界中で栽培されている。
主に種子が食材、食用油など油製品の材料とされる。
種子の色により、黒色の黒ゴマ、白色の白ゴマ、黄色の黄ゴマや金ゴマのように区別される。
【0025】
本発明のニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための健康食品または医薬組成物には、セサミンおよび/またはセサモリンを有効成分とするもの、およびゴマの抽出物を有効成分として含有し、ゴマの抽出物が、セサミンおよび/またはセサモリンを含むものを用いることができる。
【0026】
セサミンおよびセサモリンはゴマの種子からヘキサンおよび酢酸エチルによって好適に抽出される。
その理由は、ゴマの種子をヘキサンおよび酢酸エチルで抽出することにより、セサミンおよびセサモリンを多く溶出させることができるからである。
【0027】
セサミンおよびセサモリンは、1種単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
セサミンおよびセサモリンを混合して使用する場合、その混合比率は特に限定されず、例えば1:99~99:1の間等、任意の比率で効果を奏することができる。
下記実施例で詳述するように、セサミンおよびセサモリンはニコチン摂取の影響による血管の劣化(すなわち、エラスチンの分解)を防止する作用を有しているので、これらを有効成分として含有する本発明の健康食品または医薬組成物は、各種用途に使用することができる。
【0028】
例えば、本発明のニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための医薬組成物を医薬製剤として用いる場合、哺乳動物(特にヒト)におけるニコチン摂取の影響による血管の劣化の予防薬として用いられる。
また、ニコチン置換療法に使用される医薬製剤に、本発明のニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための医薬組成物を含有させ、ニコチン置換療法におけるニコチン摂取の影響による血管の劣化を予防する目的で本発明のニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための医薬組成物を用いても良い。
【0029】
本発明のニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための医薬組成物は、慣用されている方法により錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、バップ剤、ローション剤等の医薬製剤に製剤化することができる。
【0030】
製剤化に通常使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、および必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを使用することができ、一般に医薬製剤の原料として使用される成分および配合量を適宜選択して定法により製剤化される。
【0031】
本発明のニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための医薬組成物を含む医薬製剤を投与する場合、その形態は特に限定されず、通常使用される方法であればよく、経口投与でも非経口投与でも良い。
本発明に係る医薬製剤の投与量は、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態、疾患の具体的な種類等に応じて、製剤学的な有効量を適宜選択することができる。
投与量の一例を挙げると、経口投与の場合、通常、成人において、有効成分量として3~3000mg/kg程度が適当であり、これを1日1回~数回に分けて投与すれば良い。
【0032】
本発明のニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための健康食品は、例えば清涼飲料水、乳製品(加工乳、ヨーグルト)、菓子類(ゼリー、チョコレート、ビスケット、ガム、錠菓)またはサプリメント等の各種健康食品が挙げられるが、これらに限定されない。
尚、本明細書において、健康食品とは、広く健康の保持増進に資する食品として販売・利用されるもの全般を指し、機能性表示食品、栄養機能食品、特定保健用食品も包含する概念である。
【0033】
健康食品中における有効成分としてのセサミンおよび/またはセサモリンの添加量については、特に限定されず、食品の種類に応じて適宜決定すれば良い。一例としては、上記した抽出物の乾燥重量として、含有量が0.0005~50重量%程度の範囲となるように添加すれば良い。
【0034】
本発明のニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための健康食品は、他の成分として、賦形剤、呈味剤、着色剤、保存剤、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、酸化防止剤等を含有しても良い。
このうち、賦形剤としては、これらに限定されないが例えば、微粒子二酸化ケイ素のような粉末類、ショ糖脂肪酸エステル、結晶セルロース・カルボキシメチルセルロースナトリウム、リン酸水素カルシウム、小麦デンプン,米デンプン,トウモロコシデンプン,バレイショデンプン,デキストリン,シクロデキストリン等のでんぷん類、結晶セルロース類、乳糖,ブドウ糖,砂糖,還元麦芽糖,水飴,フラクトオリゴ糖,ガラクトオリゴ糖,大豆オリゴ糖,イソマルトオリゴ糖,キシロオリゴ糖,マルトオリゴ糖,乳果オリゴ糖などの糖類、ソルビトール,エリストール,キシリトール,ラクチトール,マンニトール等の糖アルコール類が挙げられる。これらの賦形剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。
【0035】
呈味剤としては、例えば、果汁エキスであるボンタンエキス、ライチエキス、リンゴ果汁、オレンジ果汁、ゆずエキス、ピーチフレーバー、ウメフレーバー、甘味剤であるアセスルファムK、エリストール、オリゴ糖類、マンノース、キシリトール、異性化糖類、茶成分である緑茶、ウーロン茶、バナバ茶、杜仲茶、鉄観音茶、ハトムギ茶、アマチャヅル茶、マコモ茶、昆布茶、およびヨーグルトフレーバー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例を説明することにより、本発明の効果をより明確なものとする。
但し、本発明は以下の実施例には限定されない。
【0037】
<ヘキサン抽出物の調製>
ゴマの種子1kgを粉砕し、40℃のヘキサン5000mlで1時間の攪拌抽出を行い、上澄み液4200mlをろ紙でろ過した。
次いで、その残渣に40℃のヘキサン2500mlで0.5時間の攪拌抽出を行い、ろ紙でろ過した。
得られた抽出液に含まれる溶媒をエバポレーター(40℃)で留去し、ゴマのヘキサン抽出物を得た。
【0038】
<酢酸エチル抽出物の調製>
ゴマのヘキサン抽出後の残渣を乾燥させ、40℃の酢酸エチル5000mlで1時間撹拌抽出し、上澄み液4800mlをろ紙でろ過した。
次いで、残渣に40℃の酢酸エチル2500mlを加えて0.5時間撹拌抽出し、ろ紙でろ過した。得られた抽出液に含まれる溶媒をエバポレーター(40℃)で留去し、ゴマの酢酸エチル抽出物を得た。
ヘキサン抽出物および酢酸エチル抽出物の収率を以下の表1に示す。
【0039】
【0040】
<セサミンおよびセサモリンの単離>
ゴマの酢酸エチル抽出物から、以下のHPLC条件でセサミンおよびセサモリンを単離した。
装置;Shimadzu LC-solution system(LC-8A)
カラム;L-column ODS(20 i.d.×250mm,5μm,(株)化学物質評価研究機構)
移動層;水:アセトニトリル(1:9,v/v)
流速;18.9mL/分
カラム温度;40℃
検出器;フォトダイオードアレイ
検出波長;UV 286nm
RT(保持時間)7.5分および8.5分のピークより、2つの白色結晶が得られた。
それぞれの白色結晶の化学構造はセサミンおよびセサモリンであった。
酢酸エチル抽出物からの収率は、セサミンが1.0%、セサモリンが0.45%であった。
【0041】
<血管におけるセサミンおよびセサモリンの投与の影響>
次に、セサミンおよびセサモリンのニコチン摂取の影響による血管の劣化の防止作用の有無を確認するために、マウスにセサミンおよびセサモリンを投与する試験を実施した。
【0042】
試験は、マウスを以下の4群に分けて実施した。
第1群:コントロール食
第2群:セサミン/セサモリン食
第3群:コントロール食+ニコチン
第4群:セサミン/セサモリン食+ニコチン
【0043】
以下に試験手順を詳述する。
まず、生後3週間のマウス(雌、C57BL/6J、日本エスエルシー株式会社から購入)を3日間ハビテーション(habitation)させ、マウスを夫々第1群~第4群に無作為に割り当てた。
第1群(コントロール食)および第2群(セサミン/セサモリン食)のマウスには蒸留水を2週間供給した。尚、本実施例に用いたセサミン/セサモリン食におけるセサミンとセサモリンの比率は1:1である。また、本実施例では、酢酸エチル抽出物から単離したセサミンとセサモリンを用いた。
一方、第3群(コントロール食+ニコチン)および第4群(セサミン/セサモリン食+ニコチン)のマウスには、蒸留水の代わりに、蒸留水中にニコチン(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.5mg/mlの濃度で含むニコチン溶液を2週間供給した。
同時に、以下の表2に示す食餌を夫々の群のマウスに2週間摂取させた。
第1群(コントロール食)および第3群(コントロール食+ニコチン)は、以下の表2に示すコントロール食を2週間摂取させた。
第2群(セサミン/セサモリン食)および第4群(セサミン/セサモリン食+ニコチン)は、以下の表2に示すセサミン/セサモリン食を2週間摂取させた。
セサミン/セサモリンの投与量は1日あたり3574.6±6.0mg/kgであった。これをヒト換算すると、1日あたり約357.5mg/kgの投与量となる。
【0044】
【0045】
2週間の食餌投与後、各群のマウスを屠殺した。
屠殺したマウスから胸部大動脈および腹部大動脈を単離した。
単離した胸部大動脈および腹部大動脈を4%パラホルムアルデヒド(ナカライテスク株式会社製)で固定化し、10%スクロース溶液に浸し、それからO.C.T.compound(サクラファインテックジャパン株式会社製)に包埋し、これを測定サンプルとした。
測定サンプルは使用するまで-80°で保管した。
【0046】
次に、クライオスタット(CM1850、Leica Biosystems社製)を用いて厚さ5μmの胸部大動脈および腹部大動脈の断面を調製し、これらをスライドグラスにマウントした。
調製した胸部大動脈および腹部大動脈の断面を、ヘマトキシリン・エオジン(HE)、ピクロシリウスレッド(PSR)およびエラスチカ・ファン・ギーソン(EVG)で染色した。
ImageJ software(アメリカ国立衛生研究所製)を用いて上記組織学的染色の定量的解析を実施し、以下の3つの値を算出した。
・弾性板波状構造の欠損率
・コラーゲン陽性面積
・血管壁の厚み
弾性板波状構造の欠損率は、エラスチカ・ファン・ギーソン(EVG)染色を用いて測定した。
コラーゲン陽性面積は、ピクロシリウスレッド(PSR)染色を用いて測定した。
血管壁の厚みは、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を用いて測定した。
【0047】
弾性板波状構造の欠損率から、血管壁のエラスチンを含む弾性板波状構造の分解の程度を確認することができる。
それゆえに、弾性板波状構造の欠損率を算出することにより、ニコチンによるエラスチンの分解、ならびにセサミンおよびセサモリンによるニコチンに起因するエラスチンの分解防止作用の有無を確認することができる。
弾性板波状構造の欠損率は、EVG染色によって弾性線維を染色し、弾性板の平板化もしくは断片化することに起因する波状構造が欠損した領域を確認し、弾性板全体の面積に対する欠損した領域の面積の割合を計算することにより求めた。
【0048】
コラーゲン陽性面積から、血管壁におけるコラーゲン線維の量を確認することができる。
それゆえに、ニコチンによるコラーゲンの分解、ならびにセサミンおよびセサモリンのニコチンによるコラーゲンの分解防止作用の有無を確認することができる。
PSR染色によってコラーゲン線維を染色し、血管壁全体におけるコラーゲン線維の割合を測定した。
コラーゲン線維の割合は、PSR染色によってコラーゲン線維を染色し、血管壁全体における染色されたコラーゲン線維の割合を測定することにより求めた。
【0049】
血管壁の厚みを測定することにより、ニコチン、ならびにセサミンおよびセサモリンの摂取による血管壁の厚みへの影響の程度を確認することができる。
血管壁の厚みは、HE染色した画像から、内膜から外膜にかけての血管壁の厚みを測定することにより求めた。
【0050】
各群のマウスにおける、弾性板波状構造の欠損率、コラーゲン陽性面積および血管壁の厚みの測定結果を
図1および
図2に示す。
図1は、胸部大動脈におけるセサミンおよびセサモリンの投与の影響に関する試験結果を示す図であって、(a)は弾性板波状構造の欠損率の測定結果を示す図、(b)はコラーゲン陽性面積の測定結果を示す図、(c)は血管壁の厚みの測定結果を示す図である。
図2は、腹部大動脈におけるセサミンおよびセサモリンの投与の影響に関する試験結果を示す図であって、(a)は弾性板波状構造の欠損率の測定結果を示す図、(b)はコラーゲン陽性面積の測定結果を示す図、(c)は血管壁の厚みの測定結果を示す図である。
【0051】
図1の(a)より、第3群(コントロール食+ニコチン)は、弾性板波状構造の欠損率が約80%であり、胸部大動脈の血管壁のエラスチンを含む弾性板波状構造が大きく損傷していることがわかる。
一方、第3群と同様にニコチンを投与された第4群(セサミン/セサモリン食+ニコチン)の弾性板波状構造の欠損率は、ニコチンを投与されていない第1群(コントロール食)および第2群(セサミン/セサモリン食)と略同等の、約40%であった。
この結果より、セサミンおよびセサモリンは、胸部大動脈の血管壁におけるニコチン摂取の影響によるエラスチンを含む弾性板波状構造の損傷を防止できることがわかった。
【0052】
図1の(b)より、第3群(コントロール食+ニコチン)は、コラーゲン陽性面積が約20%であり、胸部大動脈の血管壁のコラーゲン線維が大きく損傷していることがわかる。
一方、第3群と同様にニコチンを投与された第4群(セサミン/セサモリン食+ニコチン)のコラーゲン陽性面積は約50%であった。
また、第1群(コントロール食)のコラーゲン陽性面積は約35%であり、第2群(セサミン/セサモリン食)のコラーゲン陽性面積は約50%であった。
この結果より、セサミンおよびセサモリンは、胸部大動脈において、血管壁のコラーゲン線維の量を増加させる作用を有することがわかった。
加えて、セサミンおよびセサモリンは、胸部大動脈の血管壁におけるニコチン摂取の影響によるコラーゲン線維の損傷を防止できることがわかった。
【0053】
図1の(c)より、第1群~第4群の血管壁の厚みは約35μmであった。
この結果より、ニコチンならびにセサミンおよびセサモリンは、胸部大動脈の血管壁の厚みに影響を与えないことがわかった。
【0054】
図1の(a)~(c)に示す結果より、セサミンおよびセサモリンは、胸部大動脈において、ニコチン摂取の影響による弾性板波状構造および膠原線維の損傷を防止できることがわかった。
すなわち、セサミンおよびセサモリンは、ニコチン摂取の影響による血管壁の劣化を防止できることがわかった。
【0055】
図2の(a)より、第3群(コントロール食+ニコチン)は、弾性板波状構造の欠損率が約90%であり、腹部大動脈の血管壁のエラスチンを含む弾性板波状構造が大きく損傷していることがわかる。
一方、第3群と同様にニコチンを投与された第4群(セサミン/セサモリン食+ニコチン)の弾性板波状構造の欠損率は、ニコチンを投与されていない第1群(コントロール食)および第2群(セサミン/セサモリン食)と略同等の、約50%であった。
この結果より、セサミンおよびセサモリンは、腹部大動脈の血管壁におけるニコチン摂取の影響によるエラスチンを含む弾性板波状構造の損傷を防止できることがわかった。
【0056】
図2の(b)より、第3群(コントロール食+ニコチン)は、コラーゲン陽性面積が約15%であり、腹部大動脈の血管壁のコラーゲン線維が大きく損傷していることがわかる。
一方、第3群と同様にニコチンを投与された第4群(セサミン/セサモリン食+ニコチン)のコラーゲン陽性面積は約22%であった。
また、第1群(コントロール食)のコラーゲン陽性面積は約18%であり、第2群(セサミン/セサモリン食)のコラーゲン陽性面積は約22%であった。
この結果より、セサミンおよびセサモリンは、腹部大動脈において、血管壁のコラーゲン線維の量を増加させる作用を有することがわかった。
加えて、セサミンおよびセサモリンは、腹部大動脈の血管壁におけるニコチン摂取の影響によるコラーゲン線維の損傷を防止できることがわかった。
【0057】
図2の(c)より、第1群~第4群の血管壁の厚みは約30μmであった。
この結果より、ニコチンならびにセサミンおよびセサモリンは、腹部大動脈の血管壁の厚みに影響を与えないことがわかった。
【0058】
図2の(a)~(c)に示す結果より、セサミンおよびセサモリンは、腹部大動脈において、ニコチン摂取の影響による弾性板波状構造および膠原線維の損傷を防止できることがわかった。
すなわち、セサミンおよびセサモリンは、ニコチン摂取の影響による血管壁の劣化を防止できることがわかった。
【0059】
上記試験の結果から、セサミンおよびセサモリンは、経口での摂取により、ニコチン摂取の影響による血管壁の劣化を防止できることがわかった。
セサミンのみ、またはセサモリンのみの場合でもそれぞれ効果を得ることができると推定される。
それゆえに、本発明に係るセサミンおよび/またはセサモリンを有効成分として含有する健康食品または医薬組成物は、ニコチン摂取の影響による血管壁の劣化を防止できることがわかる。
【0060】
図3は、ニコチン摂取の影響による血管壁の劣化におけるセサミンおよびセサモリンの投与の影響に関する試験結果を示す図であって、(a)は第1群~第4群の試験中の平均体重の変動を示す図、(b)は第1群~第4群の試験中の1日あたりの平均摂餌量を示す図である。
【0061】
図3の(a)より、第1群~第4群の群間における平均体重には大きな差が無いことがわかる。
それゆえに、セサミン/セサモリン食は、体重の変動に影響を及ぼさないことがわかった。
【0062】
図3の(b)より、第1群~第4群の群間における平均摂餌量には大きな差が無いことがわかる。
それゆえに、セサミン/セサモリン食は、摂餌量に影響を及ぼさないことがわかった。
【0063】
また、上記試験において、セサミン/セサモリン食を与えた第2群および第4群共に、解剖時において臓器異常所見は確認されなかった。
平均体重、平均摂餌量、および臓器所見の結果から、セサミン/セサモリン食は高い安全性を備えていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る健康食品または医薬組成物は、セサミンおよび/またはセサモリンを有効成分として含有するため、ニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止することができる。
それゆえに、本発明は、ニコチン摂取の影響による血管の劣化を防止するための健康食品または医薬組成物として好適に使用することができる。